(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】産業廃棄物の少ない屑鉄の溶解方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/52 20060101AFI20220824BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220824BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20220824BHJP
C21C 7/068 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C21C5/52
C22B7/00 F
C21C7/00 F
C21C7/068
(21)【出願番号】P 2022037721
(22)【出願日】2022-03-11
【審査請求日】2022-04-08
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008395(JP,A)
【文献】特開昭59-104419(JP,A)
【文献】特開昭56-087617(JP,A)
【文献】特開昭57-023016(JP,A)
【文献】特開昭52-147513(JP,A)
【文献】特開平11-228142(JP,A)
【文献】特表2003-520899(JP,A)
【文献】特開2001-221574(JP,A)
【文献】特開昭61-190283(JP,A)
【文献】特開2007-332432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/52
C22B 7/00
C21C 7/00
C21C 7/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屑鉄を原料とする電気炉製鋼法における溶解・酸化精錬において、
原料には加炭材を配合せず、アーク通電により炉底に形成された溶鋼プールに酸素ガスを作用させてC濃度を質量%で0.10%以下に脱炭し、以後溶解と脱炭を併行させ、溶鋼中のC濃度を溶落を経て出鋼まで0.15%以下に維持して酸素吹錬による褐色煙の発生を抑制
し、ダスト発生量とダスト中のZnフェライトの生成量の両者を低減することを特徴とする電気炉の溶解・酸化精錬方法。
【請求項2】
下記3条件、
1) 前回出鋼時に溶鋼の一部を炉内に残存させること、
2) 溶落直前・直後の発泡スラグの形成に際して炭材を投入せず、石灰石を炉内に投入すること、
3) 出鋼直前には、炉内に冷鉄塊を投入して強力なCO沸騰を誘発させること、
のうちどれか一つ以上を組み込んだことを特徴とする請求項1に記載した電気炉の溶解・酸化精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屑鉄の大量処理を担っている電気炉製鋼において大量に発生する廃棄物である煤塵(通称ダスト)を削減し、且つ有価資源を回収する方法の改良に関している。
【背景技術】
【0002】
屑鉄を主原料としアーク熱溶解による電気炉製鋼法は特殊鋼用として誕生・成長し、その後地産地消型の普通鋼ミニミルの基幹技術として広範に普及、今日生産量が製鋼総量の約30%に達するだけでなく、高炉-転炉製鋼法と比較して資源の自給・エネルギー消費・CO2発生量及び投資負担の便宜性からその意義が再認識されつつある。国内では設備技術・操業技術・製品品質・公害対策とも高度に整備され、技術的にはもはや大きな飛躍は望めない観がある。
【0003】
しかし問題が無い訳ではない。その一つは、純酸素吹錬によって褐色の煤塵が大量に発生する。褐色煤塵は酸化鉄であることは衆知である。集塵装置により公害問題は解決されているが、集塵灰(電炉では通称ダスト、転炉ではヒューム)の処理にはいまだに手こずっている。
ダストの発生量は製鋼量の約1.5%、成分はFe(40~60%),Zn(10~30%),Ca,Si,Al等の酸化物、形態は過半が超微細粉であって、処理方法は、ペレットに成形後、亜鉛精錬業者に高額で依託され、還元により亜鉛の抽出回収がなされている。回収率は50%以下、残宰のペレットはアーク炉に回帰再溶融され、酸化性スラグと再度ダストに分かれる。
【0004】
特許文献1には、ダストの処理方法の一例が開示されている。それによると、酸化亜鉛ZnOは高温COガスにより還元容易だが、ヘマタイトFe2O3と結合したZnフェライトZnO・Fe2O3は還元困難であると言う問題に対して、ダストを事前に湿式化学処理(塩化アンモニウムを作用)によってダスト中の主成分であるZnフェライトを改質し、後続の還元処理におけるZn還元回収効率を向上させている。
問題は2重処理となること、廃棄に問題が生じ易い塩化物を使用することである。
【0005】
非特許文献1には電炉操業におけるエネルギー問題・ダスト問題とその考察(5 本考察の纏め)が詳述されている。要点を摘出すると、
1) 電力節減が優先され、補助燃料バーナーの増強・大量の炭材投入・大量の酸素吹錬 がなされ、熱排ガス量が増大している。
2) 酸素吹錬は排ガス量・排熱量・ダスト量・スラグ量・CO2排出量を増大させる。
3) 酸素吹錬をしなくてもZn及びFeを含有するダストは発生している。
4) 排熱の一部は原料予熱に利用されているが不十分である。
5) 『ダスト発生に関しては、これまでの揮発、バブルバーストの機構をベースにして、 Zn,Feのダスト中への移行機構の基礎研究が必要であると考える。』との記載がある。
以上からダスト問題の抜本対策には現在理論的にも技術的にも望ましい解決策が見つかっていないことが解る。
【0006】
また約1.5%ダストの発生が約1.0%のFeの損失になっているとの指摘が無い。業界においてもFeの損失がほとんど意識されていないことも問題であろう。
【0007】
膨大な研究報告がある転炉製鋼法における脱炭反応に関して、大量のヒューム(褐色煙)が発生しているにもかかわらず、すべてC-O反応として簡略化され、酸化鉄の生成メカニズムはほとんど議論されてこなかった。湿式により集塵されたヒュームの回収については多くの研究・開発・実施例はあるが、電炉のダスト処理にはあまり参考にはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6943409
【文献】特許第6085005
【0009】
【文献】日本鉄鋼協会、山口ら、ふぇらむ Vol.27(2022) No.1, p.44 電炉操業におけるエネルギーバランスとCO2排出抑制の最適化に関する一考察
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上、電炉のダスト問題において、処理方法に関しては既述例のごとくZn回収改善等種々提起され、実施され、効果も得ているが、発生源に対しては発生機構自体が不明確であり、対策も適切な事例が見当たらない。
本願発明は、屑鉄を大量処理する電気炉製鋼において、
1) 処理困難な産業廃棄物であるダストの発生量を低減して処理コストの軽減とダストの主成分であるFe分の損失を低減し、
2) ダスト中の主化合物である還元困難なZnフェライトの含有比率を低減して、Zn還元回収を向上させることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は酸素吹錬を詳細に観察・調査し、吹錬による脱炭反応は、一定速度で進行するが、あるC値以下になると脱炭速度の低下とともに褐色の発煙(Feの含有)が消滅することを発見し、以下の発明をなした。
第1の発明は、屑鉄を原料とする電気炉製鋼法における溶解・酸化精錬において、アーク通電により炉底に形成された溶鋼プールに酸素ガスを作用させ、C濃度を質量%で0.10%以下に脱炭し、以後溶解と脱炭を併行させて溶鋼中のC濃度を溶落を経て出鋼まで0.15%以下に維持することを特徴とする電気炉の溶解・酸化精錬方法である。
【0012】
第2の発明は、下記3条件、
1) 前回出鋼時に溶鋼の一部を炉内に残存させること、
2) 溶落直前・直後の発泡スラグの形成に際して炭材を投入せず、石灰石を炉内に投入すること、
3) 出鋼直前には、炉内に冷鉄塊を投入して強力なCO沸騰を誘発させること、
のうちどれか一つ以上を組み込んだことを特徴とする第1発明に記載した電気炉の溶解・酸化精錬方法である。
【0013】
述語の定義として、『酸素ガスを作用させて』は、通常の炉前作業である酸素ガスジェットの吹込み又は吹つけを意味する。
本明細書において濃度はすべて質量%とする。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の電気炉製鋼における溶解・酸化精錬方法によると、溶鋼プールの形成直後から酸素吹錬によりC濃度は常時低位に維持され、褐色煙がほとんど発生しない。ダストの主成分であるFeの放散が抑制され、ダスト発生量が半減以下、その効果は以下である。
1) Feの損失約1%が無くなり製鋼歩留まりが向上する。
2) ダスト生成過程でFeが無いので還元困難なZnO・Fe2O3が生成しない。
3) Znは大部分が還元容易なZnOと成り、しかも濃度が倍増し資源価値が向上する。
【0015】
アークの着熱効率を強化する発泡スラグの形成は、通常の炭材投入によるCO反応ガス生成によるのではなく、石灰石投入による分解CO2ガスに依存するので三つの効果が得られる。
1) COガス発泡では褐色煙が無くならないが、CO2発泡では褐色煙が発生しない。
2) 炭材投入によるCO2排出増が無い。環境規制に有利である。
3) 石灰石の分解によるCO2ガス発生は石灰工場から電気炉に移行しただけであり、CO2排出増はない。エネルギー面でも、石灰工場では省エネルギー、電気炉では分解熱と還元熱(スラグ中のFeO還元)がほぼ相殺される。
【0016】
酸化精錬の目的の一つには脱N,脱Hがある。溶鋼中の気泡の形成と通過がガス成分、N,Hを吸収して含有量が低下し、鋼質が安定する。経験的に脱炭量が0.4%C以上が必要とされている。
本願発明の方法では、見かけの脱炭量は約0.15%C(=0.25-0.10%C)であり従来よりも約1/3に低下する。
実際は、後述するが従来方法ではガス成分は主としてカルボニル鉄(Fe(CO)5)であり、本願方法ではCOガスである。ガス量は後者では前者の5倍に増幅され、不足とはならない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】酸素吹錬中における溶鋼中のC濃度と発煙状況の関係を示す。
【
図4】
図2に示す部分のXMA分析におけるFeのイメージを示す。
【
図5】酸化精錬後の溶鋼中のC濃度とO濃度の関係を示す。軸は英語表記であるが、横軸はC%,縦軸はO量(ppm)である。出典;日本鉄鋼協会編、217,218西山記念技術講座、P.164、
図2
【発明を実施するための形態】
【0018】
原料溶落後、所定温度に加熱した後酸素吹錬を行った際の脱炭の進行と発煙の状況を観察した結果を
図1に従って説明する。
溶落C値が約1.2%から0.2%へ低下するまでは、ほぼ一定比率
(例;-0.07%C/分)で脱炭反応が進行する。大きな火炎が発生し、火炎端では濃厚褐色煙に変成する。
C濃度が約0.15%に低下すると脱炭速度は急速に低下し、火炎も発煙も弱化し、淡褐色煙となる。0.10%C以下となると火炎はほぼ消滅、発煙はごく薄い淡灰色となる。
スラグ面は当初発泡状態であったがC濃度の低下につれ沸騰状態に縮小し、0.1%C以下では炉内は透明に近づき、全面に細かい沸騰が明確に観察される。
【0019】
溶落前後において発泡スラグの形成のため炭材をスラグ中に投入する際にも火炎と褐色煙が発生する。褐色煙は酸素吹錬が無くても発生する。
褐色煙は酸化鉄粒子であることは周知である。溶解初期によく見られる灰色煙はZn起因、黒色煙は屑鉄中の可燃物の不完全燃焼煙であろう。煤塵をフィルターにより集塵したものが電炉ダストである。ダストの分析から主成分はFe,Znであり,微量のCが認められる。
【0020】
以上から単純な結論が得られる。酸素ガス吹錬ではC%が少なければ火炎が無い。火炎が無ければ褐色煙が出ない。褐色煙が出なければダストに酸化鉄が混入しない。酸化鉄が無ければZnフェライトの生成も起こり得ない。Znは酸化亜鉛のみとなる。ダストの主成分はFeからZnに替わり、ダスト量は半減する。
【0021】
通常の屑鉄に加炭材を配合しなければ溶落C濃度は0.2~0.3%である。溶解過程でC濃度が常時0.15%以下であれば酸素吹錬しても褐色煙の発生は抑制される。そのためには溶鋼側は常時0.1%C以下が望ましい。溶鋼プールが形成された後は溶鋼面に、又は溶鋼内に適時酸素ガスを作用させ、溶解の進行によるCの浸入を相殺する。
【0022】
酸素吹錬時の反応の状況をさらに詳細に観察する。
高炭素鋼の溶鋼(例;1.0%C)の液面下にランスパイプにより酸素ガスを吹き込む。吹き込み口の少し先で局所沸騰が見られる。スラグが押しのけられ、溶鋼面の露出が観察される。見えると言うことは吹き上がる気体は透明であり、粉粒状の固体又は液体を含有していないことを証明している。
液面上約30cm以上では黄色火炎が発生し、火炎の背後の電極棒は全く見えない。黄色火炎はファラディの説明のごとく固体粒子からの放射であり不透明である。ローソクであれば炭素粒子、本反応であれば主に超微細Feであろう。
炉体開口部から吹き出した火炎はその先端の発光が消滅するとともに濃厚な褐色煙
(FeOの生成)に変性する。
【0023】
褐色煙の発生原因については揮発説やバブルバースト(気泡破裂)説がある。前者は、転炉の精錬末期において高温低炭素になった時点で褐色煙が発生しない、即ちFe蒸気が発生していないことから妥当ではないことが解る。
本願発明者は下記の仮説を持っている。
溶鋼の純酸素吹錬において、非鉄精錬におけるモンドNi(カルボニルNi)の生成と同様に気体のカルボニルFeが生成する。該気体化合物は透明である。該気体化合物は高温では不安定であり、高温下で直ちにFeとCOに分解する。両生成物は気中酸素と反応し、FeO(褐色煙)とCO2(火炎)を生成する。FeOの一部はさらに酸化が進む。以上は観察事実と整合する。
Fe+1/2O2=FeO 吹錬による酸化鉄の生成と溶解
FeO+C=Fe+CO 溶解酸化鉄のC還元によるCOの発生
Fe+5CO=Fe(CO)5↑ カルボニル鉄の生成と気化
Fe(CO)5 =Fe+5CO カルボニル鉄の分解
Fe+1/2O2=FeO 微細液滴鉄の燃焼(濃厚褐色煙)
CO+1/2O2=CO2 COガスの燃焼
2FeO+2O2=Fe2O3 ヘマタイトの生成
上記式における下線は溶融金属中に溶解していることを示す。
【0024】
屑鉄起因のZnの挙動と理論は解明されている。蒸発、酸化、還元は容易に発生する。Znの大部分は溶解・酸化過程で亜鉛酸化物を生成してダストに入り、一部は溶鋼・スラグに残存する。後続の真空脱ガスにおいて発生する粉塵の分析からこの残存が証明される。
生成した高温超微細の酸化物の一部は直ちに下記の複合反応を起こしスピネル型のフェライトを生成する。Znフェライト、マグネタイトの生成はダストペレットの磁性からも解る。
FeO+Fe2O3=FeO・Fe2O3
ZnO+Fe2O3=ZnO・Fe2O3
【0025】
集塵ダストからのZnの還元回収に関して、現行の還元プロセスでは回収率は50%以下、ZnOは還元されるが、ZnO・Fe2O3(ジンクフェライト)はほとんど還元回収できないことが問題となっている。本願発明ではFe微粒子がほとんど発生しないので上記Znフェライトの混入が少なく、高歩留まりでZnが還元回収される。
【0026】
上記仮説の検証としてダストの顕微鏡調査を進める。
図2はダストをペレットに固めた後、1000倍の顕微鏡写真を示す。数10~250μmの球状粒子が諸処に見られるが、多くは超微細粒である。
図3は該超微細粒の4000倍の写真である。直径1μm以下のほぼ均一な球状粒が多くを占めている。表面張力が作用した気相反応の生成物であることが解る。
図4は
図2の写真と同一位置におけるXMA解析の結果を示す。粗い球状体の中はFeが主成分であり従成分はO(写真省略)のみである。粗粒は形状と粒径の程度とばらつきとからバブルバースト起因であると推測される。バーストに際して表面張力が作用しているので球状となるが微細粒を形成することは力学的に無理である。
粗粒と超微細粒の質量比率は未解明だが、乾式及び湿式の指触試験ではざらざら感はほとんど無く、微細粒は水洗では除去できないことからサブミクロンが大部分と判断される。
以上からカルボニル説は現象面から無理が無い仮説と言えよう。
【0027】
ダストの発生を抑制し、且つZnフェライトの生成を低減させる作業方法を説明する。
原料の屑鉄をアーク炉内全域に装入後、3本の電極を炉内に進入させ、アークを飛ばし、周辺を溶解しつつ下降させる。溶融孔が形成され底部に溶鋼溜まり(溶鋼プール)が形成される。
併行して酸素ランス兼用の酸素燃料バーナーの火炎を炉底中心部に向け溶解を補助する。バーナー火炎が周囲を溶融し、火炎が溶鋼プールに接近すると上記バーナーを酸素ランスに切替え、溶鋼上面に酸素ガスを強力に吹き付ける。溶鋼中のCが燃焼し、一時的に褐色煙が発生するが溶鋼量が少ないのでC濃度は屑鉄の平均C含有率(0.2~0.3%)から急速に低下して容易に0.1%Cまで下げることができる。
【0028】
原料の溶解速度(t/h)に対応して原料中のCが溶鋼プールに溶解する。適切な流量の酸素ガス吹きつけにより溶鋼中のC濃度を常時0.15%以下、望ましくは約0.1%以下に維持する。スラグ表面は穏やかに泡立ち、褐色煙はほとんど発生しない。
通常、溶落前後にはアークが炉壁耐火物を輻射損傷させないよう、且つ溶鋼への着熱を向上させるようスラグを発泡させる。そのため多量の炭材が投入される。スラグ中のFeOと炭材のCとが反応(吸熱反応)してCOガスを生成しスラグが泡立つ。褐色煙も発生する。
【0029】
本願発明では特許文献2に開示された方法を援用して褐色煙を軽減する。当該方法では、発泡用の炭材の一部、及び精錬溶剤の生石灰の一部を石灰石に代替させる。本発明では炭材投入はせず、適量の生石灰と石灰石を投入する。石灰石CaCO3 の熱分解により発生したCO2ガスが適切なスラグ組成のもとで効果的な発泡スラグを誘発する。ちなみに発生したCO2ガスは環境への負担増にはならない。生石灰焼成工程での発生が炉内に移行するだけである。
酸化性の発泡スラグは酸化燐を吸収する。該スラグは炉体の傾動により壁面ドアから容易に炉外に排出することができ、脱燐精錬がなされる。
【0030】
溶落時のC濃度は0.1%を目標としているので高炭素鋼であっても脱炭吹錬は適用しない。昇温により所定温度に達すると出鋼準備に入るが、溶鋼は平衡論(
C×
O=一定)を超えて過酸化状態であり、低炭素であるが故にO量はより多くなる。
図5は転炉製鋼における吹錬後のC濃度とO濃度の関係を示す。0.1%C(1000ppm)に対してOが400ppm溶存していると、レードルへの出鋼に際してきわめて激しいCO沸騰が発現し危険である。
本願発明では出鋼前に数10kgの冷鉄材を炉内に投入する。攪乱衝撃により強烈な過飽和CO反応が発生し、溶鋼面全体が細かく激しく平坦に沸騰し、液面は約200~300mm上昇する。大きな火炎が生ずるが褐色煙は無い。CO燃焼と見なせる。この予備脱酸により出鋼前後の作業は安定する。
【0031】
出鋼に際して溶鋼量の約10%を炉内に残留(通称 Hot Heel 方式)させる。溶解能率向上に多用される方式であるが、本発明の場合、約0.1%Cの溶鋼が次回の溶解に持ち越され、褐色煙抑制に対してさらに有効になる。
【0032】
溶鋼内を通過する気泡量について検討する。
気泡形成と通過にはいくつかの精錬作用があるがその一つは脱ガス効果である。溶鋼中のH,Nが気泡内に拡散して一部が離脱する。作用はそれほど大きくはないが、脱炭量で0.4%C以上の沸騰があれば品質管理上、鋼質が安定することは良く知られている。
本願発明の方法では脱炭量は、約0.15%C(=原料平均0.25%-溶鋼C濃度0.10%)であって、一見大いに不都合である。実際はそうならない。
従来の高炭素鋼溶製の場合、既述のように気泡成分はカルボニルFe(Fe(CO)5 )である。本願発明ではCOである。1モルのガス生成に必要なC量は、前者では5グラム原子、後者では1グラム原子である。即ち本発明では容量において約5倍のガス量が発生する。差し引き多少有利である。
【実施例】
【0033】
容量30Tのアーク炉により高炭素鋼SWRH82A(0.8%C)を溶製する。従来方法では原料には一般鉄屑に通常加炭材(銑鉄他)が配合され、30トンを2回に分けて装入した。
溶解初期には褐色煙と灰黒色と火炎の混合煙が見られ吹錬なしでも脱炭の進行を示した。溶落前に生石灰300kg投入しスラグを塩基性に誘導した。溶落C濃度は約1.2%であり、0.75%まで吹錬を続ける。この間濃厚褐色煙の噴出が続く。
【0034】
本発明に基づく試溶解では、原料は一般屑のみとし加炭材を配合しない。溶鋼プールが形成されると、装入原料の間隙を通して1インチ径のランスパイプを突っ込み酸素ガスを吹き込んだ。排ガスの状況は、煙道間隙部を大きく離して観察した。安定した火炎が生ずるが褐色煙は通常よりも明らかに淡くなっている。
溶落前に生石灰を150kg投入した。溶落C濃度は0.13%Cとなり、昇温しつつ石灰石100kgを3回投入する。スラグが泡立ち効果的に昇温する。泡だっても褐色煙はほとんど見られない。炉体を手前に少し傾動し、泡立ちの勢いを利用して、スラグの約半量を炉外に排出する。脱P処理が終わる。
【0035】
所定温度1650℃に達したら、出鋼前サンプリングする。C量は0.10%となっている。Fe-Mnを150kg投入する。冷鉄塊と同様、細かく激しい沸騰が発現し、溶鋼表面が約200mm上昇する。安定したらレードルに出鋼する。出鋼時に不足のC量をレードル中に投入する。
濃厚褐色煙の発現する時間が少なくなり、ダスト発生量の低減が観察された。
【符号の説明】
【0036】
1;粗粒 2;超微粒 3;Feイメージ
【要約】
【課題】 電炉ダストの発生の少ない屑鉄の溶解方法を提供する。
【解決手段】 アーク炉による屑鉄の溶解に際して溶鋼への酸素吹錬により溶鋼量の約1.5%のダスト発生と約0.4%C相当のCO2が放出される。溶解途中及び溶落後の溶鋼中のC量を常時0.15%以下とすることにより、酸素吹き込みに起因する燃焼煙中への鉄の混入(濃厚褐色煙)を抑制する。該C濃度域で脱炭反応はカルボニル生成からCO生成に移行する。溶落以後の炭材投入による発泡スラグ形成(CO発生)も褐色煙を発生させるが、発泡源を石灰石投入に切り替え(CO
2発生)る。褐色煙が低減する。ダスト量は半減以下、還元困難なZnフェライトの生成が少なくなる。
【選択図】
図1