(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】改質キサンタンガムの製造方法及び改質キサンタンガム
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20220825BHJP
A23L 29/269 20160101ALN20220825BHJP
【FI】
C08B37/00 B
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2018061739
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 聡
(72)【発明者】
【氏名】中馬 誠
(72)【発明者】
【氏名】太田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 和寛
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-503600(JP,A)
【文献】特開2006-213867(JP,A)
【文献】特表2012-509947(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101001882(CN,A)
【文献】特許第4472699(JP,B2)
【文献】特開2008-202050(JP,A)
【文献】特開2009-297026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種
、並びに水の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程、
及び
該混錬処理して得られる物を押出処理する工程
を含
み、前記水が、キサンタンガム100質量部に対して、80~250質量部である、改質キサンタンガムの製造方法(但し、水の存在下で未架橋キサンタンガムを架橋剤としてのポリリン酸塩またはポリリン酸と接触させてキサンタンガムゲルを形成する工程と、前記キサンタンガムゲルを架橋させる工程と、を含む、吸水性キサンタンガムの製造方法を除く)。
【請求項2】
前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の割合が、キサンタンガム100質量部に対して、7~37.5質量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、乾燥工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、ヘキサメタリン酸塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種
、並びに水の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程、
及び
該混錬処理して得られる物を押出処理する工程
を含
み、前記水が、キサンタンガム100質量部に対して、80~250質量部である、改質キサンタンガムの製造方法(但し、水の存在下で未架橋キサンタンガムを架橋剤としてのポリリン酸塩またはポリリン酸と接触させてキサンタンガムゲルを形成する工程と、前記キサンタンガムゲルを架橋させる工程と、を含む、吸水性キサンタンガムの製造方法を除く)により得られた改質キサンタンガム。
【請求項6】
前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の割合が、キサンタンガム100質量部に対して、7~37.5質量部である、請求項5に記載の改質キサンタンガム。
【請求項7】
前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、ヘキサメタリン酸塩である、請求項5又は6に記載の改質キサンタンガム。
【請求項8】
メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種
、並びに水の存在下において、キサンタンガムを混錬処理する工程、
及び該混錬処理して得られる物を押出処理する工程を含
み、前記水が、キサンタンガム100質量部に対して、80~250質量部である、キサンタンガムの粘度付与能の強化方法
(但し、水の存在下で未架橋キサンタンガムを架橋剤としてのポリリン酸塩またはポリリン酸と接触させてキサンタンガムゲルを形成する工程と、前記キサンタンガムゲルを架橋させる工程と、を含む、吸水性キサンタンガムの製造方法を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質キサンタンガムの製造方法、及び改質されたキサンタンガムに関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品等の各種組成物に粘度を付与することができる増粘多糖類として、キサンタンガムが知られている。キサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthmonas campestris)が菌体外に生産する酸性多糖類である。
【0003】
キサンタンガムは、常温の水にも溶解し、他の増粘多糖類に比較して低濃度で高い粘度を示すことから、増粘化剤として優れた適性を有する。ソース類、タレ類、ドレッシング類等の増粘剤、ローカストビーンガムとの併用でゼリー類等のゲル化剤、ベーカリー類等の保水性改良剤等として、食品産業界において最も多く使用されている。さらに、食品用途以外にもオイル工業や化粧品等でも使用されており、更に高度の機能性を有するキサンタンガムが求められている。
【0004】
キサンタンガムにさらにカラギナン及びアラビアガムを加えて、良質な糊料製剤を製造する方法が検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キサンタンガムは、混練処理により、粘度力価及び分散性を向上させることができる。
しかしながら、このような処理を行ったキサンタンガムを、塩又はイオンを含む水あるいは水性溶媒に添加することで、当該対象の粘度上昇が抑えられてしまう現象がみられる。
さらに、粉末状のキサンタンガムを水等の液体に添加すると、いわゆる「ダマ」が発生する場合がある。
【0007】
本発明は、ダマの発生や粘度低下が抑制される、良好な性質の改質キサンタンガムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、メタリン酸又はその塩の存在下で混練処理を行うことで、キサンタンガムの性質が顕著に改善され、高粘度力価及び高分散性を有しながら、さらに塩あるいはイオンを含む溶液に添加しても、粘度上昇が良好なキサンタンガムを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
項1. メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程
を含む、改質キサンタンガムの製造方法。
項2. さらに、該練処理物を押出し処理する工程を含む、項1記載の製造方法。
項3. さらに、乾燥工程を含む、項1又は2記載の製造方法。
項4. 前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、ヘキサメタリン酸塩である、項1~3のいずれか1項記載の製造方法。
項5. メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程
を含む製造方法により得られた改質キサンタンガム。
項6. メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程;及び
該混練処理物を押出し処理する工程
を含む製造方法により得られた改質キサンタンガム。
項7. 前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、ヘキサメタリン酸塩である、項5又は6記載の改質キサンタンガム。
項8. メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程を含む、キサンタンガムの粘度付与能の強化方法。
項9. 前記メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、ヘキサメタリン酸塩である、項8記載の強化方法。
項10. キサンタンガム100質量部に対して、ヘキサメタリン酸ナトリウム7~37.5質量部を含む、改質キサンタンガム。
項11. STW(疑似水道水)に溶解した時の粘度(STW-Vis)とDIW(脱イオン水)に溶解した時の粘度(DIW-Vis)の比率(STW-Vis/DIW-Vis)が、0.5~2.0である、改質キサンタンガムであって、
ここで、
STW-Visは、該改質キサンタンガム0.6gをSTW100g及びデキストリン1.4gを含む液に添加して得られた混合物を20℃にてB型粘度計(12rpm)で測定した値を表し、
DIW-Visは、該改質キサンタンガム0.6gをDIW100g及びデキストリン1.4gを含む液に添加して得られた混合物を20℃にてB型粘度計(12rpm)で測定した値を表す、
改質キサンタンガム。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、分散性に優れ、塩やイオンを含む溶液に添加しても、粘度の低下が抑えられる、良好なキサンタンガムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例及び比較例で得られた粉末状のキサンタンガムの分散性を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、改質キサンタンガムの製造方法、改質キサンタンガム、キサンタンガムの粘度付与能の強化方法、及びキサンタンガムの分散性向上方法に関する。
【0013】
[改質キサンタンガムの製造方法]
本発明は、改質キサンタンガムの製造方法に関する。
本発明の改質キサンタンガムの製造方法においては、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程を含む。
【0014】
ここで、本発明の改質キサンタンガムの製造方法においては、さらに、混練処理して得られた処理物を押出し処理する工程を含むことができる。本発明の改質キサンタンガムの製造方法においては、さらに、乾燥工程を有することが好ましい。
【0015】
(キサンタンガム)
本発明で改質前の原料として用いるキサンタンガムは、キサントモナス属菌(Xanthmonas campestris)が菌体外に生産する多糖類である。その構造は、β-(1,4)-D-グルカンを主鎖骨格とし、主鎖中のグルコース1分子おきにα-D-マンノース、β-D-グルクロン酸、β-D-マンノースからなる側鎖が結合したものであり、主鎖に結合したマンノースはC6位がアセチル化され、末端のマンノースはピルビン酸とアセタール結合している。キサンタンガムは、上記構造を有する酸性多糖類であれば、限定はされず、商業的に入手することもできる。かかる製品としては、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標] P-180」等が挙げられる。
【0016】
(メタリン酸及びその塩)
本発明で用いられるメタリン酸及びその塩は、特に限定はされず、トリメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラメタリン酸、及びそれらの塩が例示される。
ここで、塩とは、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)との塩、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)との塩等が好ましい例として挙げられる。メタリン酸及びその塩は、1種又は2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0017】
本発明で特に好ましいメタリン酸及びその塩は、ヘキサメタリン酸カリウム又はヘキサメタリン酸ナトリウムであり、このうち、ヘキサメタリン酸ナトリウムが最も好ましい。
【0018】
(混練処理)
本発明においては、改質キサンタンガムを得るために、キサンタンガムをメタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下にて、混練処理する。
混練温度としては、特に限定されないが、好ましくは、20~140℃であり、より好ましくは、30~130℃であり、さらに好ましくは35℃~110℃である。
【0019】
混練方法としては特に制限はなく、種々の混練装置を用いる方法を採用することができるが、ブレンダーミキサーを用いる方法、エクストルーダー、特に二軸エクストルーダーを用いる方法が例示として挙げられる。
ここで、混練とは、水分を含む状態で混合と練りを同時又は交互に行うことをいう。
【0020】
(押出し処理)
本発明においては、限定はされないが、混練物に対して、さらに押出し処理を行うことも好ましい。
【0021】
押出し方法としては、特に制限はないが、狭い出口から押出す方法が好ましく、エクストルーダー、特に二軸エクストルーダーを用いて、ダイから押出す方法が最も好ましい。
【0022】
(エクストルーダー処理)
キサンタンガムをエクストルーダーにより処理することによって、混練と押出しを同時又は連続的に行うことができる。さらに、場合により、圧縮処理や加熱処理も同時に行うことができる。
【0023】
エクストルーダーは、主に、バレル、出口に位置するダイ、及びスクリューエレメントを搭載したスクリューから構成されている。
バレルは通常複数あり、その中をスクリューが貫通している。スクリューエレメントには、台形スクリューエレメント、台形カットスクリューエレメント、台形リバースカット、ボールスクリューエレメント、ニーディングパドル等のタイプがあり、任意に組み合わせることができる。バレル内にキサンタンガムを供給し、加水しながら、処理を行うことが好ましい。キサンタンガムは、スクリューによりバレル内を移動し、バレル内でニーディングパドル等のスクリューエレメントにより剪断、混合等の処理がなされ、ダイから押し出される。ここで、バレル及びダイは独立して温度調節ができることが好ましい。
【0024】
本発明においては、食品分野で用いられる、高水分の混合機能、圧縮機能、加熱機能を備えたエクストルーダーであればいずれの機種でもそのまま使用することができるが、例えば、Process11Hygienic等が好ましく用いられる。
【0025】
本発明で用いるエクストルーダーの吐出ノズルの形状は特に限定されず、例えば、孔径1~3mmの円形が代表的には例示される。
【0026】
バレル温度は、特に限定されないが、好ましくは、20~140℃であり、より好ましくは、30~130℃であり、さらに好ましくは35~110℃である。
【0027】
混練の時間は、特に限定されないが、好ましくは15~180秒、より好ましくは30~120秒である。加熱の温度及び時間の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、加熱の温度が90℃程度の場合、加熱の時間は、好ましくは15~180秒、より好ましくは30~120秒である。
【0028】
バレル圧力は、特に限定されないが、好ましくは0~90barである。
【0029】
スクリュー回転速度は、特に限定されないが、好ましくは、二軸スクリューで同方向型回転にて、50rpm~600rpm、より好ましくは、同回転にて70rpm~400rpm、さらに好ましくは、同回転にて、100rpm~300rpmである。
【0030】
加水速度は、特に限定されないが、好ましくは、5~40g/分、より好ましくは、8~30g/分、さらに好ましくは10~20g/分である。
【0031】
エクストルーダー処理においては、典型的には、キサンタンガムに対して、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水を加水しながら混練することができる。必要に応じて、さらに別の無機塩を混合してもよい。
【0032】
加水用の水には、典型的には、メタリン酸及びその塩の合計として4~15質量%が含まれており、好ましくは、4.5~10質量%、より好ましくは5~8質量%含まれている。
【0033】
混合比率は、キサンタンガム100質量部に対して、水80~250質量部、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を7~37.5質量部であることが好ましい。
【0034】
エクストルーダーの吐出ノズルから吐出された処理物は、加熱されている場合では、室温(20~25℃程度)まで冷却されて、改質キサンタンガムとしてそのまま使用してもよい。冷却方法は特に限定されないが、自然に冷却することが好ましい。あるいは、処理物はさらに乾燥工程に供される。乾燥は、処理物を冷却した後に行っても良いが、ノズルから吐出された処理物をそのまま乾燥工程に供することもできる。
【0035】
(乾燥工程)
乾燥は、乾燥機等を使用して乾燥することができる。乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、真空又は減圧下での凍結乾燥、ドラム乾燥等を挙げることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは、10~120℃であり、熱風乾燥の場合は好ましくは、45~95℃である。乾燥する工程は、好ましくは、60℃前後の温度で、10時間~72時間、より好ましくは、20時間~48時間かけて行う。
【0036】
(粉砕工程)
本発明の改質キサンタンガムは、粉体又は顆粒のような粉末の状態で提供され得る。粉末の状態で提供される場合には、典型的には、上記乾燥物を粉砕することによって得られる。粉砕方法は従来公知の方法に従えばよいが、例えば、乳鉢、石臼(マイコロイダー、マスコロイダー)、ボールミル、コーヒーミル、パワーミル、ピンミル、気流式粉砕機(ジェットミル)、せん断摩擦式粉砕機、カッター式粉砕機、衝撃式粉砕機(ハンマーミル、ボールミル)、ロール式粉砕機、ホモジナイザー、超音波破砕機等の乾式破砕機を使用する方法、液体窒素を利用した凍結粉砕機を使用する方法等が挙げられる。本発明の改質キサンタンガムはまた、顆粒の状態で提供され得る。顆粒の状態で提供される場合には、上記押出し成形物を公知の方法により顆粒化することができる。
【0037】
(サイズ選別工程)
改質キサンタンガムを粉砕して得られる粉末は、使用する態様に応じて、適切な大きさを選択すればよく特に限定されない。例えば、平均粒子径として、20~500μm程度の範囲、好ましくは50~300μm程度の範囲が挙げられる。このような粉末を得る方法は特に限定はされないが、例えば、粉砕後の改質キサンタンガムを篩にかけて、特定サイズを選択することで得られ得る。例えば、粉砕後に、50メッシュ~150メッシュの篩で処理すること等である。一例として、60メッシュの篩を通過し、100メッシュの篩上に残る粉末を得ることもできる。
【0038】
改質キサンタンガムの粉末が顆粒の場合であっても、使用する態様に応じて、適切な大きさを選択すればよく特に限定されない。例えば、平均粒子径として、20~500μm程度の範囲、好ましくは50~300μm程度の範囲が挙げられる。このような顆粒を得る方法は特に限定はされないが、造粒機による顆粒化によって得ることができる。
【0039】
[改質キサンタンガム]
本発明の改質キサンタンガムは、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程を含む製造方法により得られた改質キサンタンガムであり得る。本発明の改質キサンタンガムはまた、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程;及び該混練処理物を押出し処理する工程を含む製造方法により得られた改質キサンタンガムであり得る。
【0040】
このような改質キサンタンガムの製造方法及び原料の詳細は、上記[改質キサンタンガムの製造方法]に準じる。
【0041】
本発明の改質キサンタンガムはまた、キサンタンガム100質量部に対して、ヘキサメタリン酸ナトリウム7~37.5質量部を含む改質キサンタンガムであり得る。
【0042】
本発明の改質キサンタンガムは、粘度付与能が高く、また分散性も良い。ここで、粘度付与能が高いとは、通常の脱イオン水に混合した場合に良好な粘度が発現することだけでなく、塩溶液又はイオン含有溶液において良好な粘度を維持できることをいう。
【0043】
本明細書において、塩溶液の「塩」とは、主には金属塩を指す。例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム、クエン酸ナトリウム(クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム)等が挙げられる。特に金属塩としては、塩化カルシウム、塩化カリウム及びクエン酸ナトリウムからなる群から選択される一種以上であり得るが、これに限定されない。また、本明細書で「イオン」という時には、これらの塩から生成されるイオンであり得る。例えば、塩化物イオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、等であり得る。
【0044】
本発明の改質キサンタンガムは、STW(疑似水道水)に溶解した時の粘度(STW-Vis)とDIW(脱イオン水)に溶解した時の粘度(DIW-Vis)の比率(STW-Vis/DIW-Vis)が、0.5~2.0であり得る。
ここで、
STW-Visは、該改質キサンタンガム0.6gをSTW100g及びデキストリン1.4gを含む液に添加して得られた混合物を20℃にてB型粘度計(12rpm)で測定した値を表し、
DIW-Visは、該改質キサンタンガム0.6gをDIW100g及びデキストリン1.4gを含む液に添加して得られた混合物を20℃にてB型粘度計(12rpm)で測定した値を表す。
STWは擬似水道水であり、塩化ナトリウム0.1質量%、塩化カルシウム・2水和物0.0147質量%含む水である。また、DIWは脱イオン水である。すなわち、STWは、DIWに塩化ナトリウム0.1質量%、塩化カルシウム・2水和物0.0147質量%が加えられた水である。
ここで、限定はされないが、本発明において、STW-Visは、好ましくは、1500~4500mPa・s、より好ましくは2000~4000mPa・sであり、DIW-Visは、好ましくは、1500~4500mPa・s、より好ましくは、2000~4000mPa・sである。
【0045】
[キサンタンガムの粘度付与能の強化方法]
本発明はまた、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程を含む、キサンタンガムの粘度付与能の強化方法に関する。本発明のキサンタンガムの粘度付与能の強化方法においては、さらに、該混練処理物を押出し処理する工程を含むこともできる。このようなキサンタンガムの粘度付与能強化方法においては、原料の詳細及び粘度付与能強化の為のキサンタンガムの処理条件は、上記[改質キサンタンガムの製造方法]に準じる。
【0046】
[キサンタンガムの分散性向上方法]
本発明はまた、メタリン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の存在下において、キサンタンガムを混練処理する工程を含む、キサンタンガムの分散性向上方法に関する。本発明のキサンタンガムの分散性向上方法においては、さらに、該混練処理物を押出し処理する工程を含むこともできる。このようなキサンタンガムの分散性向上方法においては、原料の詳細及び粘度付与能強化の為のキサンタンガムの処理条件は、上記[改質キサンタンガムの製造方法]に準じる。
【0047】
[用途]
本発明の改質キサンタンガムは、増粘化剤として用いられる。すなわち、経口組成物(医薬品又は医薬部外品を含む)や飲食品に混合し、粘度のある液状物を調製する場合の増粘剤として有用に利用できる。
【0048】
本発明の改質キサンタンガムは、混合対象物に対して、手撹拌(例.150~300rpm)等の緩い撹拌条件であっても容易に拡散しダマにならず、かつ良好な粘度発現性を有する。本発明の改質キサンタンガムを用いる場合、塩やイオンを含む水性溶媒であっても適性な粘度が生じ、粘度低下が抑制される。
【0049】
なお本発明の改質キサンタンガムは、特に、水やお茶等の飲料に好適に利用できる。
【0050】
さらに、本発明の改質キサンタンガムは、咀嚼・嚥下機能低下者向けの増粘剤としての用途に限らず、中華丼のタレ、片栗粉等、一般的なトロミを付ける為の素材に含有させる成分としての利用も可能である。
【0051】
より詳細には、本発明の改質キサンタンガムを経口組成物(医薬品又は医薬部外品を含む)に混合し、粘度のある液状物を調製する場合の経口用組成物としては、好ましくは、シロップ剤や液剤が挙げられる。さらには、散剤、顆粒剤等を水等の液体に予め溶解した上で、さらに本発明の改質キサンタンガムで増粘することも可能である。
【0052】
本発明の改質キサンタンガムを飲食品組成物に混合し、粘度のある液状物を調製する場合の飲食品組成物としては、好ましくは、水、果実及び/又は野菜を原料とする果実及び/又は野菜系飲料;牛乳その他の乳含有飲料;清涼飲料水;コーヒー含有飲料;茶系飲料;アルコール含有飲料等の飲料組成物一般;スープ、味噌汁、流動食等の液状の飲食品;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼き等に用いられるタレ、トマトケチャップ、ソース、麺つゆ等の調味料一般;レトルト食品を含む農畜水産加工品を広く例示することができる。
【0053】
特に、本発明は、飲食品組成物のなかでも、水分含量が高い液状物に対して有用である。飲料組成物や食品組成物としては、流動状であっても、ゼリー状であってもよい。
【0054】
飲料組成物として上記果実及び/又は野菜系飲料には、例えば果実飲料、果実ジュース、オレンジジュース、うんしゅうみかんジュース、グレープフルーツジュース、レモンジュース、りんごジュース、ぶどうジュース、パインアップルジュース、ももジュース、果実ミックスジュース、果粒入り果実ジュース、果実・野菜ミックスジュース、果汁入り飲料、野菜汁ジュース等が含まれる。
【0055】
飲料組成物として上記乳含有飲料には、加工乳、コーヒーやフルーツ等を含有する乳飲料、乳酸菌飲料、ドリンクヨーグルト、乳清飲料、希釈用乳清飲料等が含まれる。
【0056】
飲料組成物として上記清涼飲料水には、スポーツドリンク、ニアウォーター、機能性飲料、その他清涼飲料(ドリンクスープ、ぜんざいドリンク、しるこドリンク、甘酒、ゼリー飲料、味噌汁、ココア、チョコレートドリンク、豆乳等)等が含まれる。
【0057】
飲料組成物として上記コーヒー含有飲料は、コーヒー豆を原料とした飲料であり、その他の成分として、糖類、乳製品、乳化された食用油脂、又はその他の可食物等を含有するものであってもよい。例えば、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料水及び乳飲料等が含まれる。
【0058】
飲料組成物として上記茶系飲料は、不発酵茶(緑茶、煎茶、番茶、ほうじ茶、玄米茶、抹茶、玉緑茶、玉露等)に限らず、半発酵茶(烏龍茶等)、発酵茶(紅茶等)等、各種茶葉から抽出された抽出物を原料とした飲料をいう。
【0059】
飲料組成物として上記アルコール含有飲料は、アルコールを含有する飲料であり、例えば、酒税法上の「酒」を指すアルコール飲料が挙げられる。具体的には、清酒類(清酒、合成清酒)、焼酎、ビール、果実酒類(果実酒、梅酒等の甘味果実酒)、ウイスキー類(ウイスキー、ブランデー)、スピリッツ類(スピリッツ)、リキュール類、雑酒(発泡酒、粉末酒、その他の雑酒)、その他の醸造酒等を挙げることができる。当該アルコール含有飲料には、発泡酒等のように炭酸とアルコールの両方を含む飲料も含まれる。アルコールを含有する飲料のアルコール度数は、好ましくは、飲料中のアルコール含量が1度以上、好ましくは1~20度であることが望ましい。
【0060】
食品組成物としては、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ等の各種スープ、シチュウ、カレー、グラタン等の調理ソースや味噌汁、清汁、蛋白質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、ミキサー食、及びキザミ食等の特殊食品や治療食の液状食品を挙げることができる。また、本発明の食品には、粥、雑炊、うどん、そば、鍋料理等の固形物を含む液状食品も含まれる。
【0061】
本発明の改質キサンタンガムを使用した後の液状物の粘度は、特に限定はされないが、例えば、0.6質量%キサンタンガムを含むDIWにおいて、1500~4500mPa・sの範囲とすることができ、好ましくは2000~4000mPa・sの範囲とすることができる。
【0062】
本発明の改質キサンタンガムを使用した後の液状物の粘度は、特に限定はされないが、例えば、0.6質量%キサンタンガムを含む塩を含む水においても、1500~4500mPa・sの範囲とすることができ、好ましくは2000~4000mPa・sの範囲とすることができる。
より詳細には、限定はされないが、本発明の改質キサンタンガムをSTWに溶解した時の粘度は、好ましくは、1500~4500mPa・s、より好ましくは2000~4000mPa・sであり、DIWに溶解した時の粘度は、好ましくは、1500~4500mPa・s、より好ましくは、2000~4000mPa・sである。
【0063】
なお、本明細書において、「粘度」は、測定対象の組成物をスクリュー管瓶に分注し、20℃の恒温槽にて30分間保持し、温度を20℃に調温した。次いで、B型回転粘度計を用いて、回転数12rpmの条件で各々、1分間測定することによって求めることができる。以下、本明細書で「粘度」とはかかる方法で算出される値をいう。
【0064】
[増粘多糖類]
本発明の改質キサンタンガムは、使用に際して、あるいは、使用する前に予め、任意に別の増粘多糖類と併用することが可能である。本発明の改質キサンタンガムと併用することができる増粘多糖類としては、例えば、カラギナン、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム)、グルコマンナン、ジェランガム(脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランラム)、寒天、アルギン酸、アルギン酸塩類、ペクチン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、大豆多糖類、アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、カシアガム、ラムザンガム、ウェランガム、マクロホモプシスガム、カードラン、プルラン、α化澱粉、α化加工澱粉、スクシノグリカン等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。
【0066】
(実施例1)
キサンタンガム(サンサポート[登録商標] P-180、三栄源エフ・エフ・アイ社製)を、2軸エクストルーダーのホッパーに原料フィード10g/分にて供給した。さらに、ヘキサメタリン酸ナトリウムを5質量%含む水(20℃)を20g/分加水しながら、エクストルーダー処理を行った。
【0067】
使用したエクストルーダーのバレルの数は8(吐出口含む)、スクリュー直径は11mm、吐出ノズル形状は孔径2.0mmの円形であった。
各バレルの温度設定は、ホッパーに近いバレルを70℃、混練部を含む吐出ノズル側のバレルを90℃とした。スクリューの回転速度を150rpmに調整し、混練時間は60秒とした。吐出ノズルから得られた加熱溶融混練物を回収して、60℃にて20時間乾燥させた。乾燥後、小型高速粉砕機(Wonder Blender WB-1、大阪ケミカル株式会社製)にて粉砕し、60メッシュパス、100メッシュオンの粉砕物(150~250μm)を回収した。
【0068】
(実施例2)
ヘキサメタリン酸ナトリウムを8質量%含む水(20℃)を20g/分加水しながら、エクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にて改質キサンタンガムの粉砕物を得た。
【0069】
(実施例3)
混練部を含む吐出ノズル側のバレルを35℃にしてエクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にて改質キサンタンガムの粉砕物を得た。
【0070】
(実施例4)
混練部を含む吐出ノズル側のバレルを50℃にしてエクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にて改質キサンタンガムの粉砕物を得た。
【0071】
(実施例5)
混練部を含む吐出ノズル側のバレルを110℃にしてエクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にて改質キサンタンガムの粉砕物を得た。
【0072】
(実施例6)
混練部を含む吐出ノズル側のバレルを130℃にしてエクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にて改質キサンタンガムの粉砕物を得た。
【0073】
(比較例1)
実施例1で原料とした無処理のキサンタンガムをそのまま使用した。
【0074】
(比較例2)
イオン交換水(20℃)を20g/分加水しながら、エクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にてキサンタンガムの粉砕物を得た。
【0075】
(比較例3)
クエン酸三ナトリウムを5質量%含む水(20℃)を20g/分加水しながら、エクストルーダー処理を行った以外は、実施例1と同様の操作にて粉砕物を得た。
【0076】
(比較例4)
比較例2の粉砕物100質量部に対し、ヘキサメタリン酸ナトリウム10質量部を粉体混合した混合物を得た。
【0077】
[粘度測定試験]
得られた実施例及び比較例の粉末について、粘度測定試験を行った。具体的には、100mlのビーカーに溶媒を100g入れ、1秒間に4回転しつつ、実施例又は比較例で得られた粉末0.6g及びデキストリン1.4gを10秒で添加し、続けて30秒間手撹拌した。得られた混合物を30分間静置し、粘度をB型粘度計(12rpm)にて測定した。
STW(疑似水道水)に溶解した時の粘度(STW-Vis)とDIW(脱イオン水)に溶解した時の粘度(DIW-Vis)は、以下の表1に示す通りである。なお、実施例1の改質キサンタンガムでは、一般に市販されている緑茶飲料でも3130mPa・sであった。前出の通り、STWは、擬似水道水(塩化ナトリウム 0.1%、塩化カルシウム・2水和物 0.0147%の溶液)、DIWは、脱イオン水を意味する。
【0078】
【0079】
[分散性評価]
実施例1の粉末、比較例1の粉末、及び何も処理を行なっていないキサンタンガムを用いて、分散性を評価した。具体的には、100mlのビーカーに溶媒を100gを入れ、1秒間に4回転しつつ、実施例又は比較例で得られた粉末0.6g及びデキストリン1.4gを一括で添加し、続けて30秒間手撹拌した。得られた混合物をシャーレに移し、ダマの有無と状態を確認する。結果を
図1に示す。お茶は、一般に市販されている緑茶飲料を使用した。
結果を
図1に示す。