(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】機能性ポリオレフィンフィルムでコーティングされた紙
(51)【国際特許分類】
D21H 19/20 20060101AFI20220824BHJP
B32B 29/06 20060101ALI20220824BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220824BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220824BHJP
C09D 123/08 20060101ALI20220824BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20220824BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220824BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220824BHJP
【FI】
D21H19/20 A
B32B29/06
B32B27/30 A
C09D5/02
C09D123/08
C09D133/04
C09D7/63
C09D7/65
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018101074
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-05-17
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・エム・カッツェンスタイン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ・ディー・ロミック
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-520117(JP,A)
【文献】特表2016-507614(JP,A)
【文献】特表2011-503386(JP,A)
【文献】特表2014-514370(JP,A)
【文献】特開昭52-008108(JP,A)
【文献】特表2018-524199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙または板紙上にオムニフォビック単層コーティングを調製する方法であって、
a)水、分散剤、ベースポリマー、及び中和剤を含む組成物を紙または板紙上に塗布する工程と、
b)前記組成物を加熱して、1~20g/m
2の範囲のコーティング重量密度
、10g/m
2
未満のコッブ値及び10パーセント未満の油汚染を有する硬化フィルムを生成する工程と、を含み、
前記分散剤と前記ベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成し、
前記分散剤は、エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーであり、前記コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲であり、前記分散剤は、前記硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、
前記ベースポリマーは、エチレンの構造単位及びC
1-C
12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含み、エチレンの構造単位対前記C
1-C
12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比は99.8:0.2~50:50の範囲であり、
前記組成物中の前記ベースポリマーの濃度は10g/m
2
未満のコッブ値及び10パーセント未満の油汚染を有する硬化フィルムを形成するのに十分であり、
前記中和剤は、アンモニアまたは250℃未満の沸点を有する有機塩基であり、前記中和剤の濃度が、前記分散剤に関する前記カルボン酸基の少なくとも半分を中和するのに十分である、方法。
【請求項2】
前記硬化フィルムは、2~12g/m
2の範囲のコーティング重量密度を有し、
前記分散剤は、エチレンとアクリル酸またはメタクリル酸とのコポリマーであり、
前記ベースポリマーは、エチレン-コ-メチルアクリレート、エチレン-コ-エチルアクリレート、またはエチレン-コ-ブチルアクリレートであり、
前記中和剤は、アンモニアまたはアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化フィルムは、4~10g/m
2の範囲のコーティング重量密度を有し、エチレンの構造単位対アクリル酸またはメタクリル酸の構造単位の重量対重量比が、90:10~75:25の範囲であり、前記分散剤の濃度は前記硬化フィルムの重量に基づいて10~40パーセントの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベースポリマーの濃度が、10g/m
2未満のコッブ値及び
0パーセントの油汚染を有する硬化フィルムを形成するのに十分である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ベースポリマー濃度は、前記硬化フィルムの重量に基づいて2~75重量パーセントの範囲である、請求項
1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記組成物は、前記硬化フィルムの重量に基づいて5~10重量パーセントの高分子カップリング剤をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記組成物は、前記硬化フィルムの重量に基づいて最大85重量パーセントのエチレン-コ-オクテンまたはエチレン-コ-ヘキセンコポリマーをさらに含む、請求項5または6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、前記硬化フィルムの重量に基づいて最大5重量パーセントのワックスをさらに含む、請求項5、6、または7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
1~12g/m
2の硬化高分子フィルムを重ねた紙または板紙を含む物品であって、
前記硬化高分子フィルムは10g/m
2
未満のコッブ値及び10パーセント未満の油汚染を有し、前記高分子フィルムは、
a)エチレンの構造単位及びC
1-C
12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含むベースポリマーであって、エチレンの構造単位及び前記C
1-C
12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比が、99.8:0.2~50:50の範囲である、ベースポリマーと、
b)エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーである分散剤であって、前記コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲である、分散剤と、を含み、
前記分散剤は、前記硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、前記分散剤と前記ベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成
し、
前記硬化高分子フィルム中の前記ベースポリマーの濃度は10g/m
2
未満のコッブ値及び10パーセント未満の油汚染を有する硬化高分子フィルムを形成するのに十分である、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン粒子の水性分散液でコーティングされた紙及びこの分散液から生じるポリオレフィンフィルムでコーティングされた紙を含む物品に関する。
【0002】
広範囲の用途に使用するための紙または板紙のコーティングは、水、油、及び酸を含む広範囲の物質にバリアを提供することが知られている。典型的には、紙ドリンクカップに使用されるような高性能コーティングは、押出コーティングまたは溶融ポリオレフィン樹脂を紙に直接ラミネーションすることによって調製される。このプロセスは、基材上で連続的な被覆を提供して、カップに入れられた液体が紙を汚染するかまたは完全に浸透し、それにより物品の構造的故障が引き起こされることを防止する。しかし、これらの押出コーティングの優れたバリア特性にもかかわらず、現状の押出法の限界は、所望のバリア特性を達成するのに必要なものよりもはるかに厚いコーティング層を必要とするため、ポリオレフィンが浪費される。現在、押出によって製造されたコーティングは、著しく低いコーティング重量で十分である場合、少なくとも15g/m2のコーティング重量を有する。
【0003】
紙及び板紙用の液体塗布バリアコーティングは、当該技術分野において記述されている。例えば、出願第US2006/0063877号は、白色度を改善するための紙コーティング用途に有用な、オレフィンコポリマーの水性分散液を記載している。出願第US2016/0145806号は、撥水性層として使用するための分散可能なエチレン-(メタ)アクリル酸コポリマーを開示している。それでもなお、本発明は、疎水性及び親水性材料に対する広範囲のバリアを達成するために別個の層を必要とする。
【0004】
したがって、性能に悪影響を及ぼすことなく基材に塗布されたポリマーバリア層の量を減少させることは、コーティングされた紙または板紙の分野における進歩である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、1つの態様において、紙または板紙上へのオムニフォビック性単層コーティングの調製方法であって、
a)水、分散剤、ベースポリマー、及び中和剤を含む組成物を紙または板紙上に塗布する工程と、
b)組成物を加熱して、1~20g/m2の範囲のコーティング重量密度を有する硬化フィルムを生成する工程と、を含み、
分散剤とベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成し、
分散剤は、エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーであり、コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲であり、分散剤は、硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、
ベースポリマーは、エチレンの構造単位及びC1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含み、エチレンの構造単位対C1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比は99.8:0.2~50:50の範囲であり、
中和剤は、アンモニアまたは250℃未満の沸点を有する有機塩基であり、中和剤の濃度が、分散剤に関するカルボン酸基の少なくとも半分を中和するのに十分である、方法を提供することによって必要性に対処する。
【0006】
第2の態様において、本発明は、1~12g/m2の硬化高分子フィルムを重ねた紙または板紙を含む物品であって、高分子フィルムは、
a)エチレンの構造単位及びC1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含むベースポリマーであって、エチレンの構造単位対C1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比が99.8:0.2~50:50の範囲である、ベースポリマーと、
b)エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーである分散剤であって、コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲である、分散剤と、を含み、
分散剤は、硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、分散剤とベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成する、物品である。
【0007】
本発明は、多種多様な物質に対する耐汚染性を維持するオムニフォビックバリア層の比較的薄いコーティングを有するコーティングされた紙または板紙を製造する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
第1の態様において、本発明は、紙または板紙上にオムニフォビック単層コーティングを調製する方法であって、
a)水、分散剤、ベースポリマー及び中和剤を含む組成物を紙または板紙上に塗布する工程と、
b)組成物を加熱して、1~20g/m2の範囲のコーティング重量密度を有する硬化フィルムを生成する工程と、を含み、
分散剤とベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成し、
分散剤は、エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーであり、コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲であり、分散剤は、硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、
ベースポリマーは、エチレンの構造単位及びC1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含み、エチレンの構造単位及びC1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比は99.8:0.2~50:50の範囲であり、
中和剤は、アンモニアまたは250℃未満の沸点を有する有機塩基であり、中和剤の濃度が、分散剤に関するカルボン酸基の少なくとも半分を中和するのに十分である、方法である。
【0009】
分散剤、ベースポリマー、及び中和剤を含む水性分散液である組成物は、連続法またはバッチ法によって調製することができる。好ましい連続法の例は、U.S.8,722,787、比較例Eに記載されているような二軸スクリュー押出しである。バッチ法は、例えば、高粘性材料を混合するためのデュアルインターメッシングコニカルブレードを使用するコニカルバッチミキサーである、2CVヘリコンミキサーを使用して実施することができる。水性分散液中のポリマーの濃度は、水及びポリマーの濃度に基づいて、好ましくは20重量パーセントから、より好ましくは25重量パーセントから、最も好ましくは30重量パーセントから、好ましくは50重量パーセントまで、より好ましくは45重量パーセントまでの範囲である。
【0010】
分散剤は、エチレンと、アクリル酸、メタクリル酸、またはイタコン酸などのカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーである。本明細書で使用される場合、指定されたモノマーの「構造単位」という用語は、重合後のモノマーの残部を指す。例えば、メチルメタクリレートの構造単位は、図示の通りであり、
【0011】
【0012】
式中、点線は構造単位のポリマー主鎖への結合点を表す。
【0013】
コポリマーは190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックス(ASTM D1238による)を有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は、分散剤の重量に基づいて、95:5重量パーセントから、好ましくは90:10重量パーセントから、より好ましくは85:15重量パーセントから、70:30重量パーセントまで、好ましくは75:25重量パーセントまでである。分散剤の濃度は、硬化フィルムの重量に基づいて、好ましくは10重量パーセントから、より好ましくは15重量パーセントから、好ましくは40重量パーセントまで、より好ましくは30重量パーセントまでの範囲である。適切な市販の分散剤の例には、PRIMACOR(商標)5980iコポリマー及びNUCREL(商標)2806コポリマー(The Dow Chemical Companyまたはその関連会社の商標)が含まれる。
【0014】
ベースポリマーは、エチレンの構造単位及びC1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含むコポリマーであり、エチレンの構造単位対C1-C12アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比は、99.8:0.2から、好ましくは99.7:0.3から、より好ましくは99.6:0.4から、50:50まで、より好ましくは60:40まで、最も好ましくは65:35までの範囲である。好ましいベースポリマーには、エチレン-コ-メチルアクリレート、エチレン-コ-エチルアクリレート、及びエチレン-コ-ブチルアクリレートを含む。組成物中のベースポリマーの濃度は、10g/m2未満のコッブ値及び10パーセント未満、好ましくは5パーセント未満、より好ましくは0パーセントの油汚染を有する硬化フィルムを形成するのに十分である。好ましくは、ベースポリマーの濃度は、硬化フィルムの重量に基づいて、好ましくは1重量パーセントから、より好ましくは2重量パーセントから、90重量パーセントまで、より好ましくは80重量パーセントまで、最も好ましくは75重量パーセントまでの範囲である。ベースポリマーの市販の例には、AMPLIFY(商標)EA103ファンクショナルポリマー、ELVALOY(商標)AC34035エチレンブチルアクリレートコポリマー、及びAC1609エチレンメチルアクリレートコポリマーである(AMPLIFY及びELVALOYは、The Dow Chemical Companyまたはその関連会社の商標である)。
【0015】
中和剤としては、250℃未満の沸点を有する有機塩基、好ましくはアンモニアまたはアミンであり、N,N-ジメチルエタノールアミン、ジエチルアミン、及びモルホリンなどの適切なアミンの例が挙げられる。中和剤の濃度は、分散剤中のカルボン酸基の少なくとも半分を中和するのに十分な高さである。例えば、分散剤が0.05molのカルボン酸基を含む場合、少なくとも0.025molのアミン、例えばN,N-ジメチルエタノールアミンが必要とされる。したがって、中和剤、好ましくはアミン基またはアンモニア中の塩基性官能基対分散剤中のカルボン酸基の比は、少なくとも0.5:1である。好ましくは、比は0.7:1から、より好ましくは0.9:1から、及びより好ましくは1.1:1から、好ましくは3:1まで、より好ましくは2.5:1までの範囲である。
【0016】
組成物は、分散剤とベースポリマーとの間の相溶性を改善するための高分子カップリング剤を含む他の成分を含むことができる。適切なカップリング剤の例には、使用する場合、硬化フィルムの重量に基づいて、5重量パーセントから、20重量パーセントまで、より好ましくは10重量パーセントまでの濃度で存在する、エチレン-コ-無水マレイン酸が含まれる。
【0017】
この組成物は、エチレン-コ-オクテンまたはエチレン-コ-ヘキセンコポリマーのような非官能化エチレン-コ-アルケンコポリマーをさらに含んでもよい。これらの非官能化コポリマーは、硬化フィルムの重量に基づいて最大85重量パーセントの濃度で使用することができる。
【0018】
組成物はまた、エチレンビス(ステアリルアミド)などのワックス及び市販のPolywax 655ポリエチレンなどのポリオレフィンワックスを、硬化フィルムの重量に基づいて、最大5重量%を含むことができる。
【0019】
組成物は、巻き線ドローダウンバー(wire wound drawdown bar)を用いて紙または板紙に塗布することができる。次いで、湿潤フィルムを、好ましくは50℃から、より好ましくは70℃から、好ましくは150℃まで、より好ましくは120℃までの範囲の温度で加熱して水を除去し、1g/m2から、好ましくは2g/m2から、より好ましくは4g/m2から、最も好ましくは6g/m2から、20g/m2まで、好ましくは15g/m2まで、より好ましくは12g/m2まで、最も好ましくは10g/m2までのコーティング重量密度を提供する。実際には、加熱(硬化)プロセス中にできるだけ多くの中和剤を除去することが望ましい。紙または板紙は、コーティングされていないか、またはプレコーティングされて滑らかな表面を作成することができる。
【0020】
低い吸水性及び高い耐油性を備えたフィルム(オムニフォビックフィルム)の非常に薄い層を紙または板紙にコーティングすることができ、さらに、オムニフォビック特性は塗布した水性組成物中のベースポリマー及び分散剤中に存在するので、塗布は単回通過で行うことができることが発見された。驚くべきことに、ベースポリマー中の低濃度のアクリレートまたはメタクリレート官能基でさえ、有効なオムニフォビック層と無効なオムニフォビック層との間の差異をもたらすことが発見された。
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
紙または板紙上にオムニフォビック単層コーティングを調製する方法であって、
a)水、分散剤、ベースポリマー、及び中和剤を含む組成物を紙または板紙上に塗布する工程と、
b)前記組成物を加熱して、1~20g/m
2
の範囲のコーティング重量密度を有する硬化フィルムを生成する工程と、を含み、
前記分散剤と前記ベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成し、
前記分散剤は、エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーであり、前記コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲であり、前記分散剤は、前記硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、
前記ベースポリマーは、エチレンの構造単位及びC
1
-C
12
アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含み、エチレンの構造単位対前記C
1
-C
12
アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比は99.8:0.2~50:50の範囲であり、
前記中和剤は、アンモニアまたは250℃未満の沸点を有する有機塩基であり、前記中和剤の濃度が、前記分散剤に関する前記カルボン酸基の少なくとも半分を中和するのに十分である、方法。
[2]
前記硬化フィルムは、2~12g/m
2
の範囲のコーティング重量密度を有し、
前記分散剤は、エチレンとアクリル酸またはメタクリル酸とのコポリマーであり、
前記ベースポリマーは、エチレン-コ-メチルアクリレート、エチレン-コ-エチルアクリレート、またはエチレン-コ-ブチルアクリレートであり、
前記中和剤は、アンモニアまたはアミンである、前記[1]に記載の方法。
[3]
前記硬化フィルムは、4~10g/m
2
の範囲のコーティング重量密度を有し、エチレンの構造単位対アクリル酸またはメタクリル酸の構造単位の重量対重量比が、90:10~75:25の範囲であり、前記分散剤の濃度は前記硬化フィルムの重量に基づいて10~40パーセントの範囲である、前記[2]に記載の方法。
[4]
前記ベースポリマーの濃度が、10g/m
2
未満のコッブ値及び5%未満の油汚染を有する硬化フィルムを形成するのに十分である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記ベースポリマー濃度は、前記硬化フィルムの重量に基づいて2~75重量パーセントの範囲である、前記[4]に記載の方法。
[6]
前記組成物は、前記硬化フィルムの重量に基づいて5~10重量パーセントの高分子カップリング剤をさらに含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記組成物は、前記硬化フィルムの重量に基づいて最大85重量パーセントのエチレン-コ-オクテンまたはエチレン-コ-ヘキセンコポリマーをさらに含む、前記[5]または[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記組成物が、前記硬化フィルムの重量に基づいて最大5重量パーセントのワックスをさらに含む、前記[5]、[6]、または[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
1~12g/m
2
の硬化高分子フィルムを重ねた紙または板紙を含む物品であって、前記高分子フィルムは、
a)エチレンの構造単位及びC
1
-C
12
アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位を含むベースポリマーであって、エチレンの構造単位及び前記C
1
-C
12
アルキルアクリレートまたはメタクリレートの構造単位の重量対重量比が、99.8:0.2~50:50の範囲である、ベースポリマーと、
b)エチレンの構造単位及びカルボン酸モノマーの構造単位を含むコポリマーである分散剤であって、前記コポリマーは、190℃で50~2000g/10分の範囲のメルトフローインデックスを有し、エチレンの構造単位対カルボン酸モノマーの構造単位の重量対重量比は95:5~70:30の範囲である、分散剤と、を含み、
前記分散剤は、前記硬化フィルムの重量に基づいて9~50重量パーセントの範囲の濃度を有し、前記分散剤と前記ベースポリマーとの合計は、硬化フィルムの重量の10~100パーセントを構成する、物品。
【実施例】
【0021】
試料の調製
脱イオン水中の0.3重量%のN,N-ジメチルエタノールアミンを使用してポリオレフィン分散組成物を所望のソリッド配合物に希釈することによって、コーティング配合物を調製した。基材は203g/m2のコーティングされていないソリッド漂白硫酸塩(SBS)板紙であった。#10、#12、または#30のいずれかの巻き線ドローダウンバーを備えたElcometer 4340電動フィルムアプリケータ自動コーターを用いて、紙及び板紙試料のコーティングを調製した。試料をFisher Scientific Isotemp 180L Oven FAオーブン中、80℃または110℃のいずれかで2分間硬化させた。
【0022】
コーティング重量測定
コーティングした及びコーティングしていない紙断片を7.17インチ2(46.26cm2)に切り出し、次いでこの切断片を80℃のオーブン中に2分間置くことによって試料の被覆重量を測定した。全ての試料を秤量し、コーティングされた試料とコーティングされていない試料との差によってコーティング重量を決定した。
【0023】
水吸収測定
水吸収試験は、TAPPI法T441「標準の大きさの(非吸収性(non-bilious))紙、板紙、及び段ボール紙の吸水性(コッブ試験)」の改変版で実施した。上記の方法を用いてコーティングされた紙または板紙の試料を調製し、円形ダイ及び空気圧プレスを使用して25cm2の円形試料に切断した。円形試料を80℃のオーブンに2分間入れた後、取り出して秤量し、次いでゴムマット上に置き、丸い金属リングを円形試料の上に貼り付け、水漏れを防ぐために締め付けた。次いで、90℃の水を試料の上に1cmの高さ(試験液25mL)に注ぎ、2分間放置した。試験期間の終わりに、試験液を捨て、コーティングされた試料を2枚の吸取紙の間に置いた。10kgの金属ローラーを試料上2回通過させた。最後に、試料を秤量し、暴露試料と非暴露試料との間の質量の差に基づいて吸水量を計算した。
【0024】
耐油脂性測定
コーティングの耐油脂性を改変Ralston Purina 2試験法を用いて実施した。コーティングされた紙または板紙を2インチ×2インチ平方の試験試料に切断し、秤量した。試験試料を、1/4インチグリッドを有する標準的なグラフ紙のシート上に置き、この紙を金属シート上に固定した。植物油で飽和させた2つの1インチコットンフランネル円形物をコーティングされた紙または板紙の中央に置いた。円形物は直径と長さが1インチの真ちゅう製の重りによって所定の位置に保持された。同じ寸法に切断したコーティングされた紙及び板紙の試料を金属シート上に置いて、その後の熱老化中の紙基材による水分損失を測定した。試料を60℃のオーブンで24時間加熱老化させ、その後試料を室温に冷却した。重し及びコットン円形物を除去し、余分な油をペーパータオルで拭き取った。最後に、試料を秤量し、油の吸収量(g/m2単位)を、水分喪失を補正した質量差に基づいて計算し、油漏出によって汚染されたマス目の割合を決定するためにグラフ紙を調べた。
【0025】
以下の実施例及び比較例において、EA103はAMPLIFY(商標)EA103ファンクショナルポリマーを指し、5980iは、PRIMACOR(商標)5980iコポリマーを指し、DMEAはジメチルエタノールアミンを指し、MA-co-PEは、Licocene 431無水マレイン酸グラフトポリエチレンワックスを指し、8401は、ENGAGE(商標)8401ポリオレフィンエラストマーを指し、8402は、ENGAGE(商標)8402ポリオレフィンエラストマーを指し、AC34035は、ELVALOY(商標)AC34035エチレンブチルアクリレートコポリマーを指し、AC1609は、ELVALOY(商標)AC1609エチレンメチルアクリレートコポリマーを指す。(ENGAGE及びELVALOYは、The Dow Chemical Companyまたはその関連会社の商標である。)
【0026】
実施例1-75:25のw/w比のベースポリマー及び分散剤の水性分散液の調製
2CV Heliconeミキサーの溶融チャンバーを90℃に予熱し、その後、75.0%EA103及び25.0%5980の混合組成のため、EA103(60.03g)及び5980i(20.02g)を装填した。脱イオン水(22.54mL)及びDMEA(11.46mL、200%中和)も、ISCOシリンジポンプを用いて予め装填した。溶融チャンバー中成分を152℃に加熱し、その温度でミキサーを始動させた。初期混合速度を43rpmで5分間維持し、残りの運転で98rpmに上げた。30分間の混合後、材料は白色で均一であった。希釈水をISCOポンプを用いて1mL/分の速度で30分間、次いで1.5mL/分の速度で55分間添加した。希釈が完了した後、ミキサーを止め、内容物を冷却した。内容物の温度が91.5℃に達したら、チャンバー内の圧力をゆっくりと排気した。ゲートバルブを開け、物質を回収し(206.3g、回収率91.6%)、使用前にろ過した。
【0027】
実施例2-65:25:10w/w/w比の、ベースポリマー、分散剤、及び高分子カップリング剤の水性分散液の調製
2CV Heliconeミキサーの溶融チャンバーを90℃に予熱し、その後、65.0%EA103、10.0%MA-co-PE、及び25.0%5980iの混合組成のため、EA103(51.99g)、MA-co-PE高分子カップリング剤(8.00g)、及び5980i(20.02g)を装填した。脱イオン水(22.83mL)及びDMEA(12.71mL、200%中和)も、ISCOシリンジポンプを用いて予め装填した。溶融チャンバーの成分を143℃に加熱し、その温度でミキサーを始動させた。初期混合速度を43rpmで5分間維持し、残りの運転で98rpmに上げた。30分間の混合後、材料は白色で均一であった。希釈水をISCOポンプを用いて1mL/分の速度で30分間、次いで1.5mL/分の速度で56分間添加した。希釈は、第2部分の添加の間8分間停止した。希釈が完了した後、ミキサーを止め、内容物を冷却した。内容物の温度が88.6℃に達したら、チャンバー内の圧力をゆっくりと排気した。ゲートバルブを開き、物質を回収し(188.90g、回収率82.8%)、使用前にろ過した。
【0028】
実施例3-26:25:10:39w/w/w/w比のベースポリマー、分散剤、高分子カップリング剤、及び8401の水性分散液の調製
EA103(ポリマー固形分の26重量パーセント)、5980i(ポリマー固形分の25重量パーセント)、MA-co-PE(ポリマー固形分の10重量パーセント)、及び8401(ポリマー固形分の39重量パーセント)を、特定の相対重量で、15ポンド/時(6.8kg/h)の速度で、48L/Dの25mm Bersdorff ZE25 UTX押出機(300rpmで回転する)に、別々のホッパーから個別にかつ同時に供給した。押出機温度プロファイルは、ISCOポンプを通し、水(123℃及び485psiで、14.3mL/分)及びDMEA(17.7mL/分)を別々にかつ同時に導入する前に、150℃まで上昇させた。次いで、希釈水(143℃及び650psiで、115mL/分)を加え、混合物を押出機出口で97℃に冷却した。蒸発圧力調整弁を押出機出口で使用して、押出機バレル内の圧力を調整して蒸気形成を減少させた。得られた分散液を冷却し、200μmのフィルターでろ過した。
【0029】
実施例4-65:25:10w/w/w比のベースポリマー、分散剤、及び高分子カップリング剤の水性分散液の調製
この実施例は、EA103の代わりにAC34035(52.02g)を使用したことを除いて、実質的に実施例2に記載したように実施した。分散液(200.83g、回収率88.01%)を回収し、使用前に材料をろ過した。
【0030】
実施例5-65:25:10w/w/w比のベースポリマー、分散剤、及び高分子カップリング剤の水性分散液の調製
この実施例は、実質的に実施例2に記載したように調製した。チャンバー内の圧力をゆっくりと排気した後、ゲートバルブを開け、材料を泡状分散液として回収し(208.16g、回収率91.23%)、それを使用前にろ過して、分散液の上部から泡状物質を除去した。
【0031】
比較例1-非官能化ベースポリマー及び分散剤の調製
2CV Heliconミキサーの溶融チャンバーは90℃に予熱し、その後、75.0%の8401と25.0%の5980iの混合組成のため、8402(60.02g)及び5980i(20.01g)を装填した。ISCOシリンジポンプを用いて、脱イオン水(22.54mL)及びDMEA(11.43mL、200%中和)も予め装填した。次いで、温度設定を155℃に上昇させ、運転のために143℃の内部温度を達成した。5rpmの初期混合速度を15分間維持し、次いで43rpmに上昇させ、143℃で5分間保持した後、運転の残りの間、ミキサー速度を98rpmに上げた。30分間の混合後、材料は白色で均一であった。希釈水を1mL/分で30分間添加し、次いで1.5mL/分で55分間添加して、合計112.5mLの希釈液を得た。希釈が完了した後、ヒーターを90℃に冷却し、冷却プロセス中に混合速度を5rpmに戻した。内部温度が87.5℃に達したら、ミキサーを停止し、チャンバー内の圧力をゆっくりと排気した。ゲートバルブを開け、物質を回収し(206.04g、回収率91.5%)、試料を使用前にろ過した。
【0032】
表1は、試料組成の要約を示す。
【0033】
【0034】
水吸収試験
全ての試料を110℃で2分間硬化させた。全てのコッブデータは、90℃の水で2分間生成させた。水吸収の目標コッブ値は<10g/m2であった。表2は、すべての試料についてのコーティング重量及びコッブ値を示す。EAはエチルアクリレートを指し、BAはブチルアクリレートを指し、MAはメチルアクリレート指す。
【0035】
【0036】
表2は、比較試料を含む全ての試料が、10g/m2未満のコーティング重量のため水吸収試験に合格したことを示している。
【0037】
耐油脂性試験
全ての試料を110℃で2分間硬化させた。油吸収の目標値は<15g/m2であり、汚染の目標値は0%であった。表3は、試料についての油吸収及び汚染の要約である。実施例6は、実施例1からの分散液3.42gを、比較例1の36.58gと混合することにより調製し、実施例7は、実施例3からの分散液0.68gを、比較例1からの分散液39.32gと混合することにより調製した。
【0038】
【0039】
表3は、十分な濃度のコ-アクリレートで官能化されたポリオレフィンコポリマーを含有する分散液から調製したコーティングされた紙試料が、油吸収及び汚染試験に合格したことを示す。しかしながら、アルキルアクリレートで官能化されていないポリオレフィンのみを含有する分散液を用いて調製したコーティングされた紙試料は、両方の試験に不合格であった。