(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/06 20060101AFI20220824BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20220824BHJP
B29C 65/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B29C70/06
B60G7/00
B29C65/00
(21)【出願番号】P 2018176223
(22)【出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100103
【氏名又は名称】太田 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100173163
【氏名又は名称】石塚 信洋
(74)【代理人】
【識別番号】100134522
【氏名又は名称】太田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100135024
【氏名又は名称】本山 敢
(72)【発明者】
【氏名】向中野 侑哉
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/068284(WO,A1)
【文献】特開2009-083129(JP,A)
【文献】特開2009-286069(JP,A)
【文献】特開2007-210325(JP,A)
【文献】特開2017-132063(JP,A)
【文献】特表平09-510930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B60G 7/00
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂製の第1部材と、
前記第1部材と接合されることで閉空間を形成する、繊維強化樹脂製の第2部材と、
を備える
自動車車体用の繊維強化樹脂構造体であって、
前記第1部
材は、前記繊維強化樹脂構造体の揺動端に負荷される荷重の向きの両側に位置する2つの側面を有する側壁部と
、前記荷重の向きの方向へ延びる底面部とを含み、
前記第2部材は、前記荷重の向きの方向へ延びる面を含み、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部は、
前記第1部材の前記2つの側面のうちの前記閉空間とは反対側に位置する外壁面よりも内側に設けら
れ、
前記第1部材の前記底面部と、前記第2部材の前記荷重の向きの方向へ延びる前記面と、にそれぞれ接続又は当接されて前記閉空間内に設けられた構造部材を備える
繊維強化樹脂構造体。
【請求項2】
前記構造部材は、前記第1部材又は前記第2部材の少なくともいずれかに設けられた突出部であり、前記接合部の位置を決定する位置決め構造
を構成する、請求項
1に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項3】
前記位置決め構造は、前記第1部材又は前記第2部材の少なくともいずれかの前記側壁部に設けられる傾斜部を
さらに含む、請求項
2に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項4】
前記位置決め構造は、前記第1部材及び前記第2部材を覆うカバー部材を
さらに含む、請求項
2又は3に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項5】
前記構造部材は、前記閉空間内に配置され、前記第1部材の前記底面部、及び、前記第2部材にそれぞれ接続又は当接された仕切り部
であり、前記接合部の位置を決定する位置決め構造
を構成する、請求項
1に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項6】
前記位置決め構造は、前記閉空間に埋設されるコア材を含む、請求項
2~5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項7】
前記接合部の接合面は、前記荷重の向きと交差する方向に設けられる、請求項
1~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項8】
前記第1部材の前記荷重の向きに沿った断面は略U字状を有し、前記第2部材は前記第1部材の内側に配置される、請求項
1~7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項9】
前記繊維強化樹脂構造体は、ロアアームである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の構造体において、軽量化しながら強度を向上させるために、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の繊維強化樹脂が利用されている。このような繊維強化樹脂からなる構造体である繊維強化樹脂構造体は、2以上の繊維強化樹脂部材を含む場合がある。そして、2以上の繊維強化樹脂部材を含む繊維強化樹脂構造体に関する分野において、繊維強化樹脂構造体の機械特性を向上させるための技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サンドイッチ構造体の端部同士を締結部材等を用いることなく容易にかつ安価に一体に接合でき、しかも接合部に十分に高い強度と剛性を付与でき、外観にも優れたサンドイッチ構造体を提供するために、コア材とその両面に配置したFRPスキン板を有し、端部同士を突き合わせ接合したサンドイッチ構造体において、両端部の表面にわたって延びるFRP連結層を設けるとともに、突き合わせ端面間に樹脂拡散媒体を含む層を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車車体の構造部品についても、車体の軽量化のために、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の繊維強化樹脂を利用した構成部品が使用されつつある。例えば、このような自動車車体の構造部品について、2以上の繊維強化樹脂部材を含み、繊維強化樹脂部材間の接合部を有する繊維強化樹脂構造体が適用され得る。ここで、自動車車体の構造部品に引っ張り応力又は圧縮応力などの応力を発生させる比較的大きな荷重が入力される場合がある。接合部を有する構造部品にこのような応力が発生した場合には、一般的に強度が弱い接合部を起点として破壊が生じ得る。ゆえに、自動車車体の構造部品について接合部を有する繊維強化樹脂構造体を適用した場合には、当該繊維強化樹脂構造体の応力に対する強度を向上させることが望ましいと考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、応力に対する強度を向上させることが可能な、新規かつ改良された繊維強化樹脂構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、繊維強化樹脂製の第1部材と、第1部材と接合されることで閉空間を形成する、繊維強化樹脂製の第2部材と、を備える自動車車体用の繊維強化樹脂構造体であって、第1部材は、繊維強化樹脂構造体の揺動端に負荷される荷重の向きの両側に位置する2つの側面を有する側壁部と、荷重の向きの方向へ延びる底面部とを含み、第2部材は、荷重の向きの方向へ延びる面を含み、第1部材と第2部材とを接合する接合部は、第1部材の2つの側面のうちの閉空間とは反対側に位置する外壁面よりも内側に設けられ、第1部材の底面部と、第2部材の荷重の向きの方向へ延びる面と、にそれぞれ接続又は当接されて閉空間内に設けられた構造部材を備える繊維強化樹脂構造体が提供される。
【0008】
接合部の接合面は、荷重の向きと交差する方向に設けられてもよい。
【0009】
第1部材の荷重の向きに沿った断面は略U字状を有し、第2部材は第1部材の内側に配置されてもよい。
【0010】
構造部材は、第1部材又は第2部材の少なくともいずれかに設けられた突出部であり、接合部の位置を決定する位置決め構造を構成してもよい。
【0012】
位置決め構造は、第1部材又は第2部材の少なくともいずれかの側壁部に設けられる傾斜部を含んでもよい。
【0013】
位置決め構造は、第1部材及び第2部材を覆うカバー部材を含んでもよい。
【0014】
構造部材は、閉空間内に配置され、第1部材の底面部、及び、第2部材にそれぞれ接続又は当接された仕切り部であり、接合部の位置を決定する位置決め構造を構成してもよい。
【0015】
位置決め構造は、閉空間に埋設されるコア材を含んでもよい。
【0017】
繊維強化樹脂構造体は、ロアアームであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、繊維強化樹脂構造体において、応力に対する強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るロアアームを備えたサスペンションシステムの構成の一例を示す模式図である。
【
図2】ロアアーム及びサスペンションクロスメンバの分解斜視図である。
【
図3】本実施形態に係るロアアームの一例を示す斜視図である。
【
図4】ロアアームに荷重が入力された時にロアアームに発生する応力について説明するための説明図である。
【
図5】ロアアームに荷重が入力された時にロアアームに発生する応力について説明するための説明図である。
【
図6A】比較例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図6B】比較例に係るロアアームに荷重が入力された時の様子を示す断面図である。
【
図7】本実施形態に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図8A】第1の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図8B】第1の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図8C】第1の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図8D】第1の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図9】第2の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図10】第3の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図11】第4の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図12】第5の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【
図13】第6の変形例に係るロアアームの構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0021】
<1.サスペンション装置>
まず、
図1~
図3を参照して、本実施形態に係る繊維強化樹脂構造体に相当する車両のロアアーム20を備えたサスペンション装置1について説明する。
図1は、ロアアーム20を備えた車両の前輪のサスペンション装置1の構成の一例を示す模式図であり、
図2は、ロアアーム20及びサスペンションクロスメンバ8の分解斜視図である。また、
図3は、ロアアーム20の一例を示す斜視図である。
【0022】
図1に示したように、サスペンション装置1において、エンジンルーム2の左右は、車体フレームの構成要素であるフロントホイールエプロン3で仕切られている。フロントホイールエプロン3は、車体の前後方向に延在する左右一対のサイドフレーム5に接合されている。また、フロントホイールエプロン3の後部にストラットタワー6が形成されている。ストラットタワー6に、ストラット式のサスペンション7が収容されている。サスペンション7の上部が、ストラットタワー6の上部に形成されたストラット支持部6aに、ストラットアッパマウント7aを介して支持されている。
【0023】
エンジンルーム2の下部には、サスペンションクロスメンバ8が配設されている。サスペンションクロスメンバ8の車幅方向両端の上面が、サイドフレーム5に対して、ボルト及びナット等の締結具を介して固定されている。また、サスペンションクロスメンバ8の上面には、図示しないエンジンの後部が、エンジンマウントを介して搭載される。また、サスペンションクロスメンバ8の車幅方向両端部の下面に、アーム支持部9が突設されている。左右の各アーム支持部9は、
図2に示したように、所定間隔を開けて前後左右に対向する一対のブラケット9a,9bを備え、各ブラケット9a,9bにボルト挿通孔9cが穿設されている。ブラケット9a,9b間には、ロアアーム20の一方の基端に設けられた筒状の第1の基部21が配置されている。
【0024】
ロアアーム20は、一方の基端となる第1の基部21から先端部23に連続するとともに、中央部から分岐して後方に延びて他方の基端となる第2の基部22に連続する、略T字状あるいはL字状の平面形状を有する。ロアアーム20の第1の基部21内には、図示しない円筒部材が圧入される。当該円筒部材には、ブラケット9a,9bに穿設されているボルト挿通孔9cに対して外方から挿通されたボルト12の軸部が貫通され、ボルト12の軸部はナット13によって締結されている。
【0025】
また、第2の基部22には、図示しない円筒部材が圧入される。第2の基部22は、当該円筒部材を介してサイドフレーム5に軸支される。さらに、揺動端となる先端部23には、図示しない円筒部材が圧入される。先端部23は、当該円筒部材を介して図示しないボールジョイントに連結され、前輪11を固定する図示しないホイールハブが回動自在に支持される。これにより、ロアアーム20は、図示しないハブハウジングを介して、サスペンション7の下部を支持するとともに、サスペンションクロスメンバ8及びサイドフレーム5に揺動可能に支持される。
【0026】
図3に示したように、ロアアーム20は、サスペンションクロスメンバ8に連結される第1の基部21と、サイドフレームに連結される第2の基部22と、ボールジョイントが連結される先端部23とを有する。第1の基部21には、円筒部材27が圧入されている。第2の基部22には、円筒部材28が圧入されている。先端部23には、円筒部材29が圧入されている。筒状の第1の基部21に圧入された円筒部材27は、車両の前後方向に略一致する中心軸を有し、先端部23の上下方向の揺動を可能にする。また、第2の基部22に圧入された円筒部材28は、略鉛直方向に沿う中心軸を有し、先端部23の水平方向の揺動を可能にする。
【0027】
また、本実施形態に係るロアアーム20は、繊維強化樹脂製の2つの部材が互いに接合された繊維強化樹脂構造体である。より具体的には、ロアアーム20は、
図3に示したように、繊維強化樹脂製の第1部材210と、繊維強化樹脂製の第2部材220とが接合部260において接合されることによって得られる。
【0028】
ロアアーム20のように立体的な形状を有する部材を繊維強化樹脂によって成形する場合、一般に、プレス加工によって成形することは困難な場合がある。ゆえに、後述するように、第1部材210及び第2部材220は、例えば、積層された繊維強化樹脂シートを成形型の成形面へ密着させ、硬化させることによって製造され得る。このように製造された第1部材210及び第2部材220において、成形面側の表面の加工精度は比較的高い。ゆえに、このように製造された第1部材210及び第2部材220は、それぞれの成形面が表面に現れるようにして互いに接合され、立体的な形状を有するロアアーム20が製造される。
【0029】
以上説明したロアアーム20に対して、後述するように、引っ張り応力又は圧縮応力などの応力を発生させる比較的大きな荷重が入力される場合がある。本実施形態に係るロアアーム20は、このような応力が比較的集中しない位置に接合部260を備える。それにより、本実施形態によれば、このようなロアアーム20に比較的大きな荷重が入力された場合であっても、接合部260を起点とした破壊の発生を防止することができる。以下、ロアアーム20に発生する応力について説明した後に、応力に対する強度を向上させることができるロアアーム20の詳細について説明する。
【0030】
<2.ロアアーム>
(2-1.ロアアームの応力)
まず、
図4及び
図5を参照して、ロアアーム20に発生する応力について説明する。
図4及び
図5は、ロアアーム20の先端部23に荷重が入力された時にロアアーム20に発生する応力について説明するための説明図である。
図4及び
図5では、
図3に示したロアアーム20を第2部材220側から見た模式図が示されている。
【0031】
図4では、車体後方側を向く荷重が先端部23に掛かっている状態が示されている。
図4における矢印F10は、先端部23に掛かっている荷重の方向を示す。
図4に示すように、先端部23に掛かっている荷重は、第1の基部21から第2の基部22へ向かう方向の成分を有する。ロアアーム20において、第1の基部21及び第2の基部22は車体に対して固定されている。ゆえに、
図4に示すように、車体後方側を向く荷重が先端部23に掛かっている場合、先端部23が車体後方側へ撓むような曲げ変形がロアアーム20に生じる。それにより、先端部23と第1の基部21との間に位置する車体前方側の側壁部240aに引っ張り力が負荷され、側壁部240aに応力が発生する。一方、先端部23と第2の基部22との間に位置する車体後方側の側壁部240bに圧縮力が負荷され、側壁部240bに応力が発生する。
【0032】
図5では、車体前方側を向く荷重が先端部23に掛かっている状態が示されている。
図5における矢印F20は、先端部23に掛かっている荷重の方向を示す。
図5に示すように、先端部23に掛かっている荷重は、第2の基部22から第1の基部21へ向かう方向の成分を有する。
図5に示すように、車体前方側を向く荷重が先端部23に掛かっている場合、先端部23が車体前方側へ撓むような曲げ変形がロアアーム20に生じる。それにより、車体前方側の側壁部240aに圧縮力が負荷され、側壁部240aに応力が発生する。一方、車体後方側の側壁部240bに引っ張り力が負荷され、側壁部240bに応力が発生する。
【0033】
ここで、本実施形態に係るロアアーム20と異なり、応力が集中する位置に接合部が設けられる比較例に係るロアアームの接合部について説明する。
図6Aは、比較例に係るロアアーム90の構成の一例について説明するための断面図である。
図6Bは、比較例に係るロアアーム90に荷重が入力された時の様子を説明するための断面図である。
図6A及び
図6Bは、比較例に係るロアアーム90の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアーム20の先端部23における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0034】
図6Aに示したように、比較例に係るロアアーム90は、第1部材910と、第2部材920とが接合部960において接合されることによって得られる。第1部材910は、第2部材920側に開口する凹部を有する繊維強化樹脂製の部材であり、車体前方側の側部940a及び車体後方側の側部940bを有する。第2部材920は、第1部材910側に開口する凹部を有する繊維強化樹脂製の部材であり、車体前方側の側部940c及び車体後方側の側部940dを有する。第1部材910の凹部側及び第2部材920の凹部側が互いに対向し、側部940aの先端及び側部940cの先端が車体前方側の接合部960aにおいて接合される。また、側部940bの先端及び側部940dの先端が車体後方側の接合部960bにおいて接合される。
【0035】
それにより、車体前方側に位置する側壁部940acと、車体後方側に位置する側壁部940bdと、第1部材910及び第2部材920の間に形成される閉空間930とを有するロアアーム90が形成される。側壁部940acには、側壁部940acに対して閉空間930と反対側に位置する側壁部940acの外壁面から閉空間930側に位置する側壁部940acの内壁面まで連続する接合部960aが形成される。側壁部940bdには、側壁部940bdに対して閉空間930と反対側に位置する側壁部940bdの外壁面から閉空間930側に位置する側壁部940bdの内壁面まで連続する接合部960bが形成される。つまり、比較例に係るロアアーム90において、側壁部940の外壁面には、接合部960の一部が露出する。
【0036】
図6Aに示す車体前方側の側壁部940acは、ロアアーム90における先端部と第1の基部との間に位置し、車体後方側の側壁部940bdは、ロアアーム90における先端部と第2の基部との間に位置する。
図4を参照して説明したように、車体後方側を向く荷重がロアアーム90の先端部に掛かっている状態において、
図6Aに示す車体前方側の側壁部940ac及び車体後方側の側壁部940bdには、応力が発生する。また、
図5を参照して説明したように、車体前方側を向く荷重がロアアーム90の先端部に掛かっている状態において、
図6Aに示す車体前方側の側壁部940ac及び車体後方側の側壁部940bdには、応力が発生する。
【0037】
一般に、物体に曲げ変形が生じる時に、当該物体において最大の応力が発生する位置は、当該物体の表層部である。ゆえに、ロアアーム90の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かっている状態において、ロアアーム90の応力が集中する位置は、側壁部940の外壁面となる。
【0038】
また、一般に、接合部を有する物体に応力が発生する時に、当該物品において強度が弱く破壊の起点となりやすい位置は、接合部である。ゆえに、応力が集中する側壁部940の外壁面に接合部960の一部が露出している比較例に係るロアアーム90は、先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム90に応力が発生した場合、
図6Bに示すように、接合部960を起点として破壊が生じ得る。
【0039】
(2-2.ロアアームの構成)
続いて、
図7を参照して、本実施形態に係るロアアーム20の構成について説明する。
図7は、本実施形態に係るロアアーム20の構成の一例について説明するための断面図である。
図7は、具体的には、
図4及び
図5に示した本実施形態に係るロアアーム20の先端部23における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面における断面図である。
【0040】
図7に示したように、本実施形態に係るロアアーム20は、第1部材210と、第2部材220とが接合部260において接合されることによって得られる。第1部材210は、
図7に示すように、ロアアーム20の先端部23における荷重の向きに沿った断面が略U字状に形成される繊維強化樹脂製の部材である。第1部材210は、当該荷重の向きと略直交する側壁部240と、当該荷重の向きと略平行する底面部250とを有する。第2部材220は、当該荷重の向きに沿った断面が略直線状に形成される繊維強化樹脂製の部材である。第2部材220は、第1部材210と接合されることで閉空間230を形成する。
【0041】
第1部材210及び第2部材220の各々は、種々の製造方法によって製造され得る。例えば、第1部材210及び第2部材220の各々は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを例えば金属又は繊維強化樹脂等からなる成形型の成形面上に積層し、得られた繊維強化樹脂積層体を被覆材で覆い、真空ポンプを用いて当該被覆材と成形型の間の空間を減圧することにより、繊維強化樹脂積層体を成形型の成形面へ密着させ、硬化させることによって、製造される。
【0042】
また、第1部材210及び第2部材220の各々は、繊維強化樹脂シートを成形型の成形面上に積層し、得られた繊維強化樹脂積層体を被覆材で覆い、当該被覆材と当該被覆材の上方に固定される固定部材との間の空間へ空気又は蒸気を送り込み、当該空間を加圧することにより、当該被覆材を介して繊維強化樹脂積層体を成形型の成形面へ密着させ、硬化させることによって、製造されてもよい。なお、被覆材と当該被覆材の上方に固定される固定部材との間の空間を、オートクレーブ装置を用いて、加熱しながら加圧してもよい。
【0043】
また、第1部材210及び第2部材220の各々は、当該被覆材と成形型の間の空間の減圧と、当該被覆材と当該被覆材の上方に固定される固定部材との間の空間の加圧と、を並行して行うことによって、製造されてもよい。
【0044】
成形素材となる繊維強化樹脂シートは、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させて形成される。使用される強化繊維は、特に限定されるものではなく、例えば、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等であってもよく、さらにはこれらの強化繊維を組み合わせて使用してもよい。中でも、炭素繊維は、機械特性が高く、強度設計を行いやすいことから、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0045】
強化繊維は、繊維強化樹脂シートの一端から他端まで連続する連続繊維であってもよく、繊維強化樹脂シートの一端から他端までの長さより短い短繊維であってもよい。なお、1つの繊維強化樹脂シートに連続繊維と短繊維が混在してもよい。第1部材210及び第2部材220の製造過程において積層される繊維強化樹脂シートには、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂シートが含まれてもよく、強化繊維が複数方向に向けて配置された繊維強化樹脂シートが含まれてもよい。各繊維強化樹脂シートの強化繊維の配向方向を揃えることによって、得られる第1部材210又は第2部材220の当該配向方向に対する強度を効果的に向上させることができる。また、積層される繊維強化樹脂シートのうちの少なくとも1枚の繊維強化樹脂シートの強化繊維の配向方向を異ならせることによって、得られる第1部材210又は第2部材220の強度に異方性を持たせることができる。
【0046】
また、繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂には熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などが例示される。
【0047】
マトリックス樹脂としては、これらの熱可塑性樹脂うちの1種類、あるいは2種類以上の混合物を使用することができる。あるいは、マトリックス樹脂は、これらの熱可塑性樹脂の共重合体であってもよい。また、マトリックス樹脂をこれらの熱可塑性樹脂の混合物とする場合には相溶化剤を併用してもよい。さらには、マトリックス樹脂は、難燃剤としての臭素系難燃剤や、シリコン系難燃剤、赤燐等を含んでいてもよい。
【0048】
この場合、使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、芳香族ポリアミド等の樹脂が挙げられる。中でも熱可塑性マトリックス樹脂が、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン及びフェノキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0049】
また、マトリックス樹脂として使用可能な熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂などが例示される。マトリックス樹脂としては、これらの熱硬化性樹脂のうちの1種類、あるいは2種類以上の混合物を使用することができる。これらの熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂に使用する場合、熱硬化性樹脂に、適切な硬化剤や反応促進剤が添加されてもよい。
【0050】
繊維強化樹脂シートは、例えば、一般的なフィルム含浸法や溶融含浸法等のプロセスにより、強化繊維を連続的に送り出しながらマトリックス樹脂を当該強化繊維に含浸させる方法により製造される。この繊維強化樹脂シートを所望のサイズに切断することにより、成形素材としての繊維強化樹脂シートが得られる。所望のサイズに切断した複数の繊維強化樹脂シートの幅方向の端部を接着剤等により互いに接合して、所望の幅及び長さの繊維強化樹脂シートを形成してもよい。繊維強化樹脂シートの厚さは、例えば、0.03~1mmの範囲内の値とすることができる。
【0051】
第1部材210の側壁部240は、ロアアーム20の先端部23における荷重の向きの両側に位置する2つの側面を有する。具体的には、側壁部240には、側壁部240に対して閉空間230と反対側に位置する外壁面と、閉空間230側に位置する内壁面とが形成される。車体前方側の側壁部240aには、車体前方側に位置する外壁面と、車体後方側に位置する内壁面とが形成され、車体後方側の側壁部240bには、車体後方側に位置する外壁面と、車体前方側に位置する内壁面とが形成される。
【0052】
第1部材210と、第2部材220とを接合する接合部260は、側壁部240の外壁面よりも内側に設けられる。例えば、
図7に示すように、第2部材220は、第1部材210の内側に配置され、第1部材210と接合される。より具体的には、ロアアーム20の先端部23における荷重の向きの両側に位置する第2部材220の端部が第1部材210の側壁部240の内壁面と接着剤により接合されることにより、接合部260が側壁部240の外壁面よりも内側に形成される。つまり、本実施形態に係るロアアーム20において、接合部260は側壁部240の外壁面に露出しない。
【0053】
このとき、第1部材210及び第2部材220の接合に使用可能な接着剤としては、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系の接着剤等を適宜使用することができる。ただし、第1部材210及び第2部材220の接合方法は、接着剤に限定されるものではなく、振動溶融圧着、熱溶融圧着をはじめとして、種々の方法を採用することができる。
【0054】
図4を参照して説明したように、車体後方側を向く荷重がロアアーム20の先端部23に掛かっている状態において、
図7に示す車体前方側の側壁部240a及び車体後方側の側壁部240bには、応力が発生する。また、
図5を参照して説明したように、車体前方側を向く荷重がロアアーム20の先端部23に掛かっている状態において、
図7に示す車体前方側の側壁部240a及び車体後方側の側壁部240bには、応力が発生する。
【0055】
上述したように、一般に、物体に曲げ変形が生じる時に、当該物体において最大の応力が発生する位置は、当該物体の表層部である。ゆえに、ロアアーム20の先端部23に車体前後方向を向く荷重が掛かっている状態において、ロアアーム20の応力が集中する位置は、側壁部240の外壁面となる。また、一般に、接合部を有する物体に応力が生じる時に、当該物品において強度が弱く破壊の起点となりやすい位置は、接合部である。
【0056】
本実施形態に係るロアアーム20は、側壁部240の外壁面に接合部260が露出しない構造となっている。つまり、本実施形態に係るロアアーム20において、接合部260は応力が集中する位置に存在せず、応力が比較的集中しない位置に設けられている。それにより、本実施形態に係るロアアーム20は、先端部23に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム20に応力が発生した場合、接合部260を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るロアアーム20において、接合部260の接合面は、ロアアーム20の先端部23における荷重の向きと交差する方向に設けられる。より具体的には、接合部260の接合面は、
図7に示すように、当該荷重の向きと略直交する側壁部240の内壁面に沿って形成される。
【0058】
一般に、物体に荷重が入力され曲げ変形が生じる場合、当該物体の一部には引っ張り応力又は圧縮応力が発生し得る。例えば、
図4を参照して説明したように、車体後方側を向く荷重がロアアーム20の先端部23に掛かっている状態において、
図7に示す車体前方側の接合部260aの車体前方側には引っ張り応力が発生し、接合部260aの車体後方側には圧縮応力が発生し得る。また、車体後方側の接合部260bの車体前方側には引っ張り応力が発生し、接合部260bの車体後方側には圧縮応力が発生し得る。また、
図5を参照して説明したように、車体前方側を向く荷重がロアアーム20の先端部23に掛かっている状態において、
図7に示す車体前方側の接合部260aの車体前方側には圧縮応力が発生し、接合部260aの車体後方側には引っ張り応力が発生し得る。また、車体後方側の接合部260bの車体前方側には圧縮応力が発生し、接合部260bの車体後方側には引っ張り応力が発生し得る。
【0059】
ここで、同一材料を用いて同量の曲げ変形が生じた場合、接合部260に発生する最大の引っ張り応力の大きさと、最大の圧縮応力の大きさとの差は、ロアアーム20の先端部23における荷重の向きに沿った方向の接合部260の長さに影響を受ける。具体的には、接合部260の当該荷重の向きに沿った長さが長い場合、接合部260に発生する最大の引っ張り応力の大きさと、最大の圧縮応力の大きさとの差は大きい。一方、接合部260の当該荷重の向きに沿った長さが短い場合、接合部260に発生する最大の引っ張り応力の大きさと、最大の圧縮応力の大きさとの差は小さい。接合部260に発生する最大の引っ張り応力の大きさと、最大の圧縮応力の大きさとの差が小さい場合、接合部260を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0060】
本実施形態の接合部260の接合面は、ロアアーム20の先端部23における荷重の向きと略直交する側壁部240の内壁面に沿って形成されている。つまり、接合部260の当該荷重の向きに沿った長さは短い。それにより、本実施形態に係るロアアーム20は、先端部23に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム20に応力が発生した場合、接合部260を起点として破壊が生じるおそれを一層低減することができる。
【0061】
<3.変形例>
以上、本実施形態にかかるロアアームの構成の一例について説明したが、本実施形態にかかるロアアームは種々の変形が可能である。例えば、第1部材と、第2部材とが接合部において接合される場合、第1部材又は第2部材の少なくともいずれかに、接合部の位置を決定する位置決め構造が設けられることによって、閉空間を形成しつつ容易に接合部の位置を決定することができる。以下、このようなロアアームの変形例について説明する。
【0062】
(3-1.第1の変形例)
図8A~
図8Dは、第1の変形例に係るロアアーム30の構成の一例について説明するための断面図である。
図8A~
図8Dは、第1の変形例に係るロアアーム30の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアームの先端部における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0063】
第1の変形例に係るロアアーム30は、第1部材310、第2部材320、閉空間330、側壁部340、底面部350及び接合部360を備える。第1部材310、第2部材320、閉空間330、側壁部340、底面部350及び接合部360は、上記実施形態に係るロアアーム20の第1部材210、第2部材220、閉空間230、側壁部240、底面部250及び接合部260とそれぞれ対応する。
【0064】
第1の変形例では、第1部材310又は第2部材320の少なくともいずれかに、突出部又は段差部が設けられる点で上記実施形態と異なっている。
図8Aに示す例では、第1部材310の底面部350から第2部材320側に向けて突出部380が形成されている。突出部380の先端は、第2部材320と当接し、第1部材310に対する第2部材320の位置を決定する。
【0065】
また、
図8Bに示す例では、第2部材320の一部から第1部材310側に向けて突出部382が形成されている。突出部382の先端は、第1部材310と当接し、第1部材310に対する第2部材320の位置を決定する。
【0066】
また、
図8Cに示す例では、第1部材310の側壁部340の一部に、側壁部340から閉空間330側へ突出する突出部384が形成されている。突出部384の第2部材320側は、第2部材320と当接し、第1部材310に対する第2部材320の位置を決定する。
【0067】
また、
図8Dに示す例では、第1部材310の側壁部340の開口部側の端部に、側壁部340に対して閉空間330側から閉空間330と反対側へ後退する段差部390が形成されている。段差部390に第2部材320が嵌合されることで、第1部材310に対する第2部材320の位置が決定される。
【0068】
なお、突出部380,382,384又は段差部390が設けられる位置は、
図8A~
図8Dに示す例に限定されず、接合部260の位置を容易に決定できる位置であればよい。また、突出部380,382,384又は段差部390の形状は、
図8A~
図8Dに示す例に限定されず、接合部260の位置を容易に決定できる形状であればよい。また、突出部380と第2部材320、突出部382と第1部材310、突出部384と第2部材320、及び段差部390と第2部材320との当接部は、例えば、接着剤により接合されてもよく、接合されなくてもよい。
【0069】
このように、第1の変形例では、第1部材310又は第2部材320の少なくともいずれかに、突出部又は段差部が設けられる。それにより、第1部材310と、第2部材320とが接合部360において接合される場合、接合部360の位置を容易に決定することができる。また、上記実施形態と同様に、第1部材310と、第2部材320とを接合する接合部360は、側壁部340の外壁面よりも内側に設けられる。それにより、ロアアーム30の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム30に応力が発生した場合、接合部360を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0070】
(3-2.第2の変形例)
図9は、第2の変形例に係るロアアーム40の構成の一例について説明するための断面図である。
図9は、第2の変形例に係るロアアーム40の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアームの先端部における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0071】
第2の変形例に係るロアアーム40は、第1部材410、第2部材420、閉空間430、側壁部440、底面部450及び接合部460を備える。第1部材410、第2部材420、閉空間430、側壁部440、底面部450及び接合部460は、上記実施形態に係るロアアーム20の第1部材210、第2部材220、閉空間230、側壁部240、底面部250及び接合部260とそれぞれ対応する。
【0072】
第2の変形例では、第1部材410の側壁部440に傾斜部が設けられる点で上記実施形態と異なっている。
図9に示す例では、第1部材410の側壁部440は、底面部450から第2部材420側に離れるにつれて、対向する側壁部440から離れる面として形成されている。より具体的には、車体前方側の側壁部440aは、底面部450から第2部材420側に離れるにつれて対向する車体後方側の側壁部440bから離れる傾斜面として形成される。車体後方側の側壁部440bは、底面部450から第2部材420側に離れるにつれて対向する車体前方側の側壁部440aから離れる傾斜面として形成される。
【0073】
第2部材420は、第1部材410の開口部側の寸法と略一致する寸法に形成される。より具体的には、
図9に示すように、ロアアーム40の先端部における荷重の向きに沿った第2部材420の長さは、側壁部440aの内壁面の開口部側から側壁部440bの内壁面の開口部側までの長さと略一致する。
【0074】
第2部材420は、第1部材410の内側に配置され、第1部材410の開口部側の寸法と、第2部材420の寸法とが一致する位置で第1部材410に保持される。それにより、第1部材410に対する第2部材420の位置が決定される。
【0075】
このように、第2の変形例では、第1部材410の側壁部440に傾斜部が設けられる。それにより、第1部材410と、第2部材420とが接合部460において接合される場合、接合部460の位置を容易に決定することができる。また、上記実施形態と同様に、第1部材410と、第2部材420とを接合する接合部460は、側壁部440の外壁面よりも内側に設けられる。それにより、ロアアーム40の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム40に応力が発生した場合、接合部460を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0076】
(3-3.第3の変形例)
図10は、第3の変形例に係るロアアーム50の構成の一例について説明するための断面図である。
図10は、第3の変形例に係るロアアーム50の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアームの先端部における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0077】
第3の変形例に係るロアアーム50は、第1部材510、第2部材520、閉空間530、側壁部540、底面部550及び接合部560を備える。第1部材510、第2部材520、閉空間530、側壁部540、底面部550及び接合部560は、上記実施形態に係るロアアーム20の第1部材210、第2部材220、閉空間230、側壁部240、底面部250及び接合部260とそれぞれ対応する。
【0078】
第3の変形例では、ロアアーム50は、第1部材510及び第2部材520を覆うカバー部材を備える点で上記実施形態と異なっている。
図10に示す例では、カバー部材580は、第1部材510の側壁部540及び底面部550並びに第2部材520に渡って形成されている。カバー部材580は、例えば、強化繊維を含む繊維強化樹脂部材から形成される。
【0079】
カバー部材580により、第1部材510に対する第2部材520の位置が決定される手順について説明する。まず、第2部材520が平面状に形成されたカバー部材580の一部に接合される。続いて、カバー部材580と接合された第2部材520が第1部材510の開口部に嵌合するように、カバー部材580が第1部材510の開口部側に配置される。第2部材520が第1部材510の開口部に嵌合した状態で、カバー部材580が第1部材510の側壁部540及び底面部550を覆うように折曲され、第1部材510に接合される。このように、カバー部材580を用いることにより第1部材510に対する第2部材520の位置を容易に決定することができる。
【0080】
また、カバー部材580は、ロアアーム50に曲げ変形が生じた時に第1部材510及び第2部材520の側壁部540に負荷される引っ張り力に対する剛性を強化する。カバー部材580は、具体的には、側壁部540に負荷される引っ張り力の方向に沿って強化繊維が配向した一方向繊維強化樹脂部材である。ここで、繊維強化樹脂部材に含まれる強化繊維の配向方向を揃えることによって、当該繊維強化樹脂部材の配向方向に対する引っ張り強度を効果的に向上させることができる。ゆえに、側壁部540に負荷される引っ張り力の方向に沿って強化繊維が配向した一方向繊維強化樹脂部材をカバー部材580として用いることによって、側壁部540に負荷される引っ張り力の方向に対する剛性を強化させることができる。
【0081】
なお、カバー部材580は、必ずしも第1部材510及び第2部材520の全周に渡って形成される必要はない。例えば、第1部材510の側壁部540の一部と、第2部材520とがカバー部材580により覆われていてもよい。ただし、カバー部材580が第1部材510及び第2部材520の全周に渡って形成されることにより、ロアアーム50の部材としての一体性が一層確保されるため、より効果的にロアアーム50の剛性を強化することができる。
【0082】
このように、第3の変形例では、ロアアーム50は、第1部材510及び第2部材520を覆うカバー部材580を備える。それにより、第1部材510と、第2部材520とが接合部560において接合される場合、接合部560の位置を容易に決定することができる。また、側壁部540に発生する引っ張り応力の方向に対する剛性を強化させることができる。また、上記実施形態と同様に、第1部材510と、第2部材520とを接合する接合部560は、側壁部540の外壁面よりも内側に設けられる。それにより、ロアアーム50の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム50に応力が発生した場合、接合部560を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0083】
(3-4.第4の変形例)
図11は、第4の変形例に係るロアアーム60の構成の一例について説明するための断面図である。
図11は、第4の変形例に係るロアアーム60の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアームの先端部における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0084】
第4の変形例に係るロアアーム60は、第1部材610、第2部材620、閉空間630、側壁部640、底面部650及び接合部660を備える。第1部材610、第2部材620、閉空間630、側壁部640、底面部650及び接合部660は、上記実施形態に係るロアアーム20の第1部材210、第2部材220、閉空間230、側壁部240、底面部250及び接合部260とそれぞれ対応する。
【0085】
第4の変形例では、第1部材610及び第2部材620の間に仕切り部が設けられる点で上記実施形態と異なっている。
図11に示す例では、仕切り部680は、略U字状に形成され、当該略U字状の開口部がロアアーム60の先端部における荷重の向きと平行方向を向くように第1部材610及び第2部材620の間に配置されている。仕切り部680の一端が第1部材610の底面部650と当接し、他端が第2部材620と当接することにより、第1部材610に対する第2部材620の位置が決定される。このとき、仕切り部680は、ロアアーム60の先端部における荷重の向きに沿った断面におけるロアアーム60の断面二次モーメントを増大させる効果も奏する。
【0086】
なお、仕切り部680が設けられる位置は、
図11に示す例に限定されず、接合部660の位置を容易に決定できる位置であればよい。また、仕切り部680の形状は、
図11に示す例に限定されず、接合部660の位置を容易に決定できる形状であればよい。ただし、ロアアーム60の断面二次モーメントを効果的に増大させることができる形状であることが望ましい。また、仕切り部680と第1部材610、及び仕切り部680と第2部材620との当接部は、例えば、接着剤により接合されてもよく、接合されなくてもよい。
【0087】
このように、第4の変形例では、第1部材610及び第2部材620の間に仕切り部680が設けられる。それにより、第1部材610と、第2部材620とが接合部660において接合される場合、接合部660の位置を容易に決定することができるとともに、ロアアーム60の断面二次モーメントを増大させることができる。また、上記実施形態と同様に、第1部材610と、第2部材620とを接合する接合部660は、側壁部640の外壁面よりも内側に設けられる。それにより、ロアアーム60の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム60に応力が発生した場合、接合部660を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0088】
(3-5.第5の変形例)
図12は、第5の変形例に係るロアアーム70の構成の一例について説明するための断面図である。
図12は、第5の変形例に係るロアアーム70の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアームの先端部における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0089】
第5の変形例に係るロアアーム70は、第1部材710、第2部材720、閉空間730、側壁部740、底面部750及び接合部760を備える。第1部材710、第2部材720、閉空間730、側壁部740、底面部750及び接合部760は、上記実施形態に係るロアアーム20の第1部材210、第2部材220、閉空間230、側壁部240、底面部250及び接合部260とそれぞれ対応する。
【0090】
第5の変形例では、ロアアーム70の閉空間730にコア材が埋設される点で上記実施形態と異なっている。
図12に示す例では、ロアアーム70の閉空間730の全体にコア材780が埋設されている。コア材780としては、例えば、粒状の樹脂材料又は発泡性材料を使用することができる。第1部材710の内側にコア材780が敷設され、敷設されたコア材780の上に第2部材720が載置されることにより、第1部材710に対する第2部材720の位置が決定される。
【0091】
このように、第5の変形例では、ロアアーム70の閉空間730にコア材が埋設される。それにより、第1部材710と、第2部材720とが接合部760において接合される場合、接合部760の位置を容易に決定することができる。また、上記実施形態と同様に、第1部材710と、第2部材720とを接合する接合部760は、側壁部740の外壁面よりも内側に設けられる。それにより、ロアアーム70の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム70に応力が発生した場合、接合部760を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0092】
(3-6.第6の変形例)
図13は、第6の変形例に係るロアアーム80の構成の一例について説明するための断面図である。
図13は、第6の変形例に係るロアアーム80の先端部における断面を示しており、
図4及び
図5に示したロアアームの先端部における荷重の向きに沿った断面であるA-A断面と対応する。
【0093】
第6の変形例に係るロアアーム80は、第1部材810、第2部材820、閉空間830、側壁部840、底面部850、上面部852及び接合部860を備える。
【0094】
第6の変形例では、ロアアーム80の先端部における荷重の向きに沿った第1部材810及び第2部材820の断面は略L字状に形成される点で上記実施形態と異なっている。第1部材810は、ロアアーム80の先端部における荷重の向きと略直交する側壁部840bと、当該荷重の向きと略平行する底面部850とを有する繊維強化樹脂製の部材である。第1部材810において、当該荷重の向きに沿った断面は、
図13に示すように、略L字状に形成される。また、第2部材820は、当該荷重の向きと略直交する側壁部840aと、当該荷重の向きと略平行する上面部852とを有する繊維強化樹脂製の部材である。第2部材820は、第1部材810と接合されることで閉空間830を形成する。第2部材820において、当該荷重の向きに沿った断面は、
図13に示すように、略L字状に形成される。
【0095】
第2部材820が第1部材810と接合される場合、第1部材810の側壁部840bの内壁面と、第2部材820の上面部852の先端部とが接合部860bにおいて接合される。また、第2部材820の側壁部840aの内壁面と、第1部材810の底面部850の先端部とが接合部860aにおいて接合される。このとき、第1部材810の側壁部840bが下側となるように第1部材810が配置され、第2部材820の側壁部840aが上側となるように第2部材820が第1部材810の上に載置されることにより、第1部材810に対する第2部材820の位置が決定される。
【0096】
このように、第6の変形例では、ロアアーム80の先端部における荷重の向きに沿った第1部材810及び第2部材820の断面は略L字状に形成される。また、接合部860は、第1部材810及び第2部材820の側壁部840の内壁面上に設けられる。それにより、第1部材810と、第2部材820とが接合部860において接合される場合、接合部860の位置を容易に決定することができる。また、上記実施形態と同様に、第1部材810と、第2部材820とを接合する接合部860は、側壁部840の外壁面よりも内側に設けられる。それにより、ロアアーム80の先端部に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム80に応力が発生した場合、接合部860を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。
【0097】
<4.まとめ>
以上説明したように、本実施形態に係るロアアーム20は、繊維強化樹脂製の第1部材210と、第1部材210と接合されることで閉空間230を形成する繊維強化樹脂製の第2部材220とを備える。また、第1部材210は、ロアアーム20の揺動端である先端部23における荷重の向きと略直交する側壁部240を備える。また、側壁部240は、当該荷重の向きの両側に位置する外壁面及び内壁面を有する。また、第1部材210と第2部材220とを接合する接合部260は、側壁部240の外壁面よりも内側に設けられる。
【0098】
それにより、先端部23に車体前後方向を向く荷重が掛かり、ロアアーム20に応力が発生した場合、接合部260を起点として破壊が生じるおそれを低減することができる。ゆえに、ロアアーム20の応力に対する強度を向上させることができる。
【0099】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記の実施形態及び各変形例を互いに組み合わせた態様も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0100】
例えば、上記では、第1部材210が下側に配置され、第2部材220が上側に配置される例について説明したが、第1部材210と第2部材220との位置関係は係る例に限定されない。第1部材210が上側に配置され、第2部材220が下側に配置されてもよい。
【0101】
また、上記では、本発明の繊維強化樹脂構造体をロアアームに適用した例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明は、2以上の繊維強化樹脂製の部材が接合部で接合される繊維強化樹脂構造体であれば、例えばアッパーアームなど他の構造物に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 サスペンション装置
20,30,40,50,60,70,80,90 ロアアーム
23 先端部
210,310,410,510,610,710,810,910 第1部材
220,320,420,520,620,720,820,920 第2部材
230,330,430,530,630,730,830,930 閉空間
240,340,440,540,640,740,840,940 側壁部
250,350,450,550,650,750,850 底面部
260,360,460,560,660,760,860,960 接合部
380,382,384 突出部
390 段差部
580 カバー部材
680 仕切り部
780 コア材
852 上面部