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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】超撥水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220825BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220825BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220825BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220825BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220825BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/20
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/65
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018135372
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020012062
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】福島 郁子
(72)【発明者】
【氏名】山本 正治
(72)【発明者】
【氏名】川上 晋也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘一
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-205765(JP,A)
【文献】特表2013-543909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に超撥水性塗膜を形成する超撥水性塗料組成物であって、
少なくとも1種の疎水性シリカ微粒子粉末(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)と、を含み、
樹脂組成物(E)を含み、又は含まず、
前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)は、メタノール湿潤性を表すM値が35以上である二酸化ケイ素系化合物であり、
前記溶媒(C)は、水を主体とし、
前記分散剤(B)は、水溶性バインダーであり、
前記超撥水性塗料組成物100質量部に対して前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)が0質量部を超え8質量部以下であり、
かつ前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)の前記分散剤(B)に対する固形分質量比が10以上であり、
前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)と前記樹脂組成物(E)の固形分比が10:0~6:4である、超撥水性塗料組成物。
【請求項2】
前記溶媒(C)が、水溶解度が10以上である化合物(D)をさらに含む、請求項1に記載の超撥水性塗料組成物。
【請求項3】
前記化合物(D)は、アルコール類である、請求項2に記載の超撥水性塗料組成物。
【請求項4】
前記分散剤(B)は、セルロース誘導体系、多糖類系、ポリビニル系及びポリアクリル酸系からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1からのいずれかに記載の超撥水性塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超撥水性を示し、優れた耐汚染性を有する水性塗料組成物に関するものである。本発明組成物は、金属、ガラス、陶磁器、焼成タイル、磁器タイル、天然石材、合成石材、モルタル、コンクリート、サイディングボード、押出成型板、プラスチック等の各種素材、あるいは前記素材上に形成された塗膜等の表面仕上げに使用することができ、主に建築物、土木構造物等の美観維持や躯体保護に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、建築・土木構造物に使用する塗料分野においては有機溶剤を溶媒とする溶剤型塗料から、水を溶媒とする水性塗料への転換が図られつつある。これは、塗装作業者や居住者の健康被害を低減するためや、大気環境汚染を低減する目的で行われているものであり、年々水性化が進んできている。
【0003】
水性塗料による塗膜は、一般的に溶剤型の塗料による塗膜に比べて、塗膜硬度が低く、汚染物質が付着した時の食い込み性が高い傾向にある。従って、一度汚染物質が付着すると、塗膜表面からその汚れを除去することは困難な場合が多い。
【0004】
ところで従来、部材表面に撥水性組成物を被覆することにより防汚性、防曇性、着氷防止等の性能に優れた撥水部材を得ることが行われている。この様な撥水性組成物としては、フルオロアルキル基含有重合体、シリコン含有重合体等の重合体に平均粒子径が5μm以下の粒状物を配合してなる撥水被膜形成可能な組成物が周知である(特許文献1~3参照)。また、部材表面と水滴との接触角が150°以上となる場合を超撥水といい、この場合には水滴は部材表面から転がり落ちるような挙動を見せる。
【0005】
フルオロアルキル基含有重合体、シリコン含有重合体等の重合体による被膜単独では十分な撥水性が得られないので、特許文献1~3に記載の溶剤系塗料組成物では、特に疎水性シリカ粒状物等を溶剤に配合することにより、撥水性の改良を行っている。
【0006】
特許文献4において、合成樹脂エマルションと中性シリカゾルを必須成分とする水性塗料組成物が、安定性に優れ、しかも耐汚染性にも優れていると報告されている。中でも疎水化処理を施したシリカゾルはその撥水性により、高い耐汚染性を示す。
【0007】
さらに、特許文献5において、重合体粒子と無機酸化物粒子とセルロース系増粘剤と、を含有する水系組成物、特許文献6において、撥水性無機粉体と分散剤及び水の分散体が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-8284号公報
【文献】特開平2-8285号公報
【文献】特開平2-8263号公報
【文献】WO2005/063899号公報
【文献】特開2018-021201号公報
【文献】WO2013/018827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3に記載されているような疎水性シリカの粒状物は、水系においては溶媒中で局在化してしまうため分散不良となり、これまで水系の撥水性塗料組成物中に用いられることは困難であった。また、特許文献4において疎水化シリカゾルを用いることで水系の撥水性塗料組成物を作製したことは報告されているものの、シリカゾルの疎水化処理プロセスにおいてはアルコキシル基、水酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物と中性シリカゾルとの複合化を200℃以下で1~24時間加熱を行う必要があり、時間がかかり煩雑であった。
【0010】
また、特許文献5において重合体粒子と水分散コロイダルシリカの水溶液にヒドロキシセルロース系増粘剤を加えて水系組成物を作成したことは報告されているものの、コロイダルシリカは既に水分散したものであり、かつ、ヒドロキシセルロースは増粘剤として用いられたものであった。
【0011】
さらに特許文献6において撥水性有機表面処理をされた無機粉体を水に均一に分散させた分散体が報告されているものの、シリコンで表面処理された微粒子酸化亜鉛をポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートで水に分散するなどの例示しかない。
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、超撥水性、耐汚染性を備えた塗膜を形成できる、疎水性シリカ微粒子粉末を含有する水系の超撥水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、水を溶媒の主体とする超撥水性塗料組成物において、溶媒に特定の種の分散剤を適切な配合比で添加することにより、疎水性を有するシリカ微粒子粉末が水を主体とする溶媒中に分散可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、基材上に超撥水性塗膜を形成する超撥水性塗料組成物であって、少なくとも1種の疎水性シリカ微粒子粉末(A)と、分散剤(B)と、溶媒(C)と、を含み、前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)は、メタノール湿潤性を表すM値が20以上である二酸化ケイ素系化合物であり、前記溶媒(C)は水を主体とし、前記分散剤(B)は水溶性バインダーであり、前記超撥水性塗料組成物100質量部に対して前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)が0質量部を超え8質量部以下であり、かつ疎水性シリカ微粒子粉末(A)の分散剤(B)に対する固形分質量比が9以上である、超撥水性塗料組成物を提供する。
【0015】
前記溶媒(C)は、水溶解度が10以上である化合物(D)をさらに含んでいることが好ましい。
【0016】
前記化合物(D)は、アルコール類であることが好ましい。
【0017】
前記超撥水性塗料組成物は樹脂組成物(E)をさらに含み、前記疎水性シリカ微粒子粉末(A)と樹脂組成物(E)の固形分比が10:0~6:4であることが好ましい。
【0018】
前記分散剤(B)は、セルロース誘導体系、多糖類系、ポリビニル系、ポリアクリル酸系からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超撥水性塗料組成物は、分散剤により水を主体とする溶媒に粘性を発現させ、かつ、保護コロイドを形成して、疎水性シリカ微粒子の溶媒中での凝集を妨げることで、結果として疎水性シリカ微粒子粉末を水溶媒中に分散させることができる。
さらに分散剤は水溶性バインダーであり、疎水性シリカ微粒子粉末を被塗物に固定化する作用があるため、分散体を塗布した面に超撥水性が発現する。
【0020】
本発明によれば、塗装作業者や居住者の健康被害や大気環境汚染を低減しつつ、撥水性及び耐汚染性を備えた塗膜を形成できる、疎水性シリカ微粒子粉末を含有する水系の超撥水性塗料組成物を提供することができる。さらに疎水性シリカの微粉末は市販品を用いることができるため、成分の混合プロセスのみで短時間に超撥水性塗料組成物を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
<疎水性シリカ微粒子粉末(A)>
本実施形態で用いられる疎水性シリカ微粒子粉末は、塗膜に撥水性を付与して塗膜に埃やゴミ等が付着しにくいようにし、これにより塗膜の耐汚染性を高めるための成分である。このような疎水性シリカ微粒子粉末としては、二酸化ケイ素化合物であるシリカ微粒子粉末を化学的に処理してその表面に疎水性を付与したものが一般に用いられる。シリカ微粒子粉末の表面に疎水性を付与するための方法としては、例えば、メチル化剤やシラン、シロキサンを用いて熱処理する方法を挙げることができる。
【0023】
本実施形態で用いられる疎水性シリカ微粒子粉末は、メタノール湿潤性を表すM値が35以上のものとする。形状及びサイズ等が異なる疎水性シリカ微粒子粉末として、乾式法(フュームドシリカ)、湿式法、真球シリカ、及び、異粒子径シリカ等を少なくとも1種用いることができる。
【0024】
M値は、粉体表面の疎水化処理の程度を表す特性値であり、M値が高いほど親水性が低く、疎水化処理の割合が高いことを示し、水・メタノール混合溶液に粉体を均一分散させるために必要なメタノールの容量割合で表され、次の方法で求めることができる。
【0025】
<M値算出法>
メタノール濃度を5容量%の間隔で変化させた水/メタノール混合溶液を調整し、これを容積10mlの試験管に5ml入れる。次いで測定試料0.2gを入れ、試験官にふたをして、20回上下転倒してから静地した後、凝集物を観察して、凝集物がなく、測定試料の全部が湿潤して均一混合した混合溶液のうち、メタノール濃度が最も小さい混合溶液のメタノール濃度(容量%)をM値とする。
【0026】
本実施形態で用いられるフュームドシリカは、四塩化ケイ素の燃焼加水分解によって生成された二酸化ケイ素が、空気中で真球状の粒子を形成し、さらにこれら複数の粒子が数珠状に凝集・融着し、嵩高い凝集体を形成した乾式シリカである。具体的な製品としては、旭化成ワッカーシリコン社製のHDKシリーズ、トクヤマ社製のレオロシールシリーズ、エボニック社製のAEROSILシリーズ、CABOT社製のCAB-O-SILシリーズ等、を挙げることができる。
【0027】
真球状シリカ粒子としては、シリカをシェルとしてコアに空気及び有機樹脂等を内包していてもよい。さらに、分散安定化するためにシリカ粒子の表面に表面処理が施されていてもよい。具体的な真球状シリカ粒子としては、例えば、信越化学工業社製のQSG-30、QSG-100等が挙げられる。
【0028】
本実施形態で用いられる湿式法によるシリカは、ケイ酸ソーダ溶液と硫酸によって生成された含水ケイ酸に有機ケイ素化合物を化学的に反応結合させた疎水性シリカ微粒子粉末である。具体的な製品としては、例えば、東ソー・シリカ社製のSS-50B、SS-50F等、が挙げられる。
【0029】
<分散剤(B)>
分散剤(B)は水系において、疎水性シリカ微粒子粉末(A)に対して分散剤として作用し、水溶媒中で疎水性シリカ微粒子粉末を凝集させることなく、安定して分散させることができる。
【0030】
さらに前記分散剤(B)は水溶性バインダーであり、疎水性シリカ微粒子粉末を被塗物に固定化する作用があるため、分散体を塗布した面に超撥水性が発現する。
【0031】
上記の作用については後述するが、前記分散剤(B)が水に溶解すると粘性を発現し、かつ、保護コロイドを形成する水溶性バインダーであることにより、疎水シリカ微粒子粉末が溶媒(C)中に分散されたままの状態でいることができ、かつ、塗布した疎水性シリカ微粒子粉末は被塗物に固定化される。
【0032】
前記分散剤(B)としては水に溶解すると粘性を発現し、かつ、保護コロイドを形成する水溶性バインダーであれば特に限定されないが、多糖類系水溶性高分子、セルロース誘導体系水溶性高分子、ポリビニル系水溶性高分子、ポリアクリル酸系水溶性高分子を用いることが好ましい。
【0033】
上記多糖類系水溶性高分子としては、例えば、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヘミセルロース、デンプン、メチルデンプン、エチルデンプン、メチルエチルデンプン、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン酸、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン、デキストラン、ザンサンガム、プルラン、ゲランガム、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、及びヒアルロン酸等が挙げられる。
また、上記セルロース誘導体系水溶性高分子としては、例えば、上記多糖類をカルボキシアルキル化あるいはヒドロキシアルキル化したカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、デンプングリコール酸、寒天誘導体、及びカラギーナン誘導体等が挙げられる。
上記ポリビニル系水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドンなどとして、ポバールJM-17L、JM-17(日本酢ビ・ポバール(株)社製)等、が挙げられる。
上記ポリアクリル酸系水溶性高分子としては、例えば、ASE-60(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)、SNシックナー630(サンノプコ社製)等、が挙げられる。
【0034】
<溶媒(C)>
本実施形態の溶媒は水を主体とし、他に添加剤や水溶解度が10以上である化合物(D)を含んでいてもよい。水溶解度とは水100gに溶解する溶質の質量を表す。水溶解度の高い溶質である化合物(D)は疎水性シリカ微粒子粉末と会合するため、疎水性シリカ微粒子粉末が溶媒にさらに分散しやすくなり、かつ分散体の安定性も向上する。
【0035】
前記分散剤(B)と溶媒(C)とを混合すると粘性が発現する。
【0036】
発現する粘性は前記分散剤(B)と溶媒(C)との混合比によって異なるが、0.001~5,000mPs・s/23℃であることが望ましい。
【0037】
<化合物(D)>
さらに化合物(D)はアセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,Nジメチルホルムアミド等の親水溶剤であり、さらにアルコール類であることが好ましい。溶媒(C)がアルコール化合物を含むことにより、疎水性シリカ微粒子粉末の水への湿潤性が向上し、分散体の安定性はさらに向上する。
【0038】
前記アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、2-ブチン-1-オール、3-ブチン-1-オール等の2-ビニル又は2-アセチレニルアルコール;アセトール、アセトイン、ジアセトンアルコール等のアセチルアルコール;フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール;メチルグリコレート、エチルグリコレート等のアルコキシカルボニルメタノール;アリルグリコール、フェニルグリコール、ベンジルグリコール、ジベンジルグリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、オクチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ヘキシルセロソルブ、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、イソブチルグリコール、イソブチルジグリコール、ヘキシルジグリコール、2-エチルヘキシルグリコール、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、プロピルプロピレンジグリコール、フェニルプロピレングリコール、ブチルプロピレンジグリコール、クロロエトキシエタノール、クロロエトキシエトキシエタノール、メトシキブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、モノブチルジエチレングリコール等のエーテルアルコール類等が挙げられる。
【0039】
<樹脂組成物(E)>
塗料組成物が樹脂組成物を含むことにより、塗膜の耐久性が向上する。上記樹脂組成物(E)としては、エマルション樹脂等を用いることができる。エマルション樹脂の原料となるモノマー混合物には、ケトン基又はアルデヒド基含有アクリルモノマーやカルボキシル基含有アクリルモノマー等のほか、任意のモノマー成分を含有させてもよい。
【0040】
前記任意のモノマー成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、グリシジル(メタ)アクリレート、水酸基を有する、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等、アミド基を有する、(メタ)アクリルアミド等、ポリアルキレンオキサイドユニットを有する、M90G、M230G(ともに新中村化学工業株式会社製)、ブレンマーAE-350、ブレンマーPE-90、ブレンマーPE-200、ブレンマーPE-350(いずれも日油株式会社製)等が挙げられる。これらのモノマー成分は、2種以上のモノマーを併用してもよい。
【0041】
上記のケトン基又はアルデヒド基含有アクリルモノマーの具体例としては、アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、4~7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)、アセトアセトキシエチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、得られる合成樹脂エマルションと後述する架橋剤との反応性が高いことから、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドを用いることが好ましい。
【0042】
また、エマルション樹脂を用いる際には、共に架橋剤が含まれていてもよい。架橋剤の効果によりエマルション樹脂が常温架橋し、強固な塗膜を形成できるためである。
【0043】
このような架橋剤としては、エマルション樹脂にかかるモノマーの種類によって、1分子中に2つ以上の架橋のための官能基を有するヒドラジド化合物や、カルボジイミド化合物、あるいはアジリジン化合物等を用いる。このようなエマルション樹脂や架橋剤の選択にあたっては特に限定されず、一般に塗料組成物を製造する際に用いられるものを適用できる。
【0044】
本実施形態に係る超撥水性塗料組成物は、必要に応じて添加剤等の他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、二酸化チタンなどの着色顔料、炭酸カルシウムなどの充填材、造膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、顔料分散剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、pH調整剤、繊維類、つや消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、吸着剤、触媒、架橋剤等を混合することができる。
【0045】
<超撥水性塗料組成物の調製方法>
本実施形態に係る超撥水性塗料組成物の調製方法としては、特別の方法を必要とせず、当業者において通常用いられる方法を使用することができる。例えば、溶媒(C)に分散剤(B)を合わせた溶液に、疎水性シリカ微粒子粉末(A)と化合物(D)を合わせた添加剤及び樹脂組成物(E)を加え、分散機で調製することができる。疎水性シリカ微粒子粉末を溶液中に分散する方法として、従来公知の方法がとられ特に限定されない。具体的には、疎水性シリカ微粒子粉末と溶液を混合し、一般的なディゾルバーを使用して行うことが可能であるが、ホモジナイザーなどの高速撹拌機を使用して行うこともできる。高速撹拌機としては、TKホモミキサー、TKロボミックス、TKフィルミックス(以上、プライミクス社製、商品名)、クレアミックス(エムテクニック社製、商品名)、ウルトラディスパー(浅田鉄鋼社製、商品名)などが好ましい。また、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロールの他、SS5(エテクニック社製、商品名)、ミラクルKCK(浅田鉄鋼社製、商品名)といった混練機、超音波分散機、マイクロフルイダイザー(みずほ工業社製、商品名)といった高圧ホモジナイザー、ナノマイザー(吉田機械興業社製、商品名)、スターバースト(スギノマシン社製、商品名)、G-スマッシャー(リックス社製、商品名)等の分散機を使用することができる。また、ガラスやジルコンなどのビーズメディアを用いるボールミル、サンドミル、横型メディアミル分散機、コロイドミル等を使用することもできる。
【0046】
<塗膜の形成方法>
本実施形態に係る塗料組成物により塗膜を形成する方法としては、例えば、刷毛、ローラー、エアースプレー、エアレススプレー、アプリケーター、バーコーダー等の一般に用いられている塗装方法が挙げられる。これらの塗装方法は、塗装対象や用途に応じて適宜に選択される。
【0047】
本実施形態に係る塗料組成物は、建築物や土木構造物等の外装面に適用することが可能である。本発明の基材とは、例えば、金属、ガラス、陶磁器、焼成タイル、磁器タイル、天然石材、合成石材、モルタル、コンクリート、サイディングボード、押出成形板、スレート板、石綿セメント板、繊維混入セメント板、ケイ酸カルシウム板、ALC板、木材、プラスチック板、合成樹脂等の素材、あるいは素材上に形成された塗膜等をいう。
【0048】
本実施形態に係る塗料組成物は、特に天然石材、合成石材、あるいは基材上に形成された石材調仕上塗材、多彩模様仕上塗材等の意匠塗膜など、被塗物の表面に凹凸意匠が形成されたものに適用することが好ましい。これらに適用すると超撥水効果により凹凸意匠面に汚染物質が付着し難くなる。さらに、仮に汚染物質が付着しても雨水などによる水滴が超撥水塗膜面を転がり落ちる際に汚染物質が取り込まれることで汚れが除去されて優れた耐汚染性が発現する。
【0049】
次に、上述の構成を備える本実施形態に係る超撥水性水系塗料組成物の作用効果について、詳しく説明する。
【0050】
疎水性シリカ微粒子粉末は通常、単独で水中に添加すると凝集してしまうため、ディスパー等の分散機を用いたとしても、分散させることが難しい。これは、その疎水性により水分子との接触面積を小さくしようと、溶媒中を移動して疎水性シリカ微粒子同士で接触するように集まってしまうためである。
【0051】
一方、分散剤(B)を水溶媒(C)中に添加すると、水溶媒に粘性が発現する。これは、水溶性バインダーに含まれる水溶性高分子と水分子が会合した大きな会合体が溶媒中で無数に生じるため、水溶性高分子同士が絡まりあい保護コロイドを形成するためと考えられる。この状況下で疎水性シリカ微粒子粉末を添加し、高速撹拌機等で強制的に分散させると、疎水性シリカ微粒子が前記保護コロイドに取り込まれてその表面が親水化するため、疎水性シリカ微粒子粉末同士が凝集することができず、溶媒中に分散されたままの安定した状態でいることができる。
【0052】
さらに前記分散体を基材に塗布すると、保護コロイドを形成する水溶性高分子がバインダーとして機能するため、疎水性シリカ微粒子粉末が基材に固定化でき、分散体を塗布した面に超撥水性が発現する。これは水溶性高分子由来の保護コロイドに特有の効果と考えられる。
【0053】
また、水溶媒(C)中に水溶解度の大きい化合物(D)が存在すると、疎水性シリカ微粒子粉末の水への湿潤性が向上し、さらに疎水性シリカ微粒子の凝集が抑制できる。そのため、分散体の安定性も向上する。
【0054】
上記化合物(D)はアルコール類であることが好ましい。化合物(D)がアルコール類であれば、その水酸基により疎水性シリカ微粒子粉末の水への湿潤性が向上し、分散体の安定性がより向上するためである。
【0055】
上記塗料組成物は、樹脂組成物(E)を含み、又は含まず、上記疎水性シリカ微粒子粉末(A)と樹脂組成物(E)の固形分比が10:0~6:4である。
【0056】
上記の作用により疎水性シリカ微粒子粉末は、水溶媒(C)中に分散剤(B)及び水溶解度の大きい化合物(D)が添加された分散媒に分散することができ、その分散体は安定に存在できる。これを用いた低汚染性塗料は、疎水性シリカ微粒子由来の超撥水性により、優れた低汚染性を示す。
【実施例
【0057】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお実施例の詳細な配合比は、評価結果とともに表1~4に後述する。
【0058】
<実施例1>
溶媒(C)として水と、分散剤(B)としてヒドロキシエチルセルロース(HEC)を合わせた溶液に、疎水性シリカ微粒子粉末(A)としてアモルファスシリカ RX200(M値:70、平均一次粒子径12nm)を加え、高速攪拌機で20,000rpmにて20分間分散することにより、超撥水性塗料組成物を調製した。前記塗料組成物は、(A)と(B)の固形分質量比が15:1、かつ、塗料組成物100質量部に対して、(A)が0.5質量部となるように調製した。
【0059】
以下は、前記(A)の固形分質量比を変動させた例である。
【0060】
<実施例2>
(A)の固形分質量比が塗料組成物100質量部に対して、1.0質量部となる以外は実施例1と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0061】
<実施例3>
(A)の固形分質量比が塗料組成物100質量部に対して、2.0質量部となる以外は実施例1と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0062】
<実施例4>
(A)の固形分質量比が塗料組成物100質量部に対して、4.0質量部となる以外は実施例1と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0063】
<実施例5>
(A)の固形分質量比が塗料組成物100質量部に対して、8.0質量部となる以外は実施例1と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0064】
<比較例1>
(A)の固形分質量比が塗料組成物100質量部に対して、10.0質量部となる以外は実施例1と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0065】
次に示すのは、(A)の固形分質量比を2.0質量部と固定し、(A)と(B)の固形分質量比を変動させた例である。
<実施例6>
(A)と(B)の固形分質量比を、10:1とした以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0066】
<実施例7>
(A)と(B)の固形分質量比を、20:1とした以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0067】
<実施例8>
(A)と(B)の固形分質量比を、100:1とした以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0068】
<実施例9>
(A)と(B)の固形分質量比を、1000:1とした以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0069】
<比較例2>
(A)と(B)の固形分質量比を、6:1とした以外は実施例3と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0070】
<比較例3>
(A)と(B)の固形分質量比を、1:0とした以外は実施例3と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0071】
次に示すのは、(A)の種類を変更した例である。
【0072】
<実施例10>
(A)としてアモルファスシリカ R805(M値:50、平均一次粒子径12nm)を用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0073】
<実施例11>
(A)としてアモルファスシリカ R974(M値:35、平均一次粒子径12nm)を用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0074】
<実施例12>
(A)として真球状粒子シリカ QSG-100(M値:70、平均一次粒子径110nm)を用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0075】
<比較例4>
(A)としてコロイダルシリカ スノーテックスN(親水性)を用いた以外は実施例3と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0076】
以下に示すのは、(B)の種類を変更した例である。
【0077】
<実施例13>
(B)としてポリアクリル酸系のアルカリ膨潤型エマルションポリマー(ASE-60(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)を用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0078】
<実施例14>
(B)としてキサンタンガムを用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0079】
<実施例15>
(B)としてポリビニル系のポバール(JM-17L)を用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0080】
<比較例5>
(B)として界面活性剤を用いた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0081】
次に示すのは、実施例3の配合に、水溶解度が10以上である化合物(D)を加えた例である。なお塗料液調製時には、(B)と(C)を合わせた溶液に(A)と(D)を合わせたものを加え、同様に高速攪拌機で20,000rpmにて20分間分散することにより、塗料組成物を調製した。
【0082】
<実施例16>
(D)としてブチルセロソルブ(水溶解度∞)を加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0083】
<実施例17>
(D)としてイソプロピルアルコール(IPA)(水溶解度∞)を加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0084】
<実施例18>
(D)としてジプロピレングリコールn-プロピルエーテル(DPnP)(水溶解度19)を加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0085】
<実施例19>
(D)としてアセトン(水溶解度∞)を加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0086】
次に示すのは、実施例16の配合に、樹脂組成物(E)を加えた例である。なお塗料液調整時には、(B)と(C)を合わせた溶液に(A)と(D)を合わせたものを加え、同様に高速攪拌機で20,000rpmにて20分間分散した後、(E)と混合し、ディスパーで1,500rpmにて10分攪拌することにより、超撥水性水性塗料組成物を調製した。
【0087】
<実施例20>
(E)としてアクリルシリコンエマルション樹脂を、(A)と(E)の固形分質量比が9:1になるように調整して加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0088】
<実施例21>
(E)としてアクリルエマルション樹脂を、(A)と(E)の固形分質量比が9:1になるように調整して加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0089】
<実施例22>
(E)としてシリコンエマルション樹脂を、(A)と(E)の固形分質量比が9:1になるように調整して加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0090】
<実施例23>
(E)としてアクリルシリコンエマルション樹脂を、(A)と(E)の固形分質量比が6:4になるように調整して加えた以外は実施例3と同様にして、超撥水性塗料組成物を調製した。
【0091】
<比較例6>
(E)としてアクリルシリコンエマルション樹脂を、(A)と(E)の固形分質量比が4:6になるように調整して加えた以外は実施例3と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0092】
次は、有機溶剤に疎水性シリカ微粒子粉末を、同様にディスパーで3000rpmにて20分間分散させた比較例である。
【0093】
<比較例7>
塗料組成物100質量部中に、ブチルセロソルブを98質量部と、アモルファスシリカ RX200を2質量部と、を含有する、塗料組成物を調製した。
【0094】
なお、表1~4中の各成分として以下の材料を用いた。
<疎水性シリカ微粒子粉末(A)>
アエロジルRX200(アモルファスシリカ、表面修飾基:トリメチルシリル、平均一次粒子径:12nm、M値:70、エボニック社製)
アエロジルR805(アモルファスシリカ、表面修飾基:アルキルシリル、平均一次粒子径:12nm、M値:50、エボニック社製)
アエロジルR974(アモルファスシリカ、表面修飾基:ジメチルシリル、平均一次粒子径:12nm、M値:35、エボニック社製)
QSG-100(真球状粒子、疎水化度:67%、平均一次粒子径:110nm、M値:70、信越化学工業社製) スノーテックスN(コロイダルシリカ、NH4+安定型アルカリ性ゾル、平均一次粒子径:10~15nm、NV:20%、日産化学工業社製)
<分散剤(B)>
HEC(製品名:QP52000H ヒドロキシエチルセルロース、ダウ・ケミカル社製)
ASE-60(製品名:ACRYSOL ASE-60 アルカリ膨潤型エマルション、NV:28%、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)
キサンタンガム(製品名:エコーガム(登録商標)T、DSP五協フード&ケミカル社製)
界面活性剤(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、製品名:ペレックスSS-H、花王(株)製)
<樹脂組成物(E)>
アクリルシリコンエマルション樹脂(製品名:ユーダブルEF-015、NV:50%、日本触媒社製)
アクリルエマルション樹脂(後述するエマルションを使用、NV:35%)
シリコンエマルション樹脂(製品名:KM-9717、NV:60%、信越化学工業社製)
[試験]
【0095】
塗料組成物の評価試験は、疎水シリカ微粒子粉末の水への分散性、塗膜の撥水性、低汚染性、防藻性の観点から行った。試験結果は、表1~4に記載する。
【0096】
<分散性試験>
疎水シリカ微粒子粉末の水への分散性について、エムテクニック株式会社製クレアミックスCLM-0.8Sを使用し、回転数20,000rpm(最大周速 25m/s)、スリット幅:1.5mm、撹拌時間20分間で分散した。得られた塗料組成物を目視により確認し、下記の3段階の評価基準に従って、分散状態を評価した。評点A及びBを合格とした。(下記表1~4 A:容易に分散かつ静置後の沈降なし B:容易に分散するが静置後に一部粒子が沈降する C:全く分散できない、または静置後に粒子が全て沈降する、あるいは、溶媒が非水性のため参考結果)
【0097】
<塗膜評価試験>
下記の手順により、塗膜を形成するための下地材を作製した。
レベノールWZ(花王(株)製 界面活性剤)4部を、イオン交換水50部に溶解させた。これに、メチルメタクリレート62.8部、エチルヘキシルアクリレート36.2部及びアクリル酸1部から成るモノマー混合物を加えて撹拌し、モノマープレエマルション154部を調製した。反応容器中に、先ず、イオン交換水40部、レベノールWZ1部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。ここに、10%過硫酸アンモニウム水溶液3部を添加した後、モノマープレエマルションと1%過硫酸アンモニウム水溶液20部をそれぞれ、反応容器の別々の口から3時間かけて滴下して乳化重合をおこなった。滴下後、さらに80℃で1時間加熱撹拌した後、室温まで冷却し、アンモニア水溶液とイオン交換水を添加して、pH=8、固形分濃度を35%に調整し、アクリルエマルション樹脂を作成した。このエマルションの最低造膜温度は29℃であった。作成したエマルション57.3部、CR-97 10.5部、硫酸バリウム♯100 10.8部、Disperbyk-190 1.1部、ブチルセロソルブ4.0部、脱イオン水16.3部を配合し水性白色塗料組成物(PVC=20)を調整した。この白色塗料組成物をエアースプレーにより、あらかじめ水性カチオンシーラー 透明(日本ペイント(株)製)を塗布したスレート板(30cm×9cm)に、塗布量100~150g/mになるように塗装した。これを23℃で7日間乾燥させて塗膜評価試験用の下地とした。
【0098】
塗膜の撥水性について、先の実施例で得られた塗料組成物を、アプリケーターで乾燥後の塗布量が3~10g/mになるよう、下地上に塗装し、23℃で24時間乾燥させて塗膜を得た。得られた塗膜に対して25μlの水を着滴させて撥水性を確認し、下記の4段階の評価基準に従って評価した。評点A及びBを合格とした。(下記表1~4 A:自然に水滴が転がる B:板を傾けると水滴が転がる C:水滴が転がるが水跡が残る D:水滴が転がらない -:分散性試験が評点Cのため評価できず)
【0099】
塗膜の低汚染性について、先の実施例で得られた塗料組成物を、アプリケーターで乾燥後の塗布量が3~10g/mになるよう、下地上に塗装し、23℃で7日間乾燥させて試験板を作成した。水平面に対して10度に傾斜し、かつ長さ30cmで深さ3mmの溝が3mmピッチで刻まれた屋根を有する架台に、屋根に降った雨が塗膜の表面に筋状に流れ落ちるように、試験板を垂直に取り付け、屋外暴露した。3か月屋外暴露を実施後、雨筋の発生度合いを目視により確認し、下記の4段階の評価基準に従って、低汚染性を評価した。評点A、B及びCを合格とした。(下記表1~4 A:雨筋がなかった B:雨筋がほぼ見られなかった C:薄い雨筋が見られた D:雨筋が顕著に見られた -:分散性試験が評点Cのため評価できず)
【0100】
塗膜の防藻性について、先の実施例で得られた塗料組成物を、アプリケーターで乾燥後の塗布量が3~10g/mになるよう、下地上に塗装し、23℃で7日間乾燥させて試験板を作成した。得られた試験板を垂直にした状態で建物の北面に沿って試料台に取り付け、屋外暴露した。6か月屋外暴露を実施後、藻の発生をマイクロスコープにより確認し、下記の2段階の評価基準に従って評価した。評点Aを合格とした。(下記表1~4 A:藻が生えない B:藻が生える -:分散性試験が評点Cのため評価できず)
【0101】
[評価]
(疎水性シリカ微粒子粉末の配合比 実施例1~5及び比較例1)
表1~4によると、実施例1~5では上記4つの性質について、良好な結果が得られた。比較例1では疎水性シリカ微粒子粉末が塗料液中でうまく分散できず、求める超撥水性塗料組成物は得られなかった。この結果から、塗料組成物中に疎水性シリカ微粒子粉末を分散させるのに適当な配合比は、塗料組成物100質量部中、0質量部を超え8質量部以下であった。
【0102】
(疎水性シリカ微粒子粉末と分散剤の配合比 実施例3、6~9及び比較例2、3)
実施例3、6~9では比較例2、3と比較して、良好な結果が得られた。この結果によると、塗料組成物中に疎水性シリカ微粒子粉末を分散させるのに適当である、疎水性シリカ微粒子粉末と分散剤の質量比は、9:1~1000:1であった。さらに、より好ましくは15:1~1000:1であった。
比較例2、3からは、疎水性シリカ微粒子粉末と分散剤の質量比が6:1と、分散剤が多ければ十分な撥水性が発揮されず、疎水性シリカ微粒子粉末と分散剤の質量比が10:0と、分散剤が含まれていなければ疎水性シリカが塗料組成物中にうまく分散できないことが示された。
【0103】
(疎水性シリカの種類 実施例3、10~12、比較例4)
実施例3、10~12及び比較例4より、M値が小さい(疎水性が低い)ものを配合するほど、撥水性・低汚染性が低下していた。また、実施例3と実施例12を見ると、M値が同一のシリカを用いているにもかかわらず、平均一次粒子径の小さいシリカを用いた実施例3のほうが撥水性・低汚染性が高くなっていた。これは、平均一次粒子径のより小さな疎水シリカ微粒子群が、塗膜表面で広い接触面積にて水滴と接触するため、結果的により大きな撥水性を発揮したものと考えられる。
【0104】
(分散剤の種類 実施例3、13~15、比較例5)
実施例3、13~15に係り、分散剤の種類を変更しても、疎水性シリカ微粒子粉末の水溶媒中の分散性に有意な差は見られなかった。これは、分散剤が構造中に疎水部と親水部を持つものであり、かつ、水と混合すると保護コロイドを形成するものであれば、セルロース誘導体系、ポリアクリル酸系、多糖類系、ポリビニル系、界面活性剤等の多様な物質を用いることができることを示唆している。さらにこれら分散体を基材に塗布すると、セルロース誘導体系、ポリアクリル酸系、多糖類系、ポリビニル系の分散剤はこれら水溶性高分子がバインダーとして機能するため疎水性シリカ微粒子粉末が基材に固定化でき、分散体を塗布した面に超撥水性、低汚染性、防藻・防カビ性が発現する。一方、比較例5に係る界面活性剤は水溶性高分子由来の保護コロイドを形成しないため、分散体を基材に塗布しても疎水性シリカ微粒子粉末が基材に固定されず粉化して飛散するため超撥水性などの機能が発現しない。
【0105】
(化合物(D)の種類 実施例16~19)
実施例16~19では、水溶解度の大きい種々の化合物(D)を配合した。いずれの例においても、実施例3と比較して、水性塗料組成物の液中での疎水性シリカ微粒子粉末の分散性がさらに向上していた。化合物(D)の添加により、溶媒内で分散剤や水分子との会合が起こった結果、疎水シリカ微粒子の凝集を妨げ、分散体の安定性が向上したためと考えられる。
【0106】
(樹脂組成物の種類及び配合比 実施例20~23、比較例6)
実施例20~23及び比較例6ではいずれも、樹脂組成物を配合することにより、塗料組成物中の疎水シリカ微粒子の分散性が向上していた。また、実施例20~22においては、用いた樹脂の種類にかかわらず、低汚染性が向上していた。樹脂の添加により塗膜の耐久性が向上しただけでなく、疎水シリカ微粒子の分散体が安定したため、疎水シリカ微粒子が塗膜表面により均一に配置され、優れた低汚染性を発揮したものと考えられる。
さらに、実施例23及び比較例6を見れば、樹脂組成物の配合比が大きくなると、撥水性・低汚染性・防藻性が低下することがわかる。これは、塗料組成物中の樹脂組成物の割合が大きくなりすぎると、粘性及び硬度の高い樹脂組成物に疎水シリカ微粒子がコーティングされ、塗膜表面に露出しないため、撥水性を発揮できなくなるためと考えられる。
【0107】
(有機溶剤への疎水性シリカの分散 比較例7)
比較例7においては、溶媒(C)がブチルセロソルブであり水主体ではない。
【0108】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】