(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良方法、及び塩化カリウム含有飲食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20220824BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20220824BHJP
C12N 15/00 20060101ALN20220824BHJP
【FI】
A23L27/10 G ZNA
C12N9/26
C12N15/00 100Z
(21)【出願番号】P 2018108633
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】岩見 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】畑 千嘉子
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆之
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189758(JP,A)
【文献】特開2007-068488(JP,A)
【文献】特開2011-142868(JP,A)
【文献】食品成分表2015 資料編,2015年,pp.236-237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
C12N 9/26
C12N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩の一部を塩化カリウムに代替した塩化カリウム含有飲食品に対して用いられるものであり、
植物又は酵母の細胞壁グリカンを分解する細胞壁分解酵素による酒粕の酵素分解物を有効成分として含有することを特徴とする塩化カリウム含有飲食品の
えぐ味マスキング剤。
【請求項2】
前記細胞壁分解酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む請求項1に記載の
えぐ味マスキング剤。
【請求項3】
前記細胞壁分解酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼを含む請求項1又は2に記載の
えぐ味マスキング剤。
【請求項4】
前記酵素分解物は、グルテリン、グロブリン、及びプロラミンからなる群より選ばれた少なくとも1種のタンパク質の部分断片からなる分子量3000以下のペプチドを含有する請求項1~3のいずれかに記載の
えぐ味マスキング剤。
【請求項5】
食塩の一部を塩化カリウムに代替した塩化カリウム含有飲食品の
えぐ味マスキング方法であって、
前記塩化カリウム含有飲食品に、請求項1~4のいずれかに記載の
えぐ味マスキング剤を含有させることを特徴とする塩化カリウム含有飲食品の
えぐ味マスキング方法。
【請求項6】
食塩の一部を塩化カリウムに代替した塩化カリウム含有飲食品の製造方法であって、
前記塩化カリウム含有飲食品の原料として、請求項1~4のいずれかに記載の
えぐ味マスキング剤を用いることを特徴とする塩化カリウム含有飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良方法、及び塩化カリウム含有飲食品の製造方法に関する。本発明の塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤は、塩化カリウム含有飲食品のえぐ味等の不快味のマスキング効果を備えたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康志向が益々高まっており、生活習慣や食生活の改善に関心が集まっている。その中でも、高血圧症、心臓疾患、腎臓疾患、胃ガン等の一要因とされる塩分(食塩、塩化ナトリウム)の摂りすぎを抑えるべく、「減塩」が消費者の食生活において注目されている。
【0003】
塩化ナトリウムの摂取量を削減する目的で、塩化カリウムが塩化ナトリウムの代替品としてよく用いられている。しかし、塩化カリウムには「えぐ味」や「苦味」など独特の不快味がある。そこで、塩化カリウムを含有させた飲食品(塩化カリウム含有飲食品)の呈味を改良するために、この不快味をマスキング等するための様々な食品素材が開発されている。
【0004】
塩化カリウム含有飲食品の呈味改良技術としては、例えば、特許文献1~5に開示されたものがある。特許文献1には、塩化カリウムの塩味を減ずることなくそのえぐ味を低減せしめて呈味改良するために、砂糖製造時に得られる非糖成分濃縮物又はその処理物を塩化カリウムと併用する塩化カリウムの呈味改良剤が開示されている。特許文献2には、塩化カリウムの刺激味、えぐ味、苦味、不快味を除去し、かつ嗜好性を低下させない食塩代替調味料として、塩化カリウム、塩化アンモニウム、乳酸カルシウム、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-グルタミン酸塩及び/又は核酸系呈味物質を特定の割合で混合してなる調味料組成物が開示されている。特許文献3には、えんどう及び/又はその抽出物を含有することを特徴とするカリウム含有飲食品の呈味改良剤が開示されている。
【0005】
特許文献4には、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良のために、海藻を酵素分解して得られた海藻酵素分解物が用いられ、その酵素分解物は、セルラーゼ、グルカナーゼ、ぺクチナーゼ、アルギン酸リアーゼ、マンナナーゼ及びプロテアーゼからなる群から選ばれた1種又は2種以上の酵素で海藻を酵素分解して得られたものであることが開示されている。特許文献5には、余計な酸味、苦味又はえぐ味を付与することなく、飲食品の塩味を増強することができ、減塩時の塩味の不足と満足感の低下を改良する組成物として、塩化カリウム100重量部に対し、フィチン酸及び/又はその塩が、0.05~1.2重量部、アルギニン及び/又はその塩が、1~40重量部、カルボン酸及び/又はその塩が、1~35重量部である組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-14742号公報
【文献】特開平11-187841号公報
【文献】特開2003-219811号公報
【文献】国際公開第2011/089764号
【文献】特開2017-158543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、減塩を望む消費者の健康志向に広く対応すべく、新たな食品素材を用いた、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良技術が求められている。そこで本発明は、新たな食品素材を用いた、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤と呈味改良方法、及び塩化カリウム含有飲食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良に使用できる新たな食品素材を探索した。そして、清酒、みりん等の製造で副生する酒粕に着目し、その機能について鋭意検討を行った。その結果、米や酵母の細胞壁に作用する加水分解酵素による酒粕の酵素分解物が、塩化カリウムのえぐ味等の不快味のマスキング作用を有し、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良に効果があることを見出した。さらに、当該酵素分解物に含まれる酒粕由来のペプチドが、不快味のマスキング作用に寄与していることを見出した。またこの効果は、酒粕に含まれている当該ペプチドが、細胞壁の酵素処理によって高効率で抽出された結果と考えられた。
【0009】
上記した知見に基づいて提供される本発明の1つの様相は、植物又は酵母の細胞壁グリカンを分解する細胞壁分解酵素による酒粕の酵素分解物を有効成分として含有することを特徴とする塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤である。
【0010】
本様相は塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤に係るものである。本様相の呈味改良剤は、植物又は酵母の細胞壁グリカンを分解する細胞壁分解酵素による酒粕の酵素分解物を、有効成分として含んでいる。本様相の呈味改良剤によれば、塩化カリウムのえぐ味等の不快味をマスキングすることができ、塩化カリウム含有飲食品の呈味を改良することができる。
【0011】
好ましくは、前記細胞壁分解酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0012】
好ましくは、前記細胞壁分解酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼを含む。
【0013】
好ましくは、前記酵素分解物は、グルテリン、グロブリン、及びプロラミンからなる群より選ばれた少なくとも1種のタンパク質の部分断片からなる分子量3000以下のペプチドを含有する。
【0014】
本様相の呈味改良剤では、前記酵素分解物が、グルテリン、グロブリン、及びプロラミンからなる群より選ばれた少なくとも1種のタンパク質に由来する、特定範囲の分子量を有するペプチドを含有する。当該ペプチドは酒粕由来のものであり、上記酵素処理によって酒粕から高効率で抽出される。当該ペプチドは、1種又は2種以上のペプチドであり得る。
【0015】
本発明の他の様相は、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良方法であって、前記塩化カリウム含有飲食品に、上記の呈味改良剤を含有させることを特徴とする塩化カリウム含有飲食品の呈味改良方法である。
【0016】
本様相は塩化カリウム含有飲食品の呈味改良方法に係るものである。本様相では、上記した呈味改良剤を塩化カリウム含有飲食品に含有させて、塩化カリウム含有飲食品の呈味を改良する。本様相によれば、塩化カリウムのえぐ味等の不快味がマスキングされ、塩化カリウム含有飲食品の呈味を改良することができる。
【0017】
本発明の他の様相は、塩化カリウム含有飲食品の製造方法であって、前記塩化カリウム含有飲食品の原料として、上記の呈味改良剤を用いることを特徴とする塩化カリウム含有飲食品の製造方法である。
【0018】
本様相は塩化カリウム含有飲食品の製造方法に係るものである。本様相では、上記した呈味改良剤を、塩化カリウム含有飲食品の原料として用いる。本様相によれば、塩化カリウムのえぐ味等の不快味がマスキングされ、呈味が改良された高品質の塩化カリウム含有飲食品を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤によれば、塩化カリウムのえぐ味等の不快味をマスキングすることができ、塩化カリウム含有飲食品の呈味を改良することができる。
【0020】
本発明の塩化カリウム含有飲食品の呈味改良方法によれば、塩化カリウムのえぐ味等の不快味がマスキングされ、塩化カリウム含有飲食品の呈味を改良することができる。
【0021】
本発明の塩化カリウム含有飲食品の製造方法によれば、塩化カリウムのえぐ味等の不快味がマスキングされ、呈味が改良された高品質の塩化カリウム含有飲食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
【0023】
本発明の塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤は、植物又は酵母の細胞壁グリカンを分解する細胞壁分解酵素による酒粕の酵素分解物を、有効成分として含むものである。そして、本発明の呈味改良剤を塩化カリウム含有飲食品に含有させることにより、塩化カリウム含有飲食品の呈味を改良することができる。また、本発明の呈味改良剤を塩化カリウム含有飲食品の原料として用いることにより、呈味が改良された塩化カリウム含有飲食品を製造することができる。
【0024】
本発明における酒粕としては、清酒を製造する際に副生する清酒粕が代表的である。例えば、吟醸酒、純米酒、普通酒、増醸酒、等を製造する過程で得られる清酒粕が挙げられる。清酒粕以外の酒粕としては、みりん粕、蒸留酒粕(焼酎粕等)が挙げられる。酒粕は、例えば、そのまま(湿固形物)、あるいは乾燥させて粉砕したものを用いることができる。
【0025】
本発明における塩化カリウム含有飲食品は、呈味成分として塩化カリウムを含有する飲食品であれば特に限定はないが、減塩等を目的として食塩の一部を塩化カリウムに代替した飲食品が代表的である。塩化カリウム含有飲食品における、食塩と塩化カリウムの合計に対する塩化カリウムの質量比(塩化カリウムの質量/食塩と塩化カリウムの合計質量)は、例えば5/100~95/100であり、好ましくは20/100~80/100、より好ましくは30/100~70/100、さらに好ましくは40/100~60/100である。
【0026】
本発明では、植物又は酵母の細胞壁グリカンを分解する細胞壁分解酵素による酒粕の酵素分解物を有効成分として用いる。細胞壁グリカンとは、細胞壁に存在する多糖である。植物の細胞壁グリカンには、少なくとも、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンが含まれる。酵母の細胞壁グリカンには、少なくとも、マンナン、グルカンが含まれる。
【0027】
前記細胞壁分解酵素としては特に限定はないが、具体例として、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルカナーゼ、等を挙げることができる。これらの酵素によれば、酒粕に含まれる米や酵母の細胞壁を分解することができる。細胞壁分解酵素については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
セルラーゼは、セルロースのβ1→4グルコシド結合を加水分解する酵素である。セルラーゼには、少なくとも、エンドβ-グルカナーゼ、エキソβ-グルカナーゼ、及びβ-グルコシダーゼが含まれる。
ヘミセルラーゼは、ヘミセルロースを加水分解する酵素である。
ペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)は、ペクチン等を構成するポリガラクツロン酸のα1→4結合を加水分解する酵素である。
マンナナーゼは、マンナンのβ1→4マンノシド結合を加水分解する酵素である。
グルカナーゼは、グルカンを加水分解してオリゴ糖又はグルコースを生成する酵素である。
【0029】
好ましい実施形態では、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼからなる群より選ばれた少なくとも1種の細胞壁分解酵素を用いる。これらの酵素については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
さらに好ましい実施形態では、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びペクチナーゼを含む細胞壁分解酵素を用いる。
【0030】
好ましい実施形態では、前記酵素分解物は、グルテリン、グロブリン、及びプロラミンからなる群より選ばれた少なくとも1種のタンパク質の部分断片からなる分子量3000以下のペプチドを含有する。例えば、後述の実施例で示す18種のペプチドの少なくとも1つを含む。
【0031】
上記ペプチドの塩化カリウム1gに対する含量としては特に限定はないが、例えば、1mg以上、好ましくは、1.5mg以上、より好ましくは2mg以上である。なお、上記ペプチド含量の上限は特になく、呈味改良効果を発揮する範囲で自由に設定できる。なお本発明では、試料をアミノ酸分析計によって分析し、測定された全アミノ酸から遊離アミノ酸を除いた値をペプチド含量とする。
【0032】
なお本発明者が調べたところ、酒粕の熱水抽出物でもある程度の呈味改良効果はあるものの、酒粕の酵素分解物の方が呈味改良効果が高かった。このことから、本発明の効果は、酒粕を酵素処理することにより酒粕中の米や酵母の細胞壁が破壊され、上記ペプチドが高効率で抽出された結果と考えられる。
【0033】
本発明の呈味改良剤の形態としては特に限定はなく、例えば、粉末状、液体状、等の形態とすることができる。その他、顆粒状、錠剤状、乳液状、ペースト状、等の形状とすることができる。
【0034】
本発明の呈味改良剤には、その機能を損なわない範囲で、前記酵素分解物以外の成分をさらに含有させてもよい。例えば、アルコール(エタノール)や澱粉を含有させてもよい。食塩等を含有させた発酵調味料の形態としてもよい。塩化カリウムを含有させた食塩代替製剤の形態としてもよい。
【0035】
本発明の呈味改良剤を製造する方法としては特に限定されず、例えば、使用する酵素の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、酒粕に酵素と水を混合して、当該素の至適温度、至適pHの範囲を所定時間保持することにより、酒粕の酵素分解物を得ることができる。例えば、酵素がセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナーゼ、及びグルカナーゼであれば、温度を30℃~70℃、pHを3~7、反応時間を1時間~48時間の範囲に設定することができる。酵素反応を停止させる場合は、例えば、80℃以上で15分以上加熱して酵素を失活させることができる。
通常、得られた酵素分解物を固液分離に供して液体部分を回収する。必要に応じて、液体部分を濃縮する。例えばこの液体部分を、呈味改良剤として用いることができる。必要に応じて、液体部分に他の成分(アルコール、澱粉、食塩、塩化カリウム等)を添加してもよい。さらに、造粒、乾燥等を行って、固体状としてもよい。
【0036】
本発明の呈味改良剤の使用量としては特に限定はなく、塩化カリウム含有飲食品における食塩の塩化カリウムによる代替率、塩化カリウムの含有量、他の食品原材料等に応じて適宜設定すればよい。例えば、塩化カリウム含有飲食品中の塩化カリウム1gに対して、前記した分子量3000以下のペプチド含量が、例えば、1mg以上となるように、呈味改良効果を発揮する範囲で添加すればよい。
【0037】
本発明の呈味改良剤は、呈味の改良を求める全ての塩化カリウム含有飲食品に適用することができる。例えば、減塩の目的で食塩の塩化カリウムによる代替率を高めたいにも関わらず、塩化カリウムのえぐ味等の呈味性の点で代替率が制限されているような飲食品には特に好適である。具体例としては、かまぼこ、ハム、パン、塩干物、漬物、梅干、醤油、だし、魚醤、みそ、ソース、バター、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング等が挙げられる。その他、だし巻き卵などに用いられる静菌剤特有の不快臭、えぐ味のマスキングにも有効である。
【0038】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
酒粕(清酒粕)10kgに対して、水24kg、セルラーゼ30g、ヘミセルラーゼ60g、ペクチナーゼ50gを混合し、40℃で8時間かけて酒粕を酵素分解させた。さらに、80℃で15分間かけて酵素を失活させた。この酒粕の酵素分解液をろ過した後、食塩1kg、95%アルコール(エタノール)4L、さらに水を混合し、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤30kgを得た(実施例1)。本実施例の呈味改良剤のペプチド含量をアミノ酸分析計により定量したところ、ペプチド含量は9760mg/kgであった。
【0040】
0.5w/v%の塩化カリウム溶液100質量部に、実施例1の呈味改良剤を0.1質量部(実施例1-1)又は0.2質量部(実施例1-2)添加した。0.5w/v%の塩化カリウム溶液に何も添加しないものを比較例とした(比較例1)。比較例1を基準として、えぐ味が弱い場合に1点、えぐ味がやや弱い場合には2点、えぐ味が比較例1と同じ場合には3点、えぐ味がやや強い場合には4点、えぐ味が強い場合には5点として、熟練したパネラー10名により官能評価試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
すなわち、実施例1の呈味改良剤を添加した実施例1-1と実施例1-2では、塩化カリウムのえぐ味が自然にマスキングされているとの評価であった。このように、実施例1の呈味改良剤を用いることにより、塩化カリウムのえぐ味等の不快味をマスキングすることができた。
【実施例2】
【0043】
酒粕(清酒粕)10kgに対して、水24kg、セルラーゼ30g、ヘミセルラーゼ60g、ペクチナーゼ50gを混合し、50℃で18時間かけて酒粕を酵素分解させた。さらに、80℃で15分間かけて酵素を失活させた。この酒粕の酵素分解液を固液分離して20kgの液体部分を得た。この液体部分を濃縮し、酒粕分解液の濃縮液10kgを得た。酒粕分解液の濃縮液をろ過した後、食塩1kg、95%アルコール(エタノール)4L、さらに水を添加し、塩化カリウム含有飲食品の呈味改良剤30kgを得た(実施例2)。本実施例の呈味改良剤のペプチド含量をアミノ酸分析計で分析したところ、ペプチド含量は10120mg/kgであった。
【0044】
0.5w/v%の塩化カリウム溶液100質量部に、実施例2の呈味改良剤を0.1質量部(実施例2-1)又は0.2質量部(実施例2-2)添加した。0.5w/v%の塩化カリウム溶液に何も添加しないものを比較例として用いた(比較例2)。比較例2を基準として、えぐ味が弱い場合に1点、えぐ味がやや弱い場合には2点、えぐ味が比較例2と同じ場合には3点、えぐ味がやや強い場合には4点、えぐ味が強い場合には5点として、熟練したパネラー10名により官能評価試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
すなわち、実施例2の呈味改良剤を添加した実施例2-1と実施例2-2では、塩化カリウムのえぐ味が自然にマスキングされているとの評価であった。このように、実施例2の呈味改良剤を用いることにより、塩化カリウムのえぐ味等の不快味をマスキングすることができた。
【実施例3】
【0047】
実施例1で調製した酒粕の酵素分解液20mLを、分画分子量3000の限外ろ過デバイスで限外ろ過した。膜上の残留物3mLを蒸留水で20mLに調整し、分子量3000以上の画分を得た。
分画分子量3000の限外ろ過の通過液75mLを、分画分子量1000の限外ろ過デバイスで限外ろ過した。膜上の残留物3mLを蒸留水で20mLに調整し、分子量1000~3000の画分を得た。
分画分子量1000の限外ろ過の通過液130mLを減圧濃縮して20mLとしたものを、分画分子量500の透析膜で透析した。透析用チューブ内の残液を減圧濃縮したのち、蒸留水で20mLに調整し、分子量500~1000の画分を得た。
【0048】
0.5w/v%の塩化カリウム溶液100質量部に、得られた各画分を1.2質量部添加した。0.5w/v%の塩化カリウム溶液に何も添加しないものを比較例3とした。比較例3に対して、えぐ味が弱い場合に1点、えぐ味がやや弱い場合に2点、比較例3と同等である場合に3点、えぐ味やや強い場合に4点、えぐ味が強い場合に5点として、熟練したパネラー10名により官能評価試験を実施した。その結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
すなわち、分子量500~1000の画分が1.4点となり、酒粕の酵素分解液原液に近い評価であった。これにより、塩化カリウムの呈味改良に寄与する成分が、分子量500~1000の画分に多く存在することがわかった。
【実施例4】
【0051】
実施例1で調製した酒粕酵素分解液を限外ろ過し、分子量3000以下の画分を得た。得られた画分を塩酸で酸性条件下に調整し、強酸性陽イオン交換樹脂に吸着させ、その後アンモニアで溶出させた。溶出画分を逆相HPLCに供し、6つの画分を得た。得られた6つの画分をLC-MS/MS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に供した。LC-MS/MSにより得られたスペクトルから、de novoシーケンス解析によりアミノ酸配列を解析した。その結果、表4に示す18個のアミノ酸配列が得られた。Blast検索を行い、各アミノ酸配列の由来と推定されるタンパク質を特定した(表4)。なお、アミノ酸の一文字表記は以下のとおりである。
A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、
G:グリシン、H:ヒスチジン、K:リシン、L:ロシシン、M:メチオニン、
N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、
T:トレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシン
【0052】
その結果、18個のペプチドのうち、10個がグルテリンに由来するペプチドであると推定された。また4個は、グロブリンに由来するペプチドと推定された。また1個は、プロラミンに由来するペプチドと推定された。
【0053】
【実施例5】
【0054】
実施例2の呈味改良剤1kgに対して、表5の配合に従って、塩化カリウム、本みりん、乳酸、および水を添加して混和した。この混和液に、適切な大きさに切った白菜300kgを漬込み、白菜の漬物を調製した(実施例5)。対照として、実施例2の呈味改良剤を用いずに白菜の漬物を調製した(比較例5)。これらの漬物について、熟練したパネラー10名による官能評価試験を行った。その結果、比較例5の漬物では、えぐ味が強く感じられたのに対して、実施例5の漬物は、塩化カリウムのえぐ味が感じられず、高評価であった。
【0055】
【実施例6】
【0056】
昆布だし1000mLに、醤油2.8mL、食塩2.0g、塩化カリウム2.0gを加えたものに、実施例1の呈味改良剤を100mL添加し、すまし汁を調製した(実施例6)。比較例として、呈味改良剤の代わりに水100mLを加えたすまし汁を調製した(比較例6)。熟練した10名のパネラーにより、官能評価試験を行った。その結果、比較例6のすまし汁は、えぐ味があったのに対して、実施例6のすまし汁は、えぐ味がなく、美味しいという評価であった。
【実施例7】
【0057】
酒粕(清酒粕)10kgに対して、水24kg、セルラーゼ30g、ヘミセルラーゼ60g、ペクチナーゼ50gを混合し、55℃で20時間かけて酒粕を酵素分解させた。さらに、80℃で15分間かけて酵素を失活させた。この酒粕の酵素分解液をろ過し、24kgの酒粕分解液を得た。この酒粕分解液を濃縮することにより、酒粕分解液の濃縮液3kgを得た。この濃縮液3kgに、塩化カリウム90kg、食塩50kgを混合して、粉末状の呈味改良剤140kgを得た(実施例7)。本実施例の呈味改良剤のペプチド含量をアミノ酸分析計で分析したところ、ペプチド含量は2510mg/kgであった。
【0058】
実施例7の呈味改良剤を1w/v%となるように水で希釈した。濃縮液の代わりに水を添加し、濃縮液を添加しないものを比較例とした(比較例7)。比較例7を基準として、えぐ味が弱い場合に1点、えぐ味がやや弱い場合には2点、えぐ味が比較例7と同じ場合には3点、えぐ味がやや強い場合には4点、えぐ味が強い場合には5点として、熟練したパネラー10名により官能評価試験を実施した。その結果を表6に示す。
【0059】
【0060】
すなわち、実施例7の呈味改良剤を添加することにより、塩化カリウムのえぐ味が消えたとの評価であった。
【配列表】