(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】トルクレンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20220824BHJP
B25B 23/142 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B25B23/14 620A
B25B23/142
(21)【出願番号】P 2018177560
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591080678
【氏名又は名称】株式会社中電工
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄野 誠
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-070479(JP,A)
【文献】特開2016-093873(JP,A)
【文献】特開平02-083174(JP,A)
【文献】特開2011-088265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0116102(US,A1)
【文献】実開平06-011950(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B23/00-23/18
B25F1/00-5/02
B23Q17/00;17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付部材に係合される複数種類のソケットと、該各ソケットに着脱可能に装着される装着部を有するレンチ本体とを備え、手作業により締付部材の締付を目標トルク値で行うトルクレンチにおいて、
上記ソケットが装着部に規定位置で装着されるように位置決めする位置決め機構と、
上記複数種類のソケット毎に互いに異なるように個別に設けられた被検出部と、
上記レンチ本体に設けられ、上記位置決め機構によりソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記ソケットの被検出部を検出する検出部と、
上記複数種類のソケットに応じた複数のトルク値を記憶する記憶部と、
上記検出部が検出した被検出部に応じてソケットの種類を判別し、該ソケットの種類に対応する、上記記憶部に記憶されたトルク値を上記目標トルク値とする制御部とを備えることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のトルクレンチにおいて、
上記ソケットの被検出部は、少なくとも1つの磁石であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記磁石が発する磁気信号を検出する磁気センサであり
、
上記検出部は、上記装着部が設けられる面において該装着部の周りに設けられ、上記被検出部は、上記装着部が設けられる面と対向する面に設けられ、
上記制御部は、上記磁気センサにより検出された磁石の数、配置及び極のうちの少なくとも1つに基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項3】
請求項1に記載のトルクレンチにおいて、
上記ソケットの被検出部は、少なくとも1つの凸部であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記凸部により押圧されてオン状態となる押圧スイッチであり
、
上記検出部は、上記装着部が設けられる面において該装着部の周りに設けられ、上記被検出部は、上記装着部が設けられる面と対向する面に設けられ、
上記制御部は、オン状態の押圧スイッチの数及び配置の少なくともいずれかに基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項4】
請求項1に記載のトルクレンチにおいて、
上記ソケットの被検出部は、凸部であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記凸部からの加圧状態を検出する感圧センサであり
、
上記検出部は、上記装着部が設けられる面において該装着部の周りに設けられ、上記被検出部は、上記装着部が設けられる面と対向する面に設けられ、
上記制御部は、上記感圧センサにより検出された加圧状態に基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項5】
請求項1に記載のトルクレンチにおいて、
上記ソケットの被検出部は、導電部であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記導電部の抵抗値を検出する抵抗値センサであり、
上記制御部は、上記抵抗値センサにより検出された抵抗値に基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のトルクレンチにおいて、
上記各ソケットには、上記レンチ本体の装着部が着脱可能に嵌合される嵌合部が設けられ、
上記位置決め機構は、上記レンチ本体の装着部に設けられた係合凹部と、ソケットの嵌
合部に設けられ、上記係合凹部に係合する係合凸部とを有することを特徴とするトルクレンチ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のトルクレンチにおいて、
上記各ソケットには、上記レンチ本体の装着部が着脱可能に嵌合される嵌合部が設けられ、
上記位置決め機構は、上記レンチ本体の装着部に設けられた係合凸部と、ソケットの嵌合部に設けられ、上記係合凸部に係合する係合凹部とを有することを特徴とするトルクレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト、ナット等の締付部材の締付を行う手作業用のトルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種組立を行う作業現場において、ソケットを交換することにより異なる大きさや形状の締付部材に適用可能な手作業用のトルクレンチが用いられている。このようなトルクレンチにおいて、ソケットを交換した際は締付部材の種類に合わせて、トルク値の設定を手動で行うことが必要である。例えば、特許文献1には、トルクレンチの柄の保護部内に隠された調節ねじの尾端部を、工具を用いて回動することにより適正な設定トルク値へと調整であり、調節ねじが他物と接触して設定トルク値が狂うといった不具合を解消するプリセット型のトルクレンチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のトルクレンチのように作業者が自らトルク値を調整するものでは、設定トルク値を誤ったり、設定の変更を忘れた状態でソケットを交換したり、といった人為的ミスにより締付作業の信頼性が低下してしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、装着したソケットの種類に対応する目標トルク値へと自動で設定可能とし、人為的ミスを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、ソケットが規定位置で装着されたときにレンチ本体の検出部がソケットの被検出部の信号を検出してソケットの種類を判別可能とし、ソケットの種類に応じて予め記憶された目標トルク値が制御されるようにした。
【0007】
具体的には、第1の発明は、
締付部材に係合される複数種類のソケットと、該各ソケットに着脱可能に装着される装着部を有するレンチ本体とを備え、手作業により締付部材の締付を目標トルク値で行うトルクレンチにおいて、
上記ソケットが装着部に規定位置で装着されるように位置決めする位置決め機構と、
上記複数種類のソケット毎に互いに異なるように個別に設けられた被検出部と、
上記レンチ本体に設けられ、上記位置決め機構によりソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記ソケットの被検出部を検出する検出部と、
上記複数種類のソケットに応じた複数のトルク値を記憶する記憶部と、
上記検出部が検出した被検出部に応じてソケットの種類を判別し、該ソケットの種類に対応する、上記記憶部に記憶されたトルク値を上記目標トルク値とする制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、ソケットがレンチ本体の装着部に規定位置で装着されると、ソケット毎に互いに異なるように個別に設けられた被検出部をレンチ本体の検出部が検出する。レンチ本体の記憶部には、予め複数種類のソケットに応じた複数のトルク値が記憶されており、検出部が検出した被検出部の信号に基づいて、制御部がソケットの種類を判別し、そのソケットに対応するトルク値を記憶部から参照することによって締付部材に適した目標トルク値へと設定することができるので、ソケットを変える毎に作業者が自ら手動でトルク値を設定する必要がなく、人為的ミスが起こりにくい。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
上記ソケットの被検出部は、少なくとも1つの磁石であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記磁石が発する磁気信号を検出する磁気センサであり、
上記検出部は、上記装着部が設けられる面において該装着部の周りに設けられ、上記被検出部は、上記装着部が突出する面と対向する面に設けられ、
上記制御部は、上記磁気センサにより検出された磁石の数、配置及び極のうちの少なくとも1つに基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、ソケットの被検出部として磁石を用い、レンチ本体の検出部として磁気センサを用いることにより、磁石の数、配置及び極の組み合わせにより多くの種類の締付部材を判別可能である。また、非接触のセンサであるため耐久性に優れる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、
上記ソケットの被検出部は、少なくとも1つの凸部であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記凸部により押圧されてオン状態となる押圧スイッチであり、
上記検出部は、上記装着部が設けられる面において該装着部の周りに設けられ、上記被検出部は、上記装着部が設けられる面と対向する面に設けられ、
上記制御部は、オン状態の押圧スイッチの数及び配置の少なくともいずれかに基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、ソケットに配置された凸部が押圧スイッチを押圧してオン状態とし、オン状態の押圧スイッチの数及び配置の少なくともいずれかに基づいてトルク値が設定されるので、多くの種類の締付部材を判別可能である。
【0013】
第4の発明は、第1の発明において、
上記ソケットの被検出部は、凸部であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記凸部からの加圧状態を検出する感圧センサであり、
上記検出部は、上記装着部が設けられる面において該装着部の周りに設けられ、上記被検出部は、上記装着部が設けられる面と対向する面に設けられ、
上記制御部は、上記感圧センサにより検出された加圧状態に基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、ソケットの凸部による圧力の高低を感圧センサが検出し、その加圧状態に基づいてトルク値が設定されるので、多くの種類の締付部材を判別可能である。
【0015】
第5の発明は、第1の発明において、
上記ソケットの被検出部は、導電部であり、
上記検出部は、ソケットが装着部に規定位置で装着されたときに上記導電部の抵抗値を検出する抵抗値センサであり、
上記制御部は、上記抵抗値センサにより検出された抵抗値に基づいてソケットの種類を判別するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、ソケットに被検出部として導電部を用い、抵抗値センサが抵抗値の高低を検出し、その抵抗値に基づいてトルク値が設定されるので、多くの種類の締付部材を判別可能である。
【0017】
第6の発明は、第1から第5のいずれか1つの発明において、
上記各ソケットには、上記レンチ本体の装着部が着脱可能に嵌合される嵌合部が設けられ、
上記位置決め機構は、上記レンチ本体の装着部に設けられた係合凹部と、ソケットの嵌合部に設けられ、上記係合凹部に係合する係合凸部とを有することを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、位置決め機構はレンチ本体側が係合凹部となっているため、係合凸部を設けた専用のソケットだけでなく係合凸部を有しない汎用のソケットも使用することが可能である。
【0019】
第7の発明は、第1から第5のいずれか1つの発明において、
上記各ソケットには、上記レンチ本体の装着部が着脱可能に嵌合される嵌合部が設けられ、
上記位置決め機構は、上記レンチ本体の装着部に設けられた係合凸部と、ソケットの嵌合部に設けられ、上記係合凸部に係合する係合凹部とを有することを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、位置決め機構はレンチ本体側が係合凸部となっていることにより、レンチ本体に非対応の汎用ソケットが誤って装着されることを防止し、汎用ソケットが装着された際に起こり得る人為的ミスを防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、ソケットを装着部に規定位置で装着すると、ソケットの被検出部をレンチ本体の検出部が検出し、検出部が検出した被検出部の信号に基づいて、制御部がソケットの種類を判別し、予め複数種類のソケットに応じた複数のトルク値が記憶された記憶部から対応するトルク値を参照することによって、締付部材に適した目標トルク値が設定されるので、ソケットを変える毎に作業者が自らトルク値を設定する必要がなく、トルク値の設定における人為的ミスを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態1に係るレンチ本体の要部とソケットを示す斜視図である。
【
図2】実施形態1に係るレンチ本体及びソケットの側面図である。
【
図3】実施形態1に係るレンチ本体及びソケットの底面図である。
【
図4】実施形態1に係るトルクレンチの要部を示す断面概略図である。
【
図5】実施形態2に係るトルクレンチの
図4相当図である。
【
図6】実施形態3に係るトルクレンチの
図4相当図である。
【
図7】実施形態4に係るトルクレンチの
図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0024】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るトルクレンチT1を示す。トルクレンチT1は、締付部材に係合される複数種類のソケット101a,101b,101c‥と、各ソケット101に着脱可能なレンチ本体1とを備え、締付部材(図示しない)に応じてソケット101を交換可能であり、手作業により締付を行うものである。
【0025】
(レンチ本体の構成)
レンチ本体1は、
図1乃至
図3に示すように、角筒状に延びる胴部12を備え、胴部12の一端部には、複数種類のソケット101に装着される装着部15を備える頭部11が設けられており、胴部12の他端部には、作業者が把持可能な操作部13が設けられている。
【0026】
頭部11には、図示しないラチェット機構が備えられている。頭部11の略中央部には、ラチェット機構に接続される角柱状の装着部15が設けられ、
図4に示すように、装着部15が後述するソケット101の嵌合部115へ嵌め込まれて、ソケット101を介してレンチ本体1と締付部材とが係合される。なお、
図4はソケット101が装着部15へ装着される途中の状態である。装着部15の外周面には、先端側の縁部から基端側に向かって係合凹部15aが形成されている。係合凹部15aは装着されるソケット101の係合凸部115aに対向して設けてあれば、どのような形態であってもよく、装着部15の係合凹部15aとソケット101の係合凸部115aとが位置決め機構となり、ソケット101が装着部15に規定位置で装着されるように位置決めする。装着部15は、ソケット101の嵌合部115に対応するものであれば形状は限定されないが、汎用品のソケットも装着可能な形状とすることが望ましい。
【0027】
また、頭部11には、位置決め機構15a,115aによりソケット101が装着部15に規定位置で装着されたときに、後述するソケット101の被検出部114を検出する検出部14が内蔵されている。検出部14としては、例えば磁気信号を検出するピックアップコイル、ホール素子又はMR素子などの磁気センサを用いることが可能であり、実施形態1ではピックアップコイルが用いられている。また、このピックアップコイル14は磁石のS極とN極を判別可能であることが望ましい。
図3及び
図4に示すように、検出部であるピックアップコイル14は装着部15の周りを取り囲むように、装着部15側の表面に近接して頭部11内に複数埋め込まれている。ピックアップコイル14の数や位置は限定されるものではなく、ソケット101に設けられた被検出部114に対向し、各被検出部114が発する磁気を検出可能な位置であれば、装着部15を含め頭部11のどの位置に設けてあってもよい。そして、ピックアップコイル14は、配線18を介して制御部17へ接続されており、検出した被検出部114の信号を制御部17へと伝達可能な構成となっている。なお、検出部14、記憶部16、制御部17及び配線18について、電気的な接続形態は
図3に示すものに限られない。
【0028】
胴部12は、角筒形状の内部にコイルばね等の付勢部材(図示しない)を有し、この付勢部材の圧縮度が調整されることによってトルクが設定される。また、胴部12内には配線18が挿通されており、頭部11に内蔵されている検出部14と操作部13に内蔵されている制御部17及び記憶部16が電気的に接続されている。
【0029】
操作部13は、胴部12より径の大きな略円筒形状であり、
図2に示すように、外周部には一端部側(胴部12側)に表示部19と、他端部側に把持部20とを備え、
図3に示すように、内部にはトルク値が複数記憶された記憶部16とトルク値の制御部17とが備えられている。操作部13には、手動でトルクを設定するためのトルク設定手段を設けてもよい。例えば、回動操作可能なボルトやダイヤル等を操作部13の末端に設け、レンチ本体1内部の付勢部材の圧縮度を手動で調整可能な構成としてもよい。
【0030】
表示部19は、例えば制御部17によって適用されたトルク値や、ボルト、ナット等の締付部材の情報、設定された目標トルク値、又は、締付作業時の実トルク値等を、作業者が目視で確認することができるように構成されている。また、表示部19に近接して設けられた設定ボタン21によって、トルク値の設定を行うことが可能である。
【0031】
記憶部16は、後述するソケット101の被検出部114に応じたトルク値が予め複数記憶されており、制御部17と電気的に接続されている。記憶部16へトルク値を記憶させる方法は限定されないが、例えば、ソケット101を装着した状態で該ソケット101に対応する最適トルク値を上記設定ボタン21により打ち込んで記憶させたり、レンチ本体1に外部接続可能な配線孔(図示しない)を設け、コンピュータ等と接続してデータを転送することによって記憶させたりできる。
【0032】
制御部17は、検出部14が検出した被検出部114に応じてソケット101の種類を判別し、ソケット101の種類に対応する、上記記憶部16に記憶されたトルク値を目標トルク値として制御を行うものである。実施形態1において、検出部は磁気センサ14、被検出部は磁石114であり、制御部17は磁気センサ14により検出された磁石114の数、配置及び極のうちの少なくとも1つに基づいてソケット101の種類を判別可能に構成されている。
【0033】
また、レンチ本体1には、締付作業時のトルクを検出するためのトルクセンサを備えてもよく、トルクセンサと制御部17によって、目標トルク値に達した際、作業者に締付トルクの適否を知らせる機能を備えることも可能である。作業者にトルクの適否を知らせる手段としては、例えば、上記表示部19を点灯させ、又は、レンチ本体1から音や振動を発生させる等の手段が適用可能である。
【0034】
さらに、レンチ本体1には、作業記録を管理するための、帳票出力の機能を備えてもよい。例えば、Bluetooth(登録商標)や赤外線通信等の通信手段によって離れた位置にある外部端末(例えばPC、スマートフォン、タブレット端末等)に情報を送信可能としたり、レンチ本体1に作業履歴を記録させておき、作業終了時にレンチ本体1と外部端末とを接続させて情報を送信可能としたり、レンチ本体1にUSBメモリやSDカード等の記録媒体を備え、作業履歴を記録させる構成としてもよい。
【0035】
(ソケットの構成)
図1に示すソケット101a,101b,101cのように、複数種類のものを使用することが可能である。各ソケット101は、円柱形状の一端部にレンチ本体1へ装着される嵌合部115が形成されており、他端部にはソケット101毎に異なる大きさや種類の締付部材に係合可能な係合孔111a,111b,111cが形成されている。
【0036】
嵌合部115は、ソケット101の軸方向に設けられた断面矩形の孔であって、ソケット101の種類に係わらず、各ソケット101に同様に設けられており、レンチ本体1の装着部15を挿入可能となっている。装着部15と嵌合部115は、互いに嵌合可能であれば、どのような形状であってもよい。嵌合部115の内周面には、装着部15の係合凹部15aに対向する位置に係合凸部115aが設けられている。また、嵌合部115の外周部には、複数種類のソケット101a,101b,101c毎に互いに異なるように個別に設けられた被検出部114が備えられている。
【0037】
被検出部114は、磁気センサによって検出可能な磁石である。
図1及び
図4に示すように、被検出部である磁石114は、検出部であるピックアップコイル14に対向するように設けられている。例えば、ソケット101aにおいて、嵌合部15の外周には4つの磁石114が埋め込まれている。嵌合部15を挟んで対向する2つの磁石114a,114aは、ピックアップコイル14に対向する面がN極となっており、嵌合部15を挟んで対向する他の2つの磁石114b,114bは、ピックアップコイル14に対向する面がS極となっている。ソケット101bには、嵌合部15を挟んで対向する位置に2つの磁石114が埋め込まれている。一方の磁石114aは、ピックアップコイル14に対向する面がN極となっており、他方の磁石114bは、ピックアップコイル14に対向する面がS極となっている。ソケット101cには、3つの磁石114aが埋め込まれている。すべての磁石114aは、ピックアップコイル14に対向する面がN極となっている。磁石114の数や位置は限定されるものではなく、レンチ本体1に設けられた検出部14に対向し、各検出部14が磁気を検出可能であれば、ソケット101のどの位置に設けてあってもよい。また、磁石114のS極とN極のどちらを検出部14側に対向するように配置してもよい。このように磁石114は、数、配置及び極の組み合わせによって、ソケット101毎に互いに異なるように設けられている。
【0038】
(トルクレンチの作用効果)
以上のように構成した実施形態1のトルクレンチT1によれば、作業者が締付作業を開始する際には、レンチ本体1の記憶部16には予め複数種類のソケット101に応じた複数のトルク値が記憶されている。作業者が目的の締付部材に対応するソケット101を、係合凸部115aがレンチ本体1の係合凹部15aに嵌まり込むように装着部15へ装着することによって、ソケット101が位置決めされ、ソケット101の被検出部である磁石114の数、配置及び極をピックアップコイル14が検出すると、その信号が制御部17へ伝達され、ソケット101の種類が判別される。そして、制御部17は装着されたソケット101に対応するトルク値を記憶部16から参照し、目的の締付部材に適した目標トルク値が設定される。このように、ソケット101を装着するだけで目標トルク値は設定されるので、作業者は自らトルクの設定を行う必要がなく、人為的ミスが起こりにくい。そして、そのまま締付作業を行えば、表示部19やトルクの適否を知らせる音や振動等の手段によって目標トルク値へ達したことを認識し、容易に作業を完了することができる。また、ソケット101が装着部15の規定位置で装着されるように位置決めする位置決め機構は、係合凹部15aと係合凸部115aであり、装着部15側が係合凹部15aとなっているので、汎用のソケットをレンチ本体1に取り付けることも可能となる。
【0039】
なお、位置決め機構については、凹凸形状を上記実施形態1の逆、つまり、レンチ本体1側を係合凸部、ソケット101側を係合凹部としてもよい。レンチ本体1側をあえて係合凸部とすることにより、作業者がレンチ本体1に非対応の汎用のソケットを誤って取り付けてしまうことを防止し、汎用ソケットが装着された際に起こり得る人為的ミスを防ぐことが可能となる。
【0040】
そして、実施形態1において、検出部は磁気センサ14、被検出部は磁石114であり、非接触のセンサであるため、トルクレンチT1は耐久性に優れる。また、制御部17は磁気センサ14により検出された磁石114の数、配置及び極のうち少なくとも1つに基づいてソケット101の種類を判別可能であるため、多種のソケット101を適用できる。
【0041】
(実施形態2)
図5は本発明の実施形態2に係るトルクレンチT2の要部の断面概略図を示す。以下の各実施形態において実施形態1と同様の構成部材については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。実施形態1と異なるのは、レンチ本体1の検出部24とソケット102の被検出部124の構成である。
【0042】
レンチ本体1の頭部11には、検出部24として押圧スイッチが設けられている。押圧スイッチ24は、オフ状態のとき、頭部11のソケット102へ当接する面内に収まるように設けられており、頭部11の内側へ押し込まれることによってオン状態となる。押圧スイッチ24の数や位置は限定されるものではなく、ソケット102の被検出部124に対向して設けてあれば、装着部15を含め頭部11のどの位置に設けてあってもよい。
【0043】
ソケット102には、レンチ本体1の頭部11へ当接する面に凸部124が設けられている。凸部124は、異なる締付部材に対応する複数のソケット102毎に数や位置が異なるように設けられ、押圧スイッチ24に対向して設けてあれば、数や位置が限定されるものではない。
【0044】
ソケット102が装着部15へ規定位置で装着されると、凸部124が押圧スイッチ24を内側へ押し込み、押圧スイッチ24はオン状態となる。レンチ本体1の制御部17は、オン状態の押圧スイッチ24の数及び配置の少なくともいずれかに基づいてソケット102の種類を判別し、装着されたソケット102に対応するトルク値を記憶部16から参照し、目的の締付部材に適した目標トルク値が設定される。
【0045】
実施形態2のトルクレンチT2によれば、実施形態1と同様にソケット102を規定位置で装着部15へ装着するだけで目標トルク値が設定されるので、人為的ミスが起こりにくい。また、検出部は押圧スイッチ24、被検出部は凸部124であり、オン状態の押圧スイッチの数や配置の少なくともいずれかに基づいてトルク値が設定されるので、多くの種類の締付部材を判別可能である。
【0046】
(実施形態3)
図6は本発明の実施形態3に係るトルクレンチT3の要部の断面概略図を示す。以下の各実施形態において実施形態1と同様の構成部材については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。実施形態1と異なるのは、レンチ本体1の検出部34とソケット103の被検出部134の構成である。
【0047】
レンチ本体1の頭部11には、検出部34として感圧センサが設けられている。感圧センサ34は、接触した際の圧力を検出して信号を送るものであり、接触の有無だけでなく、圧力の高低を検出可能である。
図6において、感圧センサ34は、頭部11のソケット103へ当接する面に設けられているが、位置は限定されるものではなく、ソケット103の被検出部134と接触可能に設けてあれば、装着部15を含め頭部11のどの位置に設けてあってもよい。
【0048】
ソケット103には、レンチ本体1の頭部11へ当接する面に凸部134が設けられている。凸部134は、感圧センサ34に対向して設けてあり、レンチ本体1に装着されると感圧センサ34を加圧する。凸部134は、異なる締付部材に対応する複数のソケット103毎に感圧センサ34に接触した際の加圧状態が異なるように設けられている。
【0049】
ソケット103が装着部15へ規定位置で装着されると、凸部134が感圧センサ34に接触し、感圧センサ34は圧力を検出して制御部17へと信号が送られる。制御部17は、検出された加圧状態に基づいてソケット103の種類を判別し、装着されたソケット103に対応するトルク値を記憶部16から参照し、目的の締付部材に適した目標トルク値が設定される。
【0050】
実施形態3のトルクレンチT3によれば、実施形態1と同様にソケット103を規定位置で装着部15へ装着するだけで目標トルク値が設定されるので、人為的ミスが起こりにくい。また、検出部は感圧センサ34、被検出部は凸部134であり、凸部134による圧力の高低を感圧センサ34が検出し、その加圧状態に基づいてトルク値が設定されるので、多くの種類の締付部材を判別可能である。
【0051】
(実施形態4)
図7は本発明の実施形態4に係るトルクレンチT4の要部の断面概略図を示す。以下の各実施形態において実施形態1と同様の構成部材については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。実施形態1と異なるのは、レンチ本体1の検出部44とソケット104の被検出部144の構成である。
【0052】
レンチ本体1の頭部11には、検出部44として抵抗値センサが設けられている。抵抗値センサ44は、ソケット104の被検出部144へ通電させ、その電気抵抗値を検出するものである。
図7において、抵抗値センサ44は、頭部11のソケット104へ当接する面に被検出部144の収容部44aを備え、収容部44aへ嵌まり込んだ被検出部144へ回路が繋がるように形成されているが、被検出部144の抵抗値を検出可能であれば、どのような構成であってもよい。
【0053】
ソケット104には、被検出部144として導電部が設けられている。導電部144は、レンチ本体1に設けられた収容部44aに嵌まり込むことが可能なように、頭部11へ当接する面から突出して設けられており、レンチ本体1に装着されると抵抗値センサ44の回路と繋がって電流が流れる。導電部144は、異なる締付部材に対応する複数のソケット104毎に抵抗値が異なるように設けられている。
【0054】
ソケット104が装着部15へ規定位置で装着されると、導電部144が収容部44aに嵌まり込んで抵抗値センサ44の回路に繋がり、抵抗値センサ44は抵抗値を検出して制御部17へと信号が送られる。制御部17は、検出された抵抗値に基づいてソケット104の種類を判別し、装着されたソケット104に対応するトルク値を記憶部16から参照し、目的の締付部材に適した目標トルク値が設定される。
【0055】
実施形態4のトルクレンチT4によれば、実施形態1と同様にソケット104を規定位置で装着部15へ装着するだけで目標トルク値は設定されるので、人為的ミスが起こりにくい。また、検出部は抵抗値センサ44、被検出部は導電部144であり、導電部144の抵抗値に基づいてトルク値が設定されるので、多くの種類の締付部材を判別可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、例えば締付部材の種類毎に多数の工具を使い分けて作業することが必要な現場等において使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 レンチ本体
11 頭部
12 胴部
13 操作部
14 ピックアップコイル(検出部)
15 装着部
15a 係合凹部(位置決め機構)
16 記憶部
17 制御部
18 配線
19 表示部
20 把持部
21 設定ボタン
24 押圧スイッチ(検出部)
34 感圧センサ(検出部)
44 抵抗値センサ(検出部)
101~104 ソケット
111 係合孔
114 磁石(被検出部)
115 嵌合部
115a 係合凸部(位置決め機構)
124 凸部(被検出部)
134 凸部(被検出部)
144 導電部(被検出部)
T1~T4 トルクレンチ