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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】段差昇降用車輪装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20220824BHJP
   A61G 5/06 20060101ALI20220824BHJP
   B62B 5/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A61G5/04 710
A61G5/04 701
A61G5/06
B62B5/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018080611
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019187547
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】506130377
【氏名又は名称】田中 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-193159(JP,A)
【文献】特開2004-182217(JP,A)
【文献】特開2006-296632(JP,A)
【文献】米国特許第09757978(US,B1)
【文献】特表2001-520960(JP,A)
【文献】特開2005-153840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/00 - 5/14
B62B 5/02
B62D 55/075
B60B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤとホイールからなる車輪と、
前記車輪と同軸上に設けられ、前記車輪よりも小径な環状レールと、
前記環状レールに沿って滑動自在であり、前記車輪の外径よりも外方へ突出して設けられた突出部分を有する複数の昇降用アームと、
外力が作用していない自由状態において前記複数の昇降用アームを前記環状レールに沿って略等間隔に保持するために、隣接する前記昇降用アーム間に張架された伸縮自在な弾性体と、
前記複数の昇降用アームの前記突出部分に沿って架け渡され、前記車輪の外方からの押圧外力が作用すると作用点を軸心方向へ撓ませる屈曲性を有する段差検出リングと、を備え、
前記複数の昇降用アームのそれぞれは、当該昇降用アームの前記環状レールに沿った滑動における重力の作用する方向への滑動は許可しつつ逆方向への滑動をロックするワンウェイロック機構を有し、
平坦地の走行の際は、前記車輪が接地して走行し、
段差昇降時は、段差の踏み面又は蹴込み面の作用により前記段差検出リングが撓み、撓みに連動して撓み箇所に近接する前記昇降用アームの前記ワンウェイロック機構が作動し、前記ワンウェイロック機構が作動した前記昇降用アームの前記突出部分と段差の踏み面とが噛み合うことにより段差を昇降する
ことを特徴とする段差昇降用車輪装置。
【請求項2】
前記ワンウェイロック機構は、前記環状レールの内周に対向するように前記昇降用アームに形成されたくさび面と、前記くさび面及び前記環状レールの内周に接触することによりくさび作用を発揮するくさび部材とからなり、
前記複数の昇降用アームのそれぞれは、さらに、前記くさび部材を保持すると共に前記段差検出リングの該昇降用アームに近接する部分の撓みに連動してスライドする保持部を有し、
前記くさび部材は、前記段差検出リングが撓んでいない通常状態において前記保持部により前記くさび面および前記環状レールの内周の少なくとも一方に接触しないよう保持され、前記保持部のスライドに連動して前記くさび面及び前記環状レールの内周に接触するよう移動する
請求項1記載の段差昇降用車輪装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子等の車両に装着することにより階段等の段差を車両が昇降可能とするための段差昇降用車輪装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車椅子の利用範囲は平坦地であり、階段等の段差での移動は考慮されていない。そのため、例えば介助者が車椅子ごと持ちあげる必要があり、段差での移動は負担が大きい。従って、段差の昇降を容易にする車両が求められている。
【0003】
段差の昇降が可能な車両には、クローラ方式の車輪を有するものが多い。クローラは、無限軌道、履帯、キャタピラ(登録商標)等と呼ばれる。クローラ方式の車輪は、通常のタイヤ方式の車輪と比較して、不整地での走破性が高いものの、平坦地での走行では、旋回性能が低い、駆動に必要な消費エネルギーが大きいといった問題がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、タイヤ方式とクローラ方式との両方の車輪を備える車両が開示されている。この車両は、平坦地を走行する際におけるタイヤ方式の車輪を接地して駆動する機構と、段差を昇降する際におけるクローラ方式の車輪を接地して駆動する機構とで、駆動機構を切り替えることにより、平坦地での走行におけるタイヤ方式の車輪の利点を確保した上で段差の昇降を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-37147号公報
【文献】特開2002-263144号公報
【文献】特開平10-314231号公報
【文献】特開平10-328241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された車両では、駆動機構を切り替える際に、特別な制御をする必要がある。すなわち、平坦地から段差に移行する際には、タイヤ方式の車輪を浮かせてクローラ方式の車輪を接地させる制御が必要であり、段差から平坦地に移行する際には、クローラ方式の車輪を浮かせてタイヤ方式の車輪を接地させる制御が必要である。この制御のために、車輪の駆動とは別の目的でモータ等の制御部品が必要となり、車両のコストが大きくなり、また、車両が大型化してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、平坦地での走行におけるタイヤ方式の利点を確保した上で段差の昇降を可能とする車輪装置であって、平坦地から段差への移行時に、または、段差から平坦地への移行時に特別な制御の必要のない車輪装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る段差昇降用車輪装置は、タイヤとホイールからなる車輪と、前記車輪と同軸上に設けられ、前記車輪よりも小径な環状レールと、前記環状レールに沿って滑動自在であり、前記車輪の外径よりも外方へ突出して設けられた突出部分を有する複数の昇降用アームと、外力が作用していない自由状態において前記複数の昇降用アームを前記環状レールに沿って略等間隔に保持するために、隣接する前記昇降用アーム間に張架された伸縮自在な弾性体と、前記複数の昇降用アームの前記突出部分に沿って架け渡され、前記車輪の外方からの押圧外力が作用すると作用点を軸心方向へ撓ませる屈曲性を有する段差検出リングと、を備え、前記複数の昇降用アームのそれぞれは、当該昇降用アームの前記環状レールに沿った滑動における重力の作用する方向への滑動は許可しつつ逆方向への滑動をロックするワンウェイロック機構を有し、平坦地の走行の際は、前記車輪が接地して走行し、段差昇降時は、段差の踏み面又は蹴込み面の作用により前記段差検出リングが撓み、撓みに連動して撓み箇所に近接する前記昇降用アームの前記ワンウェイロック機構が作動し、前記ワンウェイロック機構が作動した前記昇降用アームの前記突出部分と段差の踏み面とが噛み合うことにより段差を昇降することを特徴とする。
【0009】
また、前記ワンウェイロック機構は、前記環状レールの内周に対向するように前記アーム本体部に形成されたくさび面と、前記くさび面及び前記環状レールの内周に接触することによりくさび作用を発揮するくさび部材とからなり、前記複数の昇降用アームのそれぞれは、さらに、前記くさび部材を保持すると共に前記段差検出リングの該昇降用アームに近接する部分の撓みに連動してスライドする保持部を有し、前記くさび部材は、前記段差検出リングが撓んでいない通常状態において前記保持部により前記くさび面および前記環状レールの内周の少なくとも一方に接触しないよう保持され、前記保持部のスライドに連動して前記くさび面及び前記環状レールの内周に接触するよう移動するとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る段差昇降用車輪装置は、平坦地では、タイヤ方式の車輪により走行するので平坦地におけるタイヤ方式の車輪の利点をそのまま享受することができる。また、本発明に係る段差昇降用車輪装置は、段差検出リングに段差の踏み面や蹴込み面が作用することで段差検出リングが撓み、その撓みに連動して段差昇降用アームのワンウェイロック機構が作動する構成としている。この構成により、段差昇降用車輪装置が段差に進入するだけで操作者が特別な操作をすることなく自動的に段差昇降用アームのワンウェイロック機構が作動する。そして、ワンウェイロック機構が作動した昇降用アームと段差の踏み面とが噛み合うことにより、車輪の回転だけで段差を昇降するので、特別な制御の必要のなく、平坦地から段差へ、及び、段差から平坦地への移行を行うことができる。
【0011】
また、本発明に係る段差昇降用車輪装置は、段差昇降用アームが環状レールに沿って滑動することにより段差昇降用アームが噛み合うことが可能な任意の高さの段差を昇降することができる。また、ワンウェイロック機構により、一の段差昇降用アームが段差の踏み面と噛み合っている状態のとき、他の段差昇降用アームが段差の蹴込み面と接触しても、当該他の段差昇降用アームは段差の蹴込み面を押さずに重力の作用する方向に滑動する。これにより、段差の踏み面と噛み合っている段差昇降用アームと段差の踏み面との噛み合い幅が小さくなること、及び、それによって段差昇降用車輪装置が段差から滑落してしまうことを防ぐことができる。また、ワンウェイロック機構が作動しても段差昇降用アームは重力の作用する方向への滑動はロックされないので、段差を降りる際に段差の踏み面と噛み合うことになる段差昇降用アームは、段差昇降用車輪装置の荷重がかかる直前までは車輪に連れ回りせず段差の踏み面に接触した状態が維持される。これにより段差をスムーズに降りることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る電動車椅子の構成を示す図である。
図2】段差昇降用車輪装置の構成を示す図である。
図3】段差検出リングを示す模式図である。
図4】スライド部に外力が作用していない状態における、アーム本体部とスライド部とくさび面ブロックとくさびローラとの模式図である。
図5】スライド部に外力が作用している状態における、アーム本体部とスライド部とくさび面ブロックとくさびローラとの模式図である。
図6】段差昇降用アームのワンウェイロック機構が作動する様子を説明する模式図である。
図7】電動車椅子が平坦地を走行する際における、各段差昇降用アームのポジション及び段差検出リングの撓み状態を説明する模式図である。
図8】電動車椅子が段差を昇る動作の一例を説明する図である。
図9】段差昇降用アームのワンウェイロック機構が作動する様子を説明する模式図である。
図10】電動車椅子が段差を昇る動作の一例を説明する図である。
図11】電動車椅子が段差を下降する動作の一例を説明する図である。
図12】段差昇降用アームのワンウェイロック機構が作動する様子を説明する模式図である。
図13】変形例に係る段差昇降用アームの一例を示す図である。
図14】変形例に係る段差昇降用アームの一例を示す図である。
図15】変形例に係る段差昇降用アームの一例を示す図である。
図16】変形例に係る段差昇降用アームの一例を示す図である。
図17】変形例に係る段差昇降用アームの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る電動車椅子100の構成を示す図である。
【0014】
電動車椅子100は、フレーム101と、コントローラ102と、走行用モータ103と、補助輪104と、段差昇降用車輪装置200とを備える。
【0015】
フレーム101は、電動車椅子100の骨格であり、例えば、金属材料で形成されている。コントローラ102は、例えばジョイスティック等の入力機器を有し、入力機器への入力に応じて走行用モータ103を駆動するための制御信号を生成し、生成した制御信号を走行用モータ103へ送信する。走行用モータ103は、2つの段差昇降用車輪装置200のそれぞれに対応して設けられ、コントローラ102の制御により、対応する段差昇降用車輪装置200を回転駆動する。補助輪104は、所謂キャスターであり、フレーム101の左右両側に一対設けられている。段差昇降用車輪装置200は、フレーム101の左右両側に一対設けられ、走行用モータ103により回転駆動されることにより電動車椅子100を走行させるための車輪である。
【0016】
図2は、段差昇降用車輪装置200の構成を示す図である。
【0017】
図2(a)は、電動車椅子100を側面から見た時の段差昇降用車輪装置200を示す模式図である。段差昇降用車輪200は、車輪201と、ガイドレール202,203と、複数の段差昇降用アーム204と、複数の連結バネ205と、段差検出リング206とを備える。
【0018】
車輪201は、金属材料等で形成されたホイールとゴム材料で形成されたタイヤチューブからなるタイヤ方式の車輪である。
【0019】
ガイドレール202,203は、車輪201と同軸上に形成された、車輪201よりも小径な環状の形状をした部材であり、車輪201のホイール部分に固定されている。ガイドレール202は、ガイドレール203よりも小径である。
【0020】
複数の段差昇降用アーム204は、それぞれガイドレール202,203に沿って滑動自在に設けられている。複数の段差昇降用アーム204は、それぞれワンウェイロック機構を有している。ワンウェイロック機構は、作動すると、重力が作用する方向への段差昇降用アーム204の滑動を許可し、逆方向への滑動をロックする。ワンウェイロック機構についての詳細は後述する。複数の段差昇降用アーム204は、それぞれ車輪201の外径よりも外側に突出した部分を有している。上記ワンウェイロック機構が作動した段差昇降用アーム204のこの突出部分が段差の踏み面と噛合った状態で、車輪に連動して回転することにより、電動車椅子100は、段差の昇降を行う。外力が作用していない自由状態においてガイドレール202,203に沿って複数の段差昇降用アーム204を略等間隔に保持するために、隣接する段差昇降用アーム204間には、伸縮自在な弾性体からなる連結バネ205が張架されている。なお、この自由状態で車輪201が回転した場合、ワンウェイロック機構が作動していない各段差昇降用アーム204は、車輪201の回転に連れ回りせず、ガイドレール202,203に沿って自由に滑動する。
【0021】
車輪201の外径よりも外方には、車輪の外方からの押圧外力が作用すると作用点を軸心方向へ撓ませる屈曲性を有する環状の段差検出リング206が設けられている。段差検出リング206は、複数の段差昇降用アーム204の車輪201の外径よりも外方に存在する部位に沿って回転自在に環状にかけ渡されている。段差検出リング206は、例えば、板バネをゴム製のチューブで包むことにより構成されている。
【0022】
図2(b)は、段差昇降用アーム204の詳細を示す模式図であり、段差昇降用アーム204が図2(a)における段差昇降用アーム204Aと同じ位置に位置している状態を示している。また、図2(c)は、図2(b)におけるA-A’線による矢視断面図である。
【0023】
なお、車輪201は、ホイール部207とタイヤチューブ部208により構成されている。
【0024】
段差昇降用アーム204において、図2(c)の左側の面(車輪201のホイール部207に対向する面)を裏面、図2(c)の右側の面を正面として説明する。
【0025】
段差昇降用アーム204は、アーム本体部209と、スライド部210と、ベアリングローラ211と、くさび面ブロック212と、くさびローラ213と、小車輪214とを備える。
【0026】
アーム本体部209の正面には、スライド部210が形成されている。スライド部210は、車輪201の軸心方向にスライド自在に保持されており、スライド部210に対して車輪201の軸心方向に外力が作用すると、スライド部210がアーム本体部209に対して車輪201の軸心方向にスライドする。スライド部210をスライドさせる機構は特に図示しないが公知のスライド機構を用いることができる。また、スライド部210は、車輪201の軸心方向に伸縮する弾性体(不図示)によりアーム本体部と連結されており、スライド部210に対して外力が作用しなくなったときは標準位置に戻るように形成されている。スライド部210は、車輪201の外径よりも外側に突出する部分を有するように形成されている。スライド部210の車輪201の外径よりも外側に突出する部分の裏面には、小車輪カバー210aが形成されており、小車輪カバー210a内に小車輪214が装着されている。この小車輪カバー210a及び小車輪214が、上述した段差の踏み面との噛み合い部分となる。また、スライド部210の車輪201の外径よりも外側に突出する部分の正面には、リング状のフック210bが形成されており、フック210b内に段差検出リング206が車輪201の軸に対して回転自在に環状に保持されている。
【0027】
アーム本体部209の裏面には、ガイドレール202よりも内径側に1つ、ガイドレール203よりも外径側に2つのローラ軸209aが形成されている。ローラ軸209aにはそれぞれベアリングローラ211が装着されており、ガイドレール202の内側のベアリングローラ211と、ガイドレール203の外側のベアリングローラ211により、ガイドレール202、203を挟み込む構造となっている。ガイドレール202の内周及びガイドレール203の外周は溝状に形成されており、溝内にベアリングローラ211入り込んでいる。これにより、ベアリングローラ211がガイドレール202,203から外れることがないようになっている。ベアリングローラ211が回転することにより、段差昇降用アーム204が、ガイドレール202,203に沿ってスムーズに滑動する。
【0028】
アーム本体部209の裏面には、ガイドレール202よりも外径側かつガイドレール203よりも内径側にくさび面ブロック212が固定されている。くさび面ブロック212には、ガイドレール203の内周と対向する面にくさび面を有している。そして、くさび面ブロック212とガイドレール203の内周との間にくさびローラ213が設けられている。くさびローラ213は、スライド部210に外力が働かない自由状態においては、くさび面ブロック212のくさび面又はガイドレール203の内周との少なく一方とは接触しないように、後述するスライド部210の保持爪210cに保持されている。なお、このくさび面ブロック212とくさびローラ213と保持爪210cとにより、上述のワンウェイロック機構が構成されている。
【0029】
上述のガイドレール202,203や、段差昇降用アーム204の各構成要素は、例えば、金属材料により形成されている。また、炭素繊維などで強化したプラスチックで形成されていてもよい。
【0030】
図3は、段差検出リング206を示す模式図である。図3(a)は、段差検出リング206に外力が作用していない状態を、図3(b)は、段差検出リング206に外力が作用している状態を示している。
【0031】
段差検出リング206は、外力が作用していない自由状態においては、図3(a)に示すように、略円形を保持している。一方、段差検出リング206は、車輪の外方から円周方向における任意の角度より押圧外力が作用すると、図3(b)に示すように、作用点が軸心方向へ撓む屈曲性を有している。図の符号206aで示した部分が、外力により段差検出リング206が撓んだ部分である。この撓み部分206aの範囲に段差昇降用アーム204が存在する場合、段差検出リング206に作用する外力が、スライド部210のフック210bを介してスライド部210に伝達され、スライド部210がアーム本体部209に対してスライドすることになる。すなわち、段差検出リング206の撓みに連動してスライド部210がアーム本体部209に対してスライドすることになる。
【0032】
次に、段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構の詳細について図4乃至6を用いて説明する。
【0033】
図4は、スライド部210に外力が作用していない状態における、アーム本体部209とスライド部210とくさび面ブロック212とくさびローラ213との関係を説明するための模式図である。図4(a)は、アーム本体部209及びスライド部210の正面を示している。図4(b)は、アーム本体部209及びスライド部210の裏面を示している。図4(c)は、アーム本体部209及びスライド部210の側面を示している。
【0034】
図に示すように、スライド部210には、保持爪210cが形成されており、スライド部210に外力が作用していない状態では、保持爪210cによりくさびローラ213が保持されている。
【0035】
図5は、スライド部210に外力が作用し、スライド部210が車輪201の軸心方向にスライドした状態における、アーム本体部209とスライド部210とくさび面ブロック212とくさびローラ213との関係を説明するための模式図である。図5(a)は、アーム本体部209及びスライド部210の正面を示している。図5(b)は、アーム本体部209及びスライド部210の裏面を示している。図5(c)は、アーム本体部209及びスライド部210の側面を示している。
【0036】
図に示すように、スライド部210が車輪201の軸心方向にスライドにすることにより、くさびローラ213が保持爪210cから外れ、くさびローラ213が任意の方向に移動可能な状態となる。
【0037】
図6は、段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構が作動する様子を説明する模式図である。図6(a)は、スライド部210に外力が作用していない状態を示している。図6(b)は、スライド部210に外力が作用してくさびローラ213が保持爪210cから外れている様子を示している。図6(c)は、重力の作用する方向にくさびローラ213が移動することにより、ワンウェイロック機構が作動している様子を示している。
【0038】
スライド部210に外力が作用していない状態では、図6(a)に示すように、くさびローラ213は、ガイドレール203の内周と接触しないように保持爪210cに保持されている。なお、図6(a)では、くさびローラ213は、くさび面ブロック212のくさび面212a,212bと接触する形で保持されているが、くさびローラの保持形態はこれには限られない。ガイドレール203の内周とくさび面ブロックのくさび面(212a,212b)とのうち、少なくともいずれか一方と接触しない形態で保持されていればよい。
【0039】
なお、くさび面212aは、段差昇降用アーム204が図の下方向に滑動するのをロックするためのくさび面であり、くさび面212bは、段差昇降用アーム204が図の上方向に滑動するのをロックするためのくさび面である。
【0040】
この状態で、スライド部210が車輪201の軸心方向(図の右方向)にスライドすると、図6(b)に示すように、くさびローラ213が保持爪210cから外れ、くさびローラ213が図の上下任意の方向に移動可能な状態となる。
【0041】
そして、図6(c)に示すように、重力により重力の作用する方向にくさびローラ213が移動すると、くさびローラ213は、くさび面ブロックのくさび面212b及びガイドレール203の内周の両方と接触する。この状態で、くさび面ブロック212が固定されている段差昇降用アーム204が図の上方向に滑動しようとすると、くさびを打ち込む方向に、くさびローラ213がくさび面212bとガイドレール203に作用する。従って、くさび効果により、くさび面ブロック212とガイドレール203とが強固に連結され、くさび面ブロック212が固定されている段差昇降用アーム204がガイドレール202,203に沿って上方向に滑動することができなくなる。すなわち、段差昇降用アーム204のガイドレール202,203に沿った滑動のうち、上方向への滑動がロックされる。逆に、この状態で、くさび面ブロック212が固定されている段差昇降用アーム204がガイドレールに対して下方向(重力の作用する方向)に滑動しようとすると、くさびが緩む方向に、くさびローラ213がくさび面212bとガイドレール203に作用する。従って、くさび効果は発揮されず、くさび面ブロック212とガイドレール203とは連結されないため、くさび面ブロック212が固定されている段差昇降用アーム204がガイドレール202,203に沿って下方向に滑動することができる。
【0042】
まとめると、段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構が作動するメカニズムは以下の通りである。段差検出リング206に外力が作用すると、段差検出リング206が撓む。段差検出リング206の撓みに連動して段差検出リング206の撓み部分に存在する段差昇降用アーム204のスライド部210が車輪201の軸心方向にスライドする。スライド部210のスライドに連動してくさびローラ213が保持爪210cから外れ、重力の作用する方向にくさびローラ213が落ち込み、くさびローラ213がくさび面ブロック212のくさび面とガイドレール203の内周の両方に接触する。くさび効果により、段差昇降用アーム204は、重力に反する方向へのガイドレール202,203に沿った滑動がロックされる。一方、段差昇降用アーム204は、重力の作用する方向へのガイドレール202,203に沿った滑動はロックされない。このようにして、段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構が作動する。なお、段差検出リング206を介さず、段差昇降用アーム204のスライド部210に直接外力が作用した場合も同様に段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構が作動する。
【0043】
図7は、電動車椅子100が平坦地を走行する際における、各段差昇降用アーム204のポジション及び段差検出リング206の撓み状態を説明する模式図である。
【0044】
図7(a)は、平坦地を走行する際における各段差昇降用アーム204のポジションを示している。図に示すように、平坦地を走行する際には、車輪201が地面300と接触している状態で走行する。地面300からの反発力により段差昇降用アーム204のうち段差昇降用アーム204aと段差昇降用アーム204gとの間隔が大きくなり、その他の段差昇降用アーム204間の間隔が略等間隔に保たれている。
【0045】
図7(b)は、平地を走行する際における段差検出リング206の撓み状態を示している。図に示すように、地面300からの反発力により地面300との接触部分に撓み部206bが生じている。このとき、段差昇降用アーム204aと段差昇降用アーム204gとを含むすべての段差昇降用アーム204は、この撓み部分206bの外に存在するため、ワンウェイロック機構は作動せず、車輪201に固定されたガイドレール202,203に沿って自由に滑動できる状態である。従って、電動車椅子100の走行において車輪201が回転しても、各段差昇降用アーム204は、図7(a)のポジションを維持したままとなる。このように、電動車椅子100が平坦地を走行する際には、タイヤ方式の車輪である車輪201により走行するので、平坦地におけるタイヤ方式の車輪の利点をそのまま享受することができる。
【0046】
図8は電動車椅子100が段差を昇る動作の一例を説明する図である。なお、電動車椅子100は、段差昇降時は、後ろ向きに進む(図1における右方向に進む)ものとする。図8においては、車輪201は、時計回りに回転して右向きに(a)から(e)の順に進むものとして説明する。
【0047】
図8(a)に示すように、段差検出リング206が段差の蹴込み面302又は踏み面303に接触するまでは、複数の段差昇降用アーム204は、図7(a)で示した平坦地での走行と同じポジションをとり車輪201が地面301に接触した状態で電動車椅子100が走行する。
【0048】
図8(b)に示すように、段差検出リング206が段差の蹴込み面302又は踏み面303に接触すると、接触した部分を作用点として段差検出リング206が撓む。そして、段差検出リング206の撓みに連動して、段差検出リング206の撓み部分に近接する段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構が作動する。
【0049】
図9は、図8(b)においてワンウェイロック機構が作動する仕組みを説明するための模式図である。図に示すように、段差検出リング206の撓み範囲206cに含まれる段差昇降用アーム204bにおいて、段差検出リング206の撓みに連動してスライド部210が車輪201の軸心方向にスライドするため、くさびローラ213が保持爪210cから外れて重力の作用する方向に移動し、くさびローラ213がくさび面212b及びガイドレール203の内周に接触する。従って、段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構が作動し、段差昇降用アーム204bは、ガイドレール202,203に沿って時計回りに滑動することは可能であるが、反時計回りには滑動することができない状態になる。
【0050】
このように、段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構が作動した状態で、車輪201が時計回りに回転すると、段差昇降用アーム204bにおける車輪201の外径よりも外側に突出している部分が踏み面303と噛み合い、図8(c)に示すように、車輪201が地面301から浮き、段差昇降用アーム204bにより車輪201が支えられる状態になる。
【0051】
この状態でさらに車輪201が時計回りに回転すると、図8(d)に示すように、車輪201が段差昇降用アーム204bに乗り上げた状態となる。図8(c)から図8(d)に至るまでに、蹴込み面302及び踏み面303と段差検出リング206とが離間するが、車輪201が段差昇降用アーム204bに乗り上げた状態であるため車輪201の荷重に対する踏み面303の反発力が段差昇降用アーム204bのスライド部210に作用し、スライド部210のスライドが維持された状態になる。従って、蹴込み面302及び踏み面303と段差検出リング206とが離間した状態でも段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構は作動したままの状態が維持されたまま図8(d)の状態に至る。
【0052】
なお、スライド部のスライドが仮に維持されなかったとしても図8(d)の状態に至るまでは、くさびローラ213にはくさびが打ち込まれる方向に重力が作用し続けるため、ワンウェイロック機構は作動したままの状態が維持される。
【0053】
さらに車輪201が時計回りに回転すると、段差昇降用アーム204bにくさびが抜ける方向に荷重が掛かり、くさびローラ213に重力が作用して、図9におけるくさび面212bに接触している状態からくさび面212aに接触している状態に、くさびローラ213が移動する。これにより、段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構のロック方向が切り替わり、段差昇降用アーム204bは、ガイドレール202,203に沿って反時計回りに滑動することは可能であるが、時計回りには滑動することができない状態になる。
【0054】
この状態でさらに車輪201が回転すると車輪201が接地することにより車輪201の荷重に対する踏み面303の反発力がスライド部210には作用しなくなる。そのため、スライド部210がスライドしていない状態に戻り、くさびローラ213が保持爪210cに保持された状態に戻り、段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構が解除される。このようにして、図8(e)の状態に至る。
【0055】
以上が、電動車椅子100における段差を昇る動作である。
【0056】
図10を用いて電動車椅子100が段差を昇る動作をさらに説明する。図8の時と同様に、車輪201は、時計回りに回転して右向きに(a)から(c)の順に進むものとして説明する。図10の段差は、図8と比較して、蹴込み面302の高さが異なっている。図8では、蹴込み面の高さが、進行方向前方の段差昇降用アーム204(204b)よりも低い場合における、段差を昇る動作を説明した。図10では、蹴込み面の高さが、進行方向前方の段差昇降用アーム204(204b)よりも高い場合における、段差を昇る動作を説明する。
【0057】
図10(a)は、平坦地を走行していた車輪201の進行方向前方の段差昇降用アーム204bが蹴込み面302に接触した状態である。この状態でさらに車輪201が時計回りに回転して前方に進行すると、蹴込み面302からの反発力が段差昇降用アーム204bのスライド部210に直接作用し、段差昇降用アーム204bのスライド部210がスライドする。その結果、段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構が作動し、時計回り(重力の作用する方向)に滑動することは可能であるが、反時計回りに滑動することはできない状態になる。
【0058】
車輪201がさらに時計回りに回転すると、段差昇降用アーム204bは反時計回りに滑動できない状態のため、車輪201と連結して段差昇降用アーム204bも時計回りに回転する。
【0059】
段差昇降用アーム204bが時計回りに回転することにより、段差昇降用アーム204bと連結バネ205(図2(a)参照)で連結されている段差昇降用アーム204cが、段差昇降用アーム204bと所定の距離を保つように移動する。また、段差昇降用アーム204bが時計回りに回転することにより、段差昇降用アーム204aが車輪201の下方に押し込まれる。つまり、車輪201が段差昇降用アーム204aの上方に乗り上げる。その結果、図10(b)に示すように、段差昇降用アーム204cにおける車輪201の外径よりも外側に突出している部分が、踏み面303に乗り上げる形となる。そして、蹴込み面302及び踏み面303の作用により、段差検出リング206の段差昇降用アーム204cに近接する部分が撓み、段差昇降用アーム204cのワンウェイロック機構が作動する。
【0060】
段差昇降用アーム204cのワンウェイロック機構が作動した状態で、車輪201が時計回りに回転すると、段差昇降用アーム204cにおける車輪201の外径よりも外側に突出している部分が踏み面303と噛み合い、図10(c)に示すように、車輪201が地面301から浮き、段差昇降用アーム204cにより車輪201が支えられる状態になる。
【0061】
そのあとの動作については、踏み面303と噛み合っている段差昇降用アーム204が段差昇降用アーム204bではなく段差昇降用アーム204cである点を除いて図8(d),(e)と同様であり、説明を省略する。
【0062】
図8,10で示したように動作することで、電動車椅子100は、段差昇降用アーム204が噛み合うことのできる任意の高さの段差を昇ることができる。
【0063】
なお、図10では、蹴込み面302からの反発力により段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構が作動するとしているが、段差昇降用アーム204bの角度や蹴込み面の角度などの要因により、段差昇降用アーム204bのワンウェイロック機構が作動する前に、段差昇降用アーム204bが下方向に滑動し、それに連動して段差昇降用アーム204cが下りてきて踏み面と噛み合うこともあり得る。また、段差昇降用アーム204bが上方向に滑動し、段差昇降用アーム204bが踏み面303と噛み合うこともあり得る。それらの場合でも、同様に段差を昇ることができる。
【0064】
なお、図8、10では、蹴込み面302のある段差を昇る様子を示しているが、本実施の形態に係る電動車椅子100は、所謂スケルトン階段のような蹴込み面302のない段差も同様に昇ることができる。蹴込み面302のない段差の場合は、踏み面の303の下側に車輪201が一部潜りこむことにより、蹴込み面302のある段差と比較して、段差検出リング206のより上側に存在する部分を撓ませることができる。従って、蹴込み面302のない階段の場合は、蹴込み面302のある段差と比較して、より高い段差を昇ることができる。
【0065】
図11は、電動車椅子100が段差を下降する動作の一例を説明する図である。図11においては、車輪201は、時計回りに回転して右向きに(a)から(d)の順に進むものとして説明する。
【0066】
図11(a)に示すように、平坦地では複数の段差昇降用アーム204は、図7(a)で示したポジションをとり、車輪201が地面300(踏み面304)に接触した状態で電動車椅子100が走行する。このとき、図7(b)で示したように、段差検出リング206は、地面300(踏み面304)に接触している部分が撓んでいるが、いずれの段差昇降用アーム204も、段差検出リング206の撓み範囲には含まれない。従って、いずれの段差昇降用アーム204もワンウェイロック機構は作動していない状態である。
【0067】
図11(b)に示すように段差昇降用アーム204aが蹴込み面305を超えてからさらに車輪201が進むと、段差検出リング206の撓み範囲に段差昇降用アーム204gが含まれるようになり、段差昇降用アーム204gのワンウェイロック機構が作動する。
【0068】
図12は、図11(b)において段差昇降用アーム204gのワンウェイロック機構が作動する仕組みを説明するための模式図である。図に示すように、段差検出リング206の撓み範囲206dに含まれる段差昇降用アーム204gにおいて、段差検出リング206の撓みに連動してスライド部210が車輪201の軸心方向にスライドするため、くさびローラ213が保持爪210cから外れて重力の作用する方向に移動し、くさびローラ213がくさび面212b及びガイドレール203の内周に接触する。従って、段差昇降用アーム204gのワンウェイロック機構が作動し、段差昇降用アーム204gは、ガイドレール202,203に沿って反時計回りに滑動することは可能であるが、時計回りには滑動することができない状態になる。
【0069】
このように、段差昇降用アーム204gのワンウェイロック機構が作動した状態で、車輪201が時計回りに回転する(右方向に進行する)と、段差昇降用アーム204gにおける車輪201の外径よりも外側に突出している部分が踏み面304と噛み合い、図11(c)に示すように、車輪201が踏み面304を通過し、段差昇降用アーム204gにより車輪201が支えられる状態になる。ワンウェイロック機構が作動しても段差昇降用アーム204gの重力の作用する方向への滑動はロックされないので、段差昇降用アーム204gは、荷重がかかる直前までは車輪201に連れ回りせず段差の踏み面304に接触した状態が維持される。これにより車輪201から段差昇降用アーム204gへスムーズに荷重が移動する。
【0070】
この状態でさらに車輪201が時計回りに回転することにより、車輪201は、段差昇降用アーム204gにより支えられながら図面の下方向に下降していき、車輪201が地面306に接地すると車輪201は図面の右方向に進行する。そして、車輪201は図面の右方向に進行することにより、踏み面304及び蹴込み面305が段差検出リングに作用しなくなるため段差昇降用アーム204gのワンウェイロック機構が解除され、図11(d)に示す状態に至る。
【0071】
図11で示したように動作することで、電動車椅子100は、段差昇降用アーム204gが噛み合うことのできる任意の高さの段差を下降することができる。
【0072】
以上説明したように、本実施の形態に係る電動車椅子100は、段差昇降用アーム204が噛み合うことのできる任意の高さの段差を昇降することが可能である。また、平坦地では、タイヤ方式の車輪である車輪201により走行するので平坦地におけるタイヤ方式の車輪の利点をそのまま享受することができる。
【0073】
また、本実施の形態に係る電動車椅子100は、屈曲性を有する段差検出リング206に円周方向における任意の角度より段差の踏み面や蹴込み面が接触することで段差検出リング206が撓み、その撓みに連動して段差昇降用アーム204のワンウェイロック機構が作動する構成としている。この構成により、電動車椅子100が段差に進入するだけで操作者が特別な操作をすることなく自動的にワンウェイロック機構が作動する。そして、ワンウェイロック機構が作動した段差昇降用アーム204と段差の踏み面とが噛み合うことにより、車輪201の回転だけで段差を昇降するので、特別な制御の必要のなく、平坦地から段差へ、及び、段差から平坦地への移行を行うことができる。
【0074】
(補足)
本発明は上記の実施の形態で説明した内容に限定されず、本発明の目的とそれに関連又は付随する目的を達成するためのいかなる形態においても実施可能であり、例えば、以下であってもよい。
【0075】
(1)上述の実施の形態に係る電動車椅子100は、重心を移動する仕組みが搭載されていないため、段差の昇降において重心を保つためには、介助者の介助が必要である。しかしながら、電動車椅子において、重心を保つ技術は周知であり、例えば、特許文献1-4などに開示されている。従って、本発明の電動車椅子に、周知の重心を保つ技術を組み合わせることにより、段差昇降用アーム204が噛み合うことのできる任意の高さの段差を介助者なしで安全に昇降可能な電動車椅子を実現することが可能である。
【0076】
(2)段差昇降用アーム204の構成は、下記に示すものであってもよい。
【0077】
図13及び図14は、変形例に係る段差昇降用アーム204を説明するための模式図である。図13は、スライド部に外力が作用していない状態における、段差昇降用アーム204を示し、図14は、スライド部に外力が作用している状態における、段差昇降用アーム204を示している。図13(a)及び図14(a)は、段差昇降用アーム204の正面を示している。図13(b)及び図14(b)は、段差昇降用アーム204の裏面を示している。図13(c)及び図14(c)は、段差昇降用アーム204の側面を示している。
【0078】
図13に示すように、変形例に係る段差昇降用アーム204は、アーム本体部400と、スライド部401とを備える。実施の形態と同様に、ベアリングローラ211と、くさび面ブロック212と、くさびローラ213も備えているが説明を省略する。
【0079】
アーム本体部400の裏面には、小車輪カバー403が固定されている。アーム本体部400及び小車輪カバー403には、図の上下方向に長いスライド孔400a及び403aが開設されている。そして、小車輪214の車輪軸402がスライド孔400a及び403aを貫通している。これにより小車輪214は、アーム本体部400及び小車輪カバー403に対して車輪201の軸心方向にスライド自在に保持されている。
【0080】
スライド部401は、図4図5におけるスライド部210のフック部210b、保持爪210cと同様にフック部401a、保持爪401bを備える。また、スライド部401は、上述の実施の形態と同様に、アーム本体部400によって車輪201の軸心方向にスライド自在に保持されている。
【0081】
ここで、小車輪214に対して車輪210の軸心方向(図の上方向)に外力が作用すると、図14に示すように小車輪214がアーム本体部400に対して車輪201の軸心方向にスライドする。そして、小車輪214の車輪軸402に押されることによってスライド部401もアーム本体部400に対して車輪201の軸心方向にスライドする。そして、上述の実施の形態と同様にくさびローラ213が保持爪401bから外れ、ワンウェイロック機構が作動する。
【0082】
段差昇降用アーム204は、このように小車輪214に作用する外力をスライド部401に伝達してワンウェイロック機構を作動させる構成であってもよい。
【0083】
(3)段差昇降アーム204は、図15に示すように、くさびローラ213の移動方向を規定するためのガイド部材410を備えていてもよい。ガイド部材410により、保持爪210cから外れたくさびローラ213の移動方向は、図15(a)の左右方向のみに限定される。
【0084】
(4)上述の実施の形態において、段差昇降用アーム204は、段差検出リング206の撓み又はスライド部210に直接作用する外力によりスライドし、ワンウェイロック機構が作動するものと説明した。ここで、段差昇降用アーム204は、意図しない作動を抑制する目的で、特定の方向からの外力による段差検出リング206の撓みによっては、ワンウェイロック機構が作動しないようにする機構を備えてもよい。
【0085】
図16図17は、特定の方向からの外力に対してワンウェイロック機構の作動を抑制する機構を備えた段差昇降用アーム204の模式図である。図16(a)及び図17(a)は、段差昇降用アーム204の表面を示し、図16(b)及び図17(b)は、段差昇降用アーム204の側面を示している。
【0086】
段差昇降用アーム204のアーム本体部209は、回転軸420及び振り子部材421を備える。そして、振り子部材421には、スライド抑制面421aが形成されており、重力によって、常にスライド抑制面421aが地面側を向く。段差昇降用アーム204のスライド部210には、スライド抑制ブロック422が形成されている。
【0087】
ここで、図16に示すように、スライド抑制面421aがスライド抑制ブロック422と対向する位置に存するときは、スライド抑制面421aによってスライド部209のスライドが抑制されて、ワンウェイロック機構は作動しない。逆に、図17に示すように、スライド抑制面421aがスライド抑制ブロックと対向する位置に存しないときは、スライド部209のスライドは抑制されずワンウェイロック機構が作動する。ここでは、地面方向からの外力に対するワンウェイロック機構の作動を抑制する場合について説明したが、振り子部材421において、重力方向とはべつの方向にスライド抑制面421aを形成することにより任意の角度からの外力に対してワンウェイロック機構の作動を抑制させることができる。また、スライド抑制ブロック422を所定以上の外力により伸縮する材料で構成することにより、所定以上の外力が掛かったときのみスライドさせること、すなわち所定以上の外力が掛かったときのみワンウェイロック機構を作動させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
電動車椅子の車輪として有用である。また、運搬用の台車の車輪としても有用である。
【符号の説明】
【0089】
200 段差昇降用車輪装置
201 車輪
202,203 ガイドレール
204 段差昇降用アーム
205 連結バネ
206 段差検出リング
207 ホイール部
208 タイヤチューブ部
209 アーム本体部
210 スライド部
211 ベアリングローラ
212 くさび面ブロック
213 くさびローラ
214 小車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17