(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】仮撚加工機
(51)【国際特許分類】
D02G 1/06 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
D02G1/06
(21)【出願番号】P 2018048958
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】近田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】出水 良光
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-069763(JP,A)
【文献】特開昭59-150130(JP,A)
【文献】特開平11-241237(JP,A)
【文献】実開昭50-001611(JP,U)
【文献】米国特許第03662531(US,A)
【文献】米国特許第03392519(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102534901(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の回転軸のそれぞれに取り付けられたローラの周面に接触した状態で保持される円筒状のピンを有し、前記2本の回転軸のうち少なくとも何れか一方をモータによって回転駆動することで、前記ピンを回転させて前記ピンの内部を走行している糸に撚りを付与するピン式加撚装置、を備
える仮撚加工機であって、
前記ピンの回転数について、少なくとも、糸生産時の回転数である高速回転数と、前記高速回転数より低速の低速回転数と、に関する設定値を設定するための設定部と、
前記ピンの回転数を前記高速回転数及び前記低速回転数に切り換えるための操作部と、
前記設定部を介して入力された前記設定値を参照し、前記モータの制御を行う制御部と、
を備え
、
前記操作部を操作するごとに、前記ピンの回転数が、前記設定部に設定されている設定値に応じた回転数のうち低い回転数から高い回転数へと順番に切り換わっていくことを特徴とする仮撚加工機。
【請求項2】
前記設定部を介して前記ピンの加速度を設定可能であることを特徴とする請求項1に記載の仮撚加工機。
【請求項3】
前記ピンの加速度が80,000rpm/s以下に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の仮撚加工機。
【請求項4】
前記低速回転数は、前記高速回転数の1/2以下の回転数に設定されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【請求項5】
前記モータによって回転駆動される前記回転軸の回転方向が、前記2本の回転軸にそれぞれ取り付けられた前記ローラの間に前記ピンを押し込む方向とされていることを特徴とする請求項1~
4の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【請求項6】
前記ピン式加撚装置の糸走行方向下流側に配置された、糸の張力を測定する張力センサ
を備え、
前記制御部は、前記張力センサで検出された張力に基づいて所定の制御を実行す
ることを特徴とする請求項1~
5の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【請求項7】
前記低速回転数に関する設定値として、糸の張力に関して所定の第1張力が設定されており、
前記ピンが停止状態から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第1張力まで低下すると、前記制御部は前記モータの加速を停止することを特徴とする請求項
6に記載の仮撚加工機。
【請求項8】
オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部をさらに備え、
前記ピンが停止状態から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第1張力まで低下すると、前記制御部は前記報知部を前記報知状態に切り換えることを特徴とする請求項
7に記載の仮撚加工機。
【請求項9】
オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部をさらに備え、
糸の張力に関して所定の第2張力が設定されており、
前記ピンが前記低速回転数から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第2張力まで低下すると、前記制御部は前記報知部を前記報知状態に切り換えることを特徴とする請求項
6~8の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【請求項10】
前記ピンが前記低速回転数から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第2張力まで低下すると、前記制御部は前記モータの加速を停止することを特徴とする請求項
9に記載の仮撚加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピン式加撚装置を備えた仮撚加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、回転するピン(特許文献1ではスピナー)の内部を走行する糸に撚りを付与するピン式加撚装置(特許文献1ではピンツイスター式仮撚装置)が開示されている。このピン式加撚装置では、2本の回転軸にそれぞれローラが取り付けられており、円筒状のピンがそれぞれのローラの周面に接触した状態で、磁石によって保持されている。そして、少なくとも一方の回転軸がモータによって回転駆動されると、ローラに接触しているピンが軸回りに回転し、ピンの内部を走行している糸に撚りが付与される。
【0003】
このような仮撚加工機に糸掛けする際には、まず、ピン式加撚装置への糸掛けが行われる。続けて、ピン式加撚装置を作動させた状態で、フィードローラ等への糸掛けが行われる。このとき、ピンの回転数を一気に生産時の回転数まで上昇させると糸切れが発生しやすいため、ピンの回転数を生産時よりも低速にした状態で糸掛けを行うのが好ましい。例えば特許文献2では、ピンを回転駆動するモータの回転数を可変に構成し、最初はモータの回転数を低速にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-69763号公報
【文献】特開昭50-25839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、ピン式加撚装置の駆動モータとして、回転数が複数段階に切換可能なモータ(第1図~第5図)と、回転数を無段階(連続的)に変更可能なモータ(第6図)と、が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載されている、回転数が複数段階に切換可能なモータは、複数の設定値が固定されており、設定値が自由に変更できない構成となっている。このため、糸の種類や生産条件の変更に対応できず、汎用性の悪いものとなっていた。また、回転数を無段階に変更できるモータを採用する場合は、回転数の調整がオペレータに任されることになる。このため、オペレータが未熟な場合は、回転数の微妙な調整を適切に行うことができず、糸掛けの失敗が多発するという問題があった。
【0006】
以上の課題に鑑みて、本発明は、ピン式加撚装置を備える仮撚加工機において、汎用性を向上させるとともに、オペレータの熟練度にかかわらず糸掛けが容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、2本の回転軸のそれぞれに取り付けられたローラの周面に接触した状態で保持される円筒状のピンを有し、前記2本の回転軸のうち少なくとも何れか一方をモータによって回転駆動することで、前記ピンを回転させて前記ピンの内部を走行している糸に撚りを付与するピン式加撚装置、を備える仮撚加工機であって、前記ピンの回転数について、少なくとも、糸生産時の回転数である高速回転数と、前記高速回転数より低速の低速回転数と、に関する設定値を設定するための設定部と、前記ピンの回転数を前記高速回転数及び前記低速回転数に切り換えるための操作部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、高速回転数及び低速回転数に関する設定値を設定するための設定部が設けられているので、設定部を介してピン(モータ)の回転数を自由に変更することができる。このため、糸の種類や生産条件の変更にも対応することができる。また、操作部によってピン(モータ)の回転数を予め設定された高速回転数及び低速回転数に切り換えることができるので、オペレータによる微妙な回転数の調整が不要となる。したがって、本発明によれば、仮撚加工機の汎用性を向上させることができるとともに、オペレータの熟練度にかかわらず糸掛けが容易に行えるようになる。
【0009】
本発明において、前記設定部を介して前記ピンの加速度を設定可能であるとよい。
【0010】
ピン式加撚装置のピンの加速度が大きすぎると、加速時に糸切れが生じやすくなるが、限界の加速度は糸の種類や生産条件によって異なる。そこで、ピン(モータ)の加速度も自由に設定できるようにすることで、糸の種類や生産条件に関係なく、ピンの加速時に糸切れが発生することを抑えることができる。
【0011】
本発明において、前記ピンの加速度が80,000rpm/s以下に設定されているとよい。
【0012】
糸の種類にもよるが、概ねピンの加速度が80,000rpm/s以下だと、ピンの加速時に糸切れが発生することを良好に抑えることができる。
【0013】
本発明において、前記低速回転数は、前記高速回転数の1/2以下の回転数に設定されているとよい。
【0014】
低速回転数を高速回転数の1/2以下に抑えることで、低速回転時の糸の撚り数を少なくして糸揺れを抑えることができるため、糸掛けを良好に行うことができる。
【0015】
本発明において、前記操作部を操作するごとに、前記ピンの回転数が、前記設定部に設定されている設定値に応じた回転数のうち低い回転数から高い回転数へと順番に切り換わっていくとよい。
【0016】
このような構成によれば、糸掛け作業の進行に応じて操作部を操作すれば、例えば、ピンを停止状態→低速回転数→高速回転数と順番に切り換えることができる。したがって、誤ってピンを停止状態から一気に高速回転数に加速してしまう等のミスをなくすことができる。
【0017】
本発明において、前記モータによって回転駆動される前記回転軸の回転方向が、前記2本の回転軸にそれぞれ取り付けられた前記ローラの間に前記ピンを押し込む方向とされているとよい。
【0018】
このような構成によれば、モータによって回転駆動されている回転軸に取り付けられたローラからピンが離れてしまうことを防止でき、モータの動力がローラを介して確実にピンに伝達される。したがって、ピンの回転数を精度よく制御することができる。
【0019】
本発明において、前記ピン式加撚装置の糸走行方向下流側に配置された、糸の張力を測定する張力センサと、前記張力センサで検出された張力に基づいて所定の制御を実行する制御部と、を備えるとよい。
【0020】
仮撚加工機への糸掛け作業中には、糸の張力が急激に変化し、糸切れが発生することがある。このため、糸の張力に基づいて所定の制御を適切に実行することで、糸切れを抑えながら糸掛け作業を良好に行うことが可能になる。
【0021】
本発明において、前記低速回転数に関する設定値として、糸の張力に関して所定の第1張力が設定されており、前記ピンが停止状態から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第1張力まで低下すると、前記制御部は前記モータの加速を停止するとよい。
【0022】
ピン式加撚装置のピンの加速に伴って糸の張力は下がるので、低速回転数を回転数そのものの代わりに糸の張力で設定することも可能である。この場合、糸の張力が第1張力まで低下したときの回転数が低速回転数となる。第1張力を十分に低い値に設定しておけば、低速回転時にフィードローラに糸掛けを行って張力が急激に増大したとしても、その際に糸切れが生じることを抑えることができる。
【0023】
本発明において、オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部をさらに備え、前記ピンが停止状態から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第1張力まで低下すると、前記制御部は前記報知部を前記報知状態に切り換えるとよい。
【0024】
このように、糸の張力が第1張力まで低下したことを報知部でオペレータに報知することにより、オペレータは迅速に糸掛け作業を進めることができる。
【0025】
本発明において、オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部をさらに備え、糸の張力に関して所定の第2張力が設定されており、前記ピンが前記低速回転数から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第2張力まで低下すると、前記制御部は前記報知部を前記報知状態に切り換えるとよい。
【0026】
ピン式加撚装置のピンの回転数を低速回転数から加速し始めた後に、糸掛け時の張力増大に伴う糸切れを避けるためには、モータの回転数が十分に高くなり、糸の張力が十分に下がってから糸掛けを行う必要がある。従来、モータの回転数が十分に高くなったことを、オペレータはモータ音で判断していたが、それだと個人差が大きい。そこで、上述のように、張力センサで測定された張力が所定の第2張力まで低下したことをオペレータに報知する構成であれば、第2張力を適切に設定しさえすれば、オペレータが適切なタイミングでフィードローラ等に糸掛けを行うことができる。
【0027】
本発明において、前記ピンが前記低速回転数から加速しているときに、前記張力センサで測定された張力が前記第2張力まで低下すると、前記制御部は前記モータの加速を停止するとよい。
【0028】
このように、モータの回転数を、糸の張力が第2張力まで下がったときの回転数で維持することにより、糸の撚り数が一定で安定している状態で糸掛けを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係る仮撚加工機の構成を示す模式図である。
【
図2】仮撚加工機の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】ピン式加撚装置を
図3のIV方向から見た図である。
【
図5】糸掛け作業の流れを示すフローチャートである。
【
図6】ピン式加撚装置のピンの回転数の推移を示すグラフである。
【
図9】ピン式加撚装置のピンの回転数の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0031】
(仮撚加工機の全体構成)
図1は、本実施形態に係る仮撚加工機1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、仮撚加工機1は、複数の糸Yを供給する給糸部2と、給糸部2から供給された複数の糸Yに対して仮撚加工を行う加工部3と、加工部3で仮撚加工された複数の糸Yを巻き取って複数のパッケージPを形成する巻取部4と、を有して構成される。
【0032】
給糸部2は、複数の給糸パッケージQを保持するクリールスタンド10を有しており、加工部3に複数の糸Yを供給する。加工部3は、糸走行方向の上流側から順に、第1フィードローラ11、撚止ガイド12、第1加熱装置13、冷却装置14、ピン式加撚装置15、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が、糸道に沿って配置された構成となっている。巻取部4は、加工部3で仮撚加工された複数の糸Yを、複数の巻取装置21で巻き取って複数のパッケージPを形成する。
【0033】
仮撚加工機1は、
図1の左右方向(以下、機台幅方向と言う)に間隔を空けて対向配置された主機台5及び巻取台6を有する。主機台5及び巻取台6は、
図1の紙面垂直方向(以下、機台長手方向と言う)に延設されている。主機台5の上部と巻取台6の上部とは、支持フレーム7によって連結されている。加工部3を構成する各装置は、主に主機台5や支持フレーム7に取り付けられている。主機台5と巻取台6と支持フレーム7とによって、作業空間8が形成されている。換言すると、作業空間8を取り囲むように主機台5と巻取台6と支持フレーム7とが配置されており、糸Yは主に作業空間8の周囲を走行するように構成されている。オペレータは、作業空間8で糸掛け等の各種作業を行う。
【0034】
仮撚加工機1は、互いに対向配置された1組の主機台5及び巻取台6を含むスパンと呼ばれる単位ユニットを有する。1つのスパンには、加工部3を構成する各装置を通るように糸道が形成されている加工ユニット(錘とも呼ばれる)が、機台長手方向に複数並んで配置されている。これによって、1つのスパンでは、機台長手方向に並んだ状態で走行する複数の糸Yに対して、同時に仮撚加工を行うことができる。仮撚加工機1は、主機台5を中心として機台幅方向においてスパンが左右対称に配置される(主機台5は左右のスパンで共通のものとなっている)とともに、機台長手方向にスパンが複数配置された構成となっている。
図1では、左側のスパンについては図示を省略している。
【0035】
(加工部)
第1フィードローラ11は、給糸部2から供給された糸Yを第1加熱装置13に向けて送るローラである。第1フィードローラ11は、巻取台6の上部に配置されている。第1フィードローラ11は、駆動ローラ及び従動ローラを有しており、駆動ローラと従動ローラとの間に糸Yを挟んだ状態で、駆動ローラが回転駆動されることにより、糸Yを糸走行方向下流側に送る。1つのスパンにおいて、各駆動ローラは共通の駆動軸に連結されている。各従動ローラは、例えばオペレータによるレバー操作によって、対応する駆動ローラに接触する状態(糸Yを挟んで糸Yを送る状態)と離間した状態(糸掛けが可能な状態)との間で切り換えることができる。第2フィードローラ16、第3フィードローラ18及び第4フィードローラ20も、同様の構成となっている。
【0036】
撚止ガイド12は、ピン式加撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播されないようにするためのものである。撚止ガイド12は、糸走行方向において、第1フィードローラ11と第1加熱装置13との間に配置されている。撚止ガイド12は、上下方向に延びるガイドレール22に沿って、ガイドレール22の下端部の糸掛位置(
図1の破線)と、ガイドレール22の上端部の稼働位置(
図1の実線)との間で移動可能に構成されている。具体的には、撚止ガイド12が不図示のシフターと呼ばれる部材に取り付けられており、不図示のシリンダによってシフターをガイドレール22に沿って移動させることによって、撚止ガイド12が移動可能な構成となっている。詳細については、例えば特開2016-27218号公報を参照されたい。
【0037】
第1加熱装置13は、ピン式加撚装置15によって撚りが付与された糸Yを加熱するための装置である。第1加熱装置13は、支持フレーム7の上端部に取り付けられている。
【0038】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するための装置である。冷却装置14は、糸走行方向において第1加熱装置13とピン式加撚装置15との間に配置されている。
【0039】
ピン式加撚装置15は、糸Yに撚りを付与するための装置である。ピン式加撚装置15は、主機台5の上部に配置されている。ピン式加撚装置15の詳細については、後で説明する。
【0040】
第2フィードローラ16は、ピン式加撚装置15で撚りが付与された糸Yを、交絡装置17に向けて送るローラである。第2フィードローラ16は、主機台5においてピン式加撚装置15の下方に配置されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。このため、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸される。
【0041】
交絡装置17は、糸Yに対して空気を噴射することによって交絡を付与する装置である。交絡装置17は、主機台5において第2フィードローラ16の下方に配置されている。
【0042】
第3フィードローラ18は、交絡装置17によって交絡が付与された糸Yを、第2加熱装置19に向けて送るローラである。第3フィードローラ18は、主機台5において交絡装置17の下方に配置されている。第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。
【0043】
第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するための装置である。第2加熱装置19は、主機台5において第3フィードローラ18の下方に配置されている。
【0044】
第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって熱処理された糸Yを、巻取装置21に向けて送るローラである。第4フィードローラ20は、巻取台6の下部に配置されている。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0045】
このように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yに、ピン式加撚装置15によって撚りが付与される。ピン式加撚装置15によって形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播されるが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。こうして延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱された後、冷却装置14で冷却されて熱固定される。ピン式加撚装置15を通過した糸Yは、第2フィードローラ16に至るまでに撚りが解かれる。しかし、糸Yの撚りは上述のように熱固定されているため、各フィラメントが波状の仮撚状態を維持する。その後、交絡装置17で交絡が付与され、第2加熱装置19で熱固定された糸Yは、巻取装置21によって巻き取られる。
【0046】
本実施形態の仮撚加工機1には、さらに、糸道上にカッター23、張力センサ24、サクション25、糸切れセンサ26が設けられている。カッター23は、第1フィードローラ11の糸走行方向上流側に配置されており、糸Yを切断する。張力センサ24は、ピン式加撚装置15の糸走行方向下流側に配置されており、撚りが付与された糸Yの張力を測定する。サクション25は、主機台5の第3フィードローラ18よりも下方に配置されており、糸掛け作業の際に糸Yを一時的に吸引保持するのに使われる。糸切れセンサ26は、第4フィードローラ20の糸走行方向下流側に配置されており、糸Yの有無を検出することによって糸切れを検出する。なお、これら各機器の配置は、ここで説明した位置に限定されるものではない。
【0047】
また、主機台5の上部には、報知部27が設けられている。本実施形態の報知部27は、ランプによって構成されており、所定の場合にランプを点灯又は点滅させた状態(報知状態)に切り換えることによって、オペレータに所定の情報を報知することができる。ただし、報知部27の具体的な構成はこれに限定されず、例えばスピーカーによる音声情報やスクリーン上に表示される文字情報等で、所定の情報をオペレータに報知するものでもよい。
【0048】
(電気的構成)
図2は、仮撚加工機1の電気的構成を示すブロック図である。
図2に示すように、仮撚加工機1は、複数の加工ユニットの各装置の動作を制御する制御部30を有する。
図2では、紙面の都合上、加工ユニットAについてのみ各装置を図示しており、加工ユニットB以降については詳細な図示を省略している。
【0049】
張力センサ24及び糸切れセンサ26からの出力信号は、制御部30に送信される。制御部30は、張力センサ24及び糸切れセンサ26からの出力信号に応じて、カッター23、報知部27、及び、後述のピン式加撚装置15のモータ54の動作を制御する。ちなみに、モータ54は制御部30によって動作が制御されるだけでなく、オペレータが操作部32を操作することによって、モータ54の動作を切り換えることも可能に構成されている。また、制御部30には、制御部30にオペレータが各種の設定値を入力するための設定部31が接続されている。設定部31は、例えばタッチパネルで構成することができるが、キーボード等の他の構成を採用してもよい。
【0050】
(ピン式加撚装置)
図3は、ピン式加撚装置15の構成を示す模式図であり、
図4は、ピン式加撚装置15を
図3のIV方向から見た図である。ピン式加撚装置15は、円筒状のピン41が軸回りに回転することによって、ピン41の内部を走行する糸Yに撚りを付与するものである。なお、
図3において、糸Yは上から下に向かって走行しているものとする。また、
図4では、ガイド部材52の図示は省略している。
【0051】
ピン式加撚装置15は、不図示の軸受を介して支持部材42に回転可能に支持された2本の回転軸43、44を有する。回転軸43には、軸方向に離間した2つのローラ45、46が取り付けられている。回転軸44には、軸方向に離間した2つのローラ47、48が取り付けられている。ローラ45とローラ47とは、軸方向において同じ位置に配置されており、
図4に示すように、互いに接触しないようにわずかに離間している。ローラ46とローラ48との位置関係も、ローラ45とローラ47との位置関係と同様である。回転軸43は、モータ54から伝達された動力によって軸回りに回転駆動される。
【0052】
ピン41は軸方向に延びる円筒状の部材であり、ピン41の内部を糸Yが走行する。ピン41の軸方向の中間部には、後述の磁石49、50に対向する磁性部41aが形成されている。また、ピン41の軸方向の一端部(糸走行方向の下流側端部)には、直径方向に延びる巻掛部41bが内部に固定されている。巻掛部41bには糸Yが1周巻き掛けられており、ピン41が軸回りに回転することによって、糸Yに撚りが付与される。
【0053】
軸方向においてローラ45とローラ46との間には、磁石49が配置されている。同様に、軸方向においてローラ47とローラ48との間には、磁石50が配置されている。磁石49、50は、ブラケット51(
図4参照)を介して、支持部材42に固定されている。ピン41の磁性部41aが磁石49、50に対向するように、ピン41をローラ45(46)とローラ47(48)との間に差し込むと、
図4に示すように、ピン41が磁石49、50によって保持される。詳細には、ピン41が、ローラ45(46)とローラ47(48)とに挟まれ、且つ、ローラ45(46)の周面及びローラ47(48)の周面に接触した状態で、磁石49、50によって保持される。ピン41は他の部材に対して機械的には固定はされておらず、磁石49、50による磁力及び各ローラ45~48の周面との摩擦力によって保持されているにすぎない。
【0054】
ピン41の糸走行方向上流側には、リング状のガイド部材52が配置されている。ガイド部材52は、不図示のブラケットを介して支持部材42に固定されている。また、ピン41の糸走行方向下流側には、パイプ状のガイド部材53が配置されている。ガイド部材53は、支持部材42に直接的に固定されている。ただし、ガイド部材52、53の形状や固定方法は、ここで説明した形態に限定されず、適宜変更が可能である。
【0055】
図4に示すように、回転軸43を回転駆動することによってローラ45を回転させると、ローラ45の周面に接触しているピン41が、ローラ45と反対方向に従動回転する。さらに、ピン41の周面に接触しているローラ47が、ローラ45と同じ方向に従動回転する。ピン41が軸回りに回転駆動されることにより、糸Yに撚りが付与される。このとき、
図4において矢印で示すように、モータ54から伝達された動力によって回転駆動される回転軸43の回転方向が、ピン41を2本の回転軸43、44にそれぞれ取り付けられたローラ45(46)とローラ47(48)との間に押し込む方向とされていることが好ましい。こうすることによって、ローラ45(46)からピン41が離れてしまうことを防止でき、モータ54の動力をローラ45(46)を介して確実にピン41に伝達することができる。
【0056】
ところで、糸Yに付与される撚りには、撚りの向きが互いに反対のS撚りとZ撚りとがある。撚りの向きを切り換える場合には、モータ54の動力の伝達先を回転軸43から回転軸44に切り換えればよい。例えば、モータ54からの動力がベルトによって伝達されている場合には、回転軸43に掛けられているベルトを回転軸44に掛け換えればよい。なお、ローラ45(46)からピン41が離れやすくなるおそれがあるが、モータ54を正逆回転可能なモータとし、回転軸43、44の回転方向を切り換えることによって、ピン41の回転方向を変え、糸Yの撚りの向きを切り換えてもよい。
【0057】
(回転数の設定)
後で詳細に説明するが、仮撚加工機1への糸掛けを行う際には、まず、ピン式加撚装置15への糸掛けを行い、ピン41を回転させて糸Yに撚りを付与した状態で、フィードローラ等の他の部位への糸掛けを行う。この際、ピン式加撚装置15への糸掛け後、ピン41(モータ54)の回転数を一気に生産時の高速回転数まで上昇させると、糸切れが発生しやすい。このため、ピン41(モータ54)の回転数を高速回転数まで上げる前に、一旦、高速回転数よりも低速の低速回転数に維持するようにしている。
【0058】
ピン41に関する各設定値(ピン41の低速回転数、高速回転数、及び、加速度に関する設定値)は、設定部31(
図2参照)を介してオペレータが自由に設定できる。本実施形態では、一例として、ピン41の低速回転数を160,000rpm、高速回転数を800,000rpm、加速度を10,000~15,000rpm/sに設定しているものとするが、これらの設定値は設定部31を介して適宜変更可能である。設定部31で設定された各設定値は、制御部30に入力されるとともに、モータ54のコントローラにも入力される。制御部30は、設定部31を介して入力された各設定値を参照し、モータ54の制御を行う。
【0059】
主機台5のうちピン式加撚装置15の近傍には、操作部32(
図1及び
図2参照)が設けられている。機台長手方向に並んでいる複数のピン式加撚装置15に対応して、複数の操作部32が機台長手方向に並んで配置されている。本実施形態の操作部32は、単一のボタンによって構成されている。ただし、操作部32の具体的な構成はボタンに限定されず、例えばレバーやダイヤル等で構成されてもよい。ピン41(モータ54)が停止状態のときに操作部32を1回操作すれば(ボタンを1回押せば)、ピン41(モータ54)は低速回転数まで加速する。操作部32をもう1回操作すれば(ボタンをもう1回押せば)、ピン41(モータ54)は高速回転数まで加速する。さらに、操作部32をもう1回操作すれば(ボタンをもう1回押せば)、ピン41(モータ54)は停止状態に戻る。
【0060】
(糸掛け作業)
仮撚加工機1への糸掛け作業について説明する。
図5は、糸掛け作業の流れを示すフローチャートであり、
図6は、ピン式加撚装置15のピン41の回転数の推移を示すグラフであり、
図7及び
図8は、糸掛け作業の手順を示した模式図である。
図6では、
図5に示す各ステップを実行するタイミングの一例を示すとともに、糸Yの張力の推移の一部を破線で図示している。
【0061】
オペレータは、まず、給糸パッケージQから引き出された糸Yを、ピン式加撚装置15に糸掛けし、サクション25に吸引させる(ステップS1、
図7のa図参照)。このとき、糸Yは、カッター23及び第1フィードローラ11の下方を通り、ピン式加撚装置15を通った後、張力センサ24を経由してサクション25に至る。ピン式加撚装置15への糸掛け作業では、オペレータは、糸Yをガイド部材52、ピン41、ガイド部材53(
図3参照)に順番に通した後、ピン41が磁石49、50とローラ45~48とによって保持されるように、ピン41を位置決めする。
【0062】
次に、オペレータは、操作部32を操作して、ピン41を停止状態から低速回転数に加速する(ステップS2)。ピン41が低速回転数に加速している間、又は、低速回転数で回転している間に、オペレータは、第2フィードローラ16に糸掛けを行う(ステップS3、
図7のb図参照)。第2フィードローラ16の駆動ローラは予め回転駆動されており、駆動ローラと従動ローラとで糸Yを挟み込むように糸掛けを行うことで、糸Yは糸走行方向下流側に送られる(後で説明する第1フィードローラ11への糸掛けも同様)。つまり、ステップS3の完了後には、走行している糸Yに対して、低速回転しているピン41によって撚りが付与されている状態となる。
【0063】
次に、オペレータは、糸掛位置に位置する撚止ガイド12に糸Yを掛け、不図示のシフターをガイドレール22に沿って上昇させることによって、撚止ガイド12を稼働位置に移動させる(ステップS4、
図8のa図参照)。このとき、糸Yは、駆動ローラと従動ローラとが離間している状態の第1フィードローラ11に掛けられるとともに、カッター23に通される。また、撚止ガイド12が稼動位置に上昇する過程で、糸Yは第1加熱装置13及び冷却装置14を通る糸道上に移動する。なお、ステップS2~S4をこの順番で実行することは必須ではなく、S2~S4の順番を入れ替えたり、複数のステップを同時に行ったりしてもよい。
【0064】
ステップS2~S4が完了した状態で、糸切れ等が発生せず糸Yの走行が安定していれば、オペレータは、操作部32を操作して、ピン41を低速回転数から高速回転数に加速する(ステップS5)。続けて、オペレータは、第1フィードローラ11への糸掛けを行う(ステップS6、
図8のb図参照)。具体的には、第1フィードローラ11の駆動ローラと従動ローラとで糸Yを挟んで把持し、糸Yが送られる状態にする。
【0065】
ここで、第1フィードローラ11への糸掛け時には、糸Yの張力が急激に高くなるため(
図6の張力の推移を参照)、糸掛け前に張力が高いと糸掛け時に糸切れが生じるおそれがある。そのため、オペレータは、ピン41の回転数が十分に上昇し、糸Yの撚り数が増え、糸Yの張力が低下したと考えられるタイミングで、第1フィードローラ11への糸掛けを行う。具体的には、オペレータは、例えばモータ音からピン41(モータ54)の回転数が十分に上昇したか否かを判断することができる。なお、第1フィードローラ11に糸掛けを行うタイミングは、ピン41が高速回転数に向かって加速しているときでも、ピン41が高速回転数に達してからでも構わない。
【0066】
ステップS6までを終えて、糸Yの走行等に特に問題がなければ、最後に第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20、及び、巻取装置21への糸掛けを行う(ステップS7)。これによって、加工部3において仮撚加工が施された糸Yが、巻取部4によって巻き取られ、パッケージPが生産されるようになる。
【0067】
(効果)
本実施形態の仮撚加工機1は、ピン式加撚装置15のピン41の回転数について、少なくとも、糸生産時の回転数である高速回転数と、高速回転数より低速の低速回転数と、に関する設定値を設定するための設定部31と、ピン41の回転数を高速回転数及び低速回転数に切り換えるための操作部32と、を備える。かかる構成によれば、高速回転数及び低速回転数に関する設定値を設定するための設定部31が設けられているので、設定部31を介してピン41(モータ54)の回転数を自由に変更することができる。このため、糸Yの種類や生産条件の変更にも対応することができる。また、操作部32によってピン41(モータ54)の回転数を予め設定された高速回転数及び低速回転数に切り換えることができるので、オペレータによる微妙な回転数の調整が不要となる。したがって、本実施形態の仮撚加工機1によれば、仮撚加工機1の汎用性を向上させることができるとともに、オペレータの熟練度にかかわらず糸掛けが容易に行えるようになる。
【0068】
本実施形態では、設定部31を介してピン41の加速度を設定可能に構成している。ピン式加撚装置15のピン41の加速度が大きすぎると、加速時に糸切れが生じやすくなるが、限界の加速度は糸Yの種類や生産条件によって異なる。そこで、ピン41(モータ54)の加速度も自由に設定できるようにすることで、糸Yの種類や生産条件に関係なく、ピン41の加速時に糸切れが発生することを抑えることができる。
【0069】
本実施形態では、ピン41の加速度が80,000rpm/s以下(具体的には10,000~15,000rpm/s程度)に設定されている。糸Yの種類にもよるが、概ねピン41の加速度が80,000rpm/s以下だと、ピン41の加速時に糸切れが発生することを良好に抑えることができる。
【0070】
本実施形態では、モータ54の低速回転数は、高速回転数の1/2以下の回転数に設定されている。低速回転数を高速回転数の1/2以下に抑えることで、低速回転時の糸Yの撚り数を少なくして糸揺れを抑えることができるため、糸掛けを良好に行うことができる。
【0071】
本実施形態では、操作部32を操作するごとに、ピン41の回転数が、設定部31に設定されている設定値に応じた回転数のうち低い回転数から高い回転数へと順番に切り換わっていく。このような構成によれば、糸掛け作業の進行に応じて操作部32を操作すれば、例えば、ピン41を停止状態→低速回転数→高速回転数と順番に切り換えることができる。したがって、誤ってピン41を停止状態から一気に高速回転数に加速してしまう等のミスをなくすことができる。
【0072】
本実施形態では、モータ54によって回転駆動される回転軸43の回転方向が、2本の回転軸43、44にそれぞれ取り付けられたローラ45(46)とローラ47(48)との間にピン41を押し込む方向とされている。このような構成によれば、モータ54によって回転駆動されている回転軸43に取り付けられたローラ45、46からピン41が離れてしまうことを防止でき、モータ54の動力がローラ45、46を介して確実にピン41に伝達される。したがって、ピン41の回転数を精度よく制御することができる。
【0073】
本実施形態では、ピン式加撚装置15の糸走行方向下流側に配置された、糸Yの張力を測定する張力センサ24と、張力センサ24で検出された張力に基づいて所定の制御を実行する制御部30と、が設けられている。仮撚加工機1への糸掛け作業中には、糸Yの張力が急激に変化し、糸切れが発生することがある。このため、糸Yの張力に基づいて所定の制御を適切に実行することで、糸切れを抑えながら糸掛け作業を良好に行うことができる。具体例については、以下の変形例で説明する。
【0074】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0075】
(1)上記実施形態では、ピン式加撚装置15のピン41の低速回転数及び高速回転数に関する設定値として、回転数そのものを設定するものとした。しかしながら、低速回転数及び高速回転数を、回転数以外の設定値によって間接的に設定することも可能である。例えば、低速回転数に関する設定値として、糸Yの張力に関して所定の第1張力を設定してもよい。この変形例について、
図9を参照しつつ詳細に説明する。
図9は、ピン式加撚装置15のピン41の回転数の推移を示すグラフであり、停止状態から低速回転数までの推移を示すとともに、糸Yの張力の推移の一部を破線で図示している。
【0076】
ピン41が停止状態のときにオペレータが操作部32を操作すると、
図9に示すように、ピン41の回転数が上昇するのに伴って、糸Yの張力が低下する。上述のように低速回転数に関する設定値として第1張力を設定している場合は、ピン41が停止状態から加速しているときに、張力センサ24で測定された糸Yの張力が第1張力まで低下すると、制御部30はピン41(モータ54)の加速を停止し、ピン41の回転数を一定に維持する。このときのピン41の回転数が、本発明の低速回転数となる。この場合、第1張力を十分に低い値に設定しておけば、低速回転時に第2フィードローラ16に糸掛けを行って張力が急激に増大したとしても(
図9参照)、その際に糸切れが生じることを抑えることができる。
【0077】
低速回転数に関する設定値として第1張力が設定されている場合、ピン41が停止状態から加速しているときに、張力センサ24で測定された糸Yの張力が第1張力まで低下すると、制御部30は報知部27を報知状態に切り換えると好適である。このように、糸Yの張力が第1張力まで低下したことを報知部27でオペレータに報知することにより、オペレータは迅速に糸掛け作業を進めることができる。
【0078】
(2)上記実施形態では、ステップS6において第1フィードローラ11に糸掛けを行うタイミングを、オペレータがモータ音から判断するものとしたが、それだと個人差が大きい。そこで、糸Yの張力に関して所定の第2張力を設定しておき、ピン41が低速回転数から加速しているときに、張力センサ24で測定された張力が第2張力まで低下すると、制御部30は報知部27を報知状態に切り換えるようにしてもよい。こうすれば、第2張力を適切に設定しさえすれば、オペレータが適切なタイミングで第1フィードローラ11に糸掛けを行うことができる。
【0079】
上述のように、第1フィードローラ11に糸掛けを行うのに適した糸Yの張力として第2張力が設定されている場合、ピン41が低速回転数から加速しているときに、張力センサ24で測定された張力が第2張力まで低下すると、制御部30はピン41(モータ54)の加速を停止するようにしてもよい。このように、ピン41の回転数を、糸Yの張力が第2張力まで下がったときの回転数で維持することにより、糸Yの撚り数が一定で安定している状態で第1フィードローラ11に糸掛けを行うことができる。
【0080】
(3)上記実施形態では、報知部27が操作部32とは別に設けられているものとした。しかしながら、操作部32が報知部27の機能も兼ね備える構成としてもよい。例えば、上記実施形態のように、操作部32がボタンで構成されている場合には、このボタンを点灯又は点滅可能に構成することにより、報知部としての機能を果たすようにしてもよい。
【0081】
(4)制御部30は、ピン41が高速回転数に至った際に、報知部27を報知状態に切り換えるようにしてもよい。具体的には、モータ54の回転数がピン41の高速回転数に対応する回転数に到達すると、報知部27を報知状態に切り換えるとよい。こうすることで、その後の第3フィードローラ18、第4フィードローラ20、及び、巻取装置21への糸掛けの成功率が向上する。
【0082】
(5)上記実施形態のピン式加撚装置15は、2本の回転軸43、44のうち1本の回転軸43のみがモータ54によって回転駆動されるものとした。しかしながら、2本の回転軸43、44を両方とも回転駆動するように構成してもよい。この場合、ベルトの掛け換え等を行わなくても、簡単にS撚りとZ撚りとを切り換えることができる。
【0083】
(6)上記実施形態の仮撚加工機1を構成する各装置について、種々の変更を行ってもよい。例えば、上記実施形態では、撚止ガイド12をシフターによって移動可能にしたが、撚止ガイド12を固定式とすることも可能であるし(特開2011-47074号公報参照)、シフターを手動で動かす構成としてもよい。また、冷却装置14や第2加熱装置19を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0084】
1:仮撚加工機
15:ピン式加撚装置
24:張力センサ
27:報知部
30:制御部
31:設定部
32:操作部
41:ピン
43、44:回転軸
45~48:ローラ
54:モータ
Y:糸