(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】植物物質検出用流路チップ。
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220824BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20220824BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220824BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12Q1/6837 Z
C12N15/09 200
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2018081429
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-03-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「情報科学との協働による革新的な農産物栽培方法を実現するための技術基盤の創出」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田口 理孝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 龍
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 直樹
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0024014(US,A1)
【文献】特開平05-133955(JP,A)
【文献】Biosensors and bioelectronics,2011年04月02日,Vol. 26,p. 4070-4075,doi:10.1016/j.bios.2011.03.035
【文献】野田口理孝,植物の全身を長距離移行するRNA,植物科学最前線,2017年,Vol. 8,p. 1-9,doi:10.24480/bsj-review.8b9.00119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12Q 1/00
C12N 15/00
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)植物試料注入部、及び
(C)前記植物試料注入部Aと
直接連結しており、且つ植物物質検出プローブ固定化領域を有する流路、
を含
み、且つ
前記植物試料
が植物組織の破砕液、篩管液、道管液、樹液、及び排水組織からの水液からなる群より選択される少なくとも1種である、流路チップ。
【請求項2】
(A)植物試料注入部、
(B)植物試料排出部、及び
(C)前記植物試料注入部Aと前記植物試料排出部Bとを
直接連結しており、且つ植物物質検出プローブ固定化領域を有する流路、
を含む、請求項1に記載の流路チップ。
【請求項3】
前記植物物質が、核酸、タンパク質、ペプチド、糖鎖、細菌、ウイルス、及び低分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の流路チップ。
【請求項4】
前記植物物質が環境応答遺伝子群、器官/組織/細胞の発生成長関連遺伝子群、ストレス応答遺伝子群等に直接コードされる生育状態の指標となる生体内分子群、環境応答遺伝子群、器官/組織/細胞の発生成長関連遺伝子群、ストレス応答遺伝子群等に間接的に生成される生育状態の指標となる生体内分子群、miR399、miR395、miR172、miR156等のmiRNA、siRNA、その他のnon-coding RNA、mRNA、 FTタンパク質、FTホモログタンパク質(TSFタンパク質、Hd3aタンパク質、RFT1タンパク質、ZCN8タンパク質等やAFTタンパク質等)、HY5タンパク質、CLAVATA3/ESR-relatedペプチド、C-TERMINALLY ENCODED PEPTIDEペプチド、CEP DOWNSTREAMタンパク質等の植物の維管束である篩管や道管を介して全身へ移行するシグナル分子群及び、篩管や道管といった植物の維管束を介して感染するウィルスに由来するRNA及びタンパク質群からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の流路チップ。
【請求項5】
前記植物物質が1~4000種の植物物質である、請求項1~4のいずれかに記載の流路チップ。
【請求項6】
植物の状態判定用である、請求項1~5のいずれかに記載の流路チップ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の流路チップを備える、植物試料注入装置。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の流路チップを備える、植物物質検出装置。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の流路チップを備える、植物の状態判定装置。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の流路チップ、及び/又は請求項7に記載の植物試料注入装置を含む、植物物質検出キット。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の流路チップ、及び/又は請求項8に記載の植物物質検出装置を含む、植物物質検出キット。
【請求項12】
請求項1~6のいずれかに記載の流路チップ、及び/又は請求項9に記載の植物状態判定装置を含む、植物の状態判定キット。
【請求項13】
(a)請求項1~6のいずれかに記載の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、及び
(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、
を含
み、且つ
前記植物試料が植物組織の破砕液、篩管液、道管液、樹液、及び排水組織からの水液からなる群より選択される少なくとも1種である、植物物質検出方法。
【請求項14】
(a)請求項1~6のいずれかに記載の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、
(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、及び
(c)前記シグナルの値を指標として植物の状態を判定する工程、
を含
み、且つ
前記植物試料が植物組織の破砕液、篩管液、道管液、樹液、及び排水組織からの水液からなる群より選択される少なくとも1種である、植物の状態判定方法。
【請求項15】
(a)請求項1~6のいずれかに記載の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、
(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、
(c)前記シグナルの値を指標として植物の状態を判定する工程、及び
(d)前記判定の結果に基づいて、植物の栽培条件を調整する工程、
を含
み、且つ前記植物試料が植物組織の破砕液、篩管液、道管液、樹液、及び排水組織からの水液からなる群より選択される少なくとも1種である、植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路チップ、植物物質検出装置、植物物質検出方法、植物の状態判定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、栄養成分不足、微生物感染等の環境ストレスによって、その生育が阻害される。このような環境ストレスを放置することは作物の生産性の低下に繋がるので、例えば、栽培現場では、リン等の栄養成分を含んだ肥料を過剰に施用する傾向がしばしばみられる。しかしながら、肥料の過剰な供給は、生産コストを増大し、土壌汚染等の環境負荷にも結び付き得ることから、作物の生産性の観点、農業の持続可能性(sustainability)の観点においては、環境ストレスの有無を勘案し、植物の状態を把握しながら、栄養成分を適した時期に適量施用することが望ましい。
【0003】
また、植物は、その成長過程において、茎や幹の成長や肥大、開花や結実、果実の成長、塊茎や塊根等の根部の成長等、作物の収穫にとって重要な現象を経験する。これらの現象の時期の見通しを事前に把握することにより、施肥や農薬散布の時期・量等の最適化を図ることができ、生産工程を改善し、作物の終了及び品質を向上させ、生産コストの低減を図ることができる。また、植物の発生成長及び生理現象の時期の見通しを事前に把握することにより、栽培方法を調整することで各々の現象の時期を人為的に変更して調節することができ、市場への作物生産物の流通量の適切な制御や、植物の成長段階をその年の気象状況に適切に合わせることができ、より安全で効果的な農作物生産を実現することができる。
【0004】
特許文献1には、植物の茎、果実等の外径の経時変化を指標として、栄養成分不足を把握する技術が開示されている。しかしながら、この技術では、経時変化を測定するために時間を要してしまうし、様々な栄養成分のうちでどの成分どれだけ不足しているかといった詳細な診断をすることは難しい。また、実際に見た目の形態変化が顕在化したことを指標とした診断であるため、その時点までに被った作物の被害は回避できない。作物の状態診断においては、生産・栽培現場において、例えば、目視で何かしらの棄損を確認してから対応するでは後手の対応となってしまい、問題の解決とならない場合が懸念される。一方で、そのような目視で棄損状態が具現化するにあたり、具現化以前に生体内において遺伝子発現(RNAやタンパク質)や代謝変化といった生体分子の生成速度や生成物蓄積量の変化が起こることが原理的に考えられる。このような生体分子群の情報は、植物の状態診断に適用可能な生体分子マーカーとなり得る。植物の状態診断においては、見た目で診断・判断することができないサイレントな状態において、前記のような生体内分子情報を把握することが望ましく、生育の不具合や病害といった問題が顕在化する前に、潜在要因に適切に対応する、あるいは、未然に防除することが可能な技術が望まれる。
【0005】
また、近年のゲノム解析やオミクス解析の台頭、データー解析技術の発展に伴い、今後、環境要因と作物形質とを結びつける生体分子・シグナル分子情報が益々蓄積されていくと考えられ、それらの生体分子情報の簡便な検出技術は、様々な農業の場面で技術高度化につながる技術となりうる。他にも、生体分子情報は、品種改良・育種においても有用な情報となりえ、これに簡便にアクセスする技術は、選抜育種に併用可能であり、従来のジェノタイピングやフェノタイピングの中間に位置付けられる新たなスクリーニング技術となり得る。これらの観点からも、単純に生体内情報を網羅同定する一般的なオミクス解析ではなく、都度、必要性/ニーズに即した数・量の生体分子情報に、簡便で、かつ、効率的にアクセスでき、収集することができる技術が望まれる。
【0006】
既存の生体分子の検出技術においては、例えば、miRNAやmRNAを検出・定量するRT-PCR法が挙げられる。RT-PCR法では、高感度、高信頼性を有する一方で、検出過程において、時間を要するサイクル増幅ステップを必要とする。また、核酸やタンパク質のハイスループット検出に用いられるマイクロアレイでは、標的と固相プローブとの結合が自由拡散により行われるため、反応に時間を要し、かつ、多数のスポット(全プローブ固相箇所)に試料を行き渡らせる必要があるため、低用量の試料の解析は難しい。さらに、RNAシークエンシングでは、全転写産物を対象としたハイスループット解析が可能であり、新規の標的RNAや類似分子における多型・少数変異を検出することができる利点を有するが、高コストであり、煩雑な試料の前処理・調整を必要とする。上記技術は、いずれも、専用の設置機器を必要とし、ラボレベルでの使用を前提としている。マイクロ流体チップデバイスを用いたmiRNA検出に関する報告[非特許文献1]があるが、精製試料、粗精製試料に関わらず生体試料中のmiRNAの検出は試みられていない。また、植物科学分野においては、そのような技術報告は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-271952号公報
【文献】Arata H, Hosokawa K, Maeda M. Rapid sub-attomole microRNA detection on a portable microfluidic chip. Anal Sci. 2014;30(1):129-35.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境ストレス等の非生物ストレスの有無、植物ウィルス感染等の生物ストレス、開花等の植物の発生成長・生理現象が起こる見通し等の植物の状態判定に利用することができ、且つこれをより簡便且つより効率的に行うことが可能であり、必要な場合は農作物を栽培しながら利用することができ、必要な場合は栽培現場においてその場で状態判定することを可能とする技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて研究を進めていく中で、植物の状態を反映する植物物質を検出することに着目した。そして、環境ストレスの程度、開花等の現象が起こる見通し等の植物の状態の判定後にその判定結果に応じて栽培方法を変更するという観点から、該判定技術は、栽培現場での利用に適していることが望ましいことに着目した。
【0010】
本発明者はこれらの着目点を踏まえてさらに鋭意研究を進めた結果、(A)植物試料注入部、及び(C)前記植物試料注入部Aと連結しており、且つ植物物質検出プローブ固定化領域を有する流路を含む、流路チップを用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. (A)植物試料注入部、及び
(C)前記植物試料注入部Aと連結しており、且つ植物物質検出プローブ固定化領域を有する流路、
を含む、流路チップ。
【0012】
項2. (A)植物試料注入部、
(B)植物試料排出部、及び
(C)前記植物試料注入部Aと前記植物試料排出部Bとを連結しており、且つ植物物質検出プローブ固定化領域を有する流路、
を含む、項1に記載の流路チップ。
【0013】
項3. 前記植物物質が、核酸、タンパク質、ペプチド、糖鎖、細菌、ウイルス、及び低分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の流路チップ。
【0014】
項4. 前記植物物質が環境応答遺伝子群、器官/組織/細胞の発生成長関連遺伝子群、ストレス応答遺伝子群等に直接コードされる生育状態の指標となる生体内分子群、環境応答遺伝子群、器官/組織/細胞の発生成長関連遺伝子群、ストレス応答遺伝子群等に間接的に生成される生育状態の指標となる生体内分子群、miR399、miR395、miR172、miR156等のmiRNA、siRNA、その他のnon-coding RNA、mRNA、 FTタンパク質、FTホモログタンパク質(TSFタンパク質、Hd3aタンパク質、RFT1タンパク質、ZCN8タンパク質等やAFTタンパク質等)、HY5タンパク質、CLAVATA3/ESR-relatedペプチド、C-TERMINALLY ENCODED PEPTIDEペプチド、CEP DOWNSTREAMタンパク質等の植物の維管束である篩管や道管を介して全身へ移行するシグナル分子群及び、篩管や道管といった植物の維管束を介して感染するウィルスに由来するRNA及びタンパク質群からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の流路チップ。
【0015】
項5. 前記植物物質が1~4000種の植物物質である、項1~4のいずれかに記載の流路チップ。
【0016】
項6. 植物の状態判定用である、項1~5のいずれかに記載の流路チップ。
【0017】
項7. 項1~6のいずれかに記載の流路チップを備える、植物試料注入装置。
【0018】
項8. 項1~6のいずれかに記載の流路チップを備える、植物物質検出装置。
【0019】
項9. 項1~6のいずれかに記載の流路チップを備える、植物の状態判定装置。
【0020】
項10. 項1~6のいずれかに記載の流路チップ、及び/又は項7に記載の植物試料注入装置を含む、植物物質検出キット。
【0021】
項11. 項1~6のいずれかに記載の流路チップ、及び/又は項8に記載の植物物質検出装置を含む、植物物質検出キット。
【0022】
項12. 項1~6のいずれかに記載の流路チップ、及び/又は項9に記載の植物状態判定装置を含む、植物の状態判定キット。
【0023】
項13. (a)項1~6のいずれかに記載の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、及び
(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、
を含む、植物物質検出方法。
【0024】
項14. (a)項1~6のいずれかに記載の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、
(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、及び
(c)前記シグナルの値を指標として植物の状態を判定する工程、
を含む、植物の状態判定方法。
【0025】
項15. (a)項1~6のいずれかに記載の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、
(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、
(c)前記シグナルの値を指標として植物の状態を判定する工程、及び
(d)前記判定の結果に基づいて、植物の栽培条件を調整する工程、
を含む、植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、植物物質検出、さらには植物の状態判定に利用できる流路チップ、装置、キット等を提供することができる。これらを利用することにより、より簡便且つより効率的に、植物物質を検出することができ、さらには植物の状態を判定することができる。必要な場合は、こちらの植物物質の検出、植物の状態判定を、農作物の栽培現場で農作物の栽培を続けながら行うことができる。
【0027】
さらに、本発明によれば、植物の状態判定結果に基づいて栽培条件を調整することにより、作物生産リスクを低減し作物生産性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】a~cは、植物試料注入部A(丸(白))、植物試料排出部B(グレー領域又は曲線部)、及び流路C(直線)それぞれを1つずつ含む、本発明の流路チップの一実施形態を示す。dは、植物試料注入部A(丸(白))、及び流路C(直線)それぞれを1つずつ含む、本発明の流路チップの一実施形態を示す。長方形(黒)は植物物質検出プローブ固定化領域を示す。bは排出部が広い空間である形態を示し、cは排出部が線状である形態を示し、aは排出部について特に限定されていない形態を示す。
【
図2】aは、植物試料注入部A(丸(白))及び植物試料排出部B(丸(グレー))それぞれ1つずつと、これらを連結する流路C(直線)を複数含む、本発明の流路チップの一実施形態を示す。長方形(黒)は植物物質検出プローブ固定化領域を示す。bは、aの変形形態であり、プローブ固定化領域が複数の流路に跨っている形態を示す。
【
図3】aは、植物試料注入部A(丸(白))を2つと、その間に配置された植物試料排出部B(丸(グレー))を1つと、これらを連結する流路C(直線)を1つ含む、本発明の流路チップの一実施形態を示す。bは、aの変形形態であり、植物試料注入部A(丸(白))が4つの形態を示す。cは、aの変形形態であり、植物試料注入部A(丸(白))が1つであり、植物試料排出部B(丸(グレー))が4つである形態を示す。長方形(黒)は植物物質検出プローブ固定化領域を示す。
【
図4】aは、植物試料注入部A(丸(白))、植物試料排出部B(丸(グレー))、及び流路C(直線)それぞれを1つずつ含み、流路C上の植物試料注入部Aと植物物質検出プローブ固定化領域(長方形(黒))との間に植物試料精製部(長方形(グレー))が配置された、本発明の流路チップの一実施形態を示す。bは、aの変形形態であり、植物試料精製部が注入部よりも前に配置された形態を示す。
【
図5】植物試料注入部A(丸(白))、植物試料排出部B(丸(グレー))、及び流路C(直線)それぞれを1つずつ含み、流路C上の植物試料注入部Aと植物物質検出プローブ固定化領域(長方形(黒))との間から分岐した流路D上に植物試料精製部(長方形(グレー))が配置された、本発明の流路チップの一実施形態を示す。
【
図6】直接又は間接的に連結している植物試料注入部A、植物試料排出部B、及び流路Cを含むユニット(楕円)を複数備える、本発明の流路チップの一実施形態を示す。
【
図7】DNAプローブ固相用PDMS製デバイスを、アミノ基導入スライドガラスの上に搭載した状態、及び流路デザインを示す(実施例1-1)。
【
図8】検出用PDMS製デバイスを、DNAプローブ固相化スライドガラスの上に搭載した状態、及び流路デザインを示す(実施例1-2)。
【
図9】検出用PDMS製デバイスの液吸引口にシリンジポンプのチューブ先端を固定化した状態を示す(実施例1-2)。
【
図10】実施例2における、miRNA検出原理を示す模式図である。
【
図11】合成miRNAの検出結果を示す(実施例2)。
【
図12】トマト(マイクロトム)葉抽出液中での合成miR399の検出結果を示す(実施例3)。本結果は、抽出液総タンパク質終濃度は0.45mg/mlの場合の結果である。
【
図13】トマト(マイクロトム)葉抽出液中での合成miR399の検出結果を示す(実施例3)。本結果は、抽出液総タンパク質終濃度は0.45mg/ml及び0.2mg/mlの場合の結果である。
【
図14】シロイヌナズナ地上部抽出液中での合成miR399の検出結果を示す(実施例4)。
【
図15】同数のRNA分子を含むボリュームの異なる検出試料からのmiR399の検出結果を示す(実施例5)。
【
図16】Total RNAからの標的分子(miR399)の検出結果を示す(実施例6)。本結果は、方法1(Trizol試薬使用)で調製したtotal RNAを使用した場合の結果である。
【
図17】Total RNAからの標的分子(miR399)の検出結果を示す(実施例6)。本結果は、方法2(miRNeasyマニュアル)で調製したtotal RNAを使用した場合の結果である。
【
図18】Total RNAからの標的分子(miR399)の検出結果を示す(実施例6)。本結果は、方法3(miRNeasy改変法)で調製したtotal RNAを使用した場合の結果である。
【
図19】キュウリ篩管液からのTotal RNAにおける標的分子(miR399)の検出結果を示す(実施例7)。
【
図20】複数標的分子(miR399とmiR156)を含む試料からのそれぞれの標的分子の特異的な検出の結果を示す(実施例8)。
【
図21】複数標的分子(miR399とmiR156)を含む試料からそれぞれの標的分子を特異的に検出した際に取得した蛍光画像を示す(実施例8)。
【
図22】植物ウィルスの検出結果を示す(実施例10)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0030】
1.流路チップ
本発明は、その一態様において、(A)植物試料注入部、及び(C)前記植物試料注入部Aと連結しており、且つ植物物質検出プローブ固定化領域を有する流路、を含む、流路チップ(本明細書において、「本発明の流路チップ」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0031】
本発明の流路チップは、植物物質検出プローブが固定化でき、植物試料を流路内に送達しるものであれば、該プローブの種類、検出手段等に応じて適宜設定できるが、基板状であることが好ましい。固相化にはガラス基板等が好適であり、植物試料送達のための流路整形にはポリマー樹脂等が好適であり、本発明の流路チップはそれらの機能部位で構成される形態が好適である。特にポリマー樹脂基板のなかでは透明性が高いもの、例えばPDMS樹脂基板、COC樹脂基板、PMMA樹脂基板等が好ましく用いられる。また、他にもガラス、金属等の無機基板を使用することもできる。
【0032】
本発明の流路チップの大きさは、特に制限されるものではないが、栽培現場等で手軽かつ簡便に扱えるようにするためには、小型であることが好ましい。通常、縦×横が1~20cm×1~20cmであり、好ましくは1~5cm×1~5cmである。例えば、スライドガラス程度の大きさのものが好ましい。
【0033】
本発明の流路チップの厚さは、流路チップの整形方法や後述する流路の深さ等を考慮し、適宜設定することができる。
【0034】
植物試料は、植物から調製された試料であって、そのまま用いて或いは適宜精製して用いて植物物質の検出が可能な試料である限り特に制限されず、検出対象の植物物質に応じて適切な試料を採用することができる。植物試料としては、例えば芽、葉、茎、花、根、果実等の植物組織の抽出物、篩管液、道管液、樹液、排水組織からの水液等が挙げられる。
【0035】
植物試料注入部Aは、本発明の流路チップ上に配置された部位であり、植物試料を後述の流路に導入するために用いられる部位である。植物試料注入部Aの形状及び構造は特に制限されないが、通常は、ウェル状である。本発明の流路チップが含む植物試料注入部Aの数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0036】
本発明の流路チップは、植物試料排出部Bをさらに含むことが好ましい。植物試料排出部Bは、本発明の流路チップ上に配置された領域であり、植物試料を後述の流路から排出するために用いられる領域である。植物試料排出部Bの形状及び構造は特に制限されないが、通常は、ウェル状である。植物試料排出部Bは、流路チップの外部に溶液を排出する形状としてもよいし、流路チップの外部に溶液を排出しないよう溶液が排出されない形状としてもよい。外部に溶液を排出する形状をとる場合は、チューブ等を差し込む構造を用意して、チューブ等を通して外部に溶液を排出する形状としてもよい。外部に溶液を排出しない形状をとる場合は、例えば植物試料排出部Bに一定の広さの内部空間を設けて、その内部空間を予め真空状態にするか、あるいは陰圧状態とすることで、流路Cからの植物試料溶液や緩衝液等をその内部空間に排出したのち内部空間内に止めておくこともできる。その場合、必ずしも植物試料排出部Bは外部に開口していなくてもよい。また、例えば、植物試料排出部Bの内部空間の一部に外部と接続する細い経路を用意してポンプ等と接続することによって、その内部空間を予め陰圧にするか、あるいは流路チップの操作中に陰圧にすることで、流路Cからの溶液を植物試料排出部Bの内部空間へ排出させて止めておいてもよく、流路チップの外部に溶液を排出しない場合であっても、植物試料排出部Bを外部に開口する形状としてもよい。本発明の流路チップが含む植物試料排出部Bの数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0037】
流路Cは、本発明の流路チップ上に配置されており、植物試料注入部Aと連結している。すなわち、植物試料注入部A及び流路Cは、植物試料注入部Aから導入された植物試料が流路Cを通るように、繋がっている、或いは繋がるように調整可能な状態で配置されている。後者の場合の例としては、例えば流路C上に流路切替部を有しており、該流路切替部により、植物試料注入部A及び流路Cが繋がっていない状態、及び繋がっている状態を切替可能な場合が挙げられる。
【0038】
流路Cの一実施形態においては、流路Cは、植物試料注入部Aと植物試料排出部Bとを連結している。すなわち、植物試料注入部A、植物試料排出部B、及び流路Cは、植物試料注入部Aから導入された植物試料が流路Cを通って植物試料排出部Bへ到達できるように、繋がっている、或いは繋がるように調整可能な状態で配置されている。後者の場合の例としては、例えば流路C上に流路切替部を有しており、該流路切替部により、植物試料注入部A、植物試料排出部B、及び流路Cが繋がっていない状態、及び繋がっている状態を切替可能な場合が挙げられる。
【0039】
本発明の流路チップが含む流路Cの数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0040】
流路Cは、チップに様々な態様で存在し得る。例えば、チップ表面に形成された溝を、流路とすることができる。またさらに、チップ内部に形成された管路状の流路を流路とすることもできる。
【0041】
流路Cの形状は特に限定されず、流路における試料の流れに直行する面の断面形状として、例えば、円形、半円形(弦が上部)、四角形(ある1辺が上部)、三角形(ある1辺が上部)等のものであってよい。流路製造加工のし易さ、流路が有する検出領域の製造のし易さ等を考慮すると、半円形又は四角形のものが好ましい。
【0042】
流路Cの流路軸形状は、流路に試料を流したときに試料の流れが滞ることが無い限り特に制限されず、例えば直線状、曲線状等の形状であってよいが、直線状が好ましい。最も試料の流れが滞りにくいからである。なお、流路軸とは流路における流体(試料)の流れ方向の軸を意味する。植物試料注入部Aから流路軸を複数に分岐させ、分岐したそれぞれの先に検出部位を用意して、検出を複数箇所で並列に行ってもよい。このように検出反応を複数回反復して行うことで、再現性の高い結果を得ることもできる。
【0043】
流路Cのサイズは、特に制限されないが、通常、その幅が数μm以上数千μm以下、深さが数μm以上数千μm以下のものである。流路Cは、マイクロ流路であることが好ましい。流路Cの幅及び高さは目的等により上記の範囲内で適宜設定することができる。流路の幅は、例えば10~2000μm、好ましくは100~1000μm、より好ましくは300~700μm、さらに好ましくは400~600μmである。また、流路の高さは、1~200μm、5~100μm、10~50μm、15~25μmである。
【0044】
流路Cは、その流路上に、植物物質検出プローブ固定化領域を有する。該領域において、植物物質検出プローブは、流路の内壁に直接又は間接的に固定化されている。1つの流路Cが含む、植物物質検出プローブ固定化領域の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。プローブ固定化の際には、プローブ固定用デバイスを用いて特定の領域に限定してプローブ固定化を行って良く、プローブ固定化位置を把握するためアライメントマークをデバイス上に設けて指標としても良い。また、1つの流路Cが含む、固定化された植物物質検出プローブの数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0045】
検出対象である植物物質としては、植物が含み得る物質であって、プローブを用いて検出可能なものである限り特に制限されず、例えば核酸(例えばmRNA、miRNA等)、タンパク質、ペプチド、糖鎖、細菌、ウイルス、低分子化合物等が挙げられ、好ましくは核酸、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。これらの中でも、植物の状態判定マーカーとして特に有用であるという観点、および、栽培現場等で手軽かつ簡便に扱えるようにするために厳選された植物物質を採用することが望ましいという観点等から、好ましくは環境応答遺伝子群、器官/組織/細胞の発生成長関連遺伝子群、ストレス応答遺伝子群等に直接コードされる生育状態の指標となる生体内分子群、環境応答遺伝子群、器官/組織/細胞の発生成長関連遺伝子群、ストレス応答遺伝子群等に間接的に生成される生育状態の指標となる生体内分子群等が挙げられ、より好ましくはmiR399(リン欠乏に応答)、miR395(硫酸欠乏に応答)、miR172(花成(栄養成長期から生殖成長期への転換)時期に産生)、miR156(塊茎形成時期に産生)等のsmall RNA群、個体内長距離移行性mRNA群、FTタンパク質(花成 (as a florigen),、塊茎形成 (as a tuberigen)、 休眠芽の成長などを調節)、TSFタンパク質(FTのホモログ蛋白質であり、FTと同様の性質・働きを持つ)、Hd3aタンパク質(イネFT相同タンパク質)、RFT1タンパク質(イネFT相同タンパク質)、ZCN8タンパク質(トウモロコシFT相同タンパク質)、AFTタンパク質(アンチフロリゲンとして花成を抑制する)、HY5タンパク質、CLAVATA3/ESR-related(CLE)ペプチド(マメ科植物において根粒菌との共生(根粒菌による窒素固定)の程度が増加することに応答)、C-TERMINALLY ENCODED PEPTIDE(CEP)ペプチド(窒素欠乏に応答)、CEP DOWNSTREAM (CEPD)タンパク質(窒素欠乏に応答)等の植物の維管束である篩管や道管を介して全身へ移行するシグナル分子群や病理診断の観点ではウィルス由来性の核酸及びタンパク質等が挙げられる。本発明の流路チップの検出対象の植物物質は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。栽培現場等で手軽かつ簡便に扱えるようにするために厳選された植物物質を採用することが望ましいという観点から、本発明の流路チップの検出対象の植物物質は、例えば1~4000種、好ましくは1~200種、より好ましくは1~100種、さらに好ましくは1~20種である。
【0046】
植物物質検出プローブは、植物物質に結合性(好ましくは特異的な結合性)を有するものである限り特に制限されず、単一の分子からなるものであってもよいし、例えば標的植物分子がmiRNA等である場合にそのファミリー遺伝子群全体を網羅するようにデザインされた複数の分子からなる複合体であってもよい。また、単一の分子で、複数の標的分子を同時に検出するようにしてもよい。例えば、単一の分子が特定の分子構造や特定の核酸配列を認識するようにしておいて、複数の標的分子がそのような分子特徴を分子全体の一部分に有する場合、単一の分子プローブによって複数種類の植物生体分子を検出することができる。さらにその場合、複数種類の植物生体分子を区別して検出したければ、例えば植物物質検出プローブ固定化領域の手前に配置された流路Cや植物試料精製領域において、分子サイズや電荷に応じて物質移動度を変化させ物質を分離する機構を設けて複数の標的分子を区別して検出してもよい。その時に、植物物質検出プローブ固定化領域を長くしておけば、移動度の違いにより分離した複数の標的分子の検出位置を植物物質検出プローブ固定化領域の異なる位置とすることもでき、単一プローブで複数の標的分子を同時に区別して検出することもできる。「結合性を有する」とは、被検物質と可逆的に又は不可逆的に結合可能であることを意味する。結合させる力は、特に制限されず、例えば水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合、共有結合、配位結合等が挙げられる。植物物質検出プローブの具体例としては、核酸、抗体、抗原、受容体、受容体に結合するリガンド、アプタマー等が挙げられる。本発明の流路チップの流路上に固定化される植物物質検出プローブは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。複数のプローブを一次元的に複数配置してもよいし、二次元的に配置してもよい。栽培現場等で手軽かつ簡便に扱えるようにするために厳選された植物物質を採用することが望ましいという観点から、本発明の流路チップの流路上に固定化される植物物質検出プローブは、好ましくは1~200種、より好ましくは1~100種、さらに好ましくは1~20種である。
【0047】
なお、本明細書において、「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体等の免疫グロブリンのみならず、その可変領域を有する断片、例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、ミニボディ、scFv‐Fc、scFv、ディアボディ、トリアボディ、及びテトラボディも包含する。
【0048】
また、本明細書において、「核酸」には、DNA、RNAのみならず、これらに、次に例示するように、公知の化学修飾が施されたものも包含する。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0049】
本発明の流路チップの一実施形態としては、
図1a~cに示すように、植物試料注入部A、植物試料排出部B、及び流路Cそれぞれを1つずつ含む形態が挙げられる。
【0050】
本発明の流路チップの一実施形態としては、
図1b又は
図1cに示すように、植物試料注入部A、広い(あるいは長い)、外側に開口型のあるいは閉鎖型の空間となるように設置された植物試料排出部B、及び流路Cそれぞれを1つずつ含む形態が挙げられる。
【0051】
本発明の流路チップの一実施形態としては、
図1dに示すように、植物試料注入部A、及び流路Cそれぞれを1つずつ含む形態が挙げられる。
【0052】
本発明の流路チップの一実施形態としては、
図2aに示すように、植物試料注入部A及び植物試料排出部Bそれぞれ1つずつと、これらを連結する流路Cを複数含む形態が挙げられる。また、
図2bに示すように、プローブ固定化領域は複数の流路に跨っていてもよい。
【0053】
本発明の流路チップの一実施形態としては、
図3a~bに示すように、植物試料注入部Aを2つ(あるいはそれ以上)と、その間に配置された植物試料排出部Bを1つと、これらを連結する流路Cを1つ以上含む形態が挙げられる。
【0054】
本発明の流路チップの一実施形態としては、
図3cに示すように、植物試料注入部Aを1つと、その外側に配置された植物試料排出部Bを2つ(あるいはそれ以上)と、これらを連結する流路Cを1つ含む形態が挙げられる。
【0055】
本発明の流路チップは、植物試料注入部A、植物試料排出部B、及び流路C以外の他の部位や流路を含んでいてもよい。他の部位としては、例えば植物試料精製部が挙げられる。通常、植物試料精製部は、
図4aに示すように、流路C上、特に植物試料注入部Aと植物物質検出プローブ固定化領域との間に配置される。また、
図4bに示すように、植物試料精製部は注入部よりも前に配置されていてもよい。或いは、植物試料精製部は、
図5に示すように、流路C上、特に植物試料注入部Aと植物物質検出プローブ固定化領域との間から分岐した流路D上に配置されていてもよい。この場合、流路Dの分岐点には、適宜流路切替手段が設けられる。植物試料精製部は、植物試料を精製可能な部位である限り特に制限されず、例えばクロマトグラフィー用担体が配置された部位であることができる。
【0056】
本発明の流路チップは、直接又は間接的に連結している植物試料注入部A、植物試料排出部B、及び流路Cを含むユニット(例えば、
図1~5に示すユニット)を、
図6に示すように、複数備えていてもよい。
【0057】
本発明の流路チップを製造する方法は、特に制限されず、公知の方法に従った方法を採用することができる。例えば射出成形など、固相基板の微細加工に用いられる公知の方法を用いることができる。流路がチップ表面に存在する溝である場合は、このような公知の方法により、基板表面に溝を作製すればよい。また、流路がチップ内部に存在する管路状のものとして整形する場合は、基板内部を切削加工等により管路状にくり抜くなどして形成することも可能である。或いは、例えばまず基板表面に溝を形成し、次に当該溝の開口部をフィルム又は別に用意した基板等のカバー部材でカバー(被覆)することにより、チップ内部に流路を形成することができる。このように、2つないしは2つ以上の基板あるいは部材をそれぞれ用意したのちに接合して1枚の基板として形成することも可能である。植物物質検出プローブの固定化も、公知の方法に従って、例えば植物物質検出プローブを、該プローブの構造をできるだけ安定に保ち得る液体(例えばリン酸緩衝液、PBS等)に溶解させ、これを流路に導入し、一定時間インキュベーションすることにより、行うことができる。
【0058】
本発明の流路チップは、例えば後述の本発明の方法(「4.方法」)のように使用することにより、植物物質検出用流路チップ、植物の状態判定用流路チップ等として使用することができる。
【0059】
2.装置
本発明は、その一態様において、本発明の流路チップを備える、装置(本明細書において、「本発明の装置」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0060】
本発明の装置は、本発明の流路チップの他、植物試料の検出のために用いられる各種機器、部位等を備えたものが好ましい。このような機器としては、例えば、液(例えば緩衝液、洗浄液等)の貯留部、液を貯留部から本発明の流路チップ等に移動させるチューブ、真空ポンプ、撮像部、植物試料収集部、植物試料破砕部、植物試料調製部、植物試料精製部、温度調節機、電圧電流調節機、磁力調節機等が挙げられる。
【0061】
本発明の装置は、例えば後述の本発明の方法(「4.方法」)のように使用することにより、例えば植物試料注入装置、植物物質検出装置、植物の状態判定装置等として使用することができる。
【0062】
3.キット
本発明は、その一態様において、本発明の流路チップ、及び/又は本発明の装置を含む、キット(本明細書において、「本発明のキット」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0063】
本発明のキットは、植物物質の検出のために用いられる各種試薬、器具等を備えたものが好ましい。このような試薬としては、例えば、緩衝液、洗浄液、植物試料を調製するための器具、植物試料を調製するための試薬、植物試料を精製するための器具、植物試料を精製するための試薬、植物物質に結合性(好ましくは特異的結合性)を有する標識物(例えば標識核酸、標識化二次抗体)、該標識物の標識を検出するために必要な試薬、該標識物の標識を検出するために必要な器具、不要成分を変性させるために必要な試薬、不要成分を変性させるために必要な器具等が挙げられる。
【0064】
本発明のキットは、例えば後述の本発明の方法(「4.方法」)のように使用することにより、例えば植物物質検出キット、植物の状態判定キット等として使用することができる。
【0065】
4.方法
本発明は、その一態様において、(a)本発明の流路チップの植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる工程、及び(b)前記植物物質検出プローブ固定化領域上のシグナルを検出する工程、を含む、方法(本明細書において、「本発明の方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0066】
工程aにおいて、植物物質検出プローブ固定化領域に植物試料を接触させる態様は、特に制限されない。典型的には、植物試料を植物試料注入部Aより注入することにより該植物試料を流路Cに導入し、流路C内の植物物質検出プローブ固定化領域に自由拡散あるいは流速を設けることによって接触させることにより、低用量かつ短時間で行われる。
【0067】
植物試料注入部Aへの植物試料の注入方法は特に制限されないが、ピペット、マイクロピペット、シリンジ等、少量の溶液試料の注入に好ましい用具か、あるいは、それらの構造に相当するデバイス上に整形された部位を用いて行い得る。
【0068】
注入された植物試料の流路Cへの導入方法は、特に制限されないが、例えば気圧、毛細管現象、遠心力、電圧、電流、浸透圧、磁性等を操作することにより行われる。具体的な方法としては、例えば気圧を操作する場合、例えば流路C又は植物試料排出部Bに取り付けられた真空ポンプにより気圧を調整することや、予め流路Cを含む空間内の気圧を調整しておくこと等が挙げられ、例えば毛細管現象を利用する場合、例えば流路Cのサイズを毛細管現象が起こるサイズにしておくこと等が挙げられ、例えば遠心力を利用する場合、例えば本発明の流路チップを遠心機で遠心すること等が挙げられ、例えば電圧を操作する場合、例えば植物試料注入部Aと流路C又は植物試料排出部Bの間の電圧を調整すること等が挙げられ、例えば電流を操作する場合、例えば植物試料注入部Aと流路C又は植物試料排出部Bの間に電流を流すこと等が挙げられ、例えば浸透圧を操作する場合、例えば植物試料注入部Aと流路C又は植物試料排出部Bの間の浸透圧を調整すること等が挙げられ、例えば磁性を操作する場合、例えば植物試料注入部Aと流路C又は植物試料排出部Bの間に磁性体を浮遊させて磁性を調整すること等が挙げられる。
【0069】
流路Cを通過した植物試料は、そのまま流路C上(例えば、流路C上の植物試料注入部とは反対側の末端部位)の植物試料排出部Bに到達する。到達した植物試料は、例えばそのままそこに留まるか、又はその後適宜回収され、再利用若しくは廃棄等され得る。当該回収方法は特に制限されないが、ピペット、マイクロピペット、シリンジ等、少量の溶液試料の回収に好ましい用具を用いて行い得る。あるいは、植物試料排出部Bが一定の広い内部空間を有した形状に整形される場合等では、流路Cを通って送達された植物試料は植物試料排出部Bに排出されたのち、その一部または全部がデバイス内部に留まり得る。
【0070】
工程aの後は、必要に応じて、流路C、特に植物物質検出プローブ固定化領域の洗浄が行われる。洗浄は、例えば、水、緩衝液等を、上記と同様の方法で流路Cに導入して、植物試料排出部Bから外部に排出させるか、あるいは植物試料排出部Bの内部空間に排出されることにより、行われる。
【0071】
工程bにおいて、シグナルを検出する態様は、特に制限されない。例えば、植物試料中の検出対象(植物物質)を予め標識していた場合であれば、その標識由来のシグナルを検出すればよい。植物試料中の検出対象(植物物質)を予め標識していない場合であれば、工程aの後、植物物質検出プローブ固定化領域上の植物物質を標識してから、その標識由来のシグナルを検出すればよい。標識は、標識物の種類に応じて、公知の方法に従って行うことができる。標識は、標識物を植物物質に直接結合させることによって行ってもよいし、標識物を他の物質を介して植物物質に間接的に結合させることによって行ってもよい。
【0072】
標識物としては、例えば、蛍光標識、ペルオキシダーゼ標識、アルカリホスファターゼ標識、β-ガラクトシダーゼ標識、グルコースオキシダーゼ標識、ウレアーゼ標識、ビオチン標識、ストレプトアビジン標識、マグネット粒子標識、金・金コロイド標識、放射性物質標識、量子ドット標識等が挙げられる。蛍光標識に用いる蛍光物質としては、例えば、フィコビリプロテイン類、各種フルオレセイン、各種シアニン色素等、試薬会社が販売する蛍光化合物はもちろん、GFP等の蛍光タンパク質も適宜選択して使用することができる。
【0073】
上記工程a及び工程bを含む本発明の方法により、植物物質を検出することができる。
【0074】
さらに、本発明の方法は、工程c:(c)前記シグナルの値を指標として植物の状態を判定する工程を含む場合、植物の状態を判定することもできる。
【0075】
植物の状態とは、現在の状態のみならず、過去及び未来の状態も包含する。判定対象の植物の状態としては、例えば栄養成分(例えば、リン、硫酸、窒素等)の欠乏、病害感染、花成時期、塊茎形成時期、休眠芽の成長時期、根粒菌共生の程度等が挙げられる。
【0076】
具体的には、例えばシグナルの値をカットオフ値と比較することにより、状態を判定することができる。カットオフ値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの観点から当業者が適宜設定することができ、例えば、栄養成分が十分な培地で栽培された植物から調製された植物試料等の対照植物試料におけるシグナル値に基づいて、その都度定められた値、或いは予め定められた値とすることができる。カットオフ値は、例えば、対照植物試料のシグナル値、被検体が複数の場合は、その平均値、中央値等を基準として設定することができる。
【0077】
さらに、本発の方法は、工程cに加えて、工程d:(d)前記判定の結果に基づいて、植物の栽培条件を調整する工程を含む、植物の栽培方法とすることもできる。
【0078】
栽培条件の調整としては、例えば、工程cの結果、リン等の栄養成分が欠乏していると判定された場合であれば、その栄養成分を含む肥料を施用する、或いは施用量を増量することや、病害への感染が判定された場合であれば、殺菌剤などの農薬の施用、あるいは、感染部位を個体から部分的に除去したり、感染個体を群集の中から除去することで病害感染の拡散を抑止すること等が挙げられる。これにより、作物の栽培や生産をより安定化させて行うことができ、作物生産性をより向上させることができる。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0080】
実施例1.miRNA検出用流路チップの作製
<実施例1-1.DNAプローブの固相化>
液投入口2つとこれらを連結する流路(流路幅:500μm、流路高さ:20μm)と流路上の液吸入口(シリンジポンプ連結部)とを備えるPDMS製プレート(DNAプローブ固相用PDMS製デバイス)を用いて、アミノ基導入スライドガラス(DNAマイクロアレイ用コートスライドグラスTYPE1高密度化アミノ基導入タイプ、MATSUNAMI)上にDNAプローブを固相化した。具体的には以下の様にして行った。
(1)DNAプローブ固相用PDMS製デバイスを、アミノ基導入スライドガラスの上に搭載し、15分間脱気した。搭載した状態を
図7に示す。さらに、DNAプローブ固相用PDMS製デバイスの液吸入口にシリンジポンプのチューブ先端を固定化した。液の流路へ導入、通過は、液を投入口にピペットで導入し、吸入口からシリンジポンプにより液を吸引することにより行うことができる。
(2)10%グルタルアルデヒド溶液を流路へ導入し、室温で60分間インキュベーションした。
(3)水を流路へ導入(シリンジポンプ:3.0μl/min、10~15分間)し、流路を洗浄した。
(4)アミノ基修飾DNAプローブ(aminated probe DNA (Ami-DNA-miR399)
:[Am-C6]-TTTTTTTTTTTTTTTCAGGGCAACT(配列番号1))溶液(2μM)を流路へ導入(シリンジポンプ:1.5μl/min、5分間)し、4℃で一晩インキュベーションした。
(5)水を流路へ導入(シリンジポンプ:3.0μl/min、10~15分間)して流路を洗浄し、或いは洗浄バッファー(0.5 x SSC、0.1% SDS)の流路へ導入(シリンジポンプ:3.0 μl/min、10分間)と水の流路への導入(シリンジポンプ:3.0 μl/min、10分間)により流路を洗浄した。
【0081】
<実施例1-2.流路チップの作製>
(6)DNAプローブ固相用PDMS製デバイスをスライドガラスから剥離し、ブロワーで余分な水分をとばした。この際、スライドガラス上の、DNAプローブを固相化したラインを、スライドガラスの裏からマーカーで印を付けた。
(7)液投入口と液吸引口とこれらを連結する5本の流路(流路幅:500μm、流路高さ:20μm)とを備えるユニットを6つ備えるPDMS製プレート(検出用PDMA製デバイス)を、DNAプローブ固相化スライドガラスの上に搭載し、15分間脱気した。この際、剥離する前に付けておいた印を基準に、DNAプローブを固相化したラインと検出用PDMA製デバイスの流路とが直交するように搭載した。搭載した状態を
図8に示す。さらに、検出用PDMA製デバイスの液吸引口にシリンジポンプのチューブ先端を固定化した。この状態を
図9に示す。
(8)ブロッキング溶液(1 x ブロッキング溶液(DIG 洗浄およびブロックバッファーセット、ロシュ))を流路へ導入して、室温で60分間インキュベーションした。
(9)水を流路へ導入(シリンジポンプ:3.0μl/min、5分間)し、流路を洗浄した。
【0082】
実施例2.合成miRNAの検出
図10に示す検出原理に従って、シロイヌナズナ由来のmiR399(miR399b/c)を実施例1の流路チップを用いて検出した。具体的には以下の様にして行った。
(1)試料溶液(組成:miR399(UGCCAAAGGAGAGUUGCCCUG(配列番号2))(0 nM(blank)、0.01 nM、0.1 nM、1 nM、10 nM、又は100 nM)、biotinylated DNA probe(CTCCTTTGGCA-[biotin] (配列番号3))(0.4μM)、Streptavidin-Alexa(Streptavidin Alexa Flour 555 conjugate、サーモフィッシャー)(500 x)、緩衝液(1 x TE、1 x PBS))をチューブで調製し、室温で30分間インキュベーションした。
(2)10μlの試料溶液を流路チップの流路へ導入し、ハイブリダイゼーション(シリンジポンプ:~0.5μl/min、30分間)した。
(3)洗浄バッファー(1 x 洗浄バッファー(DIG 洗浄およびブロックバッファーセット、ロシュ)で流路を洗浄(シリンジポンプ:1.5μl/min、10~15分間)した。
(4)蛍光顕微鏡(画像解析ソフトウェアMetaMorphを使用)を使用して、流路チップの蛍光像を取得した(露光時間:4秒間)。
(5)蛍光像から蛍光量を定量した(画像解析ソフトウェアImage J、アメリカ国立衛生研究所)。
【0083】
結果を
図11に示す。blank(0 nM)サンプル値と比較して、0.1 nM~100 nMの範囲で、miR399を有意差(p < 0.05)をもって検出することができた。
【0084】
実施例3.トマト(マイクロトム)葉抽出液中での合成miR399の検出
トマト(マイクロトム)葉片をペッスルで凍結破砕した後、300~500μlの1 x TEに懸濁し、遠心(15000 rpm、4℃、5分間)した。上清を抽出液として使用(ブラッドフォード法により総タンパク質濃度を測定し、TEで濃度調整をして使用)した。続いて、試料溶液(組成:miR399(0 nM(blank)、又は1 nM)、biotinylated DNA probe(0.4μM)、Streptavidin-Alexa(500 x)、緩衝液(0.7 x TE、1 x PBS)又は抽出液(Rnase阻害剤(RNaseOUT、サーモフィッシャー)(40 units)入り)をチューブで調製し、室温で30分間インキュベーションした。抽出液総タンパク質終濃度は0.45mg/mlとした。この試料溶液を用いて、実施例2と同様にして検出を行った。この結果を
図12に示す。
【0085】
続いて、抽出液総タンパク質終濃度を0.45mg/mlおよび0.2mg/mlとした試料溶液を用いて、同様に試験した。この結果を
図13に示す。
【0086】
植物内生のRNaseや検出系における競合・阻害要素の影響が考えられる植物(マイクロトム葉)抽出液背景で、miR399を有意差(p < 0.05)をもって検出することができた。
【0087】
実施例4.シロイヌナズナ地上部抽出液中での合成miR399の検出
シロイヌナズナ地上部をペッスルで凍結破砕した後、300μlの1 x TEに懸濁し、遠心(15000 rpm、4℃、5分間)した。上清を抽出液として使用(総タンパク質濃度を測定(ブラッドフォード法)し、1 x TEで濃度調整)した。続いて、試料溶液(組成:miR399(0 nM(blank)、又は1 nM)、biotinylated DNA probe(0.4μM)、Streptavidin-Alexa(500 x)、緩衝液(0.8 x TE、1 x PBS)又は抽出液(Rnase阻害剤(40 units)入り)をチューブで調製し、室温で30分間インキュベーションした。抽出液総タンパク質終濃度は0.2mg/mlとした。この試料溶液を用いて実施例2と同様にして検出を行った。結果を
図14に示す。
【0088】
植物内生のRNaseや検出系における競合・阻害要素の影響が考えられる植物(シロイヌナズナ地上部)抽出液背景で、miR399を有意差(p < 0.01)をもって検出することができた。
【0089】
実施例5.同数のRNA分子を含むボリュームの異なる検出試料からのmiR399の検出
試料溶液(組成:miR399(0 nM(blank)、又は1 nM、又は0.1nM)、biotinylated DNA probe(0.4μM、又は0.04μM)、Streptavidin-Alexa(500 x、又は5000 x)、緩衝液(1 x PBS、又は0.1 x PBS)をチューブで調製し、室温で30分間インキュベーションした。試料溶液を10μl用いる場合に加えて、100μl用いる場合も行う以外は、実施例2と同様にして試験した。結果を
図15に示す。
【0090】
同数の分子を含むボリュームの異なる試料溶液において、ラージボリューム(100μl)では検出値の低下がみられるが、試料ボリュームを変えても、miR399を有意差(p < 0.05)をもって検出することができた。
【0091】
実施例6.Total RNAからの標的分子(miR399)の検出
miR399はリン欠乏状態で発現が上昇するリン欠乏マーカーとして知られている。そこで、この発現上昇の検出を試みた。具体的には以下の様にして行った。
【0092】
通常培地で栽培したシロイヌナズナ地上部とリン欠乏培地で7日間栽培したシロイヌナズナ地上部から、下記3つの方法によりtotal RNAを調整した。
(方法1)Trizol試薬(サーモフィッシャー)(イソプロパノール沈殿においては、2倍量のイソプロパノールを使用した)によりtotal RNAを調整した。
(方法2)miRNeasy(キアゲン)のマニュアルに従い調製した。
(方法3)miRNeasy改変法;フェノール/クロロホルム不使用):凍結破砕試料にRLTバッファー(300μl)を加え、QIAシュレッダーカラムに通した。フロースルーを新しいチューブに移し、100%エタノール(終濃度60%)を加えた。その後は、miRNeasyプロトコルに従い、水で溶出した。
【0093】
緩衝液に代えてtotal RNAを用いる以外は、実施例2と同様にして試料溶液を調製し、試験を行った。方法1により得られたtotal RNAを用いた場合の結果を
図16に示し、方法2により得られたtotal RNAを用いた場合の結果を
図17に示し、方法3により得られたtotal RNAを用いた場合の結果を
図18に示す。
【0094】
p欠乏状態で生育されたシロイヌナズナの地上部から抽出したtotal RNAにおいて、標的分子であるmiR399を有意差(p < 0.05)をもって検出することができた。
【0095】
実施例7.キュウリ篩管液からの標的分子(miR399)の検出
ハウス内で水耕栽培したキュウリの篩管液を採取し、調整したtotal RNAから標的となるmiR399の検出を行った。
【0096】
キュウリの篩管液については、水耕栽培で栄養リッチな条件で育成を続けた通常栽培区と、水耕栽培で栄養リッチな条件で通常栽培を二月程度行い、その後に栄養リッチ条件からリン欠乏条件に置換して3日間栽培したリン欠乏栽培区を用意し、それぞれの栽培区で育成したキュウリの茎を切断することで得た。キュウリ切断茎より得られる篩管液は、採取バッファー(100mM Tris-HCl (pH7.5)、10mM EDTA、5mM EGTA、10%グリセロール、1% (143mM) β-ME)中に、採取バッファーと篩管液のボリュームが一対一の割合となるように採取した。
【0097】
Total RNAの調整には、Trizol LS(サーモフィッシャー)を用い、マニュアルに記載の方法を一部改変して実施し、抽出した。そして、アルコール沈殿により試料を濃縮して調整した。
【0098】
検出は、調整したtotal RNA、緩衝液類、各検出試薬、並びに、biotin化抗ストレプトアビジン抗体(Vector laboratories, Burlingame, CA)を混合し、実施例2に示す手順と同様にして行った。
【0099】
【0100】
リン欠乏条件で栽培されたキュウリ篩管液から調整したtotal RNAと、対象区の通常栽培区で栽培されたキュウリ篩管液から調整したtotal RNAにおいて標的のmiR399の検出を試みたところ、対象区の通常栽培区と比較してリン欠乏条件区で有意に(p < 0.05)標的miR399を検出することができた。
【0101】
また、本実施例は、リン欠乏によって生じる生育不良といった目視で確認することができる何かしらの棄損が顕在化する以前の状態で採取された試料を用いての試験であり、通常栽培区と比較してリン欠乏条件区で、リン欠乏応答におけるマーカー分子であるmiR399の発現量の有意な上昇を検出した結果である。
【0102】
すなわち、この結果は、本流路チップが、植物における環境ストレスの有無の状態を見た目の形質変化では捉えることのできない早期に判定することができることを示しており、本結果に基づいてリン肥料を追肥するなど以後の栽培条件を調整すれば、作物生産性が低下するリスクを低減することができ、栽培期間中の作物生産性を最適な状態に維持することができることを示す例である。
【0103】
実施例8.複数の標的miRNA分子(miR399とmiR156)の検出
複数の標的分子として人工合成のmiR399(配列番号2)とmiRNA156(UGACAGAAGAGAGUGAGCAC)(配列番号4)を用い、一標的分子のみを含む試料および複数の標的分子を含む試料において、標的分子をそれぞれ個別に、特異的に検出することを試みた。
【0104】
具体的には以下の様にして行った。
【0105】
プローブの固相化と流路チップの作製については、実施例1に示すのと同様にして行った。
【0106】
なお、DNAプローブ固相用PDMS製デバイスについては、
図7に示すDNAプローブ固相用PDMS製デバイスにおいて、DNAプローブ固相レーンを平行にもう一レーン増加したデバイスを用いた。また、検出用PDMS製デバイスについては、二つのDNAプローブ固相レーンを考慮して
図8に示す検出用PDMS製デバイスの流路距離を長くしたデバイスを用いた。
【0107】
miR399の検出におけるアミノ基修飾DNAプローブは、実施例1に示すAmi-DNA-miR399:[Am-C6]-TTTTTTTTTTTTTTTCAGGGCAACT(配列番号1)を使用した。miR156の検出におけるアミノ基修飾DNAプローブは、Ami-DNA-miR156([Am-C6] ]-TTTTTTTTTTTTTTTGTGCTCACT(配列番号5))を使用した。
【0108】
miRNAの検出については、実施例2に示すのと同様にして行った。
【0109】
miR399の検出におけるビオチン化DNAプローブは配列番号3(CTCCTTTGGCA-[biotin])を用い、miR156の検出におけるビオチン化DNAプローブは配列番号6(CTCTTCTGTCA-[biotin])を用いた。
【0110】
検出の結果を
図20に示す。また、蛍光量を定量した際の蛍光像を
図21に示す。
【0111】
異なる標的miRNAに対してそれぞれ設けた固相化DNAプローブ領域において、対応する標的miRNAを特異的に検出することができた。また、複数の標的miRNAを含む試料からは、各標的miRNAをそれぞれの固相化DNAプローブ領域において同時に検出することができた。
【0112】
実施例9.タンパク質検出用流路チップの作製
<実施例9-1.コーティング/キャプチャー抗体の固相化>
(1)実施例1-1と同様にして、DNAプローブ/キャプチャー抗体固相用PDMS製デバイス(
図7)を、アミノ基導入スライドガラスの上に搭載し、15分間脱気した後、DNAプローブ/キャプチャー抗体固相用PDMS製デバイスの液吸入口にシリンジポンプのチューブ先端を固定化した。
(2)10%グルタルアルデヒド溶液を流路へ導入し、室温で60分間インキュベーションした。
(3)水を流路へ導入(シリンジポンプ:3.0μl/min、15分間)し、流路を洗浄した。
(4)炭酸・重炭酸バッファー(pH9.6)(ELISA complete kit、Bioreba)で1000倍希釈のキャプチャー抗体(Cucumber mosaic virus(CMV)検出抗体、ELISA complete kit、Bioreba)を流路へ導入(20μl、シリンジポンプ:1.5μl/min、10分間)した。
(5)4℃で一晩インキュベーションした。この際、乾燥・蒸発防止のため、PDMS破片でウェルに蓋をした。
(6)洗浄バッファー(ELISA complete kit、Bioreba)で流路を洗浄(シリンジポンプ:3.0μl/min、15分間)した。
【0113】
<実施例9-2.流路チップの作製>
(7)DNAプローブ/キャプチャー抗体固相用PDMS製デバイスをスライドガラスから剥離し、ブロワーで余分な水分をとばした。この際、スライドガラス上の、キャプチャー抗体を固相化したラインを、マーカーで印を付けた。続いて、あらかじめ脱気(15分間)しておいた検出用PDMS製デバイスを抗体固相化スライドガラスの上に搭載した。
(8)ブロッキング液(0.1 M lysine/1 x PBSバッファー背景)を流路へ導入し、室温で30分間インキュベーションした。
(9)洗浄バッファーで流路を洗浄(シリンジポンプ:3.0μl/min、5分間)した。
(10)ブロッキング液(1% BSA/1x PBSバッファー)を流路へ導入(シリンジポンプ:1.5μl/min、10分間)して、室温で60分間インキュベーションした。
(11)洗浄バッファーで流路を洗浄(シリンジポンプ:3.0μl/min、5分間)した。
【0114】
実施例10.植物ウィルスの検出(Cucumber mosaic virus(CMV))
<実施例10-1.試料溶液の調製>
(1)未感染タバコ葉又はCMV感染タバコ葉の葉片(1 cm四方未満)を凍結破砕し、抽出バッファー(ELISA complete kit、Bioreba)中で、ホモジナイズした。この際、葉片破砕物:抽出バッファー=1:20(w/v)とした。
(2)植物組織等の残渣を沈めるために、遠心(6000 rpm、5min、4℃)した。
(3)上清の総タンパク質濃度を測定(ブラッドフォード法)し、0.67 mg/mlに抽出バッファーで調整して試料溶液(抗原)として使用した。
【0115】
<実施例10-2.試料溶液のインキュベーション>
(4)実施例9の流路チップのウェルから洗浄バッファーを除いて、~20μlの試料溶液をウェルにアプライし、流路へ試料溶液を導入(シリンジポンプ:0.2~1.0μl/min、30~60分間)した。
(5)4℃で一晩インキュベーションした。この際、乾燥防止のため、PDMSの切れ端でウェルに蓋をした。
(6)洗浄バッファーで流路を洗浄(シリンジポンプ:3.0μl/min、15分間)した。
【0116】
<実施例10-3.アルカリホスファターゼ(AP)標識抗体のインキュベーション>
(7)コンジュゲートバッファー(ELISA complete kit、Bioreba)で1000倍希釈のAP標識抗体を流路へ導入(20μl、シリンジポンプ:1.0μl/min、15分間)した。
(8)室温で2.5時間インキュベーションした。この際、乾燥防止のため、PDMSの切れ端でウェルに蓋をした。
(9)洗浄バッファーで流路を洗浄(シリンジポンプ:3.0μl/min、15分間)した。
【0117】
<実施例10-4.蛍光シグナルの経時測定>
(10)洗浄バッファーを除き、15μlのAP基質溶液(1mM AttoPhos、プロメガ)を流路に導入(シリンジポンプ:5.0~7.0μl/min、2分間)した。
(11)蛍光顕微鏡(画像解析ソフトMetaMorphを使用)による蛍光シグナルの経時測定を行った。条件は、以下のとおりである:
*5min毎30分間に渡って測定
*露光時間:500 ms~1 sec
*蛍光フィルタはU-FBVW(オリンパス)を使用
*1試料毎に、AP基質の導入から測定までを行う
(12)蛍光像から蛍光量を定量した(画像解析ソフトウェアImage J、アメリカ国立衛生研究所)。
【0118】
蛍光シグナル値の変化量(傾き)を
図22に示す。蛍光シグナル値の変化量(傾き)を比較することで、CMV感染タバコ葉抽出物試料からCMVウィルスを有意(p < 0.05)に検出することができた。
【配列表】