(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】遮水壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 19/06 20060101AFI20220824BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220824BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
E02D19/06
E02D3/12 102
C09K17/02 P
(21)【出願番号】P 2018227648
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 正俊
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176198(JP,A)
【文献】特開2005-016295(JP,A)
【文献】特開2008-115618(JP,A)
【文献】特開平11-043934(JP,A)
【文献】特開昭62-033923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/06
E02D 3/12
C09K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤にベントナイトを供給して攪拌する遮水壁の構築方法であり、
交換性陽イオンを有するベントナイトの液体を前記地盤に供給し、
次いでアルカリ土類金属型ベントナイトの粉体及びイオン交換剤の粉体を前記地盤に供給する、
ことを特徴とする遮水壁の構築方法。
【請求項2】
前記交換性陽イオンを有するベントナイトの液体が、アルカリ土類金属型ベントナイトの液体であり、
当該アルカリ土類金属型ベントナイトの液体の濃度が、5~60W/V%である、
請求項1に記載の遮水壁の構築方法。
【請求項3】
前記地盤1m
3当たりの前記アルカリ土類金属型ベントナイトの液体の供給量が50~200Lであり、
前記アルカリ土類金属型ベントナイトの粉体の供給量が、前記地盤1m
3当たりに供給するベントナイトの総量が50~300kgとなる量である、
請求項2に記載の遮水壁の構築方法。
【請求項4】
前記イオン交換剤が炭酸ナトリウムであり、
前記アルカリ土類金属型ベントナイト1kgに対する前記イオン交換剤の供給量が0.01~0.2kgである、
請求項2又は請求項3に記載の遮水壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遮水壁の構築方法としては、例えば、特許文献1が開示するものが存在する。同文献が開示する方法は、Ca型ベントナイト等の泥水を地中に供給して混合し、更にCa型ベントナイト等をNa型ベントナイト等に改質するイオン交換剤の液体を地中に供給して混合するものである。同文献は、ベントナイトの粉体を投入すると均質な混合性に問題があるとし、Ca型ベントナイト等及びイオン交換剤を液体で供給するとするものである。
【0003】
しかしながら、同方法によると、地中に注入する水分が多く、遮水壁が柔らかくなってしまうと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする主たる課題は、ベントナイトと地盤との混合性に問題がなく、かつ十分な強度を有する遮水壁を構築することができる遮水壁の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
地盤にベントナイトを供給して攪拌する遮水壁の構築方法であり、
交換性陽イオンを有するベントナイトの液体を前記地盤に供給し、
次いでアルカリ土類金属型ベントナイトの粉体及びイオン交換剤の粉体を前記地盤に供給する、
ことを特徴とする遮水壁の構築方法。
【0007】
(請求項2に記載の手段)
前記交換性陽イオンを有するベントナイトの液体が、アルカリ土類金属型ベントナイトの液体であり、
当該アルカリ土類金属型ベントナイトの液体の濃度が、5~60W/V%である、
請求項1に記載の遮水壁の構築方法。
【0008】
(請求項3に記載の手段)
前記地盤1m3当たりの前記アルカリ土類金属型ベントナイトの液体の供給量が50~200Lであり、
前記アルカリ土類金属型ベントナイトの粉体の供給量が、前記地盤1m3当たりに供給するベントナイトの総量が50~300kgとなる量である、
請求項2に記載の遮水壁の構築方法。
【0009】
(請求項4に記載の手段)
前記イオン交換剤が炭酸ナトリウムであり、
前記アルカリ土類金属型ベントナイト1kgに対する前記イオン交換剤の供給量が0.01~0.2kgである、
請求項2又は請求項3に記載の遮水壁の構築方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ベントナイトと地盤との混合性に問題がなく、かつ十分な強度を有する遮水壁を構築することができる遮水壁の構築方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】遮水壁の構築方法の手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0013】
図1に示すように、本形態の遮水壁の構築方法においては、まず、層間陽イオンである交換性陽イオンを有するベントナイトの液体BWを地盤Gに供給(注入)する(先行処理100)。次に、層間陽イオンとして多価の陽イオンであるアルカリ土類金属イオンを有するアルカリ土類金属型ベントナイトの粉体CP及びイオン交換剤の粉体IPを地盤Gに供給(投入)する(後行処理200)。
【0014】
そして、適宜の段階で地盤Gを攪拌してベントナイト等と地盤Gとを混合する。この混合は、液体BW若しくは粉体CP,IPを供給する過程(100,200)で、又はこの過程(100,200)に前後して行うことができる。具体的には、例えば、先行処理100及び後行処理200の後や、後行処理200の後のみ、先行処理100や後行処理200の途中(過程)において行うことができる。
【0015】
本形態においてベントナイトとは、モンモリロナイトを主成分とする粘土を意味する。また、層間陽イオンとは、モンモリロナイトの層間に存在するイオンを意味する。層間陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオンやリチウムイオン等の1価の陽イオンや、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価又は3価以上の陽イオンなどが存在する。以下では、各種ベントナイトについて、層間陽イオンとしてナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンが多く含まれる場合を「Na型ベントナイト」又は「アルカリ金属型ベントナイト」と言う。また、層間陽イオンとしてカルシウムイオンやマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンが多く含まれる場合を「Ca型ベントナイト」又は「アルカリ土類金属型ベントナイト」と言う。
【0016】
Na型ベントナイトは、膨潤性や、増粘性に優れる。したがって、遮水壁を構築するのに適する。しかしながら、Na型ベントナイトを泥水(液体)にする場合においては、高濃度化するのに困難を伴う。他方、Ca型ベントナイトは、膨潤性や、増粘性に劣る。したがって、遮水壁を構築するには不向きである。しかしながら、泥水(液体)にする場合においては、高濃度化するのが容易であるとの利点を有する。
【0017】
一方、モンモリロナイトの層間陽イオンは、他の陽イオンとイオン交換するのが容易であり、交換性陽イオンである。そこで、イオン交換剤を使用してNa型ベントナイトとCa型ベントナイトとの両特性を生かすのが本形態の特徴の1つである。したがって、本形態においてイオン交換剤とは、Ca型ベントナイトをNa型ベントナイトに改質(イオン交換)することができる薬剤を意味する。
【0018】
なお、Ca型ベントナイトをイオン交換(改質)して得たNa型ベントナイトは、改質Na型ベントナイト又は活性化Na型ベントナイトなどとも言われる。また、炭酸ナトリウムを使用してイオン交換した場合の反応式は、次のとおりである。
Be-Ca + Na2CO3 → Be-Na + CaCO3
【0019】
先行処理100においては、交換性陽イオンを有するベントナイトの液体BWを広く使用することができる。ただし、交換性陽イオンを有するベントナイトの液体BWとしては、Ca型ベントナイトの液体を使用するのが好ましい。前述したようにCa型ベントナイトは、高濃度とすることができ、地盤Gに対する水分の注入を減らすことができる。水分の注入を減らすと、排泥量が減り、また、遮水壁の強度が向上する。さらに、高濃度とすれば、ベントナイトの分散性が向上する。
【0020】
Ca型ベントナイトの液体を使用する場合、当該液体の濃度は、好ましくは1~80W/V%、より好ましくは3~70W/V%、特に好ましくは5~60W/V%である。濃度が1W/V%を下回ると、ベントナイトの液体BWの造壁性(例えば、地盤Gが崩れるのを防ぐ性能。)が不十分となるおそれがある。他方、濃度が80W/V%を上回るものとするには、作液に困難を伴うおそれがある。
【0021】
Ca型ベントナイトの液体の濃度は、スラリー(泥水)作液用水1m3当たりにおけるベントナイトの質量(kg)の割合(%)を意味する(外割)。したがって、例えば、5~60W/V%であれば、50~600kg/m3を意味する。
【0022】
後行処理200においては、Ca型ベントナイトの粉体CPを使用する。Ca型ベントナイトは、膨潤性や増粘性等に劣るが、たとえ粉体であっても地盤Gとの混合が容易である。これは、Ca型ベントナイトの粉体はNa型ベントナイトの粉体と比較して吸水膨潤性が小さいため、水に添加して混合しても継粉(ままこ)にならず、均一に分散されるためである。また、後行処理200において、Ca型ベントナイトを供給することで、先行処理100におけるベントナイトの供給を減らすことができる。さらに、粉体であると地盤Gに供給(注入)する水分が減るため、得られる遮水壁の強度が向上する。つまり、粉体であると、遮水壁を硬くすることができ、かつ、地盤Gに必要ベントナイト量を供給しつつも、排泥を少なくすることができるメリットがある。
【0023】
ただし、地盤Gに供給する水分を減らすという観点からは、先行処理100において高濃度のCa型ベントナイトの液体を使用するのが好ましく、Ca型ベントナイトを先行処理100及び後行処理200において以下の割合で使用するのがより好ましい。
【0024】
まず、先行処理100においては、地盤G(1m3)当たりのCa型ベントナイトの液体BW(濃度5~60W/V%)の注入量は、対象地盤の土質により異なるが、好ましくは10~400L、より好ましくは20~300L、特に好ましくは50~200Lである。
【0025】
他方、後行処理200においては、Ca型ベントナイトの粉体CPの投入量が、好ましくは地盤G(1m3)当たりに供給するベントナイトの総量(本実施の形態では、ベントナイトの液体BW及びベントナイトの粉体CPを合わせた量)が50~300kgとなる量である。
【0026】
なお、Na型ベントナイトの泥水は10%前後の濃度でポンプ送液限度になる場合もあるが、Ca型ベントナイトの泥水は50~60%の高濃度でも送液可能である。そこで、高濃度のCaベントナイトの泥水を使用すると、同じ注入量でもベントナイトを多く地盤Gに供給することができ、その分、その後のベントナイトの粉体の供給量を少なくすることができる。例えば、後述実施例から明らかであるように、地盤G中のベントナイト総量が100kgとなるように施工する場合、濃度(5%)の泥水100L注入後のCa型ベントナイト粉体の供給量は95kg(表1参照)であるのに対して、濃度(50%)の泥水100L注入後のCa型ベントナイト粉体の供給量は58kg(表2参照)となり、約40%の低減が可能になる。
【0027】
本形態において、イオン交換剤としては、Ca型ベントナイトをNa型ベントナイトに改質(イオン交換)することができる薬剤一般を使用することができる。具体的には、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、過炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、珪酸ナトリウム等からなるイオン交換剤や、リン酸系のイオン交換剤、シリカ系のイオン交換剤などの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンとカルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンとをイオン交換し、析出したアルカリ土類金属イオンを不溶化又はキレート化して沈降させるイオン交換剤を使用するのが好ましい。このようなイオン交換剤としては、例えば、硫酸系塩、リン酸系塩、ケイ酸系塩、エチレンジアミン塩、カルボン酸系塩等のイオン交換剤を使用するのが好ましく、炭酸ナトリウムを使用するのがより好ましい。
【0028】
イオン交換剤の投入量は、Ca型ベントナイト(1kg)に対して、好ましくは0.01~0.2kg、より好ましくは0.02~0.15kg、特に好ましくは0.03~0.1kgである。投入量が0.01kgを下回ると、Ca型ベントナイトを十分に改質することができないおそれがある。他方、投入量が0.2kgを上回ると、イオン交換剤の余剰となるおそれがある。
【0029】
イオン交換剤の粉体IPは、Ca型ベントナイトの粉体CPと別々に地盤Gに供給しても、混合したうえで地盤Gに供給してもよい。
【0030】
(その他)
本形態の工法は、例えば、特開2005-16295号公報に開示されるような「移動可能なベースマシンと地盤を溝掘削するカッターとを備えたチェーンカッター方式掘削装置」を用いて遮水壁を構築する場合(等厚式)や、特開2006-291703号公報に開示されるような「単軸又は多軸の掘削軸を備えた掘削装置」を用いて遮水壁を構築する場合(柱列式)、バケットが備わるバックホー用いて遮水壁を構築する場合などに適用することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例について説明する。
(試験1)
本試験においては、まず、砂(A)にベントナイト泥水を添加して混合した(第一混合)。ベントナイト泥水としては、低濃度(5%)のCa型ベントナイトの液体(泥水)又は活性化Ca型ベントナイトの液体(泥水)を使用した。次に、第一混合後の砂にCa型ベントナイトの粉体及びソーダ灰(炭酸ナトリウム)の粉体を添加して混合した(第二混合)。第一混合後及び第二混合後のテーブルフロー値、並びに透水係数を表1に示した。なお、透水係数に関しては、以下の基準が存在する。
環境現場条件:1×10-8m/sec以下
土木現場条件:1×10-6m/sec以下
【0032】
また、テーブルフロー値は、流動性の指標であり、掘削時に相当するのが第一混合時であり、造成時に相当するのが第二混合時である。例えば、造成時のテーブルフロー値が130以下であれば、ほぼ流動化せず、また規定のベントナイト量が添加された状態であれば、環境現場用としての遮水性に問題のない硬さになる。
【0033】
【0034】
(試験2)
本試験においては、まず、砂(A)にベントナイト泥水、更にソーダ灰を添加して混合した(第一混合)。ベントナイト泥水としては、高濃度(50%)のCa型ベントナイトの液体(泥水)を使用した。次に、第一混合後の砂に何も添加せず、又はCa型ベントナイトの粉体及びソーダ灰の粉体を添加して混合した(第二混合)。第一混合後及び第二混合後のテーブルフロー値、並びに透水係数を表2に示した。
【0035】
【0036】
表2から、ソーダ灰のみではなく、Ca型ベントナイトの粉体も添加する方が好ましいことが分かる。
【0037】
(試験3)
本試験においては、まず、砂(A)にベントナイト泥水、Ca型ベントナイトの粉体、及びソーダ灰の粉体を添加して混合した(第一混合)。ベントナイト泥水としては、Ca型ベントナイトの液体(泥水)を使用した。次に、第一混合後の砂にCa型ベントナイトの粉体及びソーダ灰の粉体を添加して混合した(第二混合)。第一混合後及び第二混合後のテーブルフロー値、並びに透水係数を表3に示した。さらに産地の異なるCa型ベントナイト(B)を使用して同様の試験を行った(試験例15及び試験例16)。
【0038】
【0039】
表3から、第一混合時に泥水と共にCa型ベントナイトの粉体を添加することにより、適度な流動性に調整することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、遮水壁の構築方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 先行処理
200 後行処理
BW ベントナイト泥水
CP Ca型ベントナイトの粉体
IP イオン交換剤の粉体
G 地盤