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特許7128698紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/02 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
D21H21/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018175641
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2020045593
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜多 啓二
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-044067(JP,A)
【文献】特開2017-082367(JP,A)
【文献】特開2001-207392(JP,A)
【文献】特開2012-097349(JP,A)
【文献】特表2008-524427(JP,A)
【文献】特開2019-143264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物、有機スルホン酸化合物、およびカチオン性ポリマーを有効成分として含有しており、該カチオン性ポリマーがエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体あるいはジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体であることを特徴とする紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項2】
前記エピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体が質量平均分子量10,000以上130,000以下であることを特徴とする請求項1に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項3】
前記エピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体が、エピクロロヒドリン-アンモニア-ジメチルアミン共重合体である請求項または請求項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、またはポリオキシアルキレンアルキルアミンとポリオキシアルキレングリコールの併用である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項5】
前記ホスホン酸化合物が、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及び2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、およびそれらの塩から選択される少なくとも一種である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項6】
前記有機スルホン酸化合物が、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、およびそれらの塩から選択される少なくとも一種である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項7】
前記紙・パルプ製造工程が紙の原料中に古紙パルプを含有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程のピッチ抑制剤。
【請求項8】
前記紙・パルプ製造工程が紙の原料中に炭酸カルシウムを含有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程のピッチ抑制剤。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を、紙・パルプ製造工程水に添加・希釈してから紙製造装置に接触させることを特徴とする紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
【請求項10】
前記紙・パルプ製造工程が紙の原料中に古紙パルプを含有することを特徴とする請求項9に記載の紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
【請求項11】
前記紙・パルプ製造工程が紙の原料中に炭酸カルシウムを含有することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙・パルプの製造において、原材料の多様化や抄紙速度の高速化により、原料木材に含まれている天然樹脂や脂肪酸類、古紙及び損紙由来で混入する接着剤やラテックスなどの合成粘着性物質、さらには紙製造工程において使用されるサイズ剤等の添加薬品に由来する有機物を主体とする疎水性粘着物質であるピッチによるピッチトラブルが増加している。
【0003】
ピッチは、通常、製紙工程のスラリー中にコロイド状に分散しているが、強い剪断力や、pHや水温の急減な変化、硫酸バンドの過剰添加等の何らかの外的作用により、そのコロイド状態が破壊されて、凝集・粗大化すると考えられている。
凝集・粗大化したピッチは、その粘着性により、ファンポンプ、流送配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備に付着し、装置の汚れの原因となり、さらに、この付着物が大きくなった後に剥離し、パルプや紙に再付着することによって、紙欠点や断紙の原因となる。また、ワイヤー、フェルト等に付着した場合は、目詰りによって窄水性が低下し、湿紙含水率の上昇によって、断紙や乾燥工程における紙の乾燥負荷の上昇を引き起こす。
このように、ピッチは、紙の製品品質や生産性の低下を引き起こす原因物質であり、従来から、パルプまたは紙の製造時におけるピッチの凝集や紙の製造設備へのピッチの付着を防止することを目的として、ピッチ抑制剤が使用されている。
【0004】
ピッチ抑制剤は、パルプスラリーに添加する内添型ピッチ抑制剤と、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備表面にシャワーによる散布等により直接接触させる外添型ピッチ抑制剤に大別される。
内添型ピッチ抑制剤はパルプスラリー全量に含まれているピッチを処理するのに対して、外添型ピッチ抑制剤はワイヤー、フェルト、ロール等の任意の製造設備表面に散布、噴霧、浸漬等により直接接触させ、設備表面近傍に存在するピッチを選択的に処理する。
このことから、外添型ピッチ抑制剤は、内添型ピッチ抑制剤と比べて、パルプスラリーや紙製品の品質に対して影響を与えず、さらに少ない薬品使用量で任意の設備表面へのピッチ付着を防止することができるといった利点がある。
【0005】
外添型ピッチ抑制剤を用いたピッチ抑制方法として、従来から様々な方法が提案されている。
カチオン性ポリマーと界面活性剤の2成分を有効成分とするピッチ抑制剤として、特許文献1には、エピクロロヒドリン-ジメチルアミン共重合体と非イオン界面活性剤の2成分を有効成分とするピッチ抑制剤を用いる方法が開示されている。
特許文献1の方法で用いられているピッチ抑制剤には、ピッチや設備表面を親水化することでピッチ付着防止作用を示すカチオン性ポリマーが使用されている。さらに、非イオン界面活性剤を併用することで、ピッチ付着防止効果をさらに高めるとともに、設備表面へのカチオン性ポリマー自体に起因する析出物の蓄積も防止することができる。
【0006】
さらにピッチ付着防止効果を向上させる方法として、カチオン性ポリマーと界面活性剤にホスホン酸化合物を加えた3成分を有効成分とするピッチ抑制剤を用いた方法が提案されている。
例えば、特許文献2には、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩あるいはエピクロロヒドリン-ジアルキルアミン共重合体から選択されるカチオン性ポリマー(分子量20,000~100,000)と高級脂肪族アミンにエチレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させた非イオン界面活性剤と1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)とを有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を用いる方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、(A)炭素数2~4のアルキレン基を有するジカルボン酸のジメチルエステルもしくはジエチルエステルまたはベンジルアルコール、(B)グリコール系化合物、および(C)有機ホスホン酸、有機カルボン酸、有機スルホン酸、無機酸またはその塩を含有して界面活性剤を使用しない紙・パルプ製造工程用の低起泡性汚れ防止剤が開示されている。
【0008】
特許文献4には、(A)特定のポリエーテルエステルアミド、および(B)非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物の少なくとも一種を含有する抄紙機汚れ付着防止剤組成物が開示されている。
【0009】
しかし、用水のクローズド化、古紙利用率の増加、ワイヤーやフェルトの織り構造の複雑化、シュープレス抄造の普及による脱水処理量の増加など近年の操業状況に起因してピッチに由来するトラブルは増加傾向にある。さらに、従来から紙の緻密性、不透明度、平滑性等を向上させるためにタルク、炭酸カルシウム、カオリン、クレー等が填料として紙に配合されてきたが、近年では紙の劣化防止効果や不透明性が高く安価な炭酸カルシウムを多量に使用できる中性抄紙が従来の酸性抄紙に代わって定着していることにより、炭酸カルシウムとピッチの複合汚れの発生も増大している。上記方法では設備表面へのピッチ等の汚れ付着防止効果は不十分であり、さらに有効なピッチ抑制剤およびピッチ抑制方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平2-182995号公報
【文献】特開2004-044067号公報
【文献】特開2014-221957号公報
【文献】特開2008-240227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況において、本発明が解決しようとする課題は、紙の製造工程、特に古紙パルプを含む原料から紙を製造する工程や炭酸カルシウムを多用する中性紙の製造工程において、ピッチ付着防止効果に優れたピッチ抑制剤およびピッチ抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物、および有機スルホン酸化合物の4成分を有効成分とするピッチ抑制剤が優れたピッチ付着防止効果を有し、特に炭酸カルシウムとピッチ由来の複合ピッチに対して優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)
非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物、有機スルホン酸化合物、およびカチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体あるいはジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体を有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(2)
(1)の発明において、前記エピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体の質量平均分子量が、10,000以上130,000以下である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(3)
(1)または(2)の発明において、前記エピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体が、エピクロロヒドリン-アンモニア-ジメチルアミン共重合体である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(4)
(1)から(3)のいずれかの発明において、前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、またはポリオキシアルキレンアルキルアミンとポリオキシアルキレングリコールの併用である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(5)
(1)から(4)のいずれかの発明において、前記ホスホン酸化合物が、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及び2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、およびそれらの塩から選択される少なくとも一種である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(6)
(1)から(5)のいずれかの発明において、前記有機スルホン酸化合物が、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、およびそれらの塩から選択される少なくとも一種である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(7)
(1)から(6)のいずれかの発明において、前記紙・パルプ製造工程が紙の原料中に古紙パルプを含有する紙・パルプ製造工程のピッチ抑制剤である。
(8)
(1)から(7)のいずれかの発明において、前記紙・パルプ製造工程が紙の原料中に炭酸カルシウムを含有する紙・パルプ製造工程のピッチ抑制剤である。
(9)
(1)から(8)のいずれかの発明の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を、紙・パルプ製造工程水に添加・希釈してから紙製造装置に接触させる紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
(10)
(9)の発明において、前記紙・パルプ製造工程の紙の原料が古紙パルプを含有する紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
(11)
(9)または(10)の発明において、前記紙・パルプ製造工程の紙の原料が炭酸カルシウムを含有する紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のピッチ抑制剤を用いることにより、紙・パルプの製造工程、特に古紙パルプや炭酸カルシウムを含む原料から紙を製造する工程におけるワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備表面にピッチ等の汚れが付着するのを効果的に抑制し、ワイヤーやフェルト等の窄水性の低下、紙欠点や断紙の発生等の工程トラブルを防止し、紙製品の品質および生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のピッチ抑制剤および、これを用いた紙製造設備のピッチ抑制方法は、非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物、有機スルホン酸化合物、さらにカチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体あるいはジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体(以下、「本発明のカチオン性ポリマー」ともいう)を有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤およびこれらのピッチ抑制剤を紙・パルプ製造工程水に添加してピッチの汚れを抑制するピッチ抑制方法である。
【0016】
本発明で用いられる非イオン界面活性剤として、具体的には、脂肪族アルコールへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル、脂肪酸への付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アミドへの付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸アミド、脂肪族アミンへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルアミン、グリコールへの付加物であるポリオキシアルキレングリコール等が挙げられる。上記脂肪族化合物は飽和および不飽和のいずれであってもよい。
付加するアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、これらの混合物等が挙げられる。分子中に含まれるオキシアルキレン基が2種以上であるアルキレンオキサイド付加物においては、ブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの中で、ポリオキシアルキレンアルキルアミン単独、またはポリオキシアルキレングリコールとの併用が好ましく、併用の場合の混合比率は95:5~5:95が好ましい。 ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしてはピッチ付着防止効果の点から、炭素数10~20の飽和または不飽和の脂肪族アミンに、エチレンオキサイドを5~30モル付加させたもの、プロピレンオキサイドを0~15モル付加させたものが特に好ましい。炭素数10~20の飽和または不飽和の脂肪族アミンの具体例としては、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等を挙げることができる。 ポリオキシアルキレングルコールとしては炭素数2~10の二価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを付加させたものが好ましい。炭素数2~10の二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,3-ノナンジオールなどを挙げることができる。
【0017】
本発明で用いられるホスホン酸化合物として、具体的には、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、トリメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホン酸、1-アミノプロパン-1,1-ジホスホン酸、及び2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)等、およびそれらの塩が挙げられる。
これらの中で、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、ならびに、これらのアルカリ金属塩が好ましい。
アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩およびカリウム塩などが挙げられる。これらのホスホン酸化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明のピッチ抑制剤における各成分の配合比率において、好ましくは本発明のカチオン性ポリマーと非イオン界面活性剤の合計量100質量部に対してホスホン酸化合物1~500質量部、より好ましくは2~50質量部である。
【0018】
本発明で用いられる有機スルホン酸化合物として、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンルホン酸、エタンスルホン酸等、およびそれらの塩が挙げられ、特により顕著な汚れ防止効果が発揮される点から、メタンスルホン酸およびその塩が好ましい。
本発明のピッチ抑制剤における有機スルホン酸化合物の配合比率は、本発明のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤およびホスホン酸化合物の合計量100質量部に対して有機スルホン酸化合物1~100質量部、好ましくは3~50質量部である。
【0019】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーであるエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体は、
一般式(1):
【化1】
式中、R1、R2はアルキル基で、互いに同じでも異なってもよく、m、nは、整数であってエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体の分子量が10,000以上150,000以下に相当する整数、特に分子量が10,000以上130,000以下に相当する整数が好ましい)で表される。ここで一般式(1)は構成単位の共重合比を表しており、ブロック共重合体ではない。
【0020】
一般式(1)で表されるエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体として、具体的には、エピクロロヒドリン-アンモニア-ジメチルアミン共重合体およびエピクロロヒドリン-アンモニア-ジエチルアミン共重合体等が挙げられ、エピクロロヒドリン-アンモニア-ジメチルアミン共重合体が特に好ましい。エピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体の質量平均分子量は、ピッチ抑制効果や鉄分等との凝集物抑制等の観点から、質量平均分子量10,000以上150,000以下が好ましく、特に10,000以上130,000以下が好ましい。
【0021】
本発明で用いられるカチオン性ポリマーであるジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体は、一般式(2):
【化2】
(式中、R1、R2はアルキル基で互いに同じでも異なってもよく、l、m、nは整数、l≧lかつm≧1)で表される。
一般式(2)で表されるジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体として、具体的には、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド-アクリルアミドおよびジアリルジエチルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体等が挙げられ、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体が特に好ましい。ジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体の質量平均分子量は、ピッチ抑制効果の観点から30,000以上150,000以下が好ましい。
【0022】
本発明のピッチ抑制剤におけるカチオン性ポリマーであるエピクロロヒドリン-アンモニア-ジアルキルアミン共重合体あるいはジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体と非イオン界面活性剤との質量比は、カチオン性ポリマー100質量部に対して、非イオン界面活性剤は25~500質量部が好ましい。より好ましくは、カチオン性ポリマー100質量部に対して、非イオン界面活性剤は100~300質量部である。
【0023】
本発明のピッチ抑制剤には、紙・パルプ製造工程水に添加する際に必要に応じて、界面活性剤、重合体、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、溶剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料及び香料などを含有してもよい。
本発明のピッチ抑制剤は、紙の製造に際して用いられる、濾水性向上剤、歩留り向上剤、凝結剤、サイズ剤、他のピッチ抑制剤、潤滑剤、剥離性向上剤、洗浄剤、スライム防止剤、スケール防止剤、酸及びアルカリなどの添加剤と併用することもできる。
【0024】
本発明のピッチ抑制剤の適用対象となる原料パルプの種類に制限はなく、クラフトパルプおよびサルファイトパルプ等の晒化学パルプまたは未晒化学パルプ、砕木パルプおよびサーモメカニカルパルプなどの晒機械パルプまたは未晒機械パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙および脱墨古紙などの古紙パルプ、マシン損紙およびコート損紙等のブロークパルプが挙げられる。
本発明のピッチ付着防止効果が顕著に表れるのは古紙パルプを使用する場合であり、特に効果が顕著に表れるのは古紙パルプを10質量%以上含有する原料を使用する場合である。
本発明のピッチ抑制剤は、酸性、中性及びアルカリ性条件下で行われる紙の製造に適用することができ、製造される紙の種類に制限はないが、填料等として炭酸カルシウムが多用される場合、特に中性紙製造の場合では炭酸カルシウムと有機物主体のピッチが複合した汚れに対する防止効果が大きい。
この紙としては、例えば新聞用紙、上質紙や微塗工紙などの印刷用紙、コピー用紙のPPC用紙や感熱紙原紙などの情報用紙、純白ロール紙や晒クラフト紙などの包装用紙、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生用紙、食品容器原紙や塗工印刷用原紙などの雑種紙、ライナーや中しん原紙などの段ボール原紙、白板紙や色板紙などの紙器用板紙、石膏ボードや紙管原紙などの雑板紙などが挙げられる。
【0025】
本発明のピッチ抑制剤は、紙製造装置に直接接触させることによって紙製造装置へのピッチ付着を防止することができる。紙製造装置に接触させる際には、ピッチ抑制剤を、ロールやフェルトのシャワー水、水ドクター添加水等の紙・パルプ製造工程水で希釈してから、紙製造装置に散布、噴霧、浸漬などにより接触させることが好ましく、紙・パルプ製造工程水へのピッチ抑制剤の添加量は、存在するピッチの量により左右されるが、通常、希釈する水中に5~2,000mg/L、好ましくは、10~500mg/Lとなるように添加するとよい。
【0026】
本発明のピッチ抑制剤を接触させる製造設備としては、例えば、ワイヤー、フェルト、センターロール、テーブルロール、ブレストロール、ダンディロール、ワイヤーリターンロール、クーチロール、プレスロール、サクションロール、ペーパーロール、バッキングロール、スライスリップ、フォーミングボード、フォイル、ドクター、サクションボックス、ユールボックス、カンバスなどが挙げられる。この中で、ポリエステル樹脂やナイロン樹脂などの疎水性樹脂を主成分とするワイヤーやフェルトに特に有効である。
【0027】
紙の製造工程において、本発明のピッチ抑制剤を製造設備に接触させるには、例えば製造設備の稼動前または稼動中に、連続的にまたは間欠的に接触させればよく、特に製造設備の稼動中に連続的に接触させるのが好ましい。また、上述したように、シャワー水として散布、噴霧、浸漬等で接触させる方法が好ましいが、目的とする製造設備以外の製造設備にピッチ抑制剤を接触させることによって、対象となる製造設備に間接的に接触させてもよい。
【0028】
本発明のピッチ抑制剤を添加する水としては、井戸水等の地下水、河川水または湖沼水等の表層水、工業用水等の新水、回収水、排水処理水等の再利用水のいずれか、またはこれらを混合して使用することができる。
【実施例
【0029】
本発明を実施例および試験例により以下に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例により限定されるものではない。
【0030】
実施例および比較例で使用したピッチ抑制剤の配合およびピッチ付着防止試験結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
[注]ECH:エピクロロヒドリン
DMA:ジメチルアミン
Am:アンモニア
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
AA:アクリルアミド
pDADMAC:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド
POASA:ポリオキシアルキレンステアリルアミン(エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミン)
POAG:ポリオキシアルキレングリコール
HEDP:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸
MSA:メタンスルホン酸
ADBAC:アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
(三洋化成工業株式会社「カチオンG-50」)
【0032】
(ピッチ付着防止試験)
(1)クラフトパルプのみを原料とするクラフト紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(クラフト紙マシン・フェルト)、または、古紙を原料(古紙パルプ含有率90%以上)とする板紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(板紙マシン・フェルト)、または炭酸カルシウムを填料(紙の15質量%配合)として使用したPPC用紙マシンで実際に使用されたフェルト(PPC用紙マシン・フェルト)をエタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)の混合溶媒で抽出。得られたピッチ成分を再度、エタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)に溶解し、10%(w/v)のピッチ溶解液を調製した。
(2)200mlトールビーカーに、上記実施例および比較例の各ピッチ抑制剤を100mg/Lとなるように水道水で希釈した試験水(150ml)を作成した。試験水に60メッシュ・ポリエステル網(20mm×60mm×0.28mm、目開き0.273mm、糸径0.150mm)を浸漬し、室温、600rpmで攪拌した。
(3)試験水に10%(w/v)のピッチ溶解液を100mg/Lとなるように添加し、室温、600rpmで2時間撹拌した。
(4)ポリエステル網を取り出し、純水で十分水洗した後、スダンブラックB染色液(スダンブラックBを0.5%(w/v)となるように70%(v/v)エタノールに溶解したもの)に20分間浸漬し、50%(v/v)エタノールに浸漬後、純水で水洗し、自然乾燥した。
(5)ハンディ色彩計NR-11A(日本電色工業株式会社製)を用いて、染色したポリエステル網のピッチ付着面について、左半面3箇所(上部、中部、下部)、右半面3箇所(上部、中部、下部)の計6箇所の色差ΔE(ab)を測定し、平均値を算出した。
(6)ピッチ抑制剤無添加の場合での色差ΔE(ab)の平均値をピッチ相対付着量10として、各ピッチ抑制剤添加時のピッチ相対付着量を次式から算出した。

薬剤添加時のピッチ相対付着量
=薬剤添加時のΔE(ab)平均値÷薬剤無添加時のΔE(ab)平均値×10

(7)得られた薬剤添加時のピッチ相対付着量の小数点以下を四捨五入して整数とし、数字の小さい方が薬剤のピッチに対する付着防止効果が高いものと評価した。
【0033】
(炭酸カルシウムとピッチの複合汚れ付着防止試験)
(1)炭酸カルシウムを填料(紙の15質量%配合)として使用したPPC用紙マシンで実際に使用されたフェルト(PPC用紙マシン・フェルト)をエタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)の混合溶媒で抽出。得られたピッチ成分を再度、エタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)に溶解し、10%(w/v)のピッチ溶解液を調製した。
(2)200mlトールビーカーに、フェルトの無機汚れ成分として炭酸カルシウム(試薬特級、キシダ化学株式会社製)を2,500mg/L、上記実施例および比較例の各ピッチ抑制剤を100mg/Lとなるように水道水で希釈した試験水(150ml)を作成した。試験水に秤量済みの60メッシュ・ポリエステル網(20mm×60mm×0.28mm、目開き0.273mm、糸径0.150mm、質量W1)を浸漬し、室温、600rpmで攪拌した。
(3)試験水に10%(w/v)のピッチ溶解液を50mg/Lとなるように添加し、室温、600rpmで3時間撹拌した。
(4)ポリエステル網を取り出し、室温乾燥した後、乾燥質量W2を測定。
(5)各ピッチ抑制剤添加時の炭酸カルシウム+ピッチ複合汚れ付着量W3を次式から算出した。

薬剤添加時の炭酸カルシウム+ピッチ複合汚れ付着量W3(mg)=W2-W1

(6)ピッチ抑制剤無添加時の炭酸カルシウム+ピッチ複合汚れ付着量W0(mg)も同様に算出し、薬剤添加時の炭酸カルシウム+ピッチ複合汚れ相対付着量を次式から算出した。

薬剤添加時の炭酸カルシウム+ピッチ複合汚れ相対付着量=W3÷W0×10

(7)得られた薬剤添加時の炭酸カルシウム+ピッチ複合汚れ相対付着量の小数点以下を四捨五入して整数とし、数字の小さい方が薬剤の炭酸カルシウムとピッチの複合汚れに対する付着防止効果が高いものと評価した。
【0034】
(実施例1~6および比較例1~6)
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、有機スルホン酸を含有し、カチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン-アンモニア-ジメチルアミン(ECH/Am/DMA)共重合体(質量平均分子量10,000、60,000、80,000、または130,000)あるいはジアリルジアルキルアンモニウムクロライド-アクリルアミド共重合体(質量平均分子量60,000)を配合したピッチ抑制剤(実施例1~6)は、有機スルホン酸を含有しないECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例3)やDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例4)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例1、比較例2)とは同等の効果を示した。
比較例5は実施例2でECH/Am/DMA共重合体とMSAを除いた場合であり、比較例6は実施例2でECH/Am/DMA共重合体を除いてADBACを添加した場合であるが、比較例5および比較例6のピッチ抑制剤は実施例2と比べてピッチ付着防止効果は大幅に低下した。
一方、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例1~6のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例1、比較例2)、ECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例3)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例4)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
比較例5は実施例2でECH/Am/DMA共重合体とMSAを除いた場合であり、比較例6は実施例2でECH/Am/DMA共重合体を除いてADBACを添加した場合であるが、比較例5および比較例6のピッチ抑制剤は実施例2と比べてピッチ付着防止効果は大幅に低下した。
炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対しては、実施例1~6のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例1、比較例2)、ECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例3)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例4)よりも高い汚れ付着防止効果を示した。
比較例5は実施例2でECH/Am/DMA共重合体とMSAを除いた場合であり、比較例6は実施例2でECH/Am/DMA共重合体を除いてADBACを添加した場合であるが、比較例5および比較例6のピッチ抑制剤は実施例2と比べて汚れ付着防止効果は大幅に低下した。
尚、非イオン界面活性剤としてPOASA単独使用の実施例5とPOASAとPOAGを8:2(w/w)の配合比で併用した実施例2は、クラフト紙マシン・フェルトおよび板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して同等の良好な付着防止効果を示した。さらに炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対しても、同等の良好な付着防止効果を示した。
【0035】
(実施例7および比較例7,8)
実施例2よりも非イオン界面活性剤の含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例7)は、ピッチの種類によらず、実施例2、5と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例7は、pDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例7)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例8)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例7のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例7)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例8)よりも大幅に高いピッチ付着防止効果を示した。
炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対しては、実施例7のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例7)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例8)よりも大幅に高い汚れ付着防止効果を示した。
【0036】
(実施例8および比較例9,10)
実施例2よりも非イオン界面活性剤の含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例8)は、ピッチの種類によらず、実施例2と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例8は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例10)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例9)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例8のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例9)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例10)よりも大幅に高いピッチ付着防止効果を示した。
炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対しては、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチの場合と同様に実施例8のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例9)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例10)よりも大幅に高い汚れ付着防止効果を示した。
【0037】
(実施例9および比較例11,12)
実施例2よりもHEDPの含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例9)は、ピッチの種類によらず、実施例2と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例9は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例11)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例9のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例11)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例12)よりも大幅に高いピッチ付着防止効果を示した。
炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対しては、実施例9のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例11)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例12)よりも大幅に高い汚れ付着防止効果を示した。
【0038】
(実施例10および比較例13,14)
実施例2よりもHEDPの含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例10)は、ピッチの種類によらず、実施例2と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例10は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例14)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例13)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例10のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例13)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例14)よりも大幅に高いピッチ付着防止効果を示した。
炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対しては、実施例10のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量60,000)配合品(比較例13)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量60,000)配合品(比較例14)よりも大幅に高い汚れ付着防止効果を示した。
【0039】
実施例1~6および比較例1~6のピッチ抑制剤の組成において、ホスホン酸化合物として、HEDPの代わりにアミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)を用いたピッチ抑制剤を調製し、クラフト紙マシン・フェルトおよび板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対するピッチ付着防止試験を実施した。
さらに炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対する汚れ付着防止試験も実施した。
その結果、ATMPまたはPBTCを配合したピッチ抑制剤においても、HEDPを配合したピッチ抑制剤(実施例1~6および比較例1~6)と同様のピッチ付着防止効果、および炭酸カルシウムとピッチの複合汚れ付着防止効果が得られた。
【0040】
実施例1~6および比較例1~6のピッチ抑制剤の組成において、有機スルホン酸化合物として、MSAの代わりにベンゼンスルホン酸(BSA)、p-トルエンスルホン酸(TSA)、エタンスルホン酸(ESA)のいずれか一種を用いたピッチ抑制剤を調製し、クラフト紙マシン・フェルトおよび板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対するピッチ付着防止試験を実施した。
さらに炭酸カルシウムとPPC用紙マシン・フェルトから抽出したピッチから成る複合汚れに対する汚れ付着防止試験も実施した。
その結果、BSA,TSA,ESAのいずれか一種を配合したピッチ抑制剤においても、MSAを配合したピッチ抑制剤(実施例1~6および比較例1~6)と同様のピッチ付着防止効果、および炭酸カルシウムとピッチの複合汚れ付着防止効果が得られた。
【0041】
(実機試験)
実機でのピッチ抑制剤の性能評価を行うため、炭酸カルシウムを填料(紙の15質量%配合)として使用したPPC用紙製造マシンにて、実施例2および比較例2に記載のピッチ抑制剤をフェルトシャワー水に添加し、フェルトに連続添加した。
比較例2のピッチ抑制剤を用いた場合、フェルトに炭酸カルシウムおよびピッチによる目詰まりが発生し、脱水不良、断紙が頻発し、フェルトを30日後に交換することになった。
しかし、実施例2のピッチ抑制剤を使用した場合、添加1カ月後、フェルトの炭酸カルシウムおよびピッチ汚れは大幅に低減し、脱水不良や断紙は発生せず、フェルトは60日間連続使用することができた。
【0042】
また、実機の紙製造工程において、カチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物の3成分から成るピッチ抑制剤をシャワー水等の製造工程水に添加・希釈すると、洗浄用のシャワーラインノズル目詰まりによるシャワー水の吐出不良(ピッチ抑制剤原液を薬注ポンプでシャワー配管に圧入している場合)、薬注ポンプ吐出口の閉塞による希釈液の吐出不良(ピッチ抑制剤希釈液を薬注ポンプでシャワー配管に圧入している場合)、ワイヤーやフェルト等の目詰まりによる窄水不良、断紙の発生といった新たな障害を引き起こす場合がある。
本発明者らが原因を検討した結果、ピッチ抑制剤中の3成分がシャワー水等の製造工程水中の鉄分等と反応し、析出物が発生することが障害の原因であると推測した。
【0043】
卓上試験において、これら3成分にMSAを配合した実施例1~10および比較例1~14で用いたピッチ抑制剤を1,000mg/Lとなるように添加した紙製造工程水に、鉄分として冷間圧延鋼板(SPCC)製のテストピースを浸漬し、析出物の発生量を目視評価した。
その結果、実施例1~10、比較例2、比較例3および比較例5では析出物の発生は認められなかったが、比較例1、4、7~14ではカチオン性ポリマーとホスホン酸化合物と鉄分から構成されるピッチ抑制剤由来物析出物の発生が認められた。比較例6ではカチオン性ポリマーの代わりにカチオン界面活性剤を配合したが、反応析出物が認められた。
このことから、本発明のピッチ抑制剤はピッチ付着防止効果だけでなく、炭酸カルシウムとピッチの複合汚れの付着防止効果にも優れており、さらにピッチ抑制剤由来析出物の発生を効果的に抑制できることも確認された。