(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】開閉式リッドのヒンジアーム、該ヒンジアームの製造方法、および該ヒンジアームを備えたリッド開閉機構
(51)【国際特許分類】
B62D 25/12 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
B62D25/12 A
(21)【出願番号】P 2018068474
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591162686
【氏名又は名称】株式会社ニイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100111224
【氏名又は名称】田代 攻治
(72)【発明者】
【氏名】土居 正和
(72)【発明者】
【氏名】貴連川 満信
(72)【発明者】
【氏名】片岡 詳博
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104863444(CN,A)
【文献】実開昭59-075870(JP,U)
【文献】実開昭51-073413(JP,U)
【文献】特開2015-009574(JP,A)
【文献】実開昭60-060368(JP,U)
【文献】特開2005-297604(JP,A)
【文献】特開2009-179201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両側に固定されたヒンジブラケットに一端が回動自在に軸支され、車両の開口部を開閉するリッドを他端で支持
し、リッドを開放するためのスプリング力をリッド開度に応じて適切に付与するためのリンクアームを備えたヒンジアームにおいて、
該ヒンジアームが、
リッドの開閉動作の間に他部材との干渉を回避するための
円弧状の湾曲形状を具備した中空パイプ材からなる湾曲部と、
リッドを取付けて支持するための板金製の取付け部と、
前記ヒンジブラケットに回動自在に軸支される板金製の軸支部との少なくとも3要素から構成され、
前記湾曲部の一端に前記取付け部が、前記湾曲部の他端に前記軸支部がそれぞれ
前記湾曲部を構成する中空パイプ材の開口部を開放した状態で固定され
、かつ前記リンクアームの一端が回動可能に前記軸支部に取り付けられ、これにより前記中空パイプ材の中へのワイヤハーネスの容易な挿通を可能としたことを特徴とするヒンジアーム。
【請求項2】
前記湾曲部が、プレス加工により湾曲形状が形成されたプレス成型品である、請求項1に記載のヒンジアーム。
【請求項3】
前記湾曲部と前記取付け部との固定、及び前記湾曲部と前記軸支部との固定の少なくともいずれか一方の固定が、インダイレクトスポット溶接による固定、もしくはレーザー溶接による固定である、請求項1に記載のヒンジアーム。
【請求項4】
車両の開口部を開閉するためのリッドを、車両側に固定されたヒンジブラケットに対して回動自在に支持するリッド開閉機構において、
該リッド開閉機構が、リッドの開閉動作時に他部材との干渉を回避するための湾曲部分を具備したヒンジアームを備え、
該ヒンジアームが、請求項1から
請求項3のいずれか一に記載のヒンジアームであることを特徴とするリッド開閉機構。
【請求項5】
中空パイプ材からなる前記湾曲部の中空部内に、前記リッドに附属する部材へ電力を供給するためのワイヤハーネス配線が挿通されている、
請求項4に記載のリッド開閉機構。
【請求項6】
他部材との干渉を回避するための湾曲形状を備えた開閉式リッドのヒンジアームの製造方法において、
該ヒンジアームを、中央に位置する
円弧状の湾曲部と、該湾曲部の一端に固定されてリッドを支持する取付け部と、該湾曲部の他端に固定されてヒンジアームの回動中心を形成するヒンジブラケットに軸支される軸支部と、
リッドを開放するためのスプリング力をリッド開度に応じて適切に付与するためのリンクアームとの要素から構成し、
前記湾曲部は、中空パイプ材をプレスによる曲げ加工でプレス成型し、
前記取付け部と軸支部とは、それぞれ板金プレス加工により成型し、
前記湾曲部を構成する中空パイプ材の両端開口部を開放した状態で前記湾曲部の一端に前記取付け部を、他端に前記軸支部をそれぞれ溶接して固定し、
前記リンクアームの一端を前記軸支部に回動可能に取り付ける、各ステップを含むことを特徴とするヒンジアームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランクリッドやフード(ボンネット)に代表される車両の開口部を開閉するためのリッドを回動自在に支持するヒンジアームに関する。より具体的に、開閉動作の間に介在する車両ボデー側から突出した部位との干渉を避けるべく、湾曲状に形成された干渉回避部(湾曲部)を有する開閉式リッドのヒンジアーム、該ヒンジアームの製造方法、並びに該ヒンジアームを備えたリッド開閉機構に関する。
【背景技術】
【0002】
図2は、側面から見た従来技術に係る車両用トランクリッド開閉機構の例を示している(例えば特許文献1参照。)。
図2においてヒンジアーム3は、一端が車両ボデー1側に固定されたヒンジブラケット4に回動可能に軸支され、他端はトランクリッド2を取付けてこれを開閉可能に支持している。図はトランクリッド2が全開した状態を示しており、ヒンジアーム3は車両ボデー1側から突出している部材8との干渉を避けるため、これを大きく迂回するよう複雑な曲線形状に湾曲して形成されていることが分かる。
【0003】
図2に示すトランクリッド2の全開状態からトランクリッド2を閉めると、ヒンジアーム3はヒンジブラケット4の軸支点を中心に図の時計回りに回動してトランクルーム内に収納される。通常このような車両用トランクリッドの開閉機構は、トランク開口部の左右両側に一対が設けられている。
図2に示すトランクリッド2の全開状態では、ヒンジアーム3の中間位置にあるストッパ9(6+7)が接触しており、トランクリッド2のさらなる開放方向への動作を拘束している。
【0004】
図3は、従来技術における一般的なヒンジアームの他の例を示す斜視図である。ヒンジアーム3は、湾曲部を含む一体型の長いアームでありながら重量物のトランクリッドを支持するため、重量対剛性の比で有利な中空パイプ材(電縫管)が使用されるのが一般である。図示の例では断面矩形状の中空角材が使用されているが、他の断面形状(例えば、丸材)のパイプが使用されてもよい。
図3では、ヒンジアーム3の図の右側がトランクリッド2(
図1参照)の取付け部、左側がヒンジブラケット4の軸支部に相当し、この両者の間にヒンジアーム3の湾曲部が位置している。
【0005】
中空パイプ材からなるヒンジアーム3の曲げ加工には、一般にベンディングマシン(パイプベンダ)が使用されている。ベンディングマシンは、円板状の型具の周囲に設けられた溝と、その外側に位置する同じく溝が設けられた押圧具の間にパイプ材を挟み、油圧もしくは電動でいずれか一方を回動させることでパイプ材を円板状の型具の周囲に沿って曲げ加工する。
図3に示すヒンジアーム3の例では、右端の取付け部の先端Xが加工基準となり、そこから順に取付け部近傍で第1の曲げA、次に湾曲部の始まり部分で第2の曲げB、湾曲部の終了部分で第3の曲げC、そして軸支部近傍で第4の曲げDと、計4箇所の曲げ加工が施されている。先の
図2に示した例では計5箇所で曲げ加工が施されているが、このようにヒンジアームには要求仕様に応じて4~5箇所ほどの曲げ加工が施されるのが一般である。
【0006】
図3に示すヒンジアーム3の例では、上述したように図の右端の先端Xを加工基準として形状が管理されており、曲げ位置や曲げ角度が加工基準に対してずれがないかを各曲げ加工部で検証し、必要な修正が加えられて完成に至る。このような加工管理がされていてもベンディングマシンの性格上ロット内の全製品を設計基準内に納めることは難しく、歩留まり向上には作業者の熟練した技能や、設備・治具での適切な対応が要求されることもあってタクト的にも不利になる要因となっている。加えて、ベンディングマシンは一般に高額の装置であり、これをライン化(作業員1名)あるいは全自動化を図るとすれば多額の投資を伴うものとなる。
【0007】
また、ヒンジアーム3には、トランクリッド取付け用の穴10(一般に2箇所)や、ヒンジブラケット4に軸支するためのヒンジピンが貫通する軸穴11を開口する必要がある。この穴加工の際には中空パイプ材の潰れを防ぐため、ヒンジアーム3の中空部の端から芯金を挿入してプレス加工により穴開けを行う。この際、ヒンジアームが直線状であればよいが、一定Rの湾曲状に形成されている場合には、湾曲芯金を挿入して加工するものとなる。いずれに場合においても中空パイプ材へのプレス穴開けとなるため、単なるプレス打抜き加工に対して芯金挿入、取り出しのための余分な手間を要するものとなる。
【0008】
図4は、従来技術においてヒンジアーム(
図4では符号9で示す)に沿って取り付けられたワイヤハーネス25の配線の例を示している。車種によって異なるが、トランクリッドにはナンバープレートが取り付けられるケースがあり、これを夜間に照明するための電力供給が必要となる。この他にもストップランプ、後退灯など他の要素がトランクリッドに取り付けられることがあり、これらに対する電力供給も同様に必要となる。このような場合の配線は、美観を保ちつつトランクルーム内への荷物の搬入、搬出の支障とならないよう図示のようにヒンジアーム9に沿ってワイヤハーネス25が取り付けられるのが一般である。
図4に示す例では、ワイヤハーネス25が複数個所でクリップ止めされて配線されていることが分かる。
【0009】
図3に戻って、従来のヒンジアーム3には、このようなワイヤハーネス取り付け用のクリップを固定するための複数のワイヤハーネス取り付け穴12が設けられることが多い。この場合、中空パイプ材のヒンジアーム3には位置的、形状的に芯金の挿入、取り出しが不可能となるため、プレス加工ではなくドリル等による機械的な穴開け作業が必要となる。ヒンジアーム3の中空パイプ材を貫通する穴加工となるためドリルのストロークは長くなり、また加工方向の異なる穴もあり得る。加えて、ドリルによる切削加工では加工穴の周辺に切削油が混じった切子が付着することから、これを除くためのエアブローなどの対応が必要となり得る。またドリル加工によって穴周囲に起つエッジを取り除くためのバリ取り作業が要求されるなどの余分な手間が掛かることもある。ヒンジアーム3にはさらに、
図3に示すストッパ16を取り付けるための穴加工、トランクリッド開閉時の操作力をアシストするためのトーションバーに付勢力を付与するリンクアーム15の取付け穴加工も必要とされている。
【0010】
従来技術ではこのようなワイヤハーネス配線に要する手間や美観を改善するため、ワイヤハーネスをヒンジアームに沿って配線した後、その上から樹脂製のプロテクタでカバーしたり(たとえば、特許文献2参照)、あるいはヒンジアームの長手方向の一辺に切割(収納溝)を設けてワイヤハーネスをその内部に嵌め着けたりする(例えば、特許文献3参照)などの対応が見られる。しかしながら、これらの対応を行うことによって、さらなる余分な手間とコストが追加となることは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-101866号公報
【文献】特開平11-136830号公報
【文献】特開2000-193144号公報
【文献】実開平4-7986号公報
【文献】特開2001-63632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
取付け部、湾曲部、軸支部を長い中空パイプ材から一体に形成されていた従来技術に係るヒンジアームでは、ベンディングマシンによる複雑形状の曲げ加工に伴う品質の安定性、歩留まり、タクトタイム、さらには穴あけ加工追加、設備投資増大等の各種観点から技術的に改善されるべき問題点が数多く内在しており、これら問題点をいずれも解消することができる新たなヒンジアーム並びにその製造法が求められていた。
【0013】
以上より、本発明は、従来技術に見られるこれらの諸課題を解消し、生産性を高め、品質面においても安定した供給が可能なリッド用のヒンジアーム、該ヒンジアームを備えたリッド開閉機構、並びに該ヒンジアームの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、従来のヒンジアームが軸支部からリッド取付け部に至るまで全て中空パイプ材で一体に形成していたものを改め、これを軸支部と湾曲部とリッド取付け部の少なくとも3要素に分割し、これらを結合してヒンジアームを形成するものとし、分割された後の湾曲部を必ずしもベンディング加工を必要としないシンプルな湾曲形状にすることによって上述した課題を解消するもので、具体的には以下の内容を含む。
【0015】
すなわち、本発明に係る一つの態様は、車両側に固定されたヒンジブラケットに一端が回動自在に軸支され、車両の開口部を開閉するリッドを他端で支持するヒンジアームであって、当該ヒンジアームが、リッドの開閉動作の間に他部材との干渉を回避するための湾曲形状を具備した中空パイプ材からなる湾曲部と、リッドを取付けて支持するための板金製の取付け部と、ヒンジブラケットに回動自在に軸支される板金製の軸支部との少なくとも3要素から構成され、湾曲部の一端に取付け部が、湾曲部の他端に軸支部がそれぞれ固定されていることを特徴とするヒンジアームに関する。
【0016】
前記湾曲部は、プレス加工により湾曲形状が形成されたプレス成型品とすることができる。また、ベンディングによる曲げ加工とする場合であっても、加工が楽な湾曲形状とすることができる。加えて、ヒンジアームに他部材を取付けるための取付け穴を湾曲部から除き、各取付け穴は取付け部もしくは軸支部のいずれかに設けることができる。
【0017】
湾曲部と取付け部との固定、及び湾曲部と軸支部との固定の少なくともいずれか一方の固定は、インダイレクトスポット溶接による固定、もしくはレーザー溶接による固定とすることができる。
【0018】
本発明に係る他の態様は、車両の開口部を開閉するためのリッドを車両側に固定されたヒンジブラケットに対して回動自在に支持するリッド開閉機構であって、当該リッド開閉機構は、リッドの開閉動作時に他部材との干渉を回避するための湾曲部分を具備したヒンジアームを備え、当該ヒンジアームが、以上に述べたいずれかのヒンジアームであることを特徴とするリッド開閉機構に関する。この際、中空パイプ材からなる湾曲部の中空部内には、リッドに附属する部材へ電力を供給するためのワイヤハーネス配線が挿通されていてもよい。
【0019】
本発明に係るさらに他の態様は、他部材との干渉を回避するための湾曲形状を備えた開閉式リッドのヒンジアームの製造方法であって、当該ヒンジアームを、中央に位置する湾曲部と、湾曲部の一端に固定されてリッドを支持する取付け部と、湾曲部の他端に固定されてヒンジアームの回動中心を形成するヒンジブラケットに軸支される軸支部との3つの要素から構成し、湾曲部は中空パイプ材をプレスによる曲げ加工でプレス成型し、取付け部と軸支部とはそれぞれ板金プレス加工により成型し、湾曲部の一端に取付け部を、他端に軸支部をそれぞれ溶接により固定する各ステップからなることを特徴とするヒンジアームの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
従来技術で一体に形成されていたヒンジアームを、湾曲部、取付け部、軸支部の少なくとも3要素に分割し、これらを溶接等で結合する構成とすることで、独立した要素となった湾曲部を加工容易なシンプルな湾曲形状にすることができる。これにより、まず従来技術においてタクトタイムが長いなど加工上のネックとなっていたベンディングマシンによる曲げ加工を、加工容易で品質の安定化も得易いプレス加工に置き換えることが可能になるというメリットが得られる。加えて、取付け部と軸支部とが別要素となることで、従来技術では中空パイプに設けられていたリッド、ワイヤハーネス、ストッパ、リンクアーム等の他部材取付け用の穴等の一部もしくは全てをこれら別の2つの要素の方に設けることが可能となり、加工に手間を要する中空パイプへの穴開き加工の一部もしくが全部を廃止できるという技術的効果を奏する。本願発明のその他の技術的効果に関しては後述する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態に係るリッド開閉用ヒンジアームの全体構成を示す斜視図である。
【
図2】従来技術に係るトランクリッドのヒンジアームと、その周辺部材の構成を示す側面図である。
【
図3】従来技術に係る他のヒンジアームの全体概要を示す斜視図である。
【
図4】従来技術におけるヒンジアームに取り付けられたワイヤハーネスの配線例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態に係る開閉式リッドのヒンジアームについて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る開閉式リッド用のヒンジアームを示すもので、ここでは車両のトランクリッド開閉用のヒンジアーム30の例を示している。以下に述べる構成は、フードやそれ以外の開口部を閉鎖するリッド開閉用のヒンジアームに対しても同様に適用することができる。
図1において本実施の形態に係るヒンジアーム30は、図の中央部に位置する湾曲形状を備えた湾曲部31と、湾曲部31の図の左側の一端に固定された板金プレス成型品のトランクリッドの取付け部32と、車両ボデー側のヒンジブラケット40に軸支されるよう湾曲部31の図の右側の一端に固定された同じく板金プレス成型品の軸支部33との少なくとも3要素から構成されている。図示の例では、トランクリッド開閉時の操作力をアシストするトーションバーに付勢力を付与するためのリンクアーム45が軸支部33に取り付けられている。
【0023】
以上の構成要素の内、中央に位置する湾曲部31は、図示しない車両ボデー側から突出する部材との干渉を回避しつつ重量物であるトランクリッドを支持するに十分な剛性を備えた中空パイプ材から形成されている。ここでは中空パイプ材として断面矩形状の中空角材(角パイプ)が使用されているが、中空丸材(丸パイプ)が使用されてもよい。本実施の形態に係るヒンジアーム30では、取付け部32と軸支部33が別体で形成されており、これによって湾曲部31の形状は図示のように緩やかに曲がるシンプルな湾曲形状とすることができる。具体的には、湾曲部31に固定される取付け部32と軸支部33の各取付け角度が、湾曲部31の曲線に対してそれぞれ直角に近い角度で固定されており、このような大きな取付け角度を設けて固定されることでヒンジアーム30に求められる他部材との干渉回避に必要な曲げ効果が得られる結果、中間にある湾曲部31そのものには
図3に示す従来技術にあったような極端な曲げ加工を施す必要がなくなり、緩やかに曲がる湾曲部31が実現できるものとなる。
【0024】
湾曲部31を
図1に示すような単純な円弧形状にすることが可能になると、従来技術にあった5,6箇所での曲げを実質的に1箇所の曲げ加工で済ませることができ、また曲げの角度も緩和されることから、ベンディングマシンによる曲げ加工が極めて容易となり、タクトタイムの低減につながるほか、曲げのばらつきの軽減、品質の安定、歩留まりの向上を同時に果たすことが可能になる。湾曲部31が図示のような単純な円弧状ではなく、必要に応じて曲げの中間で他の変曲点が現れるようなある程度の複雑な湾曲形状が必要となったとしてもその程度は限られているため、曲げ箇所を1,2箇所追加することで容易に対応することができる。
【0025】
これとは全く異なる対応策として、そしてより好ましい対応策として、本実施の形態に係る緩やかな曲線状の湾曲部31であれば、加工効率の劣るベンディングマシンに頼ることなく、加工性に各段に優れたプレス成型による曲げ加工を実施することが可能になる。湾曲部31が
図1に示す円弧形状に限らず、プレス金型からの抜き勾配が確保されてプレス成型後の離型が可能な形状である限り、湾曲の中間で他の変曲点が現れるようなある程度の複雑な湾曲部31であっても、プレスによる曲げ加工が容易に実現可能である。単能機であるベンディングマシンから汎用性の高いプレスマシンに切り替えることができれば、機械稼働率の向上が図れ、タクトタイムがさらに低減でき、品質がさらに安定し、自動化によるライン編成もより容易になるという大きなメリットが得られる。
図2や
図3に示すような従来技術に係る複雑な湾曲形状のヒンジアームでは、プレス加工による成型は不可能であった。
【0026】
図1に示す湾曲部31を除いた他の要素である取付け部32と軸支部33は、本実施の形態ではいずれも従来から知られた板金のプレス加工による成型が容易な形状とされ、これらはいずれもインダイレクトスポット溶接(
図1の符号SW)によって湾曲部31のそれぞれの端部近傍に結合されている。上述したように、この溶接の際の取付け角度は、他部材との干渉を回避するというヒンジアーム30に本来求められた仕様に合わせて適切に定めることができる。なお、インダイレクトスポット溶接とは、スポット溶接時に二部材を突き合わせて圧着するための片方の電極が本例の中空パイプ材のように配置できない場合に、当該中空パイプ材の他の部位に電極を配置して溶接する手法であり、これは従来から知られた溶接技術である。
【0027】
ヒンジアームを分割して溶接結合する従来技術における例として、本実施の形態に係る取付け部32に相当する部材を別要素とし、これを湾曲部に溶接接合するケースが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら特許文献4に示す例では、湾曲部を含むヒンジアームがプレス加工容易な形状になっておらず、また軸支部が分割されずに湾曲部と一体にされているために軸支用のヒンジピン穴(
図4の符号2)加工が中空パイプ材に残されているなど、本発明とは構成を異にする。また、特許文献4に示す溶接は、記載内容、図面の表示から炭酸ガスアーク溶接と思われるが、この溶接方法ではスポット溶接と比較して溶接歪が発生し易く、ヒンジアームの形成上好ましくはない。ただし、本実施の形態における固定方法であってもインダイレクトスポット溶接には限定されず、かしめ等の他の固定方法であったり、レーザー溶接などの他の片面溶接方法、あるいは好ましくはないが炭酸ガスアーク溶接を含むその他の溶接方法であったりしてもよい。
【0028】
図1からも明らかなように、本実施の形態に係るヒンジアーム30の湾曲部31には、他部品を取付けるための穴加工が一切施されていない。トランクリッドへの取付け穴32aは、取付け部32を板金製とすることでプレス加工時に同時に打抜き形成可能であり、同じくヒンジブラケット40へ軸支するためのヒンジピン穴33aも軸支部33のプレス加工時に同時形成される。これによってヒンジアーム31の中空部内に芯金を挿入することによる穴加工の追加工程は不要となり、効率的となる。加えて、従来ではヒンジアームに取り付けられていたストッパ46(
図3では符号16)、リンクアーム45(同、符号15)は、
図1に示す本実施の形態ではいずれも軸支部33に取り付けられており、これに伴う湾曲部31への穴加工、穴加工後の切粉やバリを除去するための手間の掛かる付随作業も一切廃止することができる。
【0029】
また、上述したトランクリッドの取付け穴32a、ヒンジピン穴33a、ストッパ46の取付け、リンクアーム45の取付けが湾曲部31から取付け部32または軸支部33のいずれかへ移動したことにより、ピンやねじの先端部等が湾曲部31の中空部内へ突出することが一切なくなる。さらに、形状的にも複雑な曲げがなくなって緩やかな円弧状等のシンプルな形状となったことも加わり、湾曲部31の中空部内には図の破線で示すようにワイヤハーネス50を挿通させることができるようになる。これに伴って従来技術にあったヒンジアームへのワイヤハーネス取り付け穴の加工(
図3の符号12)、バリ取り等事後処理、ワイヤハーネス保護用の溝やプロテクタも一切不要となる。さらに、湾曲部31へのワイヤハーネス50の取付けがなくなることに起因し、従来技術ではワイヤハーネス50を取り付ける側のヒンジアームと取り付けない側のヒンジアームとが左右それぞれ別部品となっていたものが左右共通化可能となり、在庫管理や部品識別管理の手間が不要になるというメリットも生まれる。
【0030】
以上述べてきたようなヒンジアーム30を3要素に分割することによって得られるメリットだけを見ても、分割化によって生ずる板金加工、溶接作業の追加に伴うデメリットをはるかに凌駕するものとなる。さらに外観的にもワイヤハーネスが隠されるため、トランクルームに取り付けられた状態では見た目にもスッキリとした美観が保たれ、ワイヤハーネスの保護、安全性もより堅固なものとすることができる。
【0031】
以上に加え、ヒンジアーム30を分割構成とする本実施の形態によれば、以下に示すようなさらなる付随的効果をも得ることができる。まず第1に、従来技術によるヒンジアームの形状は、車種が異なるごとに湾曲部や取付け部、軸支部の各要求仕様が異なることが通常である。このことは、微妙な調整を含む手間と時間を要するベンディングマシンの段取り換えや型具の取り替えがその都度必要になることを意味している。本実施の形態に係るヒンジアーム30によれば、最も簡単な対応としては、湾曲部31、取付け部32、軸支部33の各個別要素をいずれも各車種間で共通とし、湾曲部31に固定する取付け部32と軸支部33の取付け角度のみを車種毎の要求仕様に合うよう変更して対応できる可能性がある。このために必要であれば、設計段階で取付け角度の変更のみで対応可能となるよう湾曲部31、取付け部32、軸支部33の形状を予め考慮して共通化を図れば良い。これらヒンジアーム30を構成する個別要素が共通化できれば、溶接治具の取り換えのみで車種ごとの段取りははるかに容易に対応できるようになる。
【0032】
上記の共通化対応が困難な場合であっても、取付け部32と軸支部33は共通化を図り、中央の湾曲部31のみを必要に応じて車種別に取り換えるだけで済ませることも考えられる。この際の段取り換えは、湾曲部31加工用のプレスの型具交換や曲げ箇所が大幅に削減されて容易となったベンディングマシンの型具交換のみで終えることができ、対応作業は従来のものに比べて大幅に簡略化される。場合によっては、車種間では湾曲部31の円弧形状はそのままとして全長のみを変化させるだけで済む場合も想定され、その場合にはプレス型具やベンディングマシン型具の交換も不要とすることも考えられる。これとは逆に、湾曲部31を共通にして取付け部40と軸支部33のいずれか一方もしくは双方のみを変更することも勿論考えられる。
【0033】
続いて第2の付随的効果として、ヒンジアーム一般に関連する問題として、トランクリッドの前後方向の振動に起因して運転席付近に低周波の振動騒音が発生するという問題が指摘されている(例えば、特許文献5参照。)。このための対策として特許文献5ではヒンジアームの中空部内に高圧をかけ、バルジ加工(ハイドロフォーミング)によってパイプの縦方向の辺を長くし、この方向の断面係数を大きくすることでこの振動を防ぐものとしている。湾曲部31が別部材として構成される本実施の形態に係るヒンジアーム30によれば、湾曲部31を予め縦方向の辺が長いパイプ材を使用して曲げ加工することで極めて特殊な設備が必要となるバルジ加工などを要することなく、かかる振動対策を容易に行うことができるというメリットが生ずる。従来技術によるヒンジアームのような極端な曲げ角度と曲げ回数を必要としない本実施の形態に係る湾曲部31であれば、プレスまたはベンディングマシンを使用する場合においても、縦方向の辺を長くしたパイプ材であってもその曲げ加工は容易である。
【0034】
なお、上記説明では加工が容易となるよう湾曲部31から全ての穴加工を排除しており、これが好ましくはあるものの、必要に応じて穴加工の一部を残しておくことも自由である。例えばワイヤハーネスを湾曲部31の中空部内に挿通させることなく、必ずしも好ましくはないが従来通り穴加工を施してクリップ止めとすることも自由である。
【0035】
次に、本発明は上記実施の形態で示したヒンジアーム30に加え、当該ヒンジアーム30を備えたリッド開閉機構、およびヒンジアーム30の製造方法をも包含している。当該製造方法に関する発明は、ヒンジアーム30を、中央部に位置する湾曲部31と、湾曲部31の一端に位置するトランクリッドの取付け部32と、湾曲部31の他端に位置する車両ボデー側のヒンジブラケットの軸支部33との少なくとも3つの要素に分割して構成している。この内の湾曲部31は、適当な長さに切断された直線状の中空パイプ材をプレス加工で湾曲して成型し、取付け部32と軸支部33とは板金プレス加工で成型し、湾曲部31の両端にそれぞれ取付け部32と軸支部33とを結合するステップを含んでいる。湾曲部31と取付け部32および軸支部33との結合は、インダイレクトスポット溶接、もしくはレーザー溶接、あるいはその他の従来技術で知られた溶接もしくは結合方法とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る開閉式リッドのヒンジアーム、該ヒンジアームを備えたリッド開閉機構、及び該ヒンジアームの製造方法は、当該ヒンジアーム、ならびに当該ヒンジアームを備えたリッド開閉機構の製造、販売、利用を行う各産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
30.ヒンジアーム、 31.湾曲部、 32.取付け部、 32a.取付け穴、 33.軸支部、 33a.ヒンジピン穴、 40.ヒンジブラケット、 45.リンクアーム、 46.ストッパ、 50.ワイヤハーネス配線。