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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】幹細胞の能力の推定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220824BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220824BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/0775
G01N33/48 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018127052
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020005514
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】石井 佳江
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
(72)【発明者】
【氏名】赤松 浩彦
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 一充
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】ヒト脂肪組織由来幹細胞の能力に影響を及ぼす要因,日本再生医療学会雑誌、第16回日本再生医療学会総会プログラム・妙録,2017年,Vol.16 Suppl.,P-03-074
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の年齢と、該被験者から採取した血液の血小板数(PLT)、ALT(GPT)、カリウム(K)、クレアチニン(CRE)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、総蛋白(TP)、尿素窒素(BUN)、分葉核球(SEG)、AST(GOT)、及び平均赤血球色素量(MCH)から成る群より選択される2種以上の血液検査結果に基づいて、該被験者由来の間葉系幹細胞の増殖能を推定する工程を含む、間葉系幹細胞の増殖能の推定方法。
【請求項2】
被験者の年齢と、該被験者から採取した血液の赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、平均赤血球容積(MCV)、アミラーゼ(AMY)、AST(GOT)、尿素窒素(BUN)、ヘマトクリット値(Ht)、総蛋白(TP)、ナトリウム(Na)、及び平均赤血球色素量(MCH)から成る群より選択される2種以上の血液検査結果に基づいて、該被験者由来の間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化能を推定する工程を含む、間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化能の推定方法。
【請求項3】
被験者の年齢と、該被験者から採取した血液の平均赤血球容積(MCV)、総ビリルビン(T-Bil)、アミラーゼ(AMY)、尿素窒素(BUN)、平均赤血球色素量(MCH)、ALT(GPT)、白血球数(WBC)、AST(GOT)、ヘマトクリット値(Ht)、及びアルカリフォスファターゼ(ALP)から成る群より選択される2種以上の血液検査結果に基づいて、該被験者由来の間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化能を推定する工程を含む、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化能の推定方法。
【請求項4】
被験者の年齢と、該被験者から採取した血液のヘマトクリット値(Ht)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、カリウム(K)、ALT(GPT)、アミラーゼ(AMY)、ナトリウム(Na)、AST(GOT)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、血色素量(Hb)、及びクロール(CL)から成る群より選択される2種以上の血液検査結果に基づいて、該被験者由来の間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能を推定する工程を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の推定方法。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞の増殖能又は分化能の推定が、間葉系幹細胞の増殖能又は分化能が既知の被験者の年齢と該被験者の2種以上の血液検査結果を説明変数とし、該幹細胞の増殖能又は分化能を目的変数とする多変量解析によって得られる間葉系幹細胞の増殖能又は分化能の推定モデルを用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記多変量解析が、サポートベクターマシンである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において間葉系幹細胞の増殖能又は分化能を推定するためのプログラムであって、コンピュータを、年齢及び血液の2種以上の血液検査結果と間葉系幹細胞の増殖能又は分化能との相関関係を示す間葉系幹細胞の増殖能又は分化能の推定モデルを記憶する手段、及び間葉系幹細胞の増殖能又は分化能が未知の被験者の年齢及び該被験者から採取した血液の2種以上の血液検査結果を、前記記憶手段に記憶された推定モデルと照合して、該被験者由来の間葉系幹細胞の増殖能又は分化能の推定値を算出する手段、として機能させるための、前記プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の能力の推定方法に関する。より詳細には、年齢及び血液検査結果から幹細胞の増殖や分化などの能力を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに、骨髄、肝臓、膵臓、皮膚などの組織から幹細胞を分離、培養し、分化誘導
する技術について幾つかの報告があり、皮膚においては、表皮、真皮、皮下脂肪や毛包において幹細胞が存在することがわかっている。これらの幹細胞は組織の恒常性維持や、再生医療のソースとしても重要である。幹細胞を医療用又は研究用に利用する場合、その能力の判別は非常に重要である。例えば、医療応用を想定するとき、幹細胞の能力は治療効果の確実性や安定性にも大きく影響する。また、研究応用であっても、幹細胞の能力は実験・検証の成功や再現性に関わる。一方で、人体から採取された幹細胞は、不均一な細胞集団であり、その能力(分化能・増殖能・未分化性など)は、ドナー、培養条件、細胞継代数等により大きく変化する。近年、上記の組織に由来する幹細胞は、一般的に加齢の影響を受け増殖や分化の能力が低下することが報告されている。しかし、身体の老化の程度には個人差があり、実際に幹細胞の増殖や分化の能力を年齢だけで評価することは正確性と信頼性に欠ける。
【0003】
これまで幹細胞の能力を評価する方法として、例えば、幹細胞の培養上清中に分泌されたmiRNAを指標とする方法(特許文献1)、細胞表面上の少なくとも1種の細胞表面輸送体の発現レベルを測定することによって細胞の老化を生体外で評価、判断、監視又は予測する方法(特許文献2)、IGF-1及びTGF-βを含有する培地で、幹細胞を培養することによって、培養された幹細胞の増殖能、遊走能、又は分化能を評価する方法(特許文献3)などが報告されている。しかしながら、これらは、遺伝子発現量の測定や、特定の成分を添加した培地での培養が必要であり、操作が煩雑であるため、簡便性や迅速性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-144439号公報
【文献】特表2017-526380号公報
【文献】特開2014-156410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、簡便、迅速、かつ正確に幹細胞の能力を推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、複数の被験者由来の脂肪幹細胞の能力(増殖能、分化能)と、該被験者の年齢及び該被験者から採取した血液の血液検査結果とを統計的に分析したところ、年齢及び血液検査結果と幹細胞の能力との間に相関関係が認められること、被験者の年齢と1種又は2種以上の血液検査結果を組み合わせることにより、該被験者由来の幹細胞の増殖能や分化能を簡便、迅速、かつ正確に推定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)幹細胞の能力が未知の被験者の年齢と、該被験者から採取した血液の1種又は2種以上の血液検査結果に基づいて、該被験者由来の幹細胞の能力を推定する工程を含む、幹細胞の能力の推定方法。
(2)前記幹細胞の能力の推定が、幹細胞の能力が既知の被験者の年齢と該被験者の1種又は2種以上の血液検査結果を説明変数とし、該幹細胞の能力を目的変数とする多変量解析によって得られる幹細胞の能力の推定モデルを用いる、(1)に記載の方法。
(3)前記多変量解析が、サポートベクターマシンである、(2)に記載の方法。
(4)前記幹細胞の能力が、幹細胞の増殖能及び/又は分化能である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記幹細胞が、体性幹細胞である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記体性幹細胞が、皮膚又は間葉系組織由来の幹細胞である、(5)に記載の方法。
(7)前記幹細胞の能力が、幹細胞の増殖能であって、前記血液検査結果が、血小板数(PLT)、ALT(GPT)、カリウム(K)、クレアチニン(CRE)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、総蛋白(TP)、尿素窒素(BUN)、分葉核球(SEG)、AST(GOT)、及び平均赤血球色素量(MCH)から成る群より選択される1種又は2種以上である、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記幹細胞の能力が、幹細胞から脂肪細胞への分化能であって、前記血液検査結果が、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、平均赤血球容積(MCV)、アミラーゼ(AMY)、AST(GOT)、尿素窒素(BUN)、ヘマトクリット値(Ht)、総蛋白(TP)、ナトリウム(Na)、及び平均赤血球色素量(MCH)から成る群より選択される1種又は2種である、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(9)前記幹細胞の能力が、幹細胞から骨芽細胞への分化能であって、前記血液検査結果が、平均赤血球容積(MCV)、総ビリルビン(T-Bil)、アミラーゼ(AMY)、尿素窒素(BUN)、平均赤血球色素量(MCH)、ALT(GPT)、白血球数(WBC)、AST(GOT)、ヘマトクリット値(Ht)、及びアルカリフォスファターゼ(ALP)から成る群より選択される1種又は2種以上である、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(10)前記幹細胞の能力が、幹細胞から軟骨細胞への分化能であって、前記血液検査結果が、ヘマトクリット値(Ht)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、カリウム(K)、ALT(GPT)、アミラーゼ(AMY)、ナトリウム(Na)、AST(GOT)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、血色素量(Hb)、及びクロール(CL)から成る群より選択される1種又は2種以上である、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(11)幹細胞の能力を推定するためのプログラムであって、コンピュータを、年齢及び血液の1種又は2種以上の血液検査結果と幹細胞の能力との相関関係を示す幹細胞の能力の推定モデルを記憶する手段、及び
幹細胞の能力が未知の被験者の年齢及び該被験者から採取した血液の1種又は2種以上の血液検査結果を、前記記憶手段に記憶された推定モデルと照合して、該被験者由来の幹細胞の能力の推定値を算出する手段、として機能させるための、前記プログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、幹細胞の能力を簡便、迅速、かつ正確に推定することができる。本発明の方法によって、増殖能や特定の分化細胞への分化能が高いと推定された幹細胞は、再生医療材料、再生美容材料、又は研究応用のための材料として提供することができる。よって、本発明は幹細胞の安全かつ確実な品質管理手段として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明の幹細胞の能力の推定方法は、幹細胞の能力が未知の被験者の年齢と、該被験者から採取した血液の1種又は2種以上の血液検査結果に基づいて、該被験者由来の幹細胞の能力を推定する工程を含む。
【0010】
本発明において「幹細胞の能力が未知の被験者」とは、該被験者由来の幹細胞の能力の推定対象となる任意の被験者(以下、「対象被験者」と記載する場合がある)であって、例えば、一般的な健康診断や人間ドック等の対象者が挙げられる。
【0011】
本発明の方法において推定する幹細胞の能力には、例えば、幹細胞の増殖能や分化能が含まれる。幹細胞の「増殖能」は、幹細胞が未分化状態を維持しながら増殖する能力をいい、幹細胞の「分化能」とは、未分化な幹細胞が機能する細胞へと分化する能力をいう。これらの幹細胞の能力は、再生医療や研究に用いる上で重要な能力であり、幹細胞の品質に関わる大きな要素となる。
【0012】
本発明の方法を用いてその能力を推定する幹細胞とは、例えば、骨髄、血液、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、脂肪、毛包、脳、神経、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する体性幹細胞であって、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、内胚葉系細胞へと分化しうる又はそれらの修復を促進しうる多能性を有する未分化な細胞をいう。ここで、外胚葉系細胞としては、感覚器系細胞(網膜や内耳の細胞)、神経系細胞(神経細胞(例えば、前脳神経細胞、中脳神経細胞、小脳神経細胞、後脳神経細胞、脊髄神経細胞等)、神経管細胞、神経堤細胞)、表皮系細胞(表皮細胞、水晶体上皮細胞)が挙げられ、中胚葉系細胞としては、筋肉系細胞(筋芽細胞、筋衛星細胞等)、骨格系細胞(骨芽細胞、骨細胞、軟骨細胞等)、脂肪細胞、真皮細胞、循環器系細胞(心筋細胞、造血幹細胞、赤血球、血小板、マクロファージ、顆粒球、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、Bリンパ球等)、泌尿生殖器系細胞(尿細管細胞、メサンギウム細胞、傍糸球体細胞、精巣、卵巣等)、結合組織等が挙げられ、内胚葉系細胞としては、消化器系細胞(肝細胞、胆管細胞、膵内分泌細胞、腺房細胞、導管細胞、吸収細胞、杯細胞、パネート細胞、腸内分泌細胞等)、肺、甲状腺等の組織の細胞が挙げられる。なかでも中胚葉系の脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞等だけでなく、内胚葉系の内臓組織や外胚葉系の神経等の細胞にも分化する能力を有する間葉系幹細胞は、骨や血管、心筋の再構築などの再生医療への応用例が高いので好ましい。
【0013】
本発明において幹細胞の能力の推定に用いる血液検査結果は、通常の血液検査(臨床検査)で得られる結果であればよく、限定はされない。血液検査を行うにあたり、対象被験者からの血液の採取(採血)は、他の臨床検査等と同様に被験者の空腹時に行うことが好ましい。また、採血は、前腕肘部から約5mlの量で静脈血を採取することにより行えばよく、採血の方法や量は、適宜、変更してもよい。
【0014】
本発明において、幹細胞の能力の推定は、年齢及び血液検査結果と幹細胞の能力との相関関係を示す推定モデルに基づいて行うことができる。推定モデルは、幹細胞の能力が既知の被験者(以下、「参照被験者」と記載する場合がある)の年齢と該被験者の1種又は2種以上の血液検査結果を説明変数とし、該幹細胞の能力を目的変数とする多変量解析によって作成することができる。幹細胞の能力の推定モデルを作成するための参照被験者の数は多数であるほどよく、特に限定はされないが、例えば少なくとも50名以上が好ましく、100名以上がより好ましい。
【0015】
上記の対象被験者及び参照被験者の年齢や性別は特に限定されないが、参照被験者の年齢は、各年代が同程度に分布していることが好ましい。また、推定モデルを作成するにあたり、参照被験者の幹細胞の能力、年齢、血液検査結果の情報を記録したデータベースを作成しておくことが好ましい。このデータベースは、新たに取得した対象被験者の年齢、血液検査結果、及び幹細胞の能力の推定値を追加することによって更新してもよい。
【0016】
推定モデルの作成に用いる多変量解析としては、例えば、サポートベクターマシン、重回帰分析(MLR)、部分的最小二乗回帰分析(PLS)、主成分回帰分析(PCR)、ロジスティック回帰分析、判別分析、正準相関分析、主成分分析、因子分析、数量化理論(I類、II類、III類)、k近傍法、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ、バギング法、ブースティング法、クラスター分析、多次元尺度等が挙げられる。該推定モデルには、能力を推定する幹細胞の種類、説明変数の数や種類に応じて、推定精度を向上させるために、これらの方法を適宜組み合わせて使用することもできる。またこれらの多変量解析を実行するには、多くの市販のソフトウェアやフリーウェアの解析ツールがあり、それらを適宜選択して用いることができる。また、多変量解析の実施に際しては、このような市販のツールに添付の操作マニュアルに従って容易に行うことができる。よって、上記の推定モデルとしては、使用する上記多変量解析の種類に応じ、サポートベクターマシンで作成された式、ロジスティック回帰式、線形判別式、重回帰式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式等や、これらの式を複数組み合わせた統合関数が挙げられる。
【0017】
上記推定モデルは、例えば、重回帰分析(MLR)を用いた場合は、下記一次多項式のように表すことができる。
y=a0+a+・・・+a
(式中、yは幹細胞の能力、a0は定数、a~aは多変量解析によって得られる偏回帰係数、x~xは年齢と1種又は2種以上の血液検査結果、nは2以上の整数である。)
【0018】
推定モデルの推定精度の高さは、参照被験者の年齢と血液検査結果の数値データを学習用とテスト用にわけて、学習用データのみを使用して推定モデルを作成し、テスト用データと該推定モデルと照合して、テスト用データの既知の幹細胞の能力を比較することによって評価できる。このように、推定モデルの高さを評価することによって、適切な多変量解析方法や、説明変数の種類を選択することも可能となる。
【0019】
本発明において、年齢とともに、幹細胞の能力の推定に用いる血液検査結果は、幹細胞の能力(増殖能・分化能)が異なる複数の参照被験者から採取した血液について、下記の血液検査項目の測定値(血液検査結果)を取得し、年齢のみを説明変数とした推定モデルと、取得した測定値と年齢とを説明変数とした推定モデルとで、推定精度について差異が見られたものを選抜したものである。また、選抜にあたっては、その検査項目が多すぎると、得られる情報量が大きくなり、情報処理が煩雑となるので、時間やコストの点も考慮して10項目程度を目安とした。なお、これらの血液検査結果を得るための方法は、特に限定はされず、通常の臨床現場において採用されている方法で行うことができる。
【0020】
(血液検査項目)
赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、血色素量(Hb)、ヘマトクリット値(Ht)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球色素量(MCH)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、プロトロンビン時間(PT)、プロトロンビン比(PT-RATIO)、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノーゲン(Fib)、総蛋白(TP)、アルブミン(ALB)、総ビリルビン(T-Bil)、AST(GOT)、ALT(GPT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、γグルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTP)、コリンエステラーゼ(ChE)、アミラーゼ(AMY)、中性脂肪(TG)、総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)、クレアチニンキナーゼ(CPK)、尿素窒素(BUN)、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、推定糸球体濾過量(eGFR)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、血液像(好塩基球(BAS)、好酸球(EOS)、好中球(NEUT)、桿状核球(STAB)、分葉核球(SEG)、後骨髄球(MM)、リンパ球(LYM)、単球(MON))。
【0021】
選抜した幹細胞の増殖能、幹細胞から脂肪細胞への分化能、幹細胞から骨芽細胞への分化能、幹細胞から軟骨細胞への分化能の推定に使用できる血液検査結果の一例を以下に示す。
【0022】
(幹細胞の増殖能の推定)
血小板数(PLT)、ALT(GPT)、カリウム(K)、クレアチニン(CRE)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、総蛋白(TP)、尿素窒素(BUN)、分葉核球(SEG)、AST(GOT)、及び平均赤血球色素量(MCH)。
【0023】
(幹細胞から脂肪細胞への分化能の推定)
赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、平均赤血球容積(MCV)、アミラーゼ(AMY)、AST(GOT)、尿素窒素(BUN)、ヘマトクリット値(Ht)、総蛋白(TP)、ナトリウム(Na)、及び平均赤血球色素量(MCH)。
【0024】
(幹細胞から骨芽細胞への分化能の推定)
平均赤血球容積(MCV)、総ビリルビン(T-Bil)、アミラーゼ(AMY)、尿素窒素(BUN)、平均赤血球色素量(MCH)、ALT(GPT)、白血球数(WBC)、AST(GOT)、ヘマトクリット値(Ht)、及びアルカリフォスファターゼ(ALP)。
【0025】
(幹細胞から軟骨細胞への分化能の推定)
ヘマトクリット値(Ht)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、カリウム(K)、ALT(GPT)、アミラーゼ(AMY)、ナトリウム(Na)、AST(GOT)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、血色素量(Hb)、及びクロール(CL)。
【0026】
上記の各幹細胞の能力の推定において、推定精度を高める観点からは、2種以上の血液検査結果を用いることが好ましい。2種以上の血液検査結果を用いる場合、その数と組み合わせは任意に選択できるが、5種以上が好ましく、6種以上がより好ましく、7種以上がさらに好ましい。
【0027】
対象被験者由来の幹細胞の能力の推定は、対象被験者の年齢と該被験者の1種又は2種以上の血液検査結果と、上記の推定モデルを用いて行う。ここで、「推定モデルを用いる」とは、対象被験者の年齢と該被験者の1種又は2種以上の血液検査結果の数値データを推定モデルに適用すること、具体的には、推定モデルの式に数値データを代入し、得られた推定値を、幹細胞の能力の程度(高、中、低)ごとに予め設定された基準値と照合することをいう。
【0028】
本発明によればまた、上記の幹細胞の能力の推定方法をコンピュータを用いて実施するためのプログラムが提供される。本発明の幹細胞の能力を推定するためのプログラムは、コンピュータを、年齢及び血液の1種又は2種以上の血液検査結果と幹細胞の能力との相関関係を示す幹細胞の能力の推定モデルを記憶する手段、及び、幹細胞の能力が未知の被験者の年齢及び該被験者から採取した血液の1種又は2種以上の血液検査結果を、前記記憶手段に記憶された推定モデルと照合して、該被験者由来の幹細胞の能力の推定値を算出する手段、として機能させるものである。
【実施例
【0029】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記実施例で用いた幹細胞は、計172名の被験者(平均年齢72.8歳)から皮膚科外科手術にて摘出した余剰組織内の正常な皮下脂肪組織から分離した。
【0030】
(実施例1)血液検査結果による幹細胞の増殖能力の推定
(1)皮下脂肪組織からの幹細胞の分離
上記被験者から無菌的に摘出した皮下脂肪組織をPBS(-)で洗浄し、尖刃刀によりペースト状に細切し、0.2%コラゲナーゼ溶液(新田ゼラチン製)を加え、37℃で60分間インキュベートすることで細胞外マトリックスを消化した後、穏やかにピペッティングし細胞を分散させた。この細胞分散液を50mL容の遠沈管(Falcon製)にセルストレーナー(Falcon製)を通しながら移し、残渣を除去した。さらに、細胞分散液を、5分間遠心分離(1300rpm)した。遠心後、上清画分を除去し、Tris-buffered ammonium chloride(ACT溶液)を加えて穏やかにピペッティングし細胞を分散させ赤血球を溶血させ、再び5分間遠心分離し、上清画分を除去した。前記遠心分離により下部に沈殿した細胞ペレットをPBS(-)に懸濁し、よくピペッティングした後、5分間遠心分離した。この洗浄操作を計2回行い、得られた細胞を培養することにより皮下脂肪組織由来幹細胞を得た。
【0031】
(2)血液検査
各被験者の血液検査は、皮膚外科手術前に採血し、下記の項目について測定した。
<検査項目>
赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、血色素量(Hb)、ヘマトクリット値(Ht)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球色素量(MCH)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、プロトロンビン時間(PT)、プロトロンビン比(PT-RATIO)、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノーゲン(Fib)、総蛋白(TP)、アルブミン(ALB)、総ビリルビン(T-Bil)、AST(GOT)、ALT(GPT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、γグルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTP)、コリンエステラーゼ(ChE)、アミラーゼ(AMY)、中性脂肪(TG)、総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)、クレアチニンキナーゼ(CPK)、尿素窒素(BUN)、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、推定糸球体濾過量(eGFR)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、血液像(好塩基球(BAS)、好酸球(EOS)、好中球(NEUT)、桿状核球(STAB)、分葉核球(SEG)、後骨髄球(MM)、リンパ球(LYM)、単球(MON))
【0032】
(3)幹細胞の増殖能力の比較
(1)で得られた各被験者の幹細胞を、間葉系幹細胞増殖培地(TOYOBO社製)にて、37℃、5%COの条件で3-4日間培養した。培養液は、2日毎に新鮮な間葉系幹細胞増殖培地に交換した。培養増殖後、0.25%(w/v)トリプシン/EDTA溶液にて幹細胞を剥がし、血球計算盤を使用し細胞数を測定した。播種時の細胞数と回収時の総細胞数と培養時間を用いて細胞培養の倍加時間を算出し、その値を各被験者の幹細胞の増殖能力(以下、「増殖能力」と記載する。)として用いた。その結果、倍加時間が41.4より小さい群を高増殖能力群、倍加時間が60.1より小さい群を低増殖能力群、それ以外を中間群として、被験者169名を高増殖能力群61名、中間群67名、低増殖能力群41名の3群に分類した。
【0033】
(4)幹細胞の増殖能力の推定に用いる血液検査結果の選抜
幹細胞の増殖能力の推定に用いる血液検査結果の選抜は、以下のように行った。(3)で幹細胞の増殖能力により3群(高増殖能力群、中間群、低増殖能力群)に分類された被験者について、年齢のみを説明変数としたサポートベクターマシンを推定モデルとしてクラス判別を行い、各群において正しく判別された割合である再現率の平均値である平均再現率を算出した。次に、血液検査結果と年齢の2つを説明変数としたサポートベクターマシンで同様にクラス判別を行い、算出された平均再現率と年齢のみの平均再現率とで比率の差の検定を行い、平均再現率が有意に上昇したものを選抜した。
【0034】
選抜した血液検査結果(説明変数)とその平均再現率を下記表1Aに示す。
【0035】
【表1A】
【0036】
(5)幹細胞の増殖能力の推定精度
幹細胞の増殖能力の推定精度を、各群において自身が属する群に正しく判別される割合である再現率の平均値である平均再現率により評価した。年齢のみを説明変数とした判別結果を表1Bに、年齢及び1種の血液検査結果(例、血小板数(PLT))を説明変数とした判別結果を表1Cに、年齢及び2種以上(例、表1Aの全種)の血液検査結果を説明変数とした判別結果を表1Dに示す。
【0037】
【表1B】
【0038】
【表1C】
【0039】
【表1D】
【0040】
表1Cに示されるように、年齢のみ(表1B)と比較して、血液検査結果の1種を説明変数に加えることで、増殖能力の推定精度が顕著に増加した。また、表1Dに示されるように、年齢のみ(表1B)と比較して、血液検査結果の2種以上を説明変数に加えることで、増殖能力の推定精度がさらに顕著に増加した。
【0041】
以上の結果から、年齢と、血小板数(PLT)、ALT(GPT)、カリウム(K)、クレアチニン(CRE)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、総蛋白(TP)、尿素窒素(BUN)、分葉核球(SEG)、AST(GOT)、及び平均赤血球色素量(MCH)から成る群より選択される1種又は2種以上との組み合わせによって、幹細胞の増殖能を高い精度で推定できることが証明された。
【0042】
(実施例2)血液検査結果による幹細胞の脂肪細胞への分化能力の推定
(1)脂肪細胞への分化能力の比較
被験者からの皮下脂肪組織由来幹細胞の分離は実施例1(1)に記載の方法に従って、また、被験者の血液検査は実施例1(2)と同様にして行った。
各被験者の幹細胞とUE7T-13(コントロール)を、脂肪細胞誘導用培地(TOYOBO社製)にて、37℃、5%COの条件で10日間培養し、脂肪細胞への分化誘導を行った。培養液は、3日毎に新鮮な脂肪細胞誘導用培地に交換した。分化誘導後、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所製)により細胞数を測定し、細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液により固定した後、オイルレッドO染色(脂肪アッセイキット,コスモバイオ社製)により、細胞内の脂肪蓄積量を測定し、細胞あたりの脂肪蓄積量を求めた。尚、コントロールとして用いたUE7T-13の脂肪蓄積量を1.0とし、これに対し、各被験者から採取された幹細胞の脂肪細胞への分化能力を算出し、その値を各被験者の幹細胞の脂肪細胞への分化能力(以下、「脂肪細胞分化能力」と記載する。)として用いた。その結果、脂肪細胞分化能力が50.78より大きい群を高分化能力群、脂肪細胞分化能力が21.13より小さい群を低分化能力群、それ以外を中間群として、被験者172名を高分化能力群42名、中間群64名、低分化能力群66名の3群に分類した。
【0043】
(2)幹細胞の脂肪細胞分化能力の推定に用いる血液検査結果の選抜
幹細胞の脂肪細胞分化能力の推定に用いる血液検査結果の選抜は、以下のように行った。(1)で幹細胞の脂肪細胞分化能力により3群(高分化能力群、中間群、低分化能力群)に分類された被験者について、年齢のみを説明変数としたサポートベクターマシンを推定モデルとしてクラス判別を行い、各群において正しく判別された割合である再現率の平均値である平均再現率を算出した。次に、血液検査結果と年齢の2つを説明変数としたサポートベクターマシンで同様にクラス判別を行い、算出された平均再現率と年齢のみの平均再現率とで比率の差の検定を行い、平均再現率が有意に上昇したものを選抜した。
【0044】
選抜した血液検査結果(説明変数)とその平均再現率を下記表2Aに示す。
【0045】
【表2A】
【0046】
(3)幹細胞の脂肪細胞分化能力の推定精度
脂肪細胞分化能力の推定精度を、各群において自身が属する群に正しく判別される割合である再現率の平均値である平均再現率により評価した。年齢のみを説明変数とした判別結果を表2Bに、年齢及び1種の血液検査結果(例、赤血球数(RBC))を説明変数とした判別結果を表2Cに、年齢及び2種以上の血液検査結果(例、表2Aの全種)を説明変数とした判別結果を表2Dに示す。
【0047】
【表2B】
【0048】
【表2C】
【0049】
【表2D】
【0050】
表2Cに示されるように、年齢のみ(表2B)と比較して、血液検査結果の1種を説明変数に加えることで、分化能力の推定精度が顕著に増加した。また、表2Dに示されるように、年齢のみ(表2B)と比較して、血液検査結果の2種以上を説明変数に加えることで、分化能力の推定精度がさらに顕著に増加した。
【0051】
以上の結果から、年齢と、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、平均赤血球容積(MCV)、アミラーゼ(AMY)、AST(GOT)、尿素窒素(BUN)、ヘマトクリット値(Ht)、総蛋白(TP)、ナトリウム(Na)、及び平均赤血球色素量(MCH)から成る群より選択される1種又は2種以上との組み合わせによって、脂肪細胞分化能力を高い精度で推定できることが証明された。
【0052】
(実施例3)血液検査結果による幹細胞の骨芽細胞への分化能力の推定
(1)骨芽細胞への分化能力の算出
被験者からの皮下脂肪組織由来幹細胞の分離は実施例1(1)に記載の方法に従って、また、被験者の血液検査は実施例1(2)と同様にして行った。
各被験者の幹細胞とUE7T-13(コントロール)を、骨芽細胞誘導用培地(TOYOBO社製)にて、37℃、5%COの条件で21日間培養し、骨芽細胞への分化誘導を行った。培地は3日毎に新鮮な骨芽細胞誘導用培地に交換した。分化誘導後、Cell Counting Kit-8により細胞数を測定し、細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液により固定した後、10%ギ酸溶液にてカルシウムを溶出させ、カルシウムE-テストワコー(和光純薬社製)により、カルシウム蓄積量を測定し、細胞当たりのカルシウム蓄積量を求めた。尚、コントロールとして用いたUE7T-13のカルシウム蓄積量を1.0とし、これに対し、各被験者から採取された幹細胞の骨芽細胞への分化能力を算出し、その値を各被験者の幹細胞の骨芽細胞への分化能力(以下、「骨芽細胞分化能力」と記載する。)として用いた。その結果、骨芽細胞分化能力が1.20より大きい群を高分化能力群、骨芽細胞分化能力が0.85より小さい群を低分化能力群、それ以外を中間群として、被験者172名を高分化能力群51名、中間群52名、低分化能力群69名の3群に分類した。
【0053】
(2)幹細胞の骨芽細胞分化能力の推定に用いる血液検査結果の選抜
幹細胞の骨芽細胞分化能力の推定に用いる血液検査結果の選抜は、以下のように行った。(1)で幹細胞の骨芽細胞分化能力により3群(高分化能力群、中間群、低分化能力群)に分類された被験者について、年齢のみを説明変数としたサポートベクターマシンを推定モデルとしてクラス判別を行い、各群において正しく判別された割合である再現率の平均値である平均再現率を算出した。次に、血液検査結果と年齢の2つを説明変数としたサポートベクターマシンで同様にクラス判別を行い、算出された平均再現率と年齢のみの平均再現率とで比率の差の検定を行い、平均再現率が有意に上昇したものを選抜した。
【0054】
選抜した血液検査結果(説明変数)とその平均再現率を下記表3Aに示す。
【0055】
【表3A】
【0056】
(3)幹細胞の骨芽細胞分化能力の推定精度
骨芽細胞分化能力の推定精度を、各群において自身が属する群に正しく判別される割合である再現率の平均値である平均再現率により評価した。年齢のみを説明変数とした判別結果を表3Bに、年齢及び1種の血液検査結果(例、平均赤血球容積(MCV))を説明変数とした判別結果を表3Cに、年齢及び2種以上の血液検査結果(例、表3Aの全種)を説明変数とした判別結果を表3Dに示す。
【0057】
【表3B】
【0058】
【表3C】
【0059】
【表3D】
【0060】
表3Cに示されるように、年齢のみ(表3B)と比較して、血液検査結果の1種を説明変数に加えることで、分化能力の推定精度が顕著に増加した。また、表3Dに示されるように、年齢のみ(表3B)と比較して、血液検査結果の2種以上を説明変数に加えることで、分化能力の推定精度がさらに顕著に増加した。
【0061】
以上の結果から、年齢と、平均赤血球容積(MCV)、総ビリルビン(T-Bil)、アミラーゼ(AMY)、尿素窒素(BUN)、平均赤血球色素量(MCH)、ALT(GPT)、白血球数(WBC)、AST(GOT)、ヘマトクリット値(Ht)、及びアルカリフォスファターゼ(ALP)から成る群より選択される1種又は2種以上との組み合わせによって、骨芽細胞分化能力を高い精度で推定できることが証明された。
【0062】
(実施例4)血液検査結果による幹細胞の軟骨細胞への分化能力の推定
(1)軟骨細胞への分化能力の算出
被験者からの皮下脂肪組織由来幹細胞の分離は実施例1(1)に記載の方法に従って、また、被験者の血液検査は実施例1(2)と同様にして行った。
各被験者の幹細胞とUE7T-13(コントロール)を、軟骨細胞誘導用培地(TOYOBO社製)にて、37℃、5%COの条件で14日間培養し、軟骨細胞への分化誘導を行った。培地は3日毎に新鮮な軟骨細胞誘導用培地に交換した。分化誘導後、プロテインキナーゼにより軟骨細胞を溶解し、DNA定量キット(コスモバイオ社製)によりDNA量を定量するとともにBlyscan Glycosaminoglycan Assay Kit(バイオカラー社製)によりグリコサミノグリカン量を測定し、DNA量当たりのグリコサミノグリカン量を求めた。尚、コントロールとして用いたUE7T-13のグルコサミノグリカン量を1.0とし、これに対し、各被験者から採取された幹細胞の軟骨細胞への分化能を算出し、その値を各被験者の幹細胞の軟骨細胞への分化能力(以下、「軟骨細胞分化能力」と記載する。)として用いた。その結果、軟骨細胞分化能力が1.35より大きい群を高分化能力群、軟骨細胞分化能力が1.16より小さい群を低分化能力群、それ以外を中間群として、被験者171名を高分化能力群60名、中間群54名、低分化能力群57名の3群に分類した。
【0063】
(2)幹細胞の軟骨細胞分化能力の推定に用いる血液検査結果の選抜
幹細胞の軟骨細胞分化能力の推定に用いる血液検査結果の選抜は、以下のように行った。(1)で幹細胞の軟骨細胞分化能力により3群(高分化能力群、中間群、低分化能力群)に分類された被験者について、年齢のみを説明変数としたサポートベクターマシンを推定モデルとしてクラス判別を行い、各群において正しく判別された割合である再現率の平均値である平均再現率を算出した。次に、血液検査結果と年齢の2つを説明変数としたサポートベクターマシンで同様にクラス判別を行い、算出された平均再現率と年齢のみの平均再現率とで比率の差の検定を行い、平均再現率が有意に上昇したものを選抜した。
【0064】
選抜した血液検査結果(説明変数)とその平均再現率を下記表4Aに示す。
【0065】
【表4A】
【0066】
(3)幹細胞の軟骨細胞分化能力の推定精度
軟骨細胞能力の推定精度を、各群において自身が属する群に正しく判別される割合である再現率の平均値である平均再現率により評価した。年齢のみを説明変数とした判別結果を表4Bに、年齢及び1種の血液検査結果(例、ヘマトクリット値(Ht))を説明変数とした判別結果を表4Cに、年齢及び2種以上の血液検査結果(例、表4Aの全種)を説明変数とした判別結果を表4Dに示す。
【0067】
【表4B】
【0068】
【表4C】
【0069】
【表4D】
【0070】
表4Cに示されるように、年齢のみ(表4B)と比較して、血液検査結果の1種を説明変数に加えることで、分化能力の推定精度が顕著に増加した。また、表4Dに示されるように、年齢のみ(表4B)と比較して、血液検査結果の2種以上を説明変数に加えることで、分化能力の推定精度がさらに顕著に増加した。
【0071】
以上の結果から、年齢と、ヘマトクリット値(Ht)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、カリウム(K)、ALT(GPT)、アミラーゼ(AMY)、ナトリウム(Na)、AST(GOT)、平均赤血球色素濃度(MCHC)、血色素量(Hb)、及びクロール(CL)から成る群より選択される1種又は2種以上との組み合わせによって、軟骨細胞分化能力を高い精度で推定できることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の方法によれば、幹細胞の能力を簡便、迅速、かつ正確に推定することができる。よって、本発明は、幹細胞を用いた再生医療材料・再生美容材料の製造分野及び基礎研究応用において利用できる。