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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】粘着層積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220825BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220825BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220825BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B32B27/00 L
B32B27/20 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018542863
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2017035245
(87)【国際公開番号】W WO2018062397
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2016194010
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 真史
(72)【発明者】
【氏名】木原 澄人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴史
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039515(JP,A)
【文献】特開2007-181950(JP,A)
【文献】特開2010-201857(JP,A)
【文献】特開2014-237248(JP,A)
【文献】特開2016-168691(JP,A)
【文献】特開2016-127091(JP,A)
【文献】特開2016-175229(JP,A)
【文献】特開2016-150483(JP,A)
【文献】特開2016-089150(JP,A)
【文献】特開2016-002730(JP,A)
【文献】特開2013-129077(JP,A)
【文献】国際公開第2014/126150(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
B32B 1/00- 43/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 7/00- 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面がポリエステルフィルム層Aからなる離型層で構成され、他方の面が粘着層で構成され、離型層と粘着層との間にポリエステルフィルム層A以外のポリエステルフィルム層Bを含有する粘着層積層ポリエステルフィルムであって、
ポリエステルフィルム層Aを構成するポリエステル樹脂の固有粘度が0.63~0.86dl/gであり、
ポリエステルフィルム層Aが有機粒子を含有し、
ポリエステルフィルム層Aの表面は、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)が0.2~1.0μmであり、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10~250μmであることを特徴とする粘着層積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
有機粒子の平均粒子径が0.5~15μmであることを特徴とする請求項1記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
有機粒子の平均粒子径(D)とポリエステルフィルム層Aの厚み(T)の比(D/T)が0.3~1.5であることを特徴とする請求項1または2記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステルフィルム層Aにおける有機粒子の含有量が0.1~20質量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
粘着層積層ポリエステルフィルムがポリエステルフィルム層A以外の層を含有し、ポリエステルフィルム層A以外の層が顔料を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルムを用いた、熱処理工程を有する樹脂モールド工程の離型フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルムを用いた、半導体チップのキャリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機粒子を含有した、マット調外観を有するポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、その用途の多様化により、耐ブロッキング性や離型性などの様々な性能が求められている。
例えば、タッチパネルを構成する各種粘着シートや、電子機器のプロセス材料など粘着層を設けた粘着シートにおいては、粘着層を保護する保護フィルムとしてポリエステルフィルムが使用され、この用途のポリエステルフィルムでは、粘着層と剥離する際の離型性に加えて、ロール状フィルムから巻出す際の耐ブロッキング性が求められる。また、モールド用離型フィルムとして使用されるポリエステルフィルムでは、金型やモールド樹脂との離型性に加えて、金型温度に耐えうる耐熱性が求められる。
このような要求に対し、離型性や耐ブロッキング性を向上する方法として、ポリエステルフィルムの表面にマット化処理する方法が知られている。
表面に凹凸形状を形成するマット化処理方法として、フィルムに粒子を含有させる方法が広く知られている(特許文献1~3)。特許文献1~2には、シリカ粒子に代表される無機粒子をフィルムに含有させる方法が開示されている。特許文献3には、ジビニルベンゼン/スチレン架橋粒子の有機粒子をフィルムに含有させた低光沢度のポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1 特開2001-322218号公報
特許文献2 特開2006-312263号公報
特許文献3 特開2015-40220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記モールド用離型フィルムとして使用されるフィルムは、離型性を有する面の反対面に、粘着層が積層されている。粘着層が形成されたフィルムにおいては、粘着層の種類によっては、フィルムをロール状に巻き取ったあとでも、粘着層の成分が未反応で残ることがある。これら未反応物は、その後反応が徐々に進むため、発生するガスがフィルムロールから抜けやすいように、粘着層が形成されるフィルム面の反対面に凹凸を形成する必要があった。しかしながら、特許文献1~2に開示されている、光拡散性や単なる離形性の付与を目的として無機粒子を含有するマット調ポリエステルフィルムにおいては、粘着層から発生するガスの抜け(エア抜け)に関しては十分なものとは言えなかった。
一般的にフィルムの耐ブロッキング性を向上させるために、算術平均粗さ(Ra)や十点平均粗さ(Rz)などのフィルムの表面粗さが大きくなるよう処方されるが、前記ポリエステルフィルムに巻き取ったロール状フィルムでは、耐ブロッキング性の向上とともに、エア抜けをも向上させることは困難であった。
また、特許文献3に開示されている、有機粒子を含有するマット調ポリエステルフィルムは、表面に、さらにバインダー成分やフッ素系離型剤を含有する離型層を積層する場合、工程が煩雑であるばかりか、離型層に含有する低分子成分が離型後の被着体面を汚染するおそれがあるため、粘着材料などの保護フィルムとしては不向きであった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するものであり、ロール状に巻き取った際のエア抜けが向上し、かつ巻出し時の耐ブロッキング性が改善されたマット調ポリエステルフィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、特定の固有粘度を有するポリエステル樹脂で構成され、有機粒子を含有し、特定の表面粗さを有するポリエステルフィルム層を有するポリエステルフィルムが、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記のとおりである。
(1)一方の面がポリエステルフィルム層Aからなる離型層で構成され、他方の面が粘着層で構成され、離型層と粘着層との間にポリエステルフィルム層A以外のポリエステルフィルム層Bを含有する粘着層積層ポリエステルフィルムであって、
ポリエステルフィルム層Aを構成するポリエステル樹脂の固有粘度が0.63~0.86dl/gであり、
ポリエステルフィルム層Aが有機粒子を含有し、
ポリエステルフィルム層Aの表面は、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)が0.2~1.0μmであり、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10~250μmであることを特徴とする粘着層積層ポリエステルフィルム。
(2)有機粒子の平均粒子径が0.5~15μmであることを特徴とする(1)記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
(3)有機粒子の平均粒子径(D)とポリエステルフィルム層Aの厚み(T)の比(D/T)が0.3~1.5であることを特徴とする(1)または(2)記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
(4)ポリエステルフィルム層Aにおける有機粒子の含有量が0.1~20質量%であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルム。
(5)粘着層積層ポリエステルフィルムがポリエステルフィルム層A以外の層を含有し、ポリエステルフィルム層A以外の層が顔料を含有することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルム
(6)上記(1)~()のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルムを用いた、熱処理工程を有する樹脂モールド工程の離型フィルム。
)上記(1)~()のいずれかに記載の粘着層積層ポリエステルフィルムを用いた、半導体チップのキャリアフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘着シートなどの被着体に対して優れた離型性を有しつつ、ロール状に巻き取った際のエア抜けが向上し、かつ巻出し時の耐ブロッキング性が改善されたマット調ポリエステルフィルムを提供することができ、粘着シートの保護フィルムやモールド用離型フィルム、キャリアフィルムとして好適なポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面がポリエステルフィルム層Aで構成され、ポリエステルフィルム層Aは、有機粒子を含有する。
ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム層Aのみで全体が構成されてもよいが、フィルム延伸工程での破断を防ぎ、フィルム強度を向上させる観点から、ポリエステルフィルム層A以外の層が積層されてもよい。層A以外の層として、層B、層C、層Dを含む場合、具体的な層構成としては、A/B(2種2層)、A/C/B(3種3層)、A/C/D/B(4種4層)、A/C/D/C/B(4種5層)等が挙げられる。また、A/B/A(2種3層)、A/B/C/A(3種4層)等、層Aをフィルムの両面に形成して、フィルムの両面に対しマット性の付与することもできる。
【0009】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレートが、耐熱性、機械特性のバランスに優れ、また延伸性に優れることから、好適に使用することができる。
【0010】
ポリエチレンテレフタレートは、通常、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとからのエステル交換方法、あるいは、テレフタル酸とエチレングリコールとからの直接エステル化法によりオリゴマーを得た後、溶融重縮合、あるいはさらに固相重合する方法により得られる。
なお、上記溶融重縮合は、特定量の金属原子を含有する化合物からなる重縮合触媒の存在下におこなわれ、金属原子としては、アンチモン、ゲルマニウム、チタンが挙げられる。具体的な金属原子を含有する化合物として、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、二酸化ゲルマニウム、トリ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラエチルチタネート、トリイソブチルチタネート等が挙げられる。
溶融重縮合工程および固相重合工程を経てポリエステルを製造するに際し、固相重合工程後に熱水または水蒸気処理を行い、ポリエステル中に含まれている重縮合触媒を失活させることもできる。
【0011】
なお、本発明のポリエステルフィルムは、粘着シートの保護フィルムやモールド用離型フィルム、キャリアフィルム等の用途で用いる場合、各種工程においてフィルムが接触する部位、例えば搬送用ベルト、金型等の装置、機器等を、ポリエステルフィルムから析出する低分子量体によって汚染しないことが好ましい。ポリエステルフィルムの接触が短時間であり、汚染の程度が軽微であっても、接触が繰り返されると、装置、機器等は汚染され、また装置、機器等の汚染が原因で、ポリエステルフィルムの機能性が損なわれることがある。したがって、本発明のポリエステルフィルムは、低分子量体の析出が極力抑制されたものであることが好ましい。
フィルムからの低分子量体の析出を抑制するためには、フィルムを構成するポリエステルとして、溶融重縮合工程、固相重合工程後に、熱水または水蒸気処理を行い、ポリエステル中に含まれている重縮合触媒を失活させたポリエステルを使用することが有効的である。
本発明のポリエステルフィルムから析出する低分子量体の量の多少は、模擬的なテストによって評価することができる。例えば、ポリエステルフィルムをモールド用離型フィルムとして用いる場合、モールド金型キャビティにおいて、加熱した金型にポリエステルフィルムが接するように装填する。そして、キャビティ内を真空引きし、一定時間後に真空解除する。このフィルムの装填と真空引きの操作を繰り返し行った後の金型の表面光沢度(G)と、初期の金型の表面光沢度(G0)とから光沢度保持率(G/G0×100)を算出し、これにより評価することができる。光沢度保持率(G/G0×100)は、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。用いるモールド金型キャビティの形状、寸法、加熱温度、時間、真空引き条件、繰返し回数等は、本発明のポリエステルフィルムを用いる用途に応じて任意に決めることができる。
模擬テストのより詳しい具体例としては、キャビティ内寸が220mm×55mm×1.5mmである金型を備えたモールド金型において、金型を175℃に加熱し、ポリエステルフィルム層A面と金型が接するようポリエステルフィルムを装填し、真空引きし、2分間保持する。その後真空引きを解除して常圧にし、ポリエステルフィルムを取り除く。新たなポリエステルフィルムを装填し、同様の操作を1000回繰り返す。すべての操作が終わった後で、金型表面の光沢度(G)を測定する。本発明においては、この具体例に即した模擬テストを行い評価した。
【0012】
ポリエステル樹脂は、後述するRaなどの表面粗さをコントロールする観点から単一成分の重合体が好ましいが、他の成分を共重合してもよい。他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸などが挙げられる。
また、他の共重合成分としてのグリコール成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加物などが挙げられる。
【0013】
ポリエステル樹脂は、固有粘度が0.63~0.86dl/gであることが必要であり、0.65~0.84dl/gであることが好ましく、0.67~0.82dl/gであることがより好ましい。ポリエステル樹脂の固有粘度が0.63dl/g未満であると、ポリエステルフィルム層Aは、機械的強度が低下することがあり、また、フィルム延伸時にポリエステルフィルム層Aに含有する有機粒子が、ポリエステル樹脂から引き剥がされ、ポリエステルフィルム層A中にボイド(気泡)が生成しやすくなることがあり、また、ポリエステルフィルム層Aから有機粒子が脱落し、金型汚れを起こす懸念が高まる。なお、ボイドとはマトリックスであるポリエステル樹脂の延伸にともない、含有する有機粒子との界面が引き剥がされ、その間に空洞ができることを言う。空洞は概略、延伸方向あるいは延伸倍率の高い方向に紡錘状に引き伸ばされた形状を呈する。後述するが、ボイドに占める空洞率は80%未満であることが好ましい。空洞率が80%を超えると有機粒子の脱落の懸念が高まる。
一方、ポリエステル樹脂の固有粘度が0.86dl/gを超えると、フィルム製膜時における溶融押出工程での負荷が大きく、生産性が低下する傾向があるばかりか、ポリエステルフィルム層Aを所定のRSmとすることが困難となることがある。
【0014】
本発明において、ポリエステルフィルム層Aは有機粒子を含有することが必要である。有機粒子は、無機粒子に比べ、選択できる平均粒子径の巾が広く、かつ真球度の高い粒子の選択が容易であるという利点を有する。
有機粒子の具体例としては、架橋アクリル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋メラミン粒子、有機シリコーン粒子、架橋スチレン-アクリル粒子などが挙げられ、特に、架橋アクリル粒子が、真球度の点で好ましい。有機粒子は、単成分を用いてもよく、また2成分以上を同時に用いてもよい。また、粒子径の異なる有機粒子を組合わせて用いることもできる。さらには、コア/シェル型の有機粒子を用い、ポリエステルフィルム層Aを構成するポリエステル樹脂との密着性を高めたり、その他の機能を付与することもできる。
【0015】
本発明で用いる有機粒子は、フィルム製膜における樹脂の押出し後および一軸または二軸延伸後のフィルム中においても、形状および真球度が変わらないことが好ましい。また、押出機でのフィルターろ過時において、変形するような柔軟性を有することが好ましい。本発明においては、ポリエステルフィルム層Aに含有する粒子として、無機粒子ではなく、相対的に無機粒子よりも柔軟性を有する有機粒子を用いるため、ポリエステルフィルム層Aの製膜において、フィルター昇圧がしにくく操業性を損なうことがなく、またポリエステルフィルム層Aは、所定のRa、RSmを得ることができる。
【0016】
有機粒子の真球度(長径/短径)は、1.0~1.2であることが好ましく、1.0~1.1であることがより好ましい。有機粒子の真球度が1.2を超えると、ポリエステルフィルム層Aは、エア抜けが低下する。ポリエステルフィルム層Aにおける有機粒子の真球度が1.0に近づくほど、ポリエステルフィルムは、ロール状に巻き取った際にエアを巻き込まないため、巻きずれ等を起こしにくい。また、巻出し時の耐ブロッキング性が向上する。また、有機粒子の真球度が1.0に近づくほど、押出機で溶融樹脂をフィルターろ過する際において、フィルターは昇圧しにくい。真球度が1.0でない有機粒子は、フィルター昇圧させる懸念が高く、操業性が低下するばかりか、得られたフィルムの種々特性を損ない、所定の表面粗さを有するフィルムを得ることが困難となることがある。
【0017】
有機粒子の平均粒子径は、ポリエステルフィルムの使用用途により異なるため、特別制限されないが、0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましく、2~8μmであることがさらに好ましい。有機粒子の平均粒子径が0.5μm未満では、ポリエステルフィルム層Aは、離型性が不十分となる。一方、平均粒子径が15μmを超える有機粒子は、ポリエステルフィルム層Aから脱落しやすくなり、金型汚れを引起こしやすくなる。
【0018】
有機粒子の含有量は、特に制限はないが、具体的には0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましい。有機粒子の含有量の0.1質量%未満では、ポリエステルフィルムは、表面の突起数が少なすぎるため、離型性が発揮されず、有機粒子は、含有量が20質量%よりも多いと、フィルム内に保持することが難しくなって脱落しやすくなり、またフィルムの破断を引き起こしやすくなる。
【0019】
本発明において、ポリエステルフィルム層Aは、粗さ曲線の算術平均高さ(表面の中心線平均粗さ、Ra)が0.2~1.0μmであり、粗さ曲線要素の平均長さ(凹凸の平均間隔、RSm)が10~250μmであることが必要である。ポリエステルフィルム層Aは、RaおよびRSmが上記範囲内であることに加え、上記有機粒子を用いることで、被着体との離型性に優れたものとなる。
ポリエステルフィルム層Aは、Raが1.0μmを超えると、耐ブロッキング性が低下する。Raが0.2μm未満では、離型性が不十分となる。また、ポリエステルフィルム層Aは、RSmが250μmを超えると、離型性が不十分となり、ポリエステルフィルムは積層した際にブロッキングしてしまい、10μm未満では突起の数が密になりすぎて離型性が損なわれる。本発明のポリエステルフィルムのRaは、0.3~0.6μmであることが好ましく、0.45~0.55μmであることがより好ましい。また、RSmは、30~200μmであることが好ましく、50~150μmであることがより好ましい。
なお、ポリエステルフィルム層AのRa、RSmは、前述の有機粒子の平均粒子径や含有量を選択することによって調整することができる。例えば、有機粒子の平均粒子径を大きくすると、Ra、RSmは増大する傾向があり、有機粒子の含有量を増やすと、Raは増大し、RSmは減少する傾向があり、目的とする離形性、耐ブロッキング性が得られるように、これらを適宜選択する。
【0020】
ポリエステルフィルム層Aは、光沢度(60度)が60%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
光沢度(60度)が60%を超えるポリエステルフィルム層Aで構成されたポリエステルフィルムは、表面の凹凸が不十分になるため、離型性に劣り、また、積層した際にブロッキングしやすいことがある。
一方、ポリエステルフィルム層Aの光沢度(60度)の下限は特に設けないが、光沢度(60度)が20%未満であると、ポリエステルフィルム層Aは、表面が荒れすぎていて、フィルム表面の強度が低下する傾向がある。
【0021】
ポリエステルフィルム層Aの厚みは、特に制限はなく、得られるポリエステルフィルムの総厚み、ポリエステルフィルム層Aに含有する有機粒子の平均粒子径、含有量に応じて適宜設定することができる。得られるポリエステルフィルムの総厚みは、5~500μmであることが好ましく、10~400μmであることがより好ましく、15~200μmであることがさらに好ましい。その場合のポリエステルフィルム層Aの厚みは、1~100μmであることが好ましく、2~80μmであることがより好ましく、3~40μmであることがさらに好ましい。なお、ポリエステルフィルムの両面に対しポリエステルフィルム層Aを形成する場合は、各々のポリエステルフィルム層Aを前記層厚みの範囲で調整することが好ましい。
【0022】
さらに、有機粒子の平均粒子径(D)とポリエステルフィルム層Aの厚み(T)との比(D/T)は0.3~1.5であることが好ましく、0.4~1.5であることがより好ましい。D/Tが0.3以上であると、有機粒子をポリエステルフィルム層A内に保持することが容易となり、有機粒子の脱落が起こりにくくなる。D/Tは、本発明で規定する表面粗さとするために、1.5以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム層Aのみで全体が構成されてもよいが、フィルム延伸工程での破れ防止やフィルム強度の観点から、ポリエステルフィルム層A以外の層が積層されてもよい。
ポリエステルフィルム層A以外の層を構成する樹脂としては、通常のポリエステルが挙げられ、このポリエステルから構成されたポリエステルフィルム層(以下、ポリエステルフィルム層Bということがある)は、ブロッキング防止のため、無機粒子または有機粒子を含有してもよい。視認性が必要な用途では、無機粒子として酸化チタンを含有することが好ましい。酸化チタンを用いることで、白色に着色しながらも光透過性の確保も可能である。ポリエステルフィルム層Bに対し酸化チタンを含有させる場合、酸化チタンの平均粒子径は、0.05~0.5μmであることが好ましく、0.1~0.4μmであることがより好ましい。また、酸化チタンの含有量は1~5質量%であることが好ましく、2~4質量%であることがより好ましい。
【0024】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法の一例について説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、表面粗さの調整のしやすさの観点から、少なくとも一方向に延伸されていることが好ましい。有機粒子を含有したポリエステルフィルム層Aは延伸されることではじめて粒子が表面に隆起し、マット調の外観を有するフィルムとなるため、延伸倍率によって好適な表面粗さを調整することもできる。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムが、ポリエステルフィルム層Aとそれ以外の層とが積層された積層フィルムである場合は、全ての層が口金から共溶融押出しされる共押出法によって押出したのち、二軸方向に延伸、熱固定することによって製造することが好ましい。
詳しくは、ポリエステルフィルム層Aを構成する樹脂と、層A以外の層を構成する樹脂を、各々別の溶融押出装置に供給し、それぞれの樹脂の融点~(融点+40℃)の温度で溶融し、それぞれフィルターを介して、フィードブロックタイプまたはマルチマニホールドタイプのTダイにより、シート状に共押出しする。
そして、押出した積層シートを、静電印可キャスト法、エアーナイフ法等の公知の方法により、30℃以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させ、ガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化させて、所望厚みの未延伸シートを得る。
【0026】
次いで、得られた未延伸シートを、一軸延伸または二軸延伸することにより、マット調を有し、本発明で規定する表面粗さを有するポリエステルフィルムを得ることができる。
一軸延伸法では、未延伸フィルムを横方向または縦方向にそれぞれ2~6倍程度の延伸倍率となるように延伸する。
また、二軸延伸法としては、テンター式同時二軸機により縦方向と横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法や、ロール式延伸機で縦方向に延伸した後にテンター式横延伸機で横方向に延伸する逐次二軸延伸法等が挙げられる。延伸倍率は、ポリエステルフィルムの面積倍率で、3倍以上が好ましく、より好ましくは4~20倍、さらに好ましくは6~15倍である。延伸倍率が20倍を超えると、ポリエステルフィルム中の粒子の周りにボイドが発生し、フィルムの破断頻度が高くなることがある。
延伸温度は、ポリエステル樹脂の(ガラス転移温度+5℃)~(ガラス転移温度+60℃)の範囲が好ましく、(ガラス転移温度+15℃)~(ガラス転移温度+55℃)の範囲がより好ましい。延伸温度が(ガラス転移温度+5℃)未満の場合、延伸後のフィルムにボイドが発生し、フィルムの破断頻度が高くなりやすい。
【0027】
延伸後のフィルムは、縦方向および横方向の弛緩率を0~10%としてテンター内で150℃~(ポリエステルの融点-5℃)の温度で数秒間熱処理した後、室温まで冷却し、20~200m/分の速度で巻き取る。
上述した延伸後の熱処理は、ポリエステルフィルムの熱収縮率を小さくするために必要な工程である。熱処理方法としては、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等が挙げられ、中でも、均一に精度良く加熱することができるため、熱風を吹き付ける方法が好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、一方の面がポリエステルフィルム層Aで構成され、他方の面に粘着層が積層されてもよい。粘着層が積層されたポリエステルフィルムは、熱処理工程を有する樹脂モールド工程等の離型フィルムとして好適に用いることができ、半導体チップ等のキャリアフィルムとして特に好適に用いることができる。
【0029】
上記粘着層を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂またはシリコーン樹脂が挙げられる。アクリル樹脂は、耐熱性を有するアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステルの重合体またはこれらの共重合体が好ましく、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、アクリロニトリル、アクリル酸ヒドロキシエチル等の重合物またはこれらの2種類以上の共重合物が挙げられる。シリコーン樹脂としては、付加タイプ、縮合タイプのいずれも使用することができ、具体的には、例えば、ジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンを有機錫等の触媒を用いて硬化させるシリコーン樹脂が挙げられる。
【実施例
【0030】
1.測定方法
(1)ポリエステル樹脂の固有粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき、ポリエステル樹脂の固有粘度を測定した。
【0031】
(2)粒子の真球度
透過型電子顕微鏡により、有機粒子を倍率1000倍で写真撮影して得られる写真投影図において重心を求め、任意の50個の粒子について、それぞれその重心を通る最大径(DL)と、重心を通る最小径(DS)との比(DS/DL)を測定し、それらの平均値を真球度とした。
【0032】
(3)粒子の平均粒子径
粒度分布測定装置(日機装社製、Nanotrac Wave-UZ152型)を用いて、実施例で使用する粒子の平均粒子径を測定した。
【0033】
(4)光沢度
JIS-Z-8741に規定された方法に従って、グロスメーター(日本電色製VG7000)を用いて、ポリエステルフィルムのポリエステルフィルム層A面について60度鏡面光沢度を測定した。
【0034】
(5)全光線透過率、ヘーズ
日本電色工業社製分球式濁度計NDH-300Aを用いて、ポリエステルフィルムの全光線透過率およびヘーズを測定した。
【0035】
(6)表面粗さ
表面粗さ測定機(ミツトヨ社製SJ-400)を用いてポリエステルフィルムのポリエステルフィルム層A面の表面粗さ(粗さ曲線の算術平均高さ(Ra)、粗さ曲線の最大高さ(Rz)、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm))を測定した。
【0036】
(7)離型性
粘着テープ(ニチバン社製LP-24)をポリエステルフィルム層A面に貼り、20g/cmの荷重下、70℃で20時間放置した後、23℃、50%RHの雰囲気で調湿した。その後、調湿したサンプルについて、ポリエステルフィルム層A面から粘着テープを手で剥離し、離型性を下記の基準で評価した。○または△が実用的に問題のない離型性である。
○:容易に剥離することができる。
△:少し剥離音はするが、剥離する際に抵抗はない。
×:剥離する際にかなりの抵抗がある。
【0037】
(8)耐ブロッキング性、エア抜け
[粘着剤の調製]
アクリル酸ブチル80質量部およびアクリル酸20質量部(21.6モル%)からなる共重合体のカルボキシル基に対し、メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを0.3当量反応させ、重量平均分子量600,000の共重合体を得た。共重合体の30質量%トルエン溶液100質量部と、多価イソシアネート化合物の37.5質量%トルエン溶液(東洋インキ製造社製 オリバインBHS8515)1質量部とを混合し、粘着剤溶液を得た。
[粘着剤塗工フィルムの作製]
巾400mmのポリエステルフィルムの片面(ポリエステルフィルムがA/Bからなる積層構成である場合は、B面)に対し、前記の方法で調製した粘着剤のトルエン溶液を、乾燥皮膜の厚みが約15μmとなるようにコンマコーター(ヒラノテクシード社製、塗工速度1m/分、乾燥温度110℃)で塗工、乾燥し、粘着層積層ポリエステルフィルムを得た。得られた粘着層積層ポリエステルフィルムをロール状に巻き取り、40℃、3日間静置養生を行った。
[エア抜けの評価]
静置養生後の粘着層積層フィルムロールにおいて、巻き取り時に巻き込んだエアや、養生中に粘着剤から発生したガス等が十分に抜けているかを目視確認した。目視確認は、フィルムロールより粘着層積層フィルムを巻き出しながら行い、粘着剤皮膜である粘着層中の気泡の抱き込みの有無にて、エア抜け性を評価した。
[耐ブロッキング性の評価]
上記エア抜けの評価において、粘着層積層ポリエステルフィルムを巻き出す際の、ポリエステルフィルム層A面と粘着層面との剥離状況を、下記の基準で評価した。評価が○または△であるフィルムは、実用的に問題がなく、耐ブロッキング性を有する。
○:容易に剥離することができる。
△:少し剥離音はするが、剥離する際に抵抗はない。
×:剥離する際にかなりの抵抗がある。
【0038】
(9)ボイド(気泡)
フィルムの表面におけるボイドをデジタル顕微鏡(オリンパス社製、OLS4100型)にて倍率2000倍で観察した。任意に100点を観察し、ボイド中、粒子が占める面積(X)と空洞の占める面積(Y)より下記式より空洞率(Q)を算出し下記基準により評価した。なお、空洞率(Q)は、N=100の平均値であり、80%未満であることが好ましい。
ボイドに占める空洞率(Q)={Y/(X+Y)}×100(%)
○:Q<50
△:50≦Q<80
×:80≦Q
【0039】
(10)昇圧
フィルター昇圧試験機(井元製作所製、19C0)に、25μmの捕集効率が70~80%であるフィルターを用いて、ポリエステルフィルム層A形成用の樹脂組成物Aを1kg/hrで押出し、フィルター手前の樹脂圧力を測定により、目詰まりの有無を昇圧により評価した。
○:5時間後の樹脂圧力の上昇が0.5MPa以下。
×:5時間後の樹脂圧力の上昇が0.5MPaを超える。
【0040】
(11)金型汚れ
キャビティ内寸が220mm×55mm×1.5mmである金型を175℃に加熱し、ポリエステルフィルム層A面と金型が接するようポリエステルフィルムを装填し、真空引きし、2分間保持した。その後真空引きを解除して常圧にし、ポリエステルフィルムを取り除いた。新たなポリエステルフィルムを装填し、同様の操作を1000回繰り返した。すべての操作が終わった後で、光沢度計(日本電飾社製、VG7000型)を用い入射角60°で、金型表面の光沢度(G)を測定し、下記式より光沢度保持率を求めた。光沢度保持率は70%以上が好ましい。なお、金型表面の初期光沢度(G0)は70%であった。
光沢度保持率(%)=(G/G0)×100
【0041】
(12)成形時離型性(1)
キャビティ内寸が220mm×55mm×1.5mmである金型を175℃に加熱し、ポリエステルフィルム層A面と金型が接するようポリエステルフィルムを装填し、真空引きし、2分間保持した。その後真空引きを解除して常圧にし、ポリエステルフィルムを取り除いた。その際のポリエステルフィルムの離型性について、下記基準にて評価を行なった。
○:離型性良好
×:離型性不良
【0042】
(13)成形時離型性(2)
層構成が層A/層B/層Aである2種3層フィルム、および層Aのみからなるポリエステルフィルムに対して、さらに下記の方法で成形時離型性を評価した。
ポリエステルフィルムの片方の面に、剥離層としてアクリル樹脂(帝国化学産業社製、WS-023)100質量部、架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、コロネートL)5質量部をトルエンに溶解した樹脂溶液(固形分濃度15質量%)を乾燥厚みが1μmとなるよう塗工し、離型シートを作成した。このシートを、トランスファーモールド金型内の上面に層Aが接するように装着し、真空で固定した後、型締めし、封止用エポキシ樹脂(日立化成工業社製、CEL9200)により半導体チップを、金型温度175℃、圧力10MPa、時間90秒の条件でトランスファーモールド成型し、半導体パッケージを得た。
成型時のポリエステルフィルムの離型性について、下記基準にて評価を行なった。
○:金型および半導体パッケージとの離型性が良好
△:金型または半導体パッケージの何れかとの離型性が不良
×:金型、半導体パッケージともに離型性が不良
【0043】
2.原料
(ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-1)の製造)
テレフタル酸100質量部とエチレングリコール52質量部とをエステル化反応槽に仕込み、0.3MPaGでの加圧下、260℃でエステル化反応を行った。引き続き、得られたポリエステル低重合体を重縮合反応槽へ供給し、重合触媒として二酸化ゲルマニウムを用い、280℃で120分間重縮合反応させて、固有粘度0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂(J-1)を得た。
【0044】
(ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-2)~(J-5)の製造)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-1)での重縮合の反応時間を変更する以外は、同様の操作を行って、各固有粘度のポリエチレンテレフタレート樹脂(J-2)~(J-5)を得た。
【0045】
(ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-6)~(J-7)の製造)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-1)について、さらに、結晶化装置に供給し、150℃で結晶化をさせた。続けて、乾燥機に供給して160℃で8時間乾燥後、予備加熱機に送り190℃まで加熱した後、固相重合機へ供給した。窒素ガス下にて、表1に記載の固有粘度となるように、固相重合反応を190℃で10~50時間で行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-6)~(J-7)を得た。
【0046】
(ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-8)の製造)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-6)について、さらに、熱水処理(90℃、4時間)を行うことにより、触媒失活処理を行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-8)を得た。なお、表1記載の固有粘度となるように、熱水処理前の固相重合反応時間を調整した。
【0047】
(マスターバッチ(M-1)の製造)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-3)100質量部に対し、シリカ粒子(S-1)(富士シリシア化学社製 サイシリア310P、平均粒子径2.3μm)が1.5%質量部となるよう溶融混練を行い、シリカ1.5%マスター(M-1)を作製した。
【0048】
(マスターバッチ(M-2)の製造)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-8)100質量部に対し、酸化チタン(S-2)(デュポン社製 Ti-Pure R350、平均粒子径0.3μm)が2.5質量部となるよう溶融混練を行い、酸化チタン2.5%マスター(M-2)を作製した。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-1)~(J-8)の製造条件、固有粘度を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
有機粒子、無機粒子として、表2に示す下記の粒子を使用した。
【0052】
【表2】
【0053】
P-1:JX日鉱日石エネルギー社製 ユニパウダーNMB-0520C、架橋アクリル粒子、平均粒子径5μm
P-2:日本触媒社製 MX300W、架橋アクリル粒子、平均粒径0.45μm
P-3:綜研化学社製 SX-130H、架橋アクリル粒子、平均粒子径1μm
P-4:綜研化学社製 KMR-3TA、架橋アクリル粒子、平均粒径3μm
P-5:JX日鉱日石エネルギー社製 ユニパウダーNMB-0520、架橋アクリル粒子、平均粒子径5μm
P-6:JX日鉱日石エネルギー社製 ユニパウダーNMB-1020C、架橋アクリル粒子、平均粒子径10μm
P-7:総研化学社製 MX2000、架橋アクリル粒子、平均粒径20μm
P-8:綜研化学社製 SX-500H、架橋スチレン粒子、平均粒子径5μm
P-9:日本触媒社製 M30、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、平均粒子径3μm
P-10:シリカ、富士シリシア化学社製 サイリシア430、平均粒子径4μm
P-11:ゼオライト、水澤化学工業社製 ミズカシーブス、平均粒子径5.3μm
【0054】
実施例1
有機粒子(P-1)の含有量が5.0質量%となるように、ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-1)ペレットと有機粒子(P-1)とを二軸混練機にて溶融ブレンドし、常法により払い出してペレット化して、常法により乾燥して、ポリステルフィルム層A形成用の樹脂組成物Aを調製した。
シリカ粒子(S-1)の含有量が0.05質量%となるように、ポリエチレンテレフタレート樹脂(J-3)ペレットとシリカ1.5%マスター(M-1)とをブレンドした後、常法により乾燥し、サブ押出機にて溶融して、ポリエステルフィルム層B形成用の樹脂組成物Bを調製した。
ポリエステルフィルム層A形成用の樹脂組成物Aの溶融物とポリエステルフィルム層B形成用の樹脂組成物Bの溶融物とを、フィードブロックにて合流させたのち、Tダイより、層Aと層Bの厚み比が10/28になるように押出し、表面温度を20℃に温調した冷却ドラム上に静電印加法で密着させて急冷して、厚み650μmの未延伸フィルムを得た。
続いて未延伸フィルムを、90℃に温調した予熱ロール群で予熱した後、90℃に温調した延伸ロール間で周速を変化させて3.5倍に縦延伸し、厚み180μmの縦延伸フィルムを得た。続いて縦延伸フィルムをテンター式延伸機に導き、予熱温度90℃、延伸温度120℃で5倍に横延伸し、続いて245℃で熱処理を行い、200℃で横方向に3%の弛緩処理を行った。
テンターから出たフィルムは、層B側をコロナ処理した後、フィルム速度90m/minで巻き取り、厚み38μmのポリエステルフィルムを得た。
【0055】
実施例2~22、25~27、比較例1~8
ポリエステルフィルム層Aにおける樹脂の種類と粒子の種類と含有量、ポリエステルフィルム層Bにおける樹脂の種類と粒子の含有量、各層の厚みを表3、4に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルフィルムを得た。
【0056】
実施例23
実施例12において、ポリエステルフィルム層Bを構成するポリエステル樹脂として、シリカ1.5%マスター(M-1)と酸化チタン2.5%マスター(M-2)を(M-1)/(M-2)=1/49(質量比)で混合したものを用い、実施例12と同様の操作を行ってポリエステルフィルムを得た。
【0057】
実施例24
実施例14において、ポリエステルフィルム層Bを構成するポリエステル樹脂として、シリカ1.5%マスター(M-1)と酸化チタン2.5%マスター(M-2)を(M-1)/(M-2)=1/49(質量比)で混合したものを用い、実施例14と同様の操作を行ってポリエステルフィルムを得た。
【0058】
参考例1~4
ポリエステルフィルム層Aにおける粒子の含有量と層厚みを表4に記載のように変更し、ポリエステルフィルム層Aのみの単層フィルムを作製した。
【0059】
参考例5
実施例11において、樹脂組成物Aの溶融物と樹脂組成物Bの溶融物とを、層A/層B/層Aの厚み比が7/24/7となるようにして押出した以外は、実施例11と同様の操作を行って厚み38μmのポリエステルフィルムを得た。なお、コロナ処理は行わなかった。
【0060】
実施例、比較例、参考例で得られたリエステルフィルムの構成と評価結果を表3、4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
実施例のポリエステルフィルムにおけるポリエステルフィルム層Aは、固有粘度が本発明で規定する範囲にあるポリエステル樹脂と、有機粒子とを含有し、表面粗さが本発明で規定する範囲内であるため、ポリエステルフィルム層Aは、被着体との離型性に優れるとともに、ポリエステルフィルムは、ロール状に巻き取った際のエア抜けが向上し、かつ巻出し時の耐ブロッキング性が改善されていた。
一方、比較例1のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム層Aの表面粗さ(Ra)が本発明で規定する範囲を下回っていたため、離型性に劣っていた。
比較例2のポリエステルフィルムは、表面の突起の間隔(RSm)が本発明で規定する範囲を超えていたため、離型性と耐ブロッキング性が劣るものであった。
比較例3、4のポリエステルフィルムは、表面粗さ(Ra)が本発明で規定する範囲を超えていたため、耐ブロッキング性に劣るものであった。
比較例5、6においては、無機粒子を含有するポリエステルフィルム層A形成用の樹脂組成物Aの昇圧が早すぎたため、フィルムの作製を中断した。
比較例7においては、ポリエステルフィルム層Aを構成するポリエステル樹脂の固有粘度が本発明で規定する範囲より高いため、押出時のフィルター初期圧力が高く、フィルムの作製を中断した。
比較例8のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム層Aを構成するポリエステル樹脂の固有粘度が本発明で規定する範囲より低いため、フィルム延伸時にポリエステルフィルム層Aに含有する有機粒子が、ポリエステル樹脂から引き剥がされ、ポリエステルフィルム層A中に気泡(ボイド)が生成しており、また、ポリエステルフィルム層Aから有機粒子が脱落し、金型汚れを起こした。