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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】アモルファス合金箔のせん断加工法
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/02 20060101AFI20220825BHJP
   B26F 1/14 20060101ALI20220825BHJP
   B21D 33/00 20060101ALI20220825BHJP
   B21D 28/14 20060101ALI20220825BHJP
   B21D 28/34 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B21D28/02 Z
B26F1/14 A
B21D28/02 C
B21D33/00
B21D28/14 A
B21D28/34 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022011574
(22)【出願日】2022-01-28
【審査請求日】2022-01-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592189206
【氏名又は名称】株式会社小松精機工作所
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 倖太
(72)【発明者】
【氏名】相澤 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 智美
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-097047(JP,A)
【文献】特開2015-193043(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170707(WO,A1)
【文献】特開2020-047831(JP,A)
【文献】特開2020-044635(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第00923811(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/00 - 28/36
B21D 33/00
B26F 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチとダイを有するせん断工具を用いて、複数枚積層されたアモルファス合金箔を、パンチの一度の下降で打ち抜くせん断加工法であって、
上記パンチは、パンチ先端面に形成された第1のエッジと、パンチ側面に形成された第2のエッジとを備え、
上記第1のエッジからパンチ側面までの水平方向の距離と、上記第2のエッジからパンチ先端面までの垂直方向の距離が、それぞれ0.010mm~0.050mmの範囲に設定されており、
上記垂直方向の距離が、各アモルファス合金箔の板厚の52%以下に設定されていることを特徴とするアモルファス合金箔のせん断加工法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス合金箔のプレスせん断加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスせん断加工は極めて生産性が高い加工法であり、自動車部品、家電部品など様々な工業製品に用いられている。
使用される素材は、それぞれ要求される機能によって選択されるが、高強度低延性を特徴とした、加工が困難な素材も製品によっては選択される。
変圧器やモーターに使用されるアモルファス合金箔がその代表例である。アモルファス合金箔に対し引張試験を行うと、図1に示すように、引張強度は2000MPaを超える高強度で、伸びはわずか1%程度しかなく、一般的に流通してしるステンレスや銅、アルミ等の素材と比較すると高強度かつ低延性である。
【0003】
そのアモルファス合金箔のプレスせん断加工では、工具寿命と加工品質の確保が課題とされている。
一般的に、せん断加工荷重の計算は下記の式1によって求められ、素材の強度が高ければ、せん断加工荷重は比例して高くなる。したがって、工具の負担は大きくなり、工具破損の発生頻度は上昇し、摩耗進行により工具寿命は低下する。
式1: P=Ts・0.8・t・l
P:せん断荷重
Ts:被加工材の引張強度
T:被加工材の板厚
L:せん断長さ
【0004】
さらには、素材の低延性により、打抜いた穴及び打抜かれた部品に割れが生じるなど品質にも課題がある。
切口面は、だれ、せん断面、破断面によって構成されるが、だれ、せん断面は、素材の塑性変形によって生成され、破断面は素材が破壊されることによって生成される。
低延性素材であるアモルファス合金箔は、図1に示すように塑性変形が生じづらい。塑性変形が起こる前、または僅かに塑性変形が開始した段階で破壊が生じてしまうために、だれ、せん断面の生成が起こりづらい。
したがって、いかに素材にせん断応力を集中させ、だれ、せん断面を生成するかが切口面の品質(割れがなく、寸法安定性の高い)を確保するうえで重要となる。
しかしながら、せん断応力を集中させるには工具刃先をある程度に鋭利にする必要があり、前述の工具寿命の向上と、品質維持の両立には課題が残されている。
【0005】
【文献】特開2013-013901
【文献】特公昭53-8388
【文献】特開平8-57557
【文献】特開平10-323723
【文献】R. Tilsley/Machinery 93-2383(1953-7)/151頁
【文献】増本健/アモルファス金属の基礎(1982)/オーム社/203頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
せん断加工における工具刃先の形状は、一般的に刃先角が90度(以下「エッジパンチ」)であることが多く、その理由は切れ味や期待する切口面の取得など様々あるが、エッジパンチでは期待する結果(耐久性)を得られないこともあり、工具刃先部形状を工夫する対策が取られている。
例えば、かす上り防止のための刃先部へのシャー角の付与(特許文献1)、精密せん断加工における全せん断面の取得のための微小丸みの付与(非特許文献1)、耐焼付き性向上のためのPress Workingパンチ(以下PWパンチ)の採用(特許文献2)、C面または丸みRを付与したパンチの開発(特許文献3及び4)などが挙げられる。
【0007】
しかしながら、アモルファス合金箔のせん断加工における、工具刃先部の機能的な形状およびその寸法範囲について、臨界的意義を示している特許および論文はない。
なお、特許文献3では、パンチ径の5%~20%の面取りを施すことで打抜き割れのない金属板の打抜き型を報告しているが、実際にパンチ直径比で6.5%の面取りを施したパンチを用いて、アモルファス合金箔の積層穴抜きを行うと、積層した1層目の材料が割れを起こし、期待する効果は得られない。
すなわち、低延性素材のアモルファス合金箔を被加工材としていることから起こる現象であり、一般的なプレス加工に多用されるような、例えばステンレスや銅、アルミ材等と加工現象は一致しない。
これまでの技術では、アモルファス合金箔をプレスせん断加工によって量産することは現実的ではなく、ワイヤーカット加工で対応しているのが実情である。
【0008】
本発明では、アモルファス合金箔のせん断加工において、パンチ刃先部に機能的な形状を付与することによって工具寿命と品質維持の両立を達成することが可能なパンチを提供する。
ここで機能的な形状とは、具体的に、パンチ刃先部への素材からの応力集中を抑制できる形状、且つせん断変形が曲げ変形よりも支配的になる形状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1に係るせん断工具は、アモルファス合金箔のプレスせん断加工に用いる工具であって、パンチ先端面に形成された第1のエッジと、パンチ側面に形成された第2のエッジとを備え、上記第1のエッジからパンチ側面までの水平方向(横方向)の距離と、上記第2のエッジからパンチ先端面までの垂直方向(縦方向)の距離を最適化することにより、被加工材のダイへの引き込みと被加工材のせん断開始とを実現することを特徴としている。
【0010】
請求項2に係るせん断工具は、請求項2の工具であって、上記水平方向の距離及び垂直方向の距離が、それぞれ0.010mm~0.050mmの範囲に設定されていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に係るせん断工具は、請求項1または2の工具であって、上記垂直方向の距離が、アモルファス合金箔の板厚の52%以下に設定されていることを特徴としている。
【0012】
請求項4に係るせん断加工法は、請求項1~3の何れかのせん断工具を用いて、アモルファス合金箔をせん断することを特徴としている。
【0013】
請求項5に係るせん断加工法は、請求項1~3の何れかのせん断工具を用いて、アモルファス合金箔をせん断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高強度低延性金属素材であるアモルファス合金箔を、プレスせん断加工によって効率的に加工することが可能となり、工具破損も抑制できるため、生産性の向上とコストの削減を実現できる。且つ、打抜いた穴及び打抜かれた製品に変形帯や亀裂等が生じない品質を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アモルファス合金箔の引張試験の結果として、引張強度と伸びの関係を示したグラフである。
図2】本発明の実施形態に係る打抜き金型の構成を説明するための構造図である。
図3】本発明の実施形態に係るせん断用パンチの先端部分を示す図及びSEM写真である。
図4】本発明の実施形態で使用したパンチ刃先部の形状を示す概略図である。
図5】電磁鋼板の打抜き加工に際し、5枚の多層で打抜き加工を行う様子を示す模式図である。
図6】本発明の実施形態で使用した6種類のパンチの構成を示す表である。
図7】6種類のパンチの先端角部の使用前におけるSEM写真である。
図8】6種類のパンチの先端角部の加工後におけるSEM写真である。
図9】50,000ショット加工した後におけるパンチ(2)の先端角部のSEM写真である。
図10】パンチ(2)の加工前と50,000ショット加工後の刃先部の形状測定結果を示すグラフである。
図11】6種類のパンチで加工した穴の積層した5層毎の寸法測定結果を示すグラフである。
図12】パンチ(2)で5枚積層したアモルファス合金箔をせん断した際の加工初期から50,000ショットまでの各層における穴寸法の推移を示す図である。
図13】6種類のパンチで加工した5層積層のアモルファス合金箔の内、第1層目の穴形状のSEM写真である。
図14】6種類のパンチで加工した5層積層のアモルファス合金箔の内、第1層目の穴付近を拡大したSEM写真である。
図15】6種類のパンチで加工した5層積層のアモルファス合金箔の内、第1層目の部品形状のSEM写真である。
図16】6種類のパンチで加工した5層積層のアモルファス合金箔の内、第1層目の部品の外周部を拡大したSEM写真である。
図17】有限要素法解析によって計算した、3種類のパンチによるせん断開始時の最大主応力の分布図である。
図18】有限要素法解析によって計算した、2種類のパンチによるせん断開始時の最大主応力の分布図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0017】
[打抜き加工用金型の構成]
図2は、本実施形態に係る打抜き加工用金型10を例示するものであり、パンチ12と、ダイ14と、ストリッパープレート16と、パンチプレート18と、バックプレート20と、スプリング22と、ダイセット24と、ガイドポスト26等で構成される。
ストリッパープレート16とダイ14との間には、加工対象物が載置される。
【0018】
図示しないプレス機からの押圧力がパンチプレート18に加えられると、パンチ12が下降してダイ14との間で加工対象物を打抜く。
この際、ストリッパープレート16に加わる板押さえ力により、加工対象物を平坦に保った状態で、パンチ12を被加工材から引きはがすことが可能となる。
【0019】
図3(a)は、パンチ12の先端形状を示すものであり、先端面12aと側周面12bとの間に、第1のエッジ(角部)E1、傾斜面12c、及び第2のエッジ(角部)E2を備えている(詳細は後述)。図3(b)は、パンチ12の先端部分のSEM写真である。
ただし、パンチ12の形状は円柱状に限定されるものではない。
【0020】
図4は、パンチ12の先端部の拡大断面図であり、パンチ12の先端面12aに形成された第1のエッジE1と、パンチ12の側周面12bとの間の水平方向の距離(幅)をlと、パンチ12の側周面12bに形成された第2のエッジE2と、パンチ12の先端面12aとの間の垂直方向の距離(高さ)をhと、両エッジE1, E2間を繋ぐ傾斜面12cと先端面12aとの外角をθと定義している。
図中のtは、非加工材の板厚を表している。
【0021】
以下においては、図5に示すように、高強度低延性金属素材であるアモルファス合金箔(各板厚25μm)28a~28eを5枚積層した加工対象物28(合計板厚125μm)を、図2の金型10及び図3のパンチ12を用いて連続プレス打抜き加工するに当たり、lとhの寸法を違えた複数のパンチ12を用いることによって、パンチ破損有無の比較と穴抜き品の表面状態観察及び寸法測定を行った。
【0022】
図6は、(1)~(6)の6種類のパンチの構成を示すものである。
これらの中、パンチ(1)は従来のエッジパンチを示しており、一つのエッジのみを有しているためθ=90度であり、l及びhは0となっている。
これに対し、パンチ(2)~パンチ(6)は何れも第1のエッジと第2のエッジを備えており、lとhに0よりも大きな値が設定されている。
パンチ直径は全条件でφ2.003mmとし、同様にダイ直径はφ2.010mmとした。潤滑条件は、無潤滑とした。またパンチの素材としては、一般的な超硬合金を選択した。
【0023】
図7は、パンチ(1)~(6)の使用前における状態を示すSEM写真であり、図3(b)の四角で囲まれた領域を拡大したものである。
【0024】
図8に、各パンチの加工後のSEM写真をそれぞれ示す。
パンチ(1)(エッジパンチ)は、100ショットの加工後において、パンチ刃先部に欠損があることが確認された。同様の実験を3回行ったが、ほぼ同等の加工数で欠損が生じた。
【0025】
一方で、パンチ(2)、パンチ(3)、パンチ(4)、パンチ(6)では、1,000ショットの加工後において欠損は確認されなかった。
これに対し、l&hが比較的大きいパンチ(5)では、加工初期段階で加工穴に割れが生じたことから、5ショットで加工を中断した。
【0026】
さらなる耐久性の評価のため、刃先形状がエッジパンチに近く、もっともパンチ刃先部に負荷がかかり欠損の可能性が高いであろうパンチ(2)を用いて、50,000ショットの連続加工を行った。
図9に、50,000ショット加工後のパンチ(2)の先端部のSEM写真を示す。
欠損は確認されず、加工前のSEM写真と比較しても大きな変化は見られなかった。
【0027】
パンチ(2)の
部の刃先形状部の摩耗量を非接触三次元測定機で加工前後を測定したところ、図10に示すように加工前の刃先形状寸法lが0.008 mmであったのに対して、加工後においては0.013 mm、刃先形状寸法hは加工前に0.010 mmであったのに対して、加工後に0.013 mmであったことから、僅か5 μm程度しか摩耗は進行していないことを確認した。
以上のことから、パンチ刃先部に微小な除去加工をすることでパンチの欠損が抑制できることが示された。
【0028】
次に、穴寸法の評価を行った。図11は、パンチ(1)~パンチ(6)で加工した各層の穴の寸法測定結果である。
刃先形状がl&h=0.050mm以下のパンチ(2)~(4)、またはl=0.050mm, h=0.013mm, θ=15度のパンチ(6)を用いることで、穴抜きされた穴寸法は各層においてパンチ(1)(エッジパンチ)の穴サイズを基準とした場合、±0.005mm以内の精度で加工することができた。
【0029】
図12に、パンチ(2)(l&h=0.010mm)による加工初期から50, 000ショットまでの各層における穴寸法の測定結果を示す。
第1層目は、加工初期から50,000ショットまで寸法変化はほぼ変化しなかった。前述したように、パンチの摩耗がほぼ進行しなかったことによる切れ味の維持と、パンチ直径がほぼ変化しなかった結果によるものと考える。
第2層目と第3層目は30,000ショットまではほぼ変化しなかったが、50,000ショットの段階で穴寸法が大きくなった。
第4層目と第5層目は、加工数量が増加するに従い、寸法が大きくなっていった。これはダイの摩耗が進行した結果によるものであり、ダイ素材を高硬度化することで改善できるものと考える。
【0030】
次に、穴形状の評価を行った。図13は、6種類のパンチで加工した穴形状のSEM観察結果である。
刃先形状がl&h=0.050mm以下のパンチ(2)~(4)、またはl=0.050mm, h=0.013mm, θ=15度のパンチ(6)を用いることで打抜かれた穴の形状に割れを含む欠落等が無く、パンチ輪郭形状と同等形状に打抜けていることが分かった。
【0031】
図14は、6種類のパンチで加工した穴の第1層目の穴付近の表面状態をSEM観察した結果である。
パンチ(1)(エッジパンチ)、パンチ(2)(l&h=0.010mm)、パンチ(6)(l=0.050mm, h=0.013mm, θ=15度)では穴付近の表面にしわの様な変形帯は生じていない。
一方で、l&h=0.025mm以上の刃先形状のパンチ(3)、パンチ(4)、パンチ(5)を用いると変形帯が生じることが分かった。
【0032】
次に、打抜かれた部品の評価を行った。図15は、6種類のパンチで加工した際の、打抜かれた部品の第1層目のSEM写真である。また図16は、打抜かれた部品の外周部を拡大したSEM写真である。
刃先形状がl&h=0.050mm以下のパンチ(1)~(4)、及びパンチ(6)(l=0.050mm, h=0.013mm, θ=15度)を用いることにより、打抜かれた穴の形状に割れを含む欠落等が無く、パンチ輪郭形状と同等形状に打抜けていることが分かった。
これに対し、l&h=0.125mmのパンチ(5)では、外周部に亀裂(割れ)が生じた。
【0033】
なお、変形帯は素材が曲げ変形することによって起こる現象とされており(非特許文献2)、せん断加工においては、パンチ刃先が加工進行に伴い摩耗し、エッジ形状から丸みRのような形状変更することによって、曲げ変形が生じることが推測できる。しかしながら、その刃先形状やその寸法の境界条件は明らかになっていない。
【0034】
刃先形状およびその寸法による変形帯の発生有無の境界条件を、有限要素法解析(FEM解析)によって検証した。
図17及び図18は、FEM解析によって計算した、5種類のパンチによって1層のアモルファス合金箔(板厚25μm)を加工する場合の、せん断開始時の最大主応力を示すものである。
すなわち、図17(a)はパンチ(1)(エッジパンチ)に対応し、図17(b)はパンチ(2)(l&h=0.010mm)に、図17(c)はパンチ(3)(l&h=0.025mm)に、図18(a)はパンチ(6)(l=0.050mm,h=0.013mm, θ=15度)に、図18(b)は初出のパンチ(x)(l=0.025mm,h=0.014mm, θ=30)にそれぞれ対応している。
【0035】
パンチ(3)以外の、パンチ(1)、パンチ(2)、パンチ(6)、パンチ(X)では、それぞれせん断が開始している。
なお、せん断変形の定義は、実際の加工においては、パンチ刃先とダイ刃先とを結ぶ領域のせん断応力が大きくなり、せん断すべりが発生することでせん断面が形成されるとされているが、FEM解析において、せん断滑りを判断することはできない。
そこで、本件では、被加工材がパンチ側面に沿う変形、また、その際にパンチ刃先とダイ刃先を結ぶ領域(2次元のFEMでは線上)の応力が周囲と比較して大きくなっていることを、せん断変形と定義する。
【0036】
一方でパンチ(3)(l&h=0.025mm)では、曲げ変形が起こるのみでせん断変形が始まらなかった。
得られた結果は、図14で示した穴表面の変形帯の有無と一致していた。
変形帯の発生有無の境界条件は、曲げ変形がせん断変形よりも支配的になることによるものと考えることができる。
パンチ(3)の結果(図17(c))とパンチ(X)の結果(図18(b))との比較から、せん断変形を支配的にするには、第1のエッジE1が素材に接触してから、第2のエッジE2に接触するまでの時間(距離)が重要な因子であることが分かる。すなわち、第1のエッジE1が素材に接触してから、第2のエッジE2に接触するまでの時間(距離)が短いほど、せん断変形を支配的にすることができる。
これまでの実験から、以下の式2の通り、刃先形状高さhが素材板厚の52%以内であれば、加工の変形モードにおいて、せん断変形が曲げ変形よりも支配的になり、穴表面上に変形帯が生じないことが確かめられた。
式2:0.013(パンチ(6)のh)÷0.025(板厚)=0.52
【符号の説明】
【0037】
12 パンチ
12a パンチの先端面
12b パンチの側周面
12c パンチの傾斜面
E1 第1のエッジ
E2 第2のエッジ
h 第2のエッジとパンチ先端面間の垂直方向の距離
l 第1のエッジとパンチ側周面間の水平方向の距離
14 ダイ
16 ストリッパープレート
18 パンチプレート
20 バックプレート
22 スプリング
24 ダイセット
26 ガイドポスト
28 アモルファス合金箔
【要約】
【課題】アモルファス合金箔のせん断加工において、パンチ刃先部に機能的な形状を付与することによって工具寿命と品質維持の両立を達成すること。
【解決手段】アモルファス合金箔28のプレスせん断加工に用いる工具であって、パンチ先端面12aに形成された第1のエッジE1と、パンチ側周面12bに形成された第2のエッジE2とを備え、第1のエッジE1からパンチ側周面12bまでの水平方向の距離lと、第2のエッジE2からパンチ先端面12aまでの垂直方向の距離hを、それぞれ0.010mm~0.050mmの範囲に設定した。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18