(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板の研磨方法、および磁気ディスク基板用研磨剤組成物
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20220824BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220824BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20220824BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220824BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
G11B5/84 A
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
B24B1/00 D
(21)【出願番号】P 2018146518
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】安藤 順一郎
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-032718(JP,A)
【文献】国際公開第98/021289(WO,A1)
【文献】特開2012-198976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
B24B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有
し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項2】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有
し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項3】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一の研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有
し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有
し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項4】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体
を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とす
る重合体
とを含む混合物である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項5】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項6】
下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一の研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体
を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項7】
前記
水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求項
1~3のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項8】
前記
水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求項
1~3のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項9】
前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体であり、
前記水溶性高分子化合物中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である請求項1~3
、7、8のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項10】
前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体であり、
前記水溶性高分子化合物中のスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である請求項1~3、7、8のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項11】
前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる単量体である請求項8に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項12】
前記水溶性高分子化合物
の重量平均分子量がそれぞれ1,000~1,000,000であり、
カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%である請求項
4~
6のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項13】
前記有機硫酸エステル塩化合物が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
R-O-SO
3
M (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【請求項14】
前記有機硫酸エステル塩化合物が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
R-O-(AO)
n
-SO
3
M (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の整数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【請求項15】
前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸および/またはその塩をさらに含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある請求項1~14のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項16】
前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸化剤をさらに含有している請求項1~15のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項17】
アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う請求項1~16のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項18】
請求項2または3に記載の磁気ディスク基板の研磨方法において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bであり、コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水とを含有し、前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項19】
前記水溶性高分子化合物であるカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求項
18に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項20】
前記水溶性高分子化合物であるカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、
重量平均分子量が1,000~1,000,000である請求項
18に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項21】
前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体であり、
前記水溶性高分子化合物中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である請求項18
~20のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項22】
前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体であり、
前記水溶性高分子化合物中のスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である請求項18~20のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項23】
前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる単量体である請求項20に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【請求項24】
請求項5または6に記載の磁気ディスク基板の研磨方法の工程(3)で使用される研磨剤組成物Bの前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量がそれぞれ1,000~1,000,000であり、
カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクドライブの磁気ディスク基板として広く使用されている、アルミニウムハードディスク基板の研磨方法に関する。中でもアルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨方法に関する。特には、アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。そこで、高記録密度磁気信号の検出感度を向上させる必要があり、磁気ヘッドの浮上高さをより低下し、単位記録面積を縮小する技術開発が進められている。磁気ディスク基板は、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、平滑性および平坦性の向上(表面粗さ、うねり、ロールオフの低減)や表面欠陥の低減(残留砥粒、スクラッチ、突起、ピット等の低減)が厳しく要求されている。
【0003】
このような要求に対して、うねりが小さく、かつロールオフが小さいといった表面品質向上と生産性向上を両立させる観点から、磁気ディスク基板の研磨方法においては、2段階以上の研磨工程を有する多段研磨方式が採用されることが多い(特許文献1)。一般に、多段研磨方式の最終研磨工程、すなわち、仕上げ研磨工程では、表面粗さの低減、スクラッチ、突起、ピット等の傷の低減の観点から、シリカ粒子を含む研磨剤組成物が使用される。一方、それより前の研磨工程(粗研磨工程ともいう)では、生産性向上の観点から、アルミナ粒子を含む研磨剤組成物が使用される場合が多い。
【0004】
しかし、アルミニウムハードディスク基板の研磨を行う場合、アルミナ粒子はアルミニウム合金基板に比べてかなり硬度が高いため、アルミナ砥粒が基板に固着することにより、うねりが悪化し、それが仕上げ研磨に悪影響を与えることが問題になっていた。
【0005】
このような問題の解決策として、粗研磨工程において同一研磨機でアルミナ含有研磨剤組成物を使用した研磨と、コロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨を行う研磨方法が開示されている(特許文献2)。さらに、アルミナ含有研磨剤組成物を使用した研磨とコロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨との間に砥粒を含まない洗浄液を供給する研磨方法も開示されている(特許文献3)。
【0006】
また、研磨材と研磨助剤と水を含む研磨材組成物を用いて磁気記録媒体基板を研磨する際に、アルミナ砥粒が研磨材である場合に、研磨助剤が脂肪族系有機硫酸塩であることにより研磨速度向上と表面粗さ低減が図れるという提案もなされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭62-208869号公報
【文献】特開2012-25873号公報
【文献】特開2012-43493号公報
【文献】国際公開第1998/021289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、磁気ディスク基板の研磨工程において、生産性を維持しつつ、基板表面上のうねりとロールオフをさらに低減することが求められている。
【0009】
そこで本発明は、生産性を維持しつつ、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面のうねりとロールオフの低減を実現できる磁気ディスク基板の研磨方法およびそこで使用される磁気ディスク基板用研磨剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によれば、以下の磁気ディスク基板の研磨方法、および磁気ディスク基板用研磨剤組成物が提供される。
【0011】
[1] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【0012】
[2] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【0013】
[3] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一の研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
[4] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
[5] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有する前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
[6] 下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一の研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有し、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物である研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【0014】
[7] 前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[1]~[3]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0015】
[8] 前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[1]~[3]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0016】
[9] 前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体であり、前記水溶性高分子化合物中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である前記[1]~[3]、[7]、[8]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0017】
[10] 前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体であり、前記水溶性高分子化合物中のスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である前記[1]~[3]、[7]、[8]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0018】
[11] 前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる単量体である前記[8]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0019】
[12] 前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量がそれぞれ1,000~1,000,000であり、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%である前記[4]~[6]のいずれか記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0020】
[13] 前記有機硫酸エステル塩化合物が下記一般式(1)で表されることを特徴とする前記[1]~[12]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
R-O-SO3M (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0021】
[14] 前記有機硫酸エステル塩化合物が、下記一般式(2)で表されることを特徴とする前記[1]~[12]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
R-O-(AO)n-SO3M (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の整数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0022】
[15] 前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸および/またはその塩をさらに含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある前記[1]~[14]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0023】
[16] 前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸化剤をさらに含有している前記[1]~[15]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0024】
[17] アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用の磁気ディスク基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う前記[1]~[16]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0025】
[18] 前記[2]または[3]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法において、工程(3)で使用される研磨剤組成物Bであり、コロイダルシリカと水溶性高分子化合物と水とを含有し、前記水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0026】
[19] 前記水溶性高分子化合物であるカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[18]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0027】
[20] 前記水溶性高分子化合物であるカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000である前記[18]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0028】
[21] 前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体であり、前記水溶性高分子化合物中のカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である前記[18]~[20]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0029】
[22] 前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体であり、前記水溶性高分子化合物中のスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合が5~95mol%である前記[18]~[20]のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0030】
[23] 前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる単量体である前記[20]に記載の磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【0031】
[24] 前記[5]または前記[6]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法の工程(3)で使用される研磨剤組成物Bの前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量がそれぞれ1,000~1,000,000であり、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合が5~95質量%である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、多段研磨方式における粗研磨工程後の、基板表面上のうねりとロールオフが低減された基板を、生産性よく製造できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】基板の表面を研磨した場合のロールオフの測定について説明するための基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0035】
本発明は、多段研磨方式における粗研磨工程と仕上げ研磨工程とを含む磁気ディスク基板の研磨方法における粗研磨工程に関し、粗研磨工程を同一の研磨機において研磨する方法である。(1)アルミナ粒子と有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを用いる前段の粗研磨と、(2)前段の粗研磨後のリンス処理と、(3)リンス処理後のコロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bを用いる後段の粗研磨を行うに際し、特定の水溶性高分子化合物を研磨剤組成物Aおよび/または研磨剤組成物Bに含有させる。これにより、研磨速度を維持しつつ、粗研磨工程後の基板表面上のうねりとロールオフを低減できるという知見に本発明は基づく。
【0036】
以下に、本発明の磁気ディスク基板の研磨方法を説明する。本発明の研磨方法における被研磨基板は、磁気ディスク基板であり、好適にはニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板である。
【0037】
工程(1):前段の研磨
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、多段研磨方式における粗研磨工程で、アルミナ粒子と有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、研磨対象面に研磨パッドを接触させ、研磨パッドおよび/または被研磨対象基板を動かして研磨対象面を研磨する工程(1)を有する。工程(1)で使用される研磨機としては、特に限定されず、磁気ディスク基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0038】
工程(2):リンス処理
多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面上のうねりが低減する観点から、本発明の基板研磨方法は、工程(1)の後に、同一の研磨機において、工程(1)で得られた基板をリンス処理する工程(工程(2))を有する。リンス処理に用いるリンス液としては、特に制限されないが、経済性の観点からは蒸留水、イオン交換水、純水、および超純水等の水が使用され得る。また、工程(2)は、生産性の観点から、工程(1)で使用した研磨機から被研磨基板を取り出すことなく、同じ研磨機内で行う。なお、本発明において、リンス処理とは、基板表面に残留した砥粒、研磨屑を排出することを目的とした処理をいう。
【0039】
工程(3):後段の研磨
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面上のうねりを低減する観点から、コロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bをリンス処理工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、研磨対象面に研磨パッドおよび/または前記被研磨基板を動かして研磨対象面を研磨する工程(3)を有する。生産性向上の観点、および粗研磨工程後の基板表面上のうねり低減の観点から、工程(1)~(3)は、同一の研磨機で行う。
【0040】
本発明の基板研磨方法は、前述の、多段研磨方式における前段の粗研磨工程(1)、リンス処理工程(2)、後段の粗研磨工程(3)において、前段の粗研磨工程(1)および/または後段の粗研磨工程(3)で使用する研磨剤組成物が特定の水溶性高分子化合物を含有することにより、粗研磨工程後の基板表面上のうねりとロールオフが効果的に低減された基板を効率的に製造するものである。
【0041】
具体的には、本発明の磁気ディスク基板の研磨方法としては、以下の第1~第3の研磨方法がある。第1~第3の研磨方法は、それぞれ(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う。
【0042】
[第1の研磨方法]
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【0043】
[第2の研磨方法]
(1)アルミナ粒子と、有機硫酸エステル塩化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【0044】
[第3の研磨方法]
(1)アルミナ粒子と、水溶性高分子化合物と、有機硫酸エステル塩化合物と、水とを含有する研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程
(2)工程(1)で得られた磁気ディスク基板をリンス処理する工程
(3)コロイダルシリカと、水溶性高分子化合物と、水とを含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程
【0045】
以下に、本発明の基板研磨方法で使用される研磨剤組成物について説明する。
(A)研磨剤組成物A
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法の工程(1)で使用する研磨剤組成物Aは、アルミナ粒子を含有する水系組成物であり、水溶性高分子化合物を必須成分または任意成分として含有する。ここで、水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物および/またはカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることが好ましい。尚、研磨剤組成物Aは、有機硫酸エステル塩化合物を含有する組成物である。さらにpH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を含有してもよい。また、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。
【0046】
(A-1)アルミナ粒子
アルミナ粒子はα-アルミナおよび/または中間アルミナを含むことが好ましい。中間アルミナとしては、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなどが挙げられる。またα-アルミナと中間アルミナの両方を含む場合の混合比(中間アルミナ/α-アルミナ、質量比)は、0.1~2.0が好ましく、さらに好ましくは0.5~1.0である。
【0047】
アルミナを製造する際の原料としては、ギブサイト:Al2O3・3H2O、ベーマイト:Al2O3・H2O、擬ベーマイト:Al2O3・nH2O(n=1~2)などが挙げられる。これらのアルミナ原料は、例えば以下のような方法で調製される。
【0048】
ギブサイト:Al2O3・3H2O
ボーキサイトを水酸化ナトリウムの熱溶液で溶解し、不溶成分をろ過により除去して得られた溶液を冷却し、その結果得られた沈殿物を乾燥することにより得られる。
ベーマイト:Al2O3・H2O
金属アルミニウムとアルコールとの反応により得られるアルミニウムアルコキシド:Al(OR)3を加水分解することにより得られる。
擬ベーマイト:Al2O3・nH2O(n=1~2)
ギブサイトをアルカリ性雰囲気下、水蒸気で処理して得られる。
これらのアルミナ原料を焼成することにより、α-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなどが得られる。
【0049】
アルミナ粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは0.1~2.0μmであり、より好ましくは0.2~1.0μmである。アルミナ粒子の平均粒子径が0.1μm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。アルミナ粒子の平均粒子径が2.0μm以下であることにより、研磨後のうねり悪化を抑制することができる。
【0050】
アルミナ粒子の研磨剤組成物A中の濃度は、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは2~40質量%である。アルミナ粒子の濃度が1質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。アルミナ粒子の濃度が50質量%以下であることにより、不必要にアルミナ粒子を使用することなく、経済的に有利に研磨することができる。
【0051】
(A-2)水溶性高分子化合物
研磨剤組成物Aに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物、および/またはカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることが好ましい。また、これら以外の単量体も使用することができる。カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体以外の単量体としては、例えばアミド基を有する単量体が挙げられる。
【0052】
(A-2-1)カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0053】
水溶性化合物中で、カルボン酸基を有する単量体が、酸の状態で存在する割合が多いか、塩の状態で存在する割合が多いかについては、水溶性高分子化合物のpH値で評価できる。酸として存在する割合が多ければpH値は低くなるし、塩として存在する割合が多ければpH値は高くなる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液におけるpH値(25℃)が0.1~13の範囲の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0054】
(A-2-2)スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0055】
(A-2-3)その他の単量体
研磨剤組成物Aは、必須成分または任意成分として水溶性高分子化合物を含有する。研磨剤組成物Aに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体が必須単量体であるが、これら以外の単量体も使用することができる。例えば、アミド基を有する単量体も使用することができる。具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどを使用することができる。
【0056】
N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドの具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0057】
(A-2-4)重合体の混合物
本発明で研磨剤組成物Aに含有される水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物であってもよい。その場合、混合物を構成する重合体として、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体としては、カルボン酸基を有する単量体を重合して得られる重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0058】
また、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体としては、スルホン酸基を有する単量体を重合して得られる重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体との共重合体、スルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0059】
カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物は、これらのカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体から、それぞれ一種以上の重合体の混合物であってもよい。混合物中のカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合は、5~95質量%が好ましく、8~92質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。混合物中のスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合は、5~95質量%が好ましく、8~92質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。
【0060】
(A-2-5)共重合体
本発明で研磨剤組成物Aに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であってもよい。水溶性高分子化合物中の、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。
【0061】
(A-2-6)水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では、公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても、または2種類以上併用してもよい。上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0063】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0064】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0065】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノールおよびチオフェノール等が挙げられる。
【0066】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。
【0067】
また、重合反応は、加圧または減圧下に行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は2~20時間、特に3~10時間で行うことが好ましい。
【0068】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0069】
中和後のpH値(25℃)は、水溶性高分子化合物濃度が10質量%の水溶液の場合、2~9が好ましく、さらに好ましくは3~8である。
【0070】
(A-2-7)重量平均分子量
本発明で使用される水溶性高分子化合物を構成する、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量は、それぞれ1,000~1,000,000であることが好ましく、より好ましくは3,000~800,000であり、さらに好ましくは5,000~600,000である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、1,000未満の場合は、研磨後のうねりが悪化する。また1,000,000を超える場合には、水溶液の粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0071】
(A-2-8)濃度
研磨剤組成物A中の水溶性高分子化合物の濃度は、固形分換算で0.0001~3.0質量%であり、好ましくは0.001~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.005~1.0質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分に得られず、3.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することになるので、経済的でない。
【0072】
(A-3)有機硫酸エステル塩化合物
本発明で研磨剤組成物Aにおいては、有機硫酸エステル塩化合物を、必須成分として含有する。有機硫酸エステル塩化合物としては、下記の第一の態様と第二の態様のいずれかのものを含有することができる。
【0073】
(A-3-1)有機硫酸エステル塩化合物(第一の態様)
本発明で研磨剤組成物Aで用いられる有機硫酸エステル塩化合物の第一の態様としては、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
R-O-SO3M (1)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0074】
上記一般式(1)においてRの炭素数が5に満たないと研磨により発生した研磨屑の分散除去能や再付着防止能が不足してしまうことがあり、21を超えると有機硫酸エステル塩化合物自身の研磨剤組成物中での溶解性・分散安定性が低下したり、研磨剤組成物の使用中に溶解性・分散安定性が低下してしまうことがある。Rの炭素数は8~14であることが好ましく、10~14であることがさらに好ましい。
【0075】
具体的にRが示すアルキル基の例としては、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、t-ブチル基、イソオクチル基、イソドデシル基等が挙げられる。また、アルケニル基の例としては、オレイル基等が挙げられる。また、アリール基の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、アルキルアリール基の例としては、トリル基、キシリル基、オクチルフェニル基等が挙げられる。Rは酸化安定性、分散安定性の点からアルキル基であることが好ましい。
【0076】
上記一般式(1)におけるMの例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0077】
上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物の具体例としては、ヘプチル硫酸塩、オクチル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、高級アルコール(ヤシ油)硫酸塩、ステアリル硫酸塩等が挙げられ、オクチル硫酸塩、ラウリル硫酸塩、ステアリル硫酸塩を用いることが好ましい。上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物は、本発明の研磨剤組成物中に1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0078】
研磨剤組成物A中の上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物の含有量は、通常0.0001~2.0質量%であり、好ましくは0.0005~1.0質量%である。
【0079】
(A-3-2)有機硫酸エステル塩化合物(第二の態様)
研磨剤組成物Aで用いられる有機硫酸エステル塩化合物の第二の態様としては、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
R-O-(AO)n-SO3M (2)
式中、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基を表し、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基を表し、nは1~30の整数を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類、アンモニウムイオン、または有機カチオンを表す。
【0080】
上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物において、Rは炭素数5~21の直鎖または分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基である。Rの炭素数は8~14であることが好ましく、10~14であることがさらに好ましい。また、Rはアルキル基であることが好ましい。
上記一般式(2)においてAOは炭素数2または3のオキシアルキレン基である。
上記一般式(2)において、nは1~30の整数であり、好ましくは2~4である。
上記一般式(2)において、Mの具体例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオンやトリエタノールアミン等の有機アミンが挙げられる。
【0081】
上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物としては、アニオン界面活性剤として一般に知られている水溶性のものが用いられている。本発明において、上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物とは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、およびポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩のいずれも含むものとする。
【0082】
さらに具体的には、上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物としては、オキシエチレントリデシルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が2個または3個)、オキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が2個または3個)、オキシエチレンノニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)などが挙げられる。これらのうち、特に、オキシエチレントリデシルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)、オキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩(1分子当たりオキシエチレン基が3個)を用いることが好ましい。
【0083】
研磨剤組成物A中に用いられる上記一般式(2)で表される有機硫酸エステル塩化合物は、1種あるいは2種以上を組み合わせて使用される。また、上記一般式(1)で表される有機硫酸エステル塩化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0084】
研磨剤組成物A中の上記一般式(2)の有機硫酸エステル塩化合物の含有量は、通常0.0001~2.0質量%であり、好ましくは0.0005~1.0質量%である。
【0085】
(A-4)酸および/またはその塩
本発明において、研磨剤組成物Aでは、pH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を使用することができる。使用される酸および/またはその塩としては、無機酸および/またはその塩と有機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0086】
無機酸および/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0087】
有機酸および/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸および/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸および/またはその塩、有機ホスホン酸および/またはその塩が挙げられる。これらの酸および/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0088】
有機ホスホン酸および/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0089】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせ、リン酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0090】
(A-5)酸化剤
本発明における研磨剤組成物Aは、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0091】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸及びその塩などが好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0092】
研磨剤組成物A中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0093】
(A-6)研磨剤組成物Aの物性(pH)
本発明における研磨剤組成物AのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0である。より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物AのpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物AのpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0094】
(B)研磨剤組成物B
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法の工程(3)で使用する研磨剤組成物Bは、コロイダルシリカを含有する水性組成物であり、水溶性高分子化合物を必須成分または任意成分として含有するものである。さらに、有機硫酸エステル塩化合物、酸および/またはその塩、酸化剤などを含有してもよい。
【0095】
(B-1)コロイダルシリカ
研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカは、平均粒子径(D50)が10~100nmであることが好ましい。より好ましくは20~80nmである。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法で得られる。またはテトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で、酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法によっても得られる。
【0096】
コロイダルシリカは球状、鎖状、金平糖型、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカとしては、球状または球状に近いコロイダルシリカが特に好ましい。
【0097】
研磨剤組成物B中のコロイダルシリカの濃度は、0.1~20質量%であることが好ましい。より好ましくは0.2~10質量%である。
【0098】
(B-2)水溶性高分子化合物
研磨剤組成物Bは、必須成分または任意成分として水溶性高分子化合物を含有する。研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物、および/またはカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることが好ましい。また、これら以外の単量体も使用することができる。カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体以外の単量体としては、例えばアミド基を有する単量体が挙げられる。
【0099】
(B-2-1)カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0100】
水溶性化合物中で、カルボン酸基を有する単量体が、酸の状態で存在する割合が多いか、塩の状態で存在する割合が多いかについては、水溶性高分子化合物のpH値で評価できる。酸として存在する割合が多ければpH値は低くなるし、塩として存在する割合が多ければpH値は高くなる。本発明においては、例えば、濃度10質量%の水溶性高分子化合物水溶液におけるpH値(25℃)が0.1~13の範囲の水溶性高分子化合物を用いることができる。
【0101】
(B-2-2)スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0102】
(B-2-3)その他の単量体
研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体が必須単量体であるが、これら以外の単量体も使用することができる。例えば、アミド基を有する単量体も使用することができる。具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどを使用することができる。
【0103】
N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドの具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0104】
(B-2-4)重合体の混合物
本発明で研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物であってもよい。その場合、混合物を構成する重合体として、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体としては、カルボン酸基を有する単量体を重合して得られる重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0105】
また、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体としては、スルホン酸基を有する単量体を重合して得られる重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体との共重合体、スルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とその他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0106】
カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物は、これらのカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体から、それぞれ一種以上の重合体の混合物であってもよい。混合物中のカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合は、5~95質量%が好ましく、8~92質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。混合物中のスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体の割合は、5~95質量%が好ましく、8~92質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。
【0107】
(B-2-5)共重合体
本発明で研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であってもよい。水溶性高分子化合物中の、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。
【0108】
(B-2-6)水溶性高分子化合物の製造方法
本発明で研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物の製造方法は、研磨剤組成物Aの場合と同様に、水溶液重合法が好ましく、水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。具体的には、水性溶媒を用いてラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合により水溶性高分子化合物を製造する方法が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸塩、水溶性過酸化物、油溶性過酸化物、アゾ化合物、などが挙げられる。また、開始剤として、水溶性レドックス系重合開始剤を用いてもよい。水溶性高分子化合物の分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。重合反応終了後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行ってもよい。
【0109】
(B-2-7)重量平均分子量
本発明で研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物を構成する、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体、スルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の重量平均分子量は、それぞれ1,000~1,000,000であることが好ましく、より好ましくは3,000~800,000であり、さらに好ましくは5,000~600,000である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、1,000未満の場合は、研磨後のうねりが悪化する。また1,000,000を超える場合には、水溶液の粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0110】
(B-2-8)濃度
本発明で研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物の濃度は、固形分換算で0.0001~3.0質量%であり、好ましくは0.001~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.005~1.0質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分に得られず、3.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することになるので、経済的でない。研磨剤組成物B中で使用される水溶性高分子化合物は、研磨剤組成物Aで使用される水溶性高分子化合物と同じ水溶性高分子化合物であっても良いし、異なる水溶性高分子化合物であっても良い。
【0111】
(B-3)有機硫酸エステル塩化合物
研磨剤組成物Bにおいては、有機硫酸エステル塩化合物を、任意成分として含有してもよい。研磨剤組成物B中で使用される有機硫酸エステル塩化合物は、研磨剤組成物Aで使用される有機硫酸エステル塩化合物と同じ有機硫酸エステル塩化合物であっても良いし、異なる有機硫酸エステル塩化合物であっても良い。
【0112】
(B-4)酸および/またはその塩
研磨剤組成物Bは、pH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を使用することができる。使用される酸および/またはその塩としては、無機酸および/またはその塩と有機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0113】
無機酸および/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0114】
有機酸および/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸および/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸および/またはその塩、有機ホスホン酸および/またはその塩が挙げられる。これらの酸および/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0115】
有機ホスホン酸および/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0116】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩との組み合わせ、リン酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0117】
(B-5)酸化剤
研磨剤組成物Bは、任意成分として酸化剤を含有することができる。研磨剤組成物Bに含有することができる酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0118】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸およびその塩などが好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0119】
研磨剤組成物B中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05~5.0質量%である。
【0120】
(B-6)研磨剤組成物Bの物性(pH)
研磨剤組成物BのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0である。より好ましくは、0.5~3.0である。研磨剤組成物BのpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物BのpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0122】
[研磨剤組成物の調製方法]
実施例1~20、比較例1~10で使用した研磨剤組成物は、表1に記載の材料を、表1に記載の含有量で含んだ研磨剤組成物である。尚、表1でアクリル酸(カルボン酸基を有する単量体)の略号をAA、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(スルホン酸基を有する単量体)の略号をATBS、t-ブチルアクリルアミド(アミド基を有する単量体)の略号をTBAAとした。また、各実施例と各比較例の研磨試験の結果を表2、表3に示す。なお、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウムは、第二の態様の有機硫酸エステル塩化合物、ラウリル硫酸ナトリウムは、第一の態様の有機硫酸エステル塩化合物である。また、合成番号1~4が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の水溶性高分子化合物である。合成番号5、6は、単独重合体である。また、実施例19、20は、水溶性高分子化合物がカルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体を含む混合物である。合成番号7が、カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の水溶性高分子化合物である。
【0123】
【0124】
[アルミナ粒子の平均粒子径]
アルミナ粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製 SALD2200)を用いて測定した。アルミナ粒子の平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0125】
[コロイダルシリカの平均粒子径]
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV)を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0126】
[重量平均分子量]
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
【0127】
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)+G2500PWXL(東ソー(株)製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容積比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:210nm(UV)
サンプル:濃度5mg/ml(注入量100μl)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(ピークトップ分子量:Mp)11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp)
【0128】
[研磨条件]
無電解ニッケル-リンめっきされた外径95mmのアルミディスクを研磨対象として、下記研磨条件で研磨を行った。
[前段研磨条件]
研磨機:スピードファム(株)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 -7.5rpm
下定盤 22.5rpm
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 4.5分
加工圧力: 100g/cm2
尚、前段研磨では、研磨剤組成物Aを使用した。
【0129】
[リンス条件]
研磨機:前段研磨と同じ
研磨パッド:前段研磨と同じ
定盤回転数:前段研磨と同じ
リンス液供給量: 3L/min
リンス時間: 20秒
加工圧力: 15g/cm2
尚、リンス液には純水を使用した。
【0130】
[後段研磨条件]
研磨機:前段研磨と同じ
研磨パッド:前段研磨と同じ
定盤回転数:前段研磨と同じ
研磨剤組成物供給量: 100ml/min
研磨時間: 80秒
加工圧力: 100g/cm2
尚、後段研磨では、研磨剤組成物Bを使用した。
上記研磨条件で研磨試験を行った結果を表2、表3に示す。
【0131】
[研磨速度比]
研磨速度は、研磨後に減少したアルミディスクの質量を測定し、下記式に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスク質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm2)/無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度(g/cm3)/2×104
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は65.9cm2、無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度は、8.0g/cm3)
研磨速度比は、上記式を用いて求めた比較例2の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。比較例2の実測値は0.320μm/minであった。
【0132】
[うねり]
アルミディスクのうねりは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。測定条件は、アメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:1.4倍、ズーム:1.0倍))で、波長500~1000μmとし、測定エリアは、6mm×6mmとし、アメテック社製の解析ソフト(Mx)を用いて解析を行った。尚、表2、表3に示した値は、比較例2のうねりを1(基準)とした場合の相対値である。比較例2の実測値は1.66Åであった。
【0133】
[ロールオフ比]
端面形状の評価として、端面だれの度合いを数値化したロールオフを測定した。ロールオフはアメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:1.4倍、ズーム:1.0倍)とアメテック社製の解析ソフト(Mx)を用いて測定した。
【0134】
ロールオフの測定方法について
図1を用いて説明する。
図1は、研磨の対象物である無電解ニッケル-リンめっきをした外径95mmのアルミディスクの、ディスクの中心を通過し研磨した表面に対して垂直な断面図を表す。ロールオフの測定にあたり、まずディスクの外周端に沿って垂線hを設け、垂線hから研磨した表面上のディスクの中心に向かって垂線hに対して平行で垂線hからの距離が3.90mmである線jを設け、ディスクの断面の線が線jと交わる位置を点Aとした。また、垂線hに対して平行で垂線hからの距離が0.30mmである線kを設け、ディスクの断面の線が線kと交わる位置を点Bとした。点Aと点Bを結んだ線mを設け、さらに線mに垂直な線tを設け、ディスクの断面の線が線tと交わる位置を点C、線mが線tと交わる位置を点Dとした。そして、点C-D間の距離が最大となるところでの距離をロールオフとして測定した。
【0135】
ロールオフ比は、上記方法を用いて測定した比較例2のロールオフを1(基準)とした場合の相対値である。比較例2の実測値は154Åであった。
【0136】
【0137】
【0138】
[考察]
実施例1は比較例1に対して、前段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例1は比較例3に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した結果であるが、この場合も研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0139】
実施例2は比較例2に対して、前段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例2は比較例3に対しては有機硫酸エステル塩化合物を添加した結果であるが、この場合も研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0140】
実施例3は比較例2に対して、前段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例3は比較例4に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、この場合も研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0141】
実施例4は比較例2に対して、前段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度は同等、うねりとロールオフは改善されている。
【0142】
実施例5は比較例2に対して、前段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0143】
実施例6は、実施例5で用いられる水溶性高分子化合物の組成を変化させて、3種類の単量体成分からなる共重合体を用いた実験である。
【0144】
実施例7は比較例1に対して、後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例7は比較例5に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0145】
実施例8は比較例2に対して、後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例8は比較例5に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0146】
実施例9は比較例2に対して、後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例9は比較例6に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0147】
実施例10は比較例2に対して、後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0148】
実施例11は比較例2に対して、後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0149】
実施例12は、実施例11で用いられる水溶性高分子化合物の組成を変化させて、3種類の単量体成分からなる共重合体を用いた実験である。
【0150】
実施例13は比較例1に対して、前段研磨および後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例13は比較例9に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0151】
実施例14は比較例2に対して、前段研磨および後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例14は比較例9に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0152】
実施例15は比較例2に対して、前段研磨および後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、実施例15は比較例10に対しては、有機硫酸エステル塩化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0153】
実施例16は比較例2に対して、前段研磨および後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0154】
実施例17は比較例2に対して、前段研磨および後段研磨で水溶性高分子化合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0155】
実施例18は、実施例17で用いられる水溶性高分子化合物の組成を変化させて、3種類の単量体成分からなる共重合体を用いた実験である。
【0156】
実施例19は比較例1に対して、後段研磨でAA単独重合体とATBS単独重合体の混合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0157】
実施例20は比較例2に対して、後段研磨でAA単独重合体とATBS単独重合体の混合物を添加した実験であるが、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。また、比較例7は後段研磨でAA単独重合体を添加した実験であるが、これに対しても実施例20は、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。さらに比較例8は後段研磨でATBS単独重合体を添加した実験であるが、これに対しても実施例20は、研磨速度、うねり、ロールオフの全てが改善されている。
【0158】
以上のことから、本願発明の研磨方法により、研磨速度、うねり、ロールオフの全てを改善できることが明らかである。本願発明により、多段研磨方式における粗研磨工程後の、基板表面上のうねりとロールオフが低減された基板を、生産性よく製造できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の基板研磨方法は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用することができる。