(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】イムノクロマト診断キット用吸収パッド
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
G01N33/543 565C
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2020569654
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020003029
(87)【国際公開番号】W WO2020158750
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019015565
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】城森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松瀬 武志
(72)【発明者】
【氏名】堀井 厚志
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-063482(JP,A)
【文献】特開2013-053897(JP,A)
【文献】特開2015-049158(JP,A)
【文献】特開2010-256309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0055126(US,A1)
【文献】特開2016-173956(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105424940(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の繊維から構成される
疎水性不織布からなるイムノクロマト診断キット用吸収パッドであって、該不織布の目付が20~200g/m
2であり、厚みが0.06mm~1.20mmであり、平均繊維径が0.7μm~5.0μmであり、平均孔径が2.0μm~15.0μmであり、そして親水化度が50mm~180mmであることを特徴とするイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
【請求項2】
前記
疎水性不織布の地合指数が90以下であり、かつ、孔径分布が以下の式:
Dmax/Dave<2.00
Dmax/Dmin<3.50
{式中、Dmaxは最大孔径(μm)であり、Daveは平均孔径(μm)であり、そしてDminは最小孔径(μm)である。}
を満たす、請求項1に記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリエチレンのうちの1つからなるか又はそれらの複数が複合されてなる、請求項1又は2に記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
【請求項4】
前記
疎水性不織布が、単層の不織布又は積層した不織布である、請求項1~3のいずれか1項に記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッドを用いたイムノクロマト診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマト診断キット用の吸収パッド、及びそれを用いたイムノクロマト診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療情勢の変化とともにPOCT(Point of care testing:臨床現場即時検査)の注目度が増している。POCTとは、被験者の傍らで医療従事者又は被験者自らが行う検査であり、検査時間を短縮できるだけでなく、検査結果を被験者が直接確認することができるという利点を有する検査である。これらの利点を活かして、POCTは、病院の外来や病棟で実施されるのみならず診療所や在宅医療の現場でも着実に普及している。一般にPOCTは、病院の中央検査室や外注検査センターで用いられる検査とは異なり、診療所や在宅医療で行われる検査であるため、検査そのものの知識が充分ではなく測定について習熟していない者が取扱うことが多い。そのために、POCT用の検査試薬には、誰もが簡単な説明を受けただけで確実な検査結果が出せるような簡便な操作性が求められている。
【0003】
このような簡易迅速診断に用いられる試薬として、イムノクロマトグラフ法の測定原理を利用した検査キットが広く用いられている。そのキット構成としては、主としてクロマトグラフ媒体、試料添加部(サンプルパッド)、標識試薬保持部(コンジュゲートパッド)、及び吸収部(吸収パッド)などで構成されており、必要に応じて、これらの部材が基材(バッキングシート)に貼り付けられ、ハウジング部材に収められている。ニトロセルロースなどからなるクロマトグラフ媒体は、液体試料の展開部としての機能を有するとともに、検査結果の判定部としての機能も有する。クロマトグラフ媒体の長手方向の一端には、試料添加部(サンプルパッド)及び標識試薬が含有された標識試薬保持部(コンジュゲートパッド)が通液可能に設置され、反対側の端部には過剰な試料液を吸収するための吸収部(吸収パッド)が設けられている。
【0004】
イムノクロマト診断キットによる検査は、採取した各種検体又は試料液を試料添加部に添加することにより行われる。添加された検体や試料液は、標識試薬保持部を通過し、クロマトグラフ媒体中を毛細管現象により長手方向に移動し、判定部を通って、吸収パッドに吸収される。試料液中の被検出物質は、抗原-抗体反応を利用して、標識試薬保持部を通過する際に金コロイドなどの有色の標識試薬と複合体を形成した後、クロマトグラフ媒体上の判定部に捕捉される。イムノクロマト診断キットによる検査では、規定された反応時間(10~15分間)の間にクロマトグラフ媒体の判定部に捕捉された被検出物質の量を、標識試薬に由来する着色の強度を指標として目視により判定する。
【0005】
上記イムノクロマトグラフ法による検査では、疾患の判定を迅速且つ正確に行うことが従来から強く求められている。例えば、急性冠症候群の診断に有用な検査項目がいくつかある。急性冠症候群の中でも、急性心筋梗塞は,冠動脈が血栓で閉塞され,心筋組織が壊死に陥る疾患であり,発症早期における再灌流の成否が予後に大きく影響する。そのため,正確性の高い診断が重要となる。この場合、診断に必要なマーカーを定量的に検出する必要があり、当然、当該診断で使用されるイムノクロマト診断キットは、イムノクロマト診断キット製品間の発色強度のバラツキが限りなく小さいことが必須である。仮に、発色強度のバラツキが大きいイムノクロマト診断キットを用いた場合、当然、誤診断に繋がり、上記疾患の場合においては、誤診断により、命の危険にさらされる可能性もある。これらより、イムノクロマト診断キット製品間のバラツキを限りなく小さくすることは、イムノクロマト診断キット開発における大きな課題の一つとなっている。
【0006】
バラツキの原因としてはキットを構成する各部材の影響が考えられるが、特に吸収パッドに関しては吸液を担う部分であるが故に、試料の吸液速度のバラツキに起因する発色強度や発色時間のバラツキや、さらにはバックグラウンドの着色といった不具合による発色強度のバラツキの原因となっている。
ここで「バックグラウンド」とは、標識試薬が、ニトロセルロース膜の細孔に詰まったり、非特異吸着したりすることで、ニトロセルロース膜が着色してしまい発生する現象である。バックグラウンドが悪いと、ニトロセルロース膜とテストライン(TL)とのコントラストが悪くなり、TLの発色したラインが見えづらくなってしまい、医療現場で判定しにくくなる。更に、バックグラウンドが悪いと、陰性のTL(すなわち、発色無し)の判断が困難になってしまう。これら現象は、誤診を引き起こしてしまう可能性がある。
【0007】
イムノクロマト法の検査キットに用いられる吸収パットとしては、従来、セルロース繊維、ガラス繊維、パルプなどの繊維からなる綿、不織布、ろ紙などが用いられてきた。しかしながら、これらの素材のみで構成される吸収パッドは、その構造や構成素材、製造方法の影響を受け、吸水性が不十分であり、また、吸収量のバラツキが生じることが問題となっていた。
【0008】
これらの問題を解決すべく、以下の特許文献1では、高吸水性ポリマー粒子を用いた吸収パッドを、そして以下の特許文献2では、シリカ粒子などをセルロース繊維などの不織布素材に噴霧した吸収パッドを用いることが検討されている。しかしながら、これらの吸収パッドの場合、繊維密度の均一化や噴霧量の均一化が困難であり、吸水性は改善されても製品間で吸水速度にバラツキが生じ易くなるため、製品間のバラツキの改善には至らないというのが現状である。
【0009】
また、従来の吸収パッドに起因するキット製造工程上の問題も報告されている。例えば、グラスファイバー製吸収パッドは、イムノクロマト診断キット生産工程における切断時に脱落繊維が粉塵として舞うことがある。これらグラスファイバーの粉塵は、吸い込んでしまうと気管支の炎症を起こす可能性があるが故に、製造作業員の健康被害の観点から、あまり使用を好まれないことがある。更には、カッティングモジュールの刃が欠けてしまうなどの不具合の報告も多い。これらの理由から、なるべくグラスファイバー製吸収パッドの使用は避けたい。
【0010】
他方、セルロース製の吸収パッドについては、その厚みのムラの為に、イムノクロマトグラフのキットを最終製品形態であるハウジングに収める際、設計値より厚すぎて閉まらない、薄すぎてハウジング内で位置がずれてしまうなどの不具合が起こりやすく、結果的にイムノクロマト診断キット製品間のバラツキが大きくなる。
【0011】
さらに近年では、キットのコンパクト化やキット製造の自動化などの流れの中で、吸収パッドを含むキット自体を薄くする、幅を狭くするといったことが強く求められている。しかしながら、従来のセルロース製の吸収パッドでは、厚みや弾性率の問題により、細かく切れないといった問題がある。更に、グラスファイバー製の吸収パッドはムラがあるので、細かく切った場合、吸液量にバラツキが生じるため、イムノクロマト診断キット製品間でもバラツキが生じるという問題もある。
このように、バラツキを最大限に抑制しながら、コンパクト化に対応できる吸収パッドが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6134615号公報
【文献】特開2012-189346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、発色強度のバラツキが少なく再現性にすぐれたイムノクロマト診断キットに用いるためのイムノクロマト診断キット用吸収パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、特定の物性を有する熱可塑性樹脂の繊維から構成される不織布に親水加工を施し親水化したものを吸収パッドとして用いることにより、吸液性能が均一化し、イムノクロマト診断キットの発色強度のバラツキが大きく改善することがすることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]熱可塑性樹脂の繊維から構成される不織布からなるイムノクロマト診断キット用吸収パッドであって、該不織布の目付が20~200g/m2であり、厚みが0.06mm~1.20mmであり、平均繊維径が0.7μm~5.0μmであり、平均孔径が2.0μm~15.0μmであり、そして親水化度が50mm~180mmであることを特徴とするイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
[2]前記不織布の地合指数が90以下であり、かつ、孔径分布が以下の式:
Dmax/Dave<2.00
Dmax/Dmin<3.50
{式中、Dmaxは最大孔径(μm)であり、Daveは平均孔径(μm)であり、そしてDminは最小孔径(μm)である。}
を満たす、前記[1]に記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
[3]前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリエチレンのうちの1つからなるか又はそれらの複数が複合されてなる、前記[1]又は[2]に記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
[4]前記不織布が、単層の不織布又は積層した不織布である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッド。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載のイムノクロマト診断キット用吸収パッドを用いたイムノクロマト診断キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明のイムノクロマト診断キット用吸収パッドを用いたイムノクロマト診断キットは、発色強度のバラツキが少なく再現性に優れるものとなる。
本発明のイムノクロマト診断キット用吸収パッドでは、熱可塑性樹脂の繊維から構成される不織布の目付を20~200g/m2、厚を0.06mm~1.20mm、平均繊維径を0.7μm~5.0μm、平均孔径を2.0μm~15.0μmにコントロールすることで、発色強度のバラツキが少なく、再現性に優れるものとなる。吸収パッドというのは、文字通り、水を吸収するものなので、親水性の素材が使用される。従来のセルロース製の吸収パッドや、グラスファイバー製の吸収パッドは親水性の素材であるし、特許文献1及び2に記載の吸収パッドも同様である。しかしながら、これらの吸収パッドでは、イムノクロマト診断キットにおける発色強度のバラツキの改善効果はみられない。
他方、本願発明者らは、イムノクロマト診断キット用の吸収パッドとして、発色強度のバラツキを抑えるために、あえて疎水性である熱可塑性不織布を用いて均一な構造を形成し、更に親水化処理することで、親水化具合をコントロールすることが重要であることを見出した。また、吸水速度を上げるためには、単純に親水性が高ければいいという訳ではない。言い換えれば、吸水速度を改善するために親水性と疎水性のコントロールが必要となり、本願発明においては、疎水性の熱可塑性不織布を用いて親水化処理することで、本願発明の吸水力をコントロールでき、バックグラウンドの改善に繋がった。更に、イムノクロマト診断キットの製造工程においても、グラスファイバーと比較して脱離繊維が少なく、切断・整形も容易なことから、厚みや幅などのパッドやキットのサイズ設計について高い自由度をもち、かつ工程上の安定性の確保も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態としてのイムノクロマト診断キットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドは、熱可塑性樹脂の繊維から構成される不織布からなるイムノクロマト診断キット用吸収パッドであって、該不織布の目付が20~200g/m2であり、厚みが0.06mm~1.20mmであり、平均繊維径が0.7μm~5.0μmであり、平均孔径が2.0μm~15.0μmであり、そして親水化度が50mm~180mmであることを特徴とする。
イムノクロマト診断キットを用いて実施するイムノクロマトグラフ法による検査方法には、一般的に、被測定物を含む溶液を膜に対して垂直方向に通過させるフロースルー方式と、水平方向に通過させるラテラルフロー方式の2種類があるが、本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドは、これらのいずれの方式にも使用することができる。
【0019】
<不織布>
[不織布構造]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布としては、特に制限はなく、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、湿式不織布、乾式不織布、乾式パルプ不織布、フラッシュ紡糸不織布、開繊不織布等が挙げられる。特に、極細繊維からなる不織布として、メルトブローン不織布やフラッシュ紡糸不織布が好ましい。
【0020】
[目付]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の目付は20g/m2以上200g/m2以下である。目付が200g/m2を超えると、厚みが厚くなりすぎる点で不適である。また、そもそもキット構成上の影響や経済性の観点から目付が大きい必要は全くない。そのため、目付は、好ましくは190g/m2以下、より好ましくは180g/m2である。他方、目付が20g/m2未満になると吸収パッドとして十分な吸液量を担保できず、なた、不織布構造として繊維の粗密のムラが顕著にあらわれ、地合いも悪くなってしまうため、TL発色強度のバラツキも大きくなってしまう。それゆえ、目付は、30g/m2以上が好ましく、より好ましくは40g/m2以上である。
【0021】
[厚み]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の厚みは、0.06mm以上1.20mm以下である。厚みの上限については、1.20mmを超える厚みの不織布を製造しようとすると、目付や繊維径が所定範囲を外れてしまい、いずれの場合も孔径分布や地合いの均一性を損なう。厚みは、好ましくは0.10mm以下、より好ましくは0.90mm以下である。他方、0.06mm未満となると厚みが薄くなってしまい吸収パッドとして十分な吸液量を得られず、また、強度を担保できないため、キットの製図工程上不具合が生じる。また、地合いも悪くなってしまうため、厚みは、好ましくは0.08mm以上、より好ましくは0.10mm以上である。
【0022】
[平均繊維径]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の平均繊維径は0.7μm以上5.0μm以下である。平均繊維径が5.0μmを超えると平均孔径が大きくなり、また、同時に孔径分布の均一性が低下することにより、TL発色強度のバラツキが大きくなってしまう。そのため、平均繊維径は、好ましくは4.0μm以下、より好ましくは3.0μm以下である。また、平均繊維径が細くかつ均一であるほど緻密で均一な孔径を構成するものの、繊維径が細すぎても製造の際目付が小さく、また、膜厚が薄くなってしまい、吸収パッドとして十分な吸液量や強度を保てず、かつ、目付について前記したように繊維の粗密のムラが顕著にあらわれ、TL発色強度のバラツキが大きくなってしまう。それゆえ、平均繊維径は0.9μm以上が好ましく、より好ましくは1.0μm以上である。
【0023】
[平均孔径]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の平均孔径(Dave)は、2.0μm以上15.0μm以下である。平均孔径が15.0μmを超えると毛細管現象による液の吸収を考えた際に吸液速度が吸収パッドとしては速すぎ、展開する液の組成によってはうまく吸液せず、吸バラツキが生じる等のもため、TL発色強度のバラツキが大きくなってしまう。そのため、平均孔径は、13.5μm以下が好ましく、12.0μm以下がより好ましい。また、平均孔径が2.0μm未満では吸液速度が遅くなり、その分、TL発色時間が遅くなるため、判定時間の長時間化などのデメリットが大きい。よって、平均孔径は、2.5μm以上が好ましく、より好ましくは3.5μm以上である。
【0024】
[孔径分布]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の孔径分布は、以下の式:
Dmax/Dave<2.00
Dmax/Dmin<3.50
{式中、Dmaxは最大孔径(μm)であり、Daveは平均孔径(μm)であり、そしてDminは最小孔径(μm)である。}
を満たすことが好ましい。
Dmax/Dave<2.00がより好ましく、Dmax/Dave<1.50.がさらに好ましい。ここで、Dmax/Dave=1は、理論上で不織布を構成する繊維で形成される孔径が完全に同一である理想的な状態における孔径分布を意味する。Dmax/Dave≧2.00では、孔径分布が極めて不均一であり、TL発色強度のバラツキが大きくなってしまい、吸収パッド用途として適切でない。
Dmax/Dmin<3.00がより好ましく、Dmax/Dmin<2.50がさらに好ましい。ここで、Dmax/Dmin=1は、理論上で不織布を構成する繊維で形成される孔径が完全に同一である理想的な状態における孔径分布を意味する。Dmax/Dmin≧3.50では、孔径分布が極めて不均一であり、TL発色強度のバラツキが大きくなってしまい、誤診の可能性が上がってしまうため適切でない。
【0025】
[地合指数]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の地合指数が90以下であることが好ましい。地合指数は値が小さい程、不織布の構造として均一であることを示し、逆に地合指数は値が大きい程、不織布の構造が不均一であることを示す。地合指数は不織布製造の際の目付と厚みや、織布製造後のプレス加工などで調整が可能である。吸収パッド性能に対し地合指数が与える影響については、地合指数の値が大きいと、不織布構造としてのバラツキが大きくなり、その結果、TL発色強度のバラツキが増大し誤診の可能性が上がってしまう。加えて、特に細幅のイムノクロマト診断キットを作製する場合(例えば、2.0~3.0mm幅のキット)には、より細かく不織布を切断することになり、不織布構造の不均一さ、言い換えると租の部分と密の部分の差がより大きく性能に影響してしまうことになる。これらの観点から、地合指数は、75以下がより好ましく、さらに好ましくは60以下である。
【0026】
[熱可塑性樹脂]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布を構成する繊維を構成する熱可塑性樹脂は疎水性を有しており、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が挙げられる。具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンの単独若しくは共重合体である高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマーあるいはこれらの混合物等を例示することができる。熱や水分に対する安定性や汎用性の点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレンのいずれかが望ましい。また、それぞれの樹脂からなる不織布を複合させてもよい。
【0027】
[親水化処理]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布は、親水化処理されており、以下の述べる所定範囲の親水化度を有するものである必要がある。一般的に熱可塑性樹脂は疎水性のものが多く、不織布として構造形成しても吸水するものは、ほとんどない。本実施形態では、前記した疎水性の熱可塑性樹脂の繊維から構成される不織布を使用し、親水化処理を行うことで、吸水のバラツキを限りなく低減させることができる性能が達成されている。親水化の方法については特に限定せず、物理的な加工方法であれば、例えば、コロナ処理又はプラズマ処理による親水化が挙げられ、また、化学的な加工方法、例えば、表面官能基の導入、例えば、酸化処理等によりスルホン酸基、カルボン酸基等を導入することや、水溶性高分子、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレンスルホン酸、若しくはポリグルタミン酸、及び/又は界面活性剤、例えば、ノニオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、若しくは両イオン性界面活性剤等の処理剤を不織布にディップニップ法やスプレーコート法などで含浸、コーティングする方法など公知の方法が挙げられる。吸収パッドに必要な吸水性を考慮して、適切な親水化加工方法及び条件、例えば、処理剤の使用量及び官能基の導入量等を選択することができる。
【0028】
[親水化度]
親水化度は、イムノクロマト診断キット用吸収パッドの吸水性能を示す指標であり、一般的な吸水試験に用いられるバイレック法、滴下法、沈降法や、イムノクロマトによる吸液性試験などにより評価することができる。本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布の親水化度は、JIS-L1907準拠のバイレック法による吸水高さが50mm以上180mm以下である。親水化度が50mm未満になると、吸収パッドとして展開液などを展開・保持するのに十分な吸水性を担保できない。そのため、親水化度は、好ましくは60mm以上、より好ましくは70mm以上である。また、親水化度の上限は、特に限定されるものではないが、180mm以下である。180mmを超える吸水高さとなると吸水速度が速すぎて感度の低下を招いたり、展開、粒子の流れをむしろ不均一にしてしまうおそれがある。それゆえ、親水化度は、好ましくは165mm以下、より好ましくは150mm以下である。
【0029】
[積層]
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドに用いる不織布は、種々用途に応じて、積層してもよい。不織布を積層する場合は、熱エンボス加工、超音波融着等の熱融着法、ニードルパンチ、ウォータージェット等の機械的交絡法、ホットメルト接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤による方法、押出しラミネート等をはじめ、種々公知の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。
【0030】
<イムノクロマト>
本実施形態のイムノクロマト診断キット用吸収パッドを用いるイムノクロマト診断キットを使用するところの「診断方法」とは、イムノクロマト診断キットを用いて行われる様々な診断を指す。診断対象は特に限定されるものではなく、人用、動物用、食品用、植物用、その他環境検査など様々な診断対象の検査に用いることができる。一般的な診断の手順では、検査対象から検体試料を採取し、必要であればそれを抽出やろ過などの前処理を行い、サンプルパッドに滴下し、検査開始から所定時間待ち、検査対象物質の有無によって異なる発色より診断結果を判断する。もちろんこの手順に限定されず、同じような手順、原理の診断にも用いることができる。好ましいのは、検体試料を予めろ過しておくことで余分な異物や夾雑物を除去でき、それによりより一層の診断の迅速化や、診断精度の向上が期待できる。
【0031】
[イムノクロマト診断キット]
本実施形態のイムノクロマト診断キットとは、様々な検体中の検査対象物質の有無を簡便に検出するためのものである。診断キットの種類としては、ラテラルフロー式やフロースルー式がある。標識試薬や吸収パッドを用いるものであれば特に限定されないが、好ましくはラテラルフロー式である。また、ラテラルフロー式の中でも、ディップスティックタイプとカセットタイプがあるが、それらのタイプは特に限定されない。診断キットの構成は、特に限定されるものではなく、当該分野で一般的に用いられる構成であればいずれでも構わない。部材としては、当該分野で用いられるものであれば特に限定されず、例えば、
図1に示す(a)吸収パッド、(b)ニトロセルロース膜、(c)コンジュゲートパッド(抗体感作標識試薬を含む)、(d)サンプルパッド、及び(e)台紙が挙げられる。また、必要に応じそれら部材を一部省いていても構わない。
【0032】
[(a)吸収パッド]
図1に示すように、(a)吸収パッドとは、イムノクロマトにおいて測定対象である検体を最後に吸収する部分である。尚、前記したように、従来技術の一般的な吸収パッドとしては、セルロース濾紙、紙、ガラス繊維、グラスファイバーなどが挙げられる。
【0033】
[クロマトグラフ媒体]
イムノクロマト診断キットに用いられるクロマトグラフ媒体は特に限定されるものではなく、一般的に用いられる様々なクロマトグラフ媒体を用いることができる。具体的には、(b)ニトロセルロース膜が挙げられる。
【0034】
[(c)コンジュゲートパッド]
コンジュゲートパッドは、抗体感作標識試薬等の標識粒子を乾燥固定化しておく部分である。一般的なコンジュゲートパッドとしては、ガラス繊維、グラスファイバー、アクリル繊維、PET繊維単体又は複合した不織布、織布などが挙げられる。また、必要に応じて前処理を行っても構わない。
【0035】
[(d)サンプルパッド]
サンプルパッドは、イムノクロマトにおいて測定対象である検体を最初に受け取る部分である。一般的なサンプルパッドとしては、セルロース濾紙、紙、ガラス繊維、グラスファイバー、アクリル繊維、ナイロン繊維、各種織物などが挙げられる。また、必要に応じて前処理を行っても構わない。例えば、緩衝液、界面活性剤、タンパク、検体試料中の夾雑物をトラップする試薬、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、吸湿剤、などを予め含ませるなどの処理を行っても構わない。
【0036】
[標識試薬]
コンジュゲートパッドに固定される標識試薬とは、水、緩衝液などに不溶性であり、色素や染料等が担持された粒子状物質を指す。粒子を構成する素材は特に限定されないが、このような標識試薬としては、例えば、金コロイド、白金コロイド、銀コロイド、セレンコロイドなどの金属コロイド粒子、ポリスチレンラテックス等のスチレン系ラテックスやアクリル酸系ラテックス等を着色した着色ラテックス粒子、ケイ素原子及び酸素原子からなる3次元構造体からなるシリカを着色した着色シリカ粒子、セルロースを着色した着色セルロース粒子、カーボンブラックなどの着色成分をそのまま粒子化した標識試薬、磁性粒子、などが挙げられる。また、前記標識試薬は蛍光発光性粒子でも構わない。
【0037】
[担持物質]
標識試薬は、抗体などの被検出物に特異的に結合する物質を担持する必要があるが、その担持方法は特に限定されない。例えば、物理的な吸着による担持、共有結合による担持、それらの組み合わせによる担持などが挙げられる。担持する物質の種類や量も特に限定されない。担持する物質の種類としては抗体が最も一般的であり好ましい。また、担持する方法としては、容易さの観点からは物理的な吸着による担持が、安定性や性能などの観点からは共有結合による担持が好ましい。
【0038】
[診断対象]
本実施形態のイムノクロマト診断キットで診断できる対象は、特に限定されるものではないが、具体例としては以下のものが挙げられる:癌マーカー、ホルモン、感染症、自己免疫、血漿蛋白、TDM、凝固・線溶、アミノ酸、ペプチド、蛋白、遺伝子、細胞など。より具体的には、CEA、AFP、フェリチリン、β2マイクロ、PSA、CA19-9、CA125、BFP、エラスターゼ1、ペプシノーゲン1・2、便潜血、尿中β2マイクロ、PIVKA-2、尿中BTA、インスリン、E3、HCG、HPL、LH、HCV抗原、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HBe抗原、HBe抗体、HTLV-1抗体、HIV抗体、トキソプラズマ抗体、梅毒、ASO、A型インフルエンザ抗原、A型インフルエンザ抗体、B型インフルエンザ抗原、B型インフルエンザ抗体、ロタ抗原、アデノウィルス抗原、ロタ・アデノウィルス抗原、A群レンサ球菌、B群レンサ球菌、カンジダ抗原、CD菌、クリプトロッカス抗原、コレラ菌、髄膜炎菌抗原、顆粒菌エラスターゼ、ヘリコバクターピロリ抗体、O157抗体、O157抗原、レプトスピラ抗体、アスペルギルス抗原、MRSA、RF、総IgE、LEテスト、CRP、IgG,A,M、IgD、トランスフェリン、尿中アルブミン、尿中トランスフェリン、ミオグロビン、C3・C4、SAA、LP(a)、α1-AC、α1-M、ハプトグロビン、マイクロトランスフェリン、APRスコア、FDP、Dダイマー、プラスミノーゲン、AT3、α2PI、PIC、PAI-1、プロテインC、凝固第X3因子、IV型コラーゲン、ヒアルロン酸、GHbA1c、その他の各種抗原、各種抗体、各種ウィルス、各種菌、各種アミノ酸、各種ペプチド、各種蛋白質、各種DNA、各種細胞、各種アレルゲン、各種残留農薬、各種有害物が挙げられる。
【0039】
[イムノクロマト診断キットの作製方法]
所定の濃度に調整した標識試薬の分散液を準備し、緩衝液、抗体を加え、温度調整を行いながら一定時間撹拌し、標識試薬に抗体を吸着させる。一定時間撹拌後、更にブロッキング剤を加え温度調整を行いながら一定時間撹拌することで、着色セルロース粒子のブロッキングを行う。ブロッキング剤としては、検査対象物質や検体又はそれを希釈する溶液の組成などに応じ様々なブロッキング剤を用いることができる。抗体吸着・ブロッキング後の標識試薬を洗浄するため、遠心分離を行い、余剰な抗体とブロッキング剤が含まれた上澄み液と沈降した粒子を分離し、上澄み液をデカンテーションにて除去する。沈降した粒子に緩衝液などの液体を加え、必要に応じ超音波などで分散処理を行う。この遠心分離による沈降、上澄みの除去、液体の添加という一連の操作による洗浄を必要回数行い、抗体吸着・ブロッキングを行った粒子を所定の濃度含有した分散液を調製する。この分散液に必要に応じタンパク質、界面活性剤、スクロースやトレハロースなどの糖を加え、得られた溶液をグラスファイバー製のコンジュゲートパッドに一定量塗布し、乾燥させ、検出試薬含有部を調製する。また再生セルロース連続長繊維不織布に必要に応じ緩衝液、界面活性剤、タンパク、検体試料中の夾雑物をトラップする試薬、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、吸湿剤、などを塗布し、乾燥させ、サンプルパッドを調製する。更に所定の位置に抗体を固定化したニトロセルロース膜製のクロマトグラフ媒体、検体を吸収するためのセルロース濾紙製の吸収パッドを調製する。それらをバッキングシートと呼ばれる接着部位を有するシートに固定化し、所定のサイズに裁断することでイムノクロマト診断キットを作製する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。また、特に記載のない全ての操作は温度23℃、相対湿度55%RHの環境下で行った。
まず、実施例等で用いた物性の測定方法を説明する。
【0041】
<厚み(mm)>
不織布の厚みを、JIS-L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した。
【0042】
<目付(g/m2)>
0.5m2以上の面積の不織布を、105℃で一定重量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその重量を測定し、不織布の単位面積当たりの重量を測定し、不織布の目付とした。
【0043】
<平均繊維径(μm)>
装置型式:JSM-6510 日本電子株式会社製を用いた。得られた不織布を10cm×10cmにカットし、上下60℃の鉄板に0.30MPaの圧力で90秒間プレスした後、不織布を白金にて蒸着した。そして上記SEMを用いて、加速電圧15kV、ワーキングディスタンス21mmの条件にて撮影した。撮影倍率は、平均繊維径が0.5μm未満の糸は10000倍、平均繊維径が0.5μm以上1.5μm未満の糸は6000倍、1.5μm以上の糸は4000倍とした。それぞれの撮影倍率での撮影視野は、10000倍では12.7μm×9.3μm、6000倍では21.1μm×15.9μm、4000倍では31.7μm×23.9μmであった。ランダムに繊維100本以上を撮影し、全ての繊維径を測長した。この際に、糸長方向で融着している繊維同士は測定から省いた。以下の式:
Dw=ΣWi・Di=Σ(Ni・Di2)/(Ni・Di)
{式中、Wi=繊維径Diの重量分率=Ni・Di/ΣNi・Diである。}
により求められる重量平均繊維径(Dw)を、平均繊維径(μm)とした。
【0044】
<Dmax、Dave、Dminの測定>
装置型式:Automated Perm Porometer(多孔質材料自動細孔径分布測定システム)Porous Materials, Inc.社製を用いた。
不織布サンプルを打ち抜き刃でφ25mmにカットし、GALWICK試液に浸漬させ、1時間脱気する。その後サンプルをセットし、エア圧を加える。GALWICK試液が毛細管内の液体表面張力に打ち勝ち、押し出される為、その時の圧力を測定することにより毛細管の式から導かれたWashburnの式から、最大孔径Dmax(μm)、平均孔径Dave(μm)、最小孔径Dmin(μm)を求めた。
【0045】
<地合指数>
装置型式:FMT-MIII 野村商事株式会社製を用いた。
サンプルをセットしない状態で、光源点灯時/消灯時の透過光量をCCDカメラでそれぞれ測定した。続いて、A4サイズにカットした不織布をセットした状態で同様に透過光量を測定し、平均透過率、平均吸光度、標準偏差(吸光度のバラツキ)を求めた。地合指数は、標準偏差÷平均吸光度×10で求めることができる。地合指数は、目視との相関が極めて高く、不織布の地合を最も端的にあらわしている。また、地合指数は、地合が良い程小さく、悪いもの程大きな値になる。
【0046】
<親水化度>
JIS-L1907準拠のバイレック法により吸水高さを測定した。具体的には、大きさ約200mm×25mmの試験片をそれぞれ5枚採取する。次に、水を入れた水槽の水面上に支えた水平棒上に試験片をピンなどで固定した後、水平棒を降下させて,試験片の下端の20mm±2mmが水に浸せきするように調整し、そのまま10分間放置する。放置後、毛細管現象によって水が上昇した高さをスケールで1mmまで測定する。5枚の試験片それぞれの吸水高さの平均値を親水化度とした。
【0047】
<イムノクロマト診断キットのバックグラウンド(BG着色)>
適切な幅にカットしたイムノクロマト診断キットをプラスチックのハウジングに入れた。次に、1重量%BSAを含む66mM、PH7.4のPBSを調製し、陰性検体とした。得られたハウジング入りの診断キットを用い、100μLの陰性検体を診断キットのサンプル滴下部に滴下し、5分後に、浜松ホトニクス社製のイムノクロマトリーダーC10066-10を用い、TLとCLの間の1点の発色強度(単位はmABS)を測定した。ここで発色強度が20mABS以上の場合をBGが着色していると判断した。ここで20mABS以上とした理由は、20mABS以上になれば目視で確実に着色を確認できるからである。
【0048】
<イムノクロマト診断キットのテストライン(TL)の発色時間>
TL発色時間の測定については、検査対象物質にヒト絨毛性ゴナドトロピン(以下「hCG」という)を用い、hCGを、1重量%の牛血清アルブミン(以下「BSA」という。)を含む66mM、PH7.4のリン酸緩衝液(以下「PBS」という)で希釈し、hCG濃度が10mIU/mlの陽性検体を調製した。その陽性検体100μlを診断キットのサンプル滴下部に滴下し、以降20秒毎に前記同様イムノクロマトリーダーで測定を行い、TLの経時変化を測定した。ここで20秒毎とした理由は、測定1回につき20秒弱が必要なためである。次に、イムノクロマトリーダーで得られるTLの発色強度が20mABS以上になった時間を測定した。ここで20mABSとした理由は、20mABS以上になれば目視でもTLの存在を確認できるからである。この測定を計30回行い、平均の時間(単位は秒)をTL発色時間とした。
【0049】
<テストライン(TL)発色強度>
TL発色強度の測定については、上記と同じく陽性検体100μlを診断キットのサンプル滴下部に滴下し、5分後のテストラインの発色強度(mABS)をイムノクロマトリーダーにより測定した。この測定を計30回行い、平均の発色強度(mABS)をTL発色強度とした。
また、同時にTL発色強度の標準偏差を求め、再現性を表す指標%CVは下記式:
%CV=(TL発色強度の標準偏差/TL発色強度)×100
により算出した。
【0050】
[実施例1]
<熱可塑性不織布の作製>
ポリエチレンテレフタレート樹脂を使用し、本樹脂を押出機で溶融し、ノズル径0.3mmの紡口ノズルから単孔吐出量0.12g/minで押し出した。上記の熱可塑性樹脂を押し出す際に、紡糸ガスは紡糸ガス温度370℃、紡糸ガス圧力0.075MPaの条件に設定し、ポリエチレンテレフタレート製不織布を作製した。得られた不織布は、目付80g/m2、厚み0.22mm、平均繊維径:1.9μmであった。また、孔径と地合指数を上記の方法で測定した結果、Dmax:5.64μm、Dave:4.10μm、Dmin:3.23μmで、地合指数は49であった。
【0051】
<親水加工>
上記にように作製した不織布を、ディップニップ法を用いて親水化した。具体的には、陰イオン性界面活性剤と水とを混合した親水加工剤を加工浴に入れ、作製した熱可塑性不織布の原反を浸漬、マングルで所定の絞り率で絞った後、テンター型乾燥機で乾燥・熱処理を行った。親水加工後、上記のバイレック法にて親水化度を測定したところ109mmであった。
【0052】
<抗体感作金コロイド粒子の調製>
金コロイド粒子懸濁液(田中貴金属社製、平均粒子径40nm、粒子濃度0.006wt%、平均粒子径40nm)2500μlに、リン酸緩衝液(50mM、pH7.0)を600μl加え、更に抗hCG-αマウス抗体(Fitzgerald社製、モノクローナル抗体)の0.1%水溶液を200μl加えて、ボルテックスで攪拌する。続いて、25℃で10分間、温調しながら攪拌した。上記懸濁液に1%のPEG水溶液を300μl、10%のBSA水溶液(pH9.0、50mMホウ酸含有)を600μl添加し、ボルテックスで攪拌した。その後、遠心分離操作(10000g、30分間)を行い、上澄み液を除去した。その残渣に、1%BSA水溶液(0.05%PEG、150mMNaCl、pH8.2、20mMトリス含有)を11000μl添加し、ボルテックスで撹拌した。その後、遠心分離操作(10000g、30分間)を行い、上澄み液を除去した。その残渣に、1%BSA水溶液(0.05%PEG、150mMNaCl、pH8.2、20mMトリス含有)を900μl添加し、超音波処理を30秒間行った。
【0053】
<コンジュゲートパッドへの標識試薬の含浸、乾燥>
グラスファーバー製コンジュゲートパッド(Ahlstrom社製、#8951)を高さ10mm、長さ300mmの形状にカットした。その後、抗体感作金コロイド粒子分散液を1020μl均等に塗布し、50℃で60分乾燥させた。
【0054】
<サンプルパッドの前処理>
サンプルパッド((Millipore社製、C048)を、大過剰の2.0重量%のBSA(シグマアルドリッチ社製、A7906)と2.0重量%のTween-20(登録商標)を含有するPBS緩衝液(66mM、pH7.4)に含浸し、余分な液を取り除いたのちに50℃で60分乾燥させた。続いて高さ18mm、長さ300mmの形状にカットした。
【0055】
<捕捉抗体塗布ニトロセルロース膜の調製>
ニトロセルロース膜(Millipore社製、SHF0900425)を高さ25mm、長さ300mmの形状にカットした。液体塗布装置(武蔵エンジニアリング社製、300DS)を用い、0.1重量%抗hCG-βマウス抗体(MedixBiochemica社製、6601)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を0.1μl/mmの割合で高さ7mmの部分に塗布した。続いて0.1重量%の抗マウス-ウサギ抗体(Daco社製、Z0259)を含むPBS溶液(66mM、pH7.4)を0.1μl/mmの割合で高さ12mmの部分に塗布した。続いて37℃で30分乾燥させた。
【0056】
<イムノクロマト診断キットの調製>
バッキングカード(Adhesives Reserch社製、AR9020)に、調製した捕捉抗体塗布ニトロセルロース膜、吸収パッド、標識試薬を含有したコンジュゲートパッド、サンプルパッドを張り合わせた。続いて裁断機にて5mmの幅にカットし、幅5mm、高さ60mmのイムノクロマト診断キットを得た。
【0057】
<イムノクロマト診断キットの性能評価>
得られたイムノクロマト診断キットの性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0058】
尚、実施例、比較例において、イムノクロマト診断キット幅を5mm、かつ、厚みが0.2mm以上の吸収パッドを用いたものの性能評価においては、展開液の展開可能量がおよそ80~120μlとなるため、表1に示すように、実際に100μlを展開し評価した。また、キット幅を2.5mmにしたもの、又は厚みが0.2mm未満の吸収パッドを用いたものでは、展開液の展開可能量がおよそ30~80μlとなるため、こちらも表1に示すように、実際に50μlを展開し評価した。
【0059】
[実施例2]
熱可塑性不織布の目付が90g/m2、かつ、平均繊維径が2.1μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0060】
[実施例3]
熱可塑性不織布の平均繊維径が4.7μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0061】
[実施例4]
熱可塑性不織布の目付が120g/m2になるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0062】
[実施例5]
熱可塑性不織布の目付が185g/m2になるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0063】
[実施例6]
熱可塑性不織布を親水化処理する際の親水化剤の濃度を調整し、親水化度が171mmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0064】
[実施例7]
熱可塑性不織布を実施例6と同様に、親水化度が72mmになるように製造した以外は、実施例1と同様の方法でイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0065】
[実施例8]
熱可塑性不織布の目付と厚みを調整し、地合指数が95になるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0066】
[実施例9]
ポリプロピレンを用いて熱可塑性不織布を製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0067】
[実施例10]
実施例2で用いた親水化した熱可塑性不織布を積層させたものを用いたこと以外は実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0068】
[実施例11]
熱可塑性不織布の目付が45g/m2、厚みが0.14mm、平均繊維径が1.6μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、各検体滴下量を50μlとしてその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0069】
[実施例12]
熱可塑性不織布の目付が40g/m2、厚みが0.10mm、平均繊維径が1.0μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0070】
[実施例13]
熱可塑性不織布の目付が20g/m2、厚みが0.06mm、平均繊維径が0.9μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0071】
[実施例14]
実施例2と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、それを2.5mm幅にカットしたものを、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0072】
〔実施例1~14の説明〕
実施例1~14においてはいずれも、請求項1に規定する所定範囲の物性をもつ熱可塑性樹脂を親水化したものを吸収パッドに用いることで、以下の表1に示すように、5分後には確実にBG着色が無く(20mABS未満)、TL発色強度のバラツキが小さく、製品間バラツキの少ないイムノクロマト診断キットを得ることができた。
【0073】
[比較例1]
熱可塑性不織布の目付が220g/m2、敢えて厚みが0.55mmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、かなり目の詰まった不織布となってしまい、十分に吸水しないことから5分後のBGの着色が発生し、かつ、TL発色強度の%CVが上昇してしまった。
【0074】
[比較例2]
熱可塑性不織布の目付が80g/m2、敢えて厚みが1.30mmになるように製造した以外は、実施例1と同様の方法でイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、目付に対して厚みが厚すぎるためかなり粗な構造となってしまったため地合指数が悪くなり、TL発色強度の%CVが大きく上昇してしまった。
【0075】
[比較例3]
熱可塑性不織布の平均繊維径が5.5μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、比較例2と同じく繊維径が太すぎて地合指数が悪くなり、かつTL発色強度の%CVが大きく上昇してしまった。
【0076】
[比較例4]
熱可塑性不織布の親水化度が48mmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。表1に示す結果から明らかなように、比較例1と同様5分後のBG着色があり、TL発色時間も大幅に遅くなった。また、TL発色強度の%CVが大きく上昇してしまった。
【0077】
[比較例5]
厚手のセルロース製吸収パッドを用いたこと以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、5分後のBG着色があり、TL発色強度の%CVも大きく上昇してしまった。
【0078】
[比較例6]
薄手のセルロース製吸収パッドを用いたこと以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、5分後のBG着色があり、TL発色強度の%CVも大きく上昇してしまった。
【0079】
[比較例7]
グラスファイバー製吸収パッドを用いたこと以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、その性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、比較例1と同じく5分後のBG着色があり、TL発色強度の%CVも大きく上昇してしまった。また、イムノクロマト診断キット作製時、とくに切断加工時に明らかに分かる量の粉塵が発生した。
【0080】
[比較例8]
熱可塑性不織布の目付が15g/m2に、厚みが0.05mmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、展開する液量に対し吸収パッドの吸液量が足りず展開しなかった。
【0081】
[比較例9]
熱可塑性不織布の平均繊維径が0.6μmになるように製造した以外は、実施例1と同様にイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、比較例8と同様に吸液量が足りず展開しなかった。
【0082】
[比較例10]
厚手のセルロース製吸収パッドを用いて、キット幅を2.5mm幅としてイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価しようとしたが、厚みが厚すぎて2.5mmのような細幅には切断することができず、キットを作製できなかたため、性能評価もできなかった。
【0083】
[比較例11]
薄手のセルロース製吸収パッドを用いて、キット幅を2.5mm幅としてイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、5分後のBG着色があり、TL発色強度の%CVが大きく上昇してしまった。
【0084】
[比較例12]
グラスファイバー製吸収パッドを用いて、キット幅を2.5mm幅でイムノクロマト診断キットを調製し、実施例11と同様にその性能を評価した。結果を以下の表1に示す。表1に示す結果から明らかなように、比較例1と同じく5分後のBG着色があり、TL発色強度の%CVが大きく上昇し、5mm幅のときの%CV(比較例7)よりもさらに悪化してしまった。また、イムノクロマト診断キット作製時、とくに切断加工時に明らかに分かる量の粉塵が発生した。
【0085】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のイムノクロマト診断キット用吸収パッドを用いたイムノクロマト診断キットは、発色強度のバラツキが少なく再現性に優れるものとなる。本願発明においては、疎水性の熱可塑性不織布を用いて親水化処理することで、本願発明の吸水力をコントロールでき、バックグラウンドの改善に繋がり、更に、イムノクロマト診断キットの製造工程においても、グラスファイバーと比較して脱離繊維が少なく、切断・整形も容易なことから、厚みや幅などのパッドやキットのサイズ設計について高い自由度をもち、かつ工程上の安定性の確保も可能である。それゆえ、本発明のイムノクロマト診断キット用吸収パッドは、各種イムノクロマト診断キットの吸収パットとして好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
(a) 吸収パッド
(b) ニトロセルロース膜
(c) コンジュゲートパッド(抗体感作標識試薬を含む)
(d) サンプルパッド
(e) 台紙