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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】落石吸収装置
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20220824BHJP
   E01F 15/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
E01F7/04
E01F15/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019203392
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021075906
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000229128
【氏名又は名称】ベルテクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】塩見 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】福永一基
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172953(JP,A)
【文献】特開2011-032829(JP,A)
【文献】特表2015-507108(JP,A)
【文献】特開2017-002515(JP,A)
【文献】特開2002-256517(JP,A)
【文献】特開2017-201085(JP,A)
【文献】特開2001-248117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
E01F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
落石の衝撃を吸収するために斜面に敷設するネットと、
斜面に設立した支柱とで構成し、
前記支柱には、その中心軸に対する横断方向に支柱を貫通するガイド孔を、長手方向(上下方向)にわたって3個以上開設し、
これらガイド孔のそれぞれにスライドワイヤを挿通し、
これらスライドワイヤのうちの少なくともいずれか2本のスライドワイヤを1対として共通の制動装置に間接的に固定し、
他のスライドワイヤは、ワイヤごとに独立した制動装置に間接的に固定し、
ガイド孔を挿通させた各スライドワイヤの他端を、前記ネットに配設されたネット支持水平ワイヤの対応する位置に連結して構成した落石吸収装置。
【請求項2】
請求項1記載の落石吸収装置において、
ガイド孔は支柱の中央より上側に複数、下側に単数を開設して構成し、
最上段のスライドワイヤと、
最下段のスライドワイヤを1対として共通の制動装置に間接的に固定し、
他のスライドワイヤは、ワイヤごとに独立した制動装置に間接的に固定して構成した、
落石吸収装置。
【請求項3】
請求項1記載の落石吸収装置において、
少なくとも上下で隣接する1対のスライドワイヤを共通の制動装置に間接的に固定し、
他のスライドワイヤは、ワイヤごとに独立した制動装置に間接的に固定して構成した、
落石吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩石などの落下のエネルギーを吸収する落石吸収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜面からの落石のエネルギーを吸収してその後の被害を防ぐために各種の装置が開発されている。
例えば特許文献1に示すような技術が公知である。
これは本件と同一の出願人によるものであるが、従来の落石吸収装置では、落石の衝突時にネットの下縁と地面との距離が大きく離れて、後続する落石がその間隔を通過してしまう、という問題に着目してなされたものである。(特許文献1[0003]<ハ><ニ>の記載)
そのような問題を解決するためになされた特許文献1記載の発明は、貫通したガイド孔を開口したガイド支柱cとネットdと、一端を地上に固定したスライドワイヤaで構成してある。
そして支柱cの上端と下端付近のガイド孔に挿通させた一対のスライドワイヤaの一端を制動装置bに固定し、他端をネットdの上縁と下縁に固定したものである。(図7
このように構成すると、落石の衝撃でネットdが谷側に後退した場合、上側のスライドワイヤaが引き出されるが、同様に引き出された下側のスライドワイヤaがゆるみ、そのためにネットdの衝突した落石は下側へ誘導される。(同[0015])
同時にネットdの下縁と地表面との間隔が大きく開くことがない、という効果を期待できるものである。(同[0016][0017])
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4560223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した特許文献1記載の発明から18年ほど経過し、多数の工事実績、実物試験を繰り返した。その結果、次のような問題があることが見いだされた。
<イ>ネットの下縁と地表面との間隔の発生を抑制できるが、それとは別にネットの上縁が下がってしまう、という問題もあることが分かった。
<ロ>設計時に想定した落石の跳躍高さをカバーするはずのネットの上縁が下がると、支柱が倒れるタイプ(特許文献1の図8)ほどではないにしろ、後続する落石がネットの上縁を飛び越してしまう可能性もあるということになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の落石吸収装置は、
落石の衝撃を吸収するために斜面に敷設するネットと、
斜面に設立した支柱とで構成し、
前記支柱には、その中心軸に対する横断方向に支柱を貫通するガイド孔を長手方向(上下方向)にわたって3個以上開設し、
これらガイド孔のそれぞれにスライドワイヤを挿通し、
これらスライドワイヤのうちの少なくともいずれか2本のスライドワイヤを1対として共通の制動装置に間接的に固定し、
他のスライドワイヤは、ワイヤごとに独立した制動装置に間接的に固定し、
ガイド孔を挿通させた各スライドワイヤの他端を、前記ネットに配設されたネット支持水平ワイヤの対応する位置に連結して構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば以下の効果のうち少なくともいずれか一つを得ることができる。
<イ>前記したように発注者は跳躍高さの上限とともに、落石エネルギーも上限を想定して落石吸収装置を設計する。そして落石エネルギー=落石質量×衝突速度の二乗×0.5であり、跳躍高さも落石エネルギーも正規分布するとすれば、中央付近かつ中規模エネルギーの頻度が大きくなるという前提がある。
<ロ>落石がネットの中央付近に衝突すると、ネットの中央付近が大きく変形し、その位置に近い位置のスライドワイヤが大きく谷側にスライドする。しかし衝突位置から離れたスライドワイヤはネットの変形量が少ないことからそのスライド量は小さい。
<ハ>そのように上下のワイヤのスライド量が小さいことから、ネットの上縁の下がり量は少なくなる。その結果、後続する落石がネットの上縁を飛び越してしまう可能性を抑制することができる。
<ニ>落石の衝撃でまず中央付近のスライドワイヤが大きく谷側にスライドし、その影響で他のスライドワイヤが徐々に谷側にスライドし、最後に最上段、最下段のスライドワイヤがスライドする、というようにスライドワイヤのスライドには時間差が生じる。そのために衝撃のエネルギーを徐々に吸収するという効果を期待することができる。
<ホ>さらに制動装置の限界に対する効果が期待できる。制動装置は地面に固定しているから制動に伴う反力はアンカーの力以下でなければならず、アンカー力はアンカー長と比例し、アンカー体もアンカー力に応じた強度を必要とする。
しかし地質によってアンカーの長さ当たりのアンカー力(付着力)が大きく取れない場合もあり、費用対効果を考えるとアンカー力には限界がある。
<ヘ>たとえば特許文献1記載の発明において許容エネルギーを増やそうとすると、制動力を大きくし、スライドワイヤを太くし、スライド長を長くし、というような対策が理論上考えられる。しかし上記のようにアンカー力に限界がある以上、この方法では最大エネルギー吸収量を増加させることが困難であった。
この点、本発明ではアンカー個数は増加するが、しかし1基のアンカー力に大きな値を期待する必要がなく、最大エネルギー吸収量を増やすことができるという効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の落石吸収装置に落石が衝突した場合の実施例の説明図。
図2】支柱とスライドワイヤと支持ワイヤの取り付け状態の説明図。
図3】他の実施例1の説明図。
図4】他の実施例2の説明図。
図5】スライドワイヤの端部に取り付ける制動装置の実施例の説明図。
図6】ネットの実施例の説明図。
図7】従来の落石吸収装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照しながら本発明の落石吸収装置と吸収方法の実施例について説明する。
【0009】
<イ>ネット。
落石の落下のエネルギーを吸収するために、面状の有孔体であるネット1を使用する。
このネット1の水平方向の幅は、扱いやすさから支柱2間の幅を1枚のネット1で構成し、左右への延長はネット1端をシャックルやワイヤロープで連結して行う。
ネット1としては、一般には金網が知られている。
その他、図5に示すような、多数の環状部材12を相互にからめてネット1を形成することもできる。その場合には多数の環状部材12は相互に密着することなく、一定の間隔を介してからまっているから、落石を吸収する機能が高い。
ネット1の孔にはその上端、下端、および中間の位置に、水平方向にネット支持水平ワイヤ11を通してある。この場合の水平方向とは、ネット1を展張した状態における水平方向である。
【0010】
<ロ>支柱。
支柱2は、角パイプ、円形パイプなどのような長尺材を斜面に固定して設立して構成する。
ただし本発明の装置に使用する支柱2は、その上側と下側付近、およびそれよりも中央寄りでかつ上側寄りに、中心軸の横断方向、すなわち山側から谷側方向へ向けて貫通したガイド孔21を開口する。
【0011】
<ハ>ガイド孔とスライドワイヤ。
ガイド孔21は支柱の中央よりも上側に複数、下側に単数を開設する。
そして各ガイド孔21にはスライドワイヤ3を挿通する。
スライドワイヤ3は、ネット1に落石のエネルギーが作用した場合に、そのエネルギーによって谷側へスライドする機能するワイヤである。
【0012】
<ニ>制動装置。(図5
スライドワイヤ3の一端は、上下の一対ごとに、地上に固定した制動装置5に間接的に取り付ける。
制動装置5は例えば、2枚のバネ鋼板51の間と基盤52とを、両者を貫通するボルト53で接合し、鋼板51と基盤52との間に制動用ワイヤ54を挟んでおく。
そして2本の制動用ワイヤ54のネット1側の端は、一か所にまとめてアイスプライス加工55をしておく。一方、一対ごとのスライドワイヤ3の制動装置5側の端部を前記制動装置5のアイスプライス55に挿通し、折り返して緊張した状態でワイヤクリップで固定する。
このような構造なので、一対のスライドワイヤ3のうち上下で勝ち負けができた場合でも制動装置5側の制動ワイヤ54はスライドしてしまい、たとえば上側のスライドワイヤ3の張力が大きくて摺動する場合、下側スライドワイヤ3がたるむという現象が発生する。
【0013】
<ホ>スライドワイヤの固定。
上側のスライドワイヤ3群のうち、最上段のスライドワイヤa1と、下側のスライドワイヤb1を1対として共通の制動装置に間接的に固定する。
上側の他のスライドワイヤa2、a3・・・は、ワイヤごとに独立した制動装置5に間接的に固定する。
制動装置5は上記したような構造だから、上下一対のスライドワイヤa1,b1のうち上下で勝ち負けができた場合でも制動装置5に設けた制動ワイヤ54はスライドしてしまい、上端のライドワイヤa1の張力が大きくて摺動する場合、下端のスライドワイヤb1がたるむという現象が発生する。
【0014】
<ヘ>下側にも複数のガイド孔を開設する場合。
本発明の明細書では説明の簡単のために、ガイド孔21は中央より上側に複数、下側に単数を開設した例を説明する。
しかし下側に複数のガイド孔21を開設することも可能である。
その場合には、支柱2の上からn段目のスライドワイヤ3と、下からn段目のスライドワイヤ3を1対として共通の制動装置に間接的に固定する構造は同じである。
その構成では、複数対のスライドワイヤ3を、それぞれ1対ごとに共通の制動装置5に間接的に固定し、他のスライドワイヤ3は独立した制動装置5に間接的に固定することになる。
【0015】
<ト>ネットの展張。
ネット1は、ネット1の多数の孔にネット支持水平ワイヤ11があらかじめ通してある。
この水平ワイヤ11日に、その位置に対応する位置のスライドワイヤ3の他端、すなわち制動装置5に固定していない他端を取り付けることによってネット1全体を展張する。
その際に例えば図1に描いたように、1スパンのネット支持水平ワイヤ11の端をアイスプライス加工し、支柱2の前に集めた両側のアイスプライスと、それに直角に交わる方向のスライドワイヤ3端部に加工したアイスプライスとをシャックルで連結して吊るすような構成を採用することができる。
なおアイスプライス加工とは、ワイヤロープの端に輪(アイ)を作り、荷掛け用ロープや台付け用ロープを作るための技法である。
【0016】
<チ>スライドワイヤのスライドの説明。
落石が発生するとネット1に衝突するが、前記したようにネット1の上縁の高さは発注者が落石の跳躍高さの限界を想定してその高さまで阻止できるよう設計してある。そのために通常の落石は最上部ではなく、それよりも中央寄りに衝突するケースが多い。
そのために落石がネット1の中央寄りに衝突すると、まず受撃位置に近い位置のスライドワイヤ3が制動装置5の制動力を超えて大きく斜面の谷側にスライドする。
その際に、ネット1を通して図2の上下の一対のスライドワイヤa1、b1もスライドするが、そのスライド量は小さい。そのために、ネット1の上縁が下へ下がる下降幅は小さく、同様に下縁が上に上がる上昇幅も小さい。
その結果、後続する落石がネット1の上縁を飛び越してしまうことや、ネット1の下縁から飛び出してしまう可能性を大きく抑制することができる。
【0017】
<リ>エネルギーを吸収するメカニズム。
落石がネット1の中央付近に衝突すると、まず中央に近いスライドワイヤ3が大きく谷側にスライドし、続いてその影響で上端、下端のスライドワイヤa1,b1が徐々に谷側にスライドする、というようにスライドワイヤ3のスライドには時間差が生じる。そのために衝撃のエネルギーを徐々に吸収するという効果を生じる。
【0018】
<ヌ>上下のスライドワイヤのスライド差。
落下のエネルギーによって、支柱2の最上端のスライドワイヤa1がスライドすると、同じ制動装置5で拘束した下端のスライドワイヤb1も同じ量だけスライドする。
しかし落石の衝撃でネット1の上側が下側よりも大きく谷側に膨らんでいる場合には、上側のスライドワイヤa1に比較して下側のスライドワイヤb1は落石の影響が少なく、その結果下側のスライドワイヤb1は緊張せずに多少、弛んだ状態となる。
そのために、ネット1の下方に緩みが生じて、衝突した落石をネット1に沿って下方へ誘導することができる。
【0019】
<ル>他の実施例1。(図3
この実施例では、支柱2の上側、下側に複数のガイド孔21を開設する。
そして各ガイド孔21にスライドワイヤ3を挿通する。
そして少なくとも上下で隣接する1対のスライドワイヤa1、a2を、共通の制動装置に取り付ける。
その他のワイヤ3はワイヤ3ごとに独立した制動装置5に取り付ける。
このような構造の落石吸収装置は砂防ダムに代わって、流れを横断する方向にネット1を展張する場合に採用することができる。
なぜならそのような急峻な地形では、制動装置5を整然と設置することが困難であるため、位置の離れた上端と下端のスライドワイヤ3を1対として組み合わせて配置することが不可能な場合が多いからである。
しかもすべてのワイヤ3ごとにそれぞれを独立した制動装置5に取り付ける構成と比較すると、制動装置5の数、すなわち制動装置5を固定するアンカーの数を減らすことができる。
さらに、隣接する支柱2が同じ制動装置への固定や、スライドワイヤ3のまとめ方をする必要も発生しない。
【0020】
<ヲ>他の実施例2(図4
この実施例では、支柱2の上側、下側に複数のガイド孔21を開設する。
そして各ガイド孔21にスライドワイヤ3を挿通する。
そしてすべてのスライドワイヤ3を、ワイヤごとに独立した制動装置5に取り付ける。
このような構造の落石吸収装置も、上記の実施例1の場合と同様に、砂防ダムに代わって、流れを横断する方向にネット1を展張する場合に採用することができる。
なぜならそのような急峻な地形では、制動装置5を整然と設置することが困難であるため、上下1対のスライドワイヤ3を1対として組み合わせて配置することが不可能な場合が多いからである。
【符号の説明】
【0021】
1:ネット
2:支柱
3:スライドワイヤ
5:制動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7