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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-23
(45)【発行日】2022-08-31
(54)【発明の名称】靴
(51)【国際特許分類】
   A43B 1/14 20060101AFI20220824BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220824BHJP
   B29D 35/12 20100101ALI20220824BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220824BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A43B1/14
B29C45/00
B29D35/12
C08K5/01
C08L53/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022519596
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045774
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021012358
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大輔
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-264242(JP,A)
【文献】特開2004-083729(JP,A)
【文献】特開2002-173574(JP,A)
【文献】特開平10-259281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L53
C08K5
B29C45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の靴用パーツで構成されている靴であって、
該複数の靴用パーツの内の少なくとも1つが射出成形品であり、
前記射出成形品は、
複数のスチレン系熱可塑性エラストマーと、可塑剤とを含むエラストマー組成物で構成され、
前記複数のスチレン系熱可塑性エラストマーが、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含み、
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量が30万以上であり、
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーが、ソフトセグメントとハードセグメントとを備えたブロックポリマーで、2つの前記ハードセグメントの間に前記ソフトセグメントを備えており、
前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーが、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーであり、
前記エラストマー組成物での前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとの質量比率(第1のスチレン系熱可塑性エラストマー:第2のスチレン系熱可塑性エラストマー)が100:25~100:250であり、
前記エラストマー組成物での前記可塑剤の含有量は、前記複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの合計含有量を100質量部とした際に、100質量部以上500質量部以下である、 靴。
【請求項2】
前記エラストマー組成物での前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの質量割合は、1質量%以上10質量%以下である請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンの結晶を4質量%以上12質量%以下の割合で含んでいる請求項1又は2に記載の靴。
【請求項4】
前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体である請求項1乃至の何れか1項に記載の靴。
【請求項5】
前記スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体でのスチレン含有量が10質量%以上30質量%以下である請求項に記載の靴。
【請求項6】
前記複数のスチレン系熱可塑性エラストマーが、第3のスチレン系熱可塑性エラストマーを更に含み、
該第3のスチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量が20万以下である請求項1乃至の何れか1項に記載の靴。
【請求項7】
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーがトリブロックポリマーである請求項1乃至の何れか1項に記載の靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、日本国特願2021-012358号の優先権を主張し、引用によって本願明細書の記載に組み込まれる。
【0002】
本発明は、射出成形品および靴に関する。
【背景技術】
【0003】
各種スポーツ競技等に使用されるスポーツ用品は、各種のパーツによって構成されている。
例えば、靴は、通常、ソールやアッパーなどのメインパーツの他に、硬質な樹脂組成物で構成された補強用パーツや軟質なエラストマー組成物で構成された緩衝用パーツなどによって構成されている。
前記緩衝用パーツの形成に利用されているエラストマー組成物としては、エラストマーとともに可塑剤を含むものが知られている。
この種のエラストマー組成物は、通常、前記可塑剤の含有量によって柔軟性が調節される。
【0004】
エラストマー組成物で靴用パーツを構成する点に関し、下記特許文献1には、靴に使用される緩衝用パーツをエラストマー組成物で構成することが開示されている。
より詳しくは、下記特許文献1には、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有するエラストマー組成物で透明性と耐摩耗性とに優れた緩衝用パーツを形成することが開示されている。
【0005】
ところで、靴用パーツなどに利用されるエラストマー組成物製のパーツは、射出成形によって作製されることがある。
射出成形では、製品形状に対応した成形空間を有する成形型に加熱溶融状態のエラストマー組成物が射出され、前記成形空間に充満したエラストマー組成物が冷え固まることで製品が作製される。
このようにして得られる射出成形品は、複雑な形状であってもバリ取りなどの簡易な二次加工を施すだけで作製することができる。
靴用パーツの多くは形状が複雑であるため、その製法としては、このような射出成形法が適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第5966110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、射出成形における良好な流動性を示すエラストマー組成物で構成された射出成形品を提供し、ひいては成形型の成形面の状態がより正確に反映され得る射出成形品を提供することを課題としている。また、本発明は、製造することが容易な靴用パーツを有する靴の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
複数のスチレン系熱可塑性エラストマーと、可塑剤とを含むエラストマー組成物で構成され、
前記複数のスチレン系熱可塑性エラストマーが、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと第2のスチレン系熱可塑性エラストマーとを含み、
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量が30万以上であり、
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーが、ソフトセグメントとハードセグメントとを備えたブロックポリマーで、2つの前記ハードセグメントの間に前記ソフトセグメントを備えており、
前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーが、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーである射出成形品を提供する。
【0009】
上記課題を解決すべく本発明は、複数の靴用パーツで構成されている靴であって、該複数の靴用パーツの内の少なくとも1つが上記のような射出成形品である靴を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、射出成形品である靴用パーツを備えた靴を示した概略斜視図である。
図2図2は、図1に示されている靴の靴底の分解図である。
図3A図3Aは、一実施形態の靴用パーツを作製するための成形型の概略正面図である。
図3B図3Bは、一実施形態の靴用パーツを作製するための成形型の概略平面図である。
図3C図3Cは、一実施形態の靴用パーツを作製するための成形型の概略側面図である。
図4図4は、図3A図3Cに示した成形型を使った靴用パーツの成形方法を示した概略図(図3BにおけるIV-IV線矢視断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の射出成形品は、スポーツ用品のパーツとして好適に用いられ得る。
以下においては、本発明の実施の形態として、射出成形品が靴用パーツとして利用される場合を例示しつつ本発明について説明する。
また、以下においては、靴用パーツが靴のミッドソール部分に配される場合を例にして本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
エラストマー組成物で射出成形品を作製する際には、成形型の成形面の状態が射出成形品の表面に十分反映されないことがあり、外観が所望の状態にならない場合がある。
例えば、エラストマー組成物の流動性が良好でないと成形面の形状が正確に反映された射出成形品が得られ難い。
このように射出成形品を靴用パーツとして備えている従来の靴においては、美観に優れるパーツを備えることが容易ではない。
尚、このような問題は、射出成形品が靴用パーツとして利用される場合に限らず他の用途においても同様に生じ得る。
従って、以下の例示は限定的なもので、本発明は以下の例示に何等限定されない。
例えば、以下における射出成形品の用途(靴用パーツ)、及び、該用途での具体的な形状や数量、大きさ、各種特性値などの例示については、本発明の技術的な範囲を何ら限定的に解釈させるものではない。
【0013】
図1は、本実施形態の靴用パーツを用いて形成される靴を示したものである。
尚、以下において図1に示した靴1について説明する際に、踵の中心HCと爪先の中心TCとを結ぶシューセンター軸CXに沿った方向のことを長さ方向Xと称することがある。
また、シューセンター軸CXに沿った方向の内、踵から爪先に向けた方向X1を前方などと称し、爪先から踵に向けた方向X2を後方などと称することがある。
さらに、シューセンター軸CXに直交する方向の内、水平面HPに平行する方向を幅方向Yと称することがある。
この幅方向Yの内、足の第1指側に向けた方向Y1を内足方向などと称し、第5指側に向けた方向Y2を外足方向などと称することがある。
そして、水平面HPに直交する垂直方向Zを厚さ方向や高さ方向と称することがある。
さらに、以下においては、この垂直方向Zにおいて上方に向かう方向Z1を上方向と称し、下方に向かう方向Z2を下方向と称することがある。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の靴1は、アッパー2と靴底とを有している。
前記靴底は、複数の靴用パーツによって構成されている。
該靴1は、ミッドソール3、及び、アウトソール4を有している。
本実施形態の靴1は、最も下方にアウトソール4を備えている。
本実施形態のアウトソール4は、たとえばシート状であり、厚さ方向が垂直方向Zとなるように靴1の最下部に配されている。
前記靴1は、着用者の足を上側から覆うアッパー2と前記アウトソール4との間にミッドソール3を備えている。
【0015】
本実施形態のミッドソール3は、図2に示すように、例えば、上下2層に分かれている。
具体的には、本実施形態の靴1は、2層の内の上層を為す第1ミッドソール31と、2層の内の下層を為す第2ミッドソール32とを備えている。
垂直方向視における前記第1ミッドソール31の輪郭形状は、前記第2ミッドソール32の輪郭形状に対応しており、これらは外周縁を揃えるように上下に積層されている。
前記第1ミッドソール31の上面31aは、前記アッパー2に対して下側から接し、前記第1ミッドソール31の下面31bは、前記第2ミッドソール32の上面に接している。
前記第2ミッドソール32の下面32bは、前記アウトソール4に対して上から接している。
【0016】
本実施形態の靴1は、前記第1ミッドソール31と前記第2ミッドソール32との間に挟まれた靴用パーツとして2つの緩衝用パーツ5を有している。
本実施形態における2つの緩衝用パーツ5は、いずれも射出成形品であり、後述するように複数のスチレン系熱可塑性エラストマーと可塑剤とを含有するエラストマー組成物で構成されている。
【0017】
垂直方向視における前記緩衝用パーツ5の大きさは、前記第1ミッドソール31や前記第2ミッドソール32よりも小さい。
従って、前記第1ミッドソール31は、下面31bの一部が前記緩衝用パーツ5に接着しているとともに残部が前記第2ミッドソール32の上面32aに接着している。
【0018】
2つの前記緩衝用パーツ5の内の一方の緩衝用パーツ(以下「第1緩衝用パーツ51」ともいう)は、靴の前足部11において前記第1ミッドソール31と前記第2ミッドソール32との間に挟まれている。
2つの緩衝用パーツ5の内の他方の緩衝用パーツ(以下「第2緩衝用パーツ52」ともいう)は、靴の後足部13において前記第1ミッドソール31と前記第2ミッドソール32との間に挟まれている。
靴1の中足部12では、前記第1ミッドソール31と前記第2ミッドソール32との間に緩衝用パーツ5が挟まれていない。
【0019】
前記第1緩衝用パーツ51と前記第2緩衝用パーツ52とのそれぞれは、一部が露出した状態となるように靴底に配されており、靴底の外周面の一部を構成するように配されている。
前記第1緩衝用パーツ51は、前記外周面の一部を構成する側面51cと、該側面51cの上端縁から内方(方向Y1)に向かって広がる上面51aと、前記側面51cの下端縁から内方(方向Y1)に向かって広がる下面51bとを有している。
即ち、前記第1緩衝用パーツ51は、前記第1ミッドソール31の下面31bに下方から接する上面51aと、前記第2ミッドソール32の上面32aに上方から接する下面51bとを有している。
前記第2緩衝用パーツ52も前記第1緩衝用パーツ51と同様に、前記外周面を構成する側面52cと、該側面52cの上端縁から内方(方向Y1)に向かって広がる上面52aと、前記側面52cの下端縁から内方(方向Y1)に向かって広がる下面52bとを有している。
即ち、前記第2緩衝用パーツ52は、前記第1ミッドソール31の下面31bに下方から接する上面52aと、前記第2ミッドソール32の上面32aに上方から接する下面52bとを有している。
【0020】
前記第1緩衝用パーツ51と前記第2緩衝用パーツ52とのそれぞれは、図2に示すように内足側から外向きとなる方向Y2において厚さが増大する形状を有している。
言い換えると前記第1緩衝用パーツ51と前記第2緩衝用パーツ52とのそれぞれは、靴底の中央部から外周面に向けて厚さを増大する形状を有しており、逆に、靴1の外側の側面1aから靴1の中央部に向かうに従って厚さを減少させている。
本実施形態の前記第1緩衝用パーツ51と前記第2緩衝用パーツ52とのそれぞれは、靴1を幅方向に横断するような形では設けられておらず、靴1の内足側の側面1bではその存在が認められないように設けられている。
【0021】
本実施形態における前記第1緩衝用パーツ51及び前記第2緩衝用パーツ52は、透明性に優れたエラストマー組成物によって形成されている。
前記第1緩衝用パーツ51を構成するエラストマー組成物と前記第2緩衝用パーツ52を構成するエラストマー組成物とが共通している必要性はないが本実施形態では、前記第1緩衝用パーツ51と前記第2緩衝用パーツ52とに同じエラストマー組成物が用いられている。
【0022】
本実施形態における前記第1緩衝用パーツ51及び前記第2緩衝用パーツ52は、表面が滑らかで表面における光の乱反射が起こり難い状態になっている。
前記第1緩衝用パーツ51及び前記第2緩衝用パーツ52は、後述するようにヘアライン加工やマット加工が施されていない滑らかな成形面を有する成形型を使って作製された射出成形品であり、成形面の滑らかな性状が表面に反映されている。
【0023】
前記第1緩衝用パーツ51は、その構成材料であるエラストマー組成物が透明性を有し、しかも、表面が滑らかであることで内部を奥深くまで視認できるようになっている。
即ち、本実施形態の靴1での前記第1緩衝用パーツ51は、外足側から内足側に向かって前記側面51cを通じて内部の様子が視認できるように配されており、その奥行きが感じ取れるようになっている。
前記第1緩衝用パーツ51は、前記側面51cが滑らかで内部を視認し易い上に前記上面51aや前記下面51bも滑らかな状態になっているため、前記第1ミッドソール31の下面31bの様子やと前記第2ミッドソール32の上面32aの様子が前記側面51cを通じて視認し易い状態になっている。
これらの点については、前記第2緩衝用パーツ52も同じである。
【0024】
上記のようなことから、本実施形態の靴1は、前記第1ミッドソール31の下面31bに側面31cとは異なる色調や模様を付与したり、前記第2ミッドソール32の上面32aに側面32cとは異なる色調や模様を付与したりすることで、これらの色調や模様を第1緩衝用パーツ51や第2緩衝用パーツ52を通じて外部から視認させることができる。
【0025】
前記エラストマー組成物は、無色透明である必要はなく、有色透明であっても、不透明であってもよい。
前記エラストマー組成物は、上記のような特性を発揮させる上において、透明性を有することが好ましい。
前記エラストマー組成物の透明性は、例えば、表面が十分に滑らかな状態となるように調製された厚さ4mmの板状試料を用いて確かめることができる。
該板状試料の全光透過率は、60%以上であることが好ましい。
前記板状試料の全光透過率は、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることがとりわけ好ましい。
【0026】
前記エラストマー組成物で作製された前記板状試料(厚さ4mm)のヘーズは、例えば、40%以下であってもよい。
前記エラストマー組成物で作製された前記板状試料(厚さ4mm)のヘーズは、30%以下であることが好ましい。
前記板状試料のヘーズは、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがとりわけ好ましい。
【0027】
前記全光透過率は、例えば、JIS K7361-1「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法により測定できる。
前記ヘーズは、例えば、JIS K7136「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に準拠した方法により測定できる。
より詳しくは、前記全光透過率や前記ヘーズは、濁度計(例えば、日本電色工業製の型名「NDH2000」)のような装置で測定することができる。
【0028】
前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52は、優れた緩衝性を発揮することが好ましい。
前記エラストマー組成物のアスカーC硬度(23℃、瞬時値)は、例えば、60以下であってもよく、50以下であってもよい。
そのため、前記エラストマー組成物のアスカーC硬度(23℃、瞬時値)は、40以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
前記エラストマー組成物のアスカーC硬度は、JIS K7312に準拠したアスカーC硬度計を用いて測定することができる。
【0029】
前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52は、優れた強度を発揮することが好ましい。
前記エラストマー組成物は、引張強さが0.5MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることがさらに好ましく、2.0MPa以上であることが特に好ましい。前記エラストマー組成物の引張強さは2.5MPa以上であることがとりわけ好ましい。
前記エラストマー組成物の引張強さは、通常、5MPa以下である。
前記エラストマー組成物の引張強さは、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して求めることができ、例えば、同規格の2号ダンベル型試料を使って測定することができる。
【0030】
前記エラストマー組成物の引裂強さは、3N/mm以上であることが好ましく、4N/mm以上であることがより好ましい。
前記エラストマー組成物の引裂強さは、8N/mm以上であることがさらに好ましく、10N/mm以上であることが特に好ましい。
前記エラストマー組成物の引裂強さは、12N/mm以上であることがとりわけ好ましい。
前記エラストマー組成物の引裂強さは、通常、20N/mm以下である。
前記エラストマー組成物の引裂強さは、JIS K6252-1「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引裂強さの求め方-第1部:トラウザ形,アングル形及びクレセント形試験片を用いる方法」に準拠して求めることができ、例えば、同規格のアングル形試験片(切込み無し)を使って測定することができる。
【0031】
上記のような特性を発揮する前記エラストマー組成物は、200℃以下の温度での動的粘弾性測定によって求められる複素粘度が10000Pa・s以下となり、且つ、損失正接が0.4以上となることが好ましい。
上記のような粘弾性を示す温度は、通常、100℃以上である。
即ち、本実施形態のエラストマー組成物は、温度を一定にして周波数を1Hzから50Hzまで変化させて複素粘度と損失正接とを測定し、且つ、100℃から200℃までの各温度で前記複素粘度の最大値(ηmax)と前記損失正接の最大値(tanδmax)とを測定した際に、100℃から200℃までの何れかの温度で下記の(A)と(B)との両方を満たす。
(A) ηmax ≦ 10000Pa・s
(B) tanδmax ≧ 0.4
【0032】
不等式(A)での右辺は、5000Pa・sであってもよく、4000Pa・sであってもよく、3000Pa・sであってもよい。
不等式(B)での右辺は、0.6であっても、0.8であってもよく、1.0であることが好ましい。
即ち、前記エラストマー組成物は、複素粘度が10000Pa・s以下となり、且つ、損失正接が1以上となる温度が200℃以下であることが好ましい。
尚、不等式(B)での右辺は、1.2であってもよく、1.5であってもよく、2であってもよい。
【0033】
(A)と(B)との両方の条件を満たす温度(T:℃)は、100℃以上であってもよく、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよい。
(A)と(B)との両方の条件を満たす温度(T:℃)は、190℃以下であってもよく、180℃以下であってもよい。
【0034】
(A)と(B)との両方の条件を満たす温度(T)内、両方の条件を満たす最低の温度(Tmin:℃)と最高の温度(Tmax:℃)との差(ΔT=Tmax-Tmin)は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。
この温度の差(ΔT)は、40℃以上であってもよく、50℃以上であってもよい。
【0035】
前記エラストマー組成物は、前記複素粘度が低い方が射出成形において成形空間の隅々にまで行きわたり易い。
【0036】
前記エラストマー組成物の前記複素粘度は、前記の通り、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における最大値(ηmax)が10000Pa・s以下であることが好ましい。
前記複素粘度は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における最大値(ηmax)が5000Pa・s以下であることがより好ましく、4000Pa・s以下であることがさらに好ましく、3000Pa・s以下であることがとりわけ好ましい。
【0037】
本実施形態での前記エラストマー組成物は、可塑剤を含む。
本実施形態での前記エラストマー組成物は、前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52から当該可塑剤がブリードアウトすることを抑制する上において質量平均分子量の大きなエラストマーを含有する。
従って、前記エラストマー組成物は、前記複素粘度の値を過度に小さくすることが難しい。
また、射出成形時における気泡の巻き込みを防止する上においても前記エラストマー組成物の前記複素粘度は、一定以上であることが好ましい。
前記エラストマー組成物の前記複素粘度の最大値(ηmax)は、5Pa・s以上であることが好ましく、10Pa・s以上であることがより好ましい。
【0038】
(A)と(B)との両方の条件を満たす温度(T)での前記複素粘度は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲内で大きく変動しないことが好ましい。
前記エラストマー組成物の前記複素粘度は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における最大値(ηmax)と最小値(ηmin)との比率(ηmax/ηmin)が10以下となることが好ましい。
前記比率(ηmax/ηmin)は、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本実施形態の前記エラストマー組成物は、100℃から200℃までの何れかの温度において下記の不等式(A)、(B)、及び、(C)の全てを満たすことが好ましい。
(A) ηmax ≦ 10000Pa・s
(B) tanδmax ≧ 0.4
(C) (ηmax/ηmin) ≦ 10
【0040】
前記エラストマー組成物は、前記の通り、200℃以下の温度での動的粘弾性測定によって求められる損失正接が所定の値を示すことが好ましい。
尚、前記損失正接は、“tanδ”などとも称される特性値であり、貯蔵弾性率(G’)に対する損失弾性率(G”)の比率(G”/G’)を算出することによって求められる特性値である。
【0041】
前記エラストマー組成物は、前記損失正接が高い方が射出成形において液体的な性質が現れ易い。
即ち、前記エラストマー組成物は、前記損失正接が高い方が射出成形に際して成形型の成形面に沿ってスムーズに移動でき、射出成形品の表面に細かなシワが形成されることを抑制する効果が高くなる。
【0042】
本実施形態においては、例えば、成形型の成形面に当接されていた状態のままでの表面に対して平滑化処理などの特別な処理を施さなくても表面が滑らかな射出成形品を得ることができる。
本実施形態においては、射出成形直後の射出成形品の表面は、例えば、算術平均粗さ(Ra)が12μm以下とされ得る。
射出成形品の表面の算術平均粗さ(Ra)は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。
射出成形品の表面の算術平均粗さ(Ra)は、ISO-25178に基づいた非接触法で求めることができる。
具体的には、射出成形品の表面の算術平均粗さ(Ra)は、実施例に記載の方法で求めることができる。
本実施形態では、射出成形時に成形型の成形面に接していた状態がそのまま維持されていても射出成形品の表面が十分に滑らかである。
そのため、本実施形態では、一度作製した射出成形品に追加の表面平滑化処理を施す必要性が低く、前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52を簡単に作製することができる。
【0043】
前記エラストマー組成物の前記損失正接は、前記の通り、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における最大値(tanδmax)が0.6以上であっても、0.8以上であってもよく、1以上であることが好ましい。
前記損失正接の前記最大値(tanδmax)は、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、2以上であることがとりわけ好ましい。
前記エラストマー組成物の前記損失正接の最大値(tanδmax)は、通常、1000以下である。
【0044】
前記損失正接の値が上記の最大値以上となる範囲は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲の内の10%以上に亘っていることが好ましい。
即ち、前記損失正接の値は、周波数1Hzから50Hzまでの間の5Hz以上の範囲において上記の最大値以上となっていることが好ましい。
前記損失正接の値が上記の最大値以上となる範囲は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲の内の25%以上に亘っていることがより好ましく、50%以上に亘っていることがさらに好ましい。
前記損失正接の値は、周波数1Hzから50Hzまでの全域において上記の最大値以上となっていることがとりわけ好ましい。
【0045】
(A)と(B)との両方の条件を満たす温度(T)での前記損失正接の値は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲内で大きく変動しないことが好ましい。
前記エラストマー組成物の前記損失正接の値は、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における最大値(Rmax)と最小値(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)が10以下となることが好ましい。
前記比率(Rmax/Rmin)は、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本実施形態の前記エラストマー組成物は、100℃から200℃までの何れかの温度において下記の不等式(A)、(B)、及び、(D)の全てを満たすことが好ましい。
(A) ηmax ≦ 10000Pa・s
(B) tanδmax ≧ 0.4
(D) (Rmax/Rmin) ≦ 10
【0047】
本実施形態の前記エラストマー組成物は、100℃から200℃までの何れかの温度において下記の不等式(A)、(B)、(C)、及び、(D)の全てを満たすことが好ましい。
(A) ηmax ≦ 10000Pa・s
(B) tanδmax ≧ 0.4
(C) (ηmax/ηmin) ≦ 10
(D) (Rmax/Rmin) ≦ 10
【0048】
前記エラストマー組成物の複素粘度や損失正接は、JIS K 7244-6「プラスチック-動的機械特性の試験方法-第6部:せん断振動-非共振法」に基づいて測定することができる。
具体的には、動的粘弾性測定装置(例えば、アントンパール製、製品名「MCR―302」)を用いて測定することができる。
測定試料は、直径25mmのパラレルプレート状とし、測定条件は、下記の通りとすることができる。
<測定条件>
測定モード :正弦波歪みのせん断モード
周波数 :1Hzから50Hzまで
荷重 :自動静荷重
動歪み :10%
測定温度 :各一定条件
【0049】
本実施形態の前記エラストマー組成物は、横軸を温度、縦軸を「tanδmax」としたグラフを描いた際に100℃から200℃までの間でピーク値を示すような温度特性を有していることが好ましい。
即ち、前記エラストマー組成物は、100℃から200℃までの各温度で「tanδmax」の値を測定した時に、ピーク値を示す温度よりも低温側に向けて「tanδmax」の値が低下するとともにピーク値を示す温度よりも高温側に向けても「tanδmax」の値が低下することが好ましい。
前記ピーク値を示す温度は、120℃以上180℃以下であることが好ましく、130℃以上170℃以下であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態における前記エラストマー組成物は、複数のスチレン系熱可塑性エラストマーと可塑剤とを含有する。
即ち、前記エラストマー組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマーを2種類以上含む。
前記エラストマー組成物は、可塑剤を1種類のみ含んでいても2種類以上を含んでいてもよい。
【0051】
前記エラストマー組成物に含まれる前記複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの一つ(以下、「第1のスチレン系熱可塑性エラストマー」ともいう)は、分子構造中にソフトセグメントとハードセグメントとを備え、ソフトセグメントの両末端に前記ハードセグメントを備えたブロックポリマーであることが好ましい。
即ち、前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィンブロックなどからなるソフトセグメントと、ポリスチレンブロックなどからなるハードセグメントとを備え、これらがハードセグメント/ソフトセグメント/ハードセグメントの順に並んだトリブロック構造を有することが好ましい。
【0052】
このようなトリブロック構造を有する第1のスチレン系熱可塑性エラストマーでは、隣り合う分子のハードセグメントどうしの間で高い分子間力が発生して疑似架橋構造が形成され、この疑似架橋による架橋点の間に存在するソフトセグメント部分で可塑剤を保持させることができる。
本実施形態における前記エラストマー組成物は、前記のように複数のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有している。
即ち、この複数のスチレン系熱可塑性エラストマーには、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーだけでなく、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーや第3のスチレン系熱可塑性エラストマーが更に含まれ得る。
【0053】
本実施形態における第1のスチレン系熱可塑性エラストマー、第2のスチレン系熱可塑性エラストマー、及び、第3のスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)の水素添加物(HSBR)のようなランダムポリマー;スチレン-エチレン・ブチレン共重合体(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体(SEP)などのジブロック構造を有するブロックポリマー;スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体(SBBS)等のトリブロック構造を有するブロックポリマーが挙げられる。
【0054】
前記の通り、本実施形態の前記エラストマー組成物に含有させる第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、トリブロック構造を有するスチレン系熱可塑性エラストマーが好適である。
射出成形に適した溶融特性を前記エラストマー組成物に発揮させるのに好適である点において、前記エラストマー組成物に含有させる第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、トリブロック構造を有するスチレン系熱可塑性エラストマーの中でも、質量平均分子量が30万以上のブロックポリマーが好適である。
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、分子量が大きいため、ソフトセグメントの鎖長が長く、可塑剤を保持する能力に優れている。
このような第1のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有させることで前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52から可塑剤がブリードアウトするおそれを低減できる。
従って、前記エラストマー組成物が第1のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することで当該エラストマー組成物での可塑剤の種類や含有量の選択幅が広がることになる。
【0055】
トリブロック構造を有する第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、「ハードセグメント/ソフトセグメント/ハードセグメント/ソフトセグメント」といった構造を有するテトラブロックポリマーであっても、「ハードセグメント」と「ソフトセグメント」とが交互に並んだ合計ブロック数が5以上のマルチブロックポリマーであってもよいが、分子鎖の両末端がハードセグメントで、このハードセグメントの間に1つのソフトセグメントだけが設けられているトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0056】
前記エラストマー組成物は、前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52が製造し易くなる点において、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとは別の第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)、及び、第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)をさらに含有させることが好ましい。
【0057】
本実施形態での第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)は、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えている。
結晶化したポリエチレンは、通常、アモルファス状態のポリエチレンよりも弾性率が高い。
そこで、優れた強度を発揮させる上において、エラストマー組成物は、ポリエチレンをアモルファス状態で含有するよりも結晶状態で含む方が好ましい。
【0058】
一般的なスチレン系熱可塑性エラストマーは、加熱すると140℃~180℃の温度で流動性を示すようになる。
ポリエチレンの結晶は、上記温度よりも融点が低い。
したがって、エラストマー組成物を加熱した際に早い段階で流動性を示すポリエチレンの結晶には、潤滑剤のように機能することを期待できる。
そのようなことから第2のスチレン系熱可塑性エラストマーには、ポリエチレンの結晶が適度な割合で含まれていることが好ましい。
【0059】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンの結晶を4質量%以上含んでいることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリエチレンの結晶の含有量は、5質量%以上であってもよく、6質量%以上であってもよい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリエチレンの結晶の含有量は、12質量%以下であることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリエチレンの結晶の含有量は、11質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
【0060】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、前記エラストマー組成物に良好なる流動性を発揮させる上で、該エラストマー組成物に1質量%以上の割合で含まれることが好ましい。
前記エラストマー組成物における第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、2質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。
【0061】
前記エラストマー組成物での第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、当該エラストマー組成物に良好なる透明性を発揮させる上で、10質量%以下であることが好ましい。
前記エラストマー組成物における第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、8質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよい。
【0062】
前記エラストマー組成物での前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)の含有量を100質量部とした場合、第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の含有量は、25質量部以上であることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の含有量は、250質量部以下であることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の含有量は、200質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以下であることが特に好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の含有量は、75質量部以下であってもよく、50質量部以下であってもよい。
即ち、前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)と前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)との質量比率(TPS1:TPS2)は、100:25~100:250であることが好ましく、100:25~100:200であることがより好ましい。
該質量比率は、100:25~100:150であることがさらに好ましく、100:25~100:100であることが特に好ましい。
該質量比率は、100:25~100:75であってもよく、100:25~100:50であってもよい。
【0063】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンブロックによる機能を発揮させ易い点において、ポリエチレンブロックの両側にポリスチレンブロックを有していないことが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンブロックの片側のみにポリスチレンブロックを有していることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンブロックとポリスチレンブロックとで構成されたジブロックポリマーであってもよい。
【0064】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)は、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)であることが好ましい。
スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)は、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えている。
スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)が結晶性を示すポリエチレンブロックを備えていることについては、示差走査熱量計(DSC)で確認できる。
DSCを用いた分析では、ポリエチレンの結晶の量も確認できる。
【0065】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーにポリエチレンの結晶が存在することは、DSC曲線に吸熱ピークや結晶化ピークが現れることで確かめることができる。
DSC曲線は、例えば、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)を10℃/minの昇温速度で加熱したり、同じ速度で冷却したりして得ることができる。
ポリエチレンの結晶に由来する吸熱ピークや結晶化ピークは、DSC曲線で概ね70℃から160℃の間に観測される。
ポリエチレンの結晶の融解熱量は、文献値では293J/gとされている。
従って、DSC曲線の吸熱ピークの吸熱量や結晶化ピークの発熱量で、結晶性を示すポリエチレンブロックが、どの程度の割合で含まれているかを確かめることができる。
【0066】
ポリエチレンのような結晶性ポリマーは、融点よりも高い温度に加熱された場合に、融解熱量によってポリマーの主鎖が自由に分子運動できる状態になるので流動性を示す状態になる。
非晶性ポリマーでは、ガラス転移温度において同様の現象が見られる。
そこで、例えば、スチレンホモポリマー(GPPS)のような非晶性ポリマーを加熱した場合、ガラス転移温度において吸熱が見られる。
ポリスチレンブロックがスチレンホモポリマーと同じような状態で第2のスチレン系熱可塑性エラストマーに含まれていると当該第2のスチレン系熱可塑性エラストマーについてもガラス転移温度での吸熱が起こり得る。
【0067】
ガラス転移温度で吸熱が起きるということはポリスチレンブロックどうしの間に強い結合力が作用していることを意味する。
そのようなポリスチレンブロックを有する第2のスチレン系熱可塑性エラストマーには、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとの間にも強い結合力が発生することを期待できる。
【0068】
スチレンホモポリマー(GPPS)のガラス転移温度は、約100℃であり、ポリエチレンの融点に近い。
そのため第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリスチレンブロックが、ガラス転移を示すような状態で含まれていると、DSC曲線では、ポリエチレンの結晶の融解による吸熱とガラス転移による吸熱とが一つの吸熱ピークとなって観察され得る。
したがって、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリエチレンの結晶の含有量は、結晶化ピークの発熱量を使って計算する方が正確に算出できる。
【0069】
ガラス転移を示すような状態でポリスチレンブロックを含んでいる第2のスチレン系熱可塑性エラストマーは、前述のように第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとの間に強い結合力を発揮する上で有利である。
そこで、本実施形態では、DSC曲線で100℃付近に現れる吸熱ピークでの吸熱量と結晶化ピークでの発熱量とを比較した際に、吸熱量の方が高い値となって観測される第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの吸熱量は、例えば、結晶化ピークでの発熱量の1.2倍以上とされ得る。
前記吸熱量は、前記発熱量の1.3倍以上であってもよく、1.4倍以上であってもよい。
前記吸熱量は、通常、前記発熱量の2.5倍以下となる。
前記吸熱量は、前記発熱量の2.0倍以下であってもよく、1.8倍以下であってもよい。
【0070】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでの吸熱ピークでの吸熱量と結晶化ピークでの発熱量とは、DSCで測定することができる。
測定では、例えば、約5mg程度の第2のスチレン系熱可塑性エラストマーが試料として用いられる。
測定では、まず、この試料を精秤してその質量M(mg)を求める。
そして、DSCでの測定では、まず、吸熱量や発熱量を求めるためのDSC曲線を得る。
DSC曲線は、試料を常温から200℃程度に加熱(第1加熱)した後で常温まで冷却(第1冷却)し、再び200℃程度に加熱(第2加熱)して求める。
試料の昇温速度、及び、冷却速度は、何れも10℃/minとすることができる。
この測定では、試料と同程度の質量のアルミナをリファレンスに用いることができる。
また、この測定では、窒素をパージガスとして用いることができる。
パージガスは、例えば、20ml/minの流量で用いることができる。
【0071】
結晶化ピークでの発熱量は、試料を冷却(第1冷却)した時に観測される発熱ピークより求めることができる。
融解ピークでの吸熱量は、試料を2回目に加熱(第2加熱)した時に観測される吸熱ピークより求めることができる。
それぞれの熱量は、ピークが高温側でベースラインから離れる点とピークが低温側でベースラインに戻った点とを結ぶ線分と、DSC曲線とで囲まれた領域の面積より求めることができる。
上記の線分は、DSCによる測定で得られる微分曲線の傾きがゼロになる点どうしを結ぶように引くことができる。
DSCには、市販の装置(例えば、NETZSCH社製、製品名「DSC 200 S3」など)を用いることができる。
【0072】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでの発熱量Qexo(mJ/mg)や吸熱量Qendo(mJ/mg)については、上記のような測定を複数回(例えば、3回)行って得られた測定値の算術平均値とすることができる。
【0073】
試料に含まれているポリエチレンの結晶の質量m(mg)は、測定で得られた発熱量Qexo(mJ/mg)とポリエチレンの結晶の融解熱量(293J/g)から下記式により算出することができる。
m = Qexo/293
【0074】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリエチレンの結晶の含有量X(質量%)は、試料の質量M(mg)と試料に含まれているポリエチレンの結晶の質量m(mg)から下記式により算出することができる。
X = (m/M)×100
【0075】
なお、第2のスチレン系熱可塑性エラストマーでのポリエチレンの結晶の含有量X(質量%)は、試料を変更して複数回(例えば、5回)の測定を行って得られた測定値の算術平均値とすることができる。
【0076】
スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)は、熱溶融時における流動性に優れることが好ましい。
スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)のメルトマスフローレイト(MFR)は、1g/10min以上であることが好ましい。
スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)のメルトマスフローレイト(MFR)は、2g/10min以上であることがより好ましく、3g/10min以上であることがさらに好ましい。
スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)のメルトマスフローレイト(MFR)は、例えば、30g/10min以下であってもよい。
【0077】
スチレン系熱可塑性エラストマーのメルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K7210-1に記載の方法(A法、230℃、2.16kg)に基づいて測定される。
【0078】
ハードセグメントとソフトセグメントとを備えたスチレン系熱可塑性エラストマーを主成分としたエラストマー組成物では、分子レベルでのミクロな構造がスチレン系熱可塑性エラストマーによって異なる。
このようなエラストマー組成物では、ハードセグメントどうしが集合した凝集体が数多く形成される。
そして、例えば、分子量の小さなスチレン系熱可塑性エラストマーに比べ、分子量の大きなスチレン系熱可塑性エラストマーでは、凝集体のサイズが大きくなり、凝集体どうしの間隔が広くなると考えられる。
前述のように本実施形態では凝集体どうしの間隔を広くすることで可塑剤の分離(ブリードアウト)を抑制している。
【0079】
エラストマー組成物が加熱されると熱エネルギーがスチレン系熱可塑性エラストマーの分子の運動エネルギーへと転化し、スチレン系熱可塑性エラストマーの分子が自由に動き回ることができるようになって流動性が発揮される。
そのため、エラストマー組成物は、サイズが大きな凝集体を含んでいると加熱時における良好な流動性が発揮され難くなると考えられる。
【0080】
上記のようなことからエラストマー組成物は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーだけを含ませると可塑剤のブリードアウトが起きにくくなるものの加熱時に良好な流動性を発揮し難くなる。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2(SEBC))での結晶性を有するポリエチレンブロックは、このハードセグメントの凝集体の形成を抑制する作用を有すると見られる。
また、ポリエチレンブロックの結晶は、100℃前後の温度で融解する。
そして、融解したポリエチレンブロックは、分子の移動に際して立体障害となり難い。
このようなことから本実施形態のエラストマー組成物は、第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(SEBC)を含むことで良好な流動性を発揮する。
【0081】
本実施形態のエラストマー組成物は、更に、第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)を含む。
この第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、20万以下の質量平均分子量を有していることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の質量平均分子量も20万以下であることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)や第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)の質量平均分子量は、15万以下であってもよく、12万以下であってもよい。
この第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、トリブロック構造を有することが好ましい。
【0082】
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)の質量平均分子量は、55万以下であることがより好ましく、50万以下であることがさらに好ましく、45万以下であることがとりわけ好ましい。
前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)や前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)の質量平均分子量は、3万以上であることがより好ましく、4万以上であることがさらに好ましく、5万以上であることがとりわけ好ましい。
【0083】
SEBC以外での前記スチレン系熱可塑性エラストマーの質量平均分子量は、以下のようにして求めることができる。
質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として求められる。
測定装置及び条件は、以下のとおりとすることができる。
・装置 :東ソー株式会社製GPC装置「HLC-8320GPC」
・分離カラム :東ソー株式会社製「TSKgel SuperHM-H」
・検出器 :東ソー株式会社製「RI-8320」
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.6mL/分
・サンプル濃度:1mg/mL
・カラム温度 :40℃
【0084】
SEBCの質量平均分子量は、以下のようにして求めることができる。
質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として求められる。
測定装置及び条件は、以下のとおりとすることができる。
・装置 :東ソー株式会社製GPC装置「HLC-8321GPC/HT」
・分離カラム :東ソー株式会社製「TSKgel GMHHRH(20)HT」
・検出器 :東ソー株式会社製「RI-8320」
・溶離液 :1,2,4-トリクロロベンゼン+0.05%BHT
・溶離液流量 :1.0mL/分
・サンプル濃度:1mg/mL
・カラム温度 :140℃
【0085】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)は、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、及び、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)の内の何れかであることが好ましい。
【0086】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)は、スチレンコンテントが高い方が前記疑似架橋を強固なものとすることができる。
このようなことから、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)のスチレンコンテントは、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。
但し、スチレンコンテントが高いということは、可塑剤の保持に有効なソフトセグメントが少ないことを意味する。
このようなことから、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)のスチレンコンテントは、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0087】
第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、及び、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)の内の何れかであることが好ましい。
【0088】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)と第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)とのそれぞれは、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)であることがより好ましい。
【0089】
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)は、前記の通り、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体(SEBC)であることが好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)のスチレンコンテントは、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)のスチレンコンテントは、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0090】
第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)のスチレンコンテントは、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)と同様の理由から、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。
また、第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)のスチレンコンテントは、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0091】
前記エラストマー組成物は、3種類以上のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有してもよい。
該スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレンコンテントが60質量%以上70質量%以下のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPSx)、アミン変性がされているスチレン系熱可塑性エラストマー(TPSy)、無水マレイン酸変性がされているスチレン系熱可塑性エラストマー(TPSz)などが挙げられる。
これらのスチレン系熱可塑性エラストマー(TPSx~TPSz)は、3万以上20万以下の質量平均分子量を有することが好ましい。
【0092】
前記エラストマー組成物は、これらのスチレン系熱可塑性エラストマー以外に、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂を含有してよい。
【0093】
前記エラストマー組成物は、オレフィン系エラストマーやオレフィン系樹脂などのオレフィン系ポリマー;アミド系エラストマーやアミド系樹脂などのアミド系ポリマー;エステル系エラストマーやエステル系樹脂などのエステル系ポリマー;ウレタン系エラストマーやウレタン系樹脂;などといったものを含有してもよい。
【0094】
前記オレフィン系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE))、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-4-メチル-ペンテン共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、プロピレン-メタクリル酸共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メチルアクリレート共重合体、プロピレン-エチルアクリレート共重合体、プロピレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、プロピレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0095】
該オレフィン系ポリマーの中で、ポリプロピレンは、射出成形時において前記エラストマー組成物に高い流動性を発揮させるのに有効に作用する。
ポリプロピレンの中でも特にエチレンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリプロピレン(r-PP)は、プロピレンのホモポリマー(h-PP)やエチレンとプロピレンとのブロック共重合体であるポリプロピレン(b-PP)に比べて上記のような効果に優れる。
そのため、前記エラストマー組成物には、ランダム共重合体であるポリプロピレン(r-PP)を少量含有させるようにしてもよい。
前記エラストマー組成物における前記ポリプロピレン(r-PP)の含有量は、スチレン系エラストマーの含有量を100質量部としたときに、0質量部を超え5質量部以下であることが好ましい。
【0096】
前記ポリマーは、例えば、アミド系エラストマーやアミド系樹脂などのアミド系ポリマーであってもよい。
前記アミド系ポリマーとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610などが挙げられる。
【0097】
前記ポリマーは、例えば、エステル系エラストマーやエステル系樹脂などのエステル系ポリマーであってもよい。
前記エステル系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0098】
前記ウレタン系ポリマーとしては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタンなどが挙げられる。
【0099】
前記エラストマー組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマー以外のポリマーを含有することで、機械的強度などの特性が向上され得る。
しかしながら、他のポリマーの含有は、逆に機械的強度などの特性を低下させる場合もあり、エラストマー組成物の透明性を低下させることも考えられる。
したがって、本実施形態のエラストマー組成物は、含有するポリマーの総量に占めるスチレン系熱可塑性エラストマーの割合が80質量%以上であることが好ましい。
前記割合は、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがとりわけ好ましい。
前記エラストマー組成物に含有されるポリマーは、実質的にスチレン系熱可塑性エラストマーのみであることが最も好ましい。
【0100】
前記エラストマー組成物に含まれる複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの総量に占める第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)と前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)と第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)の割合は、例えば、質量比〔(TPS1+TPS3):TPS2〕が99:1~40:60の範囲となるように設定されることが好ましい。
【0101】
複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの総量を100質量%とした場合、これに占める第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)の割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)の割合は、50質量%以上であってもよい。
前記割合は、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
即ち、前記エラストマー組成物に含まれる複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの総量に占める第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)の割合は、30質量%以上99質量%以下であることが好ましい。
【0102】
前記エラストマー組成物に含まれる複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの総量に占める第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の割合は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。
前記割合は、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
即ち、前記エラストマー組成物に含まれる複数のスチレン系熱可塑性エラストマーの総量に占める第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS2)の割合は、1質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0103】
前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)の一部を置き換える形で含有されることが好ましい。
前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)よりも少ない量とされることが好ましい。
前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)との合計量が40質量%以上となるように含有されることが好ましく、50質量%以上となるように含有されることがより好ましい。
前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)は、第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1)との合計量が99質量%以下となるように含有されることが好ましく、90質量%以下となるように含有されることがより好ましい。
前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)単独での割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
前記第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS3)単独での割合は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0104】
前記複数のスチレン系熱可塑性エラストマーとともに前記エラストマー組成物に含有される前記可塑剤としては、例えば、パラフィンオイル、パラフィンワックス、ナフテンオイル、アロマティックオイル、ポリブタジエン、ポリブテンなどの炭化水素類;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などのエポキシ化オイル類;カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステルなどのエステル類;オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール類等が挙げられる。
【0105】
前記可塑剤は、40℃における動粘度が50mm/s以上であることが好ましく、60mm/s以上であることがより好ましく、70mm/s以上であることがさらに好ましい。
前記可塑剤の40℃における動粘度は、500mm/s以下であることが好ましく、450mm/s以下であることがより好ましく、420mm/s以下であることがさらに好ましい。
前記可塑剤の40℃における動粘度は、50mm/s以上500mm/s以下であることが好ましい。
【0106】
前記エラストマー組成物に複数の可塑剤が含まれる場合、当該複数の可塑剤は、混合状態において上記のような動粘度を示すように配合されることが好ましい。
【0107】
可塑剤の動粘度は、JIS K2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して求めることができる。
【0108】
前記エラストマー組成物に含有される前記スチレン系熱可塑性エラストマーの総量を100質量部としたときに、前記エラストマー組成物における前記可塑剤の含有量は、50質量部以上であることが好ましく、75質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることがさらに好ましく、120質量部以上であることがとりわけ好ましい。
前記可塑剤の含有量は、500質量部以下であることが好ましい。
前記可塑剤の含有量は、300質量部以下であることがより好ましく、250質量部以下であることがさらに好ましく、230質量部以下であることが特に好ましい。
前記可塑剤の含有量は、50質量部以上500質量部以下であることが好ましく、60質量部以上400質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上300質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以上250質量部以下であることがとりわけ好ましい。
前記可塑剤の含有量は、120質量部以上230質量部以下であってもよい。
【0109】
前記エラストマー組成物が優れた透明性を発揮することから、前記可塑剤は、パラフィンオイルであることが好ましい。
なかでも、前記可塑剤は、質量平均分子量が500以上2500以下のパラフィンオイルであることが好ましい。
前記パラフィンオイルの質量平均分子量は、1000以上であることがより好ましく、1300以上であることがさらに好ましい。
前記エラストマー組成物では、質量平均分子量が1300以上2500以下の第1のパラフィンオイルと、質量平均分子量が500以上1200以下の第2のパラフィンオイルとを混合して用いることが好ましい。
前記第1のパラフィンオイル(P1)と、前記第2のパラフィンオイル(P2)とは、質量比(P1:P2)が1:2~2:1となるようにエラストマー組成物に含有されることが好ましい。
【0110】
オイルの質量平均分子量は、GPCを用いて以下のようにして求めることができる。
カラムは「TSKgel、SuperHM-H(東ソー(株)社製6.0mmID×15cm)」を用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
測定条件としては、試料濃度0.02質量%、流速0.6mL/min.、サンプル注入量100μL、測定温度40℃とし、IR検出器を用いて行う。
そして、オイルの質量平均分子量については、標準ポリスチレンによって得た検量線に基づいてポリスチレン換算値の形で求められる。
【0111】
前記エラストマー組成物は、必要に応じて前記エラストマーを架橋させるための架橋剤を含有させてもよい。
前記架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、マレイミド系架橋剤、硫黄、フェノール系架橋剤、オキシム類、ポリアミン等を採用することが可能である。
また、前記エラストマーの架橋は、電子線やX線を照射して行ってもよい。
【0112】
該有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド等が挙げられる。
前記エラストマー組成物は、上記のような架橋剤を一種単独で含んでもよく、架橋剤を複数種類含有してもよい。
【0113】
前記エラストマー組成物には、クレー、タルク、シリカなどといった無機フィラーをさらに含有させてもよい。
前記エラストマー組成物に含有させる無機フィラーは、金属箔、ガラスフレーク、パールマイカなどといった光反射性を有するものであってもよい。
前記エラストマー組成物は、上記のような無機フィラーを一種単独で含んでもよく、無機フィラーを複数種類含有してもよい。
本実施形態での前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52は、表面が滑らかで表面における光の乱反射が少ないため、このような光反射性を有する無機フィラーを含有させることで、当該無機フィラーに外部からの光が行き届き易くなるとともに無機フィラーの反射光を視認し易くなる。
即ち、本実施形態での前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52は、光反射性の無機フィラーを含有させることで優れた美観を発揮することになる。
【0114】
前記エラストマー組成物は、セルロースナノファイバー、アラミド繊維などの有機フィラーを含んでいてもよい。
また、本実施形態での前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52は、カラフルなプラスチックビーズを有機フィラーとして含有してもよい。
【0115】
前記エラストマー組成物には、例えば、加工助剤、耐侯剤、難燃剤、顔料、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤、消臭剤等から選択される1種又は2種以上をさらに含有させてもよい。
【0116】
前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52は、それぞれの全体形状に対応した成形空間を有する成形型を使って作製することができる。
エラストマー組成物によって前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52となる射出成形品を形成させる方法は、一般的な射出成形法を採用することができ、加熱されて溶融状態となったエラストマー組成物を成形型の成形空間内に射出する方法を採用することができる。
【0117】
前記第1緩衝用パーツ51や前記第2緩衝用パーツ52などの靴用パーツを射出成形によって作製するには、例えば、図3A図3B、及び、図3Cに示したような成形型Mが用いられる。
図に示す成形型Mは、前記第2緩衝用パーツ52を作製するのに用いられる成形型である。
該成形型Mは、型閉め時に互いに接する型合わせ面Sf,Smを有する一対の型で構成されている。
前記成形型Mは、一対の前記型として雄型MMと雌型MFとを有している。
前記成形型Mは、前記雄型MMと前記雌型MFとを重ね合わせることで密閉状態の成形空間CVを内部に形成し得るように構成されている。
本実施形態の雄型MMは、前記成形空間CVを画定する成形面MMaがマット加工やヘアライン加工などの施されていない平滑面となっている。
前記雌型MFも同様であり、前記成形空間CVを画定する成形面MFaがマット加工やヘアライン加工などの施されていない平滑面となっている。
【0118】
該成形型Mは、射出成形機で溶融混練されたエラストマー組成物を前記射出成形機から前記成形空間CVに導入させるための注入口ILを有している。
前記成形型Mを用いた射出成形では、前記注入口ILより成形空間CVに射出されたエラストマー組成物が、前記成形面(MMa,MFa)によって冷却されながら成形空間CV全体に充満される。
このとき、本実施形態において作製される射出成形品は、エラストマー組成物が前記のような溶融特性(複素粘度、損失正接)を有することで成形面に沿って滑らかに流動し、細かなシワなどが表面に形成され難い。
そのため、本実施形態において作製される射出成形品の表面には、成形面の表面性状が忠実に反映され得る。
即ち、本実施形態での射出成形品は、表面が滑らかな状態となって作製される。
【0119】
成形面の表面性状が忠実に反映される点においては、成形面にヘアライン加工やマット加工などが施される場合も同じである。
【0120】
尚、本実施形態における記載は、あくまで例示的なものである。
例えば、本実施形態においては、上下方向に積層された第1ミッドソールと第2ミッドソールとを含む複数のミッドソールを備えた靴を例示しているが、本発明の靴は、靴底に設けられるミッドソールが1層であっても3層以上であってもよい。
そして、本実施形態においては、緩衝用パーツが第1ミッドソールと第2ミッドソールとの間に介挿されている靴を例示しているが、緩衝用パーツは、ミッドソールとアウトソールとの間に設けられても、ミッドソールとアッパーとの間に設けられてもよい。
さらには、緩衝用パーツは、ミッドソールに設けた凹部に埋め込まれるように配されてもよい。
【0121】
本実施形態においては、射出成形品を緩衝用パーツとして用いる例を示しているが本実施形態の射出成形品は緩衝目的以外の靴用パーツに用いてもよい。
また、本実施形態においては、射出成形品を靴用パーツとして利用する場合を例示しているが、本実施形態の射出成形品はその用途が靴用パーツに限定されるわけではない。
即ち、本発明の射出成形品や本発明の靴は、上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例
【0122】
次に試験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(第1のスチレン系熱可塑性エラストマー)
質量平均分子量が30万以上の第1のスチレン系熱可塑性エラストマーとして、下記の2通りのものを用意した。
TPS1-a:質量平均分子量30万、スチレンコンテント30質量%のSEEPS
TPS1-b:質量平均分子量40万、スチレンコンテント30質量%のSEEPS
(第2のスチレン系熱可塑性エラストマー)
結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーとして、下記のものを用意した。
TPS2:質量平均分子量6.2万、MFR(230℃、2.16kg)=5.5g/10min、スチレンコンテント20質量%のSEBC
(第3のスチレン系熱可塑性エラストマー)
質量平均分子量が20万以下の第3のスチレン系熱可塑性エラストマーとして、下記のものを用意した。
TPS3-a:質量平均分子量10万、スチレンコンテント30質量%のSEEPS
TPS3-b:質量平均分子量8.3万、スチレンコンテント30質量%のSEBS
TPS3-c:質量平均分子量11.6万、スチレンコンテント18質量%のSEBS
(可塑剤)
可塑剤として、下記の2種類のパラフィンオイルを用意した。
P1:質量平均分子量が約900で、40℃での動粘度が約91mm/sのパラフィンオイル
P2:質量平均分子量が約1400で、40℃での動粘度が約409mm/sのパラフィンオイル
(エラストマー組成物の調製)
上記のスチレン系熱可塑性エラストマーと可塑剤とを後に示す表1の通りの配合量で溶融混練して参考例1、実施例1~6、比較例1~11のそれぞれのエラストマー組成物を調製した。
【0123】
<評価1:熱溶融特性>
動的粘弾性測定を実施し、エラストマー組成物の100℃~200℃における複素粘度と損失正接とを測定した。
得られた結果から、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における複素粘度の最大値(ηmax)と、周波数1Hzから50Hzまでの範囲における損失正接の最大値(tanδmax)とを算出した。
【0124】
<評価2:表面性状1-ヘーズ>
厚さ4mmの平板状の成形空間を有する成形型を用意した。
この成形型の成形空間に加熱溶融状態のエラストマー組成物を射出して厚さ4mmの板状の射出成形品を作製した。
該射出成形品のヘーズ(Haze blank)を測定した。
次いで、表面が十分に滑らかで透明性に優れた2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:50μm)を用意し、この2枚のポリエチレンテレフタレートフィルムの間に前記射出成形品を挟み込んで熱プレスを実施し、射出成形品の表面がポリエチレンテレフタレートフィルムによって平滑化されるとともに当該ポリエチレンテレフタレートフィルムが射出成形品の表面に密着された厚さ4mmの板状試料を作製した。
該板状試料のヘーズ(Haze cure)を測定した。
熱プレス前のヘーズ(Haze blank)と熱プレス後のヘーズ(Haze cure)との差(ΔHaze=Haze blank-Haze cure)を算出し、表面の平滑性が熱プレスによってどの程度改善されたかを評価した。
即ち、熱プレスによる改善効果の低い射出成形品は、元々表面に細かなシワなどがなく表面が平滑な良好な状態となっているため、ヘーズの差により射出成形品の表面性状を評価した。
【0125】
<評価3:表面性状2-表面粗さ>
射出成形品の表面粗さをISO-25178に基づいた非接触法で評価した。
走査型電子顕微鏡を用い、100倍の倍率で射出成形品の表面を観察して三次元画像を撮影した。
このときの視野は、1280μm×960μmとした。
三次元画像から射出成形品の表面の断面曲線を取得し、0.25mmガウシアンフィルターにてうねりを取り除いて表面粗さ(算術平均粗さRa)を評価した。
断面曲線は、三次元画像の5箇所から採取した。
算術平均粗さは、得られた5つの測定値を平均して求めた。
また、5つの測定値から算術平均粗さの標準偏差(SD)を算出した。
【0126】
各評価結果を下記表1に併せて示す。
【表1】
【0127】
上記の表1に示された結果において、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーを含むものと含まないものとを対比すると、下記表2に示すように結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーを加えることでエラストマー組成物が良好な流れ性を示すことがわかる。
【0128】
【表2】
【0129】
上記の表1に示された結果において、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーに換えて当該ブロックポリマーと同程度に分子量の低いSEEPS(TPS3-a)やSEBS(TPS3-b、TPS3-c)を含有させたものと、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーを含有させたものとを対比すると、下記表3、4に示すように結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーを加えることでエラストマー組成物が良好な流れ性を示すことがわかる。
【0130】
【表3】
【0131】
【表4】
【0132】
上記の結果からも、質量平均分子量が30万以上の第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS1-a、TPS1-b)に結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーである第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを加えることでエラストマー組成物が良好な流れ性を示すことがわかる。
【0133】
次いで、3種のスチレン系熱可塑性エラストマーを含むエラストマー組成物(参考例7、実施例811、参考例10、実施例12)の評価結果を下記に示す。
エラストマー組成物の調製方法や評価方法は、前述の実施例1などと同じである。
尚、参考例7、実施例8及び9は、比較例5での第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(質量平均分子量が30万以上のスチレン系熱可塑性エラストマー)の一部を第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマー)に置き換えたもので、参考例10、実施例11及び12は、比較例7での第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(質量平均分子量が30万以上のスチレン系熱可塑性エラストマー)の一部を第2のスチレン系熱可塑性エラストマー(結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマー)に置き換えたものである。
【0134】
【表5】
【0135】
上記の表5に示された結果からも第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを加えることでエラストマー組成物が良好な流れ性を示すことがわかる。
【0136】
上記の参考例7、実施例8、9、参考例10、実施例11、12の内、実施例8、実施例9、実施例11、実施例12は、それぞれ、実施例1~4での第1のスチレン系熱可塑性エラストマー(質量平均分子量が30万以上のスチレン系熱可塑性エラストマー)の一部を第3のスチレン系熱可塑性エラストマー(質量平均分子量が20万以下のスチレン系熱可塑性エラストマー)に置き換えたものとなっている。
これらを対比すると、下記表6に示すように、表面平滑性に優れた射出成形品を得る上で第3のスチレン系熱可塑性エラストマーを含む方が有利であることがわかる。
【0137】
【表6】
【0138】
最後に、可塑剤の含有量を変えて作製したエラストマー組成物(実施例13~16)の評価結果を下記の表7に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
上記の結果から、可塑剤の量を調整することでエラストマー組成物(射出成形品)の機械特性を所望の値に調整し易くなることがわかる。
【符号の説明】
【0141】
1:靴、2:アッパー、3:ミッドソール、4:アウトソール、5:緩衝用パーツ、11:前足部、12:中足部、13:後足部、31:第1ミッドソール、32:第2ミッドソール32、51:第1緩衝用パーツ、52:第2緩衝用パーツ52、CV:成形空間、M:成形型、MF:雌型、MFa:成形面、MM:雄型、MMa:成形面
【要約】
本発明は、質量平均分子量が30万以上のブロックポリマーである第1のスチレン系熱可塑性エラストマー、及び、結晶性を示すポリエチレンブロックを備えたブロックポリマーである第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを含む複数のスチレン系熱可塑性エラストマーと、可塑剤とを含むエラストマー組成物で構成された射出成形品を提供する。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4