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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】湿式固形化粧料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20220825BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20220825BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
A61K8/02
A61Q1/02
A61Q1/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020160361
(22)【出願日】2020-09-25
(62)【分割の表示】P 2019122638の分割
【原出願日】2014-12-17
(65)【公開番号】P2020203949
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2020-10-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000158781
【氏名又は名称】紀伊産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167900
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 仁
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩之
(72)【発明者】
【氏名】川口 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】青木 実緒
(72)【発明者】
【氏名】須佐 貴之
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-172918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数色のスラリー状の化粧料を容器内に充填し、前記容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって湿式固形化粧料を製造する湿式固形化粧料の製造方法であって、
まず、前記容器の底面の一部に第1化粧料を充填する第1化粧料充填ステップと、
次に、前記容器に前記第1化粧料とは異なる色の異色化粧料を充填することによって、前記容器の底面の全部に化粧料を充填する異色化粧料充填ステップと、
その後、前記容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型する打型ステップとを備え、
前記異色化粧料と比較して前記容器内における面積の割合の小さい前記第1化粧料のスラリー硬度は、前記異色化粧料のスラリー硬度よりも高くなるように設定され
前記第1化粧料は、使用に際して前記異色化粧料よりも取れにくくなることを特徴とする湿式固形化粧料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された湿式固形化粧料の製造方法において、
前記第1化粧料のスラリー硬度は、前記異色化粧料のスラリー硬度よりも高く、前記打型ステップにて前記容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって、前記第1化粧料は、前記湿式固形化粧料の表面に露出することを特徴とする湿式固形化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式固形化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数色のスラリー状の化粧料を容器内に充填し、容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって湿式固形化粧料を製造する多色湿式固形化粧料の製造方法が知られている。
例えば、特許文献1に記載された多色湿式化粧料の製造方法は、化粧皿(容器)内を仕切り板にて仕切り、この仕切り板にて仕切られた各空間に対して複数色のスラリー状の化粧料をそれぞれ充填し、容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって湿式固形化粧料を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-065847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された多色湿式化粧料の製造方法は、多色湿式化粧料の色境界を明確にすることができるものの、湿式固形化粧料の表面に形成する模様に応じた形状の仕切り板を予め用意しなければならず、模様のデザインの変化に柔軟に対応することができないという問題がある。また、特許文献1に記載された多色湿式化粧料の製造方法は、各色の化粧料を仕切り板にて仕切ることによって、多色湿式化粧料の表面に模様を形成しているので、機械的な模様になってしまうという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、模様のデザインの変化に柔軟に対応することができ、温かみのある模様を形成することができる湿式固形化粧料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の湿式固形化粧料の製造方法は、第1の製造方法以外にも以下の製造方法を開示する。つまり、複数色のスラリー状の化粧料を容器内に充填し、容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって湿式固形化粧料を製造する湿式固形化粧料の製造方法であって、まず、容器の底面の一部に第1化粧料を充填する第1化粧料充填ステップと、次に、容器に第1化粧料とは異なる色の異色化粧料を充填することによって、容器の底面の全部に化粧料を充填する異色化粧料充填ステップと、その後、容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型する打型ステップとを備え、異色化粧料と比較して容器内における面積の割合の小さい第1化粧料のスラリー硬度は、異色化粧料のスラリー硬度よりも高くなるように設定され、第1化粧料は、使用に際して異色化粧料よりも取れにくくなることを特徴とする(第2の製造方法)。
【0009】
このような構成によれば、湿式固形化粧料の製造方法は、容器の底面の一部に第1化粧料を充填した後、容器に第1化粧料とは異なる色の異色化粧料を充填することによって、容器の底面の全部に化粧料を充填するので、容器内を仕切り板にて仕切ることなく、湿式固形化粧料の模様を形成することができる。したがって、本発明の湿式固形化粧料の製造方法は、模様のデザインの変化に柔軟に対応することができ、温かみのある模様を形成することができる。
また、第1化粧料は、使用に際して異色化粧料よりも若干取れにくくなるので、第1化粧料および異色化粧料を混ぜて使用する場合において、第1化粧料の色合いは薄く表現される。このことから例えば、異色化粧料が第1化粧料に比べて面積的に広く占有する様に充填されている場合であっても、使用者は、広く充填されている異色化粧料の方が取れやすくなっているため湿式固形化粧料を違和感なく使用することができる。また、第1化粧料がワンポイント的な模様となり、異色化粧料に比べて色調差が大きい場合であっても、第1化粧料の方が薄く表現されるため、やはり湿式固形化粧料を違和感なく使用することができる。
【0010】
なお、本発明では、第1化粧料は、容器に充填するスラリー状の化粧料のうち、最初に充填する化粧料をいうものとし、異色化粧料は、第1化粧料に対する面積比や、その形状に関わらず、第1化粧料とは異なる色のスラリー状の化粧料であって、第1化粧料の充填後に充填する化粧料をいうものとする。ここで、異色化粧料は、一色であってもよく、複数色であってもよい。
【0020】
本発明の第2の製造方法では、第1化粧料のスラリー硬度は、異色化粧料のスラリー硬度よりも高く、打型ステップにて容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって、第1化粧料は、湿式固形化粧料の表面に露出することが好ましい。
【0021】
このような構成によれば、容器内に充填された化粧料にプレス処理を施して打型することによって、第1化粧料は、湿式固形化粧料の表面に露出するので、湿式固形化粧料は、湿式固形化粧料の表面から裏面にわたって模様を形成することができる。
【0022】
また、スラリー硬度の高い第1化粧料は、使用に際して異色化粧料よりも若干取れにくくなる。これによれば、第1化粧料および異色化粧料を混ぜて使用する場合において、第1化粧料の色合いは薄く表現される。この事から例えば、第1化粧料が異色化粧料に比べて面積的に狭く部分的に充填されている場合であっても、使用者は、広く充填されている異色化粧料の方が取れ易くなっているため湿式固形化粧料を違和感なく使用する事ができる。また、第1化粧料がワンポイント的な模様となり、異色化粧料に比べて色調差が大きい場合であっても、第1化粧料の方が薄く表現されるため、やはり湿式固形化粧料を違和感なく使用する事ができる。このように、湿式固形化粧料は、第1化粧料および異色化粧料の色合い、面積の割合、およびスラリー硬度などを様々に組み合わせて湿式固形化粧料の模様や塗布色を調整することができるので、設計自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の製造方法に係る湿式固形化粧料の外観を示す図
図2】化粧料のスラリー硬度を測定する手順を示す図
図3】第1の製造方法に係る第1化粧料を化粧皿内に充填している状態を示す図
図4】第1の製造方法に係る異色化粧料を化粧皿内に充填している状態を示す図
図5】第1の製造方法に係る化粧皿内に充填された化粧料にプレス処理を施している状態を示す図
図6】第1の製造方法に係る湿式固形化粧料の表面から裏面にわたって模様が形成される場合の第1化粧料C11のスラリー硬度と、異色化粧料C12のスラリー硬度との関係を示すグラフ
図7】第1の製造方法に係る異色化粧料のスラリー硬度を第1化粧料のスラリー硬度と同じに設定した例を示す図
図8】第1の製造方法に係る異色化粧料のスラリー硬度を第1化粧料のスラリー硬度よりも低く設定した例を示す図
図9】本発明の第2の製造方法に係る湿式固形化粧料の外観を示す図
図10】第2の製造方法に係る第1化粧料を化粧皿内に充填している状態を示す図
図11】第2の製造方法に係る異色化粧料を化粧皿内に充填している状態を示す図
図12】第2の製造方法に係る化粧皿内に充填された化粧料にプレス処理を施している状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1の製造方法〕
以下、本発明の第1の製造方法を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の製造方法に係る湿式固形化粧料の外観を示す図である。具体的には、図1の上図は、湿式固形化粧料1を上面側から見た図であり、下図は、湿式固形化粧料1を紙面横方向に切断した断面(A-A)を示す図である。
【0025】
湿式固形化粧料1は、図1に示すように、第1化粧料C11と、この第1化粧料C11とは異なる色の異色化粧料C12と、第1化粧料C11および異色化粧料C12を収容する容器としての化粧皿2とを備えている。化粧皿2は、底面略矩形状に形成されている。この湿式固形化粧料1は、互いに異なる複数色の化粧料C11,C12を用いて表面に色模様を形成している。
なお、本製造方法では、湿式固形化粧料1は、2色の化粧料C11,C12を用いて表面に色模様を形成しているが、3色以上の複数色の化粧料を用いて表面に色模様を形成してもよい。
【0026】
ここで、スラリー状の化粧料C11,C12は、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウなどの化粧料基材と、エタノール、水、流動パラフィン、イソパラフィン、イソプロピルアルコールなどの揮発性溶媒とを混合した流動物である。
また、異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度よりも高く設定されている。換言すれば、異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度と異なるように設定されている。
【0027】
以下の表1は、第1化粧料C11の処方例を示す表である。第1化粧料C11は、表1に示す成分の化粧料基材を常法により調製した後に所望のスラリー硬度となるまで水添ポリイソブテン(揮発性溶媒、IPソルベント1620MU(出光興産社製))を添加することによって調製する。なお、第1化粧料C11のスラリー硬度については後に詳述する。
【0028】
【表1】
【0029】
以下の表2は、異色化粧料C12の処方例を示す表である。異色化粧料C12は、表2に示す成分の化粧料基材を常法により調製した後に所望のスラリー硬度となるまで水添ポリイソブテン(揮発性溶媒、IPソルベント1620MU(出光興産社製))を添加することによって調製する。なお、異色化粧料C12のスラリー硬度については後に詳述する。
【0030】
【表2】
【0031】
図2は、化粧料C11,C12のスラリー硬度を測定する手順を示す図である。
化粧料C11,C12のスラリー硬度を粘度計(COMPAC-100II、サン科学社製)にて測定する場合には、作業者は、図2(A)に示すように、所定の試験用容器10(50mLビーカー)に50mLの第1化粧料C11または異色化粧料C12を充填する。そして、作業者は、図2(B)に示すように、この試験用容器10に充填された第1化粧料C11または異色化粧料C12に円盤11を軸方向に沿って挿入することによって(図中矢印参照)、化粧料C11,C12のスラリー硬度(針入硬度)を測定することができる。
なお、図2は、第1化粧料C11のスラリー硬度を粘度計にて測定している状態を示す図である。
【0032】
本製造方法では、周囲温度を25℃とし、円盤11の直径を15mmとし、第1化粧料C11の表面から円盤11を挿入する深さを15mmとし、円盤11の挿入速度を400mm/minとした場合に、第1化粧料C11のスラリー硬度(X1)は、0.5N≦X1≦1.5Nに設定されている。そして、異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)は、Y1≧2.2X11.5となるように設定されている。
【0033】
この湿式固形化粧料1は、互いにスラリー硬度の異なる複数色のスラリー状の化粧料C11,C12を化粧皿2内に充填し、化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型するとともに、化粧料C11,C12中の揮発性溶媒を吸引して除去することによって製造される。
以下、湿式固形化粧料1の製造方法(第1の製造方法)について順に説明する。なお、この湿式固形化粧料1の製造方法は、全ての工程を製造装置にて実施してもよく、各工程に作業者の手作業を介在させて実施してもよい。
【0034】
図3は、第1の製造方法に係る第1化粧料C11を化粧皿2内に充填している状態を示す図である。
湿式固形化粧料1を製造するには、まず、図3(A)に示すように、保持体3に設けられたスペース31内に化粧皿2がセットされる。この保持体3は、一連の作業工程において化粧皿2を保持するために用いられる硬質な部材である。
なお、スペース31の高さは化粧皿2の高さよりも高い。また、スペース31の形状および大きさは、化粧皿2のそれと対応している。ここで、スペース31内に化粧皿2をセットした状態において、保持体3の上面32は、化粧皿2の上端21よりも高い位置に存在している。これによって、後の工程において化粧皿2内に化粧料C11,C12を充填したときに、化粧料C11,C12を化粧皿2の外に溢れさせないようにすることができる。
【0035】
次に、充填装置4は、図3(B)に示すように、第1化粧料C11を吐出することによって、充填ノズル41を介して化粧皿2内に第1化粧料C11を充填する(第1化粧料充填ステップ)。
具体的には、充填装置4は、充填ノズル41を移動させながら(図3(B)左右方向矢印参照)化粧皿2の底面の全部に第1化粧料C11を充填する(図3(C)参照)。
【0036】
図4は、第1の製造方法に係る異色化粧料C12を化粧皿2内に充填している状態を示す図である。
充填装置4は、図4(A)に示すように、異色化粧料C12を吐出することによって、充填ノズル42を介して化粧皿2内に異色化粧料C12を充填する(異色化粧料充填ステップ)。
具体的には、充填装置4は、充填ノズル42を化粧皿2の模様形成部位に位置決めし、化粧皿2の一部に第1化粧料C11とは異なる色の異色化粧料C12を所定の模様(図1参照)の形状となるように充填する(図4(B)参照)。
なお、充填装置4は、化粧皿2の一部に第1化粧料C11とは異なる色の異色化粧料C12を充填した後、化粧皿2に振動を加えること等によって、化粧皿2の底まで異色化粧料C12を落とすようにしてもよい。
【0037】
図5は、第1の製造方法に係る化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施している状態を示す図である。
異色化粧料充填ステップにて湿式固形化粧料1の模様を形成した後、図5(A)に示すように、プレス装置(図示略)に設けられたプレスヘッド5のプレス位置に化粧皿2および保持体3が配置される。このプレスヘッド5は、化粧料C11,C12中に含まれる揮発性溶媒を吸引して除去するために上下方向に沿って貫通するようにして形成された複数の微小な吸引孔51を有している。また、プレスヘッド5のプレス面(下面)の形状および大きさは、保持体3のスペース31の開口のそれと対応している。なお、化粧皿2と、プレスヘッド5との間には、吸収性の高い紙や不織布等の吸収シート6が介在して配置されている。
【0038】
そして、プレス装置は、図5(B)に示すように、プレスヘッド5を下降させることによって(図中下向矢印)、化粧皿2に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型する(打型ステップ)。ここで、前述したように、第1化粧料C11のスラリー硬度(X1)は、0.5N≦X1≦1.5Nに設定され、異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)は、Y1≧2.2X11.5となるように設定されている。これによれば、異色化粧料C12は、第1化粧料C11を押し退けるようにして化粧皿2の底面に到達するので、湿式固形化粧料1は、湿式固形化粧料1の表面から裏面にわたって確実に模様を形成することができる。また、化粧料C11,C12中に含まれる揮発性溶媒は、吸収シート6に吸収されるとともに、プレスヘッド5の吸引孔51を介してプレス装置の外部に設けられたチャンバ(図示略)に吸引されて除去される。
なお、化粧料C11,C12中に含まれる揮発性溶媒は、吸収シート6のみに吸収させるようにしてもよい。
【0039】
次に、プレス装置は、図5(C)に示すように、プレスヘッド5を上昇させることによって(図中上向矢印)、プレス処理を終了する。
そして、湿式固形化粧料1は、揮発性溶媒に適合した乾燥条件に基づいて、乾燥させた後、スペース31にセットされた化粧皿2を保持体3から取り外すことによって、製造することができる。
【0040】
なお、第1化粧料C11のスラリー硬度は、化粧皿2の底面積に対して第1化粧料C11の面積の占める割合を大きくするほど高く設定することが好ましい。これによれば、プレス処理を施すことによって、第1化粧料C11に異色化粧料C12が沈み込みすぎるのを抑制することができる。
【0041】
以下の表3は、第1の製造方法に係る化粧料C11,C12のスラリー硬度と、湿式固形化粧料1の表面から裏面にわたって形成された模様との関係を示す表である。具体的には、表3は、縦方向を第1化粧料C11のスラリー硬度(0.5N,0.7N,0.9N,1.2N,1.5N)とし、横方向を異色化粧料C12のスラリー硬度(0.6N,0.7N,1.1N,1.7N,2.5N,4.0N)として、湿式固形化粧料1の表面から裏面にわたって形成された模様との関係を示す表である。なお、表3では、化粧皿2の深さを3.5mmとし、充填ノズル41,42の内径を4.0mmに設定している。
【0042】
【表3】
【0043】
湿式固形化粧料1の表面から裏面にわたって形成された模様の評価は、表3に示すように、化粧皿2の底面に異色化粧料C12が到達した場合を「○」とし、化粧皿2の底面に異色化粧料C12が到達していない場合を「×」としている。なお、表3の空欄は、その条件においては評価を行っていないことを示している。これは、異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)を高くすればするほど化粧皿2の底面に異色化粧料C12は到達しやすくなるからである。
【0044】
図6は、第1の製造方法に係る湿式固形化粧料1の表面から裏面にわたって模様が形成される場合(表3にて「○」と評価した場合)の第1化粧料C11のスラリー硬度と、異色化粧料C12のスラリー硬度との関係を示すグラフである。具体的には、第1化粧料C11のスラリー硬度(X1)を横軸とし、異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)を縦軸とし、化粧皿2の底面に異色化粧料C12が到達した場合(表3にて「○」と評価した場合)の異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)を◇印でプロットしたグラフである。
化粧皿2の底面に異色化粧料C12が到達する条件を数式化するために、累乗近似にて化粧料C11,C12のスラリー硬度の関係の近似式を求めると、図6に示すように、Y=1.9981X1.5669(近似式1)となる。
【0045】
ここで、前述したように、異色化粧料C12のスラリー硬度を高くすればするほど化粧皿2の底面に異色化粧料C12は到達しやすくなるので、化粧皿2の底面に異色化粧料C12が到達した場合(表3にて「○」と評価した場合)の異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)を上回るように近似式1を調整する。具体的には、近似式1の乗数を小数点以下第2位で切り捨てて1.5とするとともに、近似式1の係数を調整することによって、Y=2.2X1.5(近似式2)を得た。これによれば、近似式2にて算出される化粧料2のスラリー硬度(Y´)は、□印でプロットしたように、化粧皿2の底面に異色化粧料C12が到達した場合(表3にて「○」と評価した場合)の異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)を全て上回るようになっている。
したがって、本製造方法では、第1化粧料のスラリー硬度(Y1)は、Y≧2.2X1.5となるように設定されているので、打型ステップにて化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型することによって、異色化粧料C12は、化粧皿2の底面に確実に到達する。
【0046】
このような本製造方法によれば、以下の作用・効果を奏することができる。
(1)湿式固形化粧料1の製造方法(第1の製造方法)は、化粧皿2の底面の全部に第1化粧料C11を充填した後、化粧皿2の一部に第1化粧料C11とは異なる色の異色化粧料C12を充填するので、化粧皿2内を仕切り板にて仕切ることなく、湿式固形化粧料1の模様を形成することができる。したがって、湿式固形化粧料1の製造方法は、模様のデザインの変化に柔軟に対応することができ、温かみのある模様を形成することができる。
【0047】
(2)異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度と異なるように設定されているので、湿式固形化粧料1は、第1化粧料C11および異色化粧料C12の色合い、面積の割合、およびスラリー硬度などを様々に組み合わせて湿式固形化粧料1の模様や塗布色を調整することができ、設計自由度を向上させることができる。
(3)異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度よりも高く、打型ステップにて化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型することによって、異色化粧料C12は、化粧皿2の底面に到達するので、湿式固形化粧料1は、湿式固形化粧料1の表面から裏面にわたって模様を形成することができる。
【0048】
(4)第1化粧料C11のスラリー硬度(X1)は、0.5N≦X1≦1.5Nに設定され、異色化粧料C12のスラリー硬度(Y1)は、Y1≧2.2X11.5となるように設定されているので、スラリー硬度の高い異色化粧料C12は、使用に際して第1化粧料C11よりも若干取れにくくなる。これによれば、第1化粧料C11および異色化粧料C12を混ぜて使用する場合において、異色化粧料C12の色合いは薄く表現される。この事から例えば、第1化粧料C11が異色化粧料C12に比べて面積的に広く占有する様に充填されている場合であっても、使用者は、広く充填されている第1化粧料C11の方が取れやすくなっているため湿式固形化粧料1を違和感なく使用する事ができる。また、異色化粧料C12がワンポイント的な模様となり、第1化粧料C11に比べて色調差が大きい場合であっても、異色化粧料C12の方が薄く表現されるため、やはり湿式固形化粧料1を違和感なく使用する事ができる。このように、湿式固形化粧料1は、第1化粧料C11および異色化粧料C12の色合い、面積の割合、およびスラリー硬度などを様々に組み合わせて湿式固形化粧料1の模様や塗布色を調整することができるので、設計自由度を向上させることができる。
【0049】
なお、本発明は、本製造方法に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本製造方法では、異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度よりも高く設定されていたが、異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度よりも高く設定されていなくてもよい。具体的には、異色化粧料C12のスラリー硬度は、第1化粧料C11のスラリー硬度と同じであってもよく、第1化粧料C11のスラリー硬度よりも低くてもよい。
【0050】
図7は、第1の製造方法に係る異色化粧料C12のスラリー硬度を第1化粧料C11のスラリー硬度と同じに設定した例を示す図である。具体的には、図7は、化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施している状態を示す図である。
本製造方法と同様に異色化粧料充填ステップにて湿式固形化粧料1の模様を形成した後、図7(A)に示すように、プレス装置(図示略)に設けられたプレスヘッド5のプレス位置に化粧皿2および保持体3が配置される。
【0051】
そして、プレス装置は、図7(B)に示すように、プレスヘッド5を下降させることによって(図中下向矢印)、化粧皿2に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型する。
次に、プレス装置は、図7(C)に示すように、プレスヘッド5を上昇させることによって(図中上向矢印)、プレス処理を終了する。
【0052】
このように、異色化粧料C12のスラリー硬度を第1化粧料C11のスラリー硬度と同じに設定した場合には、化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型するときに、異色化粧料C12は、第1化粧料C11を十分に押し退けることはできないので、湿式固形化粧料1は、湿式固形化粧料1の表面から中程にわたって模様を形成することができる。
【0053】
図8は、第1の製造方法に係る異色化粧料C12のスラリー硬度を第1化粧料C11のスラリー硬度よりも低く設定した例を示す図である。具体的には、図8は、化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施している状態を示す図である。
本製造方法と同様に異色化粧料充填ステップにて湿式固形化粧料1の模様を形成した後、図8(A)に示すように、プレス装置(図示略)に設けられたプレスヘッド5のプレス位置に化粧皿2および保持体3が配置される。
【0054】
そして、プレス装置は、図8(B)に示すように、プレスヘッド5を下降させることによって(図中下向矢印)、化粧皿2に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型する。
次に、プレス装置は、図8(C)に示すように、プレスヘッド5を上昇させることによって(図中上向矢印)、プレス処理を終了する。
【0055】
このように、異色化粧料C12のスラリー硬度を第1化粧料C11のスラリー硬度よりも低く設定した場合には、化粧皿2内に充填された化粧料C11,C12にプレス処理を施して打型するときに、異色化粧料C12は、第1化粧料C11を押し退けることはできないので、湿式固形化粧料1は、湿式固形化粧料1の表面に広がるようにして模様を形成することができる。
【0056】
〔第2の製造方法〕
以下、本発明の第2の製造方法を図面に基づいて説明する。
図9は、本発明の第2の製造方法に係る湿式固形化粧料の外観を示す図である。具体的には、図9の上図は、湿式固形化粧料1Aを上面側から見た図であり、下図は、湿式固形化粧料1Aを紙面横方向に切断した断面(B-B)を示す図である。
【0057】
湿式固形化粧料1Aは、図9に示すように、第1化粧料C22と、この第1化粧料C22とは異なる色の異色化粧料C21と、異色化粧料C21および第1化粧料C22を収容する容器としての化粧皿2とを備えている。化粧皿2は、底面略矩形状に形成されている。この湿式固形化粧料1Aは、互いに異なる複数色の化粧料C21,C22を用いて表面に色模様を形成している。
なお、本製造方法では、湿式固形化粧料1Aは、2色の化粧料C21,C22を用いて表面に色模様を形成しているが、3色以上の複数色の化粧料を用いて表面に色模様を形成してもよい。
【0058】
ここで、スラリー状の化粧料C21,C22は、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウなどの化粧料基材と、エタノール、水、流動パラフィン、イソパラフィン、イソプロピルアルコールなどの揮発性溶媒とを混合した流動物である。
また、第1化粧料C22のスラリー硬度は、異色化粧料C21のスラリー硬度よりも高く設定されている。換言すれば、第1化粧料C22のスラリー硬度は、異色化粧料C21のスラリー硬度と異なるように設定されている。
なお、異色化粧料C21の処方例は、前述した第1の製造方法における第1化粧料C11と同様であり、第1化粧料C22の処方例は、前述した第1の製造方法における異色化粧料C12と同様である。
【0059】
この湿式固形化粧料1Aは、互いにスラリー硬度の異なる複数色のスラリー状の化粧料C21,C22を化粧皿2内に充填し、化粧皿2内に充填された化粧料C21,C22にプレス処理を施して打型するとともに、化粧料C21,C22中の揮発性溶媒を吸引して除去することによって製造される。
以下、湿式固形化粧料1Aの製造方法(第2の製造方法)について順に説明する。
【0060】
図10は、第2の製造方法に係る第1化粧料C22を化粧皿2内に充填している状態を示す図である。
湿式固形化粧料1Aを製造するには、まず、図10(A)に示すように、保持体3に設けられたスペース31内に化粧皿2がセットされる。
次に、充填装置4は、図10(B)に示すように、第1化粧料C22を吐出することによって、充填ノズル42を介して化粧皿2内に第1化粧料C22を充填する(第1化粧料充填ステップ)。
具体的には、充填装置4は、充填ノズル42を化粧皿2の模様形成部位に位置決めし、化粧皿2の底面の一部に第1化粧料C22を所定の模様(図9参照)の形状となるように充填する(図10(C)参照)。
【0061】
図11は、第2の製造方法に係る異色化粧料C21を化粧皿2内に充填している状態を示す図である。
充填装置4は、図11(A)に示すように、異色化粧料C21を吐出することによって、充填ノズル41を介して化粧皿2内に異色化粧料C21を充填する(異色化粧料充填ステップ)。
具体的には、充填装置4は、充填ノズル41を移動させながら(図11(A)左右方向矢印参照)第1化粧料C22とは異なる色の異色化粧料C21を充填することによって、化粧皿2の底面の全部に化粧料C21,C22を充填する(図11(B)参照)。なお、異色化粧料C21は、図11(A)に示すように、第1化粧料C22にかかるようにして充填してもよく、これとは逆に第1化粧料C22にかからないようにして充填してもよい。要するに、異色化粧料充填ステップは、異色化粧料C21を充填することによって、化粧皿2の底面の全部に化粧料C21,C22を充填することができればよい。
【0062】
図12は、第2の製造方法に係る化粧皿2内に充填された化粧料C21,C22にプレス処理を施している状態を示す図である。
異色化粧料充填ステップにて異色化粧料C21を充填した後、図12(A)に示すように、プレス装置(図示略)に設けられたプレスヘッド5のプレス位置に化粧皿2および保持体3を配置する。このプレスヘッド5は、化粧料C21,C22中に含まれる揮発性溶媒を吸引して除去するために上下方向に沿って貫通するようにして形成された複数の微小な吸引孔51を有している。また、プレスヘッド5のプレス面(下面)の形状および大きさは、保持体3のスペース31の開口のそれと対応している。なお、化粧皿2と、プレスヘッド5との間には、吸収性の高い紙や不織布等の吸収シート6が介在して配置されている。
【0063】
そして、プレス装置は、図12(B)に示すように、プレスヘッド5を下降させることによって(図中下向矢印)、化粧皿2に充填された化粧料C21,C22にプレス処理を施して打型する(打型ステップ)。ここで、本製造方法では、第1化粧料C22のスラリー硬度は、異色化粧料C21のスラリー硬度よりも高く設定されている。これによれば、第1化粧料C22は、異色化粧料C21の隙間を埋めるようにして広がるとともに、異色化粧料C21は、第1化粧料C22に沈まないようにして湿式固形化粧料1Aの表面に露出するので、湿式固形化粧料1Aの表面から裏面にわたって確実に模様を形成することができる。また、化粧料C21,C22中に含まれる揮発性溶媒は、吸収シート6に吸収されるとともに、プレスヘッド5の吸引孔51とを介してプレス装置の外部に設けられたチャンバ(図示略)に吸引されて除去される。
なお、化粧料C21,C22中に含まれる揮発性溶媒は、吸収シート6のみに吸収させるようにしてもよい。
【0064】
次に、プレス装置は、図12(C)に示すように、プレスヘッド5を上昇させることによって(図中上向矢印)、プレス処理を終了する。
そして、湿式固形化粧料1Aは、揮発性溶媒に適合した乾燥条件に基づいて、乾燥させた後、スペース31にセットされた化粧皿2を保持体3から取り外すことによって、製造することができる。
【0065】
このような本製造方法によれば、前記第1の製造方法における(2)の作用・効果を奏することができる他、以下の作用・効果を奏することができる。
(5)湿式固形化粧料1Aの製造方法(第2の製造方法)は、化粧皿2の底面の一部に第1化粧料C22を充填した後、化粧皿2に第1化粧料C22とは異なる色の異色化粧料C21を充填することによって、化粧皿2の底面の全部に化粧料C21,C22を充填するので、化粧皿2内を仕切り板にて仕切ることなく、湿式固形化粧料1Aの模様を形成することができる。したがって、湿式固形化粧料1Aの製造方法は、模様のデザインの変化に柔軟に対応することができ、温かみのある模様を形成することができる。
【0066】
(6)第1化粧料C22のスラリー硬度は、異色化粧料C21のスラリー硬度よりも高く、打型ステップにて化粧皿2内に充填された化粧料C21,C22にプレス処理を施して打型することによって、第1化粧料C22は、湿式固形化粧料1Aの表面に露出するので、湿式固形化粧料1Aは、湿式固形化粧料1Aの表面から裏面にわたって模様を形成することができる。また、スラリー硬度の高い第1化粧料C22は、使用に際して異色化粧料C21よりも若干取れにくくなる。これによれば、第1化粧料C22および異色化粧料C21を混ぜて使用する場合において、第1化粧料C22の色合いは薄く表現される。この事から例えば、第1化粧料C22が異色化粧料C21に比べて面積的に狭く部分的に充填されている場合であっても、使用者は、広く充填されている異色化粧料C21の方が取れ易くなっているため湿式固形化粧料1Aを違和感なく使用する事ができる。また、第1化粧料C22がワンポイント的な模様となり、異色化粧料C21に比べて色調差が大きい場合であっても、第1化粧料C22の方が薄く表現されるため、やはり湿式固形化粧料1Aを違和感なく使用する事ができる。このように、湿式固形化粧料1Aは、第1化粧料C22および異色化粧料C21の色合い、面積の割合、およびスラリー硬度などを様々に組み合わせて湿式固形化粧料1Aの模様や塗布色を調整することができるので、設計自由度を向上させることができる。
【0067】
なお、本発明は、本製造方法に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本製造方法では、第1化粧料C22は、湿式固形化粧料1Aの表面に露出していたが、異色化粧料C21および第1化粧料C22の分量やスラリー硬度を調整することによって、異色化粧料C21の内部に隠れるようにしてもよい。これによれば、湿式固形化粧料1Aの使用を進める事によって、徐々に第1化粧料C22が外部に露出していくことになるので、使用者は、湿式固形化粧料1Aを楽しみながら使用していくことができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明は、湿式固形化粧料の製造方法に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0069】
1,1A 湿式固形化粧料
2 化粧皿
3 保持体
4 充填装置
5 プレスヘッド
6 吸収シート
21 上端
31 スペース
32 上面
41,42 充填ノズル
51 吸引孔
C11 化粧料(第1の製造方法に係る第1化粧料)
C12 化粧料(第1の製造方法に係る異色化粧料)
C21 化粧料(第2の製造方法に係る異色化粧料)
C22 化粧料(第2の製造方法に係る第1化粧料)
図1
図2
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