(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】全固体電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220825BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220825BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220825BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220825BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220825BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220825BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/052
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2017010387
(22)【出願日】2017-01-24
【審査請求日】2020-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】杉生 剛
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/140565(WO,A1)
【文献】特開2014-035812(JP,A)
【文献】特開2013-157084(JP,A)
【文献】特開2016-162733(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105574(WO,A1)
【文献】特表2016-502746(JP,A)
【文献】特開2017-016793(JP,A)
【文献】特開2014-143133(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064288(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/052094(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/016907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0585
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に介在する固体電解質層とを含み、
前記正
極は、第1固体電解質粒子を含み、
前記負極は、第1固体電解質粒子を含み、
前記正極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記負極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記固体電解質層は、第2固体電解質粒子を含み、
前記第2固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記第2固体電解質粒子は、粒子径が1μm以上の第1粒子群と粒子径が1μm未満の第2粒子群とを含み、
前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1、前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2、前記第1粒子群の平均粒子径d1、および前記第2粒子群の平均粒子径d2は、D2>D1、d1>D1>d2、およびd1>D2>d2を充足し、
前記平均粒子径d1は、5~20μmであり、
前記平均粒子径d2は、1nm以上100nm未満であり、
前記第1固体電解質粒子および前記第2固体電解質粒子の粒子径は、それぞれ、断面における相当円の直径である、全固体電池。
【請求項2】
前記固体電解質層の厚みは、5~150μmであり、かつ前記正極の厚みおよび前記負極の厚みよりも小さい、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質層の充填率は、99体積%以上である、請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記固体電解質層は、バインダの残渣を含まないか、または前記固体電解質層中のバインダの残渣の量が1質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記正極および前記負極の少なくともいずれか一方に含まれる前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2が、D2>D1、d1>D1>d2、およびd1>D2>d2を充足する、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記平均粒子径D1は、0.01~10μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項7】
正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に介在する固体電解質層とを含み、
前記正極は、第1固体電解質粒子を含み、前記負極は、第1固体電解質粒子を含み、
前記固体電解質層は、第2固体電解質粒子を含み、
前記正極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記負極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記第2固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記正極および前記負極の少なくともいずれか一方に含まれる前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足し、かつ、前記平均粒子径D1は、1~10μmであり、
前記固体電解質層の厚みは、5~150μmであり、かつ前記正極の厚みおよび前記負極の厚みよりも小さく、
前記固体電解質層は、バインダの残渣を含まないか、または前記固体電解質層中のバインダの残渣の量が1質量%以下であり、
前記固体電解質層の充填率は、99体積%以上である、全固体電池。
【請求項8】
前記平均粒子径D2は
、50μm
以下であり、かつ前記固体電解質層の厚みの1/2以下である、請求項7に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記平均粒子径D2は、5μm以上である、請求項8に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記第2固体電解質粒子は、粒子径が1μm以上の第1粒子群と粒子径が1μm未満の第2粒子群とを含み、
前記第1粒子群の平均粒子径d1、前記第2粒子群の平均粒子径d2、前記平均粒子径D1、および前記平均粒子径D2は、d1>D1>d2およびd1>D2>d2を充足し、
前記平均粒子径d1は、5~20μmであり、
前記平均粒子径d2は、1
nm以上100nm
未満であり、
前記第1固体電解質粒子および前記第2固体電解質粒子の粒子径は、それぞれ、断面における相当円の直径である、請求項
8に記載の全固体電池。
【請求項11】
前記固体電解質層において、前記第1粒子群が占める割合は、50体積%以上である、請求項1~6および
10のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項12】
前記正極に含まれる前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足し、
前記負極に含まれる前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足する、請求項1~
11のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項13】
第1固体電解質粒子を含
む正極および
第1固体電解質粒子を含む負極のいずれか一方の電極を準備する工程と、
前記一方の電極の主面に、イオン伝導性の第2固体電解質粒子を乾式成膜することにより固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層の主面に、他方の電極を形成することにより電極群を形成する工程と、
前記電極群を加圧する加圧工程と、を備え、
前記正極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記負極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記第2固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記第2固体電解質粒子は、粒子径が1μm以上の第1粒子群と粒子径が1μm未満の第2粒子群とを含み、
前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1、前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2、前記第1粒子群の平均粒子径d1、および前記第2粒子群の平均粒子径d2は、D2>D1、d1>D1>d2、およびd1>D2>d2を充足し、
前記平均粒子径d1は、5~20μmであり、
前記平均粒子径d2は、1nm以上100nm未満であり、
前記第1固体電解質粒子および前記第2固体電解質粒子の粒子径は、それぞれ、断面における相当円の直径である、全固体電池の製造方法。
【請求項14】
前記固体電解質層を形成する工程においてバインダを使用しない、請求項
13に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項15】
第1固体電解質粒子を含む正極および第1固体電解質粒子を含む負極のいずれか一方の電極を準備する工程と、
前記一方の電極の主面に、バインダを用いずに、イオン伝導性の第2固体電解質粒子を乾式成膜することにより固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層の主面に、他方の電極を形成することにより電極群を形成する工程と、
前記電極群を400MPa~1500MPaの圧力で加圧する加圧工程と、を備え、
前記正極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記負極に含まれる前記第1固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記第2固体電解質粒子は、硫化物および水素化物からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記正極および前記負極の少なくともいずれか一方に含まれる前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足し、かつ、前記平均粒子径D1は、1~10μmであり、
前記固体電解質層の厚みは、5~150μmであり、かつ前記正極の厚みおよび前記負極の厚みよりも小さい、全固体電池の製造方法。
【請求項16】
前記加圧工程において、前記電極群に加えられる圧力が1000MPa~1500MPaである、請求項
13~
15のいずれか1項に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層を備える全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な二次電池が開発されている中、高いエネルギー密度が得られ易いリチウムイオン二次電池(LIB)が最も有望視されている。一方、電池の用途拡大に伴って、自動車用電池や据え置き型電池などの大型電池が注目されている。大型電池では、小型電池に比べて安全性の確保がさらに重要になる。無機系の固体電解質を用いる全固体電池は、電解液を用いる電池に比べて、大型化しても安全性を確保し易く、高容量化し易いと期待されている。
【0003】
全固体電池は、一般に、正極、負極、およびこれらの間に介在する固体電解質層を備える電極群を含む。固体電解質層には、固体電解質が含まれ、正極および負極にはそれぞれ、活物質が含まれ、固体電解質が含まれることもある。固体電解質層では、高いイオン伝導性や、固体電解質粒子同士の接触抵抗を低減することが求められる。
【0004】
固体電解質層は、通常、電極の表面に固体電解質を含むスラリーを塗布し、乾燥させることにより形成される(特許文献1)。また、電極と固体電解質層とが積層された電極群は、約5×103kgf/cm2の圧力で加圧される(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/016907号パンフレット
【文献】特開2013-157084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体電池において、スラリーを用いて固体電解質を形成する場合、平均粒子径が小さな固体電解質粒子を用いる方が有利であると考えられる。しかし、平均粒子径が小さな固体電解質粒子を用いると、充填率を十分に高めることが難しい。また、固体電解質粒子の平均粒子径が小さいと、固体電解質層を加圧成形する際に、圧力ムラが生じ、これにより密度のムラも生じて、固体電解質層が湾曲し易くなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に介在する固体電解質層とを含み、
前記正極および前記負極の少なくともいずれか一方は、第1固体電解質粒子を含み、
前記固体電解質層は、第2固体電解質粒子を含み、
前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足する、全固体電池に関する。
【0008】
本発明の他の一局面は、第1固体電解質粒子を含む、前記正極および前記負極のいずれか一方の電極を準備する工程と、
前記一方の電極の主面に、イオン伝導性の第2固体電解質粒子を乾式成膜することにより固体電解質層を形成する工程と、
前記固体電解質層の主面に、他方の電極を形成することにより電極群を形成する工程と、
前記電極群を加圧する加圧工程と、を備え、
前記第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および前記第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足する、全固体電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
全固体電池において、固体電解質層の高いイオン伝導性を確保できるとともに、固体電解質層の湾曲を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全固体電池に含まれる電極群を概略的に示す縦断面図である。
【
図2A】
図1の領域IIを概略的に示す拡大断面図である。
【
図2B】別の実施形態に係る全固体電池に含まれる電極群の一部を拡大した概略拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に全固体電池の製造方法において、静電スクリーン成膜による固体電解質層の形成工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る全固体電池は、正極と、負極と、正極および負極の間に介在するイオン伝導性の固体電解質層とを含む。正極および負極の少なくともいずれか一方は、固体電解質粒子(第1固体電解質粒子)を含み、固体電解質層は、固体電解質粒子(第2固体電解質粒子)を含む。第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、D2>D1を充足する。
【0012】
本実施形態に係る全固体電池は、第1固体電解質粒子を含む、前記正極および前記負極のいずれか一方の電極を準備する工程と、一方の電極の主面に、イオン伝導性の第2固体電解質粒子を乾式成膜することにより固体電解質層を形成する工程と、固体電解質層の主面に、他方の電極を形成することにより電極群を形成する工程と、電極群を加圧する工程(加圧工程)と、を備える製造方法により製造することができる。
【0013】
スラリーを用いて固体電解質層を形成する場合、イオン伝導性を高める観点からは、平均粒子径が小さな固体電解質粒子を用いて、粒子同士の接触性を高めたり、固体電解質層を薄膜化したりすることが有利であると考えられる。しかし、乾式成膜においては、平均粒子径が小さな固体電解質粒子は流動性が低く、固体電解質層における充填率を高めることが難しいため、高いイオン伝導性を得ることは難しい。固体電解質粒子の流動性が低いと、加圧成形により固体電解質層を形成する際に、圧力ムラが大きくなる。その結果、固体電解質層に密度ムラが生じて、固体電解質層の湾曲を招くことがある。
【0014】
これに対し、本実施形態では、電極に含まれる第1固体電解質粒子の平均粒子径D1よりも固体電解質層に含まれる第2固体電解質粒子の平均粒子径D2を大きくする。乾式成膜において、第2固体電解質粒子の流動性を高めることで、固体電解質層における充填性を高めることができるため、高いイオン伝導性を確保することができる。また、固体電解質層において、第2固体電解質粒子の密度ムラが生じることを抑制できるため、固体電解質層の湾曲を抑制することができる。一方、電極では、第1固体電解質粒子は、活物質粒子とともに使用されるため、第1固体電解質粒子と活物質粒子との接触面積を大きくする必要がある。よって、平均粒子径D2より小さな平均粒子径D1の固体電解質粒子を用いて接触面積を大きくし、高いイオン伝導性を確保する必要がある。
【0015】
なお、第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および第2固体電解質粒子の平均粒子径D2は、それぞれ、全固体電池における電極および固体電解質層の断面の電子顕微鏡写真から求めることができる。より具体的には、平均粒子径D1およびD2は、それぞれ、電極および固体電解質層の断面写真において、任意に選択した複数(例えば、10個)の固体電解質粒子の粒子径を測定し、平均化することにより算出することができる。なお、固体電解質粒子の粒子径は、断面写真において、選択した固体電解質粒子の面積と同じ面積を有する円(相当円)の直径とするものとする。
【0016】
固体電解質層の厚みは、5~150μmであり、かつ正極の厚みおよび負極の厚みよりも小さいことが好ましい。スラリーを用いて固体電解質層を形成する場合は、加熱処理後にも固体電解質層内に溶媒や空隙などが残ることがあるため、層内の抵抗が大きくなったり、あるいは短絡しやすくなることがある。本実施形態では、乾式成膜で、流動性が高い第2固体電解質粒子を用いることで、このような厚みでも高密度な固体電解質層を形成することができる。そのため、固体電解質層の薄層化が可能となり、層内抵抗も低減することから、全固体電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0017】
好ましい実施形態では、平均粒子径D2は、1~50μmであり、かつ固体電解質層の厚みの1/2以下である。この場合、平均粒子径D1の粒子を用いるよりも、固体電解質粒子の流動性が良くなるため、固体電解質層の充填率をより高め易くなり、固体電解質層のイオン伝導性をさらに高めることができる。また、固体電解質層の薄層化も可能となるため、全固体電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0018】
平均粒子径D1は、例えば、0.01~10μmである。活物質と混合される固体電解質の粒子径をなるべく小さくすることで、活物質粒子と微細に混じり合わせることができるため、活物質粒子との接触面積が大きくなり、電池特性を向上させることができる。
【0019】
第2固体電解質粒子は、粒子径が1μm以上の第1粒子群と粒子径が1μm未満の第2粒子群とを含んでもよい。ここで、第1粒子群の平均粒子径d1、第2粒子群の平均粒子径d2、および平均粒子径D1は、d1>D1>d2を充足することが好ましい。平均粒子径が大きな第1粒子群を用いることで、固体電解質層を形成する際の高い流動性を確保することができる。また、第1粒子群と、平均粒子径が小さな第2粒子群を併用することで、第1粒子群の壁や粒子との接触面積を低減させて流動性を向上させ、固体電解質層の湾曲をより低減し易くなる。
【0020】
第1粒子群および第2粒子群を構成する固体電解質粒子の粒子径は、上述のように求めることができる。第1粒子群の平均粒子径d1および第2粒子群の平均粒子径d2は、それぞれ、平均粒子径D2の場合に準じて求めることができる。なお、固体電解質層の断面写真において、任意に選択した複数の粒子径が1μm以上の固体電解質粒子について平均粒子径d1を求め、任意に選択した複数の粒子径が1μm未満の固体電解質粒子について平均粒子径d2を求めればよい。
【0021】
高い充填率を確保する観点からは、固体電解質層において、第1粒子群が占める割合は、50体積%以上であることが好ましい。
固体電解質層において第1粒子群が占める割合は、固体電解質層の断面の電子顕微鏡写真に基づいて求めることができる。より具体的には、固体電解質層の断面写真の所定面積の領域において、粒子径が1μm以上の固体電解質粒子が占める面積比率(面積%)を求め、この面積比率を固体電解質層における第1粒子群の体積比率(体積%)と見積もるものとする。測定の信頼性を確保する観点から、電子顕微鏡写真において観察する領域は、例えば、縦および横のサイズがそれぞれ第1粒子群の平均粒子径の10倍以上であるような矩形領域とすることが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る全固体電池では、乾式成膜により固体電解質層を形成する際の固体電解質粒子の流動性を高めることができ、これにより固体電解質層の充填率を向上できる。全固体電池において、固体電解質層の充填率は、例えば、99体積%以上である。
【0023】
なお、固体電解質層の充填率は、例えば、固体電解質層の断面の電子顕微鏡写真に基づいて求めることができる。より具体的には、固体電解質層の断面写真について、空隙と空隙以外の部分とを二値化処理する。そして、断面写真の所定面積の領域において、空隙以外の部分が占める面積比率(面積%)を求め、この面積比率を固体電解質層の体積基準の充填率(体積%)として見積もるものとする。測定の信頼性を確保する観点から、電子顕微鏡写真において観察する領域は、例えば、縦および横のサイズがそれぞれ第2固体電解質粒子の平均粒子径の10倍以上であるような矩形領域とすることが好ましい。
【0024】
上記の製造方法の加圧工程において、電極群に加えられる圧力は100MPa~1500MPaであることが好ましい。このような大きな圧力を加えることで、固体電解質粒子の塑性変形が起こり易くなり、固体電解質層の充填率を高め易くなる。また、第2固体電解質粒子を用いることで、流動性を高め易くなるため、このような圧力を電極群に加えても、固体電解質層の湾曲を抑制することができる。
【0025】
本実施形態では、第2固体電解質粒子の流動性を高めることで、バインダを用いなくても固体電解質層の充填率を高めることができる。そのため、固体電解質層を形成する工程においては、特に、バインダを使用する必要がない。また、バインダを用いないことで、バインダが除去された後に空隙が形成されることが抑制される。このような観点からも、固体電解質層の充填率を高めることができる。
【0026】
本実施形態に係る全固体電池およびその製造方法についてより詳細に説明する。
(固体電解質層)
正極と負極との間に介在する固体電解質層は、イオン伝導性の第2固体電解質粒子を含む。
上記の固体電解質としては、例えば、100MPa以下の圧力で塑性変形するイオン伝導性の固体電解質(無機固体電解質など)が好ましい。このような固体電解質を用いる場合には、電極群や電池を加圧する際に、第2固体電解質粒子が塑性変形して、密に充填され、第2固体電解質粒子間の隙間を低減することができ、その結果、固体電解質層の充填率をさらに高めることができる。また、固体電解質層の高いイオン伝導性を確保する観点からは、固体電解質としては、10-4S/cm以上のイオン伝導度を有するものが好ましい。このような固体電解質のうち、特に、硫化物(硫化物系固体電解質(具体的には、硫化物系無機固体電解質))、水素化物(水素化物系固体電解質)が好ましい。固体電解質の結晶状態は、特に制限されず、結晶性および非晶質のいずれであってもよい。
【0027】
硫化物としては、例えば、LiおよびPを含む硫化物がより好ましい。硫化物の具体例としては、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、Li2S-B2S3、Li2S-Ga2S3、Li2S-Al2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-Al2S3-P2S5、Li2S-P2S3、Li2S-P2S3-P2S5、LiX-Li2S-P2S5、LiX-Li2S-SiS2、LiX-Li2S-B2S3(X:I、Br、またはCl)などが挙げられる。
【0028】
水素化物としては、例えば、水素化ホウ素リチウムの錯体水素化物などが挙げられる。錯体水素化物の具体例としては、LiBH4-LiI系錯体水素化物およびLiBH4-LiNH2系錯体水素化物などが挙げられる。
固体電解質は、一種を単独で用いてもよく、必要に応じて、二種以上を併用してもよい。
正極および負極に含まれる固体電解質は、同じ種類であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
本実施形態では、正極および/または負極に含まれる第1固体電解質粒子の平均粒子径D1および固体電解質層に含まれる第2固体電解質粒子の平均粒子径D2が、D2>D1を充足するように、固体電解質粒子の平均粒子径を調節することが重要である。D2>D1とすることにより、上述のように、固体電解質層では高い充填率が確保され、電極では高いイオン伝導性が確保される。
【0030】
平均粒子径D2の平均粒子径D1に対する比(=D2/D1)は、例えば、2~200であり、2.5~40であることが好ましく、3~15であることがさらに好ましい。D2/D1比がこのような範囲である場合、固体電解質層の高い充填率と電極における高いイオン伝導性とがバランスよく得られる。
【0031】
平均粒子径D2は、例えば、1~50μmであり、5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることがさらに好ましい。平均粒子径D2がこのような範囲である場合、固体電解質層の充填率をさらに高め易い。
【0032】
平均粒子径D2は、固体電解質層の厚みの1/2以下であることが好ましく、1/3 以下であることがさらに好ましい。平均粒子径D2と固体電解質層の厚みとがこのような関係である場合には、固体電解質層を薄層化し易くなる。また、内部短絡を抑制し易くなる。
【0033】
第2固体電解質粒子は、例えば、粒子径が1μm以上の第1粒子群と粒子径が1μm未満の第2粒子群とを含むことができる。ここで、第1粒子群の平均粒子径d1、第2粒子群の平均粒子径d2、および第1固体電解質粒子の平均粒子径D1は、d1>D1>d2を充足することが好ましい。各平均粒子径がこのような関係である場合、第2固体電解質粒子の流動性を確保しながらも、固体電解質層の湾曲をさらに低減し易くなる。
【0034】
平均粒子径d1は、例えば、5~20μmであり、8~15μmであることがさらに好ましい。このような平均粒子径d1を有する第1粒子群を用いることで、D2をD1よりも大きく制御することができ、固体電解質層における高い充填性を確保し易くなる。
【0035】
平均粒子径d2は、例えば、1~100nmであり、5~50nmであることがさらに好ましい。このような平均粒子径d2を有する第2粒子群を用いることで、平均粒子径d1の粒子が、他の粒子や壁面と接触する面積を低減することができるため、粉体の流動性が向上し、固体電解質層の湾曲をさらに抑制し易くなる。
【0036】
固体電解質層において、第1粒子群が占める割合は、使用する固体電解質粒子の物性にもよるが、50体積%以上であることが好ましい。第1粒子群が占める割合の上限は、例えば、99体積%以下である。第1粒子群がこのような割合で固体電解質層に含まれていることで、第2固体電解質粒子の高い流動性を確保することができる。
【0037】
本実施形態に係る全固体電池では、固体電解質層の充填率を、例えば、99体積%以上、好ましくは99.5体積%以上にすることもできる。充填率がこのように高いことで、固体電解質層の高いイオン伝導性が得られ、抵抗を低減し易くなる。
【0038】
固体電解質層は、必要に応じて、全固体電池の固体電解質層に用いられる公知の添加剤を含むことができる。しかし、上記の第2固体電解質粒子として柔らかい粒子を用いることで、第2固体電解質粒子間において高い密着性が得られるため、樹脂などのバインダを特に用いる必要がない。
【0039】
固体電解質層は、高いイオン伝導性を確保し易い観点から、バインダの残渣を含まないか、もしくはバインダの残渣を含む場合でも、固体電解質層中のバインダの残渣の量が、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、「バインダの残渣」には、バインダ自体、およびバインダの分解により生成された成分を含むものとする。
バインダの残渣の量は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)法などを利用して求めることができる。
【0040】
固体電解質層の厚みは、例えば、5~150μmであり、5~100μmまたは5~50μmであることが好ましい。また、固体電解質層の厚みは、正極の厚みおよび負極の厚みよりも小さいことが好ましい。流動性が高い第2固体電解質粒子を用いることでこのように薄層化が可能である。また、固体電解質層の抵抗も低減することができ、電極の容積を大きくすることができるため、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0041】
(正極)
正極は、正極活物質を含んでいればよく、正極活物質に加え、全固体電池で正極に使用される公知の成分を含んでもよい。正極におけるイオン伝導性を高める観点から、正極は、正極活物質とともに、イオン伝導性を示す固体電解質を含むことが好ましい。
【0042】
正極活物質としては、全固体電池において、正極活物質として使用されるものを特に制限なく用いることができる。全固体LIBで使用される正極活物質を例に挙げると、例えば、コバルト、ニッケル、および/またはマンガンなどを含むリチウム含有酸化物[例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4など)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなど)、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2など]、Li過剰の複合酸化物(Li2MnO3-LiMO2)などの酸化物の他、酸化物以外の化合物も挙げられる。酸化物以外の化合物としては、例えば、オリビン系化合物(LiMPO4)、イオウ含有化合物(Li2Sなど)などが挙げられる。なお、上記式中、Mは遷移金属を示す。正極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。高容量が得られ易い観点からは、Co、NiおよびMnからなる群より選択される少なくとも一種を含むリチウム含有酸化物が好ましい。リチウム含有酸化物は、さらにAlなどの典型金属元素を含んでもよい。Alを含むリチウム含有酸化物としては、例えば、アルミニウム含有ニッケルコバルト酸リチウムなどが挙げられる。
【0043】
正極の導電性を高める観点からは、10-4S/cm以上(より好ましくは10-2S/cm以上)の導電率を有する正極活物質を用いることが好ましい。正極の導電性を高めることで、良好な充放電特性が得られる。このような正極活物質のうち、全固体LIBに使用されるものとしては、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiCoO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3などが挙げられる。
【0044】
また、正極活物質粒子を、金属酸化物で被覆した被覆粒子を用いてもよい。金属酸化物は、正極活物質粒子と固体電解質粒子との界面において元素の拡散を抑制する作用を有するものであればよく、複合酸化物であってもよい。金属酸化物としては、Li伝導性の複合酸化物(Li4Ti5O12、LiNbO3、Li2ZrO3など)の他、Al2O3、ZrO2などの酸化物も使用できる。
【0045】
正極活物質の平均粒子径は、例えば、1~20μmであり、3~15μmであることが好ましい。
なお、正極活物質の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)である。
【0046】
固体電解質としては、全固体電池に応じたイオン伝導性を示す限り、特に制限されないが、例えば、全固体電池で固体電解質層に使用されるような固体電解質が使用できる。本実施形態に係る全固体電池では、正極および負極の少なくとも一方が第1固体電解質粒子を含んでいればよく、正極および負極の双方が第1固体電解質粒子を含んでいてもよい。便宜上、正極および負極の双方に固体電解質粒子が含まれる場合、いずれの固体電解質粒子も第1固体電解質粒子と称するが、正極に含まれる第1固体電解質粒子と負極に含まれる第1固体電解質粒子とは種類や平均粒子径は、異なってもよく、同じであってもよい。
【0047】
第1固体電解質粒子には、例えば、固体電解質層について例示した固体電解質を用いることができ、硫化物が好ましい。
【0048】
第1固体電解質粒子の平均粒子径D1は、例えば、0.01~10μmであり、0.5~8μmであることが好ましく、1~5μmであることがさらに好ましい。平均粒子径D1がこのような範囲である場合、正極活物質粒子との接触面積をより大きくすることができる。
【0049】
正極活物質と固体電解質との総量に占める固体電解質の割合は、特に制限されないが、正極の高いイオン伝導性を確保し易い観点からは、例えば、5~50質量%であり、20~40質量%が好ましい。
【0050】
正極は、正極集電体と、正極集電体に担持された正極活物質または正極合剤とを含んでもよい。正極合剤とは、正極活物質および固体電解質を含む混合物である。
正極集電体としては、全固体電池の正極集電体として使用されるものであれば特に制限なく使用することができる。このような正極集電体の形態としては、例えば、金属箔、板状体、粉体の集合体などが挙げられ、正極集電体の材質を成膜したものを用いてもよい。金属箔は、電解箔、エッチド箔などであってもよい。
正極集電体は、正極活物質層を形成する際に、波打ったり、破れたりしない強度を有するものが望ましい。
【0051】
正極集電体の材質としては、正極の酸化還元電位において安定な材質、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、亜鉛、スズ、またはこれらの合金などが例示される。例えば、全固体LIBでは、リチウムと合金化しない材質が正極集電体に利用される。
正極集電体の厚みは、例えば、5~300μmの範囲から適宜選択できる。
正極の厚みは、例えば、50~200μmである。
【0052】
(負極)
負極は負極活物質を含んでいればよく、負極活物質に加え、全固体電池で負極にされる公知の成分を含んでもよい。負極におけるイオン伝導性を高める観点から、負極は、負極活物質とともに、イオン伝導性を示す固体電解質を含むことが好ましい。
【0053】
負極活物質としては、全固体電池の種類に応じて電荷のキャリアとなるイオンを挿入および脱離することができる限り、特に制限されず、全固体電池で使用される公知の負極活物質が利用できる。全固体LIBを例に挙げると、負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを挿入および脱離可能な炭素質材料の他、リチウムイオンを挿入および脱離可能な金属や半金属の単体、合金、または化合物などが挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛など)、ハードカーボン、非晶質炭素などが例示できる。金属や半金属の単体、合金としては、リチウム金属や合金、Si単体などが挙げられる。化合物としては、例えば、酸化物、硫化物、窒化物、水化物、シリサイド(リチウムシリサイドなど)などが挙げられる。酸化物としては、チタン酸化物、ケイ素酸化物などが挙げられる。負極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ケイ素酸化物と炭素質材料とを併用してもよい。
【0054】
全固体LIBでは、負極活物質のうち、黒鉛が好ましく、黒鉛粒子と黒鉛粒子を被覆する非晶質炭素とを含む被覆粒子がさらに好ましい。結晶配向性の小さい黒鉛を用いることで、膨張収縮が多方向に平均化されて生じるため、繰り返し充放電を行なった場合の容量低下を低減できる。また、被覆粒子を用いると、粒子の表面全体に渡ってリチウムイオンの挿入および脱離が行なわれ、界面反応を円滑に行うことができる。
【0055】
固体電解質としては、全固体電池に応じたイオン伝導性を示す限り、特に制限されないが、例えば、全固体電池で固体電解質層に使用されるような固体電解質が使用できる。上述のように、負極が第1固体電解質粒子を含んでもよい。第1固体電解質粒子には、例えば、固体電解質層について例示した固体電解質を用いることができ、硫化物が好ましい。
【0056】
第1固体電解質粒子の平均粒子径D1は、正極について記載した範囲から選択できる。
負極活物質および固体電解質の総量に占める固体電解質の割合は、正極活物質および固体電解質の総量に占める固体電解質の割合として記載した範囲から適宜選択できる。
【0057】
負極は、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質または負極合剤とを含んでもよい。負極合剤とは、負極活物質および固体電解質を含む混合物である。負極集電体の形態としては、正極集電体について記載したものが挙げられる。負極集電体の材質としては、負極の酸化還元電位において安定な材質、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、これらの合金などが挙げられる。例えば、全固体LIBでは、リチウムと合金化しない材質が負極集電体に利用される。負極集電体の厚みは、10~50μmであることが好ましい。
負極の厚みは、例えば、50~200μmである。
【0058】
図1は、本実施形態に係る全固体電池に含まれる電極群を概略的に示す縦断面図である。
図2Aは、
図1のIIの領域の概略拡大断面図である。全固体電池に含まれる電極群は、正極2と、負極1と、これらの間に介在する固体電解質層3とを備える。正極2は、正極集電体2aとこれに担持された正極活物質層(正極層)2bとを備える。負極1は、負極集電体1aとこれに担持された負極活物質層1bとを備える。正極2と負極1とは、正極活物質層2bと負極活物質層1bとが対向するように配置される。正極活物質層2bと負極活物質層1bとの間に、固体電解質層3が配置されている。
【0059】
負極1は、負極活物質粒子11と第1固体電解質粒子12とを含み、正極2は、正極活物質粒子13と第1固体電解質粒子12とを含む。
図2Aでは、正極2および負極1の双方に第1固体電解質粒子12が含まれる場合を示したが、この場合に限らず、正極2および負極1の少なくともいずれか一方に、第1固体電解質粒子12が含まれていればよい。そして、固体電解質層3は、第2固体電解質粒子14を含む。第1固体電解質粒子12の平均粒子径D1および第2固体電解質粒子14の平均粒子径D2は、D2>D1を満たす。
【0060】
図2Bには、固体電解質層3が、粒子径が1μm以上の固体電解質粒子14aからなる第1粒子群と、粒子径が1μm未満の固体電解質粒子15からなる第2粒子群とを含む場合を示す。
図2Bの例では、第1粒子群の平均粒子径d1、第2粒子群の平均粒子径d2、および正極2および/または負極1に含まれる第1固体電解質粒子の平均粒子径D1が、d1>D1>d2を充足することが好ましい。
【0061】
図1の例では、正極活物質層2bおよび負極活物質層1bはいずれも所定の厚みを有する正方形である。正極活物質層2bの周囲を囲むように、正極集電体2a上には環状の絶縁層4aが配されている。また、負極活物質層1bの周囲を囲むように、負極集電体1a上には環状の絶縁層4bが配されている。絶縁層4aおよび4bにより、正極集電体2aと負極集電体1aとの短絡が防止される。正極集電体2aは、正極活物質層2bよりもサイズが大きな正方形の金属箔である。そして、負極集電体1aは、負極活物質層1bよりもサイズが大きな正方形の金属板である。固体電解質層3は、正極活物質層2bの上面および側面と、絶縁層4aの内周側の上面および側面を覆うように形成されている。
【0062】
全固体電池は、電極群を電池ケースに収容することにより作製できる。電極群の正極および負極には、それぞれリードの一端部が接続される。リードの他端部は電池ケースの外部に露出した外部端子と電気的に接続される。
【0063】
全固体電池の形状は、
図1に示す例に限らず、丸型、円筒型、角型、薄層フラット型などの様々なタイプであってもよい。電極群は、複数の正極および/または複数の負極を含んでもよい。
図1には、正極活物質層や負極活物質層が正方形の場合を示したが、この場合に限らず、全固体電池の構成部材の形状は適宜選択でき、例えば、長方形、ひし形、円形、楕円形などであってもよい。
【0064】
本実施形態に係る全固体電池としては、全固体LIB、全固体ナトリウムイオン電池などの全固体アルカリ金属イオン電池;全固体アルカリ土類金属電池などの全固体多価イオン電池などが挙げられる。
【0065】
本実施形態に係る全固体電池は、固体電解質層を形成する電極を準備する工程と、電極上に固体電解質層を形成する工程と、電極群を形成する工程と、電極群に圧力を加える加圧工程とを備える製造方法により形成できる。以下に各工程について説明する。
【0066】
(電極を準備する工程)
本工程では、次工程で固体電解質層を形成するための電極(つまり、正極および負極のいずれか一方)を準備する。電極は、第1固体電解質粒子を含んでいる。工程に先立って、双方の電極を形成してもよく、固体電解質層を形成する一方の電極を形成し、固体電解質層を形成した後で、他方の電極を形成してもよい。
【0067】
正極は、例えば、正極活物質または正極合剤を成膜することにより得ることができる。正極集電体の表面に、正極活物質や正極合剤の層を形成することにより正極を形成してもよい。負極は、負極活物質または負極合剤と、必要に応じて負極集電体とを用いて、正極の場合に準じて作製できる。正極および負極の活物質層(または合剤層)は、乾式成膜および湿式成膜のいずれで形成してもよい。乾式成膜としては、後述する固体電解質層の場合に準じて、静電スクリーン成膜を利用できる。
【0068】
正極および負極の活物質層や合剤層は、必要に応じて圧縮成形してもよい。圧縮成形する際の圧力は、例えば、1~5MPaである。
【0069】
(固体電解質層を形成する工程)
本工程では、前工程で形成した一方の電極の主面に、第2固体電解質粒子を乾式成膜することにより固体電解質層を形成する。
【0070】
固体電解質層は、一方の電極の少なくとも一方の主面において、第2固体電解質粒子または第2固体電解質粒子を含む混合物(例えば、第2固体電解質粒子と添加剤などとを含む混合物)を乾式にて成膜し、圧縮成形することにより形成できる。圧縮成形する際の圧力は、例えば、1~5MPaである。上述のように、固体電解質層を形成する工程においては、樹脂などのバインダを用いないことが好ましい。
【0071】
乾式成膜は、公知の方法で行うことができるが、静電スクリーン成膜により行なうことが好ましい。
図3は、静電スクリーン成膜による固体電解質層の形成工程を説明するための模式図である。静電スクリーン成膜では、メッシュ状のスクリーン5を用いて固体電解質層を形成する粉体材料6を帯電させ、粉体材料6とは反対の極性に帯電させた電極9上に粉体材料6を堆積させることにより成膜する。スクリーン5は、電源(直流電源)7と接続しており、粉体材料6を樹脂製のスポンジなどの摺込体8を用いて粉体材料6をスクリーン5に摺り込ませることで、粉体材料6をスクリーン5に接触させて帯電させる。
【0072】
粉体材料6を堆積させる電極9は、全固体電池に使用される正極または負極のいずれかである。図示例では、電極9は、活物質層9aと活物質層9aを支持する集電体9bとを備えており、集電体9bが電源7に接続されている。粉体材料6を堆積させる際には、電極9を、スクリーン5(すなわち、帯電した粉体材料6)とは反対の極性に帯電させる。スクリーン5との接触により帯電した粉体材料6は、反対の極性の電極9に静電誘導され、電極9上に堆積する。粉体材料6は、電極9が露出している領域や電極9上に堆積した粉体材料6の量が少ない領域に優先的に堆積する。そのため、静電スクリーン成膜によれば、粉体材料6の分布が均一な固体電解質層を形成することができる。
【0073】
図3では、粉体材料6がマイナスに帯電し、電極9がプラスに帯電した例を示しているが、この場合に限らず、粉体材料6をプラスに帯電させ、電極9をマイナスに帯電させてもよい。
【0074】
スクリーン成膜の装置や構成部材などは特に制限されず、市販品を利用してもよい。スクリーンとしては、例えば、導電性のメッシュ(ステンレス鋼製のメッシュなど)などが利用でき、スクリーン印刷用のメッシュを用いてもよい。メッシュの開口形状、メッシュ数、線径、材質などは、粉体材料の物性や種類、固体電解質層のサイズや膜質などに応じて調節すればよい。
【0075】
(電極群を形成する工程)
本工程では、一方の電極の主面に形成した固体電解質層の主面(一方の電極とは反対側の主面)に、他方の電極を形成することで、電極群を形成する。
他方の電極は、一方の電極を形成する場合の手順に準じて形成することができる。他方の電極は、第1固体電解質粒子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
【0076】
電極群が複数の正極および/または負極と、複数の固体電解質層とを有する場合には、正極および負極の間に固体電解質層が介在するように、電極および固体電解質層を積層すればよい。
【0077】
(加圧工程)
本工程では、形成された電極群を加圧する。この加圧により、固体電解質層に含まれる第2固体電解質粒子や電極に含まれる固体電解質粒子が塑性変形して粒子同士が密着する。第2固体電解質粒子同士が密着することで、固体電解質層における充填率を高めることができる。また、固体電解質粒子が塑性変形することで、固体電解質層と正極および/または負極との密着性を高めることもできる。
【0078】
電極群は、電池ケースに収容されるが、電極群への加圧は、電池ケースに収容する前に行なってもよく、電池ケースに収容した後に行なってもよい。例えば、電池ケースがラミネートフィルムなどである場合には、電極群を電池ケースに収容した後に電池ケース(つまり、電池)ごと電極群を加圧すればよい。
【0079】
電極群を加圧する際の圧力は、第2固体電解質粒子(および電極に含まれる固体電解質粒子)が塑性変形する圧力よりも高い圧力であることが好ましく、100MPaを超える圧力であることがより好ましく、400MPa~1500MPaまたは400MPa~1200MPaであることがさらに好ましい。このような圧力を電極群(または電池)に加えることで、固体電解質層に含まれる第2固体電解質粒子や電極に含まれる固体電解質粒子がさらに塑性変形し易くなる。
【0080】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1
(1)全固体電池の作製
下記の手順で
図1に示すような全固体電池(全固体LIB)を作製した。
(a)正極2の作製
正極活物質であるLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2(平均粒子径D
50:12.32μm)と、リチウムイオン伝導性の固体電解質であるLi
2S-P
2S
5固溶体(平均粒子径D
50:3.6μm、イオン伝導度:3.0×10
-3S/cm)、7:3の質量比で、ボールミルを用いて混合することにより混合物を得た。
【0082】
正極集電体2aとしての縦66mm×横66mm×厚み20μmのアルミニウム箔の片面に、正極活物質層2bの周囲を取り囲むように、縦51mm×横55mmの角形の開口部を有する絶縁層4aを配した。絶縁層を配したアルミニウム箔上に、縦50mm×横50mmの開口部を有するマスクを配した。上記の混合物を、静電スクリーン法で乾式成膜することにより正極活物質層2bを形成した。具体的には、既述の手順で、静電スクリーン成膜により、マスクの開口部を覆うように、上記の混合物を所定量堆積させた。スクリーンには、メッシュ数300/インチ、線径30μm、オープニング55μmのステンレス鋼製メッシュを用いた。そして、単動式プレスにより、厚み方向に2MPaの圧力で加圧することにより正極活物質層2bを形成した。単位面積当たりの正極活物質層2bの量は22.5mg/cm2であった。
【0083】
(b)固体電解質層3の作製
縦54mm×横54mmのサイズの開口部を有するマスクを、正極2の正極活物質層2b側に配し、正極活物質層の場合に準じて静電スクリーン成膜で乾式成膜することにより固体電解質層3を形成した。具体的にはマスクの開口部を覆うように、リチウムイオン伝導性の固体電解質であるLi2S-P2S5固溶体(平均粒子径D50:10.20μm、イオン伝導度:2.2×10-3S/cm)を所定量堆積させた。そして、単動式プレスにより、厚み方向に2MPaの圧力で加圧することにより固体電解質層3を形成した。このとき、固体電解質層3は、正極活物質層2bの上面および側面、ならびに絶縁層4aの内周側の上面および側面を覆うように形成した。単位面積当たりの固体電解質層3の量は10.0mg/cm2であった。
【0084】
(c)負極1の作製
負極活物質と、リチウムイオン伝導性の固体電解質であるLi2S-P2S5固溶体(平均粒子径D50:3.6μm)とを、6:4の質量比で混合することにより混合物を得た。負極活物質としては、10nmの厚みの非晶質炭素の層で天然黒鉛粒子(平均粒子径D50:11.21μm)を被覆した被覆粒子を用いた。
【0085】
固体電解質層3の中央部分が露出するような縦50mm×横50mmのサイズの開口部を有するマスクを固体電解質層3上に配し、正極活物質層の場合に準じて、スクリーン法により乾式成膜することにより上記の混合物を堆積させた。そして、単動式プレスにより、厚み方向に2MPaの圧力で加圧することにより負極活物質層1bを形成した。単位面積当たりの負極活物質層1bの量は19.2mg/cm2であった。
【0086】
負極活物質層1b上に、負極集電体1aとしての縦70mm×横70mm×厚み18μmの銅箔を積層した。負極集電体1aの片面の周縁には、環状の絶縁層4bを、絶縁層4aと対向するように配置した。絶縁層4bの開口部は、縦55mm×横55mmの正方形であった。そして、絶縁層4aと絶縁層4bとを、接着させ、減圧下、11.6kNで3秒間の力で、各層の厚み方向に加圧することにより、電極群を形成した。
【0087】
(d)電池の組み立て
上記(c)で得られた電極群を、電力取り出し用の負極タブおよび正極タブを有するアルミニウムラミネートフィルムで形成された電池ケースに挿入し、電池ケース内のガスを真空ポンプで吸引しながら、電池ケースを熱融着させることにより密封した。このとき、正極タブが正極集電体2aに、負極タブが負極集電体1aに、それぞれ電気的に接続するようにした。その後、電極群に電池ケースごと、電極群の厚み方向に1000MPaの圧力を加えて、全固体電池(単極セル)を作製した。固体電解質層の厚みを既述の手順で測定したところ、約100μmであった。同様の全固体電池を合計3個作製した。
【0088】
(2)評価
(a)全固体電池の湾曲状態
全固体電池の湾曲状態を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
○:全固体電池の表面にうねりがなく、湾曲も見られない。平坦な台の上に置いたときに、台から1mm以上浮く箇所がない。
△:全固体電池の表面にうねりがあり、湾曲している。平坦な台の上に置いたときに、台から1mm~5mm浮く箇所がある。
×:全固体電池の表面に大きなうねりがあり、湾曲している。平坦な台の上に置いたときに、台から5mm超浮く箇所がある。
【0089】
(b)開回路電圧
加圧後の全固体電池の開回路電圧を、テスタなどで電池端子間の電圧を測定することにより求め、下記の基準で評価した。
○:全ての全固体電池で開回路電圧が0.75V以上である。
△:3個中2個の全固体電池で、開回路電圧が0.75V以上である。
×:3個中1個または0個の全固体電池で、開回路電圧が0.75V以上である。
【0090】
(c)充放電試験
全固体電池を、電極群の厚み方向に0.6t/cm2(≒589MPa)の圧力を加えた状態で、5mAの電流で充電終止電圧4Vまで定電流充電し、5mAの電流で放電終止電圧2.7Vまで定電流放電した。このときの充放電曲線を下記の基準で評価した。
○:全ての全固体電池で、設計値の90%以上の容量が得られる。
△:3個中2個の全固体電池で、設計値の90%以上の容量が得られる。
×:3個中1個または0個の全固体電池で、設計値の90%以上の容量が得られる。
【0091】
(d)平均粒子径D1およびD2の測定
全固体電池の電極群の断面の電子顕微鏡写真について、既述の手順で、正極および負極における第1固体電解質粒子の平均粒子径D1、ならびに固体電解質層における第2固体電解質粒子の平均粒子径D2を求めた。
実施例1では、D1およびD2は、用いた第1固体電解質粒子および第2固体電解質粒子のそれぞれの平均粒子径とほぼ同じになった。
【0092】
(e)充填率
固体電解質層の充填率を既述の手順で求めたところ、固体電解質層の充填率は、≧99%であった。
【0093】
実施例2
平均粒子径D50が10.20μmの第1粒子群と、平均粒子径D50が5~10nmである第2粒子群とを、90:10の体積比で混合した混合物を用いて、固体電解質層3を形成した。このこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を作製し、評価を行った。第1粒子群を構成する固体電解質粒子としては、LiおよびPを含む硫化物系固体電解質(イオン伝導度:2.2×10-3S/cm)粒子を用い、第2粒子群を構成する固体電解質粒子としては、LiおよびPを含む硫化物系固体電解質(イオン伝導度:3.8×10-4S/cm)粒子を用いた。
実施例2では、D1およびD2は、用いた第1固体電解質粒子および第2固体電解質粒子のそれぞれの平均粒子径とほぼ同じになった。
【0094】
比較例1
Li2S-P2S5固溶体(平均粒子径D50:3.6μm、イオン伝導度:3.0×10-3S/cm)粒子を第2固体電解質粒子として用い、固体電解質層3を形成した。このこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を作製し、評価を行った。
比較例1では、D1およびD2は、用いた第1固体電解質粒子および第2固体電解質粒子のそれぞれの平均粒子径とほぼ同じになった。
実施例1~2および比較例1の結果を表1に示す。実施例1~2はA1~A2であり、比較例1はB1である。
【0095】
【0096】
比較例1では、固体電解質層の成膜精度が低く、固体電解質層の表面に大きなうねりが生じ、膜厚にムラがあり、湾曲が見られた。また、比較例1では、開回路電圧や充放電試験における結果も低くなった。これは、固体電解質層における固体電解質粒子の充填性が低く、十分なイオン伝導性が得られなかったことによるものと考えられる。また、固体電解質層の成膜精度が低いことで、内部短絡が起こり易くなったことによるものと考えられる。
【0097】
それに対し、実施例では、固体電解質層の成膜精度が高く、湾曲も見られなかった。また、実施例では、全固体電池における内部短絡の発生が抑制され、開回路電圧、充放電試験ともに良好な結果が得られた。これは、実施例では、正極や負極で用いた固体電解質粒子に比べて、平均粒子径の大きな固体電解質粒子を用いることで、流動性が向上し、固体電解質層の成形性が向上したため、イオン伝導性および成膜精度が向上したと考えられる。実施例2では、第1粒子群に粒径が小さな第2粒子群を併用することで、固体電解質粒子の流動性がさらに向上し、固体電解質層の高い成形性が確保できたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る全固体電池は、エネルギー密度を高めることができるため、高エネルギー密度が求められる様々な用途に有用である。
【符号の説明】
【0099】
1:負極、2:正極、1a:負極集電体、1b:負極活物質層、2a:正極集電体、2b:正極活物質層、3:固体電解質層、4a,4b:絶縁層、5:スクリーン、6:粉体材料、7:電源、8:摺込体、9:電極、9a:活物質層、9b:集電体、11:負極活物質粒子、12:第1固体電解質粒子、13:正極活物質粒子、14:第2固体電解質粒子、14a:第1粒子群の固体電解質粒子、15:第2粒子群の固体電解質粒子