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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】高圧水供給ロッドのスライド案内機構
(51)【国際特許分類】
   E21B 10/60 20060101AFI20220824BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20220824BHJP
   F42D 3/04 20060101ALI20220824BHJP
   F42D 1/08 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
E21B10/60
E21D9/00 C
F42D3/04
F42D1/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018244766
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105777
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・平成30年度土木学会全国大会予稿集DVD版 (平成30年8月1日発行 公益社団法人土木学会発行) ・平成30年度土木学会全国大会、第73回年次学術講演会(平成30年8月29日~31日、北海道大学札幌キャンパスにて開催) ・奥村組技術研究年報 No.44 (平成30年9月1日 株式会社奥村組発行)
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今泉 和俊
(72)【発明者】
【氏名】浜田 元
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-090600(JP,A)
【文献】特開昭56-052287(JP,A)
【文献】特開平06-257380(JP,A)
【文献】特開平01-155200(JP,A)
【文献】特開昭62-182389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 10/60
E21D 9/00
F42D 3/04
F42D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネル工法において、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿って間隔をおいて穿孔形成された複数の装薬孔の内周面に、発破時に前記掘削計画線に沿った亀裂が生じるように誘導する切欠きノッチをウォータージェットによって形成する際に、先端部にノズルヘッドを備える高圧水供給ロッドを、ノズルヘッドからウォータージェットを前記掘削計画線に沿った所定の方向に噴射させながら、装薬孔の軸方向にスライド移動させるように案内する高圧水供給ロッドのスライド案内機構であって、
トンネル工事用の重機に支持されることにより切羽面と対向させて上下左右に移動可能な作業台に取り付けられた、案内機構本体部を含んで構成されており、前記高圧水供給ロッドは、前記案内機構本体部と摺動可能に接触する部分であるスライド領域の外周部分に、非円形の角形断面の摺動面を備えており、
前記案内機構本体部は、前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域の角形断面の摺動面を摺動させる被摺動面を有する、切欠き凹部又は貫通孔を備えると共に、前記高圧水供給ロッドの中心軸を回転軸に合致させた状態で、前記スライド領域が前記切欠き凹部又は前記貫通孔にスライド可能に挿通される回転体と、前記回転軸を中心に前記回転体を回動させると共に、所定の回動角度で前記回転体を固定可能な回動調整手段とを含んで構成されている高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項2】
前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域は、非円形の角形断面として矩形断面の摺動面を備えており、前記回転体の切欠き凹部又は貫通孔は、前記スライド領域の矩形断面の摺動面を摺動させる被摺動面を備えている請求項1記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項3】
前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域は、円形断面の外周面に、非円形の角形断面の摺動面を形成する摺動外殻体が一体として装着固定されていることより、外周部分に、非円形の角形断面の摺動面を形成している請求項1又は2記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項4】
前記摺動外殻体は、内側面に円形断面の前記高圧水供給ロッドの外周面に沿った形状の湾曲凹部を備える一対のプレート部材からなり、該一対のプレート部材を平行に配置して前記スライド領域を挟み込んだ状態で、該一対のプレート部材を一体として連結することで、前記スライド領域の外周部分に、非円形の角形断面の摺動面を形成している請求項3記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項5】
前記切欠き凹部を備える前記回転体は、前記切欠き凹部の幅と同様の幅の開口面部を外周面に開口させており、前記スライド領域は、前記開口面部を介して前記回転体に装着されて、前記高圧水供給ロッドの中心軸を前記回転体の回転軸に合致させて、前記切欠き凹部に、スライド可能に挿通されている請求項1~4のいずれか1項記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項6】
前記開口面部を幅方向に横断して、抜止め部材が、前記切欠き凹部に挿通された前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域の外側に取り付けられている請求項5記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項7】
前記回動調整手段は、前記回転体の回転軸と垂直な横方向に配置された回転可能な回転操作軸と、該回転操作軸に設けられたウォームと、前記回転体に設けられて前記ウォームに噛合するウォームホイールとを含んで構成されている請求項1~6の何れか1項記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項8】
前記回動調整手段及び前記回転体を、一体として前記回転体の回転軸と垂直な横方向に移動させる横方向移動手段と、該横方向移動手段を上下方向に移動させる上下方向移動手段と、前記横方向移動手段を上下方向回転軸を中心とした周方向に回転させる横方向回転手段とを含んで構成されている請求項1~7の何れか1項記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項9】
前記横方向移動手段は、前記回転体の回転軸と垂直な横方向に配置された回転可能な操作ネジ軸と、該操作ネジ軸に進退可能に螺合して前記回転体及び前記回動調整手段と共に横方向に移動可能なナット部材とを含んで構成されている請求項8記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項10】
前記上下方向移動手段及び前記横方向回転手段は、前記回転体、前記回動調整手段、及び前記横方向移動手段を支持するポール部材と、前記トンネル工事用の重機の前記作業台に固定された、前記ポール部材を上下方向移動及び横方向回転可能に支持する支柱部材とを含んで構成されている請求項8記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【請求項11】
前記上下方向移動手段及び前記横方向回転手段は、前記支柱部材に、前記ポール部材の上下方向移動と横方向回転をロックするロック機構を備えている請求項10記載の高圧水供給ロッドのスライド案内機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水供給ロッドのスライド案内機構に関し、特に、山岳トンネル工法において、切羽面に穿孔形成された装薬孔の内周面にウォータージェットにより切欠きノッチを形成する際に、高圧水供給ロッドのスライド移動を案内する高圧水供給ロッドのスライド案内機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネル工法においては、トンネルの切羽面の掘削は、爆薬を用いた発破工法によって岩盤等を破砕することによって行われる。この発破工法では、余堀を減らすと共に、発破掘削の対象となる切羽面の周囲の地盤を損傷しないようにする必要があり、そのための工法として、例えばスムースブラスティング工法(例えば、特許文献1参照)や、プレスプリッティング工法等が知られている。スムースブラスティング工法は、芯抜き発破によって掘削領域の中央部分に自由面を形成してから、払い発破によって自由面を順次周囲に拡大した後に、最後に最外周部分の地盤面を発破掘削する際に、切羽面の最外周部である周縁部の掘削計画線に沿って、複数の装薬孔を通常よりも密に配置して形成し、これらの装着孔に装填された、より少ない量の爆薬を爆発させることによって、岩盤等に作用する衝撃や圧力を緩和しつつ、爆発による岩盤等の圧縮破壊を抑制して、周囲の岩盤等を傷めないようにしながら掘削する工法である。プレスプリッティング工法は、最初に、掘削領域の周縁部の掘削計画線に沿って配置された複数の装薬孔を発破させて、周縁部に沿って亀裂を生じさせることにより周囲の地盤から掘削領域を隔離した後に、周縁部の内側の掘削領域の全体を、通常の発破工法と同様の方法によって、装薬孔を順次発破させながら発破掘削してゆく工法である。
【0003】
また、スムースブラスティング工法やプレスプリッティング工法等の発破工法では、発破時に、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿うように亀裂を精度良く生じさせて、さらに効率良く切羽面の掘削を行うことができるように、装薬孔の内周面に、溝状の切欠きノッチを、例えば高圧水(ウォータージェット)を使用して、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿った方向に切り込んだ状態で形成しておくことが好ましい(例えば、特許文献2参照)。装薬孔の内周面に溝状の切欠きノッチを形成する従来の方法では、切欠きノッチを形成するための装置は、超高圧水ポンプ、超高圧水ホース、ランス(高圧水供給ロッド)、噴射ノズル等を含んで構成されており、噴射ノズルは、ランスの先端部分に取り付けられたノズルヘッドに設けられている。噴射ノズルは、径方向に対称な2方向に、同時にウォータージェットを噴射できるように設けられている。
【0004】
装薬孔の内周面に溝状の切欠きノッチを形成するには、噴射ノズルから径方向に対称な2方向に向けて噴射するウォータージェットの噴射方向を、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿わせると共に、その方向を保持した状態で、装薬孔の内部において、好ましくはノズルヘッドをランスと共に装薬孔の先端部分から引き抜きながら、装薬孔の軸方向に移動させる必要がある。また、噴射ノズルは、径方向に対称な2方向にウォータージェットを噴射するようにノズルヘッドに設けられているが、噴射ノズルやノズルヘッドの製造精度等を要因として、ウォータージェットを2方向に同時に噴射すると、ノズルヘッドがランスと共に回転してしまうことがある。噴射ノズルやノズルヘッドの製造精度等には限界があるため、2方向に同時にウォータージェットを噴射しても、常にノズルヘッドやランスが回転しないようにすることは困難である。
【0005】
装薬孔の内周面に、溝状の切欠きノッチをウォータージェットによって形成する際に、ノズルヘッドが回転すると、噴射ノズルからウォータージェットを、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿った方向に噴射させることができなくなって、掘削計画線の方向に切欠きノッチを切り込ませて形成することは困難になる。ウォータージェットの噴射に伴ってノズルヘッドがランスと共に回転する際の回転力は、相当程度の大きさになるので、人力によって回転を阻止することは難しい。このようなことから、ノズルヘッドがランスと共に回転するのを防止する対策として、従来の技術では、スライド機構を備える専用の装置にランスを固定して、ノズルヘッドの回転を防止しながら、スライド機構によって装薬孔の内部でノズルヘッドをランスと共に軸方向に移動させることにより、掘削計画線の方向に切り込ませた状態で、切欠きノッチを形成できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-168374号公報
【文献】特開昭59-31393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
装薬孔の内周面に、溝状の切欠きノッチをウォータージェットによって形成する作業は、油圧削岩機(ドリルジャンボ)等のトンネル工事用の重機に支持されて、切羽面と対向させて上下左右に移動可能に取り付けられた作業台(マンケージ)に、ランスをスライドさせるスライド機構を備える専用の装置を搭載すると共に、マンケージの上で作業員が専用の装置を操作することになるが、スライド機構を備える専用の装置は、大がかりで重量があるため、マンケージへの取付け作業や装薬孔に向けて位置合わせする作業に多くの手間がかかると共に、製作コストも高くなる。また、スライド機構を備える専用の装置は、装薬孔やランスの長さが長くなると、それに合わせて装置自体の長さも長くする必要があり、特に、近年、掘削作業の効率化を図るために、発破掘削の施工スパンを長くする傾向にあることから、装薬孔の長さによっては、専用の装置がマンケージに搭載できない大きさや重さとなってしまうこともある。
【0008】
さらに、噴射ノズルからウォータージェットを噴射するのに先立って、装薬孔の穿孔位置や方向に合わせながら、ノズルヘッドをランスと共に装薬孔の先端部分まで挿入する操作は、スライド機構を備える専用の装置の位置や姿勢を、マンケージの位置や姿勢を調整しながら行なうことになるが、マンケージを介した操作では、専用の装置の位置や姿勢を微調整することは困難である。また噴射ノズルからウォータージェットを噴射させながら、挿入したノズルヘッドをランスと共に装薬孔の先端部分から引き抜く際に、ノズルヘッドの回転を防止できるようにするために、噴射ノズルの方向を切羽面の周縁部の掘削計画線の方向に合わせた状態で、ランスを専用の装置に固定する作業にも、多くの手間を要することになる。
【0009】
本発明は、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿って配置された装薬孔の内周面に、溝状の切欠きノッチをウォータージェットによって形成する際に、トンネル工事用の重機に支持された作業台での作業により、多くの手間を要することなく、簡易な構成によって、ノズルヘッドが回転するのを防止しながら高圧水供給ロッドを引き抜くことを可能にして、ウォータージェットの噴射方向を安定させることで、切欠きノッチを、切羽面の周縁部の掘削計画線の方向に切り込ませた状態で、精度良く形成することのできる高圧水供給ロッドのスライド案内機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、山岳トンネル工法において、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿って間隔をおいて穿孔形成された複数の装薬孔の内周面に、発破時に前記掘削計画線に沿った亀裂が生じるように誘導する切欠きノッチをウォータージェットによって形成する際に、先端部にノズルヘッドを備える高圧水供給ロッドを、ノズルヘッドからウォータージェットを前記掘削計画線に沿った所定の方向に噴射させながら、装薬孔の軸方向にスライド移動させるように案内する高圧水供給ロッドのスライド案内機構であって、トンネル工事用の重機に支持されることにより切羽面と対向させて上下左右に移動可能な作業台に取り付けられた、案内機構本体部を含んで構成されており、前記高圧水供給ロッドは、前記案内機構本体部と摺動可能に接触する部分であるスライド領域の外周部分に、非円形の角形断面の摺動面を備えており、前記案内機構本体部は、前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域の角形断面の摺動面を摺動させる被摺動面を有する、切欠き凹部又は貫通孔を備えると共に、前記高圧水供給ロッドの中心軸を回転軸に合致させた状態で、前記スライド領域が前記切欠き凹部又は前記貫通孔にスライド可能に挿通される回転体と、前記回転軸を中心に前記回転体を回動させると共に、所定の回動角度で前記回転体を固定可能な回動調整手段とを含んで構成されている高圧水供給ロッドのスライド案内機構を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0011】
そして、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域が、非円形の角形断面として矩形断面の摺動面を備えており、前記回転体の切欠き凹部又は貫通孔は、前記スライド領域の矩形断面の摺動面を摺動させる被摺動面を備えていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域が、円形断面の外周面に、非円形の角形断面の摺動面を形成する摺動外殻体が一体として装着固定されていることより、外周部分に、非円形の角形断面の摺動面を形成していることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記摺動外殻体が、内側面に円形断面の前記高圧水供給ロッドの外周面に沿った形状の湾曲凹部を備える一対のプレート部材からなり、該一対のプレート部材を平行に配置して前記スライド領域を挟み込んだ状態で、該一対のプレート部材を一体として連結することで、前記スライド領域の外周部分に、非円形の角形断面の摺動面を形成していることが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記切欠き凹部を備える前記回転体が、前記切欠き凹部の幅と同様の幅の開口面部を外周面に開口させており、前記スライド領域は、前記開口面部を介して前記回転体に装着されて、前記高圧水供給ロッドの中心軸を前記回転体の回転軸に合致させて、前記切欠き凹部に、スライド可能に挿通されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記開口面部を幅方向に横断して、抜止め部材が、前記切欠き凹部に挿通された前記高圧水供給ロッドの前記スライド領域の外側に取り付けられていることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記回動調整手段が、前記回転体の回転軸と垂直な横方向に配置された回転可能な回転操作軸と、該回転操作軸に設けられたウォームと、前記回転体に設けられて前記ウォームに噛合するウォームホイールとを含んで構成されていることが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記回動調整手段及び前記回転体を、一体として前記回転体の回転軸と垂直な横方向に移動させる横方向移動手段と、該横方向移動手段を上下方向に移動させる上下方向移動手段と、前記横方向移動手段を上下方向回転軸を中心とした周方向に回転させる横方向回転手段とを含んで構成されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記横方向移動手段が、前記回転体の回転軸と垂直な横方向に配置された回転可能な操作ネジ軸と、該操作ネジ軸に進退可能に螺合して前記回転体及び前記回動調整手段と共に横方向に移動可能なナット部材とを含んで構成されていることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記上下方向移動手段及び前記横方向回転手段が、前記回転体、前記回動調整手段、及び前記横方向移動手段を支持するポール部材と、前記トンネル工事用の重機の前記作業台に固定された、前記ポール部材を上下方向移動及び横方向回転可能に支持する支柱部材とを含んで構成されていることが好ましい。
【0020】
さらにまた、本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構は、前記上下方向移動手段及び前記横方向回転手段が、前記支柱部材に、前記ポール部材の上下方向移動と横方向回転をロックするロック機構を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の高圧水供給ロッドのスライド案内機構によれば、切羽面の周縁部の掘削計画線に沿って配置された装薬孔の内周面に、溝状の切欠きノッチをウォータージェットによって形成する際に、トンネル工事用の重機に支持された作業台での作業により、多くの手間を要することなく、簡易な構成によって、ノズルヘッドが回転するのを防止しながら高圧水供給ロッドを引き抜くことを可能にして、ウォータージェットの噴射方向を安定させることで、切欠きノッチを、切羽面の周縁部の掘削計画線の方向に切り込ませた状態で、精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】発破掘削工法によって掘削される切羽面に穿孔された複数の装薬孔の配置を示すトンネル切羽面の正面図である。
図2図1のA部拡大詳細図である。
図3図2のB-B線拡大断面図である。
図4】本発明に係る高圧水供給ロッドのスライド案内機構を説明する部分破断正面図である。
図5図4のC-C線拡大断面図である。
図6図4のD-D線拡大断面図である。
図7図5のE-E線拡大断面図である。
図8】高圧水供給ロッドの平面図である。
図9図8のF-F線拡大断面図である。
図10図8のF-F線拡大断面図である。
図11】本発明に係る高圧水供給ロッドのスライド案内機構を用いて、装薬孔の内周面に切欠きノッチを形成する作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい一実施形態に係る高圧水供給ロッドのスライド案内機構1(図4参照)は、山岳トンネル工法において、例えばプレスプリッティングによって岩盤等による切羽面51の地盤を発破掘削してゆく際に、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って配置された複数の装薬孔60a(図1参照)の発破によって、掘削計画線50aに沿った亀裂が生じるように誘導する溝状の切欠きノッチ61(図2参照)を、ウォータージェットを用いて、各々の装薬孔60aの内周面に精度良く形成できるようにするための機構として採用されたものである。すなわち、プレスプリッティング工法では、最初に、掘削領域である切羽面51の周縁部に沿って配置された複数の装薬孔60aを発破させて、周縁部の掘削計画線50aに沿って亀裂を生じさせることにより周囲の地盤から掘削領域を隔離するようになっており、周縁部の掘削計画線50aに沿って亀裂を生じ易くするために、好ましくは装薬孔60aの内周面に、所定の方向に亀裂が生じるように誘導する溝状の切欠きノッチ61を、周縁部の掘削計画線50aに沿った方向に切り込ませた状態で形成しておくようになっている。
【0024】
装薬孔50aの内周面に溝状の切欠きノッチ61を形成する作業は、例えば図11に示すように、トンネル工事用の重機として、例えばドリルジャンボのブーム80によって支持されることにより切羽面51と対向させて上下左右に移動可能な作業台であるマンケージ81での作業によって、先端部にノズルヘッド3が取り付けられた高圧水供給ロッドであるランス2を、ノズルヘッド3が装薬孔60aの先端部分に至るまで装薬孔60aに挿入した状態から、ノズルヘッド3の噴射ノズル(噴射口)3cからウォータージェットを径方向に対称な2方向に同時に噴射させつつ、ノズルヘッド3をランス2と共に引き抜きながら移動させることによって行なわれる。装薬孔60aの内部でウォータージェットをノズルヘッド3から径方向に対称な2方向に同時に噴射させると、噴射ノズル 3cやノズルヘッド3の製造精度等を要因として、ノズルヘッド3がランス2と共に回転してしまうことがあるが、本実施形態では、高圧水供給ロッドのスライド案内機構1を備えることにより、簡易な構成によって、ノズルヘッド3が回転するのを防止しながら高圧水供給ロッド2を引き抜くことを可能にして、ウォータージェットの噴射方向を安定させることで、切欠きノッチ61を、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aの方向に切り込ませた状態で、精度良く形成することができるようになっている。
【0025】
[発破掘削工法]
先ず、山岳トンネル工法におけるプレスプリッティングによる発破掘削工法を図1図3に基づいて以下に説明する。
【0026】
プレスプリッティングによる発破掘削工法においては、トンネル50の掘削領域となる切羽面51は、主に岩盤等の硬い地盤52によって形成されており、この切羽面51には、図1に示すように、円孔状の多数の装薬孔60a,60b,…,60jが形成されている。そして、これらの装薬孔60a,60b,…,60jには、図3に示すように、爆薬71,72がそれぞれ装填されており、これらの爆薬71,72は、同時に、又はデシセコンド(DS)~ミリセコンド(MS)程度の予め設定された所定の時間差及び所定の順序で連続して爆発される。
【0027】
そして、発破掘削工法においては、特にトンネル50の切羽面51の周縁部に、掘削計画線50aに沿って凹凸の少ない平滑な円弧形状の掘削断面が得られるように、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って配置された装薬孔60aを穿孔して発破させるが、各装薬孔60aの内周面の径方向に相対向する2箇所には、図2に示すように、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿った亀裂を誘発するための溝状の切欠きノッチ61が、当該装薬孔60aの長手方向(図2の紙面垂直方向)に連続してそれぞれ形成される。
【0028】
また、図1に示すトンネル50の切羽面51には、周縁部の掘削計画線50aに沿って所定の間隔をおいて穿孔形成された第0段の複数(図示例では、19個)の装薬孔60aの内側の領域には、丸数字で示す第1段~第9段の複数の装薬孔60b,60c,…,60jが所定の位置にそれぞれ穿孔形成されている。
【0029】
プレスプリッティングによる発破掘削工法においては、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って配置された複数の第0段の装薬孔60aにそれぞれ装填された爆薬71,72(図3参照)が爆発すると、各装薬孔60aの内周面の相対向する2箇所にそれぞれ形成された切欠きノッチ61(図2参照)に沿って亀裂が発生する。つまり、切欠きノッチ61は、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って亀裂が発するように誘導する機能を果たす。そして、その後に第1段~第9段の各段の装薬孔60b,60c,…,60jが、DS雷管やMS雷管を用いて芯抜き発破や払い発破を含む公知の発破パターンで順次発破されることによって、切羽面51の周縁部の内側の領域が効率良く掘削される。
【0030】
ところで、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って配置された複数の装薬孔60aは、例えばφ45mm程度の孔径の円孔であって、例えば、ドリルジャンボを用いて切羽面51の周縁部に沿った位置に周方向に適当な間隔をおいて穿孔形成される。ここで、装薬孔60aは、好ましくは1.0~3.0m程度の穿孔深さLとなるように形成されるとともに、切羽面51の周縁部に沿って600mm~900mm(本実施の形態では、700mm程度)の中心間ピッチPとなるように、周方向に所定の間隔をおいて複数配置されている。尚、各装薬孔60aは、トンネル50の断面をその設計断面の大きさに保つことができるように、所謂ルックアウト(差し角)を備えるように外向きに角度を与えた状態で穿孔することが望ましい(図11参照)。
【0031】
[高圧水供給ロッドのスライド案内機構]
次に、本実施形態の高圧水供給ロッドのスライド案内機構1を、図4図10に基づいて以下に説明する。図4及び図5に示す高圧水供給ロッドのスライド案内機構1は、図8に示す高圧水供給ロッド(ランス)2のスライド移動を案内するための機構である。ここで、高圧水供給ロッド2は、図1に示すトンネル50の切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って所定の間隔をおいて穿孔形成された、複数の装薬孔60aの各内周面の径方向に相対向する2箇所に向けて噴射される、高圧水(ウォータージェット)を供給するためのものである。
【0032】
図8に示す高圧水供給ロッド2は、円形断面(図9参照)を有する丸棒の軸中心部に円孔状の高圧水供給路2a(図9参照)が長手方向(図8の上下方向)に沿って形成されたパイプ状部材であって、その先端にはノズルヘッド3が取り付けられている。そして、このノズルヘッド3の軸中心部には、高圧水供給ロッド2に形成された高圧水供給路2aに連通する円孔3aと、該円孔3aの端部から直角方向(図8の左右方向)に貫通する円孔3bが形成されており、円孔3bはノズルヘッド3の外周面の径方向に相対向する2箇所(方向が180°異なる2箇所)に噴射口(噴射ノズル)3cとして開口している(図10参照)。尚、高圧水供給ヘッド2の軸中心に形成された高圧水供給路2aは、超高圧水ホース82を介して超高圧水ポンプ83に接続されている(図11参照)。
【0033】
ところで、図4及び図5に示す高圧水供給ロッドのスライド案内機構1は、トンネル工事用の重機として、例えばドリルジャンボのブーム80によって支持されることにより切羽面51と対向させて上下左右に移動可能な作業台であるマンケージ71(図11参照)に取り付けられた、案内機構本体部5を含んで構成されており、高圧水供給ロッド2は、案内機構本体部5と摺動可能に接触する部分であるスライド領域2bの外周部分に、非円形の角形断面の摺動面2cを備えている(図8参照)。
【0034】
[高圧水供給ロッドのスライド領域]
本実施形態では、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bは、図8及び図9に示すように、非円形の角形断面として、好ましくは矩形断面の摺動面2cを備えている。また高圧水供給ロッド2のスライド領域2bは、円形断面の外周面に、摺動外殻体4が一体として装着固定されていることより、外周部分に、非円形の好ましくは矩形断面の摺動面2cを形成している。摺動外殻体4は、非円形の角形(矩形)断面の摺動面2cを形成可能な矩形状の断面形状を備えており、内側面に円形断面の高圧水供給ロッド2の外周面に沿った円弧状の湾曲凹部6aが形成された一対のプレート部材6によって構成されている。そして、これら一対のプレート部材6は、図8及び図9に示すように、高圧水供給ロッド2を両側から挟み込んだ状態で互いに平行に配置されており、両者は、長手方向に適当な間隔をおいた複数箇所(図示例では、4箇所)の上下(図9における上下)がボルト7とナット8によって一体的に連結されることによって矩形断面形状を有している。ここで、各ボルト7は、図9に示すように、左右のプレート部材6の高圧水供給ロッド2を挟んだ上下に貫通しており、その端部のネジ部に螺合するナット8を締め付けることによって、一対のプレート部材6が、これらの間に高圧水供給ロッド2を挟み込んだ状態で互いに連結される。
【0035】
[案内機構本体部]
本実施形態では、案内機構本体部5は、図4及び図5に示すように、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bの角形断面(矩形断面)の摺動面2cを摺動させる被摺動面9cを有する切欠き凹部9aを備えると共に、中心軸を回転軸C1に合致させた状態で、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bが切欠き凹部9aにスライド可能に挿通される回転体9と、回転軸C1を中心に回転体9を回動させると共に、所定の回動角度で回転体9を固定可能な回動調整手段20とを含んで構成されている。回転体9の切欠き凹部9aは、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bの好ましくは矩形断面の摺動面2cを摺動させる被摺動面9cを備えている。
【0036】
また、本実施形態では、案内機構本体部5は、回動調整手段20及び回転体9を横方向(図4の左右方向)に移動させる横方向移動手段30と、横方向移動手段30、回転体9、及び回動調整手段20を一体として上下方向に移動させる上下方向移動手段40Aと、横方向移動手段30、回転体9及び回動調整手段20を上下方向回転軸C3を中心として周方向(水平方向)に一体として回転させる横方向回転手段40Bとを含んで構成されている。尚、以下の説明においては、高圧水供給ロッド2の切羽面51(図1参照)に向けた進退方向(図4の紙面垂直方向、図5の左右方向)を「前後方向」、この前後方向に垂直な方向(図4の左右方向、図5の紙面垂直方向)を「横方向」と称する。
【0037】
<回転体>
回転体9は、回転可能なウォームホイール9Aと、該ウォームホイール9Aに一体として取り付けられた切欠円筒体9Bによって構成されており、これらのウォームホイール9Aと切欠円筒体9Bは、水平なベース10上に立設された箱状の矩形枠体11に、前後方向(図5の左右方向)に沿う回転軸C1(図5参照)を中心として回転可能に支持されている。具体的には、回転体9は、矩形枠体11に取り付けられた複数の軸受12(図4参照)によって矩形枠体11に回転可能に支持されている。
【0038】
ここで、回転体9を構成する切欠円筒体9Bの軸中心部には、図4及び図7に示すように、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bの角形断面(矩形断面)の摺動面2cに沿った形状(矩形状)の被摺動面9cを内側に有する切欠き凹部9aが、前後方向(図4の紙面垂直方向)に沿って貫設されている。そして、この切欠き凹部9aが貫設された切欠円筒体9B及びウォームホイール9Aからなる回転体9の外周上部には、切欠き凹部9aの幅と同等の幅を有する開口面部9a1が外周面に開口させて形成されている。高圧水供給ロッド2の摺動外殻体4によるスライド領域2bは、この開口面部9a1を介して、例えば作業員の手作業によって、回転体9の内部の切欠き凹部9aに上方から嵌め込まれるようにして、前後方向に摺動可能に装着される(図4参照)。従って、摺動外殻体4によるスライド領域2bを備える高圧水供給ロッド2は、回転体9の回転軸(軸心)C1に高圧水供給ロッド2の中心軸を合致させた状態で、回転体9の切欠き凹部9aに、前後方向(図4の紙面垂直方向)に沿ってスライド可能に容易に挿通することが可能になる。尚、図4及び図5に示すように、回転体9の切欠円筒体9Bにおける、矩形枠体11の外側に突出する部分の軸方向一端面(図5の右端面)には、当該回転体9の回転方向や回転角度を識別するための指針13が取り付けられている。
【0039】
ところで、上述のようにして、高圧水供給ロッド2に装着された摺動外殻体4によるスライド領域2bを、回転体9の切欠き凹部9aに上方から嵌め込むようにして挿通したら、回転体9の切欠円筒体9Bにおける矩形枠体11の外側に突出する部分において、図5及び図7に示すように、開口面部9a1を幅方向に横断して、抜止め部材14を、切欠き凹部9aに挿通されたスライド領域2bの外側に取り付けることが好ましい。具体的には、図7に示すように、回転体9の切欠円筒体9Bを左右から挟持するプレート状の一対の固定部材15には、固定ネジ16がそれぞれ螺合しており、抜け止め部材14は、左右の固定ネジ16を締め付けることによって、一対の固定部材15に着脱可能に取り付けることができる。これによって、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bを、回転体9の切欠き凹部9aに挿通した状態で、ノズルヘッド3が装薬孔60aの先端部分に至るまで高圧水供給ロッド2を装薬孔60aに挿入した後に、ノズルヘッド3の噴射ノズル(噴射口)3cから径方向に対称な2方向に同時にウォータージェットを噴射させつつ、ノズルヘッド3を高圧水供給ロッド2と共に引き抜くようにしながらスライド移動させることによって、装薬孔60aの内周面に溝状の切欠きノッチ61を形成する作業を行う際に、切欠き凹部9aに挿通されたスライド領域2bが、切欠き凹部9aから抜け出て脱落するのを回避して、安定した状態で、切欠きノッチ61を形成する作業を行えるようにすることが可能になる。
【0040】
なお、本実施形態では、回転体9に切欠き凹部9aを形成し、この切欠き凹部9aに、高圧水供給ロッド2の摺動外殻体4によるスライド領域2bをスライド可能に装着する構成を採用したが、切欠き凹部9aに代えて断面矩形の貫通孔を回筒体9に貫設し、この貫通孔に高圧水供給ロッド2のスライド領域2bをスライド可能に挿通させる構成を採用しても良い。この場合、図7に示す抜け止め部材14は、不要となる。
【0041】
<回動調整手段>
回動調整手段20は、回転体9をその回転軸(軸心)C1を中心に回転させることにより、スライド領域2bを介して回転体9に挿通支持された高圧水供給ロッド2を回転させ、高圧水供給ロッド2の先端に取り付けられたノズルヘッド3に開口する2つの噴射口3c(図10参照)の角度、つまり、各噴射口3cからそれぞれ噴射する高圧水(ウォータージェット)の噴射角度を微調整すると共に、所定の回動角度で回転体9を固定することが可能な機能を備えており、以下のように構成されている。
【0042】
即ち、回動調整手段20は、図4及び図5に示すように、回転体9の回転軸C1と垂直な横方向に配置された回転可能な回転操作軸21と、該回転操作軸21に設けられたウォーム22と、回転体9に設けられてウォーム22に噛合するウォームホイール9Aとを含んで構成されている。ここで、回転操作軸21は、その軸方向両端部(図4の左右両端部)が矩形枠体11及び該矩形枠体11の外面に取り付けられた円筒スリーブ状のケース23に、複数の軸受(ボールベアリング)24によって回転可能に支持されており、ケース23から延びる軸方向の一端(図4の左端)には、当該回転操作軸21を手動で回転させるためのハンドル25が取り付けられている。また、ケース23の上部には、ネジ部材26が螺合しており、このネジ部材26を回すことによって、該ネジ部材26の先端が回転操作軸21に押圧されて該回転操作軸21の回転がロックされるため、ネジ部材26は、回転操作軸21の回転を所定の回転角度でロック(固定)することが可能なロック手段を構成している。
【0043】
以上のように構成された回動調整手段20において、作業員がハンドル25を操作して回転操作軸21を回転軸(軸心)C2(図4参照)を中心として回転させると、この回転操作軸21の回転は、互いに噛合するウォーム22とウォームホイール9Aを介して回転方向が90°変えられて回転体9へと伝達されるため、該回転体9が前後方向(図4の紙面垂直方向)に延びる回転軸(軸心)C1を中心として回転する。このため、摺動外郭体4によるスライド領域2bを介して回転体9の切欠き凹部9aに挿通支持された高圧水供給ロッド2と、その先端に取り付けられたノズルヘッド3とが、回転筒体9と一体に回転し、ノズルヘッド3の径方向に相対向する2箇所に開口する噴射口3c(図10参照)の角度位置が微調整される。このため、各噴射口3cからそれぞれ噴射される高圧水(ウォータージェット)の噴射方向が微調整される。このようにしてノズルヘッド3の噴射口3cの角度位置を微調整したら、ネジ部材26を締め付けて回転操作軸21の回転をロックすることにより、微調整された噴射口3cの角度位置を変化させないように所定の角度に固定することが可能になる。
【0044】
<横方向移動手段>
横方向移動手段30は、回動調整手段20及び回転体9を一体として、回転体9の回転軸C1と垂直な横方向に移動させるものであって、以下のように構成されている。
【0045】
即ち、横方向移動手段30は、横方向(図4の左右方向)に配置された回転可能な操作ネジ軸31と、該操作ネジ軸31に進退可能に螺合して回転体9及び回動調整手段20と共に横方向に移動可能なナット部材32とを含んで構成されている。ここで、操作ネジ軸31は、その左右の両端部が、水平に設置された横方向に細長いプレート状のベース33上に立設された軸受ブロック34(図4には一方のみ図示)に軸受(ボールベアリング)34aによって回転可能に支持されている。そして、操作ネジ軸31の一方の軸受ブロック34から外方へ延びる軸方向一端(図4の右端)には、当該操作ネジ軸31を手動で回転させるためのハンドル35が取り付けられている。また、軸受ブロック34の上部には、ネジ部材36が螺合しており、このネジ部材36を回すことによって、該ネジ部材36の先端が操作ネジ軸31に押圧されて該操作ネジ軸31の回転がロックされるため、ネジ部材36は、操作ネジ軸31の回転をロックするロック手段を構成している。
【0046】
また、ベース33上の横方向両端には、前後(図4の紙面垂直方向)2つの計4つの軸受ブロック37(図4には1つのみ図示)が立設されており、横方向に相対向する一対の軸受ブロック37間には、丸棒状のガイドバー38が水平に架設されている。
【0047】
ところで、ナット部材32は、回転体9及び回動調整手段20を支持するベース10の下面に取り付けられており、このナット部材32には、前述のように操作ネジ軸31が螺合挿通されている。又、ベース10の下面の4箇所(図4及び図5には2箇所のみ図示)には、ガイドブロック39がそれぞれ取り付けられており、これらのガイドブロック39には、ガイドバー38がそれぞれ挿通されている。従って、ベース10上に支持された回転体9と回動調整手段20は、前後2本のガイドバー38に案内されて、横方向に移動することができる。
【0048】
以上のように構成された横方向移動手段30において、作業者がハンドル35を操作して操作ネジ軸31を回転させると、この操作ネジ軸31に螺合するナット部材32が、ベース10及び該ベース10に支持された回転体9及び回動調整手段20と共に、前後2本のガイドバー38に沿って横方向に移動する。従って、回転体9に摺動外郭体4を介して挿通支持された高圧水供給ロッド2も回転体9と共に一体に横方向に移動し、高圧水供給ロッド2の先端に取り付けられたノズルヘッド3(噴射口3c)の横方向の位置が調整される。このようにしてノズルヘッド3(噴射口3c)の横方向の位置が調整されると、ネジ部材36が締め付けられて操作ネジ軸31の回転がロックされるため、調整されたノズルヘッド3(噴射口3c)の横方向の位置が固定されて変化することがない。
【0049】
<上下方向移動手段及び横方向回転手段>
上下方向移動手段40Aは、回転体9及び回動調整手段20を横方向移動手段30と共に上下方向に一体として移動させるものであり、横方向回転手段40Bは、回転体9及び回動調整手段20を横移動手段30と共に上下方向回転軸C3を中心として周方向に一体として回転させるものであって、これらは以下のように構成されている。
【0050】
即ち、上下方向移動手段40Aと横方向回転手段40Bは、図4及び図5に示すように、回転体9、回動調整手段20及び横方向移動手段30を支持する垂直なポール41と、トンネル工事用の重機であるドリルジャンボのブーム80によって支持されることにより切羽面51と対向させて上下左右に移動可能な作業台(マンケージ)81(図11参照)の手摺44に取り付けられた支柱42とを含んで構成されており、ポール41は、支柱42によって上下動及び水平回転可能に支持されている。
【0051】
ここで、支柱42は、垂直に配された円筒状の本体部42Aと、この本体部42Aの上下端にそれぞれ取り付けられたフランジ部42B,42Cとによって構成されており、本体部42Aには、横方向に細長いプレート状の支柱固定座43が溶接等によって取り付けられている。又、ドリルジャンボのブーム80によって支持されたマンケージ81には、パイプ状の手摺44が設けられている。
【0052】
従って、支柱固定座43の長手方向の両端部(図4の左右両端部)を図5に示すUボルト45によってマンケージ81の手摺44に固定することによって、支柱42が支柱固定座43を介して作業台の手摺44に取り付けられる。そして、この支柱42の中心部にポール41が上下動及び水平回転可能に挿通支持されている。ここで、支柱42の上端には、ポール41の上下動と水平回転をロックするためのロック機構46が設けられている。このロック機構46は、図6にも示すように、支柱42の上側のフランジ部42Bに固定された円筒状の固定筒46Aと、この固定筒46Aの一部に形成されたスリ割部46aを挟むようにして螺合する、ロックレバー46Bとで構成されている。このロック機構46においては、ポール41を回転体9、回動調整手段20及び横方向移動手段30と共に上下動及び水平回転させることによって、摺動外郭体4を介して回転体9に挿通支持された高圧水供給ロッド2と、その先端に取り付けられたノズルヘッド3との高さ及び水平回転方向を調整した後に、ロックレバー46Bを回して固定筒46Aを縮径させて、固定筒46Aをポール41の外周に締め付ければ、ポール41の上下動と水平回転がロックされて、ポール41は、調整後の位置に保持される。
【0053】
[切欠きノッチの形成方法]
次に、以上のように構成された高圧水供給ロッドのスライド案内機構1を用いて、回転体9の切欠き凹部9aに挿通支持された高圧水供給ロッド2のノズルヘッド3の噴射ノズル3cから噴射されるウォータージェットによって、トンネル50の切羽面51の周縁部に形成された複数の装薬孔60a(図1及び図2参照)における、内周面の径方向に相対向する2箇所に、掘削計画線50aに沿った方向に切り込ませて溝状の切欠きノッチ61(図2参照)を形成する方法について説明する。
【0054】
切欠きノッチ61を形成するには、先ず、ドリルジャンボのブーム80を駆動してマンケージ81を切羽面51と対向する所定の位置に設置する。しかる後に、作業員の手作業によって、マンケージ81の手摺44に取り付けられた案内機構本体部5の回転体9の切欠き凹部9aに、高圧水供給ロッド2の摺動外殻体4によるスライド領域2bを、回転体9の外周上部の開口面部9a1を介して上方から装着することにより、高圧水供給ロッド2を、回転体9の回転軸C1に中心軸を合致させて、回転体9の切欠き凹部9aに、前後方向(図4の紙面垂直方向)にスライド可能な状態で挿通する。高圧水供給ロッド2のスライド領域2bを切欠き凹部9aに挿通したら、回転体9の開口面部9a1を幅方向に横断して、抜止め部材14をスライド領域2bの外側に取り付けることによって、高圧水供給ロッド2が案内機構本体部5や回転体9から脱落するのを防止する。
【0055】
摺動外殻体4によるスライド領域2bを切欠き凹部9aに挿通して、高圧水供給ロッド2を案内機構本体部5にセットしたら、例えば作業員による手作業によって、上述の横方向移動手段30や上下方向移動手段40Aや横方向回転手段40Bを操作すると共に、ドリルジャンボのブーム80の駆動を制御して、マンケージ81の位置や仰角等を変化させることにより、高圧水供給ロッド2の中心軸が装薬孔60aの中心軸に合致するように、高圧水供給ロッド2及び回転体9の向きや位置を調整する。しかる後に、回転筒体9の切欠き凹部9aに案内させて、摺動外殻体4によるスライド領域2bを前方にスライド移動させながら、高圧水供給ロッド2を、ノズルヘッド3が装薬孔60aの先端部分に至るまで、手作業によって装薬孔60aの内部に押し込んで行く。高圧水供給ロッド2を装薬孔60aの内部に押し込んで行く際に、中心軸のズレ等によって、高圧水供給ロッド2の押し込みが、つっかえる場合には、横方向移動手段30や上下方向移動手段40Aや横方向回転手段40Bをさらに操作したり、マンケージ81の位置や仰角等を適宜変化させることによって、ノズルヘッド3が装薬孔60aの先端部分に至るまで、高圧水供給ロッド2を、手作業によって装薬孔60aの内部に押し込んで行くことが可能になる。
【0056】
先端部のノズルヘッド3が装薬孔60aの先端部分に至るまで、高圧水供給ロッド2を装薬孔60aの内部に押し込んだら(図11参照)、次に、好ましくは回転体9の切欠円筒体9Bに取り付けられた指針13を指標として、回動調整手段20を手作業によって操作することにより、ノズルヘッド3の噴射口3cから噴射されるウォータージェットの噴射方向が、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿った方向に向くように、回転体9の角度位置を調整する。すなわち、作業員がハンドル25を操作して、回転操作軸21を回転軸C2(図4参照)を中心として回転させることにより、回転操作軸21の回転は、互いに噛合するウォーム22及びウォームホイール9Aを介して回転方向が90°変えられて回転体9へと伝達されるため、回転体9は、前後方向(図4の紙面垂直方向)に延びる回転軸(軸心)C1を中心として回転する。これによって、摺動外郭体4によるスライド領域2bを介して回転体9の切欠き凹部9aに挿通支持された高圧水供給ロッド2と、その先端に取り付けられたノズルヘッド3とが、回転体9と一体に回転して、ノズルヘッド3の径方向に対向する2箇所に開口する、噴射口3c(図10参照)の角度位置が微調整される。またこれによって、各々の噴射口3cからそれぞれ噴射されるウォータージェットの噴射方向が微調整される。このようにしてノズルヘッド3の噴射口3cの角度位置を、噴射口3cが切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿った方向に向くように微調整したら、ネジ部材26を締め付けて回転操作軸21の回転をロックすることにより、噴射口3cが掘削計画線50aに沿った方向に向くように微調整された所定の角度位置に、回転体9を固定することが可能になる。
【0057】
そして、本実施形態によれば、装薬孔60aの先端部分に至るまで、装薬孔60aの内部に押し込まれた高圧水供給ロッド2のノズルヘッド3の噴射口3cが、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿った方向に向くように微調整して、回転体9を固定したら、ノズルヘッド3の噴射口3cからウォータージェットを、径方向に対称な2方向に同時に噴射させると共に、固定した回転体9の切欠き凹部9aに案内させて、摺動外殻体4によるスライド領域2bを後方にスライド移動させながら、高圧水供給ロッド2を、所定の速度で装薬孔60aから引き抜いてゆく。これによって、装薬孔60aの内周面の径方向に対向する2箇所に、掘削計画線50aに沿った方向に亀裂が生じるように誘導する溝状の切欠きノッチ61を、掘削計画線50aに沿った方向に切り込ませた状態で、容易に形成して行くことが可能になる。
【0058】
また、本実施形態によれは、スライド案内機構1の案内機構本体部5は、ドリルジャンボのブーム80によって支持されるマンケージ81の手摺44に取り付けて用いることが可能な、コンパクトな形状を備えており、また高圧水供給ロッド2は、スライド領域2bの外周部分に、摺動外殻体4による矩形断面の摺動面2cを有していると共に、案内機構本体部5の回転体9は、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bの矩形断面の摺動面2cを摺動させる被摺動面9cを有する、切欠き凹部9aを備えており、高圧水供給ロッド2のスライド領域2bは、回転体9の切欠き凹部9aに装着されることで、切欠き凹部9aに案内されてスライド移動するようになっている。これによって、噴射ノズル3cからウォータージェットを径方向に対称な2方向に同時に噴射させながら、高圧水供給ロッド2を装薬孔60aから引き抜いてゆく際に、噴射ノズル3cやノズルヘッド3の製造精度等を要因として、ウォータージェットの噴射によってノズルヘッド3が高圧水供給ロッド2と共に回転しようとしても、高圧水供給ロッド2の角形断面のスライド領域2bの摺動面2cと、回転体9の切欠き凹部9aの角形断面の被摺動面9cとが係合していることにより、このような回転を効果的に阻止することができるので、ウォータージェットの噴射方向を安定させて、溝状の切欠きノッチ61を、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aの方向に切り込ませた状態で、精度良く形成することが可能になる。
【0059】
したがって、本実施形態の高圧水供給ロッドのスライド案内機構1によれば、切羽面51の周縁部の掘削計画線50aに沿って配置された装薬孔60aの内周面に、溝状の切欠きノッチ61をウォータージェットによって形成する際に、ドリルジャンボのブーム80によって支持された作業台81での作業により、多くの手間を要することなく、簡易な構成によって、ノズルヘッド3が回転するのを防止しながら高圧水供給ロッド2を引き抜くことを可能にして、ウォータージェットの噴射方向を安定させることで、切欠きノッチ61を、切羽面の周縁部の掘削計画線50aの方向に切り込ませた状態で、精度良く形成することが可能になる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、高圧水供給ロッドのスライド領域の摺動面を摺動させる被摺動面は、回転体に形成された切欠き凹部によるものである必要は必ずしも無く、回転体に形成された角形断面の貫通孔によるものであっても良い。高圧水供給ロッドのスライド領域は、矩形断面の摺動面を備えている必要は必ずしも無く、6角形や8角形等の、その他の非円形の角形断面の摺動面を備えていても良い。回転体の切欠き凹部や貫通孔は、スライド領域の矩形断面以外の摺動面を摺動させることが可能な、種々の断面形状の被摺動面となっていても良い。高圧水供給ロッドのスライド領域は、円形断面の外周面に摺動外殻体が装着されていることより、外周部分に、角形断面の摺動面を形成しているものである必要は必ずしも無く、高圧水供給ロッド自体が、スライド領域において角形断面の摺動面を備えていても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 高圧水供給ロッドのスライド案内機構
2 高圧水供給ロッド(ランス)
2b スライド領域
2c 摺動面
3 ノズルヘッド
3c 噴射ノズル(噴射口)
4 摺動外殻体
5 案内機構本体部
6 プレート部材
6a 湾曲凹部
9 回転体
9a 切欠き凹部
9a1 開口面部
9c 被摺動面
9A ウォームホイール
9B 切欠円筒体
11 矩形枠体
13 指針
14 抜止め部材
20 回動調整手段
21 回転操作軸
22 ウォーム
25 ハンドル
26 ネジ部材
30 横方向移動手段
31 操作ネジ軸
32 ナット部材
34,37 軸受ブロック
35 ハンドル
36 ネジ部材
40A 上下方向移動手段
40B 横方向回転手段
41 ポール
42 支柱
44 手摺
46 ロック機構
46B ロックレバー
50 トンネル
50a 掘削計画線
51 切羽面
60a 装薬孔
61 切欠きノッチ
80 ドリルジャンボ(トンネル工事用の重機)のブーム
81 マンケージ(作業台)
C1 回転体の回転軸
C2 回転操作軸の中心軸
C3 上下方向回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11