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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】バッテリ診断装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/04 20060101AFI20220824BHJP
   B60R 16/03 20060101ALI20220824BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220824BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B60R16/04 W
B60R16/03 A
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018106876
(22)【出願日】2018-06-04
(65)【公開番号】P2019209811
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100103
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100173163
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 信洋
(74)【代理人】
【識別番号】100134522
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100135024
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 敢
(72)【発明者】
【氏名】上原 康司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基祐
(72)【発明者】
【氏名】石原 英明
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-118127(JP,A)
【文献】特開2016-114584(JP,A)
【文献】特開2011-257214(JP,A)
【文献】特開2016-194253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/04
B60R 16/03
H01M 10/48
H01M 10/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの初始動時に前記エンジンをクランキングするスタータモータを含む補機に対して電力を供給する第1のバッテリと、前記エンジンの再始動時に前記エンジンをクランキングするスタータジェネレータに対して電力を供給する第2のバッテリと、駆動用モータに対して電力を供給する高電圧バッテリと、を搭載し、前記第1のバッテリ及び前記スタータモータを含む第1電源回路と前記高電圧バッテリ及び前記駆動用モータを含む回路との間に第1のリレー及びコンバータが設けられ、前記第2のバッテリ及び前記スタータジェネレータを含む第2電源回路と前記第1電源回路との間に第2のリレーが設けられた車両に備えられ、前記第2のバッテリの診断を行うバッテリ診断装置において、
前記第2のバッテリの開放電圧を算出する開放電圧算出部と、
算出された前記開放電圧に基づいて前記第2のバッテリに備えられたバッテリセル内のショートの有無を判定する判定部と、
を備えた、バッテリ診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、少なくとも前記第2のリレーが解放状態であることを含む所定の診断条件が成立しているかを判定し、前記所定の診断条件が成立している場合に、前記開放電圧に基づいて前記第2のバッテリに備えられたバッテリセル内のショートの有無を判定する、請求項1に記載のバッテリ診断装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記開放電圧が所定の判定値以下のときに前記バッテリセル内のショートが生じていると判定する、請求項1又は2に記載のバッテリ診断装置。
【請求項4】
前記判定値は、前記第2のバッテリの正常時における充電容量が0%の場合の開放電圧の値よりも小さい値に設定される、請求項に記載のバッテリ診断装置。
【請求項5】
前記開放電圧算出部は、前記第2のバッテリのバッテリ液の温度に基づいて、前記開放電圧又は前記判定値を補正する、請求項3又は4に記載のバッテリ診断装置。
【請求項6】
前記開放電圧算出部は、前記エンジンの停止から所定時間経過後に電圧センサのセンサ信号に基づいて前記開放電圧を算出する、請求項1~5のいずれか1項に記載のバッテリ診断装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記第2のバッテリの前記バッテリセル内のショートが生じている場合に、前記第1のバッテリ及び前記スタータモータを含む第1の電源回路と、前記第2のバッテリ及び前記スタータジェネレータを含む第2の電源回路とを解放させ、前記エンジンを運転状態に保持させる、請求項1~6のいずれか1項に記載のバッテリ診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリセル内のショートの有無を診断するバッテリ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両において、燃料消費量の削減あるいは排気エミッションの低減を目的としてアイドルストップ制御が実用化されている。アイドルストップ制御では、あらかじめ設定された所定の自動停止条件が成立したときにエンジンが自動停止し、エンジンの自動停止中に、あらかじめ設定された所定の再始動条件が成立したときにエンジンが再始動する。
【0003】
また、車両の動力源として、エンジン及び駆動用モータを備えたハイブリッド車両が実用化されている。ハイブリッド車両においては、車両の運転状態に応じて、エンジンが停止したり始動したりする。
【0004】
このようなアイドルストップ機能を備えた車両やハイブリッド車両では、各種電装品が起動している状態の下でエンジンが再始動する。このエンジン再始動時の電装品に対する瞬間的な電圧低下を防止するために、電装品に電力を供給する第1のバッテリと、エンジンの再始動時に用いられるスタータジェネレータに電力を供給する第2のバッテリとを別々に備えた車両がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、エンジンの初始動時には第1のバッテリから供給される電力で駆動するスタータモータによりクランキングを行ってエンジンを始動させ、アイドルストップ制御によるエンジンの再始動時には第2のバッテリから供給される電力で駆動するスタータジェネレータによりクランキングを行ってエンジンを再始動させるように構成された車両が開示されている(特許文献1を参照。)。スタータジェネレータは、第2のバッテリを充電する機能も備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-53779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、エンジンの初始動時に用いられるスタータモータに電力を供給する第1のバッテリのセル内でショートが生じた場合には、車両の使用開始時にエンジンの初始動が不可能になるため、ドライバは当該セル内でのショート(以下、単に「セル内ショート」ともいう。)の発生を知ることができる。
【0008】
しかしながら、エンジンの再始動時に用いられるスタータジェネレータに電力を供給する第2のバッテリでセル内ショートが生じた場合には、車両の使用開始時にドライバが当該セル内ショートの発生を知ることができない。バッテリのセル内ショートが生じた場合、通常の充電電圧であっても各セル当りの印加電圧が高くなる。このため、第2のバッテリのセル内ショートが生じた状態で車両を使用して第2のバッテリの充電が行われると、各セルが過充電状態になり、第2のバッテリが破損するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、エンジンの再始動時に用いられるスタータジェネレータに電力を供給するバッテリのセル内ショートをエンジンの初始動時に検知可能な、バッテリ診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、エンジンの初始動時にエンジンをクランキングするスタータモータを含む補機に対して電力を供給する第1のバッテリと、エンジンの再始動時にエンジンをクランキングするスタータジェネレータに対して電力を供給する第2のバッテリと、駆動用モータに対して電力を供給する高電圧バッテリと、を搭載し、第1バッテリ及びスタータモータを含む第1電源回路と高電圧バッテリ及び駆動用モータを含む回路との間に第1のリレー及びコンバータが設けられ、第2バッテリ及びスタータジェネレータを含む第2電源回路と第1電源回路との間に第2のリレーが設けられた車両に備えられ、第2のバッテリの診断を行うバッテリ診断装置であって、第2のバッテリの開放電圧を算出する開放電圧算出部と、算出された開放電圧に基づいて第2のバッテリに備えられたバッテリセル内のショートの有無を判定する判定部と、を備えた、バッテリ診断装置が提供される。
【0011】
判定部は、開放電圧が所定の判定値以下のときにバッテリセル内のショートが生じていると判定してもよい。
【0012】
判定値は、第2のバッテリの正常時における充電容量が0%の場合の開放電圧の値よりも小さい値に設定されてもよい。
【0013】
開放電圧算出部は、第2のバッテリのバッテリ液の温度に基づいて、開放電圧又は判定値を補正してもよい。
【0014】
判定部は、少なくとも第2のリレーが解放状態であることを含む所定の診断条件が成立しているかを判定し、所定の診断条件が成立している場合に、開放電圧に基づいて第2のバッテリに備えられたバッテリセル内のショートの有無を判定してもよい。
【0015】
開放電圧算出部は、エンジンの停止から所定時間経過後に電圧センサのセンサ信号に基づいて開放電圧を算出してもよい。
【0016】
判定部は、第2のバッテリのバッテリセル内のショートが生じている場合に、第1のバッテリ及びスタータモータを含む第1の電源回路と、第2のバッテリ及びスタータジェネレータを含む第2の電源回路とを解放させ、エンジンを運転状態に保持させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、エンジンの再始動時に用いられるスタータジェネレータに電力を供給するバッテリのセル内ショートをエンジンの初始動時に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係るバッテリ診断装置を適用可能な車両の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係るバッテリ診断装置の構成例を示す模式図である。
図3】第2のバッテリの開放電圧を示す説明図である。
図4】同実施形態に係るバッテリ診断装置による診断方法を示すフローチャートである。
図5】診断条件成立判定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】開放電圧算出処理の一例を示すフローチャートである。
図7】セル内ショート判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<1.車両の基本構成>
本発明の実施の形態に係るバッテリ診断装置を適用可能な車両の基本構成の一例を説明する。図1は、車両の基本構成を示す模式図である。図1に示した車両は、駆動源としてエンジン10及び駆動用モータ50を備えたハイブリッド車両である。
【0021】
まず、車両の駆動系を説明する。車両は、アイドルストップ機能を備えた車両である。車両は、エンジン10、自動変速機20、スタータモータ11、スタータジェネレータ(ISG)13、駆動用モータ50及び駆動輪60を備える。自動変速機20、スタータモータ11及びスタータジェネレータ13は、エンジン10に接続されている。
【0022】
エンジン10は、ガソリン又はディーゼル等を燃料として車両の駆動トルクを生成する内燃機関である。エンジン10は、あらかじめ設定された所定の自動停止条件の成立時に自動的に停止され、その後、あらかじめ設定された所定の再始動条件の成立時に自動的に再始動される。エンジン10は、出力軸としてのクランクシャフト17を有する。エンジン10は、クランクシャフト17の回転角度を検出するクランク角センサ15を備える。クランクシャフト17は、トルクコンバータ21を介して自動変速機20に接続されている。
【0023】
自動変速機20は、例えば無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission)又は有段式変速機構等の変速機構を備える。自動変速機20は、エンジン10のクランクシャフト17から入力された回転トルクを所定の変速比で変換して駆動軸59に伝達する。エンジン10と自動変速機20との間には、エンジンクラッチ23が設けられている。
【0024】
エンジンクラッチ23を解放状態に切り替えることにより、自動変速機20からエンジン10を切り離すことができる。これにより、エンジン10を停止させて駆動用モータ50の動力のみを駆動輪60に伝達することが可能になる(以下、この状態を「EVモード」ともいう。)。また、エンジンクラッチ23を締結状態に切り替えることにより、自動変速機20にエンジン10を接続することができる。これにより、エンジン10及び駆動用モータ50の動力を駆動輪60に伝達することができる(以下、この状態を「HEVモード」ともいう。)。
【0025】
スタータモータ11は、エンジン10の初始動時に用いられる。スタータモータ11の出力軸11aは、ギヤ等を介してエンジン10のクランクシャフト17に連結されている。スタータモータ11は、第1のバッテリ27に接続され、ドライバの始動操作に伴うエンジン10の初始動時に第1のバッテリ27から供給される電力でエンジン10をクランキングする。第1のバッテリ27は、スタータモータ11の他にも車両に搭載された各種補機49に電力を供給する。
【0026】
スタータジェネレータ13は、アイドルストップ制御によるエンジン10の再始動時や、走行モードをEVモードからHEVモードに切り換える際のエンジン10の再始動時に用いられる。スタータジェネレータ13の回転軸13aは、ギヤあるいは駆動ベルト等を介してエンジン10のクランクシャフト17に連結されている。スタータジェネレータ13は、第2のバッテリ25に接続され、アイドルストップ制御や走行モードの切り換えによるエンジン10の再始動時に第2のバッテリ25から供給される電力でエンジン10をクランキングする。スタータジェネレータ13は、整流回路や電圧レギュレータを一体的に備え、エンジン10の動力を利用して発電を行う発電機としての機能を有している。スタータジェネレータ13は、エンジン10からギヤ等を介して回転駆動されて発電し、第2のバッテリ25を充電する。
【0027】
駆動用モータ50は、例えば三相交流式のモータであり、インバータ51を介して高電圧バッテリ29に接続されている。駆動用モータ50は、高電圧バッテリ29からの電力供給を受けて力行駆動され、車両の駆動トルクを生成する。この場合、インバータ51は、高電圧バッテリ29から供給される直流電力を交流電力に変換して駆動用モータ50を駆動する。また、駆動用モータ50は、車両の減速時に回生駆動され、駆動輪60の運動エネルギを電力エネルギに変換する発電機としての機能を有している。この場合、インバータ51は、駆動用モータ50で発電された交流電力を直流電力に変換して高電圧バッテリ29を充電する。駆動用モータ50による回生発電電力は、高電圧バッテリ29に充電される。
【0028】
高電圧バッテリ29と第1のバッテリ27とは、コンタクタ33及びDC/DCコンバータ35を介して接続されている。このため、コンタクタ33をオンにしたときに、駆動用モータ50による回生発電電力は、DC/DCコンバータ35により降圧されてスタータモータ11又は各種補機49に供給され、あるいは、第1のバッテリ27に充電される。
【0029】
第1のバッテリ27と第2のバッテリ25とは、接続状態又は解放状態を切換可能なリレー31を介して接続されている。リレー31は常時切り離され、エンジン10の再始動時にスタータジェネレータ13への電力供給によって各種補機49への供給電力の瞬間的な電圧低下を防いでいる。一方、リレー31は、第1のバッテリ27又はDC/DCコンバータ35が故障したとき、あるいは、第2のバッテリ25又はスタータジェネレータ13が故障したときに接続され、車両の走行性能を確保する。
【0030】
本実施形態において、高電圧バッテリ29は、例えば定格200Vのリチウムイオンバッテリである。また、第1のバッテリ27及び第2のバッテリ25は、例えば低電圧(定格12V)の鉛バッテリである。第1のバッテリ27及び第2のバッテリ25は、それぞれ複数のバッテリセルが直列あるいは並列に接続されて構成されている。本実施形態では、セル内ショートの有無を診断する第2のバッテリ25が、6つのバッテリセルを備える例を説明する。
【0031】
第2のバッテリ25は、センサユニット41を備える。センサユニット41は、出力電圧を検出する電圧センサ及びバッテリ液の温度を検出する液温センサとしての機能を有する。センサユニット41は、イグニッションスイッチがオフになった後、所定時間(例えば60分)経過後の電圧を開放電圧として検出する。
【0032】
次に、車両の駆動系を制御する電子制御系を説明する。車両の電子制御系は、CAN(Controller Area Network)等の通信バス100に接続される複数の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成されている。各ECUは、例えばマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等を備えて構成されている。なお、各ECUの一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU(Central Processing Unit)等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0033】
また、各ECUは、マイクロコンピュータ等により実行されるプログラムや種々の演算に用いるパラメータ、検出データ、演算結果の情報等を記憶する図示しない記憶装置を備える。記憶装置は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子であってもよく、HDD(Hard Disk Drive)やCD-ROM、ストレージ装置等の記憶装置であってもよい。
【0034】
ECUは、エンジンECU101、トランスミッションECU103、モータECU105及びバッテリECU107を含む。エンジンECU101は、スタータモータ11及びスタータジェネレータ13を含むエンジン10を制御する。トランスミッションECU103は、トルクコンバータ21及びエンジンクラッチ23を含む自動変速機20を制御する。モータECU105は、インバータ51を介して駆動用モータ50を制御する。バッテリECU107は、高電圧バッテリ29の充電状態や出力、温度を管理するとともに、コンタクタ33及びDC/DCコンバータ35を制御する。
【0035】
各ECUには、各種センサ類からの信号や通信バス100を介して送信される各種制御情報が入力される。各ECUは、これらの入力に基づいて駆動系の各種アクチュエータ類を駆動する。
【0036】
<2.バッテリ診断装置>
次に、本実施形態に係るバッテリ診断装置として機能するエンジンECU101の構成例を具体的に説明する。図2は、エンジンECU101の構成のうち、第2のバッテリ25の診断に関連する機能構成を示すブロック図である。
【0037】
エンジンECU101は、開放電圧算出部111、判定部113及びリレー制御部115を備える。開放電圧算出部111、判定部113及びリレー制御部115は、マイクロコンピュータ等によるプログラムの実行により実現される機能であってよい。
【0038】
エンジンECU101には、クランク角センサ15、イグニッションスイッチ61及びセンサユニット41が接続されている。クランク角センサ15は、エンジン10のクランクシャフト17の回転角度を検出する。センサユニット41は、第2のバッテリ25の出力電圧及びバッテリ液の温度(以下、「バッテリ液温」ともいう。)を検出する。
【0039】
(開放電圧算出部)
開放電圧算出部111は、センサユニット41の信号に基づいて第2のバッテリ25の開放電圧OCVを算出する。開放電圧OCVは、第2のバッテリ25の充放電が行われなくなってから所定時間が経過し、電圧が安定した状態での電圧値である。本実施形態において、開放電圧算出部111は、車両のイグニッションスイッチ61がオンになったエンジン10の初始動時であって、所定の診断条件を満たしている場合に、第2のバッテリ25のセンサユニット41から受信した信号に基づいて第2のバッテリ25の開放電圧OCVを算出する。開放電圧算出部111は、例えば複数回検出された開放電圧OCVの平均値を診断値OCV_Aとしてもよい。
【0040】
(判定部)
判定部113は、算出された開放電圧OCV(診断値OCV_A)に基づいて、第2のバッテリ25に備えられた複数のバッテリセルのセル内ショートの有無を判定する。本実施形態において、判定部113は、開放電圧OCVがあらかじめ設定された判定値OCV_0以下のときにセル内ショートが生じていると判定する。
【0041】
図3は、セル内ショートの有無による開放電圧OCVの違いを示す説明図である。図3において、横軸は第2のバッテリ25の充電容量SOC(%)を示し、縦軸は開放電圧OCV(V)を示す。また、図中の白丸(〇)はセル内ショートを生じていない正常時の例を示し、黒丸(●)はセル内ショートを生じている故障時の例を示す。
【0042】
定格12Vの第2のバッテリ25の正常時の開放電圧OCVは、充電容量SOCに応じて約11.6V~約12.9Vの範囲内の値を示す。一方、6つのバッテリセルのうち1つのバッテリセルのセル内ショートが生じた場合の開放電圧OCVは、充電容量SOCに応じて約9.7V~約10.7Vの範囲内の値を示す。つまり、少なくとも1つのバッテリセルにセル内ショートが生じている場合には、開放電圧OCVの最大値が、正常時の開放電圧OCVの最小値を下回る。
【0043】
このため、判定部113は、算出された開放電圧OCV(診断値OCV_A)を、第2のバッテリ25の充電容量SOCが0%の場合の開放電圧OCVに基づいてあらかじめ設定した判定値OCV_0と比較することにより、第2のバッテリ25のセル内ショートの有無を判定する。判定部113は、第2のバッテリ25にセル内ショートが発生していると判定した場合、スタータジェネレータ13による発電を停止することで第2のバッテリ25の充電を停止するとともに、アイドルストップ制御及びEVモードを禁止させる。
【0044】
(リレー制御部)
リレー制御部115は、第1のバッテリ27と第2のバッテリ25との接続状態又は解放状態とを切り換えるリレー31の駆動を制御する。具体的に、リレー制御部115は、常時リレー31を解放状態にする一方、判定部113により、第2のバッテリ25にセル内ショートが生じていると判定されたときにリレー31の解放状態を維持する。
【0045】
<3.バッテリの診断方法>
次に、図4図7のフローチャートに基づいて、バッテリ診断装置としてのエンジンECU101による第2のバッテリ25の診断方法の具体例を説明する。
【0046】
図4は、第2のバッテリ25の診断方法のメインフローを示している。
まず、エンジンECU101の判定部113は、車両のイグニッションスイッチ61がオンになったことを検出すると(ステップS9)、第2のバッテリ25の診断条件が成立しているか否かを判別する(ステップS11)。
【0047】
図5は、診断条件成立判定処理のルーチンの一例を示すフローチャートである。
判定部113は、第2のバッテリ25のバッテリ液温があらかじめ設定された所定範囲内にあり、且つ、センサユニット41のスリープ時間があらかじめ設定された所定値以上であり、且つ、開放電圧の推定が完了しているか否かを判別する。
【0048】
バッテリ液温が所定範囲を超える高温の場合、第2のバッテリ25の充電直後の可能性などがあり開放電圧の算出結果の精度が低下するおそれがある。一方、バッテリ液温が所定範囲未満の場合、バッテリ液の凍結の可能性などがあり開放電圧の算出結果の精度が低下するおそれがある。このため、判定部113は、バッテリ液温が所定範囲内にあるか否かを判定する。バッテリ液温は、センサユニット41から入力される信号に基づいて検出される。所定範囲は、上述の点を考慮して、適切な範囲に設定される。
【0049】
センサユニット41のスリープ時間が短い場合、つまり、エンジン10の停止からの経過時間が短い場合、充電又は放電による分極状態が維持されている可能性があり開放電圧の算出結果の精度が低下するおそれがある。このため、判定部113は、センサユニット41のスリープ時間が所定値以上であるか否かを判定する。センサユニット41のスリープ時間は、例えば、所定の時間サイクルで入力されるセンサユニット41の信号を最後に受信した時刻からの経過時間として計算される。所定値は、分極状態が解消される最大時間に応じて、適切な値に設定される。
【0050】
本実施形態において、センサユニット41は、イグニッションスイッチ61がオフになった後、スリープ時間が経過した後に開放電圧を推定検出するようになっている。このため、開放電圧の推定が完了していない場合には、第2のバッテリ25の電圧が安定状態にないおそれがある。このため、判定部113は、センサユニット41で開放電圧の推定検出が完了しているか否かを判定する。
【0051】
なお、これらの3つの条件のうちの少なくとも一つの条件が除かれていてもよい。この他、判定部113は、誤診断を防ぐために、診断条件として、関連する電子制御系が正常な状態であるか否かを判定してもよい。例えば、判定部113は、センサユニット41が正常であるか否か、センサユニット41とエンジンECU101との通信が正常であるか否か、スタータジェネレータ13が正常であるか否か、又はリレー31が正常であるか否かのうちの少なくとも一つの判定を行ってもよい。
【0052】
ステップS21が肯定判定された場合(S21/Yes)、判定部113は、イグニッションスイッチ61がオンになった後、スタータジェネレータ13による発電又は駆動がされていない状態であるか否かを判別する(ステップS23)。スタータジェネレータ13による発電又は駆動が開始されると第2のバッテリ25の開放電圧OCVが不安定になるため、判定部113は、ステップS23の判定を行う。
【0053】
ステップS23が肯定判定された場合(S23/Yes)、判定部113は、リレー31が解放状態(この状態を「2電源モード」と称する。)にあり、第1のバッテリ27及びDC/DCコンバータ35からの供給電力により各種補機49が動作する2電源モードであるか否かを判別する(ステップS25)。第2のバッテリ25から各種補機49に電力を供給可能な場合には、第2のバッテリ25の開放電圧OCVの算出結果の精度が低下する可能性があるため、判定部113は、ステップS25の判定を行う。
【0054】
ステップS25が肯定判定された場合(S25/Yes)、今回のイグニッションスイッチ61のオン切り換えが、エンジンECU101のセルフシャット前のオン切り換えでない状態か否かを判別する(ステップS27)。本実施形態において、エンジンECU101の電源は、イグニッションスイッチ61がオフになった後、所定時間経過後にオフ(セルフシャット)にされる。このため、セルフシャット前にイグニッションスイッチ61がオンになると、開放電圧の算出結果の精度が低下するおそれがある。このため、判定部113は、ステップS25の判定を行う。
【0055】
ステップS27が肯定判定された場合(S27/Yes)、判定部113は、イグニッションスイッチ61がオンになった後、センサユニット41から初回の信号を正常に受信した後の状態であるか否かを判別する(ステップS29)。イグニッションスイッチ61がオンになった直後はセンサユニット41からの信号をエンジンECU101が正常に受信できない可能性があるため、判定部113は、ステップS29の判定を行う。
【0056】
判定部113は、これらのステップS21~ステップS29がすべて肯定判定された場合(S29/Yes)、診断条件成立フラグをセットし(+1)(ステップS31)、診断条件成立判定処理を終了させる。一方、判定部113は、これらのステップS21~ステップS29のうちのいずれかのステップが否定判定された場合、診断条件成立フラグをリセットし(=0)(ステップS33)、診断条件成立判定処理を終了させる。
【0057】
図4に戻り、ステップS11の診断条件成立判定が否定判定された場合(S11/No)、判定部113は、このまま本ルーチンを終了させる。一方、ステップS11の診断条件成立判定が肯定判定された場合(S11/Yes)、開放電圧算出部111は、第2のバッテリ25の開放電圧OCVを算出する(ステップS13)。例えば、開放電圧算出部111は、イグニッションスイッチ61のオン時にセンサユニット41から受信した信号に基づいて開放電圧OCVを算出する。本実施形態では、開放電圧算出部111は、イグニッションスイッチ61がオンになった直後に複数回算出された開放電圧OCVの平均値を診断値OCV_Aとする。
【0058】
図6は、開放電圧算出処理のルーチンの一例を示すフローチャートである。
開放電圧算出部111は、イグニッションスイッチ61がオンになった後、センサユニット41から入力される第2のバッテリ25の出力電圧(開放電圧OCV)の信号を受信し、あらかじめ設定された規定回数分の出力電圧の平均化処理を行う(ステップS41)。
【0059】
次いで、開放電圧算出部111は、得られた平均値を、バッテリ液温に応じて補正する(ステップS43)。開放電圧算出部111は、補正後の平均値を診断値OCV_Aとし、診断値算出済みフラグをセットし(+1)(ステップS45)、開放電圧算出処理を終了させる。
【0060】
複数の出力電圧を平均化することにより、出力電圧の異常値を開放電圧として用いて診断されるおそれを低減することができる。また、バッテリ液温による補正値を診断値OCV_Aとして用いることにより、バッテリ液温による開放電圧OCVへの影響を低減することができる。
【0061】
なお、開放電圧算出部111が、センサユニット41であらかじめ平均化処理が行われた電圧信号を受信してもよく、バッテリ液温による補正を行った値を仮の診断値OCV_Aとして記憶しておき、直近の規定回数分の仮の診断値OCV_Aを平均化処理したものを診断値OCV_Aとしてもよい。
【0062】
図4に戻り、ステップS13において開放電圧の診断値OCV_Aが算出された後、ステップS15において、判定部113は、セル内ショートの有無の判定処理を実行する(ステップS15)。
【0063】
図7は、セル内ショートの判定処理のルーチンの一例を示すフローチャートである。
判定部113は、図6のステップS45でセットされる診断値算出済みフラグがセットされているか否かを判別する(ステップS51)。判定部113は、診断値算出済みフラグがセットされるまでの間(S51/No)、ステップS51の判定を繰り返す。
【0064】
診断値算出済みフラグがセットされている場合(S51/yes)、判定部113は、算出された診断値OCV_Aが、あらかじめ設定された判定値OCV_0未満であるか否かを判別する(ステップS53)。判定値OCV_0は、第2のバッテリ25の正常時における充電容量SOCが0%のときの開放電圧の値よりも小さい値に設定される。例えば、第2のバッテリ25が6つのバッテリセルを備えている場合、判定値OCV_0は、第2のバッテリ25の正常時における充電容量SOCが0%のときの開放電圧の値よりも小さい値、且つ、1つのバッテリセルにセル内ショートが生じているときの開放電圧の値よりも大きい値に設定される。
【0065】
診断値OCV_Aが判定値OCV_0以上の値である場合(S53/No)、第2のバッテリ25にセル内ショートは生じておらず、正常な状態と判断できるため、判定部113は、異常発生カウンタをゼロにして(ステップS61)、ショート判定処理を終了させる。一方、診断値OCV_Aが判定値OCV_0未満の値である場合(S53/Yes)、第2のバッテリ25にセル内ショートが生じていると判断できるため、判定部113は、異常発生カウンタをインクリメントする(ステップS55)。
【0066】
次いで、判定部113は、異常発生カウンタ値が、あらかじめ設定された規定値に到達したか否かを判別する(ステップS57)。異常発生カウンタ値が規定値に到達していない場合(S57/No)、判定部113は、そのままショート判定処理を終了させる。一方、異常発生カウンタ値が規定値に到達した場合(S57/Yes)、判定部113は、ショート確定フラグをセットし(+1)(ステップS59)、本ルーチンを終了させる。
【0067】
図4に戻り、ステップS15において、セル内ショートの有無の判定処理を終了した後、判定部113は、ショート確定フラグがセットされているか否かを判別する(ステップS17)。ショート確定フラグがセットされていない場合(S17/No)、判定部113は、そのまま本ルーチンを終了させる。
【0068】
一方、ショート確定フラグがセットされている場合(S17/Yes)、判定部113は、リレー31を解放状態に切り換えて2電源モードにするとともに、スタータジェネレータ13の発電による第2のバッテリ25の充電を禁止し、かつ、アイドルストップ制御及びEVモードの実行を禁止させる(ステップS19)。これにより、エンジン10が運転状態に保持されてスタータジェネレータ13によるエンジン10の再始動が実行されないようになる。また、第2のバッテリ25の過充電による故障を防止することができる。このとき、判定部113は、所定の警告ランプを点灯させて、ドライバに第2のバッテリ25あるいは電源系統の異常を知らせるようにしてもよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係るバッテリ診断装置(エンジンECU101)によれば、エンジン10の再始動時にクランキングを行うスタータジェネレータ13に対して電力を供給する第2のバッテリ25のセル内ショートの有無を、エンジン10の初始動時に第2のバッテリ25の解放電圧に基づいて判定する。このため、ドライバが第2のバッテリ25のセル内ショートに気付かないまま車両を使用し続けることで第2のバッテリ25が破損することを抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態に係るバッテリ診断装置では、第2のバッテリ25の開放電圧を、第2のバッテリ25の正常時における充電容量が0%の場合の開放電圧と比較することにより、セル内ショートの有無を判定している。第2のバッテリ25にセル内ショートが生じている場合には、第2のバッテリ25の正常時における充電容量が0%の場合の開放電圧の値よりも小さくなるため、第2のバッテリ25の充電容量が高い場合であってもセル内ショートの有無を確実に判定することができる。
【0071】
また、本実施形態に係るバッテリ診断装置では、イグニッションスイッチ61がオフになってから所定時間(例えば60分)以上経過した後の電圧を算出するように診断条件が設定されている。したがって、第2のバッテリ25の開放電圧に基づくセル内ショートの有無の判定精度を高めることができる
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
例えば、第2のバッテリ25の開放電圧OCVの値は温度条件によって変化し得ることから、算出した開放電圧OCV(OCV_A)あるいは判定値OCV_0を、開放電圧OCVを算出したときのバッテリ液温に基づいて補正してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、エンジンECU101がバッテリ診断装置としての機能を備えていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、車両が、エンジンECU101、トランスミッションECU103、モータECU105等を統合的に制御する統合ECUあるいはハイブリッドECUを備える場合、当該統合ECU又はハイブリッドECUがバッテリ診断装置としての機能を備えてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 エンジン
11 スタータモータ
13 スタータジェネレータ
20 自動変速機
25 第2のバッテリ
27 第1のバッテリ
29 高電圧バッテリ
31 リレー
35 DC/DCコンバータ
41 センサユニット
50 駆動用モータ
61 イグニッションスイッチ
101 エンジンECU
111 開放電圧算出部
113 判定部
115 リレー制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7