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特許7128683塗料組成物、塗膜、塗膜付き基材および塗膜付き基材の製造方法
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  • 特許-塗料組成物、塗膜、塗膜付き基材および塗膜付き基材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜、塗膜付き基材および塗膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20220824BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20220824BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220824BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220824BHJP
   C09D 163/04 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/08
C09D7/61
C09D7/63
C09D163/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018141247
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2019026843
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2017146872
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】住田 友久
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 真伍
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-517126(JP,A)
【文献】特表2012-533643(JP,A)
【文献】特開2008-095096(JP,A)
【文献】特開平02-248422(JP,A)
【文献】米国特許第04529537(US,A)
【文献】特開昭60-051715(JP,A)
【文献】特開昭61-228016(JP,A)
【文献】特表2014-511424(JP,A)
【文献】特開平10-324847(JP,A)
【文献】特開平04-348120(JP,A)
【文献】特開2000-044656(JP,A)
【文献】特開2009-149867(JP,A)
【文献】特表2012-531508(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104629342(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 163/00
C09D 5/08
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D 163/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(A)、環状構造を有するアミン系硬化剤(B)、イミダゾール系化合物(C)および顔料(D)を含有し、
下記式(1)で算出される反応比が0.2~0.5であり、
前記エポキシ化合物(A)中のレゾルシノールジグリシジルエーテル化合物(A1)の含有量が、前記エポキシ化合物(A)100質量%に対し、0質量%を超えて50質量%以下である、または、
前記エポキシ化合物(A)が、レゾルシノールジグリシジルエーテル化合物(A1)を含まない、
塗料組成物。
反応比=(前記硬化剤(B)の配合量/前記硬化剤(B)の活性水素当量+前記化合物(A)に対して反応性を有する成分の配合量/前記化合物(A)に対して反応性を有する成分の官能基当量)/(前記化合物(A)の配合量/前記化合物(A)のエポキシ当量+前記硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の配合量/前記硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の官能基当量)・・・(1)
【請求項2】
前記エポキシ化合物(A)がノボラック型エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記環状構造を有するアミン系硬化剤(B)が、脂環式アミンおよびその変性物から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記顔料(D)が扁平状顔料(D1)を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
さらにシランカップリング剤(E)を含有する、請求項1~の何れか1項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記塗料組成物の顔料体積濃度(PVC)が10~40%である、請求項1~の何れか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の塗料組成物より形成された塗膜。
【請求項8】
請求項に記載の塗膜と基材とを含む塗膜付き基材。
【請求項9】
前記基材が貨物タンク内面である、請求項に記載の塗膜付き基材。
【請求項10】
下記工程[1]および[2]を含む、塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~の何れか1項に記載の塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を形成でき、例えば、化学物質等を輸送または貯蔵するための貨物タンク内面の塗装用途に好適な、塗料組成物ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で5000種類以上もの液状の化学物質が、貨物タンクによって輸送されている。これらの化学物質は、鉄鋼などの貨物タンクを構成する素材に対して、何ら影響を及ぼさないものから、極めて強い腐食性を有するものまで多岐にわたっている。
【0003】
貨物タンク内面は、通常、塗料をはじめとする組成物や金属溶射によって被覆されている。このようにタンク内面を被覆することによって、貨物である化学物質からタンクを保護すると同時に、該タンクの腐食による貨物への汚染を防ぐことができる。
また、貨物タンク内面を被覆する材料として適切な材料を選択することで、該タンクで輸送可能な化学物質種の増加や、例えば、タンクの補修やクリーニングに要する時間の短縮など、タンクを運用する上で有益な効果を享受することができる。
【0004】
非金属による貨物タンクの内面被覆は、主としてエポキシ樹脂組成物によって行われる。例えば、特許文献1には、レゾルシノールジグリシジルエーテルエポキシ樹脂を樹脂分の主成分とするコーティング組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、マンニッヒ型硬化剤、シランカップリング剤、水酸基含有石油樹脂および3官能以上のアクリレート化合物を含む防食塗料組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、エポキシ当量が250~300であるビスフェノール型エポキシ樹脂を含む主剤成分と、キシリレンジアミンのエポキシアダクトとポリアミドのエポキシアダクトとを含む硬化剤成分とを含有する、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を形成できる防食塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2014-511424号公報
【文献】特開2010-24408号公報
【文献】国際公開第2007/102587号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献1に記載の組成物は、レゾルシノールジグリシジルエーテル(以下「RDGE」ともいう。)化合物の含有量が多いため、皮膚への刺激が強く、塗装作業者の健康に悪影響を及ぼすことが分かった。
また、前記特許文献1に記載の組成物は、前記貨物タンク用途に適した性能を有する塗膜を形成するためには、50℃以上の加温が必要であった。例えば、特許文献1に記載の組成物を船舶貨物タンクなどの大容量のタンクに塗装する場合、得られた塗膜を50℃以上の熱水に数時間以上浸漬する方法が適しているが、塗装後短期間(数日以内)に熱水に浸漬すると、形成される塗膜の耐溶剤性が不十分となることが分かった。
【0009】
また、前記組成物より形成される塗膜が、塗装後早期に耐油性、耐溶剤性、耐薬品性、防食性、耐水性等の本来有する塗膜性能を発揮するためには、塗膜に含まれている有機溶剤が揮発される必要がある。したがって、該塗膜が厚膜である場合、塗膜内部に有機溶剤が残留しやすいため、乾燥膜厚が70~180μmとなるように塗装することが好ましい。
一方、長期にわたって前記塗膜性能を維持するためには、乾燥膜厚として200μm以上の膜厚が必要である。200μm以上の膜厚の塗膜は、通常2回以上の塗装(2回以上塗り)で施工されている。その際、貨物タンクなどに塗装する場合には、塗装間隔を短期間(1日以内)で行うことが求められるが、特許文献1の組成物はRDGE化合物の含有量が多いため、塗膜の乾燥が遅い点で問題となっている。
【0010】
また、前記特許文献2に記載の防食塗料組成物から形成された塗膜を前記用途に適用するには、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性が不十分であることが分かった。
さらに、前記特許文献3に記載の防食塗料組成物から形成された塗膜を前記用途に適用するには、耐溶剤性の点で改良の余地があることが分かった。
【0011】
本発明は、前記従来技術に伴う問題点を解決しようとする発明であって、硬化性に優れ、かつ、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を形成でき、特に2回以上塗りで塗膜を形成する際に塗装間隔を短期間(1日以内)にしても、塗装後短期間(数日以内)の乾燥で熱水に浸漬しても、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を形成できる、塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、特定組成の塗料組成物によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0013】
<1> エポキシ化合物(A)、環状構造を有するアミン系硬化剤(B)、イミダゾール系化合物(C)および顔料(D)を含有し、
前記エポキシ化合物(A)中のレゾルシノールジグリシジルエーテル化合物(A1)の含有量が、前記エポキシ化合物(A)100質量%に対し、50質量%以下である、
塗料組成物。
【0014】
<2> 前記環状構造を有するアミン系硬化剤(B)が、脂環式アミンおよびその変性物から選択される1種以上である、<1>に記載の塗料組成物。
【0015】
<3> 前記顔料(D)が扁平状顔料(D1)を含む、<1>または<2>に記載の塗料組成物。
【0016】
<4> さらにシランカップリング剤(E)を含有する、<1>~<3>の何れかに記載の塗料組成物。
【0017】
<5> 前記塗料組成物の顔料体積濃度(PVC)が10~40%である、<1>~<4>の何れかに記載の塗料組成物。
【0018】
<6> <1>~<5>の何れかに記載の塗料組成物より形成された塗膜。
<7> <6>に記載の塗膜と基材とを含む塗膜付き基材。
<8> 前記基材が貨物タンク内面である、<7>に記載の塗膜付き基材。
【0019】
<9> 下記工程[1]および[2]を含む、塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<5>の何れかに記載の塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0020】
本発明の塗料組成物は、皮膚刺激性の強いRDGEの含有量が少ない硬化性に優れる組成物であり、該組成物によれば、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れ、特に、2回以上塗りで塗膜を形成する際に塗装間隔を短期間(1日以内)にしても、塗装後短期間(数日以内)の乾燥で熱水に浸漬しても、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を形成できる。
本発明の塗料組成物は、陸上輸送、海上輸送等において、輸送または貯蔵するための貨物タンクの内面、特に、防食性以外にも高い耐油性、耐溶剤性、耐薬品性が要求されるプロダクトキャリアやケミカルタンカー等の貨物タンク内面に塗装する塗料組成物として、さらに、パイプライン等の内面に塗装する防食塗料組成物として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例の防食性試験で用いた、切り込みを入れた試験板の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
≪塗料組成物≫
本発明の一実施形態である塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、エポキシ化合物(A)、環状構造を有するアミン系硬化剤(B)、イミダゾール系化合物(C)および顔料(D)を含有し、
前記エポキシ化合物(A)中のRDGE化合物(A1)の含有量が、前記エポキシ化合物(A)100質量%に対し、50質量%以下である。
【0023】
本組成物は、前記(A)~(D)を含み、特に、特定の(A)~(C)を含み、かつ、前記化合物(A1)の含有量が特定の範囲にあるため、前記効果を奏する。
ここで、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性に優れるとは、具体的には、重油、ガソリン、ナフサ、パーム油等の油類、メタノール、エタノール、キシレン、ベンゼン、メチルイソブチルケトン、1,2-ジクロロエタン、酢酸エチル等の溶剤、水酸化ナトリウム、硫酸等の薬品への耐性に優れることをいう。
これらの油類、溶剤および薬品は、塗膜への影響が大きいため、これら油類、溶剤および薬品に耐性を有する塗膜は、一般的な油、溶剤および薬品に対しても、耐性を有すると考えられる。
【0024】
本組成物は、1成分型の組成物であってもよいが、通常、エポキシ化合物(A)を含有する主剤成分と、アミン系硬化剤(B)を含有する硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である。また、必要により、本組成物は、3成分型以上の組成物であってもよい。
これら主剤成分および硬化剤成分は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に一緒に混合して用いられる。
【0025】
<エポキシ化合物(A)>
前記エポキシ化合物(A)は、該化合物(A)100質量%中のRDGE化合物(A1)の含有量が50質量%以下であれば特に制限されないが、0~50質量%のRDGE化合物(A1)と、50~100質量%のRDGE化合物(A1)以外のエポキシ化合物(A2)とを含むことが好ましい。
本組成物は、このような特定のエポキシ化合物(A)を含むため、人体や環境への悪影響が抑制され、硬化性に優れる組成物となり、しかも、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れ、特に、2回以上塗りで塗膜を形成する際に塗装間隔を短期間(1日以内)にしても、塗装後短期間(数日以内)の乾燥で熱水に浸漬しても、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を形成できる。
【0026】
エポキシ化合物(A)100質量%中の、RDGE化合物(A1)の含有量は、より耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点からは、好ましくは0質量%を超え50質量%以下であり、該化合物(A1)の含有量の下限は、好ましくは10質量%、特に好ましくは15質量%であり、上限は、好ましくは45質量%であり、エポキシ化合物(A2)の含有量は、好ましくは50質量%以上100質量%未満であり、該化合物(A2)の含有量の下限は、好ましくは55質量%であり、上限は、好ましくは90質量%、特に好ましくは85質量%である。
より人体や環境への悪影響を抑制できる組成物を容易に得ることができる等の点からは、RDGE化合物(A1)は実質的に含まれないことが好ましく、エポキシ化合物(A)100質量%中の、RDGE化合物(A1)の含有量は、より好ましくは0質量%であり、エポキシ化合物(A2)の含有量は、好ましくは100質量%である。
【0027】
本組成物中のエポキシ化合物(A)の含量は、基材との密着性、塗膜強度、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性などにより優れる塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは10~60質量%、より好ましくは20~55質量%である。
【0028】
〈RDGE化合物(A1)〉
RDGE化合物(A1)は、下記式(2)で表される低粘度のエポキシ化合物であって、エポキシ当量は通常111程度である。
RDGE化合物(A1)の市販品としては、例えば、「ERISYS RDGE」(CVC Thermoset Specialties製、エポキシ当量115~135、不揮発分100%)が挙げられる。
【0029】
【化1】
【0030】
RDGE化合物(A1)は、芳香環を有する2官能エポキシ化合物の中でも分子長が短く、アミン系硬化剤(B)との反応により架橋密度の高い塗膜を形成することができ、さらにイミダゾール系化合物(C)により、単独重合し、良好な耐油性、耐溶剤性、耐薬品性等を有する塗膜を容易に得ることができる。
【0031】
〈RDGE化合物(A1)以外のエポキシ化合物(A2)〉
エポキシ化合物(A2)としては、例えば、分子内に2個以上のエポキシ基を含むポリマーまたはオリゴマーや、反応性希釈剤などのエポキシ化合物が挙げられ、このようなエポキシ化合物の内、耐溶剤性および耐薬品性等により優れる塗膜を形成できる等の点から、エポキシ当量が、好ましくは200以下、より好ましくは100~200のエポキシ化合物が望ましい。なお、エポキシ当量は、JIS K 7236に基づいて算出される。
エポキシ化合物(A)に含まれるエポキシ化合物(A2)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
エポキシ化合物(A2)としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、芳香族型エポキシ樹脂が挙げられる。本組成物がRDGE化合物(A1)を実質的に含有しない場合、エポキシ化合物(A2)は、ノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0033】
エポキシ化合物(A2)としては、本組成物から塗膜を形成する際の方法、基材の種類、用途、塗装環境等に応じた塗装作業性を考慮し、反応性希釈剤などのエポキシ化合物を用いてもよい。このような反応性希釈剤などのエポキシ化合物としては、脂肪族型、脂環式および/または芳香族型のエポキシ化合物であって、分子内に1~5個のエポキシ基を含むエポキシ化合物が挙げられる。
【0034】
エポキシ化合物(A2)は、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂である「D.E.N. 425」(The Dow Chemical Company製、エポキシ当量169~175、平均官能基数2.5、不揮発分100%)、「D.E.N. 431」(The Dow Chemical Company製、エポキシ当量172~179、平均官能基数2.8、不揮発分100%)および「D.E.N. 438」(The Dow Chemical Company製、エポキシ当量176~181、平均官能基数3.6、不揮発分100%)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である「E-028」(大竹明新化学(株)製、エポキシ当量180~190、不揮発分100%)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である「jER 807」(三菱化学(株)製、エポキシ当量160~175、不揮発分100%)が挙げられるが、特に、耐溶剤性および耐薬品性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、平均官能基数が2.5以上のノボラック型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、平均官能基数が2.5~5.0のノボラック型エポキシ樹脂を用いることがより好ましく、平均官能基数が2.5~4.0のノボラック型エポキシ樹脂を用いることがさらに好ましい。
また、前記反応性希釈剤などのエポキシ化合物の市販品としては、例えば、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルである「ERISYS GE-22」(CVC Thermoset Specialties製、エポキシ当量155、不揮発分100%)が挙げられる。
【0035】
<環状構造を有するアミン系硬化剤(B)>
前記環状構造を有するアミン系硬化剤(B)は、後述するイミダゾール系化合物(C)および三級アミン(3級アミノ基のみを有するアミン化合物)を除く、環状構造を有するポリアミンであれば特に制限されず、脂環式、芳香族系、複素環系等のポリアミンやこれらポリアミンの変性物、および、脂肪族ポリアミンとフェノール系化合物とを用いたマンニッヒ化合物(例:フェナルカミン)や脂肪族ポリアミンとフェノール構造を有するエポキシ化合物(例:ビスフェノールA型エポキシ化合物)とのアダクトなどが挙げられる。
アミン系硬化剤(B)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0036】
前記脂環式ポリアミンとしては、具体的には、1,4-シクロヘキサンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン(特に、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン)、4,4'-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン(MDA)、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンなどが挙げられる。
【0037】
前記芳香族系ポリアミンとしては、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する化合物などが挙げられる。
この芳香族系ポリアミンとして、具体的には、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,4'-ジアミノビフェニル、2,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレンなどが挙げられる。
【0038】
前記複素環系ポリアミンとしては、後述するイミダゾール系化合物(C)以外であれば特に限定されず、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ジアザシクロヘプタン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2''-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11-ジアザシクロエイコサン、1,15-ジアザシクロオクタコサンなどが挙げられる。
【0039】
前記脂環式、芳香族系、複素環系等のポリアミンの変性物としては、該ポリアミンの、マンニッヒ変性物、エポキシアダクトまたは脂肪酸変性物などが挙げられる。
【0040】
前記脂肪族ポリアミンとしては、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、アルキルアミノアルキルアミンなどが挙げられる。
【0041】
前記アルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-R1-NH2」(R1は、炭素数1~12の二価炭化水素基である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0042】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-(Cm2mNH)nH」(mは1~10の整数である。nは2~10であり、好ましくは2~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンなどが挙げられる。
【0043】
これら以外の脂肪族ポリアミンとしては、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2’-アミノエチルアミノ)プロパン、2,2’-[エチレンビス(イミノトリメチレンイミノ)]ビス(エタンアミン)、トリス(2-アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(特に、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル)などが挙げられる。
【0044】
これらのポリアミンの内、耐溶剤性や耐薬品性などにより優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、脂環式ポリアミンおよびその変性物が好ましく、シクロヘキサン環を有するポリアミンがより好ましく、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンおよびこれらの変性物が特に好ましい。
【0045】
前記脂環式ポリアミンとしては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、「アンカミン2264」および「アンカミン2143」(以上エアプロダクツ(株)製)などが挙げられる。
【0046】
本組成物において、エポキシ化合物(A)およびアミン系硬化剤(B)の合計含量は、架橋密度が高く、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性などにより優れる塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%である。
【0047】
本組成物中のアミン系硬化剤(B)の含量は、下記式(1)で算出される反応比が、好ましくは0.2~0.5、より好ましくは0.25~0.45となる量である。
反応比が前記範囲であると、ごく一般的な環境温度(例えば0~50℃)で容易に硬化し、水との接触によって塗膜表面に何ら悪影響が生じない程度まで硬化することができる。
なお、反応比が前記範囲を超えると、得られる塗膜の耐溶剤性が低下する傾向にある。
反応比=(硬化剤(B)の配合量/硬化剤(B)の活性水素当量+化合物(A)に対して反応性を有する成分の配合量/化合物(A)に対して反応性を有する成分の官能基当量)/(化合物(A)の配合量/化合物(A)のエポキシ当量+硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の配合量/硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の官能基当量)・・・(1)
【0048】
ここで、前記式(1)における「硬化剤(B)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述するシランカップリング剤(E)等が挙げられ、また、「化合物(A)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述する硬化剤(B)以外のアミン系硬化剤、後述するイミダゾール系化合物(C)やシランカップリング剤(E)等が挙げられる。また、前記各成分の「官能基当量」とは、これらの成分1molの質量からその中に含まれる官能基のmol数を除して得られた1mol官能基あたりの質量(g)を意味する。
なお、本発明では、シランカップリング剤(E)は、反応性基としてアミノ基やエポキシ基を有するシランカップリング剤を使用することができるため、反応性基の種類によって、シランカップリング剤が化合物(A)に対して反応性を有するのか、硬化剤(B)に対して反応性を有するのかを判断し、反応比を算出する必要がある。
【0049】
<イミダゾール系化合物(C)>
前記イミダゾール系化合物(C)としては、イミダゾール基を有していれば特に制限されない。本組成物が2成分型の場合、イミダゾール系化合物(C)は、硬化剤成分に配合することが好ましい。
このような化合物(C)を用いることで、エポキシ化合物(A)のエポキシ基同士の重合を効率的かつ速やかに進行させることができる。そして、該化合物(C)を用いることで、2回以上塗りで塗膜を形成する際に塗装間隔を短期間(1日以内)にしても、塗装後短期間(数日以内)の乾燥で熱水に浸漬しても、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を得ることができる。
イミダゾール系化合物(C)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0050】
イミダゾール系化合物(C)としては、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールおよび2-ヘプタデシルイミダゾールなどが好ましい。これらの中でも、耐溶剤性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、1-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールが好ましい。
【0051】
本組成物中のイミダゾール系化合物(C)の含量は、反応比が前記範囲になる量で用いることが好ましいが、エポキシ化合物(A)のエポキシ基同士の重合を効率的かつ速やかに進行させることができ、2回以上塗りで塗膜を形成する際に塗装間隔を短期間(1日以内)にしても、塗装後短期間(数日以内)の乾燥で熱水に浸漬しても、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。
また、本組成物中のイミダゾール系化合物(C)の含量は、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性および防食性に優れる塗膜を得ることができる等の点から、エポキシ化合物(A)100質量部に対して、好ましくは0.2~20質量部、より好ましくは1~10質量部である。
【0052】
<顔料(D)>
本組成物は、1種または2種以上の、体質顔料、着色顔料、扁平状顔料および防錆顔料などの顔料(D)を含む。
顔料(D)は、主剤成分および硬化剤成分のどちらか一方に配合してもよく、または、両方に配合してもよいが、主剤成分に配合することが好ましい。
【0053】
本組成物中の顔料(D)の含量は、主剤成分の不揮発分100質量%に対して、通常5~80質量%、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%である。また、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは10~60質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0054】
本組成物の顔料体積濃度(PVC)、好ましくは本組成物の顔料(D)の顔料体積濃度は、塗装作業性により優れる組成物を容易に得ることができ、応力緩和による基材との付着性および耐水性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは10~40%、より好ましくは15~35%である。
PVCが前記範囲を下回ると、得られる塗膜の防食性の低下や顔料を配合したことによる応力緩和の効果が乏しくなる傾向にあり、また、前記範囲を超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するとともに塗装作業性が低下する傾向にある。
前記PVCとは、本組成物中の不揮発分の体積に対する、顔料の合計の体積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の体積合計×100/本組成物中の不揮発分の体積
【0055】
本組成物の不揮発分(固形分)は、本組成物を十分に反応硬化(加熱)した後の塗膜(加熱残分)の質量百分率、または、該塗膜(加熱残分)自体を意味する。前記不揮発分は、JIS K 5601-1-2に従って、本組成物(例えば、主剤成分と硬化剤成分を混合した直後の組成物)1±0.1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間乾燥させた後、加熱温度110℃で1時間(常圧下)加熱した時の、加熱残分および該針金の質量を測定することで算出することができる。なお、この不揮発分は、本組成物に用いる原料成分の固形分(溶媒以外の成分)の総量と同等の値である。
【0056】
前記本組成物中の不揮発分の体積は、本組成物の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。前記不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の体積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本組成物の不揮発分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0057】
〈体質顔料〉
前記体質顔料は、着色顔料および扁平状顔料以外の顔料であり、前記体質顔料としては、従来公知の、タルク、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石、カオリン、アルミナホワイト、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、シリカ等を用いることができる。これらの中でも、シリカ、タルク、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石が好ましい。
体質顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0058】
前記体質顔料を本組成物に配合する場合の配合量は、主剤成分の不揮発分100質量%に対して、通常5~80質量%、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%であり、本組成物の不揮発分100質量%に対して好ましくは10~60質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0059】
〈着色顔料〉
前記着色顔料は、扁平状顔料以外の顔料であり、前記着色顔料としては、従来公知の、カーボンブラック、二酸化チタン(チタン白)、酸化鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料などを用いることができる。これらの中でも、チタン白、カーボンブラック、弁柄が好ましい。
着色顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0060】
前記着色顔料を本組成物に配合する場合の配合量は、主剤成分の不揮発分100質量%に対して、通常1~50質量%、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~10質量%であり、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは1~20質量%である。
【0061】
〈扁平状顔料(D1)〉
本組成物は、前記顔料(D)として、より防食性に優れ、内部応力が緩和された塗膜を容易に得ることができる等の点から、扁平状顔料(D1)を含有することが好ましい。
扁平状顔料(D1)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0062】
扁平状顔料(D1)としては、より防食性に優れ、内部応力が緩和された塗膜を容易に得ることができる等の点から、メジアン径(D50)が好ましくは30~200μmであり、かつ、平均アスペクト比(メジアン径/平均厚さ)が、好ましくは10~150、より好ましくは20~100である、顔料が望ましい。
【0063】
D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば、「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば、「XL-30」(フィリップス製)を用い、扁平状顔料(D1)の主面に対して水平方向から観察し、数10~数100個の顔料粒子の厚さの平均値として算出できる。
【0064】
扁平状顔料(D1)としては、マイカ、ガラスフレーク、アルミフレーク、鱗片状酸化鉄、ステンレスフレーク、プラスチックフレークなどが挙げられ、安価で入手容易性に優れ、より前記効果に優れる塗膜を形成することができる等の点から、マイカが好ましい。
前記マイカとしては、「マイカパウダー 100メッシュ」((株)福岡タルク工業所製、D50:41μm、平均アスペクト比:35)等が挙げられる。
【0065】
本組成物中の扁平状顔料(D1)の含量は、前記効果により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは3~20質量%である。
【0066】
<シランカップリング剤(E)>
本組成物は、基材との付着性により優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、シランカップリング剤(E)を含むことが好ましい。
シランカップリング剤(E)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0067】
シランカップリング剤(E)としては、特に制限されず、従来公知の化合物を用いることができるが、同一分子内に少なくとも2つの加水分解性基を有し、基材に対する付着性の向上、本組成物の粘度の低下等に寄与できる化合物であることが好ましく、下記式で表される化合物であることがより好ましい。
X-SiMen3-n
[nは0または1であり、Xは有機質との反応が可能な官能基(例:アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲノ基、炭化水素基の一部がこれらの基で置換された基、または、炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がこれらの基で置換された基。)を示し、Meはメチル基であり、Yは加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基)を示す。]
【0068】
これらの中でも、前記Xがエポキシ基である、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物を用いることで、得られる塗膜の基材への付着性をさらに向上させることができる。
好ましいシランカップリング剤(E)としては、具体的には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランである「KBM403」(信越化学工業(株)製)、「サイラエースS-510」(JNC(株)製)等が挙げられる。
【0069】
本組成物がシランカップリング剤(E)を含有する場合、その含有量(不揮発分)は、基材に対する付着性や防食性などにより優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.05~15質量%、より好ましくは0.3~5質量%である。
また、本組成物がシランカップリング剤(E)を含有する場合、その含有量(不揮発分)は、耐溶剤性、耐薬品性、耐防食性などにより優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物100質量%に対して、好ましくは0.1~15質量%、より好ましくは0.1~10質量%、特に好ましくは0.1~5質量%である。
【0070】
<その他の成分>
本組成物には、その他の成分として、前記硬化剤(B)以外のアミン系硬化剤、タレ止め剤(沈降防止剤)、繊維物質、界面活性剤(例:特開平2-298563号公報に記載の界面活性剤)、分散剤、レベリング剤、表面調整剤、硬化促進剤(例:三級アミン)、有機溶剤などの各種の添加剤を適宜配合することができる。
これらはそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記その他の成分は、主剤成分に配合してもよく、硬化剤成分に配合してもよい。
なお、硬化剤成分には、本発明の効果を阻害しない範囲で、1種または2種以上の、環状構造を有しないアミン硬化剤を用いてもよい。
【0071】
本組成物は、前記硬化剤(B)以外のアミン系硬化剤を含んでもよい。このようなアミン系硬化剤としては、前記脂肪族ポリアミンが挙げられ、好ましくはポリオキシアルキレンポリアミンである。
前記硬化剤(B)以外のアミン系硬化剤としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、ポリオキシプロピレンジアミンである「Jeffamine D-230」(ハンツマン・ジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0072】
前記タレ止め剤(沈降防止剤)としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、水添ヒマシ油ワックスおよびアマイドワックスの混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等、従来公知のものを使用できるが、中でも、アマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスおよび有機粘土系ワックスが好ましい。
【0073】
このようなタレ止め剤(沈降防止剤)としては、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」、「ディスパロン6650」;伊藤製油(株)製の「ASAT-250F」;共栄社化学(株)製の「フローノンRCM-300」等の商品が挙げられる。
【0074】
本組成物にタレ止め剤(沈降防止剤)を配合する場合は、主剤成分中に、例えば0.1~10質量%の量で配合すればよい。
【0075】
前記有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、ミネラルスピリット、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0076】
本組成物に有機溶剤を配合する場合、その配合量は特に制限されず、本組成物を塗装する際の塗装方法に応じて適宜調整すればよいが、本組成物の塗装性などを考慮すると、本組成物の不揮発分の濃度が、好ましくは55~98質量%、より好ましくは65~95質量%となるような量で配合することが望ましい。
【0077】
また、前記有機溶剤は、本組成物をスプレー塗装する場合には、塗装性等の点から、本組成物の不揮発分の濃度が、好ましくは55~95質量%、より好ましくは65~95質量%となるような量で配合することが望ましい。
【0078】
[塗料組成物の製造]
本組成物は、予めそれぞれ個別に調製しておいた主剤成分と硬化剤成分とを、使用時に混合し、混練することによって製造することが好ましい。
【0079】
主剤成分は、それを構成する各成分を配合して撹拌、混練することにより調製できる。その際には、例えば、SGミルまたはハイスピードディスパーを使用し、ミルベースの温度を55~60℃として30分程度保持しつつ、配合成分をできるだけ均一に分散させることが好ましい。
一方、硬化剤成分は、配合する成分にもよるが、それを構成する各成分を混合し、攪拌機で均一に分散させればよい。
【0080】
[塗料組成物の用途]
本組成物によれば、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性、耐水性および防食性等の各種の性能を有する塗膜(層)を形成することができる。該防食には、隙間腐食、異種金属接触腐食、応力腐食等も含まれる。
本組成物は、これらの優れた性能を有する塗膜を形成できることから、化学物質を陸上輸送または海上輸送等で、輸送または貯蔵するための貨物タンク(例:プロダクトキャリアやケミカルタンカー)の内面に用いることが好ましく、また、パイプラインの内面等の化学物質に接する構造物に用いることが好ましい。また、この用途以外にも、海水淡水化装置、海洋構造物等のメンテナンスが困難な箇所、ダムや水門のゲート周り、海水・河川水や工業用水を冷却水として使用するプラントなどの配管、貯水槽、貯水タンク、使用済み核燃料貯蔵用プール等への使用に適している。
【0081】
≪塗膜、塗膜付き基材、塗膜付基材の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る塗膜(以下、「本塗膜」ともいう。)は、前記本組成物を用いて形成され、本組成物の一実施形態に係る塗膜付き基材は、本塗膜と被塗物(基材)とを含む積層体である。
前記基材の材質としては特に制限されず、例えば、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼、ステンレス等)、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム等)が挙げられ、基材の表面がショッププライマー等で被覆されていてもよい。
また、前記基材として、例えば、マイルドスチール(SS400等)を用いる場合、必要により、グリットブラスト等で基材表面を研磨するなど、素地調整(例:算術平均粗さ(Ra)が30~75μm程度になるよう調整)しておくことが望ましい。
【0082】
本塗膜の乾燥膜厚は、特に限定されないが、十分な防食性等を有する塗膜を得る等の点から、通常は50~500μm、好ましくは200~400μmである。
本塗膜の形成方法としては、1回の塗装で所望の膜厚を形成(1回塗り)してもよいし、2回以上の塗装(2回以上塗り)で所望の膜厚の塗膜を形成してもよい。膜厚管理が容易になり、塗膜中の残留有機溶剤を容易に低減できる等の点から、2回以上の塗装で所望の乾燥膜厚となるように塗膜を形成することが好ましい。
【0083】
本発明の塗膜付き基材の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、下記工程[1]および[2]を含む。
工程[1]:本組成物を基材に塗装する工程
工程[2]:塗装された塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程
【0084】
さらに、本方法は、下記工程[3]を含むことで、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性等により優れる塗膜を形成することができる。
工程[3]:前記工程[2]で得られた塗膜を60~150℃で加熱する工程
【0085】
前記工程[1]~[3]を含む方法により塗膜付き基材を製造する際には、本組成物は、(1)エポキシ化合物(A)のエポキシ基と硬化剤(B)中の活性水素を有する官能基との反応、および、(2)エポキシ化合物(A)のエポキシ基同士間の反応(エポキシ単独重合)の2つの機序を介して、硬化すると推測される。
【0086】
(1)エポキシ化合物(A)のエポキシ基と硬化剤(B)中の活性水素を有する官能基との反応は、例えば、工程[2]において、主剤成分中に含まれるエポキシ化合物中のエポキシ基が開環して、エポキシ酸素(O)は水酸基(-OH)となり、また、エポキシ基を形成していた分子末端の炭素は硬化剤中のアミノ基(-NH2)と反応して「-NH-」結合を形成することなどにより硬化剤と結合しているものと推測される。
(2)エポキシ化合物(A)のエポキシ基同士間の反応(エポキシ単独重合)は、例えば、工程[3]で起こる。
このため、工程[3]を行うことで、工程[2]で得られる塗膜よりも架橋密度が高い塗膜が得られると考えられる。この架橋密度の上昇は、塗膜の耐油性、耐溶剤性、耐薬品性の向上に有益であると考えられる。
【0087】
前記本方法では、本組成物を用いるため、このような二重硬化プロセスを経て、塗膜を形成することができ、特に、一般的な塗装工程に適した時間で、1段階目の硬化(工程[2]の乾燥)を行うことができ、また、2段階目の硬化プロセスによって、前記効果を奏する、架橋密度が高い塗膜を得ることができる。
【0088】
<工程[1]>
前記工程[1]における塗装方法としては、特に制限されず、例えば、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装、はけ塗り、ローラー塗りなどの常法に従って、基材表面に塗装すればよいが、船舶等の大型構造物に塗装する場合には、大面積の基材を容易に塗装できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
【0089】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい乾燥膜厚に応じて適宜調整すればよいが、例えば、エアレススプレーの場合、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:10~26MPa程度、ガン移動速度50~120cm/秒程度が好ましい。
また、得られる塗膜の乾燥膜厚が前記範囲となるように塗装すればよい。
【0090】
スプレー塗装に適した本組成物の粘度は、測定器としてE型粘度計(TOKIMEC社製、FMD型)を用いた、23℃の測定条件下での粘度が、好ましくは1500~6000mPa・s、より好ましくは1500~3500mPa・sである。
【0091】
<工程[2]>
前記工程[2]における乾燥条件としては、特に制限されず、塗膜の形成方法、基材の種類、用途、塗装環境等に応じて、適宜設定すればよいが、乾燥温度は、好ましくは0~60℃、より好ましくは5~40℃である。一方、乾燥時間は、塗膜の形成方法によって異なり、1回塗りの場合、好ましくは1時間~3日、より好ましくは2日程度である。また、2回以上塗りの場合、1回目の塗装により形成した塗膜(1層目)の乾燥時間は、好ましくは1時間~2日、より好ましくは1時間~18時間であり、最終塗装以外の2回目以降の塗装により形成した塗膜(2層目以上)も同様である。ただし、最終塗装により形成した塗膜の乾燥時間は、好ましくは1時間~3日、より好ましくは1時間~2日である。
このような乾燥条件は、一般的な塗装工程に適した時間といえ、短期間といえる。本組成物を用いることで、このような乾燥条件で前記所望の物性を有する塗膜を形成することができる。
【0092】
<工程[3]>
前記工程[3]おける加熱条件としては特に制限されないが、加熱温度が、好ましくは60~150℃であり、加熱時間が、好ましくは5~24時間、より好ましくは6~20時間である。
このような加熱方法としては、例えば、(a)前記工程[2]で得られた塗膜表面を温めた海水や水に接触させる、(b)前記工程[2]で得られた塗膜表面を熱風で加熱する、または、(c)前記工程[2]で得られた塗膜表面に熱水を噴霧するなどの幾つかの方法を挙げることができる。
【0093】
なお、工程[3]を行う場合であって、前記2回以上塗り、特に2回塗りで塗膜を形成する場合、工程[1]および[2]を行なった後、得られた塗膜上に、工程[1]、[2]および[3]を行なう。また、3回以上塗りで塗膜を形成する場合、工程[1]および[2]の一連の工程を3回以上繰り返した後、工程[3]を行う。
【実施例
【0094】
以下、実施例に基づいて本発明の好適態様をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0095】
[実施例1~14および比較例1~3]
表1に記載の主剤成分を構成する各成分を、表1に記載の量(数値)に従って、ポリ容器に加え、適量のガラスビーズを入れ、ペイントシェーカーで1~2時間分散させた。次いで、ガラスビーズを取り除いた後、ハイスピードディスパーを用いて攪拌し、56~60℃で30分程度分散させた。その後、30℃以下まで冷却することで、主剤を調製した。
また、表1に記載の硬化剤成分を構成する各成分を、表1に記載の量(数値)に従って、容器に加え、卓上攪拌機で分散させることで硬化剤を得た。
得られた主剤と硬化剤とを混合し、塗料組成物を調製した。
なお、表1に記載の各成分の説明を表2に示す。表1中の主剤および硬化剤の各成分の数値は、それぞれ質量部を示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
[試験板の作成]
寸法が150mm×70mm×2.3mm(厚)のSS400のサンドブラスト鋼板(算術平均粗さ(Ra):30~75μm)を用意した。この鋼板の表面に、前述のようにして調製した各塗料組成物を、エアレススプレーを用いて、それぞれ乾燥膜厚が125μmになるよう塗装し、23℃で16時間乾燥した。次に、得られた乾燥塗膜上に、1層目と同じ塗料組成物を、それぞれ乾燥膜厚が125μmになるように塗装し、23℃で2日間乾燥した。つまり、鋼板上に2回塗りで250μmの塗膜を形成した。その後、80℃の熱水に8時間浸漬し、得られた塗膜付き鋼板(試験板)を、後述の各試験に供した。結果を表3に示す。
なお、得られた試験板における塗膜の鉛筆硬度は、いずれも「H」以上であった。本発明において、鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4に基づいて測定した。
【0099】
<防食性試験>
JIS K 5600-6-1(耐液体性の試験方法)に準拠して、得られた塗膜の防食性を試験した。
得られた各試験板の図1に示す位置に、塗膜側から鋼板に達する切り込み2を入れた。切り込み2を入れた試験板1を、切り込み2側が下になるように(図1に示す向きで)、3%塩水に40℃で90日間浸漬した。浸漬後、前記切り込み2を5mm間隔で等分するように、該切り込み2の左端から順に上方にカット3を11箇所入れ、各カット3の間の10箇所の測定部4において、鋼板と塗膜との剥離長さ(切り込み2からの長さ)を測定した。測定した剥離長さの10点の平均値を以下の基準で評価した。
(評価基準)
4:剥離長さが5mm未満
3:剥離長さが5mm以上10mm未満
2:剥離長さが10mm以上15mm未満
1:剥離長さが15mm以上
【0100】
<耐油性試験>
JIS K 5600-6-1(耐液体性の試験方法)に準拠して、得られた塗膜の耐油性を試験した。
得られた各試験板を、ナフサに常温で180日間浸漬した。浸漬後の試験板を以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:鋼板に錆の発生がなく、塗膜にフクレの発生がなく、塗膜の鉛筆硬度がH以上であった。
4:鋼板に錆の発生がなく、塗膜にフクレの発生がなく、塗膜の鉛筆硬度がFから4Bであった。
3:鋼板に錆の発生がなく、塗膜にフクレの発生がなく、塗膜の鉛筆硬度が5B以下であった。
2:鋼板に僅かな錆が発生しており、塗膜にフクレが発生していた。
1:鋼板に錆が発生しており、塗膜にフクレが発生していた。
【0101】
<耐溶剤性試験>
JIS K 5600-6-1(耐液体性の試験方法)に準拠して、得られた塗膜の耐溶剤性を試験した。
得られた各試験板を、メタノール、ベンゼン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルおよび1,2-ジクロロエタンの各種溶剤に常温で180日間浸漬した。浸漬後の試験板を前記耐油性試験と同様の基準で評価した。
【0102】
<耐薬品性試験>
JIS K 5600-6-1(耐液体性の試験方法)に準拠して、得られた塗膜の耐薬品性を試験した。
得られた各試験板を、10%硫酸および30%水酸化ナトリウム水溶液の各種薬品に常温で180日間浸漬した。浸漬後の試験板を前記耐油性試験と同様の基準で評価した。
【0103】
【表3】
【符号の説明】
【0104】
1:試験板
2:切り込み
3:カット
4:測定部
図1