(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/06 20060101AFI20220824BHJP
H01M 10/08 20060101ALI20220824BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
H01M10/06 L
H01M10/08
H01M4/14 Q
(21)【出願番号】P 2020000382
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】赤阪 有一
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-078045(JP,A)
【文献】特開2007-059277(JP,A)
【文献】特開平06-196200(JP,A)
【文献】特開平02-236967(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058058(WO,A1)
【文献】特開2016-115396(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087686(WO,A1)
【文献】特開2013-134957(JP,A)
【文献】特開2007-066558(JP,A)
【文献】特開2017-016970(JP,A)
【文献】特開2001-250589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 10/08
H01M 4/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室と、前記セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、前記極板群は、交互に配置された負極板および正極板と、前記負極板と前記正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する鉛蓄電池であって、
前記正極板は、集電体と、前記集電体の格子状基板に保持された正極合剤と、からなり、
前記正極合剤の密度が4.3g/cm
3以上であり、
前記電解液は、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方と、
イオン性の高分子界面活性剤と、を含み、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度が0.01mol/L以上0.30mol/L以下であり、高分子界面活性剤の濃度が0.002質量%以上である鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電解液のナトリウムイオン濃度が50ppm以上10000ppm以下である請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記高分子界面活性剤は、パーフルオロスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリアスパラギン酸塩、およびアルキルトリメチルアンモニウムクロライドのいずれかである請求項1または2記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記高分子界面活性剤はリグニンスルホン酸塩である請求項1または2記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減のため車両の電動化が急速に進んでいる。アイドリングストップ車やマイクロハイブリッド車、マイルドハイブリッド車はストロングハイブリッド車と比較して燃費は劣るものの、ユーザーは比較的安価に購入できるため、人気が高く自動車メーカーも開発に力を入れている。
アイドリングストップ車やマイクロハイブリッド車、マイルドハイブリッド車に搭載される鉛蓄電池は、従来よりも厳しい環境で使用される。例えば、エンジン始動回数の増加、アイドリングストップ中の電装品への電力供給、ブレーキによる回生充電など、鉛蓄電池にはより高い耐久性と充電受入性が必要とされる。
【0003】
鉛蓄電池の耐久性を向上させるには、正極の活物質密度を向上させることが有効である。これは、鉛蓄電池の正極活物質が、充放電により粗大化し、次第に活物質粒子の結合が低下するからである。軟化と呼ばれるこの現象は、活物質密度を向上させることによりある程度抑制することが可能であることは周知の事実である。また、充電受入性を向上させるために、負極の導電カーボン量などを増やし、比表面積を上げることも周知の事実である。
しかしながら、昨今、鉛蓄電池から持ち出しの電力をさらに増やし、燃費を改善しようとする動きがあり、鉛蓄電池にはさらなる耐久性と充電受入性の向上が必要になっている。そのため、正極の活物質密度を上げ、電解液にアルミニウムイオンやリチウムイオンを含む鉛蓄電池が実用化されている。電解液にアルミニウムイオンやリチウムイオンを含む鉛蓄電池については、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0004】
一方、電解液中の水分減少を抑制することで、鉛蓄電池の電槽に水を補給するメンテナンスを行う頻度を低くできる。そして、電解液中の水分減少は、高温であるほど生じやすい。よって、今後、高温地域である東南アジアに、急速にマイクロハイブリッド車やマイルドハイブリッド車が普及すると予想されることから、電解液中の水分減少を抑制できる性能は、アイドリングストップ車用の鉛蓄電池の重要な性能の一つであると言える。
特許文献3には、電解液中の水分減少を抑制する目的で、正極および負極にPb-Ca合金の格子を用いた液式の鉛蓄電池が記載されている。
【0005】
また、アイドリングストップ用鉛蓄電池は、通常、部分充電状態(PSOC:Partial State of charge)で使用されるため、長期放置後の充電でデンドライトショート(電極から鉛の樹枝状析出物(デンドライト)が伸びて、セパレータを突き破ってショートする現象)が生じる可能性も高い。このデンドライトショートを防止する方法としては、例えば特許文献4で、セパレータを微多孔質フィルム全体でデンドライトの貫通を抑える構造にする提案がなされている。
しかし、特許文献1~4には、高温過充電時の水分減少とデンドライトショートの両方を抑制することについての記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-134957号公報
【文献】特許第4799560号公報
【文献】特許第4857894号公報
【文献】WO2016/59739パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、部分充電状態で使用された場合のデンドライトショートの抑制と高温過充電時の電解液中の水分減少の抑制の両方が期待できる、新規な鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の鉛蓄電池は下記の構成(1)~(3)を有する。
(1)セル室と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、を備える。極板群は、交互に配置された負極板および正極板と、負極板と正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する鉛蓄電池である。正極板は、集電体と、集電体の格子状基板に保持された正極合剤と、からなる。
(2)正極合剤の密度が4.3g/cm3以上である。
(3)電解液は、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方と、高分子界面活性剤と、を含む。アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度が0.01mol/L以上0.30mol/L以下であり、高分子界面活性剤の濃度が0.002質量%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鉛蓄電池は新規な鉛蓄電池であり、本発明の鉛蓄電池によれば、部分充電状態で使用された場合のデンドライトショートの抑制と高温過充電時の電解液中の水分減少の抑制の両方が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[考察]
本発明者らが種々検討した結果、電解液にアルミニウムイオンやリチウムイオンを含む鉛蓄電池の減水量が増加する原因の一つは、アルミニウムイオンやリチウムイオンが存在していることではないかとの結論に至った。アルミニウムイオンやリチウムイオンが充電時における負極の過電圧を抑制し、減水量が増加しているのではないかと推察される。
また、電解液にアルミニウムイオンやリチウムイオンを含み、正極活物質密度の高いアイドリングストップ用鉛蓄電池が、長期放置後にデンドライトショートが起き易い理由は、電解液量当たりの活物質量が多いため、そもそもデンドライトショートが起き易いことに加え、アルミニウムイオンやリチウムイオンが原因の一つではないかと推測される。即ち、アルミニウムイオンやリチウムイオンは、硫酸鉛結晶を不規則化・微結晶化することで、電解液中への硫酸鉛結晶の溶解性を向上させ、充電受入性が向上すると考えられる。しかし、硫酸鉛結晶が電解液中へ溶解し易いことが原因となって、長期放置後の充電で鉛がデンドライト状に成長しやすいのではないかと考えられる。
【0011】
そして、上記構成(1)および(2)を満たす鉛蓄電池であって、電解液が、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方を、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度で0.01mol/L以上0.30mol/L以下含む鉛蓄電池の電解液に、0.002質量%以上となる濃度で高分子界面活性剤を含むことにより、部分充電状態で使用された場合のデンドライトショートの抑制効果と高温過充電時の電解液中の水分減少の抑制効果の両方が期待できることを見出した。
高温過充電時の減水量(水分減少量)が抑制される理由について考察すると、高温時において、添加した高分子界面活性剤の溶解度が急激に上昇し、負極へのアルミニウムイオンやリチウムイオンの吸着を阻害することで、これらのイオンによる負極の過電圧抑制効果を阻害する(高温時に水素発生電位を卑側へシフトさせる)のではないかと推測される。このため、高温過充電時の減水量が抑制されるのではないかと考えられる。
【0012】
次に、デンドライトショートが抑制される理由について考察すると、これらのイオンにより不規則化・微結晶化した硫酸鉛のエッジ部分がデンドライトの成長点になると考えられるが、不規則化・微結晶化した硫酸鉛は通常の硫酸鉛よりエッジが多く、デンドライトが発生し易いのではないかと考えられる。そして、高分子界面活性剤が、不規則化・微結晶化した硫酸鉛のエッジ部分に吸着していることで、エッジ部分からのデンドライト成長が抑制されるのではないかと推測される。
【0013】
電解液中の高分子界面活性剤の濃度は0.002質量%以上とする。0.002質量%未満の場合、効果が発現しない。上限は特に定めないが、0.5質量%を超えるとPSOC耐久性が低下するため、好ましい範囲は0.002質量%以上0.5質量%以下である。高分子界面活性剤が多すぎるとPSOC耐久性が低下する理由は、高分子界面活性剤が立体障害となり、硫酸イオンなどの移動を妨げてしまうからではないかと推測される。
使用可能な高分子界面活性剤は、パーフルオロスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩などのアニオン性界面活性剤、ポリアスパラギン酸塩などの両性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤で、イオン性の界面活性剤である。
【0014】
本発明者らが種種検討したところ、高分子界面活性剤が、カチオン性高分子界面活性剤や両性高分子界面活性剤の場合、さらに高温過充電時の減水量が抑制されることが分かった。この理由は、カチオン性高分子界面活性剤や両性高分子界面活性剤の場合、過充電状態ではより強固に負極に吸着し、その作用が発現するからではないかと推測される。なお、カチオン性高分子界面活性剤と両性高分子界面活性剤が同様の効果を発現するのは、両性界面活性剤が酸性領域でカチオン性を示すためであると推測される。
【0015】
また、本発明者らが種種検討したところ、高分子界面活性剤が、アニオン性高分子界面活性剤の場合、さらに長期放置後のデンドライトショートが抑制されることが分かった。この理由は以下のように考えられる。過放電放置後に充電された瞬間では、不規則化・微結晶化した硫酸鉛に水溶性アニオン高分子界面活性剤が吸着されており、この界面活性剤が鉛イオンを吸着していることで、電極近傍から電解液中への鉛イオンの溶出を抑制できる。このことから、過放電放置後の充電におけるデンドライト成長を抑制するのではないかと考えられる。
【0016】
本発明者らがさらに検討を重ねた結果、電解液中のナトリウムイオン濃度が50ppm以上10000ppm以下の時、さらにデンドライトショートが抑制されることが分かった。ナトリウムイオンがデンドライトショートを抑制することは周知の事実であったが、電解液中に高分子界面活性剤を含む場合、少ないナトリウムイオン量で、デンドライトショートを抑制できる効果が発現することが分かった。ナトリウムイオンはデンドライトを抑制するが、充電受入性を阻害するという報告(GS Yuasa Technical Report 第8巻 第2号2011年、p.22-28)もあるため、ナトリウムイオンは少ない方が好ましいのは明らかである。
【0017】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0018】
[構成]
この実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一個の極板群が配置されている。各セル室に電解液が注入されている。
各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0019】
正極板は、鉛合金製で格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、正極合剤(正極活物質を含む合剤)が保持されたものである。負極板は、鉛合金製で格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、負極合剤(負極活物質を含む合剤)が保持されたものである。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。積層体を構成する負極板の枚数は正極板の枚数よりも一枚多くても良いし、同じでも良い。
正極合剤の密度が4.3g/cm3以上4.7g/cm3以下である。
【0020】
負極合剤は、従来品と同様の構成である。具体的には、負極活物質である鉛と、補強繊維などを含む。
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。そして、負極板が入った袋状セパレータと正極板とを交互に重ねることで、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、正極板を袋状セパレータ内に収納して、負極板と交互に重ねてもよい。
【0021】
また、各極板群は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップには、それぞれ小片部を介して外部端子となる正極極柱および負極極柱が形成されている。
電解液は、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方とナトリウムイオンとリグニンスルホン酸塩(アニオン性高分子界面活性剤)と、を含む硫酸水溶液であって、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度が0.01mol/L以上0.30mol/L以下であり、ナトリウムイオン濃度が50ppm以上10000ppm以下であり、水溶性高分子界面活性剤の濃度が0.002質量%以上0.5質量%以下である。
【0022】
[製法]
実施形態の鉛蓄電池は、例えば以下の方法で製造することができる。正極板の製造方法以外は、従来公知の方法が採用できる。
先ず、化成前の正極板を作製する際に用いる混練物として、鉛粉、希硫酸、酸化ビスマス、および水を含む混練物(湿ペースト)を作製する。その際に、湿ペーストの密度を、化成後に正極合剤の密度が4.3g/cm3以上4.7g/cm3以下となる値に調整する。また、酸化ビスマスの添加量は、鉛粉100質量部に対して0.03質量部以上0.10質量部以下の割合とする。
次に、作製された混練物を集電体の格子状基板に充填後に熟成し、その後乾燥する。
なお、正極合剤の密度は、湿ペースト中の固形分の質量、湿ペーストの熟成温度、湿ペーストの格子状基板への充填量などを調整することによっても調整できる。
以上が、化成前の正極板を得る工程である。
【0023】
次に、得られた化成前の正極板と、通常の方法で作製された化成前の負極板と、セパレータと、を用いて、化成前の積層体を作製する。
次に、化成前の積層体をCOS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、正極板の耳部同士を接続した正極ストラップおよび負極板の耳部同士を接続した負極ストラップを形成するとともに、正極中間極柱、負極中間極柱、正極極柱および負極極柱を形成する。それらを形成した後、前記積層体を電槽の各セル室に配置する。
次に、隣接するセル室の正極中間極柱同士または負極中間極柱同士を抵抗溶接することで、隣接するセル間を電気的に直列に接続する。次に、電槽の上面と蓋の下面とを熱で溶かして蓋を電槽に載せ、熱溶着により電槽に蓋を固定する。なお、蓋を電槽に載せる際に、正極極柱および負極極柱を蓋にインサート成型されたブッシングの貫通穴に通す。その後、ブッシングの貫通穴からそれぞれ突出した状態の正極極柱および負極極柱をバーナー等で加熱しブッシングと一体化させることで、正極端子および負極端子を形成する。
【0024】
その後、蓋を貫通する穴として設けた注液孔からセル室内に、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度が0.01mol/L以上0.30mol/L以下であり、ナトリウムイオン濃度が50ppm以上10000ppm以下である硫酸水溶液を注入した後、注液孔を塞ぐことなどの通常の工程を行うことにより、鉛蓄電池の組み立てを完成させる。その後、通常の条件で電槽化成を行った後に、リグニンスルホン酸塩を、電解液中に濃度が0.002質量%以上0.5質量%以下となる範囲で添加する。これにより、本実施形態の鉛蓄電池が得られる。
この電槽化成により、集電体に保持された状態の鉛粉が正極活物質に変化し、正極合剤の密度が4.3g/cm3以上4.7g/cm3以下となる。
【0025】
[作用、効果]
本実施形態の鉛蓄電池によれば、正極合剤の密度が4.3g/cm3以上4.7g/cm3以下であり、電解液が、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方を、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度で0.01mol/L以上0.30mol/L以下含む鉛蓄電池の電解液に、0.002質量%以上となる濃度でリグニンスルホン酸塩を含むとともに、50ppm以上10000ppm以下のナトリウムイオンを含むことにより、部分充電状態で使用された場合のデンドライトショートの抑制効果と高温過充電時の電解液中の水分減少の抑制効果の両方が期待できる。
また、正極合剤の密度が4.3g/cm3以上4.7g/cm3以下であるため、正極板の耐久性(寿命性能)が高いことと活物質の利用効率(放電容量)が高いことが両立できる。正極合剤の密度が4.8g/cm3以上であると、耐久性(寿命性能)の点では有利になるが、活物質の利用効率(放電容量)の点で不利になる。
【実施例】
【0026】
[試験電池の作製]
実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池として、サンプルNo.1-1~No.1-48、No.2-1~No.2-6の鉛蓄電池を、実施形態に記載された従来公知の方法で作製した。具体的には、20HR容量が61AhのQ-85型の鉛蓄電池であって、動作電圧が12Vの鉛蓄電池を作製した。
【0027】
[正極板(化成前)の作製]
<No.1-1~No.1-14>
先ず、蓄電池用の鉛粉(粒径が数μm~30数μmである鉛と酸化鉛との混合粉末で、質量比での混合比が鉛:酸化鉛=約25:75)と、ポリエステル繊維であるテトロン(登録商標)と、酸化ビスマスを混合して乾式混合物を得た。
得られた乾式混合物に水を添加し練合わせた後、希硫酸を添加して再度練合わせることにより、正極合剤形成用ペースト(湿ペースト)を作製した。その際に、添加する水の量を調整して、湿ペーストの密度を約4.2g/cm3にした。湿ペースト密度の値は、内容積が分かっているステンレス製の容器に湿ペーストを充填し、充填された湿ペーストの質量を容器の容積で除算することで得た。
【0028】
次に、この湿ペーストを、Pb-Sn系の鉛合金から成るDサイズ電池用集電体(重力鋳造基板、47g/枚、厚さ約1.3mm)の格子状基板に充填し、希硫酸を0.1MPaの圧力で、湿ペーストが充填された面に均一に噴霧した後、この集電体を、予熱乾燥炉を通過させて、予熱乾燥後の湿ペーストの水分含有率を約10質量%に調整した。
次に、この集電体を温度40℃±5℃、湿度95%±5%の環境下に30時間放置することで、予熱後の湿ペーストを熟成した後、温度60℃±5℃の環境下で8時間保持することで、ペーストを乾燥させた。これにより、化成前の正極板を得た。
【0029】
<No.1-15~No.1-34,No.2-1~No.2-6>
添加する水の量を調整して、湿ペーストの密度を約4.3g/cm3にするとともに、予熱乾燥後の湿ペーストの水分含有率を約9.5質量%に調整した。これ以外は、No.1-1~No.1-14と同じ方法で化成前の正極板を得た。
<No.1-35~No.1-48>
添加する水の量を調整して、湿ペーストの密度を約4.5g/cm3にするとともに、予熱乾燥後の湿ペーストの水分含有率を約8.5質量%に調整した。これ以外は、No.1-1~No.1-14と同じ方法で化成前の正極板を得た。
【0030】
[負極板(化成前)の作製]
通常の方法で作製した負極合剤形成用ペーストを、Pb-Sn系の鉛合金から成るDサイズ電池用集電体(連続鋳造基板、40g/枚、厚さ約0.8mm)の格子状基板に充填した後、この集電体を、通常の条件で予熱乾燥炉を通過させた。次に、この集電体を温度40℃±5℃、湿度95%±5%の環境下に30時間放置することで、充填されたペーストを熟成した後、温度60℃±5℃の環境下で8時間保持することで、ペーストを乾燥させた。これにより、化成前の負極板を得た。
【0031】
[鉛蓄電池の組み立て]
先ず、各鉛蓄電池用の極板群を作製するために、上述方法で作製した化成前の正極板を各42枚(7枚×6セル)枚と、上述方法で作製した化成前の負極板を2592枚(8枚×6セル×(48+6)組)枚と、化成前の負極板と同じ数の袋状セパレータを用意した。
次に、化成前の負極板を袋状セパレータ内に収納し、この化成前の負極板入りセパレータ8枚と化成前の正極板7枚を交互に積層することで、化成前の正極板を7枚、化成前の負極板を8枚有する積層体を、各サンプルで六個ずつ得た。
【0032】
次に、サンプルNo.毎に、得られた六個の積層体をCOS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、キャビティ内に溶融金属(鉛合金)を供給するとともに、耳部を下側に向けた状態で積層体の耳部を挿入することで、先ず、各耳部同士を接続する正極ストラップおよび負極ストラップを形成した。続いて、配列方向両端のセル室に配置された負極ストラップおよび正極ストラップには小片と極柱を形成し、それ以外の各正極ストラップおよび負極ストラップには、それぞれ正極中間極柱および負極中間極柱を形成した。次に、それらを、「SBA S 0101」の外形区分Mのポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ配置した。
【0033】
次に、電槽のセル室同士を仕切る隔壁を挟んで対向する正極中間極柱および負極中間極柱を、隔壁に設けた貫通穴の部分で抵抗溶接することにより接続した。この状態では、電槽の各セル内に化成前の極板群が配置されている。なお、極板群の圧迫力は約10kPaとした。
この状態の電槽と蓋を、実施形態に記載された方法で熱溶着することで、No.1-1~No.1-48,No.2-1~No.2-6の化成前の鉛蓄電池を得た。
【0034】
次に、No.1-1~No.1-48の化成前の鉛蓄電池に対しては、サンプルNo.毎に、表1および表2に示すイオン濃度となるように、硫酸アルミニウムおよび/または硫酸リチウムが添加された希硫酸電解液を、各化成前の鉛蓄電池の蓋の注液孔から、電槽の各セル室内へ注入した。その後、通常の条件で電槽化成を行った後、リグニンスルホン酸ナトリウム(水溶性高分子界面活性剤)を表1および表2に示す濃度となるように添加することで、No.1~No.48の各鉛蓄電池を得た。
【0035】
また、No.2-1~No.2-6の化成前の鉛蓄電池に対しては、表3に示すイオン濃度となるように、硫酸アルミニウム、硫酸リチウム、および硫酸ナトリウムが添加された希硫酸電解液を、各化成前の鉛蓄電池の蓋の注液孔から、電槽の各セル室内へ注入した。その後、通常の条件で電槽化成を行った後、リグニンスルホン酸ナトリウム(水溶性高分子界面活性剤)を表3に示す濃度となるように添加することで、No.2-1~No.2-6の各鉛蓄電池を得た。
つまり、No.2-1~No.2-6の鉛蓄電池は、No.1-19の鉛蓄電池と化成前の正極板が同じであり、化成後に添加された電解液中のリグニンスルホン酸ナトリウムの濃度も同じであるが、電解液に硫酸ナトリウムが添加されて、ナトリウムイオン濃度が表3に示す濃度になっているという点で、No.1-19の鉛蓄電池と異なる。
【0036】
[密度の測定]
各鉛蓄電池の正極板について、以下の方法で正極合剤の密度を測定した。
電槽化成後の各鉛蓄電池から正極板を取り出して、水で洗って乾燥させた後、正極板から正極合剤を掻き落として粉末にした。得られた粉末を水銀圧入式ポロシメーターにセットして、正極合剤のメジアン細孔径および密度を水銀圧入法により測定した。
【0037】
[デンドライトショート確認試験]
各鉛蓄電池について、デンドライトショート確認試験を以下の手順で行った。
先ず、各鉛蓄電池を25℃の環境に置いて、20時間電流(0.05C)で電圧が10.5Vとなるまで放電させる。次に、各鉛蓄電池を40℃の環境に置き、各鉛蓄電池に499オームの抵抗を接続して、14時間放置する。次に、各鉛蓄電池を25℃の環境に戻し、150A、15Vの条件で定電圧充電する。
次に、各鉛蓄電池を解体して、一番目と三番目のセル室に配置されている極板群を取り出して分解し、計16枚(8×2)のセパレータを目視で観察して、デンドライトショートが生じている(ショート痕がある)セパレータの枚数を調べた。その枚数の全枚数(16)に対する割合(%)をデンドライトショート割合とした。つまり、16枚中2枚のセパレータにショート痕があった場合は、デンドライトショート割合は2/16×100=13%となる。
【0038】
[減水量を調べる試験(高温過充電試験)]
各鉛蓄電池について、高温過充電試験を、SAE規格J240を参考にして以下の手順で行った。
各鉛蓄電池を、水温が75℃±3℃に制御された水槽内に入れ、下記の条件で放電と充電を行うことを、1920回繰り返した後、各鉛蓄電池の質量を測定した。
放電条件:25A±0.1Aで4分±1秒
充電条件:14.8V±0.03V(制限電流25A±0.1A)で10分±3秒
【0039】
なお、繰り返し回数が480回となる毎に、充電後に水槽中で60~72時間放置し、440Aで判定放電(30秒後の放電末期電圧が7.2V以上であることを調べるための放電)を行ったが、水の補給は行わなかった。
各鉛蓄電池について、試験後の質量測定値から試験前の質量測定値を引いた質量差を各鉛蓄電池の減水量とし、No.1-19の鉛蓄電池の減水量を100とした各鉛蓄電池の減水量の相対値を算出した。
【0040】
[PSOC寿命試験]
各鉛蓄電池について、「SBA S 0101(2014年版)」のアイドリングストップ寿命試験を実施した。
具体的には、各鉛蓄電池を25℃±2℃に制御された環境(気相空間)に置き、電池近傍の風速を2.0m/s以下として、下記の条件で放電と充電を繰り返した。
放電条件:54.9A±1Aで59.0秒±0.2秒の放電の後、300A±1Aで1.0秒±0.2秒の放電
充電条件:14.00V±0.03V(制限電流100.0A±0.5A)で60.0秒±0.3秒の充電
【0041】
なお、繰り返し回数が3600回となる毎に、充電後に40~48時間放置してから放電と充電の繰り返しを再開した。また、300A±1Aで1.0秒±0.2秒の放電後の電圧が7.2V未満となった時点で試験を終了し、それまでの時間を寿命とした。また、繰り返し回数が30000回となるまで、水の補給は行わなかった。
これらの測定および試験結果を、各サンプルの電解液の構成とともに、下記の表1~表3に示す。寿命は、No.1-19の鉛蓄電池の値を100とした相対値を示す。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
表1および表2に示すように、本発明の一態様の構成要件である「正極合剤の密度が4.3g/cm3以上であること」、「電解液は、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方を含み、アルミニウムイオンおよびリチウムイオンの合計濃度が0.01mol/L以上0.30mol/L以下であること」、および「高分子界面活性剤を含み、高分子界面活性剤の濃度が0.002質量%以上であること」の全てを満たす鉛蓄電池(表に「実施例」と記載されているもの)は、デンドライトショート割合が6と少なく、減水量(相対値)が106以下と少なく、寿命(相対値)が98以上と長くなっている。
【0046】
これに対して、上記三つの構成要件の少なくともいずれかを満たさない鉛蓄電池(表に「比較例」と記載されているもの)は、合格と判定される「デンドライトショート割合が6以下」、「減水量(相対値)が110以下」、および「寿命(相対値)が98以上」のいずれかを満たさない。
また、上記三つの構成要件の全てを満たす鉛蓄電池のうち、正極合剤の密度のみが異なるNo.1-19およびNo.1-37の鉛蓄電池を比較すると、密度が4.5g/cm3であるNo.1-37の鉛蓄電池は、密度が4.3g/cm3であるNo.1-19の鉛蓄電池よりも寿命が長くなっている。
【0047】
さらに、表3に示すように、上記三つの構成要件に加えて、「電解液のナトリウムイオン濃度が50ppm以上10000ppmであること」を満たす鉛蓄電池(表に「好適例」と記載されているもの)は、デンドライトショート割合が0であり、減水量(相対値)は102以下と少なく、寿命(相対値)は100以上となっている。
なお、No.1-19の鉛蓄電池は、電解液に硫酸ナトリウムを添加しない(よって、ナトリウムイオン濃度は10ppm程度である)以外はNo.2-1~No.2-6と同じ構成の鉛蓄電池であるが、そのデンドライトショート割合は、電解液のナトリウムイオン濃度が40ppmであるNo.2-1の鉛蓄電池と同じ値(6%)となっている。また、電解液のナトリウムイオン濃度が11000ppmであると、10000ppm以下である場合よりもPSOC寿命が少し低下している。よって、電解液にナトリウムイオンを含む場合、ナトリウムイオン濃度は50ppm以上10000ppm以下の範囲が好ましいことが分かる。