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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20220824BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20220824BHJP
   C08G 59/22 20060101ALI20220824BHJP
   C08K 5/159 20060101ALI20220824BHJP
   C08L 63/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C08G59/24
C08G59/68
C08G59/22
C08K5/159
C08L63/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018198101
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020066643
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田代 智史
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158522(WO,A1)
【文献】特開2011-107825(JP,A)
【文献】特開2010-018797(JP,A)
【文献】特開2010-248387(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199626(WO,A1)
【文献】特開平04-091169(JP,A)
【文献】特開平02-016179(JP,A)
【文献】特開2011-111598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量の平均が156~180g/eqであるビスフェノールF型ジグリシジルエーテル(A)と、アルキル骨格ジグリシジルエーテル(B)と、環状エーテル化合物(C)と、光カチオン重合開始剤(D)と、を含み、前記(A)の配合比率が全固形分に対し15~55重量%であり、前記(B)が40~83重量%であり、E型粘度計で測定された25℃、50rpmにおける粘度が10~50mPa・sであることを特徴とする光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)の配合量が、光カチオン重合性化合物100重量部に対し0.1~5重量部であることを特徴とする請求項1記載の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)が18-クラウン-6であることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
有機EL素子の封止用樹脂であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン重合で硬化するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光学部品の接着には透明性や速硬化性の要求から、紫外線硬化型接着剤が広く用いられている。紫外線硬化型接着剤としては主にラジカル硬化型のアクリル系とカチオン硬化型のエポキシ系があるが、前者は空気中の酸素による重合阻害を受けること、およびエステル基が加水分解することにより接着力が低下するという長期信頼性の面で問題があり、信頼性を重要視される分野ではエポキシ系の紫外線硬化型接着剤が広く用いられるようになっている。
【0003】
例えば光ピックアップ等の光学素子を固定するエポキシ系紫外線硬化型接着剤であれば、高温・高湿度環境下での耐久性に優れる組成物として、特定の群から選択されるエポキシ樹脂と反応性希釈剤とシランカップリング剤とカチオン重合開始剤とウレタン樹脂フィラーからなる接着剤が提案されている(特許文献1)。このような組成物は紫外線照射により比較的早く硬化反応が進むが、一方で、被着体同士の位置合わせのため、紫外線照射後に十分な可使時間を必要とされる場合もあった。
【0004】
こうした用途に対応できるカチオン硬化型のエポキシ系樹脂組成物としては、例えば特許文献2に示される環状エーテル化合物を配合することが知られている。硬化反応を遅らせるメカニズムとしては、エーテル部分の孤立電子対がカチオン重合開始剤から発生したカチオンを捕捉するため、重合反応が一気に進みにくいためと考えられている。しかしながら、数μm~数十μmレベルのギャップで対面している薄い透明基材の間を充填し、位置合わせをしながら樹脂封止を行うような用途では、粘度のコントロールと共に貯蔵弾性率のバランスを取る必要があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5716221号公報
【文献】特許第3737285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、数μm~数十μmレベルの狭いギャップで対面している透明基材の間を充填封止するような場合でも、浸透性が良好で、また位置合わせ等で必要とされる可使時間を十分に有する、カチオン硬化型の光エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、エポキシ当量の平均が156~180g/eqであるビスフェノールF型ジグリシジルエーテル(A)と、アルキル骨格ジグリシジルエーテル(B)と、環状エーテル化合物(C)と、光カチオン重合開始剤(D)と、を含み、前記(A)の配合比率が全固形分に対し15~55重量%であり、前記(B)が40~83重量%であり、E型粘度計で測定された25℃、50rpmにおける粘度が10~50mPa・sであることを特徴とする光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。

【0008】
請求項2記載の発明は、前記(D)の配合量が、光カチオン重合性化合物100重量部に対し0.1~5重量部であることを特徴とする請求項1記載の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記(D)が18-クラウン-6であることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0010】
請求項4記載の発明は、有機EL素子の封止用樹脂であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物は、低粘度で貯蔵弾性率が低く、また紫外線照射をしてからの可使時間も長いため、狭いギャップで対面している透明基材の間を充填するような場合でも、位置合わせをしながら精度の高い樹脂封止を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の組成物は、ビスフェノール骨格ジグリシジルエーテル(A)と、アルキル骨格ジグリシジルエーテル(B)と、環状エーテル化合物(C)と、光カチオン開始剤(D)から成る。
【0014】
本発明に使用されるビスフェノール骨格ジグリシジルエーテル(A)は、光カチオン重合開始剤によって開環し架橋構造となるエポキシ基を1分子中に2つ有しており、耐熱性、可撓性に優れる透明性の高い主要構成樹脂である。例えばビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルが例示され、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができるが、低粘度である点でビスフェノールF型ジグリシジルエーテルが好ましい。
【0015】
前記(A)のエポキシ当量は、156~180g/eqであり、156~178g/eqであることが好ましく、156~170g/eqであることが更に好ましい。180g/eq超の場合は分子量が大きくなるため、組成物としての粘度が高くなり、狭いギャップへの充填性が低下するため不可である。2種以上の(A)を配合する場合のエポキシ当量の平均は、その配合比を掛け合わせた値が目安となり、例えば168~178g/eqを40部、156~168g/eqを60部配合する場合は、エポキシ当量はその中間値を用い、173×0.4+162×0.6=166.4g/eqとすれば良い。
【0016】
前記(A)の配合比率は、全固形分に対し15~55重量%が好ましく、18~52重量%が更に好ましい。15重量%以上とすることで薄い基材を使用しても撓みのない適度な貯蔵弾性率を確保することができ、55重量%以下とすることで狭いギャップへの充填性に優れた粘度とすることができる。
【0017】
本発明に使用されるアルキル骨格ジグリシジルエーテル(B)は、(A)と共に硬化皮膜の主要成分であり、組成物の粘度を低くするため配合する。例えば直鎖脂肪族骨格、分岐脂肪族骨格、脂環族骨格などが例示され単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では粘度が非常に低い点で直鎖脂肪族骨格のジグリシジルエーテルが好ましく、25℃における粘度が30mPa・s以下である1,4ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0018】
前記(B)の配合比率は、全固形分に対し40~83重量%が好ましく、45~80重量%が更に好ましい。40重量%以上とすることで組成物の粘度を充分低くすることができ、83重量%以下とすることで透湿度を低くすることができる。
【0019】
前記(B)と(A)との配合比率は、(A):(B)=55:45~15:85が好ましく、50:50~20:80が更に好ましい。この配合比率にすることで、封止する対象が数μm~数十μmレベルの狭いギャップで対向する薄い基材であっても、撓みのない適度な貯蔵弾性率を確保でき、同時に充填封止性に優れた粘度とを両立させ、良好なバランスを取ることができる。
【0020】
本発明で使用する光カチオン重合開始剤(C)は、可視光線、紫外線、電子線などの活性エネルギー線の照射によってカチオンイオンを発生する開始剤で、例えばアンチモン、リン、イオウ、窒素、ヨウ素の芳香族有機原子陽イオンと、BF 、PF 、SbF 、(CPF 等の陰イオン等で構成されるオニウム塩である。具体的には芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩等があり、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では毒性が低く、モノマーとの相溶性に優れる、芳香族トリアリールスルホニウム塩系が好適であり、市販品ではCPI-210S(商品名:サンアプロ社製)等がある。
【0021】
前記(C)の配合量は、光カチオン重合性100重量部に対し0.1~5重量部が好ましく、0.4~3重量部がより好ましい。0.1重量部以上とすることで充分な硬化性を確保でき、5重量部以下とすることで組成物としての保存安定性を確保できる。
【0022】
本発明に使用される環状エーテル化合物(D)は、光カチオン重合開始剤が放出するカチオンをエーテル部の酸素原子がもつ孤立電子対で捕捉することにより、硬化反応を遅延させ、可使時間を長くする役割を担う。例えば、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジアゾ-18-クラウン-6などが挙げあられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では、カチオンの捕捉性が良好で、入手しやすい18-クラウン-6が好ましい。
【0023】
前記(D)はカチオンを捕捉する目的で配合されるため、その配合比率は光カチオン重合開始剤の構造(分子量)により異なる。例えば本発明の実施例で使用しているCPI-210Sの場合では、1重量部に対し0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましい。この範囲とすることで、可使時間と硬化速度のバランスが取り易くなる。一般的にはカチオン重合性成分((A)+(B))100重量部に対して、0.1~5重量部が目安となる。
【0024】
上記のほか、本組成物の性能を損なわない範囲で、必要により酸化防止剤、光増感剤、粘着付与剤、充填剤、レベリング剤、消泡剤、硬化促進剤、着色剤、増粘剤、難燃剤、安定剤、シランカップリング剤等を配合することが出来る。
【0025】
酸化防止剤は、熱や光などの作用で発生する炭素ラジカルから生成された、パーオキシラジカルやハイドロパーオキサイドを捕捉する添加剤で、変色などを抑制できる。主にフェノール系及びリン系で市販の酸化防止剤としてはsumilizerGP(商品名:住友化学社製、フェノール-リン系)等がある。
【0026】
本発明の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物の、E型粘度計で測定された25℃、50rpmにおける粘度は、10~50mPa・sであり、10~40mPa・sであることが好ましく、12~30mPa・sであることが更に好ましい。この範囲とすることにより、数μm~数十μmレベルのギャップで対面している基材の間でも、充分な浸透性と充填封止性を確保することができる。
【0027】
本発明の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物の貯蔵弾性率は、厚み1mmの測定サンプルで、昇温速度3℃/分、周波数1Hzにおける測定値が0.05~3.0MPaが好ましく、0.1~2.0MPaが更に好ましく、0.5~1.8MPaがとりわけ好ましい。この範囲とすることにより、数十μmレベルのギャップで対面している薄い基材の間でも、撓みやゆがみがない充填封止性を実現することができる。
【0028】
本発明の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を硬化させる際の光源としては公知のもので良く、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあげられる。また硬化条件としては50mW/cm~3000mW/cmの照射強度で、積算光量として50~3,000mJ/cmが例示される。また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。
【0029】
以下,実施例及び比較例にて本出願に係るカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物について具体的に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。なお
(B)の粘度は25℃での測定値とする。
【実施例
【0030】
実施例1~5
遮光ビンに、前記(A)としてEPICLOEXA-830LVP(商品名:DIC社製、エポキシ当量156~168g/eq、ビスフェノールF型)及びEPICLON 850CRP(商品名:DIC社製、エポキシ当量168~178g/eq、ビスフェノールA型)を、(B)としてEX-214(商品名:ナガセケムテックス社製、1、4ブタンジオールジグリシジルエーテル、粘度15mPa・s)及びYED216D(商品名:三菱化学社製、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、粘度15mPa・s)を、(C)としてクラウンエーテルO-18(商品名:日本曹達社製、18-クラウンー6)を、(D)CPI-210S(商品名:サンアプロ社製、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート)をとして、酸化防止剤としてsumilizerGP(商品名:住友化学社製)を、表1に示す量入れ、撹拌脱泡器を用いて均一になるまで撹拌して実施例1~5の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。なお配合表の単位は重量部とする。
【0031】
比較例1~4
実施例で用いた材料の他、前記(A)としてYL983U(商品名:三菱化学社製、エポキシ当量165~175g/eq、ビスフェノールF型)を、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルとしてYX8000(商品名:三菱化学社製、エポキシ当量205g/eq)を、前記(B)としてEX-216(商品名:ナガセケムテック社製、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、粘度65mPa・s)及びED-509S(商品名:アデカ社製、tブチルフェノールグリシジルエーテル)を、表1に示す量入れ、撹拌脱泡器を用いて均一になるまで撹拌して比較例1~4の光カチオン硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0032】
【表1】

【0033】
評価項目及び評価方法
【0034】
試験片の作成
上記で得られた樹脂組成物を1mmの厚さで塗工し、LED-UV(パナソニック社製)を用い、365nmで100mW/cm2、露光量2000mJ/cm2の照射条件で露光後、70℃の恒温器内で30分後硬化し、試験片とした。
【0035】
粘度:東機産業製のE型粘度計RC-550を用い、ローター1“×R24、50rpmにて測定し、10~50mPa・sを○、この範囲から外れるものを×とした。
【0036】
硬化性:上記で作製した試験片を用い、光照射して20分後に硬化度合いを確認し、未硬化の場合を○、硬化の場合を×とした。
【0037】
貯蔵弾性率:TAインスツルメント社製の動的粘弾性測定装置Q800を用い、40mm×5mm×1mm厚の上記試験片を用い、昇温速度3℃/分、周波数1Hzの条件で測定し、0.1~3.0MPaを○、この範囲から外れるものを×とした。
【0038】
透湿度:上記で作成した直径70mmの試験片(1mm厚)を用い、JIS Z 0208に準拠したカップ法により60℃、相対湿度90%の条件で24時間測定し、透湿度が100g/m・24hr以下を○、超えるものを×とした。
【0039】
ガラス転移点:TAインスツルメント社製の動的粘弾性測定装置Q800を用い、40mm×5mm×1mm厚の上記試験片を用い、昇温速度3℃/分、周波数1Hzの条件で測定し、TanΔのピークトップをガラス転移点とした。5℃以上を○、5℃未満を×とした。
【0040】
評価結果
評価結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例の樹脂組成物は粘度、硬化性、貯蔵弾性率、透湿度、ガラス転移点の各評価結果はいずれも良好であった。一方、エポキシ当量の平均が上限値以上の比較例1と、比較例2および3は粘度が外れており、(C)を含んでいない比較例4は硬化性が劣り、いずれも本願発明に適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、狭いギャップで対面している透明基材の間を充填するような場合でも、浸透性が良好で、また位置合わせ等で必要とされる可使時間を十分有するため、有機EL素子等の封止用樹脂として有用である。