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  • 特許-腸内細菌叢改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】腸内細菌叢改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/68 20060101AFI20220824BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220824BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220824BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220824BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20220824BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220824BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220824BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A61K35/68
A23L33/10
A61K9/14
A61P1/00
A61P1/10
A61P3/04
A61P9/12
A61P43/00 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017220333
(22)【出願日】2017-11-15
(65)【公開番号】P2019089733
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行日 2017年8月28日 刊行物 日本食品科学工学会 第64回大会講演集 2.開催日 2017年8月28日から2017年8月30日 集会名、開催場所 日本食品科学工学会 第64回大会 日本大学湘南キャンパス(神奈川県藤沢市亀井野1866)にて発表
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11530
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】508042869
【氏名又は名称】学校法人 大妻学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 潤
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】青江 誠一郎
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-197625(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157077(WO,A1)
【文献】特開2018-154612(JP,A)
【文献】特開平07-099967(JP,A)
【文献】肥満研究, 2016, Vol.22, No. Supplement Page. 240, P-163
【文献】薬理と治療, 2017.08.20, Vol.45 No.8 Page.1359-1364
【文献】アグリバイオ、2017年4月20日, 1巻4号, 454-457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/68
A23L 33/10
A61K 9/14
A61P 1/00
A61P 1/10
A61P 3/04
A61P 9/12
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)を含有する、腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)を低下するために用いられる、腸内細菌叢改善剤。
【請求項2】
前記ユーグレナが乾燥粉末形態である、請求項1に記載の腸内細菌叢改善剤。
【請求項3】
肥満、高血圧、及び便秘からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善のために用いられる、請求項1又は2に記載の腸内細菌叢改善剤。
【請求項4】
食品組成物である、請求項1~のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤。
【請求項5】
食品添加剤である、請求項1~のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤。
【請求項6】
医薬である、請求項1~のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌叢改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活や生活習慣の変化に伴い、肥満(特に、内臓脂肪型肥満)、高血圧、便秘などは、増加の一途をたどっている。例えば、現在、世界的には20数%もの人が肥満であるといわれている。これらは、心筋梗塞、脳梗塞などのリスク要因であるとされており、予防又はより早期の改善が望まれる。ただ、食生活や生活習慣自体は、通常、大きく変えることは困難である。このため、体質自体の改善により、予防又はより早期の改善を図ることが望ましい。
【0003】
近年、腸内細菌叢が体質と関連することが報告されている。例えば、肥満マウスから採取した腸内細菌叢を無菌マウス(腸内細菌を持たないマウス)に移植すると肥満傾向になり、痩せマウスから採取した腸内細菌叢を無菌マウスに移植すると痩せ傾向になることが知られている(非特許文献1)。また、腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)の低下は、肥満(内臓脂肪の蓄積)(非特許文献2)、高血圧(非特許文献3)、便秘(非特許文献4)等の予防又は改善に有用であることが知られている。このように、腸内細菌叢を調整することで動物本体の体質が変化する可能性があると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Peter J. Turunbaugh et., al. An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest, Nature, 444: 1027-1031, 2006
【文献】Ruth E. Ley et.,al. Obesity alters gut microbial ecology, PNAS, 102: 11070-11075, 2005
【文献】Tao Yang et.,al. Gut Dysbiosis Is Linked to Hypertension, Hypertension, 65: 1331-1340, 2015
【文献】Lixin Zhu et.,al. Structural changes in the gut microbiome of constipated patients, Physiol Genomics, 46: 679-686, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、腸内細菌叢改善剤、好ましくは腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)を低下するために用いることができる腸内細菌叢改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、ユーグレナが、腸内細菌叢改善作用、特にバクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)の低下作用を有することを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. ユーグレナを含有する、腸内細菌叢改善剤.
項2. 腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス(Firmicutes門)門細菌の比(F/B比)を低下するために用いられる、項1に記載の腸内細菌叢改善剤.
項3. 前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、項1又は2に記載の腸内細菌叢改善剤.
項4. 前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、項1~3のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤.
項5. 前記ユーグレナが乾燥粉末形態である、項1~4のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤.
項6. 肥満、高血圧、及び便秘からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善のために用いられる、項1~5のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤.
項7. 食品組成物である、項1~6のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤.
項8. 食品添加剤である、項1~6のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤.
項9. 医薬である、請求項1~6のいずれかに記載の腸内細菌叢改善剤.
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、腸内細菌叢改善剤、好ましくは腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)を低下するために用いることができる腸内細菌叢改善剤を提供することができる。本発明の腸内細菌叢改善剤の有効成分であるユーグレナは、既に食品等に利用されており生体に対する安全性が高いと考えられている。このため、本発明の腸内細菌叢改善剤は、副作用が低いと考えられ、また長期摂取に適していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】腸内細菌叢の解析結果を示す(試験例1)。縦軸はバクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)を示す。横軸の表示は、摂取させた飼料を示す。カラムから上方に伸びた髭の先端は90パーセンタイル値を示し、カラムの上端は75パーセンタイル値を示し、カラム中の横線は50パーセンタイル値(中央値)を示し、カラムの下端は25パーセンタイル値を示し、カラムから下方に伸びた髭の先端は10パーセンタイル値を示す。各カラム上方のプロットは最大値を示し、下方のプロットは最小値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明は、その1態様において、ユーグレナを含有する、腸内細菌叢改善剤(本明細書において、「本発明の剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0012】
1.ユーグレナ
ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、その限りにおいて特に制限されない。ユーグレナとして、具体的には、例えばEuglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longaEuglena caudataEuglena oxyurisEuglena tripterisEuglena proximaEuglena viridisEuglena sociabilisEuglena ehrenbergiiEuglena desesEuglena pisciformisEuglena spirogyraEuglena acusEuglena geniculataEuglena intermediaEuglena mutabilisEuglena sanguineaEuglena stellataEuglena terricolaEuglena klebsiEuglena rubraEuglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。
【0013】
ユーグレナの形態は、ユーグレナの細胞体又はその成分の大半を含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばユーグレナの乾燥粉末形態、ユーグレナの懸濁液、ユーグレナエキス等が挙げられ、中でも、好ましくはユーグレナの乾燥粉末形態が挙げられる。
【0014】
2.ユーグレナ製造方法
ユーグレナは、液体に含まれたユーグレナを培養する工程(培養工程)を含む方法により、大量に調製することが可能である。培養工程は、例えば公知の方法(例えば、特許第5883532号公報に記載の方法)に従って行うことができる。該培養工程では、典型的には、水と、ユーグレナと、ユーグレナが利用できる栄養素とを含む液体(培養液)を撹拌しつつユーグレナ属微細藻類を培養する。
【0015】
栄養素としては、糖類(グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)などの単糖類、又は、スクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)などの二糖類)、ミネラル類(例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、モリブデン、銅、リン、窒素、硫黄、又は、ホウ素など)、ビタミンB類(例えばビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、又はピリドキサミン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、葉酸、ビオチンなど)などが挙げられる。培養液中の栄養素の濃度は、ユーグレナの生存、増殖等が可能な濃度である限り特に制限されない。
【0016】
培養工程の光条件は特に制限されず、培養工程は明条件と暗条件のいずれで行われてもよいが、培養工程において明条件下の培養工程と暗条件下の培養工程の両方が存在することが好ましい。明条件としては、藻類を増殖させるための通常の光強度を採用することができる。暗条件としては、例えば10μmol/m2/s未満、好ましくは光が全く当たらない完全な暗所条件が挙げられる。
【0017】
培養工程における培養温度は、ユーグレナが増殖できる温度であれば、特に限定されない。該培養温度(培養液の温度)としては、例えば、20℃~35℃が採用される。
【0018】
培養工程における液体のpHは、ユーグレナが増殖できるpHであれば、特に限定されない。ユーグレナが増殖できるpHとしては、例えば3.0~5.5が採用される。
【0019】
培養工程の後に、液体の遠心分離や重力分離などによってユーグレナを濃縮することが好ましい。得られたユーグレナは、所望の形態に応じて、追加の処理(例えば、液体への懸濁、エキス抽出、乾燥粉末化等)に供することができる。
【0020】
3.用途
ユーグレナは、腸内細菌叢改善作用、特に腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)を低下する作用を有することから、腸内細菌叢改善の有効成分として、利用することができる。また、F/B比の低下は、肥満(内臓脂肪の蓄積)(非特許文献2)、高血圧(非特許文献3)、便秘(非特許文献4)等の予防又は改善に有用であることが知られている。このため、ユーグレナは、F/B比低下作用に基づく用途、例えば肥満の予防又は改善、高血圧の予防又は改善、便秘の予防又は改善のために利用することも可能である。
【0021】
本明細書において腸内細菌叢改善用食品組成物には、体脂肪を減らしたい方、内臓脂肪を減らしたい方、皮下脂肪を減らしたい方、脂肪の多い食事を摂りがちな方、中性脂肪を減らしたい方、食後の中性脂肪上昇が気になる方、肥満気味の方、ウエスト周囲径(サイズ)を減らしたい方、ぽっこりおなかが気になる方、血圧が気になる方、血圧が高めの方、便秘ぎみの方に向けられる食品組成物等を含む。
【0022】
なお、「改善」とは、症状又は状態の好転又は緩和、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、症状又は状態の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0023】
本発明の剤は、各種分野において、例えば食品添加剤、食品組成物(健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)、医薬などとして用いることができる。
【0024】
本発明の剤は、通常は経口摂取されるが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0026】
本発明の剤の形態としては、用途が食品添加剤、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0027】
本発明の剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0028】
本発明の剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品添加剤、食品組成物、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0029】
本発明の剤におけるユーグレナの含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0030】
本発明の剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、ユーグレナの乾燥重量として、一般に一日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例
【0031】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0032】
製造例1:ユーグレナの製造
ユーグレナを以下のようにして製造した。
【0033】
ユーグレナ・グラシリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み)を以下の条件下で培養した。
【0034】
「培養容器」:500 mL坂口フラスコ
「振とう培養条件」:125 rpm
「培養温度」:28℃
「培養開始時の液体のpH」:4.7(塩酸によって調整)
「培養のための液体量」:約200 mL/1フラスコ
「培養のための液体の組成」:表1の通り
「光照射条件」:24時間暗所
「微細藻類の初期重量」:0.78 g/L(乾燥重量)
「培養期間」:2日間
【0035】
【表1】
【0036】
培養終了後に、5フラスコ分の液体を集め、集めた液体を遠心管内で遠心分離(500×g、4分間、室温)した。上清を除去し、純水で3回洗浄して培地成分を除去した後、沈殿を凍結乾燥機を用いて乾燥させて、ユーグレナ乾燥粉末を得た。
【0037】
試験例1:腸内細菌叢への影響の解析
マウスを、セルロース、又はユーグレナを含む高脂肪飼料を餌として飼育し、腸内細菌叢を解析した。具体的には以下のようにして行った。
【0038】
<1-1.試験方法>
本実験は、大妻女子大学家政学部動物実験委員会において定められた「動物実験設備の整備および管理の方法並びに具体的な実験方法を定めた規則」に則り、倫理審査委員の承認を得て行った。
【0039】
5週齢の雄C57BL/6Jマウス(日本チャールズ・リバー社製)を用いた。固形飼料(NMF、オリエンタル酵母工業社製)で1週間の予備飼育後、体重が均一になるように3群(各群10匹ずつ)に群分けした。
【0040】
試験に用いた飼料については次のとおりである。飼料には、脂肪エネルギー比が50%になるようにラードを20%添加した。コントロール群の飼料には、セルロースを5%添加した。ユーグレナ群の飼料には、ユーグレナ(製造例1)を、乾燥重量として5%となるように含水率を考慮して添加した。また、ユーグレナには80.2%のパラミロンが含まれていたので、ユーグレナ群の飼料には、飼料中の食物繊維量が5%になるように不足分9.9 gの食物繊維(セルロース)を添加した。各群の飼料組成を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
試験において、マウスには上記飼料と水を12週間自由摂取させた。なお、飼育環境は、温度22±1℃、湿度50±5%、12時間の明暗サイクル(明期:8時→20時、暗期:20時→8時)とした。
【0043】
試験最終日にマウスの糞便を採取して糞便中から全DNAを抽出し、細菌の16S rRNA遺伝子を対象として次世代シークエンス法(NGS法)によって網羅的に塩基配列を解析し、腸内細菌の組成(=腸内細菌叢)を明らかにした。得られた結果に基づく統計解析を行い、各群の腸内細菌叢の差異を明らかにした。
【0044】
<1-2.結果>
結果を図1に示す。図1に示されるように、腸内細菌叢における、バクテロイデス門(Bacteroidetes門)細菌に対するファーミキューテス門(Firmicutes門)細菌の比(F/B比)は、コントロール群(高脂肪食+セルロース)に比べて、ユーグレナ群(高脂肪食+ユーグレナ)において有意に低かった。
【0045】
F/B比の低下は、肥満(内臓脂肪の蓄積)(非特許文献2、高血圧(非特許文献3)、便秘(非特許文献4)等の予防又は改善に有用であることが知られている。さらに、肥満マウスと肥満ヒトの腸内細菌叢は類似していることから(参考文献4:Ruth E. Ley et., al. Human gut microbes associated with obesity, Nature, 444: 1022-1023, 2006)、上記結果は、マウスだけでなくヒトにおいても適用できると考えられる。
【0046】
以上のとおり、ユーグレナを摂取することにより、腸内細菌叢を改善、具体的にはF/B比を低下することができることが分かった。さらには、F/B比の低下により、肥満、高血圧、便秘等の症状を予防又は改善できることが示唆された。また、これらの効果は、マウスのみならず、ヒト等の他の哺乳類においても適用し得ることが示唆された
図1