(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】固定分析物
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20220824BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220824BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220824BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
G01N33/543
G01N27/62 V
G01N27/62 X
(21)【出願番号】P 2019542795
(86)(22)【出願日】2017-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2017076961
(87)【国際公開番号】W WO2018077783
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-01
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】コボルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ラング,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ライネンバッハ,アンドレアス
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-537728(JP,A)
【文献】特表2011-522210(JP,A)
【文献】特表2006-527373(JP,A)
【文献】Eric W. Klee et al.,Mass Spectrometry Measurements of Prostate-Specific Antigen (PSA) Peptides Derived From Immune-Extracted PSA Provide a Potential Strategy for Harmonizing Immunoassay Differences,American Journal of Clinical Pathology,2014年,141(4),527-533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物を検出するための方法であって
a)前記分析物、捕捉剤および固体表面を接触させて、固体表面に付着した捕捉複合体を形成し、
b)前記捕捉複合体中に含まれる前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断し、そしてそれによって、前記分析物またはその断片を前記捕捉複合体から放出させ、そして
c)前記分析物またはその断片を検出し、そしてそれによって前記分析物を検出する
工程を含み、
前記捕捉剤が前記分析物と接触すると同時に、前記捕捉剤が前記固体表面に付着し、そして
前記方法が、前記捕捉剤に結合する前記分析物の脱グリコシル化の少なくとも1つのさらなる工程を含む、
前記方法。
【請求項2】
前記分析物がポリペプチドである、請求項1の方法。
【請求項3】
前記分析物が前立腺特異的抗原(PSA)である、請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記分析物が被験体の試料中に含まれる、請求項1~3のいずれか一項の方法。
【請求項5】
前記捕捉剤が、前記分析物に特異的に結合する剤である、請求項1~4のいずれか一項の方法。
【請求項6】
前記捕捉剤が抗体またはその誘導体である、請求項1~5のいずれか一項の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの共有結合の前記切断が、前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の酵素的加水分解を含む、請求項1~6のいずれか一項の方法。
【請求項8】
前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の前記切断が、前記分析物を、少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることを含む、請求項1~7のいずれか一項の方法。
【請求項9】
前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の前記切断が、前記分析物をトリプシンと接触させることを含む、請求項1~8のいずれか一項の方法。
【請求項10】
前記分析物の脱グリコシル化の前記の少なくとも1つのさらなる工程が、前記分析物を、エンドグリコシダーゼと接触させることを含む、請求項1~9のいずれか一項の方法。
【請求項11】
前記分析物の脱グリコシル化の前記の少なくとも1つのさらなる工程が、前記分析物をエンドF3と接触させることを含む、請求項1~10のいずれか一項の方法。
【請求項12】
前記検出が、質量分析(MS)によって、前記分析物またはその断片を検出することを含む、請求項1~11のいずれか一項の方法。
【請求項13】
前記検出が、液体クロマトグラフィ(LC)カップリング質量分析(LC-MS)によって、前記分析物またはその断片を検出することを含む、請求項1~12のいずれか一項の方法。
【請求項14】
分析物を検出するため、前記分析物の断片を放出させるためにプロテアーゼを用いる方法であって、前記分析物が捕捉剤を通じて固体表面に結合しており、そして前記分析物を、前記プロテアーゼと接触させる前に、エンドグリコシダーゼと接触させた、前記方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項の工程、および決定した分析物の量を参照と比較し、それによって疾患診断を補助するさらなる工程を含む、疾患診断を補助するための方法。
【請求項16】
前記分析物がPSAであり、そして前記疾患が前立腺癌である、請求項
15の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物を検出するための方法であって、a)前記分析物、捕捉剤および固体表面を接触させて、固体表面に付着した捕捉複合体を形成し、b)前記捕捉複合体中に含まれる前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断し、そしてそれによって、前記分析物またはその断片を前記捕捉複合体から放出させ、そしてc)前記分析物の前記の少なくとも1つの断片を検出し、そしてそれによって前記分析物を検出する工程を含む、前記方法に関する。本発明はさらに、i)分析物に結合する、1つの態様において特異的に結合する、捕捉剤;およびii)前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する剤を含むキットに;そして分析物を検出するため、前記分析物の断片を放出させるためのプロテアーゼの使用であって、前記分析物が捕捉剤を通じて固体表面に付着している、前記使用に関する。
【発明の概要】
【0002】
分析物に特異的に結合する剤、特に抗体は、長年、分析物の濃縮に用いられてきている。同族(cognate)エピトープに対する抗体の典型的には高いアフィニティは、通常、好適である、これは分析物が少量であっても検出が可能になるためである。しかし、分析物を分析物/抗体複合体から回収しようと試みる際には、非常に過酷な条件を適用しなければならないため、高アフィニティは不都合になる。さらに、適用しなければならない条件および緩衝剤は、通常、下流適用とは適合せず、緩衝剤交換、沈降等のさらなる工程が必要となり、これはしばしば、分析物の回収を有意に減少させる。特に、質量分析(MS)分野における、こうした方法に関連する例示的な適用は、例えばKrastinsら(2013), Clinical biochemistry 46: 399-410; Lopezら(2010), Clinical chemistry 56: 281-290; Petermanら(2014), Proteomics 14: 1445-1456; Prakashら(2012), Journal of proteome research 11: 3986-3995; Trenchevskaら(2015), Methods (San Diego, Calif) 81: 86-92; Yassineら(2013), Proteomics Clinical applications 7: 528-540; Poppら(2015), Biochimica et biophysica acta 1854: 547-558; Zhaoら(2011), Journal of Visualized Experiments 53: e2812 1-5;およびKleeら(2014), Am J Clin Pathol 141:527)に提供される。
【0003】
さらに、ポリペプチド分析の分野において、タンパク質のグリコシル化は、分析、特にこうしたグリコシル化タンパク質の酵素処理、例えばMS法において必要とされうるようなタンパク質分解を必要とする分析をひどく妨害しうることが見出された。この問題を解決するため、CA2527650は、グリコシル化ポリペプチドの同定のための段階的方法を提唱した。該方法の工程は、グリコシル化ポリペプチドを含有する生物学的試料を、ペプチド消化を開始するための少なくとも1つのプロテアーゼで処理した後、脱グリコシル化し、そして続いて少なくとも1つのプロテアーゼで再消化して、脱グリコシル化ポリペプチド断片を生じる工程を伴う。次いで、質量分析を用いて、脱グリコシル化ポリペプチド断片を配列決定し、そして既知の配列のデータベースとの配列比較によって同定する。
【0004】
にもかかわらず、例えば質量分析のような下流適用のため、免疫学的方法によって得られたポリペプチドを提供するための効率的な方法に関する必要性がなおある。この問題は、独立請求項の特徴を持つ、本発明の手段および方法によって解決される。単離された方式で、または任意の恣意的な組み合わせで、達成可能な、好ましい態様は、従属請求項に列挙される。
【0005】
したがって、本発明は、分析物を検出するための方法であって
a)前記分析物、捕捉剤および固体表面を接触させて、固体表面に付着した捕捉複合体を形成し、
b)前記捕捉複合体中に含まれる前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断し、そしてそれによって、前記分析物またはその断片を前記捕捉複合体から放出させ、そして
c)前記分析物またはその断片を検出し、そしてそれによって前記分析物を検出する
工程を含む、前記方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1-1】実施例に記載するような、溶液中の脱グリコシル化およびプロテアーゼ処理によって産生されるPSAの断片の検出を示す、トータルイオンカレントMSスペクトル。8.15分の溶出時間を有する第一の断片は生成されず;5.80分の溶出時間を有する第二の断片は、脱グリコシル化とは独立に、タンパク質分解のみによって生成される。A)再構築トータルイオンカレントクロマトグラム(RTICC);B)フコシル化PSAグリコペプチド(N(+GlcNAc+Fuc)K)の抽出イオンカレント(XIC);C)全長PSAペプチド(LSEPAELTDAVK、配列番号1)のXIC;x軸:分での溶出時間、y軸:秒あたりのカウント(cps)での強度。
【
図1-2】実施例に記載するような、溶液中の脱グリコシル化およびプロテアーゼ処理によって産生されるPSAの断片の検出を示す、トータルイオンカレントMSスペクトル。8.15分の溶出時間を有する第一の断片は生成されず;5.80分の溶出時間を有する第二の断片は、脱グリコシル化とは独立に、タンパク質分解のみによって生成される。A)再構築トータルイオンカレントクロマトグラム(RTICC);B)フコシル化PSAグリコペプチド(N(+GlcNAc+Fuc)K)の抽出イオンカレント(XIC);C)全長PSAペプチド(LSEPAELTDAVK、配列番号1)のXIC;x軸:分での溶出時間、y軸:秒あたりのカウント(cps)での強度。
【
図2-1】実施例に示すような、ピペットチップ上での直接の脱グリコシル化およびプロテアーゼ処理によって産生されるPSAの断片の検出を示す、トータルイオンカレントMSスペクトル。第一および第二の断片の両方が生成される。A)~C)は
図1と同様;x軸:分での溶出時間、y軸:cpsでの強度。
【
図2-2】実施例に示すような、ピペットチップ上での直接の脱グリコシル化およびプロテアーゼ処理によって産生されるPSAの断片の検出を示す、トータルイオンカレントMSスペクトル。第一および第二の断片の両方が生成される。A)~C)は
図1と同様;x軸:分での溶出時間、y軸:cpsでの強度。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下で用いるような用語「有する(have)」、「含む(comprise)」または「含まれる(include)」あるいはその任意の恣意的な文法的変形は、非排他的な方式で用いられる。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴に加えて、この文脈で記載される実体に、さらなる特徴はまったく存在しない状況、および1またはそれより多いさらなる特徴が存在する状況の両方を指すことも可能である。例えば、表現「AはBを有する」、「AはBを含む」および「AにはBが含まれる」は、Bに加えて、Aに他の要素がまったく存在しない状況(すなわちAはもっぱらそして排他的にBからなる状況)、ならびにBに加えて実体Aに1またはそれより多いさらなる要素、例えば要素C、要素CおよびDまたはさらにさらなる要素が存在する状況の両方を指してもよい。
【0008】
さらに、以下で用いるような用語「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「具体的に」、「より具体的に」、「特に」、「より明確に」または類似の用語は、さらなる可能性を制限することなく、任意の特徴と組み合わせて用いられる。したがって、これらの用語によって導入される特徴は、任意の特徴であり、そしていかなる意味でも、請求項の範囲を制限するとは意図されない。本発明は、当業者が認識するであろうように、別の特徴を用いることによって実行可能である。同様に、「本発明の態様において」または類似の表現によって導入される特徴は、本発明のさらなる態様に関するいかなる制限も伴わず、本発明の範囲に関するいかなる制限も伴わず、そしてこうした方式で導入される特徴と、本発明の他の任意のまたは任意でない特徴とを組み合わせる可能性に関するいかなる制限も伴わずに、任意の特徴であると意図される。さらに、別に示されていない限り、用語「約」は、関連分野において、一般的に認められる技術的精度を持つ、示す値に関し、1つの態様において示す値±20%、さらなる態様において±10%、さらなる態様において±5%に関する。
【0009】
本発明の分析物を検出するための方法は、1つの態様において、in vitro法である。さらに、明白に上に言及するものに加えて、工程を含むことも可能である。例えば、さらなる工程は、例えば、工程a)のため、分析物を含む試料を得るか、または工程b)の後に分析物の少なくとも1つの断片を構造的に修飾する、例えば誘導体化する工程に関することも可能である。さらに、前記工程の1またはそれより多くは、自動化装置によって実行されてもよい。
【0010】
用語「分析物」は、本明細書において、捕捉剤によって結合される、1つの態様において特異的に結合されることが可能であり、そして少なくとも1つの切断可能な結合を含む、化学的化合物を指す。1つの態様において、前記切断可能結合は、酵素によって切断可能な結合である。1つの態様において、前記切断可能結合の切断は、分析物が、前記分析物に関する捕捉剤のアフィニティよりも、少なくとも10倍、さらなる態様において少なくとも100倍低いアフィニティで、前記捕捉剤によって結合されるようにする。さらなる態様において、前記切断可能結合の前記切断は、前記分析物から、前記分析物の少なくとも1つの断片が放出されるようにし;特に、捕捉複合体解離の半減時間を、2分未満、1つの態様において1分未満、さらなる態様において30s未満、さらなる態様において10s未満、さらなる態様において1s未満の値まで、減少させるようにする。さらなる態様において、分析物は、被験体の代謝によって産生されるか、または被験体の代謝において消費される化合物である。1つの態様において、該用語は、特定の分析物の少なくとも1つの分子から、前記の特定の分析物の複数の分子までに関する。本発明にしたがった分析物は、有機または無機化学的化合物のすべての種類を含み、これには、生物学的材料、例えば生物によって含まれるものが含まれる。1つの態様において、分析物は小分子である。さらなる態様において、分析物は巨大分子、1つの態様において生物学的巨大分子、さらなる態様においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。したがって、1つの態様において、分析物は、少なくとも2000u(2000Da;1u=1.66x10-27kg)、さらなる態様において少なくとも5000u、さらなる態様において少なくとも10000uの分子量を持つ化学的化合物である。1つの態様において、分析物は2kDa~500kDa、1つの態様において5kDa~250kDaの分子量を持つ化学的化合物である。
【0011】
1つの態様において、分析物はポリペプチドである。当業者に知られるように、ポリペプチド、特に天然ポリペプチドは、共有ペプチド結合によって連結されたアミノ酸からなる。当業者にやはり知られるように、アミノ酸側鎖を、例えばアセチル化、リン酸化、および/またはグリコシル化によって、特に真核細胞において、さらに修飾してもよい。したがって、分析物はまた、修飾ポリペプチド、特に翻訳後修飾ポリペプチド、例えばグリコシル化ポリペプチドであってもよい。しかし、本発明によって、分析物が非天然存在側鎖で修飾されているポリペプチド、例えばPEG化ポリペプチドであることもまた想定される。1つの態様において、分析物はPSAである。1つの態様において、分析物は、ヒトPSA(Genbank寄託番号NP_001639.1 GI:4502173)あるいは1またはそれより多いそのアイソフォーム、および/またはその成熟型の1つまたはすべてである。
【0012】
用語「共有結合」は、当業者に理解される。1つの態様において、本発明の共有結合は、切断可能、1つの態様において酵素的に切断可能である。1つの態様において、本発明の共有結合は、加水分解可能、さらなる態様において酵素的に加水分解可能である。1つの態様において、共有結合は、少なくとも1つの炭素原子を伴う。さらなる態様において、共有結合は、C-OまたはC-N結合である。したがって、1つの態様において、本発明の共有結合は、エステル結合、グリコシド結合、またはアミド結合、特にペプチド結合である。1つの態様において、本発明の共有結合はペプチド結合である。本明細書において、化学分子の「主鎖共有結合」は、分子内の共有結合のありうる最長の鎖を形成する共有結合である。ポリペプチドにおいて、主鎖共有結合は、ポリペプチド内のペプチド結合を形成する結合である。それに応じて、「非主鎖共有結合」は、主鎖共有結合から分岐した共有結合であるか、または共有結合の分岐鎖に含まれる。したがって、ポリペプチドにおいて、アミノ酸側鎖内、またはその修飾内、例えばグリコシル化側鎖中の共有結合は、非主鎖共有結合である。
【0013】
1つの態様において、分析物はポリペプチドであり、そして前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の切断は、前記分析物内の少なくとも1つのペプチド結合の加水分解、1つの態様において酵素的加水分解を含む。1つの態様において、前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の切断は、前記分析物を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることを含む。1つの態様において、プロテアーゼは、基質特異性が既知であるプロテアーゼである。さらなる態様において、プロテアーゼはエンドペプチドダーゼであり、さらなる態様において、プロテアーゼはキモトリプシン、ペプシン、エラスターゼ、サーモリシン、プロテイナーゼK、LysC、GluC、トリプシンまたはエンドプロテイナーゼArgC(クロストリパイン)であり、さらなる態様においてトリプシンまたはエンドプロテイナーゼArgC(クロストリパイン)であり、さらに好ましい態様において、プロテアーゼはトリプシンである。
【0014】
当業者に理解されるであろうように、少なくとも1つの共有結合を切断する、1より多い前述の酵素と、特に少なくとも1つの共有結合を切断する少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つの酵素と、分析物を接触させてもよい。1つの態様において、少なくとも1つの共有結合を切断する1より多い酵素と、分析物の接触を、連続して実行し;さらなる態様において、少なくとも1つの共有結合を切断する1より多い酵素と、分析物の接触を、同時に、すなわち少なくとも1つの共有結合を切断する、少なくとも2つまたはそれより多い前記酵素と、分析物を、同時に接触させることによって、実行する。当業者は、こうした場合に、どのように加水分解条件を選択するかを知っている。しかし、当業者は、前記酵素のすべての組み合わせが適合するわけではないことを知っており、これは例えば反応温度、pH、補因子、またはイオンに関する必要条件が異なるためであり、そして不適合の場合、連続処理を考慮するであろう。したがって、例えば、1つの態様において、本明細書に明記するような少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つのグリコシダーゼと分析物の接触は、連続接触によって達成され;さらなる態様において、本明細書に明記するような少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つのグリコシダーゼと分析物の接触は、同時接触によって達成される。また、例えば、1つの態様において、本明細書に明記するような1より多いプロテアーゼと分析物の接触は、それぞれのプロテアーゼとの連続接触によって達成され;さらなる態様において、本明細書に明記するような1より多いプロテアーゼと分析物の接触は、少なくとも2つのプロテアーゼとの同時接触によって達成される。
【0015】
本発明にしたがって、前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合の切断は、捕捉複合体から、分析物またはその少なくとも1つの断片を放出させる。本明細書において、用語「放出」は、分析物、その断片、または捕捉剤を、捕捉複合体からの前記分析物またはその断片の解離を引き起こす状態にすることに関する。したがって、捕捉剤が固体表面に付着している場合、分析物またはその断片の放出は、前記分析物またはその断片の固体表面からの溶出を可能にする。したがって、1つの態様において、少なくとも1つの共有結合の切断後、分析物またはその断片および残りの捕捉複合体の間の解離定数は、少なくとも10-4mol/l、1つの態様において少なくとも10-3mol/l、さらなる態様において少なくとも10-2mol/l、さらなる態様において少なくとも0.1mol/lである。1つの態様において、前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも2つの共有結合が切断され、例えばポリペプチドから内部ペプチドを放出させる。さらなる態様において、多数の共有結合が切断され、ここで前記の多数は、1つの態様において少なくとも5つ、さらなる態様において少なくとも10、さらなる態様において少なくとも25の共有結合である。
【0016】
1つの態様において、前記分析物から放出される少なくとも1つの断片は、前記分析物の特定の断片であり、用語「特定の断片」は、前記の特定の断片によって、前記分析物の同定を可能にする断片に関する。当業者は、その断片の1つによる分析物の同定が、選択する検出法に応じることを理解する。例えば、特定の断片は、LCにおいて特定の溶出時間を有する断片であってもよく、そして/またはMSにおいて特定のm/z比を提供する断片であってもよく、または同様のものであってもよい。
【0017】
1つの態様において、分析物は、試料中に、1つの態様において被験体の試料中に含まれる。用語「試料」は、本明細書において、分析物を含むと推測されるかまたは知られる任意の試料を指す。本発明にしたがって、試料が、例えば食品試料、細胞培養上清試料、あるいは被験体の組織または体液試料であってもよいことが想定される。1つの態様において、試料は、体液試料、分離細胞試料、組織または臓器由来の試料、あるいは被験体の外部または内部体表面から得られる洗浄/リンス液の試料である。1つの態様において、試料は、血液、血漿、血清、尿、唾液、涙液のような体液である。1つの態様において、試料は糞便試料である。試料は、周知の技術によって得られることが可能であり、そして試料には、1つの態様において、掻把、スワブまたは生検が含まれる。試料は、ブラシ、(コットン)スワブ、スパーテル、リンス/洗浄液、パンチ生検デバイス、針での腔の穿刺、または外科的器具使用によって得られてもよい。分離細胞および/または細胞不含液は、濾過、遠心分離、または細胞ソーティングなどの分離技術によって、細胞培養上清、体液、あるいは組織または臓器から得られうる。分離細胞は、1つの態様において、当業者に周知の方法の1つによって、本発明において試料として用いられる前に、溶解される。本発明の方法を実施するために、試料をさらにプロセシングしてもよいことが理解されるものとする。1つの態様において、試料は血液由来である。1つの態様において、試料は血液またはその分画の試料であり、さらなる態様において、血液、血清または血漿であり、1つの態様において、血清または血漿である。
【0018】
用語「被験体」は、本明細書において、動物、1つの態様において哺乳動物、例えばマウス、ラット、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、またはウシ、そして1つの態様においてヒトに関する。
【0019】
用語「接触」は、本発明の方法の背景において用いた際、当業者によって理解される。1つの態様において、該用語は、化合物、特に分析物を、さらなる化合物、例えば捕捉剤と物理的に接触させ、そしてそれによって、化合物およびさらなる化合物が相互作用することを可能にすることに関する。したがって、用語「反応混合物」は、第一の化合物と第二の化合物を、例えば捕捉剤と試料を接触させ、前記の第一および第二の化合物が反応することを可能にする、任意の混合物に関する。
【0020】
本明細書において、用語「捕捉複合体」は、本明細書の別の箇所に明記するような少なくとも1つの捕捉剤および分析物を含み、1つの態様において本明細書の別の箇所に明記するような解離定数を有する、任意の、1つの態様において非共有の、複合体に関する。したがって、1つの態様において、分析物は、本明細書において以下に明記するように、捕捉複合体において、捕捉剤に結合する。1つの態様において、捕捉複合体は、特異的捕捉複合体であり、すなわち捕捉剤は、前記捕捉複合体において、分析物に特異的に結合する。
【0021】
用語、第二の化合物への第一の化合物の「結合」は、当業者に理解される。1つの態様において、結合は、第二の結合パートナーの有意な浸出を伴わずに、固体表面への第一の結合パートナーの結合を可能にするために、十分に高い結合パートナーのアフィニティを伴う相互作用に関する。1つの態様において、結合は、10-5mol/l未満、1つの態様において10-6mol/l未満、さらなる態様において10-7mol/l未満、さらなる態様において10-8mol/l未満、さらなる態様において10-9mol/l未満の解離定数での結合である。したがって、1つの態様において、少なくとも1つの捕捉剤および分析物を含む捕捉複合体は、10-5mol/l未満、1つの態様において10-6mol/l未満、さらなる態様において10-7mol/l未満、さらなる態様において10-8mol/l未満、さらなる態様において10-9mol/l未満の解離定数を有する。解離定数を決定する方法は、当業者に周知であり、そしてこれには、例えば分光滴定法、表面プラズモン共鳴測定、平衡透析等が含まれる。結合は、当業者に知られるすべての種類の化学的相互作用によって仲介されうる。1つの態様において、前記相互作用は、非共有結合である。本明細書に用いるように、用語「結合」には、1つの態様において、間接的結合、すなわち、第二の化合物を通じた第三の化合物への第一の化合物の結合が含まれ、ここで前記の第一および第三の化合物は、1つの態様において、それぞれ、第二の化合物とのみ相互作用する。1つの態様において、結合は直接結合であり、すなわち化合物の直接相互作用である。
【0022】
1つの態様において、分析物は、捕捉剤に特異的に結合する。当業者が認識するであろうように、用語「特異的に結合すること」またはその文法的変形は、試料中に存在する他の化合物、典型的には生体分子が、本発明のリガンド、特に捕捉剤に有意には結合しないことを示すために用いられる。1つの態様において、捕捉剤の、分析物以外の化合物への結合のレベルは、それぞれ、分析物へのアフィニティの最大10%またはそれ未満、5%またはそれ未満、2%またはそれ未満、あるいは1%またはそれ未満の結合アフィニティを生じる。
【0023】
本明細書において、用語「捕捉剤」は、本発明の分析物への化学分子の結合に関する。したがって、1つの態様において、捕捉剤は、分析物に特異的なアフィニティに基づく結合剤である。1つの態様において、捕捉剤は、有機分子またはその複合体、さらなる態様において生物学的巨大分子、特にポリペプチドまたはその複合体である。1つの態様において、捕捉剤は、抗体、アプタマー、アンチカリン、または受容体、あるいは上に明記するような活性を有する前述の化合物の1つの断片である。1つの態様において、捕捉剤はモノクローナル抗体である。
【0024】
捕捉剤を固体表面に付着させるかまたは付着するよう適合させる。本明細書において、用語「固体表面」は、本発明の捕捉剤が結合するために適応した、そして例えば物理的手段によって、試料から分離されるように適応した、任意の適切な固体表面に関する。1つの態様において、前記固体表面は、ビーズ、1つの態様においてマイクロビーズ、例えば磁気または常磁性マイクロビーズの表面である。1つの態様において、前記表面は、例えば捕捉化合物の下位構造に結合する分子を、共有または非共有的に付着させることによって、捕捉化合物の結合を改善するように適応されている。捕捉化合物の下位構造に結合する典型的な分子は、例えば抗体、ストレプトアビジン、錯体化ニッケルイオン等である。さらなる態様において、固体表面は、共有および/または非共有結合によって、例えば疎水性相互作用によって、前記捕捉化合物に結合する。したがって、1つの態様において、前記固体表面は、マルチクラスタープレート表面である。1つの態様において、マルチクラスタープレートの表面を前処理して、捕捉化合物の結合のため、アフィニティおよび/または結合能を増加させる。適切な前処理は、当該技術分野に知られる。さらなる態様において、固体表面は、適切な表面を提供する、例えばピペットチップの多孔性充填である。
【0025】
当業者に理解されるであろうように、分析物と捕捉剤を接触させる前に、それと同時に、またはその後に、前記捕捉剤を固体表面に付着させてもよい。1つの態様において、分析物と捕捉剤を接触させた後に、例えば前記分析物および前記捕捉剤を混合し、その後、固体表面に結合させることによって、前記捕捉剤を固体表面に付着させる。当業者が理解するであろうように、試料と捕捉剤の接触および固体表面への前記捕捉剤の結合は、存在する場合、前記試料中に含まれる他の化合物から、前記捕捉剤が結合した分析物を特異的に分離することを可能にする。捕捉剤、例えば生物学的分子、典型的にはポリペプチドを、固体表面に付着させる方法は、当該技術分野に周知であり、そしてこれには、例えば疎水性相互作用、ビオチン化および固定されたストレプトアビジンを通じた結合、共有結合、抗体-抗原相互作用等、またはこれらの相互作用の組み合わせが含まれる。
【0026】
1つの態様において、捕捉剤はまた捕捉複合体であってもよい。別の態様において、捕捉剤は抗体、すなわち捕捉抗体、特にモノクローナル抗体である。1つの態様において、捕捉抗体は、ビオチンに共有カップリングする。したがって、1つの態様において、捕捉剤は固定捕捉剤、1つの態様において固体表面上に固定された捕捉剤である。さらなる態様において、捕捉剤は、共有および/または疎水性結合を通じて固体表面に固定され;さらなる態様において、捕捉剤は、高アフィニティ相互作用を通じて、1つの態様においてストレプトアビジン/ビオチン相互作用を通じて、固体表面上に固定される。
【0027】
用語「抗体」には、本明細書において、モノクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および本明細書の別の箇所に明記するような所望の結合活性を示す限り、抗体断片が含まれる。1つの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。1つの態様において、抗体は全長抗体または抗体断片である。
【0028】
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)は、異なるクラスに割り当て可能である。免疫グロブリンの5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、そしてこれらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分割可能である。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および三次元立体配置は周知であり、そして一般的に、例えば、Abbasら, Cellular and Mol. Immunology, 第4版, W.B. Saunders, Co. (2000)に記載される。抗体は、抗体と1またはそれより多い他のタンパク質またはペプチドの共有または非共有会合によって形成される、より大きな融合分子の一部であってもよい。
【0029】
用語「全長抗体」、「インタクトな抗体」、および「全抗体」は、本明細書において、交換可能に用いられ、実質的にインタクトな型の、以下に定義するような抗体断片ではない抗体を指す。該用語は、特に、Fc領域を含有する重鎖を含む抗体を指す。「抗体誘導体」は、インタクトな抗体の部分を含み、1つの態様においてその抗原結合領域を含む。したがって、抗体誘導体は抗体断片であってもよい。抗体誘導体の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片;ディアボディ;直鎖抗体;一本鎖抗体分子、ナノボディ、および抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。抗体のパパイン消化は、各々、単一の抗原結合部位を含む「Fab」断片と称される2つの同一の抗原結合断片、およびその名称が容易に結晶化する能力を反映する、残りの「Fc」断片を生じる。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、そしてなお抗原を架橋することが可能であるF(ab’)2断片を生じる。「Fv」は、完全抗原結合部位を含有する、最小抗体断片である。1つの態様において、2鎖Fv種は、緊密に非共有会合した、1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種において、1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインは、軽鎖および重鎖が2鎖Fv種におけるものと同様に「二量体」構造で会合可能であるように、柔軟なペプチドリンカーによって共有連結されていてもよい。この立体配置において、各可変ドメインの3つの超可変領域(HVR)は、抗原結合部位を定義するように相互作用する。集合して、6つのHVRが、抗体に、抗原結合特異性を与える。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)であってさえ、抗原を認識し、そして結合する能力を有するが、完全結合部位よりも低いアフィニティである。用語「ディアボディ」は、2つの抗原結合部位を含む抗体断片を指し、該断片は、同じポリペプチド鎖において、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む(VH-VL)。同じ鎖上の2つのドメインの間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーを用いることによって、ドメインは、別の鎖の相補ドメインと対形成し、そして2つの抗原結合部位を生成するように強いられる。ディアボディは、二価または二重特異性であることも可能である。ディアボディは、例えばEP 0 404 097; WO 1993/01161; Hudsonら, Nat. Med. 9 (2003) 129-134;およびHollingerら, PNAS USA 90 (1993) 6444-6448に、より詳細に記載される。トリアボディおよびテトラボディは、Hudsonら, Nat. Med. 9 (2003) 129-134にもまた記載される。
【0030】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書において、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち集団中に含まれる個々の抗体は、少量で存在しうる、ありうる突然変異、例えば天然に存在する突然変異を除いて同一である。したがって、修飾語「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物ではない抗体の特性を示す。特定の態様において、こうしたモノクローナル抗体には、典型的には、分析物に結合するポリペプチド配列を含む抗体が含まれ、ここで分析物結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの、単一の分析物結合ポリペプチド配列の選択を含むプロセスによって得られた。例えば、選択プロセスは、複数のクローン、例えばハイブリドーマクローン、ファージクローン、または組換えDNAクローンのプールからの、ユニークなクローンの選択であってもよい。選択されたターゲット結合配列は、例えば、ターゲットに対するアフィニティを改善するため、ターゲット結合配列をヒト化するため、細胞培養におけるその産生を改善するため、in vivoでの免疫原性を減少させるため、多重特異性抗体を生成するため等で、さらに改変されていてもよく、そして改変されたターゲット結合配列を含む抗体もまた、本発明のモノクローナル抗体であることを理解しなければならない。異なる決定基(エピトープ)に対して向けられる異なる抗体が含まれるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的にはこれらに他の免疫グロブリンが混入していない点で好適である。
【0031】
抗体またはその誘導体は、例えば、HarlowおよびLane ”Antibodies, A Laboratory Manual”, CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載される方法を用いることによって得られうる。モノクローナル抗体は、マウス骨髄腫細胞の、免疫哺乳動物由来の脾臓細胞への融合を含む、KоehlerおよびMilstein, Nature 256 (1975), 495、ならびにGalfre, Meth. Enzymol. 73 (1981), 3に元来記載された技術によって、調製可能である。
【0032】
本明細書において、用語「検出すること」は、分析物の少なくとも1つの特徴、1つの態様において構造的および/または定量的特徴を、定性的または定量的に検出することを指す。本発明記載の特徴は、1つの態様において、例えば質量分析によって、試料中の分析物の検出を促進する、分析物の構造的特徴である。1つの態様において、前記特徴は、分析物の同定および/または定量化を促進する。典型的な使用可能な特徴は、試料中に存在する他の化学的化合物から前記分析物の判別を促進する特徴である。1つの態様において、分析物の検出は、検出法の検出限界より高い濃度または量で、分析物が試料中に存在するかまたは存在しないかを確立する。所定の検出法に関して検出限界を確立する方法は当業者に知られ、そしてこれには希釈滴定実験が含まれる。さらなる態様において、検出は、分析物の量または濃度の半定量的または定量的検出である。定量的検出のため、分析物の絶対量または正確な量が検出されるか、あるいは分析物の相対量が検出される。相対量は、正確な量が検出不能であるかまたは検出すべきでない場合に検出可能である。前記の場合、分析物が存在する量が、第二の、1つの態様においてあらかじめ決定された量の前記分析物を含む第二の試料に対して、増加したかまたは減少したかを検出することも可能である。
【0033】
1つの態様において、分析物の検出は、前記分析物内のおよび/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断することによって産生された前記分析物の少なくとも1つの断片を、さらなる化合物から分離することを含む。化学的化合物を互いに分離する、例えば個々のペプチドを分離する方法は、当該技術分野に知られ、そしてこれには、抽出、沈降、遠心分離、クロマトグラフィ等が含まれる。1つの態様において前記分析物の少なくとも1つの断片の分離は、クロマトグラフィによって、1つの態様において液体クロマトグラフィ(LC)によって、達成される。
【0034】
当業者に理解されるであろうように、分析物を同定しそして/または定量化するために選択される方法は、選択したアッセイ形式に、そして検出しようとする分析物または断片に応じる。適切な方法は、原則として、当業者に知られる。1つの態様において、特に、分析物がポリペプチドである場合、アッセイは免疫学的アッセイであり、ここで、分析物が捕捉化合物に結合し、これを免疫学的手段によって、固体表面に付着させてもよい。1つの態様において、捕捉された分析物の量を、前記の捕捉された分析物への検出剤化合物、例えば標識二次抗体の結合によって検出する。1つの態様において、捕捉および/または検出剤化合物は抗体であり、そしてアッセイはサンドイッチアッセイである。
【0035】
1つの態様において、質量分析(MS)を含む方法によって、分析物を同定し、そして/または定量化する。したがって、1つの態様において、分析物の検出は、質量分析(MS)による、1つの態様においてLCカップリング質量分析(LC-MS)による、前記分析物またはその断片の検出を含む。さらなる態様において、特に、分析物がポリペプチドである場合、検出は、多重反応監視(MRM)-MS、1つの態様においてMRM-LC-MSによって、分析物またはその断片を検出することを含む。1つの態様において、検出はMSを含み、そして分析物の断片を検出する。1つの態様において、分析物はPSAであり、少なくとも1つの共有結合をトリプシンで切断し、そして分析物PSAの検出は、PSAの少なくとも1つのトリプシン断片の検出を含み、1つの態様において、756.5Da、463.2Da、609.3Da、および1271.7Daの分子量を有する断片からなる群より選択される、少なくとも1つの断片の検出を含む。
【0036】
本発明の方法は、上に明記するように、分析物またはその断片の検出を含む。当業者に理解されるであろうように、特にMSを検出に用いる場合、方法は、分析物のさらなる断片、そしてさらにさらなる分析物の検出を、さらに含んでもよい。
【0037】
1つの態様において、分析物を検出するための方法は、前記分析物を修飾するさらなる工程を含む。本明細書において、用語、分析物の「修飾」は、分析物において構造変化を引き起こすことに関する。1つの態様において、構造変化は、異性体化、あるいは分析物構造部分の付加または除去である。1つの態様において、修飾は、分析物の誘導体化、すなわち分析物への化学側鎖の付加である。さらなる態様において、修飾は、非主鎖共有結合の切断、1つの態様において加水分解、特に、例えばポリペプチドにおける側鎖修飾の除去である。1つの態様において、非主鎖共有結合を切断する、1つの態様において加水分解する、さらなる工程は、前記捕捉剤に結合した前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する工程の前に行われる。さらなる態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、前記分析物を前記捕捉剤に結合させる間に行われる。したがって、1つの態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、捕捉複合体上で行われる。1つの態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、前記捕捉剤に結合した前記分析物の脱グリコシル化工程、1つの態様において酵素的脱グリコシル化を含む。
【0038】
さらなる態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、ヒドロラーゼ(EC3)、さらなる態様においてグリコシラーゼ(EC3.2)、さらなる態様においてグリコシダーゼ(EC3.2.1)、さらなる態様においてエクソ-アルファ-シアリダーゼ(EC3.2.1.18)、エンド-アルファ-シアリダーゼ(EC3.2.1.129)、アルファ-ガラクトシダーゼ(EC3.2.1.22)、ベータ-ガラクトシダーゼ(EC3.2.1.23)、アルファ-マンノシダーゼ(EC3.2.1.24)、マンノシル-オリゴ糖1,2-アルファ-マンノシダーゼ(EC3.2.1.113)、マンノシル-オリゴ糖1,3-1,6-アルファ-マンノシダーゼ(EC3.2.1.114)、ベータ-マンノシダーゼ(EC3.2.1.25)、アルファ-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(EC3.2.1.49)、ベータ-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(EC3.2.1.53)、アルファ-L-フコシダーゼ(EC3.2.1.51)、1,2-アルファ-L-フコシダーゼ(EC3.2.1.63)、1,3-アルファ-L-フコシダーゼ(EC3.2.1.111)、1,6-アルファ-L-フコシダーゼ(EC3.2.1.127)、ベータ-L-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(EC3.2.1.52)、エンド-アルファ-シアリダーゼ(EC3.2.1.129)および/またはマンノシル-糖タンパク質エンド-ベータ-N-アセチルグルコサミダーゼ(EC3.2.1.96)、さらなる態様においてエンドグリコシダーゼエンドF3(例えばエリザベスキンギア・ミリコラ(Elizabethkingia miricola)由来のエンド-ベータ-N-アセチルグルコサミニダーゼF3)または例えばGlycINATOR(登録商標)として販売されているストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のエンドS2と、前記分析物を接触させるさらなる工程を含む。さらなる態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、エンドグリコシダーゼ、エンドF3と前記分析物を接触させるさらなる工程を含む。
【0039】
さらなる態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、ペプチド結合以外の炭素-窒素結合に作用する酵素(EC3.5)、さらなる態様において直鎖アミドに作用する酵素(EC3.5.1)、さらなる態様においてペプチド-N4-(N-アセチル-ベータ-グルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ、さらなる態様においてエンドグリコシダーゼPNGアーゼF(例えばフラボバクテリウム・メニンゴセプティクム(Flavobacterium meningosepticum)由来のペプチド-N-グリコシダーゼF)と、前記分析物を接触させるさらなる工程を含む。さらなる態様において、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程は、エンドグリコシダーゼPNGアーゼFと、前記分析物を接触させるさらなる工程を含む。当業者は、例えば本明細書において上に明記するようなヒドロラーゼの存在下で、分析物をインキュベーションし、そして所望の修飾が起こっているかどうかを試験することによって、分析物を修飾するために適した適切なヒドロラーゼおよび適切な加水分解条件を選択することが可能である。当業者はまた、例えば文献から、パッケージリーフレットから、または適切な条件を実験的に決定することによって、適切な反応条件を選択することも可能である。
【0040】
当業者に理解されるであろうように、非主鎖共有結合を加水分解する1より多い前述の酵素と、特に、非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つの酵素と、分析物を接触させてもよい。1つの態様において、非主鎖共有結合を加水分解する1より多い酵素と分析物の接触を、連続して実行し;さらなる態様において、非主鎖共有結合を加水分解する1より多い酵素と分析物の接触を、同時に、すなわち非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも2またはそれより多い前記酵素と分析物を同時に接触させることによって、実行する。当業者は、こうした場合、加水分解条件をどのように選択するかを知っている。しかし、当業者は、例えば、反応温度、pH、補因子、またはイオンに関する必要条件が異なるため、前記酵素のすべての組み合わせが適合可能であるわけではないことを知っており、そして不適合の場合、連続処理を考慮するであろう。
【0041】
好適なことに、本発明の根底にある研究において、捕捉複合体中の分析物から、分析物の断片を得ることが可能であることが見出され、当該技術分野で用いられる厳しい溶出条件を適用する必要を伴わずに、試料中の分析物の同一性および/または量に関する指標を得る可能性が提供された。得られた溶出物を、例えば、LC、特にHPLCの試料として直接用いてもよい。さらに、ポリペプチドの脱グリコシル化は、前記ポリペプチドが固体表面に付着している間、より効率的でありうることが見出された。
【0042】
上で行った定義は、変更すべき点を変更して以下に適用される。さらに以下で行われるさらなる定義および説明もまた、変更すべき点を変更して、本明細書に記載されるすべての態様に適用される。
【0043】
さらに本発明は、i)分析物に結合する、1つの態様において特異的に結合する、捕捉剤;およびii)前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する剤を含む、キットに関する。
【0044】
用語「キット」は、本明細書において、一緒にパッケージングされていてもまたはされていなくてもよい、本発明の前述の化合物、手段または試薬のコレクションを指す。キットの構成要素は、別個のバイアルによって(すなわち別個の部分のキットとして)含まれてもよく、あるいは2またはそれより多い構成要素が単一バイアル中で提供されてもよい。1つの態様において、捕捉剤、および少なくとも1つの共有結合を切断する剤は、別個のバイアルに含まれる。さらに、本発明のキットが、1つの態様において、本明細書において上に言及する方法を実施するために用いられるべきであることが理解されるものとする。1つの態様において、すべての構成要素が、上に言及する方法を実施するためのすぐに使用できる方式で提供されることが想定される。さらに、キットは、1つの態様において、前記方法を実行するための使用説明書を含有する。使用説明書は、紙または電子型の使用者マニュアルによって提供されてもよい。さらに、マニュアルは、本発明のキットを用いて前述の方法を実施した際に得られる結果を解釈するための使用説明書を含んでもよい。1つの態様において、キットは、緩衝剤、特に固体支持体から分析物またはその断片を溶出するための溶出緩衝剤をさらに含む。1つの態様において、キットは、例えばビーズまたはマトリックス充填ピペットチップの形の、固体支持体をさらに含む。固体表面のさらなる態様を本明細書において上述する。1つの態様において、キットは、分析物を修飾するさらなる剤、1つの態様において前記分析物の少なくとも1つの非主鎖共有結合を切断する剤、特に酵素、例えばグリコシダーゼ、1つの態様において本明細書において上に明記するようなグリコシダーゼをさらに含む。1つの態様において、少なくとも1つの非主鎖共有結合を切断する剤はグリコシダーゼであり、1つの態様においてエンドグリコシダーゼであり、さらなる態様においてエンドF3である。
【0045】
当業者は、ターゲットに結合する、特異的結合剤、例えば抗体、特にモノクローナル抗体を生成するか;あるいは捕捉しようとする関心対象の抗原に特異的な、当該技術分野に知られる結合剤、例えば商業的に入手可能な抗体を選択することが可能である。捕捉化合物の適切な態様は、本明細書に上述されてきている。したがって、1つの態様において、捕捉化合物は抗体またはその断片である。前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する剤の適切な態様もまた、本明細書に上述されてきている。したがって、1つの態様において、前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する剤は、プロテアーゼであり、1つの態様においてエンドペプチダーゼであり、さらなる態様においてトリプシンである。
【0046】
本発明は、前記分析物を検出するため、分析物の断片を放出させるための酵素の使用であって、前記分析物が捕捉剤を通じて固体表面に結合している、前記使用にさらに関する。
【0047】
1つの態様において、使用は、本明細書において上に明記するような分析物を検出するための方法の使用である。1つの態様において、前記酵素はヒドロラーゼであり、さらなる態様において、酵素は、本明細書において上に明記するようなプロテアーゼおよび/またはグリコシダーゼである。
【0048】
本発明はまた、疾患を診断するための方法であって、上に明記するような分析物を検出するための方法の工程、および決定した分析物の量を参照に比較し、それによって疾患を診断するさらなる工程を含む、前記方法にも関する。
【0049】
本発明の疾患を診断するための方法は、1つの態様において、in vitro法である。さらに、該方法は、明確に上述するものに加えた工程を含んでもよい。例えば、さらなる工程は、例えば、工程a)の被験体から試料を得るか、または工程b)の後に、分析物の少なくとも1つの断片を構造的に修飾する、例えば誘導体化することに関してもよい。さらに、前記工程の1またはそれより多くを、自動化装置によって実行してもよい。
【0050】
本発明の疾患を診断するための方法は、原則として、任意の疾患の診断に適用可能であり、ここで、少なくとも1つの分析物が、前記疾患を患っていない被験体における前記分析物の濃度から逸脱する濃度で、被験体試料中に存在し、そして前記分析物が捕捉剤に結合する。したがって、1つの態様において、分析物は、本明細書において上に明記するような生物学的巨大分子である。1つの態様において、分析物はポリペプチドである。さらなる態様において、分析物はPSAであり、そして前記疾患は前立腺癌である。
【0051】
用語「診断」は、本明細書において、被験体が疾患または状態に罹患しているかあるいは疾患または状態を発症させるリスクがある可能性の評価を指す。したがって、方法は、例えば、医師によって、診断をさらに強化するかまたは確認することが必要でありうるため、前記診断の補助を提供する。特に、当業者に理解されるであろうように、こうした評価は通常、そうであることが好ましくはあるが被験体の100%が正しく診断されるようには意図されない。該用語は、1つの態様において、被験体の統計的に有意な部分が、疾患に罹患しているかまたはそれに関する素因を有すると同定されうることを必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、さらなる面倒を伴わずに、多様な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等を用いて、当業者によって決定可能である。詳細は、DowdyおよびWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、1つの態様において、0.2、0.1、0.05である。さらに、本発明の方法は、本質的に、診断の補助を提供し、そして他の診断手段に含まれるかまたはこれらによって補助されることも可能であることが理解されるであろう。本発明にしたがった診断には、適切な疾患またはその症状の監視、確証、および分類が含まれる。監視は、すでに診断された疾患または合併症の追跡を維持し、例えば疾患期間中、または疾患の成功した治療後に生じる、疾患の進行または退行、疾患または合併症の進行に対する特定の治療の影響を分析することに関する。確証は、他の指標またはマーカーを用いてすでに確立された診断を強化するかまたは実証することに関する。分類は、症状の強度または種類にしたがって、診断を、異なるクラス、例えば前立腺癌の病期に割り当てることに関する。本明細書で用いるようなリスクがあることは、被験体が、疾患または状態をまだ発展させていないが、にもかかわらず、特定の可能性で将来的に発展させるであろうことを意味する。素因の診断は、ときに、被験体が疾患を発展させるであろう可能性の予測と称されることも可能である。
【0052】
用語「参照」は、疾患または状態の存在または非存在に相関させうる、分析物の量またはそれを表す数値、すなわち特徴的な特徴のデータを指す。こうした参照は、1つの態様において、診断しようとする疾患を患うことが知られる被験体または被験体群の試料から得られる。参照は、例えば、こうした試料群から得られる代表値(average)または平均値(mean)であってもよい。参照は、本発明の方法を適用することによって得られうる。あるいは、参照は、診断しようとする疾患を患わないことが知られる被験体または被験体群の試料から得られうる。さらに、参照は、見かけ上、健康である個体の代表的な集団の分析物の相対量または絶対量に関する、計算参照値、例えば代表値または中央値であってもよい。本発明にしたがって、集団の前記個体の分析物の絶対量または相対量を決定してもよい。適切な参照値、1つの態様において代表値または中央値を計算する方法は、当該技術分野に周知である。前述の被験体集団は、複数の被験体、1つの態様において、少なくとも5、10、50、100、1,000または10,000の被験体を含むものとする。本発明の方法によって診断しようとする被験体、および前記の複数の被験体の被験体は、1つの態様において同じ種であることが理解されるものとする。当業者は、カットオフ値、正常値の上限、中央値または代表値、参照範囲等であってもよい、参照値を確立する方法を知っている。
【0053】
上記を考慮して、以下の態様を特に想定する:
1. 分析物を検出するための方法であって
a)前記分析物、捕捉剤および固体表面を接触させて、固体表面に付着した捕捉複合体を形成し、
b)前記捕捉複合体中に含まれる前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断し、そしてそれによって、前記分析物またはその断片を前記捕捉複合体から放出させ、そして
c)前記分析物またはその断片を検出し、そしてそれによって前記分析物を検出する
工程を含む、前記方法。
【0054】
2. 前記分析物が巨大分子、1つの態様において生物学的巨大分子である、態様1の方法。
3. 前記分析物がポリヌクレオチドまたはポリペプチドであり、1つの態様においてポリペプチドである、態様1または2の方法。
【0055】
4. 前記分析物がPSAである、態様1~3のいずれか1つの方法。
5. 前記分析物が試料中、1つの態様において被験体の試料中に含まれる、態様1~4のいずれか1つの方法。
【0056】
6. 前記試料が血液試料またはその分画であり、1つの態様において血液、血清または血漿であり、1つの態様において血清または血漿である、態様1~5のいずれか1つの方法。
【0057】
7. 前記捕捉剤が、前記分析物に特異的に結合する剤である、態様1~6のいずれか1つの方法。
8. 前記捕捉剤が巨大分子であり、1つの態様において生物学的巨大分子であり、さらなる態様において抗体またはその誘導体であり、さらなる態様において抗体またはその誘導体である、態様1~7のいずれか1つの方法。
【0058】
9. 前記捕捉剤が前記分析物と接触すると同時に、前記捕捉剤が固体表面に付着する、態様1~8のいずれか1つの方法。
10. 前記捕捉剤が、共有および/または疎水性結合を通じて、固体表面上に固定される、態様1~9のいずれか1つの方法。
【0059】
11. 前記捕捉剤が、高アフィニティ相互作用を通じて、1つの態様においてストレプトアビジン/ビオチン相互作用を通じて、固体表面上に固定される、態様1~10のいずれか1つの方法。
【0060】
12. 少なくとも1つの共有結合の前記切断が、前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の加水分解、1つの態様において酵素的加水分解を含む、態様1~11のいずれか1つの方法。
【0061】
13. 前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の切断が、少なくとも1つの主鎖共有結合の切断であるか、または少なくとも1つの非主鎖共有結合の切断である、態様1~12のいずれか1つの方法。
【0062】
14. 前記分析物がポリペプチドであり、そして前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の切断が、前記分析物内の少なくとも1つのペプチド結合の加水分解、1つの態様において酵素的加水分解を含む、態様1~13のいずれか1つの方法。
【0063】
15. 前記分析物内の少なくとも1つの共有結合の前記切断が、少なくとも1つのプロテアーゼ、1つの態様においてエンドペプチドダーゼ、さらなる態様においてトリプシンと、前記分析物を接触させることを含む、態様1~14のいずれか1つの方法。
【0064】
16. 前記分析物の前記の少なくとも1つの断片が、前記分析物の特定の断片である、態様1~15のいずれか1つの方法。
17. 前記分析物を修飾するさらなる工程を含む、態様1~16のいずれか1つの方法。
【0065】
18. 前記分析物またはその断片を誘導体化する少なくとも1つのさらなる工程を含む、態様1~17のいずれか1つの方法。
19. 非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つの工程、1つの態様において非主鎖共有結合を加水分解する少なくとも1つのさらなる工程を含む、態様1~18のいずれか1つの方法。
【0066】
20. 非主鎖共有結合を加水分解する前記の少なくとも1つのさらなる工程を、前記捕捉剤に結合した前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの主鎖共有結合を切断する工程の前に実行する、態様1~19のいずれか1つの方法。
【0067】
21. 非主鎖共有結合を加水分解する前記の少なくとも1つの工程またはさらなる工程を、前記分析物が前記捕捉剤に結合している間に実行する、態様1~20のいずれか1つの方法。
【0068】
22. 前記捕捉剤に結合した前記分析物の脱グリコシル化、1つの態様において酵素的脱グリコシル化の少なくとも1つの工程を含み;さらなる態様において、前記捕捉剤に結合した前記分析物の脱グリコシル化、1つの態様において酵素的脱グリコシル化の少なくとも1つのさらなる工程を含む、態様1~21のいずれか1つの方法。
【0069】
23. エンドグリコシダーゼ、1つの態様においてエンドF3と、前記分析物を接触させる工程を含み;さらなる態様において、エンドグリコシダーゼ、1つの態様においてエンドF3と、前記分析物を接触させるさらなる工程を含む、態様1~22のいずれか1つの方法。
【0070】
24. 前記検出が、さらなる化合物から、前記分析物の前記の少なくとも1つの断片を、1つの態様においてクロマトグラフィによって、さらなる態様において液体クロマトグラフィ(LC)によって、分離することを含む、態様1~23のいずれか1つの方法。
【0071】
25. 前記検出が、質量分析(MS)、1つの態様においてLCカップリング質量分析(LC-MS)によって、前記分析物またはその断片を検出することを含む、態様1~24のいずれか1つの方法。
【0072】
26. 前記検出が、多重反応監視(MRM)-MS、1つの態様においてMRM-LC-MSによって、前記分析物またはその断片を検出することを含む、態様1~25のいずれか1つの方法。
【0073】
27. i)分析物に結合する、1つの態様において特異的に結合する、捕捉剤;およびii)前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する剤を含む、キット。
【0074】
28. 前記捕捉剤が、分析物特異的アフィニティに基づく結合剤であり、1つの態様において、抗体、特にポリクローナルまたはモノクローナル抗体、アプタマー、および受容体からなるリストより選択される、態様27のキット。
【0075】
29. 前記捕捉剤が抗体またはその断片である、態様27または28のキット。
30. 前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する前記剤がプロテアーゼであり、1つの態様においてエンドペプチダーゼであり、さらなる態様においてトリプシンである、態様27~29のいずれか1つのキット。
【0076】
31. 少なくとも1つの固体支持体をさらに含む、態様27~30のいずれか1つのキット。
32. 前記分析物の少なくとも1つの非主鎖共有結合を切断する剤、1つの態様においてグリコシダーゼ、1つの態様においてエンドグリコシダーゼ、さらなる態様においてエンドF3をさらに含む、態様27~31のいずれか1つのキット。
【0077】
33. 前記分析物内および/または前記捕捉剤内の少なくとも1つの共有結合を切断する前記剤が、少なくとも1つの非主鎖共有結合を切断する剤であり、1つの態様においてグリコシダーゼであり、さらなる態様においてエンドグリコシダーゼであり、さらなる態様においてエンドF3である、態様27~32のいずれか1つのキット。
【0078】
34. 前記分析物を検出するため、分析物の断片を放出させるための酵素の使用であって、前記分析物が捕捉剤を通じて固体表面に結合している、前記使用。
35. 態様1~26のいずれか1つの方法の使用である、態様34の使用。
【0079】
36. 態様1~26のいずれか1つの工程、および決定した分析物の量を参照に比較し、それによって疾患を診断するさらなる工程を含む、疾患を診断するための方法。
37. 前記分析物がPSAであり、そして前記疾患が前立腺癌である、態様36の方法。
【0080】
本明細書に引用するすべての参考文献は、その全開示内容および本明細書に特に言及する開示内容に関して、本明細書に援用される。
【実施例】
【0081】
実施例1:材料
1.1 免疫濃縮
リン酸緩衝生理食塩水(PBS、カタログ番号P4417)はSigmaからであった。Roche総PSA Elecsys試験/アッセイ(Roche注文番号04641655190)の試薬1(R1)の構成要素として商業的に入手可能でもある、ビオチン化抗体断片MAK<PSA>M-36-Fab-Biモノを、例えばEZ-Link(登録商標)スルホ-NHS-LC-ビオチン化キット(Pierce)に記載されるような標準法にしたがって、社内で製造した(ロットBg01MP)。ストレプトアビジン充填ピペットチップMSIA D.A.R.T.’s、ストレプトアビジン(カタログ番号991STR11)、FinnipetteTM Novus iマルチチャネル電子およびピペットホルダー(カタログ番号991SP12)は、ThermoScientificからであった。PSA CalSetII(参照04485220190、ロット180 622-02)はRocheからであった。Deepwellプレート96/500μL Protein LoBind(カタログ番号051-321-7)はEppendorfからであった。
【0082】
1.2 エンド-脱グリコシル化および消化
トリフルオロ酢酸ULC/MS(TFA、カタログ番号0020234131BS、ロット1048611)氷酢酸(Cas.64-19-7、ロット704681)はBiosolveからであった。酢酸ナトリウム(カタログ番号1.06268.1000、ロットA0195768119)はMerckからであり、重炭酸アンモニウム(ABC、Cas.1066-33-7、ロット0902801004)はJ.T. Bakerからであり、トリプシン(カタログ番号T6567、ロットSLBH0629V)はSigmaから得られ、そしてエンドF3(カタログ番号E-EF03、ロット902.1A)はQA-Bioからであった。37℃でのインキュベーションを、EppendorfのThermomixer Cで実行するか、またはHeraeus instrumentsのインキュベーターB型6030を用いた。試料を、Eppendorfの濃縮装置5301中で乾燥させた。
【0083】
1.3 LC-MS
アセトニトリルULC/MS(ACN、Cas.75-05-8、ロット1076121)およびギ酸99% ULC/MS(カタログ番号0006914143BS、ロット1061561)はBiosolveからであった。クロマトグラフィ系は、バイナリ―ポンプ(G4220A)、カラムオーブン(G1316C)、オートサンプラー(G4226A)およびサーモスタット(G1330B)を含む、AgilentのInfinity 1290 HPLCであった。WatersのXbridgeアミドカラム(130A、3.5μm、2.1x100mm、部品番号186004860、シリアル番号01253526417909、ロット0125352641)を用いて、LC分離を実行した。MSは、AB SciexのTurbo VTMイオン供給源を含むQTRAP6500であった。
【0084】
実施例2:方法
2.1 試料、緩衝剤、および溶液の調製:
Milli-Q plusデバイス中で純水から水を精製した。検量用試料セットの凍結乾燥PSAを1000μl H2Oに溶解し、およそ60ng/mlのPSA濃度を含む血清溶液を生成した。PBS錠剤を200ml H2Oに溶解することによって、10mM PBSを作製した。4995μlの10mM PBS緩衝剤を、5μl Tween 20と混合した。6μl MAK<PSA>M-36-Fab-Biモノ(5.54mg/ml)を3316μl 10mM PBS緩衝剤で希釈することによって、0.01μg/μl MAK<PSA>M-36溶液を作製した。393mg ABCを50ml H2O中に溶解することによって、100mM ABC緩衝剤(pH7.8)を作製した。409mg酢酸ナトリウムを30ml H2Oに溶解し、氷酢酸でpH4.5に調整し、そして H2Oで50mlまで満たして、100mM酢酸ナトリウム緩衝剤(pH4.5)を生成した。20μgの凍結乾燥トリプシンを100μlの100mM ABC-緩衝剤に溶解した。0.2μg/μlおよび0.1μg/μlトリプシン溶液が得られるように、こうして生成した30μlのトリプシン溶液を30μlの100mM ABC緩衝剤で希釈した。1mlギ酸を1000ml H2Oに添加することによって、溶出剤Aを産生した。1mlギ酸を1000ml ACNに添加することによって、溶出剤Bを産生した。40ml ACN、60ml H2Oおよび400μl TFAを混合することによって、溶出緩衝剤を調製した。
【0085】
2.2 試料処理
2.2.1 免疫濃縮
Deepwellプレート96中に、表1の2~3列に示す体積を、工程1~6のためにピペッティングした。その後、表1の4列に示す体積を、自動的に、ストレプトアビジン充填ピペットチップで上下にピペッティングした。ピペッティングを、表1の5列に示す回数、反復した。
【0086】
表1:免疫濃縮
【0087】
【0088】
2.2.2 エンド脱グリコシル化および消化
2.2.1にしたがった免疫濃縮(捕捉複合体形成)後、エンド脱グリコシル化、その後、酵素的タンパク質分解を、以下のように、ストレプトアビジン充填ピペットチップ中で直接、または溶液中で、実行した:
溶液中での酵素処理
10μlの放出緩衝剤を20回、手動で上下にピペッティングすることによって、25μl溶出緩衝剤を用いて、ストレプトアビジン充填ピペットチップから分析物を溶出させた。この後、20μlの100mM ABC緩衝剤(pH7.8)、その後、2μlエンドF3(5単位/ml)を添加し、そして1000rpm、37℃で21時間、撹拌した。その後、40μlの100mM ABC緩衝剤(pH7.8)および5μlトリプシン(0.2μg/μl)を添加し、そして1000rpm、37℃で21時間、撹拌した。その後、試料を真空中で完全に乾燥させた(45℃、2時間)。乾燥した残渣を、40%溶出剤A(v/v)を含む25μl溶出剤B中に溶解し、そしてマイクロインサートを含むガラスバイアル中にトランスファーした。この処理の結果の分析の代表例を
図1に示す;PSAと診断される、およそ5.80分の溶出時間を持つ断片のみが検出された。
【0089】
ピペットチップ上での直接の酵素処理
0.5ml Lo-Bindチューブ内に、8μlの100mM酢酸ナトリウム(pH4.5)および2μlエンドF3(5単位/ml)をピペッティングした。生じた溶液を、手動でそして完全に、ストレプトアビジン充填ピペットチップ内に引き入れた。ピペットチップをLo-Bindチューブ中に立てたままにし、そしてインキュベーター中、37℃で21時間インキュベーションした。その後、緩衝剤175μlを20回上下に自動的にピペッティングすることによって、ピペットチップを200μlの100mM ABC緩衝剤(pH7.8)で洗浄した。その後、10μlトリプシン(0.1μg/μl)を、マイクロインサートを含むガラスバイアル内にピペッティングし、そしてピペットチップ内に手動でそして完全に引き入れた。ピペットチップをガラスバイアル中に立てたままにし、そしてインキュベーター中、37℃で21時間インキュベーションした。その後、ピペットチップの内容物を、完全にマイクロインサート内にトランスファーし、そして溶液10μlを20回上下に手動でピペッティングすることによって、ピペットチップを、10%溶出剤Aを含む20μlの溶出剤Bで洗浄した。洗浄溶液をマイクロインサートの内容物と合わせた。この処理の結果の分析の代表例を
図2に示す;どちらもPSAと診断される、およそ5.80分の溶出時間を持つ断片、およびおよそ8.15分の溶出時間を持つさらなる断片が検出された。
【0090】
実施例3:LC-MS
3.1 HPLC条件
流速は0.3ml/分であり、そして勾配開始時の溶出液Aの比率は10%であり;10分以内に、溶出剤Aの比率を50%に増加させた。さらに0.1分後、溶出剤Aの比率を70%に増加させ、そして3.9分間維持した。その後、溶出剤Aの比率を0.1分以内に10%に減少させ、そしてさらに5.9分間維持した。注入体積は20μlであり、そしてカラムオーブン温度は50℃であった。
【0091】
3.2 MS条件
製造者の指示にしたがって、AB Sciexのポリプロピレングリコール、ES調整混合物および調整混合物溶媒を用いて、MSデバイスを調整し、そして較正した。Q1およびQ3の解像度を、10Da/sのスキャンスピードで、最大半量の0.7±0.1amuピーク半値全幅に調整した。陽イオン化モードで、測定を実行した。供給源パラメータを表2に要約し、そして分析物特異的パラメータを表3に要約する。MRM遷移間の待ち時間は5msであった。
【0092】
表2:供給源パラメータ
【0093】
【0094】
表3:分析物特異的パラメータ
【0095】
【0096】
実施例4:データ獲得および分析
AB SciexのAnalystソフトウェア1.6.2を用い、3の幅スムージング係数を用いて、装置制御、データ獲得およびプロセシング、ならびに分析を実行した。IntelliQuan積分アルゴリズムで、ピーク積分を自動的に実行した。
【配列表】