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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】仮撚加工機
(51)【国際特許分類】
   D02G 1/06 20060101AFI20220824BHJP
   D06H 3/10 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
D02G1/06
D06H3/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018048963
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019157314
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】近田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】北川 重樹
(72)【発明者】
【氏名】出水 良光
(72)【発明者】
【氏名】木村 宏輝
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-115932(JP,A)
【文献】米国特許第03662531(US,A)
【文献】特開2002-069763(JP,A)
【文献】特開2007-308833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00-3/48
D06H 1/00-7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の回転軸のそれぞれに取り付けられたローラの周面に接触した状態で保持される円筒状のピンを有し、前記2本の回転軸のうち少なくとも何れか一方をモータによって回転駆動することで、前記ピンを回転させて前記ピンの内部を走行している糸に撚りを付与するピン式加撚装置、を備える仮撚加工機であって、
糸切れを検出する糸切れセンサと、
前記モータの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記糸切れセンサによって糸切れが検出されると、前記制御部は、前記モータを停止させ
糸の張力を検出する張力センサと、
糸を切断するカッターと、
をさらに備え、
前記張力センサによって検出された糸の張力が所定の上限値を超えると、又は、所定の下限値未満になると、前記制御部は、前記カッターに糸を切断させた後、前記モータに停止指令を送信することを特徴とする仮撚加工機。
【請求項2】
前記ピンを停止させる際の前記ピンの減速度の絶対値は、前記ピンを加速させる際の前記ピンの加速度の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項に記載の仮撚加工機。
【請求項3】
オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部をさらに備え、
前記制御部は、前記モータを停止させる際に、前記報知部を前記報知状態に切り換えることを特徴とする請求項1又は2に記載の仮撚加工機。
【請求項4】
前記ピン式加撚装置と前記糸切れセンサとを通るように糸道が形成されている加工ユニットが複数並んで配置されており、
前記制御部は、前記糸切れセンサによって糸切れが検出された前記加工ユニットの前記ピン式加撚装置の前記モータを停止させることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の仮撚加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピン式加撚装置を備えた仮撚加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、回転するピン(特許文献1ではスピナー)の内部を走行する糸に撚りを付与するピン式加撚装置(特許文献1ではピンツイスター式仮撚装置)が開示されている。このピン式加撚装置では、2本の回転軸にそれぞれローラが取り付けられており、円筒状のピンがそれぞれのローラの周面に接触した状態で、磁石によって保持されている。そして、少なくとも一方の回転軸がモータによって回転駆動されると、ローラに接触しているピンが軸回りに回転し、ピンの内部を走行している糸に撚りが付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-69763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなピン式加撚装置においては、糸切れが発生し、パッケージが生産できない状態になっても、オペレータがピンの回転を停止させるまではピンが回転し続ける。このため、電力を無駄に消費したり、ピン式加撚装置を構成する各部材が摩耗して寿命が短くなるという問題があった。また、ピンは磁石によって保持されているだけなので、糸が切れた状態でピンが回転し続けていると、何らかの拍子にピンが外れて落下することがある。ピンが落下することにより、他の装置に損傷を与えたり、ピンを紛失してしまうという問題もあった。
【0005】
以上の課題に鑑みて、本発明は、ピン式加撚装置を備える仮撚加工機において、糸切れが生じた際にピンの回転を迅速に停止させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、2本の回転軸のそれぞれに取り付けられたローラの周面に接触した状態で保持される円筒状のピンを有し、前記2本の回転軸のうち少なくとも何れか一方をモータによって回転駆動することで、前記ピンを回転させて前記ピンの内部を走行している糸に撚りを付与するピン式加撚装置、を備える仮撚加工機であって、糸切れを検出する糸切れセンサと、前記モータの動作を制御する制御部と、を備え、前記糸切れセンサによって糸切れが検出されると、前記制御部は、前記モータを停止させることを特徴とする。
【0007】
本発明では、糸切れセンサによって糸切れが検出されると、制御部が自動でピン式加撚装置のモータを停止させる。したがって、オペレータがモータを停止させるのを待つことなく、糸切れが生じた際にピンの回転を迅速に停止させることができる。
【0008】
本発明において、糸の張力を検出する張力センサと、糸を切断するカッターと、をさらに備え、前記張力センサによって検出された糸の張力が所定の上限値を超えると、又は、所定の下限値未満になると、前記制御部は、前記カッターに糸を切断させるとともに、前記モータを停止させるとよい。
【0009】
糸の張力が過大又は過小となると、糸切れが発生したり、パッケージの品質が悪化する可能性が高くなる。したがって、糸の張力が所定の上限値を超えたり下限値未満になった場合に、カッターで糸を切断することによって、不意な糸切れが生じることや、低品質のパッケージが生産されることを抑制できる。さらに、その際に、ピン式加撚装置のモータを停止させることで、糸が切断された状態でピンが無駄に回転し続けることを回避できる。
【0010】
本発明において、前記張力センサによって検出された糸の張力が前記上限値を超えると、又は、前記下限値未満になると、前記制御部は、前記カッターに糸を切断させた後、前記モータに停止指令を送信するとよい。
【0011】
ピンが無駄に回転し続けることを回避するという観点からは、モータをできるだけ早く停止させることが好ましい。しかしながら、カッターで糸を切断する前にモータが減速し始めると、糸の走行速度とピンの回転速度とのバランスが崩れ、糸の不安定な挙動によってピンが外れてしまうおそれがある。そこで、上述のように、カッターで糸を切断してからモータに停止指令を送信することで、糸が切断される前にモータが減速し始めることがなく、ピンが外れることを抑えることができる。
【0012】
本発明において、前記ピンを停止させる際の前記ピンの減速度の絶対値は、前記ピンを加速させる際の前記ピンの加速度の絶対値よりも大きいとよい。
【0013】
このように、ピンの減速度を比較的大きくすることで、ピンの回転を速やかに停止させることができ、糸切れ状態でピンが無駄に回転し続ける時間を短縮することができる。
【0014】
本発明において、オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部をさらに備え、前記制御部は、前記モータを停止させる際に、前記報知部を前記報知状態に切り換えるとよい。
【0015】
こうすれば、オペレータは、糸切れが生じたこと及び糸が切断されたことを容易に認識でき、速やかに糸の巻取りを再開するための作業に着手できる。
【0016】
本発明において、前記ピン式加撚装置と前記糸切れセンサとを通るように糸道が形成されている加工ユニットが複数並んで配置されており、前記制御部は、前記糸切れセンサによって糸切れが検出された前記加工ユニットの前記ピン式加撚装置の前記モータを停止させるとよい。
【0017】
加工ユニット(錘と呼ばれる)が複数並んで配置された仮撚加工機においては、従来、各加工ユニットのピン式加撚装置の駆動軸に共通のタンゼンシャルベルトが掛けられており、各ピン式加撚装置が一斉駆動される構成となっていた。このため、ある加工ユニットで糸切れが生じたからといって、タンゼンシャルベルトを停止させることはできず、オペレータがその加工ユニットに駆けつけて、ピン式加撚装置の駆動軸をタンゼンシャルベルトから手動で切り離すという操作が必要だった。その点、本発明によれば、糸切れが生じた場合には、制御部が自動でその加工ユニットのピン式加撚装置のモータを停止させるので、オペレータの負担を軽減できるとともに、ピンの回転を確実且つ迅速に停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る仮撚加工機の構成を示す模式図である。
図2】仮撚加工機の電気的構成を示すブロック図である。
図3】ピン式加撚装置の構成を示す模式図である。
図4】ピン式加撚装置を図3のIV方向から見た図である。
図5】パッケージ生産中のピン式加撚装置のモータ制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(仮撚加工機の全体構成)
図1は、本実施形態に係る仮撚加工機1の構成を示す模式図である。図1に示すように、仮撚加工機1は、複数の糸Yを供給する給糸部2と、給糸部2から供給された複数の糸Yに対して仮撚加工を行う加工部3と、加工部3で仮撚加工された複数の糸Yを巻き取って複数のパッケージPを形成する巻取部4と、を有して構成される。
【0021】
給糸部2は、複数の給糸パッケージQを保持するクリールスタンド10を有しており、加工部3に複数の糸Yを供給する。加工部3は、糸走行方向の上流側から順に、第1フィードローラ11、撚止ガイド12、第1加熱装置13、冷却装置14、ピン式加撚装置15、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が、糸道に沿って配置された構成となっている。巻取部4は、加工部3で仮撚加工された複数の糸Yを、複数の巻取装置21で巻き取って複数のパッケージPを形成する。
【0022】
仮撚加工機1は、図1の左右方向(以下、機台幅方向と言う)に間隔を空けて対向配置された主機台5及び巻取台6を有する。主機台5及び巻取台6は、図1の紙面垂直方向(以下、機台長手方向と言う)に延設されている。主機台5の上部と巻取台6の上部とは、支持フレーム7によって連結されている。加工部3を構成する各装置は、主に主機台5や支持フレーム7に取り付けられている。主機台5と巻取台6と支持フレーム7とによって、作業空間8が形成されている。換言すると、作業空間8を取り囲むように主機台5と巻取台6と支持フレーム7とが配置されており、糸Yは主に作業空間8の周囲を走行するように構成されている。オペレータは、作業空間8で糸掛け等の各種作業を行う。
【0023】
仮撚加工機1は、互いに対向配置された1組の主機台5及び巻取台6を含むスパンと呼ばれる単位ユニットを有する。1つのスパンには、加工部3を構成する各装置を通るように糸道が形成されている加工ユニット(錘とも呼ばれる)が、機台長手方向に複数並んで配置されている。これによって、1つのスパンでは、機台長手方向に並んだ状態で走行する複数の糸Yに対して、同時に仮撚加工を行うことができる。仮撚加工機1は、主機台5を中心として機台幅方向においてスパンが左右対称に配置される(主機台5は左右のスパンで共通のものとなっている)とともに、機台長手方向にスパンが複数配置された構成となっている。図1では、左側のスパンについては図示を省略している。
【0024】
(加工部)
第1フィードローラ11は、給糸部2から供給された糸Yを第1加熱装置13に向けて送るローラである。第1フィードローラ11は、巻取台6の上部に配置されている。第1フィードローラ11は、駆動ローラ及び従動ローラを有しており、駆動ローラと従動ローラとの間に糸Yを挟んだ状態で、駆動ローラが回転駆動されることにより、糸Yを糸走行方向下流側に送る。1つのスパンにおいて、各駆動ローラは共通の駆動軸に連結されている。各従動ローラは、例えばオペレータによるレバー操作によって、対応する駆動ローラに接触する状態(糸Yを挟んで糸Yを送る状態)と離間した状態(糸掛けが可能な状態)との間で切り換えることができる。第2フィードローラ16、第3フィードローラ18及び第4フィードローラ20も、同様の構成となっている。
【0025】
撚止ガイド12は、ピン式加撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播されないようにするためのものである。撚止ガイド12は、糸走行方向において、第1フィードローラ11と第1加熱装置13との間に配置されている。撚止ガイド12は、上下方向に延びるガイドレール22に沿って、ガイドレール22の下端部の糸掛位置(図1の破線)と、ガイドレール22の上端部の稼働位置(図1の実線)との間で移動可能に構成されている。具体的には、撚止ガイド12が不図示のシフターと呼ばれる部材に取り付けられており、不図示のシリンダによってシフターをガイドレール22に沿って移動させることによって、撚止ガイド12が移動可能な構成となっている。詳細については、例えば特開2016-27218号公報を参照されたい。
【0026】
第1加熱装置13は、ピン式加撚装置15によって撚りが付与された糸Yを加熱するための装置である。第1加熱装置13は、支持フレーム7の上端部に取り付けられている。
【0027】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するための装置である。冷却装置14は、糸走行方向において第1加熱装置13とピン式加撚装置15との間に配置されている。
【0028】
ピン式加撚装置15は、糸Yに撚りを付与するための装置である。ピン式加撚装置15は、主機台5の上部に配置されている。ピン式加撚装置15の詳細については、後で説明する。
【0029】
第2フィードローラ16は、ピン式加撚装置15で撚りが付与された糸Yを、交絡装置17に向けて送るローラである。第2フィードローラ16は、主機台5においてピン式加撚装置15の下方に配置されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。このため、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸される。
【0030】
交絡装置17は、糸Yに対して空気を噴射することによって交絡を付与する装置である。交絡装置17は、主機台5において第2フィードローラ16の下方に配置されている。
【0031】
第3フィードローラ18は、交絡装置17によって交絡が付与された糸Yを、第2加熱装置19に向けて送るローラである。第3フィードローラ18は、主機台5において交絡装置17の下方に配置されている。第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。
【0032】
第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するための装置である。第2加熱装置19は、主機台5において第3フィードローラ18の下方に配置されている。
【0033】
第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって熱処理された糸Yを、巻取装置21に向けて送るローラである。第4フィードローラ20は、巻取台6の下部に配置されている。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0034】
このように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yに、ピン式加撚装置15によって撚りが付与される。ピン式加撚装置15によって形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播されるが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。こうして延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱された後、冷却装置14で冷却されて熱固定される。ピン式加撚装置15を通過した糸Yは、第2フィードローラ16に至るまでに撚りが解かれる。しかし、糸Yの撚りは上述のように熱固定されているため、各フィラメントが波状の仮撚状態を維持する。その後、交絡装置17で交絡が付与され、第2加熱装置19で熱固定された糸Yは、巻取装置21によって巻き取られる。
【0035】
本実施形態の仮撚加工機1には、さらに、糸道上にカッター23、張力センサ24、サクション25、糸切れセンサ26が設けられている。カッター23は、第1フィードローラ11の糸走行方向上流側に配置されており、糸Yを切断する。張力センサ24は、ピン式加撚装置15の糸走行方向下流側に配置されており、撚りが付与された糸Yの張力を測定する。サクション25は、主機台5の第3フィードローラ18よりも下方に配置されており、糸掛け作業の際に糸Yを一時的に吸引保持するのに使われる。糸切れセンサ26は、第4フィードローラ20の糸走行方向下流側に配置されており、糸Yの有無を検出することによって糸切れを検出する。なお、これら各機器の配置は、ここで説明した位置に限定されるものではない。
【0036】
また、主機台5の上部には、報知部27が設けられている。本実施形態の報知部27は、ランプによって構成されており、所定の場合にランプを点灯又は点滅させた状態(報知状態)に切り換えることによって、オペレータに所定の情報を報知することができる。ただし、報知部27の具体的な構成はこれに限定されず、例えばスピーカーによる音声情報やスクリーン上に表示される文字情報等で、所定の情報をオペレータに報知するものでもよい。
【0037】
(電気的構成)
図2は、仮撚加工機1の電気的構成を示すブロック図である。図2に示すように、仮撚加工機1は、複数の加工ユニットの各装置の動作を制御する制御部30を有する。図2では、紙面の都合上、加工ユニットAについてのみ各装置を図示しており、加工ユニットB以降については詳細な図示を省略している。
【0038】
張力センサ24及び糸切れセンサ26からの出力信号は、制御部30に送信される。制御部30は、張力センサ24及び糸切れセンサ26からの出力信号に応じて、カッター23、報知部27、及び、後述のピン式加撚装置15のモータ54の動作を制御する。ちなみに、モータ54は制御部30によって動作が制御されるだけでなく、オペレータが操作部32を操作することによって、モータ54の動作を切り換えることも可能に構成されている。また、制御部30には、制御部30にオペレータが各種の設定値を入力するための設定部31が接続されている。設定部31は、例えばタッチパネルで構成することができるが、キーボード等の他の構成を採用してもよい。
【0039】
(ピン式加撚装置)
図3は、ピン式加撚装置15の構成を示す模式図であり、図4は、ピン式加撚装置15を図3のIV方向から見た図である。ピン式加撚装置15は、円筒状のピン41が軸回りに回転することによって、ピン41の内部を走行する糸Yに撚りを付与するものである。なお、図3において、糸Yは上から下に向かって走行しているものとする。また、図4では、ガイド部材52の図示は省略している。
【0040】
ピン式加撚装置15は、不図示の軸受を介して支持部材42に回転可能に支持された2本の回転軸43、44を有する。回転軸43には、軸方向に離間した2つのローラ45、46が取り付けられている。回転軸44には、軸方向に離間した2つのローラ47、48が取り付けられている。ローラ45とローラ47とは、軸方向において同じ位置に配置されており、図4に示すように、互いに接触しないようにわずかに離間している。ローラ46とローラ48との位置関係も、ローラ45とローラ47との位置関係と同様である。回転軸43は、モータ54から伝達された動力によって軸回りに回転駆動される。
【0041】
ピン41は軸方向に延びる円筒状の部材であり、ピン41の内部を糸Yが走行する。ピン41の軸方向の中間部には、後述の磁石49、50に対向する磁性部41aが形成されている。また、ピン41の軸方向の一端部(糸走行方向の下流側端部)には、直径方向に延びる巻掛部41bが内部に固定されている。巻掛部41bには糸Yが1周巻き掛けられており、ピン41が軸回りに回転することによって、糸Yに撚りが付与される。
【0042】
軸方向においてローラ45とローラ46との間には、磁石49が配置されている。同様に、軸方向においてローラ47とローラ48との間には、磁石50が配置されている。磁石49、50は、ブラケット51(図4参照)を介して、支持部材42に固定されている。ピン41の磁性部41aが磁石49、50に対向するように、ピン41をローラ45(46)とローラ47(48)との間に差し込むと、図4に示すように、ピン41が磁石49、50によって保持される。詳細には、ピン41が、ローラ45(46)とローラ47(48)とに挟まれ、且つ、ローラ45(46)の周面及びローラ47(48)の周面に接触した状態で、磁石49、50によって保持される。ピン41は他の部材に対して機械的には固定はされておらず、磁石49、50による磁力及び各ローラ45~48の周面との摩擦力によって保持されているにすぎない。
【0043】
ピン41の糸走行方向上流側には、リング状のガイド部材52が配置されている。ガイド部材52は、不図示のブラケットを介して支持部材42に固定されている。また、ピン41の糸走行方向下流側には、パイプ状のガイド部材53が配置されている。ガイド部材53は、支持部材42に直接的に固定されている。ただし、ガイド部材52、53の形状や固定方法は、ここで説明した形態に限定されず、適宜変更が可能である。
【0044】
図4に示すように、回転軸43を回転駆動することによってローラ45を回転させると、ローラ45の周面に接触しているピン41が、ローラ45と反対方向に従動回転する。さらに、ピン41の周面に接触しているローラ47が、ローラ45と同じ方向に従動回転する。ピン41が軸回りに回転駆動されることにより、糸Yに撚りが付与される。このとき、図4において矢印で示すように、モータ54から伝達された動力によって回転駆動される回転軸43の回転方向が、ピン41を2本の回転軸43、44にそれぞれ取り付けられたローラ45(46)とローラ47(48)との間に押し込む方向とされていることが好ましい。こうすることによって、ローラ45(46)からピン41が離れてしまうことを防止でき、モータ54の動力をローラ45(46)を介して確実にピン41に伝達することができる。
【0045】
ところで、糸Yに付与される撚りには、撚りの向きが互いに反対のS撚りとZ撚りとがある。撚りの向きを切り換える場合には、モータ54の動力の伝達先を回転軸43から回転軸44に切り換えればよい。例えば、モータ54からの動力がベルトによって伝達されている場合には、回転軸43に掛けられているベルトを回転軸44に掛け換えればよい。なお、ローラ45(46)からピン41が離れやすくなるおそれがあるが、モータ54を正逆回転可能なモータとし、回転軸43、44の回転方向を切り換えることによって、ピン41の回転方向を変え、糸Yの撚りの向きを切り換えてもよい。
【0046】
(モータの停止制御)
以上のように構成された仮撚加工機1では、パッケージPの生産中(糸Yの巻取中)に、何れかの加工ユニットで糸切れが生じることがある。糸切れが生じた後も、その加工ユニットのピン式加撚装置15のモータ54(ピン41)が回転し続けると、電力を無駄に消費したり、ピン式加撚装置15を構成する各部材が摩耗して寿命が短くなるおそれがある。また、ピン41は磁石49、50によって保持されているだけなので、糸Yが切れた状態でピン41が回転し続けていると、何らかの拍子にピン41が外れて落下することがある。ピン41が落下することにより、他の装置に損傷を与えたり、ピン41を紛失してしまうおそれもあった。
【0047】
そこで、本実施形態では、各加工ユニットのピン式加撚装置15を個別にモータ54によって駆動できるように構成したうえで、制御部30によって各ピン式加撚装置15のモータ54を自動で停止させる制御を行っている。図5は、パッケージ生産中のピン式加撚装置15のモータ制御を示すフローチャートである。制御部30は、各加工ユニットのピン式加撚装置15に対して、図5に示す制御を実行する。
【0048】
パッケージPの生産中に、ある加工ユニットにおいて糸切れが発生すると(ステップS1でYES)、糸切れセンサ26によってそのことが検出され、糸切れセンサ26から制御部30に糸切れ信号が出力される。制御部30は、糸切れ信号を受信すると、その加工ユニットのピン式加撚装置15のモータ54に停止指令を送信し、モータ54(ピン41)の回転を停止させる(ステップS2)。また、制御部30は、モータ54を停止させる際には、報知部27を報知状態に切り換える。これによって、オペレータは、糸切れが発生し、ピン41の回転が停止されたことを認識することができる。
【0049】
ピン41の加速度及び減速度は、オペレータが設定部31を介して自由に設定できる。本実施形態では、ピン41を停止させる際のピン41の減速度を-80,000rpm/s、ピン41を加速させる際のピン41の加速度を14,000rpm/sに設定している。しかしながら、ピン41の減速度及び加速度は適宜変更が可能である。
【0050】
ところで、糸Yの張力が過大又は過小となると、糸切れが発生したり、パッケージPの品質が悪化する可能性が高くなる。そこで、ある加工ユニットにおいて糸切れが発生していない場合でも(ステップS1でNO)、張力センサ24によって検出された張力が所定の上限値を超えるか下限値未満になると(ステップS3でYES)、制御部30は、その加工ユニットのカッター23を作動させて糸Yを切断する(ステップS4)。これによって、不意な糸切れが生じることや、低品質のパッケージPが生産されることを防止できる。なお、上記の上限値や下限値は、設定部31を介してオペレータが自由に設定できる。
【0051】
糸Yを切断した後にピン式加撚装置15のピン41が回転し続けると、糸切れが生じた場合と同様、上述のように様々な問題が生じ得る。そこで、制御部30は、カッター23に糸Yを切断させた直後に、モータ54に停止指令を送信し、モータ54(ピン41)の回転を停止させる(ステップS5)。また、制御部30は、モータ54を停止させる際には、報知部27を報知状態に切り換える。これによって、オペレータは、糸Yが切断され、ピン41の回転が停止されたことを認識することができる。
【0052】
ある加工ユニットにおいて、糸切れも発生せず、糸Yの張力も下限値と上限値との間の許容範囲に収まっている間は、加工部3によって仮撚加工が施された糸Yが巻取部4によって巻き取られ、良質なパッケージPが形成される。
【0053】
(効果)
本実施形態では、糸切れセンサ26によって糸切れが検出されると、制御部30が自動でピン式加撚装置15のモータ54を停止させる。したがって、オペレータがモータ54を停止させるのを待つことなく、糸切れが生じた際にピン41の回転を迅速に停止させることができる。
【0054】
本実施形態では、張力センサ24によって検出された糸Yの張力が所定の上限値を超えると、又は、所定の下限値未満になると、制御部30は、カッター23に糸Yを切断させるとともに、ピン式加撚装置15のモータ54を停止させる。糸Yの張力が過大又は過小となると、糸切れが発生したり、パッケージPの品質が悪化する可能性が高くなる。したがって、糸Yの張力が所定の上限値を超えたり下限値未満になった場合に、カッター23で糸Yを切断することによって、不意な糸切れが生じることや、低品質のパッケージPが生産されることを抑制できる。さらに、その際に、ピン式加撚装置15のモータ54を停止させることで、糸Yが切断された状態でピン41が無駄に回転し続けることを回避できる。
【0055】
本実施形態では、張力センサ24によって検出された糸Yの張力が上限値を超えたとき、又は、下限値未満になったとき、制御部30は、カッター23に糸Yを切断させた後、ピン式加撚装置15のモータ54に停止指令を送信する。ピン41が無駄に回転し続けることを回避するという観点からは、モータ54をできるだけ早く停止させることが好ましい。しかしながら、カッター23で糸Yを切断する前にモータ54が減速し始めると、糸Yの走行速度とピン41の回転速度とのバランスが崩れ、糸Yの不安定な挙動によってピン41が外れてしまうおそれがある。そこで、上述のように、カッター23で糸Yを切断してからモータ54に停止指令を送信することで、糸Yが切断される前にモータ54が減速し始めることがなく、ピン41が外れることを抑えることができる。
【0056】
本実施形態では、ピン式加撚装置15のピン41を停止させる際のピン41の減速度の絶対値は、ピン41を加速させる際のピン41の加速度の絶対値よりも大きい。このように、ピン41の減速度を比較的大きくすることで、ピン41の回転を速やかに停止させることができ、糸切れ状態でピン41が無駄に回転し続ける時間を短縮することができる。
【0057】
本実施形態では、オペレータに所定の情報を報知する報知状態に切換可能な報知部27をさらに備え、制御部30は、ピン式加撚装置15のモータ54を停止させる際に、報知部27を報知状態(ランプの点灯状態又は点滅状態)に切り換える。こうすれば、オペレータは、糸切れが生じたこと及び糸Yが切断されたことを容易に認識でき、速やかに糸Yの巻取りを再開するための作業に着手できる。
【0058】
本実施形態では、ピン式加撚装置15と糸切れセンサ26とを通るように糸道が形成されている加工ユニットが複数並んで配置されており、制御部30は、糸切れセンサ26によって糸切れが検出された加工ユニットのピン式加撚装置15のモータ54を停止させる。加工ユニットが複数並んで配置された仮撚加工機1においては、従来、各加工ユニットのピン式加撚装置15の駆動軸に共通のタンゼンシャルベルトが掛けられており、各ピン式加撚装置15が一斉駆動される構成となっていた。このため、ある加工ユニットで糸切れが生じたからといって、タンゼンシャルベルトを停止させることはできず、オペレータがその加工ユニットに駆けつけて、ピン式加撚装置15の駆動軸をタンゼンシャルベルトから手動で切り離すという操作が必要だった。その点、本実施形態によれば、糸切れが生じた場合には、制御部30が自動でその加工ユニットのピン式加撚装置15のモータ54を停止させるので、オペレータの負担を軽減できるとともに、ピン41の回転を確実且つ迅速に停止させることができる。
【0059】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0060】
(1)上記実施形態では、張力センサ24とは別に糸切れセンサ26を設け、糸切れセンサ26によって糸切れを検出するものとした。しかしながら、張力センサ24で糸切れを検出することも可能なので、糸切れセンサ26を省略し、張力センサ24で糸切れを検出するようにしてもよい。この場合、張力センサ24が、本発明の糸切れセンサとしても機能することになる。
【0061】
(2)上記実施形態では、張力センサ24によって検出された張力が所定の上限値を超えるか下限値未満になると、カッター23で糸Yを切断してから、ピン式加撚装置15のモータ54に停止指令を送信するものとした。しかしながら、カッター23で糸Yを切断するのと同時又は直前に、モータ54に停止指令を送信するようにしてもよい。
【0062】
(3)上記実施形態では、糸切れ時や糸切断時に報知部27を報知状態に切り換えるものとした。しかしながら、糸切れ時や糸切断時に報知部27を報知状態に切り換えることは必須ではないし、報知部27を省略してもよい。
【0063】
(4)上記実施形態では、報知部27が操作部32とは別に設けられているものとした。しかしながら、操作部32が報知部27の機能も兼ね備える構成としてもよい。例えば、上記実施形態のように、操作部32がボタンで構成されている場合には、このボタンを点灯又は点滅可能に構成することにより、報知部としての機能を果たすようにしてもよい。
【0064】
(4)上記実施形態のピン式加撚装置15は、2本の回転軸43、44のうち1本の回転軸43のみがモータ54によって回転駆動されるものとした。しかしながら、2本の回転軸43、44を両方とも回転駆動するように構成してもよい。この場合、ベルトの掛け換え等を行わなくても、簡単にS撚りとZ撚りとを切り換えることができる。
【0065】
(5)上記実施形態の仮撚加工機1を構成する各装置について、種々の変更を行ってもよい。例えば、上記実施形態では、撚止ガイド12をシフターによって移動可能にしたが、撚止ガイド12を固定式とすることも可能であるし(特開2011-47074号公報参照)、シフターを手動で動かす構成としてもよい。また、冷却装置14や第2加熱装置19を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:仮撚加工機
15:ピン式加撚装置
23:カッター
24:張力センサ
26:糸切れセンサ
27:報知部
30:制御部
41:ピン
43、44:回転軸
45~48:ローラ
54:モータ
Y:糸
図1
図2
図3
図4
図5