(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】熱交換器、冷凍機および焼結体
(51)【国際特許分類】
F25B 9/12 20060101AFI20220824BHJP
F28F 3/06 20060101ALI20220824BHJP
F28F 13/00 20060101ALI20220824BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
F25B9/12
F28F3/06 Z
F28F13/00
F28F21/08 Z
(21)【出願番号】P 2020501078
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2019006960
(87)【国際公開番号】W WO2019163978
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018032417
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】松下 琢
(72)【発明者】
【氏名】檜枝 光憲
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-074774(JP,A)
【文献】特開昭58-124196(JP,A)
【文献】特開平01-266495(JP,A)
【文献】特開2009-198416(JP,A)
【文献】国際公開第2005/040067(WO,A1)
【文献】特開2001-118891(JP,A)
【文献】特開2012-214315(JP,A)
【文献】特開平07-260266(JP,A)
【文献】特開平08-283009(JP,A)
【文献】特開2005-187575(JP,A)
【文献】特開平10-330528(JP,A)
【文献】特開2002-110260(JP,A)
【文献】特開2005-139376(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/12
F28F 3/06
F28F 13/00
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温の液体ヘリウムが流れる低温側流路と、
高温の液体ヘリウムが流れる高温側流路と、
前記高温側流路から前記低温側流路へ熱を伝導する熱伝導部と、を備え、
前記熱伝導部は、
前記高温側流路と前記低温側流路とを隔てる隔壁部材と、
前記隔壁部材と前記液体ヘリウムとの熱抵抗を低減する熱抵抗低減部と、を有し、
前記熱抵抗低減部は、ナノサイズの細孔を有する多孔体と、前記多孔体よりも熱伝導率の高い金属微粒子と、を有することを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記熱抵抗低減部は、前記多孔体と前記金属微粒子との焼結体であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記熱抵抗低減部は、厚みが1~1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記多孔体は、前記細孔として表面に貫通孔が形成されている粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記貫通孔は、内部においてヘリウムが液体で存在できる直径を有していることを特徴とする請求項4に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記多孔体は、平均細孔径が2~30nmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記多孔体は、平均粒径が50~20000nmの範囲にあるシリケート粒子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記多孔体は、比面積が600m
2/g以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記金属微粒子は、平均粒径が50~100000nmの範囲にある銀微粒子であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱交換器と、
内部に
3He希薄相と
3He濃厚相とが形成されており、前記高温側流路から前記
3He濃厚相に
3He液体が流入する流入路と、前記
3He希薄相から前記低温側流路へ
3He液体が流出する流出路と、を有する混合室と、
前記低温側流路を流れる
3He液体が流入する流入路を有し、
4He液体と
3He液体との混合液から
3Heを蒸気として選択的に分離する分溜室と、
前記分溜室で分離された前記
3Heを液化して前記高温側流路へ戻す冷却経路と、
を備えることを特徴とする冷凍機。
【請求項11】
ナノサイズの細孔を有する多孔体と、前記多孔体よりも熱伝導率の高い金属微粒子との焼結体であって、
前記細孔の内部には
4Heと
3Heとが吸着されていることを特徴とする焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷凍機に用いられる熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、100mK以下の極低温を実現する冷凍機として、3He/4He希釈冷凍機が知られている。このような希釈冷凍機における最低到達温度や冷却能力は、熱交換器の性能に大きく依存している。希釈冷凍機の熱交換器は、冷却部である混合器の中に流入するいわゆる3He濃厚相(C相:3He濃度がほぼ100%)を、いわゆる3He希薄相(D相:3He濃度が約6.4%)で冷却するものである。
【0003】
そのため、3He濃厚相の熱をいかに効率良く3He希薄相に伝導するかが重要である。例えば、熱伝導を向上するために、濃厚相と希薄相を仕切る金属板を、高熱伝導率を有する銀板で構成し、その銀板を挟むように焼結銀からなる円板が配置された熱交換器が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の希釈冷凍機に用いられる3Heは非常に希少で高価であるため、その使用量を抑えることはコストの低減や装置の小型化に寄与する。また、希釈冷凍機の性能は熱交換器の性能に大きく依存するため、冷凍機の熱交換器における熱伝導を更に向上することが求められる。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その例示的な目的の一つは、冷凍機の熱交換器における熱伝導の更なる向上を実現する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の熱交換器は、低温の液体ヘリウムが流れる低温側流路と、高温の液体ヘリウムが流れる高温側流路と、高温側流路から低温側流路へ熱を伝導する熱伝導部と、を備える。熱伝導部は、高温側流路と低温側流路とを隔てる金属部材と、金属部材と液体ヘリウムとの熱抵抗を低減する熱抵抗低減部と、を有する。熱抵抗低減部は、ナノサイズの細孔を有する多孔体と、多孔体よりも熱伝導率の高い金属微粒子と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、熱交換器における熱伝導の更なる向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る希釈冷凍機の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に係る熱交換器の概略構成を示す模式図である。
【
図3】本実施の形態に係る熱抵抗低減部の要部を示す模式図である。
【
図4】本実施の形態に係る多孔体の概略構成を模式的に示す模式図である。
【
図5】本実施の形態に係る混合室の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のある態様の熱交換器は、低温の(例えば、3He濃度が低い)液体ヘリウムが流れる低温側流路と、高温の(例えば、3He濃度が高い)液体ヘリウムが流れる高温側流路と、高温側流路から低温側流路へ熱を伝導する熱伝導部と、を備える。熱伝導部は、高温側流路と低温側流路とを隔てる金属部材と、金属部材と液体ヘリウムとの熱抵抗を低減する熱抵抗低減部とを有する。熱抵抗低減部は、ナノサイズの細孔を有する多孔体と、多孔体よりも熱伝導率の高い金属微粒子と、を有する。
【0011】
この態様によると、熱伝導率が比較的高い金属微粒子と比面積が大きな多孔体とで熱抵抗低減部を構成することで、金属微粒子のみを金属部材表面に固定した場合と比較して、金属部材と液体ヘリウムとの熱抵抗を低減できる。そのため、高温側流路から低温側流路への熱伝導を更に向上できる。
【0012】
熱抵抗低減部は、多孔体と金属微粒子との焼結体であってもよい。これにより、液体ヘリウムとの接触面積を多孔体で増大させることでカピッツァ抵抗を小さくするとともに、多孔体と金属部材との熱伝導は、多孔体よりも熱伝導率が高い金属微粒子を介して行うことで、金属部材と液体ヘリウムとの熱抵抗を低減できる。
【0013】
熱抵抗低減部は、厚みが1~1000μmの範囲であってもよく、1~500μmの範囲がより好ましく、1~200μmの範囲が最も好ましい。これにより、ナノサイズの細孔を有する多孔体をある程度含みつつ、熱抵抗低減部全体の熱抵抗を低減できる。
【0014】
多孔体は、細孔として表面に貫通孔が形成されている粒子であってもよい。これにより、多孔体粒子の外部と細孔内のヘリウムが直接接続して熱の伝導が可能となる。
【0015】
多孔体粒子表面の貫通孔は、内部においてヘリウムが液体で存在できる直径を有していてもよい。これにより、同じ液体であるヘリウム同士の熱の伝導が貫通孔において可能となる。なお、貫通孔とは、多孔体表面に形成された開口部から多孔体の内部に続く孔であり、入口または出口が金属微粒子等で閉塞されていてもよい。
【0016】
多孔体の細孔は、内壁に固体状態のヘリウム(例えば4He)層が形成されても、細孔の中心部分にヘリウム(例えば3He)が液体で存在し、かつ、ヘリウム(例えば3He)液体がつながって存在できる直径を有するとよい。具体的には、多孔体は、平均細孔径が2~30nmの範囲であってもよい。
【0017】
多孔体は、平均粒径が50~20000nmの範囲にあるシリケート粒子であってもよい。これにより、カピッツァ抵抗の低減に寄与する大きな比面積と、熱抵抗に影響する多孔体のシリケート部材を介した熱伝導距離の短縮化とを両立できる。
【0018】
多孔体は、比面積が600m2/g以上であってもよい。これにより、多孔体と液体ヘリウムとの界面でのカピッツァ抵抗を低減できる。
【0019】
金属微粒子は、平均粒径が50~100000nmの範囲にある銀微粒子であってもよい。これにより、金属微粒子が多孔体を取り囲むように焼結体として金属部材に固定される。
【0020】
本開示の他の態様は、冷凍機である。この冷凍機は、上述の熱交換器と、内部に3He希薄相と3He濃厚相とが形成されており、高温側流路から3He濃厚相に3He液体が流入する流入路と、3He希薄相から低温側流路へ3He液体が流出する流出路と、を有する混合室と、低温側流路を流れる3He液体が流入する流入路を有し、4He液体と3He液体との混合液から3Heを蒸気として選択的に分離する分溜室と、分溜室で分離された3Heを液化して高温側流路へ戻す冷却経路と、を備えてもよい。
【0021】
本開示の更に他の態様は、焼結体である。この焼結体は、ナノサイズの細孔を有する多孔体と、多孔体よりも熱伝導率の高い金属微粒子との焼結体である。多孔体の細孔の内部には、4Heと3Heとが吸着されている。これにより、焼結体の熱抵抗を十分に小さくできる。
【0022】
この態様によると、熱交換器における熱伝導の更なる向上が図られるため、冷凍性能の向上や冷凍機全体の小型化が可能となる。
【0023】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【0024】
以下、図面等を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0025】
(希釈冷凍機)
本実施の形態に係る希釈冷凍機は、100mK以下の極低温を実現する代表的な冷凍機である。
図1は、本実施の形態に係る希釈冷凍機の概略構成を示す模式図である。希釈冷凍機10は、内部に
3He希薄相(以下、適宜「希薄相」と称する。)12と
3He濃厚相(以下、適宜「濃厚相」と称する。)14とが形成される混合室16と、混合室16に流入する
3He液体と混合室16から流出する
3He液体および
4He液体の混合液とが熱交換する熱交換器18と、
3Heおよび
4Heの混合液から
3Heを蒸気として選択的に分離する分溜室20と、1K液体ヘリウムが貯留されている1K貯溜室22と、を備える。分溜室20は、低温側流路32を流れる混合液が流入する流入路20bを有している。混合室16、熱交換器18、分溜室20および1K貯溜室22は、真空断熱されたクライオスタット24内に配置されている。
【0026】
次に、希釈冷凍機10の動作について説明する。3Heと4Heの混合液は、0.87K以下の低温で相分離を起こす。そのため、混合室16において、3Heと4Heの混合液は、3Heが100%に近い濃厚相14と4He中に3Heが約6.4%混合している希薄相12とに分離して共存する。
【0027】
濃厚相14は、希薄相12より密度が小さいため、希薄相12の上に浮いており、濃厚相14の3Heが希薄相12に溶け込む(希釈する)際にエントロピー差に応じた冷却が起こる。希釈冷凍機10は、濃厚相および希薄相の2相間のエントロピー差を利用した冷凍機である。
【0028】
分溜室20の温度を0.8K以下に設定すると、蒸気圧の違いから3Heのみが選択的に蒸発する。そして、分溜室20の排出路26に接続されている、クライオスタット24外の真空ポンプで吸引することで、希薄相20aから3Heを蒸気Sとして選択的に分離し取り出すことができる。
【0029】
その結果、分溜室20内の希薄相20aにおける3He濃度が低下し、混合室16の希薄相12との間に濃度差が生じる。これにより、混合室16内の希薄相12内の3Heが分溜室20に向かって移動し、希薄相12内の3He濃度が低下するため、濃厚相14中の3Heが希薄相12中に溶け込む。この際、冷却が生じ、混合室16内の希薄相12の温度が更に低下する。
【0030】
分溜室20で蒸発した3Heの蒸気Sは、外部のポンプによって回収、圧縮されて、供給路28から混合室16に再び戻される。供給路28から供給される3Heの蒸気Sは、4.2Kの4Heで予冷され、1K貯溜室22で更に冷却され、液化される。本実施の形態では、供給路28から1K貯溜室22を経由して高温側流路30までの経路が、3Heを液化して高温側流路30へ戻す冷却経路29として機能する。液化された3Heは、熱交換器18の高温側流路30を通過する過程で、熱交換器18の低温側流路32を通過する3Heと熱交換を行うことで更に冷却され、混合室16の流入路34から濃厚相14に戻る。
【0031】
以上のように、本実施の形態に係る希釈冷凍機10は、3Heが循環することで1Kから数mKまで連続的に極低温が得られることから、半導体検出器や量子コンピュータ等の極低温の冷却が必要な様々な分野での利用が期待されている。また、冷却性能を落とさずに、高価な3Heの使用量の削減や装置の小型化も、希釈冷凍機の普及には重要である。
【0032】
(熱交換器)
本発明者らは、このような希釈冷凍機の性能に大きな影響を与える構成の一つである熱交換器に着目し、特に、高温側流路30から低温側流路32への熱伝導を向上するための、新たな技術を考案した。
【0033】
図2は、本実施の形態に係る熱交換器の概略構成を示す模式図である。本実施の形態に係る熱交換器18は、容器31の内部に、
3He濃度が低い(約6.4%の)液体ヘリウムが流れる低温側流路32と、
3He濃度が高い(約100%)液体ヘリウムが流れる高温側流路30と、高温側流路30から低温側流路32へ熱Hを伝導する熱伝導部36と、を備える。
【0034】
高温側流路30は、1K貯溜室22や分溜室20で予冷された3Heが流入する流入路30aと、熱交換器18で更に冷却された3Heが流出する流出路30bと、を有する。低温側流路32は、混合室16の希薄相12から主として3Heが流入する流入路32aと、高温側流路30を流れる3Heから熱Hを奪った3Heを分溜室20の希薄相20aへ向けて流出させる流出路32bと、を有する。熱伝導部36は、高温側流路30と低温側流路32とを隔てる隔壁部材としての板状の金属部材38と、金属部材38と液体ヘリウムとの熱抵抗を低減する熱抵抗低減部40と、を有する。金属部材38は、例えば、銅や銀といった熱伝導率の高い材料で構成されている。隔壁部材としては、金属以外にダイヤモンドといった熱伝導率の高い材料で構成されていてもよい。
【0035】
希釈冷凍機10が利用される約100mK以下の温度範囲における熱交換では、金属部材38のような固体表面と液体ヘリウムとの界面で生じるカピッツァ抵抗が熱交換の性能を低下させる主な要因の一つとなる。そこで、界面面積をできるだけ多くすることが可能で、熱伝導が良い材料である銀や銅の金属微粒子を金属部材38の表面に固定することが一案である。しかしながら、本発明者らは、複数の機能部材を組み合わせることで、金属微粒子単独では実現し得ない熱伝導性能を達成できる熱抵抗低減部40に想到した。
【0036】
(熱抵抗低減部)
図3は、本実施の形態に係る熱抵抗低減部40の要部を示す模式図である。
図3では、一つのナノ多孔体を中心とした構成を図示しているが、熱抵抗低減部40には、ナノ多孔体や金属微粒子が多数存在していることは言うまでもない。
【0037】
図3に示すように、本実施の形態に係る熱抵抗低減部40は、ナノサイズの細孔を有する多孔体42と、多孔体42よりも熱伝導率の高い銀の金属微粒子44と、を有する。このように、熱伝導率が比較的高い金属微粒子44と比面積が大きな多孔体42とで熱抵抗低減部40を構成することで、金属微粒子44のみを金属部材38表面に固定した場合と比較して、金属部材38と液体ヘリウムとの熱抵抗を低減できる。そのため、高温側流路30から低温側流路32への熱伝導を更に向上できる。
【0038】
また、熱抵抗低減部40は、金属部材38に固定された、多孔体42と金属微粒子44との焼結体である。これにより、液体ヘリウムとの接触面積を多孔体42で増大させることでカピッツァ抵抗を小さくするとともに、多孔体42と金属部材38との熱伝導は、多孔体42よりも熱伝導率が高い金属微粒子44を介して行うことで、金属部材38と液体ヘリウムLとの熱抵抗を低減できる。
【0039】
(多孔体)
図4は、本実施の形態に係る多孔体42の概略構成を模式的に示す模式図である。多孔体42は、シリケート等からなるナノ多孔体(メソポーラスシリカ)であり、ナノサイズの複数の細孔42aが規則的に形成されている。そのため、銀等の金属微粒子の比面積(約1m
2/g)と比較して、多孔体42は、比面積が600~1300m
2/gであり、3桁以上大きい。カピッツァ効果による熱抵抗は界面面積に反比例して減少するため、多孔体42を介して金属部材38と液体ヘリウムとの熱伝導を行うことで、金属部材38と液体ヘリウムとの界面でのカピッツァ抵抗を低減できる。また、小さい熱伝導部36でも十分な界面面積を確保することができるため、装置の小型化が可能である。
【0040】
また、細孔42aの平均細孔径Dは、比面積の観点からは小さい方が好ましい。しかしながら、本発明者らの検討によれば、液体ヘリウムLと接する、細孔径が約2nmより大きな多孔体42の細孔42a内においては、固体状態のヘリウム(主に4He)が細孔壁面42b上に吸着していることがわかった。また、その際の固体状態のヘリウムからなる固体層46の厚みCは約0.6nmである。そして、液体ヘリウムの平均粒子間距離が約0.4nmであることから、細孔径が1.5nm以下の場合、細孔全体が固体状態のヘリウムで充填されてしまう。
【0041】
本実施の形態に係る多孔体42の細孔径Dは、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法による測定値で約3.9nmである。したがって、固体層46の内部の直径が2.7nmの円柱領域は、希薄相12または濃厚相14に含まれる3He液体L’で満たされている。3He液体L’の円柱領域の直径は、液体ヘリウムの粒子間距離約0.4nmよりも十分大きいので、多孔体42の周囲にあるヘリウム液体Lと同じ熱伝導等の性質が期待される。そして、多孔体42の周囲にある液体ヘリウムLと細孔42a内の3He液体L’は、多孔体粒子表面の貫通孔で液体同士が直接つながっている。
【0042】
細孔42a内の3He液体L’と多孔体細孔壁面とのカピッツァ熱抵抗に由来する熱抵抗は、細孔壁面の合計面積に反比例する。多孔体42の巨大な比面積のため、小型の熱交換器であっても大きな面積を実現して、カピッツァ熱抵抗由来の熱抵抗を小さくしている。このように、多孔体42周囲にある液体ヘリウムLと多孔体42のシリケート部材との熱伝導を良くしている。
【0043】
このように、多孔体42は、内部において3Heが液体で存在できる直径を細孔42aが有しており、また、細孔42aが貫通孔である。これにより、3He液体L’を介して細孔42aの両端部の熱伝導が効率良く可能となる。また、粒子状の多孔体42の外部と細孔42a内の3He液体L’が直接接続されることで、熱の伝導が可能となる。
【0044】
なお、多孔体42の平均細孔径Dは、細孔42aの中心部分の円柱形状の3He液体L’の直径が液体ヘリウムの粒子間距離約0.4nmよりも十分大きくなるようにすることが好ましい。この場合、固体状態の4Heの固体層46の厚さ0.6nmを考慮すると、少なくとも細孔径Dは1.6nm以上が必要であり、2nm以上が好ましく、比面積の観点から30nm以下がより好ましい。これにより、細孔42aの中心部分に直径が0.4nmよりも十分大きな3He液体L’が存在できる。
【0045】
多孔体42がシリケート粒子の場合、平均粒径が大きすぎると、多孔体42自体の熱抵抗が大きくなる。また、平均粒径が小さすぎると、平均細孔径Dを適切な範囲に調整することが困難となる。そこで、本実施の形態に係る多孔体42は、平均粒径が50~20000nmの範囲、好ましくは、多孔体42の部材の熱抵抗等を考慮して、平均粒径が100~500nmの範囲にあるシリケート粒子である。これにより、カピッツァ抵抗の低減に寄与する大きな比面積と、熱抵抗に影響する多孔体のシリケート部材を介した熱伝導距離の短縮化とを両立できる。なお、多孔体42に適したシリケート粒子としては、例えば、FSM-16、MCM-41等が挙げられる。
【0046】
本実施の形態に係る金属微粒子44は、平均粒径が50~100000nmの範囲にある銀微粒子である。これにより、熱伝導の良好な金属微粒子44が多孔体42を取り囲むように焼結体として金属部材38に固定される。
【0047】
本実施の形態に係る熱抵抗低減部40は、厚みが1~500μmの範囲である。これにより、ナノサイズの細孔を有する多孔体42の周囲をある程度の量の金属微粒子44が囲むようにし、金属部材38と液体ヘリウムとの金属微粒子44を介した熱抵抗を低減できる。なお、熱抵抗低減部40は、厚みが1~1000μmの範囲であってもよく、1~200μmの範囲が最も好ましい
【0048】
このように、本実施の形態に係る希釈冷凍機10は、熱交換器18における熱伝導の更なる向上が図られるため、冷凍性能の向上や冷凍機全体の小型化が可能となる。
【0049】
(性能評価)
上記のナノ多孔体と銀の焼結構造は、ナノ多孔体に吸着した4Heと3Heの超低温比熱測定で評価を行った。比熱測定は準断熱ヒートパルス法で行い、比熱容器にはヒータと温度計が取り付けてある。そして、ヒートパルスを加えたあとの容器温度の時間変化を解析することにより、吸着ヘリウムと容器が同じ温度になるまでの緩和時間を測定した。その結果、温度が26mKまでは、温度計の応答時間約5秒よりも短い緩和時間であり、熱抵抗が十分に小さいことが確認された。
【0050】
そこで、本実施の形態に係る熱抵抗低減部40を備えたステップタイプの熱交換器を製作し、ヘリウム希釈冷凍機に取り付けて作動させた。ステップタイプの熱交換器を備えず、tube-in-tubeの熱交換器だけを取り付けて運転した希釈冷凍機は、3Heを約20μmol/secの連続循環した場合に最低温が約35mKに到達し、single-shot(3Heの循環を停止して、回収だけを行い冷却する方法)の場合に最低温が20mK台に到達する。一方、この希釈冷凍機に本実施の形態に係る熱交換器を取り付けた場合、連続循環した場合に最低温が20.6mKに到達し、single-shotの場合に最低温が8.6mKに到達した。このように、本実施の形態に係る希釈冷凍機は、最低到達温度が向上しており、多孔体42を含む熱抵抗低減部40の有効性を示している。
【0051】
なお、前述の熱抵抗低減部40は、熱交換器18だけでなく混合室16の熱伝導部にも利用できる。
図5は、本実施の形態に係る混合室16の概略構成を示す模式図である。混合室16は、高温側流路30から濃厚相14に
3He液体が流入する流入路34と、希薄相12から低温側流路32へ
3He液体が流出する流出路52と、が形成されている容器48を備える。
【0052】
容器48の底部48aの内側には、熱抵抗低減部40が配置されている。これにより、希薄相12の液体ヘリウムと底部48aの熱抵抗を低減でき、底部48aを冷却面Sとした場合の冷却性能を向上できる。
【0053】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示の冷凍機は、極低温での動作が必要な様々な装置の冷却に利用が可能であり、例えば、量子コンピュータや半導体検出器の冷却に利用が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 希釈冷凍機、 12 希薄相、 14 濃厚相、 16 混合室、 18 熱交換器、 20 分溜室、 20a 希薄相、 20b 流入路、 22 1K貯溜室、 24 クライオスタット、 26 排出路、 28 供給路、 29 冷却経路、 30 高温側流路、 30a 流入路、 30b 流出路、 31 容器、 32 低温側流路、 32a 流入路、 32b 流出路、 34 流入路、 36 熱伝導部、 38 金属部材、 40 熱抵抗低減部、 42 多孔体、 42a 細孔、 42b 細孔壁面、 44 金属微粒子、 46 固体層、 48 容器、 48a 底部、 52 流出路。