(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】電離放射線照射で抗生物質耐性遺伝子を除去する方法
(51)【国際特許分類】
A61L 11/00 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
A61L11/00
(21)【出願番号】P 2020552088
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(86)【国際出願番号】 CN2018120554
(87)【国際公開番号】W WO2019114749
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】201711329143.7
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520211605
【氏名又は名称】チンホワ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】TSINGHUA UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】Tsinghua Park, Haidian District, Beijing, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジャンロン
(72)【発明者】
【氏名】チュウ リビン
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106348381(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0003835(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103159357(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103482733(CN,A)
【文献】特開昭56-109886(JP,A)
【文献】特開2004-074119(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0856063(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0015775(KR,A)
【文献】PHARMACEUTICAL INDUSTRY;Hazardous Waste Generations,Treatment,and Disposal,米国,United States Environmental Protection Agency,1976年,p.49-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/08、11/00
B09B 1/00-5/00
C02F 1/30
C05F 1/00-17/993
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物から抗生物質耐性遺伝子を除去する方法であって、
前記廃棄物を
Co
60
γ線電離放射線照射で処理することを含み、
前記廃棄物は、抗生物質の製造の際に生成される微生物含有残留物である抗生物質微生物残留物であり、前記抗生物質微生物残留物の形態は、固形物又は固液混合物であ
り、
前記抗生物質微生物残留物は、エリスロマイシン微生物残留物の固液混合物、エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固液混合物、ペニシリン微生物残留物の固液混合物、又はエリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固形物であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記エリスロマイシン微生物残留物の固液混合物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、5kGyより大きく且つ10kGy以下であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固液混合物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、20kGyより大きく且つ30kGy以下であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記ペニシリン微生物残留物の固液混合物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、5kGyより大きく且つ10kG以下であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固形物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、30kGyより大きく且つ50kGy以下である、方法。
【請求項2】
抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物から抗生物質耐性遺伝子を除去するための処理方法によって、処理を経た廃棄物を得ることと、
前記廃棄物を飼料、肥料及び/又はエネルギーの製造に使用することと、
を含む飼料、肥料及び/又はエネルギーの製造方法
であって、
前記処理方法は、前記廃棄物をCo
60
γ線電離放射線照射で処理することを含み、前記廃棄物は、抗生物質の製造の際に生成される微生物含有残留物である抗生物質微生物残留物であり、前記抗生物質微生物残留物の形態は、固形物又は固液混合物であり、
前記抗生物質微生物残留物は、エリスロマイシン微生物残留物の固液混合物、エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固液混合物、ペニシリン微生物残留物の固液混合物、又はエリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固形物であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記エリスロマイシン微生物残留物の固液混合物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、5kGyより大きく且つ10kGy以下であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固液混合物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、20kGyより大きく且つ30kGy以下であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記ペニシリン微生物残留物の固液混合物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、5kGyより大きく且つ10kG以下であり、
前記抗生物質微生物残留物が前記エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固形物である場合、放射線照射処理の吸収線量は、30kGyより大きく且つ50kGy以下である、肥料及び/又はエネルギーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、廃棄物処理分野に属し、特に、製薬業界の危険な固形廃棄物である抗生物質微生物残留物中の耐性遺伝子を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中国は、世界最大の抗生物質製造国であり、使用国でもある。統計によると、2013年の中国の抗生物質の生産量は24.8万トンで、使用量は16.2万トンである。抗生物質系医薬品の培養生産過程において、固形廃棄物である抗生物質微生物残留物が大量生成される。1トンの抗生物質を生産するときに8~10トンの湿性微生物残留物が生成されるとして算出すると、微生物残留物の年間生産量は200万トン以上に達する。微生物残留物の主成分は、菌糸体、未使用の培地、培養過程の代謝産物、残留抗生物質及び抗生物質耐性遺伝子(Antibiotic Resistance Genes)などである。微生物残留物にはタンパク質や多糖などの栄養物質が豊富に含まれているが、残留の抗生物質や耐性遺伝子は薬剤耐性菌を誘発・伝播させ、生態環境や人間の健康に潜在的な害を及ぼす可能性がある。中国では、2008年に改訂された「危険廃棄物リスト」には、抗生物質微生物残留物が危険廃棄物としてリストされている。抗生物質微生物残留物の安全な処置は、抗生物質製造企業が解決すべき難題となっている。
【0003】
抗生物質微生物残留物の成分の1つである耐性遺伝子は、新しい環境汚染物質であって、抗生物質の生産及び使用に密接に関連している。微生物残留物中及び環境中に残留の抗生物質は、耐性細菌のスクリーニングに対して環境選択圧を構成し、耐性遺伝子の生成及び選択を促進する。同じ種類の抗生物質は、複数種類の耐性遺伝子の発生を誘導できる。環境中の耐性遺伝子の存在は、抗生物質に対する微生物の耐性を増加させ、さらに多種類の耐性遺伝子を持っている「スーパー細菌」が現れ、抗生物質の治療を無効にし、人類の健康に大きな危害を与える。
【0004】
耐性遺伝子は、他の汚染物質、特に抗生物質微生物残留物に含まれている他の汚染成分と比較して、独特の特性を有する。一方、耐性遺伝子は生物学的遺伝物質として、多環芳香族炭化水素、医薬品及びパーソナルケア製品(pharmaceuticals and personal care products、PPCPs)などの有機汚染物質と異なる。耐性遺伝子の生成は、抗生物質に依存せず、その自体が様々な病原性微生物、非病原性微生物、さらに遺伝関係の遠い微生物の間を水平遺伝子伝達(horizontal gene transfer)によって伝播することができる。一方、耐性遺伝子の除去は、抗生物質微生物残留物中の菌糸体の死滅とは異なる。研究によると、耐性遺伝子は、裸のDNAの形として菌糸体から独立して環境中に存在することができ、ある適切な条件下で環境中で自己増幅し、これにより、当該遺伝子を運ぶ菌糸体が死滅された後も環境中に長期間存在し続けることができる。
【0005】
現在、抗生物質微生物残留物の処理技術は、主に、焼却、埋立、堆肥、嫌気性消化、マイクロ波、アルカリ処理などの物理的及び化学的方法がある。これらの方法は、耐性遺伝子等の除去に関しては、その効果が満足できるものではない。例えば、焼却や衛生埋立は、伝統的な危険廃棄物の処理方法である。抗生物質微生物残留物は、含水率が高く、発熱量が低く、焼却過程に燃料を加える必要があるため、処理の費用が高い。微生物残留物の埋立は大量の土地を占有し、微生物残留物の腐敗と液化によって生成される浸出液は地下水を汚染する。高温での堆肥は、耐性遺伝子の除去に大きな違いがあり、耐性遺伝子の増殖を促進する可能性もある。嫌気性消化も高温で行う方が耐性遺伝子の削減に一定の効果がある。塩素又は紫外消毒プロセスは、耐性遺伝子の除去にそれぞれ異なる効果を有する。
【0006】
抗生物質耐性遺伝子を含有する危険な廃棄物から耐性遺伝子を除去するのに有効な改良された方法は、当技術分野において依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本願は、一態様において、電離放射線照射技術を使用して廃棄物を処理することを含む、抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物から抗生物質耐性遺伝子を除去する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願で使用される「耐性遺伝子」又は「抗生物質耐性遺伝子」という用語は、細菌に抗生物質耐性を与える遺伝子を指す。耐性遺伝子の標的となる抗生物質は、ペニシリンなどのβ-ラクタム抗生物質や、エリスロマイシン、エリスロマイシンチオシアネートなどのマクロライド抗生物質、ストレプトマイシンなどのアミノグリコシド抗生物質、バンコマイシンなどのポリペプチド抗生物質などが挙げられる。異なる抗生物質に対する複数の耐性遺伝子、例えば、β-ラクタム系抗生物質に対するblaCTX-M遺伝子、マクロライド抗生物質に対するereA、ermA、ermB、ermF、mefA、mphB遺伝子などが同定されている。
【0009】
本願で使用される「抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物」という用語は、抗生物質耐性遺伝子を含有する固形物又は液体物質を指す。例えば、抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物には、抗生物質耐性遺伝子を含有する廃水処理工場の排水、汚泥、抗生物質微生物残留物などが含まれる。
【0010】
好ましくは、抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物は、抗生物質微生物残留物である。したがって、本願では、特に、電離放射線照射技術を使用して抗生物質微生物残留物を処理することを含む、抗生物質微生物残留物中の抗生物質耐性遺伝子を除去する方法が提供される。
【0011】
本願で使用される「抗生物質微生物残留物」という用語は、抗生物質の製造の際に生成される抗生物質耐性遺伝子を含有する微生物含有残留物を指す。抗生物質微生物残留物は、主として、完全に抽出されていない抗生物質、その他の代謝産物、抗生物質産生菌に完全に利用されていない培地成分、及び抗生物質産生菌糸体そのものなどを含む。抗生物質微生物残留物に含まれる抗生物質、菌糸体及び耐性遺伝子は、環境汚染を招く危険な廃棄物となる。
【0012】
抗生物質微生物残留物は、生物学的培養法を用いて対応する抗生物質を製造する際に生成される微生物残留物であってもよく、それは1種類以上の対応する抗生物質の耐性遺伝子を含む。例えば、ペニシリン微生物残留物は、生物学的培養法を用いてペニシリンを生産する際に生成される残留物であって、1種類以上のペニシリン耐性遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、前記抗生物質微生物残留物は、エリスロマイシン微生物残留物、エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物、ペニシリン微生物残留物、ストレプトマイシン微生物残留物、セファロスポリン微生物残留物、オキシテトラサイクリン微生物残留物、リンコマイシン微生物残留物、スピロマイシン微生物残留物などである。いくつかの好ましい実施形態において、抗生物質微生物残留物は、エリスロマイシン微生物残留物、エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物、ペニシリン微生物残留物の1種類以上から選択される。いくつかの実施形態において、抗生物質微生物残留物などの廃棄物1個あたりに含まれる耐性遺伝子の含有量は、1×105コピー/gから1×1010コピー/gの範囲である。
【0013】
抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物(例えば、抗生物質微生物残留物)は、固液混合物(例えば、含水率が70%、80%、又は90%を超える湿性微生物残留物)として提供することができ、例えば、濾過及び/又は乾燥処理後に固形物の形態で提供することもできる。
【0014】
電離放射線照射は、物質を電離させる放射線照射であって、γ線又は電子加速器などにより生成される電子ビームなどがある。γ線や電子ビームは、エネルギーが高く、貫通力が強い。放射線照射を受けると、系は物理的及び化学的効果(例えば、コロイドの変性作用)、化学的効果(例えば、汚染物質の放射線分解又は酸化作用)、及び生物学的効果(例えば、滅菌、消毒作用)などを生じる。電離放射線照射技術は、有毒な有機汚染物質などを除去するために、水及び汚泥処理の分野で使用されてきた。電離放射線照射はPPCPsなどの毒性難分解性有機物を除去するための有効な手段でもある。テトラサイクリン、ペニシリン、及びスルホンアミドなどの抗生物質は、いずれも、電離放射線照射によって効率的に分解されることができる。
【0015】
本発明者らは、電離放射線照射技術によって危険な廃棄物中の様々な耐性遺伝子を高い除去率で破壊することができることを驚くべきことに見出した。理論に縛られることなく、電離放射線照射による高エネルギー線及び放射線照射による活性粒子が抗生物質耐性遺伝子に作用することで、その効率的な鎖の切断と生物学的機能(例えば、増幅、形質転換能力)の破壊などを引き起こして、抗生物質耐性遺伝子の効率的な除去を実現できると考えられる。また、電離放射線照射技術は、他の廃棄物処理技術に比べて、効率が高く、応用面が広く、危険廃棄物における耐性遺伝子及び抗生物質のような多種類の危険成分を同時に除去することができ、放射線照射は常温で行うことができ、化学試薬を必要としないか、又は少量添加するだけで、二次汚染物質が生成されない、清潔で持続可能な技術である。
【0016】
いくつかの実施形態において、抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物(例えば、抗生物質微生物残留物)中の抗生物質耐性遺伝子を除去する方法は、抗生物質耐性遺伝子を含有する廃棄物をγ線源又は高エネルギー電子ビームのスキャンターゲットウィンドウの近くに配置して、電離放射線照射処理を行うことを含む。電離放射線照射を行う装置又は設備は、当該技術分野において周知である。
【0017】
電離放射線照射は、任意の適切な温度で行うことができる。いくつかの実施形態において、電離放射線照射は常温状態で行われる。
【0018】
いくつかの実施形態において、γ線源は、Co60又はCs137である。
【0019】
いくつかの実施形態において、高エネルギー電子ビームは電子加速器によって生成される。
【0020】
いくつかの実施形態において、放射線の吸収線量は、5kGyを超え、例えば、10~50kGy、20~50kGy、30~50kGyなどである。いくつかの実施形態において、放射線の吸収線量は、例えば、5、10、15、20、30、40、50kGyである。
【0021】
本願に記載の方法は、耐性遺伝子の除去を可能にする。本発明の文脈において、耐性遺伝子に言及する際に使用される「除去」という用語は、本発明による方法を使用して処理される前の廃棄物中の耐性遺伝子の量と比較して、本発明による方法によって処理された後、耐性遺伝子が減少されるか、検出されないか、又は、削除されることを意味する。本文に記載の方法の抗生物質耐性遺伝子の除去効果は、当該技術分野で周知の任意の遺伝子検出方法によって検出することができる。例えば、シーケンシングやポリメラーゼ連鎖反応(PCR)やゲル電気泳動などの定性的検出であってもよく、照射前後のサンプル中の耐性遺伝子の有無を比較することにより、耐性遺伝子の除去を決定する。いくつかの好ましい実施形態において、本願に記載の耐性遺伝子を除去する方法を使用すると、放射線照射を経た抗生物質微生物残留物から耐性遺伝子が検出されない。或いは、検出は、蛍光定量PCRなどの定量的検出であってもよく、例えば、放射線照射前の耐性遺伝子の量に対する照射前後の耐性遺伝子の量の差の百分率を用いて除去率を算出する。いくつかの実施形態において、本願に記載の耐性遺伝子を除去する方法は、85%より高い、86%より高い、87%より高い、88%より高い、89%より高い、90%より高い、91%より高い、92%より高い、93%より高い、94%より高い、95%より高い、96%より高い、97%より高い、98%より高い、99%より高い、又は、100%の除去率で廃棄物中の抗生物質耐性遺伝子を除去することが可能である。いくつかの実施形態において、本願の方法によって処理された後に得られる廃棄物(例えば、抗生物質微生物残留物)1個あたりに含まれる耐性遺伝子の含有量は、1×104コピー/gから1×109コピー/gの範囲である。いくつかの実施形態において、本願に記載の方法は、廃棄物(例えば、抗生物質微生物残留物)中の他の有害物質(例えば、抗生物質又は菌糸体)の除去又は低減を同時に実現した。例えば、本願に記載の方法において、抗生物質の除去率は、40%より高い、60%より高い、80%より高い、又は90%より高いなどであってもよい。
【0022】
本願は、別の態様において、上記の方法によって得られた、例えば抗生物質微生物残留物などのような、耐性遺伝子が除去された廃棄物を提供する。
【0023】
このような耐性遺伝子が除去された廃棄物は、例えば、飼料、肥料、エネルギーなどの製造に再利用できる。したがって、さらに別の態様において、本願は、本願に記載の方法によって処理された廃棄物を得ることと、廃棄物を飼料、肥料及び/又はエネルギーの製造に使用することと、を含む飼料、肥料及び/又はエネルギーの製造方法に関する。
【0024】
以下、実施例に基づいて本発明の実施形態をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
エリスロマイシン微生物残留物の固液混合物(含水率 93%、総懸濁固形分含有量 72g/L、そのうち、有機固形物の割合は80%である)を採取し、エリスロマイシン耐性遺伝子の濃度及び活性物質エリスロマイシンAの量を検出する。次いで、微生物残留物の固液混合物を照射容器に入れ、Co60のγ線(照射活性 3.6×1014Bq)を用いて、約240Gy/minの線量率で中心孔の近くを照射する。照射時間を調整することにより、吸収線量を5kGy及び10kGyに制御する。照射が終了した後、異なる吸収線量で、微生物残留物におけるエリスロマイシン耐性遺伝子の濃度及び残留の活性物質エリスロマイシンAの濃度を検出する。
【0026】
高速液体クロマトグラフィーを用いて、微生物残留物中に残留したエリスロマイシンを検出する。まず、これを有機溶媒を用いて微生物残留物から抽出し、その濃度を米国アンチェロン社の高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1200)を用いて検出する。クロマトグラフィーカラムは、XDB-C18逆相カラムであって、カラム温度が35℃である。検出器は、215nmの検出波長を有する紫外検出器であり、移動相は、アセトニトリル及び0.01mol/L リン酸水素二カリウム溶液であって、混合比が55/45である。
【0027】
蛍光定量PCRを用いて、エリスロマイシン耐性遺伝子を分析する。具体的には、GENEray DNA抽出キットを使用してDNAの抽出し、使用される電気泳動装置は、Major Science社のMini Pro 300Vの電気泳動装置である。使用されるPCR装置は、米国Applied Biosystems社のABI7500リアルタイム蛍光定量PCR装置である。PCR反応プログラムは、95℃で10minの予備変性を行い、95℃で10sの変性を行い、60℃で34s、95℃で15sのアニーリング伸長(annealing extension)を行い、サイクル回数は40回である。用いられるプライマー配列を下記表1に示す。
【0028】
【0029】
最初の微生物残留物から、エリスロマイシン耐性遺伝子ermB及びermFがそれぞれ1.8±0.3×109コピー/g及び8.8±2.9×106コピー/gの濃度で検出された。エリスロマイシンの残留量は、約283mg/kg(乾燥固形物)である。放射線の吸収線量が5kGy及び10kGyである場合、ermBの濃度は2.2±0.2×108コピー/g及び2.0±0.1×108コピー/gに低減し、除去率は87~89%である。ermFの濃度は3.6±1.6×105コピー/g及び2.2±1.9×105コピー/gに低減し、除去率は96~98%に達する。エリスロマイシンAの残留量は165mg/kg及び39mg/kgに低減し、除去率はそれぞれ42%と86%である。
【実施例2】
【0030】
エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固液混合物(含水率 92%、総懸濁固形分含有量 75g/L、そのうち、有機固形物の割合は77%である)を採取し、エリスロマイシン耐性遺伝子の濃度及び活性物質エリスロマイシンAの量を検出する。次いで、それを照射容器に入れ、Co60のγ線(照射活性 3.6×1014Bq)を用いて、約240Gy/minの線量率で中心孔の近くを照射する。照射時間を調整することにより、吸収線量を10kGy、20kGy及び30kGyに制御する。照射が終了した後、異なる吸収線量で、エリスロマイシンチオシアネート微生物残留物における残留のエリスロマイシンAの濃度及び耐性遺伝子の量を検出する。
【0031】
まず、微生物残留物における残留のエリスロマイシンAを有機溶媒で抽出し、次いで、液体クロマトグラフィーで検出する。具体的な検出方法は実施例1と同様である。
【0032】
蛍光定量PCR装置を用いて、エリスロマイシン耐性遺伝子を分析する。使用される装置、キット、プライマー配列、PCRサイクル条件は実施例1と同じである。
【0033】
最初の微生物残留物から、それぞれ2.3×105コピー/g、1.2×108コピー/g、9.0×107コピー/g及び5.1×107コピー/gの平均濃度を有するereA、ermB、mefA、mphBの4種類の耐性遺伝子が検出された。エリスロマイシンAの残留量は、約1588.9mg/kgである。吸収線量が10kGyである場合、4種類の耐性遺伝子の濃度は、1.5×105コピー/g、6.1×107コピー/g、4.6×107コピー/g、2.6×107コピー/gに低減し、除去率は34~50%である。吸収線量が20kGyである場合、4種類の耐性遺伝子の濃度は、7.1×104コピー/g、2.8×107コピー/g、1.4×107コピー/g、6.1×107コピー/gに低減し、除去率は70~73%である。吸収線量が30kGyに達すると、4種類の耐性遺伝子の濃度は、3.3×104コピー/g、1.0×107コピー/g、1.1×107コピー/g、4.7×106コピー/gに低減し、除去率は86~91%であり、エリスロマイシンAの残留量は589.3mg/kgとなり、除去率は63%である。
【実施例3】
【0034】
ペニシリン微生物残留物の固液混合物(含水率 88%、総懸濁固形分含有量 116g/L、そのうち、有機固形物の割合は87%である)を取って、ペニシリン耐性遺伝子の濃度及びペニシリン量を検出する。次いで、微生物残留物の固液混合物を照射容器に入れ、Co60のγ線(照射活性 3.6×1014Bq)を用いて、約240Gy/minの線量率で中心孔の近くを照射する。照射時間を調整することにより、吸収線量を5kGy及び10kGyに制御する。照射が終了した後、異なる吸収線量で、ペニシリン残留物中に残留したペニシリンの濃度を検出し、耐性遺伝子の定性検出を行う。
【0035】
まず、微生物残留物中に残留したペニシリンを有機溶媒で抽出し、次いで、液体クロマトグラフィーで検出する。そのうち、使用される液体クロマトグラフィーは、米国アンチェロン社の高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1200)であり、クロマトグラフィーカラムはXDB-C18逆相カラムであり、カラム温度は25℃である。検出器は、220nmの検出波長を有する紫外検出器であり、移動相は、アセトニトリル及び0.1% ギ酸水溶液であって、混合比率が1:1である。
【0036】
通常のPCRを用いて、ペニシリン耐性遺伝子を分析する。PCR装置は北京東勝創新生物科技有限公司の普通PCR装置であり、PCR反応条件は50℃で2min、95℃で15min、94℃で15s、58℃で1minであり、45サイクル行われる。ペニシリン耐性遺伝子のプライマー配列を下記表2に示す。
【0037】
【0038】
最初の微生物残留物からblACTX-Mペニシリン耐性遺伝子が検出され、ペニシリンの残留量は約262mg/kgである。吸収線量が10kGyに達する場合、blaCTX-M検出は陰性で、ペニシリンの残留量は53mg/kgまで低下し、除去率は80%である。
【実施例4】
【0039】
乾燥後のエリスロマイシンチオシアネート微生物残留物の固形物(10mL)を採取し、エリスロマイシン耐性遺伝子の濃度を検出する。次いで、それを照射容器に入れ、Co60のγ線(照射活性 3.6×1014Bq)を用いて、約240Gy/minの線量率で中心孔の近くを照射する。照射時間を調整することにより、吸収線量を30kGy、40kGy及び50kGyに制御する。照射が終了した後、異なる吸収線量でのエリスロマイシンチオシアネート微生物残留物中のエリスロマイシン耐性遺伝子を検出する。実施例3に記載の方法及び実施例1に記載のプライマーを用いて、通常のPCRを用いてエリスロマイシン耐性遺伝子を分析する。
【0040】
最初の微生物残留物から検出される4種類の耐性遺伝子ereA、ermA、mefA、mphBは、吸収線量が30kGyである場合、ereA、ermAが陰性であり、吸収線量が50kGyである場合、ereA、ermA、mefA、mphBが陰性である。
【0041】
最後に、上記の実施例は、本発明を明確に説明するための例示に過ぎず、実施形態を限定するものではないことを説明する。当業者は、上述の説明に基づいて、他の異なる形態の変形又は変更を行うことができる。全ての実施形態を網羅することは、必要でなく、不可能でもある。したがって、本明細書から明らかになる修正は変更は、本発明の保護範囲内にある。
【配列表】