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7128844流動接触分解触媒用添加物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】流動接触分解触媒用添加物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/40 20060101AFI20220824BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20220824BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220824BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B01J29/40 M
B01J37/04 102
B01J37/08
C10G11/18
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019561574
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046787
(87)【国際公開番号】W WO2019131381
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017253647
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 由佳
(72)【発明者】
【氏名】濱田 玲
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-534485(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107303503(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0131419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 33/20 - 39/54
C10G 11/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタシル型ゼオライトおよび無機酸化物マトリックスを含む流動接触分解触媒用添加物であって、
前記ペンタシル型ゼオライトの量が10~60質量%であり、
リンをP25の質量に換算して5~20質量%含み、
前記無機酸化物マトリックスがアルミナ成分を、Al23に換算したアルミニウムの量が2~20質量%(ただし、前記添加物の量を100質量%とする。)となる量で含み、
下記式(1):
0.02≦P(-25ppm)/P(-30ppm)≦0.40
…(1)
〔式中、P(-25ppm)およびP(-30ppm)は、それぞれ31P-NMR測定における-25ppmのピーク面積比率および-30ppmのピーク面積比率である。〕
が満たされる
流動接触分解触媒用添加物。
【請求項2】
ペンタシル型ゼオライト、
リンを含むバインダー原料、
ギブサイトおよびギブサイトの焼成物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミナ成分、
無機酸化物(ただし、前記アルミナ成分を除く。)からなる増量材、および
分散媒
を含むスラリーであって、
前記ペンタシル型ゼオライトの量が10~60質量%であり、
前記リンを含むバインダー原料の量が、P25の質量に換算したリンの量が5~20質量%となる量であり、
前記アルミナ成分の量が、Al23の質量に換算したアルミニウムの量が2~20質量%となる量である
スラリー(ただし、前記スラリーの固形分の量を100質量%とする。)を、噴霧乾燥して粉末を得て、
前記粉末を150℃以上/時間の昇温速度で加熱し、次いで500~750℃で熱処理する
流動接触分解触媒用添加物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解(以下「FCC」ともいう。)において、ガソリンのオクタン価を高め、低級オレフィンの生産量を増加させるために流動接触分解触媒(以下「FCC触媒」ともいう。)と共に使用される添加物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所の流動接触分解装置(以下「FCC装置」ともいう。)では、原料炭化水素油を接触分解してガソリン留分を製造することが主目的であり、ガソリンは高オクタン価であることが望まれている。また、製油所によっては、FCC装置で原料炭化水素油を接触分解してガソリン留分を生成すると同時に、石油化学原料である低級オレフィン、特に、プロピレン、ブテンの生産量を高めることが要求される場合がある。
【0003】
この要求に応えるべく、FCCに使用される触媒に、ZSM-5型ゼオライトなどのペンタシル型ゼオライトを含有する組成物(アディティブ触媒ともいう。)を添加してFCCを行う方法が種々提案されている。
【0004】
このような添加剤として、たとえば特許文献1には、ペンタシル型ゼオライトおよび無機酸化物マトリックスからなる組成物であって、細孔直径が100nm程度のマクロ細孔を多く有するものが開示されている。特許文献2には、ペンタシル型ゼオライト、多孔性無機酸化物および五酸化リンからなる粒子である組成物であって、粒子の中心部分よりも表面部分の五酸化リンの含有量が多いものが開示されている。特許文献3には、プロピレン等の生産量を高めることのできる添加剤として、ZSM-5等のゼオライト、リン酸塩、粘土、およびシリカを含むバインダーを含むFCC触媒添加物が開示されている。さらに特許文献4には、所定の特性を有する変性ZSM-5型ゼオライトと、充填材と、バインダーとを含有するFCC触媒添加物が開示されている。
【0005】
また特許文献5には、ゼオライト量を多く含み、かつリンおよびアルミナを含む、耐摩損性に優れた触媒が開示され、この触媒は、FCC法において触媒に添加して使用することができる。さらに特許文献6には、ゼオライト、カオリン、リン化合物、高密度の非反応性成分および任意に反応性アルミナを含むFCC触媒が開示され、この触媒は大孔径分子ふるい成分を使用する分解工程に対する添加剤としても適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-270851号公報
【文献】特開2007-244964号公報
【文献】特表2014-527459号公報
【文献】国際公開第2017/82345号
【文献】特表2002-537976号公報
【文献】特表2007-534485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接触分解される原料炭化水素油が、特に常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油などの重質炭化水素油である場合には、原料炭化水素油にはバナジウムおよびニッケルなどの重金属が多く含まれる。バナジウムは、ゼオライトからの脱アルミニウムを促進し、その結晶構造を破壊させ、活性を低下させてしまう。また、ニッケルは、脱水素活性が高いためコークを多く生成させ、このコークは、FCC触媒の活性点を被毒するほか、FCC触媒を再生させる際に発熱してゼオライトの劣化を促進する。
【0008】
従来のFCC触媒用添加物には、接触分解される原料炭化水素油が重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得るという観点から、さらなる改善の余地があった。
【0009】
このような問題点に鑑み、本発明は、FCCにおいてFCC触媒と共に使用されるFCC触媒用添加物であって、原料炭化水素油がバナジウム、ニッケル等の重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得ることのできるFCC触媒用添加物(アディティブ触媒)、およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕
ペンタシル型ゼオライトおよび無機酸化物マトリックスを含む流動接触分解触媒用添加物であって、
前記ペンタシル型ゼオライトの量が10~60質量%であり、
リンをP25の質量に換算して5~20質量%含み、
前記無機酸化物マトリックスがアルミナ成分を、Al23に換算したアルミニウムの量が2~20質量%(ただし、前記添加物の量を100質量%とする。)となる量で含み、
下記式(1):
0.02≦P(-25ppm)/P(-30ppm)≦0.40
…(1)
〔式中、P(-25ppm)およびP(-30ppm)は、それぞれ31P-NMR測定における-25ppmのピーク面積比率および-30ppmのピーク面積比率である。〕
が満たされる
流動接触分解触媒用添加物。
【0011】
〔2〕
ペンタシル型ゼオライト、
リンを含むバインダー原料、
ギブサイトおよびギブサイトの焼成物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミナ成分、
無機酸化物(ただし、前記アルミナ成分を除く。)からなる増量材、および
分散媒
を含むスラリーであって、
前記ペンタシル型ゼオライトの量が10~60質量%であり、
前記リンを含むバインダー原料の量が、P25の質量に換算したリンの量が5~20質量%となる量であり、
前記アルミナ成分の量が、Al23の質量に換算したアルミニウムの量が2~20質量%となる量である
スラリー(ただし、前記スラリーの固形分の量を100質量%とする。)を、噴霧乾燥して粉末を得て、
前記粉末を150℃以上/時間の昇温速度で加熱し、次いで500~750℃で熱処理する
流動接触分解触媒用添加物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のFCC触媒用添加物によれば、原料炭化水素油がバナジウム、ニッケル等の重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、原料炭化水素油がバナジウム、ニッケル等の重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得ることのできるFCC触媒用添加物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[FCC触媒用添加物]
本発明に係るFCC触媒用添加物は、
ペンタシル型ゼオライトおよび無機酸化物マトリックスを含む流動接触分解触媒用添加物であって、
前記ペンタシル型ゼオライトの量が10~60質量%であり、
リンをP25の質量に換算して5~20質量%含み、
前記無機酸化物マトリックスがアルミナ成分を、Al23に換算したアルミニウムの量が2~20質量%(ただし、前記添加物の量を100質量%とする。)となる量で含み、
下記式(1):
0.02≦P(-25ppm)/P(-30ppm)≦0.40
…(1)
〔式中、P(-25ppm)およびP(-30ppm)は、それぞれ31P-NMR測定における-25ppmのピーク面積比率および-30ppmのピーク面積比率である。〕
が満たされる
ことを特徴としている。
【0014】
前記ペンタシル型ゼオライトは前記無機酸化物マトリックス中に分散している。
前記ペンタシル型ゼオライトの例としては、ZSM-5、ZSM-11、ZSM-12、ZSM-22、ZSM-23、ZSM-35、ZSM-38、ZSM-48が挙げられる。ZSM-5は、酸強度の高い固体酸を有し、高い形状選択性を示すため、ガソリンのオクタン価および低級オレフィンの収率を高める効果が大きいので、特に好ましい。
【0015】
本発明のFCC触媒用添加物中の前記ペンタシル型ゼオライトの量は、プロピレン等の低級オレフィンの収率を高める観点から10質量%以上、好ましくは30質量%以上であり、過分解によって目的とする低級オレフィン生成量を低下させない観点や、実際に使用できる範囲の物性(たとえば、成形性または耐摩耗性)を維持する観点から60質量%以下、好ましくは50質量%以下である。
【0016】
前記ペンタシル型ゼオライトに含まれるケイ素とアルミニウムとの割合は、SiO2とAl23との質量比(SiO2の質量/Al23の質量)に換算すると、好ましくは25~100である。
【0017】
前記質量比が25以上であると、ペンタシル型ゼオライト上の酸密度が高過ぎないため、原料炭化水素油の過分解を防ぎ、目的とする低級オレフィンの収率を高めることができる。また、前記質量比が100以下であると、ペンタシル型ゼオライト上の酸密度が適度であるため、原料炭化水素油の分解活性が優れる。
【0018】
ペンタシル型ゼオライトの一次粒子径は、好ましくは0.3~5μmである。
この一次粒子径とは、後述する実施例で採用した方法で測定されるメジアン径(D50)である。
【0019】
前記ペンタシル型ゼオライトの一次粒子径は、FCC触媒用添加物の耐水熱性が低下して低級オレフィンの収率が低下することを防ぐ観点からは、またFCC触媒用添加物内で前記ペンタシル型ゼオライト粒子間の空隙が増加して、ABDが低下したりやアトリッションが悪化したりすることを防ぐ観点からは、好ましくは0.3μm以上である。
【0020】
また、前記ペンタシル型ゼオライトの一次粒子径は、FCC触媒用添加物の粒子内でのゼオライトの固体酸または細孔による反応場の分散性の低下による触媒活性の低下を防ぐ観点からは、好ましくは5μm以下である。
【0021】
前記無機酸化物マトリックスは、FCC触媒用添加物中の各成分を結合するバインダーを含んでおり、このバインダーはリンを含む酸化物からなり、好ましくはリンおよびアルミニウムを含む酸化物からなる。
【0022】
FCC触媒用添加物中のリンの量は、五酸化二リン(P25)の量に換算すると、5質量%以上、好ましくは7質量%以上である。リンの量は、後述する実施例で採用した条件下でのICP発光分光分析法により測定することができる。リンの量がこの範囲にあると、FCC触媒用添加物は、バインダーがペンタシル型ゼオライトとアルミナ成分とカオリン等の増量材とを結合する力が大きいため耐摩耗性に優れ、さらに、ペンタシル型ゼオライトの水熱安定性が保たれることから、炭化水素油の接触分解においてプロピレン等の低級オレフィンの収率を高めることができる。また、リンの量は、前記基準で、20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。リンの量がこの範囲にあると、FCC触媒用添加物の細孔容積が小さ過ぎず、細孔内で反応物が拡散され、炭化水素油の接触分解においてプロピレン等の低級オレフィンの収率を高めることができる。
【0023】
前記無機酸化物マトリックスは、アルミナ成分を含んでいる。このアルミナ成分は、好ましくは、ギブサイト(水酸化アルミニウムの一種)およびギブサイトの焼成物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミナ成分に後述する熱処理を施して得られる。
【0024】
本発明のFCC触媒用添加物は、前記無機酸化物マトリックス中に前記アルミナ成分を、Al23に換算したアルミニウムの量が2~20質量%、好ましくは2.5~15質量%となる量で含んでいる(ただし、FCC触媒用添加物の量を100質量%とする。)。前記アルミナ成分の量が上記範囲にあると、FCCの際にメタル(原料炭化水素油に含まれるバナジウムおよびニッケルなどの重金属)被毒によるプロピレン収率の低下を十分に抑制でき、実用上使用可能な範囲の触媒物性(たとえば、成形性または耐摩耗性)を維持できる。
【0025】
前記無機酸化物マトリックスは、バインダーとして、上述したリンおよびアルミニウムを含む酸化物以外の任意のバインダーを含んでいてもよい。任意のバインダーとしては、シリカ、シリカ-マグネシア、チタニア、ジルコニア、シリカ-ジルコニアおよび珪酸カルシウムなどの無機酸化物が挙げられる。
本発明のFCC触媒用添加物に含まれる任意のバインダーの量は、好ましくは5~25質量%、より好ましくは10~15質量%である。
【0026】
また、前記無機酸化物マトリックスは、FCC触媒用添加物に通常配合される無機酸化物からなる増量材を含んでいる。増量材としては、たとえばカオリン、ベントナイト、およびハロイサイトなどの粘土鉱物が挙げられ、カオリンが特に好ましい。増量材は、これらの粘土鉱物の熱処理物であってもよい。
【0027】
本発明のFCC触媒用添加物に含まれる増量材の量は、FCC触媒用添加物の量から前記ペンタシル型ゼオライト、前記バインダーおよび前記アルミナ成分の合計量を差し引いた量である。
【0028】
本発明のFCC触媒用添加物は、下記式(1):
0.02≦P(-25ppm)/P(-30ppm)≦0.40
…(1)
を満たす。
式(1)中、P(-25ppm)およびP(-30ppm)は、それぞれ31P-NMR測定における-25ppmのピーク面積比率および-30ppmのピーク面積比率であり、その詳細は以下のとおりである。
【0029】
FCC触媒用添加物を直径3.2mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、試料管を、NMR装置(磁場強度:14.1T(1H共鳴周波数:600MHz))にセットし、外部磁場に対してマジック角(54.7°)で、20kHzで回転させる。化学シフト二次基準として、NH42PO4のピークを1ppmとする。シングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を90°、パルス繰り返し時間を11.5秒に設定する。
【0030】
得られたスペクトルを、以下のように解析する。まず、スペクトルのベースライン補正を行う。次に化学シフトが約-6ppm、-18ppm、-25ppm、-30ppm、-37ppmの5つのピークを、フォークト関数に分離する。すべての関数の面積強度を計算し、化学シフトが約-25ppmのピークの面積強度(P(-25ppm))と、化学シフトが約-30ppmのピークの面積強度(P(-30ppm))との比率を計算する。
【0031】
化学シフトが約-25ppmのピークは、ギブサイトまたはギブサイトの焼成物とリン成分を含有するバインダー原料との反応によって生成するベルリナイトに帰属され、化学シフトが約-30ppmのピークは、アモルファスリン酸アルミ等に帰属される。
【0032】
上記式(1)は、後述する製造方法によりFCC触媒用添加物を製造する際の、アルミナ成分とリン成分を含有するバインダー原料との反応性を示す指標であり、この値が大きい程、アルミナ成分がリン成分を含有するバインダー原料とより多く反応していることを意味する。
【0033】
前記P(-25ppm)/P(-30ppm)の値は、0.02~0.40、好ましくは0.02~0.35、より好ましくは0.02~0.30、さらに好ましくは0.02~0.25、特に好ましくは0.02~0.20である。前記P(-25ppm)/P(-30ppm)が0.02よりも小さいと、FCC触媒用添加物の重金属への耐性が低下してしまう場合がある。
【0034】
前記P(-25ppm)/P(-30ppm)の値は、たとえば後述するFCC触媒用添加物の製造方法において、焼成時の昇温速度を高くすることにより、アルミナ成分として粒子径の大きなものを用いることにより、あるいは、アルミナ成分としてナトリウム含有量が高いものを使用することにより小さくすることができる。
【0035】
リンの量およびアルミナ成分の量がそれぞれ上記範囲にあり、かつ上記式(1)が満たされることにより、無機酸化物マトリックス中のアルミナ成分中のアルミニウムが金属捕捉剤として優れた効果を発揮し、その結果、FCCにおいて原料炭化水素油がバナジウム、ニッケル等の重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得ることができると考えられる。
【0036】
本発明のFCC触媒用添加物の、BJH法により測定される細孔径2~50nmの範囲の細孔容積は、好ましくは0.03ml/g以上であり、その上限値は、たとえば0.08ml/gであってもよい。
【0037】
前記細孔容積が前記範囲内にあると、FCCにおいて原料炭化水素油がバナジウム、ニッケル等の重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得ることができる。
【0038】
本発明のFCC触媒用添加物は、好ましくは下記式(A):
Al(9ppm)/Al(T)≧0.10 …(A)
を満たす。
式(A)中、Al(9ppm)およびAl(T)は、それぞれ27Al-NMR測定における約9ppmのピーク面積比率、および-30ppmから80ppmの範囲の全ピーク面積の和であり、その詳細は以下のとおりである。
【0039】
FCC触媒用添加物を直径3.2mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、試料管を、NMR装置(磁場強度:14.1T(1H共鳴周波数:600MHz))にセットし、外部磁場に対してマジック角(54.7°)で、20kHzで回転させる。化学シフト基準として、1mol/L Al(NO33水溶液のピークを0ppmとする。シングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を10°、パルス繰り返し時間を0.1秒に設定する。
【0040】
得られたスペクトルを、以下のように解析する。まず、スペクトルのベースライン補正を行う。次に化学シフトが約-9ppm、約0ppm、約9ppm、約27ppm、約40ppm、約55ppm、約60ppmの7つのピークを、フォークト関数に分離する。すべての関数の面積強度を計算し、化学シフトが約9ppmのピークの面積強度(Al(9ppm))と、すべての関数の面積強度の総和(Al(T))との比率を計算する。
【0041】
化学シフトが約9ppmのピークは6配位Alに帰属される。このピークは、たとえば後述する製造方法において添加されるギブサイト等のアルミナ成分に由来するものであり、アルミナ成分の添加量が多い程、また、触媒中に含まれる後述する製造方法においてリンを含有するバインダー原料とアルミナ成分との反応が少ない程、ピーク面積は大きくなり、式(A)も高い値を示す。
【0042】
本発明に係るFCC触媒用添加物は、通常、微小球状粒子形状を有している。前記FCC触媒用添加物は、FCC装置で使用されるガソリン生成を目的としたフォージャサイト型ゼオライトを含有するFCC触媒と混合して使用するため、前記FCC触媒用添加物の粒子の大きさは、好ましくは通常のFCC触媒と同程度か、または、それより大きい。
【0043】
後述する実施例で採用した条件下でレーザー回折・散乱法により測定される前記微小球状粒子の平均粒子径は、好ましくは40~140μm、より好ましくは60~120μmである。
【0044】
[FCC触媒用添加物の製造方法]
本発明に係るFCC触媒用添加物の製造方法は、
ペンタシル型ゼオライト、
リンを含むバインダー原料、
ギブサイトおよびギブサイトの焼成物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミナ成分、
無機酸化物(ただし、前記アルミナ成分を除く。)からなる増量材、および
分散媒
を含むスラリーであって、
前記ペンタシル型ゼオライトの量が10~60質量%であり、
前記リンを含むバインダー原料の量が、P25の質量に換算したリンの量が5~20質量%となる量であり、
前記アルミナ成分の量が、Al23の質量に換算したアルミニウムの量が2~20質量%となる量である
スラリー(ただし、前記スラリーの固形分(すなわち、分散媒以外の成分)の量を100質量%とする。)を、噴霧乾燥して粉末を得て、
前記粉末を150℃以上/時間の昇温速度で加熱し、次いで500~750℃で熱処理する
ことを特徴としている。
【0045】
前記ペンタシル型ゼオライトの具体的態様、および好ましい態様は前述のとおりである。
前記ペンタシル型ゼオライトの量は、プロピレン等の低級オレフィンの収率が高いFCC触媒用添加物を得る観点から10質量%以上、好ましくは30質量%以上であり、原料炭化水素油の過分解によって目的とする低級オレフィン生成量を低下させないFCC触媒用添加物を得る観点から60質量%以下、好ましくは50質量%以下である(ただし、前記スラリーの分散媒以外の成分の合計量を100質量%とする。)。
【0046】
前記リンを含むバインダー原料としては、加熱(たとえば500~750℃)によりリン酸イオン(PO4 3-)を発生させる化合物が好ましい。前記リンを含むバインダー原料としては、リン、アルミニウムおよび酸素を含有する化合物が好ましく、このような化合物としては、リン酸二水素アルミニウム(Al(H2PO43)、リン酸水素アルミニウム(Al2(HPO43)、リン酸アルミニウム(AlPO4)が挙げられ、硬化結合性またはゼオライトと反応性が高いという観点からリン酸二水素アルミニウム(Al(H2PO43)が好ましい。これらの化合物は、1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。前記リンを含むバインダー原料は、好ましくは主成分(70質量%以上を占める成分)としてリン酸二水素アルミニウムを含む。
【0047】
前記リンを含むバインダー原料として、その水溶液を使用してもよい。前記水溶液として、市販品であれば、リン酸二水素アルミニウム(Al(H2PO43)水溶液(銘柄:50L、100L、アシドホス120M、多木化学(株)製)、などが挙げられる。
【0048】
前記リンを含むバインダー原料は、リンの量が五酸化二リン(P25)に換算して5~20質量%、好ましくは6~15質量%となる量(ただし、前記スラリーの分散媒以外の成分の合計量を100質量%とする。)で用いられる。リンの量が前記範囲にあると、5質量%以上であると、耐摩耗性に優れ、炭化水素油の接触分解においてプロピレン等の低級オレフィンを高収率で得ることのできるFCC触媒用添加物を製造することができる。
【0049】
前記スラリーには、前記バインダー原料以外の任意のバインダーを含んでいてもよく、その具体的態様は前述のとおりである。
ギブサイトおよびギブサイトの焼成物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミナ成分を添加すると、他の形態のアルミナ、たとえばアルミナ一水和物であるベーマイトが添加された場合と比べて、得られるFCC触媒用添加物は、耐水熱性や耐メタル性が高くバナジウムやニッケル等の堆積が多い場合においても低級オレフィン収率が高い。その理由としては、ギブサイト型等の前記アルミナ成分はリン源との反応性が低く、さらに触媒内に前記アルミナ成分由来のメソ細孔を生成でき、バナジウムやニッケル等の重金属をトラップする反応場をより多く付与できるためであると推測される。
【0050】
前記ギブサイトの焼成物としては、χ-アルミナを含む焼成物、ギブサイトを150℃(好ましくは180℃)/時間以上の昇温速度で加熱し、500~750℃(好ましくは550~700℃)で好ましくは0.2~5.0時間(より好ましくは0.5~2.0時間)熱処理を施したものなどが挙げられる。
【0051】
前記アルミナ成分は、Al23に換算したアルミニウムの量が2~20質量%、好ましくは2.5~15質量%となる量(ただし、前記スラリーの分散媒以外の成分の合計量を100質量%とする。)で用いられる。アルミナ成分の量が前記範囲内にあると、FCCの際にメタル被毒によるプロピレン等の低級オレフィンの収率の低下を十分に抑制でき、実用上使用可能な範囲の触媒物性(たとえば、成形性または耐摩耗性)を維持できる。
【0052】
前記アルミナ成分の、後述する実施例で採用された方法により測定される平均粒子径は、好ましくは2~50μm、より好ましくは5~30μmである。平均粒子径が上記範囲にあるとFCC触媒用添加物内にアルミナ成分の粒子を十分拡散させることができ、さらにアルミナ成分とリンを含むバインダー原料との副反応を抑制し、バナジウムやニッケル等のメタル成分をトラップする反応場を多く形成できる。一方、この範囲を過度に超えると実用上求められる特性(たとえば、成形性または耐摩耗性)に支障をきたす恐れがある
【0053】
前記ギブサイトとしては、市販品であれば、「C-303」、「C-301N」、「CL-303」(住友化学(株)製)、「B-316」(銘柄名、アルモリックス社製)、などが挙げられる。また前記ギブサイトの焼成物としては、市販品であれば、POLOCEL製「AP-22」などが挙げられる。
【0054】
無機酸化物からなる増量材の具体的態様、および好ましい態様は前述のとおりである。
前記増量材の量は、スラリーの分散媒以外の成分の合計量から前記ペンタシル型ゼオライト、前記リンおよびアルミニウムを含むバインダー原料および前記任意のバインダー原料の合計量を差し引いた量である。
前記分散媒としては、水が好ましい。
【0055】
本発明の製造方法では、まず、前記ペンタシル型ゼオライト、前記リンを含むバインダー原料、前記ギブサイト型水酸化アルミニウム、前記増量材、および前記分散媒、ならびに必要に応じて前記任意のバインダー原料を混合してスラリーを調製する。スラリーの調製には、従来公知の方法を適用することができる。前記スラリーの固形分濃度は、噴霧乾燥の操作の観点から、好ましくは25~50質量%程度である。
【0056】
次に、前記スラリーを噴霧乾燥して粉末を得て、この粉末を150℃/時間以上、好ましくは180℃/時間以上の昇温速度で加熱する。昇温速度が前記下限値よりも小さいと、前記アルミナ成分と前記リンを含むバインダー原料との反応が過度に進行してしまい、FCC触媒用添加物の重金属被毒によりプロピレン等の低級オレフィンの収率が低下してしまう場合がある。昇温速度の上限は、昇温装置にもよるが、たとえば800℃/時間であってもよい。
【0057】
次いで500~750℃、好ましくは550~700℃の温度で、好ましくは0.2~5.0時間、より好ましくは0.5~2.0時間熱処理を行うことにより、FCC触媒用添加物が得られる。
【0058】
噴霧乾燥の条件は、たとえば以下のとおりである。
スプレー入口温度:200~450℃
出口温度:110~350℃
噴霧乾燥により得られた粉末は、常温(たとえば0~40℃)にまで放冷した後、分級して、平均粒子径をたとえば40~140μm、好ましくは60~120μmに調整してから熱処理に供してもよい。
【0059】
噴霧乾燥された粉末を上記の条件で熱処理することによって、添加したアルミナ成分とリンを含むバインダー原料との反応を抑制でき、得られたFCC触媒用添加物は、アルミナ成分の表面にバナジウムやニッケル等の重金属をトラップする反応場が多く形成され、高いメタル耐性を示すと推測される。
【0060】
前記熱処理は、リンを含むバインダー原料をより拡散させ、ゼオライト酸点の修飾を促進させ、さらにはポリリン酸によるゼオライト細孔の閉塞を抑制する観点から、好ましくは水蒸気雰囲気下で行われる。
【0061】
[FCC触媒用添加物の使用方法]
本発明に係るFCC触媒用添加物(「アディティブ触媒」ともいう。)は、FCC装置での炭化水素油の流動接触分解において、フォージャサイト型ゼオライトを含有するFCC触媒に混合して使用される。
【0062】
フォージャサイト型ゼオライトを含有するFCC触媒としては、FCC装置で使用される通常のFCC触媒が使用可能である。この様なFCC触媒としては、市販のFCC触媒、例えば、DCT、ACZ、CVZ(いずれも日揮触媒化成(株)製の製品の商標または登録商標)などが例示される。
【0063】
FCC触媒用添加物の量は、FCC触媒用添加物およびFCC触媒の合計量を100質量%とすると、FCCにおいて原料炭化水素油が重金属を多く含む場合であっても高い収率でプロピレン等の低級オレフィンを得る観点からは、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、原料炭化水素油の分解活性の観点からは、一般的には30質量%以下で使用されるが、ライトオレフィン類を増産させる新規プロセスなどでは60質量%まで添加してもよい。
【0064】
本発明に係るFCC触媒用添加物が使用される炭化水素油の流動接触分解プロセスでは、FCC触媒用添加物として本発明に係るFCC触媒用添加物が使用される点を除いて、通常のFCC装置における炭化水素油の流動接触分解条件を採用することができる。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
特開2011-213525号公報の実施例1に従って製造したZSM-5型ゼオライトを、純水に懸濁させ、ビーズミルにより平均粒子径が2.5μmになるまで粉砕し、ZSM-5型ゼオライト濃度が25質量%のスラリー(以下「ZSM-5粉砕スラリー」ともいう。)を調製した。このZSM-5粉砕スラリー2,400g(ZSM-5型ゼオライトの質量が目的物(触媒用添加物。以下同様)の質量(1,500g)を基準として40質量%(600g)となる量)秤量し、ZSM-5粉砕スラリーのpHが9.0になるまで15%アンモニウム水溶液を添加した。これにカオリン 651.0g(脱水後の質量が、目的物の質量を基準として36.5質量%(547.5g)となる量)を混合し、ギブサイト(ギブサイト型水酸化アルミニウム)(住友化学(株)製「C-303」、メジアン径5.3μm)225.2g(Al23の質量に換算したアルミニウムの質量が、目的物の質量を基準として10.0質量%(150g)となる量)を混合し、ホモジナイザーにてスラリーの分散処理を実施した。得られたスラリーにアルミニウムをAl23に換算して8.5質量%、リンをP25に換算して33.5質量%含むリン酸二水素アルミニウム(Al(H2PO43)を含む水溶液(多木化学(株)製「100L」)を482.1g(P25の質量に換算したリンの質量が、目的物の質量を基準として10.8質量%(162g)となる量)となるように加え、さらに、スラリーの濃度が(目的物の濃度に換算して)約35質量%となるように純水を527.3g加えて、濃度が約35質量%のスラリー(以下「混合スラリー」といもいう。)を得た。この混合スラリーを噴霧乾燥(スプレー入口温度:250~260℃、出口温度:150℃)し、得られた粒子を、25℃程度にまで放冷した後、目開き212μmの篩にて分級して平均粒子径84μmの微小球状粒子を調製した。この微小球状粒子150gを、小型回転炉を使用して、焼成容器(容積:6.2L)に入れて昇温速度300℃/時間で600℃まで昇温し、600℃で30分間焼成し、FCC触媒用添加物Aを得た。容器内は100%スチーム雰囲気にするため、焼成容器内部の温度が150℃に達してから600℃保持が終了するまで水を1.0g/分の速度で添加した。FCC触媒用添加物Aの物性等を表1に示す。
【0066】
[実施例2]
カオリン、ギブサイト型水酸化アルミニウム、およびリン酸二水素アルミニウム水溶液の量を、それぞれ740.2g(脱水後の質量が、目的物の質量(1,500g)を基準として41.5質量%となる量)、112.6g(Al23の質量に換算したアルミニウムの質量が、目的物の質量を基準として5質量%となる量)、および446.4g(P25の質量に換算したリンの質量が、目的物の質量を基準として10.0質量%となる量)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Bを得た。FCC触媒用添加物Bの物性等を表1に示す。
【0067】
[実施例3]
ギブサイト型水酸化アルミニウムの種類を住友化学(株)製「C-301N」(メジアン径2.5μm)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Cを得た。FCC触媒用添加物Cの物性等を表1に示す。
【0068】
[実施例4]
ギブサイト型水酸化アルミニウムの種類をアルモリックス(株)製「B-316」(メジアン径17.4μm)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Dを得た。FCC触媒用添加物Dの物性等を表1に示す。
【0069】
[実施例5]
ギブサイト型水酸化アルミニウムの種類を住友化学(株)製「CL-303」、(メジアン径5.6μm、Na2O含有量0.19重量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Eを得た。FCC触媒用添加物Eの物性等を表1に示す。
【0070】
[実施例6]
水酸化アルミニウムの種類をギブサイトの焼成物(結晶相はχ-アルミナ)(POROCEL製「AP-22」)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Fを得た。FCC触媒用添加物Fの物性等を表1に示す。
【0071】
[実施例7]
ZSM-5粉砕スラリーの量を1,800g(ZSM-5型ゼオライトの質量が目的物の質量(1,500g)を基準として30.0質量%(450g)となる量)に変更したこと、カオリンおよびリン酸二水素アルミニウム水溶液の量を、それぞれ891.7g(脱水後の質量が、目的物の質量(1,500g)を基準として50.0質量%となる量)、358.2g(P25の質量に換算したリンの質量が、目的物の質量を基準として8.0質量%となる量)に変更したこと、ならびに混合スラリーの濃度調整用に加える純水の量を1010.6gに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Gを得た。FCC触媒用添加物Gの物性等を表1に示す。
【0072】
[実施例8]
ZSM-5粉砕スラリーの量を3,000g(ZSM-5型ゼオライトの質量が目的物の質量(1,500g)を基準として50質量%(750g)となる量)に変更したこと、ならびにカオリン、およびリン酸二水素アルミニウム水溶液の量を、それぞれ413.8g(脱水後の質量が、目的物の質量(1,500g)を基準として23.2質量%となる量)および604.5g(P25の質量に換算したリンの質量が、目的物の質量を基準として13.5質量%となる量)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Hを得た。FCC触媒用添加物Hの物性等を表1に示す。
【0073】
[実施例9]
カオリンおよびギブサイト型水酸化アルミニウムの量を、それぞれ561.8g(脱水後の質量が、目的物の質量(1,500g)を基準として31.5質量%となる量)、および337.8g(Al23の質量に換算したアルミニウムの質量が、目的物の質量を基準として15.0質量%となる量)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Iを得た。FCC触媒用添加物Iの物性等を表1に示す。
【0074】
[比較例1]
昇温速度を100℃/時間に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Jを得た。FCC触媒用添加物Jの物性等を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
ギブサイト型水酸化アルミニウムを使用せず、カオリン、およびリン酸二水素アルミニウム水溶液の量を、それぞれ847.2g(脱水後の質量が、目的物の質量(1,500g)を基準として47.5質量%となる量)、および446.4g(P25の質量に換算したリンの質量が、目的物の質量を基準として10.0質量%となる量)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Kを得た。FCC触媒用添加物Kの物性等を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
ギブサイト型水酸化アルミニウムに替えて、83.0質量%のベーマイト型水酸化アルミニウム(Sasol製「CATAPAL 200」)90.4g(Al23の質量に換算したアルミニウムの質量が、目的物の質量(1,500g)を基準として5質量%となる量)を使用し、カオリン、および第一リン酸アルミニウム水溶液の量を、それぞれ758.0g(目的物の質量を基準として42.5質量%となる量)、および446.4g(目的物の質量を基準として12.5質量%となる量)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、FCC触媒用添加物Lを得た。FCC触媒用添加物Lの物性等を表1に示す。
【0077】
[比較例4]
特表2002-537976号公報の実施例1の試料Bの調製方法の記載に従ってFCC触媒用添加物Kを調製した。具体的には、800g(乾燥基準)のZSM-5、830g(乾燥基準)のカオリン、130g(Al23換算、乾燥基準)のCATAPAL B(Sasol製)、390gの85%H3PO4水溶液、および純水を混合し、固形分濃度45%の混合スラリーを得た。混合スラリーは十分に撹拌し、実施例1と同様の条件にて噴霧乾燥し、微小球状粒子を調製した。得られた微小球状粒子を、静置し、昇温速度300℃/時間で530℃まで昇温し、530℃で2時間焼成し、FCC触媒用添加物Mを得た。FCC触媒用添加物Mの物性等を表1に示す。
【0078】
[測定方法ないし評価方法]
実施例等における測定方法および評価試験方法は、以下の通りである。
(各元素の含有量の測定方法)
各元素の質量分析は、Naは原子吸光光度計、Na以外は誘導結合プラズマ分光分析装置にて化学分析を行った。具体的には、ゼオライト(ZSM-5)または触媒は硫酸とフッ化水素酸を加え加熱し、乾固させ、乾固物を濃塩酸に溶解し、水で濃度10~100質量ppmに希釈した溶液に調製し、株式会社 日立ハイテクサイエンス社製の原子吸光光度計(Z-2310)、(株)島津製作所製 誘導結合プラズマ分光分析装置(ICPS-8100)にて分析した。波長は、Na:589.6nm,Al:396.2nm,Si:251.6nm,P:178.3nmである。
【0079】
27Al-MAS NMR測定および31P-MAS NMR測定)
FCC触媒用添加物を直径3.2mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、NMR装置(アジレント製VNMR-600、磁場強度:14.1T(1H共鳴周波数:600MHz))にセットし、外部磁場に対してマジック角(54.7°)で20kHzの高速で回転させた。
【0080】
27Al測定においては、化学シフト基準として1mol/L Al(NO33水溶液のピークを0ppmとした。シングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を10°、パルス繰り返し時間を0.1sに設定した。
【0081】
31P測定においては化学シフト二次基準としてNH42PO4のピークを用い、1ppmとした。シングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を90°、パルス繰り返し時間を11.5sに設定した。
【0082】
得られたスペクトルを、Originを用いて解析した。まず、スペクトルのベースライン補正を行った。次に各ピークをフォークト関数に分離した。27Al-MAS NMRは化学シフトが約-9ppm、約0ppm、約9ppm、約27ppm、約40ppm、約55ppm、約60ppmの7つのピークを関数に分離した。すべての関数の面積強度を計算し、面積の総和に対する各ピーク比率を計算することで各ピークの面積比を求めた。その内、添加した水酸化アルミニウムやベーマイトアルミナ等に由来する6配位Alに帰属される約9ppmの面積比を算出した。
【0083】
31P-MAS NMRは化学シフトが約-6ppm、-18ppm、-25ppm、-30ppm、-37ppmの5つのピークを関数に分離し、同様の方法で各ピークの面積比を求めた。水酸化アルミニウムとリン成分との反応によって生成するベルリナイトに帰属される-25ppmの面積比とアモルファスリン酸アルミ等に帰属される-30ppmの面積比との比率を算出した。
【0084】
(ゼオライト、水酸化アルミニウムの平均粒子径)
試料の粒度分布の測定を、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-950V2)にて行った。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度:5.0L/分、超音波照射:1分間、反復回数:15回の条件で測定した。メジアン径(D50)を平均粒子径として採用した。屈折率をゼオライトは1.46、水酸化アルミニウムは1.66として、測定を実施した。
【0085】
(FCC触媒用添加物の平均粒子径)
試料の粒度分布の測定を、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-300)にて行った。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度:2.8L/分、超音波照射:3分間、反復回数:30回の条件で測定した。メジアン径(D50)を平均粒子径として採用した。
【0086】
(FCC触媒用添加物の比表面積、細孔容積)
比表面積(SA)、細孔径が50nm以下の細孔の細孔容積の測定は、マイクロトラック・ベル株式会社製のBELSORP-mini Ver2.5.6にて行った。具体的には触媒を500℃で1時間前処理した試料を用い、吸着ガスには窒素を用いて測定した。FCC触媒用添加物の比表面積(SA)はBET法、FCC触媒用添加物の細孔径が2nm以下のマイクロポアの容積はMP法、細孔径が2~50nmのメソポアの容積はBJH法にて算出した。
【0087】
(アンモニア吸着量)
アンモニア吸着量は、マイクロトラック・ベル株式会社のBELCAT Version2.5.5にて昇温脱離(TPD)法にて測定した。具体的にはFCC触媒用添加物を活性評価用に擬平衡化処理(Ni/V=2000ppm/4000ppm、810℃-12時間100%スチーミング)したものを500℃で1時間前処理して用いた。前処理した試料0.2gをTPD装置内にて500℃で1時間、ヘリウム流通下で熱処理し、その後100℃まで冷却した。100℃で30分間アンモニアを吸着させ、同温度、ヘリウム流通下で30分間脱気させた。その後100℃から500℃まで10℃/分で昇温する際のアンモニア脱離量をTCDにて検出し、その脱離量より、アンモニア吸着量を算出した。
【0088】
(触媒性能)
実施例等で製造されたFCC触媒用添加物A~JをACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation - Micro Activity Test)を用い、同一原料油、同一反応条件下で触媒の評価試験を行った。触媒の評価試験を行う前に、各触媒は、ミッチェル法にてNi/V=2000ppm/4000ppm担持し、810℃で12時間、100℃スチーム雰囲気下で前処理をした。
【0089】
FCC平衡触媒に前処理したFCC触媒用添加物を、混合触媒中のFCC触媒用添加剤の量が2.4重量%の一定量となるようにブレントして混合触媒を調製し、ACE-MAT活性試験装置で混合触媒の評価(プロピレンの収量(質量%)の測定)をした。
反応条件は、以下のとおりであった。
・反応温度:510℃
・原料油:脱硫減圧軽油(DSVGO)100質量%の油
・WHSV:8h-1
・触媒/油比:5質量%/質量%
評価結果を表1に示す。
【0090】
【表1】