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  • 特許-低分子ガティガムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】低分子ガティガムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20220824BHJP
   A23L 29/25 20160101ALN20220824BHJP
【FI】
C08B37/00 G
A23L29/25
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018070434
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019182886
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三内 剛
(72)【発明者】
【氏名】木下 圭剛
(72)【発明者】
【氏名】松倉 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】出口 茂
(72)【発明者】
【氏名】岡田 賢
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062554(WO,A1)
【文献】特開2019-183144(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.040×10 ~0.60×10 の範囲内の重量平均分子量を有し、1.1~10の範囲内の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比)を有する、低分子ガティガムの製造方法であって、
(1)原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程、
(2)前記反応器内で、前記原料ガティガム水溶液を、加熱により、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の環境に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する工程、及び
(3)前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程を含む、
製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)の後に、
(4)前記低分子化ガティガム水溶液を、10~200℃/秒の冷却速度で、20秒以内に、100℃以下まで冷却する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ガティガムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子であるガティガムは、優れた乳化剤であることができる。これに関して、例えば、特許文献1では、ガティガムを用いて調製された乳化組成物が提案されている。
しかし、更に優れた乳化剤の開発が求められている。
優れた乳化剤として、特許文献2には、分子量が通常のシュガービートペクチンより高いことを特徴とするシュガービートペクチンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/084518号
【文献】国際公開第2010/082570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた乳化剤である低分子ガティガムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、
低分子ガティガムの製造方法であって、
原料ガティガム水溶液を、加熱により、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の環境に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する工程
を含む、
製造方法
によって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、次の態様を含む。
【0007】
項1.
低分子ガティガムの製造方法であって、
(1)原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程、
(2)前記反応器内で、前記原料ガティガム水溶液を、加熱により、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の環境に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する工程、及び
(3)前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程
を含む、
製造方法。
項3.
前記低分子ガティガムが、0.020×10~1.10×10の範囲内の重量平均分子量を有する、項1又は2に記載の製造方法。
項3.
前記低分子ガティガムが、1.1~13の範囲内の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比)を有する、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
ガティガムの低分子化方法であって、
(1)ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程、
(2)前記反応器内で、前記ガティガム水溶液を、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の条件に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する工程、及び
(3)前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出すこと
を含む、方法。
項5.
ガティガムの乳化性の向上方法であって、
(1)ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程、
(2)前記反応器内で、前記ガティガム水溶液を、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の条件に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する工程、及び
(3)前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出すことを含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた乳化剤である低分子ガティガムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一態様で使用される装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
【0011】
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
【0012】
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。
【0013】
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0014】
本明細書中、「由来する」なる語句は、
(1)精製されていること、
(2)単離されていること、及び
(3)改変[これは、低分子化処理、及び高分子化処理(重合)を包含する]若しくは修飾されていること
を包含することを意図して用いられる。
【0015】
本明細書中、用語「乳化性」及び用語「乳化力」は、文脈により、相互互換的に使用され得る。
【0016】
[2]本発明の製造方法で得られる低分子ガティガム
本明細書中、「ガティガム」は、ガティノキ(Anogeissus latifolia Wallich)の樹液(分泌液)に由来する多糖類であり、通常、室温、又はそれ以上の温度条件下で、30質量%程度まで水に溶解する水溶性多糖類である。
【0017】
本明細書中、低分子ガティガムは、ガティガムに包含される。
【0018】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの重量平均分子量は、0.020×10~1.10×10の範囲内である必要があり、好ましくは0.020×10~0.90×10の範囲内、より好ましくは0.020×10~0.60×10の範囲内、更に好ましくは0.025×10~0.50×10の範囲内、より更に好ましくは0.030×10~0.40×10の範囲内、特に好ましくは0.030×10~0.35×10の範囲内、及び更に特に好ましくは0.040×10~0.30×10の範囲内である。
【0019】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、このような重量平均分子量を有することにより、高い乳化性(又は乳化力)を有することできる。
【0020】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量の比)(Mw/Mn)は、好ましくは1.1~13の範囲内、より好ましくは1.1~10の範囲内、更に好ましくは1.1~8の範囲内、より更に好ましくは1.1~6の範囲内、及び特に好ましくは1.1~4の範囲内である。
【0021】
本発明のガティガムの分子量、及びその分布は、以下の方法で測定される。
[分子量、及び分子量分布の測定方法]
分子量、及び分子量分布は、以下の条件のGPC分析で測定される。
検出器: RI
移動相: 100mM KSO
流量: 1.0ml/min
温度: 40℃
カラム: TSKgel GMPWXL 30cm (ガードPWXL)
インジェクション: 100μl
プルランスタンダード: Shodex STANDARD P-82
【0022】
[2-1]本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムの性質
[2-1-1]乳化性
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、乳化剤として機能でき、及び乳化粒子を形成できる。
乳化剤の乳化性は、これを用いて形成される乳化粒子のサイズによって評価することができ、ここで、乳化粒子のサイズが小さいほど、乳化性(又は乳化力)が高い。
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、後記の実施例における項目「[4]乳化液の処方」に記載の条件に従って調製された乳化液における、乳化粒子のメジアン径(体積規準)が、
好ましくは0.1~1.5μmの範囲内、
より好ましくは0.1~1.2μmの範囲内、
更に好ましくは0.1~1μmの範囲内、
より更に好ましくは0.2~0.9μmの範囲内、
特に好ましくは0.2~0.85μmの範囲内、
より特に好ましくは0.2~0.83μmの範囲内、及び
更に特に好ましくは0.2~0.8μmの範囲内である。
【0023】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを用いて形成される乳化粒子がこのように小さなメジアン径を有することができることは、本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムが高い乳化性(又は乳化力)を有することを意味する。
【0024】
前記乳化液が含有する乳化粒子のサイズ、具体的にはメジアン径(体積規準)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することにより、決定できる。
【0025】
[2-1-2]低分子ガティガム水溶液の粘度
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガム水溶液は、以下の粘度を有することができる。
[8質量%水溶液粘度]
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、好ましくは、その8質量%水溶液(20℃)の、後記測定方法で測定した粘度が、
好ましくは70mPa・s以下、
より好ましくは60mPa・s以下、
更に好ましくは50mPa・s以下、
より更に好ましくは45mPa・s以下、
特に更に好ましくは40mPa・s以下、
より特に好ましくは35mPa・s以下、及び
更に特に好ましくは30mPa・s以下
である低分子ガティガムである。
当該粘度の下限は、例えば、1mPa・s、2mPa・s、3mPa・s、4mPa・s、又は5mPa・sであることができる。
【0026】
[粘度測定方法]
100mLスクリュー瓶(内径3.7cm)に、ガティガム8重量%水溶液80gをいれ、以下の装置、及び条件で粘度を測定する。
<装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計)ローターNo.2
回転数:60rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0027】
[2-1-3]低分子ガティガム水溶液の粘度
[15重量%水溶液粘度]
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムは、好ましくは、その15重量%水溶液(20℃)の、後記測定方法で測定した粘度が、
好ましくは100mPa・s未満、
より好ましくは80mPa・s未満、
更に好ましくは70mPa・s未満、
より更に好ましくは60mPa・s未満、
特に好ましくは50mPa・s未満、及び
より特に好ましくは40mPa・s未満
である、低分子ガティガムである。
当該粘度の下限は、例えば、
10mPa・s、
20mPa・s、又は
30mPa・s
であることができる。
【0028】
[粘度測定方法]
100mLスクリュー瓶(内径3.7cm)に、ガティガム15重量%水溶液80gをいれ、以下の装置、及び条件で粘度を測定する。
<装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計)ローターNo.2
回転数:30rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0029】
[2-2]乳化液の粘度
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを用いて作成した乳化液は粘度が好適に低く、次の粘度測定方法で測定された粘度が、
好ましくは1~500mPa・sの範囲内、
より好ましくは1~250mPa・sの範囲内、
更に好ましくは1~160mPa・sの範囲内、
より更に好ましくは1~100mPa・sの範囲内、及び
特に好ましくは1~80mPa・sの範囲内
である。
【0030】
[乳化液粘度測定方法]
100mlスクリュー瓶(内径:3.7cm)に、前記乳化性測定に記載の方法で調製した試料(乳化液)の80gを入れ、以下の装置、及び条件で粘度を測定する。
<装置、及び条件>
B型粘度計(ブルックフィールド型粘度計) ローターNo.2
回転数 30rpm
測定温度:20℃
測定時間:1分
【0031】
[2-3]乳化液の濁度
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを用いて作成した乳化液は、次の濁度測定方法で測定された濁度が低く(すなわち、透明性が高く)、且つ当該透明性の安定性が高い。
当該濁度[0.1%E]は、調製時に、
好ましくは0.01~0.4の範囲内、
より好ましくは、0.01~0.38の範囲内、
更に好ましくは0.01~0.35の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.3の範囲内、及び
特に好ましくは0.01~0.25の範囲内
である。
【0032】
[濁度測定方法]
前記乳化性測定に記載の方法で調製した試料(乳化液)の、0.1%水希釈液の720nmの濁度を、分光光度計(セル:石英セル 10mm×10mm)で測定する。
【0033】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを含有する当該乳化液の当該濁度[0.1%E]は、60℃で3日間静置後に、
好ましくは0.01~0.39の範囲内、
より好ましくは0.01~0.37の範囲内、
更に好ましくは0.01~0.35の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.33の範囲内、
特に好ましくは0.01~0.30の範囲内、及び
更に特に好ましくは0.01~0.27の範囲内
である。
【0034】
本発明の製造方法で得られる低分子ガティガムを含有する当該乳化液の当該濁度[0.1%E]は、60℃で7日間後に、
好ましくは0.01~0.39の範囲内、
より好ましくは0.01~0.37の範囲内、
更に好ましくは0.01~0.35の範囲内、
より更に好ましくは0.01~0.33の範囲内、
特に好ましくは0.01~0.31の範囲内、及び
更に特に好ましくは0.01~0.29の範囲内
である。
【0035】
[3]製造方法
本発明の低分子ガティガムの製造方法は、
(1)原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する工程、
(2)前記反応器内で、前記原料ガティガム水溶液を、加熱により、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の環境に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する工程、及び
(3)前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出す工程
を含む。
【0036】
前記原料ガティガム水溶液は、原料であるガディガムを含有する。
当該原料であるガディガムとしては、商業的に入手可能なガティガムを使用できる。
商業上入手可能なガティガム製品としては、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の「ガティガムSD」等が挙げられる。
市場で流通しているガティガムの重量平均分子量は、通常、1.1×10~2×10の範囲内である。
原料であるガディガムとしては、目的とする分子量のガティガムが製造可能であれば特に制限されず、その一部に低分子量のガティガムを元々含有していてもよい。
例えば、原料であるガディガムは、0.020×10を超える重量平均分子量(好ましくは0.025×10を超える重量平均分子量、より好ましくは0.030×10を超える重量平均分子量、及び更に好ましくは0.080×10を超える重量平均分子量)のガティガム分子画分を含有するガディガムであることができる。
【0037】
本発明の低分子ガティガムの製造方法では、原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給する。
当該「反応器」は、原料ガティガム水溶液を内包して、これを所定の加熱及び加圧に曝露できる容器であることができる。
当該反応器内で、前記原料ガティガム水溶液を、加熱により、120~300℃の範囲内の温度、及び0.2~30MPaの範囲内の圧力の環境に、0.5~35秒間曝露して、低分子化ガティガム水溶液を調製する。
【0038】
本明細書中、「加熱」とは、伝導、対流、及び/又は輻射により、熱源から、直接的に、又は熱媒体を通じて、対象物に熱エネルギーを加えることを意味する。当該熱源は、特に限定されない。
当該加熱は、原料ガティガム水溶液が、それよりも高温の、固体(例:金属)、液体(例:油)、若しくは気体(例:水蒸気)或いはこれらの組合せと接触することにより実施され得る。
当該加熱は、熱交換器を使用する間接加熱、及び熱交換器を使用しない直接加熱を包含する。直接加熱の例としては、被加熱液体内へ、間歇的又は連続的に、水蒸気を吹き込む方法が挙げられる。
当該加熱には、商業的に入手可能な、種々の加熱殺菌装置を利用してもよい。
【0039】
原料ガティガム水溶液が曝露される温度の下限は、120℃である必要があり、例えば、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃、又は280℃であることができる。
原料ガティガムが曝露される温度の上限は、例えば、300℃、290℃、280℃、270℃、260℃、250℃、240℃、230℃、220℃、210℃、200℃、190℃、180℃、170℃、160℃、150℃、140℃、又は130℃であることができる。
【0040】
当該温度は、より高いほど、より低分子のガティガムが得られ、一方より低いほど、より高分子のガティガムが得られる。
このことに基づき、目的とする低分子ガティガムの分子量に応じて、当該温度を設定すればよい。
【0041】
原料ガティガムが曝露される温度は、
120℃~300℃の範囲内であり、
好ましくは、125~250℃の範囲内であり、
より好ましくは、130~220℃の範囲内であり、及び
更に好ましくは、135~200℃の範囲内である。
【0042】
本明細書中、「加圧」とは、通常理解される通り、大気圧を超える圧力に対象物を曝露することを意味する。当該加圧の手段は特に限定されない。
前記した、原料ガティガム水溶液を、連続的又は断続的に反応器に供給すること、及び当該加圧は、例えば、好適には、当該容器内へ、原料ガティガム水溶液を圧入することによって、達成され得る。
本明細書においては、原料ガティガム水溶液が曝露される圧力の下限は、当該温度条件における水の蒸気圧である必要があり、好ましくは、例えば、0.2MPa、0.5MPa、0.7MPa、1MPa、3MPa、5MPa、10MPa、15MPa、又は20MPaであることができる。
原料ガティガム水溶液が曝露される圧力の上限は、例えば、30MPa、27MPa、25MPa、22MPa、20MPa、17MPa、15MPa、又は10MPaであることができる。
原料ガティガム水溶液が曝露される圧力は、
0.2~30MPaの範囲内であり、
好ましくは、0.3~20MPaの範囲内であり、
より好ましくは、0.5~15MPaの範囲内であり、及び
更に好ましくは、0.5~10MPaの範囲内である。
【0043】
当該圧力は、原料ガティガム水溶液の蒸気圧を超える圧力が好ましい。
【0044】
原料ガティガムが曝露される時間の下限は、0.5秒間である必要があり、好ましくは、1秒間、2秒間、3秒間、5秒間、7秒間、10秒間、12秒間、又は15秒間であることができる。
原料ガティガムが曝露される時間の上限は、35秒間である必要があり、好ましくは、30秒間、25秒間、22秒間、19秒間、又は16秒間であることができる。
【0045】
原料ガティガムが曝露される時間は、
0.5~35秒間の範囲内であり、
好ましくは、0.5~30秒間の範囲内であり、
より好ましくは、0.5~25秒間の範囲内であり、及び
更に好ましくは、0.5~20秒間の範囲内である。
【0046】
当該曝露後、当該曝露により得られた低分子化ガティガム水溶液は、好適に、
10~200℃/秒の冷却速度で、
20秒以内に、
100℃以下まで、
冷却されることができる。
当該冷却の到達温度は、
好ましくは90℃以下、
より好ましくは80℃以下、
更に好ましくは70℃以下及び
より更に好ましくは60℃以下
であることができる。
当該冷却の到達温度の下限は、例えば、0℃であることができる。
当該冷却速度は、
好ましくは15~200℃/秒、
より好ましくは20~200℃/秒、及び
更に好ましくは30~200℃/秒
であることができる。
【0047】
原料ガティガム水溶液は、本発明の効果を著しく害さない限りにおいて、媒体としての水、及び原料ガティガム以外の成分を含有してもよい。
このような成分の例は、酸を包含する。
【0048】
当該酸の例は、クエン酸(これは、無水クエン酸を包含する。)、リン酸、フィチン酸、リンゴ酸、酒石酸、塩酸、酢酸、乳酸、及びアスコルビン酸を包含する。
当該酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
原料ガティガム水溶液のpHは、例えば、pH7以下、pH6以下、又はpH5以下であることができる。
原料ガティガム水溶液のpHは、例えば、pH1以上、pH1.5以上、pH2以上、又はpH2.5以上であることができる。
酸を使用する場合、同程度の分子量の低分子ガティガムは、酸を使用しない場合と比較して、前記曝露の温度をより低くすること、及び/又は前記曝露の時間を短くすることが、可能である。
【0049】
本発明の製造方法においては、前記曝露の段階の前において、原料ガティガムが、120℃未満の温度の環境に曝露されることにより、予熱されてもよい。
当該予熱には、原料ガティガムを加熱下で水に溶解させることを包含する。
念のために述べるに過ぎないが、当該予熱を前記曝露の条件で行う場合、これは、曝露の工程に含まれる。
【0050】
予熱を行う場合、同程度の分子量の低分子ガティガムは、予熱を行わない場合と比較して、前記曝露の温度をより低くすること、及び/又は前記曝露の時間を短くすることが、可能である。
【0051】
予熱の温度は、好ましくは、30℃以上120℃未満の範囲内であり、
より好ましくは、50℃以上120℃未満の範囲内であり、及び
更に好ましくは、80℃以上120℃未満の範囲内である
ことができる。
【0052】
予熱の時間は、特に制限されないが、
例えば、予熱の温度が100℃以上120℃未満の場合、
好ましくは、2~900秒間の範囲内であり、
より好ましくは、5~600秒間の範囲内であり、及び
更に好ましくは、10~450秒間の範囲内である
ことができる。
予熱の温度が100℃未満の場合、
好ましくは、2秒間~8時間の範囲内であり、
より好ましくは、5秒間~6時間の範囲内であり、及び
更に好ましくは、10秒間~5時間の範囲内である
ことができる。
【0053】
前記低分子化ガティガム水溶液を前記反応器から連続的又は断続的に取り出すことは、前記原料ガティガム水溶液を、前記加熱及び前記加圧環境下に前記所定時間曝露されることを必須条件として、例えば、前記反応容器を連続的又は断続的に開口度合いを調整しながら開口することにより、達成され得る。
【0054】
本発明の製造方法は、例えば、ナノエマルション生成装置:SFW-E40S(製品名)(AKICO 社)を使用して、好適に、実施できる。
当該装置の概略を図1に示す。
【0055】
当該装置では、供給口A、予熱管A、加熱加圧管、冷却管、及び取出口が、供給口から供給された液が、この順に各部を通過して、取出口から取り出せるように、連結されている。
予熱ヒーターを有する予熱管Aに、原料ガティガム水溶液を連続的又は断続的に加圧供給できる。
加圧には、例えば、プランジャーポンプ、ダイアフラム式ポンプ、シリンジポンプなどを用いることができる。
当該装置では、予熱管A、及び加熱加圧管で、それぞれ、加熱が可能である。
当該予熱管Aでの加熱には、好ましくは、電熱ヒーターが用いられる。この使用により、装置小型化の点で利点がある。
当該加熱加圧管での加熱には、好ましくは、電熱ヒーターが用いられる。この使用により、装置小型化の点で利点がある。
供給口Aから当該装置内に導入された原料ガティガム水溶液は、所望により、予熱管Aで予熱され、合流器Aを経て、加熱加圧管へ移行する。
当該液は、加熱加圧管内で、加圧下で加熱される。
これにより低分子化されたガティガムを含有する液(低分子ガティガム液)は、所望により冷却管で冷却されて、装置から排出される。
なお、図面では、供給口B、供給口C、及び予熱管Bが図示されているが、本発明の製造方法において、これらの使用は、任意である。
【0056】
当該装置において、加熱及び加圧時間は、通液速度によって、調整可能である。
【0057】
[4]ガティガムの低分子化方法
本発明は、ガティガムの低分子化方法もまた提供する。
当該低分子化方法は、前記した、低分子化ガティガムの製造方法についての説明から理解される。
【0058】
[5]ガティガムの乳化性の向上方法
本発明は、ガティガムの乳化性の向上方法もまた提供する。
本発明の、ガティガムの乳化性の向上方法は、ガティガムを低分子化処理する工程を含む。
当該低分子化処理は、前記した、ガティガムの製造方法における低分子化処理と同様であることができる。
【実施例
【0059】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下、特に記載の無い場合、「%」は、「質量%」を意味し得る。
以下、ガティガムをGumGと略記する場合がある。
以下、分子量についてのMwは重量平均分子量を表す。
以下、分子量についてのMnは数平均分子量を表す。
【0060】
実施例では、以下の材料、装置、及び測定方法を採用した。
[1]材料
油性成分(香料、オレンジオイル):ORANGE OIL 12010(製品名)(CITRA SOURCE)
レシチン:SLPホワイト(製品名)(辻精油)
中鎖脂肪酸油:O.D.O(製品名)(日清オイリオ)
トコフェロール70S(製品名)(日清オイリオ)
ガティガム:GPC重量平均分子量=1136000
原料ガティガム液:
各試験において、使用する原料ガティガム液として、次の処方で、ガティガムを90℃達温にて溶解させて、ガティガム8%水溶液(100メッシュでろ過)を製造した。
【0061】
ガティガム 8.0%
クエン酸(無水) 0.2%
水 91.8%
合計 100.0%
【0062】
[2]装置
高温、及び高圧条件に曝露する装置としては、ナノエマルション生成装置:SFW-E40S(製品名)(AKICO 社)を使用した。当該装置の概要を図1に示す。
後記各試験における「対照」は、前記ナノエマルション生成装置による処理を行っていない試料である。
【0063】
[4]乳化液の処方
次表の処方に従い、以下の方法で、乳化液を調製した。
部分(1)はSLPホワイトを香料(オレンジオイル)に溶解後、その他を加え、及び均一に混合する。
部分(1)を部分(2)に添加し、以下の条件で攪拌混合した
(撹拌混合条件:300ml ビーカー中に250g仕込。3枚小ペラ、1700rpm、3min、約30℃)
混合物を、ナノマイザー45MPaで4回乳化した。
乳化物に部分(3)を添加混合した。
【表1】
【0064】
[評価]
[粘度測定条件]
100mlスクリュー瓶中、試料80g
20℃
ローターNO.2
回転数:60rpm
測定時間:1分
[保存試験]
試料を褐色瓶に入れて、後記の試験結果に記載の所定温度で、後記の試験結果に記載の所定期間保存した後、後記の試験結果に記載の物性を評価した。
【0065】
以下の各試験例で、同一の実施番号は、同じ試料を表す。
以下の各試験例で、「混合管」は、図1の加熱加圧管を表す。各例で記載する混合管排出液温は、合流基Bで測定した温度である。従って、混合管中の液温の最低温度は、これを上回る。
Brixの測定は、デジタル糖度(濃度)計(PR-101α、アタゴ社)を使用して実施した。
以下の試験例の結果を示す表中において、「Gum G液」は、それぞれ、原料ガティガム液を、ナノエマルション生成装置の圧力条件を変えて、それぞれ高温、及び高圧条件に曝露処理することにより調製した各低分子ガティガム液、又は対照として非処理の原料ガティガム液を意味する。
以下の試験例の結果を示す表中において、「乳化液」は、それぞれ、前記「[4]乳化液の処方」に従って調製した乳化液を意味する。
【0066】
試験例1
原料ガティガム液を、ナノエマルション生成装置の圧力条件を変えて、それぞれ高温、及び高圧条件に曝露することにより調製した各低分子ガティガム液を評価した。
結果を表2に示した。
乳化液の濁度(1%E)が小さい程、乳化粒子のメジアン径(体積基準)が小さいことを意味する。
これから理解される通り、当該試験内で、いずれの圧力でも、ガティガムの低分子化がされ、概ね、得られた低分子化ガティガムは高い乳化性、及び高い保存性を示した。
【0067】
【表2】
【0068】
試験例2
温度条件、流量(すなわち暴露時間)をそれぞれ変えて調製した低分子ガティガム液を評価した。結果を表3(表3-1、及び3-2)に示した。
これから理解される通り、いずれの温度でも低分子化されたガティガムが製造された。ここで、温度、及び暴露時間は、当該試験内で、ガティガムの低分子化、並びに得られた低分子化ガティガムの乳化性、及びその保存性に影響することが示された。


【表3-1】
【0069】
【表3-2】
【0070】
試験例3
予熱条件を変えて調製した低分子ガティガム液を評価した。結果を表3に示した。
これから理解される通り、予熱もまたガティガムの低分子化、並びに得られた低分子化ガティガムの乳化性、及びその保存性に影響することが示された。
【0071】
【表4】
【0072】
試験例4
試験例4では、前記各試験例で実施した加熱加圧管(混合管)での加熱及び加圧に加えて、図1の予熱管Aでも、加熱加圧管(混合管)と同様の加熱及び加圧を行う試験を行った。結果を表5に示した。
これから理解される通り、予熱管での加熱でも、加熱加圧管(混合管)と同様の、加熱及び加圧を行うことにより、ガティガムの低分子化、並びに得られた低分子化ガティガムの乳化性、及びその保存性に十分に寄与することが示された。
【0073】
【表5】
図1