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特許7129063表面付近に遷移金属が内包されたゼオライトおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】表面付近に遷移金属が内包されたゼオライトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/36 20060101AFI20220825BHJP
   B01J 29/44 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C01B39/36
B01J29/44 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018222638
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020083721
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】稲木 千津
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
(72)【発明者】
【氏名】中島 昭
(72)【発明者】
【氏名】多湖 輝興
(72)【発明者】
【氏名】藤墳 大裕
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-183496(JP,A)
【文献】特開2009-106863(JP,A)
【文献】特開2007-161498(JP,A)
【文献】特開2007-196187(JP,A)
【文献】特開2006-182623(JP,A)
【文献】特開2009-165941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00
B01J 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属粒子が内包されたゼオライト粒子であって、
前記遷移金属粒子は、遷移金属元素を含む化合物または遷移金属単体であり、
前記ゼオライト粒子の短径をDsとしたとき、前記ゼオライト粒子の表面から0.2Dsの範囲に前記遷移金属粒子の80%以上が存在するが、前記遷移金属粒子は表面には露出しておらず、
1種類の結晶構造を有する、
ゼオライト粒子
【請求項2】
遷移金属粒子が内包されたゼオライト粒子の製造方法であって、
前記遷移金属粒子は、遷移金属元素を含む化合物または遷移金属単体であり、
ゼオライト粒子の表面に遷移金属粒子が担持された遷移金属担持ゼオライト粒子を調製する工程、
前記遷移金属担持ゼオライト粒子の表面にゼオライト前駆体層を形成してゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライト粒子を調製する工程、
前記ゼオライト前駆体層を前記ゼオライト粒子と同一の結晶構造を有するゼオライトに転換する工程、を含む、
製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト粒子のサイズの平均が50nm以上、10,000nm以下の範囲にある、請求項1に記載のゼオライト粒子。
【請求項4】
前記ゼオライト粒子が、その結晶構造の骨格を形成する元素として、Si、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素とO(酸素)とを含む、請求項3に記載のゼオライト粒子。
【請求項5】
前記ゼオライト前駆体層は、前記遷移金属担持ゼオライト粒子に含まれるゼオライトの骨格を形成する元素およびOH基を含む非晶質の層である、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属が内包されたゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属、その中でも特に貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びオスミウムの総称であって、装身具、電子材料、触媒といった様々な分野で使用されている。
【0003】
貴金属を触媒に用いる場合、貴金属は微粒子の状態で使用されることが多い。これは、貴金属を微粒子にして貴金属の表面を増やすことで、触媒活性を高めるためである。また、このような貴金属の微粒子は、その広い表面を最大限生かすため、表面積の大きい担体に分散担持されるのが一般的である。このような貴金属の微粒子が担体に担持された触媒は、種々の触媒反応に高い触媒活性を示すものの、例えば、高温で使用すると貴金属の微粒子が熱によって移動・接触して成長してしまい(シンタリング)、貴金属の表面が少なくなるという問題がある。このような問題を解決する方法は種々検討されており、例えば特許文献1には、貴金属をゼオライトに内包させることで貴金属粒子同士の移動をなくし、シンタリングを抑制することができるゼオライトが開示されている。
【0004】
更に、特許文献1には、このようなゼオライトは、例えば貴金属粒子を生成した後、この貴金属粒子の表面にSiO2層を形成し、有機構造規定剤を含む水溶液中でこれを水熱処理することで合成できることが開示されている。また、実施例に記載された電子顕微鏡写真から、特許文献1の方法で得られたゼオライトは、その内部に貴金属粒子がランダムに存在していることが確認できる。
【0005】
特許文献2には、金属前駆体をゼオライトに挿入する工程、親ゼオライトを親ゼオライトよりも高い骨格密度を有するゼオライトに転換する工程を含む、金属が内包されたゼオライトの製造方法が開示されている。また、実施例では、親ゼオライトに金属前駆体を挿入する方法としてイオン交換法が用いられ、この方法で合成されたゼオライトの電子顕微鏡写真が開示されている。この電子顕微鏡写真からは、ゼオライトの内部に貴金属粒子がランダムに存在していることが確認できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-128480号公報
【文献】特表2017-523113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2のようなゼオライトの内部に遷移金属がランダムに存在するゼオライトは、遷移金属同士の移動をなくし、シンタリングを抑制することができるという課題を解決することができる。しかし、これを触媒反応に用いる場合は、触媒反応の活性種となる遷移金属がゼオライトで覆われているため、反応原料が遷移金属まで到達しにくく、触媒活性が低下しやすいという課題を有していた。特に、ゼオライトの中心付近に存在する遷移金属には、より反応原料が到達しにくくなるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ゼオライトの表面付近に遷移金属を意図的に存在させてゼオライトの表面から遷移金属までの距離を小さくすることで、反応原料が遷移金属まで到達しやすくした。
【発明の効果】
【0009】
遷移金属のシンタリングを抑制することができるという従来の効果に加え、これを触媒反応に用いても高い活性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の遷移金属が内包されたゼオライトのイメージ図。
図2】従来の遷移金属が内包されたゼオライト(例えば、特許文献1、2)のイメージ図。
図3】本発明の遷移金属が内包されたゼオライトの製造方法のイメージ図。
図4】ドライゲルコンバージョンのイメージ図。
図5】実施例1のゼオライトの断面の透過型電子顕微鏡画像。
図6】実施例2のゼオライトの断面の走査型透過電子顕微鏡画像。
図7】実施例1、2のゼオライトのX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の遷移金属が内包されたゼオライト(以下、「本発明のゼオライト」ともいう。)の概要および先行技術との相違について説明する。
【0012】
[本発明のゼオライトの概要]
本発明のゼオライトは、遷移金属が内包されたゼオライトであって、その表面付近に遷移金属が存在している。具体的には、本発明のゼオライトは、前記ゼオライトの短径をDsとしたとき、前記ゼオライトの表面から0.2Dsの範囲に遷移金属の80%以上が存在する。そのイメージを図1に示した。
【0013】
[先行技術との相違]
本発明のゼオライトは、前述の特許文献1、2のゼオライトと比較して、「前記ゼオライトの短径をDsとしたとき、前記ゼオライトの表面から0.2Dsの範囲に遷移金属の80%以上が存在する」という点で少なくとも相違する。従来の遷移金属が内包されたゼオライト(例えば、図2のようなゼオライト。)ではゼオライトの内部において遷移金属がランダムに存在しているのに対し、本発明のゼオライトは、ゼオライトに含まれる遷移金属の80%以上がゼオライトの表面から0.2Dsの範囲に存在している。本発明のゼオライトは、前述の特許文献1,2にないこのような特徴を有しており、触媒反応に使用しても高い活性が期待できる。
【0014】
以下、本発明のゼオライトの実施形態について、詳述する。
【0015】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトは、遷移金属が内包されたゼオライトであって、前記ゼオライトの短径をDsとしたとき、前記ゼオライトの表面から0.2Dsの範囲に遷移金属の80%以上が存在する。本発明において、「前記ゼオライトの表面から0.2Dsの範囲に遷移金属の80%以上が存在する」とは、ゼオライトの表面から0.2Dsの範囲に存在する遷移金属の個数が、ゼオライト全体に含まれる遷移金属の個数に対して80%以上であることを指す。本発明のゼオライトにおいては、90%以上の遷移金属が前述の範囲に含まれることが好ましく、100%の遷移金属が前述の範囲に含まれることが特に好ましい。本発明のゼオライトにおいては、前述の範囲に含まれる遷移金属が多いほど、触媒に使用しても高い活性が期待できる。
【0016】
本発明のゼオライトに含まれる遷移金属は、本発明のゼオライトの表面に露出していないことが好ましい。例えば、高温下で本発明のゼオライトを使用する場合、遷移金属が表面に露出していると、遷移金属が凝集しやすくなる。また、遷移金属を被毒する物質が存在する環境下で本発明のゼオライトを使用する場合、遷移金属が表面に露出していると、遷移金属が被毒されてしまうことがある。このように表面に露出した遷移金属の有無は、本発明のゼオライトの細孔に入らない大きさの反応原料を用いて触媒反応試験を行うことで判断することができる。表面に露出した遷移金属がない場合は前述の触媒反応は起こらないが、表面に露出した遷移金属が存在する場合は前述の触媒反応が起こるので、このような触媒反応を用いて判断することができる。
【0017】
本発明のゼオライトにおける遷移金属の含有量は、本発明のゼオライトの質量に対して0.01質量%以上、10質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.01質量%以上、5質量%以下の範囲にあることが好ましく0.01質量%以上、1質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。遷移金属の含有量が少ないほうが、本発明のゼオライトの表層に遷移金属をより均一に分布させやすくなる。なお、遷移金属の含有量は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0018】
本発明のゼオライトに含まれる遷移金属のサイズは、本発明のゼオライトの短径Dsの1/10以下であることが好ましく、1/25以下であることがより好ましく、1/50以下であることが特に好ましい。本発明のゼオライトに対して遷移金属のサイズが小さいほうが、より多くの遷移金属を本発明のゼオライトに内包させることができる。なお、本発明においては、遷移金属のサイズとは一次粒子の長径を指すものとする。
【0019】
本発明のゼオライトにおける遷移金属は、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の1種類以上を含む粒子を指すものである。遷移金属の中でも、特に、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osから選ばれる少なくとも1種の元素を含む貴金属であることが好ましい。この貴金属の中でも、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれる少なくとも1種の元素を含む粒子であることが特に好ましい。これらの元素は、例えば、炭化水素の水素化反応に用いる触媒の活性成分として好適である。なお、遷移金属は、金属単体であってもよく、化合物であってもよい。化合物としては、例えば、酸化物でもよく、また配位子を含む錯体であってもよい。また、遷移金属のサイズの平均(平均粒子径)は、0.3nm以上、20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上、10nm以下であることがより好ましく、更に1nm以上、5nm以下であることが特に好ましい。この平均粒子径が小さいほど、遷移金属の表面積が増加するので、これを触媒の活性成分として用いると高い活性が期待できる。なお、この平均粒子径は、本発明のゼオライトの断面を透過型電子顕微鏡観察する方法により測定される。
【0020】
本発明のゼオライトのサイズの平均(平均粒子径)は、50nm以上、10,000nm以下の範囲にあってもよく、250nm以上、10,000nm以下の範囲にあってもよく、500nm以上、10,000nm以下の範囲にあってもよい。従来の遷移金属が内包されたゼオライトは、そのサイズが大きくなればなるほど、ゼオライトの表面から遷移金属までの距離が長くなるので、触媒反応に使用すると活性が低くなりやすい。しかし、本発明のゼオライトは、ゼオライトの表面付近に遷移金属が存在しているので、そのサイズが大きくなったとしても、触媒の活性成分として用いた場合の活性が低下しにくい。更に、ゼオライトのサイズが大きくなれば、ゼオライト自体の耐熱性等が向上するので、様々な反応条件の触媒反応に用いることができる。
【0021】
本発明のゼオライトは、国際ゼオライト学会(IZA)が定義したアルファベット3文字を用いた構造コードに分類される1種類の結晶構造を有する。例えば、FAU、MFI、CHA、MOR、BEA等の構造コードから選ばれる1種類の結晶構造を有する。ゼオライトはこれらの結晶構造によって細孔の大きさがある程度決まるので、触媒反応の用途によって最適な細孔の大きさを有する構造を適宜選択すればよい。
【0022】
本発明のゼオライトは、前述の結晶構造の骨格を形成する元素として、Si、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素とO(酸素)とを含む。特にゼオライトの結晶構造の骨格を形成するこれらの元素の比率は、ゼオライトの特性に大きな影響を与える。例えば、SiとAlの元素の比率は、SiO2/Al23のモル比(ケイバン比)で一般的にあらわされ、この比率が高いほうが耐水熱性(水蒸気の存在下で高温に晒された際の結晶構造の壊れにくさ)が高くなりやすい。一方、この比率が低いほうが、イオン交換能は高くなりやすい。このイオン交換能は、骨格中に存在する陽イオンの価数の違いによって発現する。例えば、Siは骨格中において4価の陽イオンとして存在しており、Alは3価の陽イオンで存在しているので、骨格中のAlが増えるほどゼオライトの骨格の電荷はマイナスになる。このマイナスの電荷を補うために骨格外から陽イオンが導入される。この骨格外から導入された陽イオンは、他の陽イオンと容易にイオン交換することができる。例えば、Na+が導入されているものをNH4 +に置換したり、NH4 +が置換されているゼオライトをスチーム焼成してH+に転換したり、H+を他の金属イオン(例えば、Cu2+等)とイオン交換することができる。なお、本発明のゼオライトは、中心部と表面付近でこれらの元素の比率が異なるゼオライトであってもよい。一般的には、これらの元素の比率はゼオライトの内部と表面付近で同じであるが、本発明のゼオライトは、ゼオライトの内部のケイバン比を低くしてイオン交換能を高くしつつ、表面付近のケイバン比を高くして耐水熱性を高くすることもできる。
【0023】
[本発明のゼオライトの製造方法の概要]
本発明のゼオライトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、あらかじめゼオライトを調製または準備しておき、その表面に遷移金属を担持し、その表面にゼオライト層を新たに形成することで、表面付近に遷移金属が内包されたゼオライトを調製することができる製造方法である。具体的には、遷移金属が内包されたゼオライトの製造方法であって、ゼオライトの表面に遷移金属が担持された遷移金属担持ゼオライトを調製する工程(以下、「遷移金属担持ゼオライト調製工程」ともいう。)、前記遷移金属担持ゼオライトの表面にゼオライト前駆体層を形成してゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトを調製する工程(以下、「ゼオライト前駆体層形成工程」ともいう。)、前記ゼオライト前駆体層をゼオライトに転換する工程(以下、「転換工程」ともいう。)、を含む、製造方法である。そのイメージを図3に示した。
【0024】
[先行技術との相違]
本発明の製造方法は、前述の特許文献1、2の製造方法と比較して、「ゼオライトの表面に遷移金属が担持された遷移金属担持ゼオライトを調製する工程、前記遷移金属担持ゼオライトの表面にゼオライト前駆体層を形成してゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトを調製する工程、前記ゼオライト前駆体層をゼオライトに転換する工程」を含むという点で少なくとも相違する。本発明の製造方法は、このように前述の特許文献1、2の製造方法にない工程を有しており、これにより表面付近に遷移金属が内包されたゼオライトを意図的に調製することができる。そして、このようなゼオライトは、前述のとおり触媒反応に使用しても高い活性が期待できる。
【0025】
以下、本発明の製造方法の実施形態について、詳述する。
【0026】
[遷移金属担持ゼオライト調製工程]
本発明の製造方法は、前述の遷移金属担持ゼオライト調製工程を含む。この工程では、ゼオライトの表面に遷移金属を担持して、遷移金属担持ゼオライトを調製する。ゼオライトの表面に遷移金属を担持する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、遷移金属とゼオライトとを溶媒中で混合する方法を用いることができる。このほかにも、遷移金属塩が溶解した液にゼオライトを添加したあとで遷移金属を析出させる方法等を用いることもできる。ただし、これらの方法を用いる場合には、遷移金属イオンがゼオライトの内部までイオン交換されないように十分に注意して行う必要がある。遷移金属イオンがゼオライトの内部までイオン交換されてしまうと、ゼオライトの内部に遷移金属イオンが浸透してしまうので、遷移金属が粒子として生成しなかったり、仮に遷移金属が粒子として生成したとしてもゼオライトの内部に析出してしまう。遷移金属担持ゼオライトがこのような状態では、表面付近に遷移金属が担持されたゼオライトは得られにくくなる。したがって、本発明の製造方法では、遷移金属とゼオライトとを溶媒中で混合する方法を用いることが好ましい。
【0027】
この工程で用いるゼオライトは、国際ゼオライト学会(IZA)が定義したアルファベット3文字を用いた構造コードに分類される1種類の結晶構造を有する。例えば、FAU、MFI、CHA、MOR、BEA等の構造コードから選ばれる1種類の結晶構造を有する。このようなゼオライトは、市販品を購入してもよく、従来公知の方法で合成してもよい。更に、前述の結晶構造の骨格を形成する元素として、Si、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素とO(酸素)とを含み、これらの元素の種類及び比率は、その目的によって適宜調整してよい。
【0028】
この工程で用いるゼオライトのサイズは、本発明のゼオライトのサイズを決定する因子のひとつである。この工程で用いるゼオライトのサイズは、平均粒子径として30nm以上、10,000nm以下であってもよく、150nm以上、10,000nm以下であってもよく、300nm以上、10,000nm以下であってもよい。特に、この工程で用いるゼオライトのサイズが大きくなれば、本発明のゼオライトのサイズも大きくなり、本発明のゼオライトの耐熱性等が向上するので、様々な反応条件の触媒反応に用いることができる。
【0029】
この工程で用いる遷移金属は、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素から選ばれる少なくとも1種類以上を含む粒子である。遷移金属の中でも、特に、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osから選ばれる少なくとも1種の元素を含む貴金属であることが好ましく、Pt、Pd、Rh、Ruから選ばれる少なくとも1種の元素を含む貴金属であることが特に好ましい。これらの元素は、例えば、炭化水素の水素化反応に用いる触媒の活性成分として好適である。なお、この工程で用いる遷移金属は、金属単体であってもよく、化合物であってもよい。化合物としては、例えば、酸化物でもよく、また配位子を含む錯体であってもよい。また、この工程で用いる遷移金属のサイズは、平均粒子径として0.3nm以上、20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上、10nm以下であることがより好ましく、更に1nm以上、5nm以下であることが特に好ましい。この工程で用いる遷移金属のサイズが小さいほど、本発明のゼオライトに含まれる遷移金属のサイズが小さくなりその表面積が増加するので、これを触媒の活性成分として用いると高い活性が期待できる。なお、この工程で用いる遷移金属は、ゾルの状態で溶媒中に分散していることが好ましい。遷移金属が分散したゾルは、市販品を購入してもよく、従来公知の方法で溶媒中に遷移金属を析出させる方法で調製してもよい。
【0030】
この工程において遷移金属とゼオライトとを溶媒中で混合する方法を用いる場合は、ゼオライトが分散したスラリーと、遷移金属が分散したゾルとを混合することが好ましい。このとき、混合後の溶媒中に含まれるゼオライトと遷移金属の質量は、最終的に得られる本発明のゼオライトの遷移金属の含有量が前述の範囲になるように、後述する工程を考慮しつつ適宜調整される。また、ゼオライトが分散したスラリーに含まれるゼオライトの濃度は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。更に、遷移金属が分散したゾルに含まれる遷移金属の濃度は、金属換算で、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。前述の濃度の範囲内であれば、両方の液を混合した際に凝集が起こりにくく、遷移金属が凝集せず分散してゼオライトの表面に担持されるので好ましい。
【0031】
この工程において遷移金属とゼオライトとを溶媒中で混合する場合は、ゼオライトの表面をシランカップリング剤を用いて表面処理しておくことが好ましい。シランカップリング剤でゼオライトの表面を処理しておくことにより、遷移金属とゼオライトとの接着性が高くなる。ここで、アミノ基を有するシランカップリング剤でゼオライトの表面を処理しておくと、遷移金属とゼオライトとの接着性がより高くなるので、好ましい。アミノ基を有するシランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピルシラン]等を使用することができる。特に、ゼオライトのイオン交換サイトがアンモニウムイオン(NH4 +)で置換されたNH4型ゼオライトの表面をアミノ基を有するシランカップリング剤で表面処理しておくと、遷移金属とゼオライトとの接着性が特に高くなるとともに、遷移金属がゼオライトの表面により単分散した状態で担持されやすくなるので、好ましい。更に、遷移金属が貴金属である場合は、前述のシランカップリング剤の効果が格別に発揮されるので、きわめて好ましい。
【0032】
[ゼオライト前駆体層形成工程]
本発明の製造方法は、前述のゼオライト前駆体層形成工程を含む。この工程では、遷移金属担持ゼオライト調製工程で得られた遷移金属担持ゼオライトの表面にゼオライト前駆体層を形成して、ゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトを調製する。ここで、ゼオライト前駆体層とは、ゼオライトの結晶構造の骨格を形成する元素(Si、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素とO(酸素))を含む非晶質の層であって、OH基を多く含む。例えば、遷移金属担持ゼオライトに含まれるゼオライトの骨格を形成する元素がSi、Al、Oであれば、同じ元素を含む非晶質のシリカアルミナの層を遷移金属担持ゼオライトの表面に形成する。このような非晶質の層を形成する方法は、従来公知の沈殿法やゾルゲル法などがある。非晶質のシリカアルミナの層を沈殿法で形成する方法の一例として、ケイ酸イオンを含む酸溶液とアルミニウムイオンを含むアルカリ溶液を準備し、これらを同時に遷移金属担持ゼオライトが分散した液に添加する方法がある。また、非晶質のシリカアルミナ層をゾルゲル法で形成する方法の一例として、遷移金属担持ゼオライトが分散した液にSiアルコキシドとAlアルコキシドとを添加し、これらのアルコキシドを加水分解する方法もある。以下、沈殿法を用いて遷移金属担持ゼオライトの表面に非晶質の層を形成する方法を例に、この工程について詳述する。
【0033】
この工程で沈殿法を用いる場合、ゼオライトの結晶構造の骨格を形成する元素を含む酸溶液およびアルカリ溶液を準備し、これらのどちらか一方または両方にゼオライトの結晶構造の骨格を形成する元素(Si、Al、Ti、Pから選ばれる1種類以上の元素とO(酸素))を含ませ、遷移金属担持ゼオライトを含む液中でこれらを混合することが好ましい。このとき、酸溶液とアルカリ溶液の中和反応によって、遷移金属担持ゼオライトの表面に前述の元素を含むゼオライト前駆体層が形成される。この工程で沈殿法を用いる場合、酸溶液、アルカリ溶液のどちらか一方またはその両方に含まれる前述の元素の含有量は、それぞれ酸化物換算(SiはSiO2換算、AlはAl23換算、TiはTiO2換算、PはP25換算)で5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。また、酸溶液とアルカリ溶液の添加量は、遷移金属担持ゼオライトの表面に形成するゼオライト前駆体層の厚さによって、前述の濃度とともに適宜調整される。
【0034】
この工程で形成されるゼオライト前駆体層の厚さは、遷移金属担持ゼオライトに含まれる遷移金属のサイズの平均値(平均粒子径)に対して、5倍以上、200倍以下であることが好ましく、10倍以上、100倍以下であることがより好ましい。ゼオライト前駆体層が薄すぎると結晶化時に遷移金属が移動しゼオライト前駆体層の表面に析出したり凝集する。ゼオライト前駆体層が厚くなりすぎると、ゼオライト前駆体層の表層から遷移金属までの距離が長くなってしまい、本発明の製造方法で最終的に得られるゼオライトの表面付近に存在する遷移金属が少なくなることがある。
【0035】
[ゼオライト前駆体層転換工程]
本発明の製造方法は、前述のゼオライト前駆体層転換工程を含む。この工程では、ゼオライト前駆体層形成工程で得られたゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトのゼオライト前駆体層をゼオライトに転換して、遷移金属が内包されたゼオライトを調製する。ゼオライト前駆体層をゼオライトに転換する工程としては、従来のゼオライトの調製方法を用いることができる。例えば、有機構造規定剤、アルカリ源のいずれか一方またはその両方の存在下においてゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトを水熱処理する方法や、ゼオライト前駆体層に有機構造規定剤およびアルカリ源を含浸担持した後、ドライゲルコンバージョンする方法がある。なお、ドライゲルコンバージョンは、一般的に、水蒸気、例えば加圧水蒸気を用いて気相でゼオライトの結晶化を促す方法であって、図4のような方法で実施される。以下、この工程について詳述する。
【0036】
この工程では、ゼオライト前駆体層を所望のゼオライトに転換するために、必要によって有機構造規定剤を加えてもよい。有機構造規定剤は、ゼオライトの結晶構造を形成するための鋳型のようなものであって、ゼオライトの結晶構造の形成に大きな影響を与える。例えば、MFIの結晶構造を有するゼオライトを合成したい場合は、テトラプロピルアンモニウム塩を用いることが好ましく、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドなどを用いることができる。この他にも、BEAの結晶構造を有するゼオライトを合成したい場合はテトラエチルアンモニウム塩を用いることができ、CHAの結晶構造を有するゼオライトを合成したい場合はトリメチル アダマンチルアンモニウム塩を用いることができる。更に、これらの有機構造規定剤に加え、必要によって水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといったアルカリ源を添加してもよい。これらのアルカリ源は、ゼオライトの結晶構造の生成を助ける働きがあり、アルカリ源に含まれるアルカリイオンはゼオライトの結晶構造の電荷補償としても働く。これらの有機構造規定剤やアルカリ源は、水熱処理法を用いる場合はゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトが分散した溶媒中に添加して使用され、ドライゲルコンバージョンを用いる場合は含浸法を用いて前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトに直接担持される。なお、ドライゲルコンバージョンを用いる場合は、有機構造規定剤やアルカリ源を担持する前に、前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトを400℃以上、700℃以下の温度で焼成することが好ましい。この焼成する際の温度(焼成温度)は、450℃以上、650℃以下であることが好ましく、500℃以上、600℃以下であることがより好ましい。このような焼成温度でゼオライト前駆体層を含む遷移金属担持ゼオライトを焼成することで、ゼオライト前駆体層に含まれる遷移金属の凝集を防ぎつつ、ゼオライト前駆体層に含まれるOH基を適切に除去できる。OH基を多く含むゼオライト前駆体層はゼオライトに転換される際に溶解しやすく、遷移金属を含んだゼオライト前駆体層が溶解すると、遷移金属が前駆体層の表面に露出し凝集しやすくなる。そこで、このような焼成工程を加えて、ゼオライト前駆体層に含まれるOH基を少なくしておくことで、必要以上にゼオライト前駆体層が溶解することを防げる。
【0037】
この工程では、水熱処理法を用いる場合であってもドライゲルコンバージョンを用いる場合であっても、水の存在下でゼオライト前駆体層を有する遷移金属担持ゼオライトを密閉容器下で加熱処理することが好ましい。加熱処理をする際の温度はゼオライトの種類によって異なるが、水熱処理法を用いる場合は概ね80℃以上、250℃以下の範囲であることが好ましく、ドライゲルコンバージョンを用いる場合は概ね100℃以上、250℃以下の範囲であることが好ましい。また、加熱処理時間は、どちらも概ね3時間以上、72時間以下であることが好ましく、6時間以上、48時間以下であることがより好ましい。加熱処理時間は、ゼオライト前駆体層を有する遷移金属担持ゼオライトの仕込量や加熱処理温度によっても左右されるが、概ねこの範囲にあればゼオライト前駆体層をゼオライト層に転換することができる。
【0038】
この工程において得られる表面付近に遷移金属が内包されたゼオライトは、必要によって後処理を行ってもよい。例えば、有機構造規定剤を使用した場合は、これを除去するために500℃以上、600℃以下の温度で焼成してもよい。また、アルカリ源を除去したいのであれば、イオン交換水等を用いて洗浄してもよい。
【実施例
【0039】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施範囲に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1:MFI/Pt含有量0.04質量%/内包]
<遷移金属担持ゼオライト調製工程>
純水7240gに塩化白金酸6水和物2.39g(Ptとして0.9g)を溶解した水溶液に、錯化安定剤として濃度1.0質量% のクエン酸三ナトリウム水溶液746gと還元剤として濃度0.1質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液62.8gとを加え、窒素雰囲気下において20℃で1時間攪拌して、白金の分散液を得た。この分散液を限外濾過膜法洗浄により精製した後濃縮し、金属換算で濃度0.04質量%の白金の分散液を得た。このとき、分散液に含まれる白金の平均粒子径は3.1nmであった。
【0041】
イオン交換水100gに3-アミノプロピルトリメトキシシラン1.27gを加え、室温で撹拌し、その後MFI構造を有するNH4型ゼオライト(SiO2/Al23モル比=30)20gを加えた。これを室温で2時間撹拌した後、前述の白金の分散液を20.4g加えて、さらに30分間攪拌して、白金担持ゼオライトの分散液を得た。
【0042】
<ゼオライト前駆体層形成工程>
Si濃度が24.0質量%(SiO2濃度換算)のケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.1)を準備し、これをイオン交換水で希釈したあと水素型陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通過させて、Si濃度が4.6質量%(SiO2換算)、pHが2.65の酸性ケイ酸液を得た。これをさらにイオン交換水で希釈し、Si濃度0.46質量%(SiO2濃度換算)の酸性ケイ酸液を調製した。その後、この酸性ケイ酸液225gと、Al濃度が0.060質量%(Al23濃度換算)でありNa濃度が0.046質量%(Na2O濃度換算)であるアルミン酸ナトリウム水溶液100gとを一定速度で22.5時間かけて前述の白金担持ゼオライトの分散液に添加した後、室温で1.5時間攪拌した。この分散液に含まれる固形分を濾過して分離し、更にイオン交換水で洗浄後110℃で乾燥して、ゼオライト前駆体層を含む白金担持ゼオライトを得た。その後、このゼオライトを加熱炉に仕込み、2℃/minの昇温速度で550℃まで昇温し、空気中で4時間焼成した。
【0043】
<ゼオライト前駆体層転換工程>
前述の工程で得られたゼオライト前駆体層を含む白金担持ゼオライト8.1gに、水酸化ナトリウムおよびテトラプロヒルアンモニウムヒドロキシドを含む水溶液(水酸化ナトリウム濃度8.7質量%、テトラプロヒルアンモニウムヒドロキシド濃度2.9質量%)8.3gをポアフィリング法で含浸し、80℃で1時間乾燥することで、アルカリ源および有機構造規定剤が担持されたゼオライト前駆体層を含む白金担持ゼオライトを得た。PTFE製の圧力容器(容積100ml)にイオン交換水を12mL仕込み、その上部にこのゼオライトを設置して密封した後、180℃で12時間保持した。得られた生成物を、洗浄、乾燥後、1℃/minで550℃まで昇温し、空気中で2時間焼成することで、遷移金属が内包されたゼオライトを得た。
【0044】
[実施例2:MFI/Pt含有量0.30質量%/内包]
遷移金属担持ゼオライト調製工程で3-アミノプロピルトリメトキシシランを2.00g、白金の分散液を120.0g用いた以外は実施例1と同様にして遷移金属が内包されたゼオライトを得た。
【0045】
[比較例1:MFI/Pt含有量0.04質量%/表面担持]
実施例1で用いたNH4型ゼオライト400gに0.25Mの塩化ナトリウム水溶液4Lを加えて80℃で20分間イオン交換をし、その後濾過した。これを4回繰り返してイオン交換水で十分に洗浄した後110℃で乾燥し、Na型ゼオライトを調製した。このNa型ゼオライト5.0gに、実施例1と同様の方法で得られた白金の分散液5.1gをポアフィリング法で含浸させ、110℃で乾燥した。これを1℃/minで550℃まで昇温し、空気中で2時間焼成することで、白金が表面に担持されたゼオライトを得た。
【0046】
上記実施例1、2及び比較例1の方法で得られたゼオライトについて、以下の測定を行った。その結果を、表1に示した。
【0047】
[ゼオライト中における遷移金属の存在個所]
ゼオライトの断面が観察できるように前処理(切断)した状態で、透過型電子顕微鏡(HF-2200、日立ハイテクノロジーズ製)および走査型透過電子顕微鏡(HF-2210、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて実施例1、2及び比較例1の方法で得られたゼオライトおよびそれに含まれる遷移金属を観察した。実施例1の透過型電子顕微鏡画像を図5に示した。この画像から、確認できるすべての遷移金属が表面に露出しておらずゼオライト内部に存在していることを確認した(図5の黒点が遷移金属)。そして、遷移金属の周囲にゼオライト骨格に由来する格子縞が観察されることから、遷移金属の周囲がゼオライトであることが確認できた。さらに、図6および表1より、すべての遷移金属が表面から0.2Dsの範囲に含まれており、このようなゼオライトは前述の先行技術のゼオライトと明らかに異なる。
【0048】
なお、表面から0.2Dsの範囲に含まれる遷移金属の数は次のようにして求めた。1つのゼオライトの全体像が判別できる倍率の画像からゼオライトの短径Dsを測定した。具体的には、ゼオライトの外縁と外縁を結ぶ最も長い直線の中点を通り、ゼオライトの外縁と外縁を結ぶ最も短い直線の長さを短径とした。次に、このゼオライトに含まれる遷移金属の総数を求めた。最後に、このゼオライトの表面から0.2Dsの距離に線を引き、表面から0.2Dsの範囲に含まれる遷移金属を数え、これを前述の遷移金属の総数で除して、前述の範囲に含まれる遷移金属の割合を算出した。なお、遷移金属の全体が0.2Dsの距離に引いた線より表面に近い側に存在しているものを、前述の範囲に含まれるとした。実施例2の走査型透過電子顕微鏡画像を図6に示す。このゼオライトの短径Dsは589nmであり、よって0.2Dsは118nmである。この写真のすべての白金は表面から118nm以内にあるため、表面から0.2Dsの範囲に含まれる遷移金属の割合は100%である。実施例1,2のゼオライトについて複数の粒子で同様の観察を行い、表面から0.2Dsの範囲に含まれる遷移金属の割合を算出した。
【0049】
[遷移金属の平均粒子径]
実施例1、2及び比較例1の方法で用いた遷移金属分散液中の遷移金属および最終的に得られたゼオライトに含まれる遷移金属について、そのサイズを測定した。具体的には、遷移金属分散液中の遷移金属については、遷移金属分散液をメッシュ上に落として乾燥させたものを透過型電子顕微鏡で観察した。ゼオライトに含まれる遷移金属については、前述の方法で透過型電子顕微鏡観察を行った。複数の画像から、100個の遷移金属について、その長径をそれぞれ測り、これを平均したものを遷移金属の平均粒子径とした。
【0050】
[ゼオライトの化学組成]
実施例1、2及び比較例1の方法で得られたゼオライトの化学組成は以下のようにして求めた。0.2~0.5gのゼオライトをテフロン皿に採取し、硝酸5ml、塩酸15ml、フッ化水素酸10mlを加えて、サンドバス上で加熱し、乾固させた。そこに、塩酸5mlと水を加えて、サンドバス上で溶解後、得られた溶液を200mlのメスフラスコを用いて水でメスアップして、試料溶液とした。この試料溶液を用いてICP装置(ICPS-8100、島津製)でPtとAlの濃度を測定し、原子吸光装置(Z-2310、日立製)でNaの濃度を測定した。ゼオライトを1000℃で焼成した前後の重量と前述の濃度から、水分等を含まない状態のゼオライトのPt、Al、Naの含有量をそれぞれPt、Al、NaO換算で算出した。そして水分等を含まない状態のゼオライトの全重量から、前述のPt、Al、Naの含有量(Pt、Al、NaO換算)を差し引いた残りをSiの含有量(SiO換算)とした。
【0051】
[ゼオライトの結晶構造]
実施例1、2の方法で得られたゼオライトについて、以下の条件でX線回折測定を行った。その結果、実施例1、2の方法で得られた試料について、MFI構造に由来する回折ピークが確認された。実施例1、2の方法で得られたゼオライト、および、実施例1、2で原料として用いたゼオライトのX線回折パターンを図7に示した。
X線回折装置:MiniFlex600(リガク社製)
線源:Cu-Kα線
加速電圧、電流:40KV、15mA
受光スリット:開放
スキャン速度:10°/min
ステップ幅:0.020°
測定範囲(2θ):5°~50 °
【0052】
[耐熱性試験]
実施例1、2及び比較例1の方法で得られたゼオライトについて、空気中で1.6℃/minで600℃まで昇温し、6時間保持した。その後、前述の遷移金属の平均粒子径と同じ測定方法で、遷移金属の平均粒子径を測定した。遷移金属がゼオライトに内包された実施例1、2のゼオライトは、前述の熱処理を行った後でも、遷移金属の平均粒子径は大きく変化していない。このことから、実施例1,2のゼオライトにおいて、遷移金属がゼオライトに内包され、それによって凝集が抑制されることが確認できた。なお、比較例1についても、熱処理の前後で遷移金属の平均粒子径は大きく変わっていないが、これは比較例1のゼオライトに含まれる遷移金属が、調製過程の焼成工程(550℃×2時間)において既に成長してしまったためである(ゼオライトに担持前の遷移金属の平均粒子径:3.1nm、最終的に得られたゼオライトに含まれる遷移金属の平均粒子径:52nm)。
【0053】
[反応試験:触媒活性の確認]
実施例1, 2の方法で得られたゼオライトについて、MFI型ゼオライトの細孔内に侵入できるサイズの1-ヘキセンを用いた水素化試験により、触媒活性の評価を行った。この反応評価で得られた生成物(ヘキサン)の収率を表2に示す。
反応器 :液相回分反応器
前処理 :常圧流通式反応器内部で、450℃、2hr、水素雰囲気下
ゼオライト仕込量:0.40g
反応原料 :1-ヘキセン 21.0g
反応温度 :103 ℃
反応時間 :24時間
水素圧 :1MPa
反応液分析 :ガスクロマトグラフィー(GC-2014、島津製作所製)
【0054】
[反応評価:表面に遷移金属が露出していないことの確認]
実施例1, 2の方法で得られたゼオライトについて、その細孔内に侵入できないサイズのメシチレンを用いた水素化試験により、触媒活性の評価を行った。具体的には、反応原料をメシチレン30.0gとしたこと以外は、前述の1-ヘキセン水素化の条件と同じ条件で触媒活性の評価を行った。この反応評価で得られた生成物(1,3,5-トリメチルシクロヘキサン)の収率を表2に示す。
【0055】
各反応物の分子サイズを表2に示す。1-ヘキセンの分子サイズはL. Lin, et al., "New Pd/SiO2@ZIF-8 Core-Shell Catalyst with Selective, Antipoisoning, and Antileaching Properties for the Hydrogenation of Alkenes" Industrial & Engineering Chemistry Research, 53 (2014) 10906.から、メシチレンの分子サイズはS. Kulprathipanja, "Zeolites in Industrial Separation and Catalysis", 1st ed. (2010) John Wiley & Sons, (2010) p33. から引用した。
【0056】
実施例1,2の方法で得られたゼオライトを用いた場合に、1-ヘキセン(分子サイズ1.7Å)は水素化されたが、メシチレン(分子サイズ7.6Å)は水素化されなかった。MFI型ゼオライトの細孔径は5.3×5.6Åである(Ch. Baerlocher, W.M Meier and D.H. Olson, "Atlas of Zeolite Framework Types", Fifth Revised Edition, Elsevier, (2001).)ことから、メシチレンは細孔内に入らず、1-ヘキセンは細孔内に入る。細孔内に入る1-ヘキセンだけが水素化されたことから、遷移金属がゼオライトに覆われていることが確認できた。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7