(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】被締結物の締結構造及びボルト穴構造
(51)【国際特許分類】
F16B 31/06 20060101AFI20220824BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
F16B31/06 Z
F16B5/02 Z
(21)【出願番号】P 2021527327
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049484
(87)【国際公開番号】W WO2020261606
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019117936
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391016680
【氏名又は名称】株式会社松尾工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】507346889
【氏名又は名称】株式会社iMott
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】松尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】林田 興明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 喜直
【審査官】土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-167129(JP,A)
【文献】実開平2-25710(JP,U)
【文献】特開2019-19613(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0297261(US,A1)
【文献】米国特許第8926248(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 31/06
F16B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体(2)側から延びるボルト(3)が被締結物(1)のボルト穴(1h)に挿通され、前記ボルト(3)とナット(4)で前記被締結物(1)を前記基体(2)に締結する被締結物(1)の締結構造であって、
前記ボルト(3)、前記被締結物(1)、前記ナット(4)及び前記締結構造は、共通の軸線及び軸線方向(以下単に「前記軸線」及び「軸線方向」ともいう。)並びに前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、前記半径方向において、前記軸線に近い側を内側、前記軸線から遠い側を外側という、
前記基体(2)から前記被締結物(1)へ、前記被締結物(1)から前記ナット(4)へ向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ナット(4)は、前記半径方向に延在する平坦な下面(4w)と、前記軸線方向に延びるねじとを有し、前記ねじは、交互にねじ山とねじ谷とからなり、ねじピッチpを有し、
前記被締結物(1)は、被締結物本体(1b)と前記被締結物本体(1b)を貫通する前記ボルト穴(1h)とを有し、前記被締結物本体(1b)は、前記ナット(4)の前記下面(4w)と接触する上面(1u)と、前記基体(2)と接触する下面(1w)と、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1c)とを有し、
前記被締結物本体(1b)は、それ自身の前記ボルト穴(1h)側及び前記上面(1u)側に、応力非伝達空間(1s)を有し、
前記被締結物(1)の前記軸線を含む縦断面において、
・前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物本体(1b)の前記上面(1u)と最も前記上側で接する前記半径方向の直線を第一境界線(B1)とし、前記ボルト穴内周面(1c)の延長線を第二境界線(B2)とし、前記第一境界線(B1)より下側かつ前記第二境界線(B2)より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線(B1)の位置Ptと前記第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)として、この3つの境界線で囲まれた空間であり、
・前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物(1)の前記ボルト穴(1h)の内周面(1c)から前記半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの前記半径方向の距離Lsは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの長さ2ピッチ以上、6ピッチ以下の長さの範囲にあり、
・前記第一境界線(B1)が前記第二境界線(B2)と交わる位置をPoとし、前記位置Poから前記位置Phまでの距離Lhは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの0.01倍以上から、前記被締結物(1)の厚さ(T)の99%以下の範囲にあり、ここに、前記被締結物(1)の前記厚さ(T)は、前記ボルト穴内周面(1c)及びその延長線上において、前記ナット(4)の前記下面(4w)がある位置から、前記被締結物本体(1b)の前記下面がある位置までの、前記軸線方向の厚さ(T)として定義され、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記縦断面における前記第一境界線(B1)、前記第二境界線(B2)及び前記第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、前記被締結物(1)の前記軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間であることを特徴とする被締結物の締結構造。
【請求項7】
上面(1u)及び下面(1w)を有する締結部(1)と、前記締結部(1)を貫通するボルト穴(1h)とを有する被締結物のボルト穴構造であって、
前記ボルト穴(1h)は、軸線、軸線方向及び前記軸線に垂直な半径方向を有し、
前記締結部(1)の前記下面(1w)から前記上面(1u)に向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記締結部(1)は、前記ボルト穴を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1c)を有し、
前記締結部(1)は、それ自身の前記ボルト穴(1h)側及び前記上面(1u)側に応力非伝達空間(1s)を有し、
前記軸線を含む縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)は、前記締結部(1)の前記上面(1u)と最も上側で接する前記半径方向の直線を第一境界線(B1)とし、前記ボルト穴内周面(1c)の延長線を第二境界線(B2)とし、前記第一境界線(B1)より下側かつ前記第二境界線(B2)より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線(B1)の位置Ptと前記第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)として、この3つの境界線で囲まれた空間であり、
前記縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物(1)の前記ボルト穴(1h)の内周面(1c)から前記半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記第二境界線(B2)までの前記半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.7p
(式中、前記ボルト穴の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、
Rが1.9以下のときpは0.2であり、
Rが1.9を超え2.4以下のときpは0.25であり、
Rが2.4を超え3.7以下のときpは0.35であり、
Rが3.7を超え5.5以下のときpは0.5であり、
Rが5.5を超え7.5以下のときpは0.75であり、
Rが7.5を超え9.5以下のときpは1.0であり、
Rが9.5を超え13以下のときpは1.25であり、
Rが13を超え23以下のときpは1.5であり、
Rが23を超え34以下のときpは2であり、
Rが34を超え40以下のときpは3であり、
Rが40を超え70以下のときpは4であり、
Rが70を超え150以下のときpは4である。)
を満たし、
前記縦断面において、前記第一境界線(B1)から前記位置Phまでの前記軸線方向の距離Hは、前記pの0.01倍以上から、前記締結部(1)の厚さTの99%以下の範囲にあり、ここに、前記締結部(1)の前記厚さTは、前記第一境界線(B1)から、前記締結部(1)の前記ボルト穴内周面(1c)における前記下面(1w)の位置までの前記軸線方向の寸法として定義され、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記縦断面における前記第一境界線(B1)、前記第二境界線(B2)及び前記第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、前記軸線を中心として回転して形成される同心環状の三次元形状の空間であることを特徴とする被締結物のボルト穴構造。
【請求項13】
前記加工、製造において、金型、切削工具、切削刃具、またはこれらの組み合わせを使用して、成形加工をする、請求項12に記載の被締結物のボルト穴構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト・ナット締結構造、被締結物のボルト穴構造およびその製造方法に関する。本発明は、ボルト・ナット締結構造において、噛合第1ねじ山の負荷分担率が最高となり、噛合2山目以降は急激に低下する各ねじ山負荷分担率の不均一特性に対して、可能な限り平準化させ、ボルトの噛合1山目谷底部からの疲労亀裂破壊に対する耐久性向上を実現する、被締結物のボルト穴構造を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な構造物の締結には、ボルトとナットが多く使われ、航空機、自動車、鉄道車両、工作機械、土木機械、農業機械、各種製造装置、橋梁、建築構造物などの多くはボルト、ナットによる締結が一般的である。しかし従来のボルト、ナット、被締結物間の締結において、ボルトの締結噛合い1山目谷底(
図4の※部)からの亀裂軸破断が多く発生している。しかし、これまでボルトの噛合い1山目のねじ谷底部の疲労強度を向上させる視点で被締結物のボルト穴構造についての検討はなされてこなかった。
【0003】
従来構造の場合では、ボルト軸方向の力(初期締付け軸力:平均応力、軸方向外力:変動応力)に対して、ナット側の力の流れが噛合いねじ1山目に最も集中し、噛合い2山目以降で急激に低下する不均一特性を示す。
【0004】
ボルト・ナット締結において、ねじ山の噛合い1山目の負荷がおおよそ35%に達していることは多くの文献で報告されている。本発明者が有限要素解析(FEM解析)により検証した7山を持つナットでの負荷分担率の数値は、1山目35.6%であり、2山目は20.8%、3山目は14.4%、4山目は11.0%、5山目は8.6%、6山目は5.9%、7山目は3.9%と、ねじ山の開放側に向かって次第に負荷分担率が下がることも確認され、多くの報告と一致する負荷分担率となっている。
【0005】
従来構造のボルト穴では、ボルトの疲労軸破断に対して、ボルトを強化して破断に対応する方法を採用して来た。しかし、ボルトのねじ谷底に負荷される応力を低減するものではなく、負荷分担状況は全く変わっていない。ボルト強化は材質変更、熱処理条件の厳密化などで行われてきたが、これは靭性値低下や切り欠き感度上昇という、小さな亀裂が発生した場合に一気に割れが伸展する状態を内包している。他方、従来構造ボルト穴については被締結物にあるため、ユーザー側の設計による多くの要因があり、JIS、ISOなどでも細かな規定を設けることは無く、ユーザーにより「有害なバリがないこと」などや、そのほか部品特有の指示に留まっていた。
【0006】
従来方式の締結のナットが直接被締結物に接する構造において、ボルトが出てくるボルト穴の面取り構造についてのJISやISOの規定ではボルトの首下Rとの干渉を避けるための最小の面取り寸法や45度の角度を示すのみであり、ナットが被締結物と接触する場合の指示は無かった。ボルト首下Rがある面を使って、ナットと被締結物の接触位置がごくわずか外径側に変化するため、ボルトの噛合い1山目の負荷軽減効果はあるが、その効果は微小であって、一般にそのことについて全く意識されてこなかった。ボルト穴径は使用されるボルト太さに対し、適切な隙間を推奨しているにとどまり、各ねじ山にかかる負荷分担率を可能な限り平準化させることには何も触れていない。
【0007】
特許文献1ではリベット締結を主対象として、リベットの挿入、加締めに伴う被締結物の穴の亀裂を防ぐための穴形状を提案している。リベットが入るテーパー穴のテーパー皿形状内部からストレート穴に移行する部分に円弧状のR形状を設け、リベット加締め時にリベットにある円弧状のRと同様形状としたリベット穴が示されている。入口にテーパーを持つ基材で、内部にRのコーナーを持つリベット穴にボルトを入れてナットで締結する技術は、被締結物にテーパーの面取りを施したものと同様なもので、本発明とは目的も締結プロセスも全く異なるものである。
【0008】
特許文献2には、疲労強度向上に優れた金属の形状を作るための加工用工具が提案されており、対象とする金属の角部を45度程度に変形させるための塑性加工工具が示されている。部材にリーディングエッジがあると、そこから疲労破壊が発生しやすいので、部材のコーナー部を叩いて潰しておくことは対象基材自体の疲労強度向上の効果につながる。加工対象部分は本発明と同じであるが、この特許文献2は、金属ボルト穴端部、すなわち特許文献1と同じで被加工物自体の疲労強度の向上を対象とするもので、本発明の、被締結物のボルト穴端部の構造がボルト、ナット締結のボルトの疲労強度の向上を目的としていることとは対象が異なる。
【0009】
非特許文献としてJIS,ISOに規定がある。JIS B 1181、ISO 4032~4036;1999,8673~8675:1999 はボルト穴端部への面取り角度及び面取り位置に関する規定である。
【0010】
非特許文献1は日本工業規格JIS B 1001:1985で規定されるボルト穴の面取りであって、穴中心軸に対し90度で入口側が開く形状を示し、その深さは穴径に対しおおよそ5%前後である(4.6%~5.45%)。この寸法は穴に入るボルトの首下Rと被締結物が干渉する事を避ける量である。また、ナット座面側の面取りについては明確な基準は示されていない。同じくJISでは平座ぐりの直径方向の寸法規定はボルト穴寸法の約2倍で、ボルト穴中心軸に対し90度で、被締結物表面との関係はなく切削工具で平らに削られる状態で沈み込んでいる面を示している。これもボルトの六角頭、ナット座面または平ワッシャーが直角に入る寸法、角度であって、ナット座面特有の規定とは言えない。
【0011】
このほかの事例として、基材のボルト穴端部にテーパー状の面を設け、その面に直接パイプ状部品を押し当て、流体が漏れることを防ぎシールさせる「メタルシール構造」やテーパー状の面と他部品の間にパッキンを入れて同様のシールをすることが有るが、いずれもこのテーパーボルト穴端部の構造に他部品が入ることや、テーパー面を使用する目的が異なるなどの違いがある。シールやパッキンなど他部品が触れるのはテーパー面であるのに対し、本発明のボルト穴端部の構造空間部分に触れる構造物は入らないという相違がある。
【0012】
他にも、薄板部品にねじを設ける加工方法として、「バーリング」と言われる加工方法を用いて作られた内部にねじ山を設けた加工物がある。平板を用いて説明すると、1)丸穴をあける,2)穴を中心として、その周囲を突き出す、3)穴を中心とした高さ数mmのリング状突起が作られる、4)穴内径にねじを成形する,5)バーリング穴の突起と逆側に穴の空いた第3物質が置かれる(穴位置は同じ)、6)第3物質に設けた穴に、ねじを持つビスがねじを先にして入ってくる、7)第3物質側にビスの頭(回転させる機構が付いていて、ねじより広い締結座面)があるようにしてバーリングねじにビスの雄ねじが螺合される、8)第3物質とバーリング穴を持つ板が締結される。この様なボルト穴が、例えば弱電部品、自動車部品、家庭用品などで使用されている。このバーリングの最初の突起の反対側の面形状は確かに曲率を持ち、面取り状である。
【0013】
本発明と「バーリング」の大きな違いは1)バーリングはねじ山3~4山程度のナット構造を作ることであり内部にねじ山が設けられること、2)そのため、突き出し部反対にあるR形状は内径にねじが設けられるのに最適な、なるべく板厚を残す形状とすること、3)R形状部分は第3物質に接触するだけで、ナットと触れることは無いといったように目的、使用方法、構造も大きく異なる特徴を持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2009-115314号公報
【文献】特開2007-69229号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】JIS B 1001:1985 ISO規定;(ISO7089~7094:2000、887:2000、JIS B 1256:2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来構造の締結の場合では、ボルト軸方向の力(初期締付け軸力:平均応力、軸方向外力:変動応力)に対して、ナット側の力の流れが噛合い1山目に最も集中し、噛合い2山目以降で急激に低下する不均一特性を示す。本発明は、被締結物とナットの間の力の流れを出来る限りナットの外側に広く配置させることにより力の流れを噛合いねじ山に広く分布させ、噛合い1山目への負荷集中を軽減させる、被締結物のボルト穴構造を提供することを目的とする。本発明は、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度を向上できるボルト穴構造及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、被締結物のボルト穴構造の最適化を行い、被締結物からナットに入る力の流入位置をナット座面の外周側にできる限り配置させることにより、従来比で多くの力をナットの開放側、特には3山目以後に向け、その結果ボルト、ナットの締結噛合い1山目への負荷を低減することを目的とするものであり、以下の発明の態様を提供する。
【0018】
(態様1)
基体(2)側から延びるボルト(3)が被締結物(1)のボルト穴(1h)に挿通され、前記ボルト(3)とナット(4)で前記被締結物(1)を前記基体(2)に締結する被締結物(1)の締結構造であって、
前記ボルト(3)、前記被締結物(1)、前記ナット(4)及び前記締結構造は、共通の軸線及び軸線方向(以下単に「前記軸線」及び「前記軸線方向」ともいう。)並びに前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、前記半径方向において、前記軸線に近い側を内側、前記軸線から遠い側を外側という、
前記基体(2)から前記被締結物(1)へ、前記被締結物(1)から前記ナット(4)へ向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ナット(4)は、前記半径方向に延在する平坦な下面(4w)と、前記軸線方向に延びるねじとを有し、前記ねじは、交互にねじ山とねじ谷とからなり、ねじピッチpを有し、
前記被締結物(1)は、被締結物本体(1b)と前記被締結物本体(1b)を貫通する前記ボルト穴(1h)とを有し、前記被締結物本体(1b)は、前記ナット(4)の前記下面(4w)と接触する上面(1u)と、前記基体(2)と接触する下面(1w)と、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1c)とを有し、
前記被締結物本体(1b)は、それ自身の前記ボルト穴(1h)側及び前記上面(1u)側に、応力非伝達空間(1s)を有し、
前記被締結物(1)の前記軸線を含む縦断面において、
・前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物本体(1b)の前記上面(1u)と最も前記上側で接する前記半径方向の直線を第一境界線(B1)とし、前記ボルト穴内周面(1c)の延長線を第二境界線(B2)とし、前記第一境界線(B1)より下側かつ前記第二境界線(B2)より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線(B1)の位置Ptと前記第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)として、この3つの境界線で囲まれた空間であり、
・前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物(1)の前記ボルト穴(1h)の内周面(1c)から前記半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記ナット(4)のねじ谷底を結ぶ線の延長線(4e)までの前記半径方向の距離Lsは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの長さ1山分を超え、6山分以下の長さの範囲にあり、
・前記第一境界線(B1)が前記第二境界線(B2)と交わる位置をPoとし、前記位置Pоから前記位置Phまでの距離Lhは、前記ナット(4)の前記ねじピッチpの0.01倍以上から、前記被締結物(1)の厚さ(T)の99%以下の範囲にあり、ここに、前記被締結物(1)の前記厚さ(T)は、前記ボルト穴内周面(1c)及びその延長線上において、前記ナット(4)の前記下面(4w)がある位置から、前記被締結物本体(1b)の前記下面がある位置までの、前記軸線方向の厚さ(T)として定義され、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記縦断面における前記第一境界線(B1)、前記第二境界線(B2)及び前記第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、前記被締結物(1)の前記軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間であることを特徴とする被締結物の締結構造。
【0019】
(態様2)
前記縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)の前記第三境界線(B3)は、曲線又は曲線と直線の組合せから構成されており、直線と直線が交わる角部がない、応力集中緩和線であるが、前記ボルト穴側の部分は応力集中緩和線でなくてもよい、態様1に記載の被締結物の締結構造。
【0020】
(態様3)
前記縦断面において、前記距離Lsは、前記ねじピッチpの長さの2山分を超え、4山分以下の長さの範囲にあり、前記距離Lhは、前記ねじピッチpの1倍以上から、前記被締結物(1)の前記厚さ(T)の90%以下の範囲にある、態様1または2に記載の被締結物の締結構造。
【0021】
(態様4)
前記縦断面において、前記第三境界線(B3)は、前記被締結物本体(1b)の前記上面(1u)にかかる締結力を、前記被締結物(1)の前記上面(1u)が前記位置Ptから前記位置Poまで平坦であると仮定した前記被締結物(1)に対してかけたときに、上記仮定の前記被締結物内に発生するミーゼス相当応力分布において、位置Ptから垂直下方向にかかるミーゼス相当応力の大きさを基準にして、その相対応力が95%である前記ボルト穴(1h)側の応力分布線よりも、前記ボルト穴(1h)側にある、態様1~3のいずれか一項に記載の被締結物の締結構造。
【0022】
(態様5)
前記ナット(4)の前記下面(4w)は、前記軸線方向から視た平面図において、前記軸線を中心として、前記下面(4w)に内接する円を想定したとき、前記内接円の半径が、前記ボルト穴(1h)の半径の2倍と前記距離Lsとの和の少なくとも0.9倍の寸法を有する、態様1~4のいずれか一項に記載の被締結物の締結構造。
【0023】
(態様6)
前記ナット(4)がフランジナットである、態様1~5のいずれか一項に記載の被締結物の締結構造。
【0024】
(態様7)
上面(1u)及び下面(1w)を有する締結部(1)と、前記締結部(1)を貫通するボルト穴(1h)とを有する被締結物のボルト穴構造であって、
前記ボルト穴(1h)は軸線、軸線方向と、前記軸線に垂直な半径方向を有し、
前記締結部(1)の前記下面(1w)から前記上面(1u)に向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記締結部(1)は、前記ボルト穴(1h)を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面(1c)を有し、
前記締結部(1)は、それ自身の前記ボルト穴(1h)側及び前記上面側に応力非伝達空間(1s)を有し、
前記軸線を含む縦断面において、前記応力非伝達空間(s)は、前記締結部(1)の前記上面(1u)と最も上側で接する前記半径方向の直線を第一境界線(B1)とし、前記ボルト穴内周面(1c)の延長線を第二境界線(B2)とし、前記第一境界線(B1)より下側かつ前記第二境界線(B2)より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線(B1)の位置Ptと前記第二境界線(B2)の位置Phとを結ぶ線を第三境界線(B3)として、この3つの境界線で囲まれた空間であり、
前記縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物(1)の前記ボルト穴(1h)の内周面(1c)から前記半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記第二境界線までの前記半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.7p
(式中、前記ボルト穴の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、
Rが1.9以下のときpは0.2であり、
Rが1.9を超え2.4以下のときpは0.25であり、
Rが2.4を超え3.7以下のときpは0.35であり、
Rが3.7を超え5.5以下のときpは0.5であり、
Rが5.5を超え7.5以下のときpは0.75であり、
Rが7.5を超え9.5以下のときpは1.0であり、
Rが9.5を超え13以下のときpは1.25であり、
Rが13を超え23以下のときpは1.5であり、
Rが23を超え34以下のときpは2であり、
Rが34を超え40以下のときpは3であり、
Rが40を超え70以下のときpは4であり、
Rが70を超え150以下のときpは4である。)
を満たし、
前記縦断面において、前記第一境界線(B1)から前記位置Phまでの前記軸線方向の距離Lhは、前記pの0.01倍以上から、前記締結部(1)の厚さTの99%以下の範囲にあり、ここに、前記締結部(1)の前記厚さTは、前記第一境界線(B1)から、前記締結部の前記ボルト穴内周面(1c)における前記下面(1w)の位置までの前記軸線方向の寸法として定義され、
前記応力非伝達空間(1s)は、前記縦断面における前記第一境界線(B1)、前記第二境界線(B2)及び前記第三境界線(B3)で囲まれた前記空間を、前記軸線を中心として回転して形成される同心環状の三次元形状の空間であることを特徴とする被締結物のボルト穴構造。
【0025】
(態様8)
前記縦断面において、前記第三境界線(B3)は、曲線又は曲線と直線で構成され、角部がない、応力集中緩和線であるが、前記ボルト穴側の部分は応力集中緩和線でなくてもよい、態様7に記載の被締結物のボルト穴構造。
【0026】
(態様9)
前記縦断面において、前記第三境界線(B3)は、前記締結部(1)の前記上面に仮想ナットによる締結力を加えたときに、前記締結部(1)が前記上面(1u)と最も上側で接する前記半径方向の直線を上面とする形状であると仮定して、前記仮定の前記締結部に形成されるミーゼス相当応力分布において、前記上面が前記応力非伝達空間と最も上側で接する位置から、前記上面に垂直な前記下方向に加わるミーゼス相当応力値を基準にして、その相対応力が95%である前記ボルト穴側の応力分布曲線よりも、前記ボルト穴側にある、態様7又は8に記載の被締結物のボルト穴構造。
【0027】
(態様10)
前記縦断面において、前記距離Lが2p≦L≦3.5pを満たす、態様7~9のいずれか一項に記載の被締結物のボルト穴構造。
【0028】
(態様11)
前記締結部(1)の材質は、金属、窒化物、炭化物、酸化物、または硬質樹脂(CFRPなどの複合樹脂を含む)から選ばれる、態様7~10のいずれか一項に記載の被締結物のボルト穴構造。
【0029】
(態様12)
プレス加工、切削加工、研削加工、冷間、温間、熱間プレス加工、鋳造、鍛造、またはこれらの工法を組み合わせて被締結物のボルト穴構造を加工、製造することを特徴とする態様7~11のいずれか一項に記載の被締結物のボルト穴構造の製造方法。
【0030】
(態様13)
前記加工、製造において、金型、切削工具、切削刃具、またはこれらの組み合わせを使用して、成形加工をする、態様12に記載の被締結物のボルト穴構造の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明のボルト・ナット締結構造及び被締結物のボルト穴構造を使った場合、ボルト・ナットの締結噛合い1山目の負荷分担率を小さくすることが可能となり、例えば
図5で示す本発明のボルト穴構造によれば、従来方式構造の35.6%から30%前後に下げることが出来る。この効果により初期締結軸力に外部負荷が繰り返し入力する実負荷合計の応力も略同じ割合で低減されるので、噛合い1山目のボルトねじ谷底の疲労強度が向上する。
【0032】
本発明のボルト穴構造は、従来から使用している工作機械類、加工金型類、加工具、塑性加工機械、冷間、温間、熱間鍛造機械、鋳造設備などを使用して製造することができる。
【0033】
また、このボルト穴構造を製造する工法や加工具類の中でも専用刃具などは工数低減実現化や加工ミス防止につながる合理的なものである。塑性加工用金型(プレス金型など)では専用工具と同じで、金型にボルト穴端部の構造を形成する加工部分が入れられるため工数増加も無く、鍛造、鋳造などでも同様に金型に本技術を織り込むことで工数増加無しにボルトの疲労強度向上効果を得ることができる。本ボルト穴構造を従来方式と比較すれば減肉となり、構造物の軽量化に資することも出来る。特にボルト穴構造を深さ方向に大きく彫り込む形状とすると、ボルト穴の隙間が大きくなったことに近似する軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、従来技術の締結構造の例の模式縦断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す締結構造のボルトにかかる引張応力を表す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す締結構造のナットにかかる圧縮応力を表す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す締結構造にかかるミーゼス相当応力分布図である。
【
図5】
図5は、本発明の締結構造の例の模式縦断面図である。
【
図6】
図6(a)(c)は本発明の締結構造の例の部分拡大縦断面図であり、
図6(b)は本発明の締結構造の例の斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す締結構造の例にかかるミーゼス相当応力分布図である。
【
図8】
図8(a)(b)は、本発明の締結構造の例における距離Ls/p及び本発明の被締結物の例における距離L/pと噛合1山目の負荷分担率のシミュレーション結果の関係を示す表とグラフである。
【
図9】
図9(a)(b)は、被締結物に力Fをかけたときのミーゼス相当応力のベクトル力線(曲線で表示)と応力分布を表す図である。
【
図10】
図10(a)~(d)は、本発明の被締結物の応力非伝達空間の変形例を示す。
【
図11】
図11は、本発明の被締結物の応力非伝達空間の別の変形例を示す。
【
図15】
図15は、本発明の締結構造の他の例の模式縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明において、被締結物とは、ボルト穴を有する部品その他の物体であって、締結基材(被締結物を締結させる対象構造物とする)に対し、ボルト穴を貫通するボルトとナットを使用して締結される物であり、締結基材と着脱可能な構造物の総称である。締結基材と一体で製作されるものではなく、別々に作られ、使用目的に沿った部材として組み合わされ、ボルト(基材と一体に作られたボルト部分、スタッドボルトを含む)とナットにより締結される構造物、機器、部材とする。
【0036】
〔本発明の第一の側面〕
本発明は、第一の側面において、
基体側から延びるボルトが被締結物のボルト穴に挿通され、前記ボルトとナットで前記被締結物を前記基体に締結する被締結物の締結構造であって、
前記ボルト、前記被締結物、前記ナット及び前記締結構造は、共通の軸線、軸線方向(以下単に「前記軸線」、「前記軸線方向」ともいう。)並びに前記軸線に垂直な半径方向(以下単に「前記半径方向」ともいう。)を有し、前記半径方向において、前記軸線に近い側を内側、前記軸線から遠い側を外側という、
前記基体から前記被締結物へ、前記被締結物から前記ナットへ向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記ナットは、前記半径方向に延在する平坦な下面と、前記軸線方向に延びるねじとを有し、前記ねじは、交互にねじ山とねじ谷とからなり、ねじピッチpを有し、
前記被締結物は、被締結物本体と前記被締結物本体を貫通する前記ボルト穴とを有し、前記被締結物本体は、前記ナットの前記下面と接触する上面と、前記基体と接触する下面と、前記ボルト穴を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面とを有し、
前記被締結物本体は、それ自身の前記ボルト穴側及び前記上面側に、応力非伝達空間を有し、
前記被締結物の前記軸線を含む縦断面において、
・前記応力非伝達空間は、前記被締結物本体の前記上面と前記上側で接する前記半径方向の直線を第一境界線とし、前記ボルト穴内周面の延長線を第二境界線とし、前記第一境界線より下側かつ前記第二境界線より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線の位置Ptと前記第二境界線の位置Phとを結ぶ線を第三境界線とし、この3つの境界線で囲まれた前記空間であり、
・前記応力非伝達空間は、前記被締結物の前記ボルト穴内周面から前記半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記ナットのねじ谷底を結ぶ線の延長線までの前記半径方向の距離Lsは、前記ナットの前記ねじピッチpの長さ1山分を超え、6山分以下の長さの範囲にあり、
・前記第一境界線が前記第二境界線と交わる位置をPoとし、前記位置Poから前記位置Phまでの距離Lhは、前記ナットの前記ねじピッチpの0.01倍以上から、前記被締結物の前記厚さ(T)の99%以下の範囲にあり、ここに、前記被締結物の前記厚さ(T)は、前記ボルト穴内周面及びその延長線上において、前記ナットの前記下面がある位置から、前記被締結物本体の前記下面がある位置までの、前記軸線方向の厚さ(T)として定義され、
前記応力非伝達空間は、前記縦断面における前記第一境界線、前記第二境界線及び前記第三境界線で囲まれた前記空間を、前記被締結物の前記軸心を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間であることを特徴とする被締結物の締結構造を提供する。
以下に、本発明の第一の側面を、図面を参照して詳しく説明する。
【0037】
図1は従来技術における被締結物1の締結構造の例を示す縦断面図であり、
図5は本発明の第一の側面の被締結物1の締結構造の例を示す縦断面図である。
図1及び
図5を参照すると、基体2側から延びるボルト3が被締結物1のボルト穴1hに挿通され、ボルト3とナット4で被締結物1を基体2に締結する被締結物1の締結構造に関する。本発明の第一の側面の被締結物1の締結構造では、被締結物1とナット4は互いに直接に接触し、間にワッシャーは存在しない。
【0038】
図1及び5において、ボルト3は、基体2及び被締結物1を貫通してナット4と螺合されているが、基体2の一部であってもよいし、基体2に埋め込まれていて、基体2を貫通しなくてもよい。ボルト3は、円柱状のねじ軸体とねじ軸体の先端部にナット係合するねじ部(雄ねじ)を有し、ねじ部はねじ山及びねじ谷を有し、ねじ山間及びねじ谷間の距離であるピッチpを有する。また、ボルト3の外径は、通常ねじ山頂の直径によって指称される。ボルト3の軸線方向において、ボルト3のねじ部を有する先端側を(ねじ)開放側、その反対方向を(ねじ)締結側といい、ボルト3のねじ開放側、締結側に対応して、ナット4もナットのねじが開放される開放側4o、締結される締結側4cを有する。
【0039】
ナット4は、ナット本体と、ナット本体を貫通しボルト3の雄ねじに対応する雌ねじ(ねじ部4s)を有する。ナット本体は、横断面が一般的に六角形であるが、六角形以外の多角形でもよい。本発明では、ナット4は、必須ではないが、好ましくは、ナット本体の被締結物1側にフランジ部を有する。フランジ部はナット本体の外周寸法より大きい外周寸法を有する。ここで、ナット本体及びフランジ部の外周寸法は、平面図においてナット本体及びフランジ部に内接する円の寸法(直径)としてよい。ナット4のねじは、ねじ山及びねじ谷を有し、ボルト3のねじと同じピッチpを有するが、ねじ谷底の直径はボルト3の外径より僅かに大きく設定される。同様に、ナット4のねじ山頂の直径は、ボルト3のねじ谷底の直径より僅かに大きく設定される。ナット4の軸線方向において、ボルト3の開放側をナットの開放側4o、その反対方向を締結側4cという。
【0040】
(ねじにおける締結応力の負荷分担率)
ボルト3とナット4を締結するとき、ボルト3のねじ山の締結側斜面に対して、ナット4のねじ谷開放側の斜面が押圧するので、ボルト3のねじ山の締結側斜面にはボルト3の根本(
図1のボルトヘッド(3h)との間に引張力(軸力)がかかる。また、ナット4を締結側に回転、係合すると、ナット4のねじ谷開放側の斜面と被締結物(ナット4の座面)の間に圧縮応力がかかり、ボルト3のねじ山の締結側の斜面はナット4のねじ谷開放側の斜面によって押圧され、ナットには圧縮応力がかかる。その結果、ボルト3のねじには、上記の引張応力と圧縮応力を合成(ベクトル合成)した応力がかかる。引張応力と圧縮応力は、ボルトの軸に近いところ(ボルトヘッド3hに近い部分)ほど大きな応力を負担する性質があるので、ボルト3の締結側から1山目に最大の応力がかかり、2山目、3山目と開放側に向かうほど応力分担は小さくなる。また、ナットの1山目は構造的に決まってくるが、ボルトはナットと係合して、ナットの1山目と対面した時点で1山目が決まるものである。以下、本開示においてねじの何山目というときは、締結側から数えた山の順番を表している。ねじは軸線方向にらせん状であるから、ねじの何山目の位置は平均値(中央値)での位置である。
【0041】
図2は、従来の被締結物において、ボルト3とナット4を締結するときに、ボルト3にかかる引張応力の向きと大きさをFEM解析して表すベクトル図であり、図のベクトルの向きが力の向きであり、ベクトルの長さと密集度が力の大きさを表している。ボルト3にかかる引張応力は、締結側1山目において最大であり、開放側に向かって小さくなっている。同様に、
図3は、従来の被締結物において、ボルト3とナット4を締結するときに、ナット4にかかる圧縮応力の向きと大きさをFEM解析して表すベクトル図であり、図のベクトルの向きが力の向きであり、ベクトルの長さと密集度が力の大きさを表している。この圧縮応力の反力がボルト3のねじ山の締結側の斜面にかかっている。
図4は、従来の被締結物においてボルト3とナット4を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析した図であり、
図2の引張応力と
図3の圧縮応力及びその反力を合成、ポスト処理した図になる。
【0042】
図4において、ミーゼス相当応力が最大の領域は白色、最小の領域は黒色、中間は明暗2段階灰色で表されている(グレースケール)。
図4では、被締結物から入った力(白色領域)は、直ぐ上にあるナットの締結側1山目に集中して流れ込み、このナットの1山目は白色と明るいグレーで埋め尽くされており、ボルトの1山目と谷底(※部)を白色で押し合い、ボルト内部にも白色と明るいグレーを発生させている。次いで2山目に伝わり、小さな白色と明るいグレーが周辺にあるが1山目とは格段に小さく、暗いグレーがナットねじ山に入り込んでいる。次いで3山目には明るいグレーが、ナットねじ山側に小さく現れている程度となり、4山目は、ほとんど暗いグレーとなり、5山目は、黒色の弱い応力が多くなり、6山目、7山目では、応力小の黒色が支配的になっている。この応力分布状況は、負荷分担率に示されるように、平準化とはかけ離れた不均一な状況を示している。この※部が、締結噛合い1山目ボルトねじ谷底であり、疲労破壊を起こすことが多い場所である。
図4を参照すると、ボルト3の締結側から1山目に最大の応力がかかり、2山目、3山目と開放側に向かうほど応力負担は小さくなっていることが認められる。負荷分担率の数値は、1山目35.6%であり、2山目は20.8%、3山目は14.4%、4山目は11.0%、5山目は8.6%、6山目は5.9%、7山目は3.9%であった。
【0043】
図4を参照して、被締結物に発生している応力分布を見ると、最内径部のナットと接触している点に応力大の白色は表れていないが、明るいグレーがナットの1山目と同等面積を持ち、暗いグレー領域が大きく広がっている。これは被締結物のボルト穴内壁のボルト穴端部がミーゼス相当応力範囲を真っすぐに切っている状況を示している。ナット座面全体が触れているため応力小の黒色が被締結物内部に大きく広がっておりナットからの圧縮力を広くて深い範囲で受けている。被締結物内の黒色部分は応力を受けており、図には表示されていないが基体に締結力を伝えている。
【0044】
(応力非伝達空間)
本発明の被締結物の締結構造は、ボルト3のこの噛合い1山目の負荷分担率を低減することで、ボルト3の耐久性向上及び寿命延長を図るものである。
【0045】
図6(a)は、
図5の被締結物1とナット4が係合する、ボルト穴1h付近の部分拡大図である。
図6(b)は被締結物1の斜視図であり、
図6(c)は被締結物1のボルト穴1h付近の部分拡大縦断面図である。
【0046】
本発明の第一の側面によれば、
図6(a)~(c)を参照すると、被締結物1は、上面1uと下面1wを有する被締結物本体1bと、被締結物本体1bの上面1u及び下面1wを貫通するボルト穴1hとを有し、被締結物本体1bは、それ自身のボルト穴1h側及び上面1u側に、応力非伝達空間1sを有する。なお、被締結物本体1bの上面1uは、ナット4と係合する側の面をいう。以下の説明では、ナット4と係合する側の面を上面、応力非伝達空間1sが存在する方向を上、上側、上方向と称し、図面の紙面の上方向に当たる。
【0047】
そして、応力非伝達空間1sは、被締結物1の軸線を含む縦断面において、被締結物本体1bの上面1uと最も上側で接する半径方向の直線を第一境界線B1とし、ボルト穴内周面1cの延長線を第二境界線B2とし、第一境界線より下側かつ第二境界線より半径方向外側にあり、第一境界線の位置Ptと第二境界線の位置Phとを結ぶ線を第三境界線B3とする空間であるとともに、縦断面における第一境界線B1、第二境界線B2及び第三境界線B3で囲まれた前記空間を、被締結物1の軸線を中心として回転して形成される同心円環状の三次元形状の空間である。応力非伝達空間1sが被締結物本体1bの上面1uと最も上側で接するとは、被締結物本体1bの上面1uが半径方向に延在する平坦面であれば、最も上側は上面1uの面であり、被締結物本体1bの上面1uが半径方向に延在する平坦面でなければ、被締結物本体1bの上面1uがナット4と接触する位置が最も上側になる。応力非伝達空間1sの第三境界線B3は、位置Ptより半径方向の外周側には延在しないことが好ましい。
【0048】
第三境界線B3が第一境界線B1と接する位置Ptは、応力非伝達空間1sにおいて、ボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置であることが好ましい。
図5~7の好ましい例を参照すると、応力非伝達空間1sは、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Pt、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bのボルト穴内周面1cとの境界位置Phを有し、ボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psからナット4のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離としてLs、被締結物本体1bの上面1uの延長線から位置Phまでの距離としてLhを有する。本発明の第一の側面において距離Lsは、ボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置からナット4のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離として定義され、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptが応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psであることが好ましい(例えば、
図5~7、
図10)。しかし、応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psは、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptでなく、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線B3の途中にあってもよい。
【0049】
被締結物1は、縦断面において、応力非伝達空間1sの下側に被締結部本体1bがボルト穴まで延在して、その延在部分がボルト穴内周面1cを形成している。このボルト穴内周面1cを形成する被締結部本体1bの延在部分は、ボルト3の位置合わせ用であり、平面図において、少なくとも2箇所、好ましくは少なくとも3箇所において、ボルト穴内周面1cまで延在している必要があるが、ボルト穴内周面1cまで延在している部分は突起状であってもよく、すなわち、平面図において、その突起状以外の領域では空間を形成していてもよい(図示せず)。このような空間は、
図5,6の縦断面図においては、応力非伝達空間1sの下側の被締結物1の本体が存在する領域である。このような空間は、形成する必要はないが、形成された場合、応力非伝達空間1sと連続した空間を形成する。しかし、この空間は、本発明が定義する応力非伝達空間1sとは異なる。
【0050】
図5~6に示す例において、被締結物本体1bの上面1u及び下面1wは、応力非伝達空間1sの第三境界線B3を成す領域を除き、ボルト3、ナット4の軸線に垂直、すなわち、半径方向の平坦面である。被締結物本体1bの上面1uは、ナット4の座面と係合する面であるから、締結のためにナット4の軸線に垂直な平坦面であることが好ましい。被締結物本体1bの下面1wも、ナット4の軸線に垂直な平坦面であることが、締結の安定性及び製造の面から好ましい。ただし、必要はないが、ナット4の軸線方向の締付を阻害しない範囲で平坦面に切込みがあってもよい。
【0051】
本発明の第一の側面の被締結物の締結構造では、被締結物1が応力非伝達空間1sを有するので、ボルト3とナット4を締結するとき、ナット4と被締結物1との間にかかる圧縮応力において、応力非伝達空間1sが存在する被締結物本体1bのボルト穴1h側及び上面1u側では、応力を伝達することができない。締結時の圧縮応力は、基本的に、ナット4及び被締結物本体1bのボルト穴の軸線方向ないし半径方向の外側から内側へいくらか傾斜した角度で作用する(すなわち、基本的に、軸線方向、
図6の上下方向に作用する)。そのため、被締結物1の縦断面において、応力非伝達空間1sが存在する領域では、圧縮応力は上下方向にも左右方向にも伝達されないので、被締結物1の応力非伝達空間1sより半径方向の外側の領域における上下方向の圧縮応力が、応力非伝達空間1sより上側で半径方向の内側に曲がることで、ボルト3とナット4のねじ、特に1山目、2山目などの低次山目のねじに対して作用することができる。上下方向の圧縮応力が曲がることができる角度は最大で45度程度である。したがって、被締結物1とナット4の境界においてボルト穴側にある応力非伝達空間1sの半径方向の寸法が大きくなるほど、ボルト3とナット4のねじに作用する圧縮応力は、より高次側山目に移動し、低次山目、特に1山目のねじに対する応力は小さくされる。こうして、本発明の第一の側面の被締結物の締結構造では、被締結物1の上記のような応力非伝達空間1sを形成することで、ボルト3とナット4の低次山目、特に1山目のねじの応力負荷分担率を小さくすることができ、ボルト3の噛合い1山目谷底の疲労強度を向上させることができる。
【0052】
図7は、
図5及び
図6に示すような第一の側面の被締結物の締結構造の例において、応力非伝達空間1sの半径方向寸法、すなわち、被締結物1の上面1uにおける応力非伝達空間1sの最もボルト穴から遠い位置Ps(Pt)から、ナットのねじ谷底を結ぶ線の延長線4eまでの距離Lsは、約2.21p(2.21ピッチ相当)、応力非伝達空間1sの軸線方向寸法(深さ)、すなわち、ボルト穴内周面1c又はその延長線において被締結物1の上面1uの位置Poから応力非伝達空間1sの最も深い位置Phまでの距離Lhは、約0.5p(0.5ピッチ)として、ボルト3とナット4を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析した図であり、
図4に対応する図になる。
図7を参照すると、位置Ps(Pt)近傍とナット最外周部を比較すれば、位置Ps(Pt)付近の方が大きな応力を発生している。白色の応力大が位置Ps(Pt)から斜めに出て、ナット内部に入ったところで明るいグレーと暗いグレーが大きく広がり、ナットねじ山の開放側の3,4,5山目に幅広く拡散しており、ねじ山の6番、7番では黒色となっている。これに対し、被締結物の強度は従来方式の材料として、位置Ps(Pt)から少し斜めに白色、明るいグレー、暗いグレーがミーゼス相当応力分布の線1mgに類似する分布を示している。この分布状態が力の流れを表わしている。
【0053】
図7と
図4を比較して見ると、応力の分布状態が大きく異なることが判る。
図7では、5山目まで明るいグレーと暗いグレーが広がっていることが見える。被締結物の位置Ps(Pt)近傍から斜めねじ山方向に小さな白色が見られるが、この白色が力の方向を示していて、この白色の向いている方向にナットねじ山の3、4、5山目がある。
図7を参照すると、
図4と比べて、応力がより多く開放側に向かって、1山目の負荷分担率は小さくなっていることが認められる。負荷分担率の数値は、1山目30.2%であり、2山目は19.4%、3山目は15.2%、4山目は12.6%、5山目は10.3%、6山目は7.4%、7山目は4.9%であった。
【0054】
図8(a)(b)に、
図7の各ねじ山の負荷分担率を調べた結果を示す。
図8(a)(b)に、本発明の締結構造の一例(
図7はモデル2)の負荷分担率と、従来方式ワッシャー締結構造の
図4に対応する負荷分担率を比較した表と、その比較をグラフにして表示している。この2つの比較をみれば、従来方式のボルトの噛合い1山目の負荷分担率が35.6%であることに対し、本発明のモデル2のボルトの噛合い1山目の負荷分担率は30.2%と絶対値で5.4ポイント、相対比では約15%低減している。この1山目負荷低減により、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度向上に効果がある。
【0055】
ボルト、ナット締結部の破壊はボルトの噛合い1山目谷底で亀裂軸破断として発生することが多いが、疲労破壊強度の向上の効果があるとする初期締結負荷の低減がどの様に効果を発揮するのかを説明する。ボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図は、疲労破壊寿命(繰り返し数Nf)と外力負荷(応力振幅σr)の関係を示すものであるが、一般的に次の実験式で示すことができる。
Nf・σrb=C
(式中、Nf:疲労破壊するまでの負荷の繰り返し数
σr:負荷の応力振幅
b: 応力指数(一般的に3~5)
C: 材料定数)
ここで示すように、締結噛合い1山目のボルトねじ谷底への負荷を下げておくことは、同じ割合で、外力負荷(σr)分担を下げることにつながり、下がった負荷の応力振幅のb(一般に3~5)乗分、繰返し数Nfを大きくできる効果につながる。負荷分担率が15%低下するので、上記の式から,Nfは50~100%向上し,寿命が1.5~2倍に増大することが期待される。応力指数b=4とすると、寿命が約1.9倍に増大することが期待される。
【0056】
なお、本発明で採用するFEM解析を行うボルト、ナット、被締結物の境界条件となるねじ山形状、部材強度、部材ヤング率、ポアソン比、締結トルク、軸力などの要素はすべて従来方式と同様のJIS(ISO)に規定されるものを採用して解析を行い、比較して改良効果を確認している。ねじのピッチに関しては細目を採用する。
図4および7に示す解析では参考にM12×P1.25(細目ねじ)の場合を表示している。第三境界線B3を典型的な形で示した一例が
図7であり、同じ形状をFEM解析したものが
図9であり、被締結物内のボルト穴径はねじが通過するために最小の隙間(~0.5mm)であって、従来方式のボルト穴とボルトねじの関係と同じ隙間で、かつストレートである。距離Lsは約2.21p(2.21ピッチ相当)、距離Lhは約0.5p(0.5ピッチ)である。ナットの座面の外周径は30mmである。
【0057】
(好適な応力非伝達空間)
本発明の第一の側面の被締結物の締結構造では、前記縦断面において応力非伝達空間1sの第三境界線B3、特にナット4の座面と被締結物1との接触部の端部である位置Pt付近(被締結物1の上面1uから、下面1wに向かう前記軸線方向の深さがねじの例えば0.5ピッチまで)の第三境界線B3が、応力集中緩和曲線で構成されることが好ましい。ナット4の座面と被締結物1との接触部に圧縮応力がかかるとき、位置Pt付近が応力集中し易い形状、縦断面において直線と直線が交わる角部を有していると、そこで被締結物が破損する恐れがあるからである。縦断面において応力集中緩和曲線は、直線と直線が交わる角部を有していないが、応力集中緩和曲線の一部に直線を含んでも、その両側が曲線と滑らかに接続されていればよい。応力集中緩和曲線は、曲率が小さい(曲率半径が大きい)曲線であることが好ましく、例えば、最小の曲率半径が上記のねじの0.5ピッチの深さまでの第三境界線B3の曲率半径がボルト穴の直径の5%又はねじの0.25ピッチより大きくてよい。前記縦断面において応力非伝達空間1sの第三境界線B3は、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線B3の全部が、応力集中緩和曲線によって構成されていることが好ましい。ここでも、応力集中緩和曲線は、直線と直線が交わる角部を有していないが、応力集中緩和曲線の一部に直線を含んでも、その両側が曲線と滑らかに接続されていればよい。応力集中緩和曲線に代えて、応力集中緩和線と呼んでもよい。応力集中緩和線は、1つ以上の、上に凸の曲線、下に凸の曲線、直線、変曲点、交点、またはこれらの組み合わせで連続的に構成される線であるが、直線と直線が交わる角部を有していない。ただし、第三境界線B3は、位置Ptからボルト穴に近づくと(例えば、ボルト穴まで距離Lsの半分以下やさらには2/3以下の距離の範囲において)、そこにかかる締結応力は低下するので、直線と直線あるいは直線と曲線の交点で形成される角部があっても、被締結物が破損する恐れは低下するので、角部があってもよい。
【0058】
本発明の第一の側面の被締結物の締結構造では、一つの好ましい態様として、応力非伝達空間1sは、下記の条件を満たすことが好ましいことが見出された。すなわち、
図5,6に示すような被締結物の締結構造の縦断面において、特に
図6(a)を参照すると、
・被締結物のボルト穴内周面から半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psからナット4のねじ谷底を結ぶ線の延長線4eまでの半径方向の距離Lsは、ナット4のねじピッチpの長さ1山分を超え、6山分以下の長さの範囲にあり、
・第一境界線B1が第二境界線B2と交わる位置をPoとし、位置Poから位置Phまでの距離Lhは、ナット4のねじピッチpの0.01倍以上から、被締結物1の厚さTの99%以下の範囲にあり、ここに、被締結物の前記厚さTは、ボルト穴内周面1c及びその延長線上において、ナット4の下面4wがある位置から、被締結物本体1bの下面がある位置までの、軸線方向の厚さTとして定義される。距離Lhは、被締結物が締結力により弾性変形しても、必ずフランジナット座面と接触しない空間を確保しておくように設定され、ねじピッチの0.01倍~0.1倍程度のごく浅くても良く、被締結物を軽量化するには、深くても良い。
【0059】
一つの好ましい態様において、距離Lsは、例えば、ナット4のねじピッチpの長さの1半山分以上、2山分以上、2.5山分以上、3山分以上、また、5山分以下、4山分以下、3半山分以下の長さの範囲にあってよい。特に、2山分以上、4山分以下であることが好ましい。
【0060】
一つの好ましい態様において、距離Lhは、例えば、ナット4のねじピッチpの0.1倍以上から被締結物1の厚さTの90%以下の範囲、さらにはねじピッチpの1倍以上から被締結物1の厚さTの65%以下の範囲であってよい。望ましくは0.01pを超え、被締結部の厚さTの65%以下の範囲であって、更に望ましくは0.03pを超え、被締結物の厚さTの50%以下の範囲であって、更に望ましくは0.04pを超え、被締結物の厚さ’の40%以下の範囲である。
【0061】
一つの好ましい態様において、距離Lhは、ナット4のねじピッチpの1倍以上から、被締結物1の厚さTの95%以下の範囲であり、さらに30~90%の範囲、50~90%の範囲にあってよい。距離Lhは、厚さTの1%以上、3%以上、5%以上、10%以上であってもよく、また厚さTの50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であってよい。
【0062】
ボルト穴内周面の延長線上にある位置Poから位置Phまでの距離Lhは、応力非伝達空間1sの軸線方向に最も遠い距離(最大深さ)であることが好ましいが、第一境界線B1から応力非伝達空間1sの軸線方向に最も遠い位置(最大深さ)は、ボルト穴内周面の延長線上にはなくてもよい。第一境界線B1から応力非伝達空間1sの軸線方向に最も遠い位置(最大深さ)が、ボルト穴内周面の延長線上にはない場合、その最大深さはLhと同様の範囲であってよい、すなわち、ナット4のねじピッチpの0.01倍以上から、被締結物1の厚さTの99%以下の範囲内であってよく、その好ましい範囲もLhと同様であってよい。
【0063】
図8(a)(b)は、
図7と同様に、第一の側面の被締結物の締結構造の例において、ボルト3とナット4を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析し、距離Ls(Ls/p)をLs/pを0.8~3.81まで5点で変化させたときの1山目の応力負担率の変化をまとめたグラフ及びミーゼス相当応力図である。
図8(a)に、本発明の締結構造の一例(
図7)と同様の形でLsを変えたもの、モデル1~モデル5の1山目の負荷分担率を示し、その中のモデル2のミーゼス相当応力分布図を示している。従来方式ボルト穴構造の
図4(従来ボルト穴;Ls/p=0)に対応する負荷分担率を比較した表と、
図8(b)に、その比較をグラフにして表示している。
図8を参照すると、距離Ls(Ls/p)が大きくなると、1山目の応力負担率がより小さくなっていることが認められる。Ls/pが0から、0.80、2.21、3.01、3.41、3.81と順に大きくなると、1山目の負荷分担率は、Ls/p=0のときの35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.3%に順に低下している。
図8(b)のグラフを見ると。各数値は下に凸の曲線に乗っている。被締結物の設計では、材質、ヤング率、硬度など様々な条件が関係する設計条件として、ユーザー側で選択してよい。
【0064】
先に述べたボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図の関係式から、負荷分担率が35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.7%、28.3%に低下するとき、応力指数b=4として、Nf及び寿命は、約1.39倍、約1.92倍、約2.22倍、約2.33倍、約2.56倍にそれぞれ増大することが期待される。
【0065】
図9では、圧力Fは位置Pt(Ps)で垂直に負荷している例を示しているが,実際のボルト、ナット、被締結物の関係においては、
図9中のFの矢印の方向は図に対して右上から左下に向かうこともある。その理由は、位置Pt(Ps)の右側にボルトが有って、位置Pt(Ps)の上にナット座面があるため、ねじ山でボルトとナットが力を受け渡し、その圧縮力がフランジナット座面と被締結物の接触の最内周部(ここでは位置Pt(Ps))に応力集中することによる。このため、ミーゼス相当応力分布曲線の例えば応力線1mgも(
図9において)少し時計回りに回転する形になる。このことは、
図9において、応力線1mgを含む圧縮応力分布全体が時計回り方向に傾き、第三境界線B3から離れることになるので、本発明の評価において悪影響はない。
図7のミーゼス相当応力分布図を見てもナット座面と被締結物の接触する位置Pt(Ps)近傍に応力大の白色、応力やや大の明るいグレー、応力少し弱い濃いグレーの領域が力Fの方向を示しており、被締結物とナットの中で広がっている。この応力の方向は位置Pt(Ps)からねじ4山目を向いているように見える。
【0066】
(ミーゼス相当応力分布)
本発明の第一の側面の被締結物の締結構造では、一つの好ましい態様において、応力非伝達空間1sの第三境界線B3は、被締結物本体1bの上面1uにかかる締結力を、被締結物1の上面1uが位置Ptから位置Poまで平坦であると仮定した被締結物1に対してかけたときに、上記仮定の被締結物内に発生するミーゼス相当応力分布において、位置Ptから垂直下方向にかかるミーゼス相当応力の大きさを基準にして、その相対応力が95%以上である領域の境界を表すボルト穴1h側の応力分布線よりも、ボルト穴1h側にある。
【0067】
ミーゼス相当応力分布は、実際には見ることが出来ない延性材料内部の力の状態を可視化する技術であって、物質内部を細分化し、3軸方向のベクトルを計算し、それをまとめて表現することで内部の力の方向や力(応力)の大きさを分布として表したものである。材料力学において知られている手法であり、代表的な式は以下のとおりであり、ミーゼス応力σMisesは主応力σ
1、σ
2、σ
3を用いて次式で表される;
【数1】
【0068】
本発明ではボルト、ナット、被締結物をJIS規定の軸力で締結した時の状態を比較することで従来方式に対して目的に沿って改良を行うためにミーゼス相当応力の分布を使用して、本発明の締結構造を評価した。
【0069】
締結時に発生するボルトの軸力全てが,ナットと相接する山全体で不均等に噛合い,軸力相当の力をナットに移し,ナットの山で不均等に分担した力の総和がナットの内部を経て,被締結物との接触面全面で圧縮する応力となる。ボルト軸力の全体は被締結物の面全面で受ける応力総和に等しい.
図4、
図7等では1つの縦断面を示しているが,解析は1/360度分で行っているので、360度の総和と一致する.また被締結物にかかる応力は,決して均等にならず,ナットの内周側(ボルト側)により多く,あるいはかなり多くの割合で(さまざまのシミュレーション結果から)ナット内周側に集中する.ナット外周側の負荷分担は小さい(シミュレーションの黒部分が多い).従って,内周側のナットと被締結物の接触点Ptに応力が集中して加わると考えても,被締結物の座屈などを起こさないよう、ナット、被締結物から基体に力を流し、それぞれが座屈を起こさないよう、より健全な締結体となることが良いと考えて解析,設計する必要がある。
【0070】
本発明の第一の側面の締結構造の1つ目の要素として,
図5~6において,ナットねじ谷底を結ぶ線4eから、応力非伝達空間1s(第三境界線B3)のボルト穴内周面から半径方向最も遠い位置Psまでの距離Ls、特にナット下面(座面)4wと被締結物1が触れ始める位置(点)Ptまでの距離がある。この位置Ptに最大荷重がかかり、位置Pt直下に最大の圧縮応力が発生する。
【0071】
図9(a)のミーゼス(von Mises)相当応力分布1mは、一般的に位置Ptに垂直に力が掛かった時の被締結物内部に発生する圧縮応力の分布状態をFEM解析での計算をポスト処理して表わしている。
図9(a)では、第三境界線B3も併記しているが、本発明では、ミーゼス相当応力分布は、被締結物1は応力非伝達空間1sがない平坦な上面1uを有すると仮定して、その仮定の被締結物1の上面1uの位置Pt(応力非伝達空間1sとの境界)に力Fが加わるときに、その仮定の被締結物1の内部に加わるミーゼス相当応力分布を基準とするものであり、
図9(a)でも、そのようにして求めたミーゼス相当応力分布を模式的に表している。ミーゼス相当応力分布は、被締結物のヤング率とポアソン比に依存し、また応力の大きさは力Fに依存するが、応力分布自体は力Fの大きさに依存しない相対的な応力分布を示すので、力Fは任意でよい。
図9(a)に示すミーゼス相当応力分布を表す矢印曲線1m(具体的には1maから1mg;力の大きさ、方向を示すベクトルであるが、連続的に描くことで力の流れを表わしている)は、力が拡散する範囲である半円内を縦方向に曲線で延びており、最内部(Pt直下部)の応力1maが最も大きく、それより外部及び遠方になるほど応力が(1mbから1mgへ)順に小さくなる。
図9(a)では、第三境界線B3は、Pt直下垂線から最も小さい応力線1mgより遠い側(ボルト穴側)に形成されている例である。ただし、
図9(a)の応力線1m(1ma~1mg)は7段階の応力分布を表しているが、模式的に任意の応力分布である。
【0072】
図9(b)は、この状態の力の大きさを実際に求めて、黒(応力大)、グレー、淡いグレー、白色(応力小)を使って8段階のグラデーション模様で示したものであり、
図9(b)では、色が濃いほど応力が大きい状態であり、表示では力Fがかかる中心部Ptの直下の応力1ma対応部分が一番大きく、位置Ptから最外周の線1mgのボルト穴側部分の外側の応力が一番小さい。この応力は、さらに最外周線1mgの外側にも広がっているが、その外周線1mgの外側(図では線1mgの右側)の応力の大きさは、極微小であり、応力としての影響が無視できるほど小さくなっている。図の最外周線1mgの内部(略半円の内部)は全荷重Fの95%以上を分担している。応力非伝達空間1sの第三境界線B3が、位置Ptから遠い、ミーゼス相当応力がより小さい領域にあれば、応力非伝達空間1sによって分担されなくなる応力は、その小さい応力分だけであるので、被締結物本体1bに余計に加わる応力をより小さくできるので、被締結物の疲労強度が向上する。被締結物の座屈を防止又は低減することができる。
【0073】
従来の被締結物の典型的なボルト穴構造では、被締結物1のボルト穴端部は被締結物1の上面1uに垂直であり、ボルトの軸線方向であるから、ボルト穴端部に加わる力Fのボルト穴側にかかる応力の全部を、ボルト穴端部が100%直下に受ける構造であった。本発明の第一の側面では、被締結物1の応力非伝達空間1sを形成する第三境界線B3が、上記のミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力を基準(100%)として、その95%、90%、さらにより小さい応力の分布曲線よりもボルト穴側にあると、位置Ptに加わる力を位置Pt直下よりボルト穴側でも分担するので、被締結物1の耐久強度が向上する。また、第三境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の80%、70%、50%、30%、20%、10%、又は5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあってよい。第三境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあることが特に好ましい。
【0074】
また、第三境界線B3が、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の、例えば30%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるというとき、第三境界線B3はその30%の応力分布曲線1mに完全に沿う必要はなく、その30%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあればよく、特に被締結物1の上面から下面へ所定の深さまで(通常、上に凸の曲線で)延在した後は、応力非集中線を維持しながら、よりボルト穴側に向かって(被締結物1の上面により平行になる方向に、すなわち、下に凸の曲線として)折れ曲がってよい。例えば、
図9の第三境界線B3は、位置Ptから深さ方向に初めは応力分布曲線1mgに沿っているが(上に凸の曲線)、所定の深さにおいてボルト穴側に曲がって(下に凸の曲線でボルト穴に向かって)延在している。典型的な1例では、縦断面において第三境界線B3は、位置Ptから上に凸の曲線として始まり、変曲して下に凸の曲線として位置Phに至るように構成されてよい。なお、
図9(a)を参照すると、第三境界線B3が、位置Ptの直下に加わるミーゼス相当応力1maの大きさの95%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるとき、
図9(a)では大きさが95%の応力分布曲線は例えば1mbのように上面1uから下面1wに向かってほぼ垂直に近い線であるが、多くの場合、第三境界線(B3)は距離Ls/p=0.5~6の条件によって、1mbのような応力分布曲線に沿う場合であっても途中のどこかで変曲してボルト穴側に延在するであろう。第三境界線B3がこのような曲線であることによって、被締結物1は応力非伝達空間1sによって小さい応力集中を実現しながら、被締結物本体1bのボルト穴近くの内部応力による被締結物1への変形などの影響を小さくでき、応力非伝達空間1sを形成する加工量も小さいでき、またボルトの位置合わせにも有利でありえる。第三境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあり、被締結物1の上面1u近くでは5%の応力分布曲線に沿いながら、深さがねじピッチのある倍率(例えば0.01倍~0.03倍)以上に達した位置からボルト穴側に変曲することが特に好ましい。
【0075】
図9(b)を参照すると、特定の応力分布曲線の半径方向寸法は、最初は深さ方向に拡大しているが、途中から縮小している。これは内部応力が内部で半円形(実際の物体ではドーム型)に拡散し、同じ大応力の範囲は小さくなる様子の断面である。第三境界線B3の半径方向寸法を深さ方向の途中で(
図9(a)の1ma側に)縮小させると、その境界線B3は、最も縮小した位置から軸線方向の線を引いたときに交わる最も位置Ptに近い応力分布曲線(上記の縮小している応力分布曲線より位置Ptに近い応力分布曲線)の応力が被締結物1にかかる。庇のように突出した部分では力F由来の応力は受け入れることが出来ない。第三境界線B3は理想的にはPtからPhに向かって、滑らかに(急に曲がらずに)、ボルト穴側方向及び深さ方向ともに逆戻りすることなく、一方通行で繋がる事が望ましい。力は流れやすいところ、流れる先がある部分(その先に伝わるところがある)に流れる。行き止まりになる部分や、流れの中の突出部分などには、入り込まない性質を持っているからである。本発明の目的では、ミーゼス相当応力分布曲線の半径方向寸法が最大になった位置より深い箇所では、その位置から軸線方向に下面まで延ばした直線と考えるとよい。これは、応力は周辺の部材に力が拡散し、均一になったところで力の流れは平行になることを示している。
【0076】
このような場合、第三境界線B3は、深さ方向に、応力分布曲線の軸線方向寸法は縮小していても、第三境界線B3の半径方向寸法が縮小することは好ましくない。第三境界線B3のPtからボルト穴側のPhへ向かう距離は、縮小することがないこと、拡大するだけであることが好ましい。あるいは、応力分布の相対的応力は、曲線矢印の上部(Pt近傍)と下部(図の矢印の矢付近)で大きさが異なるので、1つの態様では被締結物の下面あるいはねじのピッチ10~20pまたはそれ以上までの深さにおいて評価してよい。もう1つの態様では、被締結物のナット側表面からねじ0.1~1ピッチあるいは1~2ピッチの深さまでにおいて評価してよい。
【0077】
逆に、縦断面において、応力非伝達空間1sの第三境界線B3が存在してはならない領域は、Pt直下の線1maからボルト穴側に僅かな領域であるが、位置Ptから始まる第三境界線B3が例えば少なくともねじピッチ0.01pないし0.5pまでは応力集中緩和曲線であることが好ましいが、ボルト穴にあるPhまで連続していても良い。応力集中緩和曲線については先に記載したが、例えば、第一境界線B1と第三境界線B3が接する点がPtとなるため、その接する形態は、第三境界線B3は応力集中緩和曲線として円弧、または楕円弧の一部であり、Pt位置においてその円弧または楕円弧の接線として接することが望ましい。円弧であれば、その円の中心はPtの下方にあり、楕円であれば、Ptは短軸の頂点になる。
【0078】
また、位置Ptから始まる第三境界線B3は、位置Ptからボルト穴側に向かって1.0pまでは応力集中緩和曲線であることが好ましいが、それよりボルト穴側では必ずしも応力集中緩和曲線でなくてもよい。さらに
図9(a)の破線の斜線部(ハッチング)のPtから右側に離れた範囲であれば応力集中緩和曲線でなくてもよい。
図9(a)の破線の斜線部(ハッチング)に第三境界線B3があれば、その中にある線が総て理想的な第三境界線B3となり得る。
【0079】
縦断面において、応力非伝達空間1sの第三境界線B3が、位置Ptからねじピッチpに対して0.01pないし0.03p以内の深さまで応力集中緩和曲線であり、この部分の曲率半径が0.25pより小さくないことが好ましい。
【0080】
一つの好ましい態様において、被締結物1の縦断面において、応力非伝達空間1sの第三境界線B3は、被締結物1の平坦な上面1uの位置Ptから円弧又は楕円弧に角部なしで移行し(縦断面において上面1uは円弧又は楕円弧の接線をなす)、円弧又は楕円弧は上に凸の曲線であり、この円弧又は楕円弧は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の大きさを基準にして、その20%、より好ましくは5%の応力の分布曲線よりもボルト穴側にあり、変曲して下に凸状の曲線となって、一部は直線であってもよいが、ボルト穴の内周面1cの位置Phに至り、ボルト穴内周面1cとの接続部はR面取りの形(通常の面取りよりRが大きくてもよい)であることが好ましい。上記の上に凸の円弧又は楕円弧の部分は、被締結物1の上面1uからの深さ方向の距離が少なくともねじピッチ0.1p、より好ましくは少なくともねじピッチ0.5pであり、位置Ptからボルト穴内周面1c方向にねじピッチ1p以上、より好ましくはねじピッチ2p以上であることが好ましい。第三境界線B3は、位置Ptから位置Phまで深さは漸増することが好ましい。
【0081】
(応力非伝達空間の変形例)
図10に、応力非伝達空間の変形例を縦断面図で示す。例えば、
・
図10(a)は、1つの楕円又は大きな円弧の一部で構成されている。
・
図10(b)は、最初が楕円で始まり途中から斜め直線でボルト穴に進みPhに至る、また楕円の最後から真下方向に深く掘り下げられ、被締結物の厚さの99%以下まで下がったところにPhが設けられている構造でもよい。
・
図10(c)は、最初が楕円で始まり、少しPh側に進んだところからドリルなどで削られた斜め線に繋がりPhに至る線である。
・
図10(d)は、Ptから楕円弧で始まり、曲線で中央部分が波を打つ又は一部凹んでいてPhに至る形状である。この他にも様々な形状が有りうる。いずれも
図9(a)に示す破線の斜線部に第三境界線B3の存在する範囲である。
・
図5~7及び
図10(a)~(d)は、いずれも、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptが応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psであるが、本発明において、応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psは、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptでなく、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線B3の途中にあってもよい(図示せず)。
【0082】
図11に、応力非伝達空間の他の変形例を縦断面図で示す。
図11において、被締結物1は、被締結物本体、特にその締結部1bと、ボルト穴1hを有するが、その締結部は上下平行平面ではなく、縦断面において、上面1u及び下面1wが波打ち、波の上面側頂部がナット4と接し、波の下面側底部が基体2と接する形状である。この形状においても、ナット4の平坦な座面を第一境界線、ボルト穴内周面の延長線を第二境界線、第一境界線の位置Ptと第二境界線の位置Phを結ぶ第三境界線で囲まれた応力非伝達空間1sが、被締結物本体(締結部)1bの上面側かつボルト穴側に、存在する。
図11では、上面1u及び下面1wは波打つ平行面であり、板状部を変形して形成できる形状であるが、必ずしも平行面である必要はない。ナット4の座面と接触する上面と、基体2と接触する下面とを有してナット4とボルト3とで締結でき、締結部が締結に耐える強度を有し、かつ応力非伝達空間1sを有していればよい。被締結物本体の形状も、
図11では、板状である締結部の延長として板状に描かれているが、板状である必要はない。
【0083】
(面取り)
本発明の被締結物本体は、応力非伝達空間を形成されて位置Ptは応力非集中曲線の一部として構成されると、面取りは基本的に不要であるが、応力非伝達空間の形状によっては特に円弧状あるいは楕円弧状に面取りしてもよい。応力非伝達空間の被締結物本体のボルト穴内周面側の位置Phは、応力非集中曲線の一部として構成されてよく、また任意に面取りされてもよい。従来技術において、被締結物本体のボルト穴形成部の角は面取りされることがある。面取りは縦断面において円弧状又は三角形であることが多いが、その寸法は微細であり、最大でもねじのピッチpの0.35p未満程度であり、0.5pを超え、さらにねじのピッチpと同じになることはないので、本発明の応力非伝達空間とは明確に区別できるものである。
【0084】
(ナット)
先に、ナットの外周寸法は、ナットのねじ穴を上から視る平面図においてナット(ねじ本体及びフランジナットではフランジ部)に内接する円の直径と考えてよいことを先に述べた。この意味におけるナットの外周寸法Dは、本発明の第一の側面において、用いるボルトに対応して標準的に用いられるナットの外周寸法と同様であってよいが、1つの態様において、ナットの内径(又はボルトの外径)の2倍以上であってよく、2.1倍以上、2,2倍以上、2,3倍以上であってもよい。また、ナットの外周寸法Dは、ナットの内径(又はボルトの外径)の4倍以下、3倍以下、2.5倍以下であってよい。
【0085】
また、一つの態様において、締結構造を軸線方向から視た平面図において、被締結物1の上面1uとナット4の下面4wとの接触面は、軸線を中心として接触面に内接する円を想定したとき、内接円の半径が、ナット4のねじの谷底を結ぶ線(4e)と軸線間の距離の半径の2倍と距離Lsとの和の0.8倍以上、さらには0.9倍以上、1.0倍以上の寸法を有してよい。
【0086】
別の好ましい態様において、ナットの外周寸法Dは、ナットの内径(又はボルトの外径)をR4とするとき、(D/2)2-{(R4)/2+Ls}2≧k{(R4)/2}2(式中、k=2.5)であってよく、さらには、k=2.7、k=2.9、k=3.0であってよい。また、ナットの外周寸法Dは、(D/2)2-{(R4)/2+Ls}2≦q{(R4)/2}2(式中、q=3.5)であってよく、さらには、q=3.3、q=3.1、q=3.0であってよい。
【0087】
ナットは、フランジ部のない多角形ナット(通常六角ナット)であってよいが、フランジ部を有するフランジナットが好ましい。フランジナットはねじ軸部とねじ軸部より拡開したフランジ部を有し、フランジ部側の底面(座面)は平坦面である。フランジナットにおいて、フランジ部側の底面(座面)の外周寸法Dが上記の寸法を有することが、所定の締結面積を確保するために好ましい。これに対して、フランジナットにおけるねじ軸部は、底面(座面)の外周寸法Dより小さいことができ、材料費を節約できる。フランジナットにおけるフランジ部は、ナットと被締結物との締結力を確保するために、必要な締結面積と、その外周部における最低限の軸線方向厚さを有することが好ましく、その軸線方向最低限厚さよりもねじ開放側では、縦断面において、仰角約70度以下が好ましく、さらに約60度以下、約50度以下、特に約45度以下あるいは約40度以下、また約20度以上が好ましく、さらに約30度以上、約35度以上、特に約40度以上の仰角を有する形状として、ねじ軸部の材料を減少させてよい。被締結物とナットの間の締結力は、被締結物とナットの締結面からナット及びボルトのねじに向かってほぼ45度の仰角方向の圧縮応力として作用すると考えて、これより仰角の大きい部分の応力伝達は省いてよい(
図3参照)。また、フランジ部の座面近くは、縦断面において、座面に垂直であってよく、その部分の厚さは、例えば、ねじピッチpに対して0.5p以上であってよいが、好ましくは1p以上、1.5p以上、2p以上、3p以上であり、20p以下、10p以下、さらには5p以下であってよい。フランジナットねじ軸部とフランジ部の移行部分の外面部は応力集中緩和線で滑らかに結ばれていることが望ましい。ねじ軸部の外径はナットのねじ穴径に対応した標準寸法であることが好ましく、また、フランジ部の座面の外径は、応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)に対応してねじ軸部の外径より拡大することが好ましく、その拡大する寸法は応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)の0.7倍以上であることが好ましく、0.8倍以上、0.9倍以上、1.0倍以上であってよく、また1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下、1.1倍以下、1.0倍以下であってよい。また、フランジ部の軸線方向の(最大)寸法、すなわち、フランジ部の半径方向寸法が拡開する始点からナット座面までの寸法は、応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)に対応することが好ましく、その寸法は応力非伝達空間(1s)の半径方向寸法(Ls)の0.5倍以上であることが好ましく、0.7倍以上、0.8倍以上、0.9倍以上、1.0倍以上であってよく、また1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下、1.1倍以下、1.0倍以下であってよい。
【0088】
ナットの被締結物側の面(座面)は平坦面であってよい。座面が平坦面であるナットは入手及び製造が容易であり、好ましい。だだし、必要性はないが、締結時に、ナットの被締結物側の面(座面)において、被締結物の応力非伝達空間の上側(ナット側)にあって、ねじ軸部4bの強度を保持し、かつ締結力を伝達する必要がない部分であれば、空間(凹部)として形成されていてもよい。また、上記のような空間が存在する場合においても、ナットは被締結物側の平坦面で被締結物と接触し、ナットのねじ部(ねじ1山目を含む)はその被締結物側平坦面より下(被締結物側)に位置することはない。
【0089】
また、ナットは、通常の形状に対して、切込み又は凹部(空間)を形成する必要はなく、ナットがフランジナットである場合、フランジ部及びねじ軸部本体のいずれにおいても、ナットの通常の形状に対して、切込み又は凹部(空間)を形成する必要はなく、そのような切込み又は凹部(空間)はないことが好ましい。切込み又は凹部(空間)はナットの強度を損なう恐れがある。ここで、ナットの通常の形状とは、ねじ軸部本体(ねじ軸部を含む多角形部)であれば、ボルト穴からねじ軸部本体外周までの距離が軸線方向に一定であり、その肉部に切込み又は空隙がないことをいい、フランジ部であれば、ボルト穴からねじ軸部本体外周までの距離が軸線方向に拡大して座面に至り(座面近傍は、前記したように、ボルト穴からねじ軸部本体外周までの距離が一定であってよい)、その肉部に余分な切込み又は空隙がないことをいう。
【0090】
〔本発明の第二の側面〕
本発明は、第二の側面として、上面及び下面を有する締結部と、前記締結部を貫通するボルト穴とを有する被締結物のボルト穴構造であって、
前記ボルト穴は軸線、軸線方向と、前記軸線に垂直な半径方向を有し、
前記締結部の前記下面から前記上面に向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向として、
前記締結部は、前記ボルト穴を画定する前記軸線に平行なボルト穴内周面を有し、
前記締結部は、それ自身の前記ボルト穴側及び前記上面側に応力非伝達空間を有し、
前記軸線を含む縦断面において、前記応力非伝達空間は、前記締結部の前記上面と最も上側で接する前記半径方向の直線を第一境界線とし、前記ボルト穴内周面の延長線を第二境界線とし、前記第一境界線より下側かつ前記第二境界線より前記半径方向外側にあり、前記第一境界線の位置Ptと前記第二境界線の位置Phとを結ぶ線を第三境界線とする空間であり、
前記縦断面において、前記応力非伝達空間(1s)は、前記被締結物(1)の前記ボルト穴(1h)の内周面(1c)から前記半径方向に最も遠い位置をPsとして、前記位置Psから前記第二境界線までの前記半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.7p
(式中、前記ボルト穴の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、
Rが1.9以下のときpは0.2であり、
Rが1.9を超え2.4以下のときpは0.25であり、
Rが2.4を超え3.7以下のときpは0.35であり、
Rが3.7を超え5.5以下のときpは0.5であり、
Rが5.5を超え7.5以下のときpは0.75であり、
Rが7.5を超え9.5以下のときpは1.0であり、
Rが9.5を超え13以下のときpは1.25であり、
Rが13を超え23以下のときpは1.5であり、
Rが23を超え34以下のときpは2であり、
Rが34を超え40以下のときpは3であり、
Rが40を超え70以下のときpは4であり、
Rが70を超え150以下のときpは4である。)
を満たし、
前記縦断面において、前記第一境界線から前記位置Phまでの前記軸線方向の距離Lhは、前記pの0.01倍以上から、前記締結部の厚さTの99%以下の範囲にあり、ここに、前記締結部の前記厚さTは、前記第一境界線から、前記締結部の前記ボルト穴内周面における前記下面の位置までの前記軸線方向の寸法として定義され、
前記応力非伝達空間は、前記縦断面における前記第一境界線、前記第二境界線及び前記第三境界線で囲まれた前記空間を、前記軸線を中心として回転して形成される同心環状の三次元形状の空間であることを特徴とする被締結物のボルト穴構造を提供する。
【0091】
本発明の第二の側面の被締結物1は、本発明の第一の側面である締結構造において説明した被締結物に対応するので、本発明の第一の側面における被締結物の説明を参照することができ、特に
図6、並びに
図5などの他の図面を参照することができる。被締結物1は、上面1u及び下面1wを有する締結部1b(第一の側面では被締結物本体と称したが、特にボルト穴1h付近のナットと係合する被締結物本体部分を締結部と称する。)と、締結部1bを貫通するボルト穴1hとを有する。上面1u及び下面1wは、平坦面であることに限定されないが、ボルト穴1hの軸線に垂直な方向の平坦面から構成されていることが好ましい。締結部1bの上面1uは、ナット4と係合する側の面をいうが、締結部1bの上下両面がナット4と係合することが可能な場合には、その両面の少なくとも一方の面を指す。この場合、締結部1bの上面1u及び下面1wとは、発明を説明するための便宜的な呼称である。本発明の第二の側面では、締結部1bの上面1uに応力非伝達空間1sを有するが、以下の説明では、応力非伝達空間1sを有する側の面を上面、応力非伝達空間1sが存在する方向を上、上側、上方向と称し、図面でも紙面の上に当たる。締結部1bの上下両面に応力非伝達空間1sを有する場合には、特定の応力非伝達空間1sを議論しているときは、その議論している応力非伝達空間1sが存在する側の面を上面と考える。
【0092】
ボルト穴1hは軸線、軸線方向と、軸線に垂直な半径方向を有し、締結部1bは、ボルト穴の軸線、軸線方向及び半径方向と共通の軸線及び半径方向を有する。上記のように、締結部1bの下面1wから上面1uに向かう方向を上、上側又は上方向、その反対方向を下、下側又は下方向とする。
【0093】
締結部1bは、ボルト穴1hを画定する軸線に平行なボルト穴内周面1cを有する。ボルト穴1hは、ボルト穴内周面1cによって規定される、所定のボルトの外径に対応するボルト穴径Rを有し、そのボルトがボルト穴1hを貫通することができる。ボルト穴内周面1cはボルト穴1hの軸線に平行な面からなり、基本は円筒状の面である。ボルト穴1hは、その中をボルト3が貫通するとき、ボルト3に対して被締結物1(締結部1b)を位置合わせする役割を担っている。したがって、ボルト穴径は、ボルトを貫通させるために十分であるが、ボルト3に対して被締結物1(締結部1b)の位置が大きくずれることがないように、ボルトの外径より僅かに大きい寸法が選択される。ボルト穴径とボルトの外径との差は、一般的には、上記定義したpに対して0.35p程度、最大0.8p程度である。
【0094】
締結部1bは、ボルト穴1hの周辺において軸線方向の厚さTを有する。締結部1bの厚さは、ナットの座面が軸線に垂直な方向、すなわち、半径方向の平面を有するときに、ナットが締結部1bの上面1uと最も上方向の位置で接触するときその接触位置の軸線方向の位置から、ボルト穴1hの周辺(仮にボルト穴径の2~2.5倍までの直径部分と考えてよい。)において基体2の頂部が締結部1bと接触するとき、その接触位置の軸線方向における最も下側の位置までの距離と考えてよい。締結部1bの上面1uが半径方向の平面を有する場合には、厚さの上側は、その平面の軸線方向の位置であり、締結部1bの下面1wが半径方向の平面を有する場合(特に下面1w側に応力非伝達空間1s又はそれに相当する空間を有していない場合)には、厚さの下側は、締結部1bの下面1wの軸線方向の位置である。締結部1bの上面1uと下面1wが半径方向の平行平面であるときは、それらの平面の間の距離が締結部1bの厚さである。
【0095】
締結部1bは、それ自身のボルト穴1h側かつ上面1u側に応力非伝達空間1sを有する。応力非伝達空間1sは、軸線を含む縦断面において、締結部1bの上面1uと最も上側で接する半径方向の直線を第一境界線B1とし、ボルト穴内周面1cの延長線を第二境界線B2とし、第一境界線B1より下側かつ第二境界線B2より半径方向外側にあり、第一境界線B1の位置Ptと第二境界線B2の位置Phとを結ぶ線を第三境界線B3とする空間(
図6(a)(c)の1s)である。そして、応力非伝達空間1sは、その縦断面における第一境界線B1、第二境界線B2及び第三境界線B3で囲まれた前記空間(
図6(a)(c)の1s)を、軸線を中心として回転して形成される同心環状の三次元形状の空間(
図6(b)の1s)である。
【0096】
第三境界線B3が第一境界線B1と接する位置Ptは、応力非伝達空間1sにおいて、ボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置であることが好ましい。
図5~7の好ましい例を参照すると、応力非伝達空間1sは、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Pt、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bのボルト穴内周面1cとの境界位置Phを有し、ボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psからナット4のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離としてLs、被締結物本体1bの上面1uの延長線から位置Phまでの距離としてLhを有する。本発明の第一の側面において距離Lsは、ボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置からナット4のねじ谷底を結ぶ線の延長線までの距離として定義され、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptが応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psであることが好ましい(例えば、
図5~7、
図10)。しかし、応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psは、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptでなく、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線B3の途中にあってもよい。
【0097】
被締結物1又はその締結部1bは、縦断面において、応力非伝達空間1sの下側に締結部本体がボルト穴まで延在して、その延在部分がボルト穴内周面を形成している。このボルト穴内周面を形成する締結部本体の延在部分は、ボルトの位置合わせ用であり、平面図において、少なくとも2箇所、好ましくは少なくとも3箇所において、ボルト穴内周面まで延在している必要があるが、ボルト穴内周面まで延在している部分は突起状であってもよく、すなわち、平面図において、その突起状以外の領域では空間を形成していてもよい。この空間は、
図5,6の縦断面図においては、応力非伝達空間1sの下側の被締結物1又はその締結部1bの本体が存在する領域である。このような空間は、形成する必要はないが、形成された場合、応力非伝達空間1sと連続した空間を形成する。しかし、この空間は、本発明が定義する応力非伝達空間1sとは異なる。
【0098】
本発明の第一の側面において説明したように、被締結物1又はその締結部1bが上記のような応力非伝達空間1sを有すると、締結部1bのボルト穴1hにボルト3を相通し、ボルト3とナット4をねじ締めしたとき、被締結物1又は締結部1bのナット4との係合面とボルトのねじの締結面側と低次山目、特に1山目との間にかかる最大の圧縮応力が、応力非伝達空間1sが存在する分だけ低次山目、特に1山目付近に伝達されないので、応力非伝達空間1sを有していない従来の場合と比べて、低次山目、特に1山目にかかる応力(負荷分担率)を顕著に減少させることが可能である。
【0099】
本発明の第二の側面の被締結物では、応力非伝達空間1sの寸法として、縦断面において、被締結物のボルト穴内周面から半径方向に最も遠い位置をPsとして、位置Psから第二境界線B2までの半径方向の距離Lが、
0.5p≦L≦5.7p
(式中、前記ボルト穴の直径をRとし、R及びpの単位はmmであり、pは上記のLとpの関係式において定義した値である。)
を満たすと、上記の効果が大きいので望ましい。
【0100】
1つの好ましい態様において、距離Lは、例えば、0.6p以上、0.7p以上、0.8p以上、1p以上、2p以上、2.5p以上、3p以上であってよく、また5p以下、4p以下、3,5p以下であってよい。距離Lが0.6p~5.6p、より好ましくは、0.8p~5.6p、1.0p~5.0p、さらに好ましくは1.5p~4.5p、特に2.0p~4.0p、さらには2.5p~3.5pを満たすことは好ましい。
【0101】
また、本発明の第二の側面の被締結物では、応力非伝達空間1sの寸法として、縦断面において、第一境界線B1から位置Phまでの軸線方向の距離Hは、第一の側面の距離Lhと同じであり、距離Lhについて先に記載したと同様であってよいが、前記Lとpの関係式において定義したpの0.01倍以上から、締結部1bの厚さTの99%以下の範囲にあり、ここに、締結部1bの厚さTは、第一境界線B1から、締結部1bのボルト穴内周面1cにおける下面1wの位置までの軸線方向の寸法として定義される。応力非伝達空間1sの距離H(上下方向の寸法、すなわち、空間の深さ)は、ナットを用いて締結したときにナット又は被締結物1の弾性変形によって、応力非伝達空間1sが無効化されることがない最低の軸線方向寸法(深さ)を有し、ボルト穴がボルトを位置合わせするための機能を失わないための最大の軸線方向寸法(深さ)以下である。
【0102】
1つの好ましい態様において、距離Hは、例えば、前記定義したpの0.1倍以上から被締結物1の厚さTの90%以下の範囲、さらにはpの1倍以上から被締結物1の厚さTの65%以下の範囲であってよい。望ましくは0.01pを超え、締結部の厚さTの65%以下の範囲であって、更に望ましくは0.03pを超え、被締結物の厚さTの50%以下の範囲であって、更に望ましくは0.04pを超え、被締結物の厚さTの40%以下の範囲である。
【0103】
1つの好ましい態様において、距離Hは、pの1倍以上から、被締結物1の厚さTの95%以下の範囲であり、さらに30~90%の範囲、50~90%の範囲にあってよい。距離Hは、厚さTの1%以上、3%以上、5%以上、10%以上であってもよく、また厚さTの50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であってよい。
【0104】
ボルト穴内周面の延長線上にある第一境界線B1から位置Phまでの軸線方向の距離Hは、応力非伝達空間1sの軸線方向に最大距離(最大深さ)であることが好ましいが、第一境界線B1から応力非伝達空間1sの軸線方向に最も遠い位置(最大深さ)は、ボルト穴内周面の延長線上にはなくてもよい。第一境界線B1から応力非伝達空間1sの軸線方向に最も遠い位置(最大深さ)が、ボルト穴内周面の延長線上にはない場合、その最大深さの範囲及びその好ましい範囲はHと同様の範囲であってよい、すなわち、ナット4のねじピッチpの0.01倍以上から、被締結物1の厚さTの99%以下の範囲内であってよく、その好ましい範囲もHと同様であってよい。
【0105】
図7は、
図5及び
図6に示すような第二の側面の被締結物の例において、応力非伝達空間1sの半径方向寸法、すなわち、被締結物1の上面1uにおける応力非伝達空間1sの最もボルト穴から遠い位置Ps(Pt)から、被締結物1の内周面1cの延長線(又は位置Pо)までの距離Lは、約1.81p(pは上記の定義の値)、応力非伝達空間1sの軸線方向寸法(深さ)、すなわち、ボルト穴内周面1c又はその延長線において被締結物1の上面1uの位置Poから応力非伝達空間1sの最も深い位置Phまでの距離Lhは、約0.5pとして、ボルト3とナット4を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析した図であり、
図4に対応する図になる。
図7を参照すると、位置Ps(Pt)近傍とナット最外周部を比較すれば、位置Ps(Pt)付近の方が大きな応力を発生している。白色の応力大が位置Ps(Pt)から斜めに出て、ナット内部に入ったところで明るいグレーと暗いグレーが大きく広がり、ナットねじ山の開放側の3,4,5山目に幅広く拡散しており、ねじ山の6番、7番では黒色となっている。これに対し、被締結物の強度は従来方式の材料として、位置Ps(Pt)から少し斜めに白色、明るいグレー、暗いグレーがミーゼス相当応力分布の線1mgに類似する分布を示している。この分布状態が力の流れを表わしている。
【0106】
図7と
図4を比較して見ると、応力の分布状態が大きく異なることが判る。
図7では、5山目まで明るいグレーと暗いグレーが広がっていることが見える。被締結物の位置Ps(Pt)近傍から斜めねじ山方向に小さな白色が見られるが、この白色が力の方向を示していて、この白色の向いている方向にナットねじ山の3、4、5山目がある。
図7を参照すると、
図4と比べて、応力がより多く開放側に向かって、1山目の負荷分担率は小さくなっていることが認められる。負荷分担率の数値は、1山目30.2%であり、2山目は19.4%、3山目は15.2%、4山目は12.6%、5山目は10.3%、6山目は7.4%、7山目は4.9%であった。
【0107】
図8(a)(b)に、
図7の各ねじ山の負荷分担率を調べた結果を示す。
図8(a)(b)に、本発明の締結構造の一例(
図7はモデル2)の負荷分担率と、従来方式ワッシャー締結構造の
図4に対応する負荷分担率を比較した表と、その比較をグラフにして表示している。この2つの比較をみれば、従来方式のボルトの噛合い1山目の負荷分担率が35.6%であることに対し、本発明のモデル2のボルトの噛合い1山目の負荷分担率は30.2%と絶対値で5.4ポイント、相対比では約15%低減している。この1山目負荷低減により、ボルトの噛合い1山目谷底の疲労強度向上に効果がある。
【0108】
ボルト、ナット締結部の破壊は、ボルトの噛合い1山目谷底で亀裂軸破断として発生することが多い。初期締結負荷の低減効果は疲労破壊強度の向上の効果をもたらす。ボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図は、外力負荷(応力振幅σr)と疲労破壊寿命(繰り返し数Nf)の関係を示し、一般的に次の実験式で表すことができる。
Nf・σr
b=C
(式中、Nf:疲労破壊するまでの負荷の繰り返し数
σr:負荷の応力振幅
b: 応力指数(一般的に3~5)
C: 材料定数)
したがって、締結噛合い1山目のボルトねじ谷底への負荷を下げると、同じ割合で、外力負荷(σr)分担を下げることができ、下がった負荷の応力振幅のb(一般に3~5)乗分、繰返し数Nfを大きくできる。その結果、
図7のモデル2では、負荷分担率が15%低下するが、上記の式から,Nfは50~100%向上し,ボルトの寿命は1.5~2倍に延びることが期待される。応力指数b=4とすると、寿命は1.92倍になる。
【0109】
なお、本発明で採用するFEM解析を行うボルト、ナット、被締結物の境界条件となるねじ山形状、部材強度、部材ヤング率、ポアソン比、締結トルク、軸力などの要素はすべて従来方式と同様のJIS(ISO)に規定されるものを採用して解析を行い、比較して改良効果を確認している。pの値に関しては細目を採用する。
図4および7に示す解析では参考にM12×P1.25(細目ねじ)の場合を表示している。第三境界線B3を典型的な形で示した一例が
図7であり、同じ形状をFEM解析したものが
図9であり、被締結物内のボルト穴径はねじが通過するために最小の隙間(0.5mm)であって、従来方式のボルト穴とボルトねじの関係と同じ隙間で、かつストレートである。距離Lは約1.81p、距離Lhは約0.5pである。ナットの座面の外周径は30mmである。
【0110】
図8(a)(b)は、
図7と同様に、第二の側面の被締結物の例において、ボルト3とナット4を締結するときにかかるミーゼス相当応力をFEM解析し、距離L(L/p)をL/pを0.4~3.41まで5点で変化させたときの1山目の応力負担率の変化をまとめたグラフ及びミーゼス相当応力図である。
図8(a)に、本発明の締結構造の一例(
図7)と同様の形でLを変えたもの、モデル1~モデル5の1山目の負荷分担率を示し、その中のモデル2のミーゼス相当応力分布図を示している。従来方式ボルト穴構造の
図4(従来ボルト穴)に対応する負荷分担率を比較した表と、
図8(b)に、その比較をグラフにして表示している。
図8を参照すると、距離L(L/p)が大きくなると、1山目の応力負担率がより小さくなっていることが認められる。L/pが0から、0.40、1.81、2.61、3.01、3.41と順に大きくなると、1山目の負荷分担率は、L/p=0のとき(従来方式)の35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.3%に順に低下している。
図8(b)のグラフを見ると。各数値は下に凸の曲線に乗っている。被締結物の設計では、材質、ヤング率、硬度など様々な条件が関係する設計条件として、ユーザー側で選択してよい。
【0111】
図8(a)(b)と関連して、先に述べたボルトの疲労試験結果より求められるS-N線図の関係式から、負荷分担率が35.6%から、32.8%、30.2%、29.1%、28.7%、28.3%に低下するとき、応力指数b=4として、Nfは及び寿命は、約1.39倍、約1.92倍、約2.22倍、約2.33倍、約2.56倍にそれぞれ増大することが期待される。
【0112】
(応力集中緩和線)
第二の側面の1つの好ましい態様の被締結物では、縦断面において、締結部と応力非伝達空間との境界線は、曲線又は曲線と直線で構成され、角部がない、応力集中緩和線であることが好ましい。締結部と応力非伝達空間との境界線に関する応力集中緩和線については、第一の側面において対応する境界線の応力集中緩和線について説明した事項が、そのまま適用できる。
【0113】
例えば、本発明の第二の側面の被締結物では、縦断面において応力非伝達空間1sの第三境界線B3、特にナット4の座面と被締結物1との接触部の端部である位置Pt付近(例えば、被締結物1の上面1uから下面1wに向かう前記軸線方向の深さで1p以内)が、応力集中緩和曲線で構成されることが好ましい。ナット4の座面と被締結物1との接触部に圧縮応力がかかるとき、位置Pt付近が応力集中し易い形状、縦断面において直線と直線が交わる角部を有していると、そこで被締結物が破損する、ナットの座面を傷つけるなどの恐れがあるからである。縦断面において応力集中緩和曲線は、直線と直線が交わる角部を有していないが、応力集中緩和曲線の一部に直線を含んでも、その両側が曲線と滑らかに接続されていればよい。応力集中緩和曲線は、曲率が小さい(曲率半径が大きい)曲線であることが好ましく、例えば、最小の曲率半径が上記の1pの深さまでの第三境界線B3の曲率半径がボルト穴の直径の5%又はねじの0.25pより大きくてよい。縦断面において応力非伝達空間1sの第三境界線B3は、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線B3の全部が、応力集中緩和曲線によって構成されていることが好ましい。ここでも、応力集中緩和曲線は、直線と直線が交わる角部を有していないが、応力集中緩和曲線の一部に直線を含んでも、その両側が曲線と滑らかに接続されていればよい。応力集中緩和曲線に代えて、応力集中緩和線と呼んでもよい。応力集中緩和線は、1つ以上の、上に凸の曲線、下に凸の曲線、直線、変曲点、交点、またはこれらの組み合わせで連続的に構成される線であるが、直線と直線が交わる角部を有していない。ただし、第三境界線B3は、位置Ptからボルト穴に近づくと(例えば、ボルト穴まで距離Lの半分以下やさらには2/3以下の距離の範囲において)、そこにかかる締結応力は低下するので、直線と直線あるいは直線と曲線の交点で形成される角部があっても、被締結物が破損する恐れは低下するので、角部があってもよい。
【0114】
(ミーゼス相当応力分布曲線)
第二の側面の1つの好ましい態様の被締結物では、縦断面において、締結部と応力非伝達空間との境界線は締結部の上面に仮想ナットによる締結力を加えたときに、締結部が上面と最も上側で接する半径方向の直線を上面とする形状であると仮定して、前記仮定の締結部に形成されるミーゼス相当応力分布において、上面が応力非伝達空間と最も上側で接する位置から、上面に垂直な前記下方向に加わるミーゼス相当応力値を基準として、その基準の95%であるボルト穴側の応力分布曲線よりも、ボルト穴側にあることが好ましい。
【0115】
ミーゼス相当応力分布の意味、測定方法並びに応力非伝達空間の境界線との関係などについては、第一の側面において対応する境界線のミーゼス相当応力分布曲線との関係として説明した事項が、そのまま適用できる。
【0116】
図9を参照すると、従来の被締結物の典型的なボルト穴構造では、被締結物1のボルト穴端部は被締結物1の上面1uに垂直であり、ボルトの軸線方向であるから、ボルト穴端部に加わる力Fのボルト穴側にかかる応力の全部を、ボルト穴端部が100%直下に受ける構造(
図9(a)の1maの線である被締結物端面に沿ってPo~Phがある状態)であった。本発明の第二の側面では、被締結物1の応力非伝達空間1sを形成する第三境界線B3が、上記のミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の95%以下、90%以下、さらにより小さい応力分布曲線よりもボルト穴側にあると、位置Ptに加わる力を位置Pt直下よりボルト穴側でも分担するので、被締結物1の耐久強度が向上する。また、第三境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の80%、70%、50%、30%、20%、10%、5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあってよい。第三境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあることが特に好ましい(その応力5%以下の領域は、
図9(a)において破線の斜線部(ハッチング)で示される領域である)。
【0117】
図9では、圧力Fは位置Pt(Ps)で垂直に負荷している例を示しているが,実際のボルト、ナット、被締結物の関係においては、
図9中のFの矢印の方向は図に対して右上から左下に向かうこともある。その理由は、位置Ptの右側にボルトが有って、位置Ptの上にナット座面があるため、ねじ山でボルトとナットが力を受け渡し、その圧縮力がナット座面と被締結物の接触の最内周部(ここでは位置Pt)に応力集中することによる。このため、ミーゼス相当応力分布曲線の例えば応力線1mgも(
図9において)少し時計回りに回転する形になる。このことは、
図9において、応力線1mgを含む圧縮応力分布全体が時計回り方向に傾き、第三境界線B3から離れることになるので、本発明の評価において悪影響はない。
図7のミーゼス相当応力分布図を見てもナット座面と被締結物の接触する位置Pt(Ps)近傍に応力大の白色、応力やや大の明るいグレー、応力少し弱い濃いグレーの領域が力Fの方向を示しており、被締結物とナットの中で広がっている。この応力の方向は位置Pt(Ps)からねじ4山目を向いているように見える。
【0118】
また、第三境界線B3が、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の、例えばX%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるというとき、第三境界線B3はそのX%の応力分布曲線1mに完全に沿う必要はなく、そのX%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあればよく、特に被締結物1の上面から下面へ所定の深さまで(通常、上に凸の曲線で)延在した後は、応力非集中線を維持しながら、よりボルト穴側に向かって(被締結物1の上面により平行になる方向に、すなわち、下に凸の曲線として)折れ曲がってよい。例えば、
図9の第三境界線B3は、位置Ptから深さ方向に初めは応力分布曲線1mgに沿っているが(上に凸の曲線)、所定の深さにおいてボルト穴側に曲がって(下に凸の曲線でボルト穴に向かって)延在している。なお、
図9(a)を参照すると、第三境界線B3が、位置Ptの直下に加わるミーゼス相当応力1maの大きさの95%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあるとき、
図9(a)では95%の応力分布曲線は例えば1mbのように上平面1uから下平面1wに向かってほぼ垂直に近い線であるが、多くの場合、第三境界線(B3)は距離Ls/p=0.5~6の条件によって、1mbのような応力分布曲線に沿う場合であっても途中のどこかで変曲してボルト穴側に延在するであろう。第三境界線B3がこのような曲線であることによって、被締結物1は応力非伝達空間1sによって小さい応力集中を実現しながら、被締結物本体1bのボルト穴近くの強度低下を小さくでき、応力非伝達空間1sを形成する加工量も小さくでき、またボルトの位置合わせにも有利でありえる。第三境界線B3は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあり、被締結物1の上面1u近くでは5%の応力分布曲線に沿いながら、深さがpのある倍率(例えば0.01倍~0.03倍)以上に達した位置からボルト穴側に変曲することが特に好ましい。
【0119】
一つの好ましい態様において、被締結物1の縦断面において、応力非伝達空間1sの第三境界線B3は、被締結物1の平坦な上面1uの位置Ptから円弧又は楕円弧に角部なしで移行し(縦断面において上面1uは円弧又は楕円弧の接線をなす)、円弧又は楕円弧は上に凸の曲線であり、この円弧又は楕円弧は、ミーゼス相当応力分布曲線のうち位置Ptの直下に加わる応力の20%、より好ましくは5%の応力分布曲線よりもボルト穴側にあり、変曲して下に凸状の曲線となって、一部は直線であってもよいが、ボルト穴の内周面1cの位置Phに至り、ボルト穴内周面1cとの接続部はR面取りの形(通常の面取りよりRが大きくてもよい)であることが好ましい。上記の上に凸の円弧又は楕円弧の部分は、被締結物1の上面1uからの深さ方向の距離が少なくとも0.1p、より好ましくは少なくとも1pであり、位置Ptからボルト穴内周面1c方向に1p以上、より好ましくは2p以上であることが好ましい。第三境界線B3は、位置Ptから位置Phまで深さは漸増することが好ましい。
【0120】
(応力非伝達空間の変形例)
図10に、応力非伝達空間の変形例を縦断面図で示す。例えば、
・
図10(a)は、1つの楕円又は大きな円弧の一部で構成されている。
・
図10(b)は、最初が楕円で始まり途中から斜め直線でボルト穴に進みPhに至る、また楕円の最後から真下方向に深く掘り下げられ、被締結物の厚さの99%以下まで下がったところにPhが設けられている構造でもよい。
・
図10(c)は、最初が楕円で始まり、少しPh側に進んだところでドリルなどで削られた斜め線に繋がりPhに至る線である。
・
図10(d)は、Ptから楕円弧で始まり、曲線で中央部分が波を打つ又は一部凹んでいる形状である。この他にも様々な形状が有りうる。
・
図5~7及び
図10(a)~)d)は、いずれも、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptが応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psであるが、本発明において、応力非伝達空間1sにおけるボルト穴内周面1cから半径方向に最も遠い位置Psは、応力非伝達空間1sと被締結物本体1bの上面1uとの境界位置Ptでなく、位置Ptと位置Phとを結ぶ第三境界線B3の途中にあってもよい(図示せず)。
【0121】
図11に、応力非伝達空間の他の変形例を縦断面図で示す。
図11において、被締結物1は、被締結物本体、特にその締結部1bと、ボルト穴1hを有するが、その締結部は上下平行平面ではなく、縦断面において、上面1u及び下面1wが波打ち、波の上面側頂部がナット4と接し、波の下面側底部が基体2と接する形状である。この形状においても、ナット4の平坦な座面を第一境界線、ボルト穴内周面の延長線を第二境界線、第一境界線の位置Ptと第二境界線の位置Phを結ぶ第三境界線で囲まれた応力非伝達空間1sが、被締結物本体(締結部)1bの上面側かつボルト穴側に、存在する。
図11では、上面1u及び下面1wは波打つ平行面であり、板状部を変形して形成できる形状であるが、必ずしも平行面である必要はない。ナット4の座面と接触する上面と、基体2と接触する下面とを有してナット4とボルト3とで締結でき、締結部が締結に耐える強度を有し、かつ応力非伝達空間1sを有していればよい。被締結物本体の形状も、
図11では、板状である締結部の延長として板状に描かれているが、板状である必要はない。
【0122】
(面取り)
本発明の被締結物本体は、応力非伝達空間を形成されて位置Ptは応力非集中曲線の一部として構成されると、面取りは基本的に不要であるが、応力非伝達空間の形状によっては特に円弧状あるいは楕円弧状に面取りしてもよい。応力非伝達空間の被締結物本体のボルト穴内周面側の位置Phは、応力非集中曲線の一部として構成されてよく、また任意に面取りされてもよい。従来技術において、被締結物本体のボルト穴形成部の角は面取りされることがある。面取りは縦断面において円弧状又は三角形であることが多いが、その寸法は微細であり、最大でもpの0.35p未満程度であり、0.5pを超え、さらにpと同じになることはないので、本発明の応力非伝達空間とは明確に区別できるものである。
【0123】
(被締結物及びその製造方法)
本発明の被締結物の材質は、金属、窒化物、炭化物、酸化物、または硬質樹脂(CFRPを含む)から選ばれてよい。硬質樹脂は例えば、ビッカース硬さHv70以上、さらにはHv100以上の硬度を有するものであってよい。
【0124】
本発明の被締結物は、好適にはプレス加工、切削加工、研削加工、冷間、温間、熱間プレス加工、鋳造、鍛造、3Dプリンター加工、射出成型加工、またはこれらの工法の組み合わせにより応力非伝達空間を形成し得る。
【0125】
被締結物が板金部品であって、板金加工やプレス加工で被締結物を形成する時は、ナット座面の平面度維持、ナット座面周辺の歪みの抑制、金型からの離形性、金型の耐久性などを考慮した被締結物を形成することが可能である。
【0126】
機械加工により被締結物を加工成形する場合、一か所ずつ被締結物を加工するマシニングセンター(MC)のような工作機械ではエンドミル状の専用刃具を使用することが多いので、専用刃具の刃面形状が重要である。刃具は予め刃部を専用の形状に仕上げてある成形刃物となるが、可能な限り一定の面圧が刃にかかる様に成形することが望ましく、応力集中をしない滑らかな刃線を持つ刃具が望ましい。多軸ボール盤のように多くの刃具を一斉に使用する加工方法では、同程度の切削抵抗となる刃具を複数本使用することが望ましい。この様に被締結物を形作る境界線の形状は、加工方法の違いからも最適な形状を持つことができる。
【0127】
ボルト穴を持つ板金部品を作る際に塑性加工用の金型を使用することが多くある。工程の一例を挙げると、1)板の外形を打ち抜き(ブランク)、2)ボルト穴を打ち抜く(ピアス)、3)本発明の被締結物となる様に塑性加工(プレス)を行う。必要に応じて2)と3)を同時に行うことができる。この場合は,プレス金型を工程2)と3)が(または両方同時に)できる形状に作っておけばよい。これにより金型の変更のみで加工工数の増加無しに本発明の被締結物を得ることができる。
【0128】
この他、金型を使う加工方法として、鍛造(熱間、温間、冷間)、鋳造、ダイキャスト、樹脂などの射出成形、MIM(金属粉末射出成形),ロストワックス、放電電極加工などの工法が挙げられる。これらの金型でも加工、成形される対象物に最適な被締結物の構造を持たせるためには金型に本発明の被締結物構造となるような部分を設けておけば良く、従来からの工数で加工品を得ることができる。これらの場合、被締結物は、離型性、湯流れ、金型の耐久性を考慮した形状とする事が望ましい。
【0129】
図12は、塑性加工用金型の一例としてパンチ型の縦断面図を示す。雄型(上部)21と雌型(下部)22の中間の太黒線が被加工物23を表わしている。加工前に平板である被加工物23が穴を基準にパンチ金型で塑性加工を受け、穴部分が下方にホーン型に絞られている。被加工物の穴のコーナーが応力非伝達空間となる。使用時には図の下側からボルトねじ部が出てきて、上からナットがボルトに螺合してくる構造である。金型を使用すれば穴の大きさ、ボルト穴端部の構造、穴の数、ボルト穴端部の構造の方向など多くの要望を形成することが出来る。また、従来通り1回のプレス加工で狙った加工ができることは応力非伝達空間を作るための工数上昇は無いと言える。金型は専用金型となり、穴位置、方向などを間違える事もない。この様に金型は数多くの変形例があり得る。
【0130】
図13は、鋳造型の一例を示す。リング状の鋳物31を黒で表し斜線部が鋳物型32を示している。形状を単純化しているが、黒矢印が湯口(ゲート)33、そこから溶融金属が流し込まれ、空間を満たし黒色の製品(鋳物)31が出来る。斜線で示す金型(鋳物型)にあらかじめボルト穴端部構造の形状を仕込んでおけば、製品に応力非伝達空間が転写される。冷えて取り出し、ゲートの処理をすることで製品には希望の応力非伝達空間が作られる。本発明で提案する応力非伝達空間を金型に設けておくことで、希望の応力非伝達空間を持つ製品を製造することができる。鋳造工法はプレス加工のような1方向からの加工ではなく、全方向からの成形が出来る特徴があり、例えば球形部品に貫通穴を設け、その穴の被締結物を一度に、複数、あらゆる角度から作ることが出来る。鋳造、ダイキャスト、MIM,ロストワックスなど素材を溶かして型に入れ成形する金型は、無限に応用変形例があり得る。
【0131】
本発明の被締結物を形成する刃具について、1)機械加工で直接被締結物の加工をする場合と2)金型を作成して、この金型を使用して形を転写する工法に大別される。1)の直接加工する場合には、穴あけ用のエンドミル形状の刃を目的に沿った形状に成形することで、削りやすい、工作機械に適応している、刃の強度・耐久性に実績がある、という利点が得られる。2)の場合には、最終的に対象物が製品になることが多いので、転写される形状はいわゆる雄雌の関係となる。この様な形状を切削するためにも、本発明の被締結物となるような曲線を持つ刃具を使用することが望ましい、マシニングセンターやNC(数値制御)フライス、NC旋盤では刃の動き、ベッドの動きをコントロールする数値制御部分のプログラムの選択肢に、円弧は備わっているが楕円や2次曲線が備わっていない例も多くあり、相手部品に最適な形状をNC加工で行えないことが有る。この場合には専用刃具を使用した方が効率的な加工を行うことができる。刃具は切削に限らず研削砥石も含まれる。
【0132】
図14に刃具の専用形状の変形例を表示する。白抜き部分が刃具41の断面、その周囲の////部分には切り刃42が設けてある刃具の変形例である。被締結物44は、刃具41が回転すると、切り刃42の断面形状に成形される(////部分の形状になる)。
(a);エンドミル形状であり、応力非伝達空間を楕円、円を作る刃形状としたもの、多くの穴径に対応することが可能である。
(b);ドリル43がセンターにあり、両サイドに(a)と同様の応力緩和曲線を形成する刃42が足されたもの、被締結物に設けられたガイド穴に従い穴のセンターと応力非伝達空間のセンターを合わせやすい、または下穴無しで直接穴あけと応力非伝達空間を加工することが出来るものである。
(c);(b)の機能に更にナット座面まで削り出せる構造であり、大型構造物、溶接構造物、鋳造品、鍛造品など粗材表面が綺麗な平面でない場合などに使用しやすい。
(d);金型などの主に突起部を削り出せる構造としたもの、転写する対象物の形状が基本となり金型となる場合に使用できるが、この他にも使用対象に応じた多くの変形例がある。特に楕円、円などの応力集中緩和曲線を作る時に、あらかじめ刃具に希望する形状を入れておけば、NC工作機械で簡単に所望する応力集中緩和曲線を持つ締結噛合い1山目の負荷分担率を下げる応力非伝達空間を作ることが出来る。
【0133】
加工用刃具の材質は、従来から実績のある合金鋼、刃物鋼、炭化物、セラミック、窒化物などから選択し使用することができる。
【0134】
刃具の表面処理については、表面に硬化被膜をコートして、耐久性を向上させる事が出来る。DLC,TiN、TiC,CrN、BN、Al2O3などの高硬度コーティング薄膜をコートできる、薄膜コーティング方式はPVD(物理蒸着),CVD(化学蒸着),アークイオンプレーティング、スパッタ、FCVA(フィルター型カソーデック真空アーク法),マグネトロンスパッタ、PBII(プラズマベースイオン注入)、DC単パルスCVDなどを用いることができる。
【0135】
つば付きナット、すなわちうすいフランジ付き六角ナットの一部には、つばの部分を平面ではなく、座面側に少し球面曲げしたものが存在し、使用されている。このつば部の変形は弾性変形の範囲で、締結に伴いつば部が平らになる様に変形する。最初はつばの最外周部で線接触であるものが、締結の進行に伴い徐々に面接触になってくるものである。本発明の被締結物でフランジナットを使う場合には、弾性変形により被締結物のPtまでナット座面が触れるように締結することで、力の流れを外周側に限定でき、本来の目的にかなう。ナット締付けが弱く、ナット座面がPtで触れない場合には、所定位置より更に外周側で接触することになり、力の入る位置がナット外周側に更に広がってしまい目的を達成できなくなるおそれがある。つば付きナットを使用する時も、ナット座面が平面になるまで締め付けて使用することが好適である。
【0136】
本発明の被締結物の実施態様の一つに被締結物が高分子材料やアルミ二ウム材料などの柔らかい場合に硬い部材(鉄鋼、SUS、合金など)で部分的な形状を別に作り、インサート成形技術により柔軟基材に硬い部材を埋め込んで、硬い部材とナットが接触し、被締結物の変形を最小限に抑える締結部強化方法がある。強度を持つ部材(インサート材)の形状に本発明のインサート部材とナットが触れ始める位置をナットの外周側に設定する方法をとることが出来る。
図15に一例を示すが、他の材料の被締結物1に、インサート部材13を一体化するように鋳込まれ、または捻じ込み、圧入される事により、被締結物のボルト穴端部が構成されることによりナットと被締結物が接触する位置近傍を強化する方法であり、インサート部材と被締結物が一体化された構造となってボルト穴端部構造を形成することとなり、被締結物をナットで締め上げることでボルトの噛合い1山目ねじ谷底への負荷分担率を下げることが出来る。このような事例も本発明の一部である。
【産業上の利用可能性】
【0137】
風力発電機などボルト、ナット、被締結物で構成される機構のように外力負荷変動が非常に大きな環境で使用されるねじ締結部;より高速運転となる鉄道車両のねじ締結部;使用頻度が高まる航空機等の締結部;より軽量化が求められるのに大型化するSUV用途の自動車の締結部;より高出力を要求される発動機の締結部;メンテナンスを伸ばす要求があり連続運転を求められる発電設備や建物内のエレベーターやエスカレーター、土木機械、小型のボイラーのように熱膨張・収縮を繰り返す機器の締結部など負荷変動が大きくなる要素が益々増えているとともに、より安全な締結が求められている環境において、本発明のボルト穴端部構造は有効に使用できる。
【0138】
(被締結物の例)
本発明を適用可能な代表的なボルト穴を有する被締結物として下記の例を挙げることができる。
1)鉄道車両:
・台枠に固定される台車やサスペンション機構、上部車体も被締結物
・台車に取り付けられる車軸固定用金物
・車体に締結固定される補機(エアコン、送風機)などを収納した箱の取り付け部
・パンタグラフセットを車体に固定する台板・車体のドア開閉用エアシリンダーの端部取付部分
・車軸回転用モーターの枠箱
・車体連結部の雄雌機器(台枠に締結される)
2)鉄道:レールを接続する時の挟む板など
3)航空機:胴体フレームに各種構造物が締結されてくる。例えば主翼骨組み、燃料タンク、着陸用脚Ass'y(タイヤ、油圧機器、ブレーキ機構、などで構成)、客/貨物室隔離板、バッテリーケース(ケースが締結固定される)、機内通信ハーネス固定金物。
4)自動車:
エンジンのシリンダーブロック;カムシャフトAss'yが締結される。冷却水パイプや排気マニフォールドが締結される(ブロック側にスタッドボルトがある)。内部にクランクシャフト両端がベアリングを介して軸受けでブロックに締結される。クランクシャフト軸に動力取り出しプーリーが締結され、そこから変速機、発電機、などに動力を出力する。このプーリーも被締結物である。変速機自体もフレームとねじ止めされる被締結物である。内部の歯車や回転軸も変速機枠に軸受けを介し締結される。タイヤホイール;ハブプレートにタイヤ装着したホイールが締結される。ハブはブレーキAss'yが組み込まれ、駆動車軸に接続している。サスペンションAss'y;フレームにねじで締結される。燃料タンク;フレームに締結レシプロエンジンのコネクティングロッド本体。ビッグエンドのバンド状金物がボルト締めされる本体。このねじ部に空間を設けることでボルトねじの開放側に負荷を流す。
5)建設機械:
油圧シリンダーを受ける部分;フレームに取り付けられる部分。シリンダーの力の伝達を受ける部品。
6)土木機械:
油圧ショベル、ブルドーザーではフレームに取り付けた履帯駆動機器。油圧により歯車軸を回転させるための油圧分配機構外枠。この機器をフレームにねじ止めする。原動機をフレームに固定するマウンティングBRK'T。エンジンAss'yとフレームの間に存在し、双方を繋ぎとめる金物。
7)モーターサイクル:
原動機付きバイクでは、エンジンマウンティングBrk'tが被締結物であって、エンジンAss'yをフレームに取り付ける。エンジンのヘッドカバーも被締結物。フロントフォーク最下部の車軸を止める軸受けも被締結物。
8)造船:
外殻は溶接構成であるが、内部の構成は外で作られ内部に入れられたときに骨組みにねじ止めされる。例;配電盤は壁にねじ止めされるので被締結物。その中に配線された電線や制御機器も配電盤にねじ止めされるので、固定金物(Brk’t)が被締結物。操縦室の制御機器も床に埋め込まれたスタッドボルトで固定されるので、その機器類。
9)建築物、ビルディング:
鉄骨構造フレームの場合、H型鋼や角パイプの端部や途中に他部材と締結させる板が溶接されている。この板が被締結物であり、構造体を組み立てる部分である。厚み3cm程度×幅1M角の角パイプが縦構造に使用され、次々に重ねられ上方に組み立てられる時の両端に溶接された板であり、この板にボルト締結用の穴が開いている横梁に溶接された板があり、端部に穴が開いている。この穴がある板部分が被締結物。
10)建築機械:
エレベーターのモーターのフレーム部が被締結物、滑車の固定Ω型固定具が被締結物、エスカレーターのモーターとチェーンの歯車固定フランジが被締結物、オフィスビルでは空調用大型ファンのモーター枠箱、風車を軸に取り付けるフランジ。
11)工場内設備:
自動車生産ライン、食品製造ラインなどコンベアが使用されるが、コンベアを連結する部分に固定板がボルト締めされる。この固定板が被締結物。
12)風力発電機:
風車の羽が根本でねじ止めされているこの羽が被締結物。羽の回転から発電する軸の
軸受け部分が増速機ケースにねじで固定される。このケースが被締結物。本体柱に対して、発電機ケース(ナセル)が風向きによって回転する時、柱軸から脱落させないためにフランジ接続している。このフランジが被締結物。陸上、洋上などで組み立て、メンテナンスをするため、多くの機器がねじ止めされる。
13)社会インフラ:
埋設水道管;水道管は太い基幹パイプがフランジで接続されている。このフランジが被締結物。水圧変動によりフランジが開き/戻りを繰り返しボルトが破損する。ガス管も同様。フランジ接続が太い部分で使用される。他所で製造された基幹部品は現場でねじ締結をされ、地中に埋設されている。
14)橋梁:
橋の落下防止機構;橋げたは載っているだけが多いが、その落下防止機器は基礎部分にある金具に固定されている。この固定金物は被締結物である。溶接構造物の橋げたは現場でボルト締めされる。この橋梁と接続板が被締結物。吊り橋のワイヤーの端部は固定金物から抜けないようリング状金物を取り付ける。このリング金物が基礎部分に取り付けられる。
15)送電線鉄塔:
パイプ、L形鋼で鉄塔がつくられ、現場でねじ止めされる。このパイプやL形鋼構造物。
16)通信用アンテナ:
高所に取り付ける為、分解して製作され、現場取り付けされる。アンテナ部材が被締結物。
【符号の説明】
【0139】
1 被締結物又は締結部
1b 被締結物本体
1h ボルト穴
1s 応力非伝達空間
1u 被締結物上面
1w 被締結物下面
1c ボルト穴内周面
1m ミーゼス相当応力分布曲線
1ma~1mg 各ミーゼス相当応力分布曲線
2 基体
3 ボルト
3b ボルトのねじ軸部
3s ボルトのねじ部
4 ナット
4b ナットのねじ軸部
4s ナットのねじ部
4f ナットのフランジ部
B1 第一境界線
B2 第二境界線
B3 第三境界線
Pt 応力非伝達空間と被締結物上面頂部との会合位置
Ps 応力非伝達空間のボルト穴から半径方向に最も遠い位置
Po ナット座面とボルト穴内周面との会合位置
Ph 応力非伝達空間とボルト穴内周面との会合位置
p ねじピッチ又は定義した値
Ls ナットねじ谷底を結ぶ線4eの延長線から位置Psまでの距離
Lh、H ナット座面から位置Phまでの距離
L ボルト穴内周面の延長線から位置Psまでの距離
F 被締結物にかかるナットからの力
13 インサート部材
21 雄型
22 雌型
23 被加工物
31 鋳物
32 鋳物型
33 湯口(ゲート)
41 刃具
42 切り刃
43 ドリル
44 被締結物
※ 破壊しやすいボルトの噛合い1山目のねじ谷底の位置