(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】トイレットロール
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20220824BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20220824BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A47K10/16 A
A61L9/12
A61L9/01 H
A61L9/01 Q
(21)【出願番号】P 2018107230
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大場 進太郎
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-193213(JP,A)
【文献】特開2017-176581(JP,A)
【文献】特開2017-056210(JP,A)
【文献】特開2015-047401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙管に帯状のトイレットペーパーが巻かれたトイレットロールであって、
紙管外周に、揮発して香気を発するとともに、悪臭成分を化学反応によって悪臭がない又は少ない物質へと変化させて、化学的に消臭する揮発性消臭香料が付与されているとともに、紙管内周に悪臭成分を化学的に消臭する消臭剤が付与されてなる悪臭成分との接触によって悪臭成分を消臭する消臭領域が設けられており
、
前記揮発性消臭香料は、20℃における蒸気圧を0.02mmHg以上0.1mmHg未満の範囲となるエステル系化合物を含む、一種又は二種以上のエステル系化合物を含み、
前記消臭剤が、少なくとも柿タンニン及び茶カテキンを含む、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体及びポリフェノール類似体の何れか一つを含み、
含まれるポリフェノール、ポリフェノール誘導体及びポリフェノール類似体の含有量が、紙管内周面の面積を基準として、0.002~6.0g/m
2
である、
ことを特徴とするトイレットロール。
【請求項2】
前記一種又は二種以上のエステル系化合物は、酢酸リナリル、オイゲニルアセテート、ゲラニルアセテート、サビニルアセテート、サビネンヒドレート、シトロネリルアセテート、テルピニルアセテート、ネリルアセテート、ブチルアルゲレート、ベチベリルアセテート、ベンジルアセテート、ベンジルベンゾエート、ボルニルアセテート、ボルニルイソバレレート、メチルアントラニレート、メチルサリチレート、メチルブチレート、メチルベンゾエート、メンチルアセテート、ラバンズリルアセテート、リナリルアセテート及びギ酸エステルの群から選ばれるものである請求項
1記載のトイレットロール。
【請求項3】
揮発性消臭香料が、シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートの少なくとも一方を含み、バニリンを含まない請求項
1記載のトイレットロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状のトイレットペーパーを紙管に巻いたトイレットロールに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ空間で発生するアンモニア臭を緩和したり消臭するために、トイレ空間に常備されるトイレットロールの紙管内面に消臭剤等をコーティングして担持させる技術が知られる(下記、特許文献1)。
また、紙管やトイレットペーパーに付した香りによって悪臭の香気を変調したり、マスキングして消臭する技術も知られる。(下記、特許文献2)。さらに、臭いの原因となるアンモニアが強い塩基性であることを利用し、紙管に中和作用によって消臭効果を発現させる消臭剤を含侵させる技術が知られる(下記、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭56-111890号公報
【文献】特開2017-176571号公報
【文献】特開2016-19738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トイレットロールの紙管内面に消臭剤等をコーティングして担持させる技術は、消臭剤の担持量が少なく、また、バインダーとなる接着剤成分により消臭剤が少なからず覆われることによる消臭剤の歩留まりの問題があった。
【0005】
また、香りによって悪臭の香気を変調したり、マスキングして消臭する技術は、悪臭そのものを分解するわけではないため香料の使用量が多いという問題があった。ゆえに、紙管のような限られた部位にマスキング等に必要な十分な量の香料を付与することが困難であり、悪臭が十分にマスキングされないという問題があった。さらに、マスキングには十分ではないものの、香料による香り自体が過度に強くなりやすいという問題もあった。
【0006】
さらに、紙管に中和作用によって消臭効果を発現させる消臭剤を含侵させる技術は、アンモニア自体を中和分解する点で優れるものの消臭対象となるアンモニア等と消臭剤との接触が必要であるゆえ、トイレ空間内に拡散したアンモニアに対して即効性のある効果が期待できないという問題があった。また、消臭剤が付与されている紙管から距離のある壁や床に飛散した尿に起因する尿臭まで抑制することは困難であった。また、この紙管に消臭剤を付与する技術は、紙管に付与した消臭剤による効果が発現しているか否かを認識しがたいという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、消臭剤の離脱がなく、トイレ空間内に拡散したアンモニア等の悪臭成分に対する即効性、臭気発生元に対する消臭効果及び消臭効果の持続性に優れ、さらに消臭効果の発現を認識しやすいトイレットロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した第一の手段は、
紙管に帯状のトイレットペーパーが巻かれたトイレットロールであって、
紙管外周に、揮発して香気を発するとともに、悪臭成分を化学反応によって悪臭がない又は少ない物質へと変化させて、化学的に消臭する揮発性消臭香料が付与されているとともに、紙管内周に悪臭成分を化学的に消臭する消臭剤が付与されてなる悪臭成分との接触によって悪臭成分を消臭する消臭領域が設けられている、ことを特徴とするトイレットロール。
【0009】
第二の手段は、
前記消臭剤は、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体及びポリフェノール類似体の何れか一つを含む上記第一の手段に係るトイレットロールである。
【0010】
第三の手段は、
前記揮発性消臭香料は、一種又は二種以上のエステル系化合物を含む上記第一又は第二の手段に係るトイレットロールである。
【0011】
第四の手段は、
前記エステル系化合物は、酢酸リナリル、オイゲニルアセテート、ゲラニルアセテート、サビニルアセテート、サビネンヒドレート、シトロネリルアセテート、テルピニルアセテート、ネリルアセテート、ブチルアルゲレート、ベチベリルアセテート、ベンジルアセテート、ベンジルベンゾエート、ボルニルアセテート、ボルニルイソバレレート、メチルアントラニレート、メチルサリチレート、メチルブチレート、メチルベンゾエート、メンチルアセテート、ラバンズリルアセテート、リナリルアセテート及びギ酸エステルの群から選ばれるものである上記第三の手段に係るトイレットロールである。
【0012】
第五の手段は、
揮発性消臭香料が、シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートの少なくとも一方を含み、バニリンを含まない上記第三の手段に係るトイレットロールである。
【発明の効果】
【0013】
以上の本発明によれば、消臭剤の離脱がなく、トイレ空間内に拡散したアンモニア等の悪臭成分に対する即効性、臭気発生元に対する消臭効果及び消臭効果の持続性に優れ、さらに消臭効果の発現を認識しやすいトイレットロールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るトイレットロールを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
本発明に係るトイレットロールは、
図1に示すとおり、紙管11に帯状のトイレットペーパーS3が巻かれたものである。その大きさ等は、限定はされないが、概ね、幅L1が100~115mm、直径L2が100~130mm、巻き長さ(トイレットペーパーの全長)が18~90m、紙管内径が35~50mmである。
【0016】
本発明においてはトイレットペーパーS3は、特に限定されるものではなく、1プライ当りの米坪が11.0~25.0g/m2、紙厚が100~180μm、1プライから4プライ程度の公知のものとすることができる。この本発明に係る米坪とは、JIS P 8124(1998)の米坪測定方法によるものであり、紙厚とは、JIS P 8111(1998)の条件下で十分に調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて5回測定した平均値をいう。なお、測定時に係る圧力は70gf程度である。
【0017】
本発明に係るトイレットロール10は、特徴的に、悪臭成分を化学的に消臭しかつ香気を発する揮発性消臭香料が紙管外周に付与されている。トイレットロール10は、紙管外周トイレットペーパーが巻かれているため、本発明に係る紙管外周に付与された揮発性消臭剤はトイレットペーパーの層によって被覆される。このため揮発性消臭剤は、トイレットロールの使用時に露出されることがなく、また、徐放性をもって香気が放たれる。すなわち、トイレットロールはトイレットペーパーが引き出されるにしたがって、巻かれているトイレットペーパーによる紙層が薄くなるため、揮発性消臭香料の揮発抑制効果が低下していく。その一方で、外周に付与された揮発性消臭香料も経時的に揮発によって少なくなっていく。本発明に係るトイレットロールでは揮発性消臭香料が特に紙管外周に付与されていることで揮発性消臭香料の揮発性の低下と揮発抑制効果の低下がバランスされやすく、香気及び消臭効果の持続性に優れるものとなる。
また、揮発性消臭香料は、ゼオライト等の粒状の個体の状態で消臭効果を発現させるものではなくバインダーによって外周に付着させるようなものでもなく、また、紙管外面はトイレットロールホルダーの支持部と摺れる部分でもないため、紙管から離脱するようなこともない。
さらに、紙管外面に付与されている場合には、製造上の利点も有する。トイレットロールを製造する際には、紙管外周面に糊を付着させた後、直ちにトイレットペーパーを巻き取ってロール化する。この糊付けからトイレットペーパーの巻き取り開始までは、数秒程度、長くとも十数秒程度である。本発明に係るトイレットロールは、揮発性消臭香料の付与位置が紙管外面であるため、糊付けと同時又はさほどの時間差なく揮発性消臭香料を付与でき、さらに付与直後にトイレットペーパーで被覆するようにして製造することができる。これは、製造時に揮発性消臭香料を製造設備に付着させる恐れが低く、さらに、付与した揮発性消臭香料が暴露される時間を短くすることができることであり、ゆえに製造安定性にも優れる。
【0018】
本発明に係るトイレットロール10における揮発性消臭香料の含有量は、特に限定されるものではない。トイレ空間内で香気が感じられる程度であれば、十分に効果を奏する。揮発性消臭香料の具体的な含有量は、用いる具体的な種類、消臭効果、香気、香調、香りの強さを考慮して定めることができる。
【0019】
前記揮発性消臭香料は、常温で揮発性を有し、揮散により香気を発生する香料でありながらトイレ空間内における悪臭成分と化学反応を生じるものであって、特に悪臭成分を化学反応によって悪臭がない又は少ない物質へと変化させるものである。なお、悪臭成分とは、トイレ空間内において問題となるものであり、代表的には尿臭の原因となるアンモニア、トリメチルアミン、便臭の原因となるメチルメルカプタン、硫化水素である。
【0020】
揮発性消臭香料は、揮散して香気を発するものであるためトイレ空間内に拡散したアンモニア等の悪臭成分に対する即効性に優れる。つまり、本発明に係る揮発性消臭香料は、消臭効果を有する香料がトイレ空間内に揮散され、トイレ空間内に拡散するアンモニア等の悪臭成分と迅速に接触して消臭効果が発揮される。さらに、トイレ空間内に香気が拡散されることで、壁や床に飛散した尿とも接触し、係る尿から発するアンモニア等による尿臭も抑制することができる。つまり、臭気発生元に対する消臭効果にも優れる。さらに揮発性消臭香料は、香料であるため香気の強さによって消臭効果の強弱を認識しやすく、また、香気の低下や香気の変調によって消臭効果の低下などの変化を認識することができる。
【0021】
揮発性消臭香料は、好ましくは、一種又は二種以上のエステル系化合物を含む。エステル系化合物は、花の香りや果実臭を呈するものが多く、トイレ空間内で使用される香料として適する一方、トイレ空間内の主たる悪臭成分であるアンモニアと交換反応することで、アンモニア臭を除去または低減させることができる。
さらに、揮発性消香料は、アンモニアに代表されるアミン基を有する臭気に対して中和反応による消臭効果を有するケトン基やアルデヒド基を有する香料であってもよく、上記エステル系化合物とともに含ませることができる。
【0022】
このエステル系化合物として好ましい物質としては、前記エステル系化合物は、酢酸リナリル、オイゲニルアセテート、ゲラニルアセテート、サビニルアセテート、サビネンヒドレート、シトロネリルアセテート、テルピニルアセテート、ネリルアセテート、ブチルアルゲレート、ベチベリルアセテート、ベンジルアセテート、ベンジルベンゾエート、ボルニルアセテート、ボルニルイソバレレート、メチルアントラニレート、メチルサリチレート、メチルブチレート、メチルベンゾエート、メンチルアセテート、ラバンズリルアセテート、リナリルアセテート又はギ酸エステルが挙げられる。これらは、人が良好に感ずる香気を有しながら、アンモニアに対する高い消臭効果を発現する。揮発性消臭香料は、これらの群から選ばれる一種又は二種以上を含むようにするのがよい。
【0023】
他方で、エステル系化合物は、炭素数が5以上のものであるのが望ましい。より好ましくは、具体的には、炭素数が6~12個であるのが望ましい。炭素数が5未満であると揮発性が高く過ぎて、香気の持続性、消臭効果の持続性が十分とならない場合がある。特に炭素数が6~12個のエステル化合物に係る香料は、揮発性に関し20℃における蒸気圧を0.02mmHg以上0.1mmHg未満の範囲となるものが多く、この範囲は、香料においては、いわゆるミドルノートと称されるものであり持続性と揮発性とのバランスに優れ、特に一般的に一つのトイレットロールが使い切られる期間を考慮すると、トイレットロールの使用期間中において十分に香気と消臭効果を発現させることができる。炭素数が12個を超えるものでもよいが、炭素数12を超えると香料ではラストノートと称されるもので迅速な揮散性についてやや劣るようになる。
【0024】
揮発性消臭香料として、特に好ましいものは、シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートの少なくとも一方を含むものである。これらは、香気をバラ臭等の花の香りに調整しやすく、トイレ空間内において望ましいとされる香気を呈するとともに、窒素原とりわけアンモニアの化学的な消臭効果に非常に優れる。さらにマスキング性に点においても尿臭との相性がよい。また、シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートは、炭素数6~12個においてミドルノートの香調となるため使用期間、消臭期間として優れるとともに、香気を感じやすく消臭効果も認識しやすい。
シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートを用いる場合には、含有量はトイレットロールで1ロールあたりに使用されている香料の質量の1質量%以上、10質量%以下であるのがよい。この範囲であれば、十分に香気が感じられるとともに消臭効果も得られる。
【0025】
他方で、揮発性消臭香料が、上記のシトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートの少なくとも一方を含む場合には、バニリンを含まないようにするのが望ましい。バニリンは、香料の一種であるが、甘いバニラ臭を呈するものであって、シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートの香気と相性が悪く、アンモニア臭のマスキング効果や、香気の低下による効果の持続性の認識がし難いため望ましくない。一方、すっきり感のある香気を呈するリモネンやメントール等との相性は良く、香気による消臭効果の持続性の認識の点で望ましい。
【0026】
他方で、本発明に係るトイレットロールは、揮発性消臭香料が紙管外面に付与されているとともに、紙管内周には悪臭成分を化学的に消臭する消臭剤が付与されてなる悪臭成分との接触によって悪臭成分を消臭する消臭領域が設けられている。この消臭領域は、紙管内周全面にあるのが望ましい。広範なほうが悪臭成分との接触機会が高まる。本発明に係るトイレットロールは、紙管外周からの揮発成分と紙管内面における接触による二つの消臭効果が紙管に付与され、互いが別途の位置に付与されており、高い消臭効果と香気が感じられるものとなる。トイレ空間内に拡散したアンモニア等の悪臭成分に対する即効性、臭気発生元に対する消臭効果に優れるとともに、消臭効果の持続性にも優れる。さらに、消臭効果の発現を認識しやすい。
【0027】
ここで、本発明に係るトイレットロールは、揮発性消臭香料と消臭剤を含侵させた消臭領域を有するが、これらを組み合わせても、互いの消臭効果が低下することはない。さらに、本発明に係る組み合わせは、香料が消臭効果を兼ねるため、香料又は消臭剤の使用量を減らして設計の自由度を挙げ、コストを減らすことができる。さらに、揮発性消臭香料が空間消臭を行うが、トイレ空間への出入りは頻繁な際や、トイレ空間内の温度が高く揮発性消臭香料が揮発しやすい状況では、消臭領域が空間消臭を補うため効率的に消臭作用が発現される。
【0028】
ここで、消臭剤は、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体及びポリフェノール類似体の何れか一つを含むもの(以下、ポリフェノール等ともいう)であるのが望ましい。ポリフェノール等は、植物及び植物の加工品から抽出されるなどしたものであり、フェノール性水酸基による反応性により、少なくともトイレ空間に存在する主たる悪臭成分の一つであるアンモニアに対する消臭機能を有するものである。もちろん、アンモニアに加えて、トイレ空間の悪臭成分として知られる、硫化水素、メチルメルカプタン、トリメチルアミンに対して反応性を有して消臭機能を有するものも存在し、上記ポリフェノール等はそのようなものであってもよい。例えば、ポリフェノール誘導体の中には、特許3919729号のように人為的に分子量の高いポリフェノールに対して適宜の官能基を持たせて、特定の成分に対する消臭機能を付加或いは高めたものが知られているが、本発明に係るポリフェノール等は、そのようなものであってもよい。
本発明に係るトイレットロールでは、特に、消臭剤をポリフェノール等とするとともに、揮発性消臭物質をエステル化合物とすると、フェノール性水酸基による反応性による消臭作用とエステル化合物の交換反応による消臭作用と、異なる消臭作用によって消臭効果が得られるものとなるため非常に望ましい。さらに、ポリフェノール等は、エステル化合物の香気や消臭効果に影響を与えない。特に、シトロネリルフォルメート及びフェニルエチルフォルメートと組み合わせは香気と効果の点で望ましい。
【0029】
ここで、ポリフェノール等は、紙管の内面側から外周面側に向かって厚み方向に含浸されて保持されているのが望ましい。紙管内表面を介してトイレ空間内に漂う悪臭成分との接触が十分に確保され、ポリフェノール等による優れた消臭機能をより効果的に発揮させることができる。なお、ポリフェノール等は、紙に含侵され難いものであるが、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール等の低級アルコールとともに紙に付与すると含浸させることができる。
【0030】
ポリフェノール等のより好ましい具体例としては、タンニン、カテキン、ルチン、アントシアニン、エラグ酸、クマリン、フラボン及びこれらの誘導体又は前駆体である。これらはトイレの悪臭成分に対して特に高い消臭効果を発揮するとともに、上記エステル化合物である揮発性消臭香料の香気に影響がない。なお、これらは、紙管内に適宜複数含浸されていてもよい。
【0031】
上記具体例のなかでも、特に好ましいものは、タンニン及びその誘導体である。タンニン及びタンニン誘導体は、分子量が大きくフェノール性水酸基を多く有するため消臭機能に優れる。なお、タンニンは、縮合型タンニン、加水分解型タンニンのいずれでもよい。また、タンニンのなかでも、柿由来の柿タンニンは、分子量が非常に大きく、消臭効果に極めて優れるため、本発明に係る消臭剤成分として、この柿タンニン及び柿タンニン誘導体の少なくとも一方を含むようにするのがよい。柿タンニンを含ませる場合には、さらに茶カテキンをともに含ませるのがよい。
なお、上記ポリフェノール等は、市販のポリフェノール系消臭剤に由来するものであってもよい。市販のポリフェノール系消臭剤としては、例えば、リリース科学工業株式会社製のPancil COS-15、Pancil COS-17、Pancil CL-10、Pancil AS-10、Pancil AS-20、Pancil BA-210-1、Pancil COS-5、Pancil FG-22、Pancil FG-25、Pancil FG-30、Pancil FG-60、Pancil FG-70、Pancil FG-99、Pancil FX10、Pancil PO -10、Pancil BA-200E-1が挙げられる。
【0032】
他方、本発明に係るトイレットロールは、揮発性消臭香料及びポリフェノール等に加えて、本発明の効果を妨げない範囲で、有機酸、有機酸塩が含まれていてもよい。有機酸、有機酸塩も消臭効果を有する。有機酸、有機酸塩としては、人体に対する安全性の高いものであるのが望ましく、例えば、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、グルタル酸、アミノ酸、アジピン酸、アスコルビン酸、又はこれらの無機塩もしくは有機塩が例示できる。塩を形成する無機塩基としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムのようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が例示できる。また、有機塩基としては、窒素含有塩基、例えば一級、二級又は三級アミン、イミノ基、グアニジノ基、イミダゾリノ基、イミダゾリル基、ピリジル基等の基を有する化合物が例示できる。
【0033】
他方、揮発性消臭香料とともにポリフェノール等を含侵させるのであれば、紙管は、1~3枚の紙管原紙をスパイラル巻きしたものであって、紙厚100~1200μm、米坪130~618g/m2であるのが望ましい。この紙厚及び米坪の範囲とすることで、適切な密度となり、トイレ空間を漂う悪臭成分とのポリフェノール等の接触が確保され、優れたポリフェノール等の消臭機能を効果的に発揮することができる。また、十分な量の揮発性消臭香料を含ませることができる。特に、2枚の紙管原紙をスパイラル巻きしたものであって、紙厚が200~800μm、米坪130~412g/m2であるのが望ましく、このような紙管であると製造が容易で特にポリフェノール等との接触性に優れる。なお、紙管の厚みおよび米坪は、紙管の状態のまま測定することとする。紙管は円筒型であるが、上記紙管内径の範囲であればその湾曲による誤差は無視できる。
【0034】
さらに、本発明に係るトイレットロールでは、紙管11は、JIS P 8119(1998)に記載の方法で測定したベック平滑度10~80秒であるのが望ましい。ベック平滑度10~80秒の紙管では、含浸された消臭剤が確実に保持され、また、含浸されたポリフェノール等のトイレ空間内に漂うアンモニア等の悪臭成分との接触が十分に確保される。
【0035】
本発明に係るポリフェノール等の含有量としては、紙管内周面の面積を基準として、0.002~6.0g/m2であるのが望ましい。より、好ましくは0.2~2g/m2である。この含有量であれば、ポリフェノール等による消臭効果を十分に発揮させることができる。
【0036】
他方、本発明に係るトイレットロールは、揮発性消臭香料のトイレ空間内への揮散によって、製品とするにはガスバリア性の高い包装袋で包装するのが望ましい。
【実施例】
【0037】
本発明の効果を確認すべく、実施例1および比較例1~4を用いてトイレ空間内における主たる悪臭成分の一つであるアンモニアに対する消臭効果を下記(1)~(4)の手順で試験して確認した。
(1)20Lの気密容器(テドラーバッグ 20L:ジーエルサイエンス株式会社製)内に25%アンモニア水(和光純薬株式会社製、1級)を20μL入れ、その後、空気を封入する。60分間静置し、20Lの気密容器内でアンモニアを揮発させ、アンモニアガスが充填された20Lの気密容器を作製する。
(2)紙管(坪量160g/m2、内径41mmφ×114mm)内面にポリフェノール系消臭剤であるパンシルFG28及びビームスターOFを含侵させたものを作製する。
(3)(2)で作成した紙管の外面に、1%濃度の揮発性消臭成分を配合した香料(FRUITY T14018227:高砂香料工業株式会社製)を120μL付与した試料(実施例1)、5%濃度の揮発性消臭成分を配合した香料(FRUITY T14018227:高砂香料工業株式会社製)を120μL付与した試料(実施例2)、10%濃度の揮発性消臭成分を配合した香料(FRUITY T14018227:高砂香料工業株式会社製)を120μL付与した試料(実施例3)、ポリフェノール系消臭剤と揮発性消臭成分を配合した香料のいずれも付与していないブランク試料(比較例1)、アンモニアと化学反応をしない従来香料(TJP-O-4761:高砂香料工業株式会社製)120μを付与した試料(比較例2)、アンモニアと化学反応をしない従来香料(FIVENEO C-7278:曽田香料株式会社製)120μLを付与した試料(比較例3)を作製し、直ちに密閉容器内に入れ封止する。なお、実施例1から実施例3に用いた揮発性消臭香料は、バニリンを含まずシトロネリルフォルメートを含むものである。
(4)(1)で作成したアンモニアガスを密閉された試料が入った密閉容器内に濃度が130ppmとなるように封入する。
(5)短時間である15分放置後、60分放置後における各例の試料に係る気密容器内のアンモニアガス濃度を測定し、アンモニア分解効果を確認する。なお、アンモニアガス濃度の測定は、ガス検知管(株式会社ガステック製 3L)を用いた。結果は、下記表1に示す。
【0038】
【0039】
表1をみてみると、実施例1~実施例3の本発明に係る試料では、15分間という短時間で、比較例に比してアンモニア濃度が有意に低下した。また、60分間でも有意差があった。本発明に係る揮発性消臭香料は15分間という短時間から持続的に消臭効果が発揮されることが確認できた。また、このことから揮発性消臭香料が揮発して容器内に充満していることも確認できた。結果から本発明に係るトイレットロールでは、消臭剤の離脱がなく、トイレ空間内に拡散したアンモニア等の悪臭成分に対する即効性や臭気発生元に対する消臭効果に優れるといえる。また、香気によって消臭効果の発現を認識しやすいものといえる。
【符号の説明】
【0040】
10・トイレットロール、11・紙管、11A・紙管内面、S3・トイレットペーパー、L1・トイレットロールの幅、L2・トイレットロールの直径。