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特許7128527金属の回収方法、並びに金属回収用担体及びこれを用いた金属の回収用バイオリアクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】金属の回収方法、並びに金属回収用担体及びこれを用いた金属の回収用バイオリアクター
(51)【国際特許分類】
   C12P 3/00 20060101AFI20220824BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 15/30 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220824BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C12P3/00 Z ZNA
C12M1/40 Z ZAB
C12N15/30
C12N15/62 Z
B01J20/22 B
C12N1/21
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019515727
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017313
(87)【国際公開番号】W WO2018203539
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017091503
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山本 兼由
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕可里
(72)【発明者】
【氏名】小島 文歌
(72)【発明者】
【氏名】吉多 美祐
(72)【発明者】
【氏名】大沢 美紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 寿美子
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05824512(US,A)
【文献】特開2014-012272(JP,A)
【文献】特開2000-084538(JP,A)
【文献】MEJARE M. et al.,TRENDS in Biotechnology,2001年,Vol.19 No.2,p.67-73
【文献】CRUZ N. et al.,Biotechnology Letters,2000年,22,p.623-629
【文献】MEJARE M. et al.,Protein Engineering,1998年,vol.11 no.6,pp.489-494
【文献】CHANGELA A. et al.,Science,2003年,Vol.301,p.1383-1387
【文献】NITZ M. et al.,ChemBioChem,2003年,4,p.272-276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
B01J 20/00-20/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属回収用担体と、金属イオンを含有する媒体とを接触させて、
前記媒体に含まれる金属イオンを前記金属回収用担体の外層表面に結合させ、
前記媒体から前記金属回収用担体を分離する、
金属の回収方法であって、
前記金属回収用担体は、増殖能を維持している遺伝子組換え微生物の生菌から作製され、外層がリン脂質二重膜から構成されるベシクルであり、
グラム陰性菌由来のポリンが、前記リン脂質二重膜を貫通し、
前記ポリンのうちOmpAポリンのアミノ酸配列において、前記グラム陰性菌においてOmpAポリンの立体構造が保たれ、拡散チャネルとしてのOmpAポリン機能を損なわない領域配列番号1~7のいずれか1つで示すアミノ酸配列からなる金属イオン結合ペプチドモチーフで置換されており、
前記金属イオン結合ペプチドモチーフが、前記リン脂質二重膜の表面に呈示される、
金属の回収方法。
【請求項2】
前記OmpAポリンへの前記金属イオン結合ペプチドモチーフの置換部位が、配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号8で表されるアミノ酸配列の125~137位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号8で表されるアミノ酸配列の164~181位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位である、請求項1に記載の金属の回収方法。
【請求項3】
増殖能を維持している遺伝子組換え微生物の生菌から作製され、外層がリン脂質二重膜から構成されるベシクルであり、
グラム陰性菌由来のポリンが、前記リン脂質二重膜を貫通し、
前記ポリンのうちOmpAポリンのアミノ酸配列において、前記グラム陰性菌においてOmpAポリンの立体構造が保たれ、拡散チャネルとしてのOmpAポリン機能を損なわない領域配列番号1~7のいずれか1つで示すアミノ酸配列からなる金属イオン結合ペプチドモチーフで置換されており、
前記金属イオン結合ペプチドモチーフが、前記リン脂質二重膜の表面に呈示されている、
金属回収用担体。
【請求項4】
前記OmpAポリンへの前記金属イオン結合ペプチドモチーフの置換部位が、配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号8で表されるアミノ酸配列の125~137位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号8で表されるアミノ酸配列の164~181位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位である、請求項に記載の金属回収用担体。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の金属回収用担体が固定化されている、金属の回収用バイオリアクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の回収方法及びこれに用いる金属回収用担体、並びに金属回収用担体を用いた金属の回収用バイオリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プロセスに用いられる触媒、防腐剤の有効成分、工業用オイルの添加剤、電気・電子機器、医療分野で用いられる抗菌剤には、遷移金属、貴金属、レア・アース等の単体金属、又はこれらの金属の酸化物若しくは硫化物が広く用いられている。これらの金属の中には希少価値の高いものも含まれている。
工業用廃水や生活用廃水には、人体に対して毒性のある重金属又は重金属化合物が高濃度で含まれる場合がある。このような廃水によって土壌や水質が汚染された場合、単体金属又は金属化合物を除去する必要がある。一方で、下水処理場の処理過程や工場の廃液処理過程などで生じる汚泥や、金属磁石のスラッジには、希少価値の高いレア・アースが含まれる場合がある。
このような理由から、単体金属若しくは金属化合物(以下、これらをまとめて単に「金属」ということがある)、又はこれらのイオンを効率的に回収する方法が求められている。
【0003】
従来、金属の回収方法としては、化学的に金属を回収する方法が一般的であった。しかし、金属の化学的な回収方法は多くのエネルギーが必要であり、環境に対する負荷が大きい。そのため、エネルギーの消費が少なく、環境に対する負荷が少ない、金属の回収方法が求められている。
【0004】
エネルギーの消費が少なく、環境に対する負荷が少ない金属又はそのイオンの回収方法として、微生物を用いた回収方法(バイオソープション)が近年注目されている。
例えば特許文献1及び2には、金属取込み遺伝子や金属結合性遺伝子を大腸菌(Escherichia coli)に導入し、得られた形質転換体の細胞内に遷移金属や重金属を取り込む方法が記載されている。さらに、非特許文献1には、大腸菌の細胞膜貫通タンパク質OmpAを改変することにより大腸菌にカドミウム結合能を付与する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-357566号公報
【文献】特開2014-239678号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Protein Engineering, 1998, vol. 11(6), p. 489-494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載の方法では、遺伝子組換え微生物を使用する。このような組換え微生物は、安全性の観点から、その適用可能な範囲が大きく制限される。
さらに特許文献1及び2に記載の方法では、目的の金属を組換え微生物の細胞内に蓄積させることで、金属の回収を行う。この場合、細胞内に金属イオンを取り込むには微生物を生存させる必要があるが、取込んだ金属の毒性や蓄積可能な限界値を超える金属量により組換え微生物の増殖能や生育能が低下する場合がある。
【0008】
そこで本発明は、上記問題を解決するものであり、適用可能範囲の制約を受けることなく、幅広い条件下で使用できる、金属の回収方法の提供を課題とする。
また本発明は、上記金属の回収方法に好適に使用できる、金属回収用担体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これまで、環境から単離された微生物の生物吸着(バイオソープション)によって、金属を濃縮する技術開発が行われている。バイオソープションによる金属回収技術は、化学的な回収方法よりも省エネルギーかつ高い効率で回収が期待されている。しかし、バイオソープションは微生物自体を使用する方法であるため、安全性の観点から、適用可能な範囲が制限される。
【0010】
このような状況を鑑み、本発明者らは鋭意検討を行った。
まず本発明者らが、グラム陰性菌の細胞膜を貫通するポリンを構成するアミノ酸配列のうちポリン機能を損なわない領域に、金属イオン結合ペプチドモチーフを導入し、金属イオン結合ペプチドモチーフを表層に発現させた組換え微生物を作製した。その結果得られた組換え微生物は、金属イオンに対する結合能と耐性を有していた。
そして、このような組換え微生物から作製した、生育能を喪失した微生物の死菌体や、元の組換え微生物の細胞膜(リン脂質二重膜)と同じ表面構造を有するベシクルなどの非生命活動体は、適用可能範囲の制約を受けることなく、金属の回収方法に好適に用いることができることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0011】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)金属回収用担体と、金属イオンを含有する媒体とを接触させて、
前記媒体に含まれる金属イオンを前記金属回収用担体の外層表面に結合させ、
前記媒体から前記金属回収用担体を分離する、
金属の回収方法であって、
前記金属回収用担体は、外層がリン脂質二重膜から構成される非生命活動体であり、
グラム陰性菌由来のポリンが、前記リン脂質二重膜を貫通し、
前記ポリンのアミノ酸配列中、前記グラム陰性菌においてポリン機能を損なわない領域に、金属イオン結合ペプチドモチーフが導入されており、
前記金属イオン結合ペプチドモチーフが、前記リン脂質二重膜の表面に呈示される、
金属の回収方法。
(2)前記ポリンがOmpA、OmpC又はOmpFである、前記(1)項に記載の金属の回収方法。
(3)前記ポリンへの前記金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位が、配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位である、前記(1)又は(2)項に記載の金属の回収方法。
(4)前記ポリンへの前記金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位が、配列番号9で表されるアミノ酸配列の43~53位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号9で表されるアミノ酸配列の339~358位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位である、前記(1)又は(2)項に記載の金属の回収方法。
(5)前記金属回収用担体がベシクルである、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の金属の回収方法。
(6)前記金属回収用担体がグラム陰性菌の死菌体である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の金属の回収方法。
【0012】
(7)外層がリン脂質二重膜から構成される非生命活動体であり、
グラム陰性菌由来のポリンが、前記リン脂質二重膜を貫通し、
前記ポリンのアミノ酸配列中、前記グラム陰性菌においてポリン機能を損なわない領域に、金属イオン結合ペプチドモチーフが導入されており、
前記金属イオン結合ペプチドモチーフが、前記リン脂質二重膜の表面に呈示されている、
金属回収用担体。
(8)前記ポリンがOmpA、OmpC又はOmpFである、前記(7)項に記載の金属回収用担体。
(9)前記ポリンへの前記金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位が、配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位である、前記(7)又は(8)項に記載の金属回収用担体。
(10)前記ポリンへの前記金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位が、配列番号9で表されるアミノ酸配列の43~53位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号9で表されるアミノ酸配列の339~358位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位である、前記(7)又は(8)項に記載の金属回収用担体。
(11)ベシクルである、前記(7)~(10)のいずれか1項に記載の金属回収用担体。
(12)グラム陰性菌の死菌体である、前記(7)~(10)のいずれか1項に記載の金属回収用担体。
(13)前記(7)~(12)のいずれか1項に記載の金属回収用担体が固定化されている、金属の回収用バイオリアクター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属の回収方法は、適用可能範囲の制約を受けることなく、幅広い条件で使用できる。
また、本発明の金属回収用担体は適用可能範囲の制約がなく、上記金属の回収方法に好適に使用できる。
本発明の上記および他の特徴および利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(A)は、本発明の金属回収用担体又はその前駆体の好ましい態様を示す模式図であり、図1(B)は、本発明の金属回収用担体の別の好ましい態様を示す模式図である。
図2】菌種間及び各種ポリン間で行った、OmpA、OmpC及びOmpFのアミノ酸配列のアライメント解析の結果を示す図である。
図3】CRISPR-Cas9システムを利用したゲノム編集の操作フローを示す図である。
図4】ガイドRNAクローニングの汎用ベクターとして作製したpEX-A2-sgRNAのプラスミドマップである。
図5】試験例1で作製した形質転換体における、ompA遺伝子への金属イオン結合ペプチドモチーフ遺伝子の挿入位置(▲印)を示す図である。
図6】Cuイオン結合ペプチドモチーフをコードするDNA断片の作製方法を示す概略図である。
図7】Tbイオン結合ペプチドモチーフをコードするDNA断片の作製方法を示す概略図である。
図8】Tbイオン結合ペプチドモチーフをコードするDNA断片の作製方法を示す概略図である。
図9】実施例で作製した形質転換体YM0501、YM0901及びYM1001のOmpAの構造を示す概略図である。
図10】実施例で作製した形質転換体YM0701、YM1101及びYM1201のOmpAの構造を示す概略図である。
図11】実施例で作製した形質転換体YM0501、YM0901及びYM1001の増殖能、生育能を示すグラフである。
図12】実施例で作製した形質転換体YM0701、YM1101及びYM1201の増殖能、生育能を示すグラフである。
図13】実施例で作製した形質転換体YM0501とその親株の、金属イオン存在下での増殖能を示すグラフである。
図14図14(A)は実施例で作製した形質転換体YM0501をFM4-64で染色した様子を示す図面代用写真であり、図14(B)は形質転換体YM0501から作製したベシクルをFM4-64で染色した様子を示す図面代用写真である。
図15】菌種間及び各種ポリンで行った、OmpAのアミノ酸配列のアライメント解析の結果を示す図である。
図16】菌種間及び各種ポリンで行った、OmpCのアミノ酸配列のアライメント解析の結果を示す図である。
図17】実施例で作製したompC遺伝子発現用プラスミドのプラスミドマップである。
図18図18は、試験例4で作製した形質転換体における、ompC遺伝子への金属イオン結合ペプチドモチーフ遺伝子の挿入位置(▲印)を示す図である。
図19図19(A)は、試験例4で作製したプラスミドpBADompC1-TBpep2のプラスミドマップである。図19(B)は、試験例4で作製したプラスミドpBADompC18-TBpep2のプラスミドマップである。
図20図20(A)は、試験例4で作製した、プラスミドpBADompC1-TBpep2を含んでなる形質転換体のOmpCの構造を示す概略図である。図20(B)は、試験例4で作製した、プラスミドpBADompC18-TBpep2を含んでなる形質転換体のOmpCの構造を示す概略図である。
図21図21(A)試験例4で作製した形質転換体の外膜画分を用いて行ったSDS-PAGEの結果を示す図面代用写真である。図21(B)試験例4で作製した形質転換体の外膜画分を用いて行ったウエスタンブロッティングの結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,vol.227,p.1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0016】
本発明の金属回収用担体(以下単に「担体」ともいう)は、リン脂質二重膜を有する非生命活動体であり、担体の外層が前記リン脂質二重膜から構成される。そして、グラム陰性菌由来のポリン(「膜貫通タンパク質」ともいう)が、前記リン脂質二重膜を貫通する。さらに、このポリンを介して、リン脂質二重膜の表面に金属イオン結合ペプチドモチーフが呈示される。本発明の担体において、金属イオン結合ペプチドモチーフは、ポリンのアミノ酸配列中、グラム陰性菌においてポリン機能を損なわず、菌種間でのアミノ酸配列の保存性の低い領域に導入されている。
本明細書において「非生命活動体」とは、増殖能及び代謝能を持たない物質を指す。具体例としては、生育能を喪失した微生物の死菌体や、脂質二重膜により閉じた構造を有する小胞であって、内部にDNAを含まないベシクル(リポソーム)などが挙げられる。
【0017】
バイオソープションに用いられる従来の微生物、特に組換え微生物は、安全性の観点から、その適用可能な範囲が大きく制限されている。これに対して本発明の金属回収用担体は非生命活動体であるため、適用範囲が制限されることがなく、産業上利用が容易である。
さらに、バイオソープションに用いられる従来の微生物は、その細胞内に金属を蓄積させることに起因して、その増殖能や生育能が低下する場合があった。これに対して本発明の金属回収用担体の前駆体となる微生物は、微生物としての機能(ポリンの機能)に影響することのない部位に金属イオン結合ペプチドモチーフが導入されている。そのため、微生物としての機能が損なわれず、その増殖能や生育能を維持することができる。さらに、本発明の金属回収用担体の前駆体となる微生物を金属イオンが存在する環境下におく必要が無いため、増殖にとって好環境下で前記微生物を増殖させることができる。
【0018】
本明細書において「金属」とは、単体金属及び金属化合物を包含する。
単体金属としては特に制限はないが、遷移金属、貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、半金属が挙げられる。具体的には、Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Cd(カドミウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)、Hg(水銀)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Mg(マグネシウム)、As(ヒ素)が挙げられる。
また、金属化合物としては、前記単体金属の酸化物、硫化物、オキソアニオン若しくはこれらの塩などが挙げられる。
【0019】
各種金属のイオンに対して特異的な結合性を有するタンパク質は通常、金属酵素、金属シャペロン、及び金属センサーに機能的に大別される(Nature, 2009, vol. 460(7257), p. 823-830)。このうち、金属シャペロンと金属センサーでは、生物で広く保存されている、金属イオンと特異的に結合するペプチドモチーフが知られている(Chem. Biol., 2002, vol. 9(6), p. 673-677; Science, 2003, vol. 301(5638), p. 1383-1387; Science, 2003, vol. 301(5638), p. 1383-1387; Sci. Rep., 2016, vol. 6, p. 33391; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2011, vol. 108, p. 5045-5050)。本発明の担体では、目的の金属に応じて、このような金属イオン結合ペプチドモチーフから適宜選択して利用する。本発明で用いる金属イオン結合ペプチドモチーフは、20~30残基からなることが好ましい。
本発明で利用可能な金属イオン結合ペプチドモチーフの具体例を下記表1に示す。しかし本発明は、これらに制限されるものではない。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明における「ポリン」とは、グラム陰性菌の外膜に存在する、透過孔(拡散チャネル)を形成するタンパク質の総称である。ポリンはβシート構造に富み、細胞質側のβシートと、βシートを連結するループを有する。βシートは逆平行であり、外表面に無極性基、内部に極性基を持つ、円筒形のβバレル構造をとる。このような構造のポリンは、グラム陰性菌の外膜等のリン脂質二重膜を貫通する。
本発明で用いることができるポリンは、グラム陰性菌由来の各種ポリンから適宜選択することができる。具体例としては、OmpA、OmpC、OmpF、PhoE、LamB、OprD2、OprE1が挙げられる。このうち、OmpA、OmpC又はOmpFが好ましく、浸透圧条件によらず細胞膜の表層に恒常的に発現しているOmpAがより好ましい。
【0022】
ポリンの所定の部位に、前述の金属イオン結合ペプチドモチーフを常法により導入する。
本発明では、ポリンの所定の部位に金属イオン結合ペプチドモチーフを挿入又は付加することで、ポリンに金属イオン結合ペプチドモチーフを導入してもよい。あるいは、ポリンの所定の領域のアミノ酸残基の全部又は一部を金属イオン結合ペプチドモチーフに置換してもよい。
【0023】
本発明では、ポリンの機能を損なわないポリンの特定部位に、金属イオン結合ペプチドモチーフを導入する。ここで「ポリンの機能を損なわない」とは、ポリンの立体構造が保たれ、拡散チャネルとしての機能が維持されていることをいう。ポリンの立体構造が保たれ、拡散チャネルとしての機能が維持されているかどうかの判断は、アミノ酸配列のアライメントや、増殖能、生育能の測定により行うことができる。
本発明において金属イオン結合ペプチドモチーフが導入される部位は、ポリンのアミノ酸配列において、グラム陰性菌において細胞外ドメインに相当する部位であることが好ましい。さらに本発明では、菌種間及び各種ポリン間でアミノ酸配列の保存性が低い領域に、金属イオン結合ペプチドモチーフを導入することが好ましい。菌種間及び各種ポリン間でアミノ酸配列の保存性が低い領域は常法に従いアライメントを行うことで決定できる。
【0024】
ポリンのアミノ酸配列における、金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位の決定方法について、好ましい態様に基づいて具体的に説明する。しかし本発明は、これに制限されるものではない。
まず、各種ポリンのアミノ酸配列の情報が含まれる各種データベースから、本発明で用いるポリンの細胞外ドメインのアミノ酸配列を特定し、特定したアミノ酸配列のうち10~20残基程度の連続した領域を選択する。次に、選択した領域のアミノ酸配列のアライメントを、異なる菌種間や各種ポリン間で行う。そして、アライメントを行った領域において、異なる菌種間や各種ポリン間で、同一又は類似のアミノ酸残基の個数が3個以下、好ましくは2個以下、より好ましくは1個以下、より好ましくは0個、である領域を、金属ペプチドモチーフの導入部位として決定できる。あるいは、異なる菌種間や各種ポリン間において、細胞外ドメインとして選択した領域のアミノ酸配列の相同性(類似のアミノ酸残基に置換されている場合も含む)が25%以下、好ましくは17%以下、より好ましくは9%以下、より好ましくは0%、である領域を、金属ペプチドモチーフの導入部位として決定できる。
なお、本明細書においてアミノ酸残基の類似性は、アミノ酸残基の側鎖の極性(非極性、正電荷、負電荷)から判断する。そして、側鎖の極性が同じものを、「類似するアミノ酸残基」として分類する。
【0025】
本発明において、金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位は、配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号8で表されるアミノ酸配列の125~137位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号8で表されるアミノ酸配列の164~181位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位であることが好ましく、配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位であることがより好ましい。ここで、「配列番号8で表されるアミノ酸配列の38~54位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpAの細胞外領域1である。また「配列番号8で表されるアミノ酸配列の79~95位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpAの細胞外領域2である。また「配列番号8で表されるアミノ酸配列の125~137位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpAの細胞外領域3である。さらに「配列番号8で表されるアミノ酸配列の164~181位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpAの細胞外領域4である。(以上、図2図9図10図15参照。)
あるいは、金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位は、配列番号9で表されるアミノ酸配列の43~53位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号9で表されるアミノ酸配列の85~91位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号9で表されるアミノ酸配列の116~141位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号9で表されるアミノ酸配列の172~200位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号9で表されるアミノ酸配列の220~241位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号9で表されるアミノ酸配列の258~269位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、配列番号9で表されるアミノ酸配列の300~318位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号9で表されるアミノ酸配列の339~358位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位であってもよい。本発明においては、配列番号9で表されるアミノ酸配列の43~53位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、並びに配列番号9で表されるアミノ酸配列の339~358位までの領域若しくはこれに相当する領域の任意の部位、からなる群より選ばれる少なくとも1つの部位であることがより好ましい。ここで、「配列番号9で表されるアミノ酸配列の43~53位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域1である。また「配列番号9で表されるアミノ酸配列の85~91位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域2である。また「配列番号9で表されるアミノ酸配列の116~141位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域3である。また「配列番号9で表されるアミノ酸配列の172~200位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域4である。また「配列番号9で表されるアミノ酸配列の220~241位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域5である。また「配列番号9で表されるアミノ酸配列の258~269位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域6である。また「配列番号9で表されるアミノ酸配列の300~318位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域7である。さらに「配列番号9で表されるアミノ酸配列の339~358位までの領域」は、後述する大腸菌由来のOmpCの細胞外領域8である。(以上、図2図16図20(A)及び(B)参照。)
本発明において、金属イオン結合ペプチドモチーフの導入部位は、1か所であっても、2か所以上であってもよい。
後述の実施例でも示すように、前記の各領域は、菌種間及び各種ポリン間でのアミノ酸配列の保存性が低い。さらに、これらの領域に金属イオン結合ペプチドモチーフを導入しても、ポリン機能は損なわれない。そして、これらの領域に導入された金属イオン結合ペプチドモチーフは、リン脂質二重膜の表面に呈示される。
なお、本明細書において「相当する領域」は、目的アミノ酸配列を参照配列と比較し、各アミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えるように配列を整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、上述のリップマン・パーソン法等に基づいて手作業で行うこともできるが、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Nucleic Acids Res., 1994, Vol. 22, p. 4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute: EBI, [www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ, [www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。
【0026】
本発明の担体の前駆体となる微生物は、遺伝子工学的手法により作製できる。例えば、ポリンをコードするDNAの所定の部位に、金属イオン結合ペプチドモチーフをコードする遺伝子(以下、「金属イオン結合ペプチドモチーフ遺伝子」という)が導入されるよう、宿主微生物の形質転換を行う。そして、得られた形質転換体において金属イオン結合ペプチドモチーフが導入されているポリンを発現させることで、目的の前駆体が得られる。本明細書において、このような方法により得られる前駆体を組換え微生物ともいう。遺伝子工学的手法により金属イオン結合ペプチドモチーフをポリンに導入して組換え微生物を作製する方法としては特に制限はなく、Appl. Environ. Microbiol., 2015, vol. 81(7), p. 2506-2514; Protein Eng., 1998, vol. 11(6), p. 489-494; Appl. Biochem. Biotechnol., 2013, vol. 169(4), p. 1188-1196; Appl. Biochem. Biotechnol., 2011, vol. 165(7-8), p. 1674-1681; Biotechnol. Appl. Biochem., 2004, vol. 40, p. 209-228等に記載の方法を参照することができる。
【0027】
前記組換え微生物を作製するための宿主微生物としては特に制限されないが、グラム陰性菌が好ましく、Microbiology, 2014, vol. 160, p. 2109-2121に記載の細菌がより好ましい。
本発明で好ましく用いることができるグラム陰性菌としては、エスケリキア(Escherichia)属細菌、赤痢菌(Shigella)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、レジオネラ(Legionella)属細菌、アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌、フランシセラ(Francisella)属細菌、エドワードシエラ(Edwardsiella)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属細菌、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌、ビブリオ(Vibrio)属細菌が挙げられる。具体例としては、大腸菌、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、サルモネラ(Salmonella enterica)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、粘液細菌(Myxococcus xanthus)、フランシセラ・フィロミラジア(Francisella philomiragia)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、エドワードシエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)、フランシセラ・ノビサイダ(Francisella novicida)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、及びコレラ菌(Vibrio cholerae)が挙げられる。これらのうち、エスケリキア属細菌、赤痢菌属細菌、及びサルモネラ属細菌が好ましく、大腸菌、フレクスナー赤痢菌及びサルモネラがより好ましく、大腸菌がさらに好ましい。
後述の実施例でも示すように、前記組換え微生物は、特定の金属に対する特異性及び結合能が優れ、かつ細胞恒常性が維持されている。
【0028】
前述のように作製した前駆体は、本発明の担体の作製に好適に用いることができる。さらに、前駆体である遺伝子組換え微生物が増殖能を維持していれば増殖を続けることができ、本発明の担体を大量に生成することができる。
【0029】
本発明の担体の好ましい形態としては、前記前駆体から常法に従い作製した、ゲノムDNAや、増殖能、代謝能といった微生物が有する特徴を喪失したベシクルが挙げられる。ここで「ベシクル」とは、リン脂質二重膜により閉じた構造を有する小胞をいう。ベシクルは遺伝情報を持たず、産業応用において主な制約となる遺伝子組換え微生物ではない。よって、安全性の観点から前述の組換え微生物を適用できない環境下、条件下であっても、非生物素材である外膜ベシクルであれば金属の回収や除去などに用いることができ、産業上の利用が容易である。
図1(A)及び(B)を参照して説明すると、ベシクル20は、図1(A)に示すような前記組換え微生物10の外膜1から産生され、内部にはDNAを含まない閉じた膜構造を有するベシクル(小胞)である。そしてベシクル20の外層(リン脂質二重膜から構成される外膜1)の表面には、組換え微生物10の外膜1の表面と同様に、ポリン3のアミノ酸配列中に導入された金属イオン結合ペプチドモチーフ4が呈示されている。
【0030】
本発明のベシクルは、前述の方法により作製した、金属イオン結合ペプチドモチーフを細胞膜(リン脂質二重膜)の表面に呈示させた組換え微生物から作製することができる。具体的には、前述の方法により金属イオン結合ペプチドモチーフ4を細胞膜(リン脂質二重膜から構成される外膜1)の表面に呈示させた組換え微生物10を作製する工程、組換え微生物10を培養し、ベシクル20を産生させる工程、培養液の遠心、フィルター濾過による組換え微生物の除去工程、超遠心による培養液中のベシクルの分離、濃縮工程により作製できる。本発明のベシクルを作製する方法としては、PLos ONE, 2016, vol. 11(12), e0169186; J. Bacteriol., 1995, vol. 177(14), p. 3998-4008; Annu. Rev. Microbiol., 2010, vol. 64, p. 163-184; J. Bacteriol., 1998, vol. 180(18), p. 4872-4878; Proteomics., 2014, vol. 14(2-3), p. 222-229等に記載の方法を参照することができる。
【0031】
本発明の担体の別の好ましい形態としては、図1(A)を参照して説明すると、前記前駆体(組換え微生物10)を死滅させて作製した、死菌体が挙げられる。死滅させた死菌体であれば、安全性の観点から、その使用を制限されることが少なく、産業上の利用が容易である。死菌体は、常法に従い前駆体微生物をオートクレーブ滅菌することで作製することができる。
【0032】
本発明の担体と金属又はそのイオンを含有する媒体とを接触させ、媒体に含まれる金属イオンを本発明の担体の表面に結合させ、本発明の担体を分離することで、金属を回収できる。
本発明の担体の表面に結合した金属又はそのイオンの取り出し方法に特に制限はない。例えば、高温(100℃程度)処理による金属イオン結合ペプチドモチーフの二次構造の変性、高塩濃度(数M)溶液処理による金属イオン結合ペプチドモチーフからの金属イオン乖離、不可逆的な金属イオン結合ペプチドモチーフの分解、等により行うことができる。このような方法により、河川や海などの自然水域環境や、都市鉱山、金属磁石スラッジを酸などで溶解させた水溶液、金属で汚染された土壌の分散物などから作製した媒体などから回収した金属は、石油精製プロセスに用いられる触媒、防腐剤の有効成分、工業用オイルの添加剤、電気・電子機器、医療分野で用いられる抗菌剤などに再利用できる。金属と分離した後の担体は、金属イオン結合ペプチドモチーフの構造が完全に破壊されていない場合、担体を再利用できる。
また、上記方法により、金属で汚染された環境水や土壌に含まれる金属を除去でき、水質や土壌の浄化も可能となる。
【0033】
本発明の担体を適当な支持体などに固定化することで、微生物素材由来のバイオリアクター(例えば、金属を回収又は除去するためのカラム若しくはフィルム、金属の回収又は除去剤)を提供することができる。本発明で用いることができる支持体に特に制限はないが、水又は特定の溶媒に対して不溶性の物質が挙げられる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリアクリルアミド、ポリビニルフォルマール樹脂多孔質体、シリコンフォーム、セルロース多孔質体等の発泡体又は樹脂が挙げられる。なお、本明細書において「固定化」とは、本発明の担体が遊離の状態ではなく、支持体に結合若しくは付着した状態、又は支持体内部に取り込まれた状態をいう。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
試験例1 金属イオン結合ペプチドモチーフを細胞外層の表面に呈示する組み換え大腸菌の作製
(1)金属イオン結合ペプチドモチーフを呈示する大腸菌細胞外層の標的領域の検討
大腸菌の細胞外層の表面に金属イオン結合ペプチドモチーフを呈示するため、細胞最外層に局在するタンパク質に注目した。
大腸菌のようなグラム陰性細菌を囲うリン脂質の生体膜は2重であり、その外側を外膜、内側を内膜と呼ぶ。大腸菌の外膜には主に3種類のポリン(OmpA(配列番号8)、OmpC(配列番号9)、OmpF(配列番号10))が局在する。このうち、グラム陰性細菌ではOmpAが恒常的に発現し、主要な外膜タンパク質である。大腸菌由来のOmpAは8箇所の膜貫通領域をもち、結果として細胞外側に呈示される4つの細胞外領域を有している。以下、4つの細胞外領域をそれぞれ、「細胞外領域1(Extracellular-1)」、「細胞外領域2(Extracellular-2)」、「細胞外領域3(Extracellular-3)」、「細胞外領域(Extracellular-4)」という(図2図15参照)。
【0036】
ClustalWにより作成した、大腸菌由来のOmpA、OmpC及びOmpF、フレクスナー赤痢菌由来のOmpA(配列番号32)、OmpC(配列番号33)及びOmpF(配列番号34)、並びにサルモネラ由来のOmpA(配列番号35)、OmpC(配列番号36)及びOmpF(配列番号37)のアミノ酸配列のアライメントから、細胞外領域1には、同一のアミノ酸残基及び類似するアミノ酸残基は存在しないことがわかった(図2参照)。また、細胞外領域2にも同一のアミノ酸残基はなく、類似するアミノ酸残基が1つ存在するのみあった(図2参照)。
一方、細胞外領域3及び4にはそれぞれ、同一のアミノ酸残基が2つ、類似するアミノ酸残基が1つ存在した(図2参照)。
【0037】
以上の結果から、菌種間及び各種ポリン間でのアミノ酸配列の保存性が極めて低い細胞外領域1と細胞外領域2が、ポリンの機能、好ましくはOmpA機能に重要ではないと考えた。そしてこの領域を、金属イオン結合ペプチドモチーフを挿入する標的とした。
【0038】
(2)CRISPR-CasシステムにおけるガイドRNAクローニングの汎用ベクター構築
まず、Jiangらによって構築されたCRISPR-Cas9システムを利用したゲノム編集法を応用した(Appl. Environ. Microbiol., 2015, vol. 81(7), p. 2506-2514)(図3参照)。
この系では、まず化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来Cas9エンドヌクレアーゼ、λ-Redリコンビナーゼ(アラビノース誘導)、及び複製起点pMB1を標的とするガイドRNA(IPTG誘導)をコードする温度感受性プラスミドpCasを大腸菌に導入する。次にpCasを導入した大腸菌に、標的遺伝子に特異的なガイドRNAを発現するプラスミドを導入することで、細胞内で発現したCas9と標的遺伝子特異的ガイドRNAを発現するプラスミドとが複合体を形成し、ゲノム上の標的位置でDNA二本鎖を切断し、細胞死を引き起こす。しかし、ガイドRNA発現プラスミドの導入と共に、組換えを起こさせたい鋳型DNA断片の導入と、アラビノース存在下での培養を行うと、アラビノースによって発現が誘導されたλ-Redリコンビナーゼの作用により、ゲノム上の標的位置で切断されたDNAと鋳型DNA断片での相同組み換えが起きる。結果として、ゲノムが修復され、ゲノム上に鋳型DNA断片が組み込まれた大腸菌細胞を得ることができる。
また、pCasにはIPTGにより誘導されるpMB1複製起点特異的sgRNAがコードされており、ゲノム相同組み換えの後、獲得した形質転換体をIPTG存在下で培養することでpMB1複製起点を持つ標的遺伝子特異的なガイドRNA発現プラスミドはCas9によって切断され、除去される。
さらに、pCasは温度感受性複製起点を持つことから、培養温度を37℃あるいは42℃に上げて形質転換体を培養することにより容易に除去することができるシステムとなっている。
【0039】
まず、ガイドRNA発現プラスミドの構築のため、設計したcrRNA配列を組み込むベクターの作製を行った。QiらによるtracrRNA配列及びガイドRNAの構成発現プロモーター配列(Cell, 2013, vol. 152(5), p. 1173-1183)を参考に、この配列中のtracrRNA配列の5’側に制限酵素NotIの認識部位を挿入した配列をユーロフィンジェノミクスの人工遺伝子合成サービスを利用してpEX-A2ベクターに挿入したpEX-A2-sgRNAを構築した(配列番号11、図4参照)。
なお、配列番号11で表される塩基配列において、86-147位の塩基配列は「tracrRNA」であり、155-227位の塩基配列は「Pj23119 promoter」であり、255-370位の塩基配列は「lac promoter」であり、587-1260位の塩基配列は「pMB1 ori」であり、1405-2266位の塩基配列は「bla」である。
【0040】
(3)ゲノム編集を用いた大腸菌外膜タンパク質非保存領域の特異的切断
次に、前述のOmpAの細胞外領域1を標的としたcrRNA配列を持つガイドRNA発現プラスミドを構築するため、オリゴヌクレオチドompA1_sgRNA_N20(配列番号12、5’-CCGCAGCGGTTTCAGTGTTGATGAAACCAGTGTCAGTTTTAGAGCTAGAA-3’、下線はpEX-A2-sgRNAとの相同配列)とその相補鎖オリゴヌクレオチドompA1_sgRNA_com(配列番号13、5’-TTCTAGCTCTAAAACTGACACTGGTTTCATCAACACTGAAACCGCTGCGG-3’、下線はpEX-A2-sgRNAとの相同配列)をアニーリングして2本鎖DNA断片とし、NotIで切断したpEX-A2-sgRNAへIn-Fusion HD Cloning kit(Takara bio社製)を用いpsgRNA-ompA1-14を構築した(図5参照)。
同様に、OmpAの細胞外領域2を標的としたcrRNA配列を持つガイドRNA発現プラスミドを構築するため、オリゴヌクレオチドompA2_sgRNA_N20(配列番号14、5’-CCGCAGCGGTTTCAGTGTTGATGAAACCAGTGTCAGTTTTAGAGCTAGAA-3’、下線はpEX-A2-sgRNAとの相同配列)とその相補鎖オリゴヌクレオチドompA2_sgRNA_com(配列番号15、5’-TTCTAGCTCTAAAACTTGTACGGCATACGACCTAACTGAAACCGCTGCGG-3’、下線はpEX-A2-sgRNAとの相同配列)をアニーリングして2本鎖DNA断片とし、NotIで切断したpEX-A2-sgRNAへIn-Fusion HD Cloning kit(Takara bio社製)を用いpsgRNA-ompA2-29を構築した(図5参照)。
【0041】
pCas(カナマイシン耐性)を導入した大腸菌W3110 typeAに、psgRNA-ompA1-14(アンピシリン耐性)又はpsgRNA-ompA2-29(アンピシリン耐性)を導入した。しかし、アンピシリン耐性能をもつ大腸菌形質転換体を得ることができなかった。
これらの結果より、前記psgRNA-ompA1-14及びpsgRNA-ompA2-29は、Cas9依存的にゲノム上のそれぞれ標的とするompA遺伝子部位を切断することを確認した。
【0042】
(4)大腸菌外膜タンパク質非保存領域へのCuイオン結合ペプチドモチーフの導入
外膜表面に呈示されるCuイオン結合ペプチドモチーフとして大腸菌転写因子CueRのCu結合モチーフ(配列番号4)に着目した。
CueRのCuイオン結合ペプチドモチーフは21個のアミノ酸残基(2HN-CPGDDSADCPILENLSGCCHH-COOH、配列番号4)で構成されており(Science, 2003, vol. 301(5638), p. 1383-1387)、この両端側にそれぞれ3個ずつグリシン残基を付加した27アミノ酸残基の配列をOmpAに導入した。その詳細を下記に示す。
【0043】
CueR遺伝子がクローンされるpBAD33_cueRプラスミド(配列番号16、図6参照)を鋳型として、ompA1_cueRpep_F(配列番号17、5’-TAAACTGGGCTGGTCCCAGTACCATGACACTGGTTTCATCGGCGGCGGCTGCCCTGGCGATGAC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域1の相当する配列と相同)とompA1_cueRpep3_R(配列番号18、5’-CAGCGCCCAGTTGGTTTTCATGGGTCGGGCCATTGTTGTTGCCGCCGCCATGATGACAGCAGCC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域1の相当する配列と相同)をプライマーとしたKOD-Plus-Neo(Toyobo)によるPCRを行った。この操作により、OmpAの細胞外領域1に組み換え導入できる、161bpのCuイオン結合ペプチドモチーフをコードするDNA断片(以下、「ompA1cueRpep3」という)を増幅した(図6参照)。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
なお、配列番号16で表される塩基配列において、: 96-974位の塩基配列は「araC」であり、1004-1019位の塩基配列は「araO2」であり、1161-1172位の塩基配列は「araO1」であり、1203-1216位の塩基配列は「CAP_BS」であり、1213-1251位の塩基配列は「AraI1I2」であり、1248-1276位の塩基配列は「ARA_promoter」であり、1356-1760位の塩基配列は「cueR」であり、1761-1784位の塩基配列は「FLAG tag」であり、1878-2035位の塩基配列は「rrnB_terminator」であり、2001-2044位の塩基配列は「rrnB_T1_terminator」であり、2176-2203位の塩基配列は「rrnB_T2_terminator」であり、2244-2272位の塩基配列は「bla_promoter」であり、2441-2725位の塩基配列は「bla (576-860)」であり、2784-3083位の塩基配列は「f1_origin」であり、3777-4436位の塩基配列は「CAT/CamR」であり、4798-5637位の塩基配列は「p15A_origin」である。
【0044】
同様に、ompA2_cueRpep_F(配列番号19、5’-AATGGGTTACGACTGGTTAGGTCGTATGCCGTACAAAGGCGGCGGCGGCTGCCCTGGCGATGAC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域2の相当する配列と相同)とompA2_cueRpep3_R(配列番号20、5’-GTTGAACGCCCTGAGCTTTGTATGCACCGTTTTCAACGCTGCCGCCGCCATGATGACAGCAGCC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域2の相当する配列と相同)をプライマーとしたPCRを行い、OmpAの細胞外領域2に組み換え導入できる161bpのCuイオン結合ペプチドモチーフDNA断片(以下、「ompA2cueRpep3」という)を増幅した(図6参照)。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
【0045】
つぎに、pCasを有する大腸菌W3110 typeA(J. Bacteriol., 1997, vol. 179(3), p. 959-963)のエレクトロポレーション用コンピテント細胞を作製した。そして、ompA遺伝子の細胞外領域1の特異的切断のためのガイドRNA発現プラスミドpsgRNA-ompA1-14と、組み換え用DNA断片ompA1cueRpep3を用いた形質転換を行った。LB寒天培地(10g/L tryptone(Difco)、5g/L yeast extract(Difco)、171mM NaCl、15g/L agar)に塗布して30℃で終夜培養し、形質転換体YM0501を得た。
YM0501はアンピシリン感受性を示した。このアンピシリン感受性を示した株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、組換えompA遺伝子のみを特異的に増幅するプライマーセットompA_F(配列番号21、5’-GCAGATCCCCCGGTGAAGGA-3’)とompA1_cueRpep3_R(配列番号18)を用いてPCRを行った。その結果、W3110 typeAでは増幅が見られなかったのに対し、YM0501では目的断片の増幅が見られた。
【0046】
また同様に、ompA遺伝子の細胞外領域2特異的切断のためのガイドRNA発現プラスミドpsgRNA-ompA2-29と、組み換え用DNA断片ompA2cueRpep3を用いた形質転換を行った。LB寒天培地に塗布して30℃で終夜培養し、形質転換体YM0701を得た。
【0047】
(5)大腸菌外膜タンパク質非保存領域へのTbイオン結合ペプチドモチーフの導入
外膜表面に呈示されるTbイオン結合ペプチドモチーフとしてCaイオン結合EF-handモチーフ(Trends Biochem. Sci., 1996, vol. 21, p. 14-17参照)由来の変異体(配列番号6)に着目した(Chembiochem., 2003, vol. 4(4), p. 272-276)。
17個のアミノ酸残基から成る変異のTbイオン結合ペプチドモチーフ(2HN-YIDTNNDGWYEGDELLA-COOH、配列番号6)(Chembiochem., 2003, vol. 4(4), p. 272-276)の両端側にそれぞれ3個ずつグリシン残基を付加した23アミノ酸残基の配列をOmpAに導入した。その詳細を下記に示す。
【0048】
Tbイオン結合ペプチドモチーフ遺伝子がクローンされるpGEX-4T-1-TbB-peptide1プラスミド(配列番号22、図7参照)を鋳型として、ompA1_TbBpep1_F(配列番号23、5’-TAAACTGGGCTGGTCCCAGTACCATGACACTGGTTTCATCGGCGGCGGCTATATTGATACCAAC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域1の相当する配列と相同)とompA1_TbBpep1_R(配列番号24、5’-CAGCGCCCAGTTGGTTTTCATGGGTCGGGCCATTGTTGTTGCCGCCGCCCGCCAACAATTCATC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域1の相当する配列と相同)をプライマーとしたKOD-Plus-Neo(Toyobo)によるPCRを行った。この操作により、OmpAの細胞外領域1に組み換え導入できる149bpのTbイオン結合ペプチドモチーフをコードするDNA断片(以下、「ompA1TbBpep1」という)を増幅した(図7参照)。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
なお、配列番号22で表される塩基配列において、184-212位の塩基配列は「tac promoter」であり、258-944位の塩基配列は「GST-a」であり、945-953位の塩基配列は「Glycine」であり、954-1004位の塩基配列は「TbB-peptide1」であり、1005-1007位の塩基配列は「Glycine」であり、1008-1026位の塩基配列は「GST-b」であり、1422-2282位の塩基配列は「bla」であり、2438-3056位の塩基配列は「pBR322 ori」であり、3354-4445位の塩基配列は「lac I」である。
【0049】
同様にompA2_TbBpep1_F(配列番号25、5’-AATGGGTTACGACTGGTTAGGTCGTATGCCGTACAAAGGCGGCGGCGGCTATATTGATACCAAC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域2の相当する配列と相同)とompA2_TbBpep1_R(配列番号26、5’-GTTGAACGCCCTGAGCTTTGTATGCACCGTTTTCAACGCTGCCGCCGCCCGCCAACAATTCATC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域2の相当する配列と相同)をプライマーとしたPCRを行い、OmpAの細胞外領域2に組み換え導入できる149bpのTbイオン結合ペプチドモチーフDNA断片(以下、「ompA2TbBpep1」という)を増幅した(図7参照)。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
【0050】
つぎに、前述の方法と同様にして、pCasを有する大腸菌W3110 typeA(J. Bacteriol., 1997, vol. 179(3), p. 959-963)にエレクトロポレーションによって、ompA遺伝子の細胞外領域1の特異的切断のためのガイドRNA発現プラスミドpsgRNA-ompA1-14と、組み換え用DNA断片ompA1TbBpep1を用いた形質転換を行い、形質転換体YM0901を得た。
同様に、ompA遺伝子の細胞外領域2の特異的切断のためのガイドRNA発現プラスミドpsgRNA-ompA2-29と、組み換え用DNA断片ompA2TbBpep1を用いた形質転換を行い、形質転換体YM1101を得た。
【0051】
さらに、前記Tbイオン結合ペプチドモチーフとは異なるTbイオン結合ペプチドモチーフとして、17個のアミノ酸残基から成る変異の異なるTbイオン結合ペプチドモチーフ(2HN-ACVDWNNDGWYEGDECA-COOH、配列番号7)(Chembiochem., 2003, vol. 4(4), p. 272-276)の両端側にそれぞれ3個ずつグリシン残基を付加した23アミノ酸残基の配列をOmpAに導入することとした。
【0052】
このTbイオン結合ペプチドモチーフ遺伝子がクローンされるpGEX-4T-1-TbB-peptide2プラスミド(配列番号27、図8参照)を鋳型として、ompA1_TbBpep2_F(配列番号28、5’-TAAACTGGGCTGGTCCCAGTACCATGACACTGGTTTCATCGGCGGCGGCGCGTGCGTGGATTGG-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域1の相当する配列と相同)とompA1_TbBpep2_R(配列番号29、5’-CAGCGCCCAGTTGGTTTTCATGGGTCGGGCCATTGTTGTTGCCGCCGCCCGCGCATTCATCGCC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域1の相当する配列と相同)をプライマーとしたKOD-Plus-Neo(Toyobo)によるPCRを行った。この操作により、OmpAの細胞外領域1に組み換え導入できる149bpのTbイオン結合ペプチドモチーフをコードするDNA断片(以下、「ompA1TbBpep2」という)を増幅した。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
なお、配列番号27で表される塩基配列において、184-212位の塩基配列は「tac promoter」であり、258-944位の塩基配列は「GST-a」であり、945-953位の塩基配列は「Glycine」であり、954-1004位の塩基配列は「TbB-peptide2」であり、1005-1007位の塩基配列は「Glycine」であり、1008-1026位の塩基配列は「GST-b」であり、1422-2282位の塩基配列は「bla」であり、2438-3056位の塩基配列は「pBR322 ori」であり、3354-4445位の塩基配列は「lac I」である。
【0053】
同様にompA2_TbBpep2_F(配列番号30、5-AATGGGTTACGACTGGTTAGGTCGTATGCCGTACAAAGGCGGCGGCGGCGCGTGCGTGGATTGG-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域2の相当する配列と相同)とompA2_TbBpep2_R(配列番号31、5’-GTTGAACGCCCTGAGCTTTGTATGCACCGTTTTCAACGCTGCCGCCGCCCGCGCATTCATCGCC-3’、下線はゲノム上のompA遺伝子の細胞外領域2の相当する配列と相同)をプライマーとしたPCRを行い、OmpAの細胞外領域2に組み換え導入できる149bpのTbイオン結合ペプチドモチーフDNA断片(以下、「ompA2TbBpep2」という)を増幅した(図8参照)。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
つぎに、前述の方法と同様にして、pCasを有する大腸菌W3110 typeA(J. Bacteriol., 1997, vol. 179(3), p. 959-963)にエレクトロポレーションによって、ompA遺伝子の細胞外領域1の特異的切断のためのガイドRNA発現プラスミドpsgRNA-ompA1-14と、組み換え用DNA断片ompA1TbBpep2を用いた形質転換を行い、形質転換体YM1001を得た。
同様に、ompA遺伝子の細胞外領域2の特異的切断のためのガイドRNA発現プラスミドpsgRNA-ompA2-29と、組み換え用DNA断片ompA2TbBpep2を用いた形質転換を行い、形質転換体YM1201を得た。
【0054】
以上のように作製した、形質転換体YM0501、YM0901、及びYM1001の構造の概略を図9に示す。また、形質転換体YM0701、YM1101、及びYM1201の構造の概略を図10に示す。
【0055】
試験例2 金属イオン結合モチーフを大腸菌外層の表面に呈示される組み換え体の増殖
試験例1で作製した各形質転換体をそれぞれ、M9グルコース培地(0.4mM Na2HPO4・12H2O、2mM KH2PO4、0.8mM NaCl、0.1mM CaCl2・2H2O、20mM NH4Cl、1mM MgCl2・6H2O、0.25mM K2SO4、10mM D-(+)-glucose)にて37℃で培養し、継時的にOD600nmを測定した。その結果を図11及び図12に示す。
図11及び図12に示すように、いずれの形質転換体についても、親株のW3110 typeAと同様の増殖曲線が得られた。これらの結果より、本発明の形質転換体は、その増殖に影響することなく、細胞外層の表面に金属イオン結合ペプチドモチーフを呈示できることを証明した。
【0056】
ompA遺伝子の細胞外領域1にCuイオン結合モチーフを挿入した大腸菌形質転換体YM0501は、細胞外層の表面にCuイオン結合モチーフを提示した状態となっている。
この形質転換体YM0501とその親株(W3110 typeA)とをそれぞれ、5mM CuCl2を添加したLB液体培地(10g/L tryptone(Difco)、5g/L yeast extract(Difco)、171mM NaCl)にて37℃で終夜培養し、OD600nmを測定した。
その結果、親株のW3110 typeAのOD600nmの値は0.410であったのに対し、形質転換体YM0501のOD600nmの値は1.299と親株よりも高い値を示した(図13参照)。
このことから、細胞外層の表面に提示されたCuイオン結合モチーフが環境中のCuイオンと結合することにより、形質転換体YM0501のCuイオン耐性が向上していることが証明された。
【0057】
試験例3 組み換え大腸菌からのベシクルの作製
前記形質転換体YM0501をLB液体培地(10g/L tryptone(Difco)、5g/L yeast extract(Difco)、171mM NaCl)1Lにて37℃で終夜培養した。培養液を遠心、及びφ0.45μmフィルターを用いたフィルター濾過により、菌体を除去した。そして、濾過液の超遠心(150,000×g、1時間)により、溶液中に存在する、自然生成したベシクルを分離及び濃縮した。ベシクルを含む沈殿物をリン酸緩衝液(pH7.0)で懸濁し、ベシクル溶液を作製した。
【0058】
ベシクルはFM4-64(商品名:SynapseRed C2(equivalent to FM4-64)、タカラバイオより入手)により染色し、共焦点レーザー顕微鏡Zeiss LSM510 META(Carl Zeiss)を用いて確認した。その結果を図14(B)に示す。また、FM4-64で染色した形質転換体YM0501の顕微鏡写真を図14(A)に併せて示す。なお、FM4-64は疎水性の赤色蛍光物質であり、脂質二重膜を染色する。本試験例では、大腸菌及びベシクルのリン脂質二重膜を染色するために、FM4-64を使用した。
図14(B)では、図14(A)に見られるような大腸菌の菌体が確認されなかった。実際、図14(B)では直径数百nm程の小胞(ベシクル)が多数見られ、大腸菌から産生されるベシクルの直径は一般に数十~数百nmであることと一致した。さらに、Bradford法によりベシクル溶液中にタンパク質が含まれていることを確認した。
以上の結果は、前述の操作により、形質転換体からベシクルの調製に成功したことを示している。
【0059】
試験例4 金属イオン結合ペプチドモチーフを細胞外層の表面に呈示される組み換え大腸菌の死菌体を用いた金属の回収
大腸菌由来のOmpCは16箇所の膜貫通領域をもち、結果として細胞外に呈示される8つの細胞外領域を有している。以下、8つの細胞外領域をそれぞれ、「細胞外領域1(Extracellular-1)」、「細胞外領域2(Extracellular-2)」、「細胞外領域3(Extracellular-3)」、「細胞外領域4(Extracellular-4)」、「細胞外領域5(Extracellular-5)」、「細胞外領域6(Extracellular-6)」、「細胞外領域7(Extracellular-7)」、「細胞外領域8(Extracellular-8)」という(図16参照)。
このうち、細胞外領域1と細胞外領域8に金属イオン結合ペプチドモチーフを挿入する標的とした(図18参照)。
【0060】
まず、ompC遺伝子発現用プラスミドを構築した。
pBAD33(J. Bacteriol. 1995, vol. 177(14), p. 4121-4130)にompC領域を挿入するため、プライマーの設計を行sった。pBAD33との相同配列15塩基にS.D.配列を含む14塩基、標的遺伝子ompCの開始コドンから25塩基を含む計54塩基のプライマーOmpC_BAD_F(配列番号38)を設計した。また、上流からompC遺伝子の終始コドンを除いた25塩基、FLAG配列と終始コドンを含む30塩基、pBAD33との相同配列15塩基を含む計70塩基のプライマーOmpC_BAD_R(配列番号39)を設計した。
【0061】
大腸菌W3110 Type Aのゲノム(J. Bacteriol. 1997, vol. 179(3), p. 959-963)を鋳型DNAとして、前記プライマーOmpC_BAD_Fー及びOmpC_BAD_Rを用いてPCRを行い、ompC遺伝子領域を増幅した。ExTaq polymerase(Takara bio)を用いてPCRを行い、2%アガロースゲル電気泳動によりPCR産物を確認したところ、目的DNA断片(1177 bp)の増幅が確認できた。そこで、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up Kit(Cherey-Nagel)を用いてDNA断片を精製した。得られたpBAD33との相同配列を含むompC断片をOmpC-BAD fragmentとした。
その後、HindIII及びSacIで制限酵素処理したpBAD33と、OmpC-BAD fragmentをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara bio)によって相同組み換えにより連結し、CaCl2法による形質転換によって大腸菌DH5αに導入し、クロラムフェニコールを含むLB寒天培地においてコロニーを獲得した。出現したコロニーからFavorPrep Plasmid DNA Extraction Mini Kit(Favorgen)によってプラスミドを抽出し、抽出したプラスミドのDNA塩基配列決定を行い、プラスミドpBADompC-FLAGを獲得した(図17参照)。
【0062】
つぎに、pBADompC-FLAGの細胞外領域1のコーディング領域にTb結合ペプチドモチーフ2(H2N-ACVDWNNDGWYEGDECA-COOH、配列番号7)を導入するため、Inverse PCRにより前記pBADompC-FLAGプラスミドの線状DNAを調製した。
プライマーompC1a_inv_F(5’-ATCTTTGTTGTCAGAGAAATAGTGC-3’、配列番号40)及びプライマーompC1a_inv_R(5’-GATGGCGACCAGACCTACATGCGTC-3’、配列番号41)を用いて、Pfu Ultra High Fidelity DNA Polymerase AD(Agilent)を用いたPCRにより目的のDNA(6452塩基対)を増幅した。その後、PCR産物をDpnIで消化し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up Kitを用いてDNA精製を行った。
【0063】
Tbイオン結合ペプチドモチーフ2遺伝子がクローンされるpGEX-4T-1-TbB-peptide2プラスミドを鋳型として、プライマーompC1a_TbBpep2_F-2(5’-TCTGACAACAAAGATGGCGGCGGCGCGTGCGTGGATTGG-3’、配列番号42)とプライマーompC1a_TbBpep2_R-2(5’-GGTCTGGTCGCCATCGCCGCCGCCCGCGCATTCATCGCC-3’、配列番号43)を用いてKOD-Plus-Neo(Toyobo)によるPCRを行った。この操作により、OmpCの細胞外領域1に導入できる、Tbイオン結合ペプチドモチーフ2をコードする99塩基対のDNA断片(以下、「ompC1TbBpep2」という)を増幅した。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
pBADompC-FLAGの線状ベクターとompC1TbBpep2をIn-Fusion HD Enzymeによって相同組み換えにより連結し、CaCl2法による形質転換によって大腸菌DH5αに導入し、クロラムフェニコールを含むLB寒天培地においてコロニーを獲得した。出現したコロニーからFavorPrep Plasmid DNA Extraction Mini Kit(Favorgen)によってプラスミドを抽出し、抽出したプラスミドのDNA塩基配列決定を行い、プラスミドpBADompC1-TBpep2を獲得した(図19(A)参照)。
【0064】
さらに、pBADompC1-TBpep2のOmpC細胞外領域8のコーディング領域にTb結合ペプチドモチーフ2(H2N-ACVDWNNDGWYEGDECA-COOH、配列番号7)を追加導入した。Inverse PCRにより前記pBADompC1-TBpep2の線状DNAを調製した。
プライマーompC8f_inv_F(5’-CTGGTTGTCGTCCAGCAGGTTGATT-3’、配列番号44)、プライマーompC8f_inv_R(5’-ACTCGTGACGCTGGCATCAACACTG-3’、配列番号45)を用いて、Pfu Ultra High Fidelity DNA Polymerase AD(Agilent)を用いたPCRにより目的のDNAを増幅した。その後、PCR産物をDpnIで消化し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up Kitを用いてDNA精製を行った。
Tbイオン結合ペプチドモチーフ2遺伝子がクローンされるpGEX-4T-1-TbB-peptide2プラスミドを鋳型として、プライマーompC8f_TbBpep2_F-2(5’-CTGGACGACAACCAGGGCGGCGGCGCGTGCGTGGATTGG-3’、配列番号46)とプライマーompC8f_TbBpep2_R-2(5’-GCCAGCGTCACGAGTGCCGCCGCCCGCGCATTCATCGCC-3’、配列番号47)を用いてKOD-Plus-Neo(Toyobo)によるPCRを行った。この操作により、OmpCの細胞外領域8に導入できる、Tbイオン結合ペプチドモチーフ2をコードする99塩基対のDNA断片(以下、「ompC8TbBpep2」という)を増幅した。増幅したDNA断片は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen)を用いて精製した。
pBADompC-FLAGの線状ベクターとompC8TbBpep2をIn-Fusion HD Enzymeによって相同組み換えにより連結し、CaCl2法による形質転換によって大腸菌DH5αに導入し、クロラムフェニコールを含むLB寒天培地においてコロニーを獲得した。出現したコロニーからFavorPrep Plasmid DNA Extraction Mini Kit(Favorgen)によってプラスミドを抽出し、抽出したプラスミドのDNA塩基配列決定を行い、プラスミドpBADompC18-TBpep2を獲得した(図19(B)参照)。
【0065】
構築したプラスミドpBADompC1-TBpep2、pBADompC18-TBpep2、pBADompC-FLAG及びプラスミドpBAD33を大腸菌JW2203(ompC::Kmr)(Mol. Syst. Biol. 2006, Vol. 2, 2006.0008.)へ導入した。
大腸菌JW2203 のCaCl2用コンピテントセルを作成し、pBADompC1-TBpep2、pBADompC18-TBpep2、pBADompC-FLAG、pBAD33プラスミド溶液を加え、CaCl2法による形質転換を行い、クロラムフェニコールを含むLB寒天培地上でコロニーを獲得した。得られた形質転換体(図20(A)及び(B)参照)をクロラムフェニコールとアラビノース(終濃度0.002%)を含むLB培地で培養し、集菌後、細胞懸濁溶液(20mM Tris-HCl pH 8.0/20% sucrose)で懸濁した。細胞懸濁液にリゾチーム(200μg/mL)とEDTA(終濃度0.1M)を添加し、氷上で40分静置した。その後、MgCl2(終濃度0.5M)を加え、遠心分離(10,000rpm、20分、4℃)によって得られたスフェロプラストの沈殿をスフェロプラスト懸濁溶液(10mM Tris-HCl pH8.0)で懸濁後、超音波(Amplitude 15%、Pulse ON/OFF 10秒、全90秒間)処理を行った。
溶液を遠心分離(10,000 rpm、15分、4oC)し、その後上清を超遠心分離(30,000 rpm、60分)を2度行い、凍結融解を行った後、得られた膜画分を1% N-lauroylsarcinosinate(終濃度0.5%)で懸濁した。25℃で20分保温した後、再度超遠心分離(30,000 rpm、90分)を行い、得られた沈殿を外膜画分とした。外膜画分は外膜可溶溶液(20mM Tris-HCl pH 8.0/20% sucrose/2%SDS)で溶解し、Bradford法によってタンパク質量を定量した。
【0066】
これらの外膜に対して、尿素(終濃度7.5%)を含むアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEで分析した結果、45kDa付近にpBAD33をもつ大腸菌JW2203株では確認できないが(図21(A)のレーン1参照)、pBADompC-FLAGをもつ大腸菌JW2203株で確認するOmpCと推定されるタンパク質バンドを検出した(図21(A)のレーン2参照)。また、このタンパク質バンドはpBADompC1-TBpep2をもつJW2203株では少し移動度が遅いものであったことから、Tbイオン結合ペプチドモチーフ2を含むOmpCであると推定した(図21(A)のレーン3参照)。
上記結果を確認するために、FLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。各形質転換体由来の外膜画分に対して、尿素(終濃度7.5%)を含むアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEで電気泳動し、ゲル中のタンパク質をiBlot Gel Transfer Stacks PVDF(Invitrogen)へ転写した。転写PVDF膜はスキムミルク(終濃度3%)を含むTBS溶液(50mM Tris/150mM NaCl/1M HCl pH7.5)でブロッキングし、FLAG抗体(Sigma)を加えたスキムミルク(終濃度1%)を含むTBSに一晩振とうして晒することで、一次抗体によるPVDF上の免疫反応を行った。その後、転写したPVDF膜はスキムミルク(終濃度1%)を含むTBSで洗浄し、HRP結合マウスIgG抗体を加えたスキムミルク(終濃度1%)を含むTBSに2時間振とうし、二次抗体による免疫反応を行った。免疫反応させた転写PVDF膜はスキムミルク(終濃度1%)を含むTBSと精製水で洗浄し、Chemilmi One Super(ナカライテスク株式会社)によって膜上のHRP化学発光をLAS-4000(Fujifilm)を検出した。その結果、45kDa付近にpBADompC-FLAGをもつ大腸菌JW2203株でバンドを検出し、pBADompC1-TBpep2をもつ大腸菌JW2203株では少し移動度が遅いバンドを検出した(図21(B)のレーン2及び3参照)。しかし、pBAD33をもつ大腸菌JW2203株ではバンドを確認できなった(図21(B)のレーン1参照)。
これらの結果より、pBADompC1-TBpep2は大腸菌細胞内でTbイオン結合ペプチドモチーフ2を含むOmpCを外膜上に発現させることを確証した。
【0067】
大腸菌形質転換体をクロラムフェニコールとアラビノース(終濃度0.002%)を含むLB培地で培養し、オートクレーブにより菌体を死滅させた。この死菌体の吸着挙動の評価を実施した。
死菌体を純水1mLで懸濁した際に、660nmの波長で1.0OD(Optical Density)の濁度になる液量を遠心で集菌した。集めた死菌体を、100μMの濃度のTbClを含んだ50mM濃度のMES(pH4.5)水溶液1mLに懸濁したのち、再沈殿しないよう攪拌を30分間続けた後、遠心して菌体と上清とに分離した。この上清を吸着後上清とした。
【0068】
死菌体を懸濁する前の金属溶液原液(TbClを含んだMES水溶液)と吸着後上清の各溶液について、5%硝酸で10倍に希釈し、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectroscopy)によってそれぞれのTb3+イオン濃度を求め、死菌体に吸着したTb3+イオンの吸着率を算出した。吸着率は以下の式より算出した。

(吸着率/%)=
(1-(吸着後上清のTb3+イオン濃度)/(金属溶液原液のTb3+イオン濃度))

その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、大腸菌株1でのTb3+イオンの吸着量は、大腸菌体表層へのTb3+イオンの非特異吸着によるものと考えられる。一方で、Tbイオン結合ペプチドモチーフが外膜に呈示されている大腸菌株2及び3では、大腸菌株1よりも大きいTb3+イオン吸着率を示している。
よって、外膜上にOmpC1a-TbBpep2又はOmpC1aC8f-Tbpep2を発現している死菌体の大腸菌株2及び3では、発現してない死菌体である大腸菌株1に比べて優位なTb3+イオンの吸着をしていることから、OmpC1a-TbBpep2又はOmpC1aC8f-Tbpep2はTb3+イオンを吸着する能力を保有することが確認できた。
【0071】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0072】
本願は、2017年5月2日に日本国で特許出願された特願2017-091503に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0073】
1 外膜
2 内膜
3 ポリン
4 金属イオン結合ペプチドモチーフ
10 組換え微生物又はその死菌体
20 ベシクル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
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