(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】半導体装置、容量センシングシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20220825BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20220825BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20220825BHJP
G01D 5/241 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
G06F3/041 512
G06F3/041 580
G06F3/044 Z
G01B7/00 102C
G01D5/241 D
G06F3/041 522
(21)【出願番号】P 2018150310
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502161508
【氏名又は名称】シナプティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】楊 学雍
(72)【発明者】
【氏名】種村 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸和
(72)【発明者】
【氏名】能登 隆行
【審査官】菅原 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-072928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0063993(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0188105(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0282996(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0113534(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0204046(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
G01B 7/00
G01D 5/241
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検出電極から複数の検出信号を取得し、複数の第1搬送波を前記複数の検出信号で変調することで複数の第1ミキサ出力信号を生成し、前記複数の第1ミキサ出力信号を結合するように構成された検出回路部と、
結合された前記複数の第1ミキサ出力信号に基づいてノイズを検出するように構成された処理回路部と、
を備える
半導体装置。
【請求項2】
前記複数の検出信号が、前記複数の検出電極のうちの第1検出電極に対応する第1検出信号を備え、
前記複数の第1搬送波を変調することが、前記複数の検出信号を得るために前記複数の検出電極に印加される駆動信号の第1バーストの間に前記複数の第1搬送波のうちの第1の搬送波を前記第1検出信号で変調することを含み、
前記第1の搬送波が前記駆動信号と位相が異なっている、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数の検出信号が、更に、前記複数の検出電極のうちの第2検出電極に対応する第2検出信号を備え、
前記複数の第1搬送波を変調することは、前記第1バーストの間に、前記複数の第1搬送波のうちの第2の搬送波を前記第2検出信号で変調することを含む
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記検出回路部が、更に、
前記駆動信号の第2バーストの間に複数の第2搬送波のうちの第3の搬送波を前記第1検出信号で変調し、前記第2バーストの間に前記複数の第2搬送波のうちの第4の搬送波を前記第2検出信号で変調することによって複数の第2ミキサ出力信号を生成するように構成された
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第4の搬送波は、前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と第1の量だけ位相が異なっている、
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2の搬送波は、前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と前記第1の量だけ位相が異なっている、
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記検出回路部は、更に、前記複数の第2ミキサ出力信号を結合するように構成されており、
前記処理回路部は、更に、結合された前記複数の第2ミキサ出力信号に基づいて物体を検出するように構成された
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1の搬送波の位相は、前記駆動信号の位相から第3の量又は第4の量だけずれている
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記処理回路部は、
結合された前記第1ミキサ出力信号を復調するように構成されたデジタル復調器と、
前記デジタル復調器の出力に基づいて第1デジタル出力を生成するように構成されたデコーダと、
を備える
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
複数の検出電極と、
前記複数の検出電極から複数の検出信号を取得し、複数の第1搬送波を前記複数の検出信号で変調することで複数の第1ミキサ出力信号を生成し、前記複数の第1ミキサ出力信号を結合するように構成された検出回路部と、
結合された前記複数の第1ミキサ出力信号に基づいてノイズを検出するように構成された処理回路部と、
を備える
容量センシングシステム。
【請求項11】
前記複数の検出信号が、前記複数の検出電極のうちの第1検出電極に対応する第1検出信号を備え、
前記複数の第1搬送波を変調することが、前記複数の検出信号を得るために前記複数の検出電極に印加される駆動信号の第1バーストの間に前記複数の第1搬送波のうちの第1の搬送波を前記第1検出信号で変調することを含み、
前記第1の搬送波が前記駆動信号と位相が異なっている、
請求項10に記載の容量センシングシステム。
【請求項12】
前記複数の検出信号が、更に、前記複数の検出電極のうちの第2検出電極に対応する第2検出信号を備え、
前記複数の第1搬送波を変調することは、前記第1バーストの間に、前記複数の第1搬送波のうちの第2の搬送波を前記第2検出信号で変調することを含む
請求項11に記載の容量センシングシステム。
【請求項13】
前記検出回路部が、更に、
前記駆動信号の第2バーストの間に複数の第2搬送波のうちの第3の搬送波を前記第1検出信号で変調し、前記第2バーストの間に前記複数の第2搬送波のうちの第4の搬送波を前記第2検出信号で変調することによって複数の第2ミキサ出力信号を生成し、前記複数の第2ミキサ出力信号を結合するように構成され、
前記処理回路部は、更に、結合された前記複数の第2ミキサ出力信号に基づいて物体を検出するように構成された
請求項12に記載の容量センシングシステム。
【請求項14】
前記第2の搬送波は、前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と第1の量だけ位相が異なっており、
前記第4の搬送波は、前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と前記第1の量だけ位相が異なっている、
請求項13に記載の容量センシングシステム。
【請求項15】
前記第1の搬送波の位相は、前記駆動信号の位相から第3の量又は第4の量だけずれており、
前記第2の搬送波の位相は、前記駆動信号の位相から前記第3の量又は前記第4の量だけずれている
請求項12に記載の容量センシングシステム。
【請求項16】
複数の検出電極から複数の検出信号を取得することと、
複数の第1搬送波を前記複数の検出信号で変調することで複数の第1ミキサ出力信号を生成することと、
前記複数の第1ミキサ出力信号を結合することと、
結合された前記複数の第1ミキサ出力信号に基づいてノイズを検出することと、
を含む
容量センシングのための方法。
【請求項17】
前記複数の検出信号が、
前記複数の検出電極のうちの第1検出電極に対応する第1検出信号と、
前記複数の検出電極のうちの第2検出電極に対応する第2検出信号と、
を備え、
前記複数の第1搬送波を変調することが、
前記複数の検出電極に印加される駆動信号の第1バーストの間に前記複数の第1搬送波のうちの第1の搬送波を前記第1検出信号で変調することと、
前記第1バーストの間に、前記複数の第1搬送波のうちの第2の搬送波を前記第2検出信号で変調することと、
を含む
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
更に、
前記駆動信号の第2バーストの間に複数の第2搬送波のうちの第3の搬送波を前記第1検出信号で変調し、前記第2バーストの間に前記複数の第2搬送波のうちの第4の搬送波を前記第2検出信号で変調することによって複数の第2ミキサ出力信号を生成することを含み、
前記第3の搬送波は前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と第1の量だけ位相が異なっている
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の搬送波の位相は、前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と前記第1の量だけ位相が異なっており、
前記第4の搬送波の位相は、前記駆動信号と同相であるか、前記駆動信号と前記第1の量だけ位相が異なっている
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
更に、
前記複数の第2ミキサ出力信号を結合することと、
結合された前記複数の第2ミキサ出力信号に基づいて物体を検出することと、
を含む
請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、容量センシング(capacitive sensing)を行うための半導体装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容量センシングは、ユーザの指及びスタイラスのような物体の、タッチパネルのような入力デバイスへの接近又は接触を検出する近接検出(proximity sensing)のために用いられる。容量センシングにおいては、偽の動き(motion artifact)が検出されることがあり、容量センシングを行うシステムは、偽の動きの検出を抑制するように設計される。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態では、半導体装置が、2N個のバースト(ただし、Nは、2以上の整数)を含むセンシングフレームの間、センサアレイに駆動信号を供給するドライバ回路部と、センサアレイの2N-1個又は2N個の検出電極の静電容量にそれぞれに依存する複数の検出信号を変調して複数のミキサ出力を生成するように構成されたミキサ回路部と、複数のミキサ出力の和信号に対してアナログ-デジタル変換を行うADコンバータと、ADコンバータの出力に基づいて、センシングフレームにおけるセンサアレイへの物体の近接検出を行うように構成された処理回路部とを備えている。複数の検出信号のそれぞれが、2N個のバーストのうちの複数の第1バーストにおいて、駆動信号と同相の第1搬送波又は第1搬送波と位相がπだけずれた第2搬送波で変調される。
【0004】
他の実施形態では、方法が、2N個のバースト(ただし、Nは、2以上の整数)を含むセンシングフレームの間、センサアレイに駆動信号を供給することと、センサアレイの2N-1個又は2N個の検出電極の静電容量にそれぞれに依存する複数の検出信号を変調して複数のミキサ出力を生成することと、複数のミキサ出力の和信号に対してアナログ-デジタル変換を行ってデジタルデータストリームを生成することと、デジタルデータストリームに基づいて、センシングフレームにおけるセンサアレイへの物体の近接検出を行うこととを含む。複数の検出信号のそれぞれは、2N個のバーストのうちの複数の第1バーストにおいて、駆動信号と同相の第1搬送波又は第1搬送波と位相がπだけずれた第2搬送波で変調される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】一実施形態における容量センシングシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態における容量センシング回路部の構成を示す回路図である。
【
図3】一実施形態における容量センシングシステムの動作を示している。
【
図4】一実施形態における容量センシング回路部の構成を示す回路図である。
【
図5】
図4に示す容量センシング回路部の動作を示す回路図である。
【
図6】
図4に示す容量センシング回路部の動作を示す回路図である。
【
図7】
図4に示す容量センシング回路部の動作を示す回路図である。
【
図8】
図4に示す容量センシング回路部の動作を示す回路図である。
【
図9】他の実施形態における容量センシングシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下では、本開示の実施形態を説明する。以下において、同一又は類似の構成要素は、同一又は対応する参照符号で示すことがある。また、同一の構成要素を互いに区別する場合、参照符号に添字が付されることがある。
【0007】
一実施形態では、
図1に示すように、容量センシングシステム100が、センサアレイ1と、半導体装置2とを備えている。
【0008】
センサアレイ1は、行列に配置された検出電極3を備えている。一実施形態では、センサアレイ1は、タッチパネルに集積化されてもよい。他の実施形態では、センサアレイ1は、液晶表示パネルやOLED(organic light emitting diode)表示パネルのような表示パネルに集積化されてもよい。センサアレイ1が、行列に配置された複数の共通電極を備える液晶表示パネルに集積化される場合、該複数の共通電極が、検出電極3として用いられてもよい。各検出電極3は、半導体装置2に接続される。
【0009】
半導体装置2は、容量センシング回路部4と、演算装置5とを備えている。容量センシング回路部4は、検出電極3の静電容量に依存する信号レベルを有する検出信号を取得し、該検出信号に応じたデジタル出力を生成する。演算装置5は、容量センシング回路部4から受け取ったデジタル出力に対し、ユーザの指やスタイラスのような物体のセンサアレイ1への近接検出のための演算処理を行う。本実施形態では、近接検出のための演算処理は、特定の方向、
図1では縦方向に並んだQ個の検出電極3を単位として行われる。ここで、Qは、3以上の整数である。センサアレイ1が表示パネルに集積化される場合、該表示パネルを駆動する表示ドライバ回路部が半導体装置に集積化されてもよい。
【0010】
図2に示すように、容量センシング回路部4は、検出電極3
1~3
Qにそれぞれに接続される入力端子11
1~11
Qと、ドライバ回路部12と、カレントコンベア(current conveyer)回路部13と、エンコーダ回路部14と、ADコンバータ15と、デコーダ回路部16とを備えている。なお、
図2には、容量センシング回路部4のうち、
図1における破線6で囲まれたQ個の検出電極3に関連する部分の構成が示されている。
図2に図示されるQ個の検出電極3は、
図1において縦方向に並んで配置されている。
図2の構成では、Q個の検出電極3に対して1個のADコンバータ15が設けられる。
【0011】
ドライバ回路部12は、入力端子111~11Qにそれぞれに接続されたQ個のドライバ211~21Qを備えている。ドライバ211~21Qは、それぞれ、検出電極31~3Qに駆動信号を供給する。駆動信号としては、周波数fREFの周期信号が用いられる。ドライバ211~21Qは、周波数fREFを有する参照クロック信号CLKREFが供給されており、参照クロック信号CLKREFに同期して駆動信号を生成する。様々な波形の信号が駆動信号として使用可能であり、例えば、正弦波、三角波及び矩形波が駆動信号として用いられ得る。
【0012】
カレントコンベア回路部13は、それぞれ入力端子111~11Qに接続されたカレントコンベア221~22Qを備えている。カレントコンベア221~22Qは、それぞれ、検出電極31~3Qの充放電電流の電流レベルに対応する信号レベルを有する検出信号f1~fQを出力する。検出電極31~3Qに駆動信号が供給されたときに発生する検出電極31~3Qの充放電電流は、検出電極31~3Qの自己容量に依存しているから、検出信号f1~fQは、検出電極31~3Qの自己容量の情報を、周波数fREFを有する周期信号で変調した信号として得られることになる。
【0013】
エンコーダ回路部14は、移相器23と、Q個のミキサ241~24Qとを備えている。移相器23は、参照クロック信号CLKREFに同期して、ミキサ241~24Qに搬送波Mix1~MixQを供給する。ミキサ241~24Qは、それぞれ、検出信号e1~eQを搬送波Mix1~MixQで変調することでミキサ出力g1~gQを生成する。
【0014】
搬送波Mix1~MixQのそれぞれは、信号Φ-π/2、Φ0、Φπ/2、Φπ、のうちから選択される。ここで、信号Φ0は、駆動信号と同相(in-phase)の信号、より厳密には、駆動信号の電流波形と同一の位相を有する周期信号であり、信号Φπは、駆動信号と逆相(opposite phase)の信号である。一方、信号Φπ/2は、それぞれ、信号Φ0から位相がπ/2だけ遅れている周期信号であり、信号Φ-π/2は、信号Φ0から位相が-π/2だけ進んでいる、言い換えれば、信号Φ0から位相が3π/2だけ遅れている周期信号である。
【0015】
ミキサ24
1~24
Qから出力されるミキサ出力g
1~g
Qの和信号が、ADコンバータ15に供給される。ミキサ出力g
1~g
Qが電流信号である場合、ミキサ24
1~24
Qの出力をADコンバータ15の入力に共通に接続し、ミキサ出力g
1~g
Qの加算を、ワイヤドサムによって実現してもよい。
図2には、このような構成が図示されている。
【0016】
検出信号fkの変調に用いられる搬送波Mixkが、信号Φ0またはΦπである場合、ミキサ24kから出力されるミキサ出力gkは、近接検出に有効な信号成分の情報を有している。一方、搬送波Mixkが信号Φπ/2またはΦ-π/2である場合、ミキサ出力gkは、ノイズ成分の情報を有している。搬送波Mixkが信号Φπ/2またはΦ-π/2である場合、ミキサ出力gkの信号レベルは、本来はゼロであることが期待される。逆にいえば、ミキサ出力gkの信号レベルがゼロでない場合、検出信号ekがノイズの影響を受けているということができる。一実施形態では、搬送波Mixkが信号Φπ/2またはΦ-π/2である場合のミキサ出力gkが、ノイズ検出に用いられてもよい。
【0017】
なお、信号Φπ/2、Φ-π/2の代わりに、信号Φ0、Φπと位相が異なる周期信号を用いてもよい。信号Φ0、Φπと位相が異なる周期信号を搬送波Mixkとして用いた場合も、ミキサ出力gkの信号レベルは、ノイズ成分の情報を有しており、ミキサ出力gkがノイズ検出に使用可能である。
【0018】
このような構成のエンコーダ回路部14は、実質的には、符号分割多重化(code divisional multiplexing)を行っていると考えることもできる。検出信号f1~fQには、符号が割り当てられる。移相器23は、検出信号fkに割り当てられた符号に応じて搬送波Mixkを信号Φ-π/2、Φ0、Φπ/2、Φπのうちから選択し、選択した搬送波Mixkを選択されたミキサ24kに供給する。
【0019】
ADコンバータ15は、ミキサ241~24Qから出力されるミキサ出力g1~gQの和信号に対してアナログ-デジタル変換を行って、デジタルデータストリームqを出力する。
【0020】
デコーダ回路部16は、演算装置5と共に、ADコンバータ15の出力、即ち、デジタルデータストリームqを処理する処理回路部を構成している。具体的には、デコーダ回路部16は、ADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqをデコードしてデジタル出力を生成する。デコーダ回路部16は、積和演算を行うように構成されており、該積和演算によりデジタル出力が生成される。演算装置5は、デコーダ回路部16から受け取ったデジタル出力に対し、物体のセンサアレイ1への近接検出のための演算処理を行う。この演算処理は、例えば、物体がセンサアレイ1に接近又は接触した位置を検出するための演算処理を含んでいてもよい。
【0021】
このような構成の容量センシングシステム100は、下記のように動作する。以下では、まず、Qが、4以上の偶数である場合の容量センシングシステム100の動作について説明する。この場合、Nを2以上の整数として、Q=2Nと表すことができる。ただし、後に説明するように、本開示の技術は、Qが3以上の奇数である場合についても適用可能である。
【0022】
図3に示すように、本実施形態では、各センシングフレーム(sensing frame)において近接検出が行われる。各センシングフレームは、Q個のバースト(burst)、即ち、2N個のバーストを含んでいる。当該2N個のバーストを、それぞれ、バースト#1~#(2N)と記載する。ドライバ21
1~21
2Nは、バースト#1~#(2N)に渡って、同一波形の駆動信号を検出電極3
1~3
2Nに出力し続ける。
【0023】
バースト#1~#(2N)に渡って同一波形の駆動信号が検出電極3iに供給される場合、検出信号eiが、バースト#1~#(2N)に渡って同一波形であることが期待され、よって、ミキサ24iから出力されるミキサ出力giもバースト#1~#(2N)に渡って同一波形であることが期待される。バースト#1~バースト#(2N)において、ADコンバータ15が入力信号をサンプリングする時刻を、それぞれ、t、t+T、・・・、t+(2N-1)Tとし、時刻tにおける検出信号f1~f2Nの信号レベルを、それぞれA1(t)~A2N(t)とすると、下記式(1)が成立することが期待される:
A1(t)=A1(t+T)= ・・・ =A1(t+(2N-1)T)
A2(t)=A2(t+T)= ・・・ =A2(t+(2N-1)T)
・・・
A2N(t)=A2N(t+T)= ・・・ =A2N(t+(2N-1)T) (1)
【0024】
記載の簡略化のために、以下において、時刻t、t+T、・・・、t+(2N-1)Tにおける検出信号f
1~f
2Nの信号レベルを、単にA
1~A
2Nと記載することがある。また、エンコーダ回路部14への入力、即ち、検出信号f
1~f
2Nの信号レベルを、総括して入力テンソルaで表すことがある。ここで、入力テンソルaは、下記式(2)で表される
【数1】
【0025】
バースト#1~#(2N)におけるエンコーダ回路部14の演算は、下記の式(3)により定義されるエンコードテンソルEとして表すことができる。
【数2】
ここで、エンコードテンソルEの第j行は、バースト#jにおいてエンコーダ回路部14において行われる演算を表しており、第k列は、検出信号f
kに対して行われる変調を表している。例えば、ミキサ24
1~24
Qのゲインが1である場合には、エンコードテンソルEの要素e
jkは、バースト#jにおいて検出信号e
kの変調に用いられる搬送波Mixkが、信号Φ
0、Φ
π/2、Φ
π、Φ
-π/2であるときに、それぞれ、e
i0(=1)、e
iπ/2(=i)、e
iπ(=-1)、e
-iπ/2(=-i)である。
【0026】
バースト#1~#(2N)においてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqの値を、それぞれ、q
1~q
2Nとすると、q
1~q
2Nは、下記式(4)で表すことができる。
【数3】
【0027】
あるバーストにおいて、ある検出信号ekが信号Φ0又は信号Φ0からπだけ位相が遅れた信号Φπによって変調される場合、当該バーストにおいてADコンバータ15に入力される和信号及びADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqは、検出信号ekの近接検出に有効な信号成分の情報を含んでいる。一方、当該検出信号ekが、信号Φπ/2又はΦ-π/2によって変調される場合、当該バーストにおいてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqは、検出信号ekの近接検出に有効な信号成分の情報を含んでおらず、その代わりに、検出信号ekのノイズ成分の情報を含んでいる。
【0028】
デコーダ回路部16でバースト#1~#(2N)においてデジタルデータストリームqに対して行われる行列演算をデコードテンソルXで表し、デコーダ回路部16から出力されるデジタル出力を出力テンソルb
Xとして表すと、出力テンソルb
Xは、下記式(5)と表すことができる。
【数4】
【0029】
式(5)において、エンコードテンソルEとデコードテンソルXの積XEが、同一行に1つのみ非零要素を持つとき、デコードテンソルXは、エンコードテンソルEで変調された入力テンソルaを復調できると言える。
【0030】
本実施形態では、偽の動き(motion artifact)の検出を抑制するために、検出信号e1~e2Nのそれぞれが、バースト#1~#(2N)のうちの複数のバーストにおいて、駆動信号と同相の信号Φ0又は信号Φπを用いて変調される。このような動作は、ADコンバータ15の数を抑制しながら各センシングフレームにおいて近接検出に有効な信号成分の情報をサンプリングする回数を増加し、偽の動きの検出を抑制するために有効である。例えば、各センシングフレームにおいてマルチプレクサを用いて検出信号e1~e2NをADコンバータに時分割で供給する構成では、近接検出に有効な信号成分の情報は、各センシングフレームにおいて検出信号e1~e2Nのそれぞれについて1度しかサンプリングされない。これは、サンプリング周波数の低減、即ち、アンダーサンプリングにつながり、偽の動きの検出を招き得る。本実施形態では、近接検出に有効な信号成分の情報が各センシングフレームにおいて複数回サンプリングされるので、実効的なサンプリング周波数を高くすることができ、偽の動きの検出を抑制することができる。
【0031】
検出信号e1~e2Nのそれぞれが、バースト#1~#(2N)のうちの複数のバーストにおいて、駆動信号と同相の信号Φ0又は信号Φπを用いて変調される場合、エンコードテンソルEの各列には、実数である要素が2以上存在することになる。しかしながら、後に提示される議論からも理解されるように、このような制約があっても、エンコードテンソルEとデコードテンソルXを適切に選択することにより、エンコードテンソルEとデコードテンソルXの積XEが同一行に1つのみ非零要素を持つようにすることができる。このようなエンコードテンソルEとデコードテンソルXの選択は、エンコーダ回路部14における搬送波Mix1~Mix(2N)の選択、及び、デコーダ回路部16で行われる行列演算を適切に設計することで実現可能である。
【0032】
一実施形態では、近接検出に有効な信号成分の情報をサンプリングするタイミングが、時間的に均一に分散されてもよい。具体的には、各検出信号ekについて、信号Φ0又は信号Φπを用いて変調されるバーストが、時間的に隣接しないように選択されてもよい。一実施形態では、各センシングフレームにおいて、各検出信号ekについて、当該検出信号ekが信号Φ0又は信号Φπで変調されるバーストと、信号Φπ/2又は信号Φ-π/2で変調されるバーストとが交互に設けられてもよい。このような動作は、偽の動きの検出を抑制するために有効である。
【0033】
また、近接検出に有効な信号成分の情報を取得する検出電極3が、空間的に均一に分散されてもよい。具体的には、空間的に隣接する2つの検出電極3に対応する検出信号e2p-1、e2pについて、その一方が信号Φ0又は信号Φπを用いて変調されるバーストにおいて、他方が信号Φπ/2又は信号Φ-π/2を用いて変調されてもよい。このような動作は、偽の動きの検出を抑制するために有効である。
【0034】
検出信号e1~eQを信号Φπ/2又は信号Φ-π/2を用いて変調して得られたミキサ出力に基づいてノイズ検出を行ってもよい。この場合、デコーダ回路部16は、検出信号e1~eQを信号Φπ/2又は信号Φ-π/2を用いて変調した成分を取り出すように設計される。一実施形態では、ノイズ成分の情報を取得するタイミングが、時間的に均一に分散されてもよい。具体的には、各検出信号ekについて、信号Φπ/2又は信号Φ-π/2を用いて変調されるバーストが、時間的に隣接しないように選択されてもよい。一実施形態では、各検出信号ekは、1つおきのバーストにおいて、信号Φπ/2又は信号Φ-π/2を用いて変調されてもよい。また、ノイズ成分の情報を取得するタイミングが、空間的に均一に分散されてもよい。具体的には、空間的に隣接する2つの検出電極3に対応する検出信号e2p-1、e2pについて、その一方が信号Φ0又は信号Φπを用いて変調されるバーストにおいて、他方は信号Φπ/2又は信号Φ-π/2を用いて変調されてもよい。
【0035】
上述されているような、有効な信号成分の情報及びノイズ成分の情報を取得するタイミング及び位置を均一化するという条件は、エンコードテンソルEにおいて、実数である要素と純虚数である要素とが、市松模様に配置されているとして記述できる。この場合、エンコードテンソルEは、下記式(6b)、(6c)で表される2つのエンコード行列E
1、E
2を用いて下記式(6a)で表すことができる。
【数5】
ここで、エンコード行列E
1は、i+jが偶数である要素e
ijが非零の実数であり、i+jが奇数である要素e
ijが0である行列であり、エンコード行列E
2は、i+jが偶数である要素e
ijが0であり、i+jが奇数である要素e
ijが非零の実数である行列である。
【0036】
一例を示せば、N=2である場合、即ち、1つのADコンバータ15に対して設けられる検出電極3の数が4である場合、エンコード行列E
1、E
2は、下記式(7a)、(7b)で表すことができる。
【数6】
【0037】
今、一つの要素が1で、それ以外の要素が0である2×2行列O
klを、下記式(8)で定義する。
【数7】
ただし、δ
ijは、クロネッカーのデルタである。具体的には、行列O
11、O
22、O
12、O
21は、それぞれ式(9a)~(9d)で表される。
【数8】
【0038】
また、2×2行列O
klに対応するエンコード行列の部分行列e
klを、下記式(10)で定義する。
【数9】
ここで、部分行列e
klは、N×N行列である。
【0039】
部分行列e
kl及び行列O
klを用いると、エンコード行列E
1、E
2は、下記式(11a)、(11b)のように表すことができる。
【数10】
ここで、下記の演算子:
【数11】
は、クロネッカー積(Kronecker product)である。
【0040】
一例を示せば、N=2である場合、即ち、1つのADコンバータ15に対して設けられる検出電極3の数が4である場合、エンコード行列E
1、E
2は、下記式(12a)、(12b)で表すことができる。
【数12】
エンコード行列E
1の部分行列e
11、e
22、及び、エンコード行列E
2の部分行列e
12、e
21は、2×2行列であり、これらの行列を下記式(13a)~(13d)で定義することで、N=2である場合に式(11a)、(11b)が成り立つことが理解されよう。
【数13】
【0041】
エンコード行列E
mが、基本とする線形変換V
mに対応しているとすると、エンコードテンソルEは、下記式(14)で表すことができる。
【数14】
【0042】
また、基本とする線形変換W
mに対応するデコード行列をX
mとすると、デコードテンソルXは、下記式(15)で表すことができる。
【数15】
【0043】
この場合、出力テンソルb
Xは、下記式(16)で表される。
【数16】
ここで、M=2としている。即ち、式(14)では、基本とする線形変換として行列V
1、V
2の2つが選択され、式(15)では、基本とする線形変換として行列W
1、W
2の2つが選択されている。ここで、行列V
1、V
2は互いに直交しており、行列W
1、W
2は、互いに直交している。
【0044】
ここで、エンコードテンソルEとデコードテンソルXの積XEは、下記式(17)で表される。
【数17】
式(17)に示された積XEが、同一行に1つのみ非零要素を持つとき、デコードテンソルXは、エンコードテンソルEで変調された入力テンソルaを復調できるといえる。
【0045】
デコード行列X
1、X
2は、行列O
xlを用いて、下記式(18)、(19)で表すことができる。
【数18】
【数19】
ここで、式(18)の行列x
11、x
12、x
21、x
22は、デコード行列X
1の部分行列であり、式(19)の行列y
11、y
12、y
21、y
22は、デコード行列X
2の部分行列である。
【0046】
行列O
klの性質より、エンコードテンソルEとデコードテンソルXとの積XEに含まれる、基本とする線形変換V
1、V
2と対応する行列は、下記式(20)、(21)で表される。
【数20】
【数21】
【0047】
エンコードテンソルEとデコードテンソルXの積XEが、同一行に1つのみ非零要素を持つという条件より、上述された、基本とする線形変換V
1、V
2と対応する行列から、次の8本の解くべき方程式が得られる。
【数22】
ここで、c
1~c
16は、任意定数であり、g、g’、h、h’は、1以上4以下の任意の整数である。
【0048】
式(22)の8本の方程式に解が存在すれば、エンコードテンソルEとデコードテンソルXの積XEが、同一行に1つのみ非零要素を持ち、入力テンソルaを復調できることになる。式(22)の8本の方程式には、エンコードテンソルEについて4つ、デコード行列X
1、X
2についてそれぞれ4つの12個の変数行列があり、更に、4つの変数g、g’、h、h’があるので、このままでは、直接に解くことは難しい。しかしながら、解は必ず存在する。一例としては、エンコード行列E
1、E
2の全ての部分行列e
11、e
12、e
21、e
22が、任意の正則な行列eに一致し、即ち、
【数23】
が成立し、かつ、デコード行列X
1の部分行列x
11、x
12、x
21、x
22及びデコード行列X
2の部分行列y
11、y
12、y
21、y
22について、下記式(24a)、(24b)が成立するような解が、常に存在する。
【数24】
【0049】
上記式(23)、(24a)、(24b)を満たすように、エンコード行列E1、E2の部分行列、デコード行列X1の部分行列、及び、デコード行列X2の部分行列を選択することにより、入力テンソルaを出力テンソルbXとして復調することができる。これは、デコーダ回路部16から出力されるデジタル出力として、検出信号f1~f2Nの信号レベルA1~A2Nの情報を得ることができることを意味する。
【0050】
式(22)の8本の方程式は、制約条件を追加することで解空間を狭くすることができる。加えて、制約条件を適切に設定することで、デコーダ回路部16の回路規模を低減することができる。
【0051】
例えば、同一列において基本とする線形変換が2種類以上出現しないようにデコード行列を選ぶと、デコーダ回路部16において同一時間に動作する線形変換回路を1つにできる。これは、回路規模や制御論理規模の面で有利である。
【0052】
例えば、デコード行列X
1、X
2として、式(25)に示す偶数列の要素が全て0である行列X
1a、及び式(26)に示す奇数列の要素が全てゼロである行列X
2aを用いることで、デコード行列に関する変数行列の数を、行列x
11、x
21、y
12、y
22の4つに制限してもよい。
【数25】
【数26】
【0053】
この場合、エンコードテンソルEとデコードテンソルXとの積XEに含まれる、基本とする線形変換V
1、V
2と対応する行列は、下記式(27)、(28)で表される。
【数27】
【数28】
【0054】
入力テンソルaを復調できる条件、即ち、エンコードテンソルEとデコードテンソルXとの積XEが同一行に一つのみ非零要素を持つという条件は、式(29)に示すように、より厳しく制限できる。
【数29】
ここで、Iは単位行列(unit matrix)であり、c
1、c
2、c
3、c
4は、任意定数であり、gは、1、2のうちいずれかの整数である。なぜならば、基本とする線形変換V
1、V
2と対応する行列の同一行に複数の非零要素が出現しても、デコード結果としては価値がなく冗長であるからである。
【0055】
式(29)の4本の方程式には、8つの変数行列と1つの変数gが存在するため、解は一意には求まらないが、解は実際に存在する。例えば、上記の式(23)、(24a)を満たすような部分行列e11、e21、e12、e22、x11、x21、y12、y22は、式(29)の4本の方程式の解になる。
【0056】
同様に、デコード行列X
1、X
2として、式(30)に示す奇数列の要素が全て0である行列X
1b、及び式(31)に示す偶数列の要素が全てゼロである行列X
2bを用いることで、デコード行列に関する変数行列の数を、行列x
12、x
22、y
11、y
21の4つに制限してもよい。
【数30】
【数31】
【0057】
この場合、エンコードテンソルEとデコードテンソルXとの積XEに含まれる、基本とする線形変換V
1、V
2と対応する行列は、下記式(32)、(33)で表される。
【数32】
【数33】
【0058】
入力テンソルaを復調できる条件、即ち、エンコードテンソルEとデコードテンソルXとの積XEが同一行に一つのみ非零要素を持つという条件は、式(34)に示すように、より厳しく制限できる。
【数34】
【0059】
式(34)の4本の方程式には、8つの変数行列と1つの変数gが存在するため、解は一意には求まらないが、解は実際に存在する。例えば、上記の式(23)、(24b)を満たすような部分行列e11、e21、e12、e22、x12、x22、y11、y21は、式(29)の4本の方程式の解になる。
【0060】
以上に説明されているように、式(22)、式(29)又は式(34)を満たす解を得た上で、エンコーダ回路部14は、得られた解のエンコードテンソルEに応じてミキサ24に供給する搬送波Mix1~Mix(2N)を選択するように設計され、デコーダ回路部16は、得られたデコードテンソルXに従った積和演算を実行するように設計される。
【0061】
式(4)で表される、ADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqの値q1~q2Nは、検出信号f1~f2Nを信号Φ0、Φπで変調した情報、即ち、有効な信号成分の情報に加え、検出信号f1~f2Nを信号Φπ/2、Φ―π/2で変調した情報、即ち、ノイズ成分の情報を有している。デコーダ回路部16を、検出信号f1~f2Nを信号Φπ/2、Φ―π/2で変調した情報を取り出すように設計することで、ノイズ検出を行ってもよい。
【0062】
出力テンソルb
Xとして、検出信号f
1~f
2Nを信号Φ
0、Φ
πで変調した情報に加え、検出信号f
1~f
2Nを信号Φ
0、Φ
πと異なる位相を有する搬送波、具体的には、信号Φ
π/2、Φ
―π/2で変調した情報を取り出すために、一実施形態では、デコーダ回路部16において、式(29)の解となるデコード行列X
1a、X
2a、及び、式(34)の解となるデコード行列X
1b、X
2bから下記式(35)で得ることができるデコード行列Xa、Xbを用いてもよい。
【数35】
【0063】
デジタルデータストリームqにデコード行列Xaを適用することにより、奇数番目の要素が検出信号f1~f2Nを信号Φ0又はΦπで変調した情報、即ち、有効な信号成分の情報に対応し、偶数番目の要素が検出信号f1~f2Nを信号Φπ/2、Φ―π/2で変調した情報、即ち、ノイズ成分の情報に対応するような出力テンソルbXを得ることができる。また、デジタルデータストリームqにデコード行列Xbを適用することにより、奇数番目の要素が有効な信号成分の情報に対応し、偶数番目の要素がノイズ成分の情報に対応するような出力テンソルbXを得ることができる。デコーダ回路部16においてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqに、デコード行列Xa、Xbを作用させることにより、有効な信号成分に対応するデジタル出力と、ノイズ成分に対応するデジタル出力とを得ることができる。
【0064】
一実施形態では、演算装置5は、有効な信号成分に対応するデジタル出力に基づいて近接検出を行い、ノイズ成分に対応するデジタル出力に基づいてノイズ検出を行ってもよい。一実施形態では、あるセンシングフレームにおいてノイズ成分に対応するデジタル出力からノイズの存在を検出した場合、演算装置5が、当該センシングフレームについて得られた有効な信号成分に対応するデジタル出力のデータを破棄してもよい。この場合、物体のセンサアレイ1への近接検出は、ノイズが検出されなかったセンシングフレームにおける、有効な信号成分に対応するデジタル出力に基づいて行われてもよい。
【0065】
上述された本開示の技術は、Qが3以上の奇数である場合、例えば、Qが2N-1である場合にも適用可能である。ここで、Nは、2以上の整数である。この場合、検出信号f2Nの信号レベルA2Nが、第1~第2Nバーストのいずれにおいてもゼロであるとして上記と同様の演算が行われる。検出信号f2Nに関する演算結果は、デコーダ回路部16において廃棄される。
【0066】
以下では、Q=4かつN=2である場合、即ち、1つのADコンバータ15に対して設けられる検出電極3の数が4である場合について、具体的な解及び容量センシング回路部4の構成の一例を示す。
【0067】
N=2である場合、エンコードテンソルEは、4×4行列であり、エンコード行列E1、E2は、式(7a)(7b)で記述される。また、エンコード行列E1、E2の部分行列e11、e12、e21、e22、デコード行列X1の部分行列x11、x21、x12、x22、デコード行列X2の部分行列y11、y21、y12、y22は、いずれも、2×2行列である。
【0068】
エンコード行列E
1、E
2の全ての要素が+1又は-1であるとき、エンコーダ回路部14には、可変ゲイン段が不要であり、回路規模の面で有利である。デコード行列X
1、X
2についても同様である。そこで、エンコード行列E
1、E
2の部分行列e
11、e
12、e
21、e
22、デコード行列X
1の部分行列x
11、x
21、x
12、x
22、デコード行列X
2の部分行列y
11、y
21、y
12、y
22を、下記式(36)の16個の2×2行列から選択する。
【数36】
【0069】
更に、エンコード行列の部分行列とデコード行列の部分行列が共に正則であれば、デコード行列の部分行列をエンコード行列の部分行列の逆行列の整数倍として扱えるため、計算が簡単になる。よって、解空間を下記式(37)、(38)のように制限する。
【数37】
【数38】
ここで、デコード行列の部分行列x
kl、y
klについての解空間の制限には、下記式(39)の関係が利用されている。
【数39】
【0070】
いま、エンコード行列の部分行列が正則であるとき、g=1、c
1=c
2=c
3=c
4=4とすると、下記式(40)
【数40】
を満たすエンコード行列の部分行列とデコード行列の部分行列の最も簡単な例は、下記式(41)で表されることが分かる。
【数41】
【0071】
上記の式(37)、(38)のように解空間が制約される場合、エンコード行列の部分行列とデコード行列の部分行列との行列積において、2つの行列積の和又は差が単位行列の整数倍となるのは、行列積が単位行列の整数倍となるときのみである。つまり、g=1として、式(22)は、下記式(42)と書き換えることができ、
【数42】
式(42)から、下記式(43)が得られる。
【数43】
ここで、式(43)に現れる係数2は、エンコード行列の部分行列の逆行列の整数倍となるデコード行列の部分行列が係数2を持つことによる。
【0072】
今、右辺がゼロ行列になる下記の4本の式(44)は、等価である。
【数44】
なぜならば、正則な行列同士の積が等しいとき、その逆行列も等しいからである。等価であることは、下記式(45)、(46)から容易に示すことができる。
【数45】
【数46】
これは、解を得るためには、行列積が等しくなる2組の正則な2×2行列を探せばよいことを意味している。実際、そのような組は複数存在する。
【0073】
行列積の性質から、乗数行列の2つの列と対応する被乗数行列の2つの行とを同時に交換しても、行列積は変わらない。また、乗数行列の列の符号と対応する被乗数行列の2つの行の符号とが同時に反転しても行列積は変わらない。よって、被乗数行列であるエンコード行列の部分行列e
klに関する解は、下記式(47)の関係から、
【数47】
下記式(48):
【数48】
と表すことができる最も簡単な解が一つ得られれば、他の解も容易に得られる。例えば、解を下記式(49)のように選ぶと、2つのエンコード行列の行和の和が常に2になる。
【数49】
式(49)は、入力テンソルaを復調できる解の一つである。
【0074】
式(49)に記述された解をより具体的に記述すれば、エンコードテンソルE、デコード行列X
a、X
bは、下記式(50)、(51)で表すことができる。
【数50】
【数51】
【0075】
この場合、デコード行列Xa、Xbと、エンコードテンソルEとの積は、下記式(52)として表される。
【数52】
【0076】
図4に示す実施形態では、エンコーダ回路部14が、式(50)に対応する構成を有しており、デコーダ回路部16が、式(51)に対応する構成を有している。ここで、1つのADコンバータ15に対して設けられる検出電極3の数が4である、言い換えれば、Q=4であり、エンコーダ回路部14は、搬送波Mix1~Mix4がそれぞれに供給される4つのミキサ24
1~24
4を備えている。
【0077】
デコーダ回路部16は、デジタル復調器25と、係数供給回路部26と、デシメータ/フィルタ27、28と、デコーダ29とを備えている。デジタル復調器25は、駆動信号と同相の局所搬送波及び該同相の局所搬送波からπ/2だけ位相がずれた局所搬送波でデジタルデータストリームqを復調して復調データを生成する。本実施形態では、デジタル復調器25は、駆動信号と同相の局所搬送波に相当する係数Φ0をデジタルデータストリームqに乗じるデジタルミキサ31と、該同相の局所搬送波から位相がπ/2だけ遅れた局所搬送波に相当する係数Φπ/2をデジタルデータストリームqに乗じるデジタルミキサ32とを備えている。係数供給回路部26は、参照クロック信号CLKREFに同期して、係数Φ0をデジタルミキサ31に供給し、係数Φπ/2をデジタルミキサ32に供給する。
【0078】
デコーダ29は、積和演算回路部33、34を備えている。積和演算回路部33は、デコード行列Xaに相当する積和演算を行い、積和演算回路部34は、デコード行列Xbに相当する積和演算を行う。
【0079】
デジメータ/フィルタ27は、デジタルミキサ31の出力を積和演算回路部33、34に分配するように構成され、デジメータ/フィルタ28は、デジタルミキサ32の出力を積和演算回路部33、34に分配するように構成されている。
【0080】
以下では、
図4に示す容量センシングシステム100の動作を説明する。本実施形態では、Q=4、即ち、N=2であり、ドライバ回路部12は、バースト#1~#4に渡って同一波形の駆動信号を検出電極3
1~3
4に供給する。
【0081】
図5に示すように、バースト#1では、ミキサ24
1~24
4は、それぞれ、信号Φ
0、Φ
-π/2、Φ
0、Φ
π/2を搬送波Mix1~Mix4として用いて検出信号f
1~f
4を変調する。このような動作は、式(50)に示したエンコード行列E
1、E
2の第1行に対応している。バースト#1においてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqの値q
1は、式(53)に示すように、
q
1=(A
1+A
3)Φ
0-(A
2-A
4)Φ
π/2 (53)
である。デジタルミキサ31、32は、q
1に、それぞれ、係数Φ
0、Φ
π/2を乗じて得られる復調データB1.1、B1.2を出力する。ここで、復調データB1.1、B1.2は、下記式(54a)、(54b)で表すことができる。
B1.1=(A
1+A
3)Φ
0-(A
2-A
4)Φ
π/2 (54a)
B1.2=(A
1+A
3)Φ
π/2+(A
2-A
4)Φ
0 (54b)
デジメータ/フィルタ27は、デジタルミキサ31から受け取った復調データB1.1を積和演算回路部33に出力し、デジメータ/フィルタ28は、デジタルミキサ32から受け取った復調データB1.2を積和演算回路部34に出力する。
【0082】
図6に示すように、バースト#2では、ミキサ24
1~24
4は、それぞれ、信号Φ
π/2、Φ
0、Φ
-π/2、Φ
0を搬送波Mix1~Mix4として用いて検出信号f
1~f
4を変調する。このような動作は、式(50)に示したエンコード行列E
1、E
2の第2行に対応している。バースト#2においてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqの値q
2は、式(55)に示すように、
q
2=(A
1-A
3)Φ
π/2+(A
2+A
4)Φ
0 (55)
である。デジタルミキサ31、32は、q
2に、それぞれ、係数Φ
0、Φ
π/2を乗じて得られる復調データB2.1、B2.2を出力する。ここで、復調データB2.1、B2.2は、下記式(56a)、(56b)で表すことができる。
B2.1=(A
1-A
3)Φ
π/2+(A
2+A
4)Φ
0 (56a)
B2.2=-(A
1-A
3)Φ
0+(A
2+A
4)Φ
π/2 (56b)
デジメータ/フィルタ27は、デジタルミキサ31から受け取った復調データB2.1を積和演算回路部34に出力し、デジメータ/フィルタ28は、デジタルミキサ32から受け取った復調データB2.2を積和演算回路部33に出力する。
【0083】
図7に示すように、バースト#3では、ミキサ24
1~24
4は、それぞれ、信号Φ
0、Φ
π/2、Φ
π、Φ
π/2を搬送波Mix1~Mix4として用いて検出信号f
1~f
4を変調する。このような動作は、式(50)に示したエンコード行列E
1、E
2の第3行に対応している。バースト#3においてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqの値q
3は、式(57)に示すように、
q
3=(A
1-A
3)Φ
0+(A
2+A
4)Φ
π/2 (57)
である。デジタルミキサ31、32は、q
3に、それぞれ、係数Φ
0、Φ
π/2を乗じて得られる復調データB3.1、B3.2を出力する。ここで、復調データB3.1、B3.2は、下記式(58a)、(58b)で表すことができる。
B3.1=(A
1-A
3)Φ
0+(A
2+A
4)Φ
π/2 (58a)
B3.2=(A
1-A
3)Φ
π/2-(A
2+A
4)Φ
0 (58b)
デジメータ/フィルタ27は、デジタルミキサ31から受け取った復調データB3.1を積和演算回路部33に出力し、デジメータ/フィルタ28は、デジタルミキサ32から受け取った復調データB3.2を積和演算回路部34に出力する。
【0084】
図8に示すように、バースト#4では、ミキサ24
1~24
4は、それぞれ、信号Φ
π/2、Φ
0、Φ
π/2、Φ
0を搬送波Mix1~Mix4として用いて検出信号f
1~f
4を変調する。このような動作は、式(50)に示したエンコード行列E
1、E
2の第4行に対応している。バースト#2においてADコンバータ15から出力されるデジタルデータストリームqの値q
4は、式(59)に示すように、
q
4=(A
1+A
3)Φ
π/2-(A
2-A
4)Φ
0 (59)
である。デジタルミキサ31、32は、q
4に、それぞれ、係数Φ
0、Φ
π/2を乗じて得られる復調データB4.1、B4.2を出力する。ここで、復調データB4.1、B4.2は、下記式(60a)、(60b)で表すことができる。
B4.1=(A
1+A
3)Φ
π/2-(A
2-A
4)Φ
0 (60a)
B4.2=-(A
1+A
3)Φ
0-(A
2-A
4)Φ
π/2 (60b)
デジメータ/フィルタ27は、デジタルミキサ31から受け取った復調データB4.1を積和演算回路部34に出力し、デジメータ/フィルタ28は、デジタルミキサ32から受け取った復調データB4.2を積和演算回路部33に出力する。
【0085】
デコーダ29の積和演算回路部33、34は、バースト#1~#4においてデシメータ/フィルタ27、28から受け取ったデータB1.1~B1.4、及び、B2.1~B2.4に対してデコード行列Xa、Xbに対応する演算を行い、有効な信号成分に対応するデジタル出力4A1Φ0、4A2Φ0、4A3Φ0、4A4Φ0、及び、ノイズ成分に対応するデジタル出力4A1Φπ/2、4A2Φπ/2、4A3Φπ/2、4A4Φπ/2を算出する。ここで、デコード行列Xa、Xbは、虚数iを含んでいるが、積和演算回路部33、34は、虚数iを乗じる演算を行う場合にデジタルミキサ32から出力された値を使用し、積和演算回路部33、34それ自体は実数の範囲で演算を行うように構成されている。
【0086】
具体的には、積和演算回路部33は、バースト#1~#4で受け取った復調データB1.1、B2.2、B3.1、B4.2について下記の行列演算を行うことで、デジタル出力4A
1Φ
0、4A
2Φ
π/2、4A
3Φ
0、4A
4Φ
π/2を算出する。
【数53】
式(61)に現れる4×4行列は、デコード行列Xaに対応しているが、虚数iを用いない形式で表現されている。
【0087】
一方、積和演算回路部34は、バースト#1~#4で受け取った復調データB1.2、B2.1、B3.2、B4.1について下記式(62)の行列演算を行うことで、デジタル出力4A
1Φ
π/2、4A
2Φ
0、4A
3Φ
π/2、4A
4Φ
0を算出する。
【数54】
【0088】
演算装置5は、有効な信号成分に対応するデジタル出力4A1Φ0、4A2Φ0、4A3Φ0、4A4Φ0に基づいて物体のセンサアレイ1への近接検出のための演算処理を行う。
【0089】
演算装置5は、更に、ノイズ成分に対応するデジタル出力4A1Φπ/2、4A2Φπ/2、4A3Φπ/2、4A4Φπ/2に基づいてノイズ検出を行う。検出信号f1~f4にノイズの影響がない場合には、デジタル出力4A1Φπ/2、4A2Φπ/2、4A3Φπ/2、4A4Φπ/2はゼロであることが期待される。そうでない場合、検出信号f1~f4がノイズの影響があると判断できる。
【0090】
以上には、本開示の様々な実施形態が具体的に記載されているが、本開示に記載された技術は、様々な変更と共に実施され得る。例えば、上記には自己容量センシングを行う実施形態が記述されているが、相互容量センシングが行われてもよい。この場合、センサアレイ1に検出電極31~3Qに対向する駆動電極が設けられる。ドライバ回路部12は、検出電極31~3Qに対向する駆動電極に駆動信号を供給する。
【0091】
また、
図1には、一のADコンバータ15に対応する検出電極3が縦方向に並んでいる構成が図示されているが、一のADコンバータ15に対応する検出電極3の配置は、様々に変更可能である。例えば、
図9に示すように、検出電極3がQ個のグループ40
1~40
Qにグループ化され、グループ40
1~40
Qが特定方向に、
図1では横方向に並んで配置される場合に、異なるグループ40に属するQ個の検出電極3が一のADコンバータ15に対応する検出電極3として選択されてもよい。例えば、
図9においてハッチングで示された検出電極3が、一のADコンバータ15に対応する検出電極3として選択されてもよい。
【符号の説明】
【0092】
100 :容量センシングシステム
1 :センサアレイ
2 :半導体装置
3 :検出電極
4 :容量センシング回路部
5 :演算装置
6 :破線
11 :入力端子
12 :ドライバ回路部
13 :カレントコンベア回路部
14 :エンコーダ回路部
15 :ADコンバータ
16 :デコーダ回路部
21 :ドライバ
22 :カレントコンベア
23 :移相器
24 :ミキサ
25 :デジタル復調器
26 :係数供給回路部
27、28:デシメータ/フィルタ
29 :デコーダ
31、32:デジタルミキサ
33、34:積和演算回路部
40 :グループ