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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】ワッシャー締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 43/00 20060101AFI20220824BHJP
   F16B 31/06 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
F16B43/00 Z
F16B31/06 Z
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021527326
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049481
(87)【国際公開番号】W WO2020261605
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019117940
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391016680
【氏名又は名称】株式会社松尾工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】507346889
【氏名又は名称】株式会社iMott
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】松尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】林田 興明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 喜直
【審査官】土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-167129(JP,A)
【文献】実開平2-25710(JP,U)
【文献】特開2002-89535(JP,A)
【文献】特開2018-54013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 43/00
F16B 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体(5)側から延びるボルト(3)が被締結物(2)とワッシャー(1)のボルト穴(1h)に挿通され、前記ボルト(3)とナット(4)で前記ワッシャー(1)を用いて前記被締結物(2)を基体(5)に締結するワッシャー締結構造であって、
前記ボルト(3)、前記ワッシャー(1)、前記ナット(4)及び前記ワッシャー締結構造は、共通の軸線及び軸線方向(以下単に「前記軸線」及び「軸線方向」ともいう。)及び前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、
前記半径方向において、前記軸線に近い側を内側、前記軸線から遠い側を外側とし、
前記被締結物(2)から前記ワッシャー(1)へ、前記ワッシャー(1)から前記ナット(4)へ向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ナット(4)は、前記半径方向に延在する平坦な下平面(4w)と、内径側に前記軸線方向に延びるねじとを有し、前記ねじは、交互にねじ山とねじ谷とからなり、ねじピッチpを有し、
前記ワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)と前記ワッシャー本体(1b)を貫通する前記ボルト穴(1h)とを有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ナット(4)側で前記半径方向に延在する平坦な上平面(1u)と、前記被締結物(2)側で前記半径方向に延在する平坦な下平面(1w)と、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1i)とを有し、
前記ワッシャー(1)は、前記上平面(1u)から前記下平面(1w)までの厚さ(T)を有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線を中心とする同心円環状である応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)に開口し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)に開口するとともに、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)にも開口する第一応力非伝達空間(11s)であり、
前記第一応力非伝達空間(11s)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、
・前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)の延長線を第一境界線(B1)とし、前記ボルト穴内周面(1i)の延長線を第二境界線(B2)とし、前記第一境界線(B1)より下側かつ前記第二境界線(B2)より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線(B1)上にある位置Ptと前記第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)とする空間であり、
・前記第一境界線(B1)が前記第二境界線(B2)と交わる位置をPoとし、前記位置Poから前記位置Phまでの前記軸線方向の距離Lhは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの0.01倍以上から、前記ワッシャー(1)の前記厚さTの99%以下の範囲にあり、
前記第一応力非伝達空間(11s)は、前記縦断面における前記第一境界線(B1)、前記第二境界線(B2)及び前記第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、前記ワッシャー(1)の前記軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間であり、
前記第一応力非伝達空間(11s)は、前記ボルト穴(1h)の内周面(1i)から前記半径方向の外側に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの前記半径方向の距離Lsは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの1倍以上、6倍以下の長さの範囲にある、
(以下、前記第一応力非伝達空間(11s)を有するワッシャー締結構造を「態様A]という。)、
ことを特徴とするワッシャー締結構造。
【請求項5】
基体(5)側から延びるボルト(3)が被締結物(2)とワッシャー(1)のボルト穴(1h)に挿通され、前記ボルト(3)とナット(4)で前記ワッシャー(1)を用いて前記被締結物(2)を基体(5)に締結するワッシャー締結構造であって、
前記ボルト(3)、前記ワッシャー(1)、前記ナット(4)及び前記ワッシャー締結構造は、共通の軸線及び軸線方向(以下単に「前記軸線」及び「軸線方向」ともいう。)及び前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、
前記半径方向において、前記軸線に近い側を内側、前記軸線から遠い側を外側とし、
前記被締結物(2)から前記ワッシャー(1)へ、前記ワッシャー(1)から前記ナット(4)へ向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ナット(4)は、前記半径方向に延在する平坦な下平面(4w)と、前記軸線方向に延びるねじとを有し、前記ねじは、交互にねじ山とねじ谷とからなり、ねじピッチpを有し、
前記ワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)と前記ワッシャー本体(1b)を貫通する前記ボルト穴(1h)とを有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ナット(4)側で前記半径方向に延在する平坦な上平面(1u)と、前記被締結物(2)側で前記半径方向に延在する平坦な下平面(1w)と、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1i)とを有し、
前記ワッシャー(1)は、前記上平面(1u)から前記下平面(1w)までの厚さ(T)を有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線を中心とする同心円環状である応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)に開口し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)には開口しない第二応力非伝達空間(12s)であり、
前記第二応力非伝達空間(12s)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記ボルト穴内周面(1i)の位置P1から、前記半径方向外側に延在し、前記ボルト穴内周面(1i)の位置P2に至る又は前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)の位置P3に至る線を第四境界線(B4)とし、前記ボルト穴内周面(1i)の延長線を第五境界線(B5)とし、又はさらに前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)の延長線を第六境界線(B6)とする空間であり、
前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)から、前記第二応力非伝達空間(12s)までの前記軸線方向の最短寸法である庇部最小厚さ(Th)は、ワッシャー(1)の厚さTの1%以上であり、
前記第二応力非伝達空間(12s)は、前記縦断面における前記第四境界線(B4)と前記第五境界線(B5)、又は前記第四境界線(B4)と前記第五境界線(B5)と前記第六境界線(B6)で囲まれた前記空間を、前記ワッシャー(1)の前記軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間であり、
前記第二応力非伝達空間(12s)は、前記ボルト穴(1h)の内周面(1i)から前記半径方向の外側に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの前記半径方向の距離Lsは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの1倍以上、6倍以下の長さの範囲にあり、
前記ナット(4)の外周寸法D’は、前記ナット(4)の内径をDnとし、前記距離LsをLsとするとき、(D’/2)-(Dn/2+Ls)≧k(Dn/2)(式中、k=2.5)を満たす、
(以下、前記第二応力非伝達空間(12s)を有するワッシャー締結構造を「態様B]という。)、
ことを特徴とするワッシャー締結構造。
【請求項10】
平行な第一及び第二平面(1u、1w)を有するワッシャー本体(1b)と、前記ワッシャー本体(1b)を貫通し前記第一及び第二平面(1u、1w)に垂直な方向に延在するボルト穴(1h)とを有するワッシャー(1)であって、前記ワッシャーは、前記ボルト穴(1h)の軸線と、前記軸線に垂直な半径方向を有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、前記ボルト穴(1h)に開口しかつ前記半径方向に延在する応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線を中心とする同心円環状であり、
前記ワッシャー本体(1b)の前記応力非伝達空間(1s)は、前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記ボルト穴の内周面(1i)から前記半径方向の外側に最も遠い前記応力非伝達空間(1s)の位置をPsとして、前記位置Psから、前記ボルト穴(1h)の前記軸線に平行な内周面又はその延長線までの前記半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.0p
(式中、前記ボルト穴(1h)の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、
Rが1.9以下のときpは0.2であり、
Rが1.9を超え2.4以下のときpは0.25であり、
Rが2.4を超え3.7以下のときpは0.35であり、
Rが3.7を超え5.5以下のときpは0.5であり、
Rが5.5を超え7.5以下のときpは0.75であり、
Rが7.5を超え9.5以下のときpは1.0であり、
Rが9.5を超え13以下のときpは1.25であり、
Rが13を超え23以下のときpは1.5であり、
Rが23を超え34以下のときpは2であり、
Rが34を超え40以下のときpは3であり、
Rが40を超え150以下のときpは4である。)
を満たし、
前記ワッシャー(1)の前記軸線に平行な方向から視た平面図において、前記ワッシャー本体(1b)の前記第一平面(1u)の外周に内接する円の直径をD、前記ボルト穴(1h)の直径をRとし、前記距離LをLとするとき、(D/2)-(R/2+L)≧k(R/2)(式中、k=2.5)である、
ことを特徴とするワッシャー。
【請求項11】
前記ワッシャー本体(1b)の前記第二平面(1w)から前記第一平面(1u)に向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)が、前記ワッシャー本体(1b)の前記第一平面(1u)にも開口する第一応力非伝達空間(11s)であり、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記第一応力非伝達空間(11s)より前記下側で、前記ボルト穴(1h)の前記軸線に平行な内周面まで延在している、
(以下、前記第一応力非伝達空間(11s)を有するワッシャー締結構造を「態様A]という。)
請求項10に記載のワッシャー。
【請求項13】
前記態様Aの前記ワッシャー(1)であって、前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、
・前記ワッシャー本体(1b)と前記第一応力非伝達空間(11s)との境界線(B3)は、前記ワッシャー本体(1b)が前記第一応力非伝達空間(11s)を有していない形状であると仮定して、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面に仮想ナットによる締結力を加えたときに前記ワッシャー本体(1b)に形成されるミーゼス相当応力分布において、前記上平面(1u)が前記第一応力非伝達空間(11s)と接する位置から、前記上平面(1u)に垂直な前記下方向に加わるミーゼス相当応力値を基準値として、その基準値の95%のミーゼス相当応力値の応力分布曲線よりも、前記ボルト穴(1h)側にあり、かつ、
・前記ワッシャー本体(1b)と前記第一応力非伝達空間(11s)との前記第三境界線(B3)は、曲線又は曲線と直線で構成され、角部がない、応力集中緩和線である、請求項11又は12に記載のワッシャー。
【請求項14】
前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記第一平面(1u)が、前記ボルト穴(1h)の前記軸線に平行なボルト穴内周面(1i)まで延在して、前記ワッシャー本体(1b)が前記第一平面(1u)の前記上側に庇部(1p)を形成し、前記応力非伝達空間(1s)が、前記庇部(1p)の前記下側に存在する第二応力非伝達空間(12s)である、
(以下、前記第二応力非伝達空間(12s)を有するワッシャー締結構造を「態様B]という。)
請求項10に記載のワッシャー。
【請求項23】
金型、切削工具、切削刃具、またはこれらの組み合わせを使用して、成形加工をする、請求項22に記載のワッシャーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適正に締め付けられたボルト・ナット締結体において使用されるワッシャーの改良に関するものであり、ボルトのねじ山負荷分担率が最大となる噛合第一ねじ山の負荷分担率を低下させることによりその谷底部からの疲労亀裂の破壊強度を向上させるワッシャーとその製造方法に関するものである。本発明のワッシャーの改良により、ボルトの噛合第一ねじ山の負荷分担率を低下させるだけでなく、各ねじ山の負荷分担率の平準化に効果があり、ボルトのねじ部からの疲労破断強度を高めることができる。
【背景技術】
【0002】
様々な構造物の締結にはボルト、ナットとワッシャーが使われている。自動車、船舶、建築、鉄道車両、土木機械、各種工作機械などあらゆる機器で使用されている。この締結部材では噛合い一山目のボルトねじ谷底(図4、ボルトの※部)を起点とする疲労破壊が問題となることが多く、疲労破壊対策としてボルトの強度向上に注力されてきた。この噛合い一山目の静的締結力及び外力に起因する過大な負荷が知られているが、噛合い一山目のボルトねじ谷底部の疲労強度を向上させる目的でワッシャーの構造についての検討はなされてこなかった。
【0003】
図1は、従来方式のボルト、ナット、ワッシャーによる被締結物締結を示す縦断面図である。1はワッシャー、2は被締結物、3はボルト、4はナット、5は基体、4oはナットねじ山の開放側(矢の向きがねじを緩める方向)、4cはナットねじ山の締結側(矢の向きがねじを締め付ける方向)を示す。
【0004】
ボルト、ナット、ワッシャーの従来方式の締結について、本発明者が有限要素解析(FEM解析)により検証した7山を持つフランジナットでの負荷分担率の数値は1山目35.6%であり、2山目は20.8%、3山目は14.4%、4山目は11.0%、5山目は8.6%、6山目は5.9%、7山目は3.9%と、ねじ山の開放側に向かって急激に負荷分担が下がることも確認され(図4,9参照)、多くの報告と一致する負荷分担率となっている。
【0005】
ワッシャーに関してはJIS,ISOなどの規格があり、主たる規定はサイズ(寸法)、硬度、平行度、幾何公差であり、形状に関しては断面が矩形のリングであり、一部最外周面が斜めに面取りされているものが有る程度である(非特許文献1)。
【0006】
従来方式のワッシャーの構造・形状に関しては、「有害なバリが無い事」程度であって、実際にプレス加工で作られたものには面取りやバリ取りの指示が不明確な状況である。この様に従来方式ワッシャーでは、求められる機能にナットやボルトに入る力の流れを改良するような機能を持つことは全く期待されてこなかった。単にナット座面が被締結物に沈みこまない、被締結物の表面性状の影響をナットの回転に影響を及ぼさないなどの機能を求められているにとどまっていた。
【0007】
特許文献1には,噛合い端ねじ谷底に発生する応力集中を低減し,耐遅れ破壊性,耐疲労特性に優れた高力ボルト,ナットおよび座金(ワッシャー)のセットが示されている。ナットの径中心側に突出部を設け,その突出部が定常時に被締結体に接触しないような高さを持つ座金とし,座金のナットと接する部分は,座金とナットの突出部が干渉しない形状とし,座金のナットと接する中心側コーナーは直線的な切り欠き部の例が図示されている。しかし,特許文献1は、径中心側に突出部を設けた特殊なナットに特徴があり、座金はその特殊なナットを補完するセット部品であり、座金単体では有用性がないものである。特許文献1の座金の内周面はボルトの軸を位置合わせ(センタリング)するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-4016号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】ISO7089~7094:2000、887:2000、JIS B 1256:2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のワッシャーの場合では、ボルト軸方向の力(初期締め付け軸力:平均応力、軸方向外力:変動応力)に対して、ナット側の力の流れが噛合第1ねじ山に最も集中し、噛合第2ねじ山以降で急激に低下する不均一な力の流れ特性を示す。本発明のワッシャーの場合は、被締結物、ワッシャー、ナット間の力の流れをできる限りナットの外周側に広く配置させることにより力の流れを各噛合ねじ山に広く分布させ、噛合第1ねじ山への負荷集中を低下させる効果がある。この効果を実現するワッシャー締結構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ワッシャー締結構造の最適化を行い、ナットに入る力の流入位置をナット座面の外周側に導くことにより、力をナットの開放側に多く向け、その結果ボルト、ナットの締結噛合い1山目への負荷を低減する目的に関しており、以下の発明の態様を提供する。
【0012】
(態様1)
被締結物(2)側から延びるボルト(3)が被締結物(2)とワッシャー(1)のボルト穴(1h)に挿通され、前記ボルト(3)とナット(4)で前記ワッシャー(1)を用いて前記被締結物(2)を基体(5)に締結するワッシャー締結構造であって、
前記ボルト(3)、前記ワッシャー(1)、前記ナット(4)及び前記ワッシャー締結構造は、共通の軸線及び軸線方向(以下単に「前記軸線」及び「前記軸線方向」ともいう。)及び前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、
前記ワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)と前記ワッシャー本体(1b)を貫通する前記ボルト穴(1h)とを有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線を中心とする同心円環状である応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)に開口していることを特徴とするワッシャー締結構造。
【0013】
(態様2)
前記半径方向において、前記軸線に近い側を内側、前記軸線から遠い側を外側とし、
前記被締結物(2)から前記ワッシャー(1)へ、前記ワッシャー(1)から前記ナット(4)へ向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ナット(4)は、前記半径方向に延在する平坦な下平面(4w)と、前記軸線方向に延びるねじとを有し、前記ねじは、交互にねじ山とねじ谷とからなり、ねじピッチpを有し、
前記ワッシャー本体(1b)の前記応力非伝達空間(1s)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記ボルト穴の内周面(1i)から前記半径方向の外側に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの前記半径方向の距離Lsは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの0.5倍を超え、6倍以下の長さの範囲にある、態様1に記載のワッシャー締結構造。
【0014】
(態様3)
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ナット(4)側で前記半径方向に延在する平坦な上平面(1u)と、前記被締結物(2)側で前記半径方向に延在する平坦な下平面(1w)と、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1i)とを有し、
前記ワッシャー(1)は、前記上平面(1u)から前記下平面(1w)までの厚さ(T)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)に開口するとともに、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)にも開口する第一応力非伝達空間(11s)であり、
前記第一応力非伝達空間(11s)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、
・前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)の延長線を第一境界線(B1)とし、前記ボルト穴内周面(1i)の延長線を第二境界線(B2)とし、前記第一境界線(B1)より下側かつ前記第二境界線(B2)より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線(B1)上にある位置Ptと前記第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)とする空間であり、
・前記第一境界線(B1)が前記第二境界線(B2)と交わる位置をPoとし、前記位置Pоから前記位置Phまでの前記軸線方向の距離Lhは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの0.01倍以上から、前記ワッシャー(1)の前記厚さ(T)の99%以下の範囲にあり、
前記第一応力非伝達空間(11s)は、前記縦断面における前記第一境界線(B1)、前記第二境界線(B2)及び前記第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、前記ワッシャー(1)の前記軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間である、
(以下、前記第一応力非伝達空間(11s)を有するワッシャー締結構造を「態様A]という。)
態様2に記載のワッシャー締結構造。本態様Aの図面は図5~12に対応する。
【0015】
(態様4)
前記態様Aであって、前記縦断面において、前記第一応力非伝達空間(11s)の前記第三境界線(B3)は、前記第一境界線(B1)から、少なくとも、前記軸線方向の深さが前記ねじピッチpの0.1倍になるまでの領域では、曲線又は曲線と直線の組合せから構成されており、角部がない、応力集中緩和線である、態様3に記載のワッシャー締結構造。
【0016】
(態様5)
前記態様Aであって、前記縦断面において、前記第一応力非伝達空間(11s)の前記第三境界線(B3)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)にかかる締結力を、前記ワッシャー(1)の前記上平面(1u)が前記位置Ptから前記位置Poまで平坦であると仮定した前記ワッシャー(1)に対してかけたときに、上記仮定のワッシャー内に発生するミーゼス相当応力分布において、位置Ptから垂直下方向にかかるミーゼス相当応力の大きさを基準にして、その相対応力が95%である前記ボルト穴(1h)側の応力分布線よりも、前記ボルト穴(1h)側にある、態様3又は4に記載のワッシャー締結構造。
【0017】
(態様6)
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ナット(4)側で前記半径方向に延在する平坦な上平面(1u)と、前記被締結物(2)側で前記半径方向に延在する平坦な下平面(1w)と、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1i)とを有し、
前記ワッシャー(1)は、前記上平面(1u)から前記下平面(1w)までの厚さ(T)を有し、
前記ワッシャー本体(1b)の前記応力非伝達空間(1s)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)には開口しない第二応力非伝達空間(12s)であり、
前記第二応力非伝達空間(12s)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記ボルト穴内周面(1i)の位置P1から、前記半径方向外側に延在し、前記ボルト穴内周面(1i)の位置P2に至る又は前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)の位置P3に至る線を第四境界線(B4)とし、前記ボルト穴内周面(1i)の延長線を第五境界線(B5)とし、又はさらに任意に前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)の延長線を第六境界線(B6)とする空間であり、
前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)から、前記第二応力非伝達空間(12s)までの前記軸線方向の最短寸法である庇部最小厚さ(Th)は、ワッシャー1の厚さTの1%以上であり、
前記第二応力非伝達空間(12s)は、前記縦断面における前記第四境界線(B4)と前記第五境界線(B5)、又は前記第四境界線(B4)と前記第五境界線(B5)と前記第六境界線(B6)で囲まれた前記空間を、前記ワッシャー(1)の前記軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間である、
(以下、前記第二応力非伝達空間(12s)を有するワッシャー締結構造を「態様B]という。)
態様2に記載のワッシャー締結構造。
【0018】
(態様7)
前記態様Bであって、前記縦断面において、前記第二応力非伝達空間(12s)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)側にも開口し、前記第四境界線(B4)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)から前記軸線方向に対して20度以内の角度で前記上方向に延び、前記軸線に対して仰角20~25度をなす直線と接する位置に至る立上部(Br)と、前記軸線に対して仰角20~25度及び65~70度をなす2つの直線とそれぞれ接する位置の間を結ぶコーナー部(Bc)と、前記コーナー部から前記ボルト穴内周面(1i)に至るボルト穴内周末端部(Be)を含む、態様6に記載のワッシャー締結構造。
【0019】
(態様8)
前記態様Bであって、前記縦断面において、前記第四境界線(B4)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記下平面(1w)及び/又は前記ボルト穴内周面(1i)との接続箇所を除いて、曲線又は曲線と直線で構成され、角部がない、応力集中緩和線である、態様6又は7に記載のワッシャー締結構造。
【0020】
(態様9)
前記軸線方向から視た前記締結構造の平面図において、前記ワッシャー(1)の前記上平面(1u)と前記ナット(4)の前記下平面(4w)との接触面は、前記軸線を中心として前記接触面に内接する円を想定したとき、前記内接円の半径が、前記ナット(4)の前記ねじの谷底を結ぶ線(4e)と前記ナットの軸線との間の前記半径方向の距離の2倍と前記距離Lsとの和の少なくとも0.8倍の寸法を有する、態様3~8のいずれか一項に記載のワッシャー締結構造。
【0021】
(態様10)
前記距離Lsは、前記ねじピッチpの2倍以上、4倍以下の長さの範囲にある、態様2~9のいずれか一項に記載のワッシャー締結構造。
【0022】
(態様11)
前記ナット(4)はフランジナットである、態様1~10のいずれか一項に記載のワッシャー締結構造。
【0023】
(態様12)
平行な第一及び第二平面(1u、1w)を有するワッシャー本体(1b)と、前記ワッシャー本体(1b)を貫通し前記第一及び第二平面(1u、1w)に垂直な方向に延在するボルト穴(1h)とを有するワッシャー(1)であって、前記ワッシャー(1)は、前記ボルト穴(1h)の軸線と、前記軸線に垂直な半径方向を有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、前記ボルト穴(1h)に開口しかつ前記半径方向に延在する応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線を中心とする同心円環状であることを特徴とするワッシャー。
【0024】
(態様13)
前記ワッシャー本体(1b)の前記応力非伝達空間(1s)は、前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記ボルト穴の内周面(1i)から前記半径方向の外側に最も遠い前記応力非伝達空間(1s)の位置をPsとして、前記位置Psから、前記ボルト穴(1h)の前記軸線に平行な内周面又はその延長線までの前記半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.7p
(式中、前記ボルト穴(1h)の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、
Rが1.9以下のときpは0.2であり、
Rが1.9を超え2.4以下のときpは0.25であり、
Rが2.4を超え3.7以下のときpは0.35であり、
Rが3.7を超え5.5以下のときpは0.5であり、
Rが5.5を超え7.5以下のときpは0.75であり、
Rが7.5を超え9.5以下のときpは1.0であり、
Rが9.5を超え13以下のときpは1.25であり、
Rが13を超え23以下のときpは1.5であり、
Rが23を超え34以下のときpは2であり、
Rが34を超え40以下のときpは3であり、
Rが40を超え150以下のときpは4である。)
を満たす、態様12に記載のワッシャー。
【0025】
(態様14)
前記ワッシャー本体(1b)の前記第二平面(1w)から前記第一平面(1u)に向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)が、前記ワッシャー本体(1b)の前記第一平面(1u)にも開口する第一応力非伝達空間(11s)であり、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記第一応力非伝達空間(11s)より前記下側で、前記ボルト穴(1h)の前記軸線に平行な内周面まで延在している、
(以下、前記第一応力非伝達空間(11s)を有するワッシャー締結構造を「態様A]という。)
態様12又は13に記載のワッシャー。
【0026】
(態様15)
前記態様Aの前記ワッシャー(1)であって、前記縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)と前記第一応力非伝達空間(11s)との第三境界線(B3)は、前記第一平面(1u)から、少なくとも、前記軸線方向の深さが前記pの0.1倍なるまでの領域では、曲線又は曲線と直線の組合せから構成されており、角部がない、応力集中緩和線である、態様14に記載のワッシャー。
【0027】
(態様16)
前記態様Aの前記ワッシャー(1)であって、前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、
・前記ワッシャー本体(1b)と前記第一応力非伝達空間(11s)との境界線(B3)は、前記ワッシャー本体(1b)が前記第一応力非伝達空間(11s)を有していない形状であると仮定して、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)に締結力を加えたときに前記ワッシャー本体(1b)に形成されるミーゼス相当応力分布において、前記上平面(1u)が前記第一応力非伝達空間(11s)と接する位置から、前記上平面(1u)に垂直な前記下方向に加わるミーゼス相当応力値を基準として、その基準の95%のミーゼス相当応力値の応力分布曲線よりも、前記ボルト穴(1h)側にあり、かつ、
・前記ワッシャー本体(1b)と前記第一応力非伝達空間(11s)との前記第三境界線(B3)は、曲線又は曲線と直線で構成され、角部がない、応力集中緩和線である、態様14又は15に記載のワッシャー。
【0028】
(態様17)
前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)の前記第一平面(1u)が、前記ボルト穴(1h)の前記軸線に平行なボルト穴内周面(1i)まで延在して、前記ワッシャー本体(1b)が前記第一平面(1u)の前記上側に庇部(1p)を形成し、前記応力非伝達空間(1s)が、前記庇部(1p)の前記下側に存在する第二応力非伝達空間(12s)である、
(以下、前記第二応力非伝達空間(12s)を有するワッシャー締結構造を「態様B]という。)
態様12又は13に記載のワッシャー。
【0029】
(態様18)
前記態様Bの前記ワッシャー(1)であって、前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記第二応力非伝達空間(12s)は前記ワッシャー本体(1b)の前記第二平面(1w)側にも開口し、前記ワッシャー本体(1b)と前記第二応力非伝達空間(12s)との境界線(B4)は、前記ワッシャー本体(1b)の前記第二平面(1w)から、前記軸線方向に対して20度以内の角度で前記上方向に延び、前記軸線に対して仰角25度をなす直線と接する位置に至る立上部(Br)と、前記軸線に対して仰角20~25度及び65~70度をなす直線とそれぞれ接する位置の間を結ぶコーナー部(Bc)と、前記コーナー部から前記ボルト穴内周面(1i)に至るボルト穴内周末端部(Be)とを含む、態様17に記載のワッシャー。
【0030】
(態様19)
前記態様Bの前記ワッシャー(1)であって、前記ワッシャー(1)の前記縦断面において、前記ワッシャー本体(1b)と前記第二応力非伝達空間(12s)との前記第四境界線(B4)は、曲線又は曲線と直線で構成され、角部がない、応力集中緩和線である、ただし、前記第二平面(1w)との接続部は応力集中緩和線でなくてもよい、態様17又は18に記載のワッシャー。
【0031】
(態様20)
2p≦L≦4pを満たす、態様13~19のいずれか一項に記載のワッシャー。
【0032】
(態様21)
前記ワッシャー(1)の前記軸線に垂直な方向から視た平面図において、前記ワッシャー本体(1b)の前記上平面(1u)の外周に内接する円の直径をD、前記ボルト穴(1h)の直径をRとして、(D/2)-(R/2+L)≧k(R/2)(式中、k=2.5)である、態様13~20のいずれか一項に記載のワッシャー。
【0033】
(態様22)
前記ワッシャー(1)の表面の一部または全部に防錆、耐摩耗、潤滑性向上、摺動性向上、外観向上、加飾、または識別の目的を持つ表面処理が施されている、態様12~21のいずれか一項に記載のワッシャー。
【0034】
(態様23)
前記表面処理が、メッキ、プラズマCVD被膜、プラズマPVD被膜、真空蒸着、樹脂塗装、高分子コート、アルマイト、もしくはリン酸マンガン化成処理、またはこれらの2つ以上の組み合わせである、態様22に記載のワッシャー。
【0035】
(態様24)
前記ワッシャー(1)の材質は、金属、窒化物、炭化物、酸化物、または硬質樹脂(CFRPを含む)から選ばれる、態様12~23のいずれか一項に記載のワッシャー。
【0036】
(態様25)
前記ワッシャー(1)の前記二平面は、算術平均粗さRaが50μm以下の面粗度及び0.2mm以下の平面度をもつ、態様12~24のいずれか一項に記載のワッシャー。
【0037】
(態様26)
プレス加工、切削加工、研削加工、冷間、温間、熱間プレス加工、鋳造、鍛造、またはこれらの工法を組み合わせてワッシャー(1)を加工、製造することを特徴とする態様12~25のいずれか一項に記載のワッシャーの製造方法。
【0038】
(態様27)
金型、切削工具、切削刃具、またはこれらの組み合わせを使用して、成形加工をする、態様26に記載のワッシャーの製造方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明のワッシャー締結構造を用いた場合、ボルト、ナットの締結噛合い1山目の負荷分担率を下げることができ、たとえば、従来構造の35.6%から30%前後に下げることもできる。この効果により初期締結軸力方向に外部負荷が繰り返し入力する実負荷合計の応力も同じ割合で低減されることにより噛合い1山目のボルトねじ谷底の疲労強度が向上する。締結構造物の安全性の向上、耐久性向上の効果がある。
【0040】
本発明のワッシャーの加工、製造には従来から使用している機械類、加工冶具、加工具、プレス加工機械、冷間、温間、熱間鍛造機械、鋳造設備などを使用することができる。プレス加工(塑性加工の一例)においては塑性加工用金型の形状が変わるだけである。
【0041】
また、このワッシャーを加工する工法や加工具類の中でも専用刃具などは工数低減実現化や加工ミス防止につながる合理的なものである。塑性加工用金型(プレス金型など)では専用工具と同じで、金型に空間構造加工部分が入れられるため工数増加もなく本発明のボルトの疲労強度向上効果を得ることができる。鍛造、鋳造などでも同様に金型に本技術を織り込むことで、ボルトの締結1山目谷底の疲労強度向上効果を得ることができる。
【0042】
本開示では、本発明のワッシャー締結構造によって主にボルトねじの疲労強度を改良することを述べるが、ナットのねじもボルトねじと同じ原因及び機序によって疲労劣化することが知られており、ナットの疲労破壊はボルトの疲労破壊と比べると少ないが、本発明のワッシャーはナットのねじの疲労強度の改良にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、従来のワッシャーを用いた締結構造の例を示す縦断面図である。
図2図2は、図1の締結構造においてボルトにかかる引張応力の流れを示す図である。
図3図3は、図1の締結構造においてナットにかかる圧縮応力の流れを示す図である。
図4図4は、図2の引張応力と図3の圧縮応力を合成したミーゼス相当応力分布を示す図である。
図5図5は、本発明の態様Aのワッシャーを用いた締結構造の例を示す縦断面図である。
図6図6は、図5のワッシャー締結構造の部分拡大縦断面図である。
図7図7(a)は図5のワッシャーの縦断面図、図7(b)(c)は、図5のワッシャーの斜視図である。
図8図8は、図5のワッシャー締結構造の例におけるミーゼス相当応力分布を示す図である。
図9図9(a)(b)は、図4図8のミーゼス相当応力分布を比較する表及びグラフである。
図10図10は、態様Aのワッシャーの例において第一応力非伝達空間の形状を変えたときのミーゼス相当応力分布を示すグラフ及び図である。
図11図11(a)(b)は、態様Aのワッシャーにおけるミーゼス相当応力分布と第一応力非伝達空間の形状を示す図である。
図12図12(a)~(e)は、本発明の態様Aのワッシャーの変形例を示す縦断面図である。
図13図13は、本発明の態様Bのワッシャーを用いた締結構造の例を示す縦断面図である。
図14図14は、図13のワッシャーの縦断面図の部分拡大縦断面図である。
図15図15(a)は図13のワッシャーの縦断面図、図15(b)(c)は図13のワッシャーの斜視図である。
図16図16は、図13のワッシャー締結構造の例におけるミーゼス相当応力分布を示す図である。
図17図17(a)(b)は、図4図16のミーゼス相当応力分布を比較する表及びグラフである。
図18図18は、態様Bのワッシャーの例において第二応力非伝達空間の形状を変えたときのミーゼス相当応力分布を示すグラフ及び図である。
図19図19(a)~(d)は、本発明の態様Bのワッシャーの変形例を示す縦断面図である。
図20図20は、本発明の態様Bのワッシャーの変形例を示す縦断面図である。
図21図21(a)~(d)は、本発明のワッシャーを製造する刃具の形状の例を示す。
図22図22は、本発明のワッシャーを製造する金型の例を示す。
図23図23は、本発明のワッシャーを製造する鋳型などの金型の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔本発明の第一の側面〕
本発明は、第一の側面において、
被締結物(2)側から延びるボルト(3)が被締結物(2)とワッシャー(1)のボルト穴(1h)に挿通され、前記ボルト(3)及びナット(4)で前記ワッシャー(1)を用いて前記被締結物(2)を基体(5)(基体5はボルト3の頭(3h)である場合もある)に締結するワッシャー締結構造であって、
前記ボルト(3)、前記ワッシャー(1)、前記ナット(4)及び前記ワッシャー締結構造は、共通の軸線及び軸線方向(以下単に「前記軸線」及び「前記軸線方向」ともいう。)及び前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、
前記ワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)と前記ワッシャー本体(1b)を貫通する前記ボルト穴(1h)とを有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線を中心とする同心円環状である応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)に開口していることを特徴とするワッシャー締結構造を提供する。
以下に、本発明の第一の側面を、限定する意図なく、図面を参照して詳しく説明する。
【0045】
図1は従来技術におけるワッシャー締結構造の例を示す縦断面図であり、図5は本発明の第一の側面のワッシャー締結構造の例を示す縦断面図である。図1及び図5を参照すると、基体5側から延びるボルト(3)が被締結物(2)のボルト穴及びワッシャー(1)のボルト穴(1h)に挿通され、ワッシャー(1)を介在させてボルト(3)及びナット(4)で被締結物(2)を基体(5)に締結するワッシャー締結構造に関する。本発明の第一の側面のワッシャー締結構造では、ナット(4)と被締結物(2)の間にワッシャー(1)が存在する。
【0046】
図1及び図5において、ボルト(3)は、基体(5)、被締結物(2)及びワッシャー(1)を貫通してナット(4)と結合されているが、ボルト(3)は、基体(5)の一部であってもよいし、基体(5)に埋め込まれていて、基体(5)を貫通しなくてもよい。ボルト(3)は、円柱状のねじ軸体とねじ軸体の先端部にナットと係合するねじ部(雄ねじ)を有し、ねじ部はねじ山及びねじ谷を有し、ねじ山間及びねじ谷間の距離であるピッチpを有する。また、ボルト(3)の外径は、通常ねじ山頂の直径によって指称される。ボルト(3)の軸線方向において、ボルト(3)のねじ部を有する先端側を(ねじ)開放側、その反対方向を(ねじ)締結側といい、ボルト(3)のねじ開放側、締結側に対応して、ナット(4)もナットのねじが開放される開放側(4o)、締結される締結側(4c)を有する。
【0047】
ナット(4)は、ねじ軸部(4s)と、ねじ軸部(4s)を貫通しボルト(3)の雄ねじに対応する雌ねじ(ねじ部)を有する。ナットのねじ径は、通常ねじ谷底の直径によって指称される。ねじ軸部(4s)は、横断面が一般的に六角形であるが、六角形以外の多角形でもよい。本発明では、ナット(4)は、必須ではないが、好ましくは、ねじ軸部(4s)のワッシャー(1)側にフランジ部(4f)を有する。フランジ部(4f)はねじ軸部(4s)の外周寸法より大きい外周寸法を有する部分を指称する。ここで、ねじ軸部(4s)及びフランジ部(4f)の外周寸法は、平面図においてねじ軸部(4s)及びフランジ部(4f)に内接する円の寸法(直径)としてよい。ナット(4)のねじは、ねじ山及びねじ谷を有し、ボルト(3)のねじと同じピッチpを有するが、ナット(4)のねじ谷底の直径はボルト(3)の外径より僅かに大きく設定される。同様に、ナット(4)のねじ山頂の直径は、ボルト(3)のねじ谷底の直径より僅かに大きく設定される。ナット(4)の軸線方向において、ボルト(3)の開放側をナット(4)の開放側(4o)、その反対方向を締結側(4c)という。
【0048】
本発明において被締結物(2)及び基体(5)は、特に限定されない。ボルトとナットで締結される被締結物及び基体であれば、本発明のワッシャー締結構造の利益を享受することができる。ボルト、ナットによる締結は、航空機、自動車、鉄道車両、工作機械、土木機械、農業機械、各種製造装置、橋梁、建築構造物などで広く用いられており、本発明のワッシャー締結構造はそのいずれにも適用可能である。
【0049】
(ねじにおける締結応力の負荷分担率)
ボルト(3)とナット(4)を締結するとき、ボルト(3)のねじ山の締結側斜面に対して、ナット(4)のねじ谷開放側の斜面が押圧するので、ボルト(3)のねじ山の締結側斜面にはボルト(3)の根本(図1(a)のボルト頭(3h))との間に引張応力がかかり、これが軸力となる。また、ナット(4)を締結側に押圧すると、ナット(4)のねじ谷開放側の斜面と被締結物(ナット(4)の座面)の間に圧縮応力がかかり、ボルト(3)のねじ山の締結側の斜面はナット(4)のねじ谷開放側の斜面によって押圧され、圧縮応力がかかる。その結果、ボルト(3)のねじには、上記の引張応力と圧縮応力を合成(ベクトル合成)した応力がかかる。引張応力と圧縮応力は、ボルト頭(3h)に近いところほど大きな応力を負担する性質があるので、ボルト(3)の締結噛合い1山目に最大の応力がかかり、2山目、3山目と開放側に向かうほど応力負担は小さくなる。以下、本開示においてねじの何山目というときは、締結噛合い1山目から数えた山の順番を表している。ねじは軸線方向にらせん状であるから、ねじの何山目の位置は平均値(中央値)での位置である。
【0050】
図2は、従来方式のワッシャーを含む締結体において、ボルト(3)とナット(4)を締結するときに、ボルト(3)にかかる引張応力の向きと大きさをFEM解析して表すベクトル図であり、図のベクトルの向きが応力の向きであり、ベクトルの長さと密集度が応力の大きさを表している。ボルト(3)にかかる引張応力は、締結噛合い1山目において最大であり、開放側の高次山目に向かって小さくなっている。同様に、図3は、従来方式のワッシャーを含む締結体において、ボルト(3)とナット(4)を締結するときに、ナット(4)にかかる圧縮張力の向きと大きさをFEM解析して表すベクトル図であり、図のベクトルの向きが応力の向きであり、ベクトルの長さと密集度が応力の大きさを表している。この圧縮張力の反力がボルト(3)のねじ山の締結側の斜面にかかっている。図4は、従来方式のワッシャーを含む締結体において、図4に示す形状のボルト(3)とフランジナット(4)を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析した図であり、図2の引張応力図と図3の圧縮応力及びその反力を合成した図になる。
【0051】
図4において、ミーゼス相当応力が最大の領域は白色、最小の領域は黒色、中間は明暗2段階灰色で表されている(グレースケール)。図4では、ワッシャーの最内径部から入った力(白色領域)は、直ぐ上にあるナットの締結側1山目に集中して流れ込み、このナットの1山目は白色と明るいグレーで埋め尽くされており、ボルトの1山目のねじ山の締結側の面を押しつける方向に働いて、白色で押し合い、ボルト内部にも白色と明るいグレーを発生させている。ボルトは図4にあるように下方(ボルト頭方向)に軸力がかかっており、噛合い1山目ねじ山から開放側のねじ山でナットと力のやり取りをしている。ボルトねじの1山目のすぐ下(ボルト頭側)のねじ山はナットねじ山が無いためにボルト軸力を多く受け、ナットの1山目がボルトねじ1山目を押し上げるように働き、※部が開かれるような大きな応力を受けている。次いで2山目に伝わり、小さな白色と明るいグレーが周辺にあるが1山目とは格段に小さく、暗いグレーがナットねじ山に入り込んでいる。次いで3山目には明るいグレーが、ナットねじ山側に小さく現れている程度となり、4山目は、ほとんど暗いグレーとなり、5山目は、黒色の弱い応力が多くなり、6山目、7山目では、応力小の黒色がほとんどの分布になっている。この応力分布状況は、負荷分担率表に示されるように、平準化とはかけ離れた不均一な状況を示している。この※部が、締結噛合い1山目ボルトねじ谷底であり、疲労破壊を起こすことが多い場所である。図4を参照すると、ボルト3の締結側から1山目に最大の応力がかかり、2山目、3山目と開放側に向かうほど応力負担は小さくなっていることが認められる。負荷分担率の数値は、図9に示しているように、1山目35.6%であり、2山目は20.6%、3山目は14.5%、4山目は11.0%、5山目は8.5%、6山目は5.9%、7山目は3.9%であった。
【0052】
図4のワッシャー(1)に発生している応力分布を見ると、ワッシャー(1)とナット(4)が座面全体で触れているため応力小の黒色がワッシャー(1)の外周部側及び中央部に大きく広がってナット(4)からの圧縮力を広い範囲で受けているが、最内径部のナット(4)と接触している点に応力大の白色が表れており、明るいグレーがナットの1山目と同等面積を持ち、暗いグレー領域が大きく広がっている。これはワッシャー(1)のボルト穴内壁側の端部において、高いミーゼス相当応力が真っすぐ上のナット(4)との接触部分に伝搬している状況を示している。
【0053】
(応力非伝達空間)
本発明のワッシャー締結構造は、ボルト(3)の締結噛合い1山目の応力負担率を低減することで、ボルト(3)の耐久性向上及び疲労寿命延長を図るものである。
【0054】
図6は、図5のワッシャー(1)とナット(4)が係合する、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)付近の部分拡大図である。図7(a)はワッシャー(1)の縦断面図であり、図7(b)(c)はワッシャー(1)の上及び下から視た斜視図である。
【0055】
本発明の第一の側面によれば、図5図7を参照すると、ワッシャー(1)は、上平面(1u)と下平面(1w)を有するワッシャー本体(1b)と、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)及び下平面(1w)を貫通するボルト穴(1h)とを有し、ワッシャー本体(1b)は、応力非伝達空間(1s)を有する。なお、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)は、ナット(4)と係合する側の面をいう。以下の説明では、ワッシャー(1)のナット(4)と係合する側を上、上側、上方向と称し、ワッシャー(1)の被締結物(2)と係合する側を下、下側、下方向と称する。
【0056】
本発明の第一の側面において、ワッシャー本体(1b)は、ボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状である応力非伝達空間(1s)を有し、応力非伝達空間(1s)はボルト穴(1h)に開口している。応力非伝達空間(1s)は、ボルト穴(1h)に開口するとともにワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にも開口してよく(例えば、図5~7)、又はボルト穴(1h)に開口するとともにワッシャー本体(1b)の下平面(1w)にも開口してよく(例えば、図13~15)、あるいはボルト穴(1h)に開口するが、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)及び下平面(1w)のいずれにも開口していなくてもよい(例えば、図19(c))。図5~7は、応力非伝達空間(1s)が、ボルト穴(1h)に開口するとともに、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にも開口している例であり、このように応力非伝達空間(1s)がワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にも開口しているとき、応力非伝達空間(1s)を第一応力非伝達空間(11s)という(態様A)。第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)には開口していない。一方、図13~15の例のように、応力非伝達空間(1s)がワッシャー本体(1b)の上平面(1u)に開口していないとき、応力非伝達空間(1s)を第二応力非伝達空間(12s)という(態様B)。第二応力非伝達空間(12s)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)には開口していても、開口していなくてもよい。以下では、必要に応じて、第一応力非伝達空間(11s)と第二応力非伝達空間(12s)を、まとめて、応力非伝達空間(1s)と表記する。
【0057】
態様Aにおいて、第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー(1)の軸線を含む縦断面において、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)の延長線を第一境界線(B1)とし、ボルト穴内周面(1i)の延長線を第二境界線(B2)とし、第一境界線より下側かつ第二境界線より半径方向外側にあり、第一境界線の位置Ptと第二境界線の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)とする空間であるとともに、縦断面における第一境界線(B1)、第二境界線(B2)及び第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、ワッシャー(1)の軸心を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間である。第三境界線(B3)が第一境界線(B1)と接する位置Ptは、第一応力非伝達空間(11s)において、ボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置であることが好ましい。図5~7の好ましい例を参照すると、第一応力非伝達空間(11s)は、第一応力非伝達空間(11s)とワッシャー本体(1b)の上平面(1u)との境界位置Pt、第一応力非伝達空間(11s)とワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)との境界位置Phを有し、ボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置Psからナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離としてLs、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)の延長線から位置Phまでの距離としてLhを有する。本発明の第一の側面において距離Lsは、ボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置からナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離として定義され、第一応力非伝達空間(11s)とワッシャー本体(1b)の上平面(1u)との境界位置Ptが第一応力非伝達空間(11s)におけるボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置Psであることが好ましい(例えば、図5~7)。しかし、第一応力非伝達空間(11s)におけるボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置Psは、第一応力非伝達空間(11s)とワッシャー本体(1b)の上平面(1u)との境界位置Ptでなく、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線(B3)の途中にあってもよい。
【0058】
態様Bにおいて、第二応力非伝達空間(12s)は、ワッシャー(1)の軸線を含む縦断面において、ワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)の位置P1から、半径方向外側に延在し、ボルト穴内周面(1i)の位置P2に至るか(例えば図19(c)参照)又は前記ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)の位置P3に至る(例えば図13~15参照))線を第四境界線(B4)とし、ボルト穴内周面(1i)の延長線を第五境界線(B5)とし、又は追加してワッシャー本体(1b)の下平面(1w)の延長線を第六境界線(B6)とする空間であるともに、縦断面における第四境界線(B4)と第五境界線(B5)、又は第四境界線(B4)と第五境界線(B5)と第六境界線(B6)で囲まれた前記空間を、ワッシャー(1)の軸心を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間である。図13~15を参照すると、第二応力非伝達空間(12s)においても、ボルト穴(1h)から最も遠い位置をPsとし、位置Psからナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離としてLsを有する。図13~15の例では、下平面(1w)の位置P3が、第二応力非伝達空間(12s)において、ボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置Psである。
【0059】
ワッシャー(1)は、縦断面において、応力非伝達空間(1s)の下側及び/又は上側にワッシャー本体(1b)がボルト穴1hまで延在して、その延在部分の先端がボルト穴を画定するボルト穴内周面(1i)を形成している。ボルト穴内周面(1i)は、縦断面において軸線に平行な線分をなすべきであるが、線分の究極的な場合として点でもよい。このボルト穴内周面(1i)を形成するワッシャー本体(1b)の延在部分は、ボルト(3)とワッシャー(1)の位置合わせ用であり、平面図において、少なくとも2箇所、好ましくは少なくとも3箇所において、ボルト穴内周面(Ii)まで延在している必要があるが、ボルト穴内周面(1i)まで延在している部分は突起状であってもよく、すなわち、平面図において、その突起状以外の領域では空間を形成していてもよい(図示せず)。このような空間は、図5~7の縦断面図においては、応力非伝達空間(1s)の下側のワッシャー本体1bが存在する領域であり、図13~15の縦断面図においては、応力非伝達空間(1s)の上側のワッシャー本体(1b)が存在する領域である。このような空間は、形成する必要はないが、形成された場合、応力非伝達空間(1s)と連続した空間を形成する。しかし、この空間は、本発明が定義する応力非伝達空間(1s)とは異なる。
【0060】
本発明の第一の側面のワッシャー締結構造では、ワッシャー(1)が応力非伝達空間(1s)を有するので、ボルト(3)とナット(4)を締結するとき、ナット(4)とワッシャー(1)との間にかかる圧縮応力において、応力非伝達空間(1s)が存在するワッシャー本体(1b)のボルト穴(1h)側の領域では、応力を伝達することができない。締結時の圧縮応力は、基本的に、ナット(4)及びワッシャー本体(1b)のボルト穴(1h)の軸線方向ないし半径方向の外側から内側へいくらか傾斜した角度で作用する(すなわち、基本的に、軸線方向、図6の上下方向に作用する)。そのため、ワッシャー(1)の縦断面において、応力非伝達空間(1s)が存在する領域では、圧縮応力は上下方向にも左右方向にも伝達されないので、ワッシャー(1)の応力非伝達空間(1s)より半径方向の外側の領域における上下方向の圧縮応力が、応力非伝達空間(1s)より上側で半径方向の内側に曲がることで、ボルト(3)とナット(4)のねじ、特に低次山目のねじに対して、作用することができる。上下方向の圧縮応力が曲がることができる角度は最大で45度程度である。したがって、ワッシャー(1)とナット(4)の境界においてボルト穴側にある応力非伝達空間(1s)の半径方向の寸法が大きくなるほど、ボルト(3)とナット(4)のねじに作用する圧縮応力は、より高次側山目に移動し、低次山目、特に1山目のねじに対する応力は小さくなる。こうして、本発明の第一の側面のワッシャーの締結構造では、ワッシャー(1)に上記のような応力非伝達空間(1s)を形成することで、ボルト(3)とナット(4)の低次山目、特に1山目のねじの応力負荷分担率を小さくすることができ、ボルト(3)の噛合い1山目谷底の疲労強度を向上させることができる。
【0061】
図8は、図5~7に示すような第一の側面のワッシャー締結構造の例において、図4の従来方式と同様の寸法構成で、応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法、すなわち、ワッシャー(1)の上平面(1u)における応力非伝達空間(1s)の最もボルト穴(1h)から遠い位置(ワッシャー(1)の上平面(1u)と応力非伝達空間(11s)との境界位置Ptから、ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの距離Lsを、約2.21p(2.21ピッチ相当)とし、応力非伝達空間(11s)の軸線方向寸法(深さ)、すなわち、ボルト穴内周面(1i)の延長線においてワッシャー(1)の上平面(1u)の位置Poから応力非伝達空間(11s)のボルト穴内周面(1i)における最も深い位置(ボルト穴内周面(1i)と応力非伝達空間(11s)との境界位置Phまでの距離Lhを、約1.0p(1.0ピッチ相当)として、ボルト(3)とナット(4)を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析した図であり、図4に対応する図になる。なお、態様Aのワッシャーの形状、寸法を除く他の部分は図1図5の締結体において全て共通である。図8図7とともに参照すると、位置Pt(Ps)近傍とナット最外周部を比較すれば、位置Pt(Ps)付近の方が大きな応力を発生している。白色の応力大が位置Pt(Ps)から斜めねじ山方向に出て、ナット内部に入ったところで明るいグレーと暗いグレーが大きく広がり、ナットねじ山の開放側の3,4,5山目に幅広く拡散しており、ねじ山の6番、7番では黒色となっている。これに対し、ワッシャーの強度は従来方式同様の材料として、位置Pt(Ps)から少し斜めに白色、明るいグレー、暗いグレーがミーゼス相当応力分布の線1mg(図11(a)参照)に類似する分布を示している。この分布状態が力の流れを表わしている。
【0062】
図8図4を比較して見ると、応力の分布状態が大きく異なることが判る。図8では、5山目まで明るいグレーと暗いグレーが広がっていることが見える。ワッシャーの位置Pt(Ps)近傍から斜めねじ山方向に小さな白色が見られるが、この白色が応力の大きさを示していて、この白色の向いている方向にナットねじ山の3、4、5山目がある。図8を参照すると、図4と比べて、応力がより多く開放側に向かって、1山目の応力負荷分担率は小さくなっていることが認められる。負荷分担率の数値は、1山目30.2%であり、2山目は19.4%、3山目は15.2%、4山目は12.6%、5山目は10.3%、6山目は7.4%、7山目は4.9%であった。
【0063】
図9(a)(b)に、図7の各ねじ山の負荷分担率を調べた結果を示す。図9(a)に、本発明の締結構造の一例(図8)の負荷分担率を示し、従来方式ワッシャー締結構造の図4に対応する負荷分担率を比較した表と、図9(b)に、その比較を棒グラフにして表示している。この2つの比較をみれば、従来方式のボルトの噛合い1山目の負荷分担率が35.6%であることに対し、本発明のボルトの噛合い1山目の負荷分担率は30.2%と絶対値で5.4ポイント、相対比では約15%低減している。この1山目負荷低減により、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度向上に効果がある。
【0064】
ボルト、ナット締結部の破壊はボルトの噛合い1山目谷底で亀裂軸破断として発生することが多いが、疲労破壊強度の向上の効果があるとする初期締結負荷の低減がどの様に効果を発揮するのかを説明する。ボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図は、疲労破壊寿命(繰り返し数Nf)と外力負荷(応力振幅σr)の関係を示すものであるが、一般的に次の実験式で示すことができる。
Nf・σr=C
(式中、Nf:疲労破壊するまでの負荷の繰り返し数
σr:負荷の応力振幅
b: 応力指数(一般的に3~5)
C: 材料定数)
ここで示すように、締結噛合い1山目のボルトねじ谷底への負荷を下げておくことは、同じ割合で、外力負荷(σr)分担を下げることにつながり、下がった負荷の応力振幅のb(一般に3~5)乗分、繰返し数Nfを大きくできる効果につながる。負荷分担率が15%低下するので、上記の式から,Nfは50~100%向上し,寿命が1.5~2倍に増大することが期待される。応力指数b=4とすると、寿命が約1.9倍に増大することが期待される。
【0065】
なお、本発明で採用するFEM解析を行うボルト、ナット、ワッシャーの境界条件となるねじ山形状、部材強度、部材ヤング率、ポアソン比、締結トルク、軸力などの要素はすべて従来方式と同様のJIS(ISO)に規定されるものを採用して解析を行い、比較して改良効果を確認している。ねじのピッチに関しては細目を採用する。図4および図8に示す解析では参考にM12×P1.25(細目ねじ)の場合を表示している。第三境界線(B3)を典型的な形で示した一例が図8であり、同じ形状でLsを変えた例のFEM解析結果を図10の右図の中断及び下段に示している。なお、負荷分担比率はLs/pに対する値に換算して示している。ワッシャー内のボルト穴径はねじが通過するために最小の隙間(0.5mm)とし、従来方式のボルト穴とボルトねじの関係と同じ隙間で、かつストレートである。距離Lsは約2.21p(2.21ピッチ相当)、距離Lhは約1.0p(1.0ピッチ)である。ナットの座面の外周径は24mmである。
【0066】
応力非伝達空間(1s)の好ましい態様の例を図5~7の縦断面図に示すが、ワッシャー本体(1b)は、ボルト穴(1h)に開口している。応力非伝達空間(1s)は、縦断面図において、三次元的には、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状である(図7(b)(c)参照)。すなわち、応力非伝達空間(1s)は、図5~7に示す断面形状の空間1sを、軸線を中心として360度回転させてできる三次元形状の空間(同心円環状空間)である。図5~7を参照する応力非伝達空間(1s)が、ワッシャー(1)の縦断面図において、ボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー本体(1b)のボルト穴側における締結力の軸方向の伝達が遮断されるので、ボルト穴側にあるボルト(3)の締結噛合い低次山目にかかる力が減少する。
【0067】
図10は、図7と同様に、第一の側面のワッシャー締結構造の例において、ボルト(3)とナット(4)を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析し、距離Ls(Ls/p)を変化させたときの1山目の応力負担率の変化をまとめたグラフ及びミーゼス相当応力分布図である。図10を参照すると、距離Ls(Ls/p)が大きくなると、1山目の負荷分担率がより小さくなっていることが認められる。Ls/pが0から、0.80、2.21、3.00、3.41、3.81と順に大きくなると、1山目の負荷分担率は、Ls/p=0のときの35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.7%、28.3%に順に低下している。図8(b)のグラフを見ると。各数値は下に凸の曲線に乗っている。ワッシャーの設計では、材質、ヤング率、硬度など様々な条件が関係する設計条件として、ユーザー側で選択してよい。
【0068】
先に述べたボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図の関係式から、負荷分担率が35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.7%、28.3%に低下するとき、応力指数b=4として、Nf及び寿命は、約1.39倍、約1.92倍、約2.22倍、約2.33倍、約2.56倍にそれぞれ増大することが期待される。
【0069】
図11では、力Fが位置Ptで垂直に負荷している例を示しているが,実際のボルト、ナット、ワッシャーの関係においては、図11中のFの矢印の方向は図に対して右上から左下に向かうこともある。その理由は、位置Ptの右側にボルトが有って、位置Ptの上にナット座面があるため、ねじ山でボルト(3)とナット(4)が力を受け渡し、その圧縮力がナット座面とワッシャー(1)の接触部分の最内周部(ここでは位置Pt)に応力集中することによる。このため、ミーゼス相当応力分布曲線の例えば応力線1mgも(図8において)少し時計回りに回転する形になる。このことは、図11の左半分側において境界線(B3)から、応力線1mgを含む圧縮応力分布全体が時計回り方向に傾き、離れることになるので、本発明の評価において悪影響はない。図8のミーゼス相当応力分布図を見てもナット座面とワッシャー(1)の接触する位置Pt近傍に応力大の白色、応力やや大の明るいグレー、応力少し弱い濃いグレーの領域が力Fの方向を示しており、ワッシャー(1)とナット(4)の中で広がっている。この応力の方向は位置Ptからねじ4山目を向いているように見える。
【0070】
(好適な応力非伝達空間;態様A)
本発明の第一の側面の一つの好ましい態様において、応力非伝達空間(1s)は、下記の条件を満たす第一応力非伝達空間(11s)であることが好ましいことが見出された(この態様を態様Aという)。すなわち、第一応力非伝達空間(11s)は、図5~7に示すようなワッシャー(1)の軸線を含む縦断面において、特に図6を参照すると、
・ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)の延長線を第一境界線(B1)とし、ボルト穴内周面(1i)の延長線を第二境界線(B2)とし、第一境界線(B1)より下側かつ第二境界線(B2)より半径方向外側にあり、第一境界線(B1)の位置Ptと第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)とする空間であり、第一応力非伝達空間(11s)においてボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置をPsとし、好ましくは位置Ptが位置Psであり、
・位置Psから、ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの半径方向の距離Lsは、ナット(4)のねじピッチpの0.5倍を超え、6倍以下の長さの範囲にあり、
・第一境界線(B1)から第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も遠い位置までの軸線方向の距離Lh、好ましい態様では第一境界線(B1)が第二境界線(B2)と交わる位置をPoとし、位置Pоから位置Phまでの軸線方向の距離が距離Lhであるが、ナット(4)のねじピッチpの0.01倍以上から、ワッシャー(1)の厚さTの99%以下の範囲にある。
【0071】
図5~7の縦断面図に第一応力非伝達空間(11s)の好ましい態様の例を示すが、ワッシャー本体(1b)は、ボルト穴(1h)に開口するとともに上平面(1u)にも開口する第一応力非伝達空間(11s)を有している。第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)には開口していない。ワッシャー(1)の縦断面において、第一応力非伝達空間(11s)とワッシャー本体(1b)との第三境界線(B3)は、上平面(1u)の位置Ptからボルト穴内周面(1i)(ボルト穴(1h)を画定する面)の位置Phまで繋がる上に凸の応力集中緩和曲線である。図5~7では、第三境界線(B3)は円弧ないし楕円弧である。円弧であれば、中心点はPtからワッシャー内部を通過する真下にあり、楕円弧であればPtは楕円短軸の頂点であることが望ましい。さらに、上平面(1u)の位置Pt付近は、ナット(4)からの力がかかるので、上平面(1u)と第三境界線(B3)との接続の仕方も応力集中緩和曲線であることが望ましく、上平面(1u)の直線からなだらかな曲線で第三境界線(B3)に移り、角部がない応力集中緩和曲線であることが重要である。一方、ボルト穴内周面(1i)の位置Ph付近における、第三境界線(B3)とボルト穴内周面(1i)との接続の仕方は、ナット(4)及び被締結物(2)からの力が殆どかからないので、必ずしも応力集中緩和曲線でなくてもよい。例えば、第三境界線(B3)は、図11に示すように、位置Ptから上に凸の曲線で始まり、変曲して下に凸の曲線をなして、位置Phに至ってよい。
【0072】
この態様において、第一応力非伝達空間(11s)は、縦断面において、図5~7に示す上に凸の断面形状を有するが、三次元的には、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状である(図7(b)(c)参照)。すなわち、第一応力非伝達空間(11s)は、図5~7に示す断面形状の空間(11s)を、軸線を中心として360度回転させてできる三次元形状の空間(同心円環状空間)である。
【0073】
図5~7を参照すると、第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー(1)の縦断面において、ボルト穴(1h)に開口している。第一応力非伝達空間(11s)がボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー本体(1b)のボルト穴側における締結力の軸線方向の伝達が遮断されるので、ボルト穴側にあるボルトの締結噛合い低次山目にかかる力が減少する。第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー(1)の縦断面図において、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にも開口している。第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にも開口しているので、ナット(4)及びボルト(3)の低次ねじ山に近い箇所にあり、ボルト(3)の締結噛合い低次山目にかかる力を低減する効果が強力、確実であり得、また空間の深さが小さくても負荷低減効果が強力、確実であり得、ワッシャー本体(1b)における空間の形成も容易である。
【0074】
第一応力非伝達空間(11s)が半径方向の距離Lsを有すると、ボルト(3)の低次、特に1山目の負荷低減により、ボルト(3)の噛合い1山目谷底の疲労強度を向上させる効果があり、距離Lsが大きいほどその効果は大きいが、その効果は次第に飽和する。一つの好ましい態様において、距離Lsは、例えば、ナット(4)のねじピッチpの長さの0.8倍以上、1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、また、5倍以下、4倍以下、3.5倍以下の長さの範囲にあってよい。特に、2.0倍以上、4倍以下であることが好ましい。
【0075】
第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向の距離Lhは、ワッシャー(1)が弾性変形しても、Phがナット座面と接触しない空間を確保しておくように設定され、ねじピッチの0.01倍~0.1倍程度のごく浅くても良く、ワッシャー(1)を軽量化するには、深くても良い。一つの好ましい態様において、距離Lhは、例えば、ナット(4)のねじピッチpの0.1倍以上からワッシャー(1)の下記厚さTの90%以下の範囲、さらにはねじピッチpの1倍以上からワッシャー(1)の厚さTの65%以下の範囲であってよい。望ましくは0.01pを超え、ワッシャーの厚さTの65%以下の範囲であって、更に望ましくは0.03pを超え、ワッシャー(1)の厚さTの50%以下の範囲であって、更に望ましくは0.04pを超え、ワッシャー(1)の厚さTの40%以下の範囲である。なお、距離Lhは、ボルト穴内周面(1i)の面における距離である。距離Lhは、第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も長い距離であってよいが、第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も長い距離でなくてもよい。距離Lhが第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も長い距離であるか否かに関わりなく、第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も長い距離は、ナット(4)のねじピッチpの0.01倍から、ワッシャー(1)の厚さTの99%以下であることが好ましい。
【0076】
一つの好ましい態様において、距離Lhあるいは第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も長い距離は、ナット(4)のねじピッチpの0.5倍以上から、ワッシャー(1)の厚さTの95%以下の範囲であり、さらに30~90%の範囲、50~90%の範囲にあってよい。距離Lhあるいは第一応力非伝達空間(11s)の軸線方向に最も長い距離は、厚さTの1%以上、3%以上、5%以上、10%以上であってもよく、また厚さTの50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であってよい。
【0077】
応力非伝達空間(1s)及び第一応力非伝達空間(11s)を有する態様について先に述べたが、図8~10のミーゼス相当応力評価結果を参照することによって、その評価として、距離Ls(Ls/p)が大きくなると、1山目の応力負荷分担率がより小さくなっていることについても、既に述べたとおりである。
【0078】
(ミーゼス相当応力分布)
第一の側面の態様Aのワッシャー締結構造では、一つの好ましい態様において、第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)は、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にかかる締結力を、ワッシャー(1)の上平面(1u)が位置Ptから位置Poまで平坦であると仮定したワッシャー(1)に対してかけたときに、上記仮定のワッシャー(1)内に発生するミーゼス相当応力分布において、位置Ptから垂直下方向にかかるミーゼス相当応力の大きさを基準にして、その相対応力が95%であるボルト穴側の応力分布線よりも、ボルト穴側にある。
【0079】
ミーゼス相当応力分布は、実際には見ることが出来ない延性材料内部の力の状態を可視化する技術であって、物質内部を細分化し、3軸方向のベクトルを計算し、それをまとめて表現することで内部の力の方向や力(応力)の大きさを分布として表したものである。材料力学において知られている手法であり、代表的な式は以下のとおりであり、ミーゼス応力σMisesは主応力σ1、σ2、σ3を用いて次式で表される;
【数1】
【0080】
本発明ではボルト、ナット、ワッシャーをJIS規定の軸力で締結した時の状態を比較することで従来方式に対して目的に沿って改良を行うためにミーゼス相当応力の分布を使用して、本発明の締結構造を評価した。
【0081】
締結時に発生するボルトの軸力全てが,ナットと相接する山全体で不均等に噛合い,軸力相当の力をナットに移し,ナットの山で不均等に分担した力の総和がナットの内部を経て,ワッシャーとの接触面全面で圧縮する応力となる。ボルト軸力の全体はワッシャーの面全面で受ける力の総和に等しい.図4図8等では1つの縦断面を示しているが,解析は1/360度分で行っているので、360度の総和と一致する.またワッシャーにかかる応力は,決して均等にならず,ナットの内周側(ボルト側)により多く,あるいはかなり多くの割合で(さまざまのシミュレーション結果から)ナット内周側に集中し、ナット外周側の負荷分担は小さい(シミュレーションの黒部分が多い).従って,内周側のナットとワッシャーの接触点Ptに集中して加わると考えても,ワッシャーのボルト穴側にワッシャー本体の部材を多く配置することで強固となりワッシャーの座屈を防げるなど、より安全な締結構造となる。
【0082】
本発明の第一の側面の締結構造の1つ目の要素として,図6及び図8の例において,ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線(4e)から、ナット座面(4w)とワッシャー(1)が触れ始める位置(点)Ptまでの距離Lsがある。この位置Ptに最大荷重がかかり、位置Pt直下に最大の圧縮応力が発生する。
【0083】
図11(a)のミーゼス(von Mises)相当応力分布1mは、一般的に位置Ptに垂直に力が掛かった時のワッシャー内部に発生する圧縮応力の分布状態をFEM解析での計算をポスト処理して表わしている。図11(a)では、第三境界線(B3)も併記しているが、本発明では、ワッシャー(1)が、第一応力非伝達空間(11s)がない平坦な上平面(1u)を有すると仮定して、その仮定のワッシャー(1)の上平面(1u)の位置Pt(第一応力非伝達空間(11s)との境界)に力Fが加わるときに、その仮定のワッシャー(1)の内部に加わるミーゼス相当応力分布を基準とするものであり、図11(a)でも、そのようにして求めたミーゼス相当応力分布を模式的に表している。ミーゼス相当応力分布は、ワッシャーのヤング率とポアソン比に依存し、また応力の大きさは力Fに依存するが、応力分布状況は力Fの大きさに依存しない相対的な応力分布を基準として示すので、図11(a)に示すミーゼス相当応力分布を表す矢印曲線1m(具体的には1maから1mg;力の大きさ、方向を示すベクトルであるが、連続的に描くことで力の流れを表わしている)は、力が拡散する範囲である半円内を縦方向に曲線で延びており、最内部(Pt直下部)の応力1maが最も大きく、それより外部及び遠方になるほど応力が(1mbから1mgへ)順に小さくなる。図11(a)では、第三境界線(B3)は、Pt直下垂線から最も小さい応力線1mgより遠い側(ボルト穴側)に形成されている例である。ただし、図11(a)の応力線1m(1ma~1mg)は7段階の応力分布を表しているが、模式的に任意の応力分布である。
【0084】
図11(b)は、この状態の力の大きさを実際に求めて、黒(応力大)、グレー、淡いグレー、白色(応力小)を使って8段階のグラデーション模様で示したものであり、色が濃いほど応力が大きい状態であり、表示では力Fがかかる中心部Ptの直下の応力1maが一番大きく、位置Ptから最外周の線1mgの部分が、一番応力が小さい。この応力は、さらに最外周線1mgの外側にも広がっているが、外周線1mgの外側(図では線1mgの右側)の応力の大きさは、極微小であり、応力としての影響が無視できるほど小さくなっている。図の最外周線1mgの内部(略半円の内部)が全荷重Fの95%以上を分担している。第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)が、位置Ptから遠い、ミーゼス相当応力がより小さい領域にあれば、第一応力非伝達空間(11s)によって分担されなくなる応力は、その小さい応力分だけであるので、ワッシャー本体(1b)に余計に加わる応力をより小さくできるので、ワッシャーの強度が向上し、ワッシャーの座屈を防止又は低減することができる。
【0085】
従来のワッシャーの典型的なボルト穴構造では、ワッシャー(1)のボルト穴側の端部はワッシャー(1)の上平面(1u)に垂直であり、ボルト(3)の軸線方向であるから、ボルト穴端部に加わる力Fの応力の全部を、ボルト穴端部が100%直下に受ける構造であった。本発明の第一の側面では、ワッシャー(1)の第一応力非伝達空間(11s)を形成する第三境界線(B3)が、上記のミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の95%、90%、さらにより小さい応力分布曲線よりもボルト穴側にあると、位置Ptに加わる力を位置Pt直下よりボルト穴側でも分担するので、ワッシャー1の疲労強度が向上する。第三境界線(B3)が、位置Ptの直下に加わるミーゼス相当応力1maの大きさの95%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるとき、図11(a)では95%の応力分布曲線は例えば1mbのように上平面1uから下平面1wに向かってほぼ垂直に近い線であるが、多くの場合、第三境界線(B3)は距離Ls/p=0.5~6の条件によって、1mbのような応力分布曲線に沿う場合であっても途中のどこかで変曲してボルト穴側に延在するであろう。また、第三境界線(B3)は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の80%、70%、50%、30%、20%、10%、又は5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあってよい。境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあることが特に好ましい。
【0086】
また、第三境界線(B3)が、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の、例えばX%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるとき、第三境界線(B3)はそのX%の応力分布曲線1mに完全に沿う必要はなく、そのX%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあればよく、特にワッシャー(1)の上平面から下平面へ所定の深さまで(通常、上に凸の曲線で)延在した後は、応力非集中線を維持しながら、よりボルト穴側に向かって(ワッシャー(1)の上平面により平行になる方向に、すなわち、下に凸の曲線として)折れ曲がってよい。例えば、図11の第三境界線(B3)は、位置Ptから深さ方向に初めは応力分布曲線1mgに沿っているが(上に凸の曲線)、所定の深さにおいてボルト穴側に曲がって(変曲点を経て下に凸の曲線でボルト穴に向かって)延在している。典型的な1例では、縦断面において第三境界線(B3)は、位置Ptから上に凸の曲線として始まり、変曲して下に凸の曲線として位置Phに至るように構成されてよい(ここにおいて上に凸又は下に凸の曲線とは、その曲線の任意の2点を結ぶ直線に対してその2点の間の点がその直線よりそれぞれ上又は下にあること、その曲線に対する接線がそれぞれ上又は下にあることをいう)。第三境界線(B3)がこのような曲線であることによって、ワッシャー(1)は第一応力非伝達空間(11s)によって小さい応力集中を実現しながら、ワッシャー本体(1b)のボルト穴近くの強度低下を小さくでき、第一応力非伝達空間(11s)を形成する加工量も小さくでき、またボルト(3)との位置合わせにも有利でありえる。第三境界線(B3)は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあり、ワッシャー(1)の上平面(1u)近くでは5%の応力分布曲線に沿いながら、深さがねじピッチのある倍率(例えば0.01倍~0.03倍)以上に達した位置からボルト穴側に変曲することが特に好ましい。
【0087】
図11(b)を参照すると、特定の応力の大きさの分布状態の半径方向寸法は、最初は深さ方向に従い拡大しているが、図11(a)に示す力の流れるベクトル線(1m)が45度程度まで広がったあたりで図11(b)の中心の応力大が徐々に伝播拡大し周囲に応力が少し弱まった領域を順次広げている。応力最大を表わす黒範囲は途中から縮小している。第三境界線(B3)の半径方向寸法を深さ方向の途中で(図11(a)の1maの方向に、例えば1mcまで)縮小させると、その第三境界線(B3)は、最も縮小した位置から軸線方向の線を引いたときに交わる位置Ptに最も近い応力分布曲線(上記の縮小している応力分布曲線より位置Ptに近い応力分布曲線)の応力が被締結物(2)にかかる。したがって、本発明の目的では、ミーゼス相当応力分布範囲は、半径方向寸法が最大になった位置より深い箇所では、その位置から軸線方向に下面まで延ばした直線と考えるとよい。
【0088】
図11(b)において、第三境界線(B3)は、深さ方向に、応力分布図の応力大の範囲の半径方向寸法は縮小していても、その周囲の応力中程度の応力が伝播拡大しているため、第三境界線(B3)の半径方向寸法が縮小することは好ましくない。第三境界線(B3)の位置Ptからボルト穴方向に拡大し、Phに至ることを基本とすれば、位置PtからPhに向かう第三境界線(B3)は、深さ方向で、縮小することがないこと、拡大するだけであることが好ましい。あるいは、応力分布の相対的応力は、曲線矢印の上部(Pt近傍)と下部(図の矢印の矢付近)で大きさが異なるので、1つの態様では被締結物(2)の下面あるいはねじのピッチ10~20pまたはそれ以上までの深さにおいて評価してよい。もう1つの態様では、被締結物(2)のナット側平面からねじ0.1~1ピッチあるいは1~2ピッチの深さまでにおいて評価してよい。
【0089】
逆に、縦断面において、第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)が存在してはならない領域は、Pt直下の線1maからボルト穴側に僅かな領域であるが、位置Ptから始まる第三境界線(B3)のボルト穴側への半径方向の長さが、例えばねじピッチ0.01pないし0.5pまで応力集中緩和曲線であることが好ましい。応力集中緩和曲線については先に記載したが、例えば、第1境界線(B1)と第三境界線(B3)が接する点がPtとなるため、その接する形態は、第三境界線(B3)が応力集中緩和曲線として円弧、または楕円弧の一部であり、Pt位置においてその円弧または楕円弧の接線として接することが望ましい。円弧であれば、その円の中心はPtの下方にあり、楕円であれば、Ptは短軸の頂点になる。
【0090】
また、位置Ptから始まる第三境界線(B3)は、位置Ptからボルト穴側に向かって少なくともねじピッチ0.01pないし0.5pまでは応力集中緩和曲線であることが好ましいが、それよりボルト穴側では必ずしも応力集中緩和曲線でなくてもよい。
【0091】
(第一応力非伝達空間の態様Aの変形例)
図12に、第一応力非伝達空間(11s)の変形例を縦断面図で示す。例えば、
図12(a)は、1つの楕円又は大きな円弧の一部で構成されている。
図12(b)では、第一応力非伝達空間(11s)はワッシャー(1)の両平面に対象に形成されており、ワッシャー(1)の両両面のどちらも上平面としても使える。図12(b)の特徴として、第一応力非伝達空間(11s)を作る第三境界線(B3)がPtよりボルト穴側に必要量延伸された場所で変曲点を経由して下に凸の、例えば円弧の一部により構成され、ワッシャーの上平面(1u)側に戻り、(但しワッシャー上平面(1u)に触れない範囲として)途中でボルト穴側に(半径方向に)延伸しボルト穴にあるPhに至る形状である。ワッシャー製造時の加工量が少なく、ボルトとのセンタリングが容易である形状を持つ。
図12{c)では、ワッシャー(1)の両平面に非対称な第一応力非伝達空間(11s)が形成されているが、ワッシャー(1)の両面のどちらを上平面としても使える。なお、ワッシャー(1)の両平面に非対称な第一応力非伝達空間(11s)を形成した場合、ワッシャー(1)の両面のどちらを上平面としても使ってもよいが、上平面に形成された応力非伝達空間が第一応力非伝達空間として作用するか、下平面に形成された応力非伝達空間が第二応力非伝達空間として作用するか、両方の可能性がある。距離Lsが大きい方の応力非伝達空間が実質的な応力非伝達空間として機能する。この場合、ワッシャー(1)がナット(4)に触れる位置Ptと被締結物(2)に触れる点の間を圧縮力が通ることになり、この2点間よりボルト穴側の(いわゆる半島状の)突起部分はボルトとのセンタリングを行う部分として存在する。
図12(d)は、曲線で中央部分が波を打つ又は一部凹んでいる形状である。この他にも様々な形状が有りうる。
図12(e)は、第一応力非伝達空間(11s)においてボルト穴(1h)から半径方向に最も遠い位置Psが、ワッシャーの上平面(1u)における第一応力非伝達空間(11s)との境界点をなす位置Ptよりも、ボルト穴(1h)からより遠い位置にある例である。
【0092】
(好適な応力非伝達空間;態様B)
本発明の第一の側面の1つの態様として、応力非伝達空間(1s)は、下記の条件を満たす第二応力非伝達空間(12s)であることが好ましいことが見出された(この態様を態様Bという)。すなわち、第二応力非伝達空間(12s)は、図13~15及び図19に示すようなワッシャー(1)の軸線を含む縦断面において、ワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)の位置P1から、半径方向外側に延在し、ボルト穴内周面(1i)の位置P2に至るか又はワッシャー本体(1b)の下平面(1w)の位置P3に至る線を第四境界線(B4)とし、ボルト穴内周面(1i)の延長線を第五境界線(B5)とし、又はさらに任意にワッシャー本体(1b)の下平面(1w)の延長線を第六境界線(B6)とする空間であり、
第二応力非伝達空間(12s)は、縦断面において、
・好ましくは、ボルト穴周面(1i)から半径方向に最も遠い位置をPsとして、位置Psからナットのねじ谷底を結ぶ線の円筒性までの半径方向の距離Lsは、ナット(4)のねじピッチpの0.5倍を超え、6倍以下の長さの範囲にあり、
・ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)から、第二応力非伝達空間(12s)までの軸線方向の最短寸法である庇部厚さThは、ワッシャー(1)の厚さTの1%以上である。
【0093】
図13~15の縦断面図に第二応力非伝達空間(12s)の好ましい態様の例を示すが、ワッシャー本体(1b)は、ボルト穴(1h)に開口するとともに下平面(1w)にも開口する第二応力非伝達空間(12s)を有している。第二応力非伝達空間(12s)は、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)には開口していない。第二応力非伝達空間(12s)とワッシャー本体(1b)との第四境界線(B4)は、下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)があり、円弧に近い曲線のコーナー部(Bc)において上平面(1u)に近づき、コーナー部(Bc)からワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)(ボルト穴(1h)を画定する面)に至るボルト穴内周末端部(Be)で終わり、第二応力非伝達空間(12s)の上側に、特にボルト穴内周末端部(Be)の上側に庇部(1p)を形成している。下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)は、製作の精度を考慮して、垂直方向に対して±20度の角度の範囲内であってよい。コーナー部(Bc)は、限定するわけではないが、図13~15の縦断面図において、そのコーナー部(Bc)の線分は、軸線zに対して20~25度、特には25度をなす直線と接する位置から、軸線zに対して65~70度、特には65度をなす直線と接する位置までの部分であってよい。ボルト穴内周末端部(Be)は、コーナー部(Bc)の端部(軸線zに対して65~70度、特には65度をなす直線と接する位置)からボルト穴内周面(1i)までである。
【0094】
この態様において、第二応力非伝達空間(12s)は、縦断面図において、図13~15に示す上に凸の断面形状を有するが、三次元的には、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状である(図15(b)(c)参照)。すなわち、第二応力非伝達空間(12s)は、図13~15に示す断面形状の空間を、軸線を中心として360度回転させてできる三次元形状の空間(同心円環状空間)である。
【0095】
図13~15を参照すると、第二応力非伝達空間(12s)は、ワッシャー(1)の縦断面において、ボルト穴(1h)に開口している。第二応力非伝達空間(12s)がボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー本体(1b)のボルト穴側における締結力の軸方向の伝達が低減されるので、ボルト穴側にあるボルト(3)の締結噛合い低次山目にかかる力が減少する。
【0096】
態様Bのワッシャーをナットとともに用いる場合、ワッシャー(1)とナット(4)の接触面からボルト(3)に至る締結力(圧縮応力)は、第二応力非伝達空間(12s)の存在によって第二応力非伝達空間(12s)のボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置Psの外側からボルト穴側に回り込む角度(圧縮応力がボルト穴側に及ぶ方向)は、位置Psから立上部(Br)を通り、コーナー部(Bc)の曲線の頂点を超えた付近から軸線zに対してほぼ45度の仰角が限界である。この周り込む圧縮応力がボルトの高次山目(特に山頂)側に向かうことで、ボルトの低次山目(特に1山目)の負荷分担を小さくすることができる。
【0097】
第二応力非伝達空間(12s)のボルト穴内周面(1i)から半径方向に最も遠い位置Psから、ナット(4)のボルト穴(1h)のねじ谷底を結ぶ線(4e)までの半径方向の距離Lsが、ナットのねじピッチpの長さの0.5倍以上、6倍以下であることが好ましい。1つの好ましい態様において、距離Lsは、ねじピッチpの長さの0.7倍以上、1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上であること、また5倍以下、4.5倍以下、4倍以下、3.5倍以下であることが好ましい。距離Lsが2ピッチ以上、4ピッチ以下であることが特に好ましい。第二応力非伝達空間(12s)の半径方向の寸法を適当な寸法以下にすると、低次のねじ山目にかかる応力が十分に小さくしながら、ナット及びワッシャーの外径寸法を小さく抑えることができるので、好ましい。
【0098】
図13~15の縦断面図において、ワッシャー本体(1b)は、第二応力非伝達空間(12s)の上側に、庇部(1p)を有する。庇部(1p)は、ボルト穴(1h)に対してボルト(3)をセンタリングするための部材であり、庇部(1p)の先端がボルト穴(1h)の内周面を構成していればよい。ボルト穴(1h)の内周面を構成する庇部(1p)は、ワッシャー本体(1b)の平面図において、必ずしもボルト穴(1h)の全周に存在する必要はないが、全周に存在して円形のボルト穴(1h)を画定することが好ましい。庇部(1p)は、応力を伝達する部分ではないので、図の上下方向の厚さは庇部(1p)の強度が保たれる限り小さくてよく、厚さが小さいほど応力伝達への寄与が小さくなるので、好ましい。例えば、庇部(1p)の最小厚さThは、ワッシャーの厚さTの1%以上であるが、0.1倍以上0.7倍以下とすることが望ましい。更に望ましくは、Thは0.2T≦Th≦0.6Tであり、更に望ましくは0.22T≦Th≦0.5Tである。この庇部1pの厚さは部分的に薄くすることが可能で、コーナー部Bcを通り、ボルト穴内周面Iiに至る途中が一番薄くなる形状を取れば、最内径側のボルトとのセンタリングが容易に行える内周面の長さtを確保することが出来る。
【0099】
図13~15の縦断面図を参照すると、ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の第四境界線(B4)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)と、ボルト穴内周面(1i)に接続されるボルト穴内周側端部(Be)と、立上部(Br)とボルト穴内周側端部(Be)の間を連結するコーナー部(Bc)とを有する。ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の第四境界線(B4)、特に図13~15では上に凸の曲線であるがそのコーナー部(Bc)は、全体が曲線又は曲線と直線の組合せからなり、直線と直線が交差する角部を有していない応力集中緩和線で構成されていることが好ましい。図13~15の縦断面図において、コーナー部(Bc)は、限定するわけではないが、軸線zに対して20~25度、特には25度をなす直線と接する位置から、軸線zに対して65~70度、特には65度をなす直線と接する位置までの部分であってよく、軸線zに対して45度の仰角を有する直線が第四境界線(B4)と接する位置が存在する部分である。コーナー部(Bc)は、例えば、仰角約40~50度、特には約45度の直線から構成されてよいが、その場合には、コーナー部(Bc)と立上部(Br)の接続部分、及びコーナー部(Bc)とボルト穴内周側端部(Be)の接続部分は、曲線で結合されて角を形成しないことが好ましい。また、コーナー部(Bc)は、円弧又は楕円弧あるいはそれに近い形状によって形成されてよい。ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)と第四境界線(B4)との接続の仕方、及びワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)と第四境界線(B4)との接続の仕方も、応力集中緩和線であることは好ましいが、必ずしも必須ではなく、特にワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)と第四境界線(B4)との接続箇所は、ナットと被締結物の間にかかる力が殆ど及ばないか小さいので、応力集中緩和線でなくてもよい。
【0100】
1つの態様において、図13~15の縦断面図を参照すると、ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の第四境界線(B4)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)から、円弧又は楕円弧に接続されてコーナー部(Bc)を形成し、その後曲率がさらに小さくなるボルト穴内周末端部(Be)によってボルト穴内周面(1i)に至ってよい。このような第四境界線(B4)は、下平面(1w)及びボルト穴内周面(1i)との接続箇所を除いて応力集中緩和曲線であり、しかもこの形状の第二応力非伝達空間(12s)は形成が容易である。また、軸線に対する仰角45度の直線がコーナー部(Bc)と接する位置Pが上平面(1u)に近いと、被締結物(2)からねじに伝達される圧縮応力が、第二応力非伝達空間(12s)の外側を回る位置がボルト穴内周面(1i)からより遠くなる効果があり、好ましい。コーナー部(Bc)が軸線に対する仰角45度の直線と接する位置Pは、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)から、ワッシャー(1)の厚さTの1/2以上の軸線方向距離にあることが好ましく、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)における立上部(Br)の起点の位置P3(Ps)からボルト穴内周面(1i)に向かってねじの1ピッチの長さ以下であることが好ましい。立上部(Br)(下平面(1w)から軸線に対する仰角20~25度の直線が第四境界線(B4)と接する位置まで)は、限定されないが、ワッシャー(1)の厚さTの1/4~1/3以上の軸線方向長さを有することが好ましい。ボルト穴内周末端部(Be)(軸線に対する仰角65~70度の直線が第四境界線(B4)と接する位置からボルト穴内周面(1i)まで)は、コーナー部(Bc)との接続箇所からボルト穴内周面(1i)まで、接線が軸線に対して形成する仰角が漸増する形状であり、最大仰角は90度以下であることが好ましい。ボルト穴内周末端部(Be)の上側に形成される庇部(1p)の最小厚さ(図14ではボルト穴内周面(1i)の厚さt)は、ワッシャー(1)の厚さTの3~20%、さらには5~15%の範囲であることが好ましい。ボルト穴内周末端部(Be)は、図13の形状以外に、図19及び図20に示すように様々な変形であってよいし、さらには、ボルト穴内周末端部(Be)は存在せずに、コーナー部(Bc)の途中又は末端がボルト穴内周面(1i)との接続箇所であってもよい。
【0101】
(態様Bのワッシャー締結構造のFEM解析結果)
図16図13~15に示す態様Bのワッシャー締結構造についてFEM解析を行い、ミーゼス相当応力分布で示される応力状況を示す。図13に示す第四境界線(B4)のコーナー部(Bc)上の位置Pに該当する位置周辺に白色(応力大)が斜めにあり、圧縮応力が大きいこと、ねじ山4番方向を向いていることが見られる。明るいグレー(応力やや大)が広がり、ナットねじ山2~5番目までかかっている。ボルト側を見れば白色(応力大)はボルトねじ1,2山目にあるが、面積は小さい。淡グレーは3番、暗いグレー(応力やや小)はボルトの端部5,6山目あたりまで大きく広がっている。この様に応力がナット(4)の多くの部分に広がり、ねじ山の多くでボルト(3)とナット(4)が力を与え合っている。ワッシャー(1)を見れば、ワッシャー内で応力が収まっており、黒い応力小部分がワッシャー(1)の外周側と内周側(ボルト側)にある。ここでは座面変形などの悪影響は起きていない。
【0102】
図17(a)(b)には、図16に示す態様Bのワッシャー締結構造で締結した場合と従来のワッシャーで締結した場合のFEM解析で求めた結果を、図17(a)に各ねじ山の負荷分担率を一覧表で比較を示し、図17(b)にその比較を棒グラフで示す。締結噛合い1山目での負荷分担率の状況は従来構造ワッシャーの場合は35.6%であるのに対し、態様Bのモデル(図13~15の例)では1山目32.3%と絶対値で3.3ポイント、相対値で約9%低減している。
【0103】
態様Bは、第二応力非伝達空間(12s)の半径方向の距離Lsのピッチpに対する比(Ls/p)が大きくなるほど、すなわちLsが長くなることと等価であるが、噛合い1山目ねじ山の負荷分担率が低下する傾向がある。その理由は、距離Lsの終端である位置Ps(P3)の外周側でナット座面にワッシャーからの力が入る関係があり、その入力位置から斜め方向にナットねじ山に向かう力が増し、ナットのねじ山の開放側の3山目以後に応力が増加するため、相対的に1山目に入る負荷分担率が下がるからである。
【0104】
図18に態様Bの距離Ls(Ls/p)の変化と噛合い1山目の負荷分担率の関係を示す。図18に、態様Bのワッシャーの距離Lsを変化した場合の効果をまとめて示す。図18の右上図は、従来構造のワッシャー締結(Ls=0)のミーゼス相当応力分布図、中段はモデル2(Ls=2.21p)のミーゼス相当応力分布図、下段はモデル3(Ls=3.00p)のミーゼス相当応力分布図である。モデル2とモデル3は、第二応力非伝達空間(12s)の形状は、ボルト穴内周面(1i)までの深さは同じで、モデル2と比べてモデル3では距離Ps(位置P3までの距離)が半径方向により長くなった形状である。これらのミーゼス相当応力分布図を参照すると、上図から中図、下図へ行くにつれて、応力大である白色部分がねじ1山目から高次山目側に延びていることが見られる。これらの図から、各黒点位置におけるボルトねじ1山目負荷分担率を求めると、上図(従来方式ワッシャー)では35.6%、中図では32.3%、下図では30.9%であった。距離Lsが長くなるに従い、ねじ1山目の負荷分担率が略直線的に下がることが示され、距離Lsの増大によって、ボルトねじ1山目負荷分担率が35.6%から32.3%へと、相対的に約9%も減少している。この1山目負荷低減により、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度向上に効果がある。先に述べたボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図の関係式から、負荷分担率が35.6%から、34.5%、32.3%、30.9%、30.3%、29.7%にそれぞれ低下するとき、応力指数b=4として、Nf及び寿命は、約1.12倍、約1.45倍、約1.75倍、約1.92倍、約2.13倍にそれぞれ増大することが期待される。
【0105】
(第二応力非伝達空間の態様Bの変形例)
図19(a)~(d)及び図20に、第二応力非伝達空間(12s)の変形例の略図を示す。図19において、第四境界線(B4)はワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の境界線である。
図19(a)は、ボルト穴内周面(1i)の軸線方向長さtが庇部(1p)の最小厚さThより長い一例である。
図19(b)は、被締結物(2)とワッシャー(1)の下平面(1w)の接触する位置P3(Ps)から立上部(Br)に至る部分に応力集中緩和曲線の構造を付けたものの一例を示し、この場合の第二応力非伝達空間(12s)の半径方向の長さは図示のように立上部(Br)よりもより半径方向外側になる。
図19(c)は、ワッシャー本体(1b)の厚さの中間にボルト穴内周面から半径方向外側に向かって凸の第二応力非伝達空間(12s)を設け、第二応力非伝達空間(12s)がワッシャー本体(1b)の上下平面(1u、1w)に開口していない例である。図19(c)は、図19(b)のワッシャーを2枚向かい合わせに張り付けたような例である。ワッシャー本体(1b)の厚さTが厚い時に、ナット(4)に近いところに、図19(c)のような第二応力非伝達空間(12s)を設ける事により、噛合い1山目のねじ山負荷分担率を低減することが出来る。またこの例では、ワッシャーの上下平面が同じになり使用時の誤使用がない。
図19(d)は、ワッシャー(1)のセンター合わせを考慮した形状であり、ボルト穴内周面の長さtを大きくする方法(ボルト穴側の形状を参照)と、外周側のナット側にリング状や数か所の突起部を設け、ナット外周部を利用してボルトとのセンター合わせをする方法(ワッシャー本体(1b)の外周側の突起を参照)の一変形例を示している。
図20は、コーナー部(Bc)の両側の立上部(Br)とボルト穴内周末端部(Be)に曲線もしくは直線を持ち、その曲線もしくは直線の中間、すなわちコーナー部(Bc)が直線である例である。図20の例では立上部(Br)及びボルト穴内周末端部(Be)も直線であり、それぞれの線の接続部のみが応力集中緩和曲線で接続されている例である。
【0106】
(面取り)
本発明において、ワッシャー本体(1b)は、応力非伝達空間(1s)を形成されて、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)、下平面(1w)、ボルト穴内周面(1i)との接続箇所が断面において応力集中緩和曲線の一部として構成されると、面取りは基本的に不要であるが、応力非伝達空間(1s)の形状によっては、特に円弧状あるいは楕円弧状の曲線形状に面取りしてもよい。第一応力非伝達空間(11s)のワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)側の位置Phは、応力集中緩和曲線の一部として構成されてよく、また応力集中緩和曲線の一部ではないが任意に面取りされてもよい。第二応力非伝達空間(12s)のワッシャー本体(1b)の下平面(1w)の位置P3あるいはボルト穴内周面(1i)側の位置P2は、応力集中緩和曲線の一部として構成されてよく、また応力集中緩和曲線の一部ではないが任意に面取りされてもよい。
【0107】
なお、従来技術において、ワッシャー本体のボルト穴形成部の角は面取りされることがある。従来技術における面取りは縦断面において円弧状又は三角形であることが多いが、その寸法は微細であり、最大でもねじのピッチpの0.35p未満程度であり、0.5pを超え、さらにねじのピッチpと同じになることはないので、本発明の応力非伝達空間(1s)とは明確に区別できるものである。
【0108】
(ワッシャーの外周寸法)
ワッシャー(1)の外周寸法は、ナット(4)の外周寸法と同じかそれより僅かに大きいことが好ましい。ワッシャー(1)の外周寸法は、ワッシャー(1)のねじ穴を覗く平面図においてワッシャー(1)に内接する円の直径と考えてよい。この意味におけるワッシャー(1)の外周寸法Dは、本発明の第一の側面において、用いるボルトの外径に対応して標準的に用いられるワッシャー(1)の外周寸法と同様であってよいが、1つの態様において、ワッシャー(1)の外周寸法は、ワッシャー(1)の内径(又はボルトの外径)の1.8倍以上であってよく、1,9倍以上、2倍以上、2.1倍以上、2,2倍以上、2,3倍以上であってもよい。また、ワッシャー(1)の外周寸法Dは、ワッシャー(1)の内径(又はボルトの外径)の4倍以下、3倍以下、2.5倍以下であってよい。
【0109】
別の好ましい態様において、ワッシャー(1)の外周寸法Dは、ワッシャー(1)の内径(又はボルトの外径)をR4とし、上記距離LsをLsとするとき、(D/2)2-{(R4)/2+Ls}2≧k{(R4)/2}2(式中、k=2.5)であってよく、さらには、k=2.7、k=2.9、k=3.0であってよい。また、ワッシャーの外周寸法Dは、(D/2)2-{(R4)/2+Ls}2≦q{(R4)/2}2(式中、q=3.5)であってよく、さらには、q=3.3、q=3.1、q=3.0であってよい。
【0110】
(ナット)
ナット(4)の外周寸法は、ナット(4)のねじ穴を覗く平面図においてナット(ねじ軸部、フランジナットではフランジ部)に内接する円の直径と考えてよい。この意味におけるナット(4)の外周寸法Dは、本発明の第一の側面において、用いるボルト(3)の外径に対応して標準的に用いられるナット(4)の外周寸法と同様であってよいが、1つの態様において、ナット(4)の外周寸法は、ナット(4)の内径(又はボルトの外径)の1.8倍以上であってよく、1.9倍以上、2倍以上、2.1倍以上、2,2倍以上、2,3倍以上であってもよい。また、ナット(4)の外周寸法Dは、ナット(4)の内径(又はボルトの外径)の4倍以下、3倍以下、2.5倍以下であってよい。
【0111】
また、態様Aの1つの態様において、締結構造を軸線方向から視た平面図において、ワッシャー(1)の上平面(1u)とナット(4)の下平面(4w)との接触面は、軸線を中心として接触面に内接する円を想定したとき、内接円の半径が、ナット(4)のねじの谷底を結ぶ線(4e)とナット(4)の軸線との間の距離の2倍と距離Lsとの和の0.8倍以上、さらには0.9倍以上、1.0倍以上の寸法を有してよい。また、第二応力非伝達空間(12s)が下平面(1w)に開口している態様Bの1つの態様において、締結構造を軸線方向から視た平面図において、ワッシャー(1)の下平面(1w)と被締結物(2)との接触面は、軸線を中心として接触面に内接する円を想定したとき、内接円の半径が、ナット(4)のねじの谷底を結ぶ線(4e)と軸線の距離(半径)の2倍と距離Lsとの和の0.8倍以上、さらには0.9倍以上、1,0倍以上の寸法を有してよい。
【0112】
ワッシャー本体(1b)の外周は、ナット(4)と接触する上平面(1u)の外周よりも大きくてよい。縦断面において、ワッシャー本体(1b)は、最外周(1о)と上平面(1u)との接続部が例えば30~60度、さらには40~50度の仰角で切欠かれていてよい。この切欠き部(1d)の大きさは、ワッシャー本体(1b)の厚さ方向の寸法で、ワッシャー本体(1b)の厚さTの半分以下、さらに3分の1以下であってよい。この切欠き部(1d)は、フランジナットのフランジ部に対応する形状であることができる。
【0113】
別の好ましい態様において、ナット(4)の外周寸法D’は、ナット(4)の内径(又はボルトの外径)をDnとし、上記距離LsをLsとするとき、(D’/2)2-(Dn/2+Ls)2≧k(Dn/2)2(式中、k=2.5)であってよく、さらには、k=2.7、k=2.9、k=3.0であってよい。また、ナットの外周寸法D’は、(D’/2)2-(Dn/2+Ls)2≦q{Dn/2)2(式中、q=3.5)であってよく、さらには、q=3.3、q=3.1、q=3.0であってよい。
【0114】
ナット(4)は、フランジ部のない多角形ナット(通常六角ナット)であってよいが、フランジ部(4f)を有するフランジナットが好ましい。フランジナットはねじ軸部とねじ軸部より拡開したフランジ部(4f)を有し、フランジ部(4f)側の底面(座面)は平坦面である。フランジナットにおいて、フランジ部側の底面(座面)の外周寸法D’が上記の寸法を有することが、所定の締結面積を確保するために好ましい。これに対して、フランジナットにおけるねじ軸部は、底面(座面)の外周寸法Dより小さいことができ、材料費を節約できる。フランジナットにおけるフランジ部(4f)は、ナット(4)とワッシャー(1)との締結力を確保するために、必要な締結面積(の増加)を担うとともに、必要な軸線方向厚さを有することが好ましいが、軸線方向には必要な(最低限の)厚さがあればよく、それよりもねじ開放側の軸線方向厚さ部分は不要なので、縦断面において、仰角約70度以下が好ましく、さらに約60度以下、約50度以下、特に約45度以下あるいは約40度以下、また約20度以上が好ましく、さらに約30度以上、約35度以上、特に約40度以上の仰角(傾斜部)を有する形状として、ねじ軸部の材料を減少させてよい。ワッシャー(1)とナット(4)の間の締結力は、ナット(4)の外周近く(ボルト穴から遠い位置)では、ワッシャー(1)とナット(4)の締結面からナット(4)及びボルト(3)のねじに向かってほぼ40~45度以上の仰角方向の圧縮応力が重要であり、これより仰角の小さい部分の応力伝達はナット(4)のねじに向かわないか、力が小さいことがあり、ナット(4)のそのような部分はなくてもよいので、フランジナットの傾斜部及びねじ軸部としてよい(図3参照)。また、フランジナットのフランジ部の外周面近くは、縦断面において、強度補強のために座面にほぼ垂直であってよく、その部分の厚さは、例えば、ねじピッチpに対して0.5p以上であってよいが、好ましくは1p以上、1.5p以上、2p以上、3p以上であり、20p以下、10p以下、さらには5p以下であってよい。ナットの軸部(4s)とフランジ部(4f)の接続部の外周面は応力集中緩和線で接続されることが望ましい。ねじ軸部の外径はナットのねじ穴径に対応した標準寸法であることが好ましく、また、フランジ部の座面の外径は、応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)に対応してねじ軸部の外径より拡大することが好ましく、その拡大する寸法は応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)の0.7倍以上であることが好ましく、0.8倍以上、0.9倍以上、1.0倍以上であってよく、また1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下、1.1倍以下、1.0倍以下であってよい。また、フランジ部の軸線方向の(最大)寸法、すなわち、フランジ部の半径方向寸法が拡開する始点からナット座面までの寸法は、応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)に対応することが好ましく、その寸法は応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)の0.5倍以上であることが好ましく、0.7倍以上、0.8倍以上、0.9倍以上、1.0倍以上であってよく、また1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下、1.1倍以下、1.0倍以下であってよい。
【0115】
1つの態様において、ワッシャー(1)が態様Bのとき、ナット(4)のフランジ部(4f)の外周傾斜部が、縦断面において、ワッシャー(1)の第二応力非伝達空間(12s)のコーナー部(Bc)と対応し、フランジ部(4f)の外周傾斜部とワッシャー(1)のコーナー部(Bc)の間の最短距離が、ねじ軸部の半径方向寸法(ねじ軸部の外周寸法とねじ内径との差)とほぼ同じ、例えば、0.8~1.2倍、0.9~1.1倍であることが好ましい。
【0116】
ナット(4)のワッシャー(1)側の面(座面)は平坦面であってよい。座面が平坦面であるナット(4)は入手及び製造が容易であり、好ましい。だだし、必要性はないが、締結時に、ナットのワッシャー(1)側の面(座面4w)において、ワッシャー(1)の応力非伝達空間の上側(ナット側)にあって、ねじ軸部(4s)の強度を保持し、かつ締結力を伝達する必要がない部分であれば、空間(凹部)として形成されていてもよい。また、上記のような空間が存在する場合においても、ナット(4)はワッシャー(1)側の平坦面でワッシャー(1)と接触し、ナット(4)のねじ部(ねじ1山目を含む)はそのワッシャー(1)側平坦面より下(ワッシャー側)に位置することはない。
【0117】
また、ナット(4)は、通常の形状に対して、切込み又は凹部(空間)を形成する必要はなく、ナット(4)がフランジナットである場合、フランジ部(4f)及びねじ軸部(4s)のいずれにおいても、ナット(4)の通常の形状に対して、切込み又は凹部(空間)を形成する必要はなく、そのような切込み又は凹部(空間)はないことが好ましい。切込み又は凹部(空間)はナットの強度を損なう恐れがある。ここで、ナット(4)の通常の形状とは、ねじ軸部本体(ねじ軸部を含む多角形部)であれば、ボルト穴(1h)からねじ軸部本体外周までの距離が軸線方向に一定であり、その肉部に切込み又は空隙がないことをいい、フランジ部(4f)であれば、ボルト穴(1h)からねじ軸部本体外周までの距離が、ねじ軸部本体の対応する距離から軸線方向に拡大して座面に至り(座面近傍は、前記したように、ボルト穴(1h)からねじ軸部本体外周までの距離が一定であってよい)、その肉部に余分な切込み又は空隙がないことをいう。
【0118】
〔本発明の第二の側面〕
本発明の第二の側面によれば、平行な第一及び第二平面(1u、1w)を有するワッシャー本体(1b)と、前記ワッシャー本体(1b)を貫通し前記第一及び第二平面(1u、1w)に垂直な方向に延在するボルト穴(1h)とを有するワッシャー(1)であって、前記ワッシャー(1)は、前記ボルト穴(1h)の軸線(z)及び軸線方向と、前記軸線(z)に垂直な半径方向(r)を有し、
前記ワッシャー本体(1b)は、前記ワッシャー(1)の前記軸線を含む縦断面において、前記ボルト穴(1h)に開口しかつ前記半径方向に延在する応力非伝達空間(1s)を有し、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記ボルト穴(1h)の前記軸線(z)を中心とする同心円環状であることを特徴とするワッシャー(1)が提供される。
以下、本発明の第二の側面を、好ましい態様と図面を用いて、限定することなく、説明する。
【0119】
本発明の第二の側面は、第一の側面の応用展開の面を有する発明であり、第一の側面において記載した事項は、そのまま、あるいは第二の側面に適用させるために修正をすれば、第二の側面にも適応する。したがって、特に、第一の側面においてワッシャーについて記載した事項、ワッシャーとワッシャー締結構造との関係に関する事項は、特に断らなくても、第二の側面にも適用されるものであることが理解されるべきである。また、逆に、第二の側面においてワッシャーについて記載する事項、ワッシャーとワッシャー締結構造との関係に関する事項は、特に断らなくても、第一の側面にも適用できるものであることが理解されるべきである。
【0120】
図1及び図5は、ボルト(3)、ナット(4)、ワッシャー(1)を用いて、被締結物(2)を基体(5)に締結する構造の例をその縦断面図として示すが、図1は従来技術の例、図5は本発明のワッシャーを用いる締結構造の例である。ボルト(3)とナット(4)とワッシャー(1)によって被締結物(2)を基体(5)に締結するに当たって、被締結物(2)とナット(4)の間にワッシャー(1)を介在させ、ワッシャー(1)がナット(4)の締結面より大きい面積を有することにより、ナット(4)による被締結物(2)の締結を安定にすることができる。本発明において、ボルト(3)、ナット(4)、ワッシャー(1)、被締結物(2)及び基体(5)の締結方向は、ボルト(3)の軸線方向であり、締結構造、ボルト(3)、ナット(4)及びワッシャー(1)に共通の軸線方向である。軸線方向に垂直な方向を半径方向という。ナット(4)及びワッシャー(1)は、半径方向のボルト側(ボルト穴側)を内側、ボルト側から遠ざかる方向を外側という。
【0121】
ボルト・ナット締結は、ナット(4)に形成された雌ねじを、ボルト(3)に形成された雄ねじに対して、締め付けることで行われるので、ボルト(3)のねじには、基本的に、ボルト(3)の軸線方向(ナット(4)とワッシャー(1)の接触面及びワッシャー(1)と被締結物(2)の接触面に対して垂直な方向)にナット(4)からワッシャー(1)の側に向かう引張応力が作用する(図2参照)。同時に、ナット(4)をボルト(3)に対して締め付けると、ナット(4)のねじに対しては、ナット(4)とワッシャー(1)の接触面との間に圧縮応力が働き、この圧縮応力は、ワッシャー(1)のねじ軸から半径方向に離れた位置とナット(4)のねじとの間に働くので、ねじ軸線に対して傾斜した方向に作用する(図3参照)。図2及び図3において、力線の方向とともに強度がベクトル密集度と長さによって表されている。このナット(4)のねじに働く圧縮応力の反力として圧縮応力が、ボルト(3)のねじに対して働く。したがって、ボルト(3)のねじに対しては、上記の引張応力と圧縮応力が合成された応力が作用する(図4参照)。図4において、※は破壊しやすい場所を示す。
【0122】
この締結構造において、先に述べたように、ボルト(3)の締結噛合い1山目の疲労を原因とする亀裂軸破断が起きやすいという問題がある(図4の※の位置)。図2及び図3は、従来技術の締結構造の例においてボルト(3)及びナット(4)に作用する引張応力と圧縮応力のそれぞれを本発明者が実際に評価した結果を、ベクトルの方向及び強度(ベクトルの密集度及び長さ)として表す図である。ボルト(3)のねじに対してボルト(3)の締結噛合い低次山目側から高次山目側に向かって、1山目、2山目、3山目、4山目・・・と順次かかる応力は小さくなり、1山目に最大の応力がかかっている。図4は、図2及び図3の引張応力と圧縮応力を合成した結果であり、応力ベクトルの大きさをグレースケール表示(白色が最も大きい力を表す)したものである。応力の方向は、白色部分の位置及び向きによって理解することができる。ボルト(3)の締結噛合い1山目(山頂)、2山目(山頂)・・・は、ナット(4)のねじでは締結噛合い1山目(谷底)、2山目(谷底)・・・にそれぞれ対応する。ナットでの負荷分担率(ボルトの負荷分担率も対応している)の数値は、締結噛合い1山目35.6%、2山目20.6%、3山目14.5%、4山目11.0%、5山目8.5%、6山目5.9%、7山目3.9%であり、ねじ山の開放側(高次山目側)4oに向かって急激に負荷分担が下がることが確認された。
【0123】
したがって、締結によって各ねじ山にかかる応力(引張応力及び圧縮応力)を、従来品と比べて、高次山目側(図1~4の上方向、締結力開放側)4оに移動させ、締結によるボルト(3)のねじの締結噛合い1山目及び2山目、特に1山目にかかる応力を低減できれば、ボルト(3)の疲労破壊を減らし、疲労寿命を延ばすことができると考えられる。
【0124】
本発明の第二の側面のワッシャー(1)は、これを可能にする構造をもつワッシャーである。図5は、本発明の第二の側面のワッシャー(1)の1例のボルト穴(1h)を含む縦断面を表す図であるが、その縦断面図において、ワッシャー(1)のワッシャー本体(1b)の被締結物(2)側かつボルト穴(1h)側に応力非伝達空間(1s)が設けられている。この応力非伝達空間(1s)はボルト穴(1h)の軸線を中心として同心円環状の形状である。ワッシャー本体(1b)においてこの応力非伝達空間(1s)の部分では締結力が伝播されないので、ワッシャー(1)と被締結物(2)との接触面からの圧縮応力は、応力非伝達空間(1s)がない部分においてのみ、ワッシャー(1)と被締結物(2)との接触面とナット(4)及びボルト(3)のねじとの間に作用する。応力非伝達空間(1s)がない部分においてボルト(3)の軸方向(図の上方向)に伝播した応力の一部は、応力非伝達空間(1s)より上側においてボルト(3)側に偏向(拡散)するが、応力が偏向(拡散)する角度には限界があるので、ワッシャー(1)と被締結物(2)との接触面からねじに伝達される応力は、応力非伝達空間(1s)がない場合と比べて、ボルト(3)の締結噛合い高次山目谷底側に移動する結果、ボルト(3)の締結噛合い低次山目谷底側にかかる応力を低減することが可能である。
【0125】
図5に示した応力非伝達空間は、本発明の第二の側面のワッシャー(1)の応力非伝達空間の一例(態様Aの一例)であり、本発明のワッシャー(1)はこの構造に限定されない。応力非伝達空間(1s)は、ワッシャー(1)の軸線を含む縦断面においてボルト穴(1h)に開口しかつ半径方向に延在する空間であって、ボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状であればよい。
【0126】
(応力非伝達空間)
応力非伝達空間(1s)は、ワッシャー(1)の縦断面において、ボルト穴(1h)に開口している。応力非伝達空間(1s)がボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)側における締結力の軸方向の伝達が遮断されるので、応力非伝達空間(1s)より外周側からの締結力だけがボルト穴(1h)側に伝達され、締結力は応力非伝達空間(1s)の外周側から回り込むほかないので、ボルト穴(1h)側にあるボルト(3)の締結噛合い低次山目側にかかる力が減少する。
【0127】
応力非伝達空間(1s)は、ワッシャー(1)の縦断面において、ボルト穴(1h)に開口するとともに、さらにワッシャー本体(1b)のナット(4)側の第一平面(上平面)(1u)にも開口していることができ、又はワッシャー本体(1b)の被締結物(2)側の第二平面(下平面)(1w)にも開口していることができ、あるいはワッシャー本体(1b)の第一平面(上平面)(1u)及び第二平面(下平面)(1w)のいずれにも開口していない形状であってもよい。図5~7は、ワッシャー本体(1b)の第一平面(上平面)(1u)側に開口している例である。ワッシャー本体(1b)は、位置合わせ(センタリング)のために、その一部がボルト穴(1h)まで延在して、ボルトの位置合わせを可能にしなければならないので、少なくとも1つの応力非伝達空間(1s)は、通常、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)まで延在している部分を含む縦断面において、ワッシャー本体(1b)の第一平面(上平面)(1u)及び第二平面(下平面)(1w)の一方又は両方に開口しない形状である。本発明の第二の側面において、ワッシャー(1)の第一平面(1u)と第二平面(1w)は、どちらが上であることもできるが、ボルト・ナット締結構造においてはナット側を上と考えることが便利であるので、以下では、説明の便宜上、第一平面を上平面(1u)、第二平面を下平面(1w)と称して説明する。本発明の第二の側面のワッシャー(1)は、二平面のうち一方の平面が第一平面(上平面)とした場合において、本発明の第二の側面のワッシャー(1)の要件を満たせばよい。
【0128】
応力非伝達空間(1s)は、従来から一般的に行われている面取りやバリ取りとは、少なくとも目的及び寸法において、また殆どの場合形状において、異なる。特にワッシャー本体(1b)のボルト穴(1h)に接する面における角の面取りやバリ取りは、ボルト(3)の首下に入れる場合は、ボルト首下Rが乗り上げるなどの干渉を防ぐため軸線方向と半径方向を同じ寸法とする必要がありC取りやR取りを行い、ナット(4)と接触させる場合にはナット座面を傷つけないよう、または被締結物表面を傷つけないよう不要な突起(バリ)を除去する事を目的として、角を許容される最小限の寸法で研削又は切削するものであり、その目的を達成する限り、面取りやバリ取りの寸法はできるだけ小さくされる。その寸法は、ワッシャー本体1bの厚さTの約5%以下、特に4%以下、あるいはボルト穴1hの直径の5%以下、特に4%以下の程度である。具体的な寸法は、ボルト穴(1h)の半径方向において、ボルト穴径が13mmのとき0.5mm未満、ボルト穴径が21mmのとき0.5mm未満、ボルト穴径が36mmのとき1mm未満の程度である。また、面取りやバリ取りの形状は、ワッシャー(1)の縦断面において、殆どの場合、角を傾斜した直線でカットするか、角を円弧状にされるかのいずれかである(角において軸線方向及び半径方向に同じ形状)。これに対して、本発明における応力非伝達空間(1s)は、ボルトとナットの間の締結力の伝達を遮断して、ボルトの締結噛合い低次山目側にかかる応力を減少させることを目的としているので、そのための寸法は面取りやバリ取りとは実質的に異なる寸法(より大きい寸法)である。また、応力非伝達空間(1s)の形状も、通常、面取りやバリ取りとは実質的には異なる。応力非伝達空間1sの形状は、多くの場合、面取りのように角において軸線方向及び半径方向に同じ形状ではなく、軸線方向と比べて半径方向の寸法が大きい形状である。本発明の応力非伝達空間は、その形状と寸法を見れば、面取りやバリ取りと異なることは明らかなものである。本発明のワッシャー(1)は従来方式のワッシャーに求められる“相手(ナット座面、被締結物表面)を傷つけない、ボルト(3)が入る時はボルト首下Rとの干渉を避ける”機能は持たせて設計、製造できる。
【0129】
応力非伝達空間(1s)は、ボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状である。応力非伝達空間(1s)は、例えば、図5に示すような断面形状の空間(1s)を、軸線を中心として360度回転させてできる三次元形状の空間(同心円環状空間)である。同心円環状空間は本発明の効果を損なわない範囲で形状(例えば軸線方向寸法)に変位、変動があってもよい。変位、変動があっても、その範囲又は平均値が、本発明が定義する範囲に入ればよい。ワッシャー(1)の上平面を視る平面図において、ワッシャー本体(1b)がボルト穴(1h)まで延在するのは、ワッシャー本体(1b)の一部でもよいので、その場合、ワッシャー本体(1b)がボルト穴(1h)まで延在しない部分から構成される空間は、同心円環状の応力非伝達空間と連続していることができる。その応力非伝達空間と連続する空間は、応力を伝達しない部分であるが、本発明において定義される応力非伝達空間(同心円環状空間)ではない。
【0130】
上記のように、締結力は基本的に軸線方向に作用するが、ワッシャー(1)の被締結物(2)との接触面からの圧縮応力は、ナット(4)内部を伝わり、軸線方向から一定の広がり(傾斜)をもってボルト(3)のねじに伝達されることができ、応力非伝達空間(1s)の外側からボルト穴(1h)側に回り込むことができる。本発明のワッシャー(1)を用いる場合、ワッシャー(1)と被締結物(2)の間の圧縮応力は応力非伝達空間(1s)の存在によって応力非伝達空間(1s)の外側だけに限定され(結果として半径方向外側へ移動し)、その圧縮応力は応力非伝達空間(1s)の外側からボルト穴側に回り込むほかなく、その回り込む圧縮応力がボルト穴側に及ぶ方向は、応力非伝達空間(1s)のボルト穴(1h)から遠い末端から約45度の角度が最大である。ナット(4)とワッシャー(1)の間の圧縮応力が応力非伝達空間(1s)の外側から最大45度の角度で回り込んでねじの低次山目に伝達されなくても、ボルト(3)とナット(4)の間の締結力は、ボルトねじと軸部の引張応力が基本であり、ねじの低次山目ほど大きいので、これらの2つの締結応力(引張応力と圧縮応力)を合成した力は依然としてねじの低次山目ほど大きい。しかし、応力非伝達空間1sが存在すると、応力非伝達空間(1s)がない場合と比べて、ねじの低次山目にかかる圧縮応力が小さくなる結果として、ねじの低次山目にかかる応力は小さくなる。また、応力非伝達空間(1s)の半径方向の寸法が大きいほど、ねじの低次山目にかかる圧縮応力を小さくすることができるので、ねじの低次山目にかかる引張応力と圧縮応力の合成応力はより小さくなる。応力非伝達空間(1s)の半径方向の寸法を適当な寸法以下にすると、ボルトの低次ねじ山目にかかる応力を小さくしながら、ナット及びワッシャーの外径寸法をあまり大きくしないで済むので、好ましい。
【0131】
本発明の第二の側面のワッシャーにおいて、応力非伝達空間(1s)の半径方向の寸法は、応力非伝達空間(1s)のボルト穴(1h)から最も遠い位置をPsとして、その位置Psから、軸線zと平行なボルト穴内周面(1i)又はその延長線までの半径方向の距離Lと定義することができる。
【0132】
図5~7の縦断面図を参照すると、ワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)のボルト穴(1h)側及び上平面(1u)側に開口した応力非伝達空間(11s)を有することができる。第一応力非伝達空間(11s)では、第一応力非伝達空間(11s)のボルト穴(1h)から最も遠い位置Ps、図5~7では第一応力非伝達空間(11s)がワッシャー本体(1b)の上平面(1u)と接する位置Ptから、軸線と平行なボルト穴内周面(1i)の延長線までの半径方向の距離をLと定義する。
【0133】
図13~14の縦断面図を参照すると、ワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)のボルト穴(1h)側及び下平面(1w)側に開口した第二応力非伝達空間(12s)を有することができる。ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の第四境界線(B4)では、第四境界線(B4)のうち第二応力非伝達空間(12s)のボルト穴から半径方向に最も遠い位置Ps、図13~14では第二応力非伝達空間(12s)がワッシャー本体(1b)の下平面(1w)と接する位置P3から、軸線と平行なボルト穴内周面(1i)又はその延長線までの半径方向の距離をLと定義する。
【0134】
本発明の第二の側面のワッシャー(1)は、一つの好ましい態様において、ワッシャー(1)の縦断面において、応力非伝達空間(1s)が軸線zから半径方向に最も遠い位置Psを有するとき、位置Psから、ボルト穴1hの軸線に平行な内周面(1i)又はその延長線までの半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.7p、より好ましくは0.8p≦L≦5.6p、1.0p≦L≦5.0p、さらに好ましくは1.5p≦L≦4.5p、特に2.0p≦L≦4.0p、さらには2.5p≦L≦3.5p
(式中、前記ボルト穴(1h)の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、
Rが1.9以下のときpは0.2であり、
Rが1.9を超え2.4以下のときpは0.25であり、
Rが2.4を超え3.7以下のときpは0.35であり、
Rが3.7を超え5.5以下のときpは0.5であり、
Rが5.5を超え7.5以下のときpは0.75であり、
Rが7.5を超え9.5以下のときpは1.0であり、
Rが9.5を超え13以下のときpは1.25であり、
Rが13を超え23以下のときpは1.5であり、
Rが23を超え34以下のときpは2であり、
Rが34を超え40以下のときpは3であり、
Rが40を超え150以下のときpは4である。)
を満たす。この態様は、ワッシャーを細目のねじ又は並目のねじを有するボルト及びナットと組み合せるときに有利であり、細目ねじを有するボルト及びナットと組み合せるときに特に有利である。ボルト及びナットは、精密な構造用途では、細目ねじが好適に用いられており、細目ねじでは耐久性の問題がより深刻であり、そのため細目ねじを用いる場合の締結構造の改良がより希求されているので、この態様のワッシャーがもたらす効果は細目ねじのボルト及びナットとともに用いる場合により顕著である。しかし、この態様のワッシャーは、並目ねじのボルト及びナットとともに用いる場合にも効果があり、さらには荒目ねじの場合でも有効でありえる。
【0135】
また、本発明の第二の側面のワッシャー(1)は、他の好ましい態様において、上記の範囲と異なる範囲のLを有することができる。例えば、並目又は荒目ねじのボルト及びナットと組み合せるときに特に有利なワッシャーを提供してもよい。
【0136】
(好ましい応力非伝達空間)
図5に、本発明の第二の側面における好ましい例であるワッシャー(1)と、そのワッシャー(1)を用いるワッシャー締結構造の縦断面図を示す。(3)はボルト、(4)はナット、(1)はワッシャー、(2)は被締結物、(5)は基体である。ワッシャー(1)はワッシャー本体(1b)と、ワッシャー本体(1b)を貫通し、軸線を有するボルト穴(1h)とを有する。ワッシャー(1)及びワッシャー本体(1b)は、軸線及び軸線方向zと、軸線zに対して垂直な半径方向rとを有する。
【0137】
ワッシャー本体(1b)は、平行な二平面、すなわち、上平面(1u)と下平面(1w)を有し、中央にボルト穴(1h)を画定する内周面(1i)と、ボルト穴(1h)から半径方向の外側である外周面(1о)を有する。ボルト穴(1h)は、ボルト(3)を貫通させる穴であり、想定されるボルト径に応じてそのボルト径より僅かに大きい直径Rを有する。例えば、呼びM10(ねじ山径10mm)のボルト用のナットのボルト穴径は11mmであってよい。ボルト穴1hの直径Rを画定する面(内周面)(1i)は、図6のような軸線を含む縦断面図において、軸線と平行である。ボルト穴(1h)の横断面の形状(平面図における形状)は、限定されるわけではないが、通常円形である。ボルト穴1hにボルトを貫通させることで、ワッシャー(1)をボルト(3)に対して安定的に配置させるために、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)はボルト(3)の外径に対して、所定の大きさで、円形であることが好ましい。しかし、後述する庇部1pは、その内周面がボルト穴の内周面(1i)によって構成されることが好ましいが、庇部(1p)の内周面(1i)は、平面図(横断面図)において、円形のボルト穴(1h)の全周に存在する必要はなく、2本以上の突起状をなして、ボルト(3)に対して位置決めができればよい。この突起状の庇部(1p)を有する場合、平面図における突起の間の空間は、本発明の第二の側面におけるボルト穴ではない。平面図においてボルト穴とその突起の間の空間は連続している。その突起の間の空間を含めてボルト穴と考えると、ボルト穴の平面形状は円形ではなくなるが、このような場合には、ボルト穴は仮想の円形の穴であり、ワッシャー本体1bのその仮想の円形の穴を構成する内周面(1i)だけを、ボルト穴の内周面(1i)として考える。
【0138】
図5~7の縦断面図において、ワッシャー本体(1b)は、応力非伝達空間(1s)を有し、応力非伝達空間(1s)はボルト穴(1h)に開口している。応力非伝達空間(1s)は、縦断面図において、三次元的には、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)の軸線を中心として、図6及び図7(a)に示す断面形状の空間を、360度回転して形成される三次元形状の空間(同心円環状)である(図7(b)(c)参照)。応力非伝達空間(1s)がボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー本体(1b)のボルト穴側における締結力の軸方向の伝達が遮断されるので、ボルト穴側にあるボルトの締結噛合い低次山目にかかる力が減少する。
【0139】
本発明の第二の側面のワッシャー(1)をナット(4)とともに用いる場合、ワッシャー(1)とナット(4)の接触面からボルト(3)のねじにかかる圧縮応力は、応力非伝達空間(1s)の存在によって応力非伝達空間(1s)の外周側だけに限定され、応力非伝達空間(1s)の外周側からボルト穴(1h)に回り込むが、その圧縮応力がボルト穴側に及ぶ方向は、応力非伝達空間(1s)のボルト穴(1h)から遠い末端である位置Psから、軸線zに対してほぼ45度の仰角(角度θ)が最大である。この軸線zに対して約45度以下の角度でボルト穴側に伝達される圧縮応力は、応力非伝達空間1sの半径方向寸法Lの大きさに応じて、ボルトの高次山目(特に山頂)、すなわち、開放側に向かうことになり、 ボルトのねじ低次山目、特に1山目の負荷分担率を減少させることが可能である。また、応力非伝達空間(1s)の半径方向の寸法Lを適当な寸法以下にすると、低次のねじ山目にかかる応力が十分に小さくしながら、ナット及びワッシャーの外径寸法を小さく抑えることができるので、好ましい。
【0140】
応力非伝達空間(1s)の距離Lは、先に定義したpの値に基づいて、0.5p以上であるが、例えば、0.6p以上、0.7p以上、0.8p以上、1.0p以上、1.2p以上、2.0p以上、2.5p以上、3p以上であってよく、また5.7以下であるが、例えば、5.0p以下、4.0p以下、3.5p以下であってよい0.6p≦L≦5.6p、より好ましくは、0.8p≦L≦5.6p、1.0p≦L≦5.0p、さらに好ましくは1.5p≦L≦4.5p、特に2.0p≦L≦4.0p、さらには2.5p≦L≦3.5pを満たすことは好ましい。
【0141】
(態様Aの応力非伝達空間;第一応力非伝達空間)
図5に、本発明の第二の側面における態様Aの好ましい例であるワッシャー(1)と、そのワッシャー(1)を用いるワッシャー締結構造の縦断面図を示す。(3)はボルト、(4)はナット、(1)はワッシャー、(2)は被締結物、(5)は基体である。ワッシャー(1)はワッシャー本体(1b)と、ワッシャー本体(1b)を貫通し、軸線を有するボルト穴(1h)とを有する。ワッシャー(1)は及びワッシャー本体(1b)は、軸線及び軸線方向zと、軸線zに対して垂直な半径方向rとを有する。
【0142】
図5~7の縦断面図において、ワッシャー本体(1b)は第一応力非伝達空間(11s)を有し、第一応力非伝達空間(11s)は、ボルト穴(1h)に開口するとともに、上平面(1u)にも開口している。すなわち、第一応力非伝達空間(11s)は縦断面図において上平面(1u)の延長線(B1)に接してその下側にある。縦断面図において、第一応力非伝達空間(11s)とワッシャー本体(1b)との第三境界線(B3)は、上平面(1u)の位置Ptから上に凸の円弧又は楕円弧などの応力集中緩和曲線でワッシャー本体(1b)の内周面(1i)(ボルト穴(1h)を画定する面)の位置Phまで延在している。位置Ptは、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)にある(上平面(1u)の末端であり、上平面(1u)と第一応力非伝達空間(11s)の境界である)ので、軸線zに対する仰角45度の直線Xが第一応力非伝達空間(11s)のボルト穴(1h)から最も遠くで接する位置Psであるとともに、その位置Pを通る直線Xがワッシャー本体(1b)の上平面(1u)と交わる位置Ptでもある。この場合、直線Xが第一応力非伝達空間(11s)と「接する」というが、直線Xが第一応力非伝達空間(11s)と「交わる」ボルト穴(1h)から「最も遠い位置」を意味している。
【0143】
第一応力非伝達空間(11s)は、縦断面図において、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)(又はその延長線)と接しそれより下にある断面形状を有するが、三次元的には、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)の軸線を中心として、図6及び図7(a)に示す断面形状の空間を、360度回転して形成される三次元形状の空間(同心円環状)である(図7(b)(c)参照)。
【0144】
図5~7を参照すると、第一応力非伝達空間(11s)は、ワッシャー(1)の縦断面図において、ボルト穴(1h)に開口している。第一応力非伝達空間(11s)がボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー本体(1b)のボルト穴側における締結力の軸方向の伝達が遮断されるので、ボルト穴側にあるボルトの締結噛合い低次山目にかかる力が減少する。
【0145】
本発明の第二の側面のワッシャーをナットとともに用いる場合、ワッシャー(1)とナット(4)の接触面からボルト(3)のねじにかかる圧縮応力は、第一応力非伝達空間(11s)の存在によって第一応力非伝達空間(11s)の外周側だけに限定され、第一応力非伝達空間(11s)の外周側からボルト穴(1h)に回り込むが、その圧縮応力がボルト穴側に及ぶ方向は、第一応力非伝達空間(11s)のボルト穴から遠い末端である位置Psから、軸線zに対してほぼ45度の仰角(角度θ)が最大である。この軸線zに対して約45度以下の角度でボルト穴側に伝達される圧縮応力は、第一応力非伝達空間(11s)の半径方向寸法Lの大きさに応じて、ボルトの高次山目(特に山頂)、すなわち、開放側に向かうことになり、 ボルトのねじ低次山目、特に1山目の負荷分担率を減少させることが可能である。また、第一応力非伝達空間(11s)の半径方向の寸法Lを適当な寸法以下にすると、低次のねじ山目にかかる応力が十分に小さくしながら、ナット及びワッシャーの外径寸法を小さく抑えることができるので、好ましい。
【0146】
1つの態様において、第一応力非伝達空間(11s)の距離Lは、
0.6p≦L≦5.6p、より好ましくは、0.8p≦L≦5.6p、1.0p≦L≦5.0p、さらに好ましくは1.5p≦L≦4.5p、特に2.0p≦L≦4.0p、さらには2.5p≦L≦3.5p
(式中、前記ボルト穴の半径をRとし、R及びpの単位はmmであり、R及びpは上記した関係にある。)
を満たすことが好ましい。
【0147】
ワッシャー本体(1b)のボルト穴(1h)側の端部は、ワッシャー本体(1b)の末端がボルト穴(1h)に面する内周面(1i)を構成して、ボルト(3)のセンタリングを可能にすればよいので、ワッシャー本体(1b)の末端部(第一応力非伝達空間(11s)の下側)の厚さは小さくしてもよい。ワッシャー本体(1b)の末端(内周面(1i)の軸方向寸法は、ワッシャー本体(1b)の厚さTの1~99%であってよい。また、例えば、ワッシャー本体(1b)の末端部(内周面(1i))の軸方向の最小寸法(厚さ)Thは、ワッシャーの厚さTの0.1倍以上0.7倍以下とすることが望ましい。更に望ましくは、Thは0.2T≦Th≦0.6Tであり、更に望ましくは0.22T≦Th≦0.5Tである。
【0148】
ワッシャーの縦断面図において、ワッシャー本体(1b)と第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)は、曲線又は曲線と直線の組合せからなり、角のない応力集中緩和曲線から構成されることが好ましく、特に曲線だけから構成されることが好ましい。また、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)と第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)との接続箇所は、締結のための応力が集中し易い箇所であるから、角のない応力集中緩和曲線として構成されることが特に好ましい。一方、ワッシャー本体(1b)のボルト穴内周面(1i)と第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)との接続箇所は、応力が大きくないので、必ずしも応力集中緩和曲線として構成されなくてもよい。
【0149】
(ミーゼス相当応力分布)
本発明の第二の側面の態様Aのワッシャーは、1つの好ましい態様において、ワッシャー(1)の縦断面において、ワッシャー本体(1b)と第一応力非伝達空間(11s)との第三境界線(B3)は、ワッシャー本体(1b)が第一応力非伝達空間(11s)を有していない形状であると仮定して、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)に仮想ナットによる締結力を加えたときにワッシャー本体(1b)に形成されるミーゼス相当応力分布において、上平面(1u)が第一応力非伝達空間(11s)と接する位置Ptから、上平面(1u)に垂直な下方向に加わるミーゼス相当応力値を基準として、その基準に対して所定の割合のミーゼス相当応力値の応力分布曲線よりも、ボルト穴1h側にあることが好ましい。この所定の割合は95%であってよい。さらに、この所定の割合は、例えば、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%のいずれでもよい。所定の割合が20%、10%、又は5%であることは特に好ましい。
【0150】
ミーゼス相当応力分布は、実際には見ることが出来ない延性材料内部の力の状態を可視化する技術であって、物質内部を細分化し、3軸方向のベクトルを計算し、それをまとめて表現することで内部の力の方向や力(応力)の大きさを分布として表したものである。材料力学において知られている手法であり、代表的な式は以下のとおりであり、ミーゼス応力σMisesは主応力σ1、σ2、σ3を用いて次式で表される;
【数2】
【0151】
締結時に発生するボルトの軸力全てが,ナットと相接するねじ山全体で不均等に噛合い,軸力相当の力をナットに移し,ナットの山で不均等に分担した力の総和がナットの内部を経て,ワッシャーとの接触面全面を圧縮する応力となる。ボルト軸力の全体は、ワッシャーの面全面で受ける応力総和に等しい.図13は1つの縦断面を示しているが、例えば、図8図11の解析は1/360度分で行っており、360度の総和と一致する。またワッシャー(1)にかかる応力は,決して均等にならず,ボルト穴側(ナットの内周側)により多く,あるいはかなり多くの割合で(さまざまのシミュレーション結果から)ボルト穴側に集中する。ナット(4)及びワッシャー(1)の外周側の負荷分担は小さい(シミュレーションの黒部分が多い)。従って,内径側のナットとワッシャーの接触点Ptに集中して加わると考えても,より安全サイドとなることを考慮して解析,設計するのが適切である。
【0152】
図11を参照すると、締結時にナット(4)の座面からワッシャー(1)の接触面(Ptより外径側の領域)に締結力がかかり、図11(a)の位置Ptに、ナット座面からの圧縮の力Fが垂直に負荷され、位置Ptからワッシャー内に圧縮応力が発生する。このとき、ワッシャー(1)は上下両面とも全面に亘って平坦であり、全面が同一厚さであるワッシャーを仮定し、ワッシャーにかかる力は位置Ptだけに集中してかかると仮定している。そして力Fはワッシャー内を拡散する。このようにして、ワッシャーのボルト穴端部まで、上記のように力がかかっている状態をFEM解析すると、大きな力は力Fの向く方向に働き、同時にワッシャー内を拡散する応力が発生する。ここで、ワッシャー内のミーゼス相当応力分布(相対値)は、ワッシャー及びナットの形状が決まれば締結力の大きさに依存しないので、上記仮定を採用することができる。また、ミーゼス相当応力分布は、ワッシャーの材質(ヤング率とポアソン比)に依存するが、特定のワッシャーではヤング率とポアソン比及び形状で決まる。
【0153】
上記の仮定におけるミーゼス相当応力分布を可視化した例を、図11(b)に白黒のグラデーションで表す。位置Pt直下が最大応力であり、Ptから離れるに従い、応力は弱くなる。また、図11(a)に力の流れ方を、模式的に力線を示す曲線矢印で表現している。図11(a)では、中央の1maからボルト穴側に1mb、1mc、1md、1me、1mf、1mgの6本の線が表示されている。番号は片側しかつけていないが、応力分布曲線は両側に対照的に存在する。応力の大きい順に並べると1ma>1mb>1mc>1md>1me>1mf>1mgである。1maは、Ptから垂直に下方にかかる応力であり、最大応力である。この1maの応力の大きさを基準にしたときの1ma、1mb、1mc、1md、1me、1mf、1mgが表す応力の相対的な大きさは、ワッシャーの締結力の大きさに関係なく決まるが、一定間隔でも、一定でない間隔でも、任意に選択することができる。この例では1maから1mgの外側まで7段階表示である。図11(b)の白黒のグラデーションは9段階で表示しており、図11(a)の線と直接に対応するものではない。しかし、ワッシャーのナット側平面からの深さが浅い領域を見ると、図11(a)の線に近い線が得られる箇所がありえる。ミーゼス相当応力分布を求めることは可能であるので、求めたい相対応力で区分された段階表示にすればよい。例えば、5段階、7段階、8段階、9段階の表示を選択することができ、各段階の強度差は同一としてもよいし、Pt直下付近の相対応力についてのみ、細かい段差にした段階評価も可能である。用途に応じて求めたいミーゼス相当応力分布曲線を知ることが可能である。単純に、位置Ptから垂直に下方にかかる応力1maを基準にして、それに対する相対応力が95%~90%より大きい領域には、第一締結力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)が存在しないことが好ましく、その相対応力線をミーゼス相当応力分布で求めてもよい。
【0154】
図11(a)において、1maは位置Pt直下の垂直線であり、ワッシャー(1)の上平面(1u)では最もボルト穴側の線であり、最大の応力線である。1mb~1mgは1maより順に小さい応力線である。1mgは最も小さい応力線であり、これよりボルト穴側の応力は小さいので、その領域の応力は、締結力がワッシャーの強度に及ぼす影響を無視することができる。したがって、第一締結力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)が1mgよりボルト穴側の領域(破線斜線部)に存在すれば、第一締結力非伝達空間(11s)を形成しても、位置Ptにかかる力のワッシャー強度に対する影響は無視でききる。第三境界線(B3)が、位置Ptの直下に加わるミーゼス相当応力1maの大きさの95%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるとき、図11(a)では95%の応力分布曲線は例えば1mbのように上平面1uから下平面1wに向かってほぼ垂直に近い線であるが、多くの場合、第三境界線(B3)は距離L/p=0.5~5.7の条件によって、1mbのような応力分布曲線に沿う場合であっても途中のどこかで変曲してボルト穴側に延在するであろう。1mgは、例えば、1maにおける応力の10%、特に5%であると好ましい。この相対的応力は、図11(b)から理解できるように、曲線矢印の上部(Pt近傍)における応力と下部(図の矢印の矢付近)における応力の大きさが異なるので、1つの態様ではワッシャーの下平面(1w)(すなわち被締結物(2)に接する面)において評価してよい。
【0155】
もう1つの態様では、ワッシャーのナット側平面から特定の深さまで評価してよい。このような応力分布を表わしているのが図11(b)の黒(応力大)~グレー~白色(応力小)である。力は拡散する時も接線方向で45度程度に広がることが多い。その時、Pt直下の応力の強さ(1ma)とそれよりボルト穴側の応力の強さ(例えば1mc)を比tすれば、1maの方が大きいことは、図11(b)の黒色とグレーで表現されている。図11(b)の黒や濃いグレー(応力大)の領域は位置Ptの下に向かって応力低下していることが見られるが、これは与えられた力はワッシャー内部で横方向(ねじ軸半径方向)にも拡散しているため、Pt近傍に比較して相対的に応力が小さく表示される。
【0156】
図11(a)(b)のような縦断面において、第一締結力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)が存在してはならない領域は、位置Pt直下の線1maからボルト穴側に僅かな領域であるが、位置Ptから始まる第一締結力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)は、例えば0.01pより大きく0.03p以内(pは先に定義した値である。)まで位置Pt近傍では応力集中緩和曲線であることが重要である。応力集中緩和曲線としては例えば、円弧、または楕円弧であり、円弧であればPtは頂点であり、その円の中心はPtの直下であり、楕円弧であればPt点が楕円の短軸の頂点が望ましい。また、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)の位置Ptから第一締結力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)に連結される部分も、上記にある円弧、楕円の一部、その他の応力集中緩和曲線として構成されることが特に望ましい。
【0157】
本発明の第二の側面では、ワッシャー本体(1b)の第三境界線(B3)が特定のミーゼス相当応力分布よりボルト穴(1h)側にあるということは、曲線矢印の例えば、1mb、1mc、1md、1me,1mf、1mgのいずれかのボルト穴側にのみ第一応力非伝達空間(11s)の第三境界線(B3)があることをいう。例えば、最も好ましく特定のミーゼス相当応力分布が線1mg(上記した相対応力が5%の応力線)である場合、その第三境界線(B3)の右側の領域側には位置Ptからの応力がほとんど影響しない範囲となり、空間をつくってもワッシャー(1)が変形、座屈を起こさない領域である。
【0158】
1つの態様において、図11(a)の破線斜線で示す範囲は位置Ptからの応力の影響を受けない範囲として、その中だけに第一応力非伝達空間(11s)の領域を設定することは好ましい。しかし、部品構成上応力の及ぶ範囲内で使用することもありうるので、その場合には図11(a)の曲線矢印の形に似させて、位置Pt近傍は応力集中緩和曲線で始まり、それよりボルト穴側では第三境界線(B3)が下平面側に下がる形状となるが、第三境界線(B3)は1maよりボルト穴側であればよく、1mgよりも外周側に設けてもよい。図11では、第三境界線(B3)は、位置Ptから、ミーゼス相当応力分布線1mgよりボルト穴(1h)側にあって、上に凸の曲線で始まり、途中で変曲して下に凸の曲線として位置Phに至っているが、特に、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)の位置Ptから第三境界線(B3)に連結される部分も、応力集中緩和曲線として構成されている。1maよりボルト穴側にあればよく、1mbのボルト穴側、1mcのボルト穴側、更に1mdよりボルト穴側、1meよりボルト穴側、1mfよりボルト穴側にあればより好ましい。1mgより外側のボルト穴側に形成されると特に好ましい。逆に一番厳しい1maで垂直に応力分布範囲を切っているのが、従来方式の締結であり、図4の応力分布の状況となる。したがって、境界線B3は1maのように垂直線となってはいけない。ミーゼス相当応力分布の求め方は、上記のように知られている。ミーゼス相当応力は、締結力の大きさによって変わるが、上記の相対的な応力の大きさの分布は不変である。
【0159】
図11に示されるミーゼス相当応力分布の範囲には、その応力分布に相当するナットからの力が入り、ワッシャー内部に圧縮応力が働いている。例えば、ワッシャーの第三境界線(B3)がPtを離れて直ぐにワッシャー内部に向かって入ると想定し、線1mbと線1mcの間に入り、そのまま垂直に下がる線を持つということを想定する時、第三境界線B3が、Ptからボルト穴側に向いている圧縮力ベクトルがある場所を通過することになる。この時、応力力線1mbと1mcの間のPtに近い部分(力線半径の中心からみて、Ptからボルト穴側に向かって5度ほど下がっている部分)では、ボルト穴側を向いているベクトルが大きく働いている。このベクトルはPtから荷重Fにより与え続けられている。この範囲に第三境界線(B3)がある時、その第三境界線B3によって作られた曲線には、荷重F由来の力がワッシャー(1)内部からかかっている。図11(b)などで応力分布を調べてみると、その第三境界線(B3)には応力大の表示がなされる。このベクトルがボルト穴側に向かってワッシャー内にある場合、ナットから入る初期締結負荷Fに外部負荷変動が繰り返し加わる時、その外部負荷が過大であると初期締結負荷が大きく働いている部分であり、第三境界線(B3)で構成される第一応力非伝達空間(11s)のボルト穴側表面が疲労破壊して座屈が起きる可能性がある。このため、内部応力が大きい領域に第三境界線(B3)が入る場合には、ワッシャーの強度、剛性を上げるなど、使用条件を満足する事が望ましい。
【0160】
第二の側面の態様Aは、1つの好適な態様において、ワッシャー(1)の第一締結力非伝達空間(11s)を形作る第三境界線(B3)の形状に厚さの制限を受けることがある。その制限は、i)一定の厚さTの中で第三境界線(B3)はボルト穴側にボルトの軸とセンター合わせを可能とする長さを持つ面があること、但しワッシャー最外周部にセンター合わせ機構を設けた場合には不要、ii)ワッシャーの第一締結力非伝達空間(11s)は片面又は両面にあってよい、iii)ワッシャーの第一締結力非伝達空間(11s)の深さによって減じられるワッシャー部材の厚さはワッシャーの厚さTの1%~99%の範囲であること、iv)ナット座面と接する点Ptは基準点Poを始点として外周側に向かって0.5p以上6p以下の範囲(0.5p≦L≦6p)にあること、v)ワッシャーの第一締結力非伝達空間(11s)を作る境界線B3はミーゼス相当応力分布で応力が掛かっている範囲に入らないこと、vi)位置Ptで境界線B3はナット座面とエッジの無い応力集中緩和曲線で接すること、vii)ナット座面とワッシャーの接触は位置Ptを境界としてそれより外周側であること、であり、態様Aのワッシャーの第一締結力非伝達空間11sはこれらの条件をできるだけ多く満たすのが好適である。ここで、Pt~P間の距離Lは、基準点Pを始点として外周側に向かって0.5p以上6p以下の範囲(0.5p≦L≦6p)にあり、望ましくは1p≦L≦5pであり、更に望ましくは2p≦L≦4pである範囲である。
【0161】
(第一応力非伝達空間の態様Aの変形例)
図12(a)~(d)に、第一応力非伝達空間(11s)の変形例の略図を示す。
図12(a)は、位置Ptからの楕円の一部だけで位置Phに至る第三境界線(B3)を持つ例である。
図12(b)は、第一応力非伝達空間(11s)が上下平面双方にあり上下対称形状であり、位置Ptから楕円の一部を使って出始めた線に続き、変曲点を通り、次に下に凸の線によって、ワッシャーの平面に近づき、再度変曲点があり、水平の直線によって位置Phに至る境界線B3で構成されている例である。
図12(c)は、第一応力非伝達空間(11s)が上下平面双方にあり、上下非対称の第三境界線(B3)によってそれぞれPhに至る形状の例である。
図12(d)は、上平面のみに第一応力非伝達空間(11s)を持ち、楕円の一部で始まり、途中逆向きの円弧の一部が入り最後には直線で位置Phに至る境界線(B3)により第一応力非伝達空間(11s)が形成される例であり、それぞれの線は曲線で繋がる。
図12(e)は、第一応力非伝達空間(11s)においてボルト穴(1h)から半径方向に最も遠い位置Psが、ワッシャーの上平面(1u)における第一応力非伝達空間(11s)との境界点をなす位置Ptよりも、ボルト穴(1h)からより遠い位置にある例である。
【0162】
図12において、1mはミーゼス相当応力分布曲線である。この様な第三境界線(B3)で作られる第一応力非伝達空間(11s)によれば、切削やプレス加工などで空間(11s)を製作する時に変形、減肉させる量が少なくなる利点がある。また、このような場合にはワッシャーの両面に第一応力非伝達空間(11s)を設定できるのでワッシャー使用時に表裏の区別が不要となる利点もある。また、態様Aのワッシャーは図12に示す変形例に制限されない。ワッシャーはボルトとの中心合わせのために、ボルト穴内周面の軸方向寸法はp(pは上記定義した値である。)より長いことが望ましい。このp以上の接触面寸法は一断面の寸法だけではなく、ボルト穴内周面の軸方向又は周方向において複数個所を使ってセンター合わせをする形状、寸法にしても良い。また、ワッシャーの外周側でボルトとセンター合わせをするワッシャーであれば、ボルト穴寸法はPt位置とミーゼス応力分布を示す、少なくとも1mbよりワッシャーのボルト穴側に第三境界線(B3)があればよく、ワッシャーのボルト穴を広くし、広くした部分を軽量化することも可能となる。
【0163】
図12(b)や(c)のように、ワッシャー(1)の両面に第一応力非伝達空間(11s)を設けた場合、ナット(4)の座面と被締結物(2)の接触位置Ptが両面でほぼ同じ距離になることが多いが、この場合にワッシャー(1)内に発生するミーゼス相当応力の分布は、ナット座面からワッシャーのボルト穴側への広がりは少ないため、圧縮応力を受けるワッシャーは座屈を起こさないよう、より高硬度、高強度であることが望ましい。ワッシャーの強度選択は設計時に織り込む必要がある。この場合、被締結物(2)とワッシャー(1)の接する点も応力集中緩和曲線の接線で接触するように形成し、不要な座屈は起こさないようにコーナー部はボルト穴側、外周側を問わず応力集中緩和構造の円や楕円の一部を付けておくことが望ましい。
【0164】
(態様AのワッシャーのFEM解析結果)
図8図4(従来方式ワッシャー)と同様の寸法構成で態様AのワッシャーについてFEM解析を行い、ミーゼス相当応力分布で示される応力状況を示す。位置Ptに白色(応力大)が斜めにあり、圧縮応力が大きいこと、ねじ山4番方向を向いていることが見られる。明るいグレー(応力やや大)が広がり、フランジナットねじ2~5山目までかかっている。ボルト側を見れば白色(応力大)はボルトねじ1,2山目にあるが、面積は小さい。淡グレーはねじ3山目、暗いグレー(応力やや小)はボルトの端部まで大きく広がっている。この様に応力がナット(4)の多くの部分に広がり、ねじ山の多くでボルト(3)とナット(4)が力を与え合っている。ワッシャー(1)の応力分布に関しては、ワッシャー(1)内で応力が収まっており、黒い応力小の部分がボルト(3)側とワッシャー(1)の外周側にある。Ptに相当する接触部分では座面変形などの悪影響は起きていない。
【0165】
図9には、図6に示す態様Aのワッシャー構造で締結した場合と図1に示す従来構造のワッシャーで締結した場合のFEM解析で求めた結果を、図9(a)に各ねじ山の負荷分担率を一覧表で比較して示し、図9(b)にその負荷分担率の比較を棒グラフで示す。締結噛合い1山目での負荷分担率の状況は従来構造ワッシャーの場合は35.6%であるのに対し、態様Aのモデル(図6の例)では1山目30.2%と絶対値で5.4ポイント、相対値で約15%低減している。
【0166】
態様AはL/pが大きくなるほど(Lが長くなるのと等価)噛合い1山目ねじ山の負荷分担率が低下する傾向がある。その理由は距離Lに位置Ps(図8では位置Pt)があり、その外周側でナット座面にワッシャーからの力が入る関係があり、図8に示すように、その入力位置から斜め右上方向にナットのねじ山に向かう力が増し、ナットのねじ山の開放側の3山目以後に応力が増加するため、相対的に1山目に入る負荷分担率が下がるからである。図6でワッシャー(1)の上平面(1u)上において、Lsはナットねじ谷底の軸方向延長線(4e)に直角に交わる点から位置Ps(Pt)までの距離としている。またワッシャー(1)のボルト穴内周面(1i)から位置Ps(Pt)までの距離をLとしている。LはLsに対し、ボルト穴との隙間の長さ分が短くなっている。この隙間長さはボルト穴のボルトに対する隙間長さであり、標準的には使用するナットのねじピッチpの0.35倍~0.65倍であり、ここでは0.4pと設定している。
【0167】
図10の左図は、本発明の第一の側面の態様Aにおける距離L(L/p)の変化と噛合い1山目の負荷分担率の関係を示す。図のグラフの上に横軸L/pの値を示している。図10左図の例ではLs=L+0.5mm=L+0.4p(L/p=(Ls/p)-0.4)である。図10の右図に、態様Aのワッシャーの距離Lを変化した場合の効果をまとめて示している。図10の右上図は、図1の従来構造のワッシャー締結のミーゼス相当応力分布図、右中図はモデル2(L/p=1.81)のミーゼス相当応力分布図、右下図はモデル3(L/p=2.60)のミーゼス相当応力分布図である。モデル2とモデル3は、第一応力非伝達空間(11s)の形状が、Poからボルト穴内周面(1i)のPhまでの深さLhは同じで、モデル2と比べてモデル3では距離Lsが半径方向により長くなった形状である。これらのミーゼス相当応力分布図を参照すると、右上図から右中図、右下図へ行くにつれて、応力大である白色部分がねじ1山目から高次山目側にも延びていることが見られる。これらの図から、各黒点位置において、ボルトねじ1山目負荷分担率を求めると、右上図では35.6%、右中図では30.2%、右下図では29.1%であった。距離LあるいはLsが長くなるに従い、ねじ1山目の負荷分担率が略直線的に下がることが示され、距離Lの増大によって、ボルトねじ1山目負荷分担率が35.6%から29.1%へと、相対的に約18%も減少している。この1山目負荷低減により、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度向上に効果がある。
【0168】
先に述べたボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図の関係式から、負荷分担率が35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.7%、28.3%に低下するとき、応力指数b=4として、Nf及び寿命は、約1.39倍、約1.92倍、約2.22倍、約2.33倍、約2.56倍にそれぞれ増大することが期待される。
【0169】
(態様Bの応力非伝達空間;第二応力非伝達空間)
図13~15に、本発明の第二の側面の態様Bのワッシャー(1)の例を示す。図15(b)(c)以外は縦断面図である。図15(b)(c)は斜視図である。ワッシャー(1)はワッシャー本体(1b)と、ワッシャー本体(1b)を貫通し、軸線を有するボルト穴(1h)とを有する。ワッシャー(1)及びワッシャー本体(1b)は、軸線及び軸線方向zと、軸線zに対して垂直な半径方向rとを有する。
【0170】
ワッシャー本体(1b)は、平行な二平面(この態様でも、便宜上、それぞれ上平面(1u)と下平面(1w)と称する)を有し、中央にボルト穴(1h)を画定する内周面(1i)と、ボルト穴(1h)から半径方向の外側である外周面(1о)を有する。ボルト穴(1h)は、ボルトを貫通させる穴であり、想定されるボルト径に応じてそのボルト径より僅かに大きい直径Rを有する。例えば、呼びM10(ねじ山径10mm)のボルト用のナットのボルト穴径は11mmであってよい。ボルト穴(1h)の直径Rを画定する面(内周面(1i))は、図13~15のような軸線を含む縦断面図において、軸線と平行である。ボルト穴(1h)の横断面の形状(平面図における形状)は、限定されるわけではないが、通常円形である。ボルト穴(1h)にボルトを貫通させることで、ワッシャー(1)をボルトに対して安定的に配置させるために、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)はボルトの外径に対して、所定の大きさで、円形であることが好ましい。しかし、後述する庇部(1p)は、その内周面がボルト穴の内周面(1i)によって構成されることが好ましいが、庇部(1p)の内周面(1i)は、平面図(横断面図)において、円形のボルト穴(1h)の全周に存在する必要はなく、2本以上の突起状をなして、ボルトに対して位置決めができればよい。この突起状の庇部(1p)を有する場合、平面図における突起の間の空間は、本発明においてボルト穴ではない。平面図においてボルト穴とその突起の間の空間は連続している。その突起の間の空間を含めてボルト穴と考えると、ボルト穴の平面形状は円形ではなくなるが、このような場合には、ボルト穴は仮想の円形の穴であり、ワッシャー本体(1b)のその仮想の円形の穴を構成する内周面(1i)だけを、ボルト穴の内周面(1i)として考える。
【0171】
図13~15の縦断面図において、ワッシャー本体(1b)は、ボルト穴(1h)に開口する第二応力非伝達空間(12s)を有し、第二応力非伝達空間(12s)は下平面(1w)にも開口している。第二応力非伝達空間(12s)とワッシャー本体(1b)との境界線は、下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がり(立上部(Br))、円弧に近い曲線のコーナー部を経由して上平面(1u)に近づき、ワッシャー本体(1b)の内周面(1i)(ボルト穴(1h)を画定する面)まで延在して、第二応力非伝達空間(12s)の上側に庇部(1p)を形成している。下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)は、製作の精度を考慮して、垂直方向に対して±20度の角度の範囲内であってよい。
【0172】
第二応力非伝達空間(12s)は、縦断面図において、図13~15に示す上に凸の断面形状を有するが、三次元的には、ワッシャー(1)のボルト穴(1h)の軸線を中心とする同心円環状である(図15(b)(c))参照)。すなわち、第二応力非伝達空間(12s)は、図13~15に示す断面形状の空間を、軸線を中心として360度回転させてできる三次元形状の空間(同心円環状空間)である。
【0173】
図13~15を参照すると、第二応力非伝達空間(12s)は、ワッシャーの縦断面図において、ボルト穴(1h)に開口している。第二応力非伝達空間(12s)がボルト穴(1h)に開口していることによって、ワッシャー本体(1b)のボルト穴側における締結力の軸方向の伝達が遮断されるので、ボルト穴側にあるボルトの締結噛合い低次山目にかかる力が減少する。
【0174】
第二の側面のワッシャーをナットとともに用いる場合、ワッシャー(1)とナット(4)の接触面からボルト(3)のねじ部に至る圧縮応力は、第二応力非伝達空間(12s)の存在によって第二応力非伝達空間(12s)の外側だけに限定され、第二応力非伝達空間(12s)の外側からボルト穴側に回り込む結果として、その圧縮応力がボルト穴側に及ぶ方向は、第二応力非伝達空間(12s)のボルト穴から半径方向に最も遠い位置Psから、軸線zに対して約45度以下の仰角(角度θ)の領域である。この軸線zに対して約45度以下の角度でボルト穴側に曲がる圧縮応力が、ボルトの高次山目(特に山頂)の開放側に向かうことによってボルトの締結噛合い低次山目にかかる応力が小さくなるという好ましい特徴を見出した。第二応力非伝達空間(12s)の半径方向の寸法を適当な寸法以下にすると、低次のねじ山目にかかる応力を十分に小さくしながら、ナット及びワッシャーの外径寸法を小さく抑えることができるので、好ましい。
【0175】
第二の側面の態様Bの一つの態様において、第二応力非伝達空間(12s)の軸線から最も遠い位置Psから、ボルト穴(1h)の軸線に平行な内周面(1u)までの半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.6p、より好ましくは、0.7p≦L≦5.6p、1.0p≦L≦5.0p、さらに好ましくは1.5p≦L≦4.5p、特に2.0p≦L≦4.0p、さらには2.5p≦L≦3.5p
(式中、前記ボルト穴の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、R及びpは上記した関係にある。)
を満たすことが好ましい。
【0176】
図13~15の縦断面図において、ワッシャー本体(1b)は、第二応力非伝達空間(12s)の上側に庇部(1p)を有する。庇部(1p)は、ボルト穴(1h)に対してボルト3とセンタリングするための部材であり、庇部(1p)の先端がボルト穴(1h)の内周面を構成していればよい。ボルト穴(1h)の内周面(1i)を構成する庇部(1p)は、ワッシャー本体(1b)の平面図において、必ずしもボルト穴(1h)の全周に存在する必要はないが、全周に存在して円形のボルト穴(1h)を画定することが好ましい。庇部(1p)は、応力を伝達する部分ではないので、図13~15の上下方向の厚さは庇部(1p)の強度が保たれる限り小さくてよく、厚さが小さいほど応力伝達への寄与が小さくなるので、好ましい。例えば、庇部(1p)の最小厚さ(Th)は、ワッシャーの厚さTの0.1倍以上0.7倍以下とすることが望ましい。更に望ましくは、Thは0.2T≦Th≦0.6Tであり、更に望ましくは0.22T≦Th≦0.5Tである。この庇部(1p)の厚さは部分的に薄くすることが可能で、コーナー部を通り、ボルト穴内周面に至る途中が一番薄くなる形状を取れば、最内径側のボルトとのセンタリングが容易に行える内周面(1i)の長さを確保することが出来る。
【0177】
図13~15の縦断面図を参照すると、ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の第四境界線(B4)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)と、ボルト穴(1h)に面する庇部(1p)を画する部分との間を連結するコーナー部(Bc)を有する。ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の境界線(B4)、特に図13~15では上に凸の曲線であるがそのコーナー部(Bc)の境界線(B4)は、全体が曲線又は曲線と直線の組合せからなり、直線と直線が交差する角部を有していない応力集中緩和線で構成されていることが好ましい。コーナー部(Bc)は、限定するわけではないが、図13~15の縦断面図において、前記境界線が、軸線zに対して20~25度、特に25度をなす直線と接する位置から、軸線zに対して65~70度、特に65度をなす直線と接する位置までの部分であり、軸線zに対して45度の仰角θを有する直線が前記境界線と接する位置(P)が存在する部分である。コーナー部(Bc)は、例えば、仰角約40~50度、特には約45度の直線から構成されてよいが、その場合には、コーナー部(Bc)と立上部(Br)の接続部分、及びコーナー部(Bc)と庇部(1p)の接続部分は、曲線で結合されて角を形成しないことが好ましい。また、コーナー部(Bc)は、円弧又は楕円弧あるいはそれに近い形状によって形成されてよい。コーナー部(Bc)からボルト穴内周面(1i)までは、ボルト穴内周末端部(Be)である。
【0178】
1つの態様において、図13~15の縦断面図を参照すると、ワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の第四境界線(B4)は、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)からほぼ垂直に立ち上がる立上部(Br)から、円弧又は楕円弧又は両側が曲線に繋がる中間が直線の複合線に接続されてコーナー部(Bc)を形成し、その後曲率がさらに小さくなるボルト穴内周末端部(Be)によってボルト穴内周面(1i)に至ってよい。このような第四境界線(B4)は、下平面(1w)及びボルト穴内周面(1i)との接続箇所を除いて応力集中緩和曲線であり、しかもこの形状の第二応力非伝達空間(12s)は形成が容易である。また、軸線に対する仰角45度の直線がコーナー部(Bc)と接する位置Pが上平面(1u)に近いと、被締結物(2)からねじに伝達される圧縮応力が、第二応力非伝達空間(12s)の外側を回る位置がボルト穴内周面(1i)からより遠くなる効果があり、好ましい。コーナー部(Bc)が軸線に対する仰角45度の直線と接する位置Pは、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)から、ワッシャー(1)の厚さTの1/2以上の軸線方向距離にあることが好ましく、ワッシャー本体(1b)の下平面(1w)における立上部(Br)の起点の位置P3(Ps)からボルト穴内周面(1i)に向かってねじの1ピッチの長さ以下であることが好ましい。立上部(Br)(下平面(1w)から軸線に対する仰角20~25度の直線が第四境界線(B4)と接する位置まで)は、限定されないが、ワッシャー(1)の厚さTの1/4~1/3以上の軸線方向長さを有することが好ましい。ボルト穴内周末端部(Be)(軸線に対する仰角65~70度の直線が第四境界線(B4)と接する位置からボルト穴内周面(1i)まで)は、コーナー部(Bc)との接続箇所からボルト穴内周面(1i)まで、接線が軸線に対して形成する仰角が漸増する形状であり、最大仰角は90度以下であることが好ましい。ボルト穴内周末端部(Be)の上側に形成される庇部(1p)の最小厚さ(図14ではボルト穴内周面(1i)の厚さt)は、ワッシャー(1)の厚さTの3~20%、さらには5~15%の範囲であることが好ましい。ボルト穴内周末端部(Be)は、図19及び図20に示すように様々な変形であってよいし、さらにボルト穴内周末端部(Be)は存在せずに、コーナー部(Bc)の途中又は末端がボルト穴内周面(1i)との接続箇所であってもよい。
【0179】
(態様BのワッシャーのFEM解析結果)
本発明の第二の側面の態様Bのワッシャーを用いて、図13に示すようにして、ボルト(3)にナット(4)を締め付けた場合のワッシャー(1)、ナット(4)及びボルト(3)にかかる応力をFEM解析した。ボルト、ナット、ワッシャーのねじ山形状、部材強度、部材ヤング率、ポアソン比、締結トルク、軸力などの要素はすべてJIS{ISO}に規定されるものを適用した。しかし、ナットのフランジ部の厚さ、ねじ軸部の強度については充分な強度を持つ前提としている。この部分はJISでは特に規定が無く、最低の強度を推奨しているものとしている。ねじのピッチは細目を採用した(ボルトのねじ径M=12mm、ねじピッチP=1.25mm)。
【0180】
図16にミーゼス相当応力分布図を示す。図16において、ミーゼス相当応力は色が白いほど大きく、色が黒いほど小さい。グレーは中間の大きさであり、黒色部では白色に比較して応力が小さいことを表している。この図16と従来構造のワッシャーの図4を比較すれば白色の応力大の範囲、位置が明確に異なることが見られる。図16では淡いグレー、濃いグレーの範囲がねじ山5番目まで広がって、黒色(応力小)部分は小さくなっていることが見られる。この図16により応力分布は、ねじ山3山目以後に応力が拡散していることを示している。また、ミーゼス相当応力が大きい白色部分を見ると、凹状空間のコーナー部からねじ軸線方向に対して主に仰角45度またはそれより少し小さい角度で大きなミーゼス相当応力が延びているが、3山目以降(5山目)にも大きなミーゼス相当応力を表す白色及びグレーの部分があることが分かる。このように、凹部空間がない場合と比べて大きいミーゼス相当応力が向かう先が、ナットのねじの3山目以降にあれば、1山目のねじの応力負荷分担率を、凹部空間がない場合と比べて低減できる。
【0181】
図17(a)と(b)は、FEM解析で求めた態様Bのワッシャーと従来構造のワッシャーの各ねじ山の負荷分担率と負荷分担率の比較棒グラフである。図16で使用したモデルでは、距離Lsをp(1.25mm)の2.21倍に設定したものである。締結噛合い1山目の負荷分担率は32.3%であり、従来構造のワッシャーの同負荷分担率35.6%に比較して、絶対値で3.3ポイント、相対比で9.3%下げることが示されている。
【0182】
図18左図は、第二の側面の態様Bのワッシャーにおいて横軸をL/p(同じピッチpであるので、距離Lを変化した場合と等価)として、噛み合い1山目の負荷分担率を示すグラフである。図18の右上図は、図1に対応する従来構造のワッシャー締結のミーゼス相当応力分布図、右中図はモデル2(L=1.81pとしたもの)のミーゼス相当応力分布図、右下図はモデル3(L=2.60pとしたもの)のミーゼス相当応力分布図である。モデル2とモデル3は、第二応力非伝達空間(12s)の形状は、その立上部及びコーナー部の形状はほぼ同じで、モデル2と比べてモデル3では庇部(1p)が半径方向により長くなった形状である。これらのミーゼス相当応力分布図を参照すると、右上図から右中図、右下図へ行くにつれて、応力大である白色部分がねじ1山目から高次山目側にも延びていることが見られる。これらの図から、各黒点位置においてボルトねじ1山目の負荷分担率を求めると、右上図(従来方式ワッシャー)では35.6%、右中図では32.3%、右下図では30.9%であった。距離L(L/p)が長くなるに従い、ねじ1山目の負荷分担率が略直線的に下がることが示され、距離L(L/p)の増大によって、ボルトねじ1山目負荷分担率が35.6%から30.9%へと絶対値で4.7ポイント、相対比で約13%も減少している。この1山目負荷低減により、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度向上に効果がある。先に述べたボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図の関係式から、負荷分担率が35.6%から、34.5%、32.3%、30.9%、30.3%、29.7%にそれぞれ低下するとき、応力指数b=4として、Nf及び寿命は、約1.12倍、約1.45倍、約1.75倍、約1.92倍、約2.13倍にそれぞれ増大することが期待される。
【0183】
(第二応力非伝達空間の態様Bの変形例)
図19(a)~(c)及び図20に、第二応力非伝達空間(12s)の変形例の略図を示す。図19において、B4はワッシャー本体(1b)と第二応力非伝達空間(12s)の境界線である。
図19(a)は、ボルト穴内周面(1i)の軸線方向長さ(t)が庇部(1p)の最小厚さ(Th)より長い一例である。
図19(b)は、被締結物とワッシャー(1)の接触位置から立上部(Br)に至る部分に応力集中緩和曲線の構造を付けたものの一例を示し、この場合の距離Lは図示のように立上部(Br)よりもより半径方向外周側になる。
図19(c)は、ワッシャー本体の厚さの中間にボルト穴内周側から外周側に向かって凸の第二応力非伝達空間(12s)を設け、第二応力非伝達空間(12s)がワッシャー本体の上下平面(1u、1w)に開口していない例である。図19(c)は、図19(b)のワッシャーを2枚向かい合わせに張り付けたような例である。ワッシャー本体の厚さ(T)が厚い時に、ナットに近いところに、図19(c)のような応力非伝達空間(12s)を設ける事により、噛合い1山目のねじ山負荷分担率を低減することが出来る。またこの例では、ワッシャーの上下平面が同じになり使用時の誤使用がない。
図19(d)は、ワッシャーのセンター合わせを考慮した形状であり、ボルト穴内周面の長さtを大きくする方法(ボルト穴側の形状を参照)と、外周側のナット側にリング状や数か所の突起部を設け、ナット外周部を利用してボルトとのセンター合わせをする方法(ワッシャー本体の外周側の突起を参照)の一変形例を示している。図19(d)の例では、ナット外周部を利用してボルト(3)とワッシャー(1)のセンター合わせをするので、ボルト穴の直径は、想定されるボルトの直径と比べて大きくてよい。その場合には、図19(d)の例のボルト穴の直径Rに基づいて不等式0.5p≦L≦5.6pにおける定義に基づくpの値よりも小さいピッチのねじを有するボルトに用いられるが、上記不等式を満たすとき、ボルトのねじ1山目の負荷分担率を低減する効果は得られる。
図20は、第二応力非伝達空間(12s)の境界線(B4)のコーナー部(Bc)が直線で構成され、立上部(Br)もボルト穴内周末端部(Be)も直線で構成され、コーナー部(Bc)と立上部(Br)及びボルト穴内周末端部(Be)との繋がりの部分を曲線で構成している例である。
【0184】
本発明の第二の側面のワッシャー(1)は、2つの平面、すなわち、第一及び第二平面(1u、1w)を有するが、ボルト(3)、ナット(4)で被締結物(2)を締結するとき、ワッシャー(1)の二平面のどちらかを被締結物側(又はナット側)に向けて使用される。第二の側面のワッシャーが態様Aであるか態様Bであるかは、2つの平面のいずれか一方を第一平面(1u)(ナット側、上平面)と考えたときに、態様A又は態様Bの要件を満たせばよい。したがって、1つのワッシャーが、一方の平面を第一平面(1u)と考えると態様Aのワッシャーであるとともに、他方の平面を第一平面(1u)と考えても態様Aのワッシャーであることができる。このような場合、そのワッシャーは、いずれの平面を上平面として使用しても態様Aのワッシャーとして使用することができる。また、1つのワッシャーは、一方の平面を第一平面(1u)と考えると態様Aのワッシャーであるとともに、他方の平面を第一平面(1u)と考えると態様Bのワッシャーであることができる。態様Aの要件を満たすワッシャーは、上下平面をひっくり返すと、態様Bのワッシャーとしても、そのまま使用できることが多い。一方、態様Bの要件を満たすワッシャーは、上下平面をひっくり返して態様Aのワッシャーとして使用してよいが、態様Aのワッシャーとして使用するためには、立上部と下面と接続する部分が応力非集中曲線として構成されていることが好ましい。
【0185】
また、1つのワッシャーが、2つの応力非伝達空間(1s)を有して、その2つの応力非伝達空間(1s)が態様Aの要件と態様Bの要件をそれぞれ満たすことも可能である。このような場合、そのワッシャーは、一方の平面を上平面として使用する際に、態様Aであると同時に態様Bのワッシャーでもあるが、使用時には実質的には1山目負担低減効果の大きい態様のワッシャーとして作用すると考えられる。しかし、本発明の第二の側面のワッシャーは、態様Aと態様Bの要件を同時に満たすとしても、態様A又は態様Bのいずれか一方の態様として使用されることを意図して製造され、その意図される態様で使用することが好ましいことはいうまでもない。
【0186】
(ワッシャーの厚さ)
本発明のワッシャー(1)の厚さ(上下平面間の軸線方向寸法)は、応力非伝達空間が形成されていないワッシャー本体部分における厚さTとして、ボルト穴径Rに対して、0.1倍以上、0.2倍以上、さらに0.5倍以上であってよく、また20倍以下、10倍以下、さらに1.0倍以下であってよい。
【0187】
本発明の態様Aのワッシャーの一つの態様では、厚さ(T)はボルト穴内径の0.1倍以上であり、望ましくはボルト穴径の0.2倍以上2.0倍以下、更に望ましくはボルト穴径の0.3倍以上1.5倍以下であってよい。
【0188】
(ワッシャーの外周面)
本発明のワッシャー(1)の外周面は、図5を参照すると、ワッシャー(1)のナット(4)との接触面(上平面)、及びワッシャー(1)の被締結物(2)との接触面(下平面)が、いずれも、ナット(4)及びワッシャー(1)より被締結物(2)を締結するために十分な面積を有することが好ましい。ナット(4)及びワッシャー(1)により被締結物(2)を締結するための面積は、応力非伝達空間(1s)を有していない従来のワッシャーにおけると同様であってよい。従来のワッシャーにおけるワッシャー(1)の外周面は、ボルト穴径の2倍程度(例えば、2R±10%以内)の内接円を有する寸法であってよい。
【0189】
本発明の一つの態様において、本発明のワッシャー(1)の外周面は、ワッシャー本体(1b)の上平面(1u)における外周に内接する円の直径D、ボルト穴径Rのとき、D=nR(n≧1.8、さらにはn≧1.9、n≧2.0、n≧2.2)であってよい。ここでボルト穴径Rはワッシャー本体の内周面によって画定される中心穴の直径である(本開示において他の箇所でも同じ。)。
【0190】
本発明の一つの態様において、本発明のワッシャーの外周面は、ワッシャー本体(1b)の上平面の平面図において、ワッシャーの上平面の外周面に内接する円の直径が、ボルト穴径の2倍(あるいはその±10%以内;同上)と、ボルト穴の内周面から位置Psでの距離Lとの合計以上の寸法であってよい。D=nR+L(n≧1.8、さらにはn≧1.9、n≧2.0、n≧2.2)であってよい。
【0191】
本発明の他の一つの態様において、例えば、ワッシャー本体の上平面における外周に内接する円の直径D0、ボルト穴径R、ボルト穴の内周面から位置Psでの距離Lとして、(D0/2)2-(R/2+L)2=3k(R/2)2(式中、k≧0.8)であると好適である。式中、k=0.8~1.5、さらにはk=0.9~1.3であるとより好ましい。また、ワッシャーの縦断面図において、ワッシャー本体の外周面が、位置Psを通る仰角45度の直線と交わる位置より内周側にないことが好適である。このとき、ワッシャー(1)の縦断面図において、ワッシャー本体の上平面1u側の外周寸法と比べて、下平面1w側の外周寸法は大きいので、ワッシャー本体の上平面1u側を図6及び図12に示すように傾斜切断(例えば軸線に対する仰角30~60度、特に約40~50度)してよい。
【0192】
本発明の態様Aの一つの態様において、ワッシャーの外周径はボルト穴径の1.4倍以上4倍以下、望ましくはボルト穴径の1.5倍以上3.5倍以下、更に望ましくはボルト穴径の1.7倍以上2.8倍以下であってよい。
【0193】
ワッシャー本体(1b)の外周は、ナットと接触する上平面(1u)の外周よりも大きくてよい。縦断面において、ワッシャー本体(1b)は、外周(1о)と上平面(1u)との接続部が例えば30~60度、さらには40~50度の仰角で切りかかれていてよい。この切欠き部(1d)の大きさは、ワッシャー本体(1b)の厚さ方向の寸法で、ワッシャー本体(1b)の厚さ(T)の半分以下、さらに3分の1以下であってよい。
【0194】
(ワッシーのその他の形状)
本発明のワッシャー(1)は、ワッシャー本体(1b)において、応力非伝達空間以外の空間を形成しない充実体であることが好ましい。しかし、本発明のワッシャーの強度、締結力を阻害しない範囲であれば、応力非伝達空間以外の空間を有してもよい。
【0195】
本発明のワッシャー(1)は、角部を面取りすることができ、特に曲線で面取りすることが好ましい。面取り寸法は小さいので、上記のワッシャー本体及び応力非伝達空間の形状及び寸法を考える場合は、面取りを無視してもよいし、面取り部分を除外して考えてもよい。
【0196】
以下に、ワッシャー(1)のその他の構成及び製造方法を述べるが、これらの事項は本発明の第一の側面及び第二の側面の両方に共通の事項である。
【0197】
(ワッシャーの材質)
本発明のワッシャー(1)の材質については従来のワッシャーで使用されてきた金属、非鉄金属、各種合金、高分子樹脂、酸化物、炭化物、窒化物、複合材料(CFRP;炭素繊維強化プラスチックなど)、硬質樹脂(例えば、ビッカース硬度Hv70以上、さらにはHv100以上の硬度を有する)の1つまたは2つ以上の組み合わせから使用することができる。締結時の圧縮応力に耐えるのに十分な強度を持つものである。また、材質や強度の選定はユーザー側技術者による選択で決定できる。
【0198】
(表面処理)
本発明のワッシャー(1)は、従来からワッシャーに求められている防錆、加飾、摺動性向上、識別などの効果を持つ表面処理を施すことができる。具体的には金属メッキ、高分子塗装、フッ素樹脂塗装、PVD,CVDなどのプラズマ被膜処理によるDLC,TiN,CrN,BNなどの被膜、リン酸マンガン化成処理、アルマイト、電解研磨などの1種類または2種類以上の組み合わせから選択使用することができる。ワッシャー(1)はナット(4)との摺動性確保のために前工程で表面面粗度を向上させる研磨加工を行うことが出来る。特にワッシャー表面でナット座面と接する部分には摩擦抵抗の小さな、更には摩擦係数が安定した表面処理を行うことにより、ナット締付けトルクを軸力に変換する効率が向上し、摩擦のバラつきによる軸力発生変動が小さくなる利点がある。
【0199】
(S-DLC被覆)
ワッシャー(1)の表面はナット座面との間で圧力を伴う摺動を行うため、相対的な摩擦係数が小さな表面が望ましい。初期締結時のみならず使用中にかかる外力負荷はナット座面とワッシャー間で相互に入力する。初期締結時に締付けトルクを基準として締結を行う場合には、ナット座面とねじ山の摩擦抵抗を含むことになり、摩擦が大きい時には実際の軸力発生は小さくなる影響を受ける。この時、ねじ山やナット座面の摩擦抵抗を減ずるため潤滑油を付与することが有る。この給油により摩擦係数がオイル同様と見做せ、摩擦係数は約0.1程度に下がる。ドライ環境では多くの金属の摩擦係数が0.5程度である事を考えれば摩擦係数0.1は格段に低い数値である。同様の目的でワッシャー表面に摩擦を下げるリン酸マンガン処理、固体潤滑剤、二硫化モリブデンペースト塗布などを施し、締結を行うことが有る。このような処理はワッシャー表面との密着性が弱いため繰り返しの増し締めや分解、再締結などには不向きという性質がある。これらの課題を解決できる表面処理として、DLC(ダイヤモンド状炭素膜)などの固体潤滑層被膜があり、なかでも繰り返し締結に適しているのがDLC膜を更に細分化し、表面が溝などにより分割された不連続な膜を多数並べたセグメント構造DLCである。セグメント構造DLC(S-DLC)は、ナットとワッシャーの接触では柔らかいほうの基材に弾性変形が大きく発生するので、高脆性・高硬度薄膜であっても、その基材変形に追随して、膜破壊が起きにくいことが知られている。ワッシャーにDLCなどの低摩擦係数を持つ被膜処理を施した場合、ナット座面とワッシャーが接触する範囲で摩擦が小さくなるため、同じトルクでナットを締めつけた時に座面抵抗と摩擦係数のバラつきが小さくなり、ボルト軸力が向上するとともに軸力のバラつきが小さくなる利点がある。ワッシャーの上平面(ナット座面側)にS-DLCを被膜することにより摩擦低減効果が最も発揮され、S-DLCを施す効果は大きく表れる。
【0200】
S-DLCの被膜の場合、ワッシャーが小さな弾性変形をした場合にも膜の破壊が極少であること、締結完了時に軸力を変化させずにボルトの捻じりトルクを減少するナットの微細な逆回転が出来る特徴を持つ。ボルトの捻じりトルク減少を図れることは、ねじの緩み開始が遅延される効果につながる。
【0201】
ワッシャーの摺動面は、ナットの螺合時の回転を阻害しない面粗度及び平面度をもつように形成するが好適である。このような面粗度としては、算術平均粗さRaが50μm以下、さらには6.5μm以下が好適であり、平面度としては、0.2mm以下、さらには0.05mm以下が好適である。算術平均粗さRaの測定はJISB0601:2013による。
【0202】
(ワッシャーの使用形態)
本発明のワッシャー(1)は、従来のワッシャーと同様に、例えば、図2及び図14に示すように、被締結物(2)とナット(4)の間に挿入して用いることができる。本発明のワッシャーとともに用いるナット(4)は、六角ナットでもよいが、フランジナットであることが好ましい。フランジナットであれば、ナットのフランジ部以外のねじ軸部分を大きくすることなく、ワッシャーとの接触側面の面積を大きくすることができるからである。
【0203】
(ワッシャーの製造方法)
ワッシャーの製造方法は、i)除去加工(機械切削加工など)とii)塑性加工(プレス加工、鍛圧加工など)に大別できる。i)は素材からNC旋盤、精密自動機械、汎用旋盤などの工作機械と切削用刃具を使用して作られるもので、使用対象物専用の性格を持つ。ii)は汎用品を同じ形状で多数製造することに優れ、金型を使用して連続的に作られる。一例として、小さなものは板からプレス加工で打ち抜くことで形状、寸法、が決まり、バリ取り工程と表面処理によって完成品となる。また、中~大型のワッシャーを作る時には冷間鍛造(ファインブランキング)工法により素材から連続的な鍛造をすることで形状を作り上げる事が可能で、表面粗度や平面度などの仕上げ加工、表面処理などの後工程作業がある時には、その部分を行う事で完成品となる。
【0204】
上記の機械加工(マシニング、カッティング)により製造する場合は、一個ずつ加工をするNC旋盤(自動機を含む)のような工作機械ではエンドミル状の専用刃具を使用することが多いので、専用刃具の刃面形状が重要である。従来方式ワッシャーでは座面はほとんど平面であるため、刃具も平面を削ることに適したものを採用している。本発明のワッシャーを削り出すには応力集中緩和曲線を削り出す必要があり、刃具は予め刃部を専用の形状に仕上げてある成形刃物を使用することにより、工作機械のNCプログラム(数値制御部分)に具備されていない楕円曲線を作るには簡単であり、外部でプログラムをあらかじめ作っておく必要が無く、工数低減の合理性を持つ。
【0205】
本発明のワッシャーを形成する場合の刃具について:
1;機械加工で直接構造を加工する場合と、2;金型を作成して、この金型を使用して形を転写する工法に大別される。1の直接加工する場合には穴あけ用のドリルに似たエンドミル形状の刃を、目的に沿った形状に成形することで「削りやすい、工作機械に適応している、刃の強度、耐久性に実績がある」といったものを得られる。2の場合には最終的に加工対象物が製品になるので、転写される形状はいわゆる雄雌の関係となる。この様な形状を切削するためにも本発明のワッシャーの構造となるような曲線を持つ刃具を使用することが望ましい。刃具は切削に限らず研削砥石も含まれる。
【0206】
図21(a)~(e)に刃具の専用形状のいくつかの例を表示する。白抜き部分が刃具21の断面、その周囲の////部分(斜線部)には切り刃22が設けてある刃具21の変形例である。切り刃22の形状が応力非伝達空間の形状に対応する形状であるので、刃具21が回転すると、切り刃22によってワッシャーのボルト穴部分に////部分(斜線部)の断面形状の空間が形成される。
図21(a)は、エンドミル形状であり、ワッシャー構造の境界線B3やB4を楕円や円の形状で作る刃形状22としたもの、多くの穴径に対応することが可能である。
図21(b)は、ドリル23がセンターにあり、両サイドに(a)と同様の応力緩和曲線を形成する刃22が足されたものであり、被切削物に設けられたガイド穴にしたがい穴のセンターとワッシャー構造のセンターを合わせやすい。
図21(c)は、金型などの主に突起部を削り出せる構造としたものであり、転写する対象物の形状がマザーとなる金型となる場合に使用する。
図21(d)は、図19(c)に示すワッシャーのボルト穴側に構造を作る場合に使用する例である。ワッシャーが長いパイプ状である時にパイプ内径端部付近に態様Bのワッシャー構造を作るのに適している。この他にも使用対象に応じた多くの変形例がある。特に楕円、円などの応力集中緩和曲線を作る時に、使用する刃具にあらかじめ刃具に希望する形状を入れておけばNC工作機械で簡単に所望する応力集中緩和曲線を持つ形状を作ることが出来る。
【0207】
塑性加工により本発明のワッシャー(1)を作るには、金型にあらかじめ目的の形状を織り込んでおくことにより所望のワッシャー構造を作ることが出来る。金型形状が異なるだけで製造方法は全く変わらず、工数増加無しに様々な本発明のワッシャーを得られる。金型の転写型が製品になるため、金型を削り出す刃具も応力集中緩和曲線を作る形状になっていることが合理的である。鍛造工法も同じである。
【0208】
厚さの薄いワッシャーを作る際に塑性加工用の金型を使用することが多くある。製造順序の一例を上げると、i)内径穴を打ち抜く、ii)金型に設けた本発明のワッシャー構造作成部分を押し込み形状に形成する、iii)外径部を打ち抜く、iv)バリ取り処理を行う、v)表面処理を行ない完成品となる。ここでi)とii)は同じ金型で行うことも出来る。この様に金型を工夫することで工数増加無しに本発明品を作ることが出来る。この金型の一例を図22に示す。厚さの厚いワッシャー、材質が特別なワッシャー、大きなワッシャーなどを作る際に鋳造方法を採用する場合があり、その際の金型の一例を図23に示す。金型にあらかじめ曲面を設けておけば従来の鋳造技術で本発明のワッシャーを作ることが出来る。加工工数の増加は無い。
【0209】
図22は金型の一例としてパンチ型の縦断面図を示す。雄型(上部)31と雌型(下部)32の中間の太黒線が被加工物33を表わしている。加工前に平板(点線で示す)である被加工物23が穴を基準にパンチ型(金型)31,32でプレス塑性加工を受け、肩~穴部分が下方に楕円型に変形している。ワッシャーの穴のコーナーがワッシャー構造の形状となる。使用時には図の下側からボルトねじ山が出てきて、上からナット座面がボルトに螺合してくる構造である。また、従来と同じに、1回のプレス加工で狙った加工ができることは構造を作るための工数上昇は無いと言える。金型は専用金型となり、穴位置、方向などを間違えることもない。
【0210】
図23は鋳造型41の一例を示す。リング状の鋳物42を黒で表し斜線部が鋳物型41を示している。形状を単純化しているが、黒矢印が湯口(ゲート)43で、そこから溶融金属が流し込まれ空間を満たし、冷却を経て黒色の製品が出来る。斜線で示す金型(鋳物型)にあらかじめワッシャー構造の形状を仕込んでおけば、製品に所望のワッシャーの構造が転写される。鋳造工法はプレス加工のような1方向からの加工ではなく、全方向からの成形が出来るので、例えばブロック状金型に複数の金型形状を設け、その金型内部にワッシャー構造を一度に、複数、あらゆる角度から、異なる寸法で作ることが出来る特徴を持つ。鋳造、ダイキャスト、MIM(金属粉末射出成形),ロストワックス、インジェクションモールドなど素材を溶かして型に入れ成形する金型は無限に応用変形例があり得る。
【0211】
刃具材質
加工用刃具の材質は、従来から実績のある合金鋼、刃物鋼、タングステンカーバイド(WC)などの炭化物、セラミックス、窒化物などから選択使用することができる。
【0212】
表面処理
本発明のワッシャー(1)には、前述したように、従来からワッシャーに求められている防錆、加飾、摺動性向上、識別などの効果を持つ表面処理を施すことができる。
【0213】
刃具の表面処理
刃具の表面処理については従来方式の高周波焼き入れ、浸炭焼入れ、窒化処理などの他に表面に硬化被膜をコートして、耐久性を向上させることが出来る。DLC,TiN、TiC,CrN、BN、Al23などのコーティング薄膜をコートできる、薄膜コーティング方式はPVD(物理蒸着),CVD(化学蒸着),アークイオンプレーティング、スパッタ、FCVA(フィルター型カソーディック真空アーク),マグネトロンスパッタ、PBII(プラズマベースイオン注入法)、DC単パルスCVDなどを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明は、適正に締め付けられたボルト・ナット締結体において使用されるワッシャーの構造の改良を提案する。本発明のワッシャー構造の改良により、ボルトの噛合第1ねじ山の負荷分担率を低下させるだけでなく、各ねじ山の負荷分担率の平準化に効果があり、ボルトのねじ部からの疲労破断強度を高めることが実現できる。
【符号の説明】
【0215】
1 ワッシャー
1b ワッシャー本体
1h ボルト穴
1u 上平面(第一平面)
1w 下平面(第二平面)
1h ボルト穴
1s 応力非伝達空間
1p 庇部
1i ボルト穴内周面
1о ワッシャーの外周面
2 被締結物
3 ボルト
3h ボルト頭
4 ナット
4e ナットのねじ谷底を結ぶ線
4o ナットねじ山の開放側(矢の向きがねじを緩める方向)
4c ナットねじ山の締結側(矢の向きがねじを締め付ける方向)
4w ナットのワッシャーと接する面
4s ナットのねじ軸部
4f ナットのフランジ部
5 基体
11s 第一応力非伝達空間
12s 第二応力非伝達空間
21 刃具
22 切り刃の断面
23 ドリル
31 雄型
32 雌型
33 被加工物
41 鋳造型
42 鋳物
43 湯口(ゲート)
B1~B6 境界線
Br 立上部の境界線
Bc コーナー部の境界線
Be ボルト穴内周末端部の境界線
p ねじピッチ
z 軸線
r 半径方向
θ 仰角
Pt 第一応力非伝達空間の上平面開始位置
Pо 上平面とボルト穴内周面の延長線の交点
P1 第二応力非伝達空間のボルト穴内周面開始位置
P2 第二応力非伝達空間のボルト穴内周面終点位置
P3 第二応力非伝達空間の下平面終点位置
Ps 応力非伝達空間のボルト穴内周面から最も半径方向の遠い位置
R ワッシャーのボルト穴径
Do ワッシャーの外周寸法
Ls 位置Psからボルト穴谷底を結ぶ線までの距離
L 位置Psからボルト穴内周面までの距離
Lh ワッシャー上平面から位置Phまでの距離
T ワッシャーの厚さ
Th 庇部の最小厚さ
t 庇部のボルト穴側端部の厚み
※ 破壊しやすいボルトの噛合い1山目のねじ谷底の位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23