(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】球状歯車及び球状歯車の設計方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/08 20060101AFI20220825BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
F16H55/17 Z
(21)【出願番号】P 2020210165
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】519134005
【氏名又は名称】株式会社島根情報処理センター
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【氏名又は名称】松本 文彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【氏名又は名称】黒住 智彦
(72)【発明者】
【氏名】姜 聲默
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114060473(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0128734(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第一演算式で示され、
【数36】
前記H平面の基礎円半径をr
h
bとし、前記H平面において基礎円半径であるr
h
bから歯先円半径であるr
h
tipまでを変域とする変数をr
hとした場合に、前記XY座標平面及び前記H平面における圧力角α
h及びインボリュート角θ
hが下記の第二演算式で示され、
【数37】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるインボリュート曲線のX座標X
h、Y座標Y
h及びZ座標Z
hが下記の第三演算式で示され、
【数38】
前記第一演算式、前記第二演算式及び前記第三演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形が描画され、
複数の前記H平面の各々に描画された歯形を用いて設計されることを特徴とする球状歯車。
【請求項2】
Y軸を中心軸として、前記複数のH平面の各々に描画された歯形を繋ぐ基準円半径r
h
refの基準円と、前記基準円のZ軸上の点に収束する歯先円と、前記基準円のZ軸上の点に収束する歯底円とをXZ座標面に描画し、
前記複数の平面の各々に描画された歯形と、前記基準円と、前記歯先円と、前記歯底円とを用いて、XY座標平面に描画された歯形からZ軸上の点に向けて収束する歯のソリッドを生成し、
前記歯のソリッドをZ軸周りに複製し、
前記XZ座標平面に所定の円ピッチで歯数の数だけ歯形を描画し、
前記歯のソリッドと前記XZ座標平面に描画された複数の歯形とを交差して歯群を生成し、
前記歯群をZ軸周りに歯数の数だけ複製して半球状のギアベースを生成し、
前記ギアベースをXY座標平面に関してミラーリングして球状のギアベースを生成し、
前記球状のギアベースのZ軸方向における一の歯群と前記一の歯群する隣接する歯群との間に新たな歯のソリッドを生成し、
前記新たな歯から不要部分を除去してZ軸周りに複製し、XY座標平面に関してミラーリングすることで設計されることを特徴とする請求項1に記載の球状歯車。
【請求項3】
XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第四演算式で示され、
【数39】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるモジュールM
h、歯先円直径D
h
tip、歯底円直径D
h
root、基礎円直径D
h
baseが下記の第五演算式で示され、
【数40】
前記第四演算式及び前記第五演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形が描画され、
複数の前記H平面の各々に描画された歯形を用いて設計されることを特徴とする球状歯車。
【請求項4】
XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第一演算式で示され、
【数41】
前記H平面の基礎円半径をr
h
bとし、前記H平面において基礎円半径であるr
h
bから歯先円半径であるr
h
tipまでを変域とする変数をr
hとした場合に、前記XY座標平面及び前記H平面における圧力角α
h及びインボリュート角θ
hが下記の第二演算式で示され、
【数42】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるインボリュート曲線のX座標X
h、Y座標Y
h及びZ座標Z
hが下記の第三演算式で示され、
【数43】
前記第一演算式、前記第二演算式及び前記第三演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形を設計することを特徴とする球状歯車の設計方法。
【請求項5】
XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第四演算式で示され、
【数44】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるモジュールM
h、歯先円直径D
h
tip、歯底円直径D
h
root、基礎円直径D
h
baseが下記の第五演算式で示され、
【数45】
前記第四演算式及び前記第五演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形を設計することを特徴とする球状歯車の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状歯車に関し、より詳細には、3自由度を有する球状歯車及びそれに関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、継手として、ユニーバサルジョイントや等速ジョイントなどが知られている。ユニーバサルジョイントは、2つの回転軸が接合する角度を自由に変化させることが可能な自在継手である(例えば、特許文献1参照)。等速ジョイントは、入力軸と出力軸の角度(作動角)がどのような角度であっても双方の軸が等速で回転する継手である(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、2本のシャフトの軸が交差し、円錐面に歯が刻まれたベベルギア(傘歯車)なども知られている。(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-101190号公報
【文献】特開2020-169652号公報
【文献】実全昭58-187655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のギアセットは回転軸によって回転方向が一意に決まる。そのため、ギア数を増やしても、回転方向を連続的には変えることはできない。また、ギア数を増やせば、摩擦も増加するため、動力性能が低下し、バックラッシュ(歯と歯の隙間)に起因する位置誤差が大きくなる。
【0006】
これに対して、上述した等速ジョイントを用いれば、回転方向を連続的に変えることは可能になるものの、人間のような広い可動範囲を得ることはできない。
【0007】
そこで、本発明は、回転方向を連続的に変更することが可能であり、かつ、広い可動範囲を有する球状歯車及びそれに関連する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第一演算式で示され、
【数1】
前記H平面の基礎円半径をr
h
bとし、前記H平面において基礎円半径であるr
h
bから歯先円半径であるr
h
tipまでを変域とする変数をr
hとした場合に、前記XY座標平面及び前記H平面における圧力角α
h及びインボリュート角θ
hが下記の第二演算式で示され、
【数2】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるインボリュート曲線のX座標X
h、Y座標Y
h及びZ座標Z
hが下記の第三演算式で示され、
【数3】
前記第一演算式、前記第二演算式及び前記第三演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形が描画され、複数の前記H平面の各々に描画された歯形を用いて設計されることを特徴とする球状歯車を提供している。
【0009】
ここで、Y軸を中心軸として、前記複数のH平面の各々に描画された歯形を繋ぐ基準円半径rh
refの基準円と、前記基準円のZ軸上の点に収束する歯先円と、前記基準円のZ軸上の点に収束する歯底円とをXZ座標面に描画し、前記複数の平面の各々に描画された歯形と、前記基準円と、前記歯先円と、前記歯底円とを用いて、XY座標平面に描画された歯形からZ軸上の点に向けて収束する歯のソリッドを生成し、前記歯のソリッドをZ軸周りに複製し、前記XZ座標平面に所定の円ピッチで複数の歯形を描画し、前記歯のソリッドと前記XZ座標平面に描画された複数の歯形とを交差して歯群を生成し、前記歯群をZ軸周りに複製して半球状のギアベースを生成し、前記ギアベースをXY座標平面に関してミラーリングして球状のギアベースを生成し、前記球状のギアベースのZ軸方向における一の歯群と前記一の歯群する隣接する歯群との間に新たな歯のソリッドを生成し、前記新たな歯から不要部分を除去してZ軸周りに複製し、XY座標平面に関してミラーリングすることで設計されるのが好ましい。
【0010】
また、本発明は、XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第四演算式で示され、
【数4】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるモジュールM
h、歯先円直径D
h
tip、歯底円直径D
h
root、基礎円直径D
h
baseが下記の第五演算式で示され、
【数5】
前記第四演算式及び前記第五演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形が描画され、複数の前記H平面の各々に描画された歯形を用いて設計されることを特徴とする球状歯車を提供している。
【0011】
また、本発明は、XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第一演算式で示され、
【数6】
前記H平面の基礎円半径をr
h
bとし、前記H平面において基礎円半径であるr
h
bから歯先円半径であるr
h
tipまでを変域とする変数をr
hとした場合に、前記XY座標平面及び前記H平面における圧力角α
h及びインボリュート角θ
hが下記の第二演算式で示され、
【数7】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるインボリュート曲線のX座標X
h、Y座標Y
h及びZ座標Z
hが下記の第三演算式で示され、
【数8】
前記第一演算式、前記第二演算式及び前記第三演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形を設計することを特徴とする球状歯車の設計方法を提供している。
【0012】
また、本発明は、XYZ座標空間において、Y軸を中心とするXZ座標平面の基準円半径をr
refとした場合に、XY座標平面及びZ軸方向の任意の高さh(0≦h≦r
ref)において前記XY座標平面に平行な平面であるH平面に基準円を描画するための基準円半径r
h
refが下記の第四演算式で示され、
【数9】
前記XY座標平面及び前記H平面におけるモジュールM
h、歯先円直径D
h
tip、歯底円直径D
h
root、基礎円直径D
h
baseが下記の第五演算式で示され、
【数10】
前記第四演算式及び前記第五演算式に基づいて、Z軸方向の高さhの値が異なる複数の前記H平面の各々に歯形を設計することを特徴とする球状歯車の設計方法を提供している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転方向を連続的に変更することが可能であり、かつ、広い可動範囲を有する球状歯車を作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】XY座標平面にインボリュート曲線を描画するための演算式に関する図。
【
図3】XYZ座標空間にインボリュート曲線を描画するための演算式に関する図。
【
図4】Z軸の高さh1(=0)のXY座標平面に描画したインボリュート曲線を示す図。
【
図5】
図4のインボリュート曲線を基準線でミラーリングしたインボリュート曲線を示す図。
【
図6】歯先円及び歯底円に沿ってそれぞれ弧を追加し、XY座標平面に描画した歯形を示す図。
【
図7】Z軸の高さh2(>h1)においてXY座標平面に平行なH平面を示す斜視図。
【
図8】XY座標平面に描画した歯形及びH平面に描画した歯形を示す斜視図。
【
図9】XY座標平面に描画した歯形及び高さの異なる複数のH平面にそれぞれ描画した歯形を示す斜視図。
【
図10】XZ座標平面においてY軸を中心とする基準円を描画した図。
【
図11】XZ座標平面において歯先円がP
topに収束するように非線形曲線を描画した図。
【
図12】XZ座標平面において歯底円がP
topに収束するように非線形曲線を描画した図。
【
図14】歯のソリッドの基準になり得る他の非線形曲線を描画した斜視図。
【
図15】非線形曲線を繋げて生成された歯のソリッドを示す斜視図。
【
図16】円形パターンによってZ軸周りに歯のソリッドを展開した状態を示す図。
【
図17】XZ座標平面に描画したインボリュート曲線を示す側面図及び概念図。
【
図18】XZ座標平面においてY軸周りに展開した歯形を示す図。
【
図19】歯のソリッドとXZ座標平面に展開した歯形とを交差させた状態を示す斜視図。
【
図20】歯のソリッドとXZ座標平面に展開した歯形の交差によって生成した1つの歯群を示す図。
【
図21】円形パターンによってZ軸周りに歯群を展開して生成された半球状のギアベースを示す図。
【
図22】半球状のギアベースをXY座標平面に関してミラーリングして生成された球状のギアベースを示す図。
【
図23】球状の歯群に発生する隙間を破線円で示した図。
【
図24】球状の歯群のうちXY座標平面に一番近い歯形がXY座標平面にペーストされた状態を示す図。
【
図25】XY座標平面にペーストされた歯形をZ軸周りに回転させ、歯形と歯形との間に新たな歯形を描画した図。
【
図26】歯形と歯形との間に描画した新たな歯をZ軸の上方から見た図。
【
図27】歯形と歯形との間に描画した新たな歯のうち不要箇所を円で示した斜視図。
【
図28】歯形と歯形との間に描画した新たな歯から
図27に示す不要箇所を除去した斜視図。
【
図29】円形パターンによって新たな歯をZ軸周りに展開後、XY座標平面に関してミラーリングした球状歯車を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.実施形態>
発明の実施形態による球状歯車及び球状歯車の設計方法について
図1から
図29に基づき説明する。以下では、本発明による球状歯車の一例として、
図1に示す球状歯車1を例示する。
【0016】
まず、球状歯車1の説明に先立って、
図2を参照しながら、一般的なインボリュート歯車について説明を行う。インボリュート歯車とは、平歯車や斜歯歯車などにおいて、歯の軸と直交する断面の形状をインボリュート曲線としたものである。
【0017】
インボリュート歯車は、以下の式(1)から(9)によってインボリュート曲線を規定することができる。なお、以下の式(1)から(9)自体は、周知(公知)の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【数11】
【0018】
式(1)において、D
refは「基準円直径」、Mは「モジュール」、Zは「歯数」をそれぞれ示している。本実施形態では、モジュールMに「2.5」、歯数Zに「24」が設定されているものとする。
【数12】
【0019】
式(2)において、D
tipは「歯先円直径」、D
refは「基準円直径」(上述した式(1)によって算出される値)、Mは「モジュール」をそれぞれ示している。また、D
rootは「歯底円直径」を示している。
【数13】
【0020】
式(3)において、D
baseは「基礎円直径」、D
refは「基準円直径」(上述した式(1)によって算出される値)、αは「圧力角」をそれぞれ示している。αは、「基礎円直径」の描画に用いられる任意の固定値であり、本実施形態では、「30°」に設定されているものとする。
【数14】
【0021】
式(4)において、D
tipは「歯先円直径」を示しており、上述した式(2)によって定まる定数である。
【数15】
【0022】
式(5)において、r
bは「基礎円半径」(
図2参照)を示しており、上述した式(1)及び式(3)によって定まる定数である。
【数16】
【0023】
式(6)において、αは「圧力角」、r
bは「基礎円半径」をそれぞれ示している(
図2参照)。また、rは、変域を基礎円半径r
bから歯先円半径r
tipまで(r
b≦r≦r
tip)とする変数である。つまり、式(6)のαは、変数rに応じて変化する変数であり、式(3)のα(任意の固定値)とは異なるものである。
【数17】
【0024】
式(7)において、θは「インボリュート角」、αは「圧力角」をそれぞれ示している(
図2参照)。
【数18】
【0025】
式(8)において、xは「インボリュート曲線のX座標」、rは「基準円半径」(上述した式(4)によって算出される値)、θは「インボリュート角」(上述した式(8)によって算出される値)を示している。
【数19】
【0026】
式(9)において、yは「インボリュート曲線のY座標」、rは「基準円半径」(上述した式(4)によって算出される値)、θは「インボリュート角」(上述した式(8)によって算出される値)を示している。
【0027】
上述した式(1)から(9)は、あくまで、2次元平面(XY座標平面)にインボリュート歯形を描画するための演算式である。
【0028】
他方、本実施形態による球状歯車1を描画するためには、3次元空間(XYZ座標空間)にインボリュート歯形を描画する必要がある。そこで、以下では、XYZ座標空間においてインボリュート曲線を描画するための演算式について詳細に説明する。
【0029】
図3に示すように、まず、Y軸を中心としてXZ平面に基準円半径r
refの半円を描画する。なお、XZ平面に描画される基準円半径r
refは、XY座標平面に描画される基準円半径r
refと同じである。
【0030】
XZ平面における回転角度Φは、X軸(0度)とZ軸(90度)との間の回転角度(0°≦Φ≦90°)を示している。
【0031】
ここで、Z軸上の高さhは、基準円半径r
refと回転角度Φとを用いて、下記の式(10)によって定義される。
【数20】
【0032】
また、高さhにおける基準円半径r
refのX座標は、下記の式(11)によって定義される。
【数21】
【0033】
高さhにおける基準円半径r
refのX座標は、高さhにおいてXY座標平面と平行な平面(以下、単に「H平面」とも称する。)の基準円半径r
h
refに相当する。H平面の基準円半径r
h
refは、下記の式(12)によって定義することができる。
【数22】
【0034】
そして、H平面の圧力角α
hは、下記の式(13)によって定義される。下記の式(13)において、r
h
bはH平面の基礎円半径を示しており、D
base/2で示される定数である。また、r
hは変域を基礎円半径r
h
bから歯先円半径r
h
tipまで(r
h
b≦r
h≦r
h
tip)とする変数である。つまり、式(13)のα
hは、変数r
hに応じて変化する変数であり、式(3)のαの任意の固定値とは異なるものである。
【数23】
【0035】
上述した式(13)によってH平面の圧力角α
hが算出されると、下記の式(14)によってH平面のインボリュート角θ
hを算出することができる。
【数24】
【0036】
上述した式(14)によってH平面のインボリュート角θ
hが算出されると、下記の式(15)から(17)によって、H平面においてインボリュート歯形を描画するためのX座標X
hと、Y座標Y
hと、Z座標Z
hとがそれぞれ得られる。
【数25】
【数26】
【数27】
【0037】
上述した式(15)から(17)を用いることによって、Z軸の任意の高さhに対応するH平面にインボリュート歯形を描画することができる。
【0038】
続いて、
図4から
図30を参照しながら、CAD(Computer-Aided Design)を用いて球状歯車1を設計する手順について詳細に説明する。
【0039】
図4に示すように、まず、上述した式(15)~(17)に基づいて、XY座標平面PL1にインボリュート曲線CR1を描画する(ステップS1)。なお、XY座標平面PL1において、高さh1は0である。
【0040】
次に、
図5に示すように、ステップS1で描画したインボリュート曲線CR1を基準線でミラーリングし、インボリュート曲線CR1に線対称なインボリュート曲線CR2を描画する(ステップS2)。
【0041】
更に、
図6に示すように、歯先円TPに沿って弧AR1を描画すると共に、歯底円RTに沿って弧AR2を描画し、歯形TS1を生成する(ステップS3)。
【0042】
その後、
図7に示すように、高さh2(>h1)においてXY座標平面PL1に平行なH平面PL2を生成する(ステップS4)。そして、
図8に示すように、H平面PL2に関して上述したステップS1~S3を実行し、H平面PL2にも歯形TS2を生成する(ステップS5)。
【0043】
更に、
図9に示すように、高さh3(>h2)においてH平面PL2に平行なH平面PL3を生成し、歯形TS3を生成する(ステップS6)。また、高さh4(>h3)においてH平面PL3に平行なH平面PL4を生成し、歯形TS4を生成する(ステップS6)。
【0044】
次に、
図10に示すように、今度はY軸を中心とする基準円RFを描画する(ステップS7)。ここで、Y軸を中心とする基準円半径r
refは、Z軸を中心とする基準円半径r
refと同じ値である。
【0045】
また、
図11に示すように、歯先円がZ軸のP
topに収束するように非線形曲線を描画する(ステップS8)。ここで、P
topは、Z軸において基準円RFと一致する点、すなわち、Z軸の高さが基準円半径r
refとなる点である。なお、ここでは、CADの機能を用いて非線形曲線を描画する場合を例示したが、これに限定されず、公式(f
tip(h)=r
h
ref+M
h(0≦h≦r
ref))を用いて描画するようにしてもよい。
【0046】
更に、
図12に示すように、歯底円RTがZ軸のP
topに収束するように非線形曲線を描画する(ステップS9)。なお、
図12の平面図を斜視図で表現すると、
図13のような立体図になる。なお、ここでは、CADの機能を用いて非線形曲線を描画する場合を例示したが、これに限定されず、公式(f
root(h)=r
h
ref-M
h(0≦h≦r
ref))を用いて描画するようにしてもよい。
【0047】
図14に示すように、上述した基準円RF、歯先円TC、歯底円RTに加え、歯のソリッドSD(
図15)を形成するための基準になり得る他の非線形曲線(P
topに収束)を更に描画する(ステップS10)。
【0048】
その後、
図15に示すように、
図14に示す複数の非線形曲線を繋げて歯のソリッドSDを生成する(ステップS11)。そして、
図16に示すように、円形パターンによってZ軸周りにソリッドSDを歯数Zの数だけ展開(複製)する(ステップS12)。なお、円形パターンは、CADの標機能である。
【0049】
続いて、
図17に示すように、XZ座標平面にインボリュート曲線を描画する(ステップS13)。そして、
図18に示すように、Y軸を中心としてXZ座標平面全周に歯形TSを描画する(ステップS14)。なお、歯形TSの描画方法は、上述したステップS1~S3で説明した方法と同じである。
【0050】
この後、
図19に示すように、S11で生成した歯のソリッドSDとS14で描画した歯形TSとを交差(INTERSECT)し(ステップS15)、
図20に示す1つの歯群TGを生成する。なお、交差(INTERSECT)は、CADの標準機能である。
【0051】
そして、
図21に示すように、円形パターンによってZ軸周りに歯群TGを歯数Zの数だけ展開(複製)し、半球状のギアベースGB1を生成する(ステップS16)。なお、ギアベースGB1は、最終的な球状ギアの基礎となる部材である。
【0052】
次に、
図22に示すように、半球状のギアベースGB1をXY座標平面に関してミラーリングし、球状のギアベースGB2を生成する(ステップS17)。なお、ミラーリングは、CADの標準機能である。
【0053】
図23に示すように、球状のギアベースGB2には、例えば、破線の丸で囲んだ箇所に隙間が生じている。そのため、球状のギアベースGB2をこの状態のまま回転させると、ギアベースGB2の隙間によってZ軸方向(上下方向)に滑りが発生する。
【0054】
そこで、本実施形態では、次述のステップS18からS21によって、球状のギアベースGB2の隙間に新たな歯を形成する。
【0055】
まず、
図24に示すように、球状のギアベースGB2に形成された歯形のうちXY座標平面に一番近い歯形(一番下の歯形)をXY座標平面にペーストする(ステップS18)。なお、説明の都合上、XY座標平面にペーストした歯形を歯形TS10とする。
【0056】
次に、
図25に示すように、XY座標平面にペーストした歯形TS10を回転させ、歯形TS20を描画する(ステップS19)。なお、回転角度は、球状のギアベースGB2の基準歯と基準歯に隣接する隣接歯との中間に歯形TS20が配置される角度である。
【0057】
そして、
図26に示すように、球状のギアベースGB2の歯と歯の間に、新たな歯を描画し、新たな歯のソリッドを生成する(ステップS20)。新たな歯の描画方法や新たな歯のソリッドの生成方法に関しては、上述した方法と同じである。
【0058】
次に、
図27に示すように、新たな歯のソリッドを球状のギアベースGB2に重畳する(ステップS21)。ここで、新たな歯のソリッドを球状のギアベースGB2に対してそのまま重畳すると、
図27に示すように、最終的な球状歯車1にとって不要箇所が生じる。
【0059】
そこで、
図28に示すように、球状のギアベースGB2に重畳した新たな歯のソリッドから不要箇所を除去する(ステップS22)。
【0060】
図29に示すように、最後に、円形パターンによって不要箇所を除去した新たな歯のソリッドをZ軸周りに展開(複製)し、XY座標平面に関してミラーリングを行い、球状歯車1の形状が完成する(ステップS23)。
【0061】
ただし、
図29の状態だと、球状歯車1が中空状態であるため、中空を埋めるソリッドを生成し、中空部分に配置する必要がある。中空を埋めるソリッドは、基礎円BSなどから形成することができる。
【0062】
上述した実施形態によれば、上述したステップS1からS23に基づいて球状歯車1を設計することができる。そのため、回転方向を連続的に変更することが可能であり、かつ、広い可動範囲を有する球状歯車1を作製することができる。
【0063】
また、上述した実施形態によれば、回転動力を伝達しながら、±180度の範囲を有する軸の無限変換が可能になる。特に、球状歯車1は歯と歯が点接触するため、従来のインボリュート歯車のように歯と歯が線接触するものに比べて、歯と歯の間に生じる隙間が低減される。その結果、バッグラッシュ(誤差)を低減できると共に、球状歯車1を組み込んだシステムを小型化することが可能である。
【0064】
<2.変形例>
本発明による球状歯車及び球状歯車の設計方法は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0065】
例えば、上述した実施形態では、式(14)から(17)を用いて任意の高さhのH平面に球状歯車1を設計するための歯形を描画する場合を例示したが、これに限定されない。
【0066】
例えば、球の方程式から任意の高さhのH平面にインボリュート曲線を描画するための式を導出し、導出した式を用いてH平面に球状歯車1を設計するための歯形を描画するようにしてもよい。
【0067】
まず、球の方程式は以下の式(18)で示される。
【数28】
【0068】
上述した式(18)より、以下の式(19)が得られる。
【数29】
【0069】
また、Z軸の高さhにおいてXY座標平面に平行なH平面上の基準円半径r
h
refは、以下の式(20)によって示される。
【数30】
【0070】
上述した式(19)及び式(20)より、以下の式(21)が導出される。
【数31】
【0071】
上述した式(21)によれば、Z軸における任意の高さhにおける基準円半径r
h
refを演算できる。その結果、Z軸における任意の高さhにおけるモジュールM
h、歯先円直径D
h
tip、歯底円直径D
h
root、基礎円直径D
h
baseが、それぞれ、以下の式(22)~(25)によって示される。
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
【0072】
上述した変形例では、H平面に球状歯車1を設計するための歯形を上述した式(22)~(25)によって描画する。その他の手順は、上述した実施形態のステップS1~S23と同じである。
【0073】
このような変形によっても、球状歯車1を設計することができ、回転方向を連続的に変更することが可能であり、かつ、広い可動範囲を有する球状歯車1を作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように本発明による球状歯車は、ロボットの関節(ジョイント)などに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0075】
1 球状歯車
AR1,AR2 弧
BS 基礎円
CR1,CR2 インボリュート曲線
Dh
base 基礎円直径
Dh
root 歯底円直径
Dh
tip 歯先円直径
GB1,GB2 ギアベース
Mh モジュール
PL1 XY座標平面
PL2~PL4 H平面
RF 基準円
rh
ref 基準円半径
RT 歯底円
SD ソリッド
TC 歯先円
TG 歯群
TS 歯形
Xh 座標
Yh 座標
Zh 座標
αh 圧力角
θh インボリュート角
Φ 回転角度