(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】植物の成長およびストレス耐性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/42 20060101AFI20220824BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20220824BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A01N37/42
A01N37/44
A01P21/00
(21)【出願番号】P 2018555666
(86)(22)【出願日】2017-05-03
(86)【国際出願番号】 US2017030726
(87)【国際公開番号】W WO2017192645
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-30
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509319074
【氏名又は名称】バレント・バイオサイエンシーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Valent BioSciences LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】フランクリン・ポール・シルバーマン
(72)【発明者】
【氏名】マーシー・アン・サーピン
(72)【発明者】
【氏名】デレク・ディ・ウーラード
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102715202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の(S)-アブシジン酸((S)-ABA)およびグリシンベタイン(GB)を植物に適用することを含む、植物の成長を改善する方法であって、(S)-ABA:GBの重量比が、約1:1~約1:10であり、植物が、トウモロコシ、キュウリおよびバジルからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
植物が、非生物的ストレスにさらされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非生物的ストレスが、低温ストレスである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
非生物的ストレスが、(S)-ABAおよびGBの適用前に発生する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
非生物的ストレスが、(S)-ABAおよびGBの適用後に発生する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
(S)-ABAが、1ヘクタール当たり約1~約100グラムの率で適用され、GBが、1ヘクタール当たり約1~約1,000グラムの率で適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
有効量の(S)-アブシジン酸((S)-ABA)およびグリシンベタイン(GB)を植物に適用することを含む、植物のストレス耐性を改善する方法であって、(S)-ABA:GBの重量比が、約1:1~約1:10であり、植物が、トウモロコシ、キュウリおよびバジルからなる群から選択される、方法。
【請求項8】
ストレスが、非生物的ストレスである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
非生物的ストレスが、低温ストレスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非生物的ストレスが、(S)-ABAおよびGBの適用前に発生する、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
非生物的ストレスが、(S)-ABAおよびGBの適用後に発生する、請求項
8に記載の方法。
【請求項12】
(S)-アブシジン酸((S)-ABA)およびグリシンベタイン(GB)を有効成分として含む組成物であって、(S)-ABA:GBの重量比が、約1:1~約1:10であり、トウモロコシ、キュウリおよびバジルからなる群から選択される植物に適用される、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、有効量の(S)-アブシジン酸およびグリシンベタインを植物に適用することを含む、植物の成長およびストレス耐性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栽培者は、収量を最大にするために可能な限り生産性の高い作物を絶えず栽培しようとする。植物成長調整剤は、水および温度の制限に基づいて植物の成長に影響を及ぼすために栽培者が使用できる1つのツールである。異なる条件下での植物に対する植物成長調整剤の影響は、大きく異なる可能性がある。さらに、植物に複数の植物成長調整剤を同時に適用することは困難であると予測する。
【0003】
(S)-アブシジン酸((S)-ABA)は、成長および発達において多くの役割を有する内因性トウモロコシ植物成長調整剤である。たとえば、(S)-ABAは、種子の発芽を阻害し、したがって、穀物の発芽を刺激するジベレリンに拮抗する。(S)-ABAは、ストレス耐性を促進し、ストレス条件下で増殖を維持する(Sharp RE et al.、Root growth maintenance during water deficits: physiology to functional genomics、J Exp Bot、2004 Nov、55(407)、2343-2351を参照)。興味深いことに、いくつかの研究では、十分に水分を与えられた植物において「正常な」ABAレベルを維持することが、トマト(Sharp RE et al.、Endogenous ABA maintains shoot growth in tomato independently of effects on plant water balance: evidence for an interaction with ethylene、J Exp Bot、2000 Sep、51(350)、1575-1584)およびシロイヌナズナ(LeNoble ME et al.、Maintenance of shoot growth by endogenous ABA: genetic assessment of the involvement of ethylene suppression、J Exp Bot、2004 Jan、55(395)、237-245)の苗条成長を維持するために必要であることが示されている。さらに、(S)-ABAは、ABAが不足している場合に休眠誘導の欠如のために種子の収穫前の発芽を示すことが多い種子および樹木植物における休眠の発生および維持を担う。
【0004】
さらに、(S)-ABAの適用は、低温および乾燥からの保護を提供するとともに、種なしの生食用ブドウの赤色を増加させることが示されている。有効な市販の(S)-ABA製剤の例としては、ProTone(商標)およびContego(商標)(Valent BioSciences LLCから入手可能)が挙げられる。
【0005】
グリシンベタイン(GB)は、非生物的ストレスに応答して植物、微生物および菌類に蓄積する遊離物である。主要な穀物の中で、米だけが自然にGBを累積しない(Shirasawa K. et al.、Accumulation of glycine betaine in rice plants that overexpress choline monooxygenase from spinach and evaluation of their tolerance to abiotic stress、Ann Bot、2006 Sep、98(3)、565-571)。GBを産生するためのイネにおける細菌または植物遺伝子の過剰発現は、GBの低い蓄積をもたらしたが、ストレス耐性を与えた。植物へのGBの外因性適用は、非生物的ストレス耐性を付与することが示されている(Chen and Murata、Glycine betaine: an effective protectant against abiotic stress in plants、Trends Plant Sci、2008 Sep、13(9)、499-505)。これには、複数の植物種にわたる低温、凍結、および乾燥に対する耐性を誘導する耐ストレス性が含まれる。しかしながら、観察されたストレス保護のレベルは、有意ではあるが、商業的に許容可能な閾値に達しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、非生物的ストレス条件下での植物の成長を改善するための新しい方法の必要性が当該分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概略
1つの態様では、本発明は、有効量の(S)-アブシジン酸((S)-ABA)およびグリシンベタイン(GB)を植物に適用することを含む、植物の成長を改善する方法に関し、ここで、(S)-ABA:GBの重量比は、約1:1~約1:33である。
【0008】
もう1つの態様では、本発明は、有効量の(S)-アブシジン酸およびグリシンベタイン(GB)を植物に適用することを含む、植物のストレス耐性を改善する方法に関し、ここで、(S)-ABA:GBの重量比は、約1:1~約1:33である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な記載
出願人は、予期せぬことに、S)-アブシジン酸((S)-ABA)およびグリシンベタイン(GB)の混合物が、ストレス条件下でのストレス耐性および植物の成長を改善することを発見した。
【0010】
1つの実施態様では、本発明は、有効量の(S)-ABAおよびGBを植物に適用することを含む、植物の成長を改善する方法に関する。
【0011】
もう1つの実施態様では、植物の成長が改善される植物は、非生物的ストレスにさらされる。
【0012】
もう1つの実施態様では、本発明は、有効量の(S)-ABAおよびGBを植物に適用することを含む、植物のストレス耐性を改善する方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様では、改善されるストレス耐性は非生物的ストレスに対するものである。
【0014】
もう1つの好ましい実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、約1:1~約1:33の重量比で適用される。
【0015】
1つの実施態様では、植物は、単子葉植物または双子葉植物である。好ましい実施態様では、単子葉植物は、イネ科植物、より好ましくはトウモロコシである。もう1つの好ましい実施態様では、双子葉植物は、草本または木本双子葉植物、より好ましくはキュウリまたはバジルである。
【0016】
もう1つの実施態様では、植物は、遺伝子組み換えされている。好ましい実施態様では、遺伝子組み換え植物は、除草剤耐性、昆虫抵抗性、乾燥耐性または増加した生理的機能を発現する。
【0017】
もう1つの実施態様では、植物は、低温ストレスにさらされる。本明細書で使用される場合、低温ストレスとは、最適な成長および発育を支援する温室条件と比較して、植物の成長が有意に遅くなる低温(たとえば、4~10℃)の条件を意味する。
【0018】
もう1つの実施態様では、植物は、乾燥ストレスにさらされる。本明細書で使用される乾燥ストレスとは、水の利用可能性が最適な成長および発育を支援するのに十分である環境と比較して、植物の成長が有意に遅くなる水やり条件を意味する。
【0019】
好ましい実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、非生物的ストレスの出現の前に適用される。本明細書で使用される場合、これは、低温および/または乾燥を含む多くの異なる種類のストレスを示すことができる。低温ストレスの場合、(S)-ABAおよびGB組成物は、低温損傷に対する保護として、低温の前に適用される。意図されるストレスが乾燥の場合、(S)-ABAおよびGBを乾燥ストレスの前に適用することにより、土壌水の貯留が可能になる。水ストレスに起因する収量損失がより高い場合、栄養相成長中の水利用を抑制することにより、生殖相成長を支援するためにより多くの水が存在することになる。
【0020】
好ましい実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、V2で始まりVTで終わる栄養期の期間中に適用される。出願人は、この出願を通して、トウモロコシの発達段階を「V」期と呼んでいる。「V」期は、V1、V2、V3などとして数字的に指定される。V(n)のこの識別システムでは、(n)は目に見える頸領を有する葉の数を表す。各葉期は、頸領が見える最上部になる葉に従って定義される(Corn Growth and Development、2011. Abendroth、L、Elmore、R、Boyer、M and Marlay、S、Iowa State University Pressを参照)。「VT」は、穂(tassel)出現の成長期を示し、トウモロコシの初期栄養期ではない。
【0021】
もう1つの実施態様では、1ヘクタール当たり約1~約100グラムの(S)-ABAがトウモロコシに適用される。好ましい実施態様では、1ヘクタール当たり約2~約75グラムの(S)-ABAがトウモロコシに適用される。
【0022】
もう1つの実施態様では、1ヘクタール当たり約1~約100グラムの(S)-ABAがキュウリに適用される。好ましい実施態様では、1ヘクタール当たり約2~約75グラムの(S)-ABAがキュウリに適用される。
【0023】
もう1つの実施態様では、1ヘクタール当たり約1~約100グラムの(S)-ABAがバジルに適用される。好ましい実施態様では、1ヘクタール当たり約2~約75グラムの(S)-ABAがバジルに適用される。
【0024】
さらにもう1つの実施態様では、1ヘクタール当たり約1~約1,000グラムのGBが植物に適用される。より好ましい実施態様では、1ヘクタール当たり約2~約800グラムのGBが植物に適用される。
【0025】
もう1つの実施態様では、GBの適用は、改善されたストレス耐性および改善された植物の成長を提供する(S)-ABA活性を増加させる。
【0026】
もう1つの実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、グリホサート、メソトリオン、ハロスルフロン、サフルフェナシルまたはジカンバなどの除草剤とともに適用することができる。
【0027】
もう1つの実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、テトラコナゾール、メトコナゾール、ストロビルリン、または組み合わされたストロビルリン-アゾール生成物などの殺菌剤とともに適用することができる。
【0028】
もう1つの実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、メチルパラチオン、ビフェントリン、エスフェンバレレート、ローズバン、カルバリルまたはランネートなどの殺虫剤とともに適用することができる。
【0029】
さらにもう1つの実施態様では、(S)-ABAおよびGBは、CoRoN(Helena Chemicalから入手可能)、制御放出窒素、主にN,N’-ジホルミル尿素であるBioForge(Stoller USAから入手可能)、または他の微量栄養素含有スプレーなどの葉面肥料とともに適用することができる。
【0030】
(S)-ABAおよびGB混合物は、任意の簡便な手段によって適用することができる。当業者は、散布、粉剤散布、粒状適用などの葉面適用;噴霧、溝内処施用、または側方施肥などの土壌適用などの適用の態様に精通している。
【0031】
もう1つの好ましい実施態様では、本発明は、(S)-ABAおよびGBを含む組成物に関し、ここで、(S)-ABA:GBの重量比は、約1:1~約1:33である。
【0032】
本発明で利用される水性噴霧溶液は、一般に、約0.01%~約0.5%(v/v)の非イオン性界面活性剤を含有する。
【0033】
界面活性剤は、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤である。一般に、非イオン性界面活性剤は、当該技術分野において知られている任意の非イオン性界面活性剤であり得る。適当な界面活性剤は、一般に、オリゴマーおよびポリマーである。適当なポリマーとして、EO-PO-EOおよびPO-EO-POブロックコポリマーの両方などのエチレンオキシド-プロピレンオキシドブロックコポリマー(EO/POブロックコポリマー);エチレンオキシド-ブチレンオキシドランダムおよびブロックコポリマー、エチレンオキシド-プロピレンオキシドランダムおよびブロックコポリマーのC2-6アルキル付加物、エチレンオキシド-ブチレンオキシドランダムおよびブロックコポリマーのC2-6アルキル付加物、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテルまたはそれらの混合物などのポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル;ビニルアセテート/ビニルピロリドンコポリマー;アルキル化ビニルピロリドンコポリマー;ポリビニルピロリドン;ポリプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどのアルキレンオキシドランダムおよびブロックコポリマーが挙げられる。他の非イオン性薬剤は、レシチン;およびシリコーン界面活性剤(シロキサン鎖を含む骨格を有する水溶性または水分散性界面活性剤、たとえば、Silwet L77(登録商標))である。鉱油中の適当な混合物は、ATPLUS(登録商標)411である。
【0034】
本明細書で使用される場合、「有効量」は、成長、乾燥ストレス耐性、低温ストレス耐性および/または収量を改善する(S)-ABAおよび/またはGBの量を示す。「有効量」は、(S)-ABAおよびGB濃度、処理される植物種または品種、ストレスの重度、所望の結果、およびその他の要因の中で、植物の生存段階に依存して変化する。したがって、正確な「有効量」を指定することが、かならずしも可能というわけではない。しかしながら、任意の個々の場合における適当な「有効量」は、当業者によって決定され得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「改善すること」は、本発明の方法によって処理されていない場合に植物が有する品質よりも品質が高いことを意味する。
【0036】
本明細書で使用される場合、量、重量パーセントなどに関するすべての数値は、「約」または「およそ」のそれぞれの特定の値、すなわちプラスまたはマイナス10%(±10%)として定義される。たとえば、「少なくとも5重量%」という語句は、「少なくとも4.5重量%~5.5重量%」と理解されるべきである。したがって、特許請求の範囲に記載された値の10%以内の量は、特許請求の範囲に包含される。
【0037】
文脈上特に明記しない限り、冠詞「a」、「an」および「the」は、複数形および単数形を含むことが意図される。
【0038】
開示された実施態様は、本明細書に開示された発明概念の単なる例示的な実施態様であり、特許請求の範囲に別段の記載がない限り、限定的とみなされるべきではない。
【0039】
以下の実施例は、本発明を説明し、当業者に本発明の製剤の使用方法を教示することを意図している。これらは、決して限定することを意図するものではない。
実施例
【実施例1】
【0040】
耐熱性を付与するグリシンベタイン(「GB」)の能力を決定するために、それ単独および(S)-アブシジン酸((S)-ABA)と組み合わせて、イタリアの大葉バジル(Ocimum basilicum)苗を用いて、低温(すなわち寒冷)耐性アッセイを行った。バジル種子を、0.16%Maxim(登録商標)XL殺菌剤(Maximは登録商標であり、Syngenta Corporationから入手可能)を含有するエタノール溶液中で滅菌した。滅菌した種子を1×Gamborg's Vitaminsおよび0.6%Phytagarを添加した1/2×MurashigeおよびSkoog Basal Salt培地で発芽させ、24穴プレートに分注した。播種したプレートをサージカルテープで密封し、24℃にて12時間の明期および19℃にて12時間の暗期の概日周期を行うグロースチャンバーに入れた。種子を発芽させ、5日間成長させた。
【0041】
5日後、0.4%PhytagarにオーバーレイとしてGBおよび/または(S)-ABAの濃縮溶液を添加した。プレートを再密封し、48時間グロースチャンバーに戻した。48時間後、プレートを同一の明期設定で、日中6℃、夜間2℃に設定したチャンバーに移した。苗を6日間低温ストレスに付し、その後、それらを周囲温度チャンバーに戻し、6日間の回復期間後に評点付けした。
【0042】
個々のウェルは、示された量のGBおよび/または(S)-ABAを含有した。ジメチルスルホキシド(DMSO)中で(S)-ABAのストック溶液を調製し、全ウェル中のDMSOの最終濃度は0.5%であった。陽性対照ウェルは、最終濃度20ppm(~20mg/l)の(S)-ABAおよび0.5%DMSOを含有した;陰性対照ウェルは、0.5%DMSOを含有した。GBは、0、3,000、10,000、30,000、および100,000ミリグラム/リットル(mg/l)の濃度にて単独で評価した。GBと(S)-ABAとの間に相乗的相互作用が存在したかどうかを試験するために、グリシンベタインを0、1,000、3,000、10,000、および30,000mg/lの濃度で培地に添加し、一方、(S)-ABAを3mg/lの濃度で保持した。6日間の低温ストレスおよび6日間の回復の後、バジル苗における低温ストレスの主な指標である壊死および損傷した組織の量で苗を評点付けした。結果を以下の第1表に要約する。
【0043】
第1表:バジル苗における低温傷害に対するGBおよび(S)-ABAの保護
【表1】
「NT」は、記録されたデータがないことを意味する。
「-」は、広範囲の低温傷害を意味する。
「+」は、中程度の低温傷害を意味する。
「++」は、低温傷害が少ない~無いことを意味する;20ppmの(S)-ABA単独に相当する。
【0044】
実証されたように、30,000mg/l GBは、バジル苗に、~20mg/l(S)-ABAと等価な保護を提供することができる。しかしながら、GBと(S)-ABAとを組み合わせた場合には、どちらか単独と等価の保護を提供するために、約1/10の量のGBと約1/6の量(S)-ABAしか必要としない。データの分析は、GBと(S)-ABAとの組合せの相加効果よりも大きい効果があることを示唆しているが、これらの組成物内の相互作用を試験するためにさらなる研究を行った。
【実施例2】
【0045】
イリノイ州ロング・グローヴで実験室研究を行った。キュウリ(Cucumis sativa var. Straight Eight)種子をPro-Mix(登録商標) BXポッティング土壌(Pro-Mixは、Premier Horticulture Ltd.の登録商標であり、Premier Horticulture Ltd.から入手可能である)に播種し、16:8(明:暗)の光周期下、25℃のCONVIRON(登録商標)グロースチャンバー内で植物を栽培した。播種後15日目に、植物をポータブルPreval(登録商標)塗料噴霧器で噴霧した。すべての噴霧溶液は、脱イオン水で作成され、非イオン性界面活性剤がすべての噴霧溶液に0.05%(v/v)で添加された。噴霧の48時間後、植物をCONVIRON(登録商標)グロースチャンバーに移し、12:12(明:暗)の光周期下で4℃の温度に48時間付した。低温チャンバーから取り出した後、植物を、16:8(明:暗)の光周期下で25℃に設定したCONVIRON(登録商標)グロースチャンバーに戻した。冷蔵後72時間で、低温損傷について植物を視覚的に評点付けした。各処理は7回繰り返した。結果を以下の第2表に要約する。
第2表:(S)-ABA、GB、またはその組み合わせによる噴霧処理後のキュウリにおける72時間の低温後の損傷
【表2】
【0046】
第2表に実証されるように、1:1~10:1のGB:(S)-ABAの比率での本発明の混合物は、低温ストレス損傷を防止する上で相加効果以上を示した。以下の式を用いて、本出願人は、GB:(S)-ABA比に対する応答が相乗的であることを決定することができた(ここで、相乗係数は、Abbott法によって計算される):
%Cexp=A+B-(AB/100)
[式中、%Cexpは、予想効力であり、“AおよびBは単一の[植物成長調節因子]によって与えられる成長(またはストレス耐性)レベルの増加である。実験的に観察される混合物Cobsの有効性と、混合物の予想される有効性との間の比が1より大きい場合、相乗的相互作用が混合物に存在する”](Gisi、Synergistic Interaction of Fungicides in Mixtures、The American Phytopathological Society、86:11、1273-1279、1996)。控えめであるように、本出願人は、実施例を通して最小相乗係数を1.1に設定している。本出願人は、以下のGB:(S)-ABA比、すなわち、1:1(相乗係数3.74);3.3:1(相乗係数2.68)および10:1(相乗係数1.24)の比で存在する相乗効果を決定した。
【実施例3】
【0047】
イリノイ州ロング・グローヴで実験室研究を行った。イタリアン・スィート・バジル種子をPro-Mix(登録商標)BXポッティング土壌に播種し、16:8(明:暗)の光周期下で冷白色蛍光下、室温にて植物を栽培した。播種後22日目に、植物をポータブルPreval(登録商標)塗料噴霧器で噴霧した。噴霧の48時間後、植物をCONVIRON(登録商標)グロースチャンバーに移し、12:12(明:暗)の光周期下で4℃の温度に72時間付した。低温チャンバーから取り出した後、植物を実験室に戻し、再び冷白色蛍光下に置いた後、冷蔵後24時間および72時間で、低温損傷について植物を視覚的に評点付けした。各処理は7回繰り返した。結果を以下の第3表に要約する。
第3表:(S)-ABA、GB、またはその組み合わせによる噴霧処理後のイタリアン・スィート・バジルにおける低温損傷
【表3】
【0048】
第3表に実証されるように、GB:(S)-ABAの10:1の比での本発明の混合物は、冷ストレス損傷を防止する上で相加効果以上を示したが、66.7:1の比は相加的保護さえも付与しなかった。上記の実施例2に記載のアボット法を用いて、出願人は、10:1のGB:(S)-ABA比に対する応答は、相乗的であるが(24時間で1.15および72時間で1.26の相乗係数)、66.7:1のGB:(S)-ABAの比では相乗的ではない(24時間で0.44、および72時間で0.32の相乗係数)ことを決定した。
【実施例4】
【0049】
イリノイ州ロング・グローヴで実験室研究を行った。イタリアン・スィート・バジル種子をPro-Mix(登録商標)BXポッティング土壌に播種し、16:8(明:暗)の光周期下で冷白色蛍光下、室温にて植物を栽培した。播種後22日目に、植物をポータブルPreval(登録商標)塗料噴霧器で噴霧した。噴霧の48時間後、植物をCONVIRON(登録商標)グロースチャンバーに移し、12:12(明:暗)の光周期下で4℃の温度に72時間付した。低温チャンバーから取り出した後、植物を実験室に戻し、再び冷白色蛍光下に置いた後、冷蔵後24時間および120時間で、低温損傷について植物を視覚的に評点付けした。各処理は7回繰り返した。結果を以下の第4表に要約する。
第4表:(S)-ABA、GB、またはその組み合わせによる噴霧処理後のイタリアン・スィート・バジルにおける低温損傷
【表4】
【0050】
第4表に実証されるように、GB:(S)-ABAの33:1の比での本発明の混合物は、低温ストレス損傷を防止する上で相加効果以上を示したが、100:1の比は相加的保護さえも付与しなかった。上記の実施例2に記載のアボット法を用いて、出願人は、33:1のGB:(S)-ABA比に対する応答は、相乗的であるが(24時間で1.34および120時間で1.54の相乗係数)、100:1のGB:(S)-ABAの比では相乗的ではない(24時間で0.56、および120時間で0.52の相乗係数)ことを決定した。
【実施例5】
【0051】
イリノイ州ロング・グローヴで温室研究を行った。市販のハイブリッド品種の種子を、3リットルのポットでPro-Mix(登録商標)BXに播種した。温室は25±3℃にて16:8時間(明:暗)の光周期で、~250μモル m-2 s-1のキャノピーレベルの照明で維持した。トウモロコシを、典型的には、Peters21-5-20 +微量栄養素、硝酸カルシウムアンモニウムおよび硫酸マグネシウムで肥育した。これらの条件下でのトウモロコシの典型的な成長率は、1日当たり4~5cmの範囲であった。
【0052】
この研究では、V4期においてトウモロコシに噴霧塗布を行った。これらの塗布は、4001E Teejet(登録商標)ノズル(Teejetは、米国イリノイ州グレンデールハイツから入手可能であり、Spraying Systems Co.の登録商標である)を備えたトラック塗布器で行われ、40ポンド/平方インチおよび30ガロン/エーカーの噴霧溶液で塗布された。噴霧塗布後、植物を温室に戻した。
【0053】
噴霧塗布の3日後および4日後に、製造者の指示に従って使用されるLicor Model 6400 XT光合成メーター(Licor、Lincoln、Nebraska)を用いて4番目の本葉の気孔伝導度を測定した。分析を容易にするため、気孔伝導度の値は、以下の表5において対照に対するパーセントとして表される。
第4表:塗布後のトウモロコシの気孔伝導度
【表5】
【0054】
第5表に実証されるように、10:1、3.3:1および1:1のGB:(S)-ABAの比の本発明の混合物は、気孔伝導度の減少において相加効果以上を示したが、0.33:1の比は相加的減少さえも付与しなかった。上記の実施例2に記載のアボット法を用いて、出願人は、以下の比率において存在するGB:(S)-ABAの相乗効果を決定した:10:1(3DPS(噴霧3日後:3 dsays post spraying)で1.33および4DPSで1.54の相乗係数;3.3:1(3DPSで1.28、4DPSで2.17の相乗係数);1:1(3 DPSで1.39、4 DPSで5.72の相乗係数);しかし、0.33:1の比では相乗的ではない(3DPSで1.01、4DPSで1.05の相乗係数)。したがって、混合物が気孔伝導度の相乗的減少を示すためには、少なくとも1:1のGB:(S)-ABA比が必要である。