(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】磁気刺激装置
(51)【国際特許分類】
A61N 2/12 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
A61N2/12
(21)【出願番号】P 2019017955
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】507076126
【氏名又は名称】株式会社IFG
(73)【特許権者】
【識別番号】592200338
【氏名又は名称】日本素材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】森 仁
(72)【発明者】
【氏名】八島 建樹
(72)【発明者】
【氏名】八島 芳信
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 斉
(72)【発明者】
【氏名】尾中 寿江
(72)【発明者】
【氏名】藤村 健太
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】実公昭41-10398(JP,Y1)
【文献】特開平10-118200(JP,A)
【文献】特開2006-123(JP,A)
【文献】特開2006-255181(JP,A)
【文献】特開2018-98956(JP,A)
【文献】米国特許第5813971(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0015950(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0083074(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁力線が通過する底部を有するケーシングと、
前記ケーシングに内蔵さ
れ、ロータとステータとで構成されたモータと、
前記ロータ側に配置され、前記モータの回転軸と共に回転する磁気刺激用永久磁石とで構成され
た磁気刺激装置において、
前記磁気刺激用永久磁石
は、N極とS極とが交互に着磁され
、N極から出た磁力線が前記ケーシングの底部を通過して該N極に隣接したS極に至るように構成され、
前記モータは、電磁石が前記ステータ側に配置され、前記電磁石に反発して前記ロータを回転させる回転用永久磁石が前記ロータ側に配置されたアウターモータタイプのブラシレスモータであって、
前記回転用永久磁石に近接させて前記磁気刺激用永久磁石が設けられ、
前記回転用永久磁石と前記磁気刺激用永久磁石の対応面をそれぞれ一方から他方に向かって前記磁力線が流れる各磁力線発生面とし、対応する磁力線発生面が互いに異極に着磁されていることを特徴とする磁気刺激装置。
【請求項2】
前記磁気刺激用永久磁石はリング状に形成され、前記回転軸を中心とした
円板上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気刺激装置。
【請求項3】
前記磁気刺激用永久磁石は、前記回転軸を中心とするリング状に配置された複数の磁石片からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気刺激装置。
【請求項4】
磁石片は扇形に形成され、隣接する磁石片の側辺は互いに隣接して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気刺激装置。
【請求項5】
磁力線が通過する底部を有するケーシングと、
前記ケーシングに内蔵され、ロータとステータとで構成されたモータと、
前記ロータ側に配置され、前記モータの回転軸と共に回転する磁気刺激用永久磁石とで構成された磁気刺激装置において、
前記磁気刺激用永久磁石は、N極とS極とが交互に着磁され、N極から出た磁力線が前記ケーシングの底部を通過して該N極に隣接したS極に至るように構成され、
前記モータは、電磁石が前記ステータ側に配置され、磁気刺激用永久磁石が前記ロータ側に設けられたアウターモータタイプのブラシレスモータであって、
前記電磁石に近接させて前記磁気刺激用永久磁石が設けられ、
前記磁気刺激用永久磁石から前記電磁石に向けて、磁力線をガイドする磁力線導通部材を前記磁気刺激用永久磁石に設け、
前記磁力線導通部材の、前記電磁石に対向する面を前記電磁石に対する反発面としたことを特徴とする磁気刺激装置。
【請求項6】
磁力線が通過する底部を有するケーシングと、
前記ケーシングに内蔵され、ロータとステータとで構成されたモータと、
前記ロータ側に配置され、前記モータの回転軸と共に回転する磁気刺激用永久磁石とで構成された磁気刺激装置において、
前記磁気刺激用永久磁石は、N極とS極とが交互に着磁され、N極から出た磁力線が前記ケーシングの底部を通過して該N極に隣接したS極に至るように構成され、
前記モータは、電磁石が前記ステータ側に配置され、ロータ側に屈曲した磁気刺激用永久磁石が配設されたアウターモータタイプのブラシレスモータであって、
前記磁気刺激用永久磁石の一方の面がケーシングの底部側に向け、他方の面が前記電磁石側に向けて配置され、前記磁気刺激用永久磁石の他方の面が前記電磁石に対する反発面としたことを特徴とする磁気刺激装置。
【請求項7】
前記ケーシングは、その底部の両側に、前記底部より隆起した脇部分を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の磁気刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を利用した磁気刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国内には脳卒中患者が約120万人存在し、このうち脳卒中後の痙縮を呈している患者は35パーセント以上にのぼるとされている。即ち、40万人の患者が痙縮を呈しているとされている。この痙縮に対する現在エビデンスのある治療法は、抗痙縮薬、髄腔内バクロフェン注入療法、ボツリヌス療法、経皮的電気刺激(TENS)である。
【0003】
抗痙縮薬は経口薬が用いられるが、眠気などの副作用を生じることも多く、また経口薬は全身に作用するために特定の部位の痙縮を選択的に治療することはできない。髄腔内バクロフェン注入療法は全身麻酔による手術を要し、また局所に選択的に効果を与えることは困難である。ボツリヌス療法はボツリヌス毒素を注射により体内に注入し、神経筋接合部の遮断による筋緊張緩和を目的とした治療である。国内では2010年から上肢痙縮、下肢痙縮に対するボツリヌス治療が保険適用されているが、薬剤が高価かつ効果継続は3か月程度のために頻回の注射が必要になる。経皮的電気刺激(TENS)は、痙性のある筋などに電極を貼付して微弱電流を流す治療法であるが、毎日電極を貼付するのはかなりの手間になる。また、電極を貼付するため皮膚を露出する必要があり、痙縮とともに麻痺を伴うことが多い患者では皮膚の露出に時間を要すことから経皮的電気刺激(TENS)は実際には普及していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脳卒中などでは痙縮は発症直後ではなく、急性期病院を経て回復期リハビリテーション病棟に入院中に生じることが多い。痙縮はリハビリテーションを阻害するために回復期リハビリテーション病棟での痙縮治療は重要であるが、回復期リハビリテーション病棟では治療の金銭的、時間的コストを請求できないために、安価で簡便な痙縮治療法が望まれている。本発明はこのようなリハビリテーション治療現場の要望に応えてなされたもので、回転する永久磁石を利用した痙縮の軽減に効果のある磁気刺激装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の磁気刺激装置Aは、以下の通りである。
磁力線Gが通過する底部34を有するケーシング30と、
前記ケーシング30に内蔵され、ロータとステータとで構成されたモータ1と、
前記ロータ側に配置され、前記モータ1の回転軸2と共に回転する磁気刺激用永久磁石20とで構成された磁気刺激装置Aにおいて、
前記磁気刺激用永久磁石20は、N極とS極とが交互に着磁され、N極から出た磁力線Gが前記ケーシング30の底部34を通過して該N極に隣接したS極に至るように構成され、
前記モータ1は、電磁石15が前記ステータ側に配置され、前記電磁石15に反発して前記ロータを回転させる回転用永久磁石10が前記ロータ側に配置されたアウターモータタイプのブラシレスモータであって、
前記回転用永久磁石10に近接させて前記磁気刺激用永久磁石20が設けられ、
前記回転用永久磁石10と前記磁気刺激用永久磁石20の対応面をそれぞれ一方から他方に向かって前記磁力線Gが流れる各磁力線発生面13・23とし、対応する磁力線発生面13・23が互いに異極に着磁されていることを特徴とする。
【0007】
患部に接触するケーシング30の底部34の外側に磁力線Gが現れる磁気刺激用永久磁石20を、前記底部34を介して患部に近接させた状態で回転させることで、痙縮改善に効果を生じる渦電流Uを患部に生起させることが出来る。
【0008】
請求項2は、請求項1の磁気刺激装置Aにおいて(
図4)、
前記磁気刺激用永久磁石20はリング状に形成され、前記回転軸2を中心とした円上に配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3は、請求項1の磁気刺激装置Aにおいて(
図6)、
前記磁気刺激用永久磁石20は、前記回転軸2を中心とするリング状に配置された複数の磁石片21からなることを特徴とする。
【0010】
請求項4は、請求項3に記載の磁気刺激装置Aにおいて(
図6)、
磁石片21は扇形に形成され、隣接する磁石片21の側辺22は互いに隣接して配置されていることを特徴とする。
【0011】
磁気刺激用永久磁石20を複数(偶数)の磁石片21で構成することで、更には磁石片21の側辺22が互いに隣接して配置されていることで、モータ1により回転している磁気刺激用永久磁石20の磁束が間欠的且つ患部上で急激に切り替わることになり、患部内に生起する渦電流Uが強められる(
図10、
図11)。
【0013】
これによれば、回転用永久磁石10の磁気力を磁気刺激用永久磁石20の磁気力に加算させることが出来る。なお、磁力線発生面13・23の間に磁力線Gをガイドする磁力線導通部材5を設けてもよい(
図5(b))。
ここで、回転用永久磁石10の外側面を磁気刺激用永久磁石方向への磁力線発生面13とし、磁気刺激用永久磁石20の上面を回転用永久磁石10方向への内面側磁力線発生面23とする。
【0014】
請求項5は、回転用永久磁石10を省略し、磁気刺激用永久磁石20が回転用永久磁石10を兼用する場合(
図7)
で、
磁力線Gが通過する底部34を有するケーシング30と、
前記ケーシング30に内蔵され、ロータとステータとで構成されたモータ1と、
前記ロータ側に配置され、前記モータ1の回転軸2と共に回転する磁気刺激用永久磁石20とで構成された磁気刺激装置Aにおいて、
前記磁気刺激用永久磁石20は、N極とS極とが交互に着磁され、N極から出た磁力線Gが前記ケーシング30の底部34を通過して該N極に隣接したS極に至るように構成され、
前記モータ1は、電磁石15が前記ステータ側に配置され、磁気刺激用永久磁石20が前記ロータ側に設けられたアウターモータタイプのブラシレスモータであって、
前記電磁石15に近接させて前記磁気刺激用永久磁石20が設けられ、
前記磁気刺激用永久磁石20から前記電磁石15に向けて、磁力線Gをガイドする磁力線導通部材5を前記磁気刺激用永久磁石20に設け、
前記磁力線導通部材5の、前記電磁石15に対向する面を前記電磁石に対する反発面12としたことを特徴とする。
【0015】
これによれば、回転用永久磁石10をなくし、磁力線導通部材5を介して磁気刺激用永久磁石20に回転用永久磁石10の役目を兼用させることが出来る。磁力線導通部材5の電磁石15に対向する面(反発面12)は電磁石15に反発する極性になる。
【0016】
請求項6は、回転用永久磁石10を省略し、磁気刺激用永久磁石20が回転用永久磁石10を兼用する他の場合(
図8)
で、
磁力線Gが通過する底部34を有するケーシング30と、
前記ケーシング30に内蔵され、ロータとステータとで構成されたモータ1と、
前記ロータ側に配置され、前記モータ1の回転軸2と共に回転する磁気刺激用永久磁石20とで構成された磁気刺激装置Aにおいて、
前記磁気刺激用永久磁石20は、N極とS極とが交互に着磁され、N極から出た磁力線Gが前記ケーシング30の底部34を通過して該N極に隣接したS極に至るように構成され、
前記モータ1
は、電磁石15が前記ステータ側に配置され、ロータ側に屈曲した磁気刺激用永久磁石20が配設されたアウターモータタイプのブラシレスモータであって、
前記磁気刺激用永久磁石20の一方の面がケーシング30の底部34側に向け、他方の面が前記電磁石15側に向けて配置され、前記磁気刺激用永久磁石20の他方の面が前記電磁石15に対する反発面としたことを特徴とする。
【0017】
これにより磁気刺激用永久磁石20に回転用永久磁石10の役目を兼用させることが出来る。或いは、回転用永久磁石10に磁気刺激用永久磁石20の役目を兼用させることが出来る。
【0018】
請求項7は、請求項1~請求項6のいずれかに記載の磁気刺激装置Aにおいて(
図2)、
前記ケーシング30は、その底部34の両側に、前記底部34より外方に突出した脇部分33を有することを特徴とする。
【0019】
この脇部分33の存在により、底部34を下にして磁気刺激装置Aを机の上に置いた場合、脇部分33が机に接触して机と底部34との間に隙間Tを設けることが出来る。これにより患部に接触する底部34が机に接触せず、底部34の清潔さを保つことが出来る。
机或いは机の上の載置面材が強磁性体の場合に、磁気刺激用永久磁石20により磁気刺激装置Aが磁着して離れなくなるのを防ぐことが出来る。
加えて、この磁気刺激装置Aを腕や足などの患部に装着した場合には、脇部分33が腕や足などの患部を両側から挟み込み、磁力線Gが透過する底部34を患部に正確に設置させることが出来、患部に正確に渦電流Uを発生させることが出来る。
【発明の効果】
【0020】
本磁気刺激装置は、ケーシング30の底部34を患部に接触させた状態でモータ1を作動させると、底部34の外側(即ち、患部)で磁気刺激用永久磁石20が回転するので、モータ1の回転と共に回転する渦電流Uが患部に発生し、患部の末梢神経に磁気刺激を間欠的に与えることができ、患部の痙縮軽減を図ることができる。
【0021】
しかも本磁気刺激装置は、従来装置のような電極を必要とせず、衣服の上からでも使用可能であるため、取り扱いが簡単であるだけでなく、回復期リハビリテーション病棟で要求される金銭的、時間的コストが極めて小さい。また、装置が小型であり皮膚に密着させる必要もないために、本磁気刺激装置使用中も安静や一定の肢位を保つ必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の磁気刺激装置の正面方向から見た斜視図である。
【
図3】本発明の磁気刺激装置の使用状態を示す斜視図である。
【
図4】本発明に用いられるモータの第1の実施形態(リング型)に係る平面図であ る。
【
図5】(a)
図4の縦断面図、(b)
図5(a)の変形例である。
【
図6】本発明に用いられるモータの第2の実施形態(扇形)に係る平面図である。
【
図7】本発明に用いられるモータの第3の実施形態に係る縦断面図である。
【
図8】本発明に用いられるモータの第4の実施形態に係る縦断面図である。
【
図10】本発明における2種類の磁気刺激用永久磁石の磁束密度変化波形を比較する図である。
【
図11】
図10に示すグラフの原点付近を拡大表示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図示実施例に従って詳述する。本発明に係る磁気刺激装置Aは、ケーシング30、モータ1及び磁気刺激用永久磁石20とで構成されている。本磁気刺激装置Aのケーシング30はいずれの実施例でも共通するが、内部のモータ1及び磁気刺激用永久磁石20の構造が異なるので、
図4及び
図5(a)の第1実施例に従って本磁気刺激装置Aの説明を行い、第2実施例以下については煩雑さを避けるため、同一部分については第1実施例の記載を援用し、第1実施例と異なる部分を中心に説明する。本磁気刺激装置Aの作用効果は全ての実施例で共通する。
【0024】
ケーシング30は、
図1~3に示すように手のひらサイズの部材で、上面から側面にかけて握りやすいドーム状に形成され、平面視では角が丸い正方形或いは長方形に形成されている。
ケーシング30は、ケーシング本体31と蓋部35とで形成され、内部にモータ1及び磁気刺激用永久磁石20が収納されている。ケーシング本体31の底部34は患部に沿いやすいように両脇部分33より凹んでいる。換言すれば、両脇部分33が底部34に対して隆起している。
この磁気刺激装置Aを腕や足などの患部に装着した場合、脇部分33が腕や足などの患部を両側から挟み込み、磁力線Gが透過する底部34を患部に正確に設置させることが出来、患部に正確に渦電流Uを発生させることが出来る。
【0025】
この両脇部分33は、平面状の強磁性体(例えば鉄製の机)の上に本磁気刺激装置Aを置いた際に、強い磁力線が発生する底部34と強磁性体(机)の間に十分な隙間Tを与え、本磁気刺激装置Aが強磁性体に吸着し離れなくなることを妨げる(
図5(a))。
また、底部34を下にして磁気刺激装置Aを机の上に置いた場合、脇部分33の存在により、患部に接触する底部34が机に接触せず、底部34の清潔さを保つことが出来る。
そして底部34の両脇部分33には、脇部分33の長手方向に本磁気刺激装置Aを患部に固定するベルト45を通すための長方形の孔36がそれぞれ形成されている。ケーシング30の材質は、磁力線Gの透過を妨げないような素材、例えば、樹脂が選ばれる。
【0026】
ケーシング本体31の内側において、その底部34から複数の支持柱40が立設され、支持柱40間に支持板42が張り渡されている。支持板42の中央には軸受け8が設けられ、この軸受け8を介してモータ1がその下面に取り付けられている。
【0027】
モータ1は、持ち運び可能な大きさおよび重量であれば、どのような形式のものでもよい。本発明ではアウターモータタイプのブラシレスモータをその代表例とするが、勿論、これに限定されることはなく、インナータイプのモータでもよい。
図4及び
図5(a)は、モータ1の第1実施例、
図5(b)はその変形例、
図6は第2実施例、
図7は第3実施例、
図8は第4実施例である。まず、第1実施例について説明した後、第2実施例以下を順次説明する。第2実施例以下では第1実施例と異なる部分を中心に説明する。
【0028】
(第1実施例)
モータ1はロータ及びステータとで構成されている。支持柱40で支持された支持板42の中央にモータ1の回転軸2が軸受け8にて回転可能に取り付けられている。この回転軸2の周囲にステータの構成部材である電磁石15が等角度で放射状に配置され、図示しない固定部材で支持板42の下面に固定されている。電磁石15の数は、図の実施例では3であるが、勿論これに限られず、奇数個の電磁石15が取り付けられる。
【0029】
電磁石15は、コア16とコア16の脚部17に巻設されたコイル19とで構成されている。コア16は強磁性体材料が用いられ、コイル19が巻設された脚部17と、脚部17から外周側に一体的に突設された頭部18とで構成されている。頭部18は脚部17の直径より大きく、回転軸2を中心とする円の円周方向に広がっている。その頭部18は平面視で三日月形で、そのロータ側の面18aは円弧状に形成されている。
【0030】
ロータは、回転軸2の下端に取り付けられた円板状のヨーク3と回転用永久磁石10とで構成されている。ヨーク3の上面外縁には、全周にわたってリング状の取付部3aが一体的に立設され、この取付部3aの内周面に回転用永久磁石10が取り付けられている。
ヨーク3及びリング状の取付部3aは例えば鉄や鉄合金のような強磁性体材料で形成されている。
この回転用永久磁石10は、
図4のように、全体が一つのリング状部材で構成してもよいし、
図6のように、複数(偶数)の磁石片11を取付部3aの内周面に等間隔で張り付けて取付部3aの内周面全面を覆うようにしてもよい。ここでは回転用永久磁石10を一つのリング状部材で構成した場合を代表例とし、複数の磁石片11で構成する場合については後述する。
回転用永久磁石10を一つのリング状部材で構成した場合、電磁石15のコア16の頭部18に面する内周面側に等間隔でN極とS極が交互に現れるように着磁されている。N極とS極の間の部分は磁力が互いに打ち消しあってフェードアウトし、N・S両極の中間部分では極性を示さない。そして回転用永久磁石10の背面側(取付部3aへの取付面)には、内面側に現れた極性の反対側の極性が現れる。この面を磁気刺激用永久磁石20方向への磁力線発生面13とする。
図の実施例では、N極が2箇所、S極が2箇所で一定の幅を持って90°間隔で交互に設けられている。極性を示す箇所は2か所ずつ計4か所に限られず、1か所ずつ計2か所でもよいし、3か所ずつ計6か所、更にはそれ以上(偶数箇所)でもよい。
【0031】
ヨーク3の下面には円板4が取り付けられており、円板4の下面外縁には全周にわたって磁気刺激用永久磁石20が取り付けられている。ヨーク3と円板4とは、強磁性体、例えば鉄や鉄合金が使用される。図の実施例では、ヨーク3の下面に円板4が取り付けられた例が示されているが、円板4を省略してヨーク3に直接磁気刺激用永久磁石20を取り付けてもよい。
【0032】
図4の磁気刺激用永久磁石20は、全体が一つのリング状部材で構成されている。勿論、複数の磁石片21で構成してもよい。この点は後で詳述する。即ち、第1実施例では回転用永久磁石10も磁気刺激用永久磁石20も共にリング状磁石で形成されている場合である。
磁気刺激用永久磁石20は、その下面(外部に向けて磁力線Gを放出する、又は外部から磁力線Gを引き込む外面側磁力線発生面24)にN極とS極が交互に現れるように着磁される。従って磁気刺激用永久磁石20の上面側(円板4への取付面で、内部に向けて磁力線Gを放出する、又は磁力線Gを引き込む内面側磁力線発生面23)には、下面(外面側磁力線発生面24)側に現れた極性の反対側の極性が現れる。そしてこの場合もN極とS極の間の部分は打ち消しあってフェードアウトし、前記中間部分では極性を示さない。図の実施例では、この場合も前述同様、N極が2箇所、S極が2箇所で一定の幅を持って90°間隔で交互に設けられている。極性を示す箇所は2ずつに限られず、1ずつでもよいし、3ずつ以上でもよい。
【0033】
回転用永久磁石10と磁気刺激用永久磁石20との位置関係について説明する。
図4に示すように平面視で両者の極性を示す部分(網掛け部分)を一致させる。そして回転用永久磁石10のステータ側の面12がS(N)極の場合、ロータ側の面(即ち、磁気刺激用永久磁石方向への磁力線発生面13)が逆のN(S)極となるので、磁気刺激用永久磁石20の上面(この面が円板4への取付面で、内面側磁力線発生面23となる)側が反対の磁極であるS(N)極となるように取り付け、互いに引き付け合うようにする。
回転用永久磁石10のステータ側の面12が、電磁石15のコア16の極性に反発してロータに回転力を付与する反発面となる。この面を反発面12とする。
そして、
図6から分かるように、この場合、磁気刺激用永久磁石20の上面(内面側磁力線発生面23)は水平方向で、回転用永久磁石10の磁力線発生面13が垂直で、直交し、両者間に空間が存在する。
これにより回転用永久磁石10のロータ側の面(磁力線発生面13)がN極の場合、このN極から出た磁力線Gは上記空間を通り、磁気刺激用永久磁石20の上面(内面側磁力線発生面23)のS極に流れ、逆にロータ側の面(磁力線発生面13)がS極の場合、磁気刺激用永久磁石20の上面(内面側磁力線発生面23)はN極になるので、このN極から出た磁力線GはS極に流れ、互いに磁気力を強める方向に働く。
図5(a)では、90°の角度を以って配置されたN極からS極に流れる磁力線Gを破線で示す。
【0034】
次に、本発明の磁気刺激装置Aの作用について説明する。
図3に示すように、痙縮を発生している患部の上に本磁気刺激装置Aの底部34が接するように配置し、患部が腕や足である場合、ベルト45で固定する。ケーシング本体31の底部34は上記のように患部に沿いやすいように底部34が両脇部分33より凹んでいる。従って、この磁気刺激装置Aを腕や足などの患部に装着した場合、脇部分33が腕や足などの患部を両側から挟み込み、磁力線Gが透過する底部34を患部に正確に設置させることが出来、患部に正確に渦電流Uを発生させることが出来る。
【0035】
この状態でモータ1に交流電流を流すと、ロータが磁気刺激用永久磁石20と共に回転する。そしてケーシング30の底部34の外側において所定の表面磁束密度を有し、交互にN極とS極の極性を有する磁気刺激用永久磁石20が患部上で回転するので(換言すれば、交番磁界が生成されるので)、これに抗する方向の渦電流Uが患部の皮膚から内部にかけて発生する。生起する渦電流Uの深さは磁気刺激用永久磁石20の磁気力の強さによる。そしてこの渦電流Uは患部の皮膚表面から深部の末梢神経を間欠的に刺激し痙縮の緩和に働く。
【0036】
図9(a)(b)は2箇所ずつN極・S極を交互に着磁された磁気刺激用永久磁石20を患部上で回転軸2を中心に回転させた場合の渦電流Uの発生状態を示す模式図である。 回転軸2を中心とする破線矢印が、磁気刺激用永久磁石20の回転方向を示す。
磁気刺激用永久磁石20に起因する渦電流Uは、回転する磁気刺激用永久磁石20のN極とS極の間で発生する。この渦電流Uは、N極とS極の直下で、N極とS極に対応する患部の間で合流する。この合流部分をPで表す。前記合流部分Pを通過する渦電流Uは同じ方向に流れて強め合う。即ち、この合流部分Pの渦電流密度が高くなる。この合流部分Pは、モータ1の回転と共に回転する磁気刺激用永久磁石20に従って患部を回転する。
患部を回転する渦電流Uの合流部分Pは、患部の末梢神経を間欠的に強弱と刺激することになり、これが痙縮の緩和に働く。
【0037】
そして、磁気刺激治療が終了すると、患部から磁気刺激装置Aを取り外し、例えば机の上に置く。机が例えば鉄(強磁性体)製の場合、磁気刺激用永久磁石20が机に吸着しようとする。
このケーシング30の両脇部分33は、本磁気刺激装置Aを机上に置いた際に、強い磁力線Gが透過する底部34と机の間に十分な隙間Tを与え、本磁気刺激装置Aが机に吸着し離れなくなることを妨げる。
また、底部34を下にして磁気刺激装置Aを机の上に置いた場合、脇部分33の存在により、患部に接触する底部34が机に接触せず、底部34の清潔さを保つことが出来る。
【0038】
(第2実施例)
図6は本発明に用いられるモータ1の第2実施例で、回転用永久磁石10と磁気刺激用永久磁石20とが複数の磁石片11・21で構成されている例である。図の回転用永久磁石10はリングを等しい大きさで4分割した例である。勿論、分割数は4に限定されず、偶数個に分割される。この場合、回転用永久磁石10の磁石片11の内面全面がN(S)極に、外面全面がS(N)極に交互に着磁される。そして各磁石片11の側辺11sが近接するように配置される。
【0039】
磁気刺激用永久磁石20の磁石片21は、
図6に示すように扇状に形成され、その上面(内面側磁力線発生面23)全面がN(S)極に、下面(外面側磁力線発生面24)全面がS(N)極に交互に着磁される。そして各磁石片21の側辺22が近接するように配置される。換言すれば、回転軸2を中心として等角度で放射状に引かれた直線上に各磁石片21の側辺22が存在することになる。そしてこの放射状の直線に上記回転用永久磁石10の磁石片11の側辺11sも一致するように配置される。
【0040】
この第2実施例のモータ1を回転させると、側辺22の隙間が狭く患部の1点における交番磁界の変化が急峻なため(即ち、N極からS極又はS極からN極への切り替わりが急峻に行われるため)、第1実施例(リング状磁石)の場合に比べてより強い渦電流Uを上記患部の1点に発生させることができる。渦電流Uの発現状態や動きは第1実施例と同じである。なお、上記患部の1点は磁気刺激用永久磁石20の回転移動面に無数に連なって存在するため、磁気刺激用永久磁石20の回転により、既述の合流部分Pによって次々と間欠的に強く刺激されることになる。
【0041】
上記では回転用永久磁石10及び磁気刺激用永久磁石20はともに分割された磁石片11・21を用いる場合を示したが、一方をリング状とし他方を磁石片として用いることも可能である。この場合も両者の磁極は磁気刺激用永久磁石20の磁気力を強めるために上記のように一致させて用いることになる。
【0042】
なお、
図10は磁気刺激用永久磁石20がリング状の場合と、分割された4個の扇形の場合に、磁気刺激用永久磁石20を50Hzにて回転させた際の底部34表面における磁束密度変化を表す波形のグラフで、リング状永久磁石の場合の磁束密度変化率が381T/秒であり、扇形磁石片の場合は474T/秒であった。扇形磁石片の場合は、リング状の場合に比べて磁束密度変化率が25%程度上昇した。これは、分割した磁石片を並べた方が磁束密度変化がリング状の永久磁石より急峻になるためである。その結果、患部に発生する渦電流は、分割した磁石片を用いた方が強くなる。
図11は
図10の破線四角升で示す“0点”付近の拡大図で扇形磁石片の方が、リング状の場合に比べて磁束変化波形が急峻であり、より強い渦電流Uを得られる。
【0043】
(第3実施例)
図7はモータ1の第3実施例で、電磁石15が前記ステータ側に配置され、磁気刺激用永久磁石20が前記ロータ側に設けられている。電磁石15の外周に、電磁石15の頭部18のロータ側の面18aに対して磁気刺激用永久磁石20の上面(内面側磁力線発生面23)が90°の角度を以って接近して配置されている。
【0044】
そして、磁気刺激用永久磁石20上面(内面側磁力線発生面23)から電磁石15の頭部18のロータ側の面18aに向けて、磁力線Gをガイドする磁力線導通部材5が磁気刺激用永久磁石20の上面(内面側磁力線発生面23)に設置されている。この磁力線導通部材5の、前記頭部18のロータ側の面18aに対向する面が反発面12となり、ロータ側の面18aに対して僅かな隙間を以って配置されている。
磁力線導通部材5は、磁気刺激用永久磁石20がリング状の場合、リング状に形成され、その下面がヨーク3と磁気刺激用永久磁石20の上面(内面側磁力線発生面23)に取り付けられる。
これに対して、磁気刺激用永久磁石20が第2実施例のように、磁石片21で構成される場合は、これらに合わせた同じ幅の導通部材片として形成される。この場合も、図は磁気刺激用永久磁石20を4分割した例である。勿論、分割数は4に限定されることはない。
90°の角度を以って配置された磁力線導通部材5には、磁気刺激用永久磁石20の磁力線Gが流れ、反発面12には磁気刺激用永久磁石20の下面(外面側磁力線発生面24)と反対の極性が現れる。第3実施例は、回転用永久磁石10の代わりを磁気刺激用永久磁石20によって励磁された磁力線導通部材5が行う事になる以外、その作用その他は第1実施例と同じである。
【0045】
(第4実施例)
図8はモータ1の第4実施例で、磁力線導通部材5をなくし、且つ回転用永久磁石10と磁気刺激用永久磁石20とを一体化し、磁気刺激用永久磁石20に回転用永久磁石10の役目も兼務させたものである。この一体化した磁気刺激用永久磁石20は、リング状に形成され、その縦断面は逆J字に形成されている。この一体化した磁気刺激用永久磁石20の、電磁石15の頭部18のロータ側の面18aに面する垂直面が反発面12であり、回転用永久磁石として働く。一体化した磁気刺激用永久磁石20は上記のようにリング状であってもよいし、分割された磁石片として用いられてもよい。着磁された磁極の状態や作用は上記実施例と同じである。
【符号の説明】
【0046】
A:磁気刺激装置、G:磁力線、P:合流部分、T:隙間、U:渦電流、1:モータ、2:回転軸、3:ヨーク、3a:取付部、4:円板、5:磁力線導通部材、8:軸受け、10:回転用永久磁石、11磁石片、11s:側辺、12:ステータ側の面(反発面)、13:(磁気刺激用永久磁石方向への)磁力線発生面、15:電磁石、16:コア、17:脚部、18:頭部、18a:頭部のロータ側の面、19:コイル、20:磁気刺激用永久磁石、21:磁石片、22:磁石片の側辺、23:(内面側)磁力線発生面、24:(外面側)磁力線発生面、30:ケーシング、31:ケーシング本体、33:脇部分、34:底部、35:蓋部、36:長方形の孔、40:支持柱、42:支持板、45:ベルト