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特許7129091エンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】エンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
F02D45/00 358
F02D45/00 345
F02D45/00 360E
F02D45/00 364D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019179409
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055611
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-06-09
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 武相
(72)【発明者】
【氏名】足立 良太
(72)【発明者】
【氏名】須藤 友宜
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-151754(JP,A)
【文献】特開平3-260404(JP,A)
【文献】国際公開第2004/079305(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火式のエンジン制御に用いられるエンジンの吸気系または排気系に備えた圧力センサの応答性診断方法であって、
前記エンジンの作動時におけるピストンの往復動に伴う吸気または排気によって前記エンジンの吸気系または排気系に生じる圧力脈動振幅である圧力センサ信号情報を計測し
計測した前記圧力センサ信号情報を、エンジン制御装置内部に配置されたアナログフィルタ回路およびデジタルフィルタ回路により、帯域通過フィルタ処理、絶対値化処理を経て、前記圧力センサが検出した高周波数帯の圧力脈動振幅を指標値化した計測指標値と、
正常時に計測した前記圧力センサ信号情報を、前記アナログフィルタ回路および前記デジタルフィルタ回路により、帯域通過フィルタ処理、絶対値化処理を経て、前記圧力センサが検出した高周波数帯の圧力脈動振幅を指標値化した正常指標値と、を比較し、
前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも低いまたは等しい場合には、前記圧力センサの応答性に故障に繋がる劣化があると判断し、
前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも高い場合には、前記圧力センサの応答性は正常と判断することで、
前記エンジンの制御に用いられる圧力センサに生じた応答性の劣化の有無を判断することを特徴とするエンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断方法。
【請求項2】
前記圧力センサ信号情報を前記アナログフィルタ回路および前記デジタルフィルタ回路により処理する際に、前記絶対値化処理をした後に、加重平均処理により平滑化し、更に特定のドライビング・サイクルにおいて最大値更新処理により最大値を更新することで指標値化することを特徴とする請求項1記載のエンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断方法。
【請求項3】
エンジンの回転情報およびアクセル開度情報を基にして、どの運転条件をどれくらいの時間経験したかをカウントし、そのカウントの合計値から予め想定された運転条件を経験したか否かを判断し、判断が真である場合に運転条件経験フラグを「真」とする判定処理を行い、
前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも低くまたは等しく、且つ、前記運転条件経験フラグが「真」である場合には、前記圧力センサの応答性に故障に繋がる劣化があると判断し、
前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも高く、且つ、前記運転条件経験フラグが「真」である場合には、前記圧力センサの応答性は正常と判断することで、
前記エンジンの制御に用いられる圧力センサに生じた応答性の劣化の有無を判断することを特徴とする請求項1または2記載のエンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式エンジンの吸気系および排気系におけるエンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両などに搭載される火花点火式のエンジンにおいての燃費や走行性能の向上を図る手段として、運転者によるアクセル操作により機械的にスロットルを開閉動作させる代わりに電子式制御システムを用いてスロットルを電子的に開閉動作させる電子制御スロットル制御装置が普及しており、例えば特開平5-240073号公報、特開2008-38872号公報などに記載されている。
【0003】
そして、前記電子制御スロットル制御装置では、エンジン制御を高精度に行うために電子制御ユニット装置(以下「ECU」と言う)によるエンジンの空燃比を制御する目的で、エンジン内に取り入れられる燃料と空気とからなる混合気体の圧力や排気ガスの圧力を測定するために圧力センサが吸気系および排気系に使用されており、殊に、排気系の圧力センサは、排ガスに含まれる、スス、未燃焼燃料、エンジンオイル等の物質によって圧力測定部が塞がれることで圧力を正確に測定できなくなり、故障した場合にはエンジンの制御ができなくなるという問題がある。
【0004】
そこで、圧力センサの構造を変えたり機械的な部品を付設したりすることなくエンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断をする手段として、エンジンをECUにより診断するものが特開2018-71374号公報などに提示されている。
【0005】
これらの公報に提示されたエンジン制御に用いられる圧力センサの応答性診断をする手段は、例えば圧力センサとしてインテークマニホールド圧力センサについて示した図21のように、エンジンのインテークマニホールド2に配置されたインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕がECU3に接続され、マイクロコンピュータ4に入力されて、インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の情報を基にエンジン制御を行っており、同時に前記マイクロコンピュータ4内部にてインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の応答性が適切な性能を確保しているかを圧力センサ応答診断回路8にて判断するものであり、ECU3においてスロットルバルブ6を閉状態または開状態の一方から他方を経て再び一方に変化させる閉動作を、所定期間ごとに複数回にわたって実施し、1回の前記開閉動作時のインテークマニホールド吸気圧力センサ〔Pmap〕が検出する圧力の差分を圧力変化量として算出し、複数の前記開閉動作ごとの前記圧力変化量を比較することで、インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の応答性診断をするものである。
【0006】
また、前記図21に示した診断手段におけるインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の応答性診断をする他の手段として、図22に示したようにインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の空気上流部に配置されているスロットルバルブ6の開度センサ情報信号(TH)を検出してスロットルバルブ6が開き始める時間からインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕が立ち上がる時間を測定し、この両者の時間差をΔT1として応答時間とし、インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕応答性が劣化した場合、この時間差がΔT2となるため、この時間差が広がれば、応答性劣化と判定して故障判定する手段も知られている。
【0007】
しかしながら、前記従来のECU3を用いた圧力センサの応答性診断方法は診断開始のトリガーを、加速、もしくは、減速の過渡的な条件としており、車両における一般公道上での実施においては様々な加速条件があるため一様な過渡条件とならない場合もあり、診断結果にばらつきが多く、正しい圧力センサの応答性の判断が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-240073号公報
【文献】特開2008-38872号公報
【文献】特開2018-71374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、エンジンの吸気系または排気系におけるエンジン制御に用いられる圧力センサが正確に測定できなくなることを事前に防止するための各種圧力センサの応答性診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、火花点火式のエンジン制御に用いられるエンジンの吸気系または排気系に備えた圧力センサの応答性診断方法であって、前記エンジンの作動時におけるピストンの往復動に伴う吸気または排気によって前記エンジンの吸気系または排気系に生じる圧力脈動振幅である圧力センサ信号情報を計測し、計測した前記圧力センサ信号情報を、エンジン制御装置内部に配置されたアナログフィルタ回路およびデジタルフィルタ回路により、帯域通過フィルタ処理、絶対値化処理を経て、前記圧力センサが検出した高周波数帯の圧力脈動振幅を指標値化した計測指標値と、正常時に計測した前記圧力センサ信号情報を、前記アナログフィルタ回路および前記デジタルフィルタ回路により、帯域通過フィルタ処理、絶対値化処理を経て、前記圧力センサが検出した高周波数帯の圧力脈動振幅を指標値化した正常指標値と、を比較し、前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも低いまたは等しい場合には、前記圧力センサの応答性に故障に繋がる劣化があると判断し、前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも高い場合には、前記圧力センサの応答性は正常と判断することで、前記エンジンの制御に用いられる圧力センサに生じた応答性の劣化の有無を判断することを特徴とし、このように計測指標値を正常時の前記圧力センサ信号情報から指標値化した正常指標値と比較することで確実に応答性の劣化の有無を判断することができる。
【0011】
また、本発明において、前記圧力センサ信号情報を前記アナログフィルタ回路および前記デジタルフィルタ回路により処理する際に、前記絶対値化処理をした後に、加重平均処理により平滑化し、更に特定のドライビング・サイクルにおいて最大値更新処理により最大値を更新することにより指標値化することで、特定の運転条件だけではなく、様々な運転条件を1つの指標で応答性の劣化の有無を判断することにより計測を少なくすることができる。
【0012】
更に、本発明において、エンジンの回転情報およびアクセル開度情報を基にして、どの運転条件をどれくらいの時間経験したかをカウントし、そのカウントの合計値から予め想定された運転条件を経験したか否かを判断し、判断が真である場合に運転条件経験フラグを「真」とする判定処理を行い、前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも低くまたは等しく、且つ、前記運転条件経験フラグが「真」である場合には、前記圧力センサの応答性に故障に繋がる劣化があると判断し、前記計測指標値が前記正常指標値である所定の応答性故障診断閾値よりも高く、且つ、前記運転条件経験フラグが「真」である場合には、前記圧力センサの応答性は正常と判断することで、前記エンジンの制御に用いられる圧力センサに生じた応答性の劣化の有無を判断する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧力センサの構造を複雑化することなく、圧力センサの応答性の異常状態を事前に診断することができ、特に、診断条件として特定の加速・減速条件を必ずしも必要としないばかりか定常運転状態でも圧力センサの応答性が診断できる可能性もあるため、精度が高く、且つ、車両使用状況下で診断実行率の高い圧力センサの応答性能の劣化診断が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に適用されるエンジンに搭載される圧力センサの一例を示す配置図。
図2】インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕について本発明を実施した場合の好ましい実施の形態の概略図。
図3図2に示した実施の形態におけるエンジンが定常運転時(アイドリング運転時)におけるインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕のピストンの往復動に伴う吸気によって生じる圧力脈動振幅である圧力センサ信号情報である吸気圧力〔kPa〕の時系列データを示す説明図。
図4図2に示した実施の形態における圧力脈動の指標値化を示す説明図。
図5】本発明に用いられる圧力センサ信号から振幅を抽出する帯域通過フィルタの設計の一例を示す測定図。
図6】本発明における圧力センサの応答性に関する故障診断方法の説明図。
図7】正常状態の燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の本実施の形態における応答性診断の圧力振幅と時系列の測定図。
図8】時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた状態の燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の本実施の形態における応答性診断の圧力振幅と時系列の測定図。
図9】時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた状態の燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の本実施の形態における応答性診断の圧力振幅と時系列の測定図。
図10】前記図7に示した特性を示す燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕における本発明の実施の形態における正常時の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図11】前記図7に示した特性を示す燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕における本発明の実施の形態における時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図12】前記図7に示した特性を示す燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕における本発明の実施の形態における時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図13】正常状態のインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の本実施の形態における応答性診断の圧力振幅と時系列の測定図。
図14】前記図13に示した特性を示すインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕における本発明の実施の形態における正常時の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図15】前記図13に示した特性を示すインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕における本発明の実施の形態における時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図16】前記図13に示した特性を示すインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕における本発明の実施の形態における時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図17】正常状態のEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕の本実施の形態における応答性診断の圧力振幅と時系列の測定図。
図18】前記図17に示した特性を示すEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕における本発明の実施の形態における正常時の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図19】前記図17に示した特性を示すEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕における本発明の実施の形態における時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図20】前記図17に示した特性を示すEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕における本発明の実施の形態における時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の応答性診断の実行結果を示す測定図。
図21】従来のインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の応答性劣化診断装置についての概略図。
図22図21に示した圧力センサの応答性劣化診断装置による診断方法の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0020】
尚、本発明は、図1に示した、例えば燃費改善等の目的で、燃料と混合する気体として排気ガスを用いる排ガス循環(Exhaust Gas Recirculation,以下「EGR」と言う)装置を備えたエンジンのように、排気系の圧力センサであるターボ出口排気圧力センサ〔Ptcout〕、EGRバルブ上流圧力センサ〔Pegr〕などだけでなく、吸気系の圧力センサであるインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕、ターボ上流空気圧力センサ〔Pair〕、スロットル上流圧力センサ〔Pth〕や燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕などエンジン制御に用いられる各所に使用される圧力センサについても同様に実施することができるものである。
【0021】
図2は、前記各圧力センサの内で、エンジン1のインテークマニホールド2に設置されたインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕について本発明を実施した場合の好ましい実施の形態を示すものであり、インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の情報はワイヤーハーネスを介してECU3に入力される。
【0022】
ここで、一般的にECU3にはエンジン制御で不要となるノイズ成分を除去するための電子部品で構成されたアナログフィルタ回路9とソフトウエアで構成されたデジタルフィルタ処理回路11が配備されているが、今回の技術に用いるフィルタ部は従来仕様と比較して、エンジン脈動成分を検出するために高周波数帯が観測可能なアナログフィルタ回路10とデジタルフィルタ回路13とからなるフィルタ装置を備えており、この情報を元に応答性劣化の故障診断を行うが、デジタルフィルタ回路12を並列に設け診断応答処理とは別のフィルタ処理を実施した情報を元にエンジン制御処理回路5により実施することにより、センサ入力回路を変更しても従来と変わらないエンジン制御が可能となる。
【0023】
次に、本実施の形態の圧力センサの応答性診断の原理についてインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕を例にして説明する。
【0024】
図3はエンジンが定常運転時(アイドリング運転時)におけるインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕のピストンの往復動に伴う吸気によって生じる圧力脈動振幅からなる圧力センサ信号情報である吸気圧力〔kPa〕の時系列データを示すものである。
【0025】
ここで、エンジンは往復動機関であるため、間欠的な吸気・排気作用により脈動が少なからず発生するため、図3に示すように定常値よりも高いか若しくは低い圧力である圧力脈動として必ず観測でき、この圧力脈動は高周波数であるため、圧力センサの応答性が劣化するとこの振幅が見かけ上に減少するように観測される。本発明はこの点に着目したものであり、前記圧力脈動を観測して指標値化し、これを正常時と比較することで圧力センサの応答性劣化を判別可能するものである。
【0026】
次に、本実施の形態における圧力脈動の指標値化について図4を用いて説明する。
【0027】
図4に示すように、本実施の形態における診断対象となる各圧力センサ信号が、帯域通過フィルタ、絶対値処理を経て、圧力センサ振幅値(RES_AMP)となる過程を経るが、前記圧力センサ振幅値(RES_AMP)には定常で発生する圧力脈動などに加えて、加減速時の過渡変化なども含まれた高周波数成分として重畳されてしまうため、加重平均処理によって適切な平滑化処理を行い、応答を数値として抽出し、これを特定のドライビング・サイクル(例えば、エンジン始動から次のエンジン始動までの運転中の全区間)において、最大値更新処理により最大値を更新することにより、比較的簡単な方法で当該圧力センサの最大応答を指標値として数値化することで圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)を求めることができる。
【0028】
ここで、各圧力センサ信号から振幅を抽出する帯域通過フィルタの設計が重要になるが、図5にその一例を示す。低域は1Hz以下をカットし、高域は10Hz以上をカットすることで、応答性診断に不要なDC成分と、電気的なノイズ成分を除去することで、検出精度を向上させることを特徴としている。尚、これらの帯域通過フィルタは、一般的な有限インパルス応答(FIR)フィルタや、無限インパルス応答フィルタ(IIR)フィルタの技術を利用することで、比較的少ないリソースでマイクロコンピュータに実装が可能であるのは説明するまでもない。
【0029】
ここで求められた指標値は圧力センサの応答性が高いほど、高い指標値を示すが、前述のように、圧力センサに発生する圧力脈動によって指標値が変化するため、運転条件によって指標値が影響を受けることになる。
【0030】
そこで、例えば図6に示すように、エンジンの回転情報〔Ne〕とアクセル開度情報〔APS〕から、どの運転条件を、どれぐらいの時間経験したかをカウントし、そのカウントの合計値から、予め想定された運転条件を経験したと判断することができる。
【0031】
更に詳細に説明すると、経験したことを示すフラグ情報を算出する判定処理を実施し、このフラグ情報が「真」(True)であるとき、前述した圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)を求めることができ、圧力センサの応答性劣化指標(RES_IDX)による判定を行うことで正しい応答性の判断が可能となる。
【0032】
そして、前記圧力センサの応答性が正常ならば、圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)は高い値を示し、応答性が劣化していれば、圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)は低い値を示す。
【0033】
従って、前記圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)の値が応答性故障診断閾値よりも低く、且つ、運転条件経験フラグが「真」(True)として論理積が判定した場合には圧力センサ応答性に故障に繋がる劣化があると判断し、前記圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)の値が応答性故障診断閾値よりも高く、且つ、運転条件経験フラグが「真」(True)であると論理積が判定した場合には、センサ応答性は正常と判断することで、圧力センサの応答性に関する故障診断が実施される
【0034】
次に、本実施の形態の作用について例えば燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の場合について説明する。
【0035】
図7は燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の応答性が正常な状態においてエンジン台上でWorld-wide Hamonized Transient Cycle試験モード(以下「WHTC試験モード」と言う)で運転したときのデータを示すもので、上段のグラフは燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕からの圧力脈動〔kPa〕の時系列〔s(秒)〕についてのデータを示しており、エンジン停止状態から始動して、WHTC試験モードで定められた各々の定常および過渡的な運転を実施している。
【0036】
前記図7における上段のグラフにおいて着目するところは、経過時間300(s)前後のアイドル運転状態において燃料噴射バルブ作動により比較的大きな圧力脈動が発生し、燃料噴射圧力センサ値がこれに呼応して大きく振動する様子が観測できる点である。
【0037】
図7における下段に示したグラフは、前記上段のグラフにおいて着目されるアイドル運転状態において燃料噴射バルブ作動により観測される振動成分である燃料噴射圧力センサ信号に短時間高速フーリエ変換を施したものを、横軸を時間軸とし、縦軸を周波数帯として表したものである。
【0038】
尚、図7における中段のグラフは前記下段のグラフにおける周波数帯の振幅を濃淡によって表したものであり、薄い色ほど大きな振動が存在していることを示している。
【0039】
そして、前記図7の下段のグラフからの解析結果によると、前記アイドル運転においては、10Hz付近に燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の圧力振幅が表れていることが解り、これに加えて、試験モード運転の後半の定常運転にも燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の圧力振幅に大きな振動成分が観測されるが、これは30Hz程度の高調波が主成分となっていることが解る。
【0040】
図8および図9は前記図7に示した特性を示す燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の燃料噴射圧力センサ信号において意図的に燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の応答性の劣化を与えた結果を示すものであり、図8は時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合を示すもの、図9は更に燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の応答性の劣化を与えた時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合を示すものである。
【0041】
図8に示した周波数分布図によると、前記図7に示した正常時に表れていたアイドル条件での燃料噴射圧力センサ信号が減少することが観測される。これは燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の応答性が劣化したことにより、高周波数成分が捉えられなくなった結果であり、図9に示した燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の応答性を更に劣化させた周波数分布図の場合には、アイドル条件での燃料噴射圧力センサ信号が更に減少することが観測される。
【0042】
これらのことから、アイドル条件以外の運転条件においても全体的に燃料噴射圧力センサの応答性が劣化すると高周波数成分が減少していることが解る。
【0043】
図10乃至図12は、前記図7に示した特性を示す燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕における本発明の実施の形態における応答性診断の実行結果を示すものであり、図10は正常状態の診断実行結果を、図11は時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を、図12は時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を、それぞれ示すものである。
【0044】
そして、正常状態の診断実行結果を示す図10によると、アイドル運転時における燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕からの圧力脈動〔kPa〕に呼応して、診断プログラムで計算された圧力センサの振幅値(RES_AMP)が0以上の定常値を示すことが観察され、このことからアイドル運転時において圧力振動が定常的に検出されていることが解る。
【0045】
また、図11に示したように、時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合には燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕からの圧力脈動〔kPa〕に呼応して、診断プログラムで計算された圧力センサの振幅値(RES_AMP)は少なくなり、ほぼ0になっていることが解る。このようにアイドル運転時における燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕からの圧力脈動〔kPa〕に呼応して、診断プログラムで計算された圧力センサの振幅値(RES_AMP)を比較することで、時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を判別することが可能になることが解る。
【0046】
更に、図12に示したように、時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合には燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕からの圧力脈動〔kPa〕に呼応して、診断プログラムで計算された圧力センサの振幅値(RES_AMP)も0付近を示すため、これだけでは前記図11に示した時定数(Tc)=0.1sに相当する場合と区別ができない。
【0047】
しかしながら、アイドルの定常運転だけではなく、加速時における燃料噴射圧力の立ち上がりも遅れるため、前記圧力センサの振幅値(RES_AMP)のピークも低くなる傾向にあり、これによって前記圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)の値が低下傾向を示すことが解る。
【0048】
そこで、前記圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)の情報を利用することで時定数(Tc)=0.1s以上の応答性劣化も検出することが可能となり、この圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)は圧力センサの持つ最大応答を数値化するため、診断が起動したエンジン始動直後は小さい値を示すが、様々な圧力振動や過渡条件を経験すると、徐々に大きな値へと変化する。
【0049】
このように、今回のWHTC試験モード運転では経過時間が約600sでほぼ一定値に飽和する傾向にある。これについては前述した診断プログラムのうち、運転領域経験判定処理のフラグ情報を活用することで、様々な運転条件を経験したことが解るため、これによって判断が可能となる。
【0050】
図13乃至図16は、圧力センサとしてインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕を採用した場合の本発明における実施の形態の作用について説明する。
【0051】
図13は、インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕が正常な状態でのエンジン台上WHTC試験モードで運転したときの本発明の実施の形態であるデータを示すものであり、上段のグラフはインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕からの圧力脈動〔kPa〕の時系列〔s(秒)〕についてのデータを示しており、エンジン停止状態から始動して、WHTC試験モードで定められた各々の定常および過渡的な運転を実施している。
【0052】
図13の経過時間300s前後のアイドル運転状態に着目すると、圧力脈動により300Hz程度の高調波が観測できるが、振幅が小さく、劣化判定はできない。また、モード後半の高回転・高負荷の定常運転領域も同様に圧力振幅による高調波成分は観測できるが、振幅が小さく、この情報だけでは劣化の判定はできない。
【0053】
次に、本発明において、圧力センサとして、インテークマニホールド圧力センサ〔Pint〕を用いた場合の本発明の実施の形態の観測結果を図14乃至図16に示す。図14は正常状態の診断実行結果を、図15は時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を、図16は時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を、それぞれ示すものである。
【0054】
正常なインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕での応答性能診断の実行結果である図14によると、圧力センサの振幅値(RES_AMP)はアイドル状態で0付近を示しており、後半の高回転・高負荷の定常運転領域においても同様に小さいことから、圧力センサの振幅値(RES_AMP)の情報を利用した応答性劣化判定できないことが解る。ここで、診断プログラムで計算される圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)の情報に着目すると、インテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)は試験モード終了時点で80付近まで上昇していることが解る。
【0055】
更に、時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を示す図15においても、圧力センサの振幅値(RES_AMP)およびインテークマニホールド圧力センサ〔Pmap〕の圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)ともに前記図12に示した圧力センサ正常時と差異がなく、応答性劣化判定はできないが時定数(Tc)=0.1s程度の劣化はエミッションに影響を与えないため判定できなくても問題はない。
【0056】
更にまた、時定数(Tc)=1.0sに相当する更に劣化させた応答性を与えた場合の診断実行結果を示す図16によると、時定数(Tc)=1.0sに相当する劣化をさせた場合においてもアイドル状態と後半の高回転・高負荷の定常運転領域の圧力センサの振幅値(RES_AMP)は正常なインテークマニホールド圧力センサと差異が無く、圧力センサの振幅値(RES_AMP)では応答性劣化は判別できない。
【0057】
しかしながら、圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)に着目すると、圧力センサの劣化が進んだため圧力センサの振幅値(RES_AMP)のピーク値が低くなり、試験モード終了時点では50付近で留まっていることが観測され、これを圧力センサ応答性劣化指標(RES_IDX)の正常なセンサとの差異を比較することで、時定数(Tc)=1.0s以上の応答性劣化を検出することが可能となる。尚、判定手段については前記図10乃至図13に示した燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の実施の形態の場合と同様であり、説明については省略する。
【0058】
更に、図17乃至図20に、圧力センサとしてEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕を採用した場合の発明の実施の形態における作用について説明する。
【0059】
図17は、EGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕が正常な状態でエンジン台上WHTC試験モードを運転したときのデータを示ものであり、上段のグラフはEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕からの圧力脈動〔kPa〕の時系列データを示し、グラフ下段は上段と同一時間軸におけるEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕の周波数と振幅成分を示す。
【0060】
図17によると、前記EGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕は、アイドル運転で40Hz程度の高調波が観測できるが、振幅は少なく、モード後半の高回転・高負荷の定常運転域で比較的大きな圧力振幅が観測できる。
【0061】
次に、図17に示した圧力振動を有するEGRバルブ上流ガス圧力センサ〔Pegr〕について本発明を実施した場合の応答性診断の実行結果を図18乃至図20に示す。尚、図18は正常状態の診断実行結果を、図19は時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を、図20は時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果を、それぞれ示すものである。
【0062】
そして、正常状態の診断結果を示す図18の診断実行結果によると、アイドル運転では圧力センサの振幅値(RES_AMP)が0であり、図19に示した時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果および図20は時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果も圧力センサの振幅値(RES_AMP)が0であり、アイドル運転だけで劣化判別はできない。
【0063】
一方、モード後半の高回転・高負荷の定常運転域においては、正常状態の診断結果を示す図18の診断実行結果では0以上の圧力センサの振幅値(RES_AMP)を示すことが観察できるが、図19に示した時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果では圧力センサの振幅値(RES_AMP)は小さくなり、正常状態時と比較して時定数(Tc)=0.1sに相当する応答性劣化を判定することが可能になることが解る。
【0064】
また、図20に示した時定数(Tc)=1.0sに相当する応答性劣化を与えた場合の診断実行結果では、圧力センサの振幅値(RES_AMP)は殆ど変化しなくなり、圧力センサの振幅値(RES_AMP)での判定は難しい。尚、判定手段については前記図10乃至図12に示した燃料噴射圧力センサ〔Pinj〕の実施の形態の場合と同様であり、説明については省略する。
【0065】
以上のように、各本実施の形態は、圧力センサに重畳される脈動成分を計測し、この圧力振幅を簡単なフィルタ信号処理により指標値化し、運転条件の経験フラグと組み合わせて判定することで、診断条件に特定の加速・減速条件が必ずしも必要にはならず、加えて、定常運転状態でも圧力センサの応答性が診断できる可能性もあるため、精度が高く、かつ、車両使用状況下で診断実行率の高い圧力センサの応答性能の劣化診断の提供が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン、2 インテークマニホールド、3 ECU、4 マイクロコンピュータ、5 エンジン制御処理回路、6 スロットルバルブ、7 スロットルバルブ開度センサ、8 圧力センサ応答診断回路、9,10 アナログフィルタ回路、11,12,13 デジタルフィルタ回路、Pinj 燃料噴射圧力センサ、Ptcout ターボ出口排気圧力センサ、Pmap インテークマニホールド圧力センサ、Pair ターボ上流空気圧力センサ、Pth スロットル上流圧力センサ
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