(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】固定工具
(51)【国際特許分類】
B25C 1/06 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
B25C1/06
(21)【出願番号】P 2020567929
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2019063937
(87)【国際公開番号】W WO2019233846
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-04
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ティロ ディットリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】チャフィック アブ アントゥン
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ブルグミュラー
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-510590(JP,A)
【文献】特開2006-095638(JP,A)
【文献】中国実用新案第201300400(CN,Y)
【文献】米国特許出願公開第2008/0179371(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
留め具を基板(被打ち込み材)に打ち込むための固定工
具であって、留め具を保持するためのホルダと、前記ホルダに保持された留め具を固定軸に沿って前記基板内に搬送するための打ち込み要素と、前記打ち込み要素を前記固定軸に沿って前記留め具に向かって駆動するためのドライブと、を備え、前記ドライブ
は、電気コンデンサと、前記打ち込み要素上に配置されたかご形回転子と、前記コンデンサの急速放電中に、電流が流れ、前記打ち込み要素を前記留め具に向かって加速する磁場を生成する励起コイルと、を備え、前記固定工具
は、前記励起コイルの温度を検出するための手段と、前記励起コイルの前記検出温度に基づいて前記固定工具の動作シーケンスを制御する制御ユニットと、を有
し、前記制御ユニットは、前記励起コイルの前記検出温度が所定の最高温度よりも低い場合に前記打ち込み要素が前記留め具上に加速される打ち込みプロセスを可能にし、且つ、前記励起コイルの前記検出温度が前記所定の最高温度よりも高い場合に前記打ち込みプロセスを抑制する、固定工具。
【請求項2】
前記励起コイルの温度を検出するための前記手段が、前記励起コイル上、及び/又は前記励起コイルを保持するフレーム上に配置された温度センサを含む、請求項1に記載の固定工具。
【請求項3】
前記励起コイルの温度を検出するための前記手段が、前記励起コイルのオーミック抵抗を検出するための手段を含む、請求項1に記載の固定工具。
【請求項4】
前記励起コイルの温度を検出するための前記手段が、時間を検出するための手段と、前記励起コイルの温度上昇を引き起こすプロセスを検出するための手段と、前記励起コイルの標準冷却レート、及び前記プロセスによって引き起こされた前記温度上昇が記憶されたデータメモリと、記録されたプロセス及び前記記憶された温度上昇、並びに記録された時間及び記憶された標準冷却レートに基づいて、開始時間における開始温度から開始して、前記励起コイルの前記温度を計算するためのプログラムと、を含む、請求項1に記載の固定工具。
【請求項5】
前記励起コイルの温度を検出するための前記手段が、周囲温度センサを含み、前記開始温度が、前記周囲温度センサによって検出された前記固定工具の周囲エリアの温度である、請求項4に記載の固定工具。
【請求項6】
前記固定工具が、前記励起コイルを冷却するための手段と、前記データメモリに記憶されている前記励起コイルの増大した冷却レートと、前記励起コイルを冷却するための前記手段が動作していない期間における前記標準冷却レートを使用して、及び前記励起コイルを冷却するための前記手段が動作している期間における前記増大した冷却レートを使用して、前記励起コイルの前記温度を計算するための前記プログラムとを有する、請求項4又は5に記載の固定工具。
【請求項7】
前記固定工具が、前記励起コイルを冷却するための手段を有し、前記制御ユニットが、前記励起コイルの前記検出温度に基づいて前記励起コイルを冷却するための前記手段を制御する、請求項1~6のいずれか1項に記載の固定工具。
【請求項8】
前記励起コイルを冷却するための前記手段が、回転子を含み、前記制御ユニットが、前記励起コイルの前記検出温度に基づいて、前記回転子の運転時間及び/又は速度を制御する、請求項7に記載の固定工具。
【請求項9】
前記制御ユニットが、前記励起コイルの前記検出温度が高くなるほど、前記回転子の前記運転時間及び/又は前記速度を増大させる、請求項8に記載の固定工具。
【請求項10】
前記急速放電の開始時に前記コンデンサが充電電圧で充電され、前記制御ユニットが、
前記励起コイルの前記検出温度に基づいて前記充電電圧を制御する、請求項1~9のいずれか1項に記載の固定工具。
【請求項11】
前記充電電圧が、前記励起コイルの前記検出温度が高くなるほど更に大きくなる、請求項10に記載の固定工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、留め具を基板(被打ち込み材)に打ち込むための固定工具に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような固定工具は通常、留め具用のホルダを有し、ホルダからホルダ内に保持された留め具を固定軸に沿って基板内に搬送する。このため、打ち込み要素は、ドライブによって固定軸に沿って留め具に向かって駆動される。
【0003】
特許文献1は、打ち込み要素用のドライブを備えた固定工具を開示している。ドライブは、電気コンデンサとコイルとを有する。打ち込み要素を駆動するために、コンデンサはコイルを介して放電され、それによってローレンツ力が打ち込み要素に作用し、その結果、打ち込み要素が釘に向かって移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高効率及び/又は良好な固定品質が保証される、前述のタイプの固定工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、留め具を基板(被打ち込み材)に打ち込むための固定工具によって達成され、固定工具は、留め具を保持するためのホルダと、ホルダに保持された留め具を固定軸に沿って基板内に搬送するための打ち込み要素と、打ち込み要素を固定軸に沿って留め具に向かって駆動するためのドライブと、を備え、ドライブは、電気コンデンサと、打ち込み要素上に配置されたかご形回転子と、コンデンサの急速放電中に、電流が流れ、打ち込み要素を留め具に向かって加速する磁場を生成する励起コイルと、を備え、固定工具は、励起コイルの温度を検出するための手段と、励起コイルの検出温度に依存して固定工具の動作シーケンスを制御するのに適した制御ユニットと、を有する。この場合、固定工具は、好ましくは、手持ち式で使用することができる。或いは、固定工具は、静止(固定)又は半静止(半固定)方式で使用することができる。
【0007】
本発明において、コンデンサは、電荷及び関連するエネルギーを電界に貯蔵する電気構成要素を意味するものとして理解されるべきである。特に、コンデンサは、2つの導電性電極を有し、両電極が異なって帯電すると、その間に電界が形成される。本発明において、留め具は、例えば、釘、ピン、クランプ、クリップ、スタッド、特にねじ付きボルトなどを意味するものとして理解されるべきである。
【0008】
本発明の有利な態様では、励起コイルの温度を検出するための手段が、励起コイルに、及び/又は励起コイルを保持するフレームに配置された温度センサを含む、ことを特徴とする。
【0009】
有利な態様では、励起コイルの温度を検出するための手段が、励起コイルのオーミック抵抗を検出するための手段を含む、ことを特徴とする。
【0010】
有利な態様では、励起コイルの温度を検出するための手段が、時間を検出するための手段、励起コイルの温度上昇を引き起こすプロセスを検出するための手段、励起コイルの標準冷却レート、及びプロセスによって引き起こされた温度上昇が記憶されたデータメモリ、並びに、記録されたプロセス及び記憶された温度上昇、並びに記録された時間及び記憶された標準冷却レートに基づいて、開始時間における開始温度から開始して、励起コイルの温度を計算するためのプログラムを含む、ことを特徴とする。励起コイルの温度を検出するための手段は、好ましくは、周囲温度センサを含み、その開始温度は、周囲温度センサによって検出された固定工具の周囲エリアの温度である。固定工具はまた、好ましくは、励起コイルを冷却するための手段、データメモリに記憶されている励起コイルの増大した冷却レート、並びに、励起コイルを冷却するための手段が動作していない期間における標準冷却レートを使用して、及び励起コイルを冷却するための手段が動作している期間における増大した冷却レートを使用して、励起コイルの温度を計算するためのプログラム、を有する。
【0011】
有利な態様では、固定工具が、励起コイルを冷却するための手段を有し、制御ユニットが、励起コイルの検出温度に基づいて励起コイルを冷却するための手段を制御する、ことを特徴とする。その結果、励起コイル、及び/又は固定工具の他の構成要素が過熱する前に、より多くの打ち込み動作が可能である。加えて、温度上昇に関連する励起コイルのオーミック抵抗の増大、及び関連する駆動効率の低下が、低減又は回避される。励起コイルを冷却するための手段は、好ましくは、回転子を含み、制御ユニットは、励起コイルの検出温度に基づいて、回転子の運転時間及び/又は回転速度を制御する。制御ユニットは、特に好ましくは、検出された励起コイルの温度が高くなるほど、回転子の運転時間及び/又は速度を増大させる。
【0012】
有利な態様では、急速放電の開始時にコンデンサが充電電圧で充電され、制御ユニットが、励起コイルの検出温度に基づいて充電電圧を制御する、ことを特徴とする。充電電圧は、好ましくは、励起コイルの検出温度が高くなるほど更に大きくなる。これにより、温度上昇に伴う励起コイルのオーミック抵抗の増大を補償することが可能になる。
【0013】
有利な態様では、制御ユニットが、励起コイルの検出温度が所定の最高温度よりも低い場合に打ち込み要素が留め具に加速される打ち込みプロセスを可能にし、且つ、励起コイルの検出温度が所定の最高温度よりも高い場合に打ち込みプロセスを抑制する、ことを特徴とする。これにより、過熱による、励起コイル及び/又は軟磁性フレーム及び/又はドライブ若しくは固定工具の他の構成要素への損傷が防止される。
【0014】
有利な態様では、急速放電の開始時にコンデンサが充電電圧で充電され、制御ユニットが、充電電圧を制御する、ことを特徴とする。コンデンサは、好ましくは、急速放電前に充電プロセスで充電され、充電プロセスは、制御ユニットによって制御される。
【0015】
本発明は、図面中に示された複数の実施例で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、図示されていない基板(被打ち込み材)に留め具を打ち込むための手持ち固定工具10を示している。固定工具10は、スタッドガイドとして形成されたホルダ20を有し、ここに、釘として形成された留め具30が(
図1の左側に)固定軸Aに沿って基板内に打ち込むために保持されている。留め具をホルダに供給する目的で、固定工具10は、留め具がストア内に個別に、又は留め具ストリップ50の形態で保持されて、ホルダ20に1つずつ搬送されるマガジン40を備える。この目的のために、マガジン40は、特に示されていない、バネ仕掛け供給要素を有する。固定工具10は、ピストンプレート70及びピストンロッド80を含む打ち込み要素60を有する。打ち込み要素60は、留め具30をホルダ20から固定軸Aに沿って基板内に搬送するために提供される。そのプロセスでは、打ち込み要素60は、そのピストンプレート70で、固定軸Aに沿ってガイドシリンダ95内に案内される。
【0018】
打ち込み要素60は、その一部が、ピストンプレート70上に配置されたかご形回転子90、励起コイル100、軟磁性フレーム105、スイッチング回路200、及び内部抵抗が5mΩのコンデンサ300を備えるドライブによって駆動される。かご形回転子90は、好ましくはリング状、特に好ましくは円形リング状の、低電気抵抗の、例えば銅製の要素からなり、例えば、ホルダ20とは反対側を向くピストンプレート70の側部上のピストンプレート70に、はんだ付けされ、溶接され、接着接合され、クランプされ、又は形状適合方式で結合されて、締結される。図示されていない実施例では、ピストンプレート自体が、かご形回転子として形成されている。スイッチング回路200は、事前に充電されたコンデンサ300の急速放電を引き起こし、それによってフレーム105に組み込まれた励起コイル100を通して流れる放電電流を伝導するために提供される。フレームは、好ましくは、少なくとも1.0Tの飽和磁束密度、及び/又は最大106S/mの実効比電気伝導率を有し、その結果、励起コイル100によって生成される磁場がフレーム105によって増強され、フレーム105内の渦電流は抑制される。
【0019】
打ち込み要素60(
図1)の準備完了位置では、打ち込み要素60は、かご形回転子90が励起コイル100から少し離れたところに配置されるように、ピストンプレート70で、特に示されていないフレーム105のリング状の凹部に入る。その結果、励起コイルを流れる電気励起電流の変化によって生成される励起磁場は、かご形回転子90を通過し、その一部が、かご形回転子90に、リング状に循環する二次電流を誘導する。増大し、したがって変化するこの二次電流は、次いで励起磁場に対抗する二次磁場を生成し、その結果、かご形回転子90はローレンツ力を受け、それによって励起コイル100によって反発されて、打ち込み要素60をホルダ20とその中に保持された留め具30とに向けて駆動する。
【0020】
固定工具10は、ドライブが保持されるハウジング110と、トリガとして形成された操作要素130を備えたハンドル120と、充電式バッテリとして形成された電気エネルギー貯蔵器140と、制御ユニット150と、トリップスイッチ160と、接触圧力スイッチ170と、フレーム105上に配置された温度センサ180として形成された励起コイル100の温度を検出するための手段と、制御ユニット150を電気エネルギー貯蔵器140、トリップスイッチ160、接触圧力スイッチ170、温度センサ180、スイッチング回路200、及びコンデンサ300にそれぞれ接続する電気接続ライン141、161、171、181、201、301と、を更に備える。図示されていない実施例では、固定工具10は、電気エネルギー貯蔵器140の代わりに、又は電気エネルギー貯蔵器140に加えて、電力ケーブルによって電気エネルギーを供給される。制御ユニットは、好ましくはプリント回路基板上で相互接続されて1つ以上の電気制御回路、特に1つ以上のマイクロプロセッサを形成する、電子構成要素を備える。
【0021】
固定工具10が(
図1の左側上に)示されていない基板に対して押し付けられると、特に示されていない接触圧力要素が、接触圧力スイッチ170を操作し、その結果、接続ライン171によって接触圧力信号を制御ユニット150に送信する。これにより、制御ユニット150をトリガしてコンデンサ充電プロセスを開始し、ここで、コンデンサ300を充電するために、電気エネルギーが、接続ライン141によって電気エネルギー貯蔵器140から制御ユニット150に、且つ、接続ライン301によって制御ユニット150からコンデンサ300に伝導される。この目的のために、制御ユニット150は、電気エネルギー貯蔵器140からの電流をコンデンサ300のための適切な充電電流に変換する、特に示されていないスイッチングコンバータを備える。コンデンサ300が充電され、打ち込み要素60が
図1に示されるその準備完了位置にあるとき、固定工具10は準備完了状態にある。コンデンサ300の充電は、固定工具10を基板に対して押し付けることによってのみ実施されるので、エリアの人々の安全性を高めるために、設定プロセスは、固定工具10が基板に対して押し付けられたときのみに実行可能になる。図示されていない実施例では、制御ユニットは、固定工具がオンにされるときに、又は固定工具が基板から持ち上げられるときに、又は先行する打ち込みプロセスが完了するときに、コンデンサ充電プロセスをすでに開始している。
【0022】
操作要素130が、例えば、ハンドル120を保持している手の人差し指を使用して引っ張られることで、固定工具10が準備完了状態で操作されると、操作要素130はトリップスイッチ160を操作し、その結果、接続ライン161によってトリップ信号が制御ユニット150に送信される。これにより、制御ユニット150をトリガしてコンデンサ放電プロセスを開始し、ここで、コンデンサ300に貯蔵された電気エネルギーが、コンデンサ300が放電されることによって、スイッチング回路200を用いてコンデンサ300から励起コイル100に伝導される。
【0023】
このために、
図1に概略的に示されるスイッチング回路200は、2つの放電ライン210、220を備え、これらは、コンデンサ300を励起コイル200に接続し、これらのうちの少なくとも1つの放電ライン210は、通常開である放電スイッチ230によって遮断される。スイッチング回路200は、励起コイル100及びコンデンサ300と電気発振回路を形成する。この発振回路の前後の発振、及び/又はコンデンサ300の負の充電は、ドライブの効率に悪影響を及ぼす可能性があり得るが、フリーホイールダイオード240を用いて抑制することができる。放電ライン210、220は、例えば、はんだ付け、溶接、ねじ込み、クランプ、又は形状適合接続によって、いずれの場合も、ホルダに面するコンデンサ300の端部側360上に配置されたコンデンサ300の電気接点370、380によって、コンデンサ300の1つの電極310、320に電気的に接続される。放電スイッチ230は、好ましくは、高電流強度の放電電流をスイッチングするのに適しており、例えば、サイリスタとして形成される。加えて、放電ライン210、220は、互いに小さな距離にあるので、それらによって誘導される寄生磁場は可能な限り低くなる。例えば、放電ライン210、220は、組み合わされてバスバーを形成し、適切な手段、例えば、保持デバイス又はクランプによって一緒に保持される。図示されていない実施例では、フリーホイールダイオードは、放電スイッチと電気的に並列に接続されている。図示されていない更なる実施例では、フリーホイールダイオードは回路内にはない。
【0024】
コンデンサ放電プロセスを開始する目的で、制御ユニット150は、接続ライン201によって放電スイッチ230を閉じ、その結果、高電流強度のコンデンサ300の放電電流が、励起コイル100を流れる。急速に上昇する放電電流は、かご形回転子90を通過する励起磁場を誘導し、その一部が、かご形回転子90内に、リング状に循環する二次電流を誘導する。増大するこの二次電流は、次いで励起磁場に対抗する二次磁場を生成し、その結果、かご形回転子90はローレンツ力を受け、それによって励起コイル100によって反発されて、打ち込み要素60をホルダ20とその中に保持された留め具30とに向けて駆動する。打ち込み要素60のピストンロッド80が留め具30の、特に示されていないヘッドに接触するとすぐに、留め具30は、打ち込み要素60によって基板内に打ち込まれる。打ち込み要素60の過剰な運動エネルギーは、打ち込み要素60がピストンプレート70と共にブレーキ要素85に対して移動し、それが停止するまでブレーキ要素85によりブレーキがかけられることによって、ばね弾性及び/又は減衰材料、例えばゴムで作られたブレーキ要素85によって吸収される。次いで、打ち込み要素60は、特に示されていないリセット工具によって、準備完了位置にリセットされる。
【0025】
コンデンサ300、特にその重心は、固定軸A上の打ち込み要素60の後ろに配置されるが、ホルダ20は、打ち込み要素60の前に配置される。したがって、固定軸Aに関して、コンデンサ300は、打ち込み要素60に対して軸方向にオフセットされた方法で、及び打ち込み要素60と半径方向にオーバーラップするように配置されている。その結果、一方では、長さが短い放電ライン210、220を実現することができ、その結果、それらの抵抗を低減することができるため、ドライブの効率を高めることができる。一方、固定工具10の重心と固定軸Aとの間に、わずかな距離を実現することができる。その結果、打ち込みプロセス中に固定工具10が反動した場合の傾斜(角度)モーメントは小さい。図示されていない実施例では、コンデンサは、打ち込み要素の周りに配置されている。
【0026】
電極310、320は、例えば、キャリアフィルム330のメタライゼーションによって、特に蒸着によって、固定軸Aと一致する巻線軸の周りに巻かれたキャリアフィルム330の両側に配置される。図示されていない実施例では、電極を備えたキャリアフィルムは、巻線軸に沿って通路が残るように巻線軸の周りに巻かれている。特に、この場合、コンデンサは、例えば、固定軸の周りに配置されている。キャリアフィルム330は、1500Vのコンデンサ300の充電電圧で、2.5μm~4.8μmの膜厚を有し、3000Vのコンデンサ300の充電電圧で、例えば9.6μmの膜厚を有する。図示されていない実施例では、キャリアフィルムは、その一部が、層として上下に配置された2つ以上の個別のフィルムからなる。電極310、320は、50Ω/□のシート抵抗を有する。
【0027】
コンデンサ300の表面は、円筒、特に円柱の形状をしており、その円柱軸は、固定軸Aと一致している。巻線軸方向のこの円柱の高さは、巻軸に垂直に測定して、その直径と実質的に同じサイズである。シリンダの直径に対する高さの比が小さいため、コンデンサ300の比較的高い静電容量に対する低内部抵抗、及びとりわけ、固定工具10のコンパクト構造が実現される。コンデンサ300の低内部抵抗はまた、電極310、320の大きなライン断面によって、特に電極310、320の厚い層厚によって実現され、ここでは、自己回復効果、及び/又はコンデンサ300の耐用年数に対する層厚の影響を考慮に入れるべきである。
【0028】
コンデンサ300は、減衰要素350によって減衰されるように、固定工具10の残りの部分に取り付けられている。減衰要素350は、固定軸Aに沿った固定工具10の残りの部分に対するコンデンサ300の動きを減衰させる。減衰要素350は、コンデンサ300の端部側360上に配置され、端部側360を完全に覆う。結果として、キャリアフィルム330の個々の巻線は、固定工具10の反動による均一な負荷を受ける。この場合、電気接点370、380は、端面360から突出し、減衰要素350を通過する。このために、それぞれの場合の減衰要素350は、電気接点370、380が突出するためのクリアランスを有する。接続ライン301はそれぞれ、コンデンサ300と、固定工具10の残りの部分との間の相対的な動きを補償するために、詳細には示されていない、ひずみ緩和及び/又は拡張ループを有する。図示されていない実施例では、更なる減衰要素が、コンデンサ上に、例えば、ホルダとは反対側に面するコンデンサの端部側上に配置される。次いで、コンデンサは、好ましくは、2つの減衰要素間にクランプされ、すなわち、減衰要素は、プレストレスでコンデンサを支える。図示されていない更なる実施例では、接続ラインは、コンデンサからの距離が増大するにつれて連続的に減少する剛性を有する。
【0029】
図2は、図示されていない基板内に留め具を打ち込むための固定工具の電気回路
図400を示しており、固定工具は図示されていない。固定工具は、図示されていないハウジングと、図示されていない操作要素付きハンドルと、図示されていないホルダと、図示されていないマガジンと、図示されていない打ち込み要素と、打ち込み要素用のドライブと、を有する。ドライブは、打ち込み要素上に配置された図示されていないかご形回転子と、励起コイル410と、図示されていない軟磁性フレームと、スイッチング回路420と、コンデンサ430と、充電式バッテリとして設計された電気エネルギー貯蔵器440と、及び例えばDC/DCコンバータとして設計されたスイッチングコンバータ451を備えた制御ユニット450と、を備える。スイッチングコンバータ451は、電気エネルギー貯蔵器440に電気的に接続された低電圧側U
LVと、コンデンサ430に電気的に接続された高電圧側U
HVとを有する。
【0030】
スイッチング回路420は、事前に充電されたコンデンサ430の急速放電を引き起こし、それによって励起コイル410を通して流れる放電電流を伝導するために設けられる。この目的のために、スイッチング回路420は、2つの放電ライン421、422を含み、それらはコンデンサ430を励起コイル420に接続し、それらの少なくとも1つの放電ライン421は、通常開である放電スイッチ423によって遮断される。フリーホイールダイオード424は、励起コイル410及びコンデンサ430を備えたスイッチング回路420によって形成された発振回路の前後の過度の発振を抑制する。
【0031】
固定工具が基板に対して押し付けられると、制御ユニット450は、コンデンサ充電プロセスを開始し、ここで、電気エネルギーが、コンデンサ430を充電するために、電気エネルギー貯蔵器440から制御ユニット450のスイッチングコンバータ451に、且つ、スイッチングコンバータ451からコンデンサ430に伝導される。そのプロセスでは、スイッチングコンバータ451は、例えば22Vの電圧で、電気エネルギー貯蔵器440からの電流を、例えば1500Vの電圧で、コンデンサ430のための適切な充電電流に変換する。
【0032】
図示されていない作動要素の作動によってトリガされると、制御ユニット450は、コンデンサ放電プロセスを開始し、ここで、コンデンサ430に貯蔵された電気エネルギーが、コンデンサ430が放電されることによって、スイッチング回路420を用いてコンデンサ430から励起コイル410に伝導される。コンデンサ放電プロセスを開始する目的で、制御ユニット450は、放電スイッチ430を閉じ、その結果として、高電流強度のコンデンサ430の放電電流が、励起コイル410を流れる。結果として、図示されていないかご形回転子は、ローレンツ力を受け、励起コイル410によって反発され、打ち込み要素を駆動する。打ち込み要素は、図示されていないリセットデバイスによって、準備完了位置にリセットされる。
【0033】
コンデンサ430の急速放電中に励起コイル410を流れる電流のエネルギー量は、コンデンサ430に印加される充電電圧(UHV)が、コンデンサ充電プロセス中及び/又はその終了時に、並びに急速放電の開始前に設定されるという点で、制御ユニット450によって、特に無段階に制御される。充電されたコンデンサ430に貯蔵された電気エネルギー、したがってコンデンサ430の急速放電中に励起コイル410を流れる電流のエネルギー量もまた、充電電圧に比例して、したがって充電電圧によって制御することができる。コンデンサは、充電電圧UHVが設定点値に到達するまでに、コンデンサ充電プロセス中に充電される。次いで、充電電流がオフになる。例えば寄生効果により、急速放電の前に充電電圧が減少した場合、充電電圧UHVが再び設定点値に到達するまで、充電電流が再びオンになる。
【0034】
制御ユニット450は、複数の制御変数に依存して、コンデンサ430の急速放電中に励起コイル410を流れる電流のエネルギー量を制御する。このために、固定工具は、励起コイル410の温度を検出するための温度センサ460として形成された手段と、例えば、計算プログラム470として設計され、コンデンサ充電プロセス中の充電電流の電流強度及び電圧のプロファイルからコンデンサの静電容量を計算する、コンデンサの静電容量を検出するための手段と、を備える。更に、固定工具は、固定工具の機械的負荷変数を検出するための加速度センサ480として設計された手段を備える。固定工具は、基板への留め具の打ち込み深さを検出するための手段を更に備え、この手段は、例えば、図示されていない打ち込み要素の反転位置を含む、光学的、容量性、又は誘導性の近接センサ490である、近接センサ490を備える。固定工具は、打ち込み要素が留め具に向かって移動している間に第1の位置を通過する際の第1の時点を検出するための第1の近接センサ500として設計された手段を有する、打ち込み要素の速度を検出するための手段と、打ち込み要素が留め具に向かって移動している間に第2の位置を通過する際の第2の時点を検出するための第2の近接センサ510として設計された手段と、第1の時点と第2の時点との間の時間差を検出するための計算プログラム520として設計された手段と、を更に備える。固定工具は、ユーザが調整できる操作要素530と、打ち込まれる留め具の特性変数を検出するためのバーコードリーダー540として設計された手段と、を更に備える。
【0035】
制御ユニット450がコンデンサ430の急速放電中に励起コイル410を流れる電流のエネルギー量を制御することが依存する制御変数には、温度センサ460によって検出温度、及び/又は計算プログラム470によって計算されたコンデンサの静電容量、及び/又は加速度センサ480によって検出された固定工具の負荷変数、及び/又は近接センサ490によって検出された留め具の打ち込み深さ、及び/又は計算プログラム520によって計算された打ち込み要素の速度、及び/又はユーザによって調整された操作要素530の調整、及び/又はバーコードリーダー540によって検出された留め具の特性変数、が含まれる。
【0036】
更に、固定工具、好ましくは制御ユニット450は、励起コイルの温度を検出するための手段550を備える。1つの実施例では、手段550は、制御ユニット450が温度センサ460から受信する信号を処理するプログラムである。更なる実施例では、手段550は、信号送信機及び電圧計を有する、励起コイルのオーミック抵抗を検出するための手段を備える。信号生成器は、励起コイル410を流れる測定電流を生成し、電圧計は、励起コイル410の両端のそれによって降下した電圧を測定する。計算プログラムは、測定電流及び励起コイル410の両端の電圧降下から、励起コイル410のオーミック抵抗を計算する。次いで、手段550は、このように得られた励起コイル410のオーミック抵抗と、固定動作なしで、すなわち周囲温度で、比較的長い時間後に同じ方法で記録された基準抵抗との間の差を計算する。手段550は最終的に、この差から、励起コイル410の温度を計算する。
【0037】
更なる実施例では、手段550は、時間を記録するためのタイマとして形成された手段、励起コイルの温度上昇を引き起こすプロセスとして打ち込みプロセスを検出するためのデータ受信機として形成された手段、励起コイルの標準冷却レート、及びプロセスによって引き起こされた温度上昇が記憶されているデータメモリ、及び励起コイル410の温度を計算するためのプログラム、を備える。打ち込みプロセスを検出するための手段は、いずれの場合も、制御ユニット450によって開始された打ち込みプロセスに関する情報を制御ユニット450から受信する、情報受信機として設計される。励起コイル410の温度は、以下のように計算される。固定工具を比較的長期間使用しなかった後、固定工具のデバイス電子機器は、メインスイッチ、圧力スイッチ、トリガスイッチ、又は動きセンサを作動させることによって起動される。次いで、励起コイル410の温度を計算するためのプログラムは、温度センサ460又は周囲温度センサによって検出された開始温度を、実際の温度として読み取る。タイマも、スタートする。最初の打ち込みプロセスが記録されるとすぐに、データメモリに記憶されている温度上昇が実際の温度に追加され、その合計が新しい実際の温度として保存される。更なる打ち込みプロセスが検出されるとすぐに、実際の温度と周囲温度センサによって検出された周囲温度との差、及びデータメモリに記憶されている標準冷却レートを使用して、タイマによって記録された最後の打ち込みプロセスから経過した時間から、温度低下が最初に計算される。次いで、実際の温度から温度低下が差し引かれ、データメモリに記憶されている温度上昇が加算され、その合計が新しい実際の温度として保存される。打ち込み動作なしの比較的長い時間後、例えば2時間後、タイマはゼロに設定され、固定工具の電子機器はスリープモードに入るか、又はオフになる。周囲温度センサは、好ましくは、電子機器の回路基板、例えば、制御ユニット450に配置される。
【0038】
固定工具は、回転子を含み、且つ、例えば、冷却液用のファン又は循環ポンプとして設計された、励起コイル410を冷却するための手段560を有する。制御ユニット450は、励起コイル410の検出温度に依存して、励起コイル410を冷却するための手段560、例えば、回転子の実行時間及び/又は速度を制御することを意図している。上述の実施例では、励起コイル410の増大した冷却レートは、データメモリに記憶され、励起コイル410の温度を計算するためのプログラムは、励起コイル410を冷却するための手段560が動作していない期間中の標準冷却レートを使用し、及び手段560が動作している期間中の増大した冷却レートを使用する。
【0039】
制御ユニット450は、励起コイル410の検出温度に依存して、固定工具の更なる動作シーケンスを制御するのに適している。例えば、コンデンサ430の充電電圧の設定点値は、励起コイル410の検出温度に依存して制御され、設定点値は、励起コイル410の検出温度が高くなるほど大きくなる。更に、制御ユニット450は、励起コイル410の検出温度が所定の最高温度よりも低い場合にのみ、打ち込みプロセスを可能にする。対照的に、励起コイル410の検出温度が所定の最高温度よりも高い場合、打ち込みプロセスは抑制される。励起コイル410を冷却するための手段560は、好ましくは、動作したままである。
【0040】
図3は、励起コイル600の縦断面図を示している。励起コイル600は、例えば、固定軸A
2の周りに数ターン610で巻かれた、円形断面を有する、好ましくは銅製の導電体を備える。全体として、励起コイルは、外径R
a、及び固定軸A
2方向にコイル長L
Spを有する、実質的に円筒形、特に円柱形の外形を有する。固定軸A
2に対して半径方向内側領域において、励起コイル600は、好ましくは同様に円筒形、特に円柱形であり、励起コイルの内径R
iを画定するクリアランス620を有する。
【0041】
励起コイル600の温度を検出するための温度センサ660として形成された手段は、固定軸A2に対して励起コイル600の軸方向端部面に配置され、且つ、熱伝導性方式で、例えばサーマルペーストによって、励起コイル600に接続されている。図示されていない実施例では、温度センサは、励起コイルの内周又は外周に配置されている。
【0042】
本発明は、図面に示されている一連の実施例、及び図示されていない実施例を使用して説明されてきた。様々な実施例の個別の特徴は、それらが矛盾しないという前提で、個別に、又は互いに任意の所望の組み合わせで、適用可能である。本発明による固定工具はまた、他の用途にも使用できることに留意されたい。