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  • 特許-インフュージョンパイプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】インフュージョンパイプ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
A61F9/007 130E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017165798
(22)【出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2019041863
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180264
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 貴大
(72)【発明者】
【氏名】村上 悦男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 真弘
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0374544(US,A1)
【文献】特開2015-066199(JP,A)
【文献】特表2011-515185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0089526(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0073043(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61B 17/34
A61M 5/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術において眼球に装着されたカニューレに接合して用いられるインフュージョンパイプであって、
前記インフュージョンパイプは、前記カニューレの眼球に刺通する部分であるカニューレ刺通部の内側に前記カニューレとの接合時に挿し込まれる挿入部と、前記挿入部に接続部を介して繋がり前記カニューレとの接合時に前記カニューレに押圧固定される結合部と、を有し、前記挿入部の断面及び先端の端面が円形の一部を切り欠いた円弧形状であって、前記挿入部の長さが前記カニューレ刺通部よりも短く、かつ、前記結合部の長さと同程度又は前記結合部よりも短いことを特徴とするインフュージョンパイプ。
【請求項2】
前記挿入部の断面の円弧高さが、切り欠いていない仮想円形断面の外径の30%以上、90%以下であることを特徴とする請求項1に記載のインフュージョンパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科手術において眼球に装着したカニューレに接合して用いられるインフュージョンパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
硝子体手術は、眼球内のゼリー状の硝子体や硝子体が変性して形成された網膜上の増殖膜を切断・除去する手術である。このような眼科手術においては、インフュージョンカニューレを用いて眼球内に水を灌流しながら施術が行われる。
【0003】
インフュージョンカニューレは、灌流する水を通過させるチューブと、そのチューブとカニューレとを繋ぐインフュージョンパイプとを有している。図5は、従来品のインフュージョンパイプの斜視図である。また、図6は、従来品のインフュージョンパイプとカニューレの接合を説明する図であって、(a)は接合途中、(b)は接合後を示している。なお、図6では、チューブ15の図示は省略している。
【0004】
インフュージョンパイプ110は、眼球Eに装着したカニューレ20に接合して用いられる(例えば、特許文献1参照)。カニューレ20は、金属性のカニューレパイプ21を樹脂製のカニューレベース22に嵌め込んだものである。このカニューレパイプ21において、カニューレベース22に嵌め込まれた部分をカニューレ結合部21bとし、眼球Eの内部に刺通した部分をカニューレ刺通部21aとする。
【0005】
カニューレ刺通部21aの形状は、径が一定の管形状である。カニューレ結合部21bの形状は、カニューレ刺通部21aよりも径が大きく、かつ内側に向かって凸部が設けられており、この凸部によって、インフュージョンパイプ110と接合するときに、結合部112の側部を押圧固定することができる。また、カニューレ結合部21aを眼球Eに刺通したとき、カニューレベース22はストッパの役目をする。
【0006】
インフュージョンパイプ110は、カニューレ刺通部21aの内側に挿し込まれる挿入部111と、カニューレ結合部21bの凸部で押圧固定される結合部112と、チューブ15に接続する基部113と、を有している。なお、挿入部111の断面は円形状である。また、結合部112は挿入部111よりも径が大きいので、その境界は接続部114で繋がっている。
【0007】
インフュージョンパイプ110とカニューレ20とを接合するときは、図6(a)、(b)に示す通り、挿入部111をカニューレパイプ21の内側に挿し込まなければならないのだが、眼球Eを刺通した細いカニューレ刺通部21aの内側までインフュージョンパイプ110の挿入部111を挿し込むのは、容易な作業ではない。また、カニューレ刺通部21aは眼球Eを刺通するものなので、あまり太くはできない。そうすると、カニューレ刺通部21aよりもさらに細いインフュージョンパイプ110の挿入部111の中を通過する水は、必然的に少量になってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-66199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような事情に鑑み、本発明は、従来品のインフュージョンパイプ以上の流量が得られ、さらに、眼球に装着したカニューレとの接合を容易に行うことができるインフュージョンパイプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明のインフュージョンパイプは、眼科手術において眼球に装着されたカニューレに接合して用いられるインフュージョンパイプであって、カニューレの眼球に刺通する部分であるカニューレ刺通部の内側にカニューレとの接合時に挿し込まれる挿入部を有し、その挿入部の断面が円形の一部を切り欠いた円弧形状であることとする。
【0011】
さらに、挿入部の断面の円弧高さが、切り欠いていない仮想円形断面の外径の30%以上、90%以下にするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインフュージョンパイプによれば、円形断面のインフュージョンパイプ以上の流量が得られ、さらに、カニューレとの接合を容易に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のインフュージョンパイプの斜視図である。
図2】本発明のインフュージョンパイプとカニューレの接合を説明する図であって、(a)は接合途中、(b)は接合後を示す。
図3】従来品と本発明のインフュージョンパイプの1分間の流量を比較するグラフである。
図4】本発明のインフュージョンパイプの挿入部の断面図である。
図5】従来品のインフュージョンパイプの斜視図である。
図6】従来品のインフュージョンパイプとカニューレの接合を説明する図であって、(a)は接合途中、(b)は接合後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明のインフュージョンパイプの斜視図である。また、図2は、本発明のインフュージョンパイプとカニューレの接合を説明する図であって、(a)は接合途中、(b)は接合後を示している。インフュージョンパイプ10を接合するカニューレ20は、従来のカニューレと同様であって、金属性のカニューレパイプ21を樹脂製のカニューレベース22に嵌め込んだものである。また、カニューレパイプ21において、カニューレベース22に嵌め込まれた部分をカニューレ結合部21bとし、眼球Eの内部に刺通した部分をカニューレ刺通部21aとする。
【0016】
インフュージョンパイプ10の基本の構成も従来と同様に、カニューレ刺通部21aの内側まで挿し込まれる挿入部11と、カニューレ結合部21bで押圧固定される結合部12と、チューブ15に接続する基部13と、を有している。そして、結合部12は、挿入部11よりも径が大きく、挿入部11と結合部12とは、挿入部11よりも長さが短い接続部14で繋がっている。
【0017】
本発明のインフュージョンパイプ10と従来品のインフュージョンパイプとの違いは、本発明のインフュージョンパイプ10は、挿入部11の断面が閉じた円形ではなく、円形の一部を切り欠いた円弧形状になっていることである。また、挿入部11の軸方向の長さが、従来品の挿入部よりも短くなっている。例えば、挿入部11の長さが結合部12の長さと同等程度か、結合部12より短くてもよい。
【0018】
眼球Eを刺通するカニューレ刺通部21aは径が大きくなく、また、カニューレ刺通部21aの内径とインフュージョンパイプ10の挿入部11の外径との間にほとんど隙間はないので、挿入部11の断面が円弧形状で、かつ短ければ、従来品と比べて、かなり挿入作業が容易になる。
【0019】
また、挿入部11の断面が円弧形状であれば、開水路ということになるので、従来品の管路と比べて、灌水する水の流量は大きくなる。また、挿入部11の長さが短ければ、流水にかかる水路の抵抗も小さくなり、さらに流量は増加することになる。
【0020】
図3は、従来品と本発明のインフュージョンパイプの1分間の流量(g)を比較するグラフである。従来品としては、インフュージョンパイプの断面を外径0.43mmの円形のものを用いた。一方、本発明は、インフュージョンパイプの挿入部断面を外径0.43mmの仮想円形断面から円弧高さ0.29mmを残した円弧形状のものを用いた。なお、切り欠いていない状態の円形断面を仮想円形断面とする。また、円弧高さとは、上側を開けて左右対称になるように円弧形状を置いたときに、円弧の下端から円弧の端までの垂直方向の高さとする。つまり、この流量比較に用いた本発明のインフュージョンパイプの挿入部は、仮想円形断面の約67%(=0.29/0.43*100)の円弧高さの断面ということになる。
【0021】
図3の流量比較のグラフより、灌流圧が10mmHg、30mmHg、60mmHgのいずれの場合も、本発明のインフュージョンパイプを用いたときは、従来品よりも10~20%程度流量が多くなっていることが分かる。したがって、本発明のように、インフュージョンパイプの断面を円弧形状にすれば、流量を増やすことができるという結果が得られた。
【0022】
次に、インフュージョンパイプの挿入部断面の円弧高さの許容範囲を決定する。図4は、本発明のインフュージョンパイプの挿入部の断面図である。図4(a)は円弧高さが仮想円形断面の外径Dの0.9倍の高さ、図4(b)は0.5倍の高さ(半円)、図4(c)は0.3倍の高さをそれぞれ示している。
【0023】
本発明のインフュージョンパイプ10の挿入部11の断面としては、図4(a)と図4(c)を上限及び下限とした範囲内の円弧高さとする。これは、断面形状を見たときに、図4(a)(円弧高さ0.9D)よりも円弧高さを高くすると断面が円形とほとんど変わらなくなり、流量を増やす効果が期待できないからである。また、図4(c)(円弧高さ0.3D)よりも円弧高さを低くすると断面がほぼ平らになってしまい、挿入部11を設ける意味がなくなってしまうからである。
【0024】
また、円弧高さを変えたときの流量について、試験を行って検討した。試験は、仮想円形断面の外径0.43mmに対して、円弧高さを0mm(0%)から0.43mm(100%)まで、約0.04mm(約10%)刻みで11種類のインフュージョンパイプについて、流量の比較を行った。試験条件としては、圧力を60mmHgとし、1分間の流量(g)を計測した。その結果、多少の誤差はあるものの、予想通り、円弧高さが高くなるほど、流量が減少する傾向が確認できた。そこで、それぞれの円弧高さにおける流量を円弧高さが0mm(0%)のものを基準とした割合で見たところ、円弧高さが0.43mm(100%)のときは、円弧高さが0mm(0%)のものの約88%の流量であったのに対し、それ以外の円弧高さ場合は、円弧高さが0mm(0%)のものの90%以上の流量を確保することができた。つまり、円弧高さを仮想円形断面の外径Dの90%以下に設定すれば、従来のインフュージョンパイプよりも流量を増加させることができ、かつ、一定の流量を確保することができることが確認できた。なお、円弧高さを0mmに近付けるほど流量は増加する傾向にあるのだが、前述した通り、図4(c)(円弧高さ0.3D)よりも円弧高さを低くすると断面がほぼ平らになってしまい、挿入部11を設ける意味がなくなってしまうので、ここでは、円弧高さの下限値を仮想円形断面の外径Dの30%とすることにする。したがって、本発明の円弧高さの許容範囲として、仮想円形断面の外径の30%以上、90%以下とすることにする。
【0025】
なお、流量のみに着目すれば、挿入部11の円弧高さは低いほど流量が多くなるので、半円よりも小さい方が好ましいと考えられるが、カニューレに接合したときのインフュージョンパイプ10の安定性等も併せて考慮すると、円弧高さは半円よりも大きい方が好ましい場合がある。
【0026】
例えば、図4(c)のように挿入部11の円弧高さが半円よりも小さい場合は、カニューレ刺通部21aと挿入部11との隙間が大きくなるので、カニューレと接合した状態でインフュージョンパイプ10が不安定になることが懸念される。また、このような形状では挿入部11の先端が尖った形状に近くなるので、カニューレパイプに挿入するときに、先端が引っ掛かったりすることも懸念される。
【0027】
一方、図4(a)のように挿入部11の円弧高さが半円よりも大きい場合は、カニューレ刺通部21aと挿入部11との隙間が小さくなるので、カニューレと接合した状態でインフュージョンパイプ10が安定し易い。
【0028】
以上より、挿入部11の円弧高さについては、流量を増やすことを第一に考えるならば、円弧高さをなるべく低くするのが好ましいが、接合時の作業性や安定性を考えると、ある程度円弧高さを確保した方がよい。したがって、総合的に判断すると、インフュージョンパイプ10の断面を、切り欠いていない仮想円形断面の外径の30%~90%の円弧高さにすれば、問題なく、流量を増やしつつ、容易にカニューレと接合できると考えられ、より接合時の安定性を確保したいのであれば、仮想円形断面の外径の50%以上にするのがよい。
【符号の説明】
【0029】
10 インフュージョンパイプ
11 挿入部
12 結合部
13 基部
14 接続部
15 チューブ
20 カニューレ
21 カニューレパイプ
21a カニューレ刺通部
21b カニューレ結合部
22 カニューレベース
E 眼球
図1
図2
図3
図4
図5
図6