(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池負極活物質、リチウムイオン電池負極、リチウムイオン電池、電池パック、及び電池動力車両
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20220824BHJP
【FI】
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2021520402
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 CN2019107752
(87)【国際公開番号】W WO2020073803
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】201811180350.5
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201811180348.8
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521148108
【氏名又は名称】フーナン ジンイェ ハイ-テック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HUNAN JINYE HIGH-TECH CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 14-H063,14th floor,Yannong Complex Building,Luquan Road and Lusong Road Intersection,Changsha High-tech Development Zone,Changsha,Hunan 410000,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,ジィェンロン
(72)【発明者】
【氏名】スン,チィァン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ホンドン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン,ジュンシィァン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン,リィゥフォン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジェ
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-231234(JP,A)
【文献】特開2003-123754(JP,A)
【文献】特開2010-205846(JP,A)
【文献】特開2010-114206(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022486(WO,A1)
【文献】特開2013-077530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子であって、
当該炭素微粒子のN
2吸脱着により測定された細孔構造において、BJHにより測定された細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径2~10nmの細孔容積の合計の割合が5~10%、細孔径10~100nmの細孔容積の合計の割合が50~65%、細孔径100~200nmの細孔容積の合計の割合が30~40%であり、
前記炭素微粒子のBET比表面積が
1.4~
1.9m
2/g
であり、
前記炭素微粒子の粒度分布において、D10が1~5μm、D50が12~18μm、D90が25~35μmである、リチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項2】
X線回折により測定された炭素微粒子の層間隔d(002)が0.3368nm以下であり、
且つC軸方向の微結晶サイズLcが0.5~0.9nmであり、
且つ黒鉛化度が84~93%であり、及び/又は、
X線回折により測定された炭素微粒子のI
(002)/I
(100)が180~300、I
(002)/I
(101)が120~240、I
(002)/I
(004)が25~35、I
(004)/I
(110)が4~10であり、及び/又は、
ラマン測定による炭素微粒子のDピークが1300~1400cm
-1
であり、Gピークが1550~1600cm
-1であり、I
D/I
Gが0.1未
満である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項3】
ラマン測定による炭素微粒子のDピークが1300~1350cm
-1
であり、Gピークが1550~1600cm
-1
であり、I
D
/I
G
が0.01~0.084である、請求項2に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項4】
前記炭素微粒子の最大粒径が39μmであり、及び/又は、
前記炭素微粒子は、熱重量測定を行う場合、400~650℃における質量損失量が80~90重量%であり、及び/又は、
前記炭素微粒子のタップ密度が0.9~1.2g/cm
3である、請求項1
~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項5】
炭素源に対して機械的粉砕、化学的精製、炭化及び黒鉛化を順次行い、炭素微粒子を製造することを含
む、請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子の製造方法。
【請求項6】
機械的粉砕後の炭素源の粒径D50が10~18μmである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
化学的精製は、HF及び/又はHCl洗浄の方式によって処理される、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記化学的精製は、HF及び任意選択のHCl洗浄の方式によって処理される、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記炭素源は、鋳造コークス、冶金コークス、及び石炭のうちの少なくとも1種である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
前記炭素源は鋳造コークスである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記炭化の過程は、室温から1500℃まで昇温する昇温過程を含
む、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項12】
前記炭化の過程は3~6の昇温段階を含み、各前記昇温段階における昇温速度が1~5℃/minであり、複数回の前記昇温段階の間に保温段階が設定されている、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記黒鉛化の過程は、室温から2900~3200℃まで昇温する過程を含
む、請求項
5~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記黒鉛化の過程は、室温から1350~1450℃まで昇温し、昇温速度r1が3≦r1≦6℃/minを満たす第1の昇温段階と、1980~2020℃まで昇温し、昇温速度r2が2<r2≦3℃/minを満たす第2の昇温段階と、2900~3200℃まで昇温し、昇温速度r3が2<r3≦3℃/minを満たす第3の昇温段階との3つの昇温段階を含み、3つの昇温段階の間に恒温段階がさらに含まれ、各恒温段階の時間は20~30minである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子であって、
当該炭素微粒子のN
2吸脱着により測定された細孔構造において、BJHにより測定された細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径2~10nmの全細孔容積の割合が2~6%、細孔径10~100nmの全細孔容積の割合が30~45%、細孔径100~200nmの全細孔容積の割合が50~65%であり、
前記炭素微粒子のBET比表面積が0.9~
1.3m
2/g
であり、
前記炭素微粒子の粒度分布において、D10が1~5μm、D50が12~18μm、D90が25~35μmである、リチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項16】
X線回折により測定された炭素微粒子の層間隔d(002)が0.3368nm以下であり、
且つC軸方向の微結晶サイズLcが0.5~0.9nmであり、
且つ黒鉛化度が84~93%であり、及び/又は、
X線回折により測定された炭素微粒子のI
(002)/I
(100)が180~300、I
(002)/I
(101)が120~240、I
(002)/I
(004)が25~35、I
(004)/I
(110)が4~10であり、及び/又は、
ラマン測定による炭素微粒子のDピークが1300~1400cm
-1であり、Gピークが1550~1600cm
-1であり、I
D/I
Gが0.1以
上である、請求項
15に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項17】
I
D
/I
G
が0.1~0.4である、請求項16に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項18】
前記炭素微粒子の最大粒径が39μmであり、及び/又は、
前記炭素微粒子は、熱重量測定を行う場合、400~650℃における質量損失量が80~90重量%であり、及び/又は、
前記炭素微粒子のタップ密度が0.9~1.2g/cm
3である、請求項
15~17のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子。
【請求項19】
炭素源に対して機械的粉砕、化学的精製、炭化及び黒鉛化を順次行い、炭素微粒子を製造することを含
む、請求項
15~
18のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子の製造方法。
【請求項20】
前記機械的粉砕後の炭素源の粒径D50が10~18μmである、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記化学的精製は、HF及び/又はHCl洗浄の方式によって処理される、請求項19に記載の製造方法。
【請求項22】
前記化学的精製は、HF及び任意選択のHCl洗浄の方式によって処理される、請求項19に記載の製造方法。
【請求項23】
前記炭素源は、鋳造コークス、冶金コークス、及び石炭のうちの少なくとも1種である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項24】
前記炭素源は鋳造コークスである、請求項23に記載の製造方法。
【請求項25】
前記炭化の過程は、室温から1500℃まで昇温する昇温過程を含
む、請求項
19に記載の製造方法。
【請求項26】
前記炭化の過程は、複数の昇温段階を含み、各前記昇温段階における昇温速度は2~5℃/minであり、複数の前記昇温段階の間に保温段階が設けられている、請求項25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記炭化の過程は、3~6の昇温段階を含む、請求項26に記載の製造方法。
【請求項28】
前記黒鉛化の過程は、室温から2900~3200℃まで昇温する過程を含む、請求項
19~27のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項29】
前記黒鉛化の過程は、室温から1350~1450℃まで3~6℃/minの昇温速度で昇温する第1の昇温段階と、1980~2020℃まで0.5~2℃/minの昇温速度で昇温する第2の昇温段階と、2900~3200℃まで0.5~2℃/minの昇温速度で昇温する第3の昇温段階との3つの昇温段階を含み、
3つの昇温段階の間に恒温段階がさらに含まれ、各恒温段階の時間は20~30minである、請求項28に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極炭素材料の分野、具体的には、リチウムイオン電池負極活物質、リチウムイオン電池負極、リチウムイオン電池、電池パック、及び電池動力車両に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、理論比容量が高く、サイクル寿命が長く、安全性が高いなどの利点があり、近年の新エネルギー研究の焦点となっている。リチウムイオン電池充放電の過程で、Li+は正極と負極との間でインターカレーションとデインターカレーションとを往復して繰り返す。したがって、負極材料の選択は、リチウムイオン電池の容量にとって重要な役割を果たす。現在のリチウムイオンの負極材料としては、主に炭素材料、シリコン材料、金属又は合金材料が選択されており、炭素材料は、原料の入手が容易であり、理論容量が高く、十分なリチウム吸蔵空間を提供することができ、現在市販されているリチウムイオン電池は、リチウムイオン電池の負極として炭素材料を採用することが好ましい。
【0003】
リチウムイオン電池負極の炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズカーボンマイクロスフィア、石油コークスなどが一般的に選ばれる。天然黒鉛は、比表面積が大きく、脱リチウム電位が低く、初回不可逆容量が大きい反面、副反応が起こりやすい。炭素材料の球形度を高めるには、通常、被覆処理、整形又は黒鉛化処理を行う。
【0004】
現在、リチウムイオン電池用の負極材料は、黒鉛粒子の球形度や規則性を高めることが主であり、これらの方法で製造された炭素材料は、リチウムイオン電池の充放電初期には容量が向上するが、レートを上げると放電容量が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、豊富な細孔構造を有しており、リチウムイオン電池に用いた場合、リチウムイオン電池の放電容量及びレート性能を大幅に向上させることができるとともに、リチウムイオン電池の低温性能の向上にも寄与するリチウムイオン電池負極活物質、リチウムイオン電池負極、リチウムイオン電池、電池パック、及び電池動力車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様は、第1のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子及びそれに対応する製造方法を提供し、当該炭素微粒子のN2吸脱着により測定された細孔構造において、BJHにより測定された細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径2~10nmの細孔容積の合計の割合が5~10%、細孔径10~100nmの細孔容積の合計の割合が50~65%、細孔径100~200nmの細孔容積の合計の割合が30~40%であり、前記炭素微粒子のBET比表面積が1~4m2/g、好ましくは1.4~1.9m2/gである。
【0007】
上記第1のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子は、細孔径2~200nmの細孔において、細孔径10~100nmの細孔容積の合計の割合が50~65%である。N2吸脱着により測定されたBET比表面積が1~4m2/g、ラマン測定による炭素微粒子のID/IGが0.1未満である。上記構造を有する炭素微粒子をリチウムイオン電池負極に用いた場合、その豊富な細孔により、大きなリチウム吸蔵空間が提供され、結晶度の異なる黒鉛構造及び比表面積と組み合わせると、溶媒中のリチウムイオンと炭素微粒子とが十分に接触しやすくなり、炭素微粒子の細孔構造が安定的になり、リチウムイオン電池の初回放電容量が高く、放電レートが高く、低温性能に優れている。
【0008】
本発明の第2の態様は、第2のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子及びそれに対応する製造方法を提供し、当該炭素微粒子のN2吸脱着により測定された細孔構造において、BJHにより測定された細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径2~10nmの全細孔容積の割合が2~6%、細孔径10~100nmの全細孔容積の割合が30~45%、細孔径100~200nmの全細孔容積の割合が50~65%であり、前記炭素微粒子のBET比表面積が0.9~2m2/g、好ましくは0.9~1.3m2/gである。
【0009】
上記第2のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子は、細孔径2~200nmの細孔において、細孔径100~200nmの細孔容積の合計の割合が50~65%である。N2吸脱着により測定されたBET比表面積が0.9~2m2/gであり、ラマン測定による炭素微粒子のID/IGが0.1以上である。本発明のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子は、豊富な細孔構造を有しており、リチウムイオン電池に用いた場合、リチウムイオン電池の放電容量が高く、かつ合理的な放電レート及びクーロン効率を維持することができる。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の第1のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子と第2のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子を含むリチウムイオン電池負極を提供する。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載のリチウムイオン電池の負極、正極、及び電解液を含み、正極と負極とがセパレータで分離され、正極、負極及びセパレータが電解液に含浸されているリチウムイオン電池を提供する。
【0012】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載のリチウムイオン電池の1つ又は複数のを直列及び/又は並列に接続してなる電池パックを提供する。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の電池パックを含む電池動力車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の好適な実施形態における実施例1の炭素微粒子SC1の形態図である。
【
図2】第1の好適な実施形態における実施例1の炭素微粒子SC1のエネルギースペクトルである。
【
図3】第2の好適な実施形態における実施例A1の炭素微粒子SC1の形態図である。
【
図4】第2の好適な実施形態における実施例A1の炭素微粒子SC1のエネルギースペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で開示される範囲の端点及び任意の値は、これらの正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近い値を含むものと理解されるべきである。数値範囲については、個々の範囲の端点値の間、個々の範囲の端点値と個別の点値の間、及び個別の点値の間を組み合わせて、1つ又は複数の新たな数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は、本明細書で具体的に開示されていると考えるべきである。
【0016】
本発明の一態様は、N2吸脱着により測定された細孔構造において、BJHにより測定された細孔径2~200nmの細孔容積の合計を基準として、細孔径2~10nmの細孔容積の合計の割合が5~10体積%、細孔径10~100nmの細孔容積の合計の割合が50~65%、細孔径100~200nmの細孔容積の合計の割合が30~40%であり、前記炭素微粒子のBET比表面積が1~4m2/gであるリチウムイオン電池用負極炭素微粒子を提供する。
【0017】
本発明における「細孔容積の合計の割合」は、細孔径2~200nmの全細孔容積に占める細孔径2~200nmのいずれかの範囲内の細孔の容積の割合である。
【0018】
本発明では、炭素微粒子の細孔分布を最適化することにより、製造された炭素微粒子は、細孔径分布の範囲が広く、特に従来の材料と比較して、細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径2~10nmの細孔の容積の割合が半分を超える。本発明者らは、炭素微粒子の細孔径が2~200nmであると、溶媒和されたLi+の出入りにより有利であり、大きなリチウム吸蔵空間を提供し、より長い可逆放電プラットフォームを持たせることを見出した。
【0019】
細孔径2~10nmの細孔はリチウム吸蔵に有利であり、細孔径100~200nmの細孔はイオンの出入りに有利である。異なる細孔径分布の割合の材料を比較したところ、本願の細孔の割合で分布する細孔を有する炭素微粒子は、細孔径の範囲及び比表面積の範囲が同じである場合、負極材料として、電池の放電容量とレートとのバランスを効果的にとることができ、高レート性能、高放電容量を有し、低温性能が他の比較材料よりも優れている。
【0020】
炭素微粒子のリチウム吸蔵空間をさらに高めるために、好ましくは、前記炭素微粒子のBET比表面積が1.4~1.9m2/gである。より好ましくは、前記炭素微粒子のBET比表面積が1.61~1.85m2/gである。
【0021】
炭素微粒子と電解液との反応を低減し、炭素微粒子の導電性を向上させるために、好ましくは、X線回折により測定された炭素微粒子の層間隔d(002)が0.3368nm以下であり、C軸方向の微結晶サイズLcが0.5~0.9nmであり、黒鉛化度が84~93%である。
【0022】
以上の範囲の微結晶サイズと黒鉛化度を有する炭素微粒子は、リチウムイオンに豊富な層間リチウム吸蔵空間を提供し、かつ構造的に安定して、良好な導電性を有し、リチウムイオン電池のレート性能を向上させることができる。
【0023】
好ましくは、X線回折により測定された炭素微粒子のI(002)/I(100)が180~300、I(002)/I(101)が120~240、I(002)/I(004)が25~35、I(004)/I(110)が4~10である。
【0024】
以上の条件を満たす炭素微粒子は、より良好な結晶性を有し、炭素微粒子中の層間構造の相対的なずれによる構造の崩壊を回避することができ、また配向性を低減してサイクル性を向上させることができる。
【0025】
炭素微粒子の構造安定性をさらに高めるために、ラマン測定による炭素微粒子のDピークは1300~1400cm-1、好ましくは1300~1350cm-1であり、Gピークは1550~1600cm-1であり、ID/IGは0.1未満である。
【0026】
好ましくは、ID/IGは0.01~0.084である。
【0027】
より好ましくは、ID/IGは0.05~0.066である。
【0028】
本発明で製造された炭素微粒子は、規則的な黒鉛層状構造を有するとともに、欠陥や空孔等の構造を有し、この構造が炭素微粒子の細孔分布と組み合わせると、リチウムイオン電池としての炭素微粒子の放電容量、レート性能、及びサイクル性能を大幅に向上させることができる。
【0029】
炭素微粒子と電解液との接触面積をさらに高めるために、好ましくは、前記炭素微粒子の粒度分布において、D10が1~5μm、D50が12~18μm、D90が25~35μm、最大粒径が39μmである。
【0030】
本発明の炭素微粒子の粒度は、上記の範囲で分布しており、炭素微粒子のマクロサイズの分布範囲が広く、炭素微粒子と電解液との間の含浸性が強いため、溶媒和されたLi+が炭素微粒子と十分に接触することができ、リチウムイオン電池の低温性能を効果的に向上させつつ、リチウム吸蔵容量を向上させることができる。
【0031】
前記炭素微粒子は、熱重量測定を行う場合、400~650℃における質量損失量が80~90重量%である。
【0032】
前記炭素微粒子のタップ密度が0.9~1.2g/cm3である。
【0033】
前記炭素微粒子の粉末圧縮密度が1.51~1.55g/cm3である。
【0034】
本発明の炭素微粒子は、タップ密度が上記範囲にあると、粒子間に一定の細孔率を有し、電解液中のイオンの電極間移動を促進し、リチウムイオン電池の充放電性能を向上させる。
【0035】
本発明の他の態様は、炭素源に対して機械的粉砕、化学的精製、炭化及び黒鉛化を順次行い、炭素微粒子を製造することを含むリチウムイオン電池用負極炭素微粒子の製造方法を提供する。
【0036】
本発明の炭素源は、上記ステップで処理された後、原料中の不純物除去率が高く、化学的精製、炭化、黒鉛化処理を経た後、固定炭素含有率が99.972%と高くなり、この方法で製造された炭素微粒子をリチウムイオン電池に用いることにより、リチウムイオン電池の放電容量及びレート性能を効果的に向上させることができる。
【0037】
炭素源をさらに精製するために、好ましくは、機械的粉砕後の炭素源の粒径D50が10~18μmである。
【0038】
炭素源中のケイ酸塩及び金属酸化物の含有量を低減するために、化学的精製は、HF及び/又はHCl洗浄の方式によって処理され、より好ましくは、HF及び任意選択のHCl洗浄の方式によって処理される。
【0039】
本発明によれば、前記化学的精製は、HF及び/又はHCl洗浄の方式を用いることができ、このような方式を用いると、好ましくは、まず、前記炭素源をHFで処理し、次に、HClで処理する。前記炭素源とHF/HClとの体積比は1:(1.2~12)、前記HFの体積濃度は2~8%、処理時間は40~80min、前記HClの体積濃度は10~20%、処理時間は20~50minである。
【0040】
本発明によれば、前記化学的精製はHF洗浄の方式によって処理されてもよく、このような方式を用いると、前記炭素源とHFとの体積比は1:(1~2)であり、前記HFの体積濃度は20~40%である。
【0041】
炭素源を上記の方法で処理することにより、その後の細孔径調整ステップを必要とせずに、細孔径分布の広い炭素微粒子を製造することができる。特に、前期粉砕を経た炭素源の粒径D50を10~18μmとし、HF及び/又はHCl洗浄の方式によって処理する化学的精製と組み合わせることにより、炭素源中の硫化物等の不純物を除去するとともに、炭素源中の炭素構造を完全に制御することで、その後の炭化及び黒鉛化処理を容易にすることができる。
【0042】
製造された炭素微粒子が適切な比表面積及び細孔径分布を有するようにするために、好ましくは、炭素化の過程は室温から1500℃まで昇温する昇温過程を含む。
【0043】
炭素微粒子の構造安定性をさらに向上させるために、好ましくは、炭素化過程は3~6の昇温段階を含み、各前記昇温段階における昇温速度が1~5℃/minであり、複数の前記昇温段階の間に保温段階が設けられている。
【0044】
本発明は、多段昇温の炭化方式を採用し、昇温速度及び昇温時間を調整することにより、炭素源が豊富な細孔分布を形成し、溶液中のLi+に対して十分なリチウム吸蔵空間を提供する。昇温速度が速すぎると、その多元的な細孔構造は容易に形成されず、細孔分布は比較的単一である。昇温速度が遅すぎると、隣接する細孔は融着しやすくなり、形成される細孔径分布範囲は狭くなる。
【0045】
炭素微粒子の構造安定性をさらに向上させるために、好ましくは、前記黒鉛化の過程は、室温から2900~3200℃まで昇温する過程を含む。
【0046】
黒鉛化処理は、好ましくは、多段昇温の方式により行い、具体的には、黒鉛化の過程は、1350~1450℃まで昇温し、昇温速度r1が3≦r1≦6℃/minを満たす第1の昇温段階と、1980~2020℃まで昇温し、昇温速度r2が2<r2≦3℃/minを満たす第2の昇温段階と、2900~3200℃まで昇温し、昇温速度r3が2<r3≦3℃/minを満たす第3の昇温段階との3つの昇温段階を含み、3つの昇温段階の間には恒温段階がさらに含まれ、各恒温段階の時間は20~30minである。
【0047】
炭化された炭素材料をさらに黒鉛化処理し、本発明では、上記昇温速度に応じた多段昇温方式で黒鉛化処理過程を行い、昇温速度及び昇温時間を調整することにより、炭素材料の黒鉛化度をさらに向上させ、大きなリチウム吸蔵空間を提供する。
【0048】
ここで、炭素源は、鋳造コークス、冶金コークス、石炭、人造黒鉛及び天然黒鉛のうちの少なくとも1種であってもよい。本発明の方法を用いて炭素微粒子を製造する際には、単一の炭素源を選択することも、複数の炭素源を選択して互いに配合することもできる。本発明は、鋳造コークスの付加価値を高め、細孔径2~200nmの細孔の形成を容易にし、またリチウムイオン電池に好適な負極材料を製造することができることから、好ましくは鋳造コークスを採用する。
【0049】
本発明の他の態様は、N2吸脱着により測定された細孔構造において、BJHにより測定された細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径2~10nmの細孔容積の合計の割合が2~6%、細孔径10~100nmの細孔容積の合計の割合が30~45%、細孔径100~200nmの細孔容積の合計の割合が50~65%であり、前記炭素微粒子のBET比表面積が0.9~2m2/gであるリチウムイオン電池用負極炭素微粒子を提供する。
【0050】
本発明における「細孔容積の合計の割合」は、細孔径2~200nmの全細孔容積に占める細孔径2~200nmのいずれかの範囲内の細孔の容積の割合である。
【0051】
本発明では、炭素微粒子の細孔分布を最適化することにより、製造された炭素微粒子は、細孔径分布の範囲が広く、特に従来の材料と比較して、細孔径2~200nmの全細孔容積を基準として、細孔径100~200nmの細孔の容積の割合が半分を超え、細孔径2~10nmの細孔の容積の割合が5~10体積%である。本願の炭素微粒子は、細孔径が2~200nmであり、リチウム吸蔵空間を向上させ、長い可逆放電プラットフォームを有することができる。異なる孔径分布の割合の材料を比較したところ、本願の細孔径の割合で分布した細孔を有する炭素微粒子は、細孔径の範囲及び比表面積の範囲が同じである場合、負極材料として、電池の放電容量とレートとのバランスを効率的に取ることができ、高放電容量を有し、また合理的なクーロン効率とレート性能とを両立させることができる。
【0052】
炭素微粒子のリチウム吸蔵空間をさらに高めるために、好ましくは、前記炭素微粒子のBET比表面積が0.9~1.3m2/g、さらに好ましくは0.98~1.28m2/gである。
【0053】
炭素微粒子と電解液との反応を低減し、炭素微粒子の導電性を向上させるために、好ましくは、X線回折により測定された炭素微粒子の層間隔d(002)が0.3368nm以下であり、C軸方向の微結晶サイズLcが0.5~0.9nmであり、黒鉛化度が84~93%である。
【0054】
本発明で製造された炭素微粒子は、黒鉛化度が高く、以上の範囲の炭素微粒子は、リチウムイオンに層間のリチウム吸蔵空間を提供し、かつ構造的に安定して、良好な導電性能を有し、リチウムイオン電池のレート性能を向上させることができる。
【0055】
好ましくは、X線回折により測定された炭素微粒子のI(002)/I(100)が180~300、I(002)/I(101)が120~240、I(002)/I(004)が25~35、I(004)/I(110)が4~10である。
【0056】
以上の条件を満たす炭素微粒子は、より良好な結晶性を有し、炭素微粒子中の層間構造の相対的なずれによる構造崩壊を回避することができ、また配向性を低減してサイクル性能を向上させることができる。
【0057】
炭素微粒子の構造安定性をさらに高めるために、ラマン測定による炭素微粒子のDピークは1300~1400cm-1、1300~1350cm-1であり、Gピークは1550~1600cm-1であり、ID/IGは0.1以上である。好ましくは、ID/IGは0.1~0.4である。より好ましくは、ID/IGは0.1~0.2である。
【0058】
本願で製造された炭素微粒子は、規則的な黒鉛層状構造を有するとともに、欠陥や空孔等の構造を有し、この構造が炭素微粒子の細孔分布と組み合わせると、リチウムイオン電池としての炭素微粒子の放電容量、及びクーロン効率を大幅に向上させることができる。
【0059】
炭素微粒子と電解液との接触面積をさらに高めるために、好ましくは、前記炭素微粒子の粒度分布において、D10が1~5μm、D50が12~18μm、D90が25~35μm、最大粒径が39μmである。
【0060】
本発明の炭素微粒子の粒度は、上記の範囲で分布しており、炭素微粒子のマクロサイズの分布範囲が広く、炭素微粒子と電解液との含浸性が強いため、溶媒和されたLi+が炭素微粒子と十分に接触することができ、リチウム吸蔵容量を向上させることができ、この粒径分布と炭素微粒子のミクロ細孔とを組み合わせることにより、リチウムイオン電池の容量をより効果的に向上させることができる。
【0061】
前記炭素微粒子は、熱重量測定を行う場合、400~650℃における質量損失量が80~90重量%である。
【0062】
前記炭素微粒子のタップ密度が0.9~1.2g/cm3である。
【0063】
前記炭素微粒子の粉末圧縮密度が1.61~2.05g/cm3である。
【0064】
本発明の炭素微粒子は、タップ密度が上記範囲にあると、粒子間に一定の細孔率を有し、電解液中のイオンの電極間移動を促進し、リチウムイオン電池の充放電性能を向上させる。
【0065】
本発明の他の様態は、炭素源に対して機械的粉砕、化学的精製、炭化及び黒鉛化を順次行い、炭素微粒子を製造するリチウムイオン電池用負極炭素微粒子の製造方法を提供する。
【0066】
本発明の炭素源は、上記ステップで処理された後、原料中の不純物除去率が高く、化学的精製、炭化、黒鉛化処理を経た後、固定炭素含有量が99.972%と高くなり、リチウムイオン電池の放電容量が向上する。
【0067】
炭素源をさらに精製するために、好ましくは、機械的粉砕後の炭素源の粒径D50が10~18μmである。
【0068】
炭素源中のケイ酸塩及び金属酸化物の含有量を低減するために、化学的精製は、HF及び/又はHCl洗浄の方式によって処理され、より好ましくは、HF及び任意選択のHCl洗浄の方式によって処理される。
【0069】
本発明によれば、前記化学的精製は、HF及びHCl洗浄の方式を用いることができ、この方式を用いると、好ましくは、まず、前記炭素源をHFで処理し、次に、HClで処理する。前記炭素源とHF/HClとの体積比は1:(1.2~12)、前記HFの体積濃度は2~8%、処理時間は40~80min、前記HClの体積濃度は10~20%、処理時間は20~50minである。
【0070】
本発明によれば、前記化学的精製は、HF洗浄の方式によって処理されてもよく、このような方式を用いると、前記炭素源とHFとの体積比が1:(1~2)であり、前記HFの体積濃度が20~40%である。
【0071】
炭素源を上記の方法で処理することにより、その後の細孔径調整ステップを必要とせずに、本願の細孔径分布の広い炭素微粒子を製造することができる。特に、前期粉砕を経た炭素源の粒径D50を10~18μmとし、HF及び/又はHCl洗浄の方式によって処理する化学的精製と組み合わせることにより、炭素源中の硫化物等の不純物を除去するとともに、炭素源中の炭素構造を完全に制御することで、その後の炭化及び黒鉛化処理を容易にすることができる。
【0072】
製造された炭素微粒子が適切な比表面積及び細孔径分布を有するようにするために、好ましくは、炭素化の過程は室温から1500℃まで昇温する昇温過程を含む。
【0073】
炭素微粒子の構造安定性をさらに向上させるために、好ましくは、炭素化の過程は複数の昇温段階、好ましくは3~6の昇温段階を含み、各前記昇温段階における昇温速度が2~5℃/minであり、複数の前記昇温段階の間に保温段階が設けられている。
【0074】
本発明は、多段昇温の炭化方式を採用し、昇温速度及び昇温時間を調整することにより、炭素源が豊富な細孔分布を形成し、溶液中のLi+に対して十分なリチウム吸蔵空間を提供する。昇温速度が速すぎると、その多元的な細孔構造は容易に形成されず、細孔分布は比較的単一である。昇温速度が遅すぎると、隣接する細孔は融着しやすくなり、形成される細孔径分布範囲は狭くなる。上記プロセスを用いると、細孔径2~200nmの細孔において、細孔径100~200nmの細孔の割合を多くすることができる。
【0075】
炭素微粒子の構造安定性をさらに向上させるために、好ましくは、黒鉛化の過程は、室温から2900~3200℃まで昇温する過程を含む。
【0076】
黒鉛化処理は、好ましくは、多段昇温の方式により行い、具体的には、黒鉛化の過程は、1350~1450℃まで3~6℃/minの昇温速度で昇温する第1の昇温段階と、1980~2020℃まで0.5~2℃/minの昇温速度で昇温する第2の昇温段階と、2900~3200℃まで0.5~2℃/minの昇温速度で昇温する第3の昇温段階との3つの昇温段階を含み、昇温段階内及び/又は昇温段階間には恒温段階がさらに含まれていてもよく、各恒温段階の時間はそれぞれ20~30minである。
【0077】
炭化された炭素材料をさらに黒鉛化処理し、本願では、上記の多段昇温方式で黒鉛化処理過程を行い、昇温速度及び昇温時間を調整することにより、炭素材料の黒鉛化度をさらに向上させ、大きなリチウム吸蔵空間を提供する。
【0078】
ここで、炭素源は、鋳造コークス、冶金コークス、石炭、人造黒鉛及び天然黒鉛のうちの少なくとも1種であってもよい。本願の方法を用いて炭素微粒子を製造する際には、単一の炭素源を選択することも、複数の炭素源を選択して互いに配合することもできる。本願は、鋳造コークスの付加価値を高めるとともに、リチウムイオン電池に好適な負極材料を製造することができることから、好ましくは鋳造コークスを採用する。
【0079】
本発明の他の態様は、第1の態様に記載のリチウムイオン電池用負極炭素微粒子を含み、水性バインダーをさらに含み、前記炭素微粒子と水性バインダーとの重量比が1:0.01~0.06であるリチウムイオン電池負極を提供する。
【0080】
この割合の範囲内では、バインダーは炭素材料の構造や導電性に影響を与えず、炭素微粒子と電解液との十分な接触を容易にする。
【0081】
リチウムイオン電池負極の導電性をさらに向上させるために、好ましくは、当該リチウムイオン電池負極は、導電剤をさらに含み、前記炭素微粒子と導電剤との重量比が1:0.05~0.125である。
【0082】
この条件下では、導電剤は、炭素微粒子の構造に影響を与えずに、リチウムイオン電池負極全体の導電性を促進することができる。
【0083】
ここで、導電剤は、導電性カーボンブラック、黒鉛、グラフェン及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種であってもよい。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシスチレンブタジエンラテックス、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びポリテトラフルオロエチレンから選ばれる少なくとも1種である。
【0084】
本願の炭素微粒子を用いて製造されたリチウムイオン電池負極は、良好な導電性能及び大きなリチウム吸蔵空間を有し、リチウムイオン電池の放電容量、クーロン効率及び高温性能を効果的に向上させることができる。以上の炭素微粒子を用いて製造されたボタン型電池は、充電容量が365~371.6mAh/g、放電容量が358~367mAh/g、クーロン効率が92~95%である。
【0085】
本発明の他の態様は、第3の態様に記載のリチウムイオン電池負極を含み、正極及び電解液をさらに含み、正極と負極とがセパレータで分離され、正極、負極及びセパレータが電解液に含浸されているリチウムイオン電池を提供する。
【0086】
リチウムイオン電池に高容量及び良好なサイクル安定性を持たせるために、正極に用いられる活物質は、リチウム、ニッケル、ニッケル-コバルト二元系金属、ニッケル-コバルト-マンガン三元系金属、ニッケル-コバルト-アルミニウム三元系金属、リン酸鉄リチウム、マンガン酸リチウム、及びコバルト酸リチウムから選ばれる少なくとも1種である。
【0087】
リチウムイオン電池の電解液中のイオンが正極と負極との間で速やかに移動することを促進するために、好ましくは、セパレータの材質はポリエチレン及び/又はポリプロピレンから選ばれる。電解液は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びヘキサフルオロリン酸リチウムから選ばれる少なくとも1種である。
【0088】
本発明で製造されたリチウムイオン電池負極は、18650フルセルとして組み立てられると、フルセルのグラムあたりの容量が353~359mAh/gであり、1Cレートにおける放電容量保持率が98.0%である。
【0089】
本発明の他の態様は、第4の態様に記載のリチウムイオン電池の1つ又は複数を直列及び/又は並列に接続してなる電池パックを提供する。
【0090】
本発明の他の態様は、第5の態様に記載の電池パックを含む電池動力車両を提供する。
本発明のリチウムイオン電池を直列及び/又は並列に接続することにより、より高容量で高温性能に優れた電池パックを形成することができ、この電池パックは、電池動力車両に適用することができる。
【0091】
以下、実施例を通じて本発明を詳細に説明する。以下の実施例では、
炭素微粒子の見かけ形態は走査型電子顕微鏡により測定される。
炭素微粒子のエネルギースペクトル分析は、透過電子顕微鏡を用いて行われ、銅メッシュを基板とする。
炭素微粒子のBET比表面積は、V-sorb 2800P比表面積及び孔径分析計を用いてN2吸脱着により測定され、2~200nmの細孔容積の分布はBJHを用いて分析される。
本発明における細孔容積の割合は、BJH吸着-細孔径分布曲線図における細孔積算体積から求められ、a1~a2細孔径間の細孔容積の割合はa1~a2間の細孔積算体積/2~200nm間の細孔積算体積×100%(ただし、a1、a2は細孔幅、単位はnm、a1<a2)である。
炭素微粒子のXRD結晶面構造はX線回折装置により測定され、d(002)、Lc、黒鉛化度、及び異なるピーク強度比が解析される。X線回折装置モデル:DAVINCI;メーカー:ドイツBRUKER AXS社;規格:3kw;走査範囲:10度から90度;走査速度:12度/分;測定条件:40kV/40m A。
ただし、d(002)はλ/(2sinθ)式により算出され、黒鉛化度は、(0.344-d(002))/(0.344-0.3354)×100%により算出され、Lcはλ/β002cosθにより算出され、ここで、λはX線波長を表し、θはBragg角、β002は(002)回折ピークの半値幅である。
炭素微粒子のラマンスペクトルはラマン分光器で測定され、そのDピークとGピークの位置が測定され、ID/IGが算出される。
炭素微粒子の粒度分布は、粒度分布計(omec)により測定される。
炭素微粒子の熱重量曲線は、熱重量分析計により測定され、測定条件として、N2の導入量が10mL/min、Arの導入量が50mL/minである。
炭素微粒子のタップ密度はタップ密度計により測定され、真密度はUltrapycnometer 1000により測定される。
次の実施例にかかる原料の仕様及びメーカーは、次のとおりである。
鋳造コークスは、碩隆鉱産品加工場より購入し、冶金コークスは安陽▲ゆー▼鼎冶金有限公司より購入し、メソフェーズカーボンマイクロスフェアは安達新能源材料有限公司より購入し、鱗片状黒鉛は、325メッシュの黒鉛粉を選択し、青島日升黒鉛有限公司より購入し、石油コークスは明▲しん▼泰石油化工有限公司より購入した。
HF、ポリフッ化ビニリデン溶液(PVDF)は国薬集団化学試薬有限公司より購入し、導電性カーボンブラックはN220を選択し、ESSEL化工社より購入し、ヘキサフルオロリン酸リチウムは江蘇国泰社より購入した。
【0092】
第1の好適な実施形態
実施例1
1: リチウムイオン電池用負極炭素微粒子の製造
本実施例では、炭素源(SC0)として鋳造コークスを選択し、水分が1重量%未満になるまでベークした。炭素源をD50が10~18μmになるまで粉砕し、炭素源を30体積%HFで精製し、炭素源とHF溶液を1:1.2の体積比で均一に混合し、30min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を脱イオン水でリンスし、さらに分離した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
ベークした固体を炭化処理し、炭化処理過程全体は、3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温から3℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で30min保温し、第2の昇温段階では、2.5℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で20min保温し、第3の昇温段階では、1.5℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した後、室温まで冷却した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、r1=5℃/minの昇温速度で1450℃まで加熱し、1450℃で30min保温し、第2の昇温段階では、r2=2.5℃/minの昇温速度で2000℃まで加熱し、2000℃で30min保温し、第3の昇温段階では、r3=3℃/minの昇温速度で3200℃まで加熱し、3200℃で30min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して、炭素微粒子SC1を得て、炭素微粒子の形態を
図1、その微細構造特徴を表1、そのエネルギースペクトルを
図2に示す。
【0093】
2: リチウムイオン電池負極の製造
ステップ1で得られたSC1を電池負極活物質、導電性カーボンブラックを導電剤、PVDFをバインダーとした。SC1、PVDF及び導電性カーボンブラックを8:0.4:0.4の質量比で均一に混合してスラリーを得た。厚さ0.02mmの銅箔上にスラリーを均一に塗布し、真空オーブン内で24h乾燥させ、スラリー中の溶剤を除去して、電極シートSD1を得た。
【0094】
3: ボタン型電池の組み立て
SD1をボタン型電池の負極とし、直径10mmのディスクに打ち抜いて使用に備えた。直径16mmの金属リチウムを正極とし、正極と負極をポリエチレンセパレータで分離し、1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムとビニレンカーボネートの体積比95:5の混合液を電解液とした。電池をグローブボックスにて組み立てて、製造したボタン型電池をSK1とした。
LAND CT2001を使用してSK1について0.01~2V vs.Li/Li+の電圧範囲で充放電性能、及び0.1Cと2Cレートでの放電比容量を測定した。
【0095】
4: 筒型電池の組み立て
正極としてコバルト酸リチウム、電解液として体積比95:5のヘキサフルオロリン酸リチウムとエチレンカーボネート、負極材料としてSC1を用いて、18650リチウム電池の規格に準拠して組み立てて筒型電池を形成し、SZ1とした。SZ1について2~4.2V動作電圧、0.2C、0.5Cでの放電容量、クーロン効率、及び放電比容量を測定した。電池を容量別に分級して15日間放置した後、その内部抵抗と電圧値、並びに、0.5C、1C、5C、及び10Cでの放電容量を測定した。
正極としてコバルト酸リチウム、1mol/L LiPF6系電解液としてエチレンカーボネート+ジメチルカーボネート+メチルエチルカーボネート(体積比1:1:1)、負極材料としてSC1を用いて、18650リチウム電池の規格に準拠して組み立てて筒型電池を形成してSM1とし、20±5℃の環境下で、低温電解液を用いて筒型電池を組み立て、1050mAで2.75Vまで放電して10min放置し、1050mAで終止電圧4.2Vまで充電した時点で定電圧充電に変更し、充電電流が21mAまで低下すると充電を停止して30min放置した。試験温度-20℃でそれぞれ7h放置し、定電流1050mAでカットオフ電圧2.75Vまで放電し、放電容量を記録した。
【0096】
実施例2
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、ベークした固体を炭化処理し、炭化処理過程全体は、6つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温から4℃/minの昇温速度で200℃まで加熱し、30min保温し、第2の昇温段階では、5℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、30min保温し、第3の昇温段階では、5℃/minの昇温速度で800℃まで加熱し、20min保温し、第4の昇温段階では、4℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温し、20min保温し、第5の昇温段階では、4℃/minの昇温速度で1200℃まで昇温し、20min保温し、第6の昇温段階では、4℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温し、20min保温した後、室温まで自然降温した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温からr1=6℃/minの昇温速度で1450℃まで加熱し、30min保温し、第2の昇温段階では、r2=3℃/minの昇温速度で2020℃まで加熱し、2020℃で20min保温し、第3の昇温段階では、r3=2.1℃/minの昇温速度で2900℃まで加熱し、2900℃で30min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子SC2を得て、このSC2で製造された電極シートをSD2、SC2を組み立ててなるボタン型電池をSK2、SC2を組み立ててなる筒型電池をSZ2およびSM2とした。
【0097】
実施例3
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。
ベークした固体を炭化処理し、炭化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温から3℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で20min保温し、第2の昇温段階では、引き続き3℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で30min保温し、第3の昇温段階では、引き続き3℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、r1=3℃/minの昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃で30min保温し、第2の昇温段階では、r2=2.8℃/minの昇温速度で1980℃まで加熱し、1980℃で20min保温し、第3の昇温段階では、r3=2.5℃/minの昇温速度で3200℃まで加熱し、3200℃で30min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子SC3を得て、このSC3で製造された電極シートをSD3、SC3を組み立ててなるボタン型電池をSK3、SC3を組み立ててなる筒型電池をSZ3およびSM3とした。
【0098】
実施例4
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、炭化処理過程が異なる。第1の昇温段階では、室温から10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で30min保温し、第2の昇温段階では、8℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で20min保温し、第3の昇温段階では、5℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体として、第1の昇温段階では、3℃/minの昇温速度で1450℃まで加熱し、1450℃で30min保温し、第2の昇温段階では、2℃/minの昇温速度で2020℃まで加熱し、2020℃で20min保温し、第3の昇温段階では、1℃/minの昇温速度で3200℃まで加熱し、3200℃で30min保温した。
この方法で製造された炭素微粒子を最終的にSC4、SC4で製造された電極シートをSD4、SC4を組み立ててなるボタン型電池をSK4、SC4を組み立ててなる筒型電池をSZ4およびSM4とした。
【0099】
実施例5
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、炭化処理過程は、室温から5℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温し、500℃、1000℃、及び1500℃でそれぞれ30min保温することを含んだ。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、r1=8℃/minの昇温速度で1370℃まで加熱し、1370℃で30min保温し、第2の昇温段階では、r2=8℃/minの昇温速度で2020℃まで加熱し、2020℃で30min保温し、第3の昇温段階では、r3=5℃/minの昇温速度で2950℃まで加熱し、2950℃で30min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子SC5を得て、このSC5で製造された電極シートをSD5、このSC5を組み立ててなるボタン型電池をSK5、SC5を組み立ててなる筒型電池をSZ5およびSM5とした。
【0100】
実施例6
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。前記炭素源を4体積%HF溶液で精製し、炭素源とHF溶液を1:10の体積比で均一に混合し、60min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を14体積%HCl溶液で精製し、固体とHCl溶液を1:3の体積比で均一に混合し、30min撹拌した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
この方法で得られた炭素微粒子をSC6、SC6で製造された電極シートをSD6、SC6を組み立ててなるボタン型電池をSK6、SC6を組み立ててなる筒型電池をSZ6およびSM6とした。
【0101】
比較例1
炭化の条件が異なること以外、実施例1の方法と同じであった。具体的には、第1の昇温段階では、15℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で30min保温し、第2の昇温段階では、10℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で20min保温し、第3の昇温段階では、15℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した。
この方法で製造された炭素微粒子をDC1、DC1で製造された電極シートをDD1、DC1を組み立ててなるボタン型電池をDK1、DC1を組み立ててなる筒型電池をDZ1およびDM1とした。
【0102】
炭素源として冶金コークスを選択すること以外、実施例1の方法と同じであり、この方法で製造された炭素微粒子をDC2、DC2で製造された電極シートをDD2、DC2を組み立ててなるボタン型電池をDK2、DC2を組み立ててなる筒型電池をDZ2およびDM2とした。
【0103】
比較例3
炭素源としてメソフェーズマイクロスフェアを選択すること以外、実施例1の方法と同じであり、この方法で製造されたカーボンマイクロスフェアをDC3、DC3で製造された電極シートをDD3、DC3を組み立ててなるボタン型電池をDK3、DC3を組み立ててなる筒型電池をDZ3およびDM3とした。
【0104】
比較例4
下記方法で炭素源を製造すること以外、実施例1の方法と同じであった。鋳造コークスを粉砕して球状化し、その平均粒径D50を16μmとした。その後、鋳造コークスと石油コークスを9:1の重量比で撹拌混合して、炭素源を得た。
炭素源を炭化処理し、室温から3℃/minの昇温速度で1100℃まで加熱し、1100℃で60min保温し、その後、2.5℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で60min保温し、その後、室温まで冷却して炭素微粒子を得た。
この方法で製造されたカーボンマイクロスフェアをDC4、DC4で製造された電極シートをDD4、DC4を組み立ててなるボタン型電池をDK4、DC4を組み立ててなる筒型電池をDZ4およびDM4とした。
【0105】
比較例5
以下のこと以外、実施例6の方法と同じであった。
まず、炭素源を4体積%HF溶液で精製し、炭素源とHF溶液を1:20の体積比で均一に混合し、60min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を14体積%HCl溶液で精製し、固体とHCl溶液を1:10の体積比で均一に混合し、30min撹拌した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
この方法で得られた炭素微粒子をDC5、DC5で製造された電極シートをDD5、DC5を組み立ててなるボタン型電池をDK5、DC5を組み立ててなる筒型電池をDZ5およびDM5とした。
【0106】
比較例6
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。
炭素源を15体積%HFで精製し、炭素源とHF溶液を1:1.2の体積比で均一に混合し、30min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を脱イオン水でリンスし、さらに分離した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
この方法で得られた炭素微粒子をDC6、DC6で製造された電極シートをDD6、DC6を組み立ててなるボタン型電池をDK6、DC6を組み立ててなる筒型電池をDZ6およびDM6とした。
【0107】
比較例7
以下のこと以外、実施例1の方法と同じであった。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体は、10℃/minの昇温速度で1900℃まで加熱し、20min保温し、15℃/minの昇温速度で2800℃まで加熱し、20min保温することを含んだ。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子DC7を得て、DC7で製造された電極シートをDD7、DC7を組み立ててなるボタン型電池をDK7、DC7を組み立ててなる筒型電池をDZ7およびDM7とした。
以上の各実施例で製造された炭素微粒子に対して構造特徴づけを行い、具体的な特徴づけ結果を表1-1に示し、以上の各比較例で製造された炭素微粒子に対して構造特徴づけを行い、具体的な特徴づけ結果を表1-2に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
以上の各実施例及び比較例で製造されたボタン型電池と筒型電池について、性能測定を行い、具体的な測定結果を表2に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
表1及び表2のデータから分かるように、本発明の方法を用いて製造された第1の好適な実施形態における炭素微粒子は、比表面積が1.61~1.98m2/gであり、細孔径2~10nmの細孔が、細孔径2~200nmの全細孔容積の半分以上を占めている。各実施例で製造された炭素微粒子を用いてボタン型電池に組み立てた場合、ボタン型電池は、充電容量が365~371.6mAh/g、放電容量が358~367mAh/gであり、筒型電池に組み立てた場合、この筒型電池は、5Cレートでの放電容量が1912~1943mAh、10Cレートでの放電容量が989~1025mAhに維持できた。-20℃での低温放電容量が1147~1342mAhに維持された。
比較例5及び比較例7に示すように、2~10nmの細孔が細孔径2~200nmの全細孔容積のほぼ半分を占めると、製造されたボタン型電池では、5Cと10Cのいずれのレートでも放電容量がある程度低下した。比較例6に示すように、細孔径2~200nmの全細孔容積に占める10~100nmの細孔の割合が少ないと、この炭素微粒子を用いて製造されたボタン型電池では、レート性能、低温性能ともに低下した。比較例1~比較例4に示すように、炭化速度を高めたり、炭素源として他の原料を用いたりすると、製造されたリチウムイオン電池では、レート性能、低温性能ともに低下した。したがって、本願の方法で製造された第1の好適な実施形態の炭素微粒子をリチウムイオン電池の負極として用いた場合、充放電容量及びレート性能を効果的に向上させることができる。
【0114】
第2の好適な実施形態
実施例A1
1: リチウムイオン電池用負極炭素微粒子の製造
炭素源(SC0)として鋳造コークスを選択し、水分が1重量%未満になるまでベークした。炭素源をD50が5~18μmになるまで粉砕し、炭素源を30体積%HFで精製し、炭素源とHF溶液を1:1.2の体積比で均一に混合し、30min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を脱イオン水でリンスし、さらに分離した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
ベークした固体を炭化処理し、炭化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、5℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で20min保温し、第2の昇温段階では、5℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で30min保温し、第3の昇温段階では、3℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した。その後、室温まで自然冷却した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、自黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温から6℃/minの昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃で20min保温し、第2の昇温段階では、2℃/minの昇温速度で2020℃まで加熱し、2020℃で20min保温し、第3の昇温段階では、2℃/minの昇温速度で3000℃まで加熱し、3000℃で30min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子ASC1を得て、炭素微粒子ASC1の形態を
図3、その微細構造特徴を表3、そのエネルギースペクトルを
図4に示す。
【0115】
2: リチウムイオン電池負極の製造
ステップ1で得られたASC1を電池負極活物質、導電性カーボンブラックを導電剤、PVDFをバインダーとした。ASC1、PVDF及び導電性カーボンブラックを8:0.4:0.4の質量比で均一に混合してスラリーを得た。厚さ0.02mmの銅箔上にスラリーを均一に塗布し、真空オーブン内で24h乾燥させ、スラリー中の溶剤を除去して、電極シートASD1を得た。
【0116】
3: ボタン型電池の組み立て
ASD1をボタン型電池の負極とし、直径10mmのディスクに打ち抜いて使用に備えた。直径16mmの金属リチウムを正極とし、正極と負極をポリエチレンセパレータで分離し、1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムとビニレンカーボネートの体積比95:5の混合液を電解液とした。電池をグローブボックスにて組み立てて、製造したボタン型電池をASK1とした。
LAND CT2001を使用してASK1について0.01~2V vs.Li/Li+の電圧範囲で充放電性能、及び0.1Cと2Cレートでの放電比容量を測定した。
【0117】
4: 筒型電池の組み立て
正極としてコバルト酸リチウム、電解液として体積比95:5のヘキサフルオロリン酸リチウムとエチレンカーボネート、負極材料としてASC1を用いて、18650リチウム電池の規格に準拠して組み立てて筒型電池を形成し、ASZ1とした。ASZ1について2~4.2Vの動作電圧、0.2Cでの放電容量、クーロン効率、及び放電比容量を測定した。電池を容量別に分級して15日間放置した後、その内部抵抗と電圧値、並びに、0.5Cと1Cのレートでの放電容量を測定した。
20±5℃の環境下で、1050Maで2.75Vまで放電し、10min放置し、1050Maで終止電圧4.2Vまで充電した時点で定電圧充電に変更し、充電電流が21Maまで低下すると充電を停止して30min放置した。試験温度60℃でそれぞれ7h放置し、定電流1050Maでカットオフ電圧2.75Vまで放電し、放電容量を記録した。
【0118】
実施例A2
以下のこと以外、実施例A1と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、炭化処理過程が異なる。具体的には、第1の昇温段階では、室温から200℃まで5℃/minの昇温速度で昇温し、200℃で10min保温し、第2の昇温段階では、200℃から500℃まで5℃/minの昇温速度で昇温し、500℃で20min保温し、第3の昇温段階では、500℃から800℃まで3℃/minの昇温速度で昇温し、800℃で15min保温し、第4の昇温段階では、800℃から1000℃まで3℃/minの昇温速度で昇温し、1000℃で15min保温し、第5の昇温段階では、1000℃から1200℃まで3℃/minの昇温速度で昇温し、1200℃で10min保温し、第6の昇温段階では、1200℃から1500℃まで3℃/minの昇温速度昇温し、1500℃で30min保温した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、自黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温から3℃/minの昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃で20min保温し、第2の昇温段階では、2℃/minの昇温速度で1980℃まで加熱し、1980℃で20min保温し、第3の昇温段階では、0.7℃/minの昇温速度で3000℃まで加熱し、3000℃で20min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子ASC2を得て、ASC2で製造された電極シートをASD2、ASC2を組み立ててなるボタン型電池をASK2、ASC2を組み立ててなる筒型電池をASZ2とした。
【0119】
実施例A3
以下のこと以外、実施例A1と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、黒鉛化処理過程が異なる。具体的な黒鉛化処理過程として、第1の昇温段階では、室温から3℃/minの昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃で30min保温し、第2の昇温段階では、2℃/minの昇温速度で2000℃まで加熱し、2000℃で30min保温し、第3の昇温段階では、1.5℃/minの昇温速度で3000℃まで加熱し、3000℃で20min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子ASC3を得て、ASC3で製造された電極シートをASD3、ASC3を組み立ててなるボタン型電池をASK3、ASC3を組み立ててなる筒型電池をASZ3とした。
【0120】
実施例A4
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、炭化処理過程が異なる。第1の昇温段階では、10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で20min保温し、第2の昇温段階では、8℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で30min保温し、第3の昇温段階では、6℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した。その後、室温まで自然冷却した。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体として、第1の昇温段階では、室温から6℃/minの昇温速度で1450℃まで加熱し、1450℃で30min保温し、第2の昇温段階では、1℃/minの昇温速度で2000℃まで加熱し、2000℃で20min保温し、第3の昇温段階では、2℃/minの昇温速度で3200℃まで加熱し、3200℃で20min保温した。
この方法で製造された炭素微粒子を最終的にASC4、ASC4で製造された電極シートをASD4、ASC4を組み立ててなるボタン型電池をASK4、ASC4を組み立ててなる筒型電池をASZ4とした。
【0121】
実施例A5
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。
リチウムイオン電池用負極炭素微粒子を製造する際に、炭化処理過程は、室温から5℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温し、そして、それぞれ500℃、1000℃、及び1500℃で30min保温し、その後、室温まで自然冷却することを含んだ。
炭化された固体を黒鉛化処理し、自黒鉛化処理過程全体は3つの昇温段階を含んだ。第1の昇温段階では、室温から8℃/minの昇温速度で1400℃まで加熱し、1400℃で20min保温し、第2の昇温段階では、8℃/minの昇温速度で2000℃まで加熱し、2000℃で20min保温し、第3の昇温段階では、6℃/minの昇温速度で3000℃まで加熱し、3000℃で30min保温した。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子ASC5を得て、ASC5で製造された電極シートをASD5、ASC5を組み立ててなるボタン型電池をASK5、ASC5を組み立ててなる筒型電池をASZ5とした。
【0122】
実施例A6
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。まず、前記炭素源を6体積%HF溶液で精製し、炭素源とHF溶液を1:12の体積比で均一に混合し、40min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を10体積%HCl溶液で精製し、固体とHCl溶液を1:5の体積比で均一に混合し、40min撹拌した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
この方法で製造された炭素微粒子を最終的にASC6、ASC6で製造された電極シートをASD6、ASC6を組み立ててなるボタン型電池をASK6、ASC6を組み立ててなる筒型電池をASZ6とした。
【0123】
比較例A1
炭化の条件が異なること以外、実施例A1の方法と同じであった。具体的には、第1の昇温段階では、15℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で30min保温し、第2の昇温段階では、10℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で20min保温し、第3の昇温段階では、15℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で30min保温した。
この方法で製造された炭素微粒子をADC1、ADC1で製造された電極シートをADD1、ADC1を組み立ててなるボタン型電池をADK1、ADC1を組み立ててなる筒型電池をADZ1とした。
【0124】
比較例A2
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。炭素源として冶金コークスを選択し、この方法で製造された炭素微粒子をADC2、ADC2で製造された電極シートをADD2、ADC2を組み立ててなるボタン型電池をADK2、ADC2を組み立ててなる筒型電池をADZ2とした。
【0125】
比較例A3
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。炭素源としてメソフェーズマイクロスフェアを選択し、この方法で製造された炭素マイクロスフェアをADC3、ADC3で製造された電極シートをADD3、ADC3を組み立ててなるボタン型電池をADK3、ADC3を組み立ててなる筒型電池をADZ3とした。
【0126】
比較例A4
炭素源が以下の方法で製造されること以外、実施例A1の方法と同じであった。鱗片状黒鉛を粉砕して球状化し、その平均粒径D50を16μmとした。その後、鱗片状黒鉛と石油コークスとを9:1の重量比で撹拌混合して炭素源を得た。
炭素源を炭化処理し、室温から3℃/minの昇温速度で1100℃まで加熱し、1100℃で60min保温し、その後、2.5℃/minの昇温速度で1500℃まで加熱し、1500℃で60min保温し、その後、室温まで冷却して炭素微粒子を得た。
この方法で製造されたカーボンマイクロスフェアをADC4、ADC4で製造された電極シートをADD4、ADC4を組み立ててなるボタン型電池をADK4、ADC4を組み立ててなる筒型電池をADZ4とした。
【0127】
比較例A5
以下のこと以外、実施例A6の方法と同じであった。
まず、炭素源を6体積%HF溶液で精製し、炭素源とHF溶液を1:20の体積比で均一に混合し、40min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を10体積%HCl溶液で精製し、固体とHCl溶液を1:12の体積比で均一に混合し、40min撹拌した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
この方法で得られた炭素微粒子をADC5、ADC5で製造された電極シートをADD5、ADC5を組み立ててなるボタン型電池をADK5、ADC5を組み立ててなる筒型電池をADZ5とした。
【0128】
比較例A6
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。
炭素源を15体積%HFで精製し、炭素源とHF溶液を1:1.2の体積比で均一に混合し、30min撹拌して混合物を形成した。混合物を分離した後、固体を脱イオン水でリンスし、さらに分離した後、分離して得られた固体をベークして使用に備えた。
この方法で得られた炭素微粒子をADC6、ADC6で製造された電極シートをADD6、ADC6を組み立ててなるボタン型電池をADK6、ADC6を組み立ててなる筒型電池をADZ6とした。
【0129】
比較例A7
以下のこと以外、実施例A1の方法と同じであった。
炭化された固体を黒鉛化処理し、黒鉛化処理過程全体は、10℃/minの昇温速度で1900℃まで昇温し、20min保温し、15℃/minの昇温速度で2800℃まで加熱し、20min保温することを含んだ。
黒鉛化された固体を5℃/minの降温速度で2000℃まで降温した後、室温まで自然冷却して炭素微粒子ADC7を得て、ADC7で製造された電極シートをADD7、ADC7を組み立ててなるボタン型電池をADK7、ADC7を組み立ててなる筒型電池をADZ7とした。
【0130】
以上の各実施例で製造された炭素微粒子に対して構造特徴づけを行い、具体的な特徴づけ結果を表3-1に示す。以上の各比較例で製造された炭素微粒子に対して構造特徴づけを行い、具体的な特徴づけ結果を表3-2に示す。
【0131】
【0132】
【0133】
以上の各実施例及び比較例で製造されたボタン型電池と筒型電池について、性能測定を行い、具体的な測定結果を表4に示す。
【0134】
【0135】
【0136】
表3及び表4のデータから分かるように、本発明の方法を用いて製造された第2の好適な実施形態における炭素微粒子は、比表面積が0.98~1.94m2/gであり、細孔径100~200nmの細孔が、細孔径2~200nmの全細孔容積の半分以上を占めている。各実施形態で製造された炭素微粒子を用いてボタン型電池に組み立てた場合、ボタン型電池は、充電容量が365~371.6mAh/g、放電容量が358~367mAh/gであり、クーロン効率が94~97%に達した。筒型電池に組み立てた場合、この筒型電池は、0.5Cレートでの放電容量が2122~2181mAh、1Cレートでの放電容量が2111~2170mAhに維持できた。
【0137】
比較例A5及び比較例A7に示すように、2~10nmの細孔が細孔径2~200nmの全細孔容積のほぼ半分を占めると、それを組み立ててなるボタン型電池では、クーロン効率が低下し、筒型電池に組み立てた場合、高温性能が低下した。比較例A6に示すように、細孔径2~200nmの全細孔容積に占める10~100nmの細孔の割合が少ないと、この炭素微粒子を用いて製造されたボタン型電池では、クーロン効率、高温性能ともに低下した。比較例A1~比較例A4に示すように、炭化昇温が速すぎたり、炭素源として他の原料を用いたりする場合、製造されたリチウムイオン電池では、クーロン効率と高温性能ともに低下した。したがって、本願の方法で製造された第2の好適な実施形態の炭素微粒子をリチウムイオン電池の負極として用いた場合、クーロン効率及び高温性能を効果的に向上させることができるとともに、合理的なレート性能を維持することができる。
【0138】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の技術的構想の範囲内では、個々の技術的特徴を他の任意の適切な方式で組み合わせることを含め、本発明の技術案に対して複数の簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形及び組み合わせは、同様に本発明に開示されたものとみなされ、いずれも本発明の保護範囲に属する。