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特許7128480エフェクター型制御性T細胞の検出方法、エフェクター型制御性T細胞の分析装置、エフェクター型制御性T細胞の分析システム、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】エフェクター型制御性T細胞の検出方法、エフェクター型制御性T細胞の分析装置、エフェクター型制御性T細胞の分析システム、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20220824BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220824BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220824BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
G01N33/49 A
G01N33/49 K
G01N33/53 Y
C12M1/34 A
C12Q1/06
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2019512528
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018015094
(87)【国際公開番号】W WO2018190340
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017080955
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100203862
【弁理士】
【氏名又は名称】西谷 香代子
(72)【発明者】
【氏名】西川 博嘉
(72)【発明者】
【氏名】小林 民代
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532865(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010114(WO,A1)
【文献】特表2009-508089(JP,A)
【文献】国際公開第2016/102070(WO,A1)
【文献】西川博嘉,大腸癌の新規免疫学的分類に基づくがん免疫治療の選択的適応の基準,科学研究費助成事業,日本,2016年06月10日,第1-6頁
【文献】HIRAHARA, K. ET AL,The Majority of Human Peripheral Blood CD 4+ CD 25hlgh Foxp3+ Regulatory T Cells Bear Functional Skin-Homing Receptors,JOURNAL OF IMMUNOLOGY,Vol. 177,Pages 4488 - 4494,DOI: 10.4049/jimmunol.177.7.4488
【文献】WARD, S. T. ET AL,A method for conducting suppression assays using small numbers of tissue-isolated regulatory T cells, METHODSX,2014年01月01日,Vol. 1,Pages 168 - 174,DOI: 10.1016/j.mex.2014.08.012
【文献】SANTEGOETS SASKIA J ET AL,Monitoring regulatory T cells in clinical samples: consensus on an essential marker set and gating strategy for regulatory T cell analysis by flow cytometry,CANCER IMMUNOLOGY, IMMUNOTHERAPY,2015年06月28日,vol. 64, no. 10, pages 1271 - 1286, doi:10.1007/S00262-015-1729-X
【文献】SCHMIDT ANGELIKA ET AL,Analysis of FOXP3+regulatory T cell subpopulations in peripheral blood and tissue of patients with systemic lupus erythematosus,IMMUNOLOGIC RESEARCH,2017年02月21日,vol. 65, no. 2,pages 551 - 563,doi:10.1007/S12026-017-8904-4
【文献】HIROKO FUJII ET AL,Regulatory T Cells in Melanoma Revisited by a Computational Clustering of FOXP3 + T Cell Subpopulations,THE JOURNAL OF IMMUNOLOGY,2016年02月10日,vol. 196, no. 6,pages 2885 - 2892,doi:10.4049/jimmunol.1402695
【文献】W.Sun ET AL,CD45RA-Foxp3high but not CD45RA+Foxp3low suppressive T regulatory cells increased in the peripheral circulation of patients with head and neck squamous cell carcinoma and correlated with tumor progression,J. Experim. Clin. Cancer Res.,2014年12月31日,vol. 33-35,pages 1 - 10,www.jeccr.biomedcentral.com/articles/10.1186/1756-9966-33-35,doi:10.1109/TPEL.2011.2179121
【文献】MAKOTO MIYARA ET AL,Functional Delineation and Differentiation Dynamics of Human CD4+ T Cells Expressing the FoxP3 Transcription Factor, IMMUNITY,2009年06月01日,vol. 30, no. 6,doi:10.1016/j.immuni.2009.03.019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12M 1/34
C12Q 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の検出方法であって、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を測定し、
前記コントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定し、
前記生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出し、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記FOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、57%以上72%以下となるように設定される、エフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項2】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の検出方法であって、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を測定し、
前記コントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定し、
前記生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出し、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記FOXP3陽性T細胞の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が、1.35以上2.48以下となるように設定される、エフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項3】
前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD4陽性T細胞の集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラムに展開した場合に、前記ヒストグラムにおけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、前記FOXP3陽性T細胞の集団として特定する、請求項1または2に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項4】
前記ヒストグラムにおける前記FOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、前記近似曲線が前記軸とFOXP3量の高値側で交差する点を前記終了点に設定する、請求項3に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項5】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の検出方法であって、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を測定し、
前記コントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定し、
前記生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出し、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD45RA陰性の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、62%以上72%以下となるように設定される、エフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項6】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の検出方法であって、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を測定し、
前記コントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定し、
前記生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出し、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD45RA陰性の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が1.62以上2.47以下となるように設定される、エフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項7】
前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD4陽性T細胞の集団から、CD45RA量がCD45RA陰性側とCD45RA陽性側とを分画する分画値より小さい集団を抽出し、抽出した前記集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラムに展開した場合に、前記ヒストグラムにおけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、前記CD45RA陰性の集団として特定する、請求項5または6に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項8】
前記ヒストグラムにおける前記FOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、前記近似曲線が前記軸とFOXP3量の高値側で交差する点を前記終了点に設定する、請求項に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項9】
一の前記生体試料の測定ごとに前記コントロール試料の測定を行って前記基準値を取得し、取得した前記基準値を、前記一の生体試料の測定における前記エフェクター型制御性T細胞の検出に用いる、請求項1ないし8の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項10】
複数の前記生体試料の測定ごとに前記コントロール試料の測定を行って前記基準値を取得し、取得した前記基準値を、前記複数の生体試料の各測定における前記エフェクター型制御性T細胞の検出に用いる、請求項1ないし8の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項11】
前記生体試料の前記測定結果に基づき、CD45RA陰性、かつ、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出する、請求項1ないし10の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項12】
前記生体試料の前記測定結果に基づいて、単一の生きたリンパ球の集団を抽出し、
抽出した前記リンパ球の集団からCD3陽性細胞の集団を抽出し、
抽出した前記CD3陽性細胞の集団からCD4陽性細胞の集団を抽出し、
抽出した前記CD4陽性細胞の集団のうち、CD45RA陰性、かつ、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出する、請求項11に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項13】
前記コントロール試料は、健康人の末梢血または健康人の末梢血から精製された末梢血単核球細胞を含む試料である、請求項1ないし12の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の検出方法。
【請求項14】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の分析装置であって、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定するための測定部と、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
前記CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する制御部と、を備え、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記FOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、57%以上72%以下となるように設定されている、エフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項15】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の分析装置であって、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定するための測定部と、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
前記CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する制御部と、を備え、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記FOXP3陽性T細胞の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が、1.35以上2.48以下となるように設定されている、エフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD4陽性T細胞の集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラムに展開した場合に、前記ヒストグラムにおけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、前記FOXP3陽性T細胞の集団として特定する、請求項15に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記ヒストグラムにおける前記FOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、前記近似曲線が前記軸とFOXP3量の高値側で交差する点を前記終了点に設定する、請求項16に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項18】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の分析装置であって、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定するための測定部と、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を抽出し、抽出した前記CD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
前記CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する制御部と、を備え、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD45RA陰性の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、62%以上72%以下となるように設定されている、エフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項19】
フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の分析装置であって、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定するための測定部と、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を抽出し、抽出した前記CD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し、
前記CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を前記測定部が測定した測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する制御部と、を備え、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD45RA陰性の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が1.62以上2.47以下となるように設定されている、エフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD4陽性T細胞の集団から、CD45RA量がCD45RA陰性側とCD45RA陽性側とを分画する分画値より小さい集団を抽出し、抽出した前記集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラムに展開した場合に、前記ヒストグラムにおけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、前記CD45RA陰性の集団として特定する、請求項18または19に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項21】
前記制御部は、前記ヒストグラムにおける前記FOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、前記近似曲線が前記軸とFOXP3量の高値側で交差する点を前記終了点に設定する、請求項20に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項22】
前記測定部は、一の前記生体試料の測定ごとに前記コントロール試料の測定を行い、
前記制御部は、前記基準値を前記一の生体試料の分析における前記エフェクター型制御性T細胞の検出に適用する、請求項14ないし21の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項23】
前記測定部は、複数の前記生体試料の測定ごとに前記コントロール試料の測定を行い、
前記制御部は、前記基準値を前記複数の生体試料の各分析における前記エフェクター型制御性T細胞の検出に適用する、請求項14ないし21の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項24】
前記制御部は、前記生体試料の前記測定結果に基づき、CD45RA陰性、かつ、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出する、請求項14ないし23の何れか一項に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項25】
前記制御部は、前記生体試料の前記測定結果に基づいて、単一の生きたリンパ球の集団を抽出し、
抽出した前記リンパ球の集団からCD3陽性細胞の集団を抽出し、
抽出した前記CD3陽性細胞の集団からCD4陽性細胞の集団を抽出し、
抽出した前記CD4陽性細胞の集団のうち、CD45RA陰性、かつ、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出する、請求項24に記載のエフェクター型制御性T細胞の分析装置。
【請求項26】
請求項14ないし25の何れか一項に記載の分析装置と、
前記コントロール試料および前記生体試料の被検物質を蛍光標識する標識装置と、を備える、エフェクター型制御性T細胞の分析システム。
【請求項27】
エフェクター型制御性T細胞を分析するフローサイトメータのコンピュータに、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得する機能と、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する機能と、を実行させ、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記FOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、57%以上72%以下となるように設定されている、プログラム。
【請求項28】
エフェクター型制御性T細胞を分析するフローサイトメータのコンピュータに、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得する機能と、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する機能と、を実行させ、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記FOXP3陽性T細胞の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が、1.35以上2.48以下となるように設定されている、プログラム。
【請求項29】
エフェクター型制御性T細胞を分析するフローサイトメータのコンピュータに、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得する機能と、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する機能と、を実行させ、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD45RA陰性の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、62%以上72%以下となるように設定されている、プログラム。
【請求項30】
エフェクター型制御性T細胞を分析するフローサイトメータのコンピュータに、
CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得する機能と、
CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する機能と、を実行させ、
前記比は、前記コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られた前記CD45RA陰性の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が1.62以上2.47以下となるように設定されている、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エフェクター型制御性T細胞の検出方法、エフェクター型制御性T細胞の分析装置、エフェクター型制御性T細胞の分析システム、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
CD4陽性の制御性T細胞(Treg)は、免疫応答抑制の中心的役割を担うT細胞である。CD4陽性T細胞のうち、IL-2レセプターα鎖であるCD25と、制御性T細胞の転写因子FOXP3とを発現したT細胞が、制御性T細胞として定義されている。さらに、制御性T細胞は、CD45RAの発現量とFOXP3の発現量とによって、ナイーブ型、エフェクター型および免疫抑制活性を持たないタイプ(非活性型)に分類される。このうち、エフェクター型制御性T細胞(eTreg)は、強い免疫抑制活性を有し、抗がん免疫の誘導に深く関与していることが知られている。このため、自己免疫や抗がん免疫等の分野において、エフェクター型制御性T細胞のさらなる分析が期待されている。
【0003】
以下の非特許文献1には、フローサイトメータを用いた解析によって、制御性T細胞を、ナイーブ型、エフェクター型および非活性型に分類可能であることが記載されている。ここでは、CD45RAとFOXP3とがそれぞれ蛍光標識され、フローサイトメータによる検出結果から、図21に示すスキャッタグラムが構成される。このスキャッタグラムにおいて、領域401、402、403に含まれる制御性T細胞が、それぞれ、ナイーブ型、エフェクター型および非活性型に分類される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hiroyoshi Nishikawa、外1名、"RegulatoryT cells in cancer immunotherapy"、Current Opinion in Immunology、2014年、Volume 27、p. 1―7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、試料によっては、ナイーブ型、エフェクター型および非活性型の領域が不明確となっており、これら領域の境界を適正に設定できない場合がある。したがって、このような試料については、エフェクター型制御性T細胞を精度良く検出できなかった。
【0006】
かかる課題に鑑み、本発明は、エフェクター型制御性T細胞を精度良く検出可能なエフェクター型制御性T細胞の検出方法、エフェクター型制御性T細胞の分析装置、エフェクター型制御性T細胞の分析システム、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の検出方法に関する。本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を測定し、コントロール試料の測定結果に基き、CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し(S13)、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定し(S22)、生体試料の測定結果に基づき、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する(S23)。比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたFOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、57%以上72%以下となるように設定される。あるいは、比は、コントロール試料の前記測定結果に基づいて得られたFOXP3陽性T細胞の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が、1.35以上2.48以下となるように設定される。
【0008】
コントロール試料とは、生体試料の測定に用いる基準値を取得するために測定される試料であって、たとえば、健康人と同等の末梢血単核球細胞の集団を含む。コントロール試料とは、健康人の末梢血そのものや、健康人の末梢血から密度勾配法により精製した末梢血単核球細胞を含む試料などを広く含むものである。FOXP3量とは、細胞にFOXP3がどの程度含まれているかを示す値のことである。健康人とは、特定の慢性疾患に罹患しておらず、日常生活に支障のない人のことである。
【0009】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法によれば、コントロール試料を測定して得たFOXP3陽性T細胞の集団を所定の比で分割することにより基準値が設定されるため、基準値を画一的に設定できる。また、コントロール試料を用いることにより、以下の実施形態に示すように、測定環境が変化しても基準値を適正に設定できる。さらに、予めコントロール試料を測定して基準値が取得されるため、測定環境に応じた基準値を生体試料の測定時の基準値として設定できる。このように、本態様に係る検出方法によれば、生体試料の測定時に用いる基準値を、画一的かつ適正に設定できるため、エフェクター型制御性T細胞を高精度かつ安定的に検出できる。また、上記のように比を設定することにより、以下の実施形態に示すように、基準値を適正に設定できる。
【0010】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、一の生体試料の測定ごとにコントロール試料の測定を行って基準値を取得し、取得した基準値を、一の生体試料の測定におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に用いる。こうすると、生体試料の測定ごとに基準値が設定されるため、生体試料測定時の測定環境に適合した基準値を設定できる。よって、エフェクター型制御性T細胞の検出精度を高めることができる。
【0011】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、複数の生体試料の測定ごとにコントロール試料の測定を行って基準値を取得し、取得した基準値を、複数の生体試料の各測定におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に用いる。こうすると、コントロール試料の測定頻度を減らすことができるため、生体試料の測定効率を高めることができる。この方法は、生体試料が装置によって自動で調製および測定される場合のように、複数の生体試料が均一な条件で調製および測定され得る場合に特に有効なものである。なお、試薬のロットが変わるタイミングにおいては、試薬の状態が変わり得るため、生体試料が装置によって自動で調製および測定される場合であっても、再度、コントロール試料によって基準値を設定することが好ましい。
【0015】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD4陽性T細胞の集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラム(71)に展開した場合に、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、FOXP3陽性T細胞の集団として特定する(S107)。こうすると、FOXP3陽性T細胞の集団を適正に特定できる。
【0016】
この場合に、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、近似曲線が軸とFOXP3量の高値側で交差する点を終了点に設定する。こうすると、終了点を画一的に設定できる。
【0017】
あるいは、エフェクター型制御性T細胞の検出方法において、CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料を測定し、前記コントロール試料の測定結果に基づき、前記CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定において用いる基準値として取得し(S108)、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料を測定し(S22)、前記生体試料の測定結果に基づき、前記基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出してもよい(S23)。この場合、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD45RA陰性の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、62%以上72%以下となるように設定される。あるいは、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD45RA陰性の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が1.62以上2.47以下となるように設定される。この方法では、基準値の取得においてノイズとなる細胞が除去されるため、基準値の精度をより高めることができる。
【0020】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD4陽性T細胞の集団から、CD45RA量がCD45RA陰性側とCD45RA陽性側とを分画する分画値より小さい集団を抽出し(S111)、抽出した集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラム(71)に展開した場合に、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、CD45RA陰性の集団として特定する(S107)。こうすると、FOXP3陽性T細胞の集団を適正に特定できる。
【0021】
この場合に、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、近似曲線が軸とFOXP3量の高値側で交差する点を終了点に設定する。こうすると、終了点を画一的に設定できる。
【0022】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、生体試料の測定結果に基づき、CD45RA陰性、かつ、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出する。こうすると、エフェクター型制御性T細胞を高精度に検出できる。
【0023】
この場合に、生体試料の測定結果に基づいて、単一の生きたリンパ球の集団を抽出し(S201~S203)、抽出したリンパ球の集団からCD3陽性細胞の集団を抽出し(S204)、抽出したCD3陽性細胞の集団からCD4陽性細胞の集団を抽出し(S205)、抽出したCD4陽性細胞の集団のうち、CD45RA陰性、かつ、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出する(S206)。
【0024】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の検出方法において、コントロール試料は、健康人の末梢血または健康人の末梢血から精製された末梢血単核球細胞を含む試料である。
【0025】
本発明の第2の態様は、フローサイトメトリー法を用いたエフェクター型制御性T細胞の分析装置に関する。本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)は、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料(102)を測定するための測定部(200)と、CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料(101)を測定部(200)が測定した測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料(102)の測定において用いる基準値として取得し、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料(102)を測定部(200)が測定した測定結果に基づき、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団から、エフェクター型制御性T細胞を検出する制御部(310)と、を備える。比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたFOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、57%以上72%以下となるように設定されている。あるいは、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたFOXP3陽性T細胞の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が、1.35以上2.48以下となるように設定されてもよい。
【0026】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)によれば、第1の態様と同様の効果が奏される。
【0027】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)において、測定部(200)は、一の生体試料(102)の測定ごとにコントロール試料(101)の測定を行い、制御部(310)は、基準値を一の生体試料(102)の分析におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に適用するよう構成され得る。
【0028】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)において、測定部(200)は、複数の生体試料(102)の測定ごとにコントロール試料(101)の測定を行い、制御部(310)は、基準値を複数の生体試料(102)の各分析におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に適用するよう構成され得る。
【0030】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)において、制御部(310)は、コントロール試料(101)の測定結果に基づいて得られたCD4陽性T細胞の集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラム(71)に展開した場合に、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、FOXP3陽性T細胞の集団として特定するよう構成され得る。
【0031】
また、制御部(310)は、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、近似曲線が軸とFOXP3量の高値側で交差する点を終了点に設定するよう構成され得る。
【0032】
あるいは、エフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)は、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料(102)を測定するための測定部(200)と、CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料(101)を測定部(200)が測定した測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を抽出し、抽出した前記CD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料(102)の測定において用いる基準値として取得し、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料(102)を測定部(200)が測定した測定結果に基づき、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団から、エフェクター型制御性T細胞を検出する制御部(310)と、を備えてもよい。この場合、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD45RA陰性の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、62%以上72%以下となるように設定される。あるいは、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD45RA陰性の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が1.62以上2.47以下となるように設定されてもよい。
【0033】
この場合に、制御部(310)は、コントロール試料(101)の測定結果に基づいて得られたCD4陽性T細胞の集団から、CD45RA量がCD45RA陰性側とCD45RA陽性側とを分画する分画値より小さい集団を抽出し、抽出した集団をFOXP3の量を軸とするヒストグラム(71)に展開した場合に、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、CD45RA陰性の集団として特定するよう構成され得る。
【0034】
また、制御部(310)は、ヒストグラム(71)におけるFOXP3陰性側のピーク波形に近似曲線を適用した場合に、近似曲線が軸とFOXP3量の高値側で交差する点を終了点に設定するよう構成され得る。
【0035】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析装置(120)において、制御部(310)は、生体試料(102)の測定結果に基づき、CD45RA陰性、かつ、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出するよう構成され得る。
【0036】
この場合に、制御部(310)は、生体試料(102)の測定結果に基づいて、単一の生きたリンパ球の集団を抽出し、抽出したリンパ球の集団からCD3陽性細胞の集団を抽出し、抽出したCD3陽性細胞の集団からCD4陽性細胞の集団を抽出し、抽出したCD4陽性細胞の集団のうち、CD45RA陰性、かつ、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団を、エフェクター型制御性T細胞として検出するよう構成され得る。
【0037】
本発明の第3の態様は、エフェクター型制御性T細胞の分析システムに関する。本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析システム(100)は、第2の態様に係る分析装置(120)と、コントロール試料(101)および生体試料(102)の被検物質を蛍光標識する標識装置(110)と、を備える。
【0038】
本態様に係るエフェクター型制御性T細胞の分析システムによれば、第1および第2の態様と同様の効果が奏されるとともに、コントロール試料および生体試料の被検物質を蛍光標識する処理を自動で行うことができる。これにより、複数の試料を均一な条件で調製できる。
【0039】
本発明の第4の態様は、プログラムに関する。本態様に係るプログラム(321)は、エフェクター型制御性T細胞を分析するフローサイトメータのコンピュータに、CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料(101)の測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の全体を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料(102)の測定において用いる基準値として取得する機能と、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料(102)の測定結果に基づき、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する機能と、を実行させる。比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたFOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、57%以上72%以下となるように設定されている。あるいは、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたFOXP3陽性T細胞の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が、1.35以上2.48以下となるように設定されてもよい。
あるいは、プログラム(321)は、エフェクター型制御性T細胞を分析するフローサイトメータのコンピュータに、CD4陽性T細胞の集団を含むコントロール試料(101)の測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるCD45RA陰性の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料(102)の測定において用いる基準値として取得する機能と、CD4陽性T細胞の集団を含む生体試料(102)の測定結果に基づき、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団からエフェクター型制御性T細胞を検出する機能と、を実行させてもよい。この場合、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD45RA陰性の集団の全細胞数におけるFOXP3の量が多い方の細胞の数の割合が、62%以上72%以下となるように設定され得る。あるいは、比は、コントロール試料の測定結果に基づいて得られたCD45RA陰性の集団においてFOXP3の量が少ない方の細胞の数に対するFOXP3の量が多い方の細胞の数の比率が1.62以上2.47以下となるように設定されてもよい。
【0040】
本態様に係るプログラムによれば、第1および第2の態様と同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、エフェクター型制御性T細胞を高精度かつ安定的に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1(a)は、実施形態1に係るコントロール試料を測定して基準値を取得する処理を示すフローチャートである。図1(b)は、実施形態1に係る基準値を取得する処理において展開されるヒストグラムを示す模式図である。図1(c)は、実施形態1に係る生体試料に含まれるエフェクター型制御性T細胞を検出する処理を示すフローチャートである。
図2図2は、実施形態1に係る基準値を取得する処理を詳細に示すフローチャートである。
図3図3(a)は、実施形態1に係る全粒子を含むスキャッタグラムの例示図である。図3(b)~(f)は、それぞれ、実施形態1に係る抽出された単一細胞、生きた細胞、リンパ球、CD3陽性T細胞、およびCD4陽性T細胞を含むスキャッタグラムの例示図である。
図4図4は、実施形態1に係る抽出されたCD4陽性T細胞がFOXP3量を軸として展開されたヒストグラムの例示図である。
図5図5は、実施形態1に係るエフェクター型制御性T細胞を検出する処理を詳細に示すフローチャートである。
図6図6(a)は、実施形態1に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合に生成されたスキャッタグラムである。図6(b)は、実施形態1に係る抽出されたCD4陽性T細胞がCD45RA量を軸として展開されたヒストグラムの模式図である。図6(c)は、実施形態1に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合に抽出されたCD4陽性T細胞がFOXP3量を軸として展開されたヒストグラムである。
図7図7(a)は、実施形態1の検証に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合にスキャッタグラムにおいて目視により設定された境界値を示す図である。図7(b)は、実施形態1の検証に係る生体試料が健康人の末梢血単核球細胞である場合に境界値が設定されたスキャッタグラムである。図7(c)は、実施形態1の検証に係る生体試料が健康人の末梢血単核球細胞である場合に境界値が設定されたヒストグラムを例示する図である。
図8図8(a)~(c)は、実施形態1の検証に係る生体試料が健康人の末梢血単核球細胞である場合に境界値が設定されたヒストグラムである。
図9図9(a)は、実施形態1の検証に係るコントロール試料に基づいて得られたヒストグラムに比率が適用された状態を示す図である。図9(b)は、実施形態1の検証に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合に基準値が設定されたスキャッタグラムである。
図10図10(a)~(f)は、実施形態1の検証に係る比較例のマニュアルによる分画を説明するためのスキャッタグラムである。
図11図11は、実施形態2に係る基準値を取得する処理を詳細に示すフローチャートである。
図12図12(a)は、実施形態2に係るコントロール試料に基づいて抽出されたCD4陽性T細胞を含むスキャッタグラムである。図12(b)は、実施形態2に係るコントロール試料に基づいて抽出されたCD4陽性T細胞がCD45RA量を軸として展開されたヒストグラムである。図12(c)は、実施形態2に係るコントロール試料に基づいて抽出されたCD4陽性T細胞を含むスキャッタグラムにおいて等高線を示す図である。
図13図13(a)は、実施形態2に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合にスキャッタグラムにおいて設定された基準値および分画値を示す図である。図13(b)は、実施形態2に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合に抽出されたCD4陽性T細胞がFOXP3量を軸として展開されたヒストグラムである。
図14図14(a)~(c)は、実施形態2の検証に係る生体試料が健康人の末梢血単核球細胞である場合に境界値が設定されたヒストグラムである。
図15図15(a)は、実施形態2の検証に係るコントロール試料に基づいて得られたヒストグラムに比率が適用された状態を示す図である。図15(b)は、実施形態2の検証に係る生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合に基準値が設定されたスキャッタグラムである。
図16図16(a)は、実施形態3に係るエフェクター型制御性T細胞を検出する処理を詳細に示すフローチャートである。図16(b)は、実施形態3に係るスキャッタグラムにおけるエフェクター型制御性T細胞の領域、ナイーブ型制御性T細胞の領域、および非活性型制御性T細胞の領域を示す図である。
図17図17は、実施形態1~3に係る分析を行うための分析システムの構成を示すブロック図である。
図18図18は、実施形態1~3に係る分析を行うための分析システムにおいて実行される処理を示すフローチャートである。
図19図19は、実施形態1~3に係る分析を行うための分析システムにおいて実行される処理を示すフローチャートである。
図20図20は、実施形態1~3に係る分析を行うための分析システムにおいて表示部に表示される画面の構成を示す図である。
図21図21は、関連技術を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下の実施形態では、コントロール試料を測定して基準値を取得し、取得した基準値を用いて生体試料に含まれるエフェクター型制御性T細胞を検出する。
【0044】
コントロール試料とは、生体試料の測定に用いる基準値を取得するために測定される試料であって、たとえば、健康人と同等の末梢血単核球細胞の集団を含む。コントロール試料とは、健康人の末梢血そのものや、健康人の末梢血から密度勾配法などにより精製した末梢血単核球細胞を含む試料などを広く含むものである。なお、末梢血単核球細胞(PBMC)は、単球とリンパ球を含む。健康人とは、特定の慢性疾患に罹患しておらず、日常生活に支障のない人のことである。生体試料とは、被検者の末梢血単核球細胞からなる試料であり、たとえば、被検者のがん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)を含む試料である。
【0045】
また、以下の実施形態では、便宜上、スキャッタグラムおよびヒストグラムが実際に生成されるものとして説明が行われているが、スキャッタグラムおよびヒストグラムは必ずしも生成されなくてもよい。たとえば、生成されたスキャッタグラムおよびヒストグラムに基づいて処理が行われることに代えて、同等の手順がデータ処理により行われてもよい。
【0046】
<実施形態1>
図1(a)に示すように、コントロール試料を測定して基準値を取得する方法は、ステップS11~S13のステップを含む。図1(a)の説明において、適宜、図1(b)に示すグラフを参照する。図1(c)に示すように、図1(a)の方法で取得した基準値を用いて生体試料に含まれるエフェクター型制御性T細胞(eTreg)を検出する方法は、ステップS21~S23のステップを含む。以下には、オペレータが、装置を用いて、図1(a)、(c)の方法を実行する場合について説明する。なお、図1(a)、(c)の各ステップが、装置により自動で実行されてもよい。図1(a)、(c)の各ステップを行う装置の構成については、図17を参照して説明する。
【0047】
図1(a)を参照して、コントロール試料を測定して基準値を取得する処理について説明する。
【0048】
ステップS11において、オペレータは、コントロール試料の被検物質を蛍光標識する。具体的には、生細胞に比べて死細胞を強く染色する蛍光色素と、表面抗原CD3を染色するための蛍光色素と、表面抗原CD4を染色するための蛍光色素と、表面抗原CD8を染色するための蛍光色素と、表面抗原CD45RAを染色するための蛍光色素と、制御性T細胞(Treg)の転写因子FOXP3を染色するための蛍光色素とにより、それぞれ、コントロール試料に含まれる細胞の対応する被検物質が蛍光標識される。
【0049】
被検物質の蛍光染色は、各蛍光色素をそれぞれ有する標識抗体を被検物質に結合させることにより行われる。たとえば、生細胞に比べて死細胞を強く染色する蛍光色素を有する標識抗体として、Fixable Viability Dye(FVD-eFluor(登録商標) 506)(affymetrix eBioscence)が用いられる。表面抗原CD3を染色するための蛍光色素を有する標識抗体として、anti-human CD3 Alexa Fluor(登録商標) 700(affymetrix eBioscence)が用いられる。表面抗原CD4を染色するための蛍光色素を有する標識抗体として、anti-human CD4 APC-eFluor(登録商標) 780(affymetrix eBioscence)が用いられる。表面抗原CD8を染色するための蛍光色素を有する標識抗体として、anti-human CD8a PE-Cy7(affymetrix eBioscence)が用いられる。表面抗原CD45RAを染色するための蛍光色素を有する標識抗体として、anti-human CD45RA FITC(affymetrix eBioscence)が用いられる。FOXP3を染色するための蛍光色素を有する標識抗体として、anti-human FoxP3 PE(affymetrix eBioscence)が用いられる。
【0050】
ステップS12において、オペレータは、蛍光標識されたコントロール試料を測定する。ステップS12では、フローサイトメトリー法に基づいて、コントロール試料から生じた前方散乱光、側方散乱光、および蛍光に基づく信号が取得される。
【0051】
具体的には、オペレータは、ステップS11において蛍光標識したコントロール試料を、分析装置(フローサイトメータ)の検出部に供給する。検出部は、供給されたコントロール試料をフローセルに流す。検出部は、フローセルを流れるコントロール試料に光を照射する。これにより、コントロール試料に含まれる細胞などの粒子に光が照射され、粒子から前方散乱光と側方散乱光が生じ、各蛍光色素から互いに異なる波長の蛍光が生じる。検出部は、前方散乱光、側方散乱光、および蛍光に基づく信号を出力する。そして、検出部から出力される信号が、粒子ごとの波形状の信号に処理され、波形状の信号から波形のピーク値、面積、幅などの特徴パラメータが取得され、取得された特徴パラメータが測定結果として分析装置の記憶部に記憶される。
【0052】
ステップS13において、オペレータは、ステップS12のコントロール試料の測定結果に基づき、CD4陽性T細胞の集団に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団を所定の比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を、生体試料の測定の際に用いる基準値として取得する。
【0053】
具体的には、分析装置は、ステップS12で取得した信号に基づいて、CD4陽性T細胞を抽出し、抽出したCD4陽性T細胞を、図1(b)に示すように、FOXP3の量を軸とするヒストグラムに展開する。このヒストグラムにおいて、横軸はFOXP3量を示し、縦軸は頻度を示す。FOXP3量とは、細胞にFOXP3がどの程度含まれているかを示す値であり、具体的にはFOXP3を染色する蛍光色素から生じた蛍光の強度のことである。分析装置は、ヒストグラムにおけるFOXP3陰性側のピーク波形の高値側の終了点以上のFOXP3量を有する細胞の集団を、FOXP3陽性T細胞の集団として特定する。
【0054】
続いて、分析装置は、特定したFOXP3陽性T細胞の集団を、あらかじめ記憶部に記憶された比で分割する。すなわち、図1(b)に示すように、分割線の左側および右側に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の数を、それぞれA、Bとすると、A:Bがあらかじめ記憶部に記憶された比となるように、分割線が設定される。そして、分析装置は、FOXP3陽性T細胞の集団が所定の比で分割されるときの分割基準となるFOXP3量を、基準値として取得し、記憶部に記憶する。
【0055】
なお、A、Bは、細胞の個数に限らず、図1(b)に示すようなFOXP3陽性T細胞の集団を示す波形部分において、それぞれ、分割線の左側および右側における波形部分の下側の面積であってもよい。この場合、分割線の左側および右側に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の面積比A:Bが所定の比となるように、分割線が設定される。
【0056】
こうして、コントロール試料を測定して基準値が取得される。このような基準値の取得処理は、被検者から採取された生体試料からエフェクター型制御性T細胞を検出する前に行われる。ステップS13の基準値を取得する工程については、追って図2を参照して詳細に説明する。
【0057】
図1(c)を参照して、取得した基準値を用いて生体試料に含まれるエフェクター型制御性T細胞を検出する処理について説明する。
【0058】
ステップS21において、オペレータは、生体試料の被検物質を蛍光標識する。ステップS21では、図1(a)のステップS11と同様の蛍光色素により、生体試料に含まれる細胞の被検物質が蛍光標識される。ステップS22において、オペレータは、蛍光標識された生体試料を測定する。ステップS22では、図1(a)のステップS12と同様に、分析装置(フローサイトメータ)の検出部により、生体試料から生じた前方散乱光、側方散乱光、および蛍光に基づく信号が取得される。そして、検出部から出力される信号が、粒子ごとの波形状の信号に処理され、波形状の信号から波形のピーク値、面積、幅などの特徴パラメータが取得され、取得された特徴パラメータが測定結果として分析装置の記憶部に記憶される。
【0059】
ステップS23において、オペレータは、ステップS22の生体試料の測定結果に基づき、基準値よりもFOXP3量が多い細胞の集団に基づいてエフェクター型制御性T細胞を検出する。
【0060】
具体的には、分析装置は、ステップS22で取得した信号に基づいて、CD4陽性T細胞を抽出する。分析装置は、図1(a)のステップS13で取得した基準値を記憶部から読み出し、抽出したCD4陽性T細胞から、FOXP3量が基準値よりも多い細胞を抽出する。分析装置は、抽出したFOXP3量が基準値よりも多い細胞のうち、CD45RA陰性の細胞をエフェクター型制御性T細胞として検出する。ステップS23のエフェクター型制御性T細胞を検出する工程については、追って図5を参照して詳細に説明する。なお、抽出したFOXP3量が基準値よりも多い細胞のうち、CD45RA陽性の細胞は一般的に少ないため、CD45RA量による抽出を行わずに、FOXP3量が基準値よりも多い細胞をエフェクター型制御性T細胞として検出してもよい。
【0061】
以上のように、コントロール試料を測定して得たFOXP3陽性T細胞の集団を所定の比で分割することにより基準値が設定されるため、基準値を画一的に設定できる。また、健康人と同等の末梢血単核球細胞の集団を含む試料をコントロール試料として用いることにより、測定環境が変化しても基準値を適正に設定できる。すなわち、試薬の交換、試薬の劣化、環境温度の変化、試薬や試料の調製量の変化といった測定環境の変化が生じても、実施形態1によれば適正な基準値を設定できる。さらに、予めコントロール試料を測定して基準値が取得されるため、測定環境に応じた基準値を生体試料の測定時の基準値として設定できる。このように、生体試料の測定時に用いる基準値を、画一的かつ適正に設定できるため、エフェクター型制御性T細胞を高精度かつ安定的に検出できる。
【0062】
なお、図1(a)に示す基準値の取得処理は、一の生体試料の測定ごとに行われてもよく、複数の生体試料の測定ごとに行われてもよい。
【0063】
すなわち、一の生体試料の測定ごとにコントロール試料の測定を行って基準値を取得し、取得した基準値を一の生体試料の測定におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に用いてもよい。この場合、生体試料の測定ごとに基準値が設定されるため、生体試料測定時の測定環境に適合した基準値を設定でき、エフェクター型制御性T細胞の検出精度を高めることができる。
【0064】
また、複数の生体試料の測定ごとにコントロール試料の測定を行って基準値を取得し、取得した基準値を複数の生体試料の各測定におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に用いてもよい。この場合、コントロール試料の測定頻度を減らすことができるため、生体試料の測定効率を高めることができる。この方法は、生体試料が装置によって自動で調製および測定される場合のように、複数の生体試料が均一な条件で調製および測定され得る場合に特に有効なものである。なお、試薬のロットが変わるタイミングにおいては、試薬の状態が変わり得るため、生体試料が装置によって自動で調製および測定される場合であっても、再度、コントロール試料によって基準値を設定することが好ましい。
【0065】
図2を参照して、基準値を取得する処理について詳細に説明する。以下に示す各ステップでは、図1(a)のステップS12で取得したコントロール試料の測定結果に基づいて処理が行われる。
【0066】
ステップS101において、分析装置は、測定結果に基づいて、図3(a)に示すように、全ての粒子をスキャッタグラム10にプロットし、領域11に含まれる粒子を単一細胞として抽出する。スキャッタグラム10において、横軸は、前方散乱光に基づく信号波形の面積であり、縦軸は、前方散乱光に基づく信号波形の幅である。
【0067】
ステップS102において、分析装置は、図3(b)に示すように、ステップS101で抽出した単一細胞をスキャッタグラム20にプロットし、領域21に含まれる粒子を生きた細胞として抽出する。スキャッタグラム20において、横軸は、前方散乱光に基づく信号波形の面積であり、縦軸は、生細胞に比べて死細胞を強く染色する蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値である。
【0068】
ステップS103において、分析装置は、図3(c)に示すように、ステップS102で抽出した生きた細胞をスキャッタグラム30にプロットし、領域31に含まれる粒子をリンパ球として抽出する。スキャッタグラム30において、横軸は、前方散乱光に基づく信号波形の面積であり、縦軸は、側方散乱光に基づく信号波形の面積である。
【0069】
なお、ステップS101~S103が実行される順序は、図2に示す順に限らない。ステップS101~S103の各ステップは、どのような順序で実行されてもよい。
【0070】
ステップS104において、分析装置は、図3(d)に示すように、ステップS103で抽出したリンパ球をスキャッタグラム40にプロットし、領域41に含まれる粒子をCD3陽性T細胞として抽出する。スキャッタグラム40において、横軸は、表面抗原CD3を染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値であり、縦軸は、側方散乱光に基づく信号波形の面積である。
【0071】
ステップS105において、分析装置は、図3(e)に示すように、ステップS104で抽出したCD3陽性T細胞をスキャッタグラム50にプロットし、領域51に含まれる粒子をCD4陽性T細胞として抽出する。スキャッタグラム50において、横軸は、表面抗原CD4を染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値であり、縦軸は、表面抗原CD8を染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値である。なお、領域52は、CD8陽性T細胞を含む領域である。
【0072】
ステップS105で抽出したCD4陽性T細胞をスキャッタグラム60にプロットすると、たとえば、図3(f)のように粒子が分布する。スキャッタグラム60において、横軸は、FOXP3を染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値であり、縦軸は、表面抗原CD45RAを染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値である。
【0073】
ステップS106において、分析装置は、図4に示すように、ステップS105で抽出したCD4陽性T細胞をヒストグラム71に展開する。ヒストグラム71において、横軸は、FOXP3を染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値であり、縦軸は、頻度である。ヒストグラム71の横軸は、図3(f)のスキャッタグラム60の横軸と同じである。
【0074】
なお、図4に示すヒストグラム71では、約100を上回る頻度については、便宜上省略されている。以降の図に示すヒストグラム71、72においても、同様に、所定の値を上回る頻度については適宜省略される。
【0075】
ステップS107において、分析装置は、ステップS106で展開したヒストグラム71に基づいて、FOXP3陽性T細胞を特定する。
【0076】
具体的には、ヒストグラム71におけるFOXP3陰性側のピーク波形の高値側の終了点のFOXP3量以上のFOXP3量を有する細胞の集団が、FOXP3陽性T細胞として特定される。これにより、FOXP3陽性T細胞の集団を適正に特定できる。
【0077】
この場合の終了点は、ヒストグラム71におけるFOXP3陰性側のピーク波形、すなわち左側の山状の波形に対して近似曲線が適用された場合に、近似曲線がFOXP3量の軸とFOXP3量の高値側で交差する点に設定される。より詳細には、左側の山状の波形の正規分布に対する近似曲線がガウシアンフィッティングにより取得され、近似曲線がFOXP3量の軸と高値側で交差する点が、終了点として設定される。こうすると、終了点を画一的に設定できる。図4には、終了点付近の近似曲線が太い点線により図示されている。
【0078】
ステップS108において、分析装置は、ステップS107で特定したFOXP3陽性T細胞の集団の全体に所定の比を適用し、この比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を基準値として取得する。所定の比は、あらかじめ記憶部に記憶されており、生体試料の測定ごとに記憶部から読み出される。
【0079】
ここで、図1(b)を参照して説明した場合と同様、分割線の左側および右側に含まれるFOXP3陽性T細胞の集団の数を、それぞれA、Bとする。Aは、FOXP3の量が少ない方の細胞の数であり、Bは、FOXP3の量が多い方の細胞の数である。分析装置は、A:Bがあらかじめ記憶部に記憶された比となるように分割線を設定し、分割線が横軸と交差するFOXP3量を、基準値として取得する。
【0080】
実施形態1では、FOXP3の量が少ない方の細胞の数Aに対するFOXP3の量が多い方の細胞の数Bの比率B/Aが、1.35以上2.48以下となるように、比が設定されている。この比は、後述するように、発明者らにより見いだされた普遍的な比である。すなわち、発明者らは、この比に基づけば測定環境等によらず基準値を適正に設定でき、エフェクター型制御性T細胞を精度よく検出できるようになることを見いだした。発明者らが、この比を普遍的なものであると判断した理由については、追って実施形態1の検証において説明する。実施形態1では、比率B/Aは、1.96に設定される。
【0081】
なお、FOXP3の量が多い方の細胞の数Bの、FOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数(A+B)に対する割合B/(A+B)が、57%以上72%以下となるように、比が設定されてもよい。この場合のB/Aの範囲は、B/Aが1.35以上2.48以下に設定される場合とほぼ同じであるため、この場合も基準値を適正に設定できる。
【0082】
図5を参照して、エフェクター型制御性T細胞を検出する処理について詳細に説明する。以下に示す各ステップでは、図1(c)のステップS22で取得した生体試料の測定結果に基づいて処理が行われる。
【0083】
ステップS201において、分析装置は、測定結果に基づいて、図2のステップS101と同様に、全ての粒子をスキャッタグラム10にプロットし、領域11に含まれる粒子を単一細胞として抽出する。ステップS202において、分析装置は、ステップS201で抽出した単一細胞を、図2のステップS102と同様に、スキャッタグラム20にプロットし、領域21に含まれる粒子を生きた細胞として抽出する。ステップS203において、分析装置は、ステップS202で抽出した生きた細胞を、図2のステップS103と同様に、スキャッタグラム30にプロットし、領域31に含まれる粒子をリンパ球として抽出する。
【0084】
なお、ステップS201~S203が実行される順序は、図5に示す順に限らない。ステップS201~S203の各ステップは、どのような順序で実行されてもよい。
【0085】
ステップS204において、分析装置は、ステップS203において抽出したリンパ球を、図2のステップS104と同様に、スキャッタグラム40にプロットし、領域41に含まれる粒子をCD3陽性T細胞として抽出する。ステップS205において、分析装置は、ステップS204において抽出したCD3陽性T細胞を、図2のステップS105と同様に、スキャッタグラム50にプロットし、領域51に含まれる粒子をCD4陽性T細胞として抽出する。
【0086】
ステップS206において、分析装置は、CD45RA陰性、かつ、基準値よりもFOXP3量が大きい細胞をエフェクター型制御性T細胞として検出する。
【0087】
具体的には、分析装置は、図6(a)に示すように、ステップS205において抽出したCD4陽性T細胞をスキャッタグラム60に展開する。スキャッタグラム60の軸は、図3(f)に示したスキャッタグラム60と同様に設定されている。すなわち、横軸は、FOXP3を染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値であり、縦軸は、表面抗原CD45RAを染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値である。なお、図6(a)のスキャッタグラム60は、生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)である場合に生成されたスキャッタグラムである。
【0088】
分析装置は、スキャッタグラム60において、横軸の値が基準値となる縦方向に延びる直線と、縦軸の値が分画値となる横方向に延びる直線とを設定する。ここで用いる基準値は、図2のステップS108で取得した基準値である。分画値は、図6(b)に示すヒストグラム72に基づいて取得される。
【0089】
図6(b)のヒストグラム72は、図6(a)のスキャッタグラム60の全細胞を展開したヒストグラムの模式図である。ヒストグラム72において、横軸は、表面抗原CD45RAを染色するための蛍光色素から生じた蛍光に基づく信号波形のピーク値であり、縦軸は、頻度である。ヒストグラム72の横軸は、スキャッタグラム60の縦軸に対応する。分析装置は、CD45RA陰性側のピーク波形とCD45RA陽性側のピーク波形との間で頻度が最小となるときのCD45RA量を分画値として設定する。分画値よりもCD45RA量が小さい細胞は、CD45RA陰性の細胞であり、分画値よりもCD45RA量が大きい細胞は、CD45RA陽性の細胞である。
【0090】
図6(a)に示すスキャッタグラム60において、領域61は、図2のステップS108で取得した基準値よりも大きく、図6(b)のヒストグラム72に基づいて取得した分画値よりも小さい領域である。ステップS206において、分析装置は、スキャッタグラム60の領域61に含まれる細胞をエフェクター型制御性T細胞として検出する。このように、領域61の細胞をエフェクター型制御性T細胞として検出すると、エフェクター型制御性T細胞を高精度に検出できる。
【0091】
図6(c)のヒストグラム71は、図6(a)のスキャッタグラム60に分布する全細胞を展開したものである。図6(c)のヒストグラム71の軸は、図4に示すヒストグラム71と同様に設定されている。図6(a)、(c)に示す例では、基準値よりもFOXP3量の大きい細胞がCD4陽性T細胞全体に占める割合は、12.4%である。図6(a)、(c)に示すように、生体試料が胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)である場合でも、領域61内の細胞をエフェクター型制御性T細胞として精度よく検出できることが分かる。
【0092】
なお、図6(a)に示すように、領域61の真上に存在するCD45RA陽性細胞の数は少ない。したがって、ステップS206において、分析装置は、CD4陽性T細胞のうち、基準値よりもFOXP3量が大きい細胞をエフェクター型制御性T細胞として検出してもよい。この場合、生体試料の測定において、表面抗原CD45RAを染色するための蛍光色素から生じる蛍光の測定を省略できる。
【0093】
ステップS207において、分析装置は、ステップS206で検出したエフェクター型制御性T細胞に関する情報を表示部に表示する。ステップS207では、たとえば、エフェクター型制御性T細胞の数、エフェクター型制御性T細胞がCD4陽性T細胞全体に占める割合や、エフェクター型制御性T細胞が基準値よりもFOXP3量の大きい細胞に占める割合、などが表示される。
【0094】
<実施形態1の検証>
次に、発明者らが、測定環境等によらず普遍的な比率B/Aを見いだした経緯について説明する。
【0095】
以下に示す検証において、発明者らは、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)に基づく試料、および、健康人の末梢血単核球細胞に基づく試料を、以下に示す手順で調製した。
【0096】
発明者らは、最初に死細胞を除去するために、FVD(Fixable Viability Dye)にて10~15分間染色反応を行った。その後、発明者らは、洗浄することなしに、次に加える抗体の非特異結合を最小限にするために、Fc block(BD Fc Block(登録商標) Reagent for human)(BD Bioscience)を加え、4℃にて10~20分間反応させた。その後、発明者らは、細胞表面の抗原染色のために、抗ヒトCD3、CD4、CD8a、CD45RA抗体を加え、さらに抗体反応を30分間行った。これらの抗体は、それぞれ、anti-humanCD3 Alexa Fluor(登録商標) 700(affymetrixe Bioscence)、anti-human CD4 APC-eFluor(登録商標) 780(affymetrix eBioscence)、anti-human CD8a PE-Cy7(affymetrix eBioscence)、anti-human CD45RA FITC(affymetrix eBioscence)である。
【0097】
続いて、発明者らは、2%FBSを含むPBS(-)にて洗浄後、細胞内を染色するために、FoxP3/Transcription Factor Staining Buffer Set(affymetrix eBioscience)を用いて、細胞固定および膜透過処理を30~60分間行った。さらに洗浄後、発明者らは、細胞内を染色するために、抗FoxP3抗体反応を30~60分間行った。そして、洗浄後、発明者らは、フローサイトメータ「CyFlow Space」(シスメックス株式会社製)によりマルチカラー測定を行った。
【0098】
発明者らは、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)に基づく試料を測定し、図5のステップS201~S205と同様の手順を行って、CD4陽性T細胞の抽出を行った。図7(a)は、TILから抽出されたCD4陽性T細胞が展開されたスキャッタグラム60を示す図である。発明者らは、図7(a)に示すスキャッタグラム60において、エフェクター型制御性T細胞とそれ以外の細胞とを区分する境界値を、目視により取得した。このとき、発明者らは、図7(a)に例示するようにエフェクター型制御性T細胞とそれ以外の細胞とを容易に区別できるTILを用いて、境界値の取得を行った。
【0099】
続いて、発明者らは、同じバッチにおいて、健康人の末梢血単核球細胞に基づく試料を測定し、図5のステップS201~S205と同様の手順を行って、CD4陽性T細胞の抽出およびヒストグラム71の生成を行った。なお、複数の測定が同一のバッチで行われる場合、各測定における測定環境はほぼ同じとなる。同一のバッチにおいては、たとえば、試薬のロット、試薬の劣化状況、環境温度、試薬や試料の調製量などが、各測定において互いにほぼ同じとなる。
【0100】
図7(b)、(c)は、それぞれ、健康人の末梢血単核球細胞から抽出されたCD4陽性T細胞が展開されたスキャッタグラム60およびヒストグラム71を示す図である。図7(b)、(c)には、図7(a)で取得した境界値が適用された状態が示されている。
【0101】
図7(c)において、発明者らは、図4を参照して説明した手順と同様にして、FOXP3陰性側のピーク波形に基づいて終了点を設定した。そして、発明者らは、終了点と境界値との間の細胞の数をAとし、境界値よりもFOXP3量が大きい細胞の数をBとして、比率B/Aを取得した。
【0102】
発明者らは、上記のようにTILおよび健康人の末梢血単核球細胞に基づいて比率B/Aを取得する手順を、異なるTILおよび健康人の末梢血単核球細胞に基づいて13回繰り返した。図8(a)~(c)は、これら13回の手順のうち、3つの手順において生成されたヒストグラム71を示す図である。
【0103】
13回の手順により13個の生体試料(サンプル1~13)に基づいて取得された比率B/A、平均値、および標準偏差SDは、以下の表1に示すとおりである。なお、図8(a)~(c)に示す生体試料は、それぞれ、サンプル2、3、6に該当する。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、13個の生体試料から取得した比率B/Aにおいて、最小値は1.35であり、最大値は2.48となった。また、13個の生体試料から取得した比率B/Aの平均は1.96となり、標準偏差は0.31と極めて小さい値となった。このように、発明者らは、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)から取得した境界値を、健康人の末梢血単核球細胞に適用して比率B/Aを取得した場合、取得される比率B/Aのばらつきが小さくなること、すなわちほぼ同じ比率B/Aが得られることを見いだした。また、比率B/Aが最小値の1.35以上最大値の2.48以下となるように境界値を設定すれば、境界値よりもFOXP3量が多い細胞をエフェクター型制御性T細胞と判定できることが示唆された。
【0106】
次に、発明者らは、比率B/Aを表1から得られた平均値1.96に設定した場合に、健康人の末梢血単核球細胞からなる生体試料に基づいて、図2と同様の工程により基準値を取得した。
【0107】
図9(a)は、この手順により得られたヒストグラム71である。発明者らは、図9(a)に示すように、比率B/Aが1.96となるように基準値を取得した。発明者らは、こうして得た基準値を、図9(b)に示すように、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球に基づいて得られたスキャッタグラム60に適用した。図9(b)に示すように、こうして得られた基準値によれば、生体試料が胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合でも、FOXP3陰性の細胞の集団とFOXP3陽性の細胞の集団とを適正に分画できる。すなわち、上記のように設定した比率B/Aに基づいて基準値を取得すれば、がん患者から採取される生体試料からエフェクター型制御性T細胞を適正に検出できることが分かった。
【0108】
以上のような理由により、実施形態1では、1.35以上2.48以下、特に1.96となる比率B/Aが、あらかじめ記憶部に記憶され、コントロール試料に基づいて基準値を取得する工程において用いられる。
【0109】
次に、発明者らは、比率B/Aを1.96として、被検者の末梢血単核球細胞からなる8個の生体試料に対して、実施形態1の手法および比較例の手法に基づいて、エフェクター型制御性T細胞の検出精度を比較した。比較例では、スキャッタグラム60において、発明者らがマニュアルによりエフェクター型制御性T細胞の領域を分画して検出を行った。以下、図10(a)~(f)を参照して、比較例において発明者らが行ったマニュアルによる分画について説明する。
【0110】
図10(a)に示すように、まず、CD4陽性T細胞を展開したスキャッタグラム60において、右上領域の少数の細胞を省くための領域81が設定される。そして、図10(b)に示すように、領域81の左端から下方向に境界線82が設定される。次に、図10(c)に示すように、右下に分布する細胞群の左端付近に境界線83が設定される。そして、図10(d)に示すように、境界線83が上方向に延長される。次に、図10(e)に示すように、CD45RA陰性とCD45RA陽性とを分画するために、横方向に延びた境界線84が設定される。最後に、図10(f)に示すように、境界線82、83、84に基づいて、領域60a、60b、60cが設定される。領域60a、60b、60cは、それぞれ、ナイーブ型、エフェクター型および非活性型の制御性T細胞に対応する領域となる。比較例では、領域60bに含まれる細胞が、エフェクター型制御性T細胞として検出される。
【0111】
以下の表2には、実施形態1および比較例の場合に、それぞれ検出されたエフェクター型制御性T細胞のCD4陽性T細胞に対する割合が示されている。被検者の末梢血単核球細胞からなる8つの生体試料は、サンプル14~21である。また、表2には、実施形態1の場合の平均および標準偏差SDと、比較例の場合の平均および標準偏差SDとが示されている。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すように、エフェクター型制御性T細胞の割合については、実施形態1および比較例において、ほぼ同じ値となった。一方、標準偏差については、実施形態1のほうが比較例に比べて小さい値となった。以上のことから、実施形態1によれば、比較例と同等にエフェクター型制御性T細胞を検出でき、さらに比較例よりもエフェクター型制御性T細胞の検出割合のばらつきが抑制されることが分かった。
【0114】
<実施形態2>
基準値の取得処理において、実施形態1では、抽出されたCD4陽性T細胞が全てヒストグラム71に展開されたが、実施形態2では、抽出されたCD4陽性T細胞のうちCD45RA陰性細胞がヒストグラム71に展開される。
【0115】
図11に示すように、実施形態2では、図2に示した基準値の取得工程において、ステップS106とステップS107の間に、ステップS111が追加されている。実施形態2のその他のステップについては、実施形態1と同様である。以下、実施形態1と異なるステップについて説明する。
【0116】
ステップS111において、分析装置は、ステップS105で抽出したCD4陽性T細胞から、CD45RA陰性細胞を抽出する。
【0117】
具体的には、図12(a)に示すように、CD4陽性T細胞を展開したヒストグラム71において、CD45RA陰性の細胞とCD45RA陽性の細胞とを分画するための分画値が設定される。この場合の分画値の設定は、図6(a)、(b)を参照して説明した分画値の設定と同様である。すなわち、図12(a)のスキャッタグラム60の全細胞が、図12(b)のヒストグラム72に展開され、ヒストグラム72において、CD45RA陰性側のピーク波形とCD45RA陽性側のピーク波形との間で頻度が最小となるときのCD45RA量が分画値として設定される。こうして設定された分画値がスキャッタグラム60に適用され、スキャッタグラム60において分画値よりもCD45RA量が小さい領域62が設定される。ステップS111では、領域62の細胞が、CD45RA陰性細胞として抽出される。
【0118】
なお、図12(c)に示すように、CD4陽性T細胞の分布密度が示された等高線に基づいて、CD45RA陽性側の分布密度が高い領域と、CD45RA陰性側の分布密度が低い領域との間に、分画値が設定されてもよい。
【0119】
ステップS111に続くステップS106~S108は、実施形態1と同様に行われる。すなわち、ステップS106において、分析装置は、ステップS111で抽出したCD45RA陰性細胞をヒストグラム71に展開する。そして、ステップS107において、分析装置は、実施形態1と同様にして、ヒストグラム71に基づいてFOXP3陽性T細胞を特定する。
【0120】
ここで、実施形態2のステップS107で特定されるFOXP3陽性T細胞は、図2のステップS107で抽出されるFOXP3陽性T細胞の集団のうち、CD45RA陰性の細胞を抽出したものである。したがって、実施形態2では、FOXP3陽性T細胞の抽出と、CD45RA陰性細胞の抽出とは、どちらが先に行われてもよい。そして、ステップS108において、分析装置は、ステップS107で特定したFOXP3陽性T細胞の集団に、記憶部に記憶された所定の比を適用し、この比で分割したときの分割基準となるFOXP3量を基準値として取得する。
【0121】
このように、FOXP3陽性T細胞の集団のうちCD45RA陰性の集団に対し比を適用して基準値を取得すると、ノイズとなるCD45RA陽性細胞が除去されるため、基準値の精度をより高めることができる。
【0122】
なお、実施形態2において、生体試料を測定してエフェクター型制御性T細胞を検出する工程については、図5に示す実施形態1の工程と同様に行われる。すなわち、実施形態2では、図5のステップS205においてCD4陽性T細胞の抽出が行われ、ステップS206において、CD45RA陰性、かつ基準値よりもFOXP3量が大きい細胞がエフェクター型制御性T細胞として検出される。
【0123】
実施形態2では、FOXP3の量が少ない方の細胞の数Aに対するFOXP3の量が多い方の細胞の数Bの比率B/Aが、1.62以上2.47以下となるように、比が設定されている。この比は、実施形態1と同様、発明者らにより見いだされた普遍的な比である。発明者らが、この比を普遍的なものであると判断した理由については、追って実施形態2の検証において説明する。実施形態2では、比率B/Aは、2.01に設定される。
【0124】
なお、FOXP3の量が多い方の細胞の数Bの、FOXP3陽性T細胞の集団の全細胞数(A+B)に対する割合B/(A+B)が、62%以上72%以下となるように、比が設定されてもよい。この場合のB/Aの範囲は、B/Aが1.62以上2.47以下に設定される場合とほぼ同じであるため、この場合も基準値を適正に設定される。
【0125】
実施形態2のエフェクター型制御性T細胞を検出する工程においても、実施形態1と同様、図13(a)に示すように、スキャッタグラム60において基準値が適用され、CD45RA陰性細胞とCD45RA陽性細胞とを分画する分画値が設定される。そして、領域61の細胞が、エフェクター型制御性T細胞として検出される。
【0126】
実施形態2では、上述したように、CD4陽性T細胞のうちCD45RA陰性細胞に基づいて基準値が取得されるため、より適正な基準値を設定して、生体試料からエフェクター型制御性T細胞を検出できる。
【0127】
図13(a)のスキャッタグラム60は、生体試料が胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)である場合に生成されるスキャッタグラムである。図13(a)のスキャッタグラム60の元となった生体試料は、図6(a)のスキャッタグラム60の元となった生体試料と同じであるため、図13(a)と図6(a)のスキャッタグラム60における細胞の分布は同じである。図13(b)のヒストグラム71は、図13(a)のスキャッタグラム60に分布する全細胞を展開したものである。図13(a)、(b)に示す例では、FOXP3量が基準値よりも大きい細胞がCD4陽性T細胞全体に占める割合は、12.3%である。この値は、実施形態1の手法に基づく場合の12.4%とほぼ同じである。したがって、実施形態2においても、実施形態1と同様にエフェクター型制御性T細胞の検出を行うことができる。
【0128】
<実施形態2の検証>
発明者らは、実施形態1の検証において取得した、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)の測定結果、および、同じバッチにおける健康人の末梢血単核球細胞の測定結果を用いて、実施形態1と同様の検証を行った。
【0129】
発明者らは、実施形態1と同様、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球(TIL)の測定結果に基づいて、スキャッタグラム60から目視により境界値を取得した。そして、発明者らは、図11のステップS101~S105、S111、S106と同様の手順を行って、ヒストグラム71の生成を行った。ただし、実施形態2の検証では、ステップS111においてCD45RA陰性細胞が抽出されるため、ヒストグラム71には、CD4陽性T細胞のうち、CD45RA陰性細胞が展開される。そして、発明者らは、ヒストグラム71に取得した境界値を適用し、健康人の末梢血単核球細胞からなる13個の異なる生体試料に基づいて比率B/Aを算出した。
【0130】
図14(a)~(c)は、これら13個の生体試料のうち、3つの生体試料について生成されたヒストグラム71を示す図であり、それぞれ、図8(a)~(c)と同様の生体試料である。図14(a)~(c)のヒストグラム71には、CD4陽性T細胞全体ではなく、CD4陽性T細胞のうちCD45RA陰性細胞が展開されているため、図14(a)~(c)の形状は、それぞれ図8(a)~(c)の形状とは異なっている。
【0131】
13個の生体試料(サンプル1~13)に基づいて取得された比率B/A、平均値、および標準偏差SDは、以下の表3に示すとおりである。なお、図14(a)~(c)に示す生体試料は、それぞれ、サンプル2、3、6に該当する。サンプル1~13は、それぞれ、実施形態1の検証のサンプル1~13と同じである。
【0132】
【表3】
【0133】
表3に示すように、13個の生体試料から取得した比率B/Aにおいて、最小値は1.62であり、最大値は2.47となった。また、13個の生体試料から取得した比率B/Aの平均は2.01となり、標準偏差は0.28と極めて小さい値となった。この場合も、実施形態1の検証と同様に、取得される比率B/Aのばらつきが小さくなること、すなわちほぼ同じ比率B/Aが得られることが分かった。また、比率B/Aが最小値の1.62以上最大値の2.47以下となるように境界値を設定すれば、境界値よりもFOXP3量が多い細胞をエフェクター型制御性T細胞と判定できることが示唆された。
【0134】
次に、発明者らは、比率B/Aを表3から得られた平均値2.01に設定した場合に、健康人の末梢血単核球細胞からなる生体試料に基づいて、図11と同様の工程により基準値を取得した。
【0135】
図15(a)は、この手順により得られたヒストグラム71である。発明者らは、図15(a)に示すように、比率B/Aが2.01となるように基準値を取得した。発明者らは、こうして得た基準値を、図15(b)に示すように、胃がん患者の胃がん組織中に浸潤するリンパ球に基づいて得られたスキャッタグラム60に適用した。図15(b)に示すように、こうして得られた基準値によれば、生体試料が胃がん組織中に浸潤するリンパ球である場合でも、FOXP3陰性の細胞の集団とFOXP3陽性の細胞の集団とを分画できる。すなわち、上記のように設定した比率B/Aに基づいて基準値を取得すれば、がん患者から採取される生体試料からエフェクター型制御性T細胞を適正に検出できることが分かった。
【0136】
以上のような理由により、実施形態2では、1.62以上2.47以下、特に2.01となる比率B/Aが、あらかじめ記憶部に記憶され、コントロール試料に基づいて基準値を取得する工程において用いられる。
【0137】
次に、発明者らは、比率B/Aを2.01として、被検者の末梢血単核球細胞からなる8個の生体試料に対して、実施形態2の手法および比較例の手法に基づいて、それぞれエフェクター型制御性T細胞の検出精度を比較した。比較例では、実施形態1の検証で説明したように、スキャッタグラム60において、発明者らがマニュアルによりエフェクター型制御性T細胞の領域を分画して検出を行った。
【0138】
以下の表4には、実施形態2および比較例の場合に、それぞれ検出されたエフェクター型制御性T細胞のCD4陽性T細胞に対する割合が示されている。被検者の末梢血単核球細胞からなる8つの生体試料は、サンプル22~29である。また、表4には、実施形態2の場合の平均および標準偏差SDと、比較例の場合の平均および標準偏差SDとが示されている。
【0139】
【表4】
【0140】
表4に示すように、エフェクター型制御性T細胞の割合については、実施形態2および比較例において、ほぼ同じ値となった。一方、標準偏差については、実施形態2のほうが比較例に比べて小さい値となった。以上のことから、実施形態2によれば、比較例と同等にエフェクター型制御性T細胞を検出でき、さらに比較例よりもエフェクター型制御性T細胞の検出割合のばらつきが抑制されることが分かった。
【0141】
<実施形態3>
図16(a)に示すように、実施形態3のエフェクター型制御性T細胞の検出工程では、図5と比較して、ステップS206とステップS207の間に、ステップS211が追加されている。実施形態3のその他の構成は、実施形態1または2と同様である。
【0142】
ステップS211において、分析装置は、ナイーブ型制御性T細胞と非活性型制御性T細胞を検出する。
【0143】
具体的には、分析装置は、図16(b)に示すように、ステップS206で展開したスキャッタグラム60に、領域63、64を設定する。領域63は、FOXP3量が基準値よりも小さく終了点よりも大きく、かつ、CD45RA量が分画値よりも大きい領域である。領域64は、FOXP3量が基準値よりも小さく終了点よりも大きく、かつ、CD45RA量が分画値よりも小さい領域である。ここで、基準値は、ステップS206で用いられる基準値と同じである。終了点は、スキャッタグラム60をヒストグラム71に展開した場合に、図4で説明した手順と同様にして作成される点であり、ヒストグラム71におけるFOXP3陰性側のピーク波形の高値側の点である。分画値は、図6(a)で説明したように、CD45RA陰性細胞とCD45RA陽性細胞とを分けるCD45RA量である。
【0144】
ステップS211において、分析装置は、スキャッタグラム60の領域63、64に含まれる細胞を、それぞれ、ナイーブ型制御性T細胞および非活性型制御性T細胞として検出する。続いて、ステップS207において、分析装置は、ステップS206、S207で検出した、エフェクター型制御性T細胞、ナイーブ型制御性T細胞、および非活性型制御性T細胞に関する情報を表示部に表示する。ステップS207では、たとえば、各細胞の数や、各細胞がCD4陽性T細胞全体に占める割合などが表示される。
【0145】
<分析システム>
図17は、実施形態1~3で説明した分析を行うための分析システム100の構成を示すブロック図である。
【0146】
分析システム100は、標識装置110と、フローサイトメータである分析装置120と、を備える。標識装置110は、コントロール試料101および生体試料102の被検物質を蛍光標識する。標識装置110によれば、コントロール試料101および生体試料102の被検物質を蛍光標識する処理を自動で行うことができる。これにより、複数の試料を均一な条件で調製できる。分析装置120は、コントロール試料101および生体試料102についての分析処理を行う。分析装置120は、測定を行う測定部として測定ユニット200を備え、分析を行う分析部として分析ユニット300を備える。
【0147】
なお、標識装置110と分析装置120は別体でなくてもよく、たとえば、分析装置120と標識装置110とが一体的に構成されてもよい。また、分析システム100が、標識装置110の前段に、末梢血の全血から末梢血単核球細胞を精製するための装置を備える場合には、コントロール試料101および生体試料102は、末梢血の全血であってもよい。
【0148】
分析システム100が図1(a)、(c)に示す処理を行う場合、図1(a)のステップS11と図1(c)のステップS21は、標識装置110により行われる。図1(a)のステップS12と図1(c)のステップS22は、分析装置120の測定ユニット200により行われる。図1(a)のステップS13と図1(c)のステップS23は、分析装置120の分析ユニット300により行われる。
【0149】
測定ユニット200は、測定制御部210と、検出部220と、信号処理回路230と、を備える。測定制御部210は、たとえば、CPU、MPUなどにより構成される。測定制御部210は、測定ユニット200の各部が出力する信号を受信し、測定ユニット200の各部を制御する。検出部220は、標識装置110において標識処理が行われたコントロール試料101および生体試料102をフローセルに流して、フローセルに光を照射し、試料から生じた光を受光部により受光して光の強度に応じた信号を出力する。
【0150】
信号処理回路230は、検出部220から出力された信号に対して信号処理を行う。具体的には、信号処理回路230は、検出部220の受光部から出力された信号に基づいて、粒子ごとの波形状の信号を抽出し、粒子ごとの波形状の信号からピーク値、面積、幅などの特徴パラメータを算出する。測定制御部210は、分析ユニット300と通信を行う。測定制御部210は、信号処理回路230により算出された粒子ごとの特徴パラメータを、測定結果として分析ユニット300に送信する。
【0151】
分析ユニット300は、制御部310と、記憶部320と、表示部330と、入力部340と、を備える。制御部310は、たとえば、CPUにより構成される。制御部310は、分析ユニット300の各部が出力する信号を受信し、分析ユニット300の各部を制御する。制御部310は、測定ユニット200と通信を行う。記憶部320は、たとえば、ROM、RAM、ハードディスクなどにより構成される。制御部310は、記憶部320に記憶されたプログラム321に基づいて処理を実行する。プログラム321は、図1(a)、(c)に示す処理を実行するためのプログラムを含んでいる。
【0152】
表示部330は、たとえば、ディスプレイにより構成される。表示部330は、分析結果を示す画面を表示する。図5のステップS207の表示処理において、制御部310は、検出した制御性T細胞に関する情報を、表示部330に表示する。入力部340は、たとえば、マウス、キーボードなどにより構成される。入力部340は、オペレータによる入力を受け付ける。表示部330と入力部340は、タッチパネルなどにより一体的に構成されてもよい。
【0153】
図18、19は、分析装置120が行う処理を示すフローチャートである。
【0154】
図18に示すように、ステップS301、S302において、制御部310は、入力部340を介してオペレータから、標識装置110による標識処理が行われたコントロール試料101または生体試料102の測定指示が入力されたか否かを判定する。コントロール試料101の測定指示が入力された場合、処理がステップS303に進められ、生体試料102の測定指示が入力された場合、処理がステップS305に進められる。いずれの測定指示も入力されていない場合は、処理が終了し、再度ステップS301から処理が開始される。
【0155】
コントロール試料101の測定指示が入力された場合、ステップS303において、測定制御部210は、図1(a)のステップS12と同様に、コントロール試料101の測定を行う。測定制御部210は、コントロール試料101の測定結果を制御部310に送信する。制御部310は、測定制御部210から受信したコントロール試料101の測定結果を記憶部320に記憶する。続いて、ステップS304において、制御部310は、コントロール試料101の測定結果を記憶部320から読み出し、読み出した測定結果に基づいて基準値の取得を行う。このとき、制御部310は、取得した基準値を記憶部320に記憶する。この場合の基準値の取得処理については、追って図19を参照して説明する。
【0156】
生体試料102の測定指示が入力された場合、ステップS305において、測定制御部210は、図1(c)のステップS22と同様に、生体試料102の測定を行う。この場合も、測定制御部210は、生体試料102の測定結果を制御部310に送信する。制御部310は、測定制御部210から受信した生体試料102の測定結果を記憶部320に記憶する。続いて、ステップS306において、制御部310は、生体試料102の測定結果を記憶部320から読み出し、読み出した測定結果に基づいて、図5または図16(a)に示す処理と同様に、エフェクター型制御性T細胞の検出する処理を行う。このとき、制御部310は、ステップS304で記憶した基準値を記憶部320から読み出し、読み出した基準値を生体試料102の分析におけるエフェクター型制御性T細胞の検出に適用する。ステップS306で行われる表示処理では、図20に示す画面が表示される。図20に示す画面については、追って説明する。
【0157】
図19に示すように、ステップS401において、制御部310は、コントロール試料101に含まれるFOXP3陽性T細胞を特定する処理を行う。ステップS401では、図2のステップS101~S107と同様の処理が行われる。これにより、CD4陽性T細胞が展開されたヒストグラム71において、終了点以上のFOXP3量を有する細胞の集団が、FOXP3陽性T細胞として特定される。なお、ステップS401において、図11のステップS101~S105、S111、S106、S107と同様の処理が行われてもよい。この場合、CD4陽性、かつ、CD45RA陰性の細胞の集団が、FOXP3陽性T細胞として特定される。
【0158】
続いて、ステップS402において、制御部310は、コントロール試料101が所定の条件を満たすか否かを判定する。所定の条件は、あらかじめ記憶部320に記憶されている。所定の条件は、たとえば、FOXP3陽性T細胞の数が所定範囲であることである。この場合、制御部310は、ステップS401で特定したFOXP3陽性T細胞の数が所定範囲であると、コントロール試料101が所定の条件を満たすと判定する。
【0159】
なお、ステップS402の所定の条件は、上記内容に限らず、FOXP3陰性T細胞の数が所定範囲であること、CD45RA陽性T細胞とCD45RA陰性T細胞の比率が所定範囲であること、ナイーブ型制御性T細胞の数が所定範囲であること、であってもよい。所定の条件は、これら条件のうち複数の条件が満たされることであってもよい。FOXP3陰性T細胞の集団は、たとえば、ヒストグラム71において終了点より小さいFOXP3量を有する細胞の集団として特定される。CD45RA陽性T細胞の集団は、たとえば、図12(a)において領域62内の細胞の集団として特定され、CD45RA陰性T細胞の集団は、たとえば、図12(a)においてCD45RA量が分画値よりも大きい細胞の集団として特定される。ナイーブ型制御性T細胞の集団は、たとえば、図16(b)に示す領域63の細胞の集団として特定される。
【0160】
コントロール試料101が所定の条件を満たす場合、ステップS403において、制御部310は、図2または図11のステップS108と同様に、コントロール試料101から得られるヒストグラム71に基づいて基準値を取得する。そして、制御部310は、取得した基準値を記憶部320に記憶する。他方、コントロール試料101が所定の条件を満たさない場合、ステップS404において、制御部310は、ステップS402の判定の元となったコントロール試料101ではなく、別のコントロール試料101を測定するようオペレータに促す画面を、表示部330に表示する。これにより、オペレータは、当該コントロール試料101が、基準値を取得するための試料として適当でなかったことを知ることができる。そして、オペレータは、別のコントロール試料101を用いて、再度コントロール試料の測定指示を入力する。
【0161】
図20は、図18のステップS306に示すエフェクター型制御性T細胞の検出処理において表示部330に表示される画面331である。なお、図20の画面331には、エフェクター型制御性T細胞に関する情報に加えて、ナイーブ型制御性T細胞および非活性型制御性T細胞に関する情報が表示されている。すなわち、図20に例示される画面331は、図18のステップS306として図16(a)に示す実施形態3の検出処理が行われた場合の画面である。
【0162】
画面331は、生体試料102の分析結果を示す画面であり、分析値を示すリスト領域331aと、図3(a)~(f)と同様の軸を有するスキャッタグラムと、を備える。リスト領域331aには、抽出された細胞の個数および比率が表示される。Fr1は、図16(b)の領域63内の細胞数、すなわちナイーブ型制御性T細胞の数を示す。Fr2は、図16(b)の領域61内の細胞数、すなわちエフェクター型制御性T細胞の数を示す。Fr3は、図16(b)の領域64内の細胞数、すなわち非活性型制御性T細胞の数を示す。Fr1%、Fr2%、Fr3%は、それぞれ、ナイーブ型制御性T細胞、エフェクター型制御性T細胞、および非活性型制御性T細胞がCD4陽性T細胞に占める比率を示す。画面331が表示部330に表示されることにより、オペレータは、各細胞の個数および比率と、生成されたスキャッタグラムとを視覚的に把握できる。
【0163】
なお、制御部310は、生体試料102の分析においてがん治療薬の薬効があるか否かを判定し、がん治療薬の薬効があるか否かを示す情報を画面331に表示してもよい。
【0164】
また、制御部310は、オペレータからの表示指示に応じて、同じバッチにおいて測定されたコントロール試料101に関する情報を表示部330に表示してもよい。コントロール試料101に関する情報として、たとえば、コントロール試料101から得られたヒストグラム71と、当該ヒストグラム71から得られた基準値とが表示される。これにより、オペレータは、基準値が適正であったかを判断できる。
【符号の説明】
【0165】
71 ヒストグラム
100 分析システム
101 コントロール試料
102 生体試料
110 標識装置
120 分析装置、フローサイトメータ
200 測定ユニット、測定部
220 フローサイトメータ
310 制御部
320 記憶部
321 プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21