(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】無停電電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 9/06 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
H02J9/06 120
(21)【出願番号】P 2018138381
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000110778
【氏名又は名称】ニシム電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】土本 和秀
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 俊郎
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-259567(JP,A)
【文献】特開平08-065917(JP,A)
【文献】特開2017-028789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流入力と交流出力との間の給電ラインに接続され、前記交流入力の電圧値に応じてオン/オフを切り替えるサイリスタを用いた給電スイッチと、
前記給電スイッチに交流側が直列接続される直列電力変換手段と、
前記交流出力に交流側が並列接続される並列電力変換手段と、
前記直列電力変換手段の直列側、及び前記並列電力変換手段の直列側に接続される蓄電手段と、
前記直列電力変換手段及び前記並列電力変換手段の間に直列に接続されるリアクトルとを備え、
前記並列電力変換手段が、前記交流出力の電圧の位相を前記交流入力の電圧の位相と同期させつつ、当該交流出力の電圧値を予め設定された所定値に維持して出力し、前記直列電力変換手段が、前記直列電力変換手段と前記リアクトルとの間の制御電圧が前記所定値となるように、当該直列電力変換手段の出力電圧の位相及び振幅を調整することを特徴とする無停電電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無停電電源装置において、
前記給電スイッチと前記直列電力変換手段との間に直列に接続されるLCフィルタからなる第1フィルタと、
前記交流出力と前記並列電力変換手段との間に並列に接続されるLCフィルタからなる第2フィルタとを備える無停電電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無停電電源装置において、
前記直列電力変換手段が、前記制御電圧の位相を前記交流入力の電圧の位相よりも進む方向に位相調整して、当該制御電
圧を前記所定値とする無停電電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載の無停電電源装置において、
前記直列電力変換手段が、前記蓄電手段への充電電力を前記制御電圧の位相の進み具合を調整して制御する無停電電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健全時には安定した電力を供給しつつ、異常が発生した場合には蓄電手段の電力を負荷に供給する無停電電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力電圧に異常が発生した場合に、無停電で電力供給を維持する技術として、例えば特許文献1ないし3に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、入力商用電源電圧変動範囲が所定値以内の運転モードで、前記電力貯蔵手段の電圧が予め設定した値よりも高くなった条件で、一時的に直列補償用の直列コンバータ(第1のDC/AC変換器)の動作を休止させ、電力貯蔵手段からの電力で並列コンバータ(第2のDC/AC変換器)を介して負荷に電力を供給するものである。
【0003】
特許文献2に示す技術は、交流電源と負荷との間に切り離しスイッチを設け、切り離しスイッチと負荷との間に負荷と並列に変圧器の一次側を接続し、その二次側に、交流電源の健全時には入力される交流電圧から交流電源の実出力電圧VRELと負荷に供給すべき規定電圧V*との差である交流の補正電圧ΔVを出力し、停電時には昇降圧部で昇圧された蓄電手段の蓄電電圧を交流電力に変換して変圧器の二次側に印加する変換器を接続し、変換器の容量は、交流電源の出力電圧変動分相当を満足すればよいから、定常運転時の変換器の損失低減を図ることができるものである。
【0004】
特許文献3に示す技術は、交流電源と負荷3の間に波形改善及び力率改善を行うための第1の変換器と電圧調整のための第2の変換器とを接続し、第1の変換器と第2の変換器とで共用するコンデンサ及び蓄電池を設け、電源が正常の時には、第1の変換器によって波形改善及び力率改善の補償電流を流すと共にコンデンサと蓄電池を定電圧に充電し、電源が停電した時には、コンデンサ及び蓄電池の直流電圧を第1の変換器で交流に変換して負荷に供給し、第2の変換器はコンデンサ及び蓄電池の直流電圧を交流電圧に変換し、負荷電圧を調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4304519号
【文献】特許第4389387号
【文献】特許第3082849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び3に示す技術において、交流入力の電圧が正常範囲にない場合には、スイッチをオフにして並列電力変換器がバックアップ運転を行うが、正常範囲にないことを検出する時間と並列電力変換器が電流制御モードから電圧制御モードへ切り替わる時間を要するため、負荷に対して瞬断を発生させる場合がある。
【0007】
また、特許文献1ないし3に示す技術は、いずれもトランスを用いた回路構成になっていることから装置が大型化してしまう。さらに、典型的にはトランスの容量は定格出力容量の15%程度であり、電力変換器側のトランス巻線定格が100Vであるとすれば、商用ライン側のトランス巻線定格は15V程度となり、交流入力の電圧と電流との極性が異なっている期間に交流入力側で短絡が発生した場合には、トランスの15V巻線に並列電力変換器の交流出力電圧が印加され、その出力電圧が100Vである場合にはトランスが飽和し、スイッチがオフするまでの間、交流入力側へ過電流が流れ、最大で1/2サイクルの瞬断が発生し、負荷によっては停止する可能性がある。
【0008】
さらに、商用ラインをオン/オフするスイッチとして、瞬時過電流耐量が大きく堅牢であることからサイリスタスイッチが一般的に利用されているが、非自己消弧素子であるため、オフ信号を与えてもサイリスタ本体を流れる電流が保持電流以下にならないと完全にオフしない。すなわち、保持電流以下になるまではスイッチが切れずに過電流が流れてしまい、瞬断が生じる可能性がある。
【0009】
なお、引用文献1においては、アクティブフィルタ動作により力率を改善する動作を行うとしているが、力率を完全に1にすることは困難であり、入力の電圧と電流とのゼロクロス付近は、それぞれの極性が異なっている期間が必ず存在してしまう。
【0010】
本発明は、トランスなどの大型装置を用いることなく、電圧の位相調整により停電や瞬低などの異常が発生した場合であっても瞬断することなく負荷に電力を供給する無停電電源装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る無停電電源装置は、交流入力と交流出力との間の給電ラインに接続され、前記交流入力の電圧値に応じてオン/オフを切り替えるサイリスタを用いた給電スイッチと、前記給電スイッチに交流側が直列接続される直列電力変換手段と、前記交流出力に交流側が並列接続される並列電力変換手段と、前記直列電力変換手段の直列側、及び前記並列電力変換手段の直列側に接続される蓄電手段と、前記直列電力変換手段及び前記並列電力変換手段の間に直列に接続されるリアクトルとを備え、前記並列電力変換手段が、前記交流出力の電圧の位相を前記交流入力の電圧の位相と同期させつつ、当該交流出力の電圧値を予め設定された所定値に維持して出力し、前記直列電力変換手段が、前記直列電力変換手段と前記リアクトルとの間の制御電圧が前記所定値となるように、当該直列電力変換手段の出力電圧の位相及び振幅を調整するものである。
【0012】
このように、本発明に係る無停電電源装置においては、交流入力と交流出力との間の給電ラインに接続され、前記交流入力の電圧値に応じてオン/オフを切り替えるサイリスタを用いた給電スイッチと、前記給電スイッチに交流側が直列接続される直列電力変換手段と、前記交流出力に交流側が並列接続される並列電力変換手段と、前記直列電力変換手段の直列側、及び前記並列電力変換手段の直列側に接続される蓄電手段と、前記直列電力変換手段及び前記並列電力変換手段の間に直列に接続されるリアクトルとを備え、前記並列電力変換手段が、前記交流出力の電圧の位相を前記交流入力の電圧の位相と同期させつつ、当該交流出力の電圧値を予め設定された所定値に維持して出力し、前記直列電力変換手段が、前記直列電力変換手段と前記リアクトルとの間の制御電圧が前記所定値となるように、当該直列電力変換手段の出力電圧の位相及び振幅を調整するため、トランスなどの大型部品を必要とせずに回路構成を簡素化しつつ、異常が発生した場合であっても瞬断を確実に防止することができる高性能な無停電電源装置を実現することができるという効果を奏する。
【0013】
特に、交流入力の電圧と電流との極性が異なっている期間において、短絡停電が発生した場合、直列電力変換手段が交流入力に直列に接続され、リアクトルの両端に印加される電圧が等しくなるように直列電力変換手段が制御することで、並列電力変換手段のバックアップ運転切り替え時に発生する過電流がほとんど流れることなく、また、これに伴う出力電圧の低下が発生しないため、完全な無瞬断でバックアップ運転に切り替えることができるという効果を奏する。
【0014】
また、リアクトルの値は蓄電手段の充電電力を制御できる範囲であればよく、交流入力と交流出力とが位相差を生じる程度で良いため、リアクトルを小型化し損失も少なくて済み、高効率な装置を実現することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る無停電電源装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】2つの電源がリアクトルを介して結合している場合を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る無停電電源装置の入力交流電圧が正常範囲にある場合のパワーフローを示す図である。
【
図4】交流入力電圧等の各電圧のベクトル関係図である。
【
図5】第1の実施形態に係る無停電電源装置の入力交流電圧が正常範囲にない場合のパワーフローを示す図である。
【
図6】並列電力変換器から交流入力側へ発生する過電流を示す図である。
【
図7】第1の実施形態に係る無停電電源装置の制御ブロック図である。
【
図8】第1の実施形態に係る無停電電源装置における直列電力変換器制御部の制御ブロック図である。
【
図9】第1の実施形態に係る無停電電源装置における並列電力変換器制御部の正常状態における制御ブロック図である。
【
図10】第1の実施形態に係る無停電電源装置における並列電力変換器制御部の異常状態における制御ブロック図である。
【
図11】第1の実施形態に係る無停電電源装置における電力変換器の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0017】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る無停電電源装置について、
図1ないし
図10を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る無停電電源装置の構成を示す機能ブロック図である。無停電電源装置1は、交流入力側の入力端子2a,2bに接続する交流電源2と、交流出力側の出力端子3a,3bに接続する負荷3と、交流電源2及び負荷3の間に接続され、当該接続のオン/オフを入力電圧に応じて切り替えるサイリスタを用いた給電スイッチ4と、給電スイッチ4に直列に接続される第1フィルタ回路5と、当該第1フィルタ回路5に交流側が接続される直列電力変換器6と、交流出力側の負荷3に並列に接続される第2フィルタ回路7と、当該第2フィルタ回路7に交流側が接続される並列電力変換器8と、直列電力変換器6の直列側端子及び並列電力変換器8の直列側端子のそれぞれに接続される蓄電池9と、第1フィルタ回路5及び第2フィルタ回路7の間に直列に接続されるリアクトル10とを備える。
【0018】
商用電源としての交流電源2が供給する交流入力電圧(Vi)は、交流入力電圧検出部(
図1においては図示しない)が常時検出しており、電圧が正常範囲(例えば、周波数50Hz又は60Hzで電圧が90V~110Vの範囲)にある場合には、給電スイッチ4がオン状態になっており、並列電力変換器8は、負荷3への交流出力の電圧の位相が交流電源2と同相となるように同期させつつ、一定の出力電圧(例えば、100V)を負荷3に出力するように制御する(Vo)。
【0019】
交流電源2の電圧が変動した場合には、直列電力変換器6が、第1フィルタ回路5とリアクトル10との間の相電圧(Vst)の実効値が交流出力電圧(Vo)と同値となるように、第1フィルタ回路5の出力電圧(Vc)を交流入力電圧(Vi)にベクトル的に加減算する。この加減算によりVstとVoが同値となることで交流電源2と並列電力変換器8との間に発生する循環無効電流を抑制する。また、このベクトル演算において、第1フィルタ回路5の出力電圧Vcの位相を相電圧Vstの位相が交流出力電圧Voの位相よりも進むように加減算することで、交流入力の電力をリアクトル10、第2フィルタ回路7及び並列電力変換器8を介して直流電力に変換して蓄電池9を定電流・定電圧制御で充電する。このベクトル演算による処理動作については、詳細を後述する。
【0020】
交流入力電圧Viが正常の範囲にない場合(例えば、電圧が90V未満、110Vよりも大きくなった場合)は、交流入力電圧検出部(
図1においては図示しない)が異常状態を検出し給電スイッチ4にオフ信号を与える。無停電電源装置1は、異常状態においては、蓄電池9の電力を負荷3に供給するように動作する。このとき、並列電力変換器8が、上記と同様に交流出力電圧Voが一定の出力電圧(例えば、100V)となるように出力制御されることで、負荷3に対して異常状態になる前と同様の電力を継続して供給することが可能となる。
【0021】
正常状態から異常状態に遷移する際に、上述したように給電スイッチ4にオフ信号を与えるが、サイリスタを用いた給電スイッチ4の本体が実質的にオフとなり、保持電流以下になるまでに所定の期間が生じる場合がある。従来は、その期間に過電流が流れてしまい、瞬断が生じる可能性があった。しかしながら、本実施形態においては、給電スイッチ4にオフ信号を与えてから、給電スイッチ4の本体が実質的にオフとなるまでの期間に、リアクトル10の両端の電圧値が0、すなわち、Vst=Voとなるように直列電力変換器6が電圧Vcを制御することで、交流出力に流れる過電流を抑制し、蓄電池9の電力を並列電力変換器8によって定格の交流電圧を一定に制御しながら完全な無瞬断で負荷3への電力を供給することが可能となる。
【0022】
ここで、直列電力変換器6の機能及びベクトル演算による処理動作について、詳細に説明する。まず、2つの電源がリアクトルLを介して結合している場合の両電源間における有効電力及び無効電力について、
図2を用いて説明する。
図2(A)の回路において、有効電力P(W)は、ViとVoの位相差をθとすると、次式で表せる。
【0023】
【0024】
また、無効電力P(var)は次式で表せる。
【0025】
【0026】
図2(B)に示すように、位相が一致している場合は位相差θがゼロであり、(1)式よりVi及びVo間には有効電力は流れない。また、電圧値も一致している場合は、(2)式より無効電力も流れない。
図2(C)に示すように、ViがVoよりも位相が進んでいる場合は、(1)式よりViからVoへ有効電力が流れる。
図2(D)に示すように、ViがVoよりも電圧値が高い場合は、(2)式よりViからVoへ無効電力が流れる。なお、
図2(C)において、逆にVoがViよりも位相が進んでいる場合は、(1)式よりVoからViへ有効電力が流れる。また、
図2(D)において、逆にVoがViよりも電圧値が高い場合は、(2)式よりVoからViへ無効電力が流れる。上記(1)式及び(2)式は、それぞれに絡み合っているが、実際の装置の動作として位相差の最大制御値は10度程度であることから、本実施形態においては、上記2つの式はそれぞれ独立しているものとして取り扱う。
【0027】
上記(1)式及び(2)式を前提として、交流入力電圧Viが正常範囲にある場合の演算及び処理動作について説明する。
図3は、本実施形態に係る無停電電源装置の入力交流電圧が正常範囲にある場合のパワーフローを示す図である。並列電力変換器8は、当該並列電力変換器8の交流出力電圧Voが交流入力電圧Viと同期し、位相も一致するように制御する。このとき、Voの値は定格値(ここでは、100Vとする)となるように定電圧制御モードで動作する。一方、直列電力変換器6は、交流入力電圧Viが正常範囲で変動(例えば、90V~110V)した場合であっても、第1フィルタ回路5とリアクトル10との間の相電圧Vstが100Vで一定となるように、直列電力変換器6の出力電圧Vcを電圧制御する。すなわち、Vi+Vc=Vst=100Vとなるように電圧制御する。このとき、直列電力変換器6は、単純に出力電圧Vcを交流入力電圧Viに加算するのではなく、位相をずらしてベクトル的に演算を行う。つまり、相電圧Vstの位相がVoの位相よりも進むようにVcを制御することで、電力は位相が進んでいる側から遅れている側に強制的に流れ込み、並列電力変換器8を通って蓄電池9に充電される。
【0028】
図4は、Vo、Vi、Vst及びVcのベクトルの関係を示す図である。
図4(A)は蓄電池9への充電電力が小さくなる場合、
図4(B)は蓄電池9への充電電力が大きくなる場合のベクトルの関係を示している。
図4において、交流入力電圧Viと交流出力電圧Voとは位相が一致しているため、ベクトルの方向も一致している。交流出力電圧Voは、並列電力変換器8により100Vで一定となっているのに対して、交流入力電圧Viは正常範囲で変動がある。
図4において、例えば100Vよりも小さくなった場合のベクトル(スカラー値として)が示されている。
【0029】
直流電力変換器6は、VstがVoと同値(100Vで一定)となるようにVcを制御する。このとき、充電電力の設定に応じてθ、すなわち位相の進み具合が制御される。θが大きいほど、蓄電池9に充電される充電電力が大きくなり、θの大きさで充電電力量を調整することができる。なお、負荷3にはVoが印加されるため、並列電力変換器8により蓄電池9の電力が使用され蓄電池量が減少していくが、蓄電池量が減少すると交流入力側から充電電力が蓄電池9に流れ込むため、結果的に負荷3への電力は交流入力側から供給されることになる。
【0030】
また、交流入力電圧Viが仮に100Vで一定である場合であっても、直列電力変換器6は、蓄電池9を充電するためにベクトル的に電圧を加算する必要がある。VstとVoに位相差が発生しなければ、交流入力側からの有効電力の流れ込みは発生しない。上記(1)式より、θ=0であれば有効電力Pが生じない。したがって、この場合、負荷3への電力は並列電力変換器8から蓄電池9の電力で賄われ、蓄電池9への充電が行われずに放電する一方となる。つまり、交流入力電圧Viが100Vで交流出力電圧Voと一致している場合であっても、θを変化させて蓄電池9への充電動作を行う必要がある。
【0031】
仮に、交流入力電圧Viが100V以外のときに、直列電力変換器6がVcを調整してベクトル的な演算を行わなかった場合、Vi=Vstとなり、Voは並列電力変換器8の出力電圧である100Vであるため、Vi及びVstとVoとの間に電位差が生じ、回路に循環無効電流が流れ、回路損失が大きくなってしまう。また、並列電力変換器8の出力電圧であるVoは、交流入力電圧Viに同期しており、位相も一致しているため(θ=0)、負荷3の電力は交流入力側から供給されず、並列電力変換器8から供給され、蓄電池9が放電する一方となってしまう。
【0032】
なお、
図4においては、Vi<Voの状態におけるVcのベクトル演算(加算)を示しているが、Vi>Voの状態においては、Vcをベクトル減算することでVstとVoとを同値にする演算が行われる。
【0033】
このように、直列電力変換器6が、リアクトル10の前段の電圧Vstを交流出力電圧Voに対して電圧値と位相を制御することで、回路に流れる循環無効電流をなくして回路損失を低減すると共に、蓄電池9への充電を確実に行うことが可能となる。
【0034】
次に、交流入力電圧Viが正常範囲にない場合の演算及び処理動作について説明する。
図5は、本実施形態に係る無停電電源装置の入力交流電圧が正常範囲にない場合のパワーフローを示す図である。短絡事故などの発生により交流入力電圧Viが正常範囲にない場合(例えば、Vi<90V又はVi>110V)は、給電スイッチ4をオフにし、直列電力変換器6を停止する。並列電力変換器8は、交流入力電圧Viとの同期を辞めて自走周波数(60Hz又は50Hz固定)で動作する。負荷3への電力供給は、並列電力変換器8が蓄電池9の電力を使用して行われる。このときの電圧及び電流の経路は、
図5に示す通りとなる。
【0035】
正常状態から異常状態への切り替えの際に、上述したように給電スイッチ4をオフにするが、サイリスタを使用した給電スイッチ4は、非自己消弧素子であるため、オフ信号を与えても素子本体を流れる電流がゼロにならない限り、実際には導通状態が維持されたままになってしまう。このとき、仮に、上述したような直列電力変換器6を備えていない回路であったり、Vst=Voとなる制御を行わない回路である場合は、入力短絡停電が発生すると、
図6に示すように並列電力変換器8から交流入力側へ短絡箇所を通って過電流が発生する。そして、過電流がゼロになると(ゼロクロスすると)、ようやくサイリスタがオフとなり過電流も流れなくなり、負荷3に電力を供給できるようになる。つまり、過電流が発生している間は負荷3に電力が供給されず、瞬断が発生してしまうことになる。
【0036】
このような問題に対して、本実施形態においては、直列電力変換器6が|Vst|=|Vo|となる制御を常時行っており、また、交流入力から負荷3へ電力を供給するようにVstの位相を進める制御も行っているため、サイリスタを使用した給電スイッチ4がオフするまでの間は、入力側に過電流が流れることはない。したがって、負荷3へのバックアップ運転の切り替えを完全なる無瞬断で行うことが可能となる。
【0037】
次に、本実施形態に係る無停電電源装置の制御について、より詳細に説明する。
図7は、本実施形態に係る無停電電源装置の制御ブロック図である。無停電電源装置1は、
図1で示した回路構成に対して、交流入力電圧Viを検出する交流入力電圧検出器61と、蓄電池9の直流電流を検出する直流電流検出器62と、蓄電池9の直流電圧を検出する直流電圧検出器63と、第1フィルタ回路5とリアクトル10との間の相電圧を検出する制御電圧検出器64と、交流出力電圧Voを検出する交流出力電圧検出器65と、交流入力電圧Vi、蓄電池9の充電電流Idc、蓄電池9の充電電圧Vdc、制御電圧Vst及び交流出力電圧Voに基づいて直列電力変換器6を制御する直列電力変換器制御部66と、交流入力電圧Vi及び交流出力電圧Voに基づいて並列電力変換器8を制御する並列電力変換器制御部67とを備える。
【0038】
上述したように、直列電力変換器制御部66及び並列電力変換器制御部67が、それぞれ直列電力変換器6及び並列電力変換器8の動作を制御することで、交流入力電圧Viが正常範囲にある場合の交流入力電圧Viの変動に応じた負荷3への安定的な電力供給や、交流入力電圧Viが正常範囲にない場合の負荷3への安定的な電力供給を実現することが可能となっている。また、併せて、交流入力電圧Viが正常状態から異常状態に遷移する際には、直列電力変換器制御部66及び並列電力変換器制御部67の制御動作により、無瞬断での動作切り替えを可能としている。
【0039】
図8は、本実施形態に係る無停電電源装置における直列電力変換器制御部の制御ブロック図である。直列電力変換器6は、上述したように、蓄電池9に対して定電流及び定電圧充電制御を行う。PLLにおいて、交流入力電圧Viと同期した基準正弦波に、蓄電池9への充電量に応じた位相スライド指示値を与えることによって、交流入力電圧Viに対して直列電力変換器6が同期を取りながら制御電圧Vstの位相を調整し、蓄電池9への充電電力を制御する。この位相調整によって、交流入力側の電力は、リアクトル10、第2フィルタ回路7及び並列電力変換器8を介して直流電力に変換されて蓄電池9へ充電される。
【0040】
位相調整を行う際の位相スライド指示値は、直流電流検出器62で検出された直流電流Idcと充電電流指示値Idcrefとの差分を増幅した第1の値と、直流電圧検出器63で検出された直流電圧Vdcと充電電圧指示値Vdcrefとの差分を増幅した第2の値とをORで構成し、蓄電池9の直流電圧Vdcが充電電圧指示値Vdcrefよりも低く、蓄電池9に流れる直流電流が大きい場合は第1の値が選択され、蓄電池9の直流電圧Vdcが充電電圧指示値Vdcrefよりも高く、蓄電池9に流れる直流電流が小さい場合は第2の値が選択されて、位相スライド指示値が決定する。
【0041】
次に、直列電力変換器6は、制御電圧検出器64で検出された相電圧Vstの実効値が交流出力電圧Voの実効値となるように、交流出力電圧Voの実効値(1)と交流入力電圧Viに同期した基準正弦波(2)とを乗算器で乗算した波形と、制御電圧検出器64が検出する制御電圧Vstとの差分を増幅し、PWM制御部においてパルス変調信号を生成し、直列電力変換器6を駆動する。すなわち、交流入力電圧Viが正常範囲にある場合は、交流出力電圧Voの変動に対して制御電圧Vstが追従するため、交流入力電圧Viと交流出力電圧Voとの電圧差により生じてしまう並列電力変換器8から交流入力側への過電流を防止することができる。また、交流入力電圧Viの異常によりバックアップ運転となる場合は、給電スイッチ4が実質的に停止するまでは直列電力変換器6により過電流が流れることを防止し、切り替えの際に生じる瞬断を完全に無くすことができる。
【0042】
図9は、本実施形態に係る無停電電源装置における並列電力変換器制御部の正常状態における制御ブロック図である。並列電力変換器8は、交流入力電圧Viが正常範囲にある場合は、PLLにおいて交流入力電圧Viの位相と同期した基準正弦波に出力電圧振幅指示値(例えば、100Vの指示値)を乗算した値で一定となるように交流出力電圧Voをフィードバック制御する。
【0043】
図10は、本実施形態に係る無停電電源装置における並列電力変換器制御部の異常状態における制御ブロック図である。交流入力電圧Viが異常範囲になると、給電スイッチ4のサイリスタをオフし、並列電力変換器8は充電動作からバックアップ動作に切り替えられる。このとき、並列電力変換器8の交流出力電圧Voは、基準正弦波と交流出力電圧振幅指示値を乗算した値となるようにフィードバック制御される。
【0044】
なお、本実施形態においては、直列電力変換器6及び並列電力変換器8をフルブリッジ回路で記載したが、フルブリッジ回路に限らず、
図11に示すようなハーフブリッジ回路としてもよい。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る無停電電源装置においては、交流入力電圧と電流との極性がことなっている期間において短絡停電が発生し、バックアップ動作に切り替わる際に、直列電力変換器がリアクトルの両端に印加される電圧がゼロとなるように制御することで、過電流が流れることを防止し、これに伴う出力電圧の低下を無くして完全な無瞬断で切り替え動作を行うことが可能になる。
【0046】
また、リアクトルの値は、蓄電池の充電電力を制御できる範囲であればよく、すなわち交流入力電圧と交流出力電圧とが電位差を発生できる範囲であればいいため、リアクトルを小型化し、損失を小さくして装置を高効率化することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 無停電電源装置
2 交流電源
2a,2b 入力端子
3 負荷
3a,3b 出力端子
4 給電スイッチ
5 第1フィルタ回路
6 直列電力変換器
7 第2フィルタ回路
8 並列電力変換器
9 蓄電池
10 リアクトル
61 交流入力電圧検出器
62 直流電流検出器
63 直流電圧検出器
64 制御電圧検出器
65 交流出力電圧検出器
66 直列電力変換器制御部
67 並列電力変換器制御部