(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】蓄電システムの運用評価方法及び蓄電システムの運用評価装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20220825BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20220825BHJP
G06Q 30/06 20120101ALI20220825BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20220825BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20220825BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/392
G06Q30/06 310
G06Q50/10
H01M10/42 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2018108640
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井川 芳克
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕
(72)【発明者】
【氏名】後藤 満文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忠
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-092896(JP,A)
【文献】特開2015-177623(JP,A)
【文献】国際公開第2012/060321(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129032(WO,A1)
【文献】特開2010-159661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
G01R 31/36
H02J 7/00
H01M 10/42
G06Q 50/10
G06Q 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池
とパワーコンディショナとを含む蓄電システムの運用を評価する運用評価装置によって実行される、蓄電システムの運用評価方法において、
前記蓄電システムの運用年数は、予め定められた年数となっており、
市場において前記蓄電システムが得られる対価である市場対価を算出するための入力パラメータとなる市場情報を取得する市場情報取得工程と、
前記蓄電システムの運用条件に基づく運用モデルと、取得した前記市場情報とに基づいて、前記市場対価を算出する市場対価算出工程と、
前記運用モデルに基づいて、前記蓄電池の充電状態を算出する充電状態算出工程と、
前記蓄電池の劣化モデルと、算出した前記充電状態とに基づいて、前記蓄電池の劣化状態を算出する劣化状態算出工程と、
前記蓄電池の前記劣化状態に応じた前記蓄電システムの運用コストを算出するコスト算出工程と、
前記市場対価
から前記運用コスト
を差し引くことで、前記蓄電システムの市場価値を算出する市場価値算出工程と、
計算周期を設定する計算周期設定工程と、を備え
、
前記市場情報取得工程から前記市場価値算出工程までの工程は、前記運用年数に達するまで、前記計算周期を更新しながら繰り返し実行され、
前記市場対価算出工程では、使用寿命に到達した前記蓄電池を交換する運用計画を含む前記運用条件に基づく前記運用モデルから、前記市場対価を算出しており、
前記コスト算出工程では、前記蓄電システムの運用開始時におけるイニシャルコストと、前記蓄電池を交換するメンテナンスコストとを含む運用コストを算出しており、
前記市場価値算出工程では、前記運用年数に亘る前記蓄電システムの前記市場価値を算出することを特徴とする蓄電システムの運用評価方法。
【請求項2】
前記劣化状態算出工程では、
前記計算周期の期間中において、前記充電状態が所定の波形に沿った変化となるように設定して、前記劣化状態を算出することを特徴とする請求項
1に記載の蓄電システムの運用評価方法。
【請求項3】
前記劣化状態算出工程では、
前記充電状態の充電変化量に基づいて、前記蓄電池の温度変化量を算出し、前記温度変化量に基づく前記蓄電池の温度と、前記蓄電池の充電状態と、前記蓄電池の前記充電変化量とに基づいて、前記劣化モデルから、前記劣化状態を算出することを特徴とする請求項1
または2に記載の蓄電システムの運用評価方法。
【請求項4】
前記運用モデルの前記運用条件を設定する運用条件設定工程と、
前記市場価値算出工程において算出された前記市場価値に基づいて、前記運用モデルの前記運用条件が最適化されているか否かを評価する評価工程と、をさらに備え、
前記運用条件設定工程では、前記評価工程において前記運用条件が最適化されていないと判定された場合、前記運用条件を変更して再設定することを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の蓄電システムの運用評価方法。
【請求項5】
蓄電池とパワーコンディショナとを含む蓄電システムの運用を評価する運用評価装置によって実行される、蓄電システムの運用評価方法において、
市場において前記蓄電システムが得られる対価である市場対価を算出するための入力パラメータとなる市場情報を取得する市場情報取得工程と、
前記蓄電システムの運用条件に基づく運用モデルと、取得した前記市場情報とに基づいて、前記市場対価を算出する市場対価算出工程と、
前記運用モデルに基づいて、前記蓄電池の充電状態を算出する充電状態算出工程と、
前記蓄電池の劣化モデルと、算出した前記充電状態とに基づいて、前記蓄電池の劣化状態を算出する劣化状態算出工程と、
前記蓄電池の前記劣化状態に応じた前記蓄電システムの運用コストを算出するコスト算出工程と、
前記市場対価から前記運用コストを差し引くことで、前記蓄電システムの市場価値を算出する市場価値算出工程と、を備え、
前記市場対価算出工程では、前記市場情報に含まれる、エネルギー市場の単価及びアンシラリーサービス市場の単価に基づいて、前記市場対価を算出することを特徴とする蓄電システムの運用評価方法。
【請求項6】
蓄電池
とパワーコンディショナとを含む蓄電システムの運用を評価する蓄電システムの運用評価装置において、
前記蓄電システムの運用年数は、予め定められた年数となっており、
市場において前記蓄電システムが得られる対価である市場対価を算出する演算部を備え、
前記演算部は、
前記市場対価を算出するための入力パラメータとなる市場情報を取得する市場情報取得処理と、
前記蓄電システムの運用条件に基づく運用モデルと、取得した前記市場情報とに基づいて、前記市場対価を算出する市場対価算出処理と、
前記運用モデルに基づいて、前記蓄電池の充電状態を算出する充電状態算出処理と、
前記蓄電池の劣化モデルと、算出した前記充電状態とに基づいて、前記蓄電池の劣化状態を算出する劣化状態算出処理と、
前記蓄電池の前記劣化状態に応じた前記蓄電システムの運用コストを算出するコスト算出処理と、
前記市場対価
から前記運用コスト
を差し引くことで、前記蓄電システムの市場価値を算出する市場価値算出処理と、
計算周期を設定する計算周期設定処理と、を実行
し、
前記市場情報取得処理から前記市場価値算出処理までの工程は、前記運用年数に達するまで、前記計算周期を更新しながら繰り返し実行され、
前記市場対価算出処理では、使用寿命に到達した前記蓄電池を交換する運用計画を含む前記運用条件に基づく前記運用モデルから、前記市場対価を算出しており、
前記コスト算出処理では、前記蓄電システムの運用開始時におけるイニシャルコストと、前記蓄電池を交換するメンテナンスコストとを含む運用コストを算出しており、
前記市場価値算出処理では、前記運用年数に亘る前記蓄電システムの前記市場価値を算出することを特徴とする蓄電システムの運用評価装置。
【請求項7】
蓄電池とパワーコンディショナとを含む蓄電システムの運用を評価する蓄電システムの運用評価装置において、
市場において前記蓄電システムが得られる対価である市場対価を算出する演算部を備え、
前記演算部は、
前記市場対価を算出するための入力パラメータとなる市場情報を取得する市場情報取得処理と、
前記蓄電システムの運用条件に基づく運用モデルと、取得した前記市場情報とに基づいて、前記市場対価を算出する市場対価算出処理と、
前記運用モデルに基づいて、前記蓄電池の充電状態を算出する充電状態算出処理と、
前記蓄電池の劣化モデルと、算出した前記充電状態とに基づいて、前記蓄電池の劣化状態を算出する劣化状態算出処理と、
前記蓄電池の前記劣化状態に応じた前記蓄電システムの運用コストを算出するコスト算出処理と、
前記市場対価から前記運用コストを差し引くことで、前記蓄電システムの市場価値を算出する市場価値算出処理と、を実行し、
前記市場対価算出処理では、前記市場情報に含まれる、エネルギー市場の単価及びアンシラリーサービス市場の単価に基づいて、前記市場対価を算出することを特徴とする蓄電システムの運用評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池を含む蓄電システムの運用を評価する蓄電システムの運用評価方法及び蓄電システムの運用評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電装置に関するアンシラリーサービスを提供するアンシラリーサービス提供システムが知られている(例えば、特許文献1)。アンシラリーサービスの提供とは、電力系統の負荷周波数制御を行ったり、瞬動予備力、運転予備力、または待機予備力を提供したり、電圧維持を行ったりすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、蓄電システムに関して提供されるサービスの一つとして、市場において蓄電装置により得られる対価(市場対価)から、蓄電装置の運用コストを差し引いた、市場における蓄電装置の価値(市場価値)を提供することが考えられている。ここで、特許文献1のアンシラリーサービス提供システムでは、寿命消費値に重み係数を乗じたものを、アンシラリーサービスで提供する対価として算出しており、上記した市場価値とは、異なるものとなっている。つまり、特許文献1では、アンシラリーサービスの対価を考慮した蓄電装置の運転は実行できるものの、市場価値を考慮した運転を実行することが困難となっている。
【0005】
そこで、本発明は、市場価値に基づく蓄電システムの運用を適切に評価することができる蓄電システムの運用評価方法及び蓄電システムの運用評価装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蓄電システムの運用評価方法は、蓄電池を含む蓄電システムの運用を評価する運用評価装置によって実行される、蓄電システムの運用評価方法において、市場において前記蓄電システムが得られる対価である市場対価を算出するための入力パラメータとなる市場情報を取得する市場情報取得工程と、前記蓄電システムの運用条件に基づく運用モデルと、取得した前記市場情報とに基づいて、前記市場対価を算出する市場対価算出工程と、前記運用モデルに基づいて、前記蓄電池の充電状態を算出する充電状態算出工程と、前記蓄電池の劣化モデルと、算出した前記充電状態とに基づいて、前記蓄電池の劣化状態を算出する劣化状態算出工程と、前記蓄電池の前記劣化状態に応じた前記蓄電システムの運用コストを算出するコスト算出工程と、前記市場対価及び前記運用コストに基づいて、前記蓄電システムの市場価値を算出する市場価値算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の蓄電システムの運用評価装置は、蓄電池を含む蓄電システムの運用を評価する蓄電システムの運用評価装置において、市場において前記蓄電システムが得られる対価である市場対価を算出する演算部を備え、前記演算部は、前記市場対価を算出するための入力パラメータとなる市場情報を取得する市場情報取得処理と、前記蓄電システムの運用条件に基づく運用モデルと、取得した前記市場情報とに基づいて、前記市場対価を算出する市場対価算出処理と、前記運用モデルに基づいて、前記蓄電池の充電状態を算出する充電状態算出処理と、前記蓄電池の劣化モデルと、算出した前記充電状態とに基づいて、前記蓄電池の劣化状態を算出する劣化状態算出処理と、前記蓄電池の前記劣化状態に応じた前記蓄電システムの運用コストを算出する運用コスト算出処理と、前記市場対価及び前記運用コストに基づいて、前記蓄電システムの市場価値を算出する市場価値算出処理と、を実行することを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、充電池の劣化状態を考慮した市場価値を算出することができる。このため、市場価値に基づく蓄電システムの運用を適切に評価することができる。なお、評価した市場価値を用いて、蓄電システムの運用モデルを設計したり、蓄電システムの運用条件を変更したりしてもよい。
【0009】
また、前記蓄電システムの運用年数は、予め定められた年数となっており、計算周期を設定する計算周期設定工程を、さらに備え、前記市場情報取得工程から前記市場価値算出工程までの工程は、前記運用年数に達するまで、前記計算周期を更新しながら繰り返し実行されることが、好ましい。
【0010】
この構成によれば、蓄電システムが運用年数に到達するまでの市場価値を算出することで、運用年数に亘る市場価値の評価を行うことができる。
【0011】
また、前記劣化状態算出工程では、前記計算周期の期間中において、前記充電状態が所定の波形に沿った変化となるように設定して、前記劣化状態を算出することが、好ましい。
【0012】
この構成によれば、所定の計算周期における蓄電池の充電状態を設定することができるため、蓄電池の劣化状態を精度よく算出することができる。なお、所定の波形とは、例えば、正弦波または矩形波であり、所定の計算周期において蓄電池の充電状態を体現する波形となっている。また、所定の波形として、正弦波及び矩形波以外の波形としては、実運用条件を模擬した波形が適用可能である。
【0013】
また、前記劣化状態算出工程では、前記充電状態の充電変化量に基づいて、前記蓄電池の温度変化量を算出し、前記温度変化量に基づく前記蓄電池の温度と、前記蓄電池の充電状態と、前記蓄電池の前記充電変化量とに基づいて、前記劣化モデルから、前記劣化状態を算出することが、好ましい。
【0014】
この構成によれば、蓄電池の温度変化を考慮した蓄電池の劣化状態を算出することができる。
【0015】
また、前記運用モデルの前記運用条件を設定する運用条件設定工程と、前記市場価値算出工程において算出された前記市場価値に基づいて、前記運用モデルの前記運用条件が最適化されているか否かを評価する評価工程と、をさらに備え、前記運用条件設定工程では、前記評価工程において前記運用条件が最適化されていないと判定された場合、前記運用条件を変更して再設定することが、好ましい。
【0016】
この構成によれば、評価した市場価値に基づく蓄電システムの運用条件を変更することで、最適な運用条件で、蓄電システムを運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態の蓄電システムの運用評価装置を模式的に表す概略構成図である。
【
図2】
図2は、蓄電システムの運用評価方法の一例に関するフローチャートである。
【
図3】
図3は、蓄電システムの運用評価方法の一例に関するフローチャートである。
【
図4】
図4は、運用年数に亘る蓄電システムの市場価値に関するグラフである。
【
図5】
図5は、充電池の充放電状態に関するグラフである。
【
図6】
図6は、蓄電システムの運用評価方法の他の一例に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0019】
[本実施形態]
本実施形態の運用評価装置及び運用評価方法は、蓄電池を含む蓄電システムの運用を評価する装置及び方法である。この運用評価装置10により蓄電システムを評価することで、評価結果に基づく蓄電システムの設計を行ったり、蓄電システムの運用条件を変更したりすることが可能となる。
図1は、本実施形態の蓄電システムの運用評価装置を模式的に表す概略構成図である。
【0020】
ここで、評価対象となる蓄電システムは、例えば、ESS(Energy Storage System)と呼ばれるシステムであり、図示は省略するが、蓄電池とパワーコンディショナとを含むシステムとなっている。蓄電池は、NaS電池、リチウムイオン電池、鉛電池、ニッケル水素電池、またはこれらを組み合わせた組電池であってもよく、また、個数についても特に限定されない。パワーコンディショナは、蓄電池の充放電を制御している。なお、下記において、蓄電システムをESSともいう。
【0021】
このような蓄電システムを評価する運用評価装置10は、
図1に示すように、各種処理を実行可能な制御部11と、各種プログラムおよびデータを記憶する記憶部12と、キーボード等の入力デバイスで構成された操作部13と、モニタ等の表示デバイスで構成された表示部14と、を備えている。なお、運用評価装置10は、単体の装置で構成してもよいし、他の装置と一体に構成してもよいし、演算装置及びデータサーバ等の各種装置を組み合わせたシステムとして構成してもよく、特に限定されない。
【0022】
記憶部12は、各種情報及び各種プログラム等を記憶している。各種情報としては、エネルギー市場における市場情報、蓄電システムの運用コストに関するESSコスト情報、蓄電池の温度を推定するための温度推定テーブル、蓄電システムの運用計画に関する運用計画情報、蓄電システムのシステム構成に関するシステム情報、蓄電システムの運転条件に関する運転条件情報等がある。ここで、市場情報は、エネルギー市場の単価(1kWh当たりの価格)及びアンシラリーサービス市場の単価(1kW当たりの価格)等である。ESSコスト情報は、蓄電池の導入に関わるコスト、蓄電池の交換に係るコスト及び蓄電池の保守に係るコスト等である。温度推定テーブルは、蓄電池の電流値から温度を推定するテーブルであり、実験等によって予め作成したテーブルとなっている。運用計画情報は、蓄電システムが昼間に充電して夜間に放電する等の運転計画に関する情報であり、例えば、予め設定した売買単価に基づく充放電計画、市場対価が最大になる最適な運転計画、蓄電池の劣化が少なくなる最適な運転計画等がある。システム情報は、蓄電システムに含まれる蓄電池の構成等であり、後述する運用モデルを作成するために入力される情報となっている。運転条件情報は、蓄電システムの運用期間における運転条件、充電状態(充電率・SOC:States of Charge)の使用範囲等である。ここで、蓄電システムの運用計画、システム構成、運転条件等を、蓄電システムの運用条件とする。また、各種プログラムとしては、エネルギー市場において蓄電システムにより得られる対価である市場対価を計算するためのプログラム、蓄電システムのSOCを計算するためのプログラム、蓄電池の劣化状態(SOH:States of Health)を計算するためのプログラム、蓄電システムの市場価値を計算するためのプログラム等がある。
【0023】
制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路を含む演算装置であり、各種プログラムに従って各種情報に基づき各種処理を実行する。
【0024】
ここで、
図2及び
図3を参照して、運用評価装置10による運用評価方法に関する処理フローについて説明する。
図2及び
図3は、蓄電システムの運用評価方法の一例に関するフローチャートである。なお、以下の説明において、運用評価装置10は、蓄電システムが予め規定された運用年数(運用寿命)に亘って運転を行ったときの蓄電システムの市場価値を、評価結果として算出している。
【0025】
先ず、運用評価装置10において、操作部13が操作されることで、所定の計算ステップ(計算周期)dTが入力され、制御部11は、入力された所定の計算ステップdTを設定する(ステップS11:計算周期設定工程)。この計算ステップdTは、計算負荷を軽減する所定の周期となっており、例えば、運用年数に対して1時間程度の周期となっている。
【0026】
続いて、制御部11は、記憶部12から市場情報を取得する(ステップS12:市場情報取得工程(処理))。なお、市場情報取得工程S12では、記憶部12から市場情報を取得したが、運用評価装置10の外部から取得してもよく、特に限定されない。
【0027】
次に、制御部11は、蓄電システムのESS運用モデルを生成し、生成したESS運用モデルから、取得した市場情報に基づいて、市場対価を算出する(ステップS13:市場対価算出工程)。ここで、ESS運用モデルは、蓄電システムのシステム情報、蓄電システムの運転条件情報、蓄電システムの運用計画情報等の情報、つまり運用条件に基づいて生成される。つまり、ESS運用モデルは、所定のシステム構成となる蓄電システムが、所定の運転計画に基づいて、所定の運転条件で運転を行う運用モデルとなっている。そして、市場対価算出工程S13では、エネルギー市場の単価及びアンシラリーサービス市場の単価を考慮して、ESS運用モデルで蓄電システムを運転したときに、計算ステップdTの期間において得られる対価を、市場対価として算出している。
【0028】
また、制御部11は、ESS運用モデルに基づくSOCを算出する(ステップS14:充電状態算出工程(処理))。つまり、充電状態算出工程S14では、所定のシステム構成となる蓄電システムが、所定の運転計画に基づいて、所定の運転条件で運転を行ったときの蓄電池の充放電状態を算出している。
【0029】
続いて、制御部11は、蓄電システムのESS劣化モデルから、算出したSOCに基づいて、蓄電池のSOHを算出する(ステップS15:劣化状態算出工程(処理))。なお、劣化状態算出工程S15については後述する。
【0030】
この後、制御部11は、算出したSOHに基づいて、蓄電池が使用寿命に到達したか否かを判定する(ステップS16)。制御部11は、ステップS16において、蓄電池が使用寿命に到達したと判定した場合(ステップS16:Yes)、記憶部12からESSコスト情報を取得する(ステップS17)。なお、ステップS17では、記憶部12からESSコスト情報を取得したが、運用評価装置10の外部から取得してもよく、特に限定されない。
【0031】
続いて、制御部11は、使用寿命に到達した蓄電池を交換するという、ESS運用モデルのシステム構成の変更を行う(ステップS18)。そして、制御部11は、取得したESSコスト情報に基づいて、電池交換により生じるESSコスト(運用コスト)を算出する(ステップS19:コスト算出工程(処理))。
【0032】
そして、制御部11は、ステップS19の後、蓄電システムが運用年数(つまり、蓄電システムとしての寿命:一例として20年)に到達したか否かを判定する(ステップS20)。なお、制御部11は、ステップS16において、蓄電池が使用寿命に到達していないと判定した場合(ステップS16:No)、ステップS20に進む。なお、蓄電池の使用寿命とは、蓄電池の電池寿命に限らず、電池寿命と関係なく決まる使用寿命も含む。制御部11は、ステップS20において、蓄電システムが運用年数に到達したと判定した場合(ステップS20:Yes)、ESS市場価値を算出する(ステップS22:市場価値算出工程(処理))。一方で、制御部11は、ステップS20において、蓄電システムが運用年数に到達していないと判定した場合(ステップS20:No)、計算ステップdTを更新して(ステップS21)、ステップS12に進む。そして、制御部11は、蓄電システムが運用年数に到達するまで、ステップS12からステップS21までを繰り返し実行する。
【0033】
制御部11は、市場価値算出工程S22において、市場対価算出工程S13において算出した市場対価、コスト算出工程S19において算出したESSコストに基づいて、蓄電システムのESS市場価値を算出する。具体的に、市場価値算出工程S22では、制御部11が、市場対価からESSコストを差し引くことで、ESS市場価値を算出する。これにより、制御部11は、運用年数に亘るESS市場価値を取得し(ステップS23)、運用評価方法に関する処理を終了する。
【0034】
次に、
図3を参照して、蓄電池のSOHを算出する劣化状態算出工程S15の詳細について説明する。なお、
図3に示すSOHの算出方法は、一例であり、この算出方法に特に限定されない。
【0035】
制御部11は、充電状態算出工程S14において算出したSOCを含む入力情報を取得する(ステップS31)。具体的に、入力情報としては、SOCの推移(SOC変化量/充電変化量)、蓄電池の初期温度、蓄電池の容量等である。
【0036】
この後、制御部11は、蓄電池の温度推移(温度変化)を推定する(ステップS32)。ステップS32において、制御部11は、記憶部12から温度推定テーブルを取得し、SOCの時間変化量に基づいて、取得した温度推定テーブルから、蓄電池の温度変化量を導出する。
【0037】
続いて、制御部11は、取得したSOC変化量に基づいて、蓄電池が充放電中か否かを切り分ける蓄電池の運用パターンを定義づける(ステップS33)。つまり、ステップS33では、所定の計算ステップdTの期間中において、蓄電池が充放電中であるか、または、蓄電池が充放電中でないか、を切り分けている。
【0038】
そして、制御部11は、定義づけた運用パターンに基づいて、蓄電池が充放電中か否かを判定する(ステップS34)。制御部11は、蓄電池が充放電中であると判定する(ステップS34:Yes)と、充放電劣化計算を実行する(ステップS35)。一方で、制御部11は、蓄電池が充放電中でないと判定する(ステップS34:No)と、保存劣化計算を実行する(ステップS36)。
【0039】
制御部11は、ステップS35において充放電劣化計算を実行する場合、ステップS32において導出した蓄電池の温度変化量に基づく蓄電池温度と、取得したSOCと、SOC変化量とに基づいて、所定の算出式から、蓄電池の充放電劣化量を求める。つまり、充放電劣化計算に用いられる算出式は、蓄電池温度、SOC、及びSOC変化量を入力パラメータとする算出式となっている。なお、ステップS35における充放電劣化計算は、一例であり、この計算方法に特に限定されない。そして、制御部11は、蓄電池の充放電劣化量を算出すると、計算ステップdTの期間中の計算が終了したか否かを判定する(ステップS37)。
【0040】
一方で、制御部11は、ステップS36において保存劣化計算を実行する場合、ステップS32において導出した蓄電池の温度変化量に基づく蓄電池温度と、取得したSOCとに基づいて、所定の算出式から、蓄電池の保存劣化量を求める。つまり、保存劣化計算に用いられる算出式は、蓄電池温度及びSOCを入力パラメータとする算出式となっている。なお、ステップS36における保存劣化計算も、一例であり、この計算方法に特に限定されない。そして、制御部11は、蓄電池の保存劣化量を算出すると、計算ステップdTの期間中の計算が終了したか否かを判定する(ステップS37)。
【0041】
制御部11は、ステップS37において、計算ステップdTの期間中の計算が終了したと判定した場合(ステップS37:Yes)、劣化後の蓄電池の電池容量を計算する(ステップS38)。一方で、制御部11は、ステップS37において、計算ステップdTの期間中の計算が終了していないと判定した場合(ステップS37:No)、演算周期を更新して、ステップS34に進む。そして、制御部11は、計算ステップdTの期間に到達するまで、ステップS34からステップS37までを繰り返し実行する。
【0042】
制御部11は、ステップS38において、ステップS35の充放電劣化計算により算出した充放電劣化量、及びステップS36の保存劣化計算により算出した保存劣化量に基づいて、劣化後の蓄電池の電池量の電池容量を計算する。これにより、制御部11は、計算ステップdTの期間後における蓄電池の電池容量を取得し(ステップS39)、蓄電池の劣化状態に関する計算を終了する。
【0043】
次に、
図5を参照して、充放電劣化計算及び保存劣化計算の演算周期について説明する。
図5は、充電池の充放電状態に関するグラフである。
図3のステップS35における充放電劣化計算、及びステップS36における保存劣化計算は、計算ステップdTの期間中において、SOCが所定の波形となるように補間して計算を行っている。
図5は、その横軸が時間となっており、その縦軸がSOCとなっている。
図5に示すように、制御部11は、各計算ステップdTの期間中において、SOCの時間変化が正弦波となるように設定している。そして、制御部11は、計算ステップdTの期間中において、正弦波となるように設定したSOCに基づいて、充放電劣化計算及び保存劣化計算を行う。なお、
図5では、所定の波形として、正弦波を適用したが、特に限定されず、例えば、矩形波、または実運用条件を模擬した波形を適用してもよい。
【0044】
次に、
図4を参照して、運用評価装置10により評価された蓄電システムの市場価値について説明する。
図4は、運用年数に亘る蓄電システムの市場価値に関するグラフである。
図4は、その横軸が運用年数となっており、縦軸が市場対価及びESSコストとなっている。ここで、棒グラフは、単年の市場対価となっている。また、L1は、累積の市場対価となっており、L2は、ESSコストとなっている。
【0045】
図4に示すように、単年あたりの市場対価は、蓄電システムの運用開始時(横軸の左側)から時間が経過するにつれて徐々に低下する。この後、蓄電システムの蓄電池の交換が行われると、次年の市場対価が回復する。そして、回復後の単年あたりの市場対価は、時間が経過するにつれて徐々に低下する。そして、蓄電システムは、市場対価の回復と低下とを繰り返しながら、所定の運用年数(運用寿命)に到達する。この場合、累積の市場対価L1は、運用年数が経過につれて増大する。また、ESSコストL2は、蓄電システムの運用開始時において、イニシャルコスト(初期費用)が発生し、また、電池交換時においてメンテナンスコストが発生する。そして、累積の市場対価L1とESSコストL2とが交わる点P1が、投資性の判断指標となる運用年数となる。
【0046】
次に、
図6を参照して、運用評価装置10による運用評価方法に関する他の処理フローについて説明する。
図6は、蓄電システムの運用評価方法の他の一例に関するフローチャートである。なお、以下の説明において、運用評価装置10は、運用中における蓄電システムの市場価値を算出し、算出した市場価値に基づいて、蓄電システムの運用条件を設定している。
【0047】
先ず、運用評価装置10において、操作部13が操作されることで、運用条件が入力され、制御部11は、入力された運用条件を設定する(ステップS40:運用条件設定工程)。次に、制御部11は、
図2における運用評価方法に関する処理フローを実行して、現在の運用時点から所定の運用年数までに亘る蓄電システムのESS市場価値を算出する(ステップS41)。この後、制御部11は、ESS市場価値が、予め設定された最適となるESS市場価値であるかを評価する(ステップS42:評価工程)。そして、制御部11は、ステップS41において算出したESS市場価値が、予め設定された最適となるESS市場価値に最適化されているか否かを判定する(ステップS43)。制御部11は、最適化されていると判定した場合(ステップS43:Yes)、運用評価方法に関する処理を終了する。一方で、制御部11は、最適化されていないと判定した場合(ステップS43:No)、再び、ステップS40に進む。そして、制御部11は、蓄電システムが最適化されるまで、ステップS40からステップS43までを繰り返し実行する。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、充電池の劣化状態を考慮した蓄電システムのESS市場価値を算出することができる。このため、ESS市場価値に基づく蓄電システムの運用を適切に評価することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、蓄電システムが運用年数に到達するまでのESS市場価値を算出することで、運用年数に亘るESS市場価値の評価を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、所定の計算周期における蓄電池の充電状態を、所定の波形に沿った変化となるように設定することができるため、充電池の劣化状態を精度よく算出することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、蓄電池の温度変化を考慮した蓄電池の劣化状態を算出することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、評価したESS市場価値に基づく蓄電システムの運用条件を変更することで、最適なESS市場価値となる運用条件で、蓄電システムを運用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 運用評価装置
11 制御部
12 記憶部
13 操作部
14 表示部